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しっとりして、美味しかったです。中のウェハースが甘くていいです。
2024年03月31日
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兄を処刑した日本軍を捜しに、終戦直後の日本へやって来たイアン。GHQや日本軍との関係、そして複雑に絡み合った両者の関係や感情を描いたハードボイルド作品で、読みやすかったです。
2024年03月30日
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表紙素材は、このはな様からお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 いつも、同じ夢を見る。 焦土と化し、ナパームによって焼かれたジャングルの中を、刀を振るい、次々と敵味方関係なく斬り伏せる“誰か”の姿。 闇に揺れる、禍々しい金の髪。 そして、血の如く紅い瞳。 熱い。 全身が、燃えるように熱い。「あっつ!」 忙しなく鳴く蝉達の声を目覚まし時計代わりにして、高原火月は目覚めた。「おはよう、火月。」「おはよう!」 トースターの中から焼き立てのトーストを一枚摘まんでそれを口に咥えると、火月はそのまま家から出て行った。「行って来ます!」「火月、頑張ってね~!」 この日、火月が所属するラクロス部は、ライバル校と練習試合をする事になっていた。 ラクロスのスティックとユニフォーム類が入ったスポーツバッグを肩に担ぎ、火月が学校への近道となる観光スポットを通り抜けようとした時、チェロの美しい音色が聞こえて来た。 何だろうと火月がチェロの音色が聞こえる方を見ると、そこにはチェロを奏でる一人の男性の姿があった。 黒く、美しく艶やかな髪をポニーテールにし、黒衣に身を包んだ彼の、碧みがかった黒い切れ長の瞳と、火月は目が合った。 その時、火月の脳裏に、ある映像が浮かんだ。 何処か、中世ヨーロッパを思わせるかのような、美しい塔がある建物。 誰かがその塔の中へ入り、螺旋階段を上へ上へと登っていった。 最上階に辿り着き、その奥にある扉の前に立った。 その扉には、南京錠がかけられていた。 誰かの手が、美しい鍵を取り出し、それを錠前にさし込んで―「駄目っ!」 思わずそう叫んで手を伸ばそうとした火月を、周囲の人々がジロジロと見ていた。 火月は恥ずかしさの余り、顔を赤くしながらその場を後にした。 そんな彼女の背中を、男はじっと消えるまで見つめていた。 朝のハプニングはあったものの、火月達はラクロスの試合で勝った。「火月、またね~」「バイバイ~」 放課後、火月は校門の前で友人達と別れた後帰宅すると、丁度両親が経営する店が混雑していた。「あ、火月、丁度いい時に帰って来たわね!お店、手伝って!」「うん、わかった!」 混雑していた店が落ち着いたのは、午後11時位だった。「あれ、ない!」「どうしたの、火月?」「明日持って行くシューズ、学校に忘れちゃった!」「気を付けてね!」 火月が自転車で学校へと向かうと、そこは不気味な程静かだった。(夜の学校って、何か怖いな・・) そんな事を思いながら火月が校舎の中へ入ろうとした時、彼女は突然何者かに懐中電灯で顔を照らされ、悲鳴を上げた。「何だ、高原か?どうした、一体こんな時間に・・」「先生、実は・・きゃぁぁ~!」 火月は、体育教師・日高が何者かに襲われている所を見て、悲鳴を上げた。「な、なんなの!?」 日高を襲った化物と目が合った火月は、パニックになり化物に背を向けて走ろうとしたが、その時化物の目に何かが刺さった。「ちっ、遅かったか。」そう言いながら火月の前に現れたのは、昼間観光客達の前でチェロを弾いていた男だった。「えっ、あの・・」「行くぞ。」 男は火月を横抱きにすると、そのまま校舎の中へと入っていった。 化物が咆哮し、その衝撃波を受けた窓ガラスが粉々に砕け散り、その破片が深々と火月の右太腿に突き刺さった。「一体あの化物は・・」「あいつは翼手。人の生き血を啜る化物だ。」 そう言った男は、背負っていたチェロケースを下ろすと、中から一振りの日本刀を取り出した。「何、しているんですか・・?」 理科室へと男と共に逃げ込んだ火月は、フラスコ越しに彼が刀で己の掌を傷つけているのを見て、悲鳴を上げた。「飲め。」「嫌っ!」 火月が後ずさりすると、男は舌打ちし、彼女を己の方へと抱き寄せた。「ったく、世話が焼ける・・」 男はそう言った後、火月の唇を塞いだ。「う・・」 喉の中に何か温かいものが流れ込むような感覚がして、火月はそれを音を鳴らして飲み干した。 すると、脳裏に、幾つもの映像が、浮かんでは消えていった。 その中に、男と瓜二つの顔をした“男”が、微笑みながら自分に向かって手を差し伸べた。“火月・・”「火月、戦え。」 その手を、そっと火月は握った。「ソード。」 その口調は、まるで王が臣下に命じるかのような、厳かなものだった。 その直後、化物が理科室に乱入し、火月達に襲い掛かって来た。 しかし、化物の首を火月は躊躇いなく握っていた刀で刎ね飛ばした。 鮮血が雨のように火月に降り注いだ。『どうやら、“実験体”は処分されたようです。』「誰に?」 夜の国道を走るロールスロイスの中で、飴玉を舐めながらその男は気怠そうな口調でそう言うと、スマートフォンの画面越しに部下を睨んだ。『それは、わかりません・・』「ご報告、ご苦労様。」 男はそう言ってスマートフォンの画面に表示されている“通話終了ボタン”を押した。(全く、折角精魂込めて育てた実験体が呆気なく倒されるなんて、どんな大男が倒したんだか。いや、それとも倒したのは、美しく可憐な乙女かな?) その可憐な乙女―火月は化物の返り血を全身に浴び、気を失っていた。「お~い、火月、そこに居るのか?」 火月の義理の兄・琥龍が懐中電灯を片手に理科室へと入っていくと、そこには見知らぬ男が火月の上に覆い被さっていた。「てめぇ、何していやがるっ!」 男は琥龍を睨み、舌打ちすると、窓ガラスを破って闇の中へと消えていった。「おい、火月、しっかりしろ!」 琥龍はそう言いながら火月を揺さ振ると、彼女の隣に化物の首が転がっている事に気づいた。「うわぁ~!」 琥龍はそう叫ぶと、腰を抜かしてしまった。(まだ彼女は、完全に“覚醒(めざ)め”ていないか。)にほんブログ村二次小説ランキング
2024年03月30日
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スパイものでありながらも、音楽教室を舞台にした人間ドラマが繰り広げられていて、ラストシーンまで一気に読むほど面白かったです。
2024年03月30日
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今年の大河「光る君へ」の平安時代の生活などを細かくわかりやすく紹介した本。ネットで調べたりするほうがいいのですが、こういった紙の本だと、イラストつきでわかりやすいです。平安時代の女性や男性も、色々と生きるのが大変だったのですね。
2024年03月29日
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一組の双子の物語でしたが、「月と太陽」を題材にした戯曲が登場したことには驚きました。そして、勝者によってのみ歴史が作られるという残酷な事実は、ファンタジーでありながら現実味を帯びていますね。あと二巻で完結ですが、どんな結末を迎えるのか、楽しみです。
2024年03月29日
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2009年に起きた旅客機事故を基にした作品。あの事故の、旅客機が着水する映像はいまだに脳裏に焼き付いています。極寒のNY・ハドソン川で緊急着水したとしても、低体温症などで命を落とす可能性が大いにあったのに、乗客155人全員が助かったのはやはり奇跡ですね。1月の日航機と自衛隊機の衝突事故の際も、乗員乗客全員が助かったのは、機長をはじめとするクルー達の日頃の訓練の賜物でしょうね。飛行機事故には遭いたくありませんが。
2024年03月27日
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。『もしもし・・』「俺だ。」『どうしたの、こんな夜遅くに?』「実は・・」『何か、あったのね?』 雪乃は勘が鋭いようで、隼人の声を聞いた途端、何か良からぬ事が彼の身に怒ったのだろうと隼人に尋ねて来た。「貴子と今日、不妊治療専門クリニックに行って来て診て貰ったんだが・・あいつは自然妊娠が難しいと医者から言われてな・・」『それで、隼弥をあなた達の養子に迎えようという訳ね?』「まぁ、そんなところだ。」『わたしは、あの子と静かに暮らしたいだけなの。だから、この話は聞かなかった事にするわ。』 お休みなさい、と雪乃は一方的にそう言うと電話を切った。「ねぇ、彼女とは話したんでしょう?」「断られたよ。貴子、俺は・・」「あなた、昔の女が駄目なら今すぐ愛人を作って。わたしは子供が欲しいのよ。」「貴子・・」「あなたに拒否権はないのよ。」 東京で隼人が陰鬱な気分で仕事をしている頃、歳三達は熱海で仕事に精を出していた。「あ~、疲れた。」「総司、そんな腑抜けた顔をするんじゃねぇ!」「え~!」「それにしても暑いな。もう、今日はこれ位にしておくか。」「じゃぁ僕は、プールにでも行こうかな。はじめ君はどうするの?」「俺は少し立ち寄りたい所がある。」「ふぅん、そうなの。じゃぁ、僕も一緒に行こうかなぁ。」「好きにしろ。」「二人共、暗くなる前にホテルに戻って来るんだぞ!」「わかりましたよ~!」 総司は一と共にホテルから出ると、熱海の商店街の中にある一軒の和菓子屋へと向かった。「いらっしゃいませ。」「はじめ君、君がこんな所に来るなんて珍しいね。」「ここは、俺の実家の系列店だ。」「え?」「“東雲”という店を知っているだろう?」「何度かインスタでバズっている和菓子屋さんだよね?それがどうかしたの?」「実は、俺はそこの経営者―社長の一人息子なのだ。」「え~!」「声が大きいぞ、総司。」「本当なの、それ!?」「あぁ。詳しい事は、茶でも飲みながら話そう。」「わかったよ。」 店の奥にはイートインスペースがあり、平日だからなのか客は余り居なかった。「ここの店は、あんみつが美味いぞ。」「じゃぁ、フルーツあんみつにしようかな!」 総司はフルーツあんみつを、一は抹茶あんみつをそれぞれ注文した。「ん~、和菓子を偶に食べるのもいいよねぇ。」「そうか。俺は子供の頃から和菓子ばかり食べていた。初めてケーキを食べたのは、公民館で開かれたクリスマスパーティーで振る舞われたショートケーキだった。その時俺はこの世界にこんなに美味い物があるのだと、心の底から感動した・・」「へぇ、それは良かったね。それで、何で和菓子屋の君はパティシエになったの?」「実は、中学生の時に土方さんを取材したテレビ番組を観て、感銘を受けたのだ。」「そうなの。でもさ、ご両親には反対されなかったの?」「猛反対された。だから、両親とは縁を切った。」「思い切りがすごいね、君。」「俺はいつか、和菓子と洋菓子、それぞれの良さを出したスイーツを作り出したいと思っている。」「応援するよ、君の夢。」「ありがとう。ねぇ土方さんの何処に憧れたの?」「いつも仕事に対して真剣に向き合っている事だ。」「まぁ、そうかもね。まだ僕は土方さんには敵わないなぁ、技術も何もかも。」「総司は、どうしてパティシエになろうと思ったんだ?」「う~ん、僕は昔、児童養護施設に居たんだよね。子供の頃、クリスマス会で毎年クリスマスに美味しいケーキを食べてさ、自分も僕と同じような境遇の子供達に美味しいケーキを作ってあげたいなぁって思ってね。」「そうか。」「そろそろ戻らないと、土方さんに怒られちゃうから、出ようか?」「あぁ。」 店から出た二人がホテルから戻ろうとした時、一台の車が店の前に停まった。「久しぶりだな、一。」 車から降りて来たスーツ姿の男は、そう言うと一を睨んだ。「お久しぶりです、父上。」「仕事は順調にやっているか?」「はい。」「そうか。身体を大事にしろよ。」