江戸こぼれ話 笑左衛門残日録

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陣太鼓 New! 朽木一空と五林寺隆さん

2021.11.18
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​​      ​江戸切絵図から消された町 3
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​​  お歯黒どぶと羅生門河岸 ​​
「さて、彦五郎、腹の虫も治まっただろうから、もう一か所,見て回わろうか」
 ご隠居と彦五郎は 一膳飯屋で深川飯を食い、少々酒も入れた体で、山谷掘りに沿った 土手八丁(日本堤)を吉原の方へ向けて足を進めた。
 土手の両側には水茶屋がずらっと並んでいた。遊客は吉原へ行く前に、心を落ち着かせようとでもいうのか、 一休みできる店で湯茶を飲むのだった。茶屋の中には看板娘を置いて、評判となる店もあるという。
  ご隠居と彦五郎も腰を降ろして湯茶を一杯呑んだ。
 まだ、暮れ六つには時があるのに、角帯を締めた粋な形(なり)の遊客や武士が吉原に向けて、茶屋の前を通りすぎていった。
 「真昼間から吉原とは、随分、お武家様もいい身分でございますね、」
 「そうでもないさ、大名家の武士は里に女房子供を置いて江戸に来てるので、股間が淋しいのだ。 かといって、大名家の家臣では夜の外出ができず、まして外泊など許されないので、昼間に吉原に足を運ぶのだよ。
  また、それを目当てに、吉原では昼八つ(午後二時頃)には遊女が昼店に出るのだそうだ。、さて我らも出陣と行こうか」
 「ご隠居、ありんす、ざんすの吉原ですね、、へっつへっへっ、なんてっても、吉原にゃあ、5千人もの遊女がいるそうですからねえ、」
 「まあ、遊郭に入りことは入るが、穴には入らねえよ、、」
 「なんですか、それじゃあ、饅頭の皮だけ食べて餡子はお預けってことですかい?」
  八丁土手の見返り柳を折れて、衣紋坂を下っていく。
 衣紋坂には編み笠茶屋が並んでいて、そこで編み笠を借りるのだ、廓内で女郎を品定めする時にはこちらの顔は見せないのが粋な遊び人なので、 手拭いのほっかぶりじゃ、様にならねえので編み笠は人気があった。
 二人は吉原大門口を潜った。大門の左側には面番所という隠密廻り同心が常駐している番所があり、 右側には四郎兵衛(しろべえ)会所という監視所があり、怪しい者に目を光らせていた。
 大門からまっすぐに伸びた大通り、仲の町通りには引手茶屋(ひきてぢゃや)」がずらりと並んでいて、遊客に声をかけていたが、 ご隠居は迷うことなく、その仲の町通りをずんずん歩き、突き当りの手前の左側、京町二丁目の木戸を潜った。
  京町通りの路地へ入ると、左右に張り見世が並んでいて、遊客たちが女郎の品定めをしていたが、 ご隠居はその遊女に目もくれずにどん詰まりの方まですたすたと歩いていった。
 この辺りの 張り見世 は裏がお歯黒どぶに接していて、羅生門河岸といわれている吉原でも最下層の遊女が相手をする場所だった。
 「気をつけな、彦五郎、腕を引っ張られねえようにな、」
 遊女が路地に出て、遊客の袖を引っ張り、強引に店に連れ込もうとする。
  花の吉原とはいうものの、華やかな花魁(おいらん)のいる世界だけではなかった。 京町二丁目の一番奥の吉野家という 店の前で、やりて婆が笑左衛門を見ると、
 「おや、今日は二人だね、おまけしてふたりで揚代は400文だよ、」
 葉の抜けた老婆が遊女だった、はじめて羅生門河岸に足を踏み入れた彦五郎はなんだか薄気味が悪かった。
 「部屋を少しの間借りるだけだ、相手はしなくてもいいよ、はいっ400文」
 鉄砲女郎とも呼ばれる最下層の女郎は一発100文が相場だったので、やりて婆は歯の抜けた顔で笑った。
  吉原遊郭は敷地面積二万坪余りあり、遊女が逃げ出さないように廻りをぐるっと二間幅のお歯黒どぶが囲んでいて、どぶには汚水が流され悪臭を放っていた。
 出入り口は大門のみで、
面番所と四郎兵衛会所が見張りをしている、 閉ざされた町であった。 五千人は住んでいるだろう女たちだが、囲いの外に出ることは許されていなかった。
  つづく 朽木一空
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最終更新日  2021.11.18 10:30:06
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