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京急線のホームに立つと、風が高架の隙間を抜けてきた。遠くで列車のブレーキが低く鳴り、やがて赤い車体が、朝の光をまとって滑り込んでくる。扉が開く。人の流れに押されるように乗り込むと、車内には、旅立つ者と帰る者の沈黙があった。
列車は品川を離れ、東京の背中をすべるように走り始めた。窓の外では、ビルの谷間に残された空が細く流れ、線路沿いの建物の窓が、ひとつひとつ朝を映している。誰かの一日が始まり、誰かの一日が終わろうとしている。そのどちらも、列車の速度のなかで、同じ静けさに包まれていた。
二〇二六年。時代は、以前よりも多くのものを速く、遠くへ運ぶようになった。画面のなかで旅程は組まれ、翻訳は瞬時に行われ、知らない街の地図さえ手のひらに収まる。それでも、列車の窓から眺める景色だけは、誰かの指先で早送りすることができない。移り変わる家並みも、鉄橋の向こうにひらける水面も、胸の奥へ届くには、決められた時間を必要とした。
大鳥居を過ぎるころ、街の気配が少しずつ薄くなった。空が広がり、雲の縁が白くほどけている。車内では、眠り込んだ青年の首が静かに揺れ、向かいの席では、年老いた女性が小さな紙袋を両手で包んでいた。その袋の中には、誰かのための菓子かもしれないし、旅先で自分を慰めるためのものかもしれない。人は、見えない理由を抱えて移動する。
羽田空港の駅に着くと、列車は旅の入口のように大きな空間へつながった。案内表示は幾つもの言葉で光り、足音は高い天井へ吸い込まれていく。エスカレーターを上りながら振り返ると、さきほどまで乗っていた京急の赤い車体が、もう遠い記憶のように見えた。
空港の窓の向こうには、滑走路が伸びていた。飛行機が一機、ゆっくりと地上を離れる。誰かが故郷へ帰り、誰かが初めての街へ向かい、誰かが失った時間を取り戻すために飛ぶ。空は、行く者に理由を尋ねない。ただ、どこまでも青く、静かにひらかれている。
品川から羽田までの短い道のりは、旅そのものではないのかもしれない。けれど、旅はいつも、目的地より先に始まっている。改札を通った瞬間から、列車が動き出した瞬間から、見慣れた東京が少しずつ過去になってゆく。
(文:Manusによる)
品川から京急で羽田空港へ(写真1+Google)
品川から京急で羽田空港へ(写真1+Artguru)
品川から京急で羽田空港へ(写真2+Google)
品川から京急で羽田空港へ(写真2+Artguru)
品川から京急で羽田空港へ(写真3+Google)
品川から京急で羽田空港へ(写真3+Artguru)
品川から京急で羽田空港へ(写真4+Google)
品川から京急で羽田空港へ(写真5+Google)
品川から京急で羽田空港へ(写真1〜5) コラージュ
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