記憶の記録

2009.10.20
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「良くぞ来てくださいました。男たちときたら大きなおもちゃ作りに夢中で家庭のことなんてこれっぽっちも省みないのだから。」

 僕が運転する車の後部座席であっという間に二人の女性は意気投合したようだった。
「それにしてもシードさん、隅に置けないわね。こんなに可愛らしいガールフレンドがいらっしゃったなんて。」
「そんなー利子さん、からかわないでください。」僕と田村京子は同じ言葉を口にした。しかし、僕は照れるしか反応の仕様がないが、田村京子は屈託が無い。


 羽田空港で僕を発見した田村京子は、僕に気づかれないように同じ便に搭乗したのだった。そんなこととはつゆ知らず別れの寂しさを胸に機中の人となった僕は、高山邸の仕上げ工程に気持ちを集中して気持ちを紛らわせようとようと必死だった。そのせいで、同じ便に彼女が乗っている事などまったく気づくことが出来なかった。そんな僕を田村京子はひそかに観察していたのに違いない。それにしてもすごい行動力だ。女性とは、いざとなると強いものなのだなあと、僕は妙なところで感心したものだった。

 二人の女性は僕が運転席にいることなどすっかり忘れてしまったかのように話に夢中になっている。おかげで僕は運転に集中できた。
 僕は工事現場に直行し、工事の進行状態を確認する事にした。程なく高山邸に到着し、高山に京子を紹介すると、「それはめでたい。奥手のシードが彼女を連れてくるなんて青天の霹靂だ。利子!今夜は宴会だぞ。」
「はいっまかせなさい」

「京子さん、お買い物に付き合ってね。男たちはほって置きましょう。美味しいものを作りましょうね。」突然現れた田村京子に
「ハイ。利子さん。なんだか楽しくなってきました。」女たちはいそいそと買出しに出かけていった。

女たちのいなくなった工事現場は急に静かになってしまったが現場とはそういったものだ。男はストイックに仕事をするものなのだ。勿論、今夜の宴会は楽しみだが・・・

高山邸は既にプラスターボードの貼り付け工事はすっかり終わっていて、窓台の下や壁と床下地合板の取り合い付近から防湿フィルムが少し飛び出して見えている状態だった。なかなか丁寧な仕事で、できばえは申し分なかった。
「これなら明日からエンタルピー断熱に取り掛かれるな。」僕は高山の肩を叩きながら言った。
「うむ。お前が帰ってくるまでにプラスターを終えておこうとがんばったんだ。俺もこの後の工程が楽しみだ。さて、帰って酒でも飲むとするか。お前の土産話を聞きながらな!」

4人の宴は深夜まで続き、僕の記憶はあるところで途切れていた。気がつけば僕のとなりには高山が寝ていて、のどの渇きに水を飲もうと台所へ行くと二人の女性は楽しそうに朝食の支度をしているところだった。
「シードさんたら、大切な日に酔いつぶれてしまうなんて、しょうがない人ね。ねえ京子さん。」高山利子は笑いながら僕をからかった。
「ホント。なんて人かしら。私、考え直そうかしら。」
田村京子まで同じ調子で笑っている。
僕は、バツが悪くて、水を一杯飲むと早々に台所を逃げ出した。





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Last updated  2009.10.20 19:54:32
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