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ジャニーヌ・ヤンセンの新作は9年ぶりの協奏曲集。共演はクラウス・マケラとオスロフィル。レコーディングが昨年なので、マケラが首席をしているパリ管でもおかしくないのだが、オスロ・フィルとは意外だった。理由は分からないが、北欧の音楽だからオスロフィルがより相応しいのかもしれない。とにかくヤンセンのヴァイオリンの音が凄まじくいい。楽器はヨーロッパの後援者から貸与されたシュムスキー=ローデのストラディヴァリ(1715)だそうだ。このヴァイオリンの威力が最大限に発揮されているのはプロコフィエフだろう。妖艶という形容がぴったりのサウンドで、曲の怪しげな魅力が十全に発揮されている。特に最終楽章の夢想するような雰囲気にぴったり。シベリウスも美しいのだが、曲が禁欲的なところがあり、ヴァイオリンの魅力が十全に発揮できているところまでは今一歩というところだろうか。マケラ指揮オスロ・フィルはシベリウスでの決然とした表情が素晴らしい。ボーナス・トラック的なシベリウスの小品「Water Drops」が最後についている。この曲はシベリウスが少年時代に書いた45秒ほどの曲で、本来はヴァイオリンとチェロのため言書かれたが、今回はヴァイオリン独奏で演奏されている。wikiなおCDには収録されていない。なお、ピエール・ローデ(1774~1830)は、ヴァイオリンの練習曲で有名なヴァイオリニスト。彼の名前がついているストラディヴァリで、オスカー・シュムスキーという有名なヴァイオリニストが弾いていた名器だそうだ。ブックレットが付いていて、二人の作曲家の面白いエピソードが書かれている。その中で、シベリウスがバイオリンの名手になることを夢見ていたが、ウィーン・フィルのオーディションに落ち、その夢は傷となって残った、というエピソードが興味深い。Janine Jansen:Sibelius - Prokofiev 1 - Violin Concertos(Decca 4854748)24bit 96kHz Flac1.Sibelius: Violin Concerto in D minor, Op. 474.Prokofiev: Violin Concerto No. 1 in D major, Op. 197.Sibelius:Water Droplets JS 216Janine Jansen(vn)Oslo Philharmonic Orchestra(track 1-6)Klaus Mäkelä(track 1-6)Recorded: 2023-06-07,Oslo Konserthus
2024年06月14日
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すっかり忘れていたが、レコード芸術のクラウドファンディングが目標額達成されたそうだ。目標額1500万円に対し、839名の方々から目標の113%の1700万円が集まったという。筆者も協力しようと思っていたのだが、情報を知るのが遅く協力できなかったのが残念だ。4月10日開始で5月24日終了という短い時間ながら、これだけ集まったことに驚く。心の支え?にしていた方が多かったのだろう。Xに『レコード芸術ONLINE』創刊準備室のアカウントがありあり、そこで逐次準備状況を報告するようだ。9月2日の創刊まで3ヶ月。何事もなく創刊日を迎えられることを、ハラハラドキドキ?しながら待ちたい。
2024年06月10日
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presto musicで偶然見つけたアルバムで、吹奏楽を管弦楽団で演奏するというもの。管弦楽を吹奏楽で演奏するのは普通に行われているが、その逆はなかなかお目にかかれない。これを企画した方はなかなか目の付け所がいい。三曲が神奈川フィルのホルン奏者である大橋晃一氏による編曲で、その他はラヴェルを除いては、おそらく作曲者自身の編曲だろう。ラヴェルは編曲するはずがないし、原曲のソロをゲストのお二人が演奏した程度の小変更で、敢えてクレジットしていないのかもしれない。それほど期待していたわけではないが、なかなか興味深い演奏が並んでいた。曲により管弦楽に向いている曲とそうではない曲が分かれている。一番驚いたのは、最初の「アルバマー序曲」。スクールバンド向けのそれほど難しくない曲で、吹奏楽をやった方なら一度は吹いたことがある曲だろう。ところが管弦楽編曲がはまっていた。曲の品位がぐんと向上して、吹奏楽のちゃらちゃらした感じが薄れ、随分と立派な曲に聞こえる。最初テーマがチェロで出たところなどはぞくぞくする瞬間だった。エンディングもスケールアップして華やかになった。スパークの「パントマイム」は佐藤采香のユーフォニアムが実に立派。ビブラートは殆どかけないが、最初のアンダンテが実に美しく、後半の速いパッセージも難なくこなしていた。アンダンテでの冴え冴えとしたバックの弦も素晴らしく、この部分は管弦楽の方が上回っている。全体にティンパニの力演が目立つ。吹奏楽でこれほど叩くティンパニもあまり知らない。ところで、amazonのコメントで「トランペットが吹き散らかしている」というコメントが書かれていたが、筆者は全くそんなことは感じられなかった。むしろチューバの能天気な?演奏のほうが(微笑ましいという意味で)気になった。最もしっくり来ていたのは、狭間美帆の「サックス・ソナタ」だろう。曲自体もともとピアノとの二重奏用に書かれていたということもあり、吹奏楽に引きずられてない。筆者はこの曲は初めて聞いたが、クールな佇まいと新鮮なハーモニーで、とてもいい曲だった。イギリスあたりのプロオケで録音してもらいたいところだ。吹奏楽版は2018年狭間が当時コンサート・イン・レジデンスをしていたシエナ・ウインドの定期で初演されたが、ネットでは見つけることが出来なかったのが残念。保科洋の「風紋」の管弦楽版はだいぶ前に編曲されていたように記憶している。抒情的な曲想が弦と相性がいいが、リズミックなところは管弦楽だと重くなるのは仕方がないことだろう。リードのアルメニアンダンス・パート1もリズミックな部分は若干もたつくが、ハーモニーが美しくエンディングもヴァイオリンの細かい動きが分かるように響きが整理されていた。さすがプロオケの仕事だと思える奏だった。「ボレロ」が何故入っていたのか分からないが、本来の趣旨とは違っているように感じる。普通の吹奏楽曲の管弦楽編曲版は出来なかったのだろうか。お金と時間の問題だったのだろうか。ゲストのソロはテナーサックスパートをユーフォニアムが吹いていたようだ。他のソロはこれ見よがしなアゴーギクが多く、小細工も見受けられ、あまりいい印象ではなかった。「ディスコ・キッド」 も動きが鈍く、いまいち。クラリネット・ソロもフェイクがいやらしい。神奈川フィルはまあまあの出来だが、随所に甘いところが見受けられるのが惜しい。なお、presto musicではこの稿を書いている時点でカタログからは消えている。ところで、中学校の吹奏楽部の顧問の方のブログにこのアルバムの感想が書かれています。現場の指導者ならではの感想で『オケならでは麗しさが素晴らしく、爆音と揶揄される吹奏楽コンクール界において目指すべき1つの方向性のようにも感じる』というくだりは笑わせます。kmd-windorchestra’s diaryWind Ensemble in Orchestra(Sony SICC19076B00Z)24bit 96kHz Flac1.ジェイムズ・バーンズ(大橋 晃一 編曲): アルヴァマー序曲(管弦楽編曲版初演)2.保科 洋:管弦楽のための「風紋」(原典版) 3.フィリップ・スパーク(大橋 晃一 編曲): パントマイム(管弦楽編曲版)4.アルフレッド・リード(大橋 晃一 編曲):アルメニアン・ダンス・パート1(管弦楽編曲版初演)5.挾間 美帆:サクソフォン・ソナタ第1番「秘色の王国」 (管弦楽版)6.モーリス・ラヴェル: ボレロ 7.東海林 修: 管弦楽のための「ディスコ・キッド」 須川 展也(サクソフォン)(5-7)佐藤 采香(ユーフォニアム)(3,6,7)現田 茂夫(指揮)神奈川フィルハーモニー管弦楽団 録音:2023年11月4日、神奈川県民ホール 大ホール(ライヴ録音)
2024年06月05日
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ユリウス・アザル(1997-)というドイツのピアニストのドイツ・グラモフォンからのデビューアルバムを聴く。ドメニコ・スクリャービンとスカルラッティを並べたアルバムで、何か意図があるのだろうが、ごちゃごちゃと並べられているという印象。ディストリビューターによると、『2人の作曲家を過去、現在、未来の時空を旅する旅行者に見立て、スクリャービンのソナタの終楽章(葬送行進曲)の 「Quasi niente」部分をプログラムのオープニングとクロージングに位置し、曲間をつなぐ自作の間奏曲(TRANSITION)を2曲収録』とのこと演奏はとても柔らかく、スクリャービンは夢心地で聴いてしまった。参考までに第1番のソナタをアムランとアシュケナージの演奏で聴いた。アムランの演奏はぎすぎすしていて、とても同じ曲とは思えなかった。思えば昔のアムランは今とは違ってそういう芸風だったことを思い出した。アシュケナージは普通の演奏で特に違和感はないが、アムランやアザールに比べると遅すぎる。なので、この曲に関してはアザールの演奏がぴったりくる。スカルラッティのソナタもロ短調K87は宗教的で瞑想的な気分に浸ることが出来た。スカルラッティのソナタでそのような気分になるなんて、思ってもみなかった。ヘ短調K.466も遅めのテンポで同じような気分になる。ハ短調K.58はバッハのように響くが、響きは暖かい。テンポの速いハ短調K.56はさすがにそういう気分にはならないが、ここでもタッチが柔らかく、フレーズが滑らかに流れていく。自作の「TRANSITION」は2曲あるが、Ⅱはスクリャービンの「12の練習曲」の第11番のモチーフを使っている。他のどのピアニストとも違う個性的なピアニストで、今後どのように成長していくか、とても楽しみだ。なおグラモフォンのステージ+というサイトで、アリス・沙良・オットとのクラブでのライブの模様を観ることが出来る。ただし、ログインするか、未登録の方は登録が必要だ。アルバムの中の曲も弾いているので、どういうピアニストか知りたい向きは、無料なのでご覧になっては如何だろう。Julius Asal:Scriabin.Scarllati(DGG 4865283)24bit96kHz Flac1.スクリャービン:PROLOGUE(ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調Op.6より第4楽章:Funebre)2. D.スカルラッティ:鍵盤のためのソナタ ヘ短調K.4663. スクリャービン:24の前奏曲Op.11より第20番ハ短調D.スカルラッティ:4. 鍵盤のためのソナタ ハ短調K.565. 鍵盤のためのソナタ ハ短調K.586.スクリャービン:ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調(第1楽章:Allegro con fuoco/第2楽章:Adagio/第3楽章:Presto/第4楽章:Funebre)10. D.スカルラッティ:鍵盤のためのソナタ ヘ短調K.23811.アザル:TRANSITION Iスクリャービン:12. 12の練習曲Op.8 より第11番変ロ短調13. 24の前奏曲Op.11より第21番変ロ長調14. D.スカルラッティ:鍵盤のためのソナタ変ロ長調K.54415. スクリャービン:5つの前奏曲Op.16より第4番変ホ短調16. アザル:TRANSITION IIスクリャービン:17. 24の前奏曲Op.11より第14番変ホ短調18. 5つの前奏曲Op.16より第1番ロ長調19. 24の前奏曲Op.11より第6番ロ短調20. D.スカルラッティ:鍵盤のためのソナタ ロ短調K.8721. スクリャービン:EPILOGUE(ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調Op.6 より第4楽章:Funebre)ユリウス・アザル(ピアノ)録音 2023年4月17-19日、ベルリン、テルデックス・スタジオ
2024年05月30日
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ピアノの連弾を集めた「Passage Secret」(秘密の通路)というアルバムを聴く。アルファからのリリースだが、eclassicalでまだ半額セールが行われているので、購入してしまった。ロシア出身のリュドミラ・ベルリンスカヤと、フランス出身のアルトゥール・アンセルの夫婦によるピアノ連弾。彼らはメロディアを中心に8枚のデュオとソロを録音していたが、今回は初めてアルファからリリースすることになった。ロシアを含むヨーロッパで活躍していて、2015年にはリュドミラ・ベルリンスカヤが東京春音楽祭の「リヒテルに捧ぐ」シリーズに出演したそうだ。プログラムは彼らが録音していないオール・フランス・プログラムで、ビゼー、ドビュッシー、フォーレ、ラヴェル、オベールという子供向けに作られた曲の組み合わせ。全て管弦楽に編曲されているビゼーの「子供の遊び」、オベールの「イマージュの一葉」は筆者は初めて聞いた。もともと筆者が連弾を購入する機会は殆どない。理由はソロで有名なピアニストにしか興味がないからだ。最近、ラフマニノフを集めたダニール・トリフォノフとセルゲイ・ババヤンのアルバム(未聴)を購入したのが、その稀な機会だった。今回の演奏者はどちらも聴いたことのないピアニスト。結構癖があり、両者の個性のぶつかり合いも楽しめる。おそらくベルリンスカヤが主導権を握っているのだろう。概ねテンポが速く、時に乱暴に聞こえることもある。全般に表現が若干硬いのも、不満の一つ。なので、ゆっくりした曲よりは、速く技巧的な曲のほうが精彩がある。ビゼーの「子供の遊び」は12曲からなり1分から2分程度の曲の組曲。フランスの香気漂う楽し気な曲集で、ビゼーの天才ぶりが窺える。「馬飛び」や「ギャロップ」などの速い曲が精彩がある。また、第9曲「目隠し鬼ごっこ」は遅めのテンポで、しゃれたアゴーギクが鬼ごっこの雰囲気を感じさせ悪くない。第11曲「ままごと」も表情豊かに演奏されている。ドビュッシーの「小組曲」は、あまり期待しなかったが、なかなか面白かった。フレージングが角ばっていて、思わぬところでアゴーギクを効かせていて、この曲の優しいイメージとはちょっと違う。両者の積極的なアプローチで、さらさらと音が流れていくのではなく、引っかかる音楽なのがいい。特に第1曲「小舟にて」が刺激的だ。フォーレの「ドリー」は速めのテンポで、アゴーギクを効かせたアグレッシブな演奏。第2、第4、第6は突っかかるようなテンポで、勢いがあるというか少し攻撃的な演奏。普通の温い音楽に比べると面白いことは確かだが、ちょっと乱暴すぎやしないかと思ってしまう。この中では「スペインの舞曲」が活気のある演奏で悪くない。また第5曲「優しさ」は参考までに聞いたラベック姉妹(DECCA)の演奏よりも何と1分も速い。4分弱の曲でこれほど違うと曲の雰囲気がまるで違ってしまう。この演奏だけを聴いているとそれほど違和感はないのだが、しみじみとした情感はまるで感じられない。ラヴェルの「マ・メール・ロワ」も全体的に速めのテンポで、細かいニュアンスはあまり聴かれないが、もたれないのはいいところだろう。独特なアゴーギクも異彩を放っている。第2曲「親指小僧」のようなテンポが速い曲や第3曲「女王の陶器人形レドロネット」のエンディングのアチェレランドなどは、なかなかスリリングだ。ダニエル=フランソワ=エスプリ・オベール(1782 - 1871)はオペラで活躍したブルターニュ出身の作曲家だそうだ。「イマージュの一葉」はテンポは多分普通。spotifyで聞けるアレッサンドロ・ファジュオーリ 、 オリヴィエ・シャウズ (Grand Piano)の演奏のテンポとはあまり違わない。なので?他の曲で感じられる違和感はなく、落ち着いて聞くことが出来る。地味ではあるが、フランスのエスプリを感じさせる佳曲だ。気に入ったのは第3曲の「セレナーデ」。フランス人の気まぐれな気分が表れているようだ。第5曲「ぬいぐるみの熊の踊り」は副題が「茶目っ気があり重々しい」となっていて、突然強打が出て来て、なかなか楽しめる。録音は透明で潤いのあるサウンドで、ダイナミックスも申し分ない。ということで、知らない曲がてんこ盛りで、気の向いたときに耳を傾けるのに相応しいアルバムだろう。youtubeどこかの家の一室での演奏。幻想的なライティングの映像が美しく、ベルリンスカヤの楽し気な表情が窺える。Ludmila Berlinskaya, Arthur Ancelle :Passage Secret(Alpha ALPHA1024)24bit 96kHz Flac1.Bizet: Jeux d'enfants, Op.22 (1871) 13. Debussy: Petite Suite,L65 (1886-89) 17. Fauré: Dolly Suite, Op. 5623. Ravel: Ma Mère l'Oye,M.60 (1908-10)28. Aubert, L: Feuille d’images(1930) Ludmila Berlinskaya, Arthur Ancelle(Piano Four Hands)Recorded in April 2022 at Salle Colonne (Paris)
2024年05月28日
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以前から気になっていたディーリアスの「ハッサン」の劇付随音楽の全曲を聴く。期待していたわけではないが、これがことのほか面白い。もしかしたら、ディーリアスの最高傑作かもしれない。ディーリアスの音楽は美しいが退屈なところや微温的なところがあり、好悪が分かれると思う。筆者はディーリアスの演奏はビーチャームやバルビローリの演奏で親しんでいた。全体にムーディで親しみやすいが、つまらない曲も多く、規模の大きい曲でも箱庭的な世界だと思っていた。今回の「ハッサン」も「間奏曲」と「セレナーデ」をビーチャムの管弦楽編曲版で聞いていた。ところが全曲版は予想とはまるで違っていて、短い曲が多いが、コミカルな曲が多く退屈しない。重々しい音楽の場面でも、どことなくユーモラスだ。オリエンタル趣味の音楽はストラヴィンスキーやリムスキー=コルサコフを思い出させるところもあり、物語と一体になっていて、音だけでもとても楽しい。編成はナレーター、混声合唱、管弦楽で、弦は3,3,2,2,1、管は一本ずつ(ホルンのみ2本)で、打楽器とピアノ、ハープが加わるという小編成。ナレーターがキングズ・イングリッシュで物語を格調高く進行し、演技も交えて盛り上げている。その存在が曲の印象を大きく変え、ナレーターの重要性を感じた。音楽を聴いていると、古い映画を観ているような気分になる。出番は少ないが、所々に入る合唱も悪くない。ディストリビューターによると、『「ハッサン」は、ジェームズ・エルロイ・フレッカーの詩「サマルカンドへの黄金の旅」に基づいた音楽付き戯曲で、1923年9月20日にロンドンで初演され、281回の上演回数を誇り、ディーリアスのキャリアにおける最大の成功作となった。この作品は、カリフと恋多き菓子職人ハッサン、そして若い恋人ペルバネとラフィの物語が交錯する二重構造を持つ。フレッカーの詩は、19世紀の英訳や当時の人種的、階級的な考え方に基づいており、専制的な東洋の宮廷とその残酷なまでの蛮行が描かれています。』とのこと。ジェイミー・フィリップス指揮のブリテン・シンフォニアは響きが透明でディーリアスの埃っぽいところがなく、大変聴きやすく、音楽も立派に聞こえる。彼は20歳の時にハレ管弦楽団のアシスタントコンダクターとなり以後、イギリスやヨーロッパか吉のメジャーオケと共演して実績を積んでいる。生年は確認できなかったが、おそらく今年32歳くらいだと思う。写真を見ると、少し剥げかかっている。他人事ながら心配だ。ジェイミー・フィリップス ディーリアス: 劇付随音楽 《ハッサン》(全曲) (Chandos CHAN20296)24bit 96kHz Flac) ゼブ・ソアネス(ナレーション)ブリテン・シンフォニア・ヴォイシズブリテン・シンフォニアジェイミー・フィリップス(指揮)録音 ライヴ:2022年11月11日、サフロン・ホール(エセックス、イギリス)
2024年05月22日
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フランスの作曲家フローラン・シュミットの黙劇「サロメの悲劇」付随音楽をルティノグル指揮フランクフルト放送交響楽団の演奏で聴く。フランス人指揮者が録音することが多いと思うが、ドイツの楽団にアルメニア人の指揮者というのも変わった組み合わせだ。フローラン・シュミットといえば吹奏楽業界では「ディオニソスの祭り」で有名だが、クラシック界ではあまり知られていないと思う。ただ、この曲何故か吹奏楽用に森田一浩が編曲したセレクションがあり、結構演奏されているようだ。まあ、日本の吹奏楽業界に特有の現象だろが、吹奏楽に編曲されて、原曲も広まることは悪いことではない。筆者も「サロメの悲劇」の名前は知っていたが、曲を聴いたのはこれが初めて。因みにストラヴィンスキーに献呈されているそうだ。サロメと聞くとR・シュトラウスのオペラを思い出すが、あちらがオスカー・ワイルドの戯曲を基にしているのたいし、同年にパリ初演が行われたリヒャルト・シュトラウスの楽劇『サロメ』はオスカー・ワイルドの戯曲に基づいているが、シュミットの作品はロベール・デュミエールの詩に基づく2幕7場の黙劇。『新約聖書』の「サロメ」や『旧約聖書』の「ソドムとゴモラ」のエピソードが取り混ぜられ、神の怒りによる天変地異で幕を閉じるというもの。(wiki)R・シュトラウスのオペラに比べると規模が小さく、こじんまりまとまっている感じで、オリエンタルムードこそ感じられるものの凄惨さは感じられないところがフランス音楽らしい。アラン・アルティノグル(1975-)の名前は知らなかったが、コンサートやオペラで世界的に高い評価を得ているアルメニア系フランス人とのこと。「サロメの悲劇」は1907年のオリジナル版を使っている。編成はFl&Picc、Cl、Ob、Eh、Fg、Tp、2Hr、2Tbと打楽器3名、弦五部とハープというもの。弦のみ30人以上に増員しているそうだ。ジュリアン・マスモンデ指揮アンサンブル・レザパッシュ が同じ版を使っているが、彼らは22名で音はかなり細身だ。ただ、小回りが利いている。それに対しアルティノグルの演奏は恰幅こそいいものの、少し鈍重に感じてしまう。また、殺伐とした雰囲気はマスモンデ盤のほうがよく出ている。曲はフランスの香りがする音楽で、メロディックで親しみやすいが、ちんまりとまとまっていて、最後もあっさり終ってしまうのが物足りない。また、例えば第11曲の「Tres Lent」後半の急速調の上下降する細かいフレーズなどに「ディオニソスの祭り」を感じさせる。第12曲「AIeaの歌」ではソプラノが加わっている。遠くから聞こえてくるような感じで、気になったので、マスモンデ盤もチェックしたが同じような感じだった。おそらく遠くから聞こえるように指定されているのかもしれない。フランクフルト放送交響楽団は上手いが、もう少し軽くても良かった。最後にチェロをフィーチャーした「エレジー」という曲が入っている。原曲はチェロとピアノのために書かれているが2011年に作曲者自身がチェロと管弦楽に編曲している。哀しみを湛えたチェロが美しく、バックも濃厚で色彩豊か。後半の劇的な盛り上がり方も半端でない。フィリップ・シュテムラーはヤルヴィのフランツ・シュミットの交響曲全集でもフィーチャーされていた。フランクフルトの首席だろうか、朗々としたサウンドで好演。アルティノグル フローラン・シュミット:劇付随音楽「サロメの悲劇」(Alpha ALPHA941)24bit 48kHz Flacフローラン・シュミット(1870-1958):1.劇付随音楽『サロメの悲劇』 Op. 50(1907年オリジナル版)23. 悲歌 Op. 24(チェロと管弦楽版)アンバー・ブライド(s track19)フィリップ・シュテムラー(vc track23)フランクフルト放送交響楽団アラン・アルティノグル(指揮)録音:2021年1月22(サロメの悲劇)、2022年6月23フランクフルト放送ゼンデザール
2024年05月18日
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ラトル=LSOのコールス版によるブルックナー・シリーズの第3弾交響曲第7番を聴く。先に第4番を聴いていたが、配列が独特で、違う版の楽章やら、断片など一切合切集めていたので、聴くのが煩雑で、あまり集中して聴けていなかった。今回はそういうことがないため、余計なことを考えなくて済む。ブックレットによると、コールス版は、ブルックナー自身が演奏で何度も耳にした「初版」を中心資料として、ブルックナーの手稿譜などに基づいて構成されているとのこと。きびきびしたテンポと透明なサウンド、厚ぼったくならないハーモニーなど、現在の筆者の好みにあった演奏だ。あざとい表現もなく、余計なことを考えなくて済む。普通だと、ここぞというところで、ためを作ったりするものだが、それもあまり感じられない。なので、素っ気ない演奏かというと、そういう感じでもない。流れが渋滞するところもないので、精神衛生上良い。艶やかな弦、濁りのない透明なサウンドの金管などいうところがない。コールス版を使ったことで普通のハースやノヴァーク版とどう違うかは分からないが、おやと思うところは少しある。第2楽章のテュッティになる前の管の進行が少しぎこちなくなるところが一番大きいだろうか。第2楽章のクライマックスではティンパニとシンバルは使われているがトライアングルが使われているかは分からなかった。ロンドン交響楽団は特に突出するパートも見当たらず、良く揃っている。第2楽章のコーダのワーグナー・チューバとホルンのハーモニーも素晴らしい。ということで、強烈に主張する演奏ではないかもしれないが、水準は高く、版の違いがあるにしても、楽しめる演奏であることは間違いない。Bruckner: Symphony No. 7 in E Major Version 1881-83; Cohrs A07(LSO Live LSO0887)24bit 192kHz Flac1 I. Allegro moderato2 II. Adagio. Sehr feierlich und langsam - Moderato3 III. Scherzo. Sehr schnell - Trio. Etwas langsamer - Scherzo da capo4 IV. Finale. Bewegt; doch nicht schnell London Symphony OrchestrSir Simon RattleRecorded live in DSD 256fs on 18 September & 1 December 2022 in the Barbican Hall, London
