江戸こぼれ話 笑左衛門残日録

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小便爺 出物腫れ物… 朽木一空と五林寺隆さん

2023.01.27
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​  ​謀られたり!燻り侍 7


​茂兵衛の女 ​​
私用では屋敷の外に出ることが許されなかった勤番武士としては、 数少ない外出日は制限時間いっぱいまで使いたいところである。
 門限は暮れ六つ(午後6時)、門限破りには藩留守居役の田野倉右膳は厳しく、 茂兵衛や菊三郎と千之助らと、一緒に江戸へ来た勤番の長坂亀次郎は岡場所からの朝帰りが発覚し、 見せしめであろうか、国元に強制送還となり、長きにわたり謹慎に処せられた。
 菊三郎や千之助のように屋敷を抜け出しては遊びまわる危険な橋を渡る者は少なった。
 門限を過ぎてしまった時には、門番に賂(まいない)100文を渡して門の脇の潜り戸を通るしかない。 したがって、勤番の門番の懐は暖かかったのだ。
 下級侍たちは、せいぜい、8文の湯屋に出かけるのを外出の口実にして、屋敷を抜け出し、 湯屋の二階で囲碁や将棋を指すのを楽しみにすることぐらいであり、 藩に忠実な勤番武士は屋敷の長屋で過ごすこことが多かったのだ。
 そんな勤番武士相手に大名屋敷には出入りの貸本屋が出入りしていた。
 頼んでおけば様々な読み本を持ってきてくれた。
 軍記ものから、滝沢馬琴の小説、江戸の恋愛小説、人情本、遊廓を舞台にした洒落本、錦絵、 春画(しゅんが)は若い侍には欠かせない読み物であった。
 芋野茂兵衛も読み物が好きだったので小石川の屋敷内で貸本を読みふけっている日が多かった。
 菊三郎や千之助のように江戸の悪臭に染まりたくはなく、 郷里に残した女房のおたよが懐かしくてたまらなかったくらいだった。
 屋敷に籠っていた茂兵衛は藩留守居役の田野倉右膳に呼び出された。
 「おぬしは、折角の江戸なのに楽しんでおらぬようだのう、」
 「はっ、お役目は殿を警護するためでござりますれば、、」
 「うむ、殊勝な心掛けだ、ところで、用を一つ命じる。
  柳橋の清風という料亭にいる”おしの”という女にこの書状を届けてくれ、
  今日はな、骨安めをせい、ゆっくりしてこい、なんなら泊ってきても許すぞ、
 これは駄賃だ、もってゆけ」
 留守居役の田野倉右膳の言うことはよくわからなかったが、 芋野茂兵衛はいわれたとおり柳橋の料亭清風にいた”おしの”という女に会った。
 面長で切れ長で涼しげな一重の目 鼻筋が通り、小さな口、きめ細やで白い肌、美しく豊かな黒髪、 それにいい匂いがしていた。まさに絵にかいたような江戸美人の女がいたのだ。
 「田野倉様から、大事におもてなししますようにと伺っておりまする。、、
 さあおひとつどうぞ、」
  誘い上手なおしのに乗せられて酒を口にした。
「茂兵衛さん、出羽のもんですよね、懐かしい匂いがするでねえか、」
 「拙者は出羽崖淵藩じゃが、なぜわかるのだ?」
 「浅葱裏の着物着て、燻りがっこの臭いをさせて、訛った言葉で話せば、 出羽の者だとすぐわかりますよ、あたいは亀田村で、隣の藩です。」
  おしのという女、天保4年の飢餓の時に江戸に売られたのだという、 村のおなごはみな親や兄弟を助けるために売られたのだという。 それが宿命だと幼いころから覚悟はしていたのだ。
  江戸のお屋敷の下働きと云われたけど、着いたところが柳橋の料亭だった。
 崖淵藩の殿様はそのようなことがないように藩の政治を差配していた。
 郷里が近ければ話は弾み、懐かしくなり、心が通い合い、 肌を合わせるのに時間はかからなかった。
 芋野茂兵衛は郷里に残したおたよを忘れたわけではなかったが
 おたよとはまたべつの柔らかい肌のあか抜けしたおしのに惹かれていく自分を感じていたのだった。
夕陽に町々が染められてゆくように 江戸の町に来た参勤交代の男たちも次第に江戸色に染まってゆくのが常であった。
  つづく 朽木一空





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最終更新日  2023.01.27 10:30:07
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