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2015年07月14日
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カテゴリ: 国内「た」の著者
「…私はひとを呼ぶ/すると世界がふり向く/そして私がいなくなる」(『六十二のソネット』所収「62」より)。時代を超えて愛される谷川俊太郎の詩作のすべてから新たに編んだ21世紀初のアンソロジー。第1巻は処女詩集『二十億光年の孤独』『愛について』『日本語のおけいこ』『旅』『ことばあそびうた』など17冊の著作と未刊詩篇より、1950~70年代の代表詩を厳選。巻末カラー付録に初版装幀選も。(「BOOK」データベースより)

谷川俊太郎『谷川俊太郎詩選集』(全3巻、集英社文庫)
たに谷川俊太郎・名詩選集1.jpg

◎国民的な詩人



 谷川俊太郎は、1931年に生まれました。詩人であり、翻訳家であり、絵本作家であり、作詞家でもあります。ただし小説家という肩書だけは、つけられていません。詩の世界から小説の世界に、参入する作家は数多くいます。しかし谷川俊太郎は、かたくなに詩の世界にとどまっています。

 そのあたりのことに、ふれられている文章があります。大江健三郎は著作『方法を読む・大江健三郎文芸時評』(講談社)のなかで、「谷川が小説を書くことへの期待があったが」としたうえで、「かれには詩の形式をつうじてあらゆることが表現できるし、かつ詩の形式をとらぬかぎり、なにひとつ確実には表現できぬと、かれ自身確信している」(P175より)と結んでいます。

 谷川俊太郎の作詞による歌で、いちばん有名なのはレコード大賞にもなった「月火水木金土日のうた」です。フランク永井が、松島みのり、真理ヨシコといっしょに歌っていました。また「鉄腕アトム」の「空をこえて ラララ 星のかなた」というのも谷川俊太郎の作詞によるものです。

『谷川俊太郎詩選集』(全3巻、集英社文庫)によせて、沼田充義はつぎのように書いています。
――このたびこの詩人の半世紀以上にわたる業績を見渡せるような詩選集が、簡単に買える全三巻の文庫本になって登場した。編者は、中国人の谷川研究者であり、谷川詩の中国語訳者として大きな業績のある田・原さん。まる一年を費やし、全作品を周到に調査して編んだ。まさに入魂のアンソロジーだ。(毎日新聞「今週の本棚」2005.10.22より)

 谷川俊太郎の詩について、鶴見俊輔が著作のなかでつぎのように書いています。
――日本人の日常生活そのままに、その生活にそうて歩いてゆき、じれて日常生活の切断をはかることなく、どこまでも普通に歩いてゆこうとする。彼の詩は日常の言葉でどこまでゆけるかの実験である。(鶴見俊輔『思想をつむぐ人たち』河出文庫P187より)

 正直なところ谷川俊太郎の、どの著作を紹介すべきか迷いました。『マザー・グース』(全4巻、講談社文庫)も好きですし、『詩めくり 』(ちくま文庫)も捨てがたい著作です。

 でもいちばんたくさんの詩にふれられるからという理由で、『谷川俊太郎詩選集』(全3巻、集英社文庫)を選ぶことにしました。『谷川俊太郎詩選集1』の巻末にはカラーで、「収録詩集装填選」がつけられています。どの詩集も、うっとりするほど味わい深いものがあります。これだけでも、本書を選ぶ価値がありそうです。

 谷川詩集は、ページのどこから開いてもかまいません。そのページをじっくりと、読んでいただきたいと思います。えいやっとめくってみました。こんな詩にであいました。

(引用はじめ)
(「わらべうた・続」より)
あした

あしたのしたは どんなした
ああしたこうした にまいじた
ゆめをみるまに だまされる

あしたのあしは どんなあし
ぬきあしさしあし しのびあし
かおもみぬまに にげられる
(『谷川俊太郎詩選集1』P141より)
(引用おわり)

◎紹介しきれない著作

 ちなみに『マザー・グース』(全4巻、講談社文庫、谷川俊太郎訳)は、和田誠の絵が表紙になっていて、巻末には「原詩と解説」がそえられています。「1.あそばせうた・こもりうた」の最初のページを紹介させていただきます。

(引用はじめ)
おやゆびこぞうが なやにおしいり
ひとさしゆびが むぎをぬすみ
なかゆびじいさん そいつをはこび
くすりゆびくん すわってみてた
だけどこゆびは おかねはらった
(引用おわり)

 原詩はもちろん英語で掲載されています。
Thumbikin,Thumbikin,broke the barn.
Pinnikin,Pinnikin,stole the corn.
Long,back’d Gray carried it away,
Old Mid-man sat and saw.
But Peesy-weesy paid for a’.

 そして解説にはつぎのような説明がなされています。
――手指遊び。幼児の手指を、親指から順番に、この唄に合わせてつまんであやす(後略)。

「マザー・グース」は、英米を中心に親しまれている英語の伝承童謡の総称です。私は大学卒業後に、外資系製薬会社に入社しました。そのときに語学力をあげるためにと、先輩から紹介されたのが「マザー・グース」でした。

『詩めくり』(ちくま文庫)には365日の暦と短詩がのせられています。たとえばこの原稿を書いている11月14日のページをひらくと、つぎのような短詩があらわれます。

(引用はじめ)
生まれたその日から一人の女の顔を
(できれば自分の顔を)
毎朝一コマずつボレックスで撮って
二十分前後の短篇に仕上げ
<お早よう>という題名をつける
そんな映画を見たいと思うのは何故かしら
というスクリプトをさっき読んだ
(引用おわり)

 大江健三郎は著作『方法を読む・大江健三郎文芸時評』(講談社)のなかで谷川俊太郎の文章を引用しています。孫引きさせていただきます。大江は谷川を「平明な音楽性とともに、よく制御された言葉をかきつける詩人」(同書P173より)と評価しています。

――自分の貧しさにくらべて、いかに日本語の世界が深く豊かであるか、そのことに気づき始めてから、私は自分がずっと自由になったように感じている。(『谷川俊太郎詩集・続』思潮社)

 私の孫たちは「鉄腕アトム」を歌っています。母になった私の娘たちは「月火水木金土日のうた」をそらんじて歌えます。くたびれた妻は老眼鏡ごしに、「マザー・グース」を読んでいます。川上弘美は「夜のミッキー・マウス」への思いを、『大好きな本』(文春文庫)のなかに書いています。そして私は、毎朝暦がわりに『詩めくり』(ちくま文庫)のしおりを、1ページ分だけ動かしています。
(山本藤光:2010.02.05初稿、2015.07.13改稿)





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最終更新日  2017年10月11日 04時59分25秒
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