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@ 東京の気温よりも五℃低いというイギリスはどれだけ寒いのでしょう。 帰りは二十日に成田空港に到着とのことですが、今、何が楽しみかって言うと十時間以上も飛行機の中で読書ができることです。寂しいですが、向こうのイメージが全くわかない私にとっては正直言って今のところ、機内での時間がたのしみであります。 持っていく本は『相剋の森』熊谷達也、『寺内貫太郎一家』『思い出トランプ』共に向田邦子『朗読者』シュリンク、以上です。 師匠方々のおともをする形で行くので、いくら英国といえど、緊張のキの字もございやせん。 私が習っている武道の交流を兼ねて旅立つわけです。紳士たちと一戦を交える可能性だってなきにしにもあらず、動かざるごと山の如し、侵略するごと火の如く、といったように日本人らしさを存分に見せてきます。
2005.02.14
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本日は少々酔っ払っていますが書きます。今日は同級生の退院祝いっていうことだったのです。 結婚した者が二人。彼氏持ちが二人。フリーマンの私が一人。計五人でした。話は旦那への愚痴だったり、彼氏とのこれからについて。 考え方が自分本意すぎると思った。自分の健康状態のことに関して悩む者がいて、彼氏とのこれからについてを考えているようだった。彼氏の要望や、夢。それはもちろん大事だ。彼のことが好きならそれは自分のことと同じく大事なのは彼女の心も一緒だと思う。 ただ、彼氏の夢は大きいとしても。その彼氏本人にしてみると彼女の健康のことこそが彼氏自身の将来と考えているのかもしれない。私の意見はひどく曖昧だが、ひと一人の気持ちが一個の人間を救うことがずいぶんある。 自分の状態を彼氏にしっかりと告げて、これからのことよりも今の気持ちを求めることが大事だと思う。 理想と現実は違うが、それは行動におこさない人間の言うことであって、ユキエ、おまえのように動いた人間には理想を現実と気づかないで進む人間もいる。 たまに運がそれることもあるかもしれないが、結果的には「やっぱり運がよかったんだな私は」と思うと思う。 あなたは誰にも感謝をあうる気持ちを忘れないから。 同級生として、以上。よっぱらってはいるがな……。
2005.02.12
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─ 私の顔を見る人すべてと言ってもいいくらい、だれもが アクビをする。私の顔ってそんなに退屈なのかしら。 本屋で新書コーナー辺りをうろうろしていると、ちょうど向かい側で立ち読みをしている中学生が直木賞受賞作を読みながらアクビをしている。「まさか、つまんないの?その本」と聞きたくなる。まさにその本を買いにきたので、えっ!と、思ったがそうではなかった。 凝視する私と目が合って中学生の少年はまたアクビをした。複雑な気持ちで私は目をそらした。本当に本がつまらないのか、それとも私の顔を見て──だったのだろうか。 結果はすぐにでた。少年は手に持った本を一旦置いて、積まれた本の上から三冊目の誰の指紋もついていない受賞作をレジに持っていたのだ。 やっぱり、この顔のせいだ。 明日が始業式。新任として多くの生徒と顔を合わせなければならない。心配で、かけた大学の親友にはこう言われた。「アクビっていうのは退屈だからするんじゃなくて、逆に自分は集中するんだっていう気持ちで脳に多くの酸素を送るためのものらしいよ。私だって同じ新任で緊張はしてるんだからね。……でも、在学中、あなたといた四年間で私はずいぶん我慢強くなれたわ。たぶん、力もついたと思うの、女で体育の教師だけど、中学生なんかになめられたくないから。噛む力と物を持ち上げる力っていうのは比例するとかなんとか──」 私が「それ、どういう意味よ──」っていうまえに親友が受話器を置いて通話料金をとめた。 そういえば彼女も私と出会った当時は、ずいぶんアクビをガマンして鼻の穴を膨らませていたっけ。そんなあの子が暗い性格の私を明るい性格にしてくれた。よし、明日は明るく元気にがんばろう。なんていったって、相手は素直な小学生なんだから。 「みなさん、おはようございます」 クラスの全員が声を合わせて「おふぁふぁうごふぁいうぁふ」といった。 けれども私はめげない。「はい、着席してください。では、出席をとりますよ。えーと。阿川君」「ふぁい」阿川君の目じりに涙がでている。 何名の名前を呼んでもアクビをしない生徒はいない。昨日の友人の言葉を思い出す。そして、その話を聞かせてみる。「アクビっていうのは、脳に酸素を──」言ってる間にもカエルの合唱のようなアクビは止まらない。 私はついにキレた。 全員を廊下に立たせると、両隣の教室の廊下までいってしまった。 数分後、教頭がやってきた。遠くからでも怒っているのがうかがえる。「きみぃ、小学生を相手に何をやっていふんふぁね」語尾がスローモーションになる。教頭だって例外ではない。ところが逆ギレされた。「人が注意しているのにアクビをしているとは、どーいうつもりだね!?」「教頭先生!私、アクビなんてしていません」 私は物事に集中すると自然に口を開いてしまうのです。周りの人にはアクビをしているように見えるらしいのです。 アクビがうつるメカニズムについて調べてから卒業をしたほうがよかったかもしれない。 マスクか、整形か。うーむ。 どんよりと私の心は曇っていった。
2005.02.11
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目の前にはいないけど、どこかにいる奴。 それは好きな人、嫌な人。常に思い出すから。たまにだけ思い出すのが神様。誰の顔も思い出せないとき、切り札的にトランプのババをだすみたいに。 人間の弱さと強さの象徴。それが神。 だめなときに神。 いざというときの神頼み。 たまにゃぁ、仏壇を思い出せってことが、感謝をするってこと。 犯罪者でも子供は可愛いもの。 親とは生きながらも仏である。 仏は忘れられたらかなしいんじゃない?先祖も同じ。
2005.02.09
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図書館の神様を読んだ。すらすらと進んでしまった。おもしろい。 ただ、『こころ』が読みかけだったから、その点に関しては残念やった。いいところを知ってしまったから。 神様──。心配事があると心の中で、つぶやく。 しかし、そのことが無事終了したときはどうだろう。ありがとうございましたって言っているだろうか。 人それぞれイメージする神は違う。ナメック星人だったり、キリストだったり、じいちゃんだったり。結局、先が見えないと不安になって神様、と、目を閉じるのである。開いたとき生きていたら「ありがとう」の一言を胸の中で伝えねばならない。 見えないものに言う。それは夢を見るのと一緒であるから、結果的に自分を励ましているだけだったり、言い訳したりと、自分の気をまぎらわせているだけと思う。 もし、神が聞いていたら「わがままいうな」ってお怒りになる。「昨日、殺して山の奥に埋めた男がどうぞ見つかりませんように」
2005.02.07
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私が二十歳のときに有馬記念で買ったのは福島県の白河ウインズで、ボーナスを手にした直後ともあり13万円分の馬券を購入していた。前々売りの金曜日のことと思う。 結果は一着にグラスワンダー。みごとな復活劇である。トウカイテイオーが魅せたドラマほどではないがさすがは怪物君。二着にはメジロブライトで、配当が馬連で4?00という中穴だった。 その日は日曜出勤で、重機の運転をしながらラジオで実況を聞いていた。二十点ほど購入してい私だったがグラスワンダーを買った記憶がまるでなかった。そのときの現場の所長が2歳時ころのグラスワンダーとボールドエンペラーを大絶賛していて、もちろん、このとき所長が本命に置いたのはグラスワンダーだった。対抗にはメジロブライト。ゴールを駆け抜けた瞬間、私の重機の無線がなった。「おい!つぼ(当時のあだ名)競馬っていうのはな──こうやって取るんだよ」と。 悔しくて、くやしくて。で、馬券をながめた。すると、なぜかあるではないか。2-10 3000円 二十歳だから買ってみたのだった。グラスワンダーを度外視していたから、まるで気づかなかった。 しかし、そんなものは奇跡でもなんでもない。私の脳が欲を超えたときだった。ニューヨークでテロがあった年の有馬記念。 世間での本命はもちろんテイエムオペラオー。 が、私はそれを買わない。マンハッタンカフェを本命に挙げた。で、対抗馬として名将怒涛ことメイショウドトウ。押さえでテイエムオペラオー。それを各一万円。 もう一つの本命があった。それはアメリカンボス。アメリカで起きたテロのことがキーワードではないか、と考えた私はアメリカンボスから流す。ユナイテドステイツつながりでダイワテキサス、そして、もちろんマンハッタンカフェだ。ただこちらは各千円だけ。 ダービーでスペシャルウィークのボールドエンペラーをゲットしたときも頭がこんがらがったが、このときはその10倍はまともじゃぁなかった。 一着、4番マンハッタンカフェ。二着、1番アメリカンボス。配当48??0円。四十八万いくらかが手に入った瞬間だった。 お歳暮を持ってきたおじさんに「ニューヨークのマンハッタンの事故にアメリカのボスがからむのは必至だから買ったほうがいいですよ」と生意気にも助言した私。それに対しおじさんは「あんちゃんは頭がいいからな」と、競馬は理屈じゃないとでも言いたげなセリフである。私の目の前で『のみ屋』(違法)に電話するおじさんは、武(トゥーザビクトリー)とオペラとドトウのボックスをその場で注文した。 結果、やっぱり私は頭がいいのである。 そして、天皇賞。 これは取れない。ガチガチの本命がサイレンススズカであった。 前代未聞の快速馬が騎乗する武豊を乗せて、とばすとばす。 が、そこであったのはトラブル。関口ヒロシの名言「トラベルチャンス!」ではない。骨折というアクシデントだ。一人旅でよその馬と接触した可能性はゼロだ。 私が絶望の中、見守った天皇賞・秋はオフサイドトラップが制した。今、考えてみるとサッカーブームの常識としてルールを守ること。もしくはルールを知って、見ることである。パスが出る前に最終ラインを超えてはホイッスルが鳴る。競馬はシュートされたボールと同じで待ったはきかない。ゴールに突き刺さるか、キーパーにキャッチされるかである。もしくはキック力に耐えることができずにパンクする。 サイレンススズカは、オフサイドのホイッスルを無視し、なおかつ自分のキック力でボールをないものにしてしまった。サッカーにおいてボールがないとは競走馬の足がないのと一緒である。 オフサイドトラップ。年長者が知っているそのタイミング。恐るべし。仕掛けられるほうにしてみれば法の裏側をつかれたような感じにすらなってしまう。
2005.02.06
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『りさ』さんのは、なぜか一気に読めてしまう。 インストールは中盤からが面白く感じたところで、でも同じ賞をとった『黒冷水』のほうが文章はまとまっていたと思う。しかし、閉じぬまま読ませられたのは、やはり前者だ。
2005.02.05
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一週間前、窓を開けていた僕の部屋に妖精が飛び込んできた。 1リットルのペットボトルに収まりそうな妖精は人形のような美女で、入ってくるなり「かくまってください」と、透きとおった羽をしおらせながら懇願してきた。 僕の中の男気よりも下心が首を縦にふらせていた。といっても、非常に内気で、しかも、なんというか、そう、簡単に言うとその……童貞の社会人である僕は正直言って緊張していた。 僕が寝ていると布団の中に入ってくる妖精に背中を向けて寝ていた。いや、実際はほとんど寝ていない。そのくらい緊張してしまうのだ。朝起きて夢精していないことが不思議なほどだ。 毎日、通勤も帰宅も妖精と一緒に過ごしていた。仕事が営業ということもあって外にいることが多いから妖精を他人に見られる心配は少なかった。カバンの中に閉じ込めっぱなしにされてストレスがたまると見えて、がさごそと音を鳴らすことも少なくない。 しかし、明日は月に一度の営業報告を兼ねた会議がある。成績がおもわしくない僕にはたまらない日だ。あっちのほう、つまり下の毒は妖精の目があるために、たまっている日々だが。 会議当日。カバンにはもちろん妖精が隠れている。マナーモードにした携帯もカバンの中に入れておく。報告を行っている途中に数少ない得意先から電話がかかってくることも可能性としては、なきにしもあらず、であるから。 自分以外の社員は上司からのツッコミもさほどうけていない。自分の報告書をあらためて見て、ため息がつづったその紙を少し浮かせた。内容も軽い──。 早くも僕にまわってきた。 暗い声にならざるをえない。こんな成績で明るく振舞うわけにもいかない。報告終了。子供のころならゲンコツを怖がって頭をかかえているところだ。が、いつもツッコンでくる課長すら言葉を発さない。上司のほうで私の成績に頭をかかえていらっしゃるのだと、そう思った。 ……。 空間の中に誰でも知っている微震の音が聞こえた。ボールペンか、何かとあたっているのだろうか、僕のカバンの中から軽い感じの、いかにもバイブレーションの音が聞こえてきた。一度鳴って、だれかが形式的に僕にコメントをする間中も二度目が鳴った。 コメントが終わってからもう一度鳴った。周囲の何人かは振動に気づいているだろう。課長が言った。「君ぃ、電話にでてみてはどうだ?お得意様からではないのか」 いつもキツイ言葉をあびせてくる課長が同情をかけてくる。契約の追加を──。 はぁ、といって僕はテーブルの上でカバンを開けようとした。けれども、すぐに大事なことを思い出した。 妖精である。 立ったままカバンのジッパーを少しだけ開いてから胸の高さまで持ち上げてからカバンの中をのぞいた。この角度なら左右のやつらにも見えるまい。 カバンの中を見て、立ったまま僕の膝がガクンと折れた。同時にツーンと鼻に昇った刺激臭が頭をクラクラさせた。 カバンの中に拡大すればずいぶん立派であろう胸を揉みながら、しつこく震える携帯に股を開いて股間を押し付ける妖精がいた。それを見て、たまった何億かの分身が外に飛び出してしまったのだった。 妖精の目からは液体にまぎれる個体はどう写るのだろう。妙な臭いに両隣の社員が距離をとっているのを見ながら、そんなことを僕は考えた。ビクッときて、腰がブルンッと、した。
2005.02.04
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一位 『あ・うん』向田邦子 二位 『白夜行』東野圭吾 三位 『邂逅の森』熊谷達也 四位 『ダ・ヴィンチ・コード上、下』ダン・ブラウン 五位 『きらきらひかる』江国香織 六位 『信長の野望』童門冬二 七位 『幻夜』東野圭吾 八位 『チルドレン』伊坂幸太郎 期待はずれだったもの(自分には、あわなかった) 一位 『アフターダーク』 村上氏をはじめて読んだのがこれ。 二位 『ワイルドソウル』 垣根氏をはじめて読んだのがこれ。 三位 『邪魔』 奥田氏をはじめて呼んだのは『空中ブランコ』で、作者の自信作ということもあって邪魔を読んだが……。 約50冊を読んだ中で自分の好みを言いました。
2005.02.03
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鉋(かんな)で柱になる木をスーと、ひいた。 表面がつるつるになる。 まるで誰かのアカスリをしたみたいだ。
2005.02.02
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ハトが郵便物を運んでくれます。 九官鳥がそれを読みあげてくれます。 カラスが外で見守ってくれています。そして、いざというとき和尚を呼びにいきます。
2005.02.01
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友達にイチローのホームランボールを見せてもらった。 それを、おもいっきりぶん投げた。
2005.01.31
