中国から労働者を閉め出された北朝鮮が、開城工業団地をひそかに再稼働
2017-10-7
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
<国際社会の中で孤立を深める北朝鮮。 かつて蜜月を誇った中国も国連の制裁決議に加わり、国内にいる北朝鮮労働者を追い出しにかかっている 。果たして労働者たちの向かった先は?>
9 月 3 日に過去最大規模の核実験を行った北朝鮮。その代償は、原油と石油製品の北朝鮮への輸出禁止、繊維製品の北朝鮮からの輸入制限などからなる 11 日の国連安保理での制裁決議となった。中国やロシアも賛成に回ったことで、北朝鮮に対する国際社会の厳しい姿勢が強調された。
だが、問題は制裁決議を中国、ロシアなどがどれだけ遵守するのかという点にかかっている。
習近平が金正恩に三行半突きつけた?
従来、北朝鮮の核ミサイル問題については「制裁よりも対話を」という原則を繰り返して経済制裁に否定的な態度を見せていた中国だったが、ここに来て風向きが変わりつつあるようだ。
韓国メディアのヘラルド経済によれば、 中国当局は 9 月、国連安保理による鮮制裁決議案 2375 号が採択された後、北朝鮮労働者たちへのビザの新規発給を抑制したのに続き、 9 月 28 日には、北朝鮮企業に対して 120 日以内に閉鎖するよう指示し、荷物をまとめた北朝鮮労働者が急増しているという。
ある消息筋は 「今年初めまでは、北朝鮮労働者が遼寧省の丹東市だけでも 2 万人以上いたが、最近中国当局の規制が強くなり、急激に減った。今では丹東駅と出入国事務所に行けば、帰国しようとする北朝鮮労働者の列を見ることができるくらいだ」 と話した。
特に最近、 中国国内にある北朝鮮との合弁企業などに対する閉鎖通達の影響と、中国の国慶節、中秋節の連休( 10 月 1 〜 8 日)まで重なり、中国にいた北朝鮮労働者たちの帰国が急増した ものと思われる。
中国当局は最近、遼寧省丹東と吉林省延辺自治州延吉などで水産加工、衣類、電子部品などの工場に勤務する北朝鮮労働者たちのビザを集中的に検査し、期限切れの労働者を帰国させているという。
これにより 9 月に入って中国東北部 3 省(遼寧、吉林、黒竜江)で 2000 人を超える労働者が北朝鮮に帰国したと推測している。
今年 4 月からは、中国国内の北朝鮮レストランで働く女性従業員についても、ビザの取得要件が強化され、違反している者は北朝鮮に送還されてきたが、今回の中国内の北朝鮮企業閉鎖対象には北朝鮮レストランも含まれており、女性従業員たちの帰国が増えたものとみられる。
米国政府は、中国とロシアを中心に北朝鮮の労働者たちが、全世界に約 10 万人程度派遣され、毎年 5 億ドル(=約 562 億円)を稼ぎ、金正恩政権の外貨稼ぎの窓口の役割を果たしていると推定している。
9 月に国連安保理で採択された制裁決議 2375 号によると、外国企業が北朝鮮の労働者を雇用するためには、安保理の許可が必要とされており、従来から海外で働いている北朝鮮の労働者らも、契約期間が満了すれば、雇用延長を認めないようにした。
中国から開城へ
こうした海外から追い出された北朝鮮労働者の行き先として、今、注目されている場所が、韓国との共同事業を行うために開発された開城(ケソン)工業団地だ。
韓国が資本と技術力と投資し、北朝鮮が労働力を提供して製品を作る、南北共同事業として策定された開城工業団地は、 2000 年に金大中大統領と金日成総書記による歴史的な南北首脳会談が行われた際に合意して始まった、いわば南北融和の象徴ともいえるプロジェクトだった 。開城は北朝鮮第 3 の都市でありながら、軍事境界線までわずか 10km 、ソウル、仁川国際空港までそれぞれ数十 km という地の利もあって選ばれた。
だが、 北朝鮮側が金正恩体制に移行し、核開発とミサイル発射実験によって南北間の関係は悪化。
2016 年 2 月に北朝鮮が弾道ミサイル発射実験を行ったことを受けて、当時の朴槿惠(パク・クネ)大統領が開城工業地区の操業停止と韓国人の引き上げを決定。韓国からの送電も停止し、開城工業団地は事実上休眠した。
ところが、今月になって北朝鮮が閉鎖された開城工業団地内の工場を密かに稼動しているという報道が出てきた。
米国の北朝鮮専門メディア、自由アジア放送は 北朝鮮が開城工業団地内の韓国側の衣類工場 19 ヵ所を密かに稼動している と報道。
中国の対北朝鮮消息筋によると、 韓国政府と事前協議なしに北朝鮮の国内用衣類と中国から持ち込んだ生地を再加工した製品を作っている という 。
再稼働にあたって北朝鮮当局は軍事産業用電気を供給。セキュリティに特別に気をくばり、外から覗かれたり明かりが漏れないように、徹底的に仕切りで遮断しているという。しかも再稼動してから既に 6 カ月経っているそうだ 。
韓国メディア MBC によれば、韓国政府はこの報道を受けて事実確認に着手した。 韓国統一部の関係者は「開城工業団地の資材の無断使用は、韓国国民の財産を侵害する不法行為だ。事実なら、北朝鮮は直ちに中止しなければならない」と発言した。
だが、韓国政府が調査を始める必要はなくなった。 北朝鮮は 6 日、対韓国窓口機関である祖国平和統一委員会のウェブサイト「わが民族同士」に個人名の論評として、 「わが共和国の主権が行使される工業地区で私たちが何の仕事をしても、それに対して誰も干渉することではない」「我が国の勤労者が今どのように堂々と働いているかについては目が節穴でなければ、はっきり見えるだろう」 と、まるで開き直るかのように開城工業団地での工場再稼働を認めたからだ。
この論評は続けて「米国とその手下たちがいくら吠えたて、制裁圧殺のレベルを高めるためにわめきちらしても、我々の力強い前進を妨げられないし、工業地区の工場はさらに力強く動くのだ」と、今後さらに工場を本格稼働させていく可能性すらうかがわせている。
北の開城工業団地再稼働は文在寅政権にも打撃?
今から 10 年前、 2007 年 10 月 4 日に韓国の盧武鉉大統領は平壌を訪れ、金正日総書記と首脳会談を行い、朝鮮半島の平和と統一へ両者が努力するための「 10.4 共同宣言」を発表した 。だが、それから 10 年後の現在、金正恩体制下の北朝鮮は、緊迫の度を増す朝鮮半島情勢についてすべての非は韓国側にあると連日、批判する報道を発表している。
当時、韓国政府の南北首脳会談準備委員長だった文在寅(ムン・ジェイン)大統領をはじめ、国家情報院次長だった徐薫(ソ・フン)は国家情報院長、大統領府統一外交安保政策秘書官だった趙明均(チョ・ミョンギュン)は統一部長官と、現在の文政権には、南北首脳会談に直接関わった者がいる。
大統領府関係者によれば、 文大統領はこの「 10.4 共同宣言」 10 周年という節目の時期に離散家族再会事業などの民間交流を再開し、南北関係を対立から対話へと切り替えて、来年 2 月の平昌五輪への北朝鮮参加で本格的な和解へつなげたいと考えていたようだが、今回の北朝鮮による開城工団工業団地での工場再稼働によって、南北関係はさらに疎遠にならざるを得ない様子だ 。 南北融和を目指す「太陽政策」の継承を掲げてきた文大統領 にとっては、国内外から路線変更を強く求められざるを得ないだろう。
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