「はい・・」 ほんの少しの、短い会話。 ただそれだけだったが、それでも長い間離れていた父子にとっては充分な会話だった。「只今戻りました。」「おう、お帰り。みんな揃ったところだから、少し話したい事がある。」「何ですか、話したい事って?」「実はさっき、大鳥さんがここへ来てな。うちの店の看板商品を大鳥さんの会社とコラボレーションしないかという話があってな。今、その話に乗ろうかどうか迷っている。」「乗ればいいじゃないですか?いい機会ですし。」「でも、こういう事は慎重に考えないといけませんよね。」「あぁ。」「大鳥さんの会社は、業界では最大手だし、うちの店の宣伝になるんじゃないかな。」「店が人気になるのはいいが、その所為で店の経営が成り立たなくなるのは本末転倒だ。だから、色々とこの件は考えたいから数日時間をくれと先方には伝えて来た。」「そうですか。まぁ、いい宣伝にはなると思いますよ。」「斎藤、お前はどう思う?」「俺は、どのような結果であれ、土方さんの考えを尊重します。」 三泊四日の仕事を終え、歳三達は熱海を去った。「また、来てね。今度は、お客様として。」「あぁ、わかったよ。またな。」「どうしたの、はじめ君、少し顔色が悪そうだけれど・・」「何でもない。」「ここ数日、お前らには無理をさせちまったな。だから、一週間の休みをやる。」「やったぁ!」「まぁ、これから忙しくなるから、その前にしっかり休んでおけ。千鶴、これは少ないが臨時のバイト代だ。」「そんな・・」「受け取ったら?君をこの店の戦力として認めた証だよ。」「ありがとうございます。」 歳三の店でのアルバイトを休んでいる間、千鶴は会社へ戻り、仕事に精を出した。「雪村、これ明日までに纏めておいてくれ。」「はい。」「雪村先輩、俺も手伝います!」「ありがとう。」 千鶴がデータ作成をしていると、外から大きな音がした。(何?) 作業をする手を止め、千鶴が懐中電灯を手にオフィスから出ると、そこには誰も居なかった。(今、誰かに見られていたような気がするけれど・・気の所為ね。) 千鶴がそんな事を思いながらオフィスの中へと戻ろうとした時、背後で人の気配がした。「あんたさえ・・あんたさえ居なければ!」 髪を振り乱し、目を血走らせた琴子が、ナイフを千鶴に向けて立っていた。「お前ぇ、何してんだ!」「離せ、離せよ!」「相馬、警察を呼べ!」「もう呼びました!」「部長・・」「怪我は無いか?」「はい。」「仕事が終わったら、お前を家まで送る。」「ありがとうございます。」 千鶴が隼人と共に会社の地下駐車場へと向かうと、彼の車の前に貴子が立っていた。「あらあなた、その人は?」「こいつは俺の部下だ。それよりも、お前は一体、何でこんな所に居るんだ?」「あなたの部下に、ひとつお願いがあって来たのよ。」 貴子はそう言うと、千鶴を見た。「ねぇあなた、夫の愛人になってくれないかしら?」「てめぇ、正気か!?」「あの女があてにならないのなら、この女にあなたの愛人になって貰うしかないでしょう!」 隼人は貴子に背を向けると、千鶴と共に車へと乗り込んだ。「あいつが言った事は、忘れてくれ。」「はい、わかりました。」 数日後、歳三は大鳥の会社へと向かった。「土方君、待っていたよ。」「大鳥さん、例の件だが・・よろしく頼む。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年03月27日
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。―見て、あの子でしょう?―部長の兄と付き合ったって・・―大人しい顔をして、やるわね。 千鶴がオフィスで仕事をしていると、時折ヒソヒソと意地の悪いささやきが聞こえて来た。「気にしない方がいいですよ。」「うん・・」「雪村さん、今からこの書類、コピーして来てくれない?」「あ、あとこれもお願い。」 大量の書類と仕事を琴子達から押し付けられた千鶴は、定時を過ぎても“さくら”へ行けずにいた。「先輩、まだ残っていたんですか?後は俺がやっておきますから。」「ごめんね。」「この前、中岡の事を聞いてきましたよね?俺、あいつとは中学から同じだったんですが、その時から色々と悪い噂があるようです。」「悪い噂?」「ええ、何でも暴走族の彼氏と一緒になって悪さをしていたとか・・あいつ、色々とヤバイ奴みたいです。」「わたし、あの人から嫌われたのかな?」「気にしない方がいいですよ。」「そうだね・・」 残りの仕事を終えて千鶴が疲れた身体を引き摺りながら最終バスに乗り込んだのは、午後九時過ぎだった。「千鶴ちゃん、今日も休みですって。」「最近仕事が忙しいのか、あいつ?」「う~ん、そうでもないみてぇなんだ。」 龍之介はそう言うと、総司に千鶴とのラインを見せた。 そこには、“同僚から大量の仕事を押し付けられて困っている”といった内容が書かれていた。「同僚って、どんな子なの?」「こいつだよ。どっかで見た顔だと思ったら、中学の同級生だ。」「ふぅん。」 龍之介のスマートフォンに表示されていたのは、ビキニ姿で大きいサングラスをかけているギャルの写真だった。「こいつ、結構色々とヤバイ噂があったんだよ。子供五回中絶したとか、暴走族の彼氏と一緒になって窃盗団結成したとかさ。雪村さんと同僚になっちまったなんてなぁ・・」「千鶴ちゃん、余り無理しないといいけど。」 “さくら”のロッカールームで二人がそんな話をしている頃、隼人は新しい愛人と彼女の部屋で飲んでいた。「ねぇ、奥さんとは別れるつもり、ないのでしょう?」「あぁ。」「まぁ、わたしはでしゃばらないから安心して。」「・・そうか。」 情事の後、隼人はそう言うと愛人の髪を優しく梳いた。「また、繋がらないわね・・」「放っておきなさい。」「でも・・」「男は浮気する生き物なのよ。」 そう言った麗子は、少し冷めた紅茶を一口飲んで溜息を吐いた。「雪村、ちょっといいか?」「はい・・」 突然千鶴は隼人に呼ばれ、慌てて彼のデスクへと向かった。「あの、部長・・」「相馬から、あいつ(中岡)との事は聞いた。あいつには今日限りで辞めて貰う事にした。」「そうですか・・」「今日は早く上がれ。兄貴には俺の方から色々と話をつけてある。」「ありがとうございます。」「礼は要らねぇ、仕事に戻れ。」「はい。」 自分のデスクに戻ると、琴子の取り巻き達の方から氷のような視線を千鶴は感じた。「先輩、お疲れ様です。」「お疲れ様。」 千鶴は定時に退社し、二週間ぶりに“さくら”へと向かった。「千鶴ちゃん、久しぶり。」「お久しぶりです、皆さん。あの、暫く休んでご迷惑をかけてしまって申し訳ありませんでした。」「色々と大変だったみたいだし、そこのところはみんなわかっているから大丈夫だよ。」「はい・・」「土方さんは、今取引先に行っているから、戻って来たらちゃんと今回の事について話した方がいいぜ。」「わかりました。」「さてと、千鶴ちゃん、休んだ分しっかり働いて貰うよ?」「わかりました、頑張ります!」「今日は、インスタ映えスイーツの作り方を教えるね。一度しか教えないから、動画を撮って後で復習しておいてね。」「はい!」 帰宅後、千鶴はすぐに“さくら”の厨房で撮影した動画を何度も再生し、インスタ映えスイーツ作りに励んだ。「へぇ、一日でこの完成度は大したものだよね。じゃぁ早速、行こうか。」「え、何処へですか?」「土方さん、今熱海のリゾートホテルのスイーツビュッフェの手伝いへ行っているんだ。人手不足で何人か助っ人が欲しいと思っていたところだから、君と一緒に僕も熱海に行くって土方さんに伝えておいたよ。」「わかりました・・」 こうして、千鶴は総司が運転する車で熱海へと向かった。「そうか、昼過ぎには着くか。わかった、待ってるぞ。」「誰からの電話?」「総司からだ。それよりも姉貴、こういう事は前もって連絡してくれねぇか?」「あら、連絡したからいいでしょう?」「数日前にされても意味ねぇだろうが。」「はは、そうね。」 歳三の姉でホテル「翠石荘」のオーナー・信子はそう言うと大声で笑った。「土方さ~ん、来ましたよ!」「おう総司、雪村も来たのか。」「土方さん、仕事を休んでしまって申し訳ありませんでした。」「色々と大変だったろう?今日は仕事が終わったらゆっくり休んでくれ。」「はい・・」「トシ、あんた変わったわねぇ。昔はあんな事言わなかったのに、今は・・」「厳しいだけじゃ、人は育たねぇだろう?」「そうね。ま、仕事の後はうちでゆっくりしていって。」「ああ。」 スイーツビュッフェには、平日だというのに沢山の女性客達で賑わっていた。「千鶴ちゃん、休憩行っときなよ。」「はい。」 千鶴が昼休憩に入り、ホテルの近くにあるカフェでランチを取っていると、そこへ一人の男性が声を掛けて来た。「隣、いいか?」「はい。」「あんた、ホテルでさっき働いていた奴だよな、名前は?」「えっと・・」 初対面だというのに、妙に馴れ馴れしい様子で話し掛けて来る男に千鶴が少し警戒していると、そこへ歳三がやって来た。「そいつは俺の連れだ。ナンパなら他を当たれ。」「チッ」 男は舌打ちすると、カフェから出て行った。「助けて下さって、ありがとうございます。」「お前ぇはあんまり男慣れしてねぇようだな?」「はい。学校は高校まで女子校で、大学も女子大でしたので、異性と付き合う機会がなくて・・」「合コンとかは、行かなかったのか?」「はい。わたしは勉強に忙しくて・・」「そうか。」「土方さんは、どのような学生時代を過ごされたのですか?」「パリで修業中だったな。右も左もわからねぇ中で、とにかく技術を身につけるのに必死だった。」「“さくら”の事務室のデスクに、写真立てが置いてあるのを見ました・・」「あぁ、あの写真は、俺が高校時代の時に撮った写真だよ。あいつ・・近藤勇は、数年前に交通事故で死ぬまで、俺の親友だった。」「じゃぁ、“さくら”は・・」「元々、親友の店だった。あいつが事故で死んだ後、俺があの店をあいつから引き継いだ。経営者とパティシエの二足の草鞋を履く生活は大変だが、遣り甲斐がある。」 そう自分に話してくれた歳三の瞳は、宝石のようにキラキラと輝いていた。(この人の元で、もっと技術を磨きたい!) そんな中、隼人は貴子と共に都内にある不妊治療専門クリニックを受診していた。「大変申し上げにくいのですが・・奥様は、自然妊娠が難しいかと・・」「そんな・・」 クリニックを出た帰りの車の中で、貴子は隼人にある提案をした。「あなたの昔の女、雪乃って言ったかしら?その息子をうちの跡継ぎにしない?」「お前、何言って・・」「パパ達からは、わたしが言っておくわ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年03月27日
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。 早朝のホテル内にあるプールには、人気がなかった。 このプールを利用出来るのはホテルの宿泊客と、毎月十万円の会費を払えるフィットネス=ジムの会員だけである。 雪乃と熱い一夜を過ごした隼人は、気分転換する為朝からこのプールで泳いでいた。 泳ぎ疲れた彼がプールサイドで濡れた身体をタオルで拭いていると、そこへ隣のレーンで泳いでいた土方がやって来た。「隼人、奇遇だな。」「兄貴、兄貴もここの会員だったのか?」「あぁ。体力作りに、週三日はここに来て泳いでいる。」「へぇ、そうなのか。」「泳ぎ納めで、今日来たんだが・・こうして、お前と会うとは思わなかったな。」「なぁ兄貴、兄貴は今幸せか?」「どうして、急にそんな事聞くんだ?」「俺、昨夜あいつと・・雪乃と別れた。」「そうか。」「あいつの事が、向こうの親にバレた。それに義父から、“けじめ”をつけろと言われた。」「いいんじゃねぇのか、お互いに納得して別れたんなら。」「そう言ってくれるのは兄貴だけだ。」 隼人はそう言いながら、数分前に先に生まれた双子の兄の横顔を見た。 兄は、野心家の自分とは違い、ひたすらパティシエの夢に向かって邁進し、今では世界的に有名なパティシエとなった。「実は、来春辺り銀座に支店を出さねぇかって誘われているんだが・・断った。「大きなチャンスを逃してどうするんだよ、兄貴。」「“今はまだ、その時機じゃねぇ”と、心の中で声が聴こえたんだ。それに、俺ぁあの店だけでやっていこうと思う。」「安定志向なのは相変わらずだな、兄貴は。俺は、一度だけの人生なら、高みに昇ってみせるぜ。」「隼人・・」「俺ぁ、あんな惨めで貧しいクソな生活には戻りたくねぇんだ。」「隼人・・」「俺はいつか偉くなって、今まで俺の事を馬鹿にして来た奴らを見返してやる‥兄貴、あんただってあいつらにされて来た事、忘れてねぇだろうな?」「まぁ、な・・」「ふん、兄貴は土方家に大切に育てられたから良いよな。俺とは大違いだ。」 隼人はそう土方に吐き捨てるように言うと、プールから去っていった。 頭から熱いシャワーを浴びながら、土方は双子の弟と生き別れた日の事を思い出していた。 土方――歳三と隼人は、敵同士であった両親との間に生まれた。 双子として生まれ、二人は何をするにも、何処に行くにも一緒だった。 だが小学校入学前に、両親が二人共交通事故死した事により、幸せだった二人の生活に暗雲が立ち込めた。 親族会議で、歳三は土方に、隼人は内藤家にそれぞれ引き取られる事となった。 兄の歳三は父方の実家である土方家に、弟の隼人は母方の実家である内藤家に引き取られた。 土方家は、歳三を実子と分け隔てなく愛情を注いで育ててくれていたが、隼人は内藤家で犬以下の扱いを受けた。 家族とは食事や寝る場所も別で、内藤家の者達は隼人をまるで使用人のようにこき使った。 学校には通わせて貰ったものの、入浴も洗濯も許されなかったので、隼人はいつも臭くて汚かった所為で学校ではいつも一人だった。 内藤家の者達は、“豚が服を着ているかのような”人達だった。 金にがめつく、食い意地が張っており、彼らはいつも暇さえあれば何かを食べているか、隼人を殴ったり罵る事だけが楽しみな者達だった。 日々彼らに虐げられ、耐える事しか出来なかった小学校時代は終わりを告げ、隼人は中学生になった途端、家から出たくて勉学に励み、内藤家の図体だけデカくて馬鹿な従弟の希望校だった難関私立名門校に合格した。 だが、従弟に窃盗の濡れ衣を着せられ、合格は取り消しとなった。(絶対にこいつらに復讐してやる。俺は、こいつらより偉くなってやるんだ!) 中学卒業後、隼人は内藤家から出て遠縁の親戚宅から高校へと通った。 高校を卒業した隼人の元に届いたのは、自分を虐げていた内藤夫婦が事故死したという知らせだった。 葬儀の席で悲嘆に暮れている従弟の姿を見て、隼人は笑みを浮かべた。「隼人、久しぶりだな。元気だったか?」「兄さん・・」 久しぶりに再会した歳三は、全身に自信が満ち溢れているかのように見えた。「良かった、間に合って。飛行機の時間までまだあるから・・」「兄さん、何処かに行くのか?」「あぁ。これからパリに行くんだ。向こうで本場のスイーツを学んで来るんだ。」「へぇ・・」 隼人は幼い頃、兄が将来の夢を“ケーキ屋さん”と書いていた事を思い出した。「頑張れよ。」「あぁ。」 泥に塗れ、必死に底辺から這い上がろうとしている隼人にとって、夢に向かって着実に歩み出している兄の姿は、眩しくもあり、妬ましかった。 自分と同じ日に生まれ、今まで一緒に生きてきたのに、裏切られた。「兄貴、いつか見ていろよ。俺は、いつか偉くなって、望むもの全てを手に入れてやる。」 兄貴の大切なものを、全て奪ってやる。 俺達は、何でも“シェア”しねぇとな。 そうだろ、兄貴?「は?カルチャースクールの講座?」「そうだよ。来週から五回、毎週木曜日!」「大鳥さん、俺がそんなに暇そうに見えるか?」「いいじゃねぇか土方さん、地域貢献の一環だと思って。」 そう言いながら店に入って来たのは、歳三の近所の知り合いで、バーを経営している原田左之助だった。「原田・・」「あんたもそろそろ、その秘密主義を封印しちまってもいいんじゃねぇのか?」「わかったよ、やればいいんだろ・・」 こうして歳三は、ひょんな事からカルチャースクールの講師をする事になった。「千鶴ちゃん!」「お千ちゃん、どうしたの?」「ねぇ、駅前のカルチャースクールのチラシでこんなの見つけたんだけど、一緒に受けてみない?」「え?」「ホラ、この前ランチで千鶴ちゃんが話していた人、講師やるみたいよ!」「嘘!?」 千鶴は、思わず千姫が持っていたチラシをひったくるようにして彼女から受け取ると、そこにはあのパティシエの顔写真があった。「これ、一緒に受けてみようかな。」「そうこなくちゃ!」 こうして、千鶴は親友の鈴鹿千と共に、『トップパティシエと学ぶスイーツ作り』を受講することになった。「やっぱり、凄いわぁ!受講者みんな女性ばかりね!」「そ、そうね・・」 千鶴が周囲を見渡すと、確かに若い女性ばかりが目立つ。「きゃ~!」「土方様~!」 調理実習室に現れた歳三を見た女性達は、一斉に悲鳴を上げた。 中には名前入りのうちわを持っている者も居て、さながらアイドルのコンサート会場のような熱気に包まれていた。「はじめまして、土方歳三です。美亜さん、お忙しい中この講座を受講して下さり、ありがとうございます。」「キャ~!」「では、皆さん初心者という事で、記念すべき第一回目は、クッキーの作り方を教えます!」 こうして、歳三は無事カルチャースクールでの初日を終えた。「はぁ~、疲れた!」「土方さん、お疲れさん。」「サンキュ、左之。」「なぁ、新人は来たのか?」「来たが、三日で辞めやがった。」「厳し過ぎるんだよ、あんた。もっと肩の力を抜けよ。」「そうは言ってもなぁ・・」 歳三が原田のバーでそんな事を話しながらグラスを傾けていると、そこへ金髪の男が入って来た。「また会ったな、内藤。」「てめぇ、誰だ?」 歳三の言葉を受け、金髪の男は少し落ち込んでいた。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年03月27日
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。「来週、隼弥を連れて実家に帰る事になったの。」「そうか・・」 隼弥を寝かしつけた後、隼人は、内縁の妻・雪乃と皿を洗っている時、彼女の口から衝撃的な言葉を聞いて、思わず彼は持っていた皿を割りそうになった。「どうして、そんな急に・・」「わたし、今まであなたに甘えていた事に気づいたの。この部屋も、あなたが家賃を払ってくれているし、その上養育費や生活費まで払って貰っているわ。」「それは、男として当然の務めだ。」「あなたはもう、わたし達だけのものではないわ。これ以上、あなたの重荷にはなりたくないの。」「もう、決めた事なのか?」「えぇ。」「そうか・・」「もう、会わないで、わたしにも、隼弥にも。」「わかった。」 彼女の実家は、東京から遠く離れた北海道・函館だ。 出張を口実にして会いに行けるが、雪乃はそんな隼人の想いを察したのか、すかさず彼に釘を刺した。「明日、ここで会いましょう。」 雪乃はそう言うと、エプロンのポケットから一枚のメモを取り出し、それを隼人に手渡した。 そこには、“明日夜七時・アステリア”と書かれてあった。 アステリアは、昔二人でデートした時に良く利用した高級ホテル内にあるレストランだった。「わかった・・」「今夜は来てくれてありがとう。もう帰って。」「あぁ。」 普通の女なら、“今夜はわたしと一緒に居て奥さんの所には帰らないでと”言うところだが、雪乃は決してそんな事は言わない。 昔から、雪乃は見返りを求めず、隼人に対して一度も不平不満を言った事などなかった。 彼女が隼人と喧嘩したのは一度だけ、隼弥の妊娠が判った時だった。“産みたいの、あなたには決して迷惑はかけないから、この子を産ませて下さい。”“雪乃、俺は・・”“認知はしなくていいわ。そうしたらあなたの結婚に支障が出るでしょう?”“俺は、男としてのけじめをつけてぇんだ。”“お願い、やめて!”“何でお前は一人で勝手に決めたんだ!”“わたしは、あなたを陰で支えたいだけなのよ、どうしてそれをわかってくれないの!?” 話し合いは平行線を辿り、雪乃からは暫く距離を置きたいと言われ、隼人が彼女と再び子供の事で話し合う事になったのは、彼女が切迫流産で入院した時だった。“親は、この事を知っているのか!?”“全て・・あなたとの関係の事を話したわ。”“そうか・・” 結局隼人の方が折れ、隼弥の戸籍は雪の姓である高橋家に入る事になった。 隼弥の出産に立ち会った後、隼人は貴子と豪華絢爛な結婚式を挙げた。「只今、帰りました。」「あら、随分遅かったわね。またあの女の所?」 隼人が帰宅すると、リビングで雑誌を読んでいた義母・麗子がそう言って顔を上げ、彼の顔を見た。「お義母さん、俺は・・」「あなた、この家での自分の立場をちゃぁんと弁えなさいよね?問題を起こしたら、この家から出て行って貰うわよ。」「はい・・」「本当にわかっているのなら、早くあの女と別れなさい。」「部屋に戻ります。」 隼人はそう言うと、二階の寝室へと向かった。 新婚時代はここで互いに愛を確め合っていたが、今やここはただ“寝るだけ”の部屋となってしまった。(明日か・・) 隼人はキングサイズのベッドに一人横たわると、泥のように眠った。 貴子は、家に帰って来なかった。「貴子はどうした?まだ帰っていないのか?」「えぇ。帰りたくないんでしょうよ。」 麗子はちらりと横目で隼人を見てそう言うと、ダイニングルームから出て行った。「隼人君、ちょっといいかね?」「はい・・」 義父・貴俊に呼ばれ、隼人は彼の書斎へと向かった。「お話とは、何でしょうか?」「君もそろそろ、“我々”の仲間入りをしてみないかと思ってね。」「それは・・」「君なら、良い政治家になれる。」「ありがとうございます!」「明後日、民政党のパーティーで、君を紹介するつもりだ。だから、早くあの女とは“けじめ”をつけろ、いいな?」「はい・・」「男は外に女を作り、その子供を自分の家に入れるのは、昔は当たり前だったが、今は時代が違う。わたしが言いたい事は、わかるな?」「はい・・」「もう、行っていい。」 隼人が出社すると、何やら社内が騒がしかった。「あ、部長!」「おい、どうした?」「それが・・急に京都支社長の風間様がいらっしゃって・・」「何だと!?」「久しいな、土方の弟よ。虚飾に満ちた結婚生活は上手くいっているのか?」「風間・・千景!」 我が物顔で自分の椅子に座っている金髪の男を睨みつけた。 彼は、風間千景――この会社の京都支社長で、隼人とは学生時代からの好敵手だった。「一体ここへは何をしに来た?」「別に。ただ貴様に会いに来ただけだ。」 悪いか?と、風間は片方の眉を少し上げた後、挑発的な笑みを口元に閃かせた。「先輩、あの二人・・」「相馬君、仕事しようね。」「あの人、部長とどんな関係なんですかね?」「あの人?」「ひら、朝部長に会いに来た人ですよ。」 ランチの後、千鶴が後輩社員の相馬主計とオフィスで仕事をしながらそんな話をしていると、そこへ一人の女性がやって来た。 全身をハイブランドファッションで固めた彼女は、美しくセットされた亜麻色の髪を揺らしながら、ぐるりと誰かの姿を探しているかのようにオフィス内を見渡した。「あの、こちらには何かご用でしょうか?」「内藤の妻だけれど、主人は何処に居るの?」「部長なら、一時間前に直帰しましたが・・」「そう。」 女性は溜息を吐くと、オフィスから出て行った。「先輩、あの人は?」「あぁ、あの人が部長の奥様よ。」「へぇ~、派手な美人さんですね。」「相馬君、仕事に戻ろうか?」「はい。」(部長の奥様が、ここに何の用だったのかな?) 貴子が会社に来ている事など知らず、隼人は雪乃と最後のディナーを“アステリア”で楽しんでいた。「今日、隼弥は?」「北海道の両親が見ていてくれているわ。明後日の朝、東京を発つわ。」「そうか・・」「あなたをここへ呼んだのは、あなたと過ごす最後の思い出を作りたかったからなの。」 デザートの後、雪乃はそう言ってさり気なく隼人に見せたのは、このホテルの二十階のデラックス・スイートのカードだった。「雪乃・・」 雪乃の大胆な言葉と行動に、隼人は思わず目を丸くした。「いいのか?」「えぇ。」 食事を終え、雪乃と共にエレベーターの中へと乗り込んだ隼人は、彼女の唇を塞いだ。「こんな所で・・」「いいだろう、別に。」「隼人さん・・」 部屋のドアにカードキーを挿し込む隙ももどかしく、隼人は雪乃の唇を激しく貪った。「隼人さん・・」「もう、待てねぇ。」 何度かエラーが出た後、漸くドアが開くと、隼人は雪乃をベッドの上に押し倒した。「あっ、ダメ・・」 彼女が穿いているストッキングを破り、パンティをずらして彼女の秘所を舌で愛撫し、指の腹でそこをいじくると、パンティはたちまち蜜でジワジワと濡れた。「隼人さんも、気持ち良くなって・・」 雪乃はおもむろにズボンのジッパーを下げると、ボクサーパンツを破らんばかりに怒張している彼のものを口に含んだ。「やめろ、そんなにしたら、あぁっ!」 隼人は堪らず、雪乃の口内で達した。 それを、雪乃は全て飲み干した。「美味しい、隼人さんのミルク・・」 そう言って口をだらしなく開けた雪乃は、熱を孕んだ瞳で隼人を見つめた。「全部頂戴・・お願い。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年03月27日
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。「断る。俺ぁこれから忙しいんだ。」「じゃぁ、トシさんが仕事終わるまで待ってるよ。」「ガキか、てめぇは。」「だって一人で居ると寂しいんだもの。」「クリスマス=イヴの夜に、パーティーにも行かずに野郎二人で飲みてぇって物好きが何処に居るんだよ?」「ここに居るよ~」「ったく・・」 土方は軽く舌打ちすると、クリスマスケーキの生地を作り始めた。 パティシエが一年で最も忙しい日は、皮肉にも家族と友人、恋人と過ごすクリスマス=イヴと、クリスマスである。 生地を作り、完成したスポンジをオーブンに入れて焼き、二百個分のケーキを土方が完成させた頃には、朝の六時まわっていた。「あ~、疲れた。」「トシさん、今からでも飲みに行こう。」「うるせぇ、俺は二階で仮眠する。」「え~!」「土方さん、おはようございま~す!」「総司、今朝は珍しく早いな、どうした?」「今日は、クリスマスでしょう。さっさと仕事終わらせて、大手インスタグラマーのクリスマスパーティーで作るケーキを納品しなくちゃね。」「そうか。まぁ今日は俺が昨夜予約分のクリスマスケーキを全部仕上げたから、楽勝だろ。」「ありがとうございます、土方さん。」「おはようございます。」「おはよう、はじめ君。君も早いね。」「当たり前だ。」「さてと、全員揃ったから、仕事するか!」「は~い!」 オープンまで、あと四時間。 パティシエの最も忙しい一日が、始まろうとしていた。「斎藤、レジ頼む!」「はい!」「総司、そっちはどうだ!?」「大丈夫です!」 店が朝十時からオープンすると、たちまち店の前にはクリスマスケーキを買い求める客が長蛇の列を作っていた。「あ~、疲れた。」「そうだね。ねぇ伊吹君、君なんでパティシエになろうと思ったの?」「まぁ、俺本当は画家になろうと思っていたんだけど、美大は高いから・・」「ふぅん、それで美大行かずに製菓専門学校に行ってパティシエになったって訳?パティシエなめてるの、君?」「俺はただ・・」「おいてめぇら、もう休憩時間終わってるぞ、さっさと仕事に戻れ!」「戻ろうぜ、沖田!」「はいはい。」「“はい”は一回!」「君、何先輩に向かってそんな生意気な口を利いているの?そうだ、明日の生地の下ごしらえ、君に全部任せるよ。」「え~!」(理不尽過ぎる!)「おい雪村、何だこれは!?」「え?」「え、じゃねぇだろ!この書類、少し抜けている個所があるぞ、すぐに修正しろ!」「は、はい!」 千鶴は怒り狂う上司から逃げるように、自分の席へと戻った。「あぁん、そんなこたぁわかってるよ!うるせぇな!」 切れ長の紫の瞳をギラギラと光らせながら、美しい顔を怒りに歪ませた彼女の上司・内藤隼人は、そう叫ぶと受話器を叩きつけるようにして電話を切った。 この会社全体が、皆苛々している。 派遣社員も、正社員も皆ストレスを抱えて互いの足を引っ張り合っていた。 千鶴が修正した書類を隼人の元へと提出すると、彼はさっとそれに目を通した。「悪くねぇな。」「ありがとうございます。」「さっさと仕事に戻れ!」「はい。」(内藤部長、昨夜のパティシエの方とそっくりだな・・他人の空似とは思えない位・・) キーボードを軽やかに叩きながら、千鶴は何とか今日の仕事を定時までに終わらせた。「先輩、お疲れ様です!」「相馬君、お疲れ様。」「何か今日の内藤部長、荒れていましたね。」「そうだったわね・・」「噂に聞いたんだけれど、部長奥さんとの離婚話が相当こじれているらしいわよ。」「え~、何で!?」「いつものアレよ、アレ。」 更衣室で千鶴が制服から私服へと着替えていると、噂好きの女子社員達がそんな事を話しているのを聞いた。「まぁ、奥さんが国会議員の娘だから、部長が別れたくても、向こうが別れたくないんでしょうよ。」「そうかもね。ま、わたし達には関係ないけれど。」「お疲れ様です。」 千鶴はそっと彼女達の脇を通り過ぎようとした時、その中の一人が彼女の前に立ち塞がった。「ねぇ雪村さん、内藤部長の愛人だっていうのは本当?」「嘘です、そんなの!」「ふぅん、だったらいいけど・・」 彼女はそう言った後、友人達と連れたって更衣室から出て行った。(何だったんだろう?)「先輩、一緒に帰りましょう!」「そうね。」 後輩の相馬と千鶴が連れ立って会社から出ると、会社の前に黒塗りのリムジンが停まっている事に気づいた。「あの車、誰のだろう?」「さぁ・・」 暫く二人が車の方を見てみると、隼人がその車の中に乗り込んだ。 やがて車は、人工の銀河の中へと呑み込まれ、消えていった。「先輩、あれ・・」「見なかった事にしよう、ね?」「メリークリスマス、パパ。」「隼人君、忙しいのにわざわざ呼び出して済まなかったね。」「いいえ・・」「ねぇあなた達、そろそろ子供を作る気はないの?」「やめてよ、ママ。今は仕事が楽しくて、まだ考えてないわ。」 都内某所にある高級ホテルのフレンチレストランの個室で、内藤隼人は妻・貴子と彼女の両親と共に豪華なクリスマス・ディナーを楽しんでいた。「ねぇ、そんな事言わないで、妊活を考えてみたら?子供が居たら、楽しいわよ。」「そうですね・・」 義母からそう話題を振られ、隼人はそう言葉を濁した後、デザートのラズベリーのオペラを一口食べた。 一流店で、何度も三ツ星を取った事があった所だが、デザートは最悪だった。 ラズベリーの酸味が強過ぎて、オペラ本来のコーヒーとチョコレートの濃厚な味わいが感じられなかった。「隼人さん、どうしたの?」「いや、何でもない。」「ねぇ、今夜はここの最上階に部屋を取っているのよ・・」 息が詰まるかのようなクリスマス・ディナーの後、貴子はそう言って隼人にしなだれかかった。「悪ぃが、今疲れているんだ。」「また、そのセリフね。今度は何処の女とよろしくやっていたの?」「やめろ、こんな所で・・」「銀座かしら、それとも北新地?あぁ、この前は札幌ですすきのの女とよろしくやっていたわよね!?」「やめろって!」 一度怒りのスイッチが入ると、貴子は止まらなくなる。「どうしてわたしを抱いてくれないの?もしかして、隠し子でも居る訳!?」「部屋に行こう・・」「適当にはぐらかすつもりね、もう知らない!」 貴子はそう叫んで隼人に平手打ちを喰らわさせると、エレベーターの中へと消えていった。(参ったな・・) 隼人は溜息を吐きながらホテルを出ると、タクシーである場所へと向かった。 そこは、新興住宅地の中にあるアパートだった。「は~い。」 玄関チャイムを押すと、隼人の前に一人の女性が現れた。「どうしたの、今日は来ないと思ったわ。」「クリスマスだからな・・」「パパ~!」 廊下の奥から慌しい足音が聞こえたかと思うと、三歳位の男児が隼人に抱きついて来た。「メリークリスマス、隼弥。これ、クリスマスプレゼント。」「ありがとう!」「ねぇ、向こうには戻らなくていいの?」「あぁ。」「早く中に入って、風邪ひくわ。」 リビングに入った隼人が最初見たものは、テーブルの上に置かれた、双子の兄の店のケーキだった。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年03月27日
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。「はぁぁ~」 仕事帰りのサラリーマンやOL達が行き交う繁華街の中を、雪村千鶴は溜息を吐きながら歩いていた。 右を見ても左を見ても、周りは幸せそうなカップルばかり。 毎日仕事に慌しく追われて、今日がクリスマス=イヴだという事もすっかり忘れてしまっていた。「お父さん、ありがとう!」「家でママと三人で食べようなぁ。」 すれ違った、仲が良い父娘の姿に、千鶴は幼い頃の自分と今は亡き父の姿とを重ね合わせていた。 あの頃、何もかもが幸せだった。“千鶴、誕生日おめでとう。今日はお前が食べたいケーキ、好きなだけ頼んでもいいぞ!”“本当!?” ショーケースの中に陳列されている色とりどりの様々な種類のケーキは、まるで宝石のように美しく輝いて見えた。“お父さん、わたし将来おかし屋さんになる!おかし屋さんになって、お父さんに世界一おいしいケーキを食べさせてあげるね!”“ありがとう、千鶴。今から楽しみだなぁ。” だが、その夢を叶える事は出来なかった。 父・綱道は、医師として“国境なき医師団”に参加し、アフリカの紛争地帯へと赴く事になった。“大丈夫だ、すぐに帰って来るから心配要らないよ。”“気を付けてね、父様。” 空港で自分に笑顔を浮かべた父の姿を千鶴が最後に見たのは、高校三年生の春の事だった。“千鶴ちゃん、お父様が・・” 父の訃報を千鶴が知ったのは、大学受験を控えた秋の事だった。 父は、現地で仕事から自宅への帰宅途中で交通事故に遭い、病院に搬送された時点で即死状態だったという。 父の死により千鶴は長年の夢だったパティシエを諦め、奨学金で大学へと進学した。 そして今、その返済に追われながらブラック企業で身を粉にして働いている。 今日は朝からツイていなかった。 人身事故で電車が遅れ、その所為で上司から怒鳴られ、午前中は外回り、午後からはデスクワークに追われた。 仕事が終わったのは午後八時半だった。 今から行きつけの駅前のスーパーで半額シールが貼られている惣菜を買って帰宅して、洗濯をしていたら夜十時位になる。 もう、スーパーに行くのを止めて、外食しよう―そう思った千鶴が駅前のファーストフード店へと向かおうとした時、彼女は一軒の洋菓子店の前で何故か足を止めた。 まだそこは開いているようで、千鶴がドアベルを鳴らしながら中に入ると、ショーケースには宝石のようなケーキが何種類も並んでいた。(うわぁ~、美味しそう・・) 千鶴がそんな事を思いながらショーケースの中を見ていると、奥の厨房から一人の男が出て来た。「いらっしゃいませ。」 千鶴が俯いていた顔を上げると、ショーケースの前には一人の男が立っていた。 黒く艶やかな短い髪を揺らし、切れ長の紫水晶の瞳をした彼は、紅を塗ったかのような美しい形の唇を微かに動かすと、千鶴に向かってこう言った。「ご注文は、お決まりですか?」「あの、すいません・・わたし、朝から何も食べていなくて・・お腹一杯になれる物があったらいいなって・・」「少々、お待ち下さい。」 男はそう言うと、厨房の奥から美味しそうなチョコレートケーキを携えて戻って来た。「ヘーゼルナッツとピスタチオのオペラです。ピスタチオとヘーゼルナッツは疲労回復の効果がありますよ。」「ありがとうございます・・」「はい・・」 千鶴は店の奥にあるイートインスペースで男から勧められたヘーゼルナッツとピスタチオのオペラを一口食べると、甘さが口の中で蕩け、思わず笑顔を浮かべた。「ご馳走様でした。」「よろしかったら、これもどうぞ。」「え、いいんですか?」 千鶴がおそるおそる男から渡された袋の中を覗くと、そこには美味しそうなサンドイッチが数個入っていた。「明日の朝食にどうぞ。お仕事、頑張って下さいね。」 男はそう言って千鶴に優しく微笑んだ。「あ、ありがとうございます!」「お仕事、頑張って下さいね。」(あの人、とても素敵な人だったな・・) 千鶴がそんな事を思いながら帰路に着いている頃、店内にはあの美しい男――この店の経営者兼オーナーパティシエ・土方歳三が店の事務室で溜息を吐いていた。(今月も、人件費で赤字か・・) 店にはいつも“パティシエ募集”の貼り紙をしているが、毎年入って来ては一月も経たない内に辞めてしまう。 その理由は、土方の妥協を一切許さぬ、厳しい指導の所為だった。 パティシエは一見華やかで楽そうな仕事に思えるが、その実体力勝負が命の力仕事で、師弟関係が厳しい仕事だ。 夢と憧れを抱いてこの世界に入って来たが、厳しい現実に打ちのめされ挫折した者も少なくはない。(これから、どうしようかな・・) 土方はコーヒーを飲みながら、デスクの上に置かれた一枚の写真を見た。 そこには、かつて自分と夢を叶え、志半ばで夭逝した亡き親友と若き頃の自分の姿が写っていた。「勝っちゃん、あんたの店は、俺が守るぜ。」 土方はそう呟くと、首に提げている勇の遺骨で作ったダイヤモンドのネックレスをそっと握り締めた。「トシさ~ん、居る!?」「何だ、八郎。」「店、もう終わったんでしょ?一緒に飲みましょうよ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年03月27日
