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2015年07月30日
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カテゴリ: 国内「し」の著者
写真家をめざす大学生の圭司は、公園で偶然に出会った男性から、奇妙な依頼を受ける―「妻の百合香を尾行して写真を撮ってほしい」。砧公園、世田谷公園、和田堀公園、井の頭公園…幼い娘を連れて、都内の公園をめぐる百合香を、カメラ越しに見つめる圭司は、いつしか彼女に惹かれていくが。憧れが恋へと成長する直前の、せつなくてもどかしい気持ちを、8つの公園を舞台に描いた、瑞々しい青春小説。(「BOOK」データベースより)

小路幸也『東京公園』(新潮文庫)
しよ小路幸也・東京公園.jpg

◎ファインダーのなかの母子



 ところがついに、息切れしてしまいました。『東京公園』(新潮文庫)を過ぎたあたりで、呼吸困難になりました。というわけで、初期作品のなかから、1冊推薦作を選ばせてもらうことにします。「東京バンドワゴン・シリーズ」も2冊を読んだだけですので、評価の対象外にしてあります。

『東京公園』は、ほんのりとした味わい深い作品です。主人公の志田圭司は、カメラマンになることを夢見る大学生です。彼は時間がゆるすかぎり、「家族」を撮影するために公園に出かけます。首からさげているのはフォトグラファーだった、母の遺品の一眼レフです。被写体として「家族」を選んでいるのは、母親を亡くした寂しさからのものです。

 ある日公園で、幸せそうな母子を見つけます。撮影の許可をもらうために歩みかけた圭司は、男に呼びとめられます。男は初島と名乗り、母子の父親だと告げます。そして今後もこっそりと、母子を撮りつづけてほしいと頼まれます。

 初島百合香23歳と娘のかおり2歳を追いかけて、志田圭司のアルバイトがはじまります。百合香は晴れた日には必ず、娘のかおりを連れて東京都内の公園に向かいます。

 緑豊かな公園でたわむれる母子を、ファインダー越しにとらえながら、圭司は少しずつ百合香に惹かれてゆきます。そしてある日、ファインダーのなかの百合香に不自然さをおぼえます。撮られていることに、気づいているのではなかろうか。

 初島からどこの公園へ行くというメールが届くようになります。百合香は行先を、夫に告げるようになったのです。遠い距離にいる母子を、望遠で近くに引きよせていた圭司は、隠し撮りをしられていると確信します。遠い存在だった百合香の存在が、身近なものへと縮まってきます。シャッターで切りとっていた時間が、動きはじめます。

 小路幸也はカメラという小道具を用いて、しっかりと描きわけます。本書には8つの小編が収載されています。なぜ初島が母子の尾行を依頼したのか。初島の家族はなんだったのか。そのあたりについては、本書で確かめてください。

◎To 〈Follow Me〉とは

『東京公園』の最後の1行にひっそりと、「To 〈Follow Me〉」と書かれています。おそらく通常なら、読み流してしまうかもしれません。しかし1ページを丸々使って、それだけが書かれていたのですから、気になりました。調べてみました。

『フォロー・ミー』という映画がありました。原題は「The Public Eye」でした。夫に頼まれた探偵が、人妻を尾行するストーリーでした。小路幸也はこの映画を見て、『東京公園』の着想を得たのでしょう。それゆえ巻末に献辞をのせたのです。

 調べおわって、山崎まどかの「解説」を読みました。なんとしっかりと、そのことにふれていました。『東京公園』も映画化されたようですので、『フォロー・ミー』と2本立てで見たいと思います。

『東京公園』にはサイドストーリーがあります。アーチスト志望の同居人ヒロ。幼馴染で元彼女の富永。3人が映画を観たり食事をしたりする場面には、若いっていいなと痛感させられました。ヒロのやさしい気遣い。富永の破天荒な行動。どれもが作品のなかで、ストロボ撮影のような輝きをみせます。

 そのほか、義姉の咲実、故郷の両親。バイト先のマスターなど、いずれも人間味のある個性で、主人公の圭司をやさしく包みこんでくれます。

 最後に『東京公園』のサイドストーリーのページをくくって、これはという場面でシャッターを押してみます。ピンボケかもしれませんが、私の撮った写真をご笑納ください。

――実家から荷物が届いているぞとヒロが言った。大きな段ボールの中にはお米と野菜と味噌やらマヨネーズやらの調味料。/一年に四回、こうやって父さんから荷物が届く。僕が東京に出てからそれはずっと続いていて、どうやら季節ごとにこの日に荷物を送ると決めているらしく、いつも同じ日に送られてくる。/実際には、お母さんからだろうけど。/正確には義理の母親。裕子さん。(本文P34より)

――両親の話をするときのヒロの声音には、ほんの少しだけ、誰にもわからないぐらいの淋しそうな色が混じる。/ヒロには親がないと言う。実際にはまだ生きているらしいけど、中学生のころから捨てられたも同然という話を聞いた。(本文P37-38より)

――ゲイのマスターに奥さん? と疑問に思ったのだけど、いろいろあるらしくて詳しくは訊いていない。とにかく普通に女性と結婚したのだけどガンでなくなってしまったのだそうだ。(本文P100より)

――今まで富永が絵を描いているところなんて見たことがない。でもそういえば小学校でも中学校でも、絵は上手かったっけと思い出した。/「本を作りたいって、この絵でか?」/ヒロの問いにこくんと頷いた。/「この絵と、あとたとえば同じ風景を圭司くんが写真に撮ったりして、そしてヒロにレイアウトしてもらってデザインやら装幀やら」/僕とヒロは顔を見合わせてから、すぐに互いに頷いた。(本文P273-274より)

 家族っていいな。友だちっていいな。親子っていいな。夫婦っていいな。雇い主とアルバイトの関係っていいな。義理の母も姉もいいな。
(山本藤光:2009.11.12初稿、2015.07.29改稿)





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最終更新日  2017年10月10日 11時12分12秒
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