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・途中まで読んでは休んでいた積読本、読みやすいし面白そうだったけど読み終わるのがもったいない感じで中座していた本。法事で鹿児島に行った数日を積読本一掃週間に読了。最後まで読んでとっても良かった!最後まで読まないとこの物語の問いかけている意味は分からないと思う。・是枝監督といえばちょうど「怪物」がカンヌ映画祭で脚本賞を受賞したというニュースが入ってきたばかり。是枝さんは映画で撮った作品をノベライズ化したものを出版しているけど。この作品は自分で書いちゃったもののようだ。万引き家族 (宝島社文庫) [ 是枝裕和 ]価格:715円(税込、送料無料) (2023/7/11時点)楽天で購入2023/7/1読了・映画は見たことないけど帯の写真を見てから読んだので、初枝は樹木希林、治はリリーフランキーというイメージで読んでしまった。〇「お前なんかにこの子を返してやるもんか」・親から虐待を受けて育った信代が、親から虐待されている少女を疑似家族として一緒に住もうと決意する・実は、この万引き家族は家主の初枝以外は全員が偽名の疑似家族で、信代は初枝の嫁の名で本当の名は別、治も初枝の息子の名前で本人ではない。翔太少年も実は偽名・・・〇「産まなきゃよかったって言われて育つとさ、ああはならないよね」〇もし、ゆりがすごく性格のゆがんだ子でいてくれたら、自分の性格や意地の悪さをあきらめられたのに。信代はそう思った。〇この家族のことを話すときの信代は、本当に穏やかな菩薩のような顔をしていると初枝は思った〇「そうだよ・・・もうわかりなよ。私たちじゃダメなんだよ。この子には」・とっても切ないお話だった。血のつながりがあっても家族の体をなさない家族がある、血のつながりのない疑似家族ではやはりダメなのだろうか?生きるのが下手で犯罪を悪としない価値観の人たちだったからうまくいかなかったってことなのかなあ・・・やっぱり全部罪をかぶって懲役になった信代さん、切ないなあ・・・
2023.07.11
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・新型コロナに感染して自宅療養中、高熱だけど何もしないのも辛いので気を紛らわすためにも本を読む。さすがに39℃以上になると難しい話やおっとりした話は無理なのでやっぱミステリーでしょってことで図書館本の中から選んで読みはじめた1冊。笑え、シャイロック (角川文庫) [ 中山 七里 ]価格:748円(税込、送料無料) (2023/6/20時点)楽天で購入2023.6.15読了・シャイロックとは「ヴェニスの商人」の登場人物、ユダヤ人の金貸しの名らしい。銀行小説。帝都第1銀行に勤める主人公の結城は渉外部に異動になった。その渉外部とは焦げ付きそうな債権を回収する部署で、そこで「シャイロック山賀」と異名持つ上司のもとで働くこととなる。・いろいろ金融関係のことを説明されても理解できず消化不良だった。そう言えば読んではいないけど池井戸潤にも「シャイロック」の名がついた小説があったように思う。半沢直樹シリーズのほうが分かり易かったしそれ以上にストーリーも面白かったように思う。・どんでん返しの帝王もだんだんと慣れてきたせいか・・・どんでん返しの結末もいくぶん期待外れな感じ。どんでん返しの帝王の結末もある意味で期待調和になったか?
2023.06.20
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〇南風【まぜ】南からの風、または南西風のこと、「真風」とも。太平洋沿岸部の黒潮に沿った地域で広く用いられる。マは良、「良い風」の意。・戦後の沖縄の歴史ドキュメンタリーのような小説、沖縄出身の「ビンボウ詩人」こと山之口獏の視点、「米軍が最も恐れた男」という映画になった沖縄民主主義の活動家瀬永亀次郎の視点、そして沖縄資料センターを立ち上げた中野好夫とそこでアルバイトすることになったミチコの3つの視点から、戦後から沖縄返還前後の、沖縄の人たち、日本国の政治家たち、アメリカの軍や政治家たちのやってきたことを語っている。南風に乗る [ 柳 広司 ]価格:1,980円(税込、送料無料) (2023/5/15時点)楽天で購入2023/5/13読了・どこまでが史実でどこからがフィクションなのか分からないけど、おそらくほとんどが史実に基づいていてミチコと彼女に絡むところだけがフィクションなのかなと思う。・山之口獏という詩人は、実は自分が若かったとろにファンだった高田渡というフォークシンガーが曲をつけて歌っていたので名前だけは知っていた。この小説で彼についての認識がまた変わってしまった。ただの飄々としたビンボウ詩人ではなくて沖縄への愛が深いがゆえに平和を語る真面目な詩人だったのですね。〇日の丸のもとへの復帰ではなく、平和憲法のもとへの反戦復帰・沖縄返還はまだ小学生の頃、いいことだと単純に思っていた。40年以上前になるけど大学生の頃沖縄出身の学生に沖縄は米軍に反発的な人ばかりではないと聞いたこともあるが、沖縄で起こる米軍絡みの事件を考えればやっぱり沖縄の基地の存在や治外法権的なありかたは異常!・何でこんな異常な事態が戦後も沖縄返還後も続いてきているのか、マスコミは何かあれば一時的は騒ぐが根本的な安保や基地協定問題には触れないので情報が伝えられていないのではないかと考えざるを得ない。・瀬永亀次郎さん、名前だけは知っていたけど詳細はこの小説で初めて知りました。まあどこまでがフィクションなのかわからないけどです。映画も観ればよかったなと今更ながらに思っている。
2023.05.15
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・相場英雄さん初読み。〇「殺しの手」かもしれません・秋田県能代市の施設に入所していた年老いた癌末期女性が車いすごと水路に転落して死亡し、施設の外国人介護スタッフが自殺ほう助したと名乗り出た事件、疑いを持った警視庁の刑事が真相に迫っていくというストーリーだが、ミステリーと言うよりも社会派小説だと思う。アンダークラス [ 相場 英雄 ]価格:1034円(税込、送料無料) (2023/3/1時点)楽天で購入2023.2.26読了〇「日本は日が昇る国だとベトナムにいること思ったね。でも、もうとっくに日が沈んだ国、貧乏人ばかりの国だよ。」・外国人技能実習生制度実態の闇、利潤という結果追及が至上の企業倫理、そして日本が本当は豊かな国ではないということをあぶりだす社会派小説だと感じた。 〇「・・・そして、二人を結び付けていたのは、おそらくこの山側という言葉です」・神戸では山側に住む裕福な人たちに対して海側に住む人たちは貧しい人達で、山側に対して羨望を感じていたということは初めて知ったけどリアルなことなのかな?〇「取り調べ時、我々捜査員は被疑者のヘソの向きに注意を払います。人間、本心を明らかにしたくない、嘘をつき続けるという明確な意思が働いているとき、ヘソが刑事の正面から外れます」・足を組むという仕草がそうなのだけど、いやいやこれが心理だったらかなり実生活でも役に立ちそうだけどどうなんでしょう?ま、フィクションですから・・・ 〇「このメモリがこの世からなくなれば、サバンナが追及されることも、山本さんが疑われることもありません」・と言っていた従順で有能な部下であり愛人でもあった中村の最後の裏切りが、案外後味悪くなかったりした。〇「あなたは、下層の人間と言ったのですか?」「・・・はい」「舐めるなよ!」・アンダークラス=下層の人間がタイトル。選別思想?・他にはどんな作品を書いているのか気になる作家になった。またほかの作品も読んでみようかなと思っている。
2023.03.01
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・名古屋市役所の生活保護課で長く仕事をしてきた著者がおそらく経験をもとに書かれた短篇連作集。舞台はN市(たぶん名古屋市)、名古屋市の南区で地域医療を行っている診療所の所長としてはあるあるの困っている人たちのお話でとっても共感できる。曠野の花 [ 木曽ひかる ]価格:2310円(税込、送料無料) (2022/12/21時点)楽天で購入2022.12.16読了・現実的にはこんなにいいお話では終わらないことばかりなのだけど、「困った人たち」は実は「困っている人たち」だと考えて寄り添っていく姿勢は忘れたくないと思っている。隠れた名著として多く読んで欲しい。・コミックでも「健康で文化的な最小限の生活」はお勧め→ブログ内
2022.12.21
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・浅田次郎さんはAudibleの1つを含めてたぶん7作目。自分の中では社会派小説家に分類していたのだけど、読んだ本を振り返ってみるとそうでもない?社会派小説は戦争関連の「帰郷」、ファンタジー系の「鉄道員(ぽっぽや)」「地下鉄に乗って」「おもかげ」、時代小説系で「お腹召しませ」、Audibleの「長く高い壁」も戦争中のミステリーだけどちょっと軽めだった。ハッピー・リタイアメント (幻冬舎文庫) [ 浅田次郎 ]価格:660円(税込、送料無料) (2022/11/23時点)楽天で購入222.11.17読了・この作品も天下り小説なので風刺のきいた社会派小説なのだけど軽めの、ミステリー&エンタメ小説なので気軽に読める作品。リアルな天下り小説なのかどこまで想像なのかは分からんけど。・不器用な人生を生きてきた財務官僚の樋口と自衛官の大友が天下りしたJAMSという団体、教育係の女性葵、JAMの主である巨悪の矢島たちの登場人物が絡んだ事件のミステリー。最後に笑ったのは・・・というどんでん返しが痛快だったかというと微妙かな?
2022.11.23
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・実は冲方丁さんほぼ初読み。アンソロジーで戦国時代の短篇は読んだことがあった。「標的は日本国民1000万人」といううたい文句につられて図書館本。・いきなり中国のステルス戦闘機のパイロットが亡命を希望して羽田空港に着陸するところから物語が始まり、その戦闘機には核弾頭が積載されていることがわかる。中国政府主導のテロ?本当の首謀者は誰?目的は何?みたいな感じで話が展開していく。アクティベイター [ 冲方 丁 ]価格:2090円(税込、送料無料) (2021/8/19時点)楽天で購入2021.8.19読了・これってハードボイルド小説?スパイ小説なのかなあというのか政治的すぎてついていけなかった。警察、経産省、外務省、防衛庁・・・で、タイトルの「アクティベーター」って何?というのも分からないまま。何となくエヴァンゲリオン的な曖昧さが残るのが魅力なのかもしれないが、すっきりはしなかった。ハッピーエンドではあったのだけど。心理戦にもついていけなかったなあ・・・・米軍(米政府)と日本の一部の闇世界のメンバーが日本を牛耳っている、日本の外交政策はアメリカの許可の範囲内でないと許されない状態になっている、などとってもリアルな感じがした。そう考えれば、日本政府の現実のいろいろな逃げ腰で腰砕け国際政策だったり妙に踏み込んだ政策だったりに納得がいく気がする。(小説の建前はフィクションだがリアル?)・忍者もの大好きな私としては、主人公の一人である真丈の格闘シーンにゴルゴ13かカムイの世界かという感じでひき込まれた。たぶん著者は格闘技の経験ありかな?と想像する。・読み終わっても、何だか話についていけなくて理解できなかったことや分からなかったこともたくさんあって消化な感じも残る。そもそもタイトルの「アクティベーター」って何?というのが分からない。・ついていけないところがたくさんあって全体のうちどれだけを理解できているのか分からないが小説としては楽しめて面白かった。ある意味エヴァンゲリオン的?
2021.08.20
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・第1回大藪春彦賞新人賞受賞作で今野敏さんも馳星周さんも絶賛!?ということで・「らんちう」「鯖」に続いて赤松さんのデビュー作を図書館本で。著者の初読みだった「らんちう」では新鮮さもあって興味をそそられての3作目だったが、金や女に絡んだ人の欲や弱さがあぶりだされるパターンは同じ。面白くないわけではないけど読みおわってもすっきりしないのが赤松利市さんなのだろうか。金や贅沢、女性が男の人生を狂わせるということだけが彼が小説で表現したかったことなのか、もっと別のことが伝えたかったのか分からない。藻屑蟹 (徳間文庫) [ 赤松利市 ]価格:704円(税込、送料無料) (2021/6/25時点)楽天で購入2021.6.19読了〇「青年へ。今日は本当に楽しかった。でもモクズを見て思い出した。俺は、いつまでも、生きていたんじゃいけないんだ。詳しくは純也が知っている。いよいよ死ぬ時だなと、覚悟ができた。青年と、純也の二人で、俺を旅立たせてもらえないか」〇「しかしです、過剰とも思える賠償金の狙いが、原発避難民と一般市民との分断を意図した施策だと考えればどうでしょう」「莫大な補償金を得ることで、原発避難民は孤立してしまった」「ところが、補償金の狙いはそれだけじゃなかった」・・・「帰還した避難民への補償金は打ち切られます」〇いずれにしても、死んだのが除染作業員というだけで、純也のことは流されていまうのだろう。・原子力ムラや政治家たちの癒着や巨悪をあぶりだして暴くのかと期待していたのだが、こじんまりとまとまってしまった感じでラストもなんだか寂しかった。
2021.06.25
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・変な小説だった。中盤まで淡々と全然盛り上がることなく1人称で語られる。語っているのはどうも天皇の奥さん、つまり皇后さんだとわかり盛り上がるかと思いきやイマイチ。皇后がインターネットを通じて時の政府関係者にメールを送って「反乱」を起こしていよいよかなと思いきやイマイチ盛り上がらず、ついには天皇自身が「詔勅」として意見を表明するという「反乱」を起こすのだが・・・・島田雅彦といえば、現実をモチーフにしてリアルな政治的小説を書く、どちらかと言えば左翼的というか国民目線に立った作家だと認識している。この作品もそんな作品だが、主人公が天皇家の皇后である点が画期的な発想、憲法を順守しようとする平和主義者の皇室と「マフィア」と表現される時の政府や官僚たちの構図ってリアルなのかな?と考えてしまった。確かに天皇家の人たちって人はよさそうだけど、そんなに聡明なのか? 俯瞰的に歴史や世界を見えているのか?小説なのにリアルな現実社会と比較してしまう。スノードロップ【電子書籍】[ 島田雅彦 ]価格:1760円 (2020/11/2時点)楽天で購入2020.10.30読了〇ミセス・ネバーとミス・OK●盗聴器まで仕掛けて監視している女官がミセス・ネバー、次女のジャスミンはミス・OK、彼女の手ほどきで「ダークネット」という場に怒りに満ちた本音を暴露するようになった皇后のハンドルネームが「スノードロップ」〇不愉快な内奏・抑止力に関する総理と天皇の対話が妙にリアル(総理は安部さんをモデルにしている感じ)―その平和は抑止力によってですね、辛うじて保たれているので、日米同盟に依存しなければ、他国の侵略を受けてしまう恐れがあるわけであります。第3国と戦争になった場合は、同盟相手に味方するのは当然の義務でして、日本を守るためには他国との戦争にも参戦しなければならないということを肝に銘じていただきたいものです。(総理大臣)―そんな戦争によって平和を維持するようなことは肝に銘じられません(皇后さん)●総理の発言はまったくリアル、本当に皇后さんがこんな発言をしてくれたらいいな、面白いだろうなと思った。・様々な人に語らせる歴史認識はおそらく著者の歴史認識なのだろうと思う〇アメリカは国体のような曖昧なものにも、三種の神器のような物品にも興味はなかった。ただ、この国を永遠に自分たちの管理下におき、占領を続けられれば、それでよかった〇「日露戦争によって、日本はその後の未来を買収されてしまった」という歴史認識・・●これについては今まで知らなかったので調べてみる必要がありそうだと思った〇今この国を牛耳っているのは、ホワイトハウスやCIAや「日本の心を守る会」や官邸の後ろ盾を得ている以外に何も取柄にない人々です。・天皇がついに反乱を起こして書いた「詔勅」より〇私は厳格に憲法を順守しているが、あなたたちは公然と憲法を憎み、軽視していることは明らかである。憲法を踏みにじる者に憲法改正の発議をする権利はなく、速やかに政権から退場し、最高法規を犯した罪を裁かれるべきである。あなた方は司法を自らの支配下に置いているつもりであるが、それも三権分立の原則に反する。〇嘘をつくな、史実を語れ●まさに著者が言いたいことを天皇に語らせたんだと思うが、実際に天皇さんがこんなことを考えていたとしたら世の中捨てたもんじゃないなと思えるな。・あまり興奮したり盛り上がったりはしなかったけど、面白い作品だったと思う。かなり政治的にリアルな内容なので評価は分かれるのだろうなと思うが、あえて書いた作家島田さんの決意も感じたのだった。
2020.11.02
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・小杉さんは「残り火」が良かった印象からBOOKOFFで買って長く積読しておいたこの本で2本作目で、何の前情報もなく読みだした。上巻は第二次世界大戦直前から終戦まで庶民の目線で書かれていた。・ミステリーでもないのにページをめくる手が止まらない社会派小説だと思ったが、やはりミステリー小説でもあったし、新吉と和子、伊吹と道子の大人の純愛小説だったと言ってもいいのかもしれない。灰の男(上) [ 小杉健治 ]楽天で購入2020.6.13読了・親から勘当されてまで志した噺家の道だったのに、その実直さゆえに戦争政策に迎合する落語界が受け入れられずに挫折して紆余曲折の末に実家に帰った新吉、貧民窟で生活する父親と弟を捨てて芸者になって自分を育ててくれた訳ありの母親に育てられた大学生の伊吹、その2人の視線から交互に語られ、次第に二人の人生が交錯して合流していく。新吉がかつて心を通じていたが見捨ててしまった娼婦の和子や、東京大空襲の死者を弔う囚人で道子の遺品である万年筆を手にした森田からの視点の章もあり、下巻への興味と期待とともに不安も感じてきたのだった。・3月9日東京大空襲のシーンが圧巻でとってもリアル!(といっても自分もみたことがないんだが)実際に経験している以上の臨場感とリアルさを感じた。・小杉さんの作風と自分の相性なのかもしれないが、登場人物それぞれの心理描写などもとてもよく分かって共感できるし、ストーリー自体も無理がなくて自然に受け入れられる感じだった。全体としてもやはりリアルだなと思う。・ミステリーでもないのにページをめくる手が止まらず上巻は一気読みだった。とは言え、悪人だと思っていた田尾が実は人間的な人だったと分かってきたのに「田尾はなぜ、誰に殺されたのか?」そして「伊吹の兄はなぜ自死したのか?」という謎を残して下巻に続く。やはりミステリーなのだろうか?社会派小説だよね。灰の男(下) [ 小杉健治 ]楽天で購入2020.6.14読了・下巻第4章「遺志」は一転して戦後、新たに登場した弁護士皆瀬幸三郎という人物の視点から始まる。戦後を生きる新吉の視点からと交互に語られるが、伊吹が登場しないことに違和感を持ちながら読み進める。ページをめくる手が止まらず上巻同様一気読みだった。・第5章「運命の糸」は、さらに時代が変わって平成12年の話。連続放火魔を追う刑事川口の視点から始まり、その容疑者を弁護することになった弁護士康一郎からの視点と交互に語られていき、実は康一郎は皆瀬幸三郎のひ孫にあたることがわかる。・謎が謎のまま残っているのは、当然わかるだろうというか想像しろよってことなのか?・敗戦が近いと知っていて、終戦後に備えて自らの利益確保に走った奴らとが戦後にのさばって利益や社会的地位を高めていった。伊吹の兄は事実を知りながら戦争に協力する記事を書いていた自分を許せなくて自死した。・かなり第2次世界大戦について国際情勢や日本国内の政治情勢などがリアルに描かれているように思う。東京大空襲や沖縄戦、広島や長崎の原爆は避けることもできたはずで、避けられなかった責任は誰も取ってないじゃないかと読めてしまう。著者がそこまで語りたかったのかどうかは分からないが、問題意識は持っているのだろうと想像される。〇庶民をばかにするんじゃない」・何でもないようなラストシーンに泣けた。・ところで「灰の男」というタイトルの意味は何?「灰の男」ってのは伊吹のことだと考えていいのだろうか?兄や道子の死を引きずって燃え尽きるでもなく灰のようになっても生きていた男という意味なのかなあと思う。・上巻では何気なく登場した万年筆、伊吹が道子とのきずなとして渡した万年筆が小道具として最終的にはとっても重要なアイテムとなったのだった。・表紙を上下巻合わせてみれば、太陽を背景に手をつないだシルエットだ。背の高い人と小さい人、親子か兄弟か?誰なんだろう?酔っぱらっていて思い出せないのかもしれないが、こんな関係の二人っていたかなあ・・・・(まだまだだなと反省しております)・また間をおいて読み返してみたい作品だった。
2020.06.13
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・新型コロナウイルス感染(COVID-19)パンデミックが宣言され、日本でも緊急事態宣言が発令される中、ウイルス感染小説として読んできたシリーズ4作目。・新型インフルエンザも疑われる致死性の高い感染症が兵庫県の山奥にある閉鎖された集落で発生した封鎖 (徳間文庫) [ 仙川環 ]楽天で購入2020.5.31読了・青沼集落は道路を封鎖されて地理的に、電話もインターネットも通じなくなって情報的にも孤立させられてしまう。いったい誰が?〇一番の問題は、何が起きているのか国民、あるいは世界に対して公表していないことだと思う。新型インフルではなく、鳥インフルエンザの人への感染であっても、国際機関への報告は義務だった。〇「人から人へと簡単にうつったら、それは新型インフルエンザだ」・ウイルスH5N1が鳥からたまたまヒトに感染した段階ではまだただの鳥インフルエンザだが、ヒトからヒトに感染する変異を起こして初めて新型インフルエンザ=パンデミックを起こす病原体になり得るってことがまず基本的知識として提示される。〇「足を延ばして奥まで入ったら、民芸品の材料がようけ手に入ってなあ。一昨日は久しぶりに作業をしよったんや。夕方には西さんのところにも歩いて行けた」・鳥インフルエンザに感染して死んだ鴨から手に入れた羽で作った民芸品にはウイルスがたくさん付着していた。それが感染源であったという話。さすが医療小説を得意とする著者なので全体としてはすっきりと科学的に理屈が通っている。〇人権問題は残るが、松下は住民のためにも封鎖したほうがいいと力説した・結局、恐れていた新型インフルエンザではなかったという結末だが、放置していたら新型インフルエンザになったのかどうかは分からない。人権を無視して村落を封鎖して最後は村人を焼き殺して全滅させようとした感染症の国際的権威松下の行為が正当化されるとは思えない。・地元に住む看護師の静香と3人の医者(紺野 新島 松下)がそれぞれの立場から、この感染症と戦うストーリー。そして集落内の人間関係も絡んで、ちょっとあり得んだろうという設定やストーリーもありながら全体としてはまとまっていて面白かった。 〇紺野は笑っていた。まるで愉快な話でもしているように。紺野の運転する車は柵を派手にはね飛ばした。〇「そのあたりは彼女も気にしていたようだ。車の中には、自分の遺体を取り扱う際には、感染防御をしっかりしろって張り紙を出していたらしい」〇「それは紺野からお前への伝言でもある。落ち着いたら感染症専門の看護師への道を考えてほしいと彼女は書き残していた。一度地獄を見た人間は、立ち直ったら次のステージに否応なく進む。もとの自分人は戻れない。・自分の中では。特に紺野という破天荒な感染症専門女医が良かった。死んでしまったからこそのストーリーではあるが、何も犬死しなくてももっとかっこよく生き残る別なストーリーも書けたのではないかと思ってしまう。・仙川環さん、3冊目。いずれも図書館本。読みやすいし構成もしっかりしている社会派小説、特に医療関係の小説として面白いと思う。読んで失敗はないが、何となくもう一つのめり込むまでいかないと言うのが正直な感想かなとも思う。
