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私は雷が好きだ。
こんなことを言うと、少し変な人だと思われるかもしれない。
自分でも分かっている。
あれほど怖い思いをしたのに、雷が鳴ると今でも空を見上げてしまう。
若い頃、雷に打たれたことがある。
駅前にいた。
その瞬間、世の中が経験したこともないほど明るくなった。
明るいというより、影のない世界だった。
建物も、人も、道路も、全部が白く溶けてしまったような一瞬だった。
その後のことは、あまり覚えていない。
呆然としたまま電車に乗った。
しばらくして窓に映った自分を見て驚いた。
朝、きれいに整えて金属の髪留めでまとめていた髪は、ぼさぼさになっていた。
髪留めもなくなっていた。
傘もなかった。
そこで初めて、自分が大変な場所にいたのだと気づいた。
生きていて良かったと思う。
その後しばらく、不思議なことが続いた。
霊だったのかなと思うようなものを見ることがあった。
当時付き合っていた人の家の納屋で、顔の膨れた男性がぶら下がっているように見えたことがある。
もちろん、実際にそこに人がいたわけではない。
あとで、それとなく聞いてみると、昔その納屋でおじさんが首をつって亡くなったことがあるという。
偶然なのか、何だったのか。
今でも分からない。
当時、勤めていた職場から見える斜面には、日本兵の姿が見えることもあった。
いつも同じ場所に立っていた。
古い軍服のようなものを着て、ただ静かに立っている。
怖いというより、そこにいるのが当たり前のような、不思議な感じだった。
体育館では、四隅に黒いモヤモヤが見えた。
子どもの頃に見た「まっくろくろすけ」に少し似ていた。
もちろん、かわいいものではない。
黒い煙のかたまりのようなもの。
そこだけ空気が違って見えるようなものだった。
今思えば、疲れていたのかもしれない。
雷に打たれたことが関係していたのかもしれない。
本当のことは分からない。
でも、あの頃の私は、普通の毎日の中に、少しだけ説明できないものが混ざっていた。
仕事へ行き、人と話し、帰ってご飯を食べる。
そんな何でもない日々の隙間に、不思議な景色があった。
それでも私は、雷が嫌いにならなかった。
むしろ好きで仕方がない。
雨が降る前の匂い。
風が急に変わる瞬間。
遠くで響く大きな音。
雷雨に打たれてみたいと思ってしまうことさえある。
もちろん危ないことは分かっている。
自分でも思う。
私は馬鹿なのかもしれない。
でも、あの日見た影のない世界を、私は今でも忘れられない。
怖かったはずなのに、どこか美しかった。
生きているから、今こうして遠くから雷を見ることができる。
それだけで十分なのだと思う。
そう思いながら、また今日も空を見てしまう。
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