Blue Notebook homepage

February 13, 2006
XML
 5階建てのアパートに住むT氏のもとへ、一通の手紙が届いた。彼が封筒を開けると、

とたん、中から大ぶりのシャケが飛び出してきた。シャケは生きが良すぎたので、T氏の書斎を

飛び出すと、リビングとキッチンを跳び越して、玄関からはじけ出てしまった。T氏は慌てて

シャケの後を追ったが、シャケはすでに、アパートの住人たちに見つかってしまっていた。

T氏の向いに住んでいる夫人がナイトキャップとネグリジェ姿のまま飛び起きた様子で、金切り声

を上げた。4階の工場労働者も騒ぎを聞きつけて上の階をのぞいたが、すぐに興味が尽きた様子で

顔を引っ込めた。T氏は、この事態を収拾しようと、この騒ぎの中でも深い眠りにいるままの

T夫人を起こしに行った。しかし、T氏が夫人を目覚めさせることに失敗し、枕元にあった

睡眠薬を持って廊下へ出てみると、そこには、隣の部屋から出てきた3人兄弟がバケツで激しく



T氏はそんな溌剌としたシャケを捕獲するべく、向いの夫人から木彫りの熊人形を借りて、シャケ

の小さな眉間めがけて投げつけた。しかしとたん、シャケは透明なゼリーと化し、木彫りの熊は

その体を通過した。ああ、なんてこった。せめてあれがブリキで出来ていればよかったのに、と、

T氏は思った。T氏は再び部屋に戻ると、大切な株券をタンスから持ち出して、これでどうにか

事態を収めてくれまいか、と、奔流を遡るシャケに懇願した。しかし、シャケは言った。そんな

見込みのない株は受け取れない。向いのパン屋の犬にでもやってくれ。これで命運尽きたと思った

T氏は、シャケの昇っている流れを下って、1階の管理人質へ行き、いままでどうもありがとう

ございました。これからも体にお気をつけてお過ごしください、と、述べたなり、アパートを出て

行った。これで、T氏の帰るべき場所はなくなった。T氏は石畳の歩道を歩いて、川にかかった

橋へとやってきた。橋の上には、自動車の立てるノイズがはびこっている。水面に目を釘付け

にして、今後の自身の人生についてよからぬことを考えていたところ、彼の背中を何者かが叩いた。



T氏は言った。あんたこそどうしたんだ。シャケは言った。T氏はシャケのうろこだらけの顔を

見ながら、橋の欄干に手を置いて、ぼんやりと何かを考えていた。しかししばらくして、シャケは

T氏にねぎらいの言葉をかけて、橋の下の水面に飛び込んだ。まあ、気楽にやんな。T氏は、一寸

びっくりした表情で、シャケの飛び込んだ水面を見た。シャケは、何食わぬ顔で尾っぽを

ひるがえすと、流れを昇っていった。








お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  February 14, 2006 12:30:52 AM
コメント(6) | コメントを書く
[ショートショート。] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Profile

青いのーとぶっく

青いのーとぶっく

Favorite Blog

HP de るってん… るってんしゃんさん
たか・たか・たかし _たかし_さん
宇宙航海日誌 勘違いスナフキンさん
超短編小説・ひ蜂his… ひ蜂さん
かぶった猫の裏側 裏猫 あ〜さん
プリティかつ怠惰に… 無知園児さん
てまり花 てまり花さん

Comments

海のくまさん@ チン型取られちゃったw http://onaona.mogmog55.net/5x4kb9t/ 俺…
ドライブ好き@ 風呂入るのメンドクサイ! http://feti.findeath.net/ofg3d67/ 今日…
開放感@ 最近の大学生は凄いんですね。。 竿も玉もア○ルも全部隅々まで見られてガ…

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: