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先週に続き、今週もアメリカ金融市場にとっては歴史に残る一週間となりました。リーマンブラザーズの破綻はすぐに世界最大手の保険会社AIGの危機につながり、週末にかけては米証券取引委員会(SEC)が金融株799銘柄の空売り禁止を発表するに至りました。現在の金融市場を巡る環境はかなり異常な状態である事は確かです。しかしそれを何とか阻止しようと米財務・金融当局は「モラルハザード」と「空売り規制」という、2つの「麻薬」に手を出す事になってしまいました。 リーマンブラザーズの破綻が現実的になってきた9月初め、私が一番気になっていたのはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ:倒産保険のようなもの)市場への影響でした。現在62兆ドルと言われる規模にまでCDS市場が拡大してから、初めて経験する大型金融機関の破綻です。リーマンCDSの売り手はもちろん、CDS市場全体の5%を取引していたリーマンがCDS取引を履行できないとなると、取引相手(カウンターパーティ)の連鎖倒産や巨額損失につながる可能性があったからです。リスクはもはやクレジットではなく、カウンターパーティ・リスクに発展しつつあったのです。 案の定、危機はすぐにCDS市場の大きなプレイヤーであったAIGに飛び火しました。今週水曜日までにCDS取引に関わる追加証拠金170億ドルを収めなければ破綻、という危機に追いやられました。今週月曜日時点でAIGと当局との話し合いは決裂していたようですが、火曜日になって突然再開、結局連銀が850億ドルに上る融資に応じる形で決着となりました。今年3月の証券会社ベアスターンズ破綻以降、あれだけ次の救済はない、モラルハザードを避ける、納税者の負担を最小限にとどめる、と強調してきた割には疑問の残る決着だったと言わざるを得ません。 さらに米証券取引委員会(SEC)は今後最長30日間、金融株799銘柄の空売り禁止という措置を取ってしまいました。空売り規制は直接需給に変化を与える事によって「一回だけの」価格変化をもたらす効果があります。しかし中長期的には流動性の減少という、市場に致命的な悪影響をもたらします。市場資本主義を尊重するアメリカがここまでやってしまった理由は何なのでしょうか?確かに前日、マケイン共和党大統領候補に「私が大統領になったらコックス SEC委員長をクビにする」と明言された事も大きかったのでしょう。しかし、私はもっと大きな理由があるような気がしてなりません。 一度は流れたAIG救済に関する会合は火曜日突然再開されました。SECが空売り規制を発表したのは平日の夜中です。しかも、いずれも市場資本主義を掲げるアメリカにとって中長期的には致命傷となる可能性のある「モラルハザード」と「空売り規制」です。普通に考えれば、それを犠牲にしてまで実施しなければならない、我々には知らされていない、何かとんでもない大きな危機が潜んでいたという事ではないでしょうか。実際18日は、これまで優良と考えられていた某大手金融機関が流動性危機に陥ったと聞いています。 「モラルハザード」と「空売り規制」という麻薬に手を付けてしまったアメリカの金融市場。空売り規制が期限を迎えると見られる10月半ば以降に正念場が訪れる可能性が高まっているように見えます。
2008.09.22
2008年9月7日、財務省はアメリカ金融界の歴史に残る、そしてアメリカ史上最大の納税者負担となる可能性のある決断について声明を発表しました。本コラムでも5回にわたって取り上げてきた政府系住宅金融機関、ファニーメイ(FNM)とフレディーマック(FRE)をFHFA(連邦住宅金融局)という公的機関の管理下に置く決定がなされました。英語でConservatorship (保全管理)と呼ばれ、(今回の場合)債権者が保護される、清算につながる可能性がない以外は連邦破産法や会社更生法申請とよく似ています。 特に最近、ファニー・フレディー問題が住宅市場に与える影響は悪化の一途を辿っていました。信用不安から両社の資金調達コストが上昇し、これが住宅ローン金利の上昇を通じて住宅市場の更なる低迷、両社の信用不安につながるという悪循環を生み出していたのです。一方で中途半端に政府の「暗黙保証」があるものだから債務不履行にも至らず、いわばゾンビのように生き続けて住宅市場を長期にわたって低迷させる可能性があったのです。前号で申し上げた通り、早めにドクターストップをかける必要があったという事で、その意味で財務省は今回、適切な決断を下したと思います。 最初の公的資金注入は10億ドルの転換上位優先株(利率10%+株式79.9%分への転換権)購入の形で実施されます。両社への資本注入は今後それぞれ、少なくとも数十億ドルは必要と見られます。10億ドルだけで約8割の株式転換権を保有されるという超希薄的な条件ですから、我々が運用するファンドでも空売りしてきた両社の普通株式の価値は今後ゼロに近づいていくと見られます。この他、発表された内容は以下の通りです。 -2009年末まで財務省が担保付貸出枠を設定 -2009年末まで財務省が両社のMBS(住宅ローン証券)を購入 -2010年以降、資産が現在の約3分の1になるまで毎年10%ずつ減少させる -2010年以降、転換上位優先株購入に関する保証料を財務省に支払う ポールソン財務長官は声明の中で、「アメリカは曖昧な『政府の暗黙保証』を容認し、それによって政府系住宅金融債は世界の投資家に保有されてきた。この曖昧さを作ったのはアメリカなのだから我々はその責任を負うべきだ。」と発言をしました。アメリカ国民にとって膨大な負担となる可能性のある責任を、このように公の場で潔く認めた事は、両社の債券保有者に好感される事は間違いないでしょう。 しかし少し先を見通した場合、市場の懸念は上記内容にある通り、2010年1月1日以降に移るでしょう。2010年1月1日以降の両社の姿は、財務省からの貸出は受けられず、また両社のMBS購入を止めている、資産は年10%ずつ減少させなければならず、財務省には保証料を支払わなければならないという主体になるという事です。それまでに財務省が購入した、住宅市場の影響を大きく受ける転換上位優先株の価値はどうなっているのか、またその後どうなるのか。民主党政権になるのか、共和党政権になるのか、官営となるのか民営となるのか、「暗黙の保証」を明示するのか、全く保証をなくすのか、その場合アメリカの住宅金融は誰が支えるのか。不透明感は拭えません。 一方確かな事は、今回の決断により、米国債の裏付けにはベアスターンズが保有していた証券化商品290億ドルに加え、住宅市場の動向に大きく左右される政府系住宅金融機関が保有していた巨額の住宅ローンに対する保証が入ってしまったという事実です。
2008.09.08
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