山本藤光の文庫で読む500+α

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2015年05月27日
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高校一年の斉藤くんは、年上の主婦と週に何度かセックスしている。やがて、彼女への気持ちが性欲だけではなくなってきたことに気づくのだが――。姑に不妊治療をせまられる女性。ぼけた祖母と二人で暮らす高校生。助産院を営みながら、女手一つで息子を育てる母親。それぞれが抱える生きることの痛みと喜びを鮮やかに写し取った連作長編。R-18文学賞大賞、山本周五郎賞W受賞作。(内容紹介より)

窪美澄『ふがいない僕は空を見た』(新潮文庫)
くぼ窪美澄:ふがいない僕は空を見た.jpg

◎3つの「せい」(生・性・青)のそろい踏み



『ふがいない僕は空を見た』には、5つの短篇が所収されています。連作小説集といえる内容で、主人公は高校1年生の斎藤卓巳くん。母子家庭で育ち、母親は助産院を経営しています。

 私はこの作品を単行本で読み、文庫化されて再読しました。「山本藤光の文庫で読む500+α」で紹介することは、単行本を読んですぐに決めていました。当初は主人公の名前のように、巧みな作家が登場したなという印象でした。

 文庫を読むにあたって、大好きな重松清の解説を先に読んでしまいました。掟破りかもしれませんが、単行本を読み終えている小説が文庫化されると、必ずそうしています。記憶を呼び戻すといえば格好がいいのですけれど、文庫本の愉しみはだれが「解説」を書いているのか、なにを書いているのかにあります。それゆえ「解説:重松清」をみたときに、思わず「やった」と叫んでしまったくらいです。

『ふがいない僕は空を見た』は、重松清の世界に似ています。重松清の初期作品『ビフォア・ラン』(幻冬舎文庫)、『舞姫通信』(新潮文庫)などと重なってしまいます。「生」と「性」は小説の最大のテーマです。2人の共通点は主人公が落ちこぼれという点で、このあたりの設定が他の小説とは異なります。さらに2人の共通点は3つめの「青」(せい)をみごとに描く点にあります。どうしようもない若者にたいして、いつも「しっかりしろよ」といいたくなる作風なのです。

 お断りしておきますが、未読の方は絶対に「解説」から読んではいけません。重松清の解説は、すばらしすぎるからです。

◎重松清の文庫解説はあとから読むこと

 収載作「ミクマリ」は「R-18文学賞」大賞を受賞しています。賞の名称を正確に書くなら、冠に「女性による女性のための」というリンカーンみたいな言葉が付記されています。

 年上の主婦・あんずに求められてコスプレイセックスに興じる卓巳と、卓巳に思いを寄せる同級生・松永七菜のすれ違いに「しっかりしろよ」の叱咤がでてしまいました。

 収載作「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」の主人公は、年上の主婦・あんずとなります。旦那は存在感のない人。私が若いころ経験したMR(医薬情報担当者)をしています。この人がなんともふがいない。ここでも読みながら、何度もツッコミを入れることになりました。作者の窪美澄さんに、いいたいことがあります。MRってあなたの描く姿と全然違っていますよ、と。

――慶一郎(注:あんずの旦那)さんは製薬会社でMRと呼ばれる営業の仕事をしています。また、ドクターにいじめられたのかな。開業医の担当になってから、こんなに早く帰れることはめったにないのです。慶一郎さんの担当ドクターのなかにひどく難しい方がいるらしく、休日に早朝からゴルフにつきあわされたり、娘が行きたいというジャニーズのコンサートチケットを用意させられたり、苦手なカラオケで夜遅くまで接待させられたりと、大学病院を担当していたときとは違う慣れない営業が続いていたのです。(本文P46より)

 MRは接待禁止ですし、大学病院担当者が開業医担当になるのはきわめてマレな例です。

「2035年のオーガズム」「セイタカアワダチソウの空」「花粉・受粉」になると、斎藤卓巳くんはわき役となります。性にあこがれる女子同級生、アブノーマルな性を嗜好するバイト先の男性先輩、生をつかさどる母親が主役にとってかわるのです。

 5つの作品を解説の重松清は、とてもすてきなキーワードでつないでいます。さすがだなと感心しつつ、窪美澄の魅力を再発見させられました。いまは待望の第2作品『晴天の迷いクジラ』(新潮社)を開くのを楽しみにしているところです。

 窪美澄のステップアップは、見えています。吉川英治文学新人賞か芥川賞。それまでにぜひ、産まれたてのほやほや『ふがいない僕は空を見た』をお読みいただきたいと思います。読み終わったら、あなたの読後感と重松清の解説を、照合してもらいたいものです。素晴らしい作品に乾杯。
(山本藤光:2012.11.11初稿、2015.05.26改稿)





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最終更新日  2017年10月09日 13時57分01秒
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