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2006年09月08日
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胸の上の頭が動いた気配で目が覚めた。

目を開けたが、ぼうっと天空に顔を向けたままだった。

すると、こんな真夜中なのに小さな動物が動く気配を感じた。

鳥の鳴き声もする。風が木々の梢を渡りながら、

さざ波のように、サワーッと移動して近づいてくる。

森の生き物たちが聞くような微細な音がそのとき突然耳の中に押し寄せてきた。

「少し歩こう」

恵子に提案した。

「向こう側は何があるのかしら」



「もうちょっと探検してみようか」

二人でゆっくりと降りる。急なところは先に自分が下りて、彼女を抱えた。

楽なところでは立ち止まって口づけした。

崖下にどうにか降りるとそこからS字型にゆるやかな道がつづき、

いったん海岸が見えるところに出た。

海岸で手を洗い、足も洗った。遠くで漁火が見えた。


また山すそに入って暫く歩くと、

およそ2メートル四方の崩れかげんの石段があった。

石段は2段になっていて上の段はおよそ1メートル半四方。

一段は高さは40センチぐらいだ。

上部は丸い石が重ねられ、あとは草が生えているばかりだった。



「・・・・・・」

うす暗がりでじっと目を凝らす。

あたりを眺める。

よく見れば、石段の背後に太い幹の木が聳えている。

人間二人で腕を回しても到底抱きかかえられそうにない。



暗いので何の木かよく分からないが、とにかく巨樹であるには違いない。

高さはどのくらいあるのだろうか。

上を見ても、夜空との境目があいまいだ。

「分かった!」

突然恵子はそういい、神妙に拍手を打って両手を合わせた。

その動作で恵子が何を連想したか分かった。

その石段は祭壇なのだ。

ここは神社あとで、巨樹は御神木なのである。

自分も真似して合掌礼拝し、

そのあと改めてあたりをうかがうと、

天まで伸びているかと錯覚しそうな巨樹があたりに屹立しているのだった。


恵子は祭壇の横を抜けてご神木の方に進んだ。

そして改めて拍手を打つと、今度は恵子はその巨樹に両手を広げてしがみついた。

なおも身体を巨樹にぴったりと付け、頬を押しあてた。

そしてしばらくジーッとして動かなかった。

巨樹の霊気と交わろうしているみたいだった。

恵子の顔はやすらいでいくふう。

巨樹に嫉妬を覚えた。

自分も巨樹に近づく。

押してもみた。

自分の力に自分が跳ね返されるだけで、巨樹はびくともしない。

足元に根が張り出しているのを見つけてその上に座った。

やがて恵子も横の根の上に座った。

沈黙がつづいて、何かを喋ろうと思ったが言葉がなかなか思い浮かばない。

そしてようやく、思いついたのは、

「さっき、どうして涙を溜めていたの?」

という質問だった。



「・・・・・・」

「あ、余計なこと聞いてしまったかな。べつに言わなくていいい」



風が、森の葉をさわさわと揺らせている。



「……言うわ。こんな夜いつかくるとずっと待っていたような気がする。」

そう言って恵子が問わず語りに断続的に語り始めたーー。


ーー私ね、ずっと昔、二〇歳ぐらいのときの話だけれど、とっても好きな人がいた。

あなたに抱かれていて、その人の顔が急に浮かんで…。

ずっと忘れることにしていたのに、急に浮かんで…。

たぶん、それはあなたが崖のところで

急にキスしてきたときから始まったのだけれど…、

不意にデジャヴュに襲われて、これって昔あったと思い出したの……。


あれは祭りの日だった。

鉦(かね)や太鼓の音も響いてきた。

浴衣を来た人たちがいっぱいいて…。



好きだった人といっしょに夏祭りに行って、

帰りさっきと同じような場所で結ばれた。

私は内心有頂天だった。

だって夢がかなったんだもん。



櫓の周りで踊りの輪が二重三重になっっていた。

踊りながら音頭を歌っている老若男女がいた。



……だけど、よくある話で、結局は男は、ただの遊びで。

暫くすると別の女性との付き合いが始まった。

私と付き合いがあったときでも、別の女性と会っていたらしい。



妊娠に気づいたのは男と別れてから。

そのときはおろすにはもう遅すぎる時期で……、

結局は産んだ。



男に認知させて養育費をもらって自分で育てようと、

どれだけ思ったかしれないけれど、

現実の選択は赤ん坊をもらってくださる人を見つけて、

育ててもらうしかなかった。


お腹が膨らむ暫く前に村を出て、

それから近くの町で子供を産んだ。ーー



恵子の話が途絶えると風の音が聞こえてきた。

そしてあたりが白みはじめた。(つづく)







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最終更新日  2006年09月09日 03時14分24秒
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