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2011年04月09日
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カテゴリ: 小松英星

第6章より[(原著第1刷)1993年11月20日:(今回復刻)2011 年4月8日 ]

大型電源開発と超高圧送電網

もし、事業資産に一定率を掛けた値で利益が規定される企業があるとすれば、その行動はどのようなものになるであろうか。間違いなく、最大の経営目標は「事業資産を増やすこと」となる。販売する商品の需要と供給とのバランスは、供給力が需要を上回っている限り、本質的な問題ではない。どんなに巨額の借金をしても、それを事業資産に投入するのであれば、少しも気にすることはない。最も気に懸けることは、事業資産を建設する場所の確保、すなわち「立地問題」である。

日本の電力会社の状況は、これに似ている。事業資産の8%が利益と決められているので、利益の天井を上げるには、発電設備や送変電設備に投資して、事業資産を増やさなければならない。立地問題が閉塞して事業資産の拡大が行き詰ると、「会社にとって明日はない」と、危機感を抱くことになる。

1992年に入って、産業用電力需要の前年割れが続いているなかで、相変わらず電力会社の巨大投資計画が次々と出てくることに、疑問を持つ人も少なくないであろう。

電力の安定供給を社会的使命とする電力会社の中で、発電設備容量と年間の最大ピーク電量が接近している会社の設備投資計画は、一見合理性があるようにみえる。しかし、余力を確保する手段は、設備容量を上げることだけではない。負荷の平準化、すなわち季節間、昼夜間の需要較差を改善するという手段がある。電力会社の年負荷率は約60%である。すなわち設備容量と発電量との間には、平均して約4割の開きがある。夏の昼夜間較差は、5割を超えることもある。それだけ改善の余地が大きいことを意味している。

米国などの電力会社では、DSM(ディマンド・サイド・マネジメント)という総合的な需要管理システムに真剣に取り組んでいる。ピーク需要抑制のための最大8倍にも達する料金較差の設定や、「キロ・ウォッチャー・クラブ」という需要急増時の供給停止受諾契約(料金が1~3割安くなる)など、さまざまな手法を導入している。その方が、設備を増強するより利益になるのである。したがって、「需要増を需要減でまかなう」という発想が、自然に出てくる。

日本では、家庭用電力には供給停止受諾契約の制度はない。また、料金較差も最大3倍程度と大きくない。日本の電力会社は、DSMをやると利益増はおろか、利益減にしかなりかねない「利益原理」を課せられているので、それの本腰を入れるよりは、設備拡大の方に力が入ることになる。

この制度は1960年に導入されたもので、事業資産に8%の報酬率を乗じて事業報酬が決められ、それが電気料金に織り込まれる。問題は、8%の数値の適否ではなく、「資産基準主義」にある。国家の急発展の時期ならともかく、現在はエネルギー消費の節減が国家的課題となっている時である。ところが、ライトアップやネオンサイン、5百万台を超える自動販売機など、電力は使い放題の状況である。「東名」の東京料金所と厚木インターの間を全面照明したのは最近のことである。日本の一次エネルギー(電力や熱などに転換される前の、石油、天然ガス、水力などのエネルギー源)の約4割が発電用に使われている。電力会社自身が節電の先頭に立って「本気で」努力し、かつその努力が経営の妙味であり業績にもつながるような報酬制度に、一刻も早く改定するべきである。

一方、将来の電力需要の見通しについて、「バブル崩壊後の実態」を無視した推計を援用することは避けるべきである。現に前年割れや、それに近い状態が続いているという事実が、何よりも明白に将来の展望を与えていると考えるべきであろう。省エネ思想の普及や「エネルギー税」の導入などを進め、電力会社自身もDSMなどによるピークカットに注力すれば、これ以上、大型電源開発に手をつけなくてもしのぐことができるであろう。むしろ、その目標をまず設定して、施策を講じていくことが時代の要請である。地域的な需要の片寄りは、電力会社緩の融通や需要地の近くに複合サイクルガスタービンなどの中規模プラントを設置してカバーすることができよう。「小手先の対応でごまかす」ことに重要な意味がある。それを積み上げているうちに、本筋が見えてくるであろう。

また、送変電設備への投資も無視することができない。例えば、トラブル時のバックアップ体制などの名目で、100万ボルトの超高圧送電網に1兆円を超える投資が敢行されようとしている。送電網は、発電所と違って主に山間部を通るため、立地についての抵抗が少なく、また必要性についての客観的評価が難しいので、現行の「利益原理」のもとで、安直に事業資産を増やす手段になりやすい。

このような案件については、その規模と公共性を考慮して、国会の場で審議するぐらいの手順を踏むことが望ましい。これらの投資のツケは、誰かが払わなければならない。それは結局、電力の需要家、特に産業用電力に比べて選択の余地の狭い割高な電力料金を払わされている一般家庭が、将来にわたって負担することになる。

遠くない未来において、各家庭、工場、オフィス、店舗などが、それぞれ小型の発電装置を保有するようになったとき、文明の巨大な遺骨(送電鉄塔)を、どう処置するか考えたことがあるだろうか。山野に送電網を張り巡らせるのは、最小限にしなければならない。






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最終更新日  2011年04月09日 13時28分08秒 コメント(201) | コメントを書く


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