全6件 (6件中 1-6件目)
1

斎藤一、藤堂平助が新選組から離脱し、伊東甲子太郎と共に御陵衛士に加わってから、半年が経った。 鈴江から殺人の濡れ衣を着せられていた千尋は晴れて無罪放免となり、彼は千と共に歳三の小姓兼隊士として忙しく働いていた。「最近斎藤さんから連絡がありませんね。お元気にしていらっしゃるのでしょうか?」「斎藤先生ならばお元気にしている事でしょう。それよりも貴方は、訓練には参加しないのですか?」 新選組は数年前に起きた禁門の変以降、歳三発案の下で西洋式の砲術訓練を行っていた。「僕、銃を手にするのが苦手で・・」「そのような甘い考えでは、戦場では生き延びられませんよ。良いですか、銃も刀も己の身を守る為のものなのです。」 千尋の言う事は尤(もっと)もなのだが、戦争というものを一切知らずに生きて来た千にとって、刀や銃を手に持って戦うという事が中々想像できずにいた。 そして何より、千は今まで一度も人を斬った事がなかった。「そんな事を言われても、僕は一度も人を斬った事がありません。荻野さんは、人を斬った事があるんですか?」「愚問ですね。わたくしはこれまで己の身を守る為に人を斬ってきました。千さん、貴方がまだ人を斬る覚悟がない事をわたくしは存じております。稽古の時も貴方は手を抜いていますよね。それは貴方が、まだ人を斬る覚悟が出来ていないからでしょう?」「それはそうですけれど・・」千はそれ以上、何も千尋に言い返せなかった。暫く気まずい空気が二人の間に流れた後、千は総司の元へと向かった。「そんな事を千尋君から言われたんですか。それは困りましたね。」そう言った総司は、千が作った卵粥を一口食べながら苦笑した。「笑い事じゃありませんよ、沖田さん。そりゃぁ僕は荻野さんと違って頼りないですし・・」「そんなに自分を貶めるような事を言ってはいけませんよ。貴方には貴方の良い所がありますから、それを自分で認めてあげてください。」「沖田さん・・」夏の酷暑が過ぎ、秋の気配が少し感じられるようになった今、総司の体調は一進一退を辿っていたが、夏の酷暑の所為で彼の体力は徐々に低下していった。「千君、焦らなくてもいいんですよ。貴方はゆっくりと自分の長所を見つければいいんです。」「有難うございます、沖田さん。」 彼が完食した卵粥を載せた盆を運んでいた千は、勝手口の方から誰かが自分の名を呼んでいるような声が聞こえた。(気のせいかな?)そう思いながら千が厨で皿を洗っていると、誰かが自分の肩を叩いた。「やっと気づいてくれたぜよ!」 千が振り向くと、そこには袴姿にブーツという変な格好をした男が立っていた。「誰ですか、貴方?」「今更何を言うがか、千尋!おんしはわしのような男をすぐに忘れるとは薄情な女子じゃのう!」そう言った才谷梅太郎こと坂本龍馬は、千を抱き締めた。「何をするんですか!」 龍馬の頬には、紅い紅葉のような手形が浮かんでいた。この小説の目次はコチラです。にほんブログ村
2018年09月29日
コメント(0)

男性妊娠設定ありなので、苦手な方は閲覧なさらないでください。「荻野さん、入りますよ?」「お入りなさい。」 千が副長室へと入ると、彼は正座して千を待っていた。「身体の具合はどうですか?」「大丈夫です。それよりも、貴方と話したいことがあります。」「僕と、話したい事ですか?」「ええ。貴方は、未来から来た人間なのでしょう?」千尋が自分と同じ蒼い瞳で見つめてきたので、千は胸の鼓動が少しはやまった。「そうです。僕は、この先新選組に何が起こるのかを知っています。」「そうですか。」二人の間に、重苦しい空気が流れた。「荻野さん、僕は新選組の皆さんに助けられてきました。僕はまだ、新選組の皆さんに恩を返していません。だから僕は、この先どんな事があろうとも、新選組の皆さんのお傍を離れません。」「貴方の口からその言葉を聞けて良かったです。わたくしは家族を捨て、新選組に居場所を見つけました。」 千尋が居場所を見出したのは、新選組ではなく歳三の存在なのだろうと千は思ったが、口には出さなかった。