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。 土方歳三 (28) 若干20歳でスイーツの国際大会「クープ・デュ・モンド」の日本代表のリーダーとして活躍、チームを金メダルへと導いたパティシエ。 現在、亡き親友の店である「Fleurs de cerisier(さくら)」を引き継ぎ、パティシエと経営者の二足の草鞋を履く生活を送っている。 雪村千鶴 (21) 幼少期にパティシエを目指していたが、高校卒業前に父が交通事故で他界、パティシエになる夢を諦め、OLとして奨学金の返済に追われる日々を送っていたが、土方のケーキを食べ、パティシエへの夢に再び挑む事を決意する。 沖田総司 (20) 土方の弟分的存在で、SNS映えスイーツ作りの名人。 斎藤一 (20) 会津若松出身。 老舗和菓子店の御曹司だったが、土方に憧れ、彼に弟子入りする。 伊庭八郎 (28) 土方の幼馴染で、大手財閥・伊庭財閥の御曹司。 土方の事を慕っている。 内藤隼人 (28) 歳三の双子の弟で、大手企業の営業部長。 野心家で、国会議員の娘と結婚するも、夫婦仲は冷めている。 妻とは別に、家庭を持っている。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年03月27日
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二年前に録画していたのに、全然観ていませんでしたので、今更ながら観ました(笑)原作の世界観を壊さず、かつ面白く描いたドラマでした。一人の優秀な科学者が、科学の知識を悪用した動機が姉の復讐というのが切ない。しかし、彼にとっては唯一の肉親である姉を殺されてしまった怒りはわかるような気がする。
2024年03月26日
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名探偵レイチェル・サヴァナクには黒い噂と死の影がつきまとう。その真相はいかにーいやあ、序盤からラストシーンまで一気読みするほど、面白い!ネタバレしたら面白さが半減するので、とにかく購入して読んでみてくださいとしか言えないです。
2024年03月26日
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表紙素材は、黒獅様からお借りしました。「陰陽師」・「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。―狐の子だ!―気味の悪い化け物め!―山へ帰れ!思い出すのは、石を投げられ、罵倒され、蔑まれた日々。―所詮人間なんて、こっちの力を利用するか怖がる事しか知らない、下等動物さ。脳裏に響く、誰かの声。「う・・」「先生。」「火月・・?」有匡が苦しそうに呻きながら目を開けると、そこには涙を流して自分の手を握っている火月の姿があった。「毒消しの薬湯だ、飲むといい。」「あぁ・・」晴明から毒消しの薬湯を渡され、有匡はそれを一口飲んだが、むせてしまった。「先生、大丈夫ですか?」「おい晴明、この薬湯、酷い臭いがするぞ!」博雅は晴明が作った薬湯を有匡の手から奪い、その臭いを嗅ぐと、それは腐った肉のような臭いがした。「いやぁ、この前お前が調合したものを再現して作ろうと思ったんだが、上手くいかないなぁ。」「晴明・・」博雅はそう言いながら、薬湯を下げた。「済まない、薬湯は俺が作る。」「じゃぁ、これを。」そう言って火月が博雅に差し出したのは、己の紅玉を粉末にしたものだった。「これを、薬湯に混ぜて飲ませて下さい。」「わかった。」有匡の全身から蜘蛛の毒が抜けるまで、数日かかった。「有匡殿、怪我の具合はどうですか?」「良くなりました。晴明殿、我らを保護して下さりありがとうございます。」「いや、何の。同族のよしみで助けたいと思っただけだ。」「晴明、晴明はおるかっ!」有匡と晴明が屋敷の中でそんな話をしていると、門の方から男の声が聞こえて来た。「先生、お客様ですか?」「火月、お前は奥に居ろ。」「はい。」「晴明殿、門の所で叫んでおられるのはどなたなのですか?」「藤原道長様です。」(藤原道長だと!?)時の権力者である藤原道長が、晴明に一体何の用なのだろうか―そんな事を想いながら有匡が晴明と共に奥の部屋から寝殿へと移動すると、そこには藤原道長が渋面を浮かべながら彼らを待っていた。「道長様、このような夜明け前にいらっしゃるとはお珍しい。何かわたくしにご用なのですか?」「勿体ぶった言い方をするな、晴明!わしがここに来たのは・・」「中宮となられた彰子様の御身に、何かあったのですか?」「流石だ晴明、わしがお主の元へ来たのはその事よ。」道長はそう言った後、晴明の隣に立っている有匡の存在に気づいた。「晴明、その男は誰だ?」「こちらの方は、わたしの遠縁の従兄にあたる、土御門有匡殿です。」「お初にお目にかかります、道長様。土御門有匡と申します。」「遠縁の従兄だと?確かに、少しお主に似ておるな。」道長はそう言って鼻を鳴らすと、ジロリと有匡を見た。「して、道長様、詳しくお話を聞きましょうか?」「あぁ、実はな・・」道長は寝殿に通され、晴明と有匡に“ある事”を依頼した。それは、出産を控えた娘・彰子を呪詛しようとしている者を突き止めよ、というものだった。「ほぉ、それはそれは・・」藤原道長は、娘を入内させ、その娘が懐妊した事により、自分達を恨む者が呪詛を企んでいると考えている。「して、その者に心当たりはございますか?」「それを突き止めて欲しいと言うておるのだ!」何という無理難題をふっかけるのだろうと、有匡は晴明と道長の会話を聞きながらそう思った。いつの世も、時の権力者というのは身勝手な者が多い。「彰子様の周りに居る者達の中に、呪詛を企む者が居るのでは?」「あぁ、そうだ。そこで、お前とその従兄に、後宮へ潜入して貰う。」「後宮へ、ですか?」「そうだ。お前達ならば、男だと簡単に露見する事もなかろう。」「承りました。」権力者に逆らえる筈もなく、晴明と有匡は後宮に潜入する事になった。「先生、お似合いです!」「やけに楽しそうだな、火月?」「前に一度、式神のおねーさん達と、先生が女装したら絶世の美女になるだろうなぁって話していた事があったんですが、まさにその通りになりましたね!」「そうか・・」有匡がそう言って溜息を吐いていると、“式神のおねーさん達”こと、有匡の式神である種香と小里が二人の元へとやって来た。「きゃ~、殿、お美しいですわ~!」「う、眩しい、目が、目がぁ~!」「先生、頑張ってくださいね!」「火月、お前も一緒に行くんだぞ。」「え?」「お前を一人にすると、心配だからな。」「え、えぇ~!」こうして、火月と種香達は有匡と共に後宮に潜入する事になった。「うわぁ、華やかな所ですね~」「火月、余りキョロキョロするな。」「す、すいませんっ!」「そこ、私語を慎みなさい!」「申し訳ございませぬ、こちらの者は、宮仕えが初めてな者でして、中宮様にお会いできる日を指折り数えて待っていたので、つい興奮してしまったのですよ、そうよね、火月?」有匡はそう言うと、年嵩の女房に睨まれた火月を庇った。「はい、申し訳ありません。」「中宮様の前では、失礼のないようにね!」年嵩の女房はジロリと有匡達を睨むと、そのまま主である彰子の元へと向かった。「中宮様、起きていらっしゃいますか?」「ええ、起きているわ。」そう言って御帳台の中から顔を出したのは、道長の娘であり中宮である、藤原彰子だった。「お父上様から、遣わされた新しい女房達がいらっしゃいました。」「まぁ、父上も心配性がますます拍車がかかっていらっしゃるようね。」(綺麗な方だ・・)真に美しい人は性別問わずその美は顔の美醜に関係なく、“内側”―心の美しさにあるのだと、有匡は彰子と会ってそう思った。「お初にお目にかかります、有子と申します。こちらは、わたくしの妹の、火月です。」「お初にお目にかかります、火月です。」「素敵な瞳の色ね。まるで炎を映したかのようだわ。」「ありがとうございます・・」「中宮様、妹は宮仕えが初めてなので、何かと至らぬ所もございますが、何卒ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します。」有匡がそう言って彰子に頭を下げ、彼女の局から去った時、火月が少し拗ねたような顔をして自分を睨んでいる事に気づいた。「どうした?」「べ、別にっ!」「お前、もしかして、わたしが中宮様と浮気するとでも思っているのか?安心しろ、わたしはお前しか愛さない。」「せ、先生~!」火月は喜びの余り、鼻血を出してしまった。「全く、あれ位の事で鼻血を出す奴が居るか。これから先が思いやられるな。」「す、すいません・・」有匡が火月を介抱していると、そこへ一人の女房がやって来た。「あなた方が、新しくいらした方ね?はじめまして、わたくしは紫式部よ、よろしくね。」「有子と申します。紫式部様、その巻物は?」「これは、わたくしが今書いている物語なの。中宮様のお心が、少しでも軽くなられるようにと、続きを書いてみたのよ。」「少し拝見してもよろしいでしょうか?」「ええ、構わないわよ。」女房―紫式部から巻物を見せて貰った有匡は、その物語が後に世に残る大作である事に気づいた。「まぁ、面白くなかったのかしら?」「いいえ、面白かったです。中宮様が続きを読みたいとおっしゃる理由がわかるような気がしますわ。」「ありがとう、この物語は、一人の男の人生と、その子供達のお話なのよ。」「お引き留めしてしまって申し訳ありませんでした、紫式部様。ひとつ、お願いがございます。」「何かしら?」「この物語の続きが出来たあかつきには、中宮様よりも先に読ませて頂けませんか?」「まぁ、そんなのお安い御用よ。」紫式部はそう言って、鈴を転がすような声で笑った。「ねぇ有子様、ご存知?定子様の所に、新しい女房が来られたのですって!」「定子様の所に?どのようなお方なのかしら?」「さぁ・・その方は、射干玉の如き艶やかな黒髪と、涼やかな目元をされておられるとか・・名は、晴子様とおっしゃったわね。」「まぁ、何という因縁なのでしょう、従妹同士がそれぞれ違う主に仕えるなんて・・」「晴子様、有子様とご親戚でいらっしゃるの?」「ええ・・親戚といっても、名前だけ知っている間柄ですわ。」「まぁ、そうなんですの。」周りの女房達から、“晴子”との関係を質問責めにされ、有匡がそう言ってのらりくらりと彼女達の質問をかわすと、彼女達はたちまち他の話題を話し始めた。(危なかった・・)「何やら、彰子様の方が少し賑やかですわね。」「新しい女房が二人、いらっしゃったようですわ。おひとりは美しい黒髪の方と、もうひとりは眩い金の髪を持った方だとか。」定子の元に仕える女房・清少納言は少し苛立ったかのような口調でそう言うと、持っていた檜扇を指先で弄った。「何をそんなに苛々しているの、少納言?」「紫式部が、あの物語とやらを・・」「あなたの随筆も、中々面白いですわ。」「ありがとう、晴子さん。」檜扇の中で溜息を吐きながら、“晴子”―もとい晴明は、彰子を呪詛しようとする者を突き止める前に、女だらけの職場である後宮独特の空気に参ってしまうのではないかと思い始めていた。そんな中、後宮で楽競べというものが行われ、有匡と火月は和琴で、晴明は琵琶でそれぞれ出る事になった。楽競べは滞りなく終わる筈であったが、博雅が彰子に招かれて後宮で女装姿の晴明を見つけてしまった。(晴明、晴明ではないか!)にほんブログ村二次小説ランキング