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彼らに支払う報酬は莫大なものだったが、マネー以上の働きに学者は感服していた。木々の間をぬって見える島の真ん中にはポッカリとした空間がただあるだけなのだろうと予測できた。 あれほどまでに消耗した体力を回復したのはまさに超人だとしか言いようがない。学者も、親子も食料を持っていなかった。では、どうやって体力の回復に成功したかというと、簡単だ。金とメモを持たせれば空を飛んでおつかいに行くハヤブサが仲間にいるからだ。船で港を離れる前にその辺のショップに声をかけておく。ついでに買った肉をハヤブサに与えれば、それでオーケーだ。 長いロープをほどよい長さに切って、木から木へと渡る。学者は昨日の恐怖で慣れてしまっているため、下さえ見なければターザンの真似ごとは、さほど怖くはなかった。ただ、寝る前にも少し思ったことだったが、鳥の鳴き声は聞こえない。もちろん姿さえも見えない。ハヤブサに臆して離れたのだろうか。学者は鳥がいた雰囲気も感じられない。 この丸い島の中央は円を書くように木が群生していて、その中央が空間であることは学者の予想通りであった。ただ、一つ予想できなかったことがあった。 木に囲まれた空間に根が這い出していて、それはテーブルみたいに平らに編んであるようだった。そして、その上に角の生えた巨大で不恰好な芋虫が座っていた。近くで見たかったが、ゴツイ手で止められた。親父のほうが首を振って、近づいてはダメだと言ってきた。学者に向かって言うその顔から普通ではない汗がタラタラと流れていた。その顔を見た少年は、ひどく取り乱していた。それでも好奇心がはち切れそうな学者はカバンから双眼鏡を取り出してのぞく。アップで見ると、なんともおぞましい形の体があった。そして腹から噴水のように茶色い液体を放出していた。この島の全体が湿地だが、その源が何であるか、分かった。あの化け物の排泄物だ。学者はあることを思い出してゴツイ男を向いた。そして、ちょっと失礼と言って湿地帯に潜ったときついた物を頭から摂取した。大きな虫眼鏡をだして、乾燥したその土のような物体をみてみる。一粒が蟻の頭ほどの大きさで、細長かった。そして、その一粒一粒はあの根のテーブルの分身であることが分かった。大発見だと学者は思った。 学者のわきで親子二人が帰りの手立てについて話している。とにかく早く救助にくるように伝えろというふうなことを少年は親父に言われて紙に書いた。そして、ピューィと口笛を吹いてハヤブサを呼んだ。上のほうで葉っぱが音を出した。見上げて、三人が三人、絶句した。真上から青い血管がドクドク流れる肉の塊が振ってきたのだ。少年はすぐ脇の枝に捕まって逃れ、学者はゴツイ男と共に枝から飛び降りたのだった。湿地ぎりぎりのところでロープを枝に巻きつけて一時難を逃れた。根のテーブルには怪物がいない。今振ってきた肉がアンバランスに小さい顔で三人を見る。プッシャー!と口を開いたかと思うとよだれだけをその場に浮かせたまま信じられない瞬発力で少年に飛びかかった。ロープ一本にぶらさがったゴツイ男と学者は動くことができなかった。 身軽な少年も微動だにできない。学者は眼を背けた。そして、下のほうでドップンとゾウがゼリーの池にはまるような音が聞こえた。羽ばたく音に気づいてギリギリで希望がつながった気がした。少年は助かったのだと。 見上げると学者とゴツイ男の顔に血が振ってきた。バタバタと羽ばたくハヤブサは無意識で羽を動かしている。何も考えないで筋肉を動かしている。少年が号泣する。首がなくなったハヤブサの動きががゆっくりになる。こと切れて地上に落下する。空中に何本かの羽が舞う中、本体は湿地の深くに姿を消す。おそらくハヤブサは怪物の眼球に攻撃したのだろう。大きいものに攻撃するときには、そうするように訓練させていた。だが、変わりに首をもっていかれたのだ。 ゴツイ男はロープを揺らして枝に飛び乗る。あの化け物は湿地に落ちたのだ。いつ襲い掛かってくるかわからない。そう学者と息子に向かって言い、ロープで輪を作り周囲に神経をとがらせる。少年も涙をこすり、父のそばに降りてくる。学者は、この二人が揃うと百人力という心強さがあったが、今の化け物を見た後ではそう思わなかった。 いつくるかわからないという緊張感が時間を長く感じさせる。 どこで睨みをきかせているのだ。三人の集中力が徐々にとぎれてくる。あっというまに月がでてきた。昼ごろに怪物の姿を見てから、もう朝をむかえる。だれも、一睡もしていない。 三日目、とうとう出てこない。ハヤブサがいないため木の皮と夜露、朝露だけを口にしてすごした。いい意味で待ち合わせのドタキャンをくらった。 太陽が高くなったころ、望遠鏡をのぞいていた少年が、見てみろとゴツイ男にそれを渡してきた。少年が指し示すのは根で出来たテーブルの場所であった。ゴツイ男は一瞬だけ絶句してみせ、息子にむかって「あれならやれるな」といった。学者ものぞくとテーブルの上には子犬程度の怪物が同じように腹から噴水をだしていた。いや、子を産んでいる。ということは、やつは女王であって、シロアリのように働き怪物を産んでいるのだと理解した。木をつたってテーブルに近づく。子犬サイズの女王がこちらに振り返る。三人でロープをつかんでターザンジャンプしてテーブルに着地を狙う。小さいからと言ってあなどってはならなかった。小さい分、スピードがハンパではなかった。学者は殺される瞬間に思った。おのでかいやつも、顔のサイズはこれと同じだった。肥えていた分だけ、あれでもスピードは遅かったのだ。 細かい怪物でできた島。あのでかい怪物でも、さすがにこの湿地帯からは逃げられなかったとみえる。親をも殺す兵隊。どこかの国の兵隊も望んでいるかもしれない。ただ、次も同じ血を引く同じ顔では、やはりすることに変わりはない。
2005.01.30
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昨日読み終えて、『土』はよかったのだけれど、『声』の最後のところがわからない。読み返しても少年は二人じゃないか!とイライラが残ってしまっている。なんとなくイメージしにくい最終章でした。 無人島の最終話は日曜日に書こうっと。
2005.01.28
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少年は自分の親が湿地の中に飛び込んだのを見ていた。 親として息子が見ている前でオタオタしているところは見せられなかった。船から飛び降りたまではよかったが着地と同時に体が丸ごとスッポリ湿地の中に入ってしまった。地上から何メートもぐっただろうか。ふいに自分が幼いころ爺さんに聞かせられた話を思い出した。仕事で雪山に行ったとき、急に真っ白い山が襲い掛かってきて一瞬にして埋められて、体が花の種の状態になったことを。雪と泥のちがいだけで、条件は今の自分と同じだろう。 当然、呼吸はできない。方法は一つ。ロープを引っぱって体を地上に出すだ。これができれば、憧れのじいさんが若いころ超人と言われていた──を超すことができる。 現時点で祖父との違いは究極の状態から生還してきたかどうかだ。 さきほどからロープを引くが、まったく体が上がっていく気配がしない。三分間全力で一人綱引きをする。本人は気付いていないかもしれないが全身の動きが止まっている。無呼吸での運動。泥の中で、ほとんど地に足が着かないに等しい場所での運動。なによりも、飛び降りた時にたるんだロープが張るまでほぼ三分を要したこと。呼吸停止、ゴツイ体の心臓に何も流れなくなってきた。 少年はたるんだロープが徐々に張ってくるのを見ていた。自分がいる木の幹にかけられたロープが音をだしている。しかし少年は思った。時間がかかりすぎだ。 案の定ロープの動きは止まった。湿地の表面からむなしくロープだけがのびていた。そのロープの折り返し地点にいる自分が引き上げなければならない。少年は幹にかかったロープを手にして木の枝から飛び降りた。十メートルはある高さからだ。体重を利用して親父を引き上げようとしたのだろうが、親子の体重の違いと湿地内の泥にかかる抵抗が少年の落下を許さない。 時間がない。 綱渡りの際、学者と自分をつなげたロープを利用する。学者に振りかぶった張り手をくらわせて起こし、下を見て高さに恐怖するひざを罵って無理に立たせる。そして少年が学者をおんぶする体勢になってから二人の体をきつくロープで合体させた。学者の寝起きは最悪だった。 微妙にオネショではなかった。寝起きなので普通のおもらしだった。少年は腰辺りに生ぬるい熱を感じたが、少年としては木から飛び降りる前にそのことは予想していた。だから気にならない。とにかく、木から根元まで届くことが重要だった。 落下傘のようにスローではあったが木の根のところまで着きそうだ。だが、妙だ。根元なのに太い枝が伸びている。地上に降り立つことが危険に思えた。幸か不幸か、学者の革靴が落下した。小便の重みも手伝ってのことに違いない。一瞬だった。蒸発するかのように靴は地に消えた。少年はすれすれのところで幹に抱きつく。枝に足をかける。学者をおぶったままでは重労働だがそれしかない。引っぱりあげた分のロープを縛りつけてまたよじ登る。そうやって親父を引き上げるしか方法がない。 木を上下往復しながら少年は考えた。この木の根元は、もっともっと深いところにあるのではないだろうか。 五往復したとき少年の目は地上から一箇所だけ盛り上がったものを発見する。もちろんロープの刺さった湿地帯のところだ。 六回目に飛び降りたとき少年の胸に不安がよぎった。親父はロープを放さないだろうな。少年は自分のシャツを絞ってしたたるその汗を飲んだ。顔のすぐ後ろで見ていた学者は吐き気がしたが、すでに状況を把握していたので、すっぱいものをのど元で押しとめた。そして学者は思った。どれほどの場面でこういった行動をとれるのだろうか。すると少年は振り向いて学者の顔を舐め始めた。気でも狂っ──。ちがう、今、感動して流した涙を欲しがっているのだ。これほどまでに塩分と水分を──。瞬きを止めて、眼球をめいっぱいさらした時にハヤブサがあれほどまでに忠実な理由が、いや、気持ちが解った。 またよじ登って親父を見ると、少年の予想通り頭と腕が現れていた。が、動きがない。ロープをからませた腕に問題はないが、もう片方のロープは握力で握っているように見える。意識はどうなのだ。心配という感情をめったに抱かない少年の胸はドドッと熱くなった。つながったロープに耳をあててみる。 少年はこの場所に親父を引き上げるまで目を閉じたまま動いた。心の中では、まさか、まさか、と繰り返していた。 湿地帯にのみこまれそうになっては引き上げられ、としているゴツイ親父の開いた口も鼻も耳も目も泥がギッシリとつまっていた。ハヤブサが湿地帯に浮かぶ頭に着地し、その顔をつつきはじめた。 ようやく親父が木にたどり着いたときには少年の体は動かなくなっていた。ロープを掴んでいる手を放さなかったのは奇跡というほかない。十メートル下から自分の父親を見上げ、安心したのだろう。気を失った。少年の体とロープで縛られて後ろにいた学者がとっさに木の枝にしがみついて湿地に落下することはなかった。学者は思った。少年は安心したのではない。絶望したのだと。木の幹に磔(はりつけ)されたようになった体はゴツイにはゴツイが、まるで精気なく腕も首もだれさがっていた。それは、湿地の下深くを望むかのようでもあった。ハヤブサは空を舞っている。そして、鳴いている。 この二人に依頼したのは私だ。客ではある。が、こんな私に命をかけた二人を前にして、私の体力はほとんど消耗していないに等しい。学者とは一人の指導者でもある。導かれたままにしていいはずがない。学者は自分と少年をつないだロープをほどき、気を失った少年が落下しないようにそのロープを利用して枝に結びつけた。 そして、意を決して頭の上の枝に手をかけた。生きている可能性だってあるはずだ。翌日の筋肉痛のことなど毛頭ない。下を見ないで一気に登った。 ゴツイ男を枝に座らせてから、その男の脈を素早くをとってみる。逆に学者自身の血の気が引いた。 気道確保。心臓マッサージ。教科書どおりに行う。開いた口にも鼻穴にも泥が入ってない。きっとハヤブサの仕業だと思った。 合わせた自分の両手に汗がたれる。心臓。──これほどやっても動きやしない。あきらめた。するとハヤブサがゴツイ胸板に降り立った。足踏み。まさか、心臓マッサージを理解しているのか。そう思ったとき、自分の情けなさに涙がこぼれた。二人の頑張りに比べたらこれくらいの疲労は──。 学者の動きを察知してハヤブサは心臓から離れた。 どれだけマッサージを繰り返したろうか。腕に力が入らない。学者はほとんど無意識の状態になりながら腰だけをがくがくと振っていた。生まれて初めて体力を限界まで使った学者はいくら太い枝とはいえ、足場がいいとは言えないところでの救命活動に一瞬神経がとんだ。グラリと学者の体は空中にもたれかかった。ハッと意識を取り戻したときには遅かった。学者は頭から真っ逆さまに地上に向かってしまっていた。 学者は命を惜しむ気持ちもあったが、最後の最後に研究よりも大事なことを知ったので後悔はなかった。胸の前でゆっくりと十字をきった。死の直前とはゆっくり時が流れて走馬灯のように過去のことを思い出すという。なるほど本当だ。 十字を五回きっても、まだ──。ふと足首に締め付ける何かがある。まさかハヤブサがパタパタと頑張っているわけではあるまい。にしても、数秒とはいえ普通じゃない。 助かったよ。その声で理解できた。学者の意識が一瞬途切れたときに、偶然にもゴツイ男の心臓に血がめぐり始めたのだった。 とはいえ、三人は身も心もボロボロになっていた。辺りも薄暗い。 二人の体力は回復していたが、学者だけはひどい筋肉痛にみまわれていた。 つづく
2005.01.27
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湿地帯が島の面積をほとんど占領している。むしろ底なし沼に近い。それは極めて軟弱な地盤だといえる。 この島のすぐ近くに大陸があって。ハンターたちが狩を始めるころになると、獲物の鹿が目の前の島まで泳いでる光景をよく目にする。島に到着して足を地面にかけるが、その細い足は乾かない生のコンクリートに足をつっこんだようになる。あわてた鹿は前足の二本が埋まって、さらに後ろ足をバタつかせてもがく。しかし、動けば動くほど──というやつである。しまいには後ろ足だけを枯れた生け花のように立たせたままゆっくりと飲み込まれていく。 船で、その島の周りをぐるっと見ても底なしの湿地だけがあって、人間はとてもじゃないが入る気はしない。ただ、島の中央には森があって、鳥の鳴き声が大陸まで聞こえることがある。獣も存在しているであろうと言う話もあった。 ヘリコプターも飛行機もない時代だったから空から探索することは不可能のように思えた。 近寄らなければ危険ではないとされ、地元の者はすき好んで島の秘密を暴こうと考えるものはいなかった。が、よそ者で、しかも学者ときたもんでは話も違ってくる。 森まで行くなにか方法はないか。湿地にさまざまな物体を投げ入れながら学者は考えた。望遠鏡を覗いて、さらに興味が湧いてくる。強欲に全ての物を飲み込む姿はまるで生きているかのようだ。 一旦引き返した学者が人を引き連れて、また湿地の島までやってきた。二人と鳥が一羽だった。助手にしては格好がそれらしくない。ここに来る途中につかまえたターザンのように見えなくもない。一人はゴツイ男で30歳といった感じだ。もう片方の男の肩でハヤブサが目を光らせている。やせていて年はかなり若い。成人まであと五年はあるだろう。 学者は湿地の奥にある森に指を差して若いほうの男に説明というか、お願いというか、やりとりをする。うんうんとうなずいて、少年は細い糸をハヤブサの足に巻き始めた。左肩から右の腕に移してから少年はピューと口笛を鳴らし、ハヤブサの乗った腕を森のほうに突き出した。その腕の関節が伸びきる前に鳥の瞬発力が風にのっていた。ハヤブサが蜘蛛のように糸を伸ばしていく。 手元の糸が半分ほど引っぱられたところでハヤブサは向きを変えて戻ってくる。すでに森に突入して折り返してくるのだった。 船の前まできてから翼を広げて抵抗させブレーキをかける。少年はナイフを持っていて、片に着地したとほぼ同時に足に巻いた糸を切る。このハヤブサは訓練により糸に摩擦のかからない木を探して、その木の幹に糸をかけてくるのである。強靭な糸であるためにめったなことでは切れることはないのだが。 ゴツイ男が片にロープをかけている姿はクラス全員分のフラフープを運ぶ用務員のようである。時代錯誤な比喩であるがまさにそんな束になったロープを準備していた。少年がロープの端にほどけないよう、きつく先ほどの糸を巻きつける。ロープを流しながらゴツイ男のその指で糸を引っぱっていく。指の太さで糸がますます繊細に見えてくる。 船に十メートル糸を引くとロープは同じ分だけ森に近づく。どんどんロープの量は減ってくる。手元の糸が絡み合ったりしないように少年が几帳面に糸を巻いていく。 いくぶん余裕を残してロープの端と端がゴツイ男の手に持たれた。学者は安堵の表情を見せつつも目じりになんともいえない期待の色があった。が、その気持ちを制するように少年がつぶやいた。学者は静かにだが一方的に話すその内容を素直に聞き入れた。そして少年の希望通りに今乗っている五人乗りの船の十倍はある木造船を岸から呼び寄せた。 ターザン色が強いだけあって、巨大な船へ身軽に乗り移った。少年に手を借りて学者もなんとかよじ登った。 学者は背中に筆記用具やナイフの入ったカバンを背負って、二人に、さあ、行こうかということを伝えた。 ゴツイ男はロープの一方を船に結び残りを腕に数回巻いてギュウと引っぱった。 怪力に引かれて船が前に進む。何人かの船員がふらつく。学者は尻餅をつく。そのとき、少年はすでに張られたロープに飛び乗っていた。ズボンをほろいながら学者が少年に向かって、そっちの小さい船だったらこうなっていたな。と、両腕をグルンと回して見せた。少年はそれには答えず、せかすようにカバンを置いていけと指示した。そして早くロープにつかまれ。と、あごをしゃくった。 カバンを置くか、ためらう学者に口笛が聞こえた。同時に背中のカバンが持ち上がった。なるほど。 ロープをからめた腕がゴツイというより怖い。はち切れそうなのだ。学者はいそいだ。そして打ち合わせどおりに二本のロープにぶらさがった。学者の握力はすでに限界が見えそうだ。ここから森までゆうに百メートルはある。少年が学者の手足に手錠をかけるように縛る。干された洗濯物のようになる。 少年はベルトのようにまいたロープを学者の腕に縛った。かと思うと細い体からは想像できないスピードでロープの先、森に向かって二本の手だけで渡り始めた。その後ろを身動きがとれないが楽ちんな学者がひもを結ばれた三輪車が子供に引っぱられるようについていった。 汗が尋常ではない。ゴツイ男は水を欲しがった。三人の船員がすることといえばロープを持つ男に給水することと、少年とただ引っぱられる学者を無言で見守ることだけだった。 カバンを隼掴みしたハヤブサが見守るなか、少年の動きが遅くなってきた。ちょうど中間地点まで行ったころには、とうとう動きを止めてしまった。腕を休めるためコウモリの姿勢に落ち着いた。ピューィ。こだました合図でハヤブサは小船のほうに戻った。そして掴んでいたカバンを一旦置き、赤い玉のようなものを掴んでから、また羽ばたいた。 ハヤブサは先に木造船に向かった。見上げる船員の一人の手元まで来てその玉を一つ落とした。渡されたといったほうが正解なほどに船員はあっさり受けとった。そして直角を描くように少年がぶらさがっているところまでいって同じく玉を落とした。それをうまくキャッチして少年はかぶりついた。よく熟れたトマトだ。 船員は意味を理解して汗の吹き出る男の口に運んだ。そのとき船員は深く感動した。あんな鋭い爪を持っているのにトマトに傷一つついていない。ゴツイ男の豪快に開いた口に運んだとき歯にかすっただけで汁がドロッとでたのに。 小休止を終えて少年は動き始めた。 たるむロープをじりじりと張り続ける。そのつど船もわずかに進む。 指までもゴツイとはいえ、握るロープに汗が染み込んで滑りそうになる。二人と一羽にしてみれば久しぶりの大きな仕事だ。 あと少しが遠い。少年こそ脱水症状がはげしい。 ズズン──。少年と学者の体が浮く。