2024年05月14日
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以前から気になっていたラファエル・ピションのシューベルトにまつわるコンセプトアルバム「私の夢」をeclassicalから入手。シューベルトの心の闇を知ることが出来る好企画だろう。心がざわざわするような劇的な表現満載で、大変刺激的なアルバムだ。それが、これでもかと続くので、少しやりすぎ感はある。プログラムの順番をもう少し考えてもらえば少しは、平静に聴けるかもしれない。ウエーバーのオペラからのアリアが2曲演奏されている。実に切れ味鋭い演奏で、この二つのオペラは録音も少なく、是非全曲の録音をお願いしたいほどだ。ピグマリオンのざらざらとしたサウンドがアルバムコンセプトに相応しい。合唱は生き生きして、いつもながらのすばらしさが味わえる。「アルフォンソとエストレッラ」からの「狩りへ」の鮮烈な響き、「ラザロ」からの「やさしく静かに('Sanft und still')」も柔らかなハーモニーどちらも素晴らしい。シューマンも2曲演奏されている。女声のための6つのロマンス第1 集より「人魚」は無伴奏女声合唱のための曲。3分ほどだが清澄な響きが美しい。「ファウストからの情景」第3部のアリア「ここは見晴らしがよく」はドゥグーの格調高いバリトン独唱とぴたりと寄り添うピグマリオンのバックが静かな感動を呼ぶ。独唱陣も充実している。ステファヌ・ドゥグーの深みのある声、ユディット・ファの清純な歌唱もいい。「アヴェ・マリア」はハープのみの伴奏で、ザビーヌ・ドゥヴィエルの清純な声とベストマッチ。ただ、普通の演奏のように流れるようなフレーズでないところは、何か理由があるのだろう。未完成は速めのテンポだが、弦の荒々しい刻みなど、アルバムコンセプトに相応しいシューベルトの心の深淵をうかがわせる、彫の深い劇的な演奏だ。音楽評論家の故宇野巧芳流に言えば「切れば血の出るような」演奏が聴ける。あまり話題になっていないかもしれないが、これは最近の演奏の中でも出色の演奏だろう。最後の「神はわたしの羊飼い」は合唱とハープの演奏。天井から降り注ぐような合唱が実に清々しい。生々しい録音も、アルバム・コンセプトに相応しい。タイトルの「Mein Traum(私の夢)」とは、フランツ・シューベルトの兄フェルディナント・シューベルト(1794-1859)がフランツが1822年7月3日に書いた文章につけたタイトルで、その全文がブックレットに掲載されている。それによると、フランツは父と仲が悪く、若くして家を出たが、、母親の死を契機として再会し、和解したということが書かれている。シューベルトの生涯は全く知らなかったので、複雑な家庭の事情が彼の音楽にも反映されていることを知り興味深かった。ということで、知らない曲が多いがどれも興味深く、考え抜かれた選曲と優れた演奏で、楽しく聴くことが出来た。ラファエル・ピション/私の夢(Harmonia Mundi HMM905345)24bit 96kHz Flac1. シューベルト (1797-1828):レチタティーヴォとアリア「私はどこに・・・力ある者よ、塵の中に ('Wo bin ich… O konnt' ich')」(「ラザロ」D 689 第2幕より)2. 合唱「狩りへ'Zur jagd'」(「アルフォンソとエストレッラ」D 732 第1幕より)3. レチタティーヴォ&アリア「'O sing mir Vater… Der Jager'」(「アルフォンソとエストレッラ」D 732 第2 幕より)4. シューベルト/リスト編曲によるオーケストラ版:影法師(「白鳥の歌」D 957より)5. シューベルト:交響曲第7番 ロ短調「 未完成」D 759より第1楽章Allegro moderato6. カール・マリア・フォン・ヴェーバー (1786-1826):「おお!海の上に浮かぶのはなんと心地よいことか'O wie wogt essich schon auf der Flut'」(オベロン、第2 幕より)7. シューベルト:交響曲第7 番 ロ短調 「未完成」D759より第2 楽章Andante con moto8. R.シューマン(1810-1856):人魚Meerfey op.69-5(女声のための6 つのロマンス第1 集より)9. ヴェーバー:レチタティーヴォ&アリア"どこに隠れよう・・・そして、私は復讐の力に身を捧げる"(抜粋) (歌劇『オイリアンテ』より)10. シューベルト:序奏~アルフォンソとエストレッラ D732 第3 幕より11. シューベルト/ブラームス編:タルタロスの群れ D58312. シューベルト:アヴェ・マリア(エレンの歌 第3 番) D839, op.52, no.613. シューベルト:合唱「やさしく静かに('Sanft und still')」~「ラザロ」D 689 第2幕14. R.シューマン:アリア"ここは見晴らしがよく('Hier ist die Aussicht frei')" 「ゲーテのファウストからの情景」WoO 3より第3部第5場15. シューベルト:「神はわたしの羊飼い」D 706ステファヌ・ドゥグー(Br track 1, 3, 4, 9, 11, 14)ユディト・ファ(s track3, 6)ザビーヌ・ドゥヴィエル(s track 12)ラファエル・ピション(指揮)ピグマリオン(合唱、管弦楽)録音 2020年12月,フィルハーモニー・ド・パリ
2024年05月10日
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2022年のヴァン・クライバーンコンクールで史上最年少の18歳で優勝した韓国のイム・ユンチャンのデッカ第一弾のショパンの練習曲集を聴く。難曲を難曲と感じさせない技巧の見事さと、流れのスムーズさ、抒情的な曲での美しいカンタービレなど、実に見事な仕上がり。難しい曲をそうと感じさせないで弾くことは、大変な技巧を持っているからだろうと思う。今までのこの曲でのスアンダードと言えば、先ごろお亡くなりになったポリーニ盤だろうが、当時は難しい曲を鮮やかな技巧で弾いて、聴き手を唖然とさせていたと思う。当時のレビューも演奏の完璧性に焦点が当たっていたと思う。今回の演奏を聴くと、そのような段階を超えた演奏のように感じられる。今思えばポリーニ盤に感じられた剛直性がイム・ユンチャンには微塵も感じられない。フレーズの端々に感じられる神経の行き届いた丁寧な処理も清潔感をもたらす。個人的には煌びやかな技巧の曲もさることながら、抒情的な表現にこそ彼の特質があるように思う。また、技巧的な曲であっても、ダイナミックスの繊細な変化を通じて、しばしば単調になりがちな楽曲にも表現の豊かさが感じられることが多い。まあ、それだけ演奏に余裕があるということなのだろう。ニューヨーカー誌が言うように『驚異的な技巧と解釈の深さを兼ね備えた、世代を超えた一流のピアニストになること』を期待したい。話は変わるが、以前聴いたベアトリーチェ・ラナのベートーヴェンの演奏に感じた革新的な感覚を、今回の表面的には決して派手ではない演奏で再び感じた。ピアノの世界が新しい時代に突入していると実感する今日この頃だ。Yunchan Lim Chopin: Études, Opp. 10 & 25(DECCA 4870122)24bit 96kHz FlacChopin: Études (12), Op. 10Chopin: Études (12), Op. 25Yunchan Lim (p)Recorded 2023-12-20,Henry Wood Hall, London
2024年05月06日
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ロシアのピアニストのニコライ・ルガンスキーがリリースしたワーグナーの楽劇のトランスクリプション集を聴く。Spotifyで少し聴いて良かったので、丁度eclassicalから10ドルちょっとで配信されたので、速攻でダウンロードしてしまった。曲目は「ニーベルンクの指輪」からの名場面のハイライトと「パルシファル」の第一幕の場面転換の音楽、「トリスタンとイゾルデ」の「イゾルデの愛の死」というラインアップ。こういう企画はゲテモノ扱いされるものだ。おまけにワーグナーの複雑極まりないオペラのトランスクリプションなので、原曲に比べると、聴き劣りすること甚だしいと予測されるものだ。実際に聞いてみると、さすがにミニチュア感は感じられるものの、立派な音楽で、ゲテモノとは全く感じられない。何よりもルガンスキーの音楽に対する真摯な取り組みが感じられる。ブックレットには曲の解説と共に、ルガンスキー自身のワーグナー体験について書かれている。それによると、『18歳か19歳の時に海外に行った時に、僅かな所持金の中からセル・クリーブランド管の「ニーベルンクの指輪」のハイライトを当時出回り始めていたCDで購入したところからワーグナー体験が始まり、以来ワーグナーの魅力にどっぷりと嵌ってしまった。』とのこと。『ワーグナーのような創造力とあふれるエネルギーを持った他の芸術家を、歴史上私は知りません』と言っているほどで、ワーグナーに対する傾倒ぶりが半端でないのだろう。「ニーベルンクの指輪」からの最初の2曲はルイ・ブラッサン(1840 - 1884)というベルギー人のピアニストによる編曲で、「パルシファル」は指揮者のフェリックス・モットルの編曲による第1幕の場面転換の音楽とゾルタン・コチシュによる終幕の音楽をつなげたもの。「神々の黄昏」からの音楽は、すべてルガンスキーの編曲で、これが最も聴きごたえがあった。最初に聴いたセルのアルバムの影響があるのか、「神々の黄昏」の編曲はセルの演奏を彷彿とさせる音楽だ。「ラインの旅」でのルバートなどもオペラを彷彿とさせる演奏だ。「ジークフリートの葬送行進曲」は、ジークフリートの死という悲しみを、これほど切々と訴えかける演奏は、原曲でも出会ったことはない。テンポが遅く、スケールも巨大で重量感にも不足しない。エンディングも実に感動的だ。「パルシファル」は美しく宗教的な気分は出ているが、少し硬く、ダイナミックスが不足しているので、オペラを聴いている気分にはならない。どうも編曲に起因すると思われる。最後にリスト編曲による「イゾルデの愛の死」が演奏される。ルガンスキー:ピアノによるワーグナー名場面集(Harmonia Mundi HMM902393)24bit96kHz Flac1.『ラインの黄金』~ヴァルハラへの神々の入場(ブラッサン、ルガンスキー編)2.『ワルキューレ』~魔の炎の音楽(ブラッサン編)3.『神々の黄昏』~ブリュンヒルデとジークフリートの愛の二重唱(ルガンスキー編)4.『神々の黄昏』~ジークフリートのラインの旅(ルガンスキー編)5.『神々の黄昏』~ジークフリートの葬送行進曲(ルガンスキー編)6.『神々の黄昏』~ブリュンヒルデの告別の歌(ルガンスキー編)7. 『パルジファル』~場面転換の音楽と終幕(モットル、ルガンスキー、コチシュ編)8. 『トリスタンとイゾルデ』~イゾルデの愛の死(リスト編)ニコライ・ルガンスキー(ピアノ)録音 2023年9月,パドヴァ、慈愛同信会
2024年05月02日
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香港出身のイギリスの若手作曲家のダニ・ハワード(1993-)の管弦楽曲集を聴く。例によってpresto musicで紹介されていて、spotifyで聞いたところ良かったので、一番安いと思われるHigresaudioからダウンロード。基本的にはポスト・ミニマル・ミュージックなのだろう。ジョン・アダムズのような明快な作風で親しみやすい。さしずめミニ・アダムズ?。管弦楽だが管が優勢なオーケストレーションで、吹奏楽アレンジでもいけそうな気がする。ハーモニーは分厚いが、見通しがよく爽やかで、きびきびとした運動性にも欠けていない。ただ、似たような楽想の曲が多く、すぐ区別がつかないところが難点だろう。トロンボーン協奏曲と最後の「アーチ」は2管編成で他は3管編成の管弦楽。小鳥のさえずりや大自然の脅威を感じさせるような楽想が頻出するのが特徴だろうか。ラテン語で銀の意味の「Argentum」(アルゲントゥム)はイギリスのクラシック専門放送局Classic FM創立25周年の委嘱作品を祝う6分ほどの曲。明るく軽快な曲調だがティンパニや金管の一撃で曲の剛直性が露になる。所々にブリテンなどのイギリス音楽の影響が垣間見られるのが面白い。トロンボーン協奏曲はロンドン交響楽団首席のピーター・ムーアのソロ。明るく豊かなサウンドで、この楽器にしては細かな音符の続く曲を凄まじい勢いで演奏している。第2楽章は小鳥のさえずりや風、雷などの自然の風景を思わせる楽章でトロンボーンが悠然と歌う。またトロンボーンでは珍しい重音奏法が出てくるところも、聴きどころの一つだ。決然とした意志を感じさせるような第3楽章「Illumination」16分音符が連続する困難なパッセージが続くが、ムーアは鮮やかなテクニックで楽々乗り切る。エンディングのダイナミックでエネルギッシュなサウンドは実に興奮させる場面だ。革新的なトロンボーン協奏曲の誕生を思わせる、すぐれた作品。「Arches」は彼女の最初の管弦楽作品。音楽大学卒業当初は管弦楽曲の書き込みの多さから、大規模なオーケストラ作品を手掛けることにしり込みをしていたという。曲は、穏やかな楽想のイントロ後、弦の16音符の刻みに管のモチーフの断片がちりばめられて進行する。やや明るい楽想でドラマチックな表現もあり、あまり深刻にならずに済む。題名は初演されたロンドンのセント・ジョンズ・スミス・スクエアの建物の大胆で広大な「アーチ」に触発されたもの。所々にゆったりとした田園風景を思い起こさせるような部分があり、一息つくことが出来る。鳥の鳴き後を思わせるフルートのフラッター・タンギングも効果的。「Ellipsis」は全曲にわたって刻まれる執拗なリズムに乘って、小鳥のさえずりや大自然の脅威を思わせる凶暴な金管のサウンドが延々と続く。ただ、リズムを刻むのがいろいろな楽器に橋渡しされるので単調さから免れている。中間部でテンポが遅くなり、ハープなどのゆったりとした楽想が流れるところに救われる。また、エンディングの壮大な表現には戦慄を覚える。音楽だけではなく、映像があれば理解が深まるような気がする。「Coalescence」は「複数のものが一つに結合する」ことを意味する言葉で、作曲者は舗装された道路の金属の柵の中で成長する直径1mの木から人間と自然の相互作用についてのインスピレーションを得たという。約12分の音楽で、変化に富んでいて、アルバム中随一の聞き物だろう。この曲では最初のテュッティが終わった後の、静かだが緊迫した場面が印象的だ。いろいろな楽器のサウンドの断片が散りばめられていて、弦のソロも入る。教会の鐘?が鳴ると再び激しいリズムが刻まれる。後半は他の曲と同じようなサウンドで、違いがよく分からなくなる。暴れまくるティンパニやトロンボーンの荒々しいペダルトーンを含むテュッティが出現して突如として終わる。ところでこのアルバムを聞いていたら、気分があまりよくない。ChatGPTでミニマル・ミュージックが原因ではないかと思って調べてみたら、下記のような五つの答えが返ってきた。「単調性」「予測可能性」「感情の不足」「環境への適合性」「個人の好み」まあ、最後の個人の好みには笑ってしまうが、筆者にとって、抽象的で情報量が少ないため、感情的なつながりや表現が不足しているー「感情の不足」が当てはまるような気がする。この結果から、どうやら筆者にとってミニマルミュージックは心理的にあまりよくない影響を与えているようだ。なお、このアルバムのすべての作品は彼女のサイトで聞くことが出来る。Dani Howard Orchestra Works(Rubicon RCD1125)24bit 96kHz Flac1.Argentum(2017)2.Trombone Concerto(2021) I. Realisation II. Rumination III. Illumination5.Ellipsis(2021)6.Coalescence(2019)7.Arches(2015)Peter Moore(tb track 2-4)Royal Liverpool Philharmonic OrchestraMichael Seal(track 1-4)Pablo Urbina(track 5-7)Recording: Liverpool Philharmonic Hall, 14 May 2022 (Argentum, Trombone Concerto) & 11 October 2022 (Ellipsis, Coalescence, Arches)
2024年04月15日
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イタリア生まれのフランチェスカ・デゴ(1989-)によるヴァイオリン協奏曲集を聴く。風呂に入っている時にSpotifyで流していたら、その情熱的な演奏にすっかり参ってしまった。取り敢えずその時は高かったのでグラモフォンで録音していたストラヴィンスキーのアルバムをダウンロードして楽しんでいた。しかし、ある日偶然にもeclassicalで半額で購入できることがわかり、迷うことなくダウンロードしてしまった。調子に乗って、鈴木優人のバッハの平均律第1巻までダウンロードしてしまった。デゴのヴァイオリンは細身だが、とにかく音が素晴らしく美しい。作る音楽も明快で、作為的なところがなく、聴き手の耳にすんなりとはいってくる。難解と思われるブゾーニの音楽もスカッとして精神衛生上まことに良い。速い第3楽章も歯切れがよく、とんでもない速さのエンディングもすいすいと進みしかも爽やかだ。ブラームスは前述のとおり情熱的だが、聴き手の心に沁みわたる演奏だ。表情は濃厚ではないのだが、表現が的確で違和感は全くなし。腑に落ちる演奏とはこういうことを言うのだろうか。速めのテンポの第3楽章もラプソッディックな気分が横溢していて、ワクワクする。ブラームスは第1楽章のカデンツァの前でティンパニがドロドロ鳴って、風景が一変してしまった。びっくりして調べたら、ブゾーニのカデンツァだった。この曲の録音の大半のカデンツァがヨアヒムのもので、例外はクレーメルが使ったレーガーくらいだと思っていたのだが、我々が耳にする機会がないだけでけっこうな数のカデンツァが存在するようだ。こちらによると16種類もある。ここにも書かれているが、それだけこの曲には魅力があるということなのだろう。ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 15の作曲家によるカデンツァ聴きたいが残念ながら廃盤らしい。ブゾーニは初めて聞いた。シゲティが初演したそうだが、大変な難曲のようで、彼のyoutubeの演奏でもそれが感じられる。バックはウクライナ生まれで5歳にフィンランドに移住したというダリア・スタセフスカ(1984-)の指揮するBBC交響楽団もデゴの演奏に倣ったのか、粘らず清々しい。ただ、一部表現が固かったり、響きが整理されていないように感じられるところがあるのが惜しい。スタセフスカの芸風としては、ヒンデミットの剛直な音楽のほうがあっている気がする。ということで、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を買ったのは本当に久しぶりだったが、耳タコの曲のはずなのだが、新鮮な気持ちで聞くことが出来た。ブゾーニもなかなか楽しい曲で、これも爽やかだった。シゲティのブゾーニFrancesca Dego:Brahms & Busoni: Violin Concertos(Chandos CHSA5333)24bit96kHz Flac1.Busoni: Violin Concerto, Op. 35a4.Brahms: Violin Concerto in D major, Op. 77Francesca Dego (violin)BBC Symphony OrchestraDalia StasevskaRecording venue Phoenix Concert Hall, Fairfield Halls, Croydon; 4 and 5 July 2023
2024年04月09日
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フランスのメゾソプラノのサンドリーヌ・ピオー(1965-)の新作「Reflet」を聴く。彼女のアルバムはアルファからしか出てないので、なかなか手を出しにくい。このアルバムは珍しくeclassicalからもリリースされていたので、ダウンロードした。このサイトでは最近価格決定の基準が変更になり、秒単位で価格を決めているようだ。いわば従量制で決めているようなもので、アルバム単位での値決めをするこの業界においては、他のサイトでは考えられないことだ。この業界での価格破壊のようなもので、このサイトの英断に拍手を送りたい。閑話休題フランスの作曲家たちに何故かブリテンが入っているというプログラム。シャルル・ケクランの歌曲が取り上げられているのが珍しい。ピオーはどの曲でも上手さが際立っていて実に素晴らしい。フランスでは同世代のヴェロニク・ジャンス(1966-)も「Paysage」というアルバムをアルファからリリースしたばかりだ。筆者は以前はジャンスのほうがうまいと思っていたが、この二つのアルバムを比べると、ピオーの柔らかなディクションに比べるとジャンスはちょっときつく、ピオーのほうがフランス歌曲に相応しいと思う。聞いたことのない歌が多いが、その中ではケクランの「エドモン・アロークールによる4つの詩Op.7」からの2曲と「3つの歌 Op. 17」の第3曲 「顕現節」が繊細な伴奏と共にしみじみとした情感を感じさせる。因みに「顕現節」とは、東方の三博士がベツレヘムに誕生したキリストを訪問し、キリストが神の子として公に現れたことを記念する日(顕現日)に対応する時節のことだ。最後のブリテンの「4つのフランスの歌」はタイトル通りフランス風な曲で、他のフランス人作曲家の並んでいても全く違和感がない。微妙なサウンドのグラデーションが美しく、ブリテンの腕の冴えを感じさせる。管弦楽のみの短い曲が2曲入っていたが、ドビュッシーの割には主張が強く、厚ぼったいサウンドなこともあり、あまり面白くない。その中では短いながらも躍動的な「古代のエピグラフ」の第6曲「朝の雨に感謝するために 」が彼らの芸風に合っている。バックの「ヴィクトル・ユーゴー・フランシュ・コンテ管弦楽団」という団体は初めて聞いた。クラリネット奏者でもあるジャン=フランソワ・ヴェルディエは2010年からこの楽団の音楽監督を務めている。フランスらしい軽さと雰囲気が持ち味だが、歌に寄り添うというよりはぐいぐいと迫ってくるような、よく言えば積極的な伴奏で、悪く言うと圧迫感を感じるため好悪が分かれそうだ。ラヴェルの「マラルメの3つの詩」は室内楽編成なので、おしつけがましさがなく、そこはかとなく感じられる東洋趣味とクールな雰囲気が悪くなかった。ピオーの歌はオーケストラに全く負けていないのだが、個人的には、伴奏はもう少し控えめな方が好ましかった。録音は前に出てくるサウンドでこの録音も圧を感じる原因かもしれない。残念なのは、3曲目の2分30秒から2分50秒付近まで、何かが振動しているようなゴーという音が聞こえること。とても容認できるようなレベルではない。私の聞いている音源だけだろうか。とうことで、伴奏について注文を付けてしまったが、アルバム全体としてはかなりハイレベルな仕上がりで、ピオーの歌を堪能できる。年齢的にも最盛期だろうから、今のうちに出来るだけ多くの録音を期待したいところだ。Sandrine Piau:Reflet(Alpha ALPHA1019)24bit96kHz1.Hector Berlioz:Les nuits d'été, H 81: No. 2, Le spectre de la rose2.Henri Duparc:Chanson triste(1868)3.Henri Duparc:L’invitation au voyage(1870)4.Charles Koechlin:4 Poèmes d'Edmond Haraucourt, Op. 7 2, Pleine eau(1897) 4, Aux temps des fées(1896)6.Charles Koechlin:3 Mélodies, Op. 17: No. 3, Epiphanie(1900)7.Debussy, Claude:Suite bergamasque, L. 75: No. 3, Clair de lune8.Morice Ravel:3 Poèmes de Stéphane Mallarmé, M. 64(1913) 1, Soupir 2, Placet futile 3, Surgi de la croupe et du bond11.Debussy, Claude:6 Épigraphes antiques, L. 131: VI. Pour remercier la pluie au matin12.Benjamin Britten:Quatre Chansons françaises (1928) 1, Nuits de juin 2, Sagesse 3, L'enfance 4, Chanson d'automneSandrine Piau (s)Orchestre Victor HugoJean-Francois VerdierRecorded in November 2022 at Auditorium de la Cité des arts, Besançon.
