2010.02.13
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リクエストフィクションです。
お題は、[雪だるま]、 [ロールケーキ]、 [美容室]です。


タイトル「天使のピーチ2~出会い~」

 「それじゃー、これ、いただきます、ありがとうございました。まいど~!」
威勢のよい声とともに、民家から飛び出してきた一人の若い男は、そのまま駆け足で乗ってきた軽トラックに再び乗り込んだ。
 「次の配達先は・・・、何だこれ?住所が公園になってる。公園に届けるのか?誰か住んでるってのかよ?これは、あの丘の上にある公園か。とりあえず、行ってみるか。ん。ちょうど昼だしな。こんな天気のいい日は公園で弁当を食べるのも悪くはないだろう。今もらったこれもあるしな。」
 若い男は晴れ渡る秋空の下、軽やかに軽トラックを発進させた。

 人口1万人足らずの北海道の真ん中より東に寄った所にある河岸段丘の小さな町、ポップ町。この町には人々に思いを届ける天使が住んでいる。

 「この公園だ。滑り台も、ブランコもない、毎回思うけど、何もない公園だよな。だけど、割とキレイなトイレと、ベンチがいくつかある。・・・ん?」

 「ホームレス?北海道だぞ。外で生活するのは厳しいだろ・・・」
 なんかあんまり関わりたくない雰囲気になってきた。ホームレスがいるような公園で弁当を食べるのもなんか少し嫌だ。若い男は、車を下り、ここに届けることになってる、かなり大きな段ボール箱を抱えて、その異様なベンチに近づき、恐る恐る声をかけた。
 「あのー、誰かいますか?」
 よくよく考えれば、こんな声をかけること自体おかしい。それはわかってる。だけど、仕事だ。人がいようがいまいが、とりあえず、届けたのだということを、自分で納得できないような仕事はしたくない。
 「・・・・。」
 返事はない。そりゃそうだ。こんなところにホームレスが住んでいるわけはない。このあて先は、何かの間違いだろう。兄貴に文句を言ってやらないといけないな。若い男はそう思い、車に引き返そうとした。
 「・・・ふぁい?」
ベンチを囲むダンボールの中から女性の声がした。
「え?誰かいるんですか?」
若い男は返事があった事に驚いたが、その声が女性の声だった事に更に驚いた。
「いましゅよー。でも寝てまちた」

「もしかして、テンシノ ピーチさんですか?」
変な人物には変な名前が付いてるものだ。
「ふぁぃ。そうです、私が天使のピーチです」

 そう。この町に住む天使は公園に住んでいる。しかも、本人はキャンプだと言い張るが、明らかにホームレス生活である。そして、天使のトレードマークの翼も、今は失っていた。自らのミスでなくしてしまったのだ。代わりに空色の自転車で町中を駆けずり回る事になっていた。

 「あのぅ、お届け物なんですけど、ここにサインしてもらえますか?」


-GOD BLESS-
MADE IN HEAVN

なんて、書いてある。
 「わぁ、神様からだ。最近、姿を見せないと思ったけど、私のこと、忘れていなかったのね」
 ピーチは嬉しそうにダンボールを開け始めた。
 若い男は荷物の中身が気になって、ちょっとその場で様子を見ていた。
 「うぉ~、なにこれ、ソリ?子供用じゃん。こんなものいらないわよ。これは?スノーシュー?なにこれ、意味わかんない。わぁ、あったかそうな服!ヒートテック?なんかすごそうね・・・」
 一喜一憂しながらダンボールからいろいろな荷物を取り出して見ている。が、後半出てきたのは缶詰と薪ばかりだったようだ。後半になるほどテンションが下がっていく。
 「・・・なにこれ。びみょーなものばっかり。ん?手紙?」
 箱の底には封筒に入った手紙のようなものがあった。
 「読んでみよう・・・。コレッ、ちゃんと仕事しておるか?今月は会合があって、様子を見に行けんが、おぬしのことじゃから、相変わらずサボっていそうだな、目に浮かぶわい。うわっ、なんでわかったの?モトヤ君にもらったモンクエ8が面白かったのよね。そのあとモンクエ6も始めちゃって、仕事どころじゃないっつーの。それにしても、8の次が6って、順番が謎なのよね・・・。」
 「天使の仕事って、なんなんですか?」
 若い男はいつの間にか隣のベンチに座ってピーチの様子を観察していた。
 「え?ホントはナイショなんだけど、人々に想いを届けるのが仕事よ。最近はモンクエばっかりやってるけどー」
「へーぇ、それじゃ、僕の仕事と似てますねぇ」
「そうかも、同業者ね。私はピーチ。あなたは?」
「僕はユタカっていいます」