いや逆で、ロープが一気にたるんだために浮いたような感覚に陥っただけで自身は重力に素直だ。 つたって来た後ろを振り返る。船の様子が妙だ。が、少年は仲間を信頼しきっている。じりじりと体が浮いてくる。今度は本当に浮いているのだ。しかし、ロープは張られていっても……、張られるほどに──、ズズズ。たるむ。 こっちがいくら、めいいっぱいロープを引いても船が沈むのでは手のうちようがない。座礁したのだ。 座礁と言っても軟弱な湿地帯にであるから船に傷はつかないが、水と違って浮力というものが通用しない。ヨーグルトに埋もれた銀のスプーンってところだ。船員はひどく動揺した。地元の三人はこの湿地の怖さをカミナリ以上と考えていたし、実に現実的──。だれもが幼いころに叱られるといわれる言葉、言うことを聞かないと湿地に置いてくるよ。これを言われると死刑囚でさえ尻込みをするといわれるのである。 船員は船の中を駆けた。が遅かった。一連の綱渡りに目を奪われ、船全体が湿地帯に入り込んでいたことに気付かなかったのだった。慌てる、船員の一人がとんでもないことをする。それを見て、俺も続けと二人でロープに飛び乗った。 二人で、すでに限界の重さなのに、いくらゴッツイ腕でもさらに二人がロープに乗っては体がもたない。しかし、訓練をしていないその船員達の腕力はすぐに尽きた。とはいえ死にたくはないのだろう。少年の真似をして並んでコウモリの体勢になった。ゴツイ男の目じり上の浮き出た血管がアゲハの幼虫のようになった。人間の限界を超えそうだ。 あと少しで木の幹に届く。学者は一回目にロープがたるんだときにすでに失神していた。あと数メートルにきたとき、また大きくたるんだ。振り返るとでかいコウモリが二人ぶらさがっている。口笛を吹く前に一人が落ちた。それを見て恐怖に駆られた脇にいた男も落ちた。ハヤブサが滑空してきて目の玉をくりぬいたのだった。真っ逆さまに落ちた二人は残酷にも足から着地した。何度も命乞いするが首まで埋まるのに時間という時間はかからなかった。あっというまにどちらかの爪が見えるだけになった。 あと数メートル。先に学者を木に渡らせて、と油断があった。手を滑らせた。ヒヤッとした。片手は大丈夫。 うごくんじゃねぇ!ナイフを突きつけられても動けない。ロープを放したら、客である学者も、十五歳のときつくった息子も真っ逆さまである。ロープを放せ?放せば船が沈まなくなるとでも思っているのか。船乗りにしては頭が弱い。いや、パニックになっているだけか。そのとき、ロープが食い込む腕に優しさ伝わった。 ゴツイ男は船員に、命が助かる方法があるといった。目を輝かせた船員にもう一言。だから、ナイフを捨ててこっちにこい。 涙をにじませた船員は安易に近づいた。コキンとだけなって、白目をむいて腕がだれさがった。ロープを船員の首からはずして、ようやく安堵し、腰をおろした。 少年は木の上から眺めて、かなり大変になっていることがわかった。このままでは船と一緒にオヤジまで沈んでしまう。学者はまだ──。いい気なもんだ。 腕の筋肉を休めることに集中した。もちろん、ふんばっていた下半身にもそうとうな疲労が蓄積している。息子達がいる場所まで湿地帯の長い距離をどうにかして歩くか、小船にロープを引っ掛けてなんとか湿地を乗り切るか。命は助かる。だが、そうすると息子達と離れてしまう。 結局は自分の体力を信じるしかない。船は傾いて横になった。そのまま裏返しになりそうな勢いだ。下敷きになっては絶体絶命だ。飛ぶしかなかった。 スポッ。一瞬だけ人の形が湿地帯ににじみ、またすぐに平らな湿地に変わった。一つ違うのはそこから森につながったロープが、まだあることだ。 つづく
2005.01.26
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田吾作と馬鹿にされてすごした少年時代。しかし、それがあってこそ今がある。 都心に東京ドームのレプリカを作った。六階建ての野球場である。十二のチームが顔を揃えて、一つのプレイボールで同時に振りかぶる。エキシビジョンに映る全試合。 東北の仙台には月の梯子と称した建物がある。その高さは優にチョモランマ越えである。 なんと言ってもすごいのが、『一本橋』と名付けられた橋である。素材がすべて防弾強化ガラスで造られた九州と北海道を直線で結ぶ橋である。各都道府県にインターチェンジを築き、従来の高速道路、有料道路にもつながっている。 もう、田吾作は馬鹿にされることはなくなった。四十をこえてからできた息子の五平をひどく可愛がった。この子の将来を考えることはなかった。どんな大人になろうとも、これだけの財産があれば苦労することはないだろう。 五平はとても素直に育ち、生き物をとても愛した。湖のような水槽に無数のトンネル。設計者は蟻の巣をイメージしたものだという。なるほど、確かにそのとおりだ。電気自動車に乗ってその中を見る。一つの市を丸ごと買い取って造った水槽だ。 五平は白熊を愛した。山形、長野などの豪雪地帯を買いきって白熊王国を作った。 ワニの魅力にも惹かれた。九州に蜘蛛の巣の形の河を作らせた。 次第に人間が住む場所がなくなってきた。悩む田吾作に五平は言った。元々は人間が動物の居場所を追いやったんだ。今度は逆になってもいいはずだ。 田吾作はその言葉に深く感動した。日本中の建設機械を総動員して山を崩し、この国のすぐ隣の太平洋を埋め始めた。 土が足りなくなると中国から輸入した。二年で、それは完成した。世界地図が大きく変わった。日本の隣に長方形の島ができていた。日本本土の約五倍の大きさであった。 動物の領域によって居場所がなくなった国民は次々に四角い島に移り住んだ。 東京も地下鉄が止まり、新宿の消費電力がゼロになった。田舎暮らしの人間も自衛隊に保護されて四角い島に引っ越して行った。日本の人口密度がゼロになった日だった。 ありとあらゆる動物が生息する無人島へと姿を変えたのだった。だが逆に海外から観光に訪れる人間が莫大に増加したのだ。ガラスでできた高速道路に飛行機で乗りつけ、その上から地上の動物を見下ろすというものだ。 飽きっぽい五平はまだ十一歳。二十歳になるまでに地球人はよその星に移り住んでいるのではないだろうか。
2005.01.24
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無人島と言っても、こんなのはないだろう。朝だと思って起きると白夜になっていて、もう一度まぶたを閉じる。そろそろいいだろう、いい加減に朝日がでたころと思って目をあけるが深い霧に包まれているかのように、日の出が過ぎたか、以前として白夜のままなのか判断がつかない。 夢の中にいるのかと考えるが、まるで無駄なことになってしまう。 一週間が過ぎた。この島にきてから太陽を見ていない。 生まれながらの方向音痴で、北も東も南も西も順序すら分からない。 睡眠薬を飲まされたのはクルーザーの中でだった。友人からの借り物だ。私は妻のクリスティーナと一か月分の食料を持って旅にでた。おだやかな波がワインの表面にまでその感じを表していた。 乾杯のあと、クリスティーナは見ていただけだったが私はとてつもなくうまい肉を食って、食後のデザートに好物のチーズをのせたクラッカーを食べたところまでは覚えている。 気が付くと丸太小屋のハンモックで寝返りをうっていた。 一ヶ月の休暇ともあって気持ちを張り詰める必要がなかった私は、すぐにまた目を閉じた。が、次の瞬間ぐるりと地球が回った。ドンと落下し、本当に目が覚めた私はすぐに妻の心配をした。「大丈夫か!?メアリー」あっと思い、口を塞いだ。つい愛人の名前を呼んでしまった。もっと、あっっっ!と思った。白いパネルの壁が丸太に変わっている。慌てて外に出る。 妙な薄暗さだ。目の前は海が広がっていた。「海だ。つーか、あたりまえか」と変に納得してみたものの、自分がいるはずなのは船の上だよな……。夢か現実かを知る脳内の方位さえも狂ってきたような気がした。丸太の床から足を上げて砂浜に下りてみる。そして、海水の中にくるぶしまで入った感触で現実の方向にいるのは間違いないことに気付く。なぜかホッとする。 まだ頭の整理がつかないまま振り返り、そして絶望する。 今、自分が丸太小屋から出てきたのは分かっている。問題はその後ろだ。それを見たとき思わず私は体を丸めて硬直させていた。人間の力ではどうにもならないと感じたときにする行動で、目の前の恐怖から目を背け、頭を抱え込んだ上半身でさらに折り曲げた膝を抱え込むといった諦める瞬間に行う姿勢でだ。 襲いかかってくる津波がこない。恐る恐る目を向ける。グッと、すぐに強く目を閉じる。が、こない。豪快に聞こえるはずの音さえもしない。後ろからササーと砂糖と塩が交尾でもしているような音しか聞こえない。 不思議な感じを残したままゆっくりと目を開けた。 そこには断崖絶壁というのも生やさしいと思えるほどの巨大な岩が立っていた。一目見て津波と勘違いしてしまうほどの迫力の岩盤はひどくオーバーハングしていて、とんでもないアーケードのように小屋の真上までをすっぽりと、その岩は覆っていた。丸太小屋が、まるで中途半端に開いた帆立貝の中にある真珠のようにみえてしまう。 この岩盤の陰はどうなっているのだろう。海に腰まで入り、覗こうとしたとき後ろのほうで何かが跳ねた。しぶきが飛んできたのだ。ほおの雫を拭いながら振り返るとイルカがジャンプしていた。おお、テレビでしか見たことのない光景だ。その後ろをもう一頭がジャンプした。パクリ。え……。最初に跳んだイルカが空中で消えた。次の瞬間、ポンプ車の放水がオモチャとおもえるほどのしぶきを浴びた私は小屋まで四足で駆けていた。度忘れしたものを思い出した。とたんに腰が抜けていた。 海のハンター、シャチ。 放心状態から解放されるまでしばらくの時間がかかった。大事なことに気付く。クリスティーナは?!船は?!ふと丸太小屋を見て、この不思議な現状の打開策はないかと思い、あらためて中を見わたす。私が転げ落ちたハンモックのすぐ脇にノートがあった。見覚えがあった。自分の日記だ。愛人との日々をつづってある。ようやく理解できたような気がしてきた。 パラパラとページをめくる。すると一枚の紙切れが落ちてきた。内容はこうであった。『彼女とあなたが出逢った日から昨日までのことは嫉妬よりもため息の出る同情としてわたしの中にありました。愛人ができたその日から、それとわかる振る舞いをして──。けれども、そんなふうに見えるとあなた自身は気付いていなかったでしょうけれども。この旅行を計画したのはわたしでしたね。あなたはすぐに絶句の表情をして、電話機を持って部屋に閉じこもると今度は狼狽。とても分かりやすい人だったわねあなたは。あら、ごめんなさい過去形になってしまって。けれども文章を直すことは不必要だわ。うそつきが嫌いなわたしにには最高の旦那様だったと思うの。あと、食事は船のものを全て置いていきます。……でも、もし食べるものがなくなったときは花火を打ち上げてください。小屋の裏にあるプラスチックの箱にありますから。最後に……、「あのお肉はおいしかったでしょう。毎日では飽きるかもしれないけれど、でも、あなたの好きなお肉だから心配はしていないわ。これで、心残りはないでしょうから」 三日間は飲まず食わずの空腹で過ごした。四日目は丸太にかかった朝露を舐めて、五日目には無意識のままメアリーの肉を食っていた。六日目には下痢をおこした。七日目になると、どこから飛んできたのか肉に無数のハエがたかっている。初日から波の音よりも気にはなっていた。しかし、空腹に耐えることができずに、ネバッと糸を引く肉をまた口にする。中で何か動いた。吐き出す。 ウジ虫だ。ついで肉を丸ごと吐き出す。胃液がその後を追う。 ハエが今出した肉にたかってくる。 が、その昆虫も胃液には近寄ろうとはしない。 意識がもうろうとしてくる。 裏にあるプラスチックの箱には一本の花火があった。その形は太いロウソクのようなものを茶褐色の紙でつつんだものだった。日記から落ちた紙を読んだ後すぐに見ていたので、これを見るのは二度目になる。 いくら私が仕事だけに生きた世間知らずでも花火とダイナマイトの違いはすぐにわかった。 花火はどこでも綺麗に爆発するが、ダイナマイトはそうではない。砂の中などでは爆発の力が逃げてしまうため力を発揮することはできない。逆に堅い岩などの小さな穴の中に入れて火を着けると、持ち前の破壊力を存分に見せつけてくれる。 二度目に見たこれは、花火のような気がしてきた。絶対そうだ。寝ているまにクリスティーナのやつが来て本当の花火とすりかえていったのだ。という気がしてきた。 それを津波のようにかぶさってくる岩盤の小さな隙間に押し込めた。ちょろっと出た導線に着けるべくマッチを擦った。そのとき妙なことを思いつく。 この岩盤は南に位置している。そして、あまりに巨大なため東から出る朝日も、西に沈む夕日も目にすることができなかったのだ。日陰だけが私を見ていたのだ。 火を着けて走る。小屋を過ぎて、砂浜のふちまで。波のおかげで膝まで海水に浸る。 どうせ潰されるのなら、その瞬間に見えるはずの太陽をみてやろう。海はきらきらと光を反射しているから昼のはずだ。 五秒は経過したろうか。そのとき一瞬、時が止まったような気がした。ダイナマイトは小屋の真後ろに仕掛けていた。その小屋が孔雀にでもなったように光ったのだ。 続いて爆発音が、そして、ピシィと岩に入る亀裂が見えるはず。最後には崩れ落ちる岩の背景に眩しい太陽が見えるはずだった。 小屋の後ろが光を放った瞬間だった。目の前に白いギザギザが見えた。そう思ったとき爆発音が轟いた。そして、東京ドーム大の氷にウイスキーを注いだ感じに乾いた亀裂音が響いた。が、目の前は真っ暗だった。最後に太陽を見るはずだったのに。次の瞬間思った。 崩れる絶壁の振動を感じ、潜水艦の中にいて空から砲撃されるのはこんな味わいだろうなと。 シャチは口に含んだ獲物をもごもごと器用に回転させた。 そして人間がさくらんぼの種を吐き出すように、シャチは人間の丸い部分を吐き出した。 さんさんと照りつける太陽の下の海で生首がプクリと浮いている。
2005.01.23
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1,000人程度が住む島で子供の姿を見るのはお盆と正月くらいである。 こういう島では高齢化だけが進んでいく。と同時に若い人間が入ってくることもある。病院ができたことによってだ。 生徒がいないと学校はなくなる。学校ではなくなる。 島とはどんな島でも、だいたい同じだが、一つの、いわゆる一つの『山』である。ただ山の周りが海なだけで、海育ちなのと同時に山育ちでもあるのだ。平野と山の違いはなにかにつけて道路に勾配があることだ。ソフトクリームのようにうねうねと坂道だけが島にはある。 すると、病院に行くのも大変なことになってしまう人もでてくる。結果、診察は定期的に巡回してきてくれるようになる。 いつだったか船に乗って、その島に行ったとき、パソコンやらプリンタやらの荷物が(5セットくらいはあったろうか)積まれていたことがあった。病院に向かうのだろうと、そのとき思った。 どんな思いで医師らは仕事し、そして生活をしているのだろう。 住民は島の現実をどう見ているのだろう。 私にとっては幼いころに育ったこの島をやせてきたように見てしまう。三畳半の部屋でサソリを一匹飼ったら、それは広く感じる。M娘の武道館ライブで会場は超満員だったらそれは狭い。入りたくても入れない人がいるから制限なしに人を入れようと思ったら東京ドームが何個分必要だろうか。 べつにサソリが生息しているわけでもないのに人がいない。 二酸化炭素と排ガスが充満していても、そっちの方に人が集ってくる。 思うに、人間は酸素よりも二酸化炭素を必要とする植物になっていくのではないだろうか。植物プランクトンが発生して──。という地球誕生のころにもどるのかも。 そして地球が全てリセットされて──。 プランクトン発生から生物滅亡までを一ターンとすると、実は今までに何ターン同じ事を繰り返してきたのだろう。 しかし、いざとなっても食料よりヴィトンを選ぶ世がきたら人類は永久に不滅とおもう。 生きたい人だけが裸で生活する生物の知恵をかりていけばいいことだ。生態系を壊したことで人間自身を修正することは不可能だ。 地球一個も人一人も同じ理屈で動いていて、どこかで何かの機能が停止すると次第に弱り始め、最後には風にさらわれて『乾燥』とかいう物のない言葉だけになってしまう。 強い思いだけが残ると湿気になる。
2005.01.22
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ここは侍たちや、その連れの美女が真ん中を歩いて、私のような者はすみに寄って歩かねばならないと、すぐそこのだんご屋の親父に聞いていた。聞いて初めてだが、そんな決まりがあることを私は知った。 その木でできた橋は私のような図体のでかいものが歩いても、きしむ音はしない。逆に弾む感じさえした。 何もかもが田舎とはまるで違う。 半円を描くような橋の中間地点、ここを山と見れば頂上にあたる一番眺めがいいところで腰をおろした。もちろん端に寄ってだ。歩けば腹が減るほどの長さの橋ではなかったが、高いところで見わたしていると、こんなところで腹ごしらえをしたくなってきた。 さっそく風呂敷を広げて、いざ食おうとしたとき、箸がない。こんな立派な橋の上で、しかも端に座っていて箸がないときては滑稽にもほどがある。手で食ってはそれこそ、はしたないってもんで、その辺をひとっ走り代わりの物を探しに行くことにした。 ここは大工の姿がやけに多い町で、代わりは案外すぐ見つかった。 箸にしてしまった木を手裏剣を連続で飛ばすようにこすりながら風呂敷まできて腰をおろした。 さぁ、食うかといったときにぬくぬくとした感じが消えて、薄暗くなった。まさか夕立が。猫背を伸ばして見ると、太陽を隠したのは子連れの若い女だった。 やせた女は、もっと痩せた女の子の手を引いていた。が、私の前で足を止めてしまったのだった。一目見て分かった。この子はただの痩せすぎではない。麻疹(はしか)による赤いぶつぶつが日陰よりも冷気を私に吹かせていた。 目の前の親子は私にものを言うわけではなかったが、その姿、格好がすでに言っていた。 私も貧乏だが──。おそらくこの親子、町のいい医者に診てもらおうと来たのだろうが、お決まりの台詞を並べられて帰されたに違いない。「安静にすることと、滋養をつけることだね」 商いは上場だったことだ。村までほんの一日歩くだけだ。私は仕方なく拾ってきた箸を渡して、風呂敷だけをたたんで「おあがりよ」と言った。親子二人がそろってすみません、ありがとう、と、頭を下げたが母親のほうが重病のような声だった。 さてと、と私は立ち上がり歩き始めた。しかし、その足は下るも登るもしなかった。無理に中央まで体をもって行って、周囲をぐるりと眺めてから肩をいからせて歩いてみた。見栄を張ったつもりが、渡りきるまでにお侍が来やしないかと膝がガクガクとしてあやうく転ぶところだった。 やはり私のようなものは人に頭を下げて手すりのある端のほうを歩くのが似合っている。 土を踏むと今のが嘘のように膝がしゃんとしている。どうれ、走って帰るとするかな。