2024年04月05日
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以前紹介いたONTOMO MUKKUレコード・アカデミー賞で紹介されていたティボー・ガルシア(1994-)のバリオス作品集を聴く。ガルシアはフランスの天才ギタリストだそうだ。筆者はカウンター・テナーのジャルスキーとのデュオを前にダウンロードしていたことをすっかり忘れていて、お初だったと思ってしまった。殆ど聴いていないので、記憶にないのも当たり前かもしれない。演奏はノイズが少なく、潤いのあるサウンドが心地よい。音楽も無理のない表現と歌心で、バリオスの作品が楽しめる。天才肌のミュージシャンは表現が時としてエキセントリックになりがちだが、この方は落ち着いていて,そのような雰囲気は毛ほども感じさせない。また、ショパン、ベートーヴェン、シューマンのピアノ曲の編曲が含まれている。原曲が矮小化されていることもなく、ルバートや弱音の使い方なども絶妙な表現だ。筆者の好きな「ワルツ第3番」のくすぐるような絶妙なルバートや弱音の使い方など、この曲の魅力が十全に表されている。「蜜蜂」のような速く技巧的な曲でもテクニックの制約を感じさせない音楽の流れだ。「大聖堂」はエラートへの2枚目のアルバム『バッハ・インスピレーションズ』に収録されていたトラック。筆者はこのアルバムは聞いていないので、今回収録されたのは有難い。最後にバリオス自身の演奏で「カアサパ」が収録されている。スクラッチのイズも聞かれ、さすがに古いと感じるが、ガルシアの洗練された演奏とは一味違う、土いきれの感じられる演奏はまた格別だ。ということで、バリオスのギター曲の魅力満載のアルバムで、ブランデーでも飲みながら心静かに楽しみたい。エル・ボエミオ~ギター作品集 ティボー・ガルシア(Erato 5419772617)24bit 96kHzFlacバリオス:1. 森に夢みる2. サンバの調べ3. マズルカ・アパッショナートショパン:4. 24の前奏曲 Op.28~第20番(バリオス編)バリオス:5. 神様のお慈悲に免じてお恵みを6. マシーシ7. パラグアイ舞曲 第1番8. ヴィダリータ(オルランド・ロハスによる詩「エル・ボエミオ」の朗読付き)ベートーヴェン:9. ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調 Op.27-2『月光』~第1楽章:Adagio sostenuto(バリオス編、イ短調)バリオス:10. 蜜蜂11. フリア・フロリダ12. クリスマスの歌13. ワルツ Op.8-314. ワルツ Op.8-415. 告白(ロマンサ)16. 悲しみのショーロ17. オルランド・ロハスによる詩「信仰告白」(朗読のみ)バリオス:18. 前奏曲 ハ短調シューマン:19. トロイメライ Op.15-7(バリオス編)(ボーナス・トラック)バリオス:20. 大聖堂21. カアサパ(アグスティン・バリオス自身による演奏)ティボー・ガルシア(ギター:1-16,18-20)オルランド・ロハス(朗読:8,17)アグスティン・バリオス(ギター:21)録音: 2023年2月11-13日 フランス、ルーアン、Chapelle Corneille(1-19)/ステレオ(デジタル) 2018年3月23-26日 フランス、アラス、Salle des concerts de Arras(20)/ステレオ(デジタル) 1928年5月10日 ブエノスアイレス、Estudios Odeon(21)/モノラル
2024年03月30日
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出典:ルツェルン新聞この前百田尚樹氏のyoutubeのサムネを観たらピアニストのマウリツィオ・ポリーニ氏(1942–2024)が亡くなられたことが書いてあった。少し見てから、Xを覗くと凄い量の投稿がアップされている。今更ながら20世紀後半を代表する偉大なピアニストであったことを実感する。最近は体調を崩すことが多く、最後の演奏会は昨年10月にチューリッヒで行われた演奏会あったらしい。書き込みによると、譜めくりの人と舞台上で口論し、演奏もボロボロだったらしい。筆者も何回か氏の最近の演奏が不調であることについて書いたことがあるが、体調が悪かったことも原因の一つだったのかもしれない。年のせいにしていたが、体調が悪かったら仕方がないと思う。悪く書いたことに対し、お詫びをしなければならない。こちらの記事によると2022年の夏のザルツブルクからキャンセルが続き、チューリッヒでのリサイタルが回復してから初のリサイタルだったらしい。それがこんなことになって、何ともお気の毒だ。多分、演奏が不出来だったことと、体調が思わしくないことが重なったための出来事だったのかもしれない。ルツェルン新聞月刊音楽祭関連記事に彼の生い立ちから業績までがまとまって書かれていて参考になる。筆者も例にもれず昔から彼の演奏に親しんでいたものだ。もっぱら独奏のアルバムを聞くことが多かった。残念ながら生を観ることはなかった。協奏曲はアバドと共演したいくつかを除き聞いたことがない。よく聴いたのは、ご多分に漏れずショパンの「練習曲集」、シューマンの「交響的練習曲」、シェーンベルクの「ピアノ曲集」など。バルトークの協奏曲もよく聴いたものだ。彼の演奏は、それまでの概念を超えるような革新的な演奏が多かったと思う。個人的にはシェーンベルクのピアノ曲に開眼?したのはポリーニの演奏のおかげだ。それまでもグールドの演奏などがあったが、数がもともと少なく、難解な演奏が多かったのが馴染めなかった理由だろう。ポリーニの音楽は明快な表現で、難解さが薄れ、理解しやすいものになっていた。残念なのは晩年の衰え。あれほど完璧な音楽を演奏していた方だからこそ、無念だっただろう。これで同年代の大物はアルゲリッチ(1941-)くらいしかいなくなってしまった。せめて彼女には長生きして演奏を聴かせてもらいたいものだ。
2024年03月26日
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ドロシー・ハウエル(1898 - 1982)というイギリスの女流作曲家の管弦楽曲集。presto musiで紹介されていて、spotifyで聞いたところ、なかなかいいので、prostudiomastersから¥1600で入手。wikiによるとドロシー・ハウエルはバーミンガムで生まれ、殆どの作品が未出版。交響詩「ラミア」やバレエ音楽「クン・シー」が知られているそうだ。アルバムは7枚ほどで、すべて2000年代に入ってからのレコーディング。ディストリビューターによると『批評家のジョゼフ・ホルブルックが1921年に出版した現代英国作曲家ガイドに、エセル・スマイスとレベッカ・クラークと並んで、彼が重要だと考えた、たった3人の女性作曲家の1人として紹介された』とのこと。上記の二人も筆者が最近知った作曲家で、スマイスはシャンドスの交響曲集、クラークは「ライオネル・ターティスに捧ぐ」というティモシー・リダウトのアルバムで聞いたばかりだ。ハウエルは「ラミア」で成功を収めたものの、1940年以降はその曲が軽視され、2010年のプロムスシーズンで復活するまで待たねばならなかった。実際このアルバムの5曲のうち「ラミア」以外は初録音だ。ハウエルは、生前、「イングリッシュ・シュトラウス」と呼ばれていたそうだ。一瞬して聴き手の心をつかむような力はないが、映画音楽を聴いているような分かりやすく生気に富んだ音楽だ。物語を思わせるような明快な作風で、色彩豊かなオーケストラもよく鳴っているが、シュトラウス流の金管が豪壮に鳴るとうことはない。メロディー・ラインがディーリアス風で、田舎の雰囲気を思い起させる。涼やかな弦のサウンドが印象的だ。「ユーモレスク」はオリエンタル風味満点のファゴットのソロから始まるイギリス人らしいウイットに富んだ音楽だろう。洗練されたサウンドでスカッとする。序曲「ザ・ロック」は速いテンポの明るく快活な曲で、ここでも豊かなサウンドが聞かれる。テンポを落とした中間部では東洋風なモチーフやディーリアスを思い出させる旋律が出てくる。「3つのディヴェルティスマン(1940年)」はハウエルの最後の大規模な管弦楽作品だが、初演は戦争のため1950年まで待たなければならなかった。コミカルでカスタネットが印象的な第1楽章、ゆったりとした時が流れる第2楽章、管楽器の活躍する第3楽章からなる。第3楽章のへんてこなテーマが異彩を放っている。イギリスのロマン派を代表する詩人ジョン・キーツ(1795‐1821)の詩による交響詩「ラミア」は14分ほどの作品。女性に変身したラミアという蛇が、美青年リュキウスに恋をし、結婚するが、詭弁学者のアポローニアスはレイミアが蛇の怪である事を見抜き、これを祓う。ラミアは消え去り、リュキウスは死ぬという物語。イギリス人らしからぬ濃厚な表現とストーリーテラーぶりで、イギリスのシュトラウスと形容された理由にも納得できる。「クーン・シー」はハウエル唯一のバレエのための音楽で演奏時間は21分。17世紀の中国を舞台に、裕福な官僚の娘クーン・シーと官僚の簿記係であるチャンの悲恋の物語。彼らが愛し合うことを知った官僚がちゃんを殺し、それを知ったクーン・シーが家を焼き払うが、神々が二人を憐れんで彼らを永遠に一緒に過ごすために鳩にするという物語。原色的で異国情緒満点の音楽が楽しめる。指揮者のレベッカ・ミラーはアメリカ、カリフォルニア出身の女流指揮者。劇的な表現に長けており、ハウエルのアニメ的な魅力を余すところなく表現していた。BBCコンサート・オーケストラは悪くないが、所々限界が感じられる。録音はあまり抜けがよくない。こういう知られていない曲を聴くときに、ブックレットが付いていないのは痛い。他社では付いているので、付いていない理由を知りたいところだ。ドロシー・ハウエル: 管弦楽作品集 (Signum SIGCD763)24bit96kHz Flac1.ユーモレスク(1919)2.序曲「ザ・ロック」(1928)3.3つのディヴェルティスマン(1950)6.交響詩「ラミア」(1919)7.Koong Shee(1921)レベッカ・ミラー(指揮)BBCコンサート・オーケストラ録音:2022年6月、セント・ジュード教会(ロンドン)追伸念のためリリース元に問い合わせたら、もともとブックレットはなくて、いろいろなところを探しまくって送ってくれた。何か悪いことをしてしまったようで申し訳なかった。
2024年03月18日
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約20万枚のベスト・セラーになったというルノー・カピュソンのアルバム「シネマに捧ぐ」の続編で、フランス人作曲家の作品集。原題は「Les choses de la vie」。前作はちょい聞きで、それほどでもないと思い、保留にしていた。今回は気に入ったナンバーがいくつかあり、レ・シエクルが共演していることも理由でダウンロード。いつものpresto musicからのダウンロードで、ワーナーがk国よりも安いM国が見つかったので、そこからのダウンロード。ブックレットにこのアルバムについてのカピュソンの言葉が載っている。『このアルバムの狙いは、ジョルジュ・ドルリュー、フィリップ・サルド、ミシェル・ルグラン、モーリス・ジャール、ジョゼフ・コスマ、フランソワ・ド・ルバイユ、ジャン=クロード・プティ、ウラジミール・コスマ、フランシス・ライ、ガブリエル・ヤレド、フィリップ・ロンビ、アレクサンドル・デプラといったフランス映画の最も優れた作曲家たちの作品によるアルバムを制作すること。彼らの音楽を通して、映画に出演していたロミー・シュナイダー、ミシェル・ピコリ、イヴ・モンタン、フィリップ・ノワレ、ルイ・ド・フュネスなどの魔法の瞬間を蘇らせることができれば幸いだ。』とのこと。地味な曲が多いが、全体にフランス音楽らしい麗しい、しゃれた雰囲気がして、悪くない。ただ、あまり突っ込んだ表現はされていないので、曲によっては物足りないこともある。するりと交わされたような気になる曲もある。カピュソンのヴァイオリンは艶やかな音色の華やかで詩的な雰囲気満点の演奏。気に入ったのは「枯葉」。実に詩的で、しみじみとした余韻の残る演奏。ヴァースから始めていて、イブ・モンタンの歌を思い出してしまった。spotifyでモンタンの歌を聞いたら、今回と同じような雰囲気がしている。フランシス・レイの「ある愛の詩」が入っているのも嬉しい。この曲、最近はめっきり聞くことがなくなってしまったが、改めて聞くといい曲であることを再認識。2分ほどの少し速めのテンポで、もう少しじっくりと演奏してほしかった。筆者は聞いたことがなかったが、フランスの最高の映画音楽作曲家といわれているジョルジュ・ドルリュー(1925-1992)の曲が7曲も入っているのが目立つ。ミシェル・ルグランでもなく、フランシス・レイでもないところがみそだ。wikiによるとフランソワ・トリュフォーの主要な映画作品で音楽を担当したとのこと。このアルバムもトリュフォーの映画は『終電車』他数曲が演奏されている。ここに収録されている曲を聴く限り、ウエットで悲しげな表情が特徴のようだ。その中では優雅な「ベスト・フレンズ」や「終電車」、「わたしたちの宣戦布告のRadioscopie」など格調高いクラシカルな作品が良かった。「サン・スーシの女」の情感漂う演奏も心に沁みわたる。総じてあまり明るい曲がなく、同じ調子の曲が続くので後半はちょっと尻すぼみ気味。その中では映画『追想』~クララ1939のスインギーで夢見るような表情がいい。「アラビアのロレンス」が入っているのもアルバム全体のカラーから行くとちょっと異質な気がする。最後は作曲者自身のアレンジによる『ニューヨーク←→パリ大冒険』のお祭り騒ぎで、なんとか帳尻を合わせている感じだ。編曲は主にシリル・レーンという方が行っているが、ばらつきが多い。カピュソンの演奏はもっと濃い表情をつけてほしいところもあるが、こんなものかもしれない。この団体は古楽器とはモダン楽器を使い分けているらしいので、今回はモダン楽器を使っているのかもしれない。レ・シエクルはサウンドに厚みと気品があり、フランスの香気が漂ってくるようなサウンドで、この楽団の起用は成功したと思う。筆者としては古楽器のサウンドで映画音楽がどのように響くのか是非聞きたかったところだ。直近のサン=サーンスの「動物の謝肉祭」のアルバムを聴くと、古臭さが目立ち、昔の無声映画のような感じになっていたので、却って逆効果になってしまっていたかもしれない。録音は悪くないがテュッティで混濁気味になるところが惜しい。ルノー・カピュソン:すぎ去りし日の...(Erato 5419779905)96kHz Flac1.ジョルジュ・ドルリュー:映画『ベスト・フレンズ』(1981)2.ミシェル・ルグラン:映画『華麗なる賭け』~風のささやき(1968)3.ジョルジュ・ドルリュー:映画『愛と戦火の大地』~別れのコンチェルト(1992)4.ジョゼフ・コズマ:映画『夜の門』~枯葉(1946)5.ジャン=クロ-ド・プティ:映画『愛と宿命の泉』(1986)6.ジョルジュ・ドルリュー:映画『終電車』(1980)7.フィリップ・サルド:映画『すぎ去りし日の…』~エレ-ヌの歌(1971)8.フランソワ・ド・ルーベ:映画『追想』~クララ1939(1975)9.ジョルジュ・ドルリュー:映画『わたしたちの宣戦布告』~Radioscopie(2012)10.ジョルジュ・ドルリュー:映画『メモリーズ・オブ・ミー』(1988)11.カブリエル・ヤレド:映画『イングリッシュ・ペイシェント』~アズ・ファー・アズ・フローレンス(1996)12.ジョルジュ・ドルリュー:映画『サン・スーシの女』(1982)13.フィリップ・サルド:映画『フォート・サガン』(1984)14.フランシス・レイ:映画『ある愛の詩』(1970)15.フィリップ・ロンビ:映画『戦場のアリア』~無のテーマ(ロンビ編)(2005)16.ジョルジュ・ドルリュー:映画『親愛なるルイーズ』(1972)17.アレクサンドル・デスプラ:映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)18.モーリス・ジャール:映画『アラビアのロレンス』(1962)19.ウラジミール・コスマ:映画『ニューヨーク←→パリ大冒険』(コスマ編)(1973)Cyrille Lehn arrangements (1, 2, 4–14, 16–18)ルノー・カピュソン(vn)レ・シエクルダンカン・ウォード2023年3月27-29日、アルフォールビル、ONDIF Studio
2024年03月14日
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最近注目しているイギリスの中堅ピアニストのクレア・ハモンドの新譜を聴く。エドマンド・フィニス(1984-)という作曲家の「Youth」という17分ほどの作品を弾いたEP。フィニスはイギリスの作曲家でクラシックと電子音楽の作曲家だそうだ。discogsを見るとCDが2枚、EPが一枚リリースされていて、今回の「若者」が新たに加わったことになる。この「若者」と題された作品は10曲の短い曲からなる組曲で、殆どが1分長くても3分程の小品集で、ハモンドにより委嘱された。彼らはロンドのギルドホール音楽演劇学校で一緒だったらしく、当時一緒に作業することを約束し、10年後にこの曲が実現したという。全体に暗く、それほど分かりやすくはないが、硬質な叙情とでも呼ぶべき作品集で、ハモンドの芸風にぴったりだ。印象派風の作風で、透明なハーモニーが特徴だろう。この組曲は柔らかなタッチではあるが、旋律はそれほど柔和ではない。人名や地名を含むいろいろなタイトルがつけられているが、あくまでもイメージだろう。テンポの遅い曲が多く、聴き手によりイメージが膨らんでいくような気がする。第2曲のように唐突に終わってしまう曲もあり、ちょっとびっくりする。第3曲はヘレン・フランケンサーラーというアメリカの女流画家の名前。激しい曲は第6曲「コエンティーズ・スリップ」。これはニューヨーク市マンハッタン区のロウアー・マンハッタンにある歴史的な地区のことで、かつては入江だったようだ。第7曲の「ハンマースホイの窓」はデンマークの画家ヴィルヘルム・ハンマースホイ(Vilhelm Hammershøi)によって描かれた窓の風景を指す。室内の高い窓と鑑賞者に背を向けた人物が描かれているのが特徴だ。フランス語で「隣人」や「境界」を意味する「ビューレン」はアルペジオが連続する。広大な荒野や低木の生えた地域を意味する「ヒース」はゆったりとしたテンポで同じフレーズが繰り返される。優しいアルペジオが流れる「ヘルシンキのパターン」で締めくくられている。最後に「エメリンのための子守歌」というこれも1分ほどの小品が組み合わされている。娘の誕生を祝ってハモンド夫妻がフィニスに依頼した曲で優しいメロディーが流れる。エッジの効いた、透明感溢れるピアノの音が作品に相応しい。EPのためかブックレットは付いていない。こういうアルバムこそブックレットが欲しいところだ。Clare Hammond Edmund Finnis:Youth(Pentatone PTC5187197)24bit 96kHz FlacEdmund Finnis:1.Youth I. 花開き II. 回転 III. フランケンサーラー IV. 日々の流れ V. 密集した尾根 VI. コエンティーズ・スリップ VII. ハンマースホイの窓 VIII. ビューレン IX. ヒース X. ヘルシンキのパターン11.エメリンの子守歌クレア・ハモンド (p)
2024年03月10日
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この前触れた「ONTOMO MOOKレコード・アカデミー賞」の管弦楽部門でリストアップされていたハーディングの「惑星」をspotifyで聞いて、その凄まじさにびっくり。レーベルはBRクラシックなのでprostudiomastersが安いことを思い出してチェックしたところ、リストに載っていた。うまい具合に25%オフのセール中だったので早速ダウンロードした。上記のムックでは土星の異常な遅さについて触れられていたが、土星は勿論、そのほかの曲も相対的に遅めで、何よりもその重量感が凄い。少なくとも筆者の聴いてきた惑星の中では断トツの重量感でスケールもこれが「惑星」かと思えるほどだった。ハーディングというと重量級というイメージとはまるで違った軽く明晰な音楽をやるというイメージだったが、見事に裏切られた。「惑星」のイメージからして重量級という感じではなかったのだが、テンポを極端に遅くすることによりこの曲の別な側面が露になったような気がする。昔、誰の演奏だったか忘れたが、たしかホルスト自身が指揮した演奏で、簡単だったと思われていたこの曲が、テンポを速くすることによって、難しい曲になってしまったということが言われていたことを思い出した。テンポを極端に遅くするといえば、チェリビダッケがその代表格だったのだが、彼がこの曲を演奏した録音はないようだ。全く惜しいことをしたと思う。筆者と同じことを考えていた方がいらっしゃるようで、全く同感だ。チェリビダッケの「惑星」(妄想)それにしても、曲によってはテンポを極端に変えることによって、印象がまるで違うものになるのは、音楽を聴く醍醐味でもあるだろう。オーケストラは申し分のないものだが、バイエルン放響のような馬力のあるオーケストラでなければ、これほどの演奏にはならなかっただろう。匹敵するとすればベルリン・フィルやシカゴくらいなものだろうか。アメリカのオーケストラと言えばスタインバーグがボストンを指揮した「水星」の豪快な演奏もいまだに忘れがたい。因みに、バイエルン放響がこの曲を演奏するのは、ほぼ30年ぶりだったとのこと。今回の演奏、いつもなら木星以降の曲はあまり面白いと思ったことがないが、最後まで飽きさせない演奏だった。評判になった「土星」の極端に遅く、後半の爆発するような巨大な演奏は、かつて聞いたことがないような戦慄を覚える。勿論、他の曲も力感に溢れ、スケールの巨大な演奏が多い。「水星」のように速い曲でも、機動性に優れている。録音はライブながら素晴らしいもので、透明感、迫力とも申し分のないものだった。特にバス・ドラムのずっしりとした重量感のあるサウンドは、曲の凄味を一層引き立てていた。海王星の女性コーラスもステージの後方に位置することが分かる、奥行きの感じられるサウンドで、くっきりと聞こえてくる。最後の弱音もノイズに埋もれることがない。というか、ホール・ノイズがほとんど聞こえないというのもライブでは珍しい。ということで、この曲の面目を一新させた画期的な演奏と言って差し支えない名盤だろう。出来るだけ大音量で聞かれることを、お勧めする。Holst: The Planets(BR-Klassik 900208)24bit 48kHz FlacGustav Holst:1.Mars, the Bringer of War2.Venus, the Bringer of Peace3.Mercury, the Winged Messenger4.Jupiter, the Bringer of Jollity5.Saturn, the Bringer of Old Age6.Uranus, the MagicianSymphonieorchester des Bayerischen RundfunksChor des Bayerischen Rundfunks Daniel HardingRecorded 24th-25th,2022,Herkulessaal,Münchner Residenz
2024年03月06日
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この前、本屋に行ったら『レコード芸術2023年総集編』なるムック本が目に留まった。休刊になるまでと、それ以降の補遺みたいな作りの本だった。中身は「ONTOMO MOOK レコード・アカデミー賞」と称して『レコード芸術』2023年1~7月号の月評特選盤から、録音部門に関しては優秀録音の中から、各月評担当執筆者が1~3位のディスクをコメント付きで選定しているというものがメイン。そのほか、2023年後半のお勧めディスクとして二人の評論家の鼎談によるお勧めディスクの紹介などもあり、とても参考になるこの本を見るまでは、mostly classicやstereoの新譜紹介を見ていたが、添え物程度の扱いで、物足りなかった。このムックを見たら、レコード芸術を見ているような感じで、慣れ親しんだ自分の家に帰ったような、居心地の良さを感じた。早速その中で上がっているものからギターのガルシアによるバリオス集とアラールのバッハのオルゲルピュヒラインをダウンロードして、聞き始めたところだ。また、本文を読んでいたらクラウドファンドでWEB版のレコード芸術を始めるようなことが書かれている。レコード芸術 ON LINEまあ、当初の予想通りだったが、本当に実現できたら、微力ながら協力するつもりだ。レコード会社にとっても朗報だろう。レコード芸術亡き後?はコンサートが開かれる時に広告を打つとか、タイアップするしかなく、営業的にもジリ貧だったと思う。いずれにしても、クラシック・ファンにとっても朗報であり、ぜひ実現してもらいたいものだ。