2024年03月26日
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頭に大怪我をして、見知らぬ男に保護されたエミリー。男の正体と、二転三転する展開にページを捲る手が止まりませんでした。記憶喪失ものって、面白いです。
2024年03月24日
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わけありの男女が知り合う…ベタな展開ですが、二転三転する展開の後に感動のラストシーンまで一気読みするほど面白かったです。
2024年03月22日
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素材は、ヨシュケイ様からお借りしました。「薄桜鬼」「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「何だ、子供か。」「兄者、この童、中々の上玉ですぞ。人買いにでも売って・・」「お待ちください、そのような・・」 従兄達の横暴な振る舞いを見かねた有匡は、咄嗟に彼らに抗議しようとしたが、彼らは有匡を殴った。「口答えをするな!」「そうだ、我が家に置いて貰えるだけ有難いと思え!」 従兄達は、有匡と女児をその場に残して去ってしまった・「大丈夫か?」「はい・・」 女児は、そう言うと真紅の瞳で有匡をじっと見つめた。「ありがとうございます。このご恩は必ず返します。」「そんな事はしなくてもいい。わたしは、当然の事をしただけだ。」 有匡がそう言った時、遠くから人の声が聞こえて来た。「では、僕はこれで。」「おい、待て!」 女児はさっと有匡に背を向けると、声が聞こえる方へと素早く走り去ってしまった。 彼女の事は、記憶の片隅に有匡が留めておいた筈―だった。 火月と再会するまでは。「お前、あの時の・・」「漸く、お会い出来ました・・有匡様。」 火月はそう言うと、有匡に抱きついた。「何故、わたしの名を?」「土御門有匡先生といえば、京では知らぬ者など居ない大陰陽師だと、噂で聞いております。」「噂など、あてにならぬ。それよりも、そろそろ離れてくれぬか?」「あっ、すいません・・」 有匡の言葉を聞いた火月は、顔を赤くしながらさっと有匡から離れた。「矢傷の方は、大丈夫ですか?」「あぁ、軽く掠った程度だ。」 有匡はそう言うと、血で汚れた衣を脱いだ。 それを見た火月は、悲鳴を上げて彼から後ずさった。「どうした?」「すいません、血が苦手で・・」「そういえば、まだお前の名を聞いていなかったな?」「火月・・炎の月と書いて、火月と申します。」(不思議な娘だ、大抵の者は、わたしの顔を見ただけで逃げる者が多いというのに・・)「傷の手当てをしてくれて礼を言う、火月。」「待って、待ってください!」「何だ?」「あの、先生にひとつお願いが・・」「わたしに?」「僕、あなたの子供を産みたいんです。」 火月の爆弾発言に、有匡は暫く驚きで固まってしまった。「それをわたしに告げて、どうしろと?」「すいません、忘れて下さい。」 そんなやり取りを有匡と火月が東の対にある局でしていた頃、西の対にある自室で歳三は御帳台の中で何度か寝返りを打ったが、眠れなかった。というのも、義成が敵対関係にある有匡の変装を見破り、彼を捕えようと騒ぎを起こしたからだった。「歳三、居るか!?」「ええ、居りますよ。何です、こんな夜中に大声をお出しになって・・」「そこに、あの男は居るのか!?」 義成はそう言うと、御帳台の方を指した。「さぁ、存じ上げませんよ、“あの男”の事など。それよりも、東宮様のお相手をするのは、もうお済みになられたのですか?」「東宮様は、元高殿と共に御所へお戻りになられた。どうやら、元高殿と東宮様は気が合うらしい。」「まぁ、それは残念でしたね。もう休みたいので、出て行って貰えませんか?」「邪魔したな!」 御簾を乱暴に捲り上げ、義成は歳三の自室から出て行った。(あぁ、うるさかった・・) 歳三は御帳台の中へと戻ると、今度こそ本当に眠った。「ん・・」 有匡が目を開けると、自分の胸の上に火月が寝ていた。「おい、起きろ。」「すいません・・」 夜の闇に紛れて土方邸から脱出しようとしたのだが、いつの間にか有匡は眠ってしまったらしい。「姫様、どちらにおられますか~?」「姫様~」 衣擦れの音が渡殿の方から聞こえ、その音が徐々にこちらへと近づいて来る事に有匡は気づき、慌てて火月を己の胸の上から退かそうとした。 しかし、火月が悲鳴を上げ、体勢を崩してしまった。「姫様、起きていらっしゃいますか・・きゃぁぁ~!」「姫様~!」 火月付きの女房が見たのは、有匡に押し倒されている主の姿だった。「姫様、大丈夫ですか!?この男をわたくし達と同じ牛車に乗せるなど!」「僕は本気です。あなた達が嫌なら、先に高原家へ戻っていなさい。」「は、はい・・」 有匡が自分達と同じ牛車に乗る事を知った火月の女房達は、咄嗟に火月に抗議したが、彼女からそんな言葉を返されて黙ってしまった。 彼らを乗せた牛車は、気まずい空気に包まれたまま土方邸から出て、高原邸に着いた。「殿、火月様が土方家から戻られました!」 高原家当主・義高は、女房から火月が土方家から帰宅した事を知り、寝殿から出て牛車から降りて来た火月を温かく出迎えた。「只今戻りました、父様。」「火月よ、土方家での宴はどうであった?和琴は上手く弾けたか?」「はい。父様、姉様は?」「茜なら、昨日から自分の部屋に引き籠もっておる。まったく、あいつはいつまでも拗ねておるのやら。」 義高はそう言った後、東の対の屋の方をちらりと見た。 そこには、彼の正室の娘・茜が住んでいた。 茜は美貌と知性を兼ね備えた高原家の一の姫なのだが、性格のきつさが災いし、義高から蔑ろにされていた。 火月の母は義高の側室であったが、火月が三歳の頃に亡くなり、彼女の母の忘れ形見である火月を、義高は溺愛していた。「火月よ、その女は見ぬ顔だな?」「土方家で、賊に襲われて僕達の局に逃げ込んで来たのです。何やら訳ありなので、我が家で匿う事に致しました。」「そうか・・」「火月、帰っていたのね。」「は、義母上・・」 火月の顔が、一人の女―義高の正室・倫子を見た途端に強張ったのを有匡は見逃さなかった。「そちらの方は?」 ジロリと蛇のような冷たい目で倫子に睨みつけられ、有匡は咄嗟に顔を絹の袖口で隠した。「火月が土方家で匿った訳有りの女らしい。」「まぁ、そなた、名は?」「義母上、この方は賊に襲われたショックで声が出ないようなんですの。」「まぁ、そうなの。殿、このような素性がわからぬ女をこの家に入れるなど・・」「僕付きの女房に致します。決して、義母上や姉様にはご迷惑をお掛けしません。」「そう。ならばいいわ。」 こうして、有匡は高原家で火月付きの女房として暮らす事になった。 一方、土御門家では有匡が失踪し、彼の伯父はショックの余り床に臥せってしまった。「父上には困ったものだ。実子である我らよりも、従弟である有匡ばかり可愛がって・・」「狐の子の癖に、お情けでこの家に置いてやっているというのに・・」 有匡の従兄達は、今日も彼の悪口に華を咲かせながら囲碁を打っていた。「爽子様、有子様が行方知れずになってもう七日も経ちましたわね。」「有子様は、無事なのかしら?」「有子様なら大丈夫よ、無事に帰って来るでしょう。」 爽子は飄々とした口調でそう言うと、檜扇で顔を扇いだ。 そんな中、火月に縁談が来た。「相手は、三条高人様ですよ。何でも、あの光源氏のような方だとか。」「その縁談、断っちゃ駄目?」「まぁ、何故断るのです?」「だって、僕には既に、心に決めた方がいらっしゃるもの。」「火月、火月は居るのか!?」「どうかなさったのですか、父様?そんなに大声を出されて・・」「喜べ、お前の入内が決まったぞ!」「え・・」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年03月22日
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夫の暴力から逃れ、見知らぬ土地で生計を立てようとするスザンナ。ジョーや子供達との交流、そして息子との再会に至るまで、ページをめくる手が止まりませんでした。「英国海軍紳士シリーズ」も良かったですが、この作品も面白かったです。
2024年03月22日
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コスタリカのジャングルを舞台にした逃避行と、ラストシーンまで一気読みしました。リンダ・ハワードさんの作品に登場するヒロインは凛としていてカッコいいです。
2024年03月22日
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いやぁ、2巻目でまさか二人のキスシーンを見られるとは思ってもみませんでした。というか、シャンチャオが寝ていましたから、ガチのキスシーンではありませんでしたけど(笑)また気になる所で終わったので、続きが楽しみです。攻様が本当に、シャンチャオの事好きなんだなぁと思いました。
2024年03月20日
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流石平安時代ファンタジーの名手、瀬川先生。白菊丸の出生に纏わる因果関係がまだ残っているので、続くのかしら?ツンデレな千手が可愛いです。
2024年03月20日
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人魚伝説をモチーフにした和風シンデレラストーリー。朝名と咲弥は運命の恋人たちなので、彼らが結ばれて幸せになるまでこのシリーズを追いかけようと思います。
2024年03月20日
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母がイオンで買ってきてくれました。味は、普通のカラムーチョの方が良かったかな。
2024年03月19日
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砂漠の国の王女・エロディは、島国オーリア国の皇太子ヘンリーと政略結婚することになるが…序盤からラストシーンまで、息をつかせぬ展開が続いて、面白かったです。エロディの逞しさが際立った作品で、ドラゴンと意思疎通する姿も凛としていて格好良かったです。まさに、表紙の女性のイメージそのものでした。
2024年03月19日
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母が近所のスーパーで買ってきた、期間限定のかっぱえびせん桜えび味。色がピンクで綺麗で、味も香ばしくて美味しかったです。
2024年03月18日
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清霞と美世のラブラブ新生活を読んで堪能しました。清霞の過去編は辛いものでしたが、その反面新婚生活編は甘いものでした。あと何巻で完結するのかはわかりませんが、これからも二人の幸せを追いかけようと思いますし、アニメ二期も楽しみです。
2024年03月18日