2020.05.31
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・新コロ感染予防対策で図書館が休館しているのでアマゾンで購入した。パンデミック読書シリーズ編としては「夏の厄災/篠田節子」に続いて2作目。恥ずかしながら小松左京さんの長編はたぶん初読みかなと思う。〇『復活の日』は、インターネットもなく、コピーも普及しておらず、海外渡航もままならない時代に書かれた作品だったのです。(解説より)●新型コロナ感染が全世界に広がってパンデミックになっているこの2020年、50年以上前にSF小説として書かれたこの作品が、「予言の書」(帯に書かれている言葉より)として、改めて広く読まれているらしい。また、あとがきによれば日本の長編SF小説の第1作目という位置づけの作品だそうだ。今、読んでみると空想的なSFというよりも、確かにかなりリアルな予言書的作品だと思える。科学や歴史、経済などについてしっかりした知識や思想をベースにして書かれてこそのリアリズムだと思う。昭和39年といえばワシがまだ5歳の頃に書かれた小説。すごいな!〇核ミサイルの時代になって、「惑星的な危機」が現実の問題になった時、われわれはもう一度世界と人間とその歴史に関する一切に問題を「地球という一惑星」の規模で考え直す必要性にせまられていると思う。(初版あとがき)●確かにそういう本だった。核問題は2020年の現在でもいまだ解決せず、さらに新型コロナ感染が蔓延している今、そういう目線や広い視野で考え直してみるための一冊かなと思った。復活の日 (角川文庫) [ 小松 左京 ]楽天で購入2020.5.14読了・ところで小説としては、正直ちょっと読みにくかった。センテンスが長すぎて、主語がどれだったっけ?とかこの説明はどこに掛かっているのかな?とか読み返さないと理解でいない。これって何となく英語的なのだろうか?と思ったりもした。さらに科学的なことや哲学的な歴史観が延々と述べられている部分では、それについていけなくなって「まあ、詳しいことどうでもええわ」と斜め読みしたことは告白しておく。・「たかが風邪」と思われていた未知の感染症で人類が数か月で滅亡するまでが前編の「厄災の年」、南極で生き残った人類が再生に向かって行く後編「復活の日」、その間のつなぎのような「インテルメッツオ」の3部構成。量的には「復活の日」が全体の70%以上を占めている。・細菌兵器「MM88」というウイルスー実はウイルスではなくて核酸なのだーの設定がリアルで、実際にあり得そうでスゴイ!〇そのウイルスー正確には「増殖感染する核酸」・・・〇なんでも、宇宙から採取してきた菌だそうですね。-われわれの方で名づけたMM系列という名も、そこに由来するんですよ。MMとはつまり、“火星の殺人者”という意味です。〇人体内に入ってしまえば、水から溶解し・・・その患部には、細菌もウイルスも発見されないのです●既存の細菌やウイルスのDNAを乗っ取って増殖しながら宿主の病原性をパワーアップする病原体は、宇宙から得た病原体を細菌兵器化するための研究で得られたもの、ワクチン製造の困難なMM88なのだという設定がすごい。人間だけでなく動物にも感染する病原体にも寄生する、ニワトリにも感染した。鶏卵を使って作るワクチンが作れなくなってしまった。なるほど、それはあるな!気をつけねば・・・(誰が何に対して???と自分でツッコミをいれつつ)●その病原体は超低温では活動できないという設定で、世界中の人類が滅亡して南極にいた1万人だけが生き残ってしまい、文字通り人類の復活を模索する物語。●50年以上前に書かれた作品なのに、宇宙のことや細菌、ウイルスのことなど科学的な知識が半端ない!現実に有りうるように感じてしまうほどリアルだ。〇それにしても、米ソで発射された核ミサイルの70パーセントが中性子爆弾だったとは、なんと奇妙な皮肉だろう!-中性子爆弾は、“破壊をともなわず、ただ人命だけを殺傷する核兵器”として、非人道的兵器の極致といわれたものだ。〇本来人類を死と疫病から救うために生まれてきた医学が三十五億の人類を滅亡させ、そのあと、人類を滅亡さすだけの目的でつくりあげられた核ミサイルが、皮肉にも人類を救ったということになるからだ。・ARS(自動仕返しシステム?)は悪魔の玉転がし。アメリカは致命的な攻撃を受けた時にソ連(ロシア)に向けて自動的に核ミサイルを発射するスイッチを押していた。ソ連でも同じようなシステムが作動していた。大地震が起こってARSが発動されてしまったが・・・・なんとその中性子こそが病原体を無力化する力を持っているのだった。・時節柄か、復活の日パートよりも「厄災の年」が中心の感想文になった。DVDで観た映画版はむしろ「復活の日」がメインだったような印象。改めて感想を記したいと思う。
2020.05.18