2024年03月02日
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ジョン・ウイルソン=ロンドン・シンフォニエッタの新譜を聴く。今回はラヴェルの「クープランの墓」、バークリー(1903-1989)の「ディヴェルティメント」、パウンズの「交響曲第3番」というプログラム。筆者にとってラヴェル以外は初お目見えだ。ラヴェルとバークリーは友人で、パウンズ(1954-)はバークリーに個人的に師事したという関係らしい。ラヴェルの「クープランの墓」は通常の4曲の組曲。全体に速めのテンポできびきびと進む。弛緩しないのはいいのだが、少し性急すぎるような気がする最初の「前奏曲」から速めのテンポでぐいぐいと進む。この曲とても難しいような気がするが、それが猛烈な速さでやられるもんだからオーボエの大変さが感じられる。「フォルラーヌ」も同じだが木管のフレーズの処理が短めで少し違和感がある。「メヌエット」も速めのテンポで、もう少し歌わせてほしいところも、あっさりと過ぎる。サウンドは透明で、墨絵を見るようなグラデーションが美しい。各楽器の動きがよく分かる明晰な解釈で、ラヴェルの作曲の妙が分かりやすい。霞のかかったような弦のサウンドが曲にふさわしい。「リゴドン」ではトランペットの輝かしいサウンドが印象的だ。バークリーの「ディヴェルティメント」は4楽章からなる20分弱の音楽で、師であるナディア・ブーランジェに捧げられている。イギリスの風情やウイットが感じられる、小粋で、なかなかいい曲だった。パウンズはバークリーに個人的に師事した作曲家だそうだ。世界初録音の交響曲第3番は2021年に完成したばかりの30分ほどの作品。作風は保守的で、あまり強い表現は感じられないが、それほど悪くない。第1楽章は作曲者が「決意の駆動力」と呼んだ楽章。ショスタコーヴィチの影響が感じられる、躍動的で決然たる意志が感じられる楽章。暗めの色調だが、躍動的なところも感じられる。第2楽章もショスタコーヴィチやプロコフィエフの影響が感じられる、シニカルなワルツが物々しく響く。第3楽章「エレジー」の副題が「ブルックナーへのオマージュ」となっているところが目を惹く。低弦のピチカートに乗ってヴァイオリンの悲し気な旋律が流れていくところが、ブルックナーの交響曲特に第5番の第1楽章のイントロに多少似ているかもしれない。ブックレットによると『パンデミックの結果として命を落としたすべての人々に捧げられた悲痛で強烈なエレジーでは、パウンズ自身が、ブルックナーの影響を楽譜に明示的に示している。』とのこと。第4楽章は今までの楽章のモチーフを使った循環的な形式の楽曲。エンディングはあまり盛り上がらず、あっさりと終ってしまう。とうことで、作品としては中規模な曲が多く、軽めの選曲ながら、バークリーやパウンズなど普段耳にすることのない曲が第一級の演奏で楽しめるのは、作品にとっても喜ばしいことだろう。ジョン・ウィルソン:ラヴェル、バークリー、パウンズ:管弦楽作品集(Chandos CHSA 5324)24bit 96kHzFlac 1.Le Tombeau de Couperin, M 68a Prélude Forlane Menuet RigaudonLennox Berkeley:5.Divertimento in B flat, Op 18 (1943) Prelude Nocturne Scherzo FinaleAdam Pounds:9.Symphony No 3 (2021; first recording) Largo - Poco più mosso - Allegro - Largo - Allegro - Largo - Poco più mosso - Tempo I Tempo di Waltz Elegy (hommage to Anton Bruckner) Allegro moderato - Largo - A tempo IRecorded 22 – 24 November 2022,Church of St Augustine, Kilburn, London
2024年02月28日
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エラス・カサド待望のファリャの第二弾前回のアルバムが大変良かったので、期待していたが、期待通りの出来だった。注目は「ペドロ親方の人形芝居」1幕の人形劇だが、筆者がまとも聴いたのは初めて。この曲の録音は少なく、BDが出た時に入手しようと思っていたが、いつの間にか忘れてしまっていた。印象としては前回の「三角帽子」と「恋は魔術師」を収録したアルバムと同様、パリッとしたサウンドのメリハリの効いた演奏でとても楽しめる。冒頭の決然としたティンパニに続く2本のオーボエの野卑で鄙びたサウンドで、一気にスペインの世界が広がる。間の取り方も絶妙で、スペインの暑苦しい空気を感じさせる。テクスチャーの繊細な描き方が素晴らしく、それが透明感に繋がっている。二人の歌手はどちらもスペイン出身。美声で洗練されていて、ローカル色は感じられない。ドン・キホーテ役のホセ・アントニオ・ロペスが渋いのどを聞かせてくれる。語りは普通はソプラノが担当するようだが、今回はボーイ・ソプラノで、マドリードの音楽学校JORCAMのメンバー。健闘しているが、やや一本調子。ただボーイ・ソプラノのためか全体的にコミカルなタッチになっていて、人形劇にふさわしいことも確かだ。管弦楽は鮮やかな色彩とメリハリのある表現で、この人形芝居を生気に富んだものにしている。また、本来ファリャが意図したものと同じかどうかは分からないが、重量感がありシンフォニックな側面が強調されているのも好印象。「ハープシコード協奏曲」は、今まで面白いと思ったことがなかった。おそらくはその暗いムードが気に入らなかったのだと思う。ところが、今回の演奏は「ペドロ親方の人形芝居」と同様に活気のある表現で、カラーでいえばモノクロが一気にカラーになったような感じがする。木管のびっくりするような粗野な吹奏など刺激的な表現にも事欠かない。ハープシコードのバンジャマン・アラールはバッハの鍵盤全集やクープランの音楽が多数リリースされているフランスのハープシコード奏者だそうだ。バックがあまりにも活きがいいためか、ちょっと地味な感じだ。もう少し大胆な表現があっても良かったような気がする。ストラヴィンスキーの「プルチネルラ」組曲はかなり流麗な表現で押し出しが強く、古典的な気分はあまり感じられない。ここでも生き生きとした表現が目立つ。テンポは中庸だろうか。オーケストラのメンバー、特に第6曲アレグレットでの木管の上手さが光る。速い「タランテラ」での沸き立つような気分を感じさせる、勢いのある表現も素晴らしい。終曲は凄絶なサウンドで通常より30秒ほどテンポが速く、切れの良いスリル満点の演奏。おそらく既存のどの演奏よりも、この曲の凄さを感じさせる演奏だろう。録音は申し分ないもの。特に示されていないが、どうやらライブのようだ。ところで、国内盤のこのCDが4千円もすることを知り、目を疑った。知らず知らずのうちにCDも高くなっているのだろうか。Stravinsky: Pulcinella Suite - Falla: El Retablo de Maese Pedro & Harpsichord Concerto(Harmonia Mundi HMM902653)24bit 96kHz Flac1. ファリャ:歌劇『ペドロ親方の人形芝居』全曲11. ファリャ:チェンバロ協奏曲14. ストラヴィンスキー:『プルチネッラ』組曲Airam Hernández(tn Pedro)José Antonio López(Br Donuihote)Héctor López de Ayala(boy sp Narrator)Benjamin Alard(Harpsichord track 1-13)Mahler Chamber OrchestraPablo Heras-CasadoRecorded February 2023, Sala Montsalvatge, Auditori de Girona (Spain)
2024年02月24日
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高くて手が出なかったアルファのヴィラ=ロボスとグラスの管弦楽作品集だったが、eclassicalのセールに登場し、速攻で購入した。ヴィラ=ロボスの組曲「アマゾンの森」は映画のための音楽。ブックレットによるとこの音楽はメル・フェラー監督、オードリー・ヘプバーンとアンソニー・パーキンス主演の冒険映画『緑の館』(1959)のサウンド・トラックとしてメトロ・ゴールドウィン・メイヤーから依頼されたそうだ。sound track【粗筋】ベネズエラで政変が勃発し、父を失ったアベル(パーキンス)は金塊を求めてアマゾンへ向かう。村で試練を受け、禁じられた森でリーマ(ヘップバーン)と出会い、愛し合う。リーマは出自の謎を解き、故郷リオラマへ向かう決意をする。アベルとリーマは困難な旅を共にし、村での混乱を阻止するが、クアコに追い詰められ、リーマは火事に巻き込まれる。アベルはクアコとの死闘を制し、森でリーマを求めるが、彼女は幻影として姿を現す。音楽は南国の気分が横溢していて悪くないが、全体に古臭いモノクロ映画を観ているような感覚に陥る。難しいところはなく、映画音楽なので当たり前かもしれないが劇的な音楽。個人的には雑然とした感じの音楽で、編曲したほうが聴き映えがするような気がするというのは勝手な感想。この映画で名高いとされる「カンサォン・デ・アモール」と「メロディア・センチメンタル」が聴きどころだ。イタリア系ブラジル人のカミラ・プロヴェンツァーレの太く情熱的なヴォーカルが実に素晴らしい。特に「メロディア・センチメンタル」の激しい感情の表出に、しびれる。エピローグでも彼女の劇的なヴォーカリーズが聞かれるが、現代の耳からすると些か大時代的に聞こえるのは仕方がない。グラスの「メタモルフォシスⅠ」は9曲からなる連作?管弦楽作品『アマゾンの流れÁ」の中の1曲。この曲はカフカの小説『変身』にインスパイアされた作品らしい。この曲はヴィラ=ロボスに比べるともっと原初的な力が感じられ、とてもアメリカ人が書いた曲とは思えない。単純な旋律が延々と続くが、そこに凶暴性が感じられ、如何にも南米の音楽だなと思わせる。それほど面白い音楽ではないが、気の弱い筆者には、その持続力が恐ろしく感じられてしまう。録音は歪みっぽいが、曲の荒々しさにふさわしい。Simone Menezes:Amazônia. Villa-Lobos - Glass(Alpha Classics ALPHA990)24bit 96kHz Flacエイトル・ヴィラ=ロボス(1887-1959):組曲「アマゾンの森」 1. A floresta 森 2. Em plena floresta 森の中で 3. Pássaro da floresta - Canto I 森の鳥 - 歌 I 4. Dança da natureza 自然の踊り 5. Conspiração e dança guerreira 陰謀と戦士の踊り 6. Veleiros 帆舟 7. Em caminhos para a caçada 狩りのための道で 8. Canção do amor 愛の歌 9. Melodia sentimental センチメンタルなメロディ 10. O fogo na floresta 森の火災 11. Epilogo 終章フィリップ・グラス(1937-):12. メタモルフォシス I ~「アマゾンの流れ」【演奏】カミラ・プロヴェンツァーレ(s track 3,6,8,9,11)フィルハーモニア・チューリッヒシモーネ・メネセス(指揮)【録音】2022年10月 チューリッヒ歌劇場
2024年02月20日
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いままで短発で出ていた藤田真央のバッハのトランスクリプションがまとまってリリースされた。20分に満たないEP版で、以前モーツァルトでも同種のEPがリリースされていた。(ブログにはアップしていない)この時はモーツァルトのソナタと組み合わせてCDとしてもリリースされていた。今回はアレクサンダー・シロティとラフマニノフの編曲が3曲ずつという構成。参考までに平均律の原曲をシフの演奏で聴いた。平均律は全体的に遅めで、昨今のピリオド楽器による演奏(HIP)とは違うロマンティックなもの。タッチも柔らかくHIP的な演奏で聴いているときの、神経を刺激する表現はなく、心安らかに聴けるのがいい。無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータの組曲は、音のエッジがたっていて歯切れがよく軽快な音楽。ガヴォットのアゴーギクがユーモアを感じさせるユニークなもので、思わずニヤリとさせる。一般にバッハと言えば機械的に弾かれることが多いと思うが、藤田の音楽は暖かく無味乾燥なところがない。それに何故か古臭くない。筆者は最近バッハを聴くときはハープシコードよりはピアノが好みなので、その影響もあるかもしれない。それにしても、まさか藤田のバッハが聴き手の心を温かくしてくれるとは思わなかった。以前Naxosのショパン:スケルツォ/即興曲を聴いたときに思わず「うめーな」とつぶやいてしまったことがある。天才は何を弾いても天才なのだろうか。ところで、20分に満たない演奏がハイレゾとはいえ2400円台でqobuz usでも$12.69で2000円弱という価格設定には首をかしげてしまう。相変わらず消費者の気持ちが分からない業界のようだ。Mao Fujita Bach Transcriptions(SONY)24bit96kHz Flac1.Prelude in B Minor, BWV 855a (Transcribed by Alexander Siloti)2.Andante from the Sonata for Solo Violin, BWV 1003 (Transcribed by Alexander Siloti)3.Paraphrase on the Prelude in C-Sharp Major, BWV 872 (Transcribed by Alexander Siloti)4.Suite from the Partita for Violin in E Major, BWV 1006 (Transcribed by Sergei Rachmaninoff): I. Preludio5.Suite from the Partita for Violin in E Major, BWV 1006 (Transcribed by Sergei Rachmaninoff): II. Gavotte6.Suite from the Partita for Violin in E Major, BWV 1006 (Transcribed by Sergei Rachmaninoff): III. GigueMao Fujita(p)
2024年02月16日
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いつものpresto musicで見つけた一枚。フィルハーモニック・ブラスという団体名だったので、てっきりフィルハーモニア管のブラスセクションかと思ったら違っていた。ホームページを見ると16人の金管奏者と4人の打楽器奏者からなる団体で、ベルリン・フィルとウイーン・フィル、その他友人たちが集まっている団体だった。まあこのクラスのメンバーが集まったら悪いはずがない。珍しいのはバリトンが入っていることだろうか。首席クラスもちらほら名前がある。20名という大所帯なので、さすがに指揮者が必要だったのか、その時スケジュールの空いていたトゥガン・ソフィエフが指揮している。タイトル通り序曲が6曲集められている。中では「イーゴリ公」の序曲が入っているのが目を惹く。多分この曲をブラス・アンサンブルで聴いたのはこれが初めて。アレンジはトランペット奏者で作曲家のピーター・J・ローレンスとジャーマン・ブラスのマティアス・ヘフスが担当している。アレンジに手抜きがなく、原曲に忠実なアレンジで、それを金管でやっているのが凄い。例えば「運命の力」序曲のエンディングの弦の細かいフレーズも手抜きなしで吹ききっていて唖然とする。それもトロンボーンが加わってのことだ。なので技術的な制約を感じることがなく、音楽を楽しめる。サウンドはどこまでも透明で輝かしく、軽やか。ときおりオーケストラのような重厚な響きが出るのも楽しい。ノイズの聞こえない、パリッとしたサウンドの録音もいい。ということで、胸のすくような快演続きで、ブラス関係者は必聴のアルバムだろう。youtubePhilharmonic Brass:Overture!(Decca 4854171)24bit96kHz Flac1.1 Festive Overture, Op. 96 (Arr. Peter Lawrence for Brass Ensemble)1.2 Cuban Overture (Arr. Peter Lawrence for Brass Ensemble)1.3 La Forza Del Destino Overture (Arr. Matious Höfs for Brass Ensemble)1.4 Egmont Overture, Op. 34 (Arr. Matious Höfs for Brass Ensemble)1.5 Prince Igor Overture (Arr. Peter Lawrence for Brass Ensemble)1.6 Carnival Overture, Op. 92 (Arr. Peter Lawrence for Brass Ensemble)The Philharmonic BrassTugan SokhievRecorded 2022-06-30,Recording Venue: Teldex Studio, Berlin
2024年02月10日
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フランク・ブラレイとエリック・ル・サージュというフランスのピアニストたちのデュオ・アルバム。取り上げられているのは自国の作曲家レイナルド・アーン(1874 - 1947)とエマニュエル・シャブリエ(1841 - 1894)。彼らの小品ばかりを集めた、フランス人らしいエスプリの効いたアルバム。因みに今年はアーンの生誕150周年で、シャブリエも没後130年という記念の年だ。spotifyで聞いたときからすっかり気に入っていたのだが、高くてなかなか手が出なかった。フランスのソニーが原盤のためか、いつものpresto musicではリリースされず、楽天のポイントが少したまったので、e-onkyoからやっと入手。まあ、spotifyで何回も聴いていたので、ハイレゾになったといって印象が変わるわけではない。アルバムの中では何と言ってもアーンの「12のワルツ集『ほどけたリボン』」がダントツにいい。今にも壊れそうな美しさが感じられる曲が多く、演奏もしゃれていて、アーンの素晴らしさがダイレクトに伝わってくる。特にいいのは第1曲、第2曲。優美に頬を撫でるような、柔らかな第1曲、はじけるリズムが心地よい第2曲。第3曲のゆったりとしたテンポのワルツ「「思い出…未来… - スローワルツの動き」も実に詩的で、船に乗って川を渡るみたいな気分になる。テンポの速い第6曲「失われたリング」の快活で気まぐれな気分もいいい。第8曲「開かれた檻」の様なダイナミックな曲で変化もつけられていて、退屈しない。第12曲の優雅な「唯一の愛」で締めくくられる。アゴーギクがツボにはまった時の素晴らしさは、月並みな言い方だが、さすがに本場ものという感じがする。そういえば先月末にリリースされたマーティン・ジェームズ・バートレットのアルバム「ラ・ダンス」(warner)にはアレクサンドル・タローと共演したこの曲の1,2曲が収録されている。本国でも流行ってきたのだろうか。この曲 マーティン・ジョーンズ 、 エイドリアン・ファーマー の演奏(Nimbus)以外見当たらないが、もう少し演奏されてもいい気がする。13曲目の「私はこの唇を当てたから~ヴィクトル・ユーゴーの詩によるメロディ」ではサンドリン・ピオーの美しい歌が入っているのが嬉しい。シャブリエの「3つのロマンチックなワルツ」は楽しいが、アーンの曲に比べると平凡。中では第2曲の「Mouvement modere de valse」の優美な旋律がいい。最後のアーンの「傷病兵の眠りのために」は3曲からなるが5分足らずの短い曲で、アルバムの中では最も地味な存在。録音はノイズのないきれいな音だが、もう少しパワーが欲しいと思う。2台のピアノのセパレーションはそれほどはっきりしていない。Frank Braley/Eric Le Sage:Le Ruban Dénoué - Valses(Sony) 24bit 88.2kHz FlacR. Hahn - Le ruban denoue - 12 valses a deux pianos et une melodie1.Decrets indolents du hasard - Moderato ([Indolent decrees of chance])2.Les soirs d'Albi - Vif et leste ([Evenings in Albi])3.Souvenir ... Avenir ... - Mouvement de valse lente ([What is past,what is to come])4.Danse de l'amour et du chagrin - Meme mouvement que la precedente ([Dance of love and grief])5.Le demi-sommeil embaume - Plus lent (Tres capricieux, mais sans jamais presser) ([The embalmed doze])6.L'anneau perdu - Molto vivo ([The lost ring])7.Danse du doute et de l'esperance - Moderato ([Dance of doubt and hope])8.La cage ouverte - Molto animato ([The open cage])9.Soir d'orage - Misterioso, non troppo lento ([Stormy evening])10.Les baisers - Appassionato, non troppo presto ([Kisses])11.Il sorriso - Stesso tempo, mais tres calme ([Le sourire, The smile])12.Le seul amour - Presque lent, tres senti ([The only love])13.R. Hahn - Le ruban denoue - 12 valses a deux pianos et une melodie: R. Hahn - Puisque j'ai mis ma levre - Melodie sur une poesie de Victor Hugo - Lent14.E. Chabrier - Trois valses romantiques pour deux pianos: 1.Tres vite et impetueusement 2.Mouvement modere de valse 3.Anime17.R. Hahn - Caprice Melancolique pour deux pianos - Andantino poetique (presque allegretto) - Reveusement, sans beaucoup de nuances18.R. Hahn - Pour bercer un convalescent pour deux pianos: 1.Andantino sans lenteur 2.Andantino non lento 3.Andantino espressivoRecorded December, 2022,Namur Concert Hall (Grand Manège)
2024年02月02日