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素材は、てんぱる様からお借りしました。「火宵の月」「呪術廻戦」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は読まないでください。 その廃墟は、鶴岡八幡宮の近くにあった。「うわぁ、デッケェ~!」 そう言って虎杖悠仁は、不気味な雰囲気を醸し出している洋館を見た。「本当に、何か居そうよね。」 悠仁の隣に立っている釘崎野薔薇は、洋館の奥に潜む“何か”を感じ取っていた。「みんな~、サクッと早く終わらせて、さっさと帰ろうか?」「五条先生、相変わらずやる気がない・・」「うん、まぁ、いつもの事だし・・」 悠仁と野薔薇が、欠伸をしている五条悟を呆れ顔で見つめていた時、闇夜を切り裂いて、悠仁に向かって数本の筮竹が飛んで来た。「悠仁、危ない!」 五条が寸での所で悠仁の顔面目掛けて飛んで来た筮竹を掴み、その持ち主の元へとそれを戻した。「ちょっとぉ~、俺の教え子に物騒なの投げ付けないでくれる、そこのお兄さん!」「・・お前達、土御門家の刺客か!?」 そう言いながら悠仁達の前に現れたのは、立烏帽子姿に直衣姿の、平安貴族のような格好をした男だった。 美しく艶やかで長い黒髪をなびかせたその男は、切れ長の碧みがかった黒い瞳で悠仁達を睨んだ。「え、何なのこいつ、ヤバいんだけど?」「あの~、俺達、怪しい者では・・」「妻を・・火月と双子を何処へやった!?」 男はそう悠仁に掴みかかると、鋭い刃物のような“気”をぶつけて来た。「臭う、臭う。獣の臭いがするぞ。」 悠仁―否、彼がその身に宿した両面宿儺が愉快そうな口調でそう言って笑うと、男の眉間の皺が深くなった。「貴様、両面宿儺か。運が悪かったな、今日のわたしはとても機嫌が悪いんだ。この童諸共、冥土へ送ってやる!行け、式神!」 雷鳴と共に現れたのは、鋭い牙と爪を持つ青龍だった。「う、わぁ~!」 男と揉み合っている内に、悠仁は足を踏み外して、大理石の階段から落ちてしまった。「俺の教え子に怪我させるなんて、どういうつもり?」 五条はそう言いながら、両目を覆っていた黒の目隠しを外した。「六眼・・貴様も妖か?」「失礼だな、人間だよ。そういう君は、半人半狐だね?道理で獣臭いと思った!」「抜かせ!」 男はそう叫ぶと、五条に“気”をぶつけてきた。「わ~、怒った!」「ちょっと先生、相手を怒らせてどうするんですか?」「伏黒、来たんだ。」 階段から転げ落ち、腰と尻を擦っていた悠仁は、遅れてやって来た伏黒恵の様子がおかしい事に気づいた。「どうした、伏黒?」「あの人、何でここに?」「え、あの人、知ってる人?」「話はあとで。」 恵はそう言うと、一気に大理石の階段を駆け上がり、五条と男の間に割って入った。「あんた、こんな所で何しているんですか!?」 恵はそう叫び、五条から男を引き離した。「え、伏黒そいつ知ってんの?」「知ってるつうか、道端で倒れているのを見つけて保護しただけだよ。」「恵ちゃ~ん、俺という恋人が居るのに、浮気なんて酷いわぁ~」「先生、黙って下さい。有匡さん、帰りますよ。」「うるさい、わたしに構うな。」 そう言って恵の手を払った男の額には、脂汗が浮かんでいた。「傷口開いたら、どうするんですか!?」 恵がそう叫んだ後、男は五条の胸に突然倒れ込んだ。「キャ~!」にほんブログ村
2024年03月17日
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古代エジプトにタイムスリップした元ヤンピザ職人隼人があったのは、女王の弟・ジェセル。ジェセルは、最初は隼人に塩対応でしたが、終盤あたりになるとデレの領域展開を発揮していましたね。隼人が、元の世界にとどまるという選択をしたのは、ジェセルと想いが通じあったからでしょうね。面白かったです。
2024年03月16日
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わたしが高校生の頃に書いた二次小説を恥ずかしながら、ブログにUPいたします。火宵の月で平安パラレルです。異母兄妹の有匡様と、火月ちゃんの物語です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。何せわたしが高校生の頃に書いたものなので、少しイタイ文章になっているかもしれませんので、そこは突っ込まないでくださいw色々と捏造設定ありです、苦手な方はご注意ください。何でも許せる方のみ、お読みください。時は平安。『源氏物語』、『枕草子』などの女流文学が盛んになり、宮廷で文学サロンが開かれ、京都が最も華やかだった頃。陰陽道の大家・土御門家では、毎夜、管弦の宴が開かれていた。「ほら、御覧になって、有匡様よ。」「凛々しいお顔ねぇ。」「和琴を弾くお姿がなんともお美しいこと。」御簾越しに囁かれる女達の声に、有匡はウンザリしていた。土御門家の嫡男・有匡は、現在27歳。11代目当主・有仁(ありひと)と妖狐スウリヤとの間に生まれ、京一の陰陽師としてその名を轟かせている。演奏が終わり、有匡は周囲のざわめきから遠ざかるため、北の庭へと行った。(全く嫌になる。褒めそやすと思えば狐の子と蔑む・・宴などくだらない。)有匡は庭にある桜の木に寄りかかった。この桜の木は父・有仁が植えたものだ。有仁は宇治で綾香という女と出会い、女児を1人もうけた。悋気の強いスウリヤと比べて優しかった綾香に対して有仁は惹かれてゆき、宇治へと毎日通う程であった。綾香の邸に植えられた桜を見て、有仁はその美しさに感動し、この京の邸へと植えたのであった。愛人の存在を知りスウリヤは毎日綾香への呪詛を行った。やがて綾香は女児を産んだ。その女児は今15歳で、母親と母方の祖母と共に宇治で細々と暮らしているという。(名は、なんといったかな・・)フワリと、木の陰から長い金髪が見え、桜色のうちぎを着た少女が現れた。「火月様、有匡様を驚かせてしまってはいけませんよ!」火月の乳母らしき年配の女性が少女に声をかけた。(火月だと?宇治で暮らしていたのではなかったのか?)「有匡様、お久しゅうございます。」火月の乳母が有匡に深々と一礼した。「お兄様、お会いしたかった!」そう言うと火月は有匡に抱きついた。12年振りの再会であった。(宇治で暮らしている火月が、何故ここに?)有匡は火月に抱きつかれながら疑問に思った。「火月、来たか。」有仁が娘を愛おしそうに見ながら言った。「お父様!」火月は有仁に抱きついた。「旦那様、これからお世話になります。」火月の乳母が有仁に頭を下げた。翌朝。「実は綾香とその母君が先日病で亡くなったという知らせがあった。宇治の邸は綾香の死後すぐに売り払われ、他に身寄りがない火月を私が呼び寄せたのだ。」有仁は一族が集まる朝食の席で火月がここに来るようになった経緯を説明した。「あなた、何もこの子を引き取ることはないじゃありませんか。こんな子、野垂れ死ねば良いのですわ。」スウリヤは眉を顰めて火月を上から下までジロリと見ながら不快感を露わにする。愛人の子など、本妻である彼女にとって目障り以外の何物でもない。有匡は火月の方をチラッと見やった。流れる金色の髪は美しく、紅玉のような紅く澄んだ瞳は涙で潤んでいる。「母上、何もそこまで言うことはないではありませんか。火月は腹違いとはいえ、父上の御子なのですよ。」有匡はすかさず火月を庇った。「有匡、あなたまでそんなことを。私は認めませぬぞ。あの忌々しい女の子が我が邸の廊下を歩くなど・・考えても虫酸が走るわ。」そう言うとスウリヤは自室へと去っていった。有仁は妻の口の悪さにあきれながら、火月に優しく言った。「ここは宇治の邸と思っていればいいのだよ。有匡もいることだし、判らないことはなんでも有匡に聞けば良いのだから。」こうして、火月は有匡と同じ一つ屋根の下で暮らすこととなった。スウリヤの火月に対する風当たりはきつかったが、火月が苛められるたびに有匡が庇ってくれた。12年という長い歳月のせいか、初め有匡と火月はぎこちなかったが、有匡が火月の苦手な和琴を教えるたびに段々親しくなっていった。ある日。有匡が火月に和琴を教えているところへ、火月の乳母・寿子(としこ)がやって来た。「火月様に会いたいとおっしゃるお方がお見えですわ。」「私が出よう。」有匡は火月に会いたいという男がどんな奴が見に行くことにした。寝殿では1人の若い男が落ち着かなさげに周りをキョロキョロと見ている。この男は宮中で何かと仲間を引き連れ騒いでいる右大臣の息子だ。「火月の兄ですが、妹に何か御用か?」有匡に一瞥された男は、ビクリと身を震わせながら言った。「こ、これを火月様にお渡しください。」男は有匡に文を渡すと逃げるように去っていった。有匡は男の文を見た。『あなた様の光り輝く金髪は、私の心を捉えて離れません。どうぞ私の妻となって下さい。』有匡は文を破り捨てた。土御門家には、毎日10人位の貴公子達がやってくる。彼らのお目当ては火月である。火月は今年で15。流れるような美しい金の髪、紅玉のような澄んだ瞳、象牙色の肌ー輝くばかりに美しい火月に、京中の貴公子達は争うように火月に結婚を申し込んだ。中には唐渡りの衣や、南国の珊瑚など、高価な贈り物をする貴公子もいた。だが、火月は貴公子達の求婚を全て断った。ある日、有仁が求婚を断り続ける火月に対して尋ねた。「なぜ、結婚しないのだ?心に決めた相手でもいるのか?」すると火月は真剣な顔つきでこう答えた。「私が一生添い遂げたい相手は有匡お兄様だけですわ。」火月はいつしか有匡に恋心を抱き、結婚まで考えるようになった。有匡も、日に日に美しくなる火月を見て彼女を抱きたいという炎のような衝動に駆られるも、それを氷のように冷たい理性で抑える毎日だった。貴公子達は諦めず、最終的には5人の貴公子達が火月に求婚し続けた。「まるで、『竹取物語』のようですわね。」寿子が御簾越しで笑いながら有匡に言った。5人の貴公子の中には、あの右大臣の息子がいた。「火月さま、私の妻になってくだされば、金銀財宝の山をあなたに差し上げましょう。」1人目の、豪商として名の高い父を持つ貴公子が言った。「私、金銀財宝には興味がありませんの。」2人目は気品漂う貴公子。「火月様、私はあなたのために毎日歌をお詠み致しましょう。」「私、歌は自分で詠めますわ。」3人目は性欲ムンムンな貴公子。「火月様、私の子どもを産んでくだされっ!賑やかな家庭をつくりましょうぞ!」火月は露骨に嫌な顔をして言った。「私、まだ子どものことなど考えておりませんの。」4人目は管弦をこよなく愛する貴公子。「火月様、私と2人で愛の音を奏でましょうぞ。」「あなた以外の方ならよろしいですわ。」そして5人目ー「火月様、あなた様のお噂を聞き、ここまで参りました。けれども参る度にあなた様の兄上様に追い返されるばかり・・」有匡はキッと右大臣の息子をねめつけた。「火月様、あなた様の美しい金色の髪を私の指に絡ませ、その匂いを嗅ぎたいのです。どうぞ御簾を上げてください。一度でもいいからあなた様のお顔を拝見したい。」そう言うと右大臣の息子は御簾に近寄った。「私、強引な方は大嫌いですわ。」「まあそう言わずに。」右大臣の息子は火月の足首を掴み引きずり出そうとする。それをすかさず下男達が止め、邸へと叩き出した。「みんな頭が空っぽな男ばかり。お兄様だけが私の婿にふさわしいかたですわ。」そう言うと、火月はサラサラと衣擦れの音をさせて、部屋の奥へと引っ込んだ。火月が京の土御門邸に来てから1週間が経った。貴公子達の求婚を全て断った火月は、琴を弾いたりと悠々と毎日を過ごしていた。そんな火月を見た有匡の叔父は、あることを思いつく。ある日の夜、一族揃っての食事の席で、有匡の叔父は嬉しそうに火月に言った。「火月、お前は入内することになったぞ。」ザワッと辺りがざわめいた。スウリヤは微笑みながら言った。「まあなんてことでしょう。お荷物だったこの子が入内するなんて。」やっと愛人の子と暮らすことがなくなると知ったスウリヤは喜色満面だ。「火月よ!お前の美しい姿に帝は心を奪われるであろう。必ずや男の子を生み、土御門家を繁栄させるのだ!」それを聞いた火月は逃げるように部屋へと帰ってしまった。寿子も慌てて後を追う。火月の入内の話は本人の意思など無視してどんどん進んでいき、スウリヤが土御門家の名に恥じぬようにと、豪華な調度品や衣を支度する始末だ。有仁はそんな妻の様子を苦々しく見ていた。スウリヤは綾香と似ている火月を入内させることで厄介払いできると思っているらしく、いままでの冷たい態度はどこへやら、手のひらを返すように火月に優しくなった。(なんて女だろう、私はこの女と結婚したのが間違いだったのか・・)有匡もそんな母を見て吐き気がしてならなかった。母と叔父は愛人の子である火月が邪魔だから、入内をさせようと思いついたのだ。(母上はなんて冷たい女だろう。これでは火月が可哀想だ。)そして入内前夜。家の者が寝静まった真夜中、火月は眠れず、有匡の部屋へと向かった。有匡は日頃の激務で疲れているのかぐっすりと寝ていた。「お兄様。」火月は有匡の寝所に潜り込んだ。人の気配を感じた有匡は起きた。「火月か、もう子の刻を過ぎてるぞ。」「お兄様、抱いてください。」