 ユタカは自己紹介のあと、軽トラックから弁当を出してきて広げた。ちょうど昼時だった。そして、ピーチも缶詰をいくつか開けて、二人はそれらをつまみながら少し話をした。
 ユタカは兄と下請けメインの運送会社をしていた。仕事はたくさんあるが単価が安く、忙しいけど儲からないが、仕事を取ってくる兄はそれを理解してくれない。とか、美容院で働く彼女がいて、将来結婚を考えているが、なかなかお金が貯まらなくて結婚に踏み込めないこと、それで彼女が最近不機嫌だが、お互い仕事が忙しくて話をする時間も取れない。など、気がつけば、ピーチに対して愚痴ばかり喋っていた。

 「仕事はためると厄介じゃぞ。こないだのことを忘れたのか?想いは届けないと雪だるま式に増えるぞ。そうなると、さらに大変になるんだから、ちゃんとやりなさい。・・・だってー。自転車では無理だっつーの!」
「そういえば、自転車で走ってる、ピーチさん、みたことありますよ」
「やだー!はずかしー!ひっしこいてたでしょ?ケチなんだよ、神様って。何でもできるくせに、欲しいものはくれないんだから」
 ピーチはもういちど翼が欲しかった。が、神様は翼も、テントもくれない。
くれるのは缶詰や、薪、それに・・・封筒にはシルバーの十字架が入っていた。
 「P.S.最近、趣味でシルバーアクセサリー作りを始めました。一緒に入れたので使ってください」
 十字架の真ん中には小さなドクロもあしらわれていた。神様なのにドクロって、センスがおかしい。でも、結構細工は細かく、ドクロの目には虹色に輝く小さな石まではめ込まれている。ピーチはそれを同じく神様から借りた金色のポータブルボーイにつけた。なんとなく、自分のものにつけるのが嫌だった。

 「さてと、僕はそろそろ仕事に戻りますよ」
ユタカは、さっき配達先の家でもらった、ひとかけらのロールケーキの半分を口に入れると、再び軽自動車に乗り込んだ。
 「そうだ、ピーチさん、この公園、冬になったら使えなくなるんですよ。これから寒くなりますし、うちのガレージを貸すんで、そこに来ませんか?」
嬉しい誘いだった。だけど、ここはサチやユキコやモトヤと会える場所でもある、簡単に移動するわけにはいかない。
 「うーん、今はまだいいよ。もう少しここでがんばる」
3人とは時々ここで顔を合わせる。最近はみんな上手くやってるみたい。
「わかりました、じゃあ、近くに寄ったらまた来ますね。それじゃー」
 そういうと、ユタカの軽トラックは走り去って行った。
 「よし、それじゃ、モンクエを・・・じゃなくて、私も久しぶりに、仕事するかー」
 ピーチは残されたロールケーキのかけらをほおばると、空色の自転車を漕ぎ出した。

つづく

前半、書き込みすぎました。
雪だるま式の用法はちょっと微妙かもしれないなぁ。
またもや続くのでお題、よろしく~。





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最終更新日  2010.02.13 15:52:31
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☆りん @ Re[1]:壁に向かって吠えてる犬(02/15) 小橋建太さんへ そうですね。 どこでどん…
小橋建太@ Re:壁に向かって吠えてる犬(02/15) 配信で紹介されてたんで来ただけなんだけ…
☆りん @ Re[1]:壁に向かって吠えてる犬(02/15) 小橋建太さんへ お、心当たりがあるのかな…
小橋建太@ Re:壁に向かって吠えてる犬(02/15) プロレスで決着つける感じですか?
☆りん@ Re[1]:水が美味しくない(07/06) akiさんへ 長文ありがとうございました。 …

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