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・1963年、東京オリンピック前年の「よしのぶちゃん誘拐事件」をモチーフとしたクライムノベル?というかヒューマンドラマ。暗くて重い!(しかもぶ厚い)けど面白くて一日で一気読みだった。新型コロナで自宅にこもる土日。こんな重い小説に熱中して1日過ごすのも幸せなのだろう。映画もいいがやっぱ紙の本だなと思う。どっちにしてもどうせ忘れてしまうのだが、映画と紙の小説とでは長期記憶としてずっと残るイメージの量や質が違うように思う。・著者の奥田さんとワシはちょうど同い年、「よしのぶちゃん誘拐事件」という事件があったことは鮮明に覚えている。何だか暗いイメージがあるもののどんな事件だったのか詳細は全く覚えていない。東京オリンピックも覚えてはいるが、もうかなり記憶は怪しい。罪の轍 [ 奥田 英朗 ]楽天で購入2020.4.5読了・犯人である宇野寛治、事件を追う若い刑事の落合正雄、山谷ドヤ旅館の娘である町井キミ子、それぞれ3人の視点から物語が語られる。・礼文島の漁師、宇野寛治は幼い頃に継父から当たり屋をやらされた後遺症で脳に障害を持ち「莫迦」と呼ばれていた。空き巣で前科一犯があり、地元にいられなくなって空き巣をしながら憧れの東京へ出ていく。東京で空き巣に入った家で事件に巻き込まれて強盗殺人事件の容疑者になってしまう。・強盗殺人事件を追う警視庁捜査一課の下っ端刑事の落合は、縦割り組織の意地の張り合いなどに翻弄されながらも事件の真相に迫っていくが、そこで誘拐事件が勃発する。・町井キミ子は、母親が女将を務める山谷のドヤにある旅館を手伝っている。ヤクザだった父親が死んでから家族で日本に帰化した在日朝鮮人。利発で地域からの信望が厚いだけでなく、学生運動の「連合」や地回りの刑事ともうまく付き合っている。弟は弱小な組に所属するチンピラで、人の好さから宇野寛治とも関係している。〇「大場さんにはわからねえよ。悪さっていうのは繋がっているんだ。おれが盗みを働くのは、おれだけのせいじゃねえ。おれを作ったのは、オガやオドだべ」「おれは、何で自分が生きているのか、今までわからなかった。誰からも相手にされねえし、やりてえこともねえし、何でこの世にいるのかわからなかった」「・・・じゃあ、やりてえことがひとつ見つかって、何かほっとした」「生まれてこなかった方がいい人間もいる。おれがそうだべ」・宇野寛治を救う物語だったのか?しかし彼は、誘拐した子供を、付き合っていた女性を殺した。やりたいこととは父親を殺すことだったが未然に止められた。・時代背景としてオリンピックだけでなく、電話の普及、電話が普及したことによって誘拐事件も普及したらしい。また自動車の普及によって自由な移動が可能になった。とくにTVの普及も大きな変化をもたらしたようだ。誘拐事件を報道することで被害者が危険にさらされないように「報道協定」というのができたのもこの頃らしい。報道やワイドショーでの被害者のプライバシーや人権問題はまだあまり考慮されてない時代だった。・あえてその時代を選んでの作品だと思う。そしてその目論見は成功しているなとも思った。人間描写というか心理描写も深い。今更ながら奥田英朗さんはやはり只者ではないなと再認識したのだった。
2020.04.05
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・新聞の書評で興味を持ったのがきっかけだったように記憶している初読みの作家さんを図書館本で。・全体を通してドロドロしてなくて案外さっぱりした感じで書かれているのが良くもあり、いくぶん物足りなく感じたりもする。だからといって湊かなえ風のドロドロになるとちょっと違うなと思う。サイレント・ブルー [ 樋口明雄 ]楽天で購入2020.4.2読了・美しい自然と美味しい天然水の井戸水を求めて東京から八ヶ岳山麓のログハウスに移住した秋津夫妻と一人息子の3人家族。天然水を利用して「森のレストラン」を営んでいた。ところがある日、水の色が変になってそのうち全くでなくなってしまった。「天然水」として売るために地下水を大量に汲み上げ始めた大企業が関わる「水」にまつわるトラブルに巻き込まれたことから、選挙にも関わることになる。地元住民との軋轢、自分たちの味方だと思って応援していた新人市長候補も実は味方ではなかった・・・みたいなストーリーだ。なので途中からミステリーとしてはほぼ予想できてしまうので、人間ドラマや社会派小説と考えたほうがいいかなと思う。・水道法や林業の法律改正の問題点をしっかり勉強しているなと感じたのでなおさらちょっと物足りないのかもしれない。・応援している市長候補が実は味方ではなかったとかのストーリーは何となく読めてしまっていたが、結局落選した市長候補が主人公を訪ねてきた時の人間的なやりとりも良かったし、読み終わっての後味が良いのでとっても救われた。エピローグでは、企業の天然水くみ上げ制限で井戸水が復活したのも良かったが(それはそれで、初めっからそうしろよ!と突っ込みたくはなったが)、最初の一滴が湧き出る源流まで皆で分け入って美味しい水を飲んだラストが良かった。・著者はワシとほぼ同い年で同じ中国地方出身だとのこと。南アルプス山麓に住んでいて山に関係する本も書いているようなので読んでみようかなと思う。
2020.04.03
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・直木賞受賞、戦後の沖縄が舞台になっている話らしいということで興味を持って予約した図書館本。毎度のことながら散々待った挙句にこのタイミングですか?ってときに順番が回ってくるのだけど、今年は「宝島」読書で年越しするハメになった。・フィクションではあるのだけど、沖縄について無知だったことを反省させられる作品だった。ワシは戦後生まれの日本人で、沖縄返還の時は小学生だった。沖縄の基地にまつわる事件のことや辺野古の問題にまつわる政治的動き、沖縄の人たちの気持ちと内地の人たちの感覚(政治家だけでなく一般国民も含めて)のズレみたいなものに今まであまり気が付かずにいたことを反省させられた。コザ暴動小学校米軍機墜落事故・そうはいっても、小難しい政治の話や社会運動の話はストーリーの一部ではあるが、それを理解しなくてももちろん十分楽しめる。B級ヤクザ映画っぽいと言えばそうなんだけど・・・・ところで著者の真藤順丈さんは東京生まれと書いてあるが、なぜこの作品を書くに至ったのか、沖縄の言葉や文化、歴史に詳しいのは取材しただけではなくて何か理由があるのではないかとか考えてしまう。著者インタビューはこちら(ぜひ読んでね!)宝島 [ 真藤 順丈 ]楽天で購入2020.1.1読了・終戦直後、沖縄の米軍基地から盗みを働く「戦果アギヤー」だったヒーローのオンちゃんが消息不明となる。