江戸こぼれ話 笑左衛門残日録

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大富士 朽木一空と五林寺隆さん

2021.01.29
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​  ​​ しゃっくり同心茂兵衛 事件帳控​ 10


​​十文飯屋4  銭落屋貧左衛門​​
~まことに世の中の哀れを見る事、貧家の辺りの小質屋(こじちや)、
   心弱くてはならぬ事なり~ 井原西鶴~
  貧乏長屋辺りの質屋は気が弱くてはやっていられないと書いてますがね、、


 江戸の地獄耳、岡っ引き一文疣(いぼ)の丑松が新しい情報を得たのはそれから十日後だった。  丑松の女房廻り髪結いのお勝が拾い聞きしてきたものだった。
  ~本所相生町に銭落屋という屋号の質屋があって、亭主は貧左衛門という。
 貧左衛門の父親は借金を重ねた金貸しに女房のお里を担保に取られ、その 女房お里に横恋慕した旗本の次男坊がお里を銭で買い、力づくで自分のものにしようとしたところへで、旗本と争いになり、無礼打ちで斬られて死んだのだそうだ。 母は結局その旗本家に連れていかれたそうだ。酷い話しじゃありませんか、
 その母のお里は、子供らにこう言ったそうです。
 「私にかかわっていれば、おびんも貧吉も酷い目に合うかもしれない。
お武家さんのやることははめちゃくちゃだからね、奉行所へ訴えたってとり合っちゃあくれない、 お前たちを、憎くて棄てるのじゃないが、母はいないものと思って生きていくんだ、貧吉、おびん(貧)を頼んだよ、」
 貧左衛門(幼少名は貧吉)には おびん(貧)という妹がいて、
兄弟は捨て子になり、頼るものもなく、名前からして貧しそうな貧吉とおびん(貧)は幼いころから、辛苦の泥水を飲みながら、苦労を重ね、いつしか、生きていくには銭だけが頼りになるものだと確信するようになった。
 毎日,陽の明けぬうちから、本所深川界隈の町をまわり、ごみ箱を漁り、紙くずを拾い、 犬や馬の糞を拾っては売って銭にした。
 貧欲で、つつましく、贅沢はせず、浪費はしない、しみったれ、けちん坊そのままの暮しをした。 もったいない、もったいない、捨てるものなんてありませんよ、ケチですから、捨てません、 銭もめったに使いません、他所で糞はしない、唾も吐かない、屁もひらない。 けちであることを恥じてはいなかった、けちこそ美徳だ、けちが人生を救う、貧吉とおびんは その一念で、他人には何を言われようとも、いつもにこにこ笑っていたそうだ。
 質素倹約をで胸を張る人はいても「自分はケチです」と、笑いながら言える人はあまりいない。 笑ってさえいれば、人との諍いもない、他人に嫌われることもない。笑って暮らすことが、ケチの第一条なのだという。笑顔に銭はかからない、だから、貧吉もおびんも、顔中笑皺でくしゃくしゃである。本物のケチには必ずこの笑皺がある。 威張った顔のケチはまだまだ本物の領域には遠い。怒ったりすれば、体に悪い、血圧も上がる、血糖値も上がる、いらぬエネルギーを使う。だから、けちは怒らない。
 無論、諍いも、口喧嘩もしたことがない。いつだって、低姿勢、頭を下げる。その方が、得することが多いのである。それが、兄弟のケチの極意だった。
 ケチに徹するにはまず、偉いだとか、上だとか、勝つ、とか、屁の役にも立たない自尊心を捨てることから始まるのである。そうすると、楽になる。楽しくケチケチ人生が送れる。
 おけら長屋の連中も、貧吉やおびんのことを「糞ケチ兄弟」などと悪態をついていたが、心の中では、兄弟の生き方をどこかで羨ましいとさえ感じているのだった。
 だが、差別の好きな長屋の貧乏な子供らは自分たちより貧しい貧吉とおからを見ると、「けちんぼ、けちんぼ」と言って虐め卑しめた。
 だが、二人はそんな世間には負けずに、笑顔を絶やさず、必死で働き、爪に火をともすようにして節約して、小銭を貯めると、その銭を元手に、長屋の者に小金貸しを始めた。御定法には触れる闇金融だったが、町の金貸しに相手にされない明日の飯にも困っていた本所辺りの貧しい長屋の人たちには有難たがれた。
 いつもニコニコしている兄弟が貸主だったので、借り易すかったのか、小金貸しは貧しい長屋にはなくてはならない金貸しになり、いつしか、貧吉とおびんの住む長屋の畳の下の銭壺は十を数えていた。
 「銭がすべてだ、銭さえあれば、何でも手に入る、なあおびん」
 貧しくて、借金のかたに女房を旗本に取られた挙句無礼打ちにされた父の無念さが
二人の体の底にはこびりついていた。
 やがて、四十を超えた時に、兄の貧吉は質屋の株を買い、貧左衛門と名を変え、銭落屋という、質屋を本所で開業した。
 妹のおびんは自分のように貧しく飯もろくに食えない子供らを手助けしてあげたいと、本所三笠町の裏長屋の横で子供相手の十文飯屋を始めた。だが、貧しい子供らはその十文さえ払えなかったので、米を買う金もすぐに底をつき、豆腐屋からおからを恵んで貰って、お稲荷さんにしたり、おからご飯を子供を食べさせたり、野草の煮汁に雑炊なんて時もあった。
 ところが、ある日からおびんの十文飯は山盛りご飯になったと言うのです。
「てえ~話なんですよ、茂兵衛の旦那、それでね、おびんの十文飯屋の米の提供者が、兄の銭落屋の貧左衛門らしいんでございますよ。」
「なんだと、ひっく ひっく ひっく、今なんて言った、質屋の銭落屋の貧左衛門だと、 こりゃあ、えらいことつながってきたぞ、おい丑松、その相生町の銭落屋貧左衛門、のところへ行くぞ、へ行くぞ、、ひっく ひっく ひっく」
「へいっ、合点でいぃ。。」
   つづく 朽木一空
      しゃっくり同心茂兵衛 事件帳控





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最終更新日  2021.01.29 00:00:18
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