「貴方に、これを差し上げます。」千尋がそう言って千に手渡したのは、いつか彼が自分に見せてくれたカメオのペンダントだった。「お母さんの形見を、僕が受け取る訳にはいきません。」「貴方に、受け取って欲しいのです。わたくしに万が一の事があったら、お守りとして持っていて欲しいのです。」「わかりました・・」 千はカメオのペンダントを千尋から受け取ると、それを懐にしまった。「失礼します。」 千が副長室から出ると、そこへ斎藤が通りかかった。「千、荻野君とは何を話していた?」「ちょっとしたお話をしました。それよりも沖田さんの様子はどうなのですか?」「一進一退、といったところだ。」「そうですか・・」総司は歳三の子を宿している上に、現代で治療した筈の肺結核が再発しており、その容態は徐々に悪化していった。「このままでは、総司は出産に耐えられんかもしれん。」「そんな・・」斎藤の言葉を聞いて千が絶句していると、二人の前に藤堂平助がやって来た。「伊東さんが呼んでる。」「わかった。千、君は昼餉の支度をしておいてくれ。」「わかりました。」 厨で千が他の隊士達と共に昼餉の支度をしていると、歳三が何やら険しい表情を浮かべながら廊下を歩いている姿に千は気づき、彼の方へと駆け寄って来た。「土方さん、何かあったんですか?」「ああ。伊東の野郎、御陵衛士となって新選組から離脱するとか抜かしやがった。」「それで、斎藤さんと藤堂さんは?」「平助は、伊東についていくそうだ。」「そうですか・・」「斎藤は、こちら側の連絡役として御陵衛士に加わって貰う。千、この事は内密にな。」「わかりました。昼餉の支度が終わり次第、沖田さんに昼餉を持って行きますね。」「わかった。お前も一段落したら、昼餉を食え。」歳三はそう言って千の肩をポンと叩くと、厨の前から去っていった。 1867(慶応3)年3月10日、伊東甲子太郎は新選組を離脱し、弟の三木三郎、藤堂平助、斎藤一は御陵衛士として伊東と行動を共にすることになった。「藤堂さん、お元気で。」「千も元気でな。」 荒れ狂う時代という嵐が、徐々に千と新選組に近づいてきた。小説の目次はコチラです。にほんブログ村
2018年09月15日
コメント(2)
![]()
命について色々と考えさせられる作品でした。
2018年09月14日
コメント(0)

高熱で意識を失った千尋は、奉行所からほど近い町医者の下へと運ばれた。「今夜が峠ですな。」「何だと!?」「こればかりは本人の生命力に頼るしかありまへんな。」 千尋が目を覚ますと、そこは鬱蒼と茂った森の中だった。 彼が森の奥へと進むと、森の中が突然開け、石造りの城塞のような建物が現れた。(ここは、一体・・) 千尋が扉の前に立つと、それは自然に開いた。建物の中へと奥へと進むと、そこには薄暗い神殿のようなものが現れた。「来たのか。」 闇の中から突如声が聞こえ、千尋が振り向くと、そこには黒衣を纏った仮面をつけた男が立っていた。「貴方は何者です?」「ここは冥府への入り口、そしてわたしはタナトス―死だ。」そう言った男は、優雅な手つきで被っていた仮面を外すと、そこから端正な美貌が現れた。「土方さん、何故貴方が・・」「ほう、わたしは其方の想い人に似ているのか。」男―タナトスは、そう言うと千尋の唇を荒々しく塞いだ。「何をなさいます!?」「お前は我が妻となるのだ。ここから出ることは許されぬ。」「嫌です、わたしはまだ死にたくありません!わたしはあの人のお傍に居たいのです!」「それは出来ぬ。お前の命と引き換えに、お前は我に何を与えられる?」タナトスは紫紺の双眸で千尋を見つめ、そう彼に問うた。その問いに、千尋は黙って首を振ることしか出来なかった。「其方の命を助ける代りに、其方の想い人の命を貰おうか。」「・・わたくしに、考えがあります。」千尋はタナトスの耳元に何かを囁いた。「そうか・・其方はそれほど、あの男を想っているのか・・」タナトスはそう呟くと、大声で笑った。「よかろう。だが、二度目はないぞ。」