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2006年03月31日
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カテゴリ: 露野
 ただ、一度だけ、姫君がまだ東宮の御息所と呼ばれていた頃、御車の簾の蔭からほのかにお顔を拝したことがある。

 その日、姫君は京の郊外にある大原野に詣でた。大原野神社は藤原氏の氏神を祭る春日大社の分祠で、京の都の西にある。宮中で権勢を誇る姫君の御参詣とあって、一族の方々も華やかな行列を作って後に従った。私も近衛府の武官として一行の供をするよう命ぜられ、威儀を正し馬に乗って行列に加わった。

 大原野神社を参詣した後、供に加わった者たちには、姫君からそれぞれ豪華な褒美の品が下賜された。私はそれを受け取るために、姫君の車の前で畏まった。

 この中に、あの人がおられる。

 そう思うと、私は懐かしさに胸が詰まり、それが歌に姿を変えて、思わず私の唇から迸り出た。


大原や小塩の山もけふこそは 神代のことを思い出づらめ

(ここ大原野の小塩の山の祭神である天児屋根命も、きょうこそは、御子孫である姫君の御参詣に当たって、神代の昔を思い出されることでしょう)


 表面上は単なる参詣を寿ぐ歌だ。姫君の御車の周囲を取り囲む大勢の殿上人たちも、そう思ったであろう。

 だが、あの人だけは、私の真意を読み取ってくれるかもしれない。






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最終更新日  2006年03月31日 15時43分46秒
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