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January 26, 2007
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 「犬」から「てん」が逃走した。
 画数で自分が最後だからって事が嫌にでもなったのかと思ったら、それは自由を求めての逃走だったようだ。『おいらは「犬」の「てん」で終わるような「てん」じゃぁねぇぜ』
 てなわけで、「犬」は、必然的に「大」になってしまった。
 「大」になった生き物は、毛むくじゃらだったりそうでなかったり、体格が良かったり良くなかったりする、暑い時には舌をべろべろ出して、電柱におしっこをひっかけて縄張りを主張するあの生き物、であることには変わりがなかった。当たり前に。
 だけども困ったのが、ニンゲン様様様。「犬」から「てん」が逃げてしまったので、「大」が、以前からあった「大」と、新しくできた「大」のふたつになってしまった。だから、「大」の入った言葉は、どっちの「大」が使われているのかややこしくなって、混乱が起こった。
 大人、柴大、大臣、大かき、巨大、大食い、大学、大好き、大恋愛、大小屋、大仏、土佐大、大根、大知恵、特大・・・・・・などなど。
 だからニンゲンは、元「犬」の「大」に、逃げ出した「てん」を連れ戻すように頼んだ。




 一方、そのころ。
 逃げ出した「てん」は、「井」のところにやってきた。逃げてはみたものの、こころのどこかで、やっぱり一人ぼっちは寂しかった。だから「井」に、一緒にいてもいいかと聞いた。すると「井」は、

『そうなのかい。それはよかった。ぜひそばにいさせてくれよ』
『おいしいおいしいってみんなにちやほやされて、ばくばく食べられるんだから、嬉しいよなぁ』
 その言葉を聞いて、「てん」は顔色を変えた。
『食われるって、あの、口の中に放り込まれて、歯でがしがしかまれて、ごっくんってやつか?』
『そうだよ?』
 「てん」は、そんな恐いことはごめんだと思った。
 だから、『残念ながら・・・』と口を濁して、「井」に別れを告げた。




 その次に「てん」がやってきたのは、「王」のところだった。
 「王」は威厳に満ちた姿で座していたので、「てん」はかしこまって申し上げた。
『どうぞ、あなたのおそばに置いて下さい』
 すると「王」は言った。

『なぜです?こんなに頼んでいるのに』
 「てん」は、断られるという経験をしていなかったので、ショックで上ずった声を上げた。
『それは明白なこと』
 王は自慢のひげをなでながら言った。
『おぬしをそばに置いたら、わしは「王」ではなく「玉」になってしまう。それでは、国を統治するものはいなくなる。皆困るではないか。それに、わが息子は「王子」ではなく「玉子」になってしまう』

 心の中では、『「王」は、「王」でなくなってえばれなくなるから、おいらをそばに置きたくなかったんだい』と憤っていたが、『「王子」が「玉子」になるのはちょっとかわいそうだ。なんせ、食われてしまうのだから』とも思った。




 その次にやってきたのは、「川」のところだった。
『こんにちは』
 「てん」がおそるおそる声をかけると、「川」は涼しげな笑みを浮かべて振り返った。
『一緒にいさせてもらえますか?』
 その言葉を聞くと「川」は、少し考えてからこう言った。
『君、友達はいるかい? あと二人いれば、僕らは「州」になれるよ。さらに言うとあと五人いれば、「洲」にもなれるんだけど、どうだい?誰か、一緒に来てくれる友達はいるかな?』
 しかし、「てん」には友達の「てん」はひとりもいなかったので、しゅんとして『いない』と答えた。すると「川」は、
『それじゃあ、仕方がない。今は無理だよ。もっともっと友達を作ることを考えるか、それとも、自分の元いた場所に帰るべきかもしれないね。ちゃんと考えてみることだよ』
 と言った。
 それを聞いて、「てん」は、離れた「大」のことを思い出した。いまごろどうしているだろうか?
『いやいやいや』
 だけれども、と思った。おいらは自由を求めて旅に出たんだ。今さら後戻りなんてするものか! 口をきゅっと結んで、「てん」はまた別のところへ歩き出した。