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eclassicalの日替わりのセールで、ブラウティガム(ブラウティハム)のベートーヴェン:選帝侯ソナタが5割引きだったので購入した。ところが以前購入していた彼の全集に含まれていることを、ダウンロード後にわかってしまった。同じeclassicalからのダウンロードあればキャンセルできたが、e-onkyoからのダウンロードだったのキャンセルできなかった。残念。少し前からこの選帝侯ソナタに関心があり、spotifyでチェックしたところ仲道育代の全集の中に第2番の一楽章があったので、チェックしたところこの楽章のみボーナストラックとして入っていたことが分かった。それで、ちょうど上記のセールに出くわしたのだが、すべては自分のチェック漏れなので仕方がない。気を取り直して?聴いてみた。世評では習作並みの評価しか得られていないようだったが、ブラウティガムの生気のある演奏のためか、これがなかなかいい。少し落胆したが、全集に含まれているとなかなか聴く機会がないので、いい機会になったと慰めている。まあ、ソナタ全集には含まれていないソナチネなどもあるので、完全なダブりではないのがせめてもの慰め。ブラウティハム ベートーヴェン:ピアノ独奏曲全集 Vol.9(BIS BIS-SACD-1672 )24bit96kHz Flac1. 3つの選帝候ソナタ WoO472. ソナチネの2楽章 WoO503. 2つのソナチネ Anh.54. 2つの作品(オルフィカ)5. やさしいソナタ WoO51ロナルド・ブラウティハム(フォルテピアノ)Recorded August 2008,at Österåker Church, Sweden
2024年01月27日
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この前楽器屋に行った時に、見つけたチラシで知ったレコード・コンサートに行ってきた。岩手県紫波町にあるあらえびす記念館で行われているレコード・コンサートで、今回で339回という長きにわたって続いているようだ。この施設は1995年に出来たので、今年で29年目になる。「あらえびす」とは、銭形平次捕り物控で知られる作家野村胡堂の、音楽評論をするときのペンネーム。このコンサートは毎月行われているので、おそらくは出来た当時から行われた催し物と思われる。施設はコンクリートの打ちっぱなしに屋根がかかっているもので、さながら美術館のようなたたずまいだ。コンサートは「あらえびすホール」という多分3階ぐらいの高さの、とても天井の高いホールで行われ、音も上々であった。あいにくの雨にもかかわらず、参加された方は多分百人近いくいたのではないだろうか。意外に大勢でびっくりした。目的はSPの音を聞くためだったのだが、実際のコンサートではSPの他にLPと、映像という3種類の音源を使っていた。今回はモーツァルト特集で、ヴァイオリン・ソナタ、ホルン協奏曲、交響曲という順番。コンサートは町の教育長であられる侘美淳(たくみ・じゅん)さんの解説を交えながら進められた。侘美さんの解説は、肩の凝らない話で悪くなかった。ヴァイオリンソナタはシモン・ゴールドベルクのヴァイオリンにリリース・ハスキルのピアノという往年の名コンビの録音。ネット情報によると1937年の録音らしい。ゴールドベルク(1909-1993)はフルトヴェングラー時代のベルリン・フィルのコンサート・マスターで、晩年は新日本フィルをたびたび指揮していたという記憶がある。想像通りのSPの音だったが、温もりがあり、人間の息遣いが感じられるようだった。この演奏はピアノ主導の演奏のように感じられた。実際のSPの録音を聞いたことはほとんどなかったが、音量が小さいためもあり、スクラッチ・ノイズはそれほど気にならなかった。LPを聴くのはタンノイのwestminster royalという名機で、包み込むようなサウンドがなかなかった。このスピーカーはコアキシャル型(同軸)の2wayなので定位はいいはず。個人的には高域がもう少しほしいところだが、無いものねだりだろう。演奏は1964年のザイフェルトのソロ、カラヤン指揮ベルリンフィルという布陣。演奏は昔のカラヤン一流のレガート過多の演奏で、音楽の起伏も少なく、昨今の演奏に慣れた耳には、あまり面白くなかった。交響曲は案内では「ジュピター」だった気がするが、いいものがなかったということで、何故かNHKのEテレで放送されたN響の演奏による「リンツ」。ファビオルイージによる2022年12月9日(金)の第1972回 定期公演Cの演奏だった。演奏そのものは特に感想はないが、何と言っても220インチの巨大なスクリーンでの鑑賞で、これが凄かった。映像は周辺までピントが合っていて歪み少なく、映画まではいかないにしても、かなり上質な映像を楽しむことが出来た。音もアキュフェーズのアンプにタンノイのスピーカーで、映像に負けていなかった。出来れば、持ち込みでもいいので、市販ソフトでの鑑賞会をしてくれれば観に来るのだが。。。第339回あらえびすレコード定期コンサート1.モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第34番変ロ長調K3782.モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第39番(未完)3.モーツァルト:ホルン協奏曲第2番変ホ長調k.4714.モーツァルト:交響曲第36番ハ長調k.425リンツシモン・ゴールドベルク(vn),リリーラスキーヌ(1,2)ゲルト・ザイフェルト(Hr)、カラヤン指揮ベルリン・フィル(3)ファビオ・ルイージ指揮、NHK交響楽団
2024年01月23日
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spotifyで偶然知ったアルバム。ジャケ写のメアリー・ベヴァンのインパクトのある表情に惹かれて聴いてみたら、これが何とも言えない華やかで洒落たアルバムで、まさにアルバム・タイトルの「最も素晴らしいパーティー」通りだった。ブックレットによると『イギリスの著名な俳優、作家、映画監督そして作曲家としてなど様々な分野で活躍をしたノエル・カワード(1899-1973)の没後50周年を記念して作られたこのアルバムで、ノエル・カワードと同時期に活躍したプーランクやブリテン、サティそしてストラヴィンスキーなどの作品を収録』とのこと。因みに、ここに名前を連ねているアメリカの作曲家ネッド・ローレムはカワードと付き合っていたとか。カワードの作品は最初のメドレーを含め10曲収録されている。筆者がカワードの曲を聴くのは多分初めて。殆どポピュラー音楽なのだが、これが実にいい。カワードの信条である「シリアスな人生劇より、洗練された喜劇」がダイレクトに反映された曲が多い。イギリス人特有の快活でウイットに富んでいて、ぬくもりやペーソスも感じられる歌揃いで、しかもゴージャスだ。演奏はソプラノのメアリー・ベヴァン、テナーのニッキー・スペンスというイギリスの歌手に、歌曲の伴奏で定評のあるジョゼフ・ミドルトンのピアノというメンバー。二人の歌手は全く聞いたことがなかったが、とても達者な歌唱で、ポピュラー寄りの曲も生硬さがなく、とても楽しめる。ミドルトンのピアノの上手さにも、ほとほと感心した。短い曲が多いとはいえ全27曲77分あまりという充実した内容で、さながらイギリスのしゃれたナイトクラブでの一夜(行ったことないけど)の出来事のような趣だった。最初のカワードのメドレーはイントロのミドルトンの華やかなピアノから一気に惹きこまれるれる。気分としてはミュージカルの音楽を聴いているような、ワクワク感が感じられる。どの曲もいいが、特に気に入ったのは、動物の声色を使った.「Any Little Fish」。ユーモアたっぷりで楽しい聴きもの。ベヴァンの声色が秀逸だが、特に鶏の鳴き声は最高!ブリテンやウォルトンなどイギリスの大作曲家の曲も違和感がない。特にウォルトンの「Popular Song」は語りのようなものだが、スペンスの演技っぽい語りもあり、ユーモアたっぷりの出し物だった。最後の「I Went to a Marvellous Party」はパーティーの様子を男と女が語るというもの。中身はなかなか辛らつだが、しゃれた曲で、気分良くアルバムを聞き終えることが出来る。歌詞歌入りの曲に対して、ピアノ曲はクールな雰囲気。さながら高揚する気分を冷ましているようだが、個人的には冷ましているどころか水を差しているような感じだった。録音は豊かでマイルドなもので、アルバムの音楽にふさわしい。ブックレットには歌詞は載っていなかったので、カワードの神聖な?世界観を知ることが出来なかったのが残念。ブックレットの内容はかなり面白く、カワードの魅力が窺える小話がたくさん詰まっている。先ほどのゲイの話のほかに、ネッド・ローレムはプーランク(この人もゲイ)の「象のババール」で象の役をやったとか、ストラヴィンスキーは1930年代にカワードとのコラボレーションを依頼されたことがあったとか、ブリテンやウォルトンも個人的な付き合いがあったことなども書かれていて、大変興味深い内容だった。ということで、カワードの曲のすばらしさに酔いしれたアルバム。広くお聴きいただければと思う。A Most Marvellous Party (Signum SIGCD737)24bit96kHz Flac1.Noël Coward:I’ll See You Again / Dance Little Lady / Poor Little Rich Girl / A Room With A View / Someday I’ll Find You / I’ll Follow My Secret Heart / If Love Were All / Play Orchestra Play2.Noël Coward:Mad About the Boy3.Ned Rorem:Early in the Morning4.Ned Rorem:For Poulenc5.Francis Poulenc:3 Pièces, FP 48: No. 1, Pastorale. Calme et Mystérieux6.Francis Poulenc:Banalités, FP 107: No. 2, Hôtel7.Noël Coward:Parisian Pierrot8.Kurt Weill:Complainte de la Seine9.André Messager:Véronique: De-ci, de là10.Eric Satie:Gnossiennes: No. 1, Lent11.Noël Coward:Any Little Fish12.Igor Stravinsky:Valse Pour les Enfants13.Noël Coward:Something to do with Spring14.Roger Quilter:Love Calls Through the Summer Night15.Roger Quilter:Now Sleeps the Crimson Petal16.Ned Rorem:Now Sleeps the Crimson Petal17.Noël Coward:World Weary / Twentieth Century Blues18.George Gershwin:The Man I Love19.Noël Coward:If Love Were all20.George Gershwin:By Strauss21.Noël Coward:Don't Put Your Daughter on the Stage, Mrs Worthington22.Benjamin Britten:When You're Feeling Like Expressing Your Affection23.William Walton:Popular Song24.Benjamin Britten:On This Island, Op. 11: No. 5, As it is, Plenty25.Liza Lehmann:Love, if You Knew the Light26.Noël Coward:The Party's Over Now27.Noël Coward:I Went to a Marvellous PartyMary Bevan(s)Nicky Spence(t)Joseph Middleton(p)
2024年01月18日
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ピアニストのイゴール・レヴィットによる企画の無言歌集。先月半ばに配信のみリリースされていたが、いつも利用しているpresto musicでもやっとリリースされた。ブックレットは付いていないが、Appleのサイトに詳しい解説が載っていた。それによると、『2023年10月7日に起きたイスラエルのユダヤ人への攻撃と、世界的な反ユダヤ主義の台頭に対するレヴィットのパーソナルな思いを反映したものである。ドイツを拠点とするこのユダヤ人のピアニストは、同アルバムのレコーディングについて「純粋に心の決断であり、ある意味では感情的な決断でした。ピアノがあって、ピアノ弾きである私に何ができるだろう? と自問し、スタジオに入って美しい音楽を奏でることで人々を助けたいと思ったのです』とのこと。メンデルスゾーンを選んだのは彼がユダヤ人だったからと思うのは、穿ちすぎかもしれないが、無言歌集でも有名な曲は省かれ、基本的なトーンはOp. 102, No. 1 in E Minorに代表されるように、内向的な曲が選ばれていて、『これらの楽曲が持っているメランコリー、メロディ、トーン、ピュアな美しさ、喜びと悲しみ、それらのすべてことが私を癒やしてくれた』とのこと。筆者の期待とはまるで違っていたが、メンデルスゾーンの爽やかなイメージではなく、いたずらに華美にならず、内向的だが、暖かさに溢れている。メンデルスゾーンのピアノ曲はごく限られたピアニストにしか弾かれていない印象がある。アンコール・ピースで弾かれることはあっても、まとまって弾かれることはあまりないと思われる。曲自体が軽く、あまりアピールする曲ではないのかもかもしれない。それにしても、レヴィットのような派手目のピアニストからメンデルスゾーンの内面的な美しさを教えられるとは、思っていなかった。メンデルスゾーンは生の感情が出てくることはなく、あくまでも控えめなところが好ましい。注目したのは「第5巻』の「No. 3 in E Minor, MWV U 177 “Funeral March(葬送行進曲)”」曲の冒頭で3度繰り返される音型とそれに続く短3度の音が、マーラーによる『交響曲第5番』の第1楽章「葬送行進曲」のオープニングに酷似していることを彼レヴィットの指摘で初めて知った。レヴィットにとってこの曲は「残酷なほどにエモーショナルで悲痛な」ムードを作り出すものだという。最後にアルカンの「25 Préludes, Op. 31」から「No. 8, La chanson de la folle au bord de la mer(海辺の狂女の唄)」が演奏されている。当初予定されていなかった曲だが、この曲がアルバムの最後を飾るにふさわしいことに気付いたという。ひたすら暗い曲で、何ら救いがない。最近購入したいスティーヴン・ハフのフレンチ・アルバムにも収録されている。ハフの演奏は4分30秒ほど。レヴィットはなんと5分30秒程かかっていて、別な曲のように感じられる。テンポが極端に遅くなったことで、この曲のデモーニッシュな暗黒の闇が描かれているようだ。実に恐ろしい音楽だ。これに比べるとメンデルスゾーンの音楽は優しい作風で、暗くても癒される余地がある。ただ、暗くなると聴くのがつらくなってくるので、あまり暗くない第1巻の第1番のような曲のほうが好ましい。ジャケット写真は金属のアクセサリーを二つ組み合わせてユダヤの紋章であるダヴィデの星を表しているようだ。収益は反ユダヤ主義と戦う2つのドイツの組織、反ユダヤ主義暴力と差別のアドバイスセンター(OFEK)および反ユダヤ主義に対抗するクロイツベルク・イニシアチブに寄付されるそうだ。幾分政治的な意味合いのあるアルバムではあるが、そういうことを抜きにして楽しめる上質なアルバムだ。レヴィット メンデルスゾーン 無言歌集(Sony 19658878982)24bit 96kHz FlacMendelssohn: Songs without Words, Book 1 (6), Op. 19b:1.No. 1 in E Major. Andante con moto, MWV U 862.No. 2 in A Minor. Andante espressivo, MWV U 803.No. 4 in A Major. Moderato, MWV U 734.No. 6 in G Minor. Andante sostenuto, MWV U 78 "Venetian Gondola Song"Songs without Words, Book 2 (6), Op. 30:No. 1 in E-Flat Major. Andante espressivo, MWV U 103No. 3 in E Major. Adagio non troppo, MWV U 104No. 6 in F-Sharp Minor. Allegretto tranquillo, MWV U 110 "Venetian Gondola Song"Songs without Words, Book 3 (6), Op. 38No. 2 in C Minor. Allegro non troppo, MWV U 115No. 6 in A-Flat Major. Andante con moto, MWV U 119 "Duetto"Songs without Words, Book 4 (6), Op. 53No. 4 in F Major. Adagio, MWV U 114 "Sadness of Soul"No. 5 in A Minor. Allegro con fuoco, MWV U 153 "Folksong"Songs without Words, Book 5 (6), Op. 62No. 3 in E Minor. Andante maestoso, MWV U 117 "Funeral March"No. 5 in A Minor. Andante con moto, MWV U 151 "Venetian Gondola Song"Lieder ohne Worte, Op. 102, No. 1 in E Minor. Andante un poco agitato, MWV U 162Alkan: 25 Préludes, Op.31: No. 8, La chanson de la folle au bord de la merIgor Levit(p)
2024年01月14日
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presto musicをチェックしていて、偶然見つけたアルバム。ジャーマンブラスのクリスマスアルバムで、選曲がなかなかしゃれていて、アレンジも優れている。お馴染みの「ジングルベル」なども月並みではないアイディアが光るアレンジで楽しめる。ドイツらしい折り目正しい演奏もあるが、ポピュラーが実にいい。この団体は昔からポピュラーの演奏が優れていて、発足時の「思い溢れて」とか「アディオス・ノニーノ」は昔筆者が繰り返し聴いていたものだ。(Around The World 2)筆者が最近開眼した?バッハの「クリスマス・オラトリオ」から3曲演奏されているのが嬉しい。ポピュラーでは「ヒュー・マーティンの「ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス」が実にムーディーで楽しい。「ジョニー・マークス:赤鼻のトナカイ」では男性ヴォーカルが加わる。メンバーの一人だろうか、ちょっとだみ声だが、ジャズ風のアレンジにあっている。日本未公開映画「ラ・カリファ」のテーマもエンニオ・モリコーネらしい清冽な叙情が美しい。どの曲もスカッとしたサウンドで、ブラス・アンサンブルの醍醐味が味わえる。パーカッションを含め11人編成だが、曲によって大幅に補強されていて、そのゴージャスなサウンドはブラス業界の人々を満足させるだろう。これで、来年からのクリスマス・シーズンに聞く音楽に新たな一枚が加わって嬉しい。ジャーマン・ブラス:イッツ・クリスマス・タイム(SONY G010004881354D)24bit 48kHz Flac1.J.S.Bach:J.S.バッハ:クリスマス・オラトリオ BWV.248 ~ 歓呼の声を放て、喜び踊れ (Arr. for Brass Ensemble by Matthias Hofs)2.Lowell Mason:もろびとこぞりて3.Traditional:まきびとひつじを4.Traditional:ひいらぎかざろう5.Lewis H. Redner:ああベツレヘムよ6.John Francis Wade:神のみ子は今宵しも7.J.S.Bach:クリスマス・オラトリオ BWV.248 ~われらは汝の軍勢にま交りて歌いまつらん (Arr. for Brass Ensemble by Matthias Hofs)8.J.S.Bach:クリスマス・オラトリオ BWV.248 ~差し出でよ、汝美わしき朝の光よ (Arr. for Brass Ensemble by Werner Heckmann)9.Leroy Anderson:そりすべり10.Hugh Martin, Ralph Blane:ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス11.Felix Bernard:ウィンターワンダーランド(すてきな雪景色)12.James Lord Pierpont:ジングルベル13.Traditional:Nebo yasni zirky vkryly14.Mykola Leontovych:Shchedryk(鐘のキャロル)15.Richard Eilenberg:ペテルブルクの橇の旅 Op.5716.Traditional:Pasli ovce valsi17.Traditional:Ja bych rad k Betlemu18.Traditional:Nesem vam noviny19.Traditional:ベツレヘムに生まれたもう20.Mel Torme:ザ・クリスマス・ソング21.Jule Styne:Let It Snow!(ゆきよふれふれ)22.Johann Abraham Peter Schulz:子供たちよ、さあおいで23.Johnny Marks:赤鼻のトナカイ24.Ennio Morricone:ラ・カリファ25.Jose Ignacio Quinton:アギナルド26.Traditional:マリア様は茨の森を歩み27.Traditional:もみの木28.Traditional:静かに雪が降っている29.Traditional:きらきらぼし(明日はサンタクロースがやってくる)/おお、この上ない喜び30.Traditional:シュティル・シュティル・シュティル31.Georg Friedrich Handel:マカベウスのユダ HWV 63: シオンの娘よ (Arr for Brass Ensemble by Alexander Erbrich Crawford)32.J.S.Bach:高き天よりわれは来たれり BWV.769(Arr. for Brass Ensemble by Matthias Hofs)ArrangementsAlexander Erbrich Crawford: Tracks 2-6, 9-14, 16-21, 23, 25-31Werner Heckmann: Tracks 8, 15Matthias Hesseler: Track 22Matthias Höfs: Tracks 1, 7, 24, 32German Brass:Matthias Höfs - Trumpet/TrompeteUwe Köller - Trumpet/TrompeteWerner Heckmann - Trumpet/TrompeteChristoph Baerwind - Trumpet/TrompeteWolfgang Gaag - French Horn/HornKlaus Wallendorf - French Horn/HornFritz Winter - Trombone/PosauneAlexander Erbrich Crawford - Trombone/PosauneUwe Füssel - Trombone/PosauneStefan Ambrosius - TubaHerbert Wachter - Drums/PercussionGuest MusiciansTp:Christian Höcherl,Max Westermann,Jürgen Ellensohn(Tp)Hr:Christoph EssH,François Bastian,Tillmann Höfs,Ivo DudlerTb:Matyas Veer,Matthias KamleiterTuba:Steffen SchmidThomas Höfs - Timpani/PaukeHans Rosbaud-Studio Baden-Baden/ SWR: 9.-11.05.22, 8.-9.7.2022Kammermusikstudio Stuttgart/ SWR: 11.7.2022, 21.7.2022
2024年01月08日