2005.01.20
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トイレの中と風呂に入りながら、ちまちま読んでいた本だった。今朝、雪の影響で仕事が休みになり『ワイルドソウル』の残った数ページを片付けて、今さっき半分残った『あ・うん』を読み終えた。 こうやって打ちながら思うことはトイレの中で最後を読まなくてよかったな。だ。 後半のあるところから、目じりを流れるものが止まらないのである。二、三日前に「最近涙を流してないな」と思っていたのだったが目が冬眠にはいるくらい仕事したので、そんなことを思うのもしばらくはないだろう。 なんで泣いたかと聞かれたときの表現ができないのであるが、一つ言えるのは、自分では離れたり、なくなってしまったと思っていたことは、しまっていただけなのだ。だな。 布団の中で天井を隠すように広げた文章よりも、ただ思い出し泣きをしていたんだと思った。
2005.01.17
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右の男は金のネックレスを持っている。 左の男はロープを持ってる。 二人の行くてに大きく開いた谷が現れた。うまくロープを向こうの大木にからませて、ネックレスをした男を先に渡らせる。 ようやく長雨が上がってホッとしたものの、食料がなくなって、へたり込んだ二人の前にあるやぶがガサゴソとゆれました。男はこちらが風下だということを幸運に思い、ロープで円を作りました。ネックレスを持った男はただ音を出さないように気をつけているだけだ。 ウリ坊でした。次の瞬間──。ブギー、ブギー。みごとひっとらえた。 はぐれたのであろうイノシシの子を前にして、二人はよだれを垂らした。 さて、火がない。そのへんの木は雨にやられて湿っている。 どうしたものかとネックレスをなでていると、隣の男が立ち上がり、木にロープをからめて擦りだした。 長い時間ウンコをしてきて、ネックレスをチャラチャラさせて戻ってくると煙草ほどの煙が上がっていた。 丸焼きにして食っても半分以上は残った。ロープを巧みに編んで明日からの食料となる肉を背中に背負った。 最後に残った足の肉は少し匂いがきつくなっていた。なので、食うのをためらって歩き続けているうちにようやく森から脱出できた。遠くに海が見えた。小さな町もある。 肉を捨て、遠くに見える町まで二人で走った。 ロープを持った男は外で待っていた。一文無しの二人が銭をつくるには金のネックレスを売るよりほかなかった。 しばし時間がたって換金所を除いてみると、いない。すぐに金のネックレスを売りに来なかったとカウンター向こうの老人に聞いてみると、すでに換金したあとだということが分かった。どこに行ったかと尋ねると、奥のほうに指を差した。トイレが使用中の表示になっていた。 やつのは長いことは知っていた。しかし、あんまりだった。さっき入港してきた船が出港の汽笛を鳴らした。 奴が入っているトイレから隙間風が吹くのを感じた。 ふいに老人が言ってきた。また、指を差しながらだ。あの人は乗船賃はいくらだということを聞いてきたとのことだ。強い隙間風が吹くのと、船が港を離れるのが同時だった。 あっと気付いて外に出た。裏に回るとトイレの窓が大きくあけられたままだった。まさか……。やられた。 遠めで船が離れていくのを目にして走り出した。走ってきた勢いをそのまま活かしてロープを船にむかって投げた。ギリギリだったが届いた。ドボンと海に入ってロープをつたって船に乗り込んだ。探した。いない。まさか、あの老人にチップを渡してのフェイクだったのか。 ふー。肉ばかり食ってたおかげで難産を経験した男のその首にはネックレスはなかった。換金所のトイレの窓を全開にして出てきた男に老人は注意をしてから、お連れさんは船着場のほうへ走っていったことを伝えた。
2005.01.16
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小学五年生の息子は、これといって成績が良いわけではない。スポーツ万能でもなければ、他人より秀でた特技を持っているわけでもない。母親として、このことは大問題だ。 南米に『ある能力者』がいるという話を聞いて、ぜひとも逢ってみたくなった。ある能力とは、人間の持っている『器(うつわ)』を知ることができるというものであった。 一人の親として、やきもきしていたときに、朗報が。というより奇跡に近い。神のおつげとでもいうべき必然。ある能力者といわれる女性が日本に来ている。ということだった。 細かい情報を手に入れ、さっそくその女性が滞在中のホテルへと息子をつれて向かうことになった。 ロビーに入った瞬間から、空気が違った。息子はゲームボーイの画面に夢中であった。 フロントの男性に「ある能力者に会いに来たのだ」と伝えると、男の怖気づいた目線が私の後ろに向けられている。黒服の大柄な黒人の男が三人後ろに立っていたのだった。 気付いた瞬間、私は取り乱していた。なぜかカウンターの呼び鈴を連射してしまっていた。ハッと我に返り、息子の心配をし、また後ろを向いた。そこには毛のない黒い頭が三つがあった。息子のゲームボーイに興味を示しているらしい。 なんとなく、気持ちが和らいだ。視線を上げた息子がニッコリと三人に微笑んだからだ。私は不思議と懐かしい気持ちになっていた。 三人に見つめられて緊張でもしたのか、液晶にゲームオーバーの文字が流れてくる。目の前の黒服三人が一同に立ち上がる。真ん中の男がカタコトで「ウエヘ、マイリマス」といった。フロントに振り返ると、さっきよりも細身に見えてしまう男が無言でうなずいた。 二十階につくうちに、息子がゲームを再開しようとすると、「ガマン」と狭い空間でも圧迫感のない声で黒服に制されていた。 黒服三人がエレベーターに残ったまま、私たちは廊下に降りた。「ありがと」息子が言った。三人は陽気に歯をむき出し、扉が閉まるまで手を振ってくれていた。 目的の部屋が何号室かも何も告げられないのに、私と息子はドアにノックをしていた。 入ると野菜の匂いがした。 女性が二人いた。外人だろうか、日本人だろうか、区別がつかなかった。ただ、ふたりが双子だということはわかった。 突然、ゴゴンと頭に衝撃が走った。 気付いたときは、私はロビーの喫茶で、レモンティーをすすっていた。黒服の一人がゲームボーイに夢中になっていた。息子が熱心に手ほどきをしている。 おかしな事が起こっていることはわかるが、そのことを考えようというふうにならない。レモンティーがぬるくなっているけど、味が落ちていないことだけは感じた。一気に飲みほした。白いティーカップで全ての視界が消えた。あまりの美味しさに、そこに引っ付いたレモンからしたたり落ちる残りの数滴を待ち構えてしまっていた。私の視界にはカップの中しか見えていない。なのに、頭の中にある記憶というのもおかしいほど鮮明なものが見えてきた。 さっきの双子だ。二人とも車椅子に座っている。膝から下がない。ビー玉のような目が四つこちらを向いている。「──なんだって」急に息子が話しかけてきた。「え?」もう、黒服はいなかった。頭の中の双子も消えていた。息子の声がよく、聞き取れなかった。「だから、弁償だって」 今度ははっきり聞こえた。ウエイトレスが申し分けそうな顔をして立っていた。その視線を追って、はじめてテーブルの上で割れたティーカップに気付いた。そして、レモンの輪切りだけが手に握られていた。 どうやら、器(うつわ)そのものよりも、それに何がのっているかが気になっていたらしい。大事にしまっておけば割れる恐れはない。しかし、それでは役目が何であるかがわからない。では、本来の役目とは何か。作り手は願いを込めるが、使い手(客)は欲求にすぎない。では、間に挟まれた器そのものは何なのだ。 まだ、ただの粘土で、馬糞と並べると区別がつかない。 でも、いい雰囲気の土であるかどうかは、なんとなく分かるもの。一度、自分をしっかり焼いてみてからでないと。同じ粘土なのだから、それからでないと。
2005.01.12
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今日、文化放送で『伊東四郎、吉田照美オヤジパッション』をひさしぶりに聞いた。明日は『ゆうじと雅子のガバッといただきベスト30』を!って、まだやってるのかな?
2005.01.08
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かたつむりは野菜を食べて成長する。その野菜の中に殻が大きくなる為の成分が入っているのだろうか、それとも食べたものを体内で化学反応か何かさせて、殻の成長を促しているのだろうか。 私が思うに(医学的、科学的根拠はないが)、爪が伸びるのは排泄の一種だ。 カルシウムなどを摂取すると骨が丈夫になるとか、──が成長するだとか言われる。特に祖父母にはよく言われるだろう。けれども遺伝的な問題で背の低い者は限界を超えて成長することは出来ないと思う。それは、猿が進化して人間になると言っていることと同じで、それを何年もの間観察し続けていても人間に変化しないことと同じだ。 逆に、人間が生まれて猿に育てさせれば猿として生きれるだろう。あの狼のガルムとキマイラ?のように。 話を戻してみる。成長期、人間の骨は吸収力に満ち溢れている。と、考えると成長期が終わってしまった人間は吸収することができなくなる。 できなくなると、どうなるか。──オーバーフロー。 溢れ出るのではないだろうか。 もともと、成長期のときでも小魚等を食った分だけ骨が成長するわけではない。カルシウムを吸収する器官が骨に成分を送って骨太にするのは分かる。けれども、吸収する以上にカルシウムとして胃で分別されているなら余る物もあるはずで、余ったら爪になったり髪の毛になったりするのではないだろうかと思う。そんなことはないか? 本当に小魚を食べて、牛乳を飲むと骨が丈夫になるのだろうか。土佐犬は何を食べてあんなに強くなるのだろう。 マウンテンゴリラは夜な夜などこかにカルシウムを求めに行っているのだろう。だから、あんなにごっつい。 動物園で生まれたゾウは、どうなんだ。園芸飼育委員会みたいな人が夜な夜なカルシウムを与えているのだろうか。実は骨の太さが人間くらいで、肉だけであれほどの体を支えているのだろう。 骨が本当は何で成長しているのか知りたい。でも、肉はどこまでも成長というか細胞が増殖し続けることは知っている。 でも、それを知ってしまうと、ますます家庭の会話や祖父母との団欒の時間が少なくなってしまうかも。事実よりも曖昧で意味不明なままのことでちょうどいいこともある。
2005.01.07
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そろそろ学生さんは「もう、卒業だ」という気分になるころだと思います。クリスマスが終わり、年が明け、やがて三月を迎える。 すると、決まりきった曲が、ラジオ等から耳に入ってくることと思います。ユーミン、尾崎。これらもいいけど、私のお薦めは、電気グルーヴ『マーチ』です。たしか、アルバム『カラテカ』か『ufo』に入っているはずです。 地元ラジオにリクエストしてみてください。隠れた名曲です。
2005.01.05
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大きな水溜りを前にして香子(かおるこ)は少し後ずさった。そして……。 新年を迎えたばかり、三が日も過ぎないうちに友人の桜子(さくらこ)と緑子(みどりこ)が今年三回目となる顔を見せに来た。というよりも、二人は彼氏もちだが互いの彼も田舎に帰っているから、一人でいる時間が退屈で仕方ないからなのだろう。香子は一人に慣れてしまっているというのに。 あと四年で三十路という歳になると玄関前で「かおるこちゃーん」とよばれることもない。メールがくるだけだ。あと5分で着くから。と。しかも、一方的にだ。 まだ、パジャマなの?着くなり、こうだ。桜子も緑子も小学生のときから中、高と十二年間同じく過ごしてきた。それなのに、昼前にわざわざ着替える必要はない。──あれ。 緑子の車の中に誰か一人だけ乗っている。香子は一瞬、血の気が引いて自分の顔が真っ青になるのが分かった。が、一呼吸おいて、わずかながら脳に酸素が回ると一気に背中まで汗ばむほどに赤面していた。中学に入ってすぐあたりのころまで好きだった男子がそこにいたのだった。 成人式の日に逢って以来だ。 クスクスと微笑んでいる。パジャマ姿で髪の毛もはねている。最悪ー。心の中で香子は奥歯をかみ締めた。来るんだったらそう言ってよねー。などと、今は女二人に向かって暴言をはけない。車から降りる彼を見て思った。二十歳のときから背も顔もあまり変わってない。──私はどう写るのかな。 あの成人式のときは自分に付き合っている人がいたこともあって、何とも思わなかったし、好きだったことも昔のことだったから今ドキドキしていることが不思議なくらいだった。 ふいに桜子が言った。「あ!そういえば」手をポンとたたいて。その桜子の表情は何か子悪魔がかっていた。数時間後には神がかっていた、と思うのだが。 後ろのドアから彼が降りるなり、女二人はじゃあね。と手を振って、車をバックさせ、切り返して、ドライブにいれたままアクセルを踏み出して去っていってしまった。それを男女二人で見送った。無言のままで。 とにかく、入ろうか。綺麗な部屋へ案内した。香子は自分の部屋の散らかりを見せることができないため、姉の部屋に通したのだった。「ちょっと、着替えてくる」偽ったおかげで着替えはスムーズにすることができた。つい、コーディネートに力が入って時間がかかってしまう。ブブーン、ブブーン。と後ろで音が鳴った。マナーモードにしてあったんだ。テーブルの上のケータイを手に取り、きたメールを読む。『カオル子さんの顔を見たかったんだって。あと、帰りは送ってってねぇ』 桜子のやつー。そんなことを思いながらニンマリとした顔で憎しみをこめる者はいない。このときの香子の顔と心の中のセリフも例外ではない。 相手は昔と変わらず、無口だった。でも、アドレスと番号は聞けた。互いの個人情報の一部を交換したのだ。 歩いて5分のところにある互いの実家。山形に職場を持つ彼と仙台に住む香子の距離が、チャリで一分。というふうに縮まった気がした。だからといって急に、また好きになったというわけではない。ただ、懐かしい思い出話をしているうちに子供のころの記憶が蘇っただけなのである。彼を好きだったころの気持ちにもどっただけなのである。 帰り道。悩んでオシャレをしたわりにはダッフルコートにジーンズ、と、けっこうラフな格好で香子は通学路でもあった道を、ケータイのバイブレーションをわずかに期待して家に向かうと、さっきは避けて通った水溜りがあった。 避けて通ろうとした。したのに、足を止めた。そして後ずさった。アキレス腱を軽く伸ばしてから助走をつけてジャンプした。3メートル少々の水溜り。これでも昔は陸上部で幅跳びの選手だったのだ。みごと着地。 振り向くと、水溜りの端から50センチは余計に飛んでいる。ふんふん。と鼻を鳴らすと水溜りのちょうど真ん中の深いところに何かが浮いている。みにおぼえのある物だ。 白いビーズのストラップ。 ケータイだ! 元カレから貰ったストラップだけが浮いていた。余計なことをした。ジャンプしたはずみで落としたのだろう。 古いケータイのことより、不器用な手作りストラップよりも、今さっき登録したばかりの明日には山形に帰ってしまう人のメアドと番号のことを一番悔やんだ。 新年早々……。 何か棒かなんか落ちてないかな。雪が解けて喜んでいたら……。そう、辺りをキョロキョロしていると、ふと、待ち受け画面をさっき家まで送った男の顔にしていた。と、錯覚をした。 いや、待ち受けにはしていないが実物はそこにいた。 旧型のマーチのウインドウが開いた。「姉さんに叱られちゃって。女の子に送ってもらったままにするなんてって。送り返して来いって変な日本語でさ。」 いや、いや。私、香子(カオルコ)の今年の運勢はまだまだ決まってはいませんよ。 訳を話すと、そのまま車でおそろいの電話とストラップ。にんまり。ケータイはお金で買えるけど──。二人の女神に感謝ぁぁー。
2005.01.04
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『電話機』というとコードレスホンもしくは携帯電話を思い浮かべる。 ところが『昭和中期の電話機』というと黒電話や赤い公衆電話あたりが思い出される。テレホンカードがコンビニにあたりまえに並ぶ前のころだ。 『母体』といえば妊婦の体である。と思う。 その母体から子が生まれるとへその緒がつながっていて、ちょうど黒電話の体勢である。 母と子が、まだ一つの状態。実際に母が、そこで死ねば、その子は一人では生きていけない。受話器だけあっても、ただ「あるだけ」だ。 逆に受話器がなくなっても、かけているほうは呼びかけることだけはできる。しかし、話すことはできない。 もし、自分の子供が死んだら話すことはできない。子を失った親は言葉をも失ってしまう。 近年ではケータイは当たり前。家のコードレスホンすらほとんど使わない。なんか、家庭環境と似ている。 コードレスホンは、へその緒を切っても愛の絆という電波でつながっているように、子機は親機を必要としている。 ところが携帯電話ではそれぞれ一個人が持っているもの。それによってスケジュールは個人の都合に融通がつくようになる。学校、塾、会社、遊び、これらが優先で家族の時間は「不必要で迷惑な道路工事をするのは年末調整のため」のように、家族の各々が不規則にとる時間調節のようなものになっている気がする。 だから、結局何が言いたいかといえば、こういうことだ。 その昔は、動物の生活にヒントを得て生きてきた我々は、機械の発明の流れに組み込まれていくようにしてサイボーグ的に動いている。ということだ。 しかし、それはそれ。良し悪しで区別する気はない。 ただ、昔ほど飛びぬけた存在がいないのは電化製品がどのメーカーもほぼ一線に並んでいるからではないかと思う。 織田信長、秀吉、ライオン、ヒクソングレイシー、太陽、ベーブルース。もっともっといる。 人は死んで歴史にならないと分からない。エジソン、ピカソ。 いや、他人にあまり興味がないだけかな。 表情を無くしたら、喜ぶ必要もないし、涙を流すこともない。機械になってしまったら。 だから、豊かな心をdnaかなんかで機械を柔らかく人口の一人になれるような存在があったらいいなと思う。 あ、あるな。いる。 いるいる。 ポコメタンが。