弟のレイ、彼女のヤマコ、仲間のグスクの3人がオンちゃんの消息を負いながらも別々な人生を歩みながら沖縄の歴史の中で絡むストーリーは飽きさせない、次々とページをめくる手が止まらずに年を越してしまった。・「予定にない戦果」とは?逃げた米軍兵士が沖縄の女性に孕ませた赤ん坊の存在が米軍にとってそんなに「奪われちゃならないもの」極秘の重要機密だったというのはちょっと解せないというか弱い感じかなとも思うけどまあ良しとしよう。・主人公3人の他ではなんとウタの存在がめっちゃ大きかったのだ。というか最後になってそれが分かるのだが、だからちょっと強引だった「予定にない戦果」の種明かしにも納得するのだ。・オンちゃんは確かにゴザの基地から逃げ出していた。逆境を乗り越えて沖縄に帰ってきていたけど、見つけた時にはガマの中で骸骨になっていた。いい人だった 優しくて強い人だった。オンちゃんに救われたウタも悩みながら一生懸命生きていた。悲しい結末ではあるけど心温まる話だった。やっぱりB級ヤクザ映画とは全然違うなと、結末まで読んでわかるのだった。・スピード感、沖縄の言葉っていうだけでなくて、何だか人をおちょくったような軽い言い回しの地の文(「カフー」の連発とかいろいろ・・・)が独特だと思ったけど、これもウチナー魂なんだろうか?(答えは保留)・もう1回読みなおすのはちょっと・・・だけどということでAudibleで聞き直しているところ。長かったが、確かに壮大な物語だったなと思う。全部聞き終わればまた感想も変わったり深くなったりするのかもしれない。〇そもそも教養があって、法や人権を重んじられる人間は兵士に向いてない。素朴な田舎者をためらいなく敵を殺せる機械に変えるのが軍隊というところだから。世界のどの戦場でも最前線に送り込まれる海兵隊員は、そのあたりをみっちりと叩きこまれる。●米民政府のアーヴィンがグスクを諜報員に誘うときに語った言葉だけど、現実なんだろうなと思う。今現在でも同じような形で現在進行形で現実なんだろうと思う。アメリカーはいつも戦争をしていないと気がすまない国だってのも同様に現実だと思った。
2020.01.06
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●原田マハさんは「キネマの神様に次いで2作目。彼女の第2の故郷が岡山でワシの第1の故郷岡山と同じだと知って親近感もわいてきたところで、どこか(すでに忘れてしまった)で紹介されていた本書に興味を持っての図書館本。太陽の棘 (文春文庫) [ 原田 マハ ]楽天で購入●この表紙の人物画はたぶん作中でタイラが描いた主人公エドの肖像画だろうと思う。●終戦直後の沖縄を語る小説。語るのは沖縄の基地に赴任してきた若い精神科医エドの視点から。12歳から始めた油絵を戦争で中断していたエドは、沖縄で偶然たどり着いた「ニシムイ・アート・ビレッジ」のタイラをはじめとする芸術家たちと出会うことによって「友情」を感じ、「芸術」を感じて楽しむことを思い出す。アメリカ人と沖縄人、葛藤はあるけど芸術は垣根を超える(って使い古された言葉なので使いたくないけど、沖縄の人たちに敬意と尊敬の念を感じるのを表す言葉がほかに見つからなかったのでスミマセン)。〇「エド。この絵を、連れてってくれ。あんたと一緒に。」〇私は、タイラのいや、ニシムイの芸術家たちの中でそっと息づいていた自尊心を、傷つけたのだ。〇アメリカのせいか、ヤマトのせいか、わからない。けれど、皆、殺されたのだ。戦争という名の、人間が生み出した生き地獄に巻き込まれて。〇大切な痛みなんだ。しばらくは刺さったままの、青春の棘さ。・・・なんで格好つけすぎかな?(アラン)〇まぶたの裏に焼き付いた光の棘を、その残像を、もうしばらくのあいだ、追いかけていたかった。●島を離れる船から見えたニシムイの仲間たちが発しているんだろう光の反射が棘のようになってエドの心に突き刺さって今でも抜けないということがタイトルの意味だったのかと思う。●淡々と描かれた沖縄の話、戦争の話。その時代の中、歴史の中の赤裸々人々のリアルな生活や感情、芸術や友情・・・面白かった(熱中してまたほかの作品を読みまくろうとか言う感じじゃないけど、ほかの作品も読めば面白いだろうなと楽しみな感じ)
2019.11.26
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東日本大震災で被害にあった遠間を舞台にして、小学校の生徒たちと応援で臨時教師となって赴任した「まいど先生」こと阪神淡路大震災で妻と娘を失った経験を持つ小野寺や地元の人たちの連作短編集は、1年目の「そして、星の輝く夜がくる」に続く、赴任2年目の続編である。海は見えるか/真山仁【合計3000円以上で送料無料】楽天で購入前作と通してテーマは同じ、子供たちは強い、自分たちで乗り越えて成長していく力を本来持っている、大人たちはそれを邪魔せずに手助けするだけでよい、みたいなことではないかと思う。あと、子供たちに正直でというか真っすぐであれというか・・・PTSD、亡くなった人よりも残された人たちの心の傷が痛ましいと思う、これも大きなテーマだろう。復興と防災と環境保護、住民本位で進まない政治も批判されていた。その通りだと思った。真山仁さんはこの東日本大震災シリーズの2作しか読んだことがない。ハゲタカシリーズが売りの作家らしいけどそっちは守備範囲でないし読んだことがない。東北出身でもないし、なんでこんな全然違うジャンルの小説を書く気になったのだろうか?考えるに、たぶん阪神淡路大震災を経験した関西出身の作家、もっというなら日本の作家として自らのアイデンティティーのために書かずにいられなかったのではないかと想像する。というかそうであってほしいと思う。
2019.11.21