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アメリカの作曲家ジェニファー・ヒグドンの新譜を聴く。ヒグドンはハーンの弾くヴァイオリン協奏曲を聴いて以来、筆者の贔屓の作曲家の一人。今回は最新作の鍵盤打楽器のデュオとオーケストラの協奏曲「Duo Duel」と旧作の「オーケストラのための協奏曲」という組み合わせ。彼女の作風は明るく分かりやすく、よく鳴るオーケストレーションと見通しの良いサウンドで聴いていると爽快感を感じることが多い。今回の2曲も期待を裏切らない出来だ。「Duo Duel」は2020年に作曲された、二人の打楽器奏者とオーケストラのための協奏曲で24分ほどの曲。ブックレットによると、『パーカッションが繰り広げる「デュエル」に対し、オーケストラが時に冷静になれと呼びかけるように、時に激しく盛り上げるように絡んでいく』とのこと。筆者は打楽器奏者たちが時には協調し、時には対決するようなものと思ったが、勘違いだったようだ。ソロ打楽器が特別クローズアップされる瞬間はそれほどなく、オーケストラと混然と一体になった音楽。ブックレットによると二人のソリストはヴィブラフォン、マリンバ(共有)、クロタル(高音の金属ディスクの集合体)、および各プレイヤーに3台ずつのティンパニを使っている。冒頭涼し気なクロタルの金属的な音で始まる。そこにハープが絡み、弦が入っていくような感じの穏やかな曲想。前半の「デュオ」は管が優勢のオーケストレーションで、涼やかなサウンドが鍵盤楽器とうまくマッチしている。後半の「デュエル」はテンポが速く、激しく躍動的な曲想でぐんぐん盛り上げる。打楽器はティンパニがメインで暴れまくる。全体が熱くなっていくところで、クロタルの涼し気なサウンドがハッとする瞬間を作り出す。エンディングの盛り上がりも悪くないが、あっさり終わってしまうのが物足りない。「管弦楽のための協奏曲」は40分弱の大規模な管弦楽曲。この曲でもヒグドン特有の見通しがよくメロディックかつダイナミックな音楽が楽しめる。作曲者のライナーノートによると3楽章→2楽章→4楽章→5楽章→1楽章の順に作曲された。管弦楽の協奏曲ではセクションのフィーチャーが先にきて、最後にテュッティで盛り上げるというのが常とう手段になっていると思うが、この曲では第1楽章でのテュッティが先に来る、という変則的な構成。作曲者は『この巧妙な力作を始めるために他の4つの楽章を書く必要があったことを明確にするため』と述べているが意味がよく理解できない。第1楽章は弦楽器の八音音階(半音と全音が交互に来る音階)によるスケールの激しい動きが印象的な楽章。そこに絡む管の動きもダイナミックだ。フィラデルフィア管弦楽団の弦の音に触発されたという第2楽章は、見通しの良いサウンドの中に陽気な楽しさが感じられる。緩徐楽章にあたる第3楽章では各々の楽器のソロ奏者の妙技に続いて各セクションがフィーチャーされる。特にオーボエのサウンドにほれぼれする。ゆったりとした気分が感じられる楽章で、弦のサウンドや金管のハーモニーが美しい。第4楽章はパーカッションをフィーチャーした楽章で、鍵盤を弓で弾くサウンドから始まる静的な楽章。チェレスタ、ハープ、クロタルなどの神秘的なサウンドから打楽器に焦点が移り次第に騒々しくなる。アタッカで続く第5楽章はムチなど多数の打楽器が効果的に使われている。動きは激しいものの陰鬱な気分が支配する。後半息詰まるクライマックスを迎えるが、低域の厚みが足りないためか、やや軽いのが残念。ロバート・スパーノはこの曲は再録にあたる。重量感はないものの、透明なサウンドと機敏な動きで、曲の良さを過不足なく表現している。ヒューストン交響楽団は、どのセクションも上手い。所々で出てくるヴァイオリン・ソロの艶やかなサウンドが心地よい。Higdon:Duo Duel(Naxos 8559913)16bit 44.1kHz FlacJenifer Higdon(1962-):Higdon: Duo Duel(2020)※Higdon: Concerto For Orchestra(2002)I. —II. —III. —IV. —V. —※World Premire RecordingMatthew Strauss (perc. track1)Svet Stoyanov (perc. track1)Houston Symphony OrchestraRobert SpanoRecorded: 17–19 April 2015 2–6 and 6–8 May 2022 at the Jesse H. Jones Hall for the Performing Arts, Houston, Texas, USA
2024年01月04日
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クリスマスが近ずくと、クリスマスに因んだ曲を聴くのが習慣になっている。筆者は、例年通り「ボエーム」とか「くるみ割り人形」もさらっと聞いたが、何故かほとんど聞いたことのないバッハの「クリスマス・オラトリオ」を聴いた。最初は手持ちのバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)のものを聴いていたのだが、少し物足りなくなってカール・リヒターの古い録音がハイレゾ化されていることを知りダウンロードしてしまった。昨今の古楽による演奏とは全く違う、重厚で悠然としたテンポの演奏であるが、それほど古臭いという感じは受けなかった。長いので、聴きどころを調べて、そこを重点的に聞いた。この演奏ではヴンダーリッヒの歌唱が高く評価されているようで、とりわけ第42曲「コラール: イエスがわが始まりを正し 」は絶賛されていた。なるほど素晴らしい美声で、福音史家の歌唱と共に評価が高いことに頷けた。個人的にはクンドラ・ヤノヴィッツの歌唱に惚れてしまった。清純で可憐という形容でも足りないような素晴らしい歌声だった。また、モーリス・アンドレが加わったトランペットの輝かしさも比類のないものだった。合唱は大編成で、昨今の小編成の透明な響きには劣るのは仕方がない。この演奏に比べるとBCJの演奏はテンポが速く軽やかな演奏だが、第42曲などはせかせかして曲の良さがあまり感じられない。調子に乗ってガーディナーの演奏もダウンロード。こちらはまだあまり聞いていないが、結構ぐいぐいと攻めた演奏のように聞こえる。第42曲はBCJよりもさらに速い。第42曲についていうと、リヒターの演奏が曲の良さが一番引き出されていると思った。また、リヒターの演奏はテンポが遅いことで、クリスマスらしい華やかではあるが、のんびりとした気分が味わえる。ということで、雑感になってしまったが、聞けば聞くほどこの曲の面白さを感じるようになってきたので、もうすこし深堀をしてみようと思う。録音は思ったより悪くないが、テュッティではさすがに混濁が目立つ。Bach, J S: Christmas Oratorio, BWV248(Archiv 4795894)24bit 192kHz FlacChrista Ludwig (contralto)Franz Crass (bs)Fritz Wunderlich (t)Gundula Janowitz (s)Münchener Bach-Orchester, Münchener Bach-ChorKarl RichterRecorded: 1965-02-06,Residenz, Herkulessaal, Munich
2023年12月28日
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この前風呂に入っているときにspotifyから流れてきて気に入った一枚。ジョン・フィールド(1782–1837)というアイルランドの作曲家のノクターン集で、エリザベス・ジョイ・ロエという韓国系のアメリカ人の演奏。フィールドは夜想曲の創始者といわれる方で、ロシアで活躍した、筆者の全く知らない作曲家だった。グリンカの師でもある。知らない作曲家の曲が気に入っても、ラジオだと曲名が分からなかったりするが、ネットだとその時に気が付けば確認できるのは有難い。ネット様様だ。こういう仕組みになってから知った曲は相当あると思うし、個人的にもレパートリーが広がっている感覚はある。以前だったらまず聞かないようなジャンルの曲も聴けるし、あとでフォローすることもできるのはネット社会ならではだろう。閑話休題フィールドの作った夜想曲は全部で18曲あるらしい。ショパンのように華やかな曲はあまりないが、夜に聞くのに相応しい音楽だろう。全体に柔和な表情で、時折陰のある表情を見せるときもある。テンポはゆったりとして、激しい表情を見せることは少ない。聴き手を惹きつけるような旋律こそ多くないが、決して凡庸ではなく、心温まる時を過ごすことが出来る。何しろ気品と温かみがあり、ショパンが愛していたことも分かるような気がする。リストも「洗練された感情の真の傑作」と絶賛している。番号のつけ方にはいろいろあり、ここではシルマー版(リストによる改訂版で、J.Schuberth&Co、ライプツィヒ、1859年に初版)に従っている。全曲粒ぞろいで、内省的な作品が多いのも、じっくり聴くのに相応しい。気に入ったのは第15番の無言歌。メロディックで悪くない。第16番も少し悲し気で優しい楽想で夢心地になる。また、夜想曲というカテゴリーからは少しずれているが、遊び心や明るい要素を持つ「Noontide」と題された第12番もいい。録音はあまりよくない。音が前に飛び出てくるような圧迫感が感じられ、音自体も太い。なので、フィールドのひそやかな味わいが薄れているような気がする。この稿を書いているときに、佐藤卓史というピアニストがノクターンについて語っているyoutubeを見つけた。夜想曲第1番の演奏と夜想曲にまつわる話が語られています。大変興味深い内容で、この曲が書かれたのはショパンが2歳の時で、シューベルトはまだ作曲をしていない時期。フィールドの先進性がわかる話だと思う。それを考えると、ショパンと比べてどうのという比較は、時代背景を考えなければ何の意味もない。先生のクレメンティとピアノのセールスのために楽旅を行い、そのような環境のなかでこのような形式の曲を作らせたという話も面白い。是非ご覧になって頂ければと思う。Elizabeth Joy Roe John Field:Nocturnes Nos.1-18(Decca 4789672)24bit 96kHz FlacElizabeth Joy Roe(p)Recorded Potton Hall, Suffolk, 12–15 September 2015
2023年12月23日
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マリーナ・スタネヴァというブルガリア出身の若手ピアニストのモンポウ作品集を聴く。筆者がモンポウを聴き始めたのはヴォロドスの演奏(2017)を聴いてからだ。ドビュッシーとの近似性や、その控えめな表情が気に入っていた。このアルバムでは大作「ショパンの主題による変奏曲」と「歌と踊り」、それに「風景」の全曲などが収められている。心静かに耳を傾けられる音楽だ。「ショパンの主題による変奏曲」(1938-1957)はバレエ音楽「レ・シルフィード」として知られる前奏曲7番の主題による変奏曲。ショパンのような華やかさはなく、地味ではあるが、心に沁みわたる音楽。印象派風のしゃれた味わいも感じられる。第10変奏では胸を締め付けられるような美しい旋律が出てくる。続いてショパンの「幻想即興曲」の中間部の主題が出てくるところも感動的だ。第12変奏のギャロップとエピローグはモンポウにしては躍動的な曲想で締めくくられる。モンポウの代表作「歌と踊り」は全15曲のうち12番までが演奏されている。個人的には「踊り」よりも「歌」の部分に惹かれた。多くはカタルーニャ地方の民謡に基づくが、オリジナルも何曲かある。気に入ったのはアルトゥール・ルービンシュタインへ献呈された第5曲「Cantabile espressivo」の「歌」の部分。躊躇いがちに演奏される物悲しい旋律が、心に沁みわたる。「踊り」の部分も一見華やかそうだが、「歌」の気分を引き継いで、どこか悲しげだ。これもオリジナルの第10曲「Larghetto molto cantabile」荘厳な気分を感じさせる。原曲がカタルーニャ民謡の曲では第9曲「サヨナキドリ」の「歌」が清々しさが感じられるいい曲だった。「踊り」も悪くなかった。最後の第12曲「Molto cantabile」の「歌」の部分も情感あふれる曲想で心に染み入る。やはり原曲がいいと聴き映えがする。「風景」は3曲からなる組曲。第1曲「泉と鐘」の第1主題はどこかで聞いたことのあるような旋律。第2主題が悲しそうな歌で惹きつけられる。鐘が低音で時々鳴らされる。最後の「子供の情景」の第5曲「庭のおとめたち」もドビュッシーを思わせる曲。民謡を思わせるようなゆったりとしたメロディーに、時折上下降する短いモチーフが閃光のように光る。全5曲9分ほどの組曲だが、全曲を聴いてみたい。マリーナ・スタネヴァのピアノは抑制された美しさと静けさが感じられる優れたもの。透明感もあり、じっくりと味わうのに相応しい滋味あふれる演奏だ。ただ、落ち込んでいるときに聞く音楽ではないことを痛感した。Marina Staneva Mompou:Piano Works(Chandos CHAN20276)24bit 096kHz Flacモンポウ:1.風景(1942 – 1960)4.ショパンの主題による変奏曲(1938 – 1957)17.歌と踊り(1921 – 1962)29.子供の情景 第5曲 庭のおとめたち[Bonus Track]マリーナ・スタネヴァ(ピアノ)Recorded 1 and 2 April 2023,Potton Hall, Dunwich, Suffolk,UK
2023年12月13日
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岩手県民会館コンサートサロンの最終回は小林愛実ピアノ・リサイタル。会場はほぼ満員。開場前から長い行列ができている。さすがはショパン・コンクールの威力というところだろうか。小林愛実のピアノは録音でも聞いたことがない。ショパンの前奏曲がワーナーから出ているのは知っているが、購入までには至っていなかった。なので、演奏を聴くのは今回が初めて。前半はシューベルトの即興曲で後半はショパンというプログラム。即興曲は晩年に作曲された4曲。シューベルトの即興曲は最近聴く機会が多い。この間もピアノ・フォルテのブラウティハムの演奏(BIS)を聴いたばかりだ。従来のイメージとはかなり違う、激しい演奏に驚いたものだ。そのイメージが残っているためか、今回の演奏は全体的に穏やかな表現。やたらとアコーギクが多用され、テンポが崩れる寸前まで行っている場面もある。強弱のニュアンス付けはあまりなく、物足りない。ダイナミックスの幅も狭い。スケールはさほど大きくないが、ウォームな肌触りは悪くない。ただ、フォルテが少しぞんざいな気がする。第3曲のロザムンデの主題による変奏曲は、各変奏はくっきりと引き分けられていて悪くなかった。第4番は少しテンポが速く、ぎくしゃくしたハンガリー風のリズムに多少違和感があった。後半は前半の即興曲に引っ掛けたのか即興曲が2曲入っている。前半と同様にフォルテでの力感がなく、印象が弱い。最初の「幻想ポロネーズ」は相変わらずアゴーギクを多用しているが、曲の深みがあまり感じられない。最後の変イ調の和音が弱音だったのが意外。スコアを確認してみたがffになっている。この解釈は聞いたことがなかったので、その理由が知りたいところだ。即興曲第3番は今回の演奏会では気に入った演奏の部類にはいる。穏やかな曲調が現在の小林の心境にフィットしているのかもしれない。幻想即興曲は普通は華麗な演奏になると思うが、小林の演奏はここでも地味だ。中間部の穏やかな部分がなかなか聴かせる。最後の「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は筆者が嫌いな曲。特に後半のポロネーズのメロディーが安っぽい。まあ技巧をひけらかせて聴き手を驚かすような悪趣味の部分があると思っているので、このような感想になってしまう。小林は華麗なテクニックで聴き手を驚かすような芸風ではないので、なぜこの曲を選んだのか疑問が残る。これでいい意味でのショーマンシップがあれば、大分違うと思うのだが。。。ここでもダイナミックレンジが狭く、といってルバートを見せつけるようなところもなく、地味な出来だった。後半を通じて細かい音符も小手先で弾いているような感じで印象が悪い。ただ、技巧は安定していて、ミスもほとんど聞かれなかった。気になったのは速いパッセージで、幾分混濁するところくらいか。前半と後半、どちらも開始のベルが鳴ってからも調律を行っていたのは見たことがない。よほどピアノの調子が悪かったのだろうか。個人的にはぼやけた音で、ピアニストにとっては、あまりいいコンディションではなかったように思う。この施設が開館したのが1973年で今年が50年目になる。ピアノの寿命は約60年といわれているらしいので、そろそろ寿命が近くなってきているのかもしれない。 ところで、今日プールに行ったら、あとから入ってきた顔見知りの女性の方から、この演奏会に行ったかと聞かれた。なんでも客席で後ろを振り返ったら筆者が目に留まったらしい。意外なことにびっくりしてしまった。良かったですねと言われたので、微妙と言ってしまった。後から「出産したばかりで体調が悪かったのかも」、とフォローしておいたが、気を悪くされたかもしれない。実際9月~10月の演奏会は見合わせていたらしい。コンディションのいいピアノで体調のいい時に、また聴くことが出来ればと思う。小林愛実ピアノ・リサイタル前半シューベルト:即興曲集 D935 Op.142後半ショパン:1.幻想ポロネーズ 第7番 変イ長調「幻想」2.即興曲第3番 Op.513.幻想即興曲 嬰ハ短調 Op.664アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22アンコール1.ショパン前奏曲集より(多分17番)2.シューマン:トロイメライ2023年12月8日 岩手県民会館中ホール 6列21番にて鑑賞
2023年12月09日
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この前まで開催されていたpresto musicのDGGのハイレゾのmp3価格でのセールで購入した一枚。このセールで、ドゥダメルの音源をいくつか購入したが、ロス・フィルの上手さに感心した。そうしたら、ネットの記事でこの楽団が世界最高のオーケストラ10選に入っていることを知った。現在の実力は音楽監督のドゥダメルの功績が大きいのだろうが、そのさっぱりとして清潔感のあるサウンドは筆者にはとても魅力的に聞こえる。メータがリヒャルト・シュトラウスなどを指揮して次々とレコードを発売していた頃(1962-1977)も、もてはやされたものだが、当時は少し粗いが馬力のあるオーケストラという印象だった。その後もジュリーニ、プレヴィン、サロネンなど著名な指揮者を迎えていたが、筆者はそれほど関心がなかった。サロネンのCDはルトスワフスキーの交響曲全集など数枚持っているが、線が細くそれほど印象に残っていない。アダムズの「シティ・ノワール」は、ディストリビューターによると『1940年代末〜50年代初めにかけてロサンゼルスで制作されたフィルム・ノワール(暗黒映画)特有のムードにインスピレーションを受けて、この時代の美学へのオマージュが反映されている。』とのことだが、具体的にどうなのかは分からなかった。フィルム・ノアールというくらいなので、暗く殺伐とした雰囲気が全編に漂っている。多数の打楽器やピアノ、ハープを含む4管編成の交響曲。3楽章に分かれているが、続けて演奏される。ブックレットによると、この曲は、アメリカの歴史家ケヴィン・スターの「City Noir』は、私がケヴィン・スターの「The Great Depression in California」の第3巻「Embattled Dreams」の「Black Dahlia」の章からヒントを得ているという。このブラックダリアの殺人事件は1947年に起きた猟奇事件で、現在も未解決。ブライアン・デ・パルマ監督により2006年に映画化されている。映画をご覧になった方ならわかるであろうが、身の毛もよだつような恐ろしい映画だ。この音楽を聴いて身の毛がよだつような気分にはならないが、心がザワザワし、聴き手のドキドキ感はかなりのものだ。第1楽章と第3楽章の荒々しくも巨大な暴力的な表現に圧倒される。第3楽章はさながらハリウッドの大作の気分を感じさせてくれる。第2楽章は静けさが支配する夜の音楽で、アルトサックスがフィーチャーされ、聴き手の緊張も和らぐようだ。演奏は実に素晴らしい。全編に漂うクールな雰囲気、アメリカの楽団らしいスタミナとジャズの香り、第3楽章のエンディングの圧倒的な盛り上がり、どれも素晴らしく、終わった後の観客の歓声も頷ける。オーケストラは文句のつけようがないが、弦の艶やかなサウンドが特に印象に残った。この音源は配信のみのようだが、広く知られて欲しい演奏だ。John Adams:City Noir(LA Phil Live 4794373)24bit 96kHz FlacJohn Adams: City Noir(2009)1.The City and its Double2.The Song is for You3.Boulevard NightLos Angeles PhilharmonicGustavo DudamelRecorded: 2009-10-10,Walt Disney Concert Hall, Los Angeles
2023年12月05日
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イギリスの日系ギタリストであるショーン・シベの新作は南米の作曲家の作品を集めたアルバム。最近録音の目立つヒナステラのソナタが収録されているのが嬉しい。南米の音楽と言っても華やいだ雰囲気はなく、清澄で落ち着いた演奏で直向きさも感じられる。最後のヒナステラのソナタは難曲として知られる。シベの演奏はバリオスやビラロボスのひそやかな趣とは段違いの大迫力。ただ、音の粒立ちがはっきりしていて、むき出しの野蛮な音にはなっていないところがユニーク。多分マイクアレンジも異なっているのだろう。ただし、南米の息苦しい空気を感じたい向きには不満の出る演奏だろう。バリオスは上品で控えめな気品漂う演奏。なので南米のにおいはあまり感じられず、録音と相まって荘厳な気分が感じられる。舟唄「フリア・フロリダ」もしみじみと心に染み渡る。筆者はヴィラ=ロボスの12の練習曲はあまり馴染みがない。昔々のイエペスのドイツ・グラモフォンを所有していることを思い出したが、演奏は全く覚えていない。これもバリオス同様あまり南米の香りがしない。激しいところでも抑え気味で品位が保たれている。シベの演奏を聴いていると、これが単なる練習曲ではなく、香り高い名品であることが伝わってくる。第12曲は、ギターの弦の上を指で滑らせたときに出るキュッキュッという音を効果音として積極的に出させる曲なのだが、シベはこれを派手にやっている。因みにこれはイタリア語で「滑る」や「滑走」を 意味する「scrivo」または、「scivolo」という表情記号が使われるそうだ。他の演奏も何種類か聞いてみたが、これほど派手に出している演奏は見つけられなかった。ブックレットは楽曲の作曲された当時の背景なども含め大変充実している。中でも、ギタリストのセゴビアとバリオス、セゴビアとビラロボスとの良好ではなかった関係について言及されていて、大変興味深かった。彼らの関係が円滑でなかった背景として、セゴビアの態度が対等な人間同士の関係ではなく、宗主国(セゴビア)と植民地(バリオス、ヴィラロボス)とのようなものであったことが挙げられている。この描写は、高慢なセゴビアの態度を連想させる。まあ、優れた演奏家であるからといって、必ずしも良い人間関係が築けるわけではない。残念ながら...。録音は多分いつもの教会。雰囲気は出ているのだが、オフマイクの上に残響が少し多めなので、奏者から少し離れたところで聴いているような、もどかしさが感じられる。一度近接マイクで彼のプレイを聴いてみたいものだ。また、無音の状態でブーンというハム音がかすかに聞こえるのが残念。とはいえ清新な魅力に溢れたラテン・アルバムとして、ギター・ファンの方には是非お聞き頂きたい。Sean Shibe:Profesion(Pentatone PTC5187054)24bit 96kHz Flac1.Barrios Mangoré: La Catedral4.Barrios Mangoré: Julia florida5.Villa-Lobos: Estudos (12) for guitar, W23517.Ginastera: Guitar Sonata, Op. 47Sean Shibe (guitar)Recorded in April and August 2023 at Crichton Church, Scotland.