2005.01.03
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まだレンタル中だ。レンタル開始から一ヶ月もたつのに。 貸し出し中の空ケースを睨みながらそう思った。 俺が新作のコーナーから立ち去れないでいると、同年代と思える女性がピクニックでもしているかのような足取りで様々なジャンルの棚を渡り歩いている。ドライブインでお土産を買うおばさんのようでもある。 その女がこっちに来たり、またどこかへ行ったりとしている。正月休みにと何本か選んでいるのだろう。 俺も。と思い、新作をあきらめてミステリーの一つでもかりていこうかと新作コーナーから一歩踏み出ようとしたとき、変な角度から黒いものが自分と交差したような気がした。いつものこの店に比べると今日は今年初の積雪ということもあってお客の数が極端に少ない。だから黒いものがなんだったかすぐにわかった。せわしなく歩くあの女だ。すぐ背後に立たれた気がして一瞬、海水浴中にクラゲにバックポジションをとられたようなホイミスラミチックパーティーな気分になった。 ばっ!と、振り返りたかったが、さすがに、できなかった。カニのように横歩きでしばらく距離をとって横目でチラリといくか。それとも、店内の暑さに耐え切れないふりをしてコートを豪快に脱いで脅かしておいて追っ払おうか。そんな手立てを考えていると、急にナメクジに塩を振ったかのように背後にあった気配が消えた。しかし、すぐには振り返らず、今いる新作の裏側にまわってビデオケースが並ぶ隙間から今いた場所を確認してみた。 おかしい。 そこにはだれもいない。 そういえば、あのとき背後をとられたと感じた瞬間は足音が聞こえなかった。特に怖いとは思わなかった。そんなとき、ふと思い出した。『利休』を借りようと思っていたんだ。たしか、ミフネがでている映画のはずだ。 ということで、この正月、お薦め映画を。『12人の優しい日本人』『青春デンデケデケデケ』『僕らの七日間戦争』『ザ・中学教師』『バタリアン』《最近、この映画の夢を見ました。タールマン出現の場面にでくわしたと思ったんですが彼(タールマン)がなかなか出現してこない。そうこうしているうちに別な世界に飛んでしまった》 利休を探しに歴史のコーナーにいくと、それがなかった。以前来たときはあったはず。 もしや、あの女が俺に利休を見せまいとしてなんらかの霊的手段をこうじたのだろうか。肩甲骨に走ったあの感じは何だったのだ。あきらめて『キルビル2』『go』『ミスティック リバー』を借りてきた。 今思うと、利休よりもバタリアンを探せばよかった。 あ、あの女は俺にバタリアンを思い出させてくれようとしての、なんらかのメッセージだったのかもしれない。
2004.12.29
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重機の運転をしていると『ニッポン放送』『文化放送』など、中央の放送も受信できる。 聞くのはもっぱらAMで、東北放送だが、最近、嬉しいことに『やるマン』こと『吉田照美のやる気マンマン』を聞く事ができた。ヨウカンマンで太田が無礼なことをするのかな、やかんちゃんが下ネタ炸裂するのかな、と、考えているうちにあっという間に4時になってしまっている。 ただ、『やる気大学』がなくなったのでしょうか、小俣のおばちゃんの姪の声が聞けないのは非常に残念です。あと、『山城シンゴの俺に言わせろ』もなくなったのかー!?だとしたら非常に残念。寺ちゃんのハト真似も聞きたい。 ニッポン放送の四時からのお楽しみといえば『ツルコウの噂のゴールデンアワー』。「あほあほあほ」とツルコウ師匠。「どして?どして?あたし、何か変な事言いましたぁ?」と、三十路三姉妹(だっけ?)のミワコ様。 もっと、古いのは文化放送午前中の楽しみだった『えのきどいちろう意気揚々』。これが終わったときのショックはでかかったー。水谷かなアナウンサーとコンビで放送していたエノキドさん。 CMが終わると「えのきどいちろう意気揚々、やるだけのことは一応やってまーす」と録音した台詞が流れるのに合わせて一緒に述べたりしたものです。 あと、あれ、『松崎茂の陽気に元気』あれは元気でますねー。聞くと。 テリー伊藤の『ダジャレなぞなぞ』。あったなー。では、ここで問題です。あくまでダジャレです。 問題 女優の中で一番学校に近い家に住んでいる人は誰?(事実とは異なります。あくまで、ダジャレです) ヒント 最近は顔を出さない。苗字は二文字。名前の最後は『子』がつく。微妙に痩せ型で、ほくろの位置が印象的。 誰も解く気にならんでしょうが。
2004.12.26
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学校に一人はいる。シーズン通して半袖短パンですごす子供の名前はツトム君です。ポコメタンは寒がりなので、見ているだけでも身震いしてしまいます。あっと、あんまり震えると、頭のキャップがカタカタなって外れちゃったら大変です。でも、明日から冬休み。同時にクリスマスイブでもあります。 ツトム君がアパートに帰ると首にぶら下げてある鍵でドアを開けます。中に入ると『しーん』としていて、耳鳴りがなっているような気がします。 ツトム君と一緒にランドセルもお休みに入ります。このランドセルは、ツトム君よりも先輩です。、黒の塗装が落ちて、しわしわで、なんだかまるで、ゾウさんみたいです。 幼稚園のときのことでした。ツトム君は今でも覚えています。本気のお母さんの顔を。年末クリスマスバザーと題うった、近くのフリーマーケットに行ったときのことでした。「500円しか持っていないんです」「えー……。1500円でも、安いと思うけどなあ」「そこをどうか。なんとか、おねがいします」ツトム君のお母さんが極端に値切っています。「うーん」お店をだしている人は、悩みます。けれども、ツトム君とお母さんの着る服を見て、ここまで頑張って値切る気持ちが分かってきました。この冬場にフリーマーケットにも並ばないような服をまとっているからです。「負けたよ。じゃあ、500円でいいよ。かなり古いしね」「本当ですか。ありがとうございます」そう言ってお母さんはポケットから千円札を出して支払おうとしたとき、あっと思いました。反射的にお店の男の人の顔を見てしまいました。『500円しか持っていない』と、言っていたのでした。お母さんは顔から火が出る思いで、幼稚園児のツトム君の手を引っ張り、その場から離れようとしました。恥ずかしさのあまり、これも反射的に動いてしまっていたのでした。 ところが、「お釣りならあるから、気にしなくてもいいよ」と、店の人は足早に去ろうとする親子の背中に言ったのです。 動きが止まった母親をなんで泣いてるの?と、そんな目で見るツトム君は「あのゾウさんのカバン買わないの?」と聞きました。 お母さんは情けなかったのでした。「ぼうや、手を広げてごらん」 お店のおじさんの声に反応し、ツトム君は首だけ振り向いて母親の手を離し、腕を広げました。背中に背負ったのはゾウさんのカバンでした。「嘘をついて、すみませんでした」千円を渡し、「あの、おつりはいいですから。それでも、500円、まけてもらっていますし」 深々と頭を下げて立ち去ろうとする親子に、「ちょっと待った」そう言って自分の店に駆け足で戻ると商品が入ったダンボールをゴソゴソとやっています。 ぽかーん。と、二人は見ていると「これ、寒いから靴下をオマケするよ。ちなみに、これは新品だよ」いいながらツトム君が背負ったランドセルに入れてくれました。親子揃って素足にかわいそうと思ったのでしょう。「あと、これ、おつり」「いえ、おつりはいりません。靴下までいただいてしまって」お母さんは最後まで断って、結局受け取りませんでした。ツトム君はその時の事を今でも覚えています。値切るときよりもおつりを断るときのほうがすごいパワーだった事を。 小学三年生になると、自分の家が貧乏なのはよくわかっています。でも、ツトム君はお母さんと二人暮らしのこの生活は嫌いではありません。お母さんが「実家」といっている伯父さんの家に住んでいたとき、お母さんの笑顔を見たことがなかったからです。いろいろある。ということはなんとなく分かっていました。 クリスマスになると、いつもフリーマーケットの話になります。だから、あのときのことは忘れません。 ツトム君は通信簿をテーブルの上に置いて五時半になるのを待っています。時計を振ってみてもお母さんは帰ってきません。12月24日5時45分。そうなっていても、ツトム君にとってはお母さんが帰ってきた時が本当の5時半なのです。 ようやく──になりました。時計は5時50分になっていました。「ごめん。遅くなって。これ、買ってたから」「ケーキ?」「小さいけどね」 わーい。と駆け寄って箱をあけます。「おいしそう。でも、明日食べるの?」「うーん……。そうだ、通信簿を見てから決めようか」 びっくりしたお母さんの表情を見て、ツトム君は皿を二枚とホークを準備しました。 「ツトム、すごいわね。こんなにアップするなんて。お母さんのケーキも食べていいわよ」 でも、仲良く二人で食べたのでした。 ならべた布団の中──。二人で、あのクリスマスバザーの話をしました。懐かしいねなど言いながらツトム君は眠っていました。お母さんは思いました。結局、プレゼントのことは一言も言わなかったわ。 そうだ。そういえば。お母さんはタンスを引っぱり、靴下を出しました。あのときオマケにもらった靴下は当時のツトムには大きすぎたのでした。今、思い出してだしてみるとツトムのサイズぐらいです。お母さんは眠る息子の枕元にそっと、その靴下を置きました。「本当は靴下に何か入れてあげるのがプレゼントなんだけどね」そう、心の中でつぶやいて自分も布団の中に入りました。 朝、目を覚ますと、脇でまだツトム君が寝ています。枕もとの時計を見ると六時。お母さんはいつもより少し早く置きました。あれ、と思いました。ない。ツトム君の枕元に置いていたはずの靴下が。昨夜、タンスから出したと思ったけど。あれは夢だったのかと静かに起き上がり、引き出しをあけました。ここにはやっぱりない。「お母さん、健康に育ててくれてありがとう」 振り返ると、靴下をはいたツトムが眠そうな顔で立っていました。 その様子をポコメタンはアパートの窓からのぞいていました。ツトム君にとっては物のプレゼントではなく、日々、育ててくれることをそう思っているのだな。それに、母親がその健康でいてくれる息子の姿を贈り物と思っているのだとしたら、これは親子二人の心のプレゼント交換なのかな。 ポコメタンは郵便受けの中にこっそりポコメタンストラップをペアで入れておきました。
2004.12.24
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「ナーリンの彼ってまだ見たことないな。そういえば」「えー。見なくていいよ。普通だから」「普通?どーゆーふうに?」「普通は……。でも、ちょっと変かな」「変なんだ」 二人の前にフリルのついたスカートがとても似合わないウエイトレスが現れた。「二名様、こちらへどーぞ」 その案内、テンション低っ。 案内されたのは禁煙席の四人掛けの席だった。ナーリンはラザニアに決めていた。友達のコートちゃんは少々悩んでいる。ハンバーグにチーズがのってるやつを注文するくせに。「で、どーゆー風に変なの?」コートちゃんはメニューと睨めっこしながら聞いてきた。 でも、それには答えず「呼ぶよ。決まったの?」と、呼び鈴ベル(あの、押すやつの名前がわからん)に手を伸ばした。「あー。待って」もう遅い。厨房のほうで鳴っている。 さっきと違うウエイトレスがきた。女の目から見て、まあまあカワイイと思う。「ご注文を伺ってもよろしかったでしょうか?」「私、ラザニア」 は?という疑問顔でナーリンは見られた。ウエイトレスはメニューを開いて、ああ、と納得したようにしてから「かしこまりました。リゾットではなく、ラザニアでよろしかったでしょうか?」といった。ナーリンはなぜか、カチンときたのでシカトしてしまった。何でリゾットがでてくるんだよ。かんけーねーべ。つい、心の中真で、訛りを叫んでしまった。 コートちゃんは、やっぱり例によってチーズハンバーグを指差して、これ、と言った。ここのみたいにチーズがのっているんじゃなくて、見た目は普通のハンバーグで真ん中から切るとチーズがドロッと出でくるんっだたら頼んでもいいんだけど。「ご注文のほうは以上でよろしっかったでしょうか?」 コートちゃんが答えてくれる。ウエイトレスが引き上げていく姿を見てナーリンはイラつく理由がわかった。でも、今の制服は似合っている。 コートちゃんはやっぱり聞いてきた。「どこが変かっていうと……、そうそう、元カノの、さらにその元カレの話をすることかな」と、答える。「えー。なんか、複雑。で、どんな?」「あのね、えーと。私の彼が、その元カノと付き合ってたのはすごく短い間だったんだって。それに、その女の人と付き合ってる感覚も自分にはなっかったんだけど、知り合って一週間くらいして『別れよう』って言われたんだって」「え──!?なんで?」「でね、言われて初めて『付き合ってたのか』って思ったらしいの。しかも、その人の名前も知らなかったんっだてよ。ニックネームみたいなので『いのさん』て呼んでたらしくって個人データは一切知らないっだって」「ふーん」そーかなぁ?と、コートちゃんの顔は言っている。「嘘は絶対に言わない人だから、私の彼って」むんっ!て感じで言い返してやった。そして続けて、「けど、けどね、その彼女のことは全然知らないくせに、その女の人の元の彼氏のことはやけに詳しく知っているの。面識なんかないらしいんだけど」「おかしいね。なんで?」「彼の元カノにその男の話ばっかリ聞かされてたんだって、貧乏学生でレシートで単語帳をつくった話とか、いとこの子供にレシートで折鶴を折ってあげた話とか、そのいとこの弟にはレシートを丸めてボールを作ってあげたけど、そのままゴミ箱に捨てられた話、いっぱいあるんだけど、」そこまで言って、ガラガラと音が近づいてきていた。 ウエイトレス──がステンレス製のカートを押してきたのだ。席に案内をした、ウエイトレスだ。 かなり低い声で、「こちら、リゾットになります」そう、ウエイトレスが言うと、ナーリンは黙って小さく手を挙げた。ハンバーグです。とも言わずに品物を置くと、行ってしまった。ナーリンはメニューを手に取るとラザニアが消えていたことを確認した。だからって、なんでリゾット?シカトしたから?恥をかかせないように気を使ったのか?だったら絶対にパスタのほうが近い気がする。つーか、あんときハッキリ言えよな。 しかし、今の低テンションのウエイトレスにはイライラしなっかた。 コートちゃんが言ってきた。「~で、よろしかったでしょうか?ってさ、宮城県のファミレスでだけしかいわないのかな」「わからない。でも、なんかイラつかない?あの言い方」「うーん。なんか変だよね」 彼の元カノにしてみれば元カレの話ばっかりしてたってことは、その元カレがよろしかったって事になるのだろうか。「ナーリンの彼の変なとこって、結局は何?」「元カノと合うと、マシンガンをぶっ放したように、その元カレの話を聞かされた話を楽しそうに私に聞かせるところ」「ふーん。ナーリン、そのラザニア一口もらっても、よろかったでしょうか?」悩むふりして、実は笑いを堪えてたな。
2004.12.22
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ボールを投げ出して、体育館を出て行った。バッシュをはいたままだった。買ったばかりだったのに。明日からは通学用シューズになってしまう。 昨日までのスパイクよりはましか。 うちのバァちゃんは、学校で使うから。といえば何でも買ってくれる。四週間前は卓球のラケット。二週間前は野球のミットに、スパイク。一昨日の日曜日にバッシュを買ってもらった。 オレオレ詐欺── 一緒に住んでいるからそうはならないと思う。まだ中学生だし。罰せられないでしょうし。「クラブで使うから」チラシをみせてお小遣いをもらう。「サンキュー」 買い揃えるのは楽しいけど、せっかく買っても玉拾いではラケットもミットもバッシュも使えない。すぐにやめちゃう。 僕の周りは嘘をついて家族からお金を貰っている。でも僕は本当に必要だと思うから、クラブを退部して、違う部に移っているからお金を貰っている。悪くはない。 中学のときはこう思っていた。二十歳になった今でも嘘をついてお金を貰っていない。「バァちゃん、乗っけていくよ。二人分、必要なんだろ?計算したよ。父さん、母さん、妹のマイが生きていくためには」ホームセンターのチラシを見せた。最後は僕がお金を出すよ。「この練炭でいいよな」 二人で死ねば、家の借金が返せる。生命保険の書類を調べた。「じゃあ、火をつけるよ」閉め切った車にひどい臭いが充満する。気が遠くなってくる。「バァちゃん?……。俺、やっぱりやめるよ。苦しくなってきた」 結局は中途半端でやめて車から降りた。「やっぱり、生きるから。だから、僕が生きる分の金が必要になるから、遺言状かいてよ」 「これに」と、紙とペンを渡すとすぐに書かずに、手招きしてきた?耳を近づける。「とっくに準備しておいたよ」ささやかれた。さされていた。 細長い包丁。「あたしの保険金がおりてもお墓を作ったらなくなるよ」 必要な分を無理矢理貰ってしまった。結局はお墓に入れてもらった。 僕の保険金の残りは生き残ったばあちゃんが『オレオレ詐欺』にあって全部振り込んでしまったのだそうだ。 お墓の中にいるのに。男の子の声で孫だ、って聞いてうれしかったのだろう。僕の葬儀終わったばかりなのに。 自分の手で殺した孫なのに、信じていたの?憎んでいたの?
