江戸こぼれ話 笑左衛門残日録

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月夜の傘 朽木一空と五林寺隆さん

2025.05.28
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​​忍草 外伝​​
​   ​翁と忍犬   6


​~春遠く 犬と寝そべる 川辺かな~​
箱根路から江戸まで24里と35町、
 桑名から江戸までが95里だから、すでに箱根路まで70里を歩いた
 勘定になる。
 陰葉退蔵と小次郎の江戸への旅路はここまで安泰に進んでいたが、
 ここからの箱根路では山賊、野盗などの賊が出るので用心が肝要であった。
 <盗まれるものなど、なにもありゃあしないよ>
 などと呑気に構えてはいられない。
 寒月才蔵から預かった書状の入った行李を江戸まで届けなくてはならないのだ。
 箱根路の山間の険しい坂道を登っていくと、案の定、
 湯時客が三人の山賊に襲われる場面に出くわした。
  「儂が、箱根路の大盗賊石山の五左衛門様だ!
   銭をださねえか!」
  「お願えだ、命だけは助けて下せえ、」
 襲われたのは身なりからして江戸の大店のご隠居だろう。
 退蔵が目配せすると、小次郎は素早く、三人の山賊の前に出張ると、
 <ウッーウッー>と唸った。
 「小癪な犬め、殴り殺してしまえ、、」
 山賊が段平(だんびら)を振りかざすと、小次郎は間髪を入れずに三人の山賊の手足を次々に噛んだ。
 <きちがい犬だ、狼だ!>
 追剥の群れは散々な目にあって遁走した。
 ~箱根路を 犬に追われて追剥が~
  助かったのは、深川の老舗味噌問屋三河屋のご隠居と、その手代であった。
 <旅は道連れ世は情けじゃ、>
 不安から逃げきれないご三河屋のご隠居に退蔵と小次郎は
 江戸までの道連れを切願された。
  見返りとして、箱根路からは旅籠も飯も茶屋の団子代も、
 三河屋のご隠居のおごりだったので、退蔵と小次郎は
 空腹と寝処の心配から解放されたのだった。
 <お犬様のお蔭でございます、>
 <犬ばかり褒めやがって、>
 無事江戸日本橋を渡ると、
 「無事江戸に安着いたしましたのも、退蔵翁と小次郎様のお蔭、
かたじけなく思います。深川へお立ち寄りの際はぜひ霊巌時裏の
 三河屋の別宅へお立ち寄りくださいませ、」
 道連れだった三河屋のご隠居とも袂を分かち、
 陰葉退蔵と忍犬小次郎は、伊賀の柄家の寒月才蔵に頼まれた、
 振り分け荷物を届けるため、四谷の伊賀屋敷の柄藤重左衛門を訪ねた。
 「たのもう!、、」
 が、伊賀屋敷の用人から、
 「柄藤重左衛門は突然、屋敷から姿をくらまし、
 その後の行方はようとして知れませぬ、」と告げられたのだ。
 <ふむ、伊賀の密命を受けたのだな ワン>
 伊賀の草と呼ばれる隠れ忍者は密命を受けると、屋敷の誰にも告げずに姿を消すことは珍しいことではないという。 
 陰葉退蔵と忍犬小次郎は江戸の町で、路頭に迷うことになった。
 行く当ても失い、やることもない退蔵と小次郎は
 四谷から江戸城をぐるりと一周し、両国橋に辿り着いた。
 <はて、小次郎、これからいかがいたすか?>
 <サイコロでもふりますか?犬は主人に着いてゆくだけでござる、わん>
 ~どうするか 犬もあんぐり 隅田川~
 行く当ても失い、やることもない老爺の退蔵と小次郎は
 両国橋際の大川の端の葦に包まれるようにして、
日がな川の流れをみつめ、時を流していた。
 藩を追われ、女房に逃げられ、住むところも失い、
 どうにでもなりやがれと、退蔵は暗く鬱々としながら、
 やけのやんぱちで、人生を投げ出したような気持ちだったが、
  忍犬の小次郎と旅することで、少しずつ異変が起きていた。
 <てやんでい、、身分が何でい、武士が何でぃ、
 そんなものうっちゃっちゃえ、そうすれば、
 犬や猫みてえにな、幸福な顔をして眠ってられるってことよ>
 江戸の町の夕陽は暮れ落ちようとしていて、
 夕陽を背にして薄(すすき)を噛む退蔵に、
 小次郎が<でいじょうぶかな?>と
 心配しているように見えたのだった。
 つづく 朽木一空





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最終更新日  2025.05.28 00:00:16
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