「命を助けて頂き、有難うございます。」 千尋がタナトスに一礼すると、彼は再び千尋の唇を塞いだ。「さぁ、現世へと戻るがいい。」タナトスに神殿の出口まで見送られ、千は森の中を抜けて現世へと戻っていった。「荻野、気が付いたか?」「土方さん・・ここは、一体・・」千尋が目を開けると、彼は副長室に敷かれた布団の中だった。「お前が熱を出して意識を失ったと奉行所から文が届いた。」「そうですか・・土方さん、わたしは誰も殺してはいません。」「わかっている。俺がお前ぇを屯所へと連れ帰った後、奉行所に殺しの下手人が自首してきた。」「それは、本当なのですか?」「ああ。鈴江とかいう芸妓だ。」 自分に殺しの濡れ衣を着せようとした鈴江が自首するなど、千尋には信じられない事だった。「暫く休め。」「わかりました・・土方さん、ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。」「謝るな。何かあれば山崎を呼べ。」 副長室から出て行った歳三の背中を見送った後、千尋はゆっくりと目を閉じて眠った。小説の目次はコチラです。にほんブログ村
2018年09月12日
コメント(0)
![]()
久しぶりに再読しましたが、蒔野と洋子の切ない大人の恋物語は、最初から最後までページをめくる手が止まらなかったです。
2018年09月07日
コメント(0)

それから、千と桂小五郎は、事件現場となった置屋の中に、真犯人に繋がる証拠を探していたのだが、何も出てこなかった。「諦めた方がいいようですね。」「そうだな。」 桂がそう言って一歩後ろに下がった時、彼は何かを踏んだ。「桂さん、大丈夫ですか?」「ああ。それよりもこれは一体何だ?」桂が千に見せたものは、櫛の欠片のようなものだった。千はそれを懐紙に包んで懐にしまった。「明日、荻野さんに櫛の欠片を見せようと思います。もしかしたら、櫛の欠片が真犯人に繋がる証拠かもしれませんし・・」「わかった。また会おう。」 桂と置屋の前で別れた千は、そのまま屯所へと戻った。 一方、牢にいる千尋は、何かが天井を這っている音が聞こえて目を覚ました。「荻野さん。」「山崎さん・・」千尋が上を見上げると、そこには忍装束姿の山崎の姿があった。「山崎さん、どうしてここへ?」「副長から荻野さんの様子を見てくるよう命じられました。奉行所では何もされませんでしたか?」「ええ。山崎さん、副長にわたしの事は心配いらないとお伝えください。」「わかりました。沖田さんですが、今のところ容態は安定しています。」「そうですか。何か精のつく物を食べさせてあげてください。」「わかりました、副長にお伝えします。」 山崎はそう言うと、闇の中へと消えていった。 屯所の離れでは、総司が苦しそうに布団の中で咳込んでいた。「総司、俺だ、入るぞ。」「土方さん、お仕事はもうよろしいのですか?」「ああ、さっき一段落ついたところだ。それよりも総司、お前また痩せたな。」そう言って歳三は、総司の少し細くなった肩を見て悲しそうな表情を浮かべた。「大丈夫ですよ。山崎さんが煎じてくれた薬湯を飲んだら少し良くなりましたから。」「そうか・・」「安心してください、土方さん。わたしはまだ、貴方を置いて逝ったりはしませんよ。」総司はそう言うと、優しい光を帯びた翠の瞳で歳三を見つめ、彼に優しく微笑んだ。「そうだな・・そうだよな・・」―神様、わたしはまだ貴方の元へは逝けません。どうか、暫くの間わたしを、愛する人の傍に居させてください、お願いします。 季節は、秋から冬へと移り変わっていった。 寒い日が続き、牢に囚われている千尋の体力は、徐々に奪われていった。 そんな中、牢番が千尋の様子を見に行くと、彼が牢の隅でぐったりしていることに牢番は気づき、慌てて牢の中へと入った。「おい、大丈夫か!?」牢番がそう言って千尋の額に手を当てると、そこは燃えるように熱かった。「誰か医者を呼べ!」小説の目次はコチラです。にほんブログ村
2018年09月05日
コメント(0)
全6件 (6件中 1-6件目)
1