2004.12.19
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社員旅行はラスベガス──。年に二度のボーナスと新年度には昇給。 ──を辞めた。 母親はなんて思ったろう。三年間、事務員として勤めた会社を退職した。転職すると決めたからだ。 なんで沖縄で漫才師になろうと思ったのだろう。今、そのときの衝動を思い出せない。船の上──一人でタイタニックのお決まりのシーンをしていたとき強い突風が吹いて慌ててデッキに転がり込んだ。自分は生きている。と、そう思うように、仙台でのあの不自由のない暮らしよりも、この沖縄での私のほうが生きていると実感できる。体が海よりも船の上を選んだように私は沖縄に転がり込んでいた。 『ポン』というのがこっちでの名前だ。本名ではないけれど、親方がそう呼ぶから返事をしたり振り向いたりしている。 親方とは陶芸の先生のことだ。 漫才をするのになぜ沖縄に来たのだろう。相方すらみつけられない。ネタを考えてくれるはずの──が。 何もないところに、当てにならない誰かを求めて東北からこの南の島まできたのは度胸か、それともバカ?地元ではトップクラスの高校を卒業したのだけれど。 とにかく──と、お笑いを見るのが(み・る・の・が)好きな私は何かしようと考えた。 一人で頑張ってる人ってけっこういるな。テレビで女芸人が一人で会場を沸かせているのを見た。だが、感心したからといってネタが浮かんでくるものではない。那覇市に借りた16畳の空間でレンタルビデオを見ても一人無邪気に笑うだけだ。はたから見れば『寂しく』なのかもしれない。 300万円ある。という余裕が切羽詰った行動をとらせないのか。 半年で貯金が10分のいち1になった。30万円。夢を見てるのかと思った。バイトしなきゃ。とは思わなかった。ネタを一つでも作らなきゃと思ってしまっていた。 日課の散歩──。遠くまで来ていた。そう気付いたとき、後ろから声がした。「なんだ!」 この家の主らしい。いきなり怒鳴られた。 無言でペコリと頭を下げた。が相手はチッと舌打ちをして白いのが混じった髭面を動かしてきた。「この作業場に何のようだよ」通りかかった先の、誰もいない家をのぞきこんでいれば言われても当たり前の言葉だ。「すみません。つい……」「つい?つい、なんだ!人の家を覗いて、物色しようとしたのか?」「いえ……」何も言い返せなかった。物色するつもりなどないけど、言い訳はしたくなかった。徐々に目線をまっすぐ見れなくなってしまっていく。「まあ、いい。入りな」!?って、入っていいのかよ。 何かの『あれ』がハマッた感じがした。 フィーリング。 入りたい。し、入るつもりになった。けれども嘘をついた。なぜか、とっさに嘘をついて入った。男の後姿は白髪交じりの長い髪に濃紺のダボダボの上下。それに向かって言った。「アルバイト……、雇ってもらおうと思って」真っ赤な嘘だが、男は鈍そうだから。「へー」こっちを振り向き、後頭部の髪を撫でながら私のつま先から脳天までをじっくり見てから「ここが何屋だか分かってたのかい」言ってきた。 嘘がばれたのではなく、その男の顔は意外と感心したような顔だった。それが逆に私の良心を痛めた。「すみません。嘘です。ここが何屋さんかも分からないし、アルバイト……と言ったのも、ただのでまかせです」「なんだよ。ねーちゃん。訳が分からないよ、なんだかあれだな、いまどきの漫才師みたいだな」 どんな比喩やねん。とツッこむ前に大粒の涙を垂らしながら立っていられなくなっていた。 しゃがみこんだ私に「おい、おい。どうした」と言って、男のほうも泣きそうな顔になった。「とにかく入れよ。お茶でも出すから。とっておきのハブ酒があるんだ」私はもっと泣いた。声を出してもっと泣いた。ハブ酒はお茶じゃないよー。えーん。心の中で嬉し泣きだった。単に女の涙を見てうろたえただけなのだろうが。 声を出して泣かれたから男は慌てて私の手を引いて戸を閉めた。中には誰もいない。皿が沢山ある。魔よけのシーサーも。粘土が板の上に──。生まれて初めて轆轤(ろくろ)を目にした。「元々といえば、俺が戸を半分開けっ放しで出て行ったのが悪かったんだな」手を合掌させて「このとおりだ」「ぷっ」私は思わずふきだした。 ほっ。とした男の表情。「実は私……」正直にきりだした。「漫才師を目指しているんです」女優並みの切り替えし。のつもり。「え、あ?」「だから、さっき言われたのが嬉しくて」──漫才師みたいだ──。「で、センスのいい相方候補をみつけ……同時に二つ嬉しかったんです」 男は顔をしかめている。腕を組みなおす。そして思い出したように。あっ、と組みなおしたばかりの──をほどいて、ポンとたたく。「これこれ、このウコン茶」戸棚の上段に手を伸ばして。 って、ウコン茶かよ。やっぱりいい。とってもいい。「漫才師になるのが夢なんです」今度は嘘ではないつもり。だから……、「相方になっていただけませんか?」 また眉間にしわを寄せている。「漫才の?俺が?」「はい。おねがいします」もう勢いだ。 ジロジロと私の顔を見てから「もう泣かねえよな」といってから「俺は陶芸家だよ。俺にも夢がある」あっ、だったら。と、また思い出したように言ってきた。そして、それを聞いて、また泣いた。「俺の相方やらねえか?後継者がいねぇ……」「すまん、すまん。嘘、嘘……」また泣いた私に謝ってくる。手を振ってちがう、ちがう。と、震える声で返した。「違います。うれしくて」やっぱり嬉し泣きだった。 フィーリング。 転職に次ぐ転職。しかし、漫才師は履歴に残るのだろうか? たぶん、親方が認めた?から大丈夫だと思う。 よそで、バイトしながら三年──。あ、四年だ。私の皿を買いにくる人が何人かいる。一個、400円──。値切られてもしゃーない。けど、同じ地元からこっちに来た友人が焼くタコヤキも400円。 うーん。親方くらいの『いい味』をだせたらなぁ。 この皿でタコヤキを食べるとタレがいらない。みたいな。 最近、悟った。漫才師のセンス、まるでない。今のもかなりやばい。 さーて仕事。仕事。親方と配達にいく。400円の同じ皿が40枚。たまにはシーサーが焼きたいな。「おい!ポン吉!!早くしろぃ!」 親方のは焼き物よりも人としてのセンスで売れているようだ。と、そんな気がする。私は、そのセンスがないため陶芸のセンスで売っていこう。 なんだか、初めてこの作業場に来たときと感覚が逆になっている気がする。
2004.12.18
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この本の厚みは以前読んだ幻夜(東野圭吾)と同等で、自分としてはかなり重い。 読み始めはちょっと時間がかかっていたが、ちょうど真ん中くらいにきてスラスラと進めるようになりました。後、半分。 それと平行して読んでいた(トイレと風呂用)赤川次郎の三毛猫ホームズは昨日読み終わり、北村薫の師匠と私シリーズを読み始める。そして今からたこ焼きを食いにいきます。ビールと合うんだな。」以外にも。
2004.12.17
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結婚しても掟により、この村では約15年も童貞としてすごすのである。ところが、女の味を知ることが出来るのは男の人口の約半数ていどしかいない。 一生童貞の男は50%。つまり、男として生まれてきた人間の半分が死ぬまで童貞である。しかし、それはご神木のしめ縄に背がとどかないという理由ではない。 逃げ惑う新郎の父は女達の山狩りに捕らわれ──新婦の家へと手足を縛られたまま担ぎ込まれる。 新婦と新郎が並んで待つ家へ入ると、きつく縛られた縄が解かれる。家の中には新郎と、その父。新婦と、その母。の四人だけとなる。そして、その家を山狩りにでた女達、約30人が囲う。鳥以外に獣が住まないこの地だから、それこそ男の一匹も逃がさないぞ。という、かまえである。 こうして結婚の儀式が始まるのである。 順番として、まずその場から新郎が消える。実の母がいる自宅へと帰るのである。早くて、約一ヶ月は実家で待機するのだ。(*注)この村では100パーセント婿養子入りとなる。 すると次の儀式が始まる。性交である。誰と誰が? それは、結婚してから約15年間にして、ついに筆おろしとなる新郎の父と新婦が、だ。仕方がわからない二人に新婦の母が手ほどきを行う。家の周りでは細い煙が囲うように立ち昇っている。手ほどきをする母親はくわえ煙草である。 ご神木の下で男達が吸っていたのと同じ煙草を新婦を抜かした女達全員がこのときばかりは吸っているのである。 この地に生える特殊な煙草は麻薬に近いのものがある。吸うと、性に対する欲求がなえてしまうのである。しかし、依存性は少なく、かるい副作用といえば、吸っている間はひどい脱力感に見舞われる。と、その程度だが精神力の弱いものは歩くこともおっくうになってしまう。 くわえ煙草で手ほどきできるのは孫の顔を見たいと思う女の強い母性本能というか精神力といか。と、一つの欲。普段、常に動物性たんぱく質を取らずに重労働を行う女の『食欲』からである。 この監視、監督下での性行為は少なくとも約一ヶ月間、休まず続けられる。次の月経までだ。赤いものが流れれば延長。流れず、宿した。と母親が判断すれば一月続いた快楽が終わる。新郎の父の役目が終わる。元々といえば普段から役目のない──あるとすれば、自分の子供…。日本風にいうと実際は腹違いの妹か弟にあたる子の世話をするくらいである。子供が多少の歳をとると、煙草を吸う以外にすることはないのである。 この地に伝わる掟──カマキリの習わしが先か民族の掟が先か。村ではカマキリのほうが民族を真似ていると伝えられている。 30年近くも溜めた濃度が高い精液は日本人のそれの100倍。液体の量は試験管に並々──。必ずといっていいほど受胎する。今回もみごとに受精したようだ。 山頂にある芋畑。その中心に三畳ほどもある平べったい石がある。その石の下、真ん中辺りが大きく掘られている。 結婚式の儀式の一切を終えると、一家揃って行う朝食後、既婚女性が山頂に集う。ほとんどの女が朝食を控えてくる。新郎は家で留守番をして待っている。 女達がが山頂に着くと、すでに新婦とその母が石の下の穴に薪をくべて待っているのである。火にあぶられた石は赤くなっている。火をおこして待っていた親子はすっかり汗だくである。間違ってその石に手でも置いたら一瞬にして『こんがり』と焼けてしまう。そして、いい匂いがしてしまうのである。集った女達は頂につくなり、その石を囲う。そして、ジュウ。と、焼けた石によだれを垂らすのである。 この民族にお墓はない。村を囲う深い谷に骨を投げ入れて終わりだ。長い昼食のバーべキュウを終えた女達が村に降ってきたたころには夕日が真っ赤になって沈んでいる時間だった。留守番をしていた新郎が白くて堅いものを背負って谷まで行かせられる。代替わりの儀式である。 実際のところは時間も何もないこの村で、一人に子が宿した。その分、一人がカマキリの先駆けとしての勤めを終えた。 そんな短い人生を終えてしまう男もいるが、顔中蛭(ヒル)だらけになっているのか!?と思うほど皺(しわ)くちゃなジイサンもいる。 自分と交わった嫁が産んだ赤ん坊が女だった場合、娘が何歳になろうと誰にも食われることはない。ただ、ゲイという言葉すら存在しないこの村では、小便をするときだけ──使用される。 もっぱら煙草の畑を耕し、吸うと丸一日起たなくなるその煙草を吸って一生を過ごす。そして一生童貞。 付録(ふろく)。この民族に古から語り継がれるお話。 捕まえた一匹のオスカマキリを虫かごの中で飼う。トンボ、コオロギ。餌は欠かさず与える。ところが人間も動きが鈍るようになる、冬が近づくとカマキリには寿命がきてしまう。まだ羽を持たない、ちょっと大きな消しゴムのカスみたいな大きさのときから飼育していたから、飼っていた人間にとっては心苦しいものがある。 秋の夜長──。人間が寝静まったころ、そのオスカマキリは夜な夜な起きだして、自慰を試みる。優しく握ったつもりでも、その手は鋭い鎌なのである。 この村に伝わる民話である。この話を聞いた昔の人は煙草の効果を知る。そして、その栽培に成功する。
2004.12.16
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結婚式から、まもなくして新しい家族で飯を食った。一生に一度、長生きしたバァサンでは三度か四度は食べるだろうか。肉料理である。 山の湧き水を神と崇め、その神を日々いただく。何年経ってもこの民族の人口は極端に増えたりはしない。古の言い伝えを今でも守っているからだ。『飲みすぎには注意』民族の言葉でそう子孫に伝わっている。水をむやみに飲んでは、かれてしまう。という解釈でだ。だからこの民族には例外なく子供は一人しかいない。 湧き水なので垂れ流しになっている分、逆にもったいない気がするのだが、この民族にしてみれば神なのだ。だからといって垂れ流し? この民族では男女とも15歳になると結婚となるのである。ところが、カレンダーもなければ、一年が365日という決まりすらない。100人そこそこが住むこの村の真ん中にご神木とされる──。その幹が2メートルはあろうかという大木に太い縄がしめつけられているのである。その縄の高さは地上から150センチほどの所に巻かれてある。それにとどいた男子が15歳になった証とされるのである。 女子の場合は神の生き血が流れた日。つまり初潮がきた時、15歳とされる。 実際、男子の場合など成長が早い者では11歳か12歳でその縄までとどいてしまう少年も少なくない。逆に成長期が終わる歳、20歳過ぎまでとどかない者もいる。 実際の話など民族には関係ないのである。誰と誰が結婚するか。それを決めるのは女達。嫁になる者の母親の仕事に『しきたり』として昔から決められている。 ある少女に神が生を宿してもよい。と次げたのは三日続いた雨が上がった日のことだ。普段、母親は山頂までいって主食となる芋を採りに行くのだが、この日、つまり娘に初潮があった日にはその家族のお母さんは山に登らない。細い丸太と葉っぱでできた家々を回り歩く。 すでに目をつけている少年を探しにだ。手には強靭な木のつるで出来た縄を持っている。 この民族で、結婚した男の仕事は畑を耕すだけしかない。煙草の葉だけを育てている。そして、ご神木でできる日陰で一日中──。死ぬまでそれを吸っている。日が暮れると寝るために帰る。男が煙草以外、物を口にするのは日に一回、朝食だけとなっている。 で、家にいる未婚の少年は手錠をかけられたように手を縛られてご神木へと引っ張られてゆく。水汲み、芋ほり、家事。それらをこなして、日に三食きちんととる筋肉質の女からは逃げることはまずできない。 目の前の木に向かって立つ女と、その脇の少年。煙草をふかす男達は黒板の前に立つ女教師と転校生でも見るように多少の興味を持って座っている。 女は縄をグイッと引っ張る。もちろん少年は引っ張られる。そして、女に言われるがまま、ご神木に背を合わせる。幹に巻かれた太い綱に少しだけ届かないようだ。女の表情は強ばりを見せる。 低いざわめきが起こる。くわえ煙草をしたまま一番歳をとってみえる男が立ち上がる。ご神木に歩み寄る。と、その太い縄をつかみ、うんっ、と声を出してさげる。もさっ。という音を出して少年の頭に触れる。 すると、男達は皆々、煙草をもみ消しバンザイをするように両手を挙げた。女はニコリと微笑む。そして、男の中の一人が煙草に火をつける。立ち上がりその煙が昇る煙草を少年に手渡す。 少年は吸う──。むせる。 男達は縄につながれた少年を引く女が住まいに入っていくのを見ると両手を下ろして、それぞれまた煙草に火をつける。何人かがモグラが鳴くような声でしゃべっている。 女達──。30人はいるだろうか、山狩りを始める。結婚が決まった新郎の父親を探すためだ。この民族が暮らす山はグルッと360度、谷でおおわれているため、深い谷に落ちて死ぬ以外に、逃げる方法は無い。 結局。 まるでイノシシでも捕らえたかのようにその男は女二人が担ぐ二本の丸太に手足をそれぞれ合わせて縛られ、結婚することになる二人の家まで運ばれる。 この民族では結婚してから約15年近くは童貞のままですごさねばならない。 つづく 後編でその掟がついにベールを脱ぐ。
2004.12.15
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もっとも被害の大きかった渋谷の深夜は、地下鉄の陥没やビル、道路に入った大きな亀裂──によって人の気配がまったくなくなってしまっている。 駅前の象徴であるハチ公は地面に転がっている。うまく、受身をとったのだろうか、破損は見当たらない。カタカタカタ……ガタガタガタ。余震に次ぐ余震。横を向いたハチ公が紙相撲のように不安定にゆれる。横揺れだ。 都心部を襲った震度6強の地震は自動車の運転手の心を動転させる。余震が続くとはいえ、大地震からすでに三日が過ぎた。怪我人は多いものの死人がでなかったのは奇跡としかいいようがない。 一台の軽自動車がケンタッキーの前でようやく止まった。運転手は気絶しており、白いボディーには引っかき傷のように塗装が剥げ落ちている。カーネルサンダースはその白い軽自動車の中をのぞき込むようにしてフロントガラスに寄りかかっている。警察官がそれを見てもなおしてあげる余裕などない。 さらに余震が。震度4弱──。 ギアがニュートラルになったままの白い軽自動車はサンダースの重みと余震とがかさなって、ゆっくり後退し始めた。それと同時にハチ公のほうもゼブラゾーン手前までカタカタと移動(勝手に)していた。 サンダースの重心が軽自動車に多く掛かっていたことで、アクション映画で刑事がバックで逃げようとする車にしがみついているようだ。しかし、距離が進むにつれて軽自動車に掛かったサンダースの重心の位置がずれ落ちて、ゼブラゾーンに入ったあたりでガタンと、地べたにうつぶせの状態で止まった。軽自動車のほうは、すでに止まりそうな気配だ。が、まだ完全に停車したわけではない。進む方向に何かがある。それは、ここまでカタカタと余震によって動かされたハチ公だった。しかし、「あぶない!」と目をつぐむ者もいなければ何の生き物の気配さえない。 すると、また余震。 サンダースはうつぶせのまま左右にゴリゴリと揺れる。ハチ公は迫り来る軽自動車から逃げるようにカタカタと音を出して動いているが、軽自動車のスピードが余震によりわずかにアップしたため、ハチ公の胴体を轢いてしまった。それでも、乗り越えるほどのスピードが出ていたわけではなかったため、タイヤはすぐに体から地面に戻ってくれた。運よくというか、銅像に運があるかどうかは知らないが、乗り上げたタイヤが落ちた勢いでハチ公はクルンと四本足で立ってしまった。 ところが、ハチ公が立てるきっかけとなった軽自動車の姿が無い。あるのは三メートルほど先にうつぶせになったカーネルサンダースがいるだけだ。その三メートルの間が黒い空間になっていた。ひどい地割れ。所々に陥没がおきている影響だろう。そこに白い軽自動車は飲み込まれたのだ。 ゴゴン!今度は縦揺れ。三日前の大地震と同じ質の揺れだ。 ハチ公はジャンプするように飛び上がった。飛び上げさせられた。 サンダースは目の前に開いた大きな地割れに頭か進ませられて、すでに胸の辺りまで暗黒に近づいている。サンダースのつま先が浮いた。もう、軽自動車を追うだけか。そのときサンダースの体に衝撃が走った。縦揺れの勢いで飛び上がったハチ公が四本足でサンダースの背中に着地したのだ。そのことでサンダースの体はグルンと大車輪のように回転した。そして足のほうから地割れに飲み込まれていく格好になったのだ。ハチ公はまた四本足でうまく地面を踏みしめている。地震は止まっていた。本当の紙相撲であれば「引き落とし」かなんかで行司はハチ公を勝ちとしただろう。 ところが、物言いがつく形がそこにはあった。サンダースの膝から上は地面より高いところにあったのだ。 落ちた軽自動車のフロントガラスに足が突き刺さった格好で南の方角に向かって直立している。店の前で軽自動車に寄りかかったのはこのことを予想してか。んなはずはない。そのすぐ脇にハチ公がちょこんとたたずんでいるように、サンダースと同じ南を向いている。ビルの切れ間から日の光が差し込み、何かの銅像のような形になったコンビを照らしている。 後の千円札に徳川綱吉 後の五千円札にハチ公 後の一万円札に西郷隆盛と犬 ところが、そのころには100パーセントカードの時代になっていたため、それらの札は、『お札の銅像』として…… あの地震で約一名の死亡が確認された。サンダースに乗り上げられたあげくの呼吸困難。しかし、だれも事実は知らない。ハチ公がそのきっかけを作ったことに。
2004.12.14