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東日本大震災を題材にしたこの小説を公表するにあたってはすごく勇気が必要だったのではないかと推察される。あるいは小説家として止むにやまれず書くことになったのか?震災を題材にして利用しようとしているとは思えないし彼ら小説家たちの純粋な真心を信じたいと思う。金八先生やもっと昔の青春シリーズみたいな甘い面もあって、生徒たちを信頼してその成長を信じるというパターンにはそんなにうまくいくかとは思いつつも感動してしまったりする。いま改めてこれは大人のおとぎ話だったのではないかと思った。そして、星の輝く夜がくる (講談社文庫) [ 真山 仁 ]楽天で購入「わがんね新聞」:阪神大震災で奥さんと娘さんを亡くした小野寺先生が東日本大震災直後、東北の小学校に応援の教師として、「まいど先生」として活躍。行儀良すぎる子供たちの気持ちを開放するための壁新聞を作る話。ちょっと泣ける。「“ゲンパツ”が来た!」:東京電力職員の家族と地元住民の関係をというデリケートな問題を題材にして友情を語る話。校長先生のいい味がだんだんと出てきだす。「さくら」:先生と生徒のいい話が校長の死のいきさつのエピソードで深くなってる「小さな親切、大きな・・・」:ありえそうな地元の人たちとボランティアの人たちとの軋轢を題材に、小野寺先生とかつての教え子とのすれ違った気持ちが絡んで余韻を残す「忘れないで」:東北の被害を忘れて風化させてほしくないという気持ちもあるだろうが、忘れてしまいたい、思い出したくないという気持ちの人もいるだろう「忘れないで」は小野寺とかつての教え子である相原さつきとの関係にも絡む言葉だったのだ「てんでんこ」:えっ二宮金次郎の像は教育委員会的にはアウトなの??うまくいき過ぎのハッピーエンドだけど許そう。やはり大人のおとぎ話かな?と思ったりした。関連書籍「被災者に寄りそう医療 震災最前線の絆/稲光宏子」東日本大震災に関する本は何冊か読んだけど、私が勤務する診療所が所属する全日本民医連のドキュメントはとりあえず医療介護関係者にはお勧めかなと思うので紹介しておく
2019.10.31
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●大学は卒業した者の就活に失敗して正職になれず、派遣会社から文房具会社に就職した女性が主人公。3年たっても約束の正職にはなれずに失業、失業保険をもらえるうちはまだ何とかなったが、あれよあれよという間に転落!アパートの家賃も払えなくなって満喫暮らしのホームレスになってしまう・・・という貧困女子のリアル小説。とは言ってもそんな貧困女子が身近にいるわけでもないし出会ったこともないのでリアルかどうか本当は分からないのだけど(職業柄、貧困老人はけっこう知ってますけど、あり得るだろうなあとやはりリアルに感じる)。実は著者の体験も踏まえて書かれているらしいし。それがどの部分がかは知らないけど。●失業保険が切れてからは、正職の採用は得られずに日雇い登録で派遣の仕事でその日暮らし。満喫で知り合った同じような境遇のマユからの誘いで出会い喫茶に行くようになり男からお金をもらう生活に、「ワリキリ」だけはしたくないと思っていたのについには・・・あっというまの転落は、一歩間違えば現実になりそうなリアル感あり。早く抜け出そうと思う気持ち、理想と手っ取り早くお金を稼いでから抜け出せばいいじゃんという気持ちの葛藤もリアルな感じ。●満喫や出会い喫茶に関わる世界で知り合った仲間たち、仲間意識はあるけど心の奥には連帯感ではなく妬みや優越感、不安感があり、大卒の彼女と違って抜け出そうと思っても抜け出せない人たちがいる。そこには成育歴や無知が大きく影響している。●話変わって、何度も書いたエピソードだけど、何度でも書こう。友人の弁護士が弁護したいわゆる「鬼母」、子供を虐待死させた親の裁判を傍聴した経験を思い出す。「鬼母」に弁護の余地はないだろうという気持ちで傍聴席に座って弁護を聴きだしたのだけど、なるべくして「鬼母」になった彼女や彼(父親)に援助の手を差し伸べる必要があったのではないかと問いかけた友人の弁護は、全く自分にとっては目からウロコだった!いやホントです。たぶん、医師として人の人生に関わるときの基本的な考え方として、今もその影響を受けていると思う。充分実践しているかと言われると自信がないけど、常に忘れてはいけない見方だと思っている。〇貧困というのは、お金がないということではない。頼れる人がいないことだ。私には頼れる人がいない●医療関係者としては、そんな人たちにとって頼れる人になることはもちろん、頼れる人がいなくて困ってる人をキャッチするアンテナを持つことが求められているのだろうなと考える。病気にならなければまず医療機関にこないし、病気になっても受診してくれなければ接点がもてない!本書の感想からは離れちゃってますけど、いろいろ発想が広がっていく。〇鰺フライにはソースだ●待望のワンコインランチにありついたのに、テーブルにソースがなかった。店員に声をかけるなりなんなりすればいいのにできなかったというエピソードで始まる。けっこうこれが主人公の人生を象徴していたのかもしれないと思った。〇「いい人のフリなんかしないで、文句言ったりしろよ」「我慢して、いい人ぶっても、便利に使われるだけだからな」〇「そうやって遠慮するのがおかしいだろ?」●中盤までのドロドロで行き場がないようで読むのが辛くなる感じから、終盤、雨宮と彼の上司(彼女でもある)千鶴さんが出てから思いっきりすっきりと展望が開けて救われる結末は確かに後味も良くて嬉しかったのだけど、読み終わってからはやり過ぎだろ!とも感じてしまった。とはいえ、自分を無視した両親への逆襲も天晴れだったが、義母兄弟の弟の「高校を卒業後には東京に出る・・・何かあれば頼ってほしい」には思わず泣きそうになったが、「勇気が私に頼って」と返した愛を誇らしく感じたのだった。人としてのプライドを取り戻したんだなと感じたからだ。●あと、リアルでは福祉課にいい人はそんなにはいないだろう(余裕もないだろうし)-コミック「健康で文化的な最低限の生活」を参照(そんないい人が主人公だけど)と思った。
2019.03.08
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