2023年12月01日
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宮沢賢治記念館の主催行事である宮沢賢治没後90年特別企画 「チェロでつづる宮沢賢治の世界」を聴きに行った。これは花巻市民限定で抽選で800名ということだったが、運よく当たった。当初宮本大のチェロを聞けるということで応募したのだが、中身が濃くとても楽しめる演奏会だった。普通の演奏会ではなくいろいろな趣向が工夫されていた。一番のサプライズは賢治の愛用していたチェロを宮田が弾くという第4部。賢治のチェロは賢治記念館に展示してあるそうだが、筆者は記憶がない。古ぼけたチェロなのかなというイメージだったが、高そうな楽器ではないがプログラムの裏に楽器の詳しい情報が載っていた。賢治が1926年(大正15年)ころに購入したもので、鈴木製のチェロとしては最高級品(No.6)で、およそ170円だったそうだ。今の価値だと1円が約2,790円 で換算すると、474300円ほどで、現在の鈴木チェロの76番と同等の価格のようだ。明るい色で、艶々していて、筆者のチェロのイメージとはちょっと異なるが、音は結構よかった。勿論名手が弾いているということもあるが、鋭さのない暖かな音色で、宮田さんは賢治の声を聴いているようだと仰っていた。この楽器を弾いた第4部は昔の童謡などを中心に選曲されていた。最初の賢治の無伴奏チェロのための「星めぐりの歌」は宮田さんの編曲で中間部にバッハの無伴奏チェロ組曲第1番の前奏曲が使われていて、格調高く仕上がっていた。他の曲も格調高く清々しい演奏で賢治の記念公演にふさわしい出来だった。最後のアンコール「故郷」もしみじみとした演奏だった。第1部は花巻北高校と遠野高校の合同の女声合唱。なんでも、部員が少なく令和3年から合同で活動してきたとのこと。メンバーは2人ずつで、殆どがユニゾンだったが、素直な歌声が感銘深かった。全て賢治の作詞作曲だが、「剣舞の歌」ではライトスティックを使った演出があり趣向が凝らされていた。「月夜のでんしんばしら」のユーモアのある歌が楽しかった。第2部は「宮田大チェロリサイタル」と題されていて、親しみやすいプログラムが演奏された。豪快に弾くというのが宮田のチェロに対する筆者の印象だったが、軽いプログラムということもあったのか、弱音重視の演奏だった。チェロの弱音というとロストロポーヴィッチのチェロを思い出すが、宮田の場合は作為的ではないのが好ましかった。最新作「VOCE - フェイヴァリット・メロディー」」にはないが、久石譲の映画音楽が2つ演奏されていたのが嬉しかった。ピアノの西尾真美さんの伴奏は堅実ではあるが、高音の軽さが気になった。第3部は九十九太一というスペインのバルセロナで活動しているエレキ・チェロ奏者のステージ。絵本・音楽プロジェクト「セロ弾きのゴーシュ」というタイトルで、画家の九十九伸一氏のポップな絵画と動物たちの実写を合成したショートムービーを見ながらエレキ・チェロの演奏を楽しむというもの。エレキ・チェロというと分からないがサイレント・チェロと言えば楽器をやっている人には容易に想像がつくだろう。曲は九十九太一氏のエレキ・チェロにいろいろなエフェクトをつけた音楽。CDは出ていなようだが配信やyoutubeで聞くことが出来る。エスニック風な音楽だろうか。物語は「セロ弾きのゴーシュ」に登場する三毛猫、カッコウ、野ネズミなどのにまつわる曲が映像とともに出てくる。動物や虫の声なども交えたオリジナリティに富んだ音楽で、映像にもだいぶ助けられていると思ったが、この稿を書いているときにspotifyで流していたら、これがかなりの力作であることが分かった。特に第1曲「インドの虎狩り」は前衛的な部分もあり、チェロの独奏曲としてかなり聴かせる音楽になっている。第2曲「カッコウの音階」は何とカッコウの鳴き声とラップが共演するというもので、それが妙にしっくりくるのが笑える。第3曲の「愉快な馬車屋」の原曲はオリジナル・デキシーランド・ジャズ・バンド(ODJB)の「Livery Stable Blues」(1917)で、当時の古いフィルムが写されていた。馬のいななきや鼓の音も聞こえる和洋折衷的でユニークな音楽で楽しめる。第4曲「星めぐりのラプソディー」は他取る通り「星めぐりの歌」をテーマとしたラプソディー。鈴虫やフクロウの鳴き声が夜の情景を想像させる効果絶大だった。素晴らしい組曲なのでご存じない方は是非下記リンクでお聴きいただきたい。ということで、単なる音楽会に終わらない、賢治の人となりもうかがわせる没後90年にふさわしい演奏会だった。宮沢賢治没後90年特別企画 「チェロでつづる宮沢賢治の世界」第1部 合唱宮沢賢治:1.星めぐりの歌2.耕母黄昏3.剣舞の歌4.月夜のでんしんばしら第2部宮田大 チェロリサイタル1.サン=サーンス:白鳥2.ラフマニノフ:ヴォカリーズ3.プッチーニ:オペラ「トゥーランドット」より”誰も寝てはならぬ"4.カッチーニ:アヴェ・マリア5.久石譲:「天井のラピュタ」より"君をのせて"6.久石譲:「ハウルの動く城」より「人生のメリーゴーラウンド」第3部 九十九太一(つくもたいち) 絵本・音楽プロジェクト「セロ弾きのゴーシュ」九十九太一:チェロ無伴奏組曲「GOSHU」1.インドの虎狩り2.カッコウの音階3.ゆかいな馬車屋4.星めぐりのラプソディー30分第4部 宮田大賢治のチェロを奏でる1.宮沢賢治(宮田大編):星めぐりの歌2.滝廉太郎:荒城の月3.岡野貞一:もみじ4.草川信:夕焼けこやけ5.成田為三:浜辺の歌アンコール:故郷第1部 花巻北高等学校合唱部&遠野高等学校音楽部第2部 宮田大(vc)、西尾真実第3部 九十九太一(e-vc)第4部 宮田大(vc)西尾真実(3-5)2023年11月25日 花巻市文化会館大ホール4-16で鑑賞
2023年11月25日
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フランソワ=グザヴィエ・ロトのブルックナー・シリーズを以前から注目していたが、高くてなかなか手が出なかった。いつものpresto musicで安価に買えることが分かり、ダウンロードした。第7番もあるが、ちょい聞きで気に入らないところがあったので、今回は見送り。同時期にコーストヴェット版のラトル盤も購入したが、今のところ面白さが感じられない。理解できるまでには、少し時間がかかりそうだ。ロトの録音は全体的に清々しい空気に満ちていて、通常の1878/80年稿に対して、第1稿の違和感はあまりない。第1稿の録音も多少は出てきたが、筆者はフォローしているわけではない。最近だとヤクブ・フルシャがすべての版を録音したCDがBRクラシックから出ていた。筆者は入手はしていたが殆どまともに聴いたことがなかった。ロトの演奏は自然なテンポで、小細工はなし。何よりも明晰な音楽が素晴らしくいい。なので、第1稿の人当たりの悪さがあまり感じられない。この演奏だと第1稿も悪くないと思える。第1稿の演奏として初めて1878/80年稿と同じ土俵の乘って比較できるようになったような気がする。第3楽章は他の稿とは全く別な音楽で、繰り返しが多く、まとまりに欠けるのは仕方がない。全くいいところがないわけではなくはないが、入れ替えられたのも頷ける出来。通常の版に比べると第4楽章とのつながりは、第1稿のほうがあるように思える。第4楽章は現行版とあまり違わないという認識だったが、何回も聴いていると、だいぶ違うことがわかった。後半の15分30秒あたりからエンディングまでの盛り上がりは、他の稿では聴かれない鳥肌ものの瞬間が味わえる。ブルックナーの交響曲でまれに出てくる、スケールの大きい凶暴な側面が姿を現す。演奏の素晴らしさで、作品が実体以上に立派に聞こえるという稀有な例だろう。潤いのあるサウンドも、演奏を一層引き立てている。ところで、比較のために1987年頃の録音であるインバル盤(TELDEC)も聴いてみた。これは多分初稿の録音としては先駆けにあたるもので、3番、8番と同時期に出され発売当時大いに話題になったことを覚えている。以前8番を聞き返したときは随分荒々しい演奏で驚いたのだが、4番も荒々しさは感じられるものの、かなりいい演奏だったのは意外。ただ、さすがに古くなったためざらつき気味で、最新録音であるロト盤に比べるとだいぶ損をしている。ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」(1874年第1稿)(Myrios MYR032)24bit 192kHz Flacフランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団録音:2021年9月19-21日/ケルン・フィルハーモニー(ライヴ)
2023年11月21日
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以前衝撃的な演奏で度肝を抜かれた、アンサンブル・レゾナンツのモーツァルトの交響曲シリーズの続編。最近聞いていなかったので、依然とどう違っているかは分からない。今回は「リンツ」と「プラハ」という組み合わせ。相変わらず、どぎついアクセントと、聴き手を刺激するというか、まるでケンカを売っているような鋭いフレージングは健在。弦の鋭利な刃物のようなサウンドは、聴き手の心にグサッと突き刺さるかのようだ。なので、好き嫌いが分かれる演奏である。モーツァルトの交響曲に快楽を求める方には全く相応しくない演奏だ。「リンツ」1楽章のエンディングの少し前で、気がふれたかのように突然テンポが異常に速くなる。これはいったい何だったんだろうか。第2楽章は1楽章に比べると普通の演奏だが、モーツァルトらしい柔和な表情は影を潜め、濃厚な表情でぐいぐい迫ってくる。普通の演奏が水彩画としたら、この演奏は絵の具の盛り上がった油絵のような感じだ。第3楽章は独自のフレージングとやや速いテンポ、そして荒々しいナチュラル・ホルンの強奏など、独特の特徴が際立っている。トリオでの木管の癖のあるフレージングは、好悪が分かれそうだ。第4楽章もかなり速いテンポでありながら、重戦車のような重量感があり、ティンパニの強打もきつい。この楽章では弦のパートが1丁になる部分があり、ハッとする。これほど荒々しく、聴いていると冷や汗が出てきそうなエンディングも聞いたことがない。「プラハ」1楽章 adagioとはいいがたい、速めのテンポで荒々しく奏される。allegroは音符を伸ばしたり、突然僅かな間が入った奇怪なフレージングがあり、面白いことは確か。2楽章 テンポは心持速い程度で、抵抗感はない。やたらと賑やかな演奏だ。3楽章 テンポはかなり速く、野性味たっぷりの演奏。一部荒っぽいところも見受けられる。この楽章でも普段表に出てこないホルンの内声が聞こえてきたり、ミナーシの異能ぶり?が発揮されている。アンサンブル・レゾナンツの演奏はミナーシの意図を十全に表したもので、彼らの協力がなければ、ここまで徹底された演奏は生まれなかったであろう。録音は残響が少し多く、強音では歪みが感じられる独特のサウンド。ということで、かなり特異な音楽で、通常の演奏に飽き足らない方には魅力的かもしれない。筆者も、今回はちょっとやり過ぎの感じがする。のんびりムードのファゴットに救われる思いだ。ただし、何回か聴かないと理解できない演奏なことも確かだ。Trailerリッカルド・ミナーシ&アンサンブル・レゾナンツ モーツァルト:交響曲第36番『リンツ』、第38番『プラハ』(Harmonia Mundi 902703DI)モーツァルト:1.交響曲第36番ハ長調 K.425『リンツ』5.交響曲第38番ニ長調 K.504『プラハ』アンサンブル・レゾナンツリッカルド・ミナーシ(指揮)録音 2021年9月,ハンブルク、オトマールシェン・キリスト教会
2023年11月05日
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eclassicalでNaxosが半額セールをしているので、新譜で出てたバージェスという作曲家のギター四重奏全集を購入。全集とは言え3曲しかなく、他にトラッドの「3つのアイルランドの小品」とホルストの「水星」、ウエーバーの「オベロン序曲」というラインナップ。すべてバージェスによる編曲。ギター四重奏は人当たりの良い明快な曲想で、難しいところはなく、気持ちよく聴くことが出来る。作曲者のアンソニー・バージェス(1917-1993)は小説家や評論家として名高いそうだ。wikiによると詩人、脚本家、ジャーナリストでもあり、多彩な才能の持ち主のようだ。Naxosの作品リストによると、作品の数は多くなく、殆どが器楽や室内楽のようだ。多分録音がないのだろうが、ブックレットでは交響曲や協奏曲にも触れられている。今回収録されている作品は、1986年にモンテカルロに住んでいた時に活躍していた「Aighetta Guitar Quartet アイゲッタ・ギター四重奏団 」(1979年結成)のために彼らのために数多くのオリジナルの作曲と編曲を行っている。今回録音された曲もすべて彼らのために作編曲された作品だ。アイゲッタ・ギター四重奏団はバージェスとのコラボレーションを通じて高い名声を獲得、国際的な音楽祭に出演し、多くの賞を獲得しているという。メーラギター四重奏団(Mēla Guitar Quartet)は、2015年にロンドンにあるギルドホール音楽演劇学校とロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックを卒業したメンバーによって結成された。彼らのサイトを見ると名前はサンスクリット語で「祭り」を意味する言葉から取っているとのこと。ディスクはこのアルバムを含め3枚リリースしている。各奏者の技巧にばらつきがなく、アンサンブルの精度が大変高い。なので、編曲物でも編曲の巧妙さも相まって、技巧の制限を感じさせずに済む。ギター四重奏曲は3曲で、第1番は「モーリス・ラヴェルへのオマージュによる四重奏曲」という副題がついている。テーマのいくつかが、彼の第3交響曲の第2楽章から借用されているそうだ。ラテン的な明るさの勝った人懐っこい音楽が楽しい。第1楽章と第3楽章は似たようなキャッチーなテーマと躍動感が印象的な楽章。第2楽章「パッサカリア」は少し暗めのテーマが15回繰り返される。第2番は、3曲の中では最も長く、モノクロームで重厚な音楽だが、難解ではない。第1楽章は12音のクロマチックな音楽で、第2楽章もその気分が引き継がれる。第3楽章のコラールは温かみのある音楽。楽し気な第4楽章に続く。第3番も第2番と似たようなカラーの曲。第1楽章は12音で書かれているので、すこし冷ややかな感触がある。第3楽章はラテンフレーバーを感じさせる、踊りの音楽。これも深刻ではあるが難渋な音楽ではない。編曲物は「3つのアイルランドの小品」と管弦楽のホルストの「水星」とウエーバーの「オベロン序曲」。この管弦楽の編曲がよく出来ていて、小編成とはいえ原曲に比べ貧弱ということはなく、楽しめるものになっている。「水星」では、16音符の流れるようなリズムを4人の奏者が次々に演奏していて、サウンド的にも音が左から右に移っていくところが面白い。「3つのアイルランドの小品」は約5分ほどの曲ながら、なかなか味わい深い。特に第2曲「澄みきった空に歌うヒバリ」の音数の少ない清冽な叙情が心に沁みる。第3曲「アイルランドの洗濯女」は吹奏楽関係者ならお馴染みのホルストの「第2組曲」第4楽章の「ダーガソンによる幻想曲」と同じ曲。第1曲「 パーシー・オライリーのバラード」もイギリスの風景を感じさせるような柔らかな叙情が心地よい。「オベロン序曲」も安っぽい感じはしない後半に向かって畳みかけるような迫力も十分感じられる。録音も、ノイズの感じられない素晴らしいもの。ということで、思いもかけずいい曲といい演奏だった。残りの2枚も聴いてみたくなるスカッとした秀演だと思う。 ところで、聴いている時に変な音が出ていることに気づいた。弱音の時に聞こえるのだが、注意して聞いてみると野鳥の鳴き声(複数)なことに気がついた。まあ、ロケーションが教会なので、外の音が聞こえてきても不思議ではない。完璧主義者なら許せないことなのかもしれないが、個人的には、滅多にない風情のある録音として希少価値が出るかもしれない。作曲者自身が「パーシー・オライリーのバラード」を歌っている動画。酒場での歌と芝居がかった朗読で、なかなか味がある。メーラ・ギター四重奏団 アンソニー・バージェス(1917-1993):ギター四重奏曲全集(Naxos 8.574423)24bit 96kHz FlacAnthony Burgess:1. ギター四重奏曲第1番 「モーリス・ラヴェルへのオマージュによる四重奏曲」(1986)4. グスターヴ・ホルスト(1874-1934):組曲「惑星」 Op. 32- 第3曲 水星 翼の神(1916)(A. バージェスによるギター四重奏編)(1987)5.ギター四重奏曲第2番9.3つのアイルランドの小品(A. バージェスによるギター四重奏編)(1988)...世界初録音12.ギター四重奏曲第3番(1989)15. ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲(A. バージェスによるギター四重奏編)(1987)...世界初録音メーラ・ギター四重奏団:Matthew RobinsonGeorge TarltonDaniel BoveyJiva Housden録音:All Saints Church, Weston(UK)2017年5月29-31日(track 1-3、5-15),2018年9月3日(track 4)
2023年10月28日
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マグダレーナ・コジェナーのペンタトーンでの新譜はラトル指揮チェコ・フィルとの歌曲集。べリオを除きピアノ伴奏からの管弦楽編曲版。バックが管弦楽だと色彩が豊かで、曲のイメージが膨らむことは確かだろう。eclassicalの新譜案内で取り上げられていたので、Spotifyで流し聞したところ、これが素晴らしくいい。結局eclassicalから$12.38でダウンロードした。ヴァラエティに富んだかなり凝った選曲。知らない曲を優れた演奏で聞ける喜びは、背景などを知ることも出来るし、既知の曲を漫然と聞くのとは違う、とても有益な時間だった。コジェナーの歌唱は全く素晴らしいものだった。ヴォーカルを包み込むような暖かいサウンドのチェコ・フィルの伴奏もいい。ブックレットのコジェナーの言葉によると『この録音のために故国の音楽を選んでいないが、各曲との特別なつながりを感じている』とのこと。最初のバルトークからハンガリーの雰囲気が適度に漂い、「青髭公の城」の冴えざえとしたサウンドを思い出した。ベリオの12曲にわたる「Folk Songs」ブックレットによると、題材はアメリカ(track6,7)、アルメニア'(trak 8)、フランス(track 9、14)、イタリア(track10-13)、アゼルバイジャン(track 15,16)の民謡で、情報源はなんと「古いレコード、印刷されたアンソロジー、またはフォークミュージシャンや友達によって歌われたもの」だそうだ。彼の目標は、各曲に新しいリズムと和声の解釈を与えることであったそうで、原曲を知ってればそのべリオのオリジナリティが感じられるのだろうが、すべて原曲にあたるまでには至っていない。spotifyで1曲目の「BLACK IS THE COLOR」チェックしたら、何とジャズ歌手のニーナ・シモンの歌がヒットした。彼女一流のどっぷりとブルースに漬かった歌唱なので、本来の民謡のテイストからは程遠くなっているかもしれないが、それを割り引いてもべリオの編曲とは大違いだ。この民謡は、もともとがスコットランドの民謡のようで、冒頭のフィドル風のヴァイオリン・ソロからして、スコットランドの風が吹いている感じがする。べリオの深い洞察のもとでの、作曲のアプローチの一端を垣間見た気がした。第5曲のシチリア民謡「女たち」がなかなか激しい曲想なのだが、面白いのはバックが歌とは全く関係ないような浮遊感のある伴奏で鐘まで鳴っていること。シチリアの鐘と言ったらマスカーニのオペラを思いだすという仕掛けだろうか。第6曲「La donna ideale」(1947)はハープが使われ、第5曲と同じような気分が感じられる。「Ballo」(ダンス)も「La donna ideale」と同様学生時代の作品だが、かなり激しい曲想で異彩を放っている。総じて、一筋縄ではいかない伴奏が、べリオの面目躍如足る作品。ラヴェルの「5つのギリシャ民謡」はギリシャのキオス島の民謡を使った曲集。第1曲と第4曲がラヴェル自身の編曲、残りはマニュエル・ローゼンタールが編曲した。静かな曲と動きのある曲があるが、個人的には冴え冴えとした伴奏とエキゾチックな気分が感じられる第4曲「乳香を集める女たちの歌」が気に入った。短いながらも、にぎやかな第3曲「私と比べられる男前はだれなんだ?」も楽しい。最後にハビエル・モンサルバーチェというスペインの作曲家の「5つの黒人の歌」という作品が取り上げられている。キューバなど中米の音楽を使った、エキゾチックで軽妙な作品で、なかなか楽しめる。第一曲はトランペットとトンボーンの柔らかいハーモニーがいい感じだ。第2曲「ハバネラのリズム」は、軽妙な部分とゆったりした部分が数小節ごとに繰り返され、非常に魅力的な作品です。特に、ゆったりした部分の優しい旋律が素晴らしく、最後のチェレスタも気が利いている。第3曲「素晴らしい」では、いきなり乱暴なフォルテシモのモチーフが管に現れ、南米音楽の荒々しい要素が感じられる。第4曲「黒い子供を寝かせるための子守唄」は静かな曲で、中米の暑苦しい夜のムード。最後は陽気な「カント・ネグロ」で締めくくられる。コジェナーは時折地声を使って頑張っているが、どうしても上品さが拭えないところが限界だろうか。録音はチェコ・フィルの本拠地、芸術家の家ドヴォルザーク・ホールで、少なくともバルトークはライブ録音だろう。Magdalena Kožená :Folk Songs(PentaTone PTC5187075D)24bit 96kHzFlac1.Bela Bartok:5 Hungarian Folksongs, BB 108, SZ. 101(1929)6.Luciano Berio:Folk Songs(1964)17.Maurice Ravel:5 Melodies populaires grecques (1904-1906)22.Xavier Monsalvatge:5 Canciones negras(1945)Magdalena KoženáCzech PhilharmonicSimon RattleRecorded at the Dvořák Hall of the Rudolfinum, Prague in June 2020 (Berio), November 2022 (Bartók & Ravel) and February 2023 (Montsalvatge)