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「先生方を疑っていないと言ったら嘘になるので正直に言うと、完全に信用しているわけではありません」 教頭は腕組みをして下を向いている。心の中では牙をむいているのだろうか。「学校での経費等の水増しにしても年に数回は報道されているわけです。だからといって、それを防ぐ事に結びつくかも知れませんが、それを目的として委員会を立ち上げるつもりではありません。まず、学校で動くお金を生徒と教師の全体が把握、理解し、委員会を中心として資料にまとめる。そして、そのできたものを社会教育の一環の成果として市報や新聞にとりあげてもらう。そうこうしている間に周囲の学校でもそうしていかなければならない、という雰囲気にかられてきて町全体から県、全国へと広がってゆくのではないかと思っています。ところがそれを良く思わない人が出てくると思いますが、その理由などをその個人に深く追求していくことも生徒諸君としては勉強の一つになるはずです。国会議員間の話し合いではうやむやで終わることが多いですが」 生徒は、ドラえもんの話題から集中力が増したが、後ろの父兄たちも「金」という言葉に反応してか目の輝きが数カラット上がった感じがする。 六本木自身は気付いていないが、背中にびっしょりと汗をかくほどに熱く語っている。「さらに学校だけに留まらずに市役所、警察などにもオンブズマンさながらのつっこんだ調査をしてみてはどうかと思いますね。私ら職人の言葉でこんなのがあります。『怪我と弁当は自分持ち』これは読んで字の如く、仕事中に怪我をしたら、痛いのは自分だしその治療費だって自分で持たなくてはならない。なんでもかんでも経営者の責任にされるこの世の中ですが、事故を起こすのは本人だし、仮に死亡事故がおきても死ぬのは本人だ。ところが部下の不始末に責任を感じて自殺をしてしまう人だって少なくはないのです。会社員と自分の体だけが資本の我々とはそこらへんが違うのですね。だからといって怪我をしたら知らん振りか、といったらそうではなくて同じ仲間として互いにいつ自分がどうなるか分からないから、ということでいたわり合うことは忘れません。そして、弁当はどうか、怪我人にお見舞いをするように弁当を忘れた者におかずを分けてあげるのではなく。弁当は必ず持ってくる。例えば、『あの現場にいくとあそこの家の人がご飯を準備してくれている』ということがあっても弁当は必ず持って仕事に向かう。これが常識で、たまたまそこの家で料理する人が留守で、その食事をあてにしてきていた人は飯抜きになってしまうし、なによりも、そんな卑しい人間では職人は勤まりません。学校でも警察でも役所でも議員だろうが自分の食事くらいは経費を使わずに自分のお金をだしているのでしょうけども。私個人の疑いを言います。人間、偉くなればなるほど自分の金を出したがらないように思えるのです。もしも…」 舞台の上で演説している六本木の目尻に何か気になるものが写った。ステージの端にある豪華なカーテンの脇で体育教師であろうジャージをはいた男が、しきりに手首をつついている。六本木の口は止まった。手首に巻いた腕時計をつついているのである。「時間ですよ」「とっくに時間がすぎていますよ」といいたいのがよくわかった。 六本木は「もしも…」というところで言葉を切って言い直した「最後になりますが、今日、本当ならここにくるはずだった町の有名人こと五代先生が常に言っていたことがあります。それは『嘘をつくと閻魔に舌を抜かれる』です。子供だましの言葉のようですが、重大な言葉です。だって、閻魔の位置にいる警官や国会議員が毎日のように嘘をついて、もしくはバレそうになれば証拠を隠滅することで、堂々と生きているからです。もちろん、中には正直者もいます。しかし、出世をして頂点を目指すものに限ってそういう悪いことを恥もせずにおこなっている。だから、この時代、本当の閻魔の仕事は社会にでていない子供たちがするべきだ。五代先生の話を常に聞いている私は、こんな考え方をしています。長い間、下手な話を聞いてくださってありがとうございます」 六本木は一礼し、顔をそのまま上げずにステージから降りる階段に向かった。敬愛する今は亡き五代先生のことを思い出して言葉の最後が振るえないようにふんばったものの、話し終わった安心が上乗せされて今にもしずくが垂れそうだったからだ。が、ダメだった。堪えることができなかった。それは、パラパラと拍手が鳴ったかと思うと、父兄もおそらくは教師たちも手を叩き、体育館の屋根に無数のヒョウが降ってきたかのようになった。しかし、だからといって涙がこぼれたわけではない。階段を下りようとした時、その階段のしたに誰かが立っていたことが、その理由だ。「なかなか上手だったね。六本木君」 聞きなれた、懐かしいというには大げさなほど身近な声を聞くと、一瞬にして拍手の嵐が止んだ。 顔をあげると。悪い冗談とも言える『ご褒美』があった。「まさか、先生…」階段を降りるはずだった足が、そのことを忘れて平面を歩くように踏み出したから一段目を空振りしたように踏み外してしまった。「危ない!」 近くにいた教師や生徒が思わず立ち上がった。だが、あまりに突然のことに誰も動けなかった。目の前にいたのは幽霊か、それとも今夢を見たのか。六本木はまるで痛みを感じない。「危ないなぁ」さっき叫んだ『危ない』が今度は優しい響きで六本木の胸の前から聞こえた。「本当に先生ですか?」五代先生にキャッチされた六本木は自分の足で立つと、頭に温もりを感じた。五代先生に「めんこめんこ」と頭を撫でられたからだ。何年たっても嬉しい。 でも、奥さんは言ったはず。しかも、メールで「うちのお父さんが静岡で息を引きとった」と。「だから、講演は行けません。断っておいてください」正直、そのとき実感が湧かなかった。もっと正直いって今の今までだ。逆に今、本人を目の前にして「幽霊?それとも夢?」とようやく実感が湧いた。「最後の言葉をつげに来たのだろうか」と。 まさか奥さんの冗談かと思ったが、事実として目の前にいる五代先生の喪服姿を見て六本木は程度の低い勘違いをしていたことに気付いた。 いつも「おとうさん」と五代先生のことを呼ぶ奥さんの実の父親が亡くなった。その旦那としてそこに残らなければならないのは当たり前だ。 そう、理解したときにはすでに顔中、涙と鼻水だらけになっていた。と同時に、まだ止まなかった拍手の音に気が付いた。止まなかったのではなく、キャッチしたことが引き続いて拍手を盛大に持続させたのだった。 五代先生は六本木の頭から手を降ろしてから言った。「学校に断りの電話をいれたら、君が断ってくれていて、しかも僕の代わりをしてくれるということじゃないか。六本木君も成長したなと、喜んでしまった。が、こっちは葬儀の準備やらで忙しくてな。君に電話をする暇もなかったし、変にプレッシャーをかけたくなくて連絡しなかったのだが、火葬が講演当日の夕方からだと聞くと、君のことが心配でいてもたってもいられなくて飛行機に乗って、ここまで来てしまったのだよ。ははは。またすぐトンボ帰りだがね」 六本木は五代先生の話をよく理解した。しかし六本木の癖で一回泣いてしまうと、しばらくの間、酔拳をつかったようにひっくひっくと、しゃっくりが止まらなくなるのである。冷静になってくると次第にのどもとから、その波が押し寄せてくる。 今年になってから二度ほど倒れている五代先生は、とても高齢とは思えない軽い動きで階段を駆け上がった。置き去りにされた六本木はその後姿を追って振り返る。「ヒック」 壇上のマイクを手に取った。テレビでも何度か見かけたものもいるし、小さな公民館などでも講演の依頼がくる五代先生は「面白い講話をする」と有名なおじさんなので、皆知っている。再び拍手が響いた。「9回表、ツーアウトで、代打登場。そこで、なんと勝ち越しのホームラン。この裏をピッチャーがしのげば、代打のバッターがヒーローインタビューのお立ち台にあがることは間違いない。ところが、その勝ち越し点を上げた後のバッターが、出塁。続く二人も出塁に成功し、一気に一点勝ち越しの上にツーアウト満塁。しかも、次のバッターは人気、実力共にナンバーワン。ここぞ!というときには、めっぽう強い。そんなバッターにまわってしまった。そんなことになって、本当に満塁ホームランを打ってしまったら、せっかく打った代打勝ち越しソロホームランの印象が薄れてしまいますよね。だから、僕、五代は今日はしゃべりません。もう、何を言いたいか、みなさんは解っていることと思いますが、僕の代打としてホームランを打ってくれた六本木君にヒーローインタビューをしたいと思います。六本木君、もう一回ステージに上がってきてもらえるかな」 立ち尽くしたままだった六本木は、虚をつかれたような表情で硬直した。懐かしい情景を思い出したからだ。幼いころのあの試合会場での表彰式。五代先生の手でかけてもらった金メダル。そのあとのゴシゴシと頭をなでてくれたときの先生のあの顔。 動こうとしない六本木に「どうした、六本木晴男。」そう、フルネームで呼ばれると勝手にというか自然に五代先生に寄っていきたくなった。 ようやく動きをみせた六本木だが壇上に上がるまで、見ているほうは退屈であるというもの。そういうことに五代が気付かないわけはない。「この六本木君と僕の関係は、彼がまだ小学生のころからの付き合いで、僕が指導を行っている、ある武道の道場に通っているのです。今は一人の師範として、僕の後を次いで道場で頑張ってくれているのです。昼間は大工さんで、夜には子供達に先生と呼ばれる男なのです。だから、ある程度、みなの前で話もできる」 六本木が脇に来ると「では、今日のヒーローインタビューは六本木選手です。みなさんに一言おねがいします」テレビのアナウンサーよろしくハツラツと言っているが喪服のままではいかがなものか。しかし、高齢を思わせぬ明るさがそれを気にもとめさせない。 口をつぐむ六本木の口元に五代先生がはっぱをかけるように「ヒーロー!おねがいします」とマイクをよせる。下唇をすっかり押しつぶしている。 六本木は震えた唇をゆっくりと開いた。 「ヒック」 爆笑で講演は幕を閉じた。
2004.12.13
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本を読む体勢は人によって異なることと思います。私の場合、この体勢なら集中して読めるというのは、仰向けになったときだけです。 学校の机だと長時間読んでいてもこしがいたくなったししなかった気がする。当時は漫画ばかりよんでいたからだろうか。 仰向けの姿勢は楽には楽なのだが同時に眠気をもよおしてしまうので、こまりものだ。しかし、それはそれでいいときもあるし。 いい姿勢や、グット読書グッズなんかないものだろうか。
2004.12.12
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事実上の講演の始まり。それは六本木本人が生徒、父兄のほとんどの人間が自分の話に興味をいだいたと手ごたえを感じたことで、そう思ったのだ。 ちょっとした喜びと共に、わずかな安堵感が胸を楽にしてくれた。すると、なんで自分はドラえもんのネタをだしたのだろうかと、考えてしまった。気の緩みで飛んでしまって思い出せない。 どーしても思い出せなくなった六本木は、昨日ほとんど寝ないで考えた図面を頭の中で開いた。「ちょっと早いですが、先ほど少しだけ触れた校長、教頭の話をしましょう。校長先生が一人一人の生徒を知ることはとても難しいことです。でも実際は知らなくても学校では何の支障もきたせません。ところが、なんらかの事件に生徒がまきこまれたりすると必ずといっていいほど校長先生が記者会見の場で『とても真面目で挨拶のできる生徒でした』とか、言っています。」 生徒の首が校長に向く。六本木がわざとらしく鼻の下を伸ばして校長を見たから生徒達もつられたのだ。歌丸師匠が楽太郎に「はらぐろ」ネタでも使ったあとのような顔に。「そんな会見のとき『本当にその生徒のこと知っているの』と疑問に思います。実際問題、どうでもいい話かもしれませんが、おそらくはその担任と学年主任、部活の顧問の先生が呼び出されてその子についての話をすることになると思うのです。だから、学年主任の視線で校長先生も生徒と関わりを持ちなさいよ。というわけではありません。むしろ、逆です。生徒と担任の関係をしっかり把握しなければならないと思うのです。一方的に担任の意見や、学年主任の総評だけを聞いて、うんうんと頷くだけではなく、生徒がささやく先生に対する陰口や悪口を聞いて双方、四方の意見、というより情報という見方で学校を把握していかなければなりません」 そうなれば、と一呼吸おいて続けた。「普段から真実を語っているのはどの人間かということが分かってくると思うのです。生徒の身に何かあった場合に、当たり前のような台詞をズラズラと並べるだけではなく、事前にその事件等を防ぐには現状がどうなっているかをトップの目と決断が必要と思うのです。警察よろしく事件が起きてから動くのではなく、一人一人の精神性がどうなっているかを把握しておいてフライングさながらの対策を行っていかなければと思うのです。一番の問題はその事件を起こす側にあるわけです。その起こす側というのは可能性としてはこの学校全員がもっているわけなんです」 遠くを見るように生徒が並ぶ後ろの列の父兄に向かって両手を合わせて「お母さん方には大変失礼ですがあくまで可能性の問題ですから」 だから、と続けた。「おとなしくて成績はそこそこだからこの子は安心と、たかをくくらないで、この生徒にはこういう一面がある。こんなすばらしいものを持っている。というふうに生徒を認めることが大切と思います。そうやって認めているうちに生徒のほうから心を開き、最終的には情報公開のように把握させてくれるのではないでしょうか。グレて、反抗的な生徒もいますが、それはそれで素直に表現しているのではないでしょうかね」 若い先生がかたまった列で何個かの笑顔が小さく頷いたことに六本木は満足した。が気は抜かぬよう最後の締めにとりかかる。「ということです。そして、教頭先生の役割はズバリ!学校で掛かる経費の全てを管理し、公開するということです。中間管理職にあてはまるのかどうかは大工の私にはわかりませんが、委員会という形にして生徒主体で領収書の管理から、金の字が付くものは歩も銀も何もかも裏返して、全てを公表することを目的として仕事をしてもらう。そんなことがあったら一切の不正はできないはずです」 つづく
2004.12.11
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昨日は生意気な意見を載せました。生意気ついでに今日もいってみます。「やり手」について、いってみようと思います。「あそこの社長はやり手女社長だ」隣と肩が触れ合う狭い居酒屋のカウンターで二人組みの30代半ばくらいに見える男が飲んでいる。 話を聞いていると、女社長を絶賛する男のほうは失業中の身らしい。終始、聞き役だった男のほうは大きな工場に勤めている。 毎日のように職安に通っている男が言った。「毎日毎日、同じことの繰り返しで飽きてこないか?工場でマスクとヘルッメトなんかを真面目にかぶったりしてさ」 つづけて「俺なんか」と両手をだして転々と職を移ったことをさも自慢げに語る。「二日で辞めたのを加えると…」 小指一本を残して全てが折りたたまれている。横目でみたところ、しくじった罰でドスで詰めたようにはみえない。 聞き役の男がおでんの器に箸をさした。そして、よく味のしみた大根を食べやすいサイズにするでもなく、大口を開けてかぶりついた。そんな聞き役の姿を見るでもなく、次の話題に移っていた。「そういえば、久しぶりにあそこの女社長を見たよ。あの人は一生独身だろうなもう50を超えているはずだしな。いや、だからこそ…あそこまでのやり手なんだろうな」 何かを極めようとする者が、事は違えど何かに到達しようとしている者をみる目は自分のそれとほぼ比例して見えるのだと思う。 どんな到達点であろうとも、努力や忍耐、持続。何よりもそのことを愛している(好き)。だ。というところで同じものを感じるのではないだろうか。 自分にはこれしかない。といった風に。 聞き役のまま居酒屋を後にした男がかぶりついた大根。かぶりつかれた大根。結局は大根だが味がしみている。そして温度がある。 その食いっぷりには温度がある。熱いものがある。と、そう感じられる。工場(会社)のことを本気で考えているか、人生において「これだ!」と、なにかを持っている。そんな動きだった。 大口をあけてかぶりつく動作に下品さは感じなかった。逆に男(漢)らしい内に秘めた何かが感じられた。 むしろ、マナーよく食べていたが意味不明な大口をたたいていた男のほうが小さく見えた。 フィクションです。(マナーといっても居酒屋のマナーは知りません。他のマナーも全くですが)
2004.12.10
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久しぶりに文章を書きます。自分の中での一年間が終了して、来年はどうするかを考えています。 六本木の話を中途半端にしたままですが、「普通、平均」という言葉の考え方を書いてみたいと思います。 平均。というと中間、期末テストの点数が思い浮かびます。 全生徒の点数を足して、その人数で割ってでた数字が平均点になるのだ。「私、平均より上だったぁ」「えー。私なんか全然。今回はレベル高かったよね」 こんな会話がなされている。だからどうした。と言いたい。ゲームのスコアみたいなものではないか。いや、ゲームではハイスコアを気にする人がほとんどと思うので、そっちの方がまだましだ。 結局、ダトミケ、つまり私が何を言いたいか。それは、平均の見方が間違っているということだ。 私の地元での就職率は約48%。半分を下回っている。必ずしもテストの成績だけが就職内定に関わっているわけではない。しかし、事実として半数はプー太郎君か進学かだ。ちなみに大卒の就職率でも60%を切っているはずである。他県や海外に就職すればいいだけの話ではあるのだが。 だから結局は何が言いたいかとうと、自分が目指す(目標)ところが何であるかによって平均の本当の意味があるのではないか。と思うのである。 学年でトップの男子がいて、東大を志望している。募集定員が200人の東大を4000人が競うと平均はどこにあるのだ。人数の半分である2000番目のところか。200位に入った者だけで平均を表すのか。 平均や、ボーダーライン上で頑張っている。と、そう思っている人がいるかもしれないが、平均イコール普通といったふうに自分を見てやしないだろうか。「普通だ」と自分のことを思っていて、はたして自分よりどこまで上が、または下から普通ではなくなるのだろうか。「普通が一番いい」とよく聞くが誰の目で見て普通なの?東京大学の普通と東北大学の普通はどうちがうの?点数が違う。それだけか。 中学のころは志望校である高校に入れるかどうかということ。高校では目指す大学や就職先への自分の位置。大学、さらに院と、卒業すると自然に次のステージである職場、つまり食うため(生きるため)に動くことになる。 普通にすることが一番いい。言われたことを普通にしていればいい。みんなが着ている服、ブランド品をまとう。 普通とは特徴、特技を持たない人。またはそれらを表に出さない人。親や上司によって「せっかくのいいもの」を抑えられてしまっている人のいいわけではないだろうか。 夢を持たぬか、夢はそれで終わっている人ではないか。 明るい家庭を持ち、幸せだ。しかし家族の中はそれでいいかもしれないが、一家を支えるものが今の生活に満足していて、人が余るこの世の中でリストラという鎌に足元を刈られてしまう。リストラ。何かトラブルでも起こさない限りはこうだろう。人員削減。ということは新入社員でも少したてば対象者と同じくらいの働きはするということだろう。経営者の責任ばかりを問われがちな、あの世よりも暗くズルイ時代に普通の社員は会社が倒産に追い込まれそうになったときに貯金をはたいてそれを防ごうとするだろうか。 普通の社員は何気ない顔で退職金の心配や次の就職先をどうするかを考えるにちがいない。普通はそうでしょう。普通は。 大学入試でも仕事、趣味でもトップの気持ちにならなければならないと思う。意識だけでもそうならなければならない。 けして、妥協を繰り返していっている者が普通ではない。 平均や普通と定めるものは、その物事のトップか、それを治める者だ。勝手に自分を普通と思っている人間が鏡を見ても妥協ばかり後悔ばかりの表情が写っているだけだ。と思う。
2004.12.09