 ざあざあざあざあざあ・・・・・・
 「てん」は、何かの音のするところへとやってきた。
 なんだろうと思って辺りを見回すと、そこには「雨」がいた。
 「雨」は、昨日からずっと降り続いているところだと言った。なんでも、「犬」から逃走した「てん」が、今「川」のところからやってきた「てん」以外にも沢山いて、それがどっと押し寄せてきたからだという。
『ほら、見たまえ、こんなことになっている』
 「雨」は自分の足元を指した。
 「てん」が指差されたほうを見ると、(↓反転してね)


  、、

      、、
       、、
     、、
    、、
      、、
       、、
    、、
      、、
       、、
        、、
       、、
          、、

 というふうになっていた。
 「てん」は、こうやって大地に降り注ぐのも悪くない、とてもロマンあふれる役じゃあないか、と思った。だから、「雨」に頼んで、自分も集まった「てん」たちの仲間に入れてもらうことにした。そういえば、これで友達も沢山増える。とてもいいことじゃないか。
 「てん」は「てん」たちの降り注ぐなかに、迷うことなくざぶんと飛び込んだ。
 ところが、である。降り注ぐ「てん」は膨大な数で、「てん」は飛び込んですぐから、息ができなくなった。押し合いへしあい、身動きが取れない。だけれどもただ、怒涛のように下にむかって落下していくことだけははっきりしていた。なんてこった、こんなはずじゃ。そう思えども、どうしようもない。しまいには、まわりの「てん」と自分自身の見分けさえつかなくなって、目が回り始めた。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 するとそのとき、何かがとてつもない速さで走ってきて、「雨」が降らせる「てん」たちの中へととびこんできた。
『あっぷあっぷ!なんてこった!』
 「てん」は、「てん」たちの大波に飲み込まれて、気を失った。




 それから、どれくらい経ったのか。
 「てん」は、ようやく目を覚ました。
 すると目の前には、「犬」であった「大」の顔があった。
『起きたかい』
 「犬」であった「大」は、ほっとして胸をなでおろしたようだった。
 「てん」は、はじめには驚いたが、懐かしい「大」の顔を見ると、涙腺が潤んでしまった。
『助けて・・・くれたのかい?こんなおいらを』
 飛び出してしまった自分を助けてくれるなんて。間違っていたのかも知れない、自分のしたことは。「大」を困らせるようなことをして、胸が痛む。
 おいらは戻ってきてもいいんだろうか?「大」は、許してくれるだろうか? そんな思いで胸がいっぱいになって、「てん」は「大」を見つめた。
 しかし、そこにある「大」の表情は、浮かないものだった。「てん」に対しての怒りも、どこかにあるのかもしれないが、それ以外に、なにか申し訳ないと思っている節があった。だから、「てん」は気になって聞いた。すると、「大」はこう言った。
『また会えたのに、ごめんよ、お前の居場所は、もうないんだ』
 「てん」は息をのんだ。なにを言っているのか。
 よく見ると「大」の後ろから、恥ずかしそうに、かわいらしい「てん」がひとつ、顔をのぞかせていた。
 「てん」がぽかんとして「大」とかわいらしい「てん」とをかわりばんこに見ていると、「大」はもぞもぞと言った。
『そういうことなんだよ』
 「てん」と、相棒だった「大」との仲は、それ以来、決して戻らなかったそうな。




 ひとりぼっちになった「てん」が、それからどうしたかって?
 今、「てん」は、フリーで句読点をやっているのだった。
 あっちの文章、こっちの文章と飛び回って、わかり易く読みやすい文章を作ることを目指して、さまざまな漢字ひらがなカタカナの間でもまれて、日夜働いているわけで。

 だから、ほら、
 その画面、
 雑誌、
 教科書、
 新聞、
 文庫本の中、
 皆さんとも時々お会いしているかも、知れない、の、です。
 もし出会うことがあれば、声をかけてあげて下さいね。














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Last updated  January 26, 2007 05:16:42 PM
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