2023年10月19日
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来年はブルックナーの生誕200年にあたるため、幾つかの演奏家が全集の完成を目指しているらしい。その中でいち早く、ウイーンフィルがティーレマンの指揮で0番と00番を含む全集を完成させた。筆者はもともとティーレマンはあまり買っていない。BSで8番を聞いた時も一部気になるところがあった。全集を買う気になったのは、価格が安かったことの一点のみ。予約しておいたのだが、リリース日を忘れてしまって、結局2週間ほど遅れのダウンロードになってしまった。取り敢えず、気になるところをざっとチェック。0番は聞いたことがないはずだが、これがウイーンの香り高いもので、ウイーンフィルの美麗なサウンドもあって、とても習作とは思えないシューベルトに似た音楽でとても楽しめた。1番や2番も普段聴いている版とは違っているので、その点でも面白かった。ティーレマンはテンポは普通で、昔の巨匠たちがやっていた、これみよがしにテンポを動かしたり、もったいぶったフレージングなども殆どなく、すっきりとしているが、流麗な演奏だったことに驚いた。とにかくウイーン・フィルのメロウなサウンドが美しく、おそらくは過去の全集の中でも最も美しい演奏の一つだろう。総じて金管が威圧的ではなく、必要十分な音量で鳴っているのも、その印象を強くする理由の一つだろう。以前ミュンヘンフィルとの5番の録音(DGG 2004)を聞いたときはがっかりしたものだが、今回はあの時に感じた違和感はなく、意外に感じた。どうやら筆者のティーレマンに対する固定観念も、修正する必要がありそうだ。ティーレマン ブルックナー:交響曲全集(SONY 19658760172)24bit 96kHz FlacWiener PhilharmonikerChristian Thielemann
2023年10月16日
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グラモフォンでのデビュー・アルバムが良かったので、新作を心待ちにしていたチリ出身のアメリカ人ジョナサン・テテルマン(1988-)。今回は来年没後100年となるとプッチーのトリビュートアルバム。今回も輝かしく豊麗な声と劇的な歌唱で楽しませてくれる。声だけで楽しませてくれるテノールは、最近ではテテルマンが最右翼だろう。声だけで楽しませてくれるテノールも、最近はあまり聞かないが、テテルマンはその数少ないうちの一人だろう。主に有名なアリアが収録されているが、堂々たる歌唱は名だたる歌手たちに匹敵し、不満を感じることはない。さらに、オペラ本編の登場人物たちも出揃っており、彼らの歌唱も素晴らしく、実際にオペラを観ているかのような充実感が味わえる。最初のマノン・レスコーのナンバーからして、パバロッティを思わせるような深い声が大層魅力的だ。高音も声が細くならず安定している。「誰も寝てはならぬ」も最後を長く伸ばして、劇的な気分を感じさせる。ボエームの「冷たい手を」は筆者のなかではパバロッティ(カラヤン盤)がデフォルトだが、互角の出来とみた。ボエームでは、ミミのアリアのあとの二重奏から第一幕の終わりまでと第3幕の終わりの四重唱を演奏しているのも嬉しい。共演しているフェデリカ・ロンバルディ(ミミ)、マリーナ・モンツォ(ムゼッタ)、セオドア・プラット(マルチェッロ)も好演。特にムゼッタ役のマリーナ・モンツォのコケティッシュな魅力に惹かれた。この部分だけでもオペラを聴いているような気分に浸れる。ミミ役のフェデリカ・ロンバルディ、とも素晴らしい共演ぶりだ。track10,13でのOnay Koseの気品と深みのあるバリトンも素晴らしい。「トスカ」の「妙なる調和」、「星はひかりぬ」も劇的な表現と声の威力に圧倒される。「外套」の「ジョルジェッタとルイージの二重唱」も遅めのテンポで不気味さの現れた演奏。後半の劇的な歌唱には目を見張る。ヴィダ・ミクネビキューテ(ジョルジェッタ)も好演。よく知られたナンバーの中に「つばめ」や「妖精ヴィッリ」のアリアが含まれているのも嬉しい。どちらもテテルマンの名唱を聴いていると、全曲を聴きたくなる気分になる。バックのカルロ・リッツィ指揮のプラハ・フィルハーモニアもテテルマンに引きずられたのか、劇的で熱気を帯びた演奏で、オペラの醍醐味を感じさせる。ということで、単なるアリア集というよりも、オペラ全曲を聴いたかのような充実感のあるアルバム。オペラ好きの方には、是非聞いて頂きたい。ジョナサン・テテルマン/プッチーニ:アリア集(DGG 4864683)24bit 96kHz Flacプッチーニ:1. 何とすばらしい美人(歌劇『マノン・レスコー』より)2. 誰も寝てはならぬ(歌劇『トゥーランドット』より)3. パリ! それは欲望の町(歌劇『つばめ』より)4. 冷たい手を(歌劇『ボエーム』より)5. ああ、麗しの乙女よ(歌劇『ボエーム』より)6. それでは本当に終わりなんだね(歌劇『ボエーム』より)7. 妙なる調和(歌劇『トスカ』より)8. 星は光りぬ(歌劇『トスカ』より)9. ああ! マノン、君の愚かな考えは(歌劇『マノン・レスコー』より)10. あの女(ひと)の苦しみを(歌劇『蝶々夫人』より)11. あなたが黙っていても(歌劇『西部の娘』より)12. やがて来る自由の日(歌劇『西部の娘』より)13. Luigi! Luigi! ... Dimmi, perche gli hai chiesto(歌劇『外套』より)14. 泣くな、リュー(歌劇『トゥーランドット』より)15. 幸せに満ちたあの日々(歌劇『妖精ヴィッリ』より)ジョナサン・テテルマン(t)フェデリカ・ロンバルディ(s track 5,6)マリーナ・モンツォ(s track 6)ヴィダ・ミクネビキューテ(s track13)リハブ・カイエブ(ms track 10)セオドア・プラット(バリトン:6)Onay Kose(Br track 10,13)プラハ・フィルハーモニアカルロ・リッツィ(指揮)録音2023年2月、3月、プラハ、チェコ放送
2023年10月12日
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イタリアの若手ピアニスト、ヴェネッサ・ベネッリ・モーゼル(1987-)の新録音「Italia」を聴く。短い曲が並んだ、一種のアンコール集のような構成。ディストリビューターによると、このアルバムの特徴は『スカルラッティ(18世紀初頭)から始まり、エツィオ・ボッソの作品(2015)までのイタリアの300年の音楽の歴史を俯瞰するものだそうだ。驚くべきことに歴史的期間だけでなく、スタイルの面でも互いに非常に離れている作曲家の作品が並んでいる』とのこと。選曲も一筋にはいかない凝ったもので、興味深く聴くことが出来る。モーゼルはバロックから現代音楽まで引けるピアニストとしての特異な才能を発揮して、まさに彼女にしか作れないような優れたアルバムに仕上がった。どういう基準で選んだのか不明だが、曲順はランダムというか、少なくとも年代順ではない。いきなりモリコーネの映画「海の上のピアニスト」から「愛を奏でて」勢いのあるカデンツァがばらばらと弾かれ、そこからニュアンス豊かでロマンティックな旋律が出てくる。エンディングの余韻もいい。最初で意表を突かれたが、後は比較的まとも。このアルバムで取り上げられた曲を筆者はほとんど知らないが、興味深い曲が多数あり興味は尽きない。特にオペラ作曲家のチレアやヴェルディのピアノ曲が取り上げられているのは嬉しい。チレアの「フラットリー Op. 11」はショパンのマズルカを思わせる清楚で華麗な作品。ヴェルディの「ワルツニ長調」はピアノのために書かれたが、ニーノ・ロータがヴィスコンティの映画「山猫」で管弦楽編曲版で使われるまでは未出版だったという。幾分ジンタ調ではあるが、気品のあるワルツで、モーゼルはアゴーギクの効いた優雅な演奏で華麗に仕上げている。ヴェルディはピアノ曲は他に「ロマンス」という曲を作曲しているのみ。こちらによるとワルツより優れているようだ。(未聴)マルコ・ストロッパ(1959-)のミニアテューレ・エストローゼ第1巻は『ピエール=ロラン・エマールからの委嘱により約20年をかけて作曲された現代ピアノ音楽の古典的作品』という。第2曲「 II. Brichino, come un furetto」は典型的な現代音楽だが、16分音符の小刻みなリズムがユーモアを感じさせ、悪くない。ロッシーニの珍しい作品も取り上げられている。ロッシーニの「小カプリース」晩年に作曲された「老年の罪」というシリーズの第10巻の第2曲でオッフェンバックのスタイルで書かれた気の利いたユーモラスな曲だ。バッハのシャコンヌ(ブゾーニ編)のダイナミックでスケールの大きい演奏、ドメニコ・スカルラッティのキーボード・ソナタの歯切れがよく明快な演奏、プッチーニの印象派を思わせる「アルバムの綴り」など、書きだしたらきりがない。特異なのは、フランチェスコ・メリの歌で「I' te vurria vasà(あなたの口づけを)」が歌われていること。この曲は「オー・ソレ・ミオ」などのシャンソンで有名な作曲家エドゥアルド・ディ・カプアのシャンソンナポリの歌のトリビュートとのことだが、フランチェスコ・メーリのまじめ腐った歌共々、唐突感は否めない。最後はフランチェスコ・フィリデーイの「トッカータ」アルバム中最も興味深いサウンドだ。ピアノの弦をハンマーが打つ音は聞こえないところから、相当変わっている。何やら音の出ないピアノの鍵盤を、カチャカチャ鳴らしているような音だ。左手のリズムが蒸気機関車の音を思い浮かべる。youtubeを探したらライブの動画が何本か上がっている。フランスの作曲家ヤン・ロバン(1974-)の演奏をみたら、どのような演奏か分かった。もともと「トッカータ」という言葉は、イタリア語で触れるを意味する「トッカレ」を由来とする言葉で、その「トッカレ」からインスピレーションをえて作曲したのだろうが何ともユニークな作品だ。凄いスピードで文字通りピアノの鍵盤のみならずあらゆる部分を触って、その摩擦音をマイクで拾って増幅するというものなので、打楽器のような音がするのも当たり前かもしれない。どの部分をどれくらいの強さで触ると、どういう音が出るかを研究した作品で、多彩なサウンドで、立派な現代音楽になっているのが素晴らしい。最後のキーキー音など、想像さえできない方法で音を出している。この部分は是非動画でご覧頂きたい。なお、carolina-santiago-martinezの演奏ではペダルでの音の出し方も分かる。抒情的な作品もあるが、快活でユーモアに富んだイタリア人の気質が窺える作品が多いような気がする。録音は悪くないが、高音が少し濁って、ぎらぎらすることがある。ということで、実にユニークな小品集として是非お聴きいただきたい。Vanessa Benelli Mosell:Italia(DECCA 4859570)24bit 96kHz Flac1.Ennio Morricone:Playing Love2.Domenico Paradies:Harpsichord Sonata in A Major, P 893.06: II. Allegro (Toccata)(1957)3.Ottorino Respighi:6 Pieces for Piano, P. 44: No. 5, Studio. Presto(1903-1906)4.Francesco Cilea:Flatterie, Op. 115.Domenico Scarlatti:Keyboard Sonata in D Minor, K. 1416.Luciano Berio:6 Encores: No. 3, Wasserklavier7.Alfredo Casella:Toccata, Op. 68.Ezio Bosso:Emily's Room (Sweet and Bitter)9.Giovanni Sgambati:4 Pezzi di seguito, Op. 18: No. 4, Toccata in A-Flat Major10.Johann Sebastian Bach:Partita for Violin Solo No. 2 in D Minor, BWV 1004: Chaconne (Arr. Busoni for Piano)11.Nino Rota:Valse lento molto cantabile12.Baldassare Galuppi:Harpsichord Sonata in B-Flat Major, TG 14: III. Giga13.Giacomo Puccini:Foglio d'album, SC 8114.Gian Francesco Malipiero:Preludi autunnali: No. 4, Veloce15.Giuseppe Verdi:Waltz in F Major16.Marco Stroppa:Miniature estrose, Book 1: II. Brichino, come un furetto17.Goffredo Petrassi:Partita for Piano: IV. Giga18.Gioachino Rossini:Péchés de vieillesse, Vol. X: No. 6, Petite caprice (Style Offenbach)19.Eduardo Di Capua, Alfredo Mazzucchi:I' te vurria vasà20Francesco Filidei:Toccata(1996)Vanessa Benelli Mosell(p)Francesco Meli(t track 19)
2023年10月06日
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この前MOSTLY CLASSICを立ち読みしていたら、作曲家の西村朗氏(1953-2023)が右上顎癌のため亡くなられたことを知った。69歳だった。筆者と一才違いで、あまりにも早すぎる死だろう。内外での活躍はつとに有名だったが、筆者が知っているのは、FMで放送されていた『現代の音楽』それほど熱心な聴取者ではなかったが、筆者の知らない音楽を教えてくれた。氏の作品の録音もそれほど知っているわけではない。ヘテロフォニーという手法を使ったアジア的な作品は一度聞いたら忘れられない、独特なものだった。決して美しくはないのだが、その個性的なサウンドとフォルム、ダイナミズムは刺激的なものだった。現代音楽の領域だけではなく、吹奏楽の分野での活躍も目覚ましかった。『秘儀』シリーズは吹奏楽作品の水準を底上げした功績が大きいだろう。取り敢えず、カメラータから出ている『ケチャ』という打楽器の音楽を集めたアルバムとpresto classicalでダウンロードした管弦楽と協奏曲を聴いて、氏の業績を偲びたい。合掌
2023年10月04日
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岩手県民会館コンサートサロンの2回め。今年からネーミングライツで「トーサイクラシックホール岩手」という覚えられないような名称に変更された。株式会社トーサイという埼玉、東京、岩手で展開している車の販売会なそうだ。契約金は年額550万円で令和7年度の3月までの契約とのこと。カーセブンという名前でCMをしているので、ご存じの方も多いと思う。ただ、この名称だとわかりにくいので「カーセブンミュージックホール」とか覚えやすい名前のほうがいいような気がするというのは筆者の勝手な考え。閑話休題いきなり、無駄話になってしまった。コンサートサロンの1回目の村治佳織は、8月は来客中で慌しかったため?すっかり忘れて観に行かなかった。さすがに2回続けていかなかったら、病院で診てもらった方が良さそうだ。諏訪内晶子の去年のコンサートはバッハの無伴奏だたので、今顔はバッハのソナタでもやるのかと思ったが、大外れで、なんとブラームスのソナタ全曲だった。去年も小林美恵がやったばかりなので、がっかりした。会館の方でも事情を話さなかったのだろうか。ピアノはブルガリア出身のエフゲニ・ボジャノフ(1984-)という方。リヒテルやエリザベート王妃、ショパンなどの国際コンクールで優勝もしくは入賞をしている実力の持ち主らしい。CDも何枚かリリースしている。ピアノはスケールが大きく、ダイナミックで明晰。ペダルの踏みかえも頻繁に起こるし、なかなか素早い。このピアニストの特徴は何と言っても顔芸?最初は曲に合わせて歌っているのかと思ったら、どうもそれだけではない。顔を上下、左右にふったりするし、口を大きく開けたり尖がらかすなど、口の表情が雄弁?だ。極めつけは、ほっぺたをブブブル震わせるところ。そのために第1番は彼の顔芸にすっかり気をとられて、耳のほうが疎かになってしまった。全体には、彼のピアノがヴァイオリンをぐいぐいひぱっていくという演奏。大物同士なのだが、ヴァイオリンとピアノがバチバチと火花を散らすということもなく、ヴァイオリンはあくまでもクールな表情が目立つ。立ち姿と同じクールビューティという感じがぴったりだ。ヴァイオリンもピアノもそれほど表情を濃く付けないし、アゴーギクも目立たない。ブラームスのヴァイオリン・ソナタは湿り気のある演奏が多いと思うが、筆者は今回の演奏の方が好ましい。楽し気な曲想の第2番もそういう雰囲気はあまり感じられないが、端正な表情はこの曲でも同じ。次第に熱がこもってきて、それが第3番の最後まで持続していた。第3番は終楽章のロンドが激しい表情で、ブラヴォーまで飛び出した熱演。諏訪内はミスが殆どなく、音楽的にも素晴らしかった。是非、録音してもらいたいものだ。ところで、全く関係ない話だが、昨年のクラシックの国内販売で諏訪内のバッハの無伴奏が売り上げ第1位だったそうだ。クラシックなので5000枚ほどだったが、非常に喜ばしい。第2位はセルジュ・チェリビダッケのリスボンでのブルックナーの第8番のライブで、4800枚だった。昨日何気なくpreto musicを見ていたら、諏訪内のバッハがリースされていることを知った。CDが出たときにハイレゾを心待ちにしていたのだが、そのうち忘れていたので、とても嬉しい。これからじっくりと聞きたいと思う。諏訪内晶子&エフゲニ・ボジャノフ:デュオリサイタルヨハネス・ブラームス:1.ヴァイオリン・ソナタ 第1番ト長調 Op.78「雨の歌」2.ヴァイオリン・ソナタ 第2番イ長調 Op.1003.ヴァイオリン・ソナタ 第3番アンコール ブラームスの小品2曲(曲名不詳)9月25日 岩手県民会館中ホール7列25番にて鑑賞
2023年09月28日
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盛岡市民ホール開館25周年記念だそうだ。そのため、演奏の前に小山がこのホールのピアノを選定したことや、今日の曲目について、結構長いお話をされた。前半は、ブラームスの間奏曲とシューマンの幻想曲。ブラームスの間奏曲は作品117から2曲。どちらも中庸のテンポで、アゴーギクを効かせることもなく淡々と進行する。なかなか味わい深い演奏。筆者の最も好きな第2が演奏されたのが嬉しい。この曲は最初の主題が晩秋にふさわしい、寂しくも枯れた味わいを感じさせるのだが、筆者は第2主題がいまいちじみでボンヤリした感じを受けていた。ところが今回はその第2主題の良さが感じられ嬉しかった。シューマンの幻想曲は構えが大きく何やら仰々しく感じられ、筆者の苦手な曲。テンポは普通で、無理のない表現。第1楽章のクララへの激しい愛の表出がいまいち不足していて物足りない。第2楽章は以前は付いていた「凱旋門」という表題のような華やかな感じはあまりしない。ピアノのダイナミック・レンジが狭いためだろうか。第3楽章は曲にふさわしい穏やかな表現。中間部の盛り上がりも悪くなかった。後半はショパンの第3ピアノ・ソナタ。前半は何故かピアノの音が少しカサカサして、ぼやけた感じだったが、調律が入ったのが良かったのか、後半は音の明瞭度が増した気がする。この曲でも中庸のテンポで、特に激しい感情表現などは見当たらない。表現としては悪くないが、ダイナミック・レンジが狭く、スケールが小さい感じがする。また煌びやかなスケールばかり聞こえて、肝心の旋律がかすんでしまう場面があったのは不満。第3楽章のラルゴも、もう少しじっくりとした表現をしてほしかった。アンコールではお得意の「軍隊ポロネーズ」が2曲目に演奏された。筆者はこの曲を彼女の演奏で聴いたのは何回目か分からない。今までは、テンポが速すぎて指が追いつかず、あえなく撃沈という演奏が多かったように思う。ところが今回はテンポがそれほど速くならず、冷や冷やすることがなかったのが何よりだが、音楽としてはつまらなくなってたしまったような気がする。最後のシューベルトの即興曲は、現在の彼女の年齢で最も共感できる作曲家の一人ではないだろうか。淡々と演奏しながら、じんわりと曲の良さが伝わってくる。録音があるので参考までに聴いてみた。録音では表現が生硬な部分も、今回の演奏ではすっきりと表現され、筆者にとっては今回一番共感できる演奏だった。総じて、以前のダイナミックな表現が影をひそめてしまったのは、どうしたことだろうか。それに代わる新たな表現が加わったようにも感じられない。ピアノに向かう姿勢が時々猫背になったり、鍵盤に顔を伏せるようなことをしたり、何か彼女の内面に変化が起きたのだろうか。今後は最新版の「モノローグ」のような小品で味わい深い演奏を聴かせる道がいいのかもしれない。ところで、今回の演奏を聴きながら何故か晩年のネルソン・フレイレのことを思い出してしまった。彼らに同じ匂いを感じたのかもしれない、というのは筆者の単なる思い込みかもしれない。小山実稚恵 ピアノ・リサイタル前半1.ブラームス:3つの間奏曲より第1番 変ホ長調 Op.117-12.ブラームス:3つの間奏曲より第3番 変ロ短調 Op.117-23.シューマン:幻想曲 ハ長調 Op.17後半1.ショパン:ピアノ・ソナタ第3番ロ短調長 Op.58アンコール1.ショパン:夜想曲第2番 変ホ長調op9-22.ショパン:英雄ポロネーズ 変イ長調 Op.533.シューベルト:即興曲 Op.90-3 変ト長調小山実稚恵(p)2023年9月23日(土) 盛岡市民ホール大ホール 1階7列25番で視聴
2023年09月24日
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