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ようやく忙しい日々から抜け出せます。来月からビシビシと書きたいと思います。 今週末にある武道の大会に参加します。それが終わると時間にゆとりができるはずです。土曜の始発の新幹線で東京へ向かいます。 ここで一句。 武の心 されど金無く 山のよう 解説。率直に言ってダジャレです。大手消費者金融の。 現代では金が無くては組織として武道に席を置くこともできません。月謝、会員費等など。 しかし、武道でも、スポーツでも、その事を好きでいることはできます。実際に体を動かさなくとも、イメージで楽しんだり、テレビや本でも楽しめます。 徐々に、いてもたってもいれなくなると、がんばって仕事してその事をやってみようとおもうかもしれません。 それは、とにかく好きだから。という理由でだと思います。好きな人、食べもの。趣味。プロとしてのそれ。 私は武道も小説もそうですが、とにかく人に伝えることが好き。表したい。 早く戦いたいです。
2004.11.23
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「私が大塚一郎です」と六人家族の大黒柱が淡々と一家のメンバー紹介をはじめた。さり気ないブラックジョークが好きな46歳の男である。 日曜日の晴れた昼下がり。引越し屋が全ての荷物を新居に運び終えるまでの時間に、しっぽの切れたムカデのようにのご近所へ挨拶まわりをするが。一軒一軒、その紹介の仕方に工夫はない。どこのお宅でも同じセリフをはく。「そして妻の真里子。旧姓は鈴木。僕が婿にいっていたら鈴木一郎で、有名人になっていたかもしれないですね」大塚一郎は洗車中であるお隣の旦那さんの苦笑いに反応するでもなく続けた。「それで、こっちの背が低いのが長男で妻の息子。高校生です」わずかの間を空けたのはわざとだ。「もちろん、僕の子でもありますよ」ひっかけたつもりだろうが背の低いのとハンマーで脳天をひっぱたいて潰れたような顔が一郎瓜二つのため、六人の中で二人だけが別世界を感じさせた。「この背が高いのが年子の弟で、浩です」 見下ろすように会釈をする浩に少したじろいでしまったお隣の旦那さんは、その後ろにいる二人の姉妹に違和感を感じた。二人そろって、ふて腐れたような顔をしているからだ。「この双子のように似ているのは実は中学生の三年と一年でして、長女の美沙と痴女の里美です」 中一の次女は挨拶まわり二件目にしてとうとう泣き出してしまった。 長女は一人ふて腐れた顔でそっぽを向いている。 長男が末っ子をなぐさめている。「里美、気にするな。俺なんか名前を紹介されてないんだぜ」 すべて計算したジョークのつもりでも後にシャレにならないことになりそうである。 保険外交員の一郎は成績とクラスの人気がよくない里美と長男の三郎に、高い生命保険をかけているのである。 それも、ジョークだとしたら金のかかるブラックだ。 しかし、後にゴールドに変わったら計算したジョークになるのかもしれない。
2004.11.09
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日常品だった場合「かわいい」有紀はマシュマロのようなフワッとした言いかたをした。親友のカオルが「喜んでくれてうれしい」手渡した小箱の中を見る有紀の顔を見ながら言った。 有紀はカオルの手をとって言った。「ありがとう大切にするわ」 食べ物だった場合 カオルが入院することになった。足の骨を折る重傷で、一ヶ月はベットの上の生活らしい。 入院の準備などカオルの家族の手伝いをした親友の有紀は、翌日改めて病院を訪れた。「おとなしくしてた」有紀は顔を斜めにして悪戯っぽく聞く。「こんな状態じゃあね」といって微音をもらしていたゲームボーイアドバンスを閉じて、椅子に指をさした。「昨日はありがとう。まぁ、座って」 四人部屋は全部うまっている。ただ、カーテンのおかげでで個人のようすまでは見えない。 ニッコリとした有紀が、がさごそと紙袋から取り出したのはナイフだった。この状態でカオルに向けたら瞬殺できるだろう。しかし、それは果物用ナイフで、すぐに同じ紙袋からリンゴと梨が入ったワシャワシャと鳴るビニールの袋をとりだした。 どっちがいい?と聞かれると、カオルは迷わず「梨を剥いて」とすぐに答えて、透ける袋の中の個数を数える風に頭を微妙に前後させた。 おしぼりを準備してから「やっぱり?カオルは梨が好きだからね」と言う。慣れた手つきで剥かれた皮が薄く一枚にのびていく。 「皿さ、その戸棚にあるから」その姿をうれしそうにみつめるカオルは上半身を起こし、ウエットティッシュを一枚抜きとり、それを丸めるようにして手を拭いた。 皿を膝の上に置き、有紀は梨を食べやすい大きさにしてあげた。全部が均等の大きさに見えて白い皿と共に清潔だ。「おいしそう」「まだまだあるからね」カオルの手の届くところに置いてあげた。「うん」皿に手を伸ばす。「グッチの財布に比べたらたいした物じゃないけど」「そんなことないよ」梨を一切れ手に取ったカオルはニヤリとしながら言った。そしてペコリと頭を下げてつづけて言う。「ありがとう。排泄にするわ」
2004.10.30
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当日、六本木は教師たちに質問させないために時間ギリギリに来た。 朝一番に「講演時間までは必ず行きますから」と学校に連絡しておいた。早い時間に出勤している教師は多少の責任感はあるのだろう。その教師が「五代先生の自宅の電話には誰もでないのですが」と言ったところで「そのことは講演終了後に話します」と言って六本木が会話を切った。 今の教師の台詞で六本木はくだらないダジャレを閃いてしまったので、切る間際の言葉は笑いを堪えていてわずかに震えていた。 自己紹介を済ませた六本木は講話をしはじめた。「五代先生と私は話すことが違うかもしれませんが聞いてください。みなさんは中学生ですね。そしてその後ろにいらっしゃるのが生徒たちの父兄の方々ですね。見たところ、お母様が多いようですね」ゴホンと咳払いを一つ入れた。少し、「ね」が多いようですね。「では、本題に入ります。最近私が思うことをいいたいと思うのです。それは、自分が何かをしたい場合に必ず壁というか、何か遮るものができることはないか?ということです。例えば、野球部に所属していて、ピッチャーで四番になりたいが、監督にお前の体はキャッチャー向きだと言われる。これは、ライバルがいるからピッチャーになれないのではなく体型が問題ということですね。自分自身が壁だ。と、こうなります」 以外そうな顔で教師達が壇上を見上げている。昨日、カンナ屑まみれの姿で現れた中年男が新品であろう作業服を着てきたことに対してではなく、慣れた話し方とまではいかないが「まとも」な雰囲気で話し始めたから、いい意味で裏切られたのだ。実際、責任ある教師達は父兄までを揃えたこの会場をぶち壊したら、ただ事では済まないという心配が少し和らいだ。 ところが講話が進んでいくと、そういった教師の心配の波は引いたり押し寄せたりしてしまうのである。 まだ、始まったばかりなので欠伸をする生徒はいない。 六本木は話を続けている。「ところが、こういうこともあるわけです。5番で普段センターを守っている選手は控えのピッチャーでもある。この、選手も四番でピッチャーになりたいのだけれど監督はオーダーを定位置から変えようとしない。意地悪をしているのではなく、本人が人一倍がんばってまでエースで四番になりたいと思っていないからなのです。ただ単に苦労もなくそうなりたいと思っているだけなのです」 たいして、ざわめいたりしない広い体育館で六本木は一呼吸いれてからまたマイクの前で口を開いた。「将来の夢はなんですか?と聞かれて例えば飛行機のパイロットや保母さん、プロの野球選手だのサッカー選手だのと答える者がいます。実際もうすでに、その夢に向かって本を読むなどして勉強したりとか、スポーツ選手になりたいならば高校生になったときからプロのスカウト連中につばの一つもつけられていないと簡単にプロ選手にはなれないのです。だから、さっきの五番でセンターの選手は考え方が変わらないかぎり、定位置に揺るぎはない。逆にレギュラーから滑落してしまう恐れののほうはある。なりたいなぁー。と、思っているだけでは何も進みません。おそらく、ピッチャーで四番の選手は目指すものが甲子園のマウンドだとかメジャーリーガーになるために行動しているはずです」 中学生ともなればこのくらいの意味は理解できるはずと思い込んで、六本木は舌で唇を潤した。 では、と言って「学校の校長先生が次の日には教頭先生になっていて、逆にその校長の座に着いたのはまだ若い学年主任の先生で、『成り上がり』ともいうべく眼差しをうけて朝礼の長話をしていた。仮にこんなことがあったらどうしましょう」笑いを含めて誰にというわけでなく問いかけた。 六本木は壁側一列に陣取った教師連中にふいと目をやると、忘れ物を思い出した子供のようにわざとらしい、そういえばいたな。こんなやつが。という言い方で。「そうそう、居場所がなくなった教頭先生は職員室に新しい部署を作ることにしました」かるく校長と教頭が並ぶ壁側の前列をチラリと見てから言った。「この新部署の話は最後にすることにしましょう」 「中学生やその親、また先生方も皆ご存知かと思いますが『ドラえもん』の話をしたいと思います」六本木が言うと生徒たちがざわめき始めた。自分が知っていることや興味があることには過敏に反応してしまうものだ。 その中の生徒が言った。というより披露した。「やあ、のび太君。僕ドラえもん」その子の持ちネタなのだろう。大きめの声でいうと周囲の人間が手を叩いて今のモノマネを笑っている。たしかにうまい。騒がしくなったのに反応し一人の教師が椅子から立ち上がった。担任の先生だろう。 しかし、その担任教師は苦笑して着席することになる。もっと騒がしくなるからだ。それが公的な騒ぎだったからだ。 そのモノマネを生徒たちと一緒に喜んでいた六本木が、クスクスと笑った顔をなおしながらマイクをつかんで負けずにやってみせた。「こらっ!タケシ!」「ゴメンよ。ゴメンよ。母ちゃん、違うんだのび太の奴が」 ウケ狙いでモノマネをしたのだが逆に静まり返ってしまった。実は六本木の十八番ともいえる『ジャイアンとその母親の会話は常に穏やかでない』というモノマネのセリフよりも長い題名の技だったから空気が消えたような空間ができてしまったことに六本木はかなりショックをうけていた。 ところが「すげぇ。めちゃくちゃ似てるよ」と、さっきモノマネをした生徒が空調のボタンを押したようにつぶやいた。実際、その子とその周りから拍手が沸き、徐々にそれは全校生徒からの拍手喝采とまでなった。この拍手が事実上の講演開始の拍手となったのである。 つづく
2004.10.29
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やっぱり伊坂幸太郎のテンポが自分に合うね。今、忙しくてゆっくり読んでいるけど、好きな本だね。 チルドレンに次いで二冊目の伊坂本だけど、どことなく似ている。チルドもピエロも。 よみやすさ、てーか、つかみやすいのはピエロのほうかもしれない。
2004.10.25
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「はじめまして」ぐるりと講堂に敷き詰められたように座った生徒とその父兄を見わたしてから、また口を開く。「おはようございます。はじめまして」 はじめましてを二回いった。初めて舞台での講演に緊張をしている。けれど、興奮のほうがより大きいので、前のほうに並ぶ生徒たちが「ぷっ」とふきだすことに反応はしない。 六本木は自己紹介と自分がなぜここに立っているかを説明しはじめる。「五代先生が急用のため私が代わりにきました、六本木といいます」ごく簡単にだった。 五代先生というのは作家になる夢を断念した地元の名物おじさんで、急用というのは昨日の晩に五代先生が奥さんの実家である静岡で死んだのだという。だから、ここ仙台には戻ってこれず天国に向かうという用事ができたのだ。その先生の奥さんが携帯のメールで六本木に講演を断ってくれと頼んできたのは講演の二日前。六本木は先生と付き合いが長い。それだけではなく、先生のことを尊敬してさえいる。しかし、この奥さんのことは嫌いなのだ。みえっぱりで、強欲で……。悪口をいってはきりがない。講演をドタキャンするのに、いくら不幸があったとはいえメールで頼まれたのが気に入らない。公園でくっちゃべるのとは訳が違う。なにより、尊敬する者の死を携帯メールで知ってしまったことが腹ただしい。奥さんのメール着信音が『必殺仕事人』だったこともイラつきの材料に加算される。それは特に奥さんのせいではないのだが。 断ってくれ。といわれて翌日の昼休みであろう時間帯を狙って職員室に入ったまではいい。ところが、五代先生の死がいまいち実感できない。「五代先生は死んだから明日の講演はキャンセルさせてほしい」とはいいたくない。でも実際、死人に口無しではないが、使い方も間違っているが、この場にフワフワと飛んで来ようが話すことはできない。恐山の『いたこ』でも死んだ翌日に憑依させるのは無理だろう。成仏しきれてないだろう。なにしろ六本木は、はなから信用していない。「失礼します。明日の五代先生の講演についてお話があってまいりました六本木といいます」五十を過ぎたとは思えないハキハキとした口調でいった。そして、職員室を見わたし、室内の雰囲気をとらえてからさらに「できれば校長先生にお話したいのですが」といったところで横から声が聞こえたので言葉を止めて、そっちを向いた。 声の主は教頭らしい。自己紹介されなくても一発で分かってしまう教頭面をしていた。「きみきみぃ、誰だね?」六本木と名乗ったはずだが。よく、六本木にお住みなんですか?と聞かれることがあるからこの人もそう受け取ったのだろう。教頭の甲高い声がまたつづく。「まあ、名前はいいとして、今は職員会議中だから少し待っていてくれないか。話は私がうかがうから」 タメ口?教育者が初対面の人間に対して?しかも校長に話があるといったのに。確かに組織には順序というものが大切だ。けれども、状況を把握したつもりでいったのだ。しかも、会議というより軽い打ち合わせだろう。三人のジャージ姿の教師が三人で話しているだけだった。三人は体育教師なのは確実だ。それぞれ首にぶら下げたホイッスルとストップウオッチが昼の陽光を反射させているからだ。会議をしている表情ではなかった。おおかたジャージの特売の話でもしているとしか思えなかった。それを会議という教頭はあたまっから六本木を舐めているとしかいいようがない。 とにかく、またムカついた。昨日の奥さんの話から引きずっていたから、なおいっそうだった。 職員室の教師方の配置や、ひときわ大きな机に置かれたお茶をすすった暇そうな年配教師をみつけて、「なるべく税金の無駄にならぬようにするには、見たところただ一人湯のみから湯気を上げている人間がいい」と総体的に見ていったつもりだったのだ。しかも、人が死んだことを話すのだから。誰にでもいいたい話ではない。 六本木は顔には出さずに聞いた。「教頭先生ですか」すると、だからどうしたんだというような顔で「それが何?」と逆に質問を返してきた。 もう、五代先生の死を話す気にはなれなかった。校長らしい教師は、この教頭と六本木のやりとりを見るや急に引き出しから印鑑を出して何かの書類の束に押し始めた。 校長にも、教頭にもいう気がうせた。子供でもしないような『知らん振り』をするヘッド。ナンバーワンには一生なれないであろう器の副ヘッド。こいつらにいう気はうせた。ここは暴走族以下の縦社会だ。 かといって、そのへんの教師にいうにも誰も六本木を見向きもしない。普段から教頭のいうことにはだれも逆らわないのだろう。そんな雰囲気が漂っている。 六本木はだんだん、この学校をぶっ潰したくなってきた。 かといって解体工事の申請に役所に行くわけにもいかない。このまま職員室であばれたら五代先生に顔向けできない。ていうか、死んでるから見られない。死んでることは誰もわからない。「五代の付き人をさせてもらっている。六本木と申します(嘘。実はただの大工)。明日の五代の講演は本人の急用により私が代わりに講演を行うことになりました。五代の遺言……ではなくて、真言?まあ、その何といいますか、決定しましたので申し上げにきました」言い切ると職員室中の教師に猫だましをするように、パーン!と両手を打った。いつも材木との摩擦を繰り返している皮の厚い手でだ。六本木の手のひらはビリビリとしびれた。あっけにとられた教師どもの言葉を聞かずに職員室をあとにした。スクーターにまたがるころになってしびれが痛みに変わってきた。 汚れた作業着の六本木の後姿はカンナ屑をマフラーのようになびかせていた。
2004.10.24
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二日で本を二冊読んだのは初めて。 一日一冊ではないの。正確に言うと二日とちょっと。 『いま、会いにゆきます』と、たった今読み終えた『アフターダーク』の二冊。スラムダンクで例えると、桜木花道がシュートを打ちたくてたまらない。けれど、パスの練習をしっかり行って、ある程度マスターしないと次のステップ、つまりシュート(というよりダンク)を打つことを許されない。 一昨日に買った四冊の中で一番楽しみだったのは『重力ピエロ』で、一番最初に読みたかったのだけど、『いま会い』の噂(とくに最近読んだ本のリストにて)が気になっていたので柔道の団体戦でいう先鋒にもってきてみた。とにかく一番先に読んでみて自分の中では「いいねぇ」みたいな感じになった。 つづいて『アフターダーク』。自分の中で「パス練」はこの本だ。と決めつけていたから、「これを読み終えないと『伊坂』さんの本を読むのは、いささか困難になるぞ(くだらなっ!)」伊坂=ダンクシュートを決めたときの気持ち良さみたいに考えて『アフターダーク』のページをめくった。とにかく早く読もう。みたいな感じ。 村上春樹の本は初めて読んだけど、頭っから「パス練」として読んでいたからか、読み終えてから「え」という感じだった。意味がわからなかった。売れてるみたいだけど。買った人、この本のみどころを教えてください。 で、失礼な例えだったけれど、ようやく『重力ピエロ』をガツン!といける。 そのあとは『ダビンチ・コード』だ。これはなんだろ。評判いいけど。スラムダンクで言ったら仙道率いる対綾南の試合ってとこだろうか。「なんだ、おめーは。俺のマークは仙道!オメーじゃねーのかよ!?」「す・すんまへん。桜木はん」 ズビシッ「せめてボス猿をつれてこい!」「こーら。彦一!桜木と何をグダグダやっている!」「ほっほっほ」「やれやれだぜ」 ……!?ジョジョ? こんな感じ(仙道と勝負するつもりがマークについたのが彦一だった)にならなければよいのだが。人によって好みもあるし感性もちがうから。 以前、江国香織の『号泣する~』を買ってきた。それを見て姉が「はー?なんで、そんなつまらないの読むの?」といってきた。さらに「そんなの読むなら『きらきらひかる』を読め」といってその文庫本をくれた。 それから「号泣」は読んでない。 とにかく、ピエロを読むぞ。童門冬二の『信長の野望』はドキドキしながら猛スピードで読んだ。 最近は、猛スピードで読むことはできるようになったが。緊張はない。 なにか、そうゆう本はないかしら。法定速度でドキドキして読んだのは『邂逅の森』。 今日、映画(レンタルビデオ)見たんだ。キルビル2がなくて、ドラムラインを。 自分の周りの環境に似ているところがあって、わけのわからないところで涙をこらえた。家族と観ていたから号泣するつもりはなかった。(ほんとにくだらないことばかり言ってないで号泣も読まねば) ドラムラインの主人公とポコメタンの絵を書いてくれた僕の後輩が実に似ていた。その映画に出てくる主人公の先輩が自分とにていたような気がする。特にリーダーでありながら後輩のほうが実力、センスが上だと認めるところ。 でも、それは寂しいことではなく、すごくドキドキすること。ものすごく嬉しいことなんだ。 スカイラインGT-R32より性能の低いR33やR34だったらだれも求めない。けれども性能が劣っていても愛着をもってくれる人もいるし、高性能の最新Rだって前の型を越すことを目標にしていたのだから。 ところが、やっぱりある。忘れられないあの型。だれもが魅了されるあの型。長島。富士山。猪木。馬場。シンザン。オグリ。ブライアン。最高師範。ミッキーマウス。カジキ(松方弘樹と梅宮)。タイソン(個人的には前田のほう)。コカコーラ。ポカリ。スラムダンクのつづき。ポコメタン(よくも恥ずかしくもなく) そんな新しいたった一つだけの型になれるよに日々がんばろう。わけわかんなくなってきた~。
2004.10.22
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