そう言うと火月は有匡を押し倒した。「何バカなこと言ってる、お前は帝の元に・・」「入内などしたくない!」火月は泣き叫びながら言った。「私が生涯添い遂げたい相手はお兄様だけ!抱いてお兄様!抱いて私を激しく壊して!!」火月の一言で有匡の理性が一気に崩れ落ちた。有匡と火月は互いの衣を引き裂き、激しく貪り合った。翌朝、火月は牛車に乗る前に、有匡に微笑んでこう言った。「お兄様の肌のぬくもりを、私は一生忘れません。」火月は御所へと向かった。これから待ち受けている運命を知らずに。火月は桜の舞う頃に入内した。彼女は麗景殿の女御の女房として仕えることとなった。「よろしくお願いいたします。」火月は主人となる女御に頭を下げた。すると女御は、火月を品定めするような目つきで見ながら言った。「あなたね。愛人の子のくせに、豪華なお道具類をお持ちになっている方は。」火月の顔が一瞬、こわばった。「主の私より目立たないでちょうだい。いいわね。」そう言うと女御は立ち去っていった。「火月様・・」寿子は青ざめて立ちつくしている火月の肩を優しく支えた。それから麗景殿の女御は火月に辛くあたった。何かと言うと、「愛人の子のくせに」とあからさまに罵り、仲間外れにする。火月は次第に鬱状態となり、食事を摂ることもままならなくなった。そんなある夜。帝が麗景殿へとやって来た。火月ははしゃぐ女御の隅で隠れていた。「あの子は?」帝は隅に座っている火月に興味を抱いた。「数日前に入内した娘ですのよ。陰陽道の大家・土御門家の愛人の子だとか・・」麗景殿の女御の話など、帝は聞いてもいなかった。ただ、火月の美しさに魅せられていた。それから火月の元に、帝から大量の美しい衣が贈られた。そして帝は、火月に麗景殿を与え、主であった麗景殿の女御を清涼殿から遠い桐壺へと追いやった。火月は一夜にして、宮仕えの身から、麗景殿の主となった。帝は暇さえあれば麗景殿に入り浸る程の寵愛ぶりであった。土御門家からはスウリヤから皇子を生めとの催促の手紙が毎日来た。火月は後宮の女達が欲する帝の寵愛を受けながらも、心穏やかではなかった。いつも彼女の心を占めているのは、有匡だけだった。火月が麗景殿の女御となって、3日も過ぎた頃。麗景殿に仕える女房達は主である火月には口をきかなかった。女房達は前の主である桐壺の女御を慕っており、新しく麗景殿の主となった火月のことは決して認めようとしなかった。「桐壺の女御様はおかわいそうに。あの女の口添えで帝に麗景殿から追い出されるなんて。」「赤眼の化け猫が帝に取り入るなど、ああ恐ろしい。」「たいした家柄でもないくせに。」「あの土御門家の愛人の子だからって、なんて図々しいんでしょう・・」今日も女房達は火月の悪口を言っている。彼女たちの陰口を火月は御簾越しに聞きながら目元に涙を溜めていた。(僕が何をしたっていうの?なんで僕がこんなに責められなくきゃいけないの?)「火月の悪口言うな、ブス共!!」あまりの女房達の陰口のひどさに、火月の女童(めのわらわ)の禍蛇が怒鳴った。「てめぇらネチネチ悪口言う暇あるんだったら手動かせよな!!」女房達は慌てて衣擦れの音を響かせながらそれぞれの仕事に戻った。「ったく、嫌な奴ら。火月も言い返したらいいじゃん。」フンと鼻を鳴らしながら禍蛇が言った。「でも、僕が梅壺の女御様をここから追い出したのは事実だから・・」そう言うと火月は几帳の陰に引っ込んでしまった。「火月・・」その時、御簾越しに何かが投げられた。火月は几帳から出て、叫んだ。「キャァァァッ!」それは、腐敗した犬の死骸だった。辺り一面に強烈な腐臭が漂う。「出てこいよ、火月に文句あるなら直接言えばいいだろ、この卑怯者!!」袖口で口元を覆いながら禍蛇が叫んだ。「禍蛇、いいよもう・・」火月がいきり立つ禍蛇をなだめた。「僕がいけないんだ・・だから黙って耐えないと・・」犬の死骸は毎日投げ込まれた。そして、火月が夜清涼殿に出向くたびに、廊下に針や汚物を撒かれたりした。火月が廊下を歩くたびに、女達は檜扇で口元を隠して陰口を叩いた。(僕がいけないんだ・・我慢しなきゃ・・)陰湿な嫌がらせに、火月は黙って耐えた。次第にストレスから火月は鬱になっていった。そんなある日。桐壺の女御が麗景殿にやって来た。「いい気分でしょうね、いつも帝のお傍にいられて。」「ええ、お陰様で・・」「人を追い出してまで帝の愛を独り占めにしようとなさるなんて、なんて恐ろしい方なのかしら。」「そんな、追い出すなんて・・」「あら、追い出したではないの。私を清涼殿から遠い処へと追いやって、さぞかしご満足でしょう?」桐壺の女御の言葉の一句一句が刃となって火月の胸に突き刺さる。「ふん、帝もこんな赤眼の化け猫のどこを好いてなさるのかしら。全く物好きでいらっしゃること。」「何だとこのクソババア!」禍蛇が桐壺の女御に墨を投げつけた。墨は桐壺の女御の衣を黒く汚した。「まあ、何て口が悪い女童でしょう・・主の躾がなってないのね。」「・・申し訳ございません。」「主は赤眼の化け猫、女童は躾のなってない山猿・・全く、これじゃあ麗景殿の行く末が思いやられるわね。」そう言うと桐壺の女御は言いたいことを言うとさっさと帰っていった。火月は涙を堪えて、衣を裂けんばかりに握り締めていた。女房達のこれみよがしな笑い声が、麗景殿に響いた。桐壺の女御の火月に対するいじめはますますひどくなる一方で、火月は自分の部屋に引きこもり寝込んでしまった。(もう嫌・・宇治のお母様の邸に戻りたい・・このままお母様の元へ召されたい・・)後宮の人間関係の複雑さ、そして女達の陰湿さに、火月は嫌気がさし、自殺まで考えるようになった。(火月様、おかわいそうに、あんなにやつれられて・・綾香様がお亡くなりになった後、私の実家の越後で暮らした方がよかったのでは・・こんなに火月様が苦しむとは思いませんでした・・全てはこの乳母のせい・・火月様お許しを・・)乳母の寿子は火月を京の土御門家に身を寄せずに、実家の越後で暮らした方がよかったのではと、日に日に弱っていく火月を見ながら自責の念に苛まれた。そんなある日。麗景殿に弘徽殿(こきでん)の女御と、藤壺の女御が火月の見舞いにやって来た。弘徽殿の女御は後宮の中ではご意見番として一目置かれている存在で、今年27歳である。15歳の時に入内し、後宮内のことは知り尽くしている。竹を割ったような性格で、思うことははっきりと口にする。帝からは後宮の管理を任されているほど頼りにされている。一方藤壺の女御は火月と1日早く入内した13歳の少女。幼い頃から病弱で、物静かな性格だ。だが琴や琵琶が得意で、帝は彼女の奏でる楽の音に心地よく耳を澄ませる程だ。「まあ弘徽殿の女御様、藤壺の女御様・・わざわざお越しいただき、ありがとうございます。」寿子は2人の女御に深々と頭を下げた。「頭をお上げになって。火月様は桐壺の女御様にいじめられ寝込んでいらっしゃるとか・・」そう言うと弘徽殿の女御は火月の部屋へと入っていった。藤壺の女御も後に続いた。「麗景殿女御・火月様ですわね?はじめまして、私は弘徽殿の女御・絢子(あやこ)と申します。」寝込んでいた火月は起きあがり、深々と頭を下げた。「こちらこそ初めまして、麗景殿の女御・火月と申します。こんな見苦しいお姿をお見せして、申し訳ありません・・」すると弘徽殿の女御は火月に優しく微笑んだ。「いいえ、こちらこそ突然訪ねて来たんですもの。失礼なのはこちらですわ。」弘徽殿の女御の後ろに控えていた藤壺の女御が火月に頭を下げた。「初めまして火月様。私は藤壺の女御・鞠子(まりこ)と申します。」そう言うと藤壺の女御は火月に頭を下げた。火月も藤壺の女御に頭を下げた。「ところで火月様、桐壺の女御様があなたに辛くあたっているという噂を耳に致しましたわ。」弘徽殿の女御がお見舞いとして持ってきた水仙を活けながら言った。「ええ・・あの方は私と会うたびに赤眼の化け猫と罵り、度々私の元を訪れては私を罵り・・」火月はいままで溜め込んできた思いを一気に吐き出した。「それだけではありません・・腐敗した犬の死骸を毎日投げ込まれたり、夜に帝の元へ行く度に廊下に針や汚物を撒かれたり、私が通る度に皆が陰口を叩き・・ここの女房達は毎日私の悪口を言い、休まる暇がございません。何故僕がこんな目に遭わなきゃいけないんです?何も桐壺の女御様を悪く言ったわけじゃない。桐壺の女御様に嫌がらせしたわけでもない。なのに何で女御様は僕をいじめるんです?どうして僕を目の敵にするんです?言いたいことがあったら陰でネチネチといじめないで堂々と僕に言えばいいじゃないですか!それにみんなも酷すぎるよ、桐壺の女御様が恐いからって僕をいじめて!みんな、みんな、大っ嫌いっ!」弘徽殿の女御と藤壺の女御は火月の愚痴をただ静かに聞いていた。「もう死にたいよ・・僕はこの世にいらない存在なんだ、僕が死んでも誰も悲しまない。死んだお母様の元に行きたいよ・・」「・・辛かったのですね、いままで溜め込んで溜め込んで・・これからは私たちがあなたを支えますからね。」「火月様、私が箏の音であなたを慰めますわ。私にできる唯一のことですけど、火月様のためになるのなら・・」弘徽殿の女御に赤ん坊のように優しく抱かれながら、火月は言った。「みなさん、ありがとう・・私、今幸せですわ・・私を気にかけて下さる方がいることがわかって・・こんな私ですけれど、私を支えてくださいまし。」弘徽殿の女御は火月を力強く抱きしめて言った。「これからは嫌なことがあってももう我慢なさらないで。遠慮なさらず、私たちに吐き出してください。」火月は弘徽殿の女御と藤壺の女御は、唯一無二の親友となった。弘徽殿の女御と藤壺の女御と仲良くなった火月は、以前の明るさを取り戻し、桐壺の女御のいじめも影を潜めていった。だが、火月の心は晴れなかった。入内前夜に、有匡と肌を交えたことが未だに忘れられないのだ。有匡の荒い息遣い、熱い手の感触、そして体内で感じた熱い兄の体液・・火月はいつしか自分を慰める日々を送っていた。乳母の寿子は有匡に文を書いた。5月になり、夏の匂いが感じられる頃。有匡が御所に参内した。彼は京を守る陰陽師として、帝から信頼され、毎日御所へと参内していた。その日の夜、有匡は麗景殿の女御から失せ物探しを依頼され、麗景殿へと赴いた。「有匡様よ。」「まあなんと凛々しいお顔。」「なんという神々しさでしょう・・」「ずるいわよ、私にも見せて。」麗景殿の女房達は京一の陰陽師の顔見たさに、御簾に殺到していた。(お兄様・・)火月は有匡の顔を見て、体が熱くなった。「女御様、どのような失せ物をお探しでしょうか?」有匡の形の良い唇が、火月の前で動く。火月は堪らず、御簾から出た。「女御様、なりません!」周りの女房の制止を振り切り、火月は有匡を押し倒した。「女御様、何を・・」「お兄様の意地悪!他人行儀な物言いはお止めになって!」それから寿子の計らいにより、女房達はそれぞれの部屋へと帰っていった。「お兄様、激しく私を壊して!!早く抱いて!!」有匡は火月の唇を貪り、激しく抱いた。この夜を機に、有匡と火月の運命の歯車は狂い始めていく・・。有匡は火月を抱いた。翌朝、火月は満足げに微笑んだ。「私の失せ物は、お兄様の愛。まだ見つかりませんの。」それから、有匡は火月に「失せ物探し」を依頼され、毎晩麗景殿に赴くようになった。「麗景殿の女御が、そなたを好いていると聞く。火月はうい女じゃ。優しくしてやってくれ。」「はい、主上(おかみ)。」毎晩麗景殿で、有匡は火月を激しく抱いた。火月は兄に抱かれるたびに悦びの声を上げた。(有匡様が火月様をあんなに好いていらっしゃるとは・・でももし主上にバレたら・・)几帳越しに聞こえてくる2人の喘ぎ声を聞きながら、寿子は不安な気持ちに駆られた。一方、火月を疎ましく思っている桐壺の女御は法師を呼び寄せた。「お前に頼みがあるの。」法師・文観は期待に瞳を潤ませていた。「麗景殿女御・火月を呪殺してちょうだい。主上を奪ったあの女に、地獄の苦しみを味あわせてやるのよ。」「御意。」有匡と火月の関係は、後宮中が知るところとなった。それは、桐壺の女御にも伝わった。(しめたわ。これをネタにしてあの女を京から追い出せる。)早速桐壺の女御は主上に有匡と火月の関係を報告した。しかしー「そなたは火月に嫉妬してるのじゃ。有匡が火月と通じおっているはずがなかろう。」帝はそう言って一笑に付した。弘徽殿の女御が、火月を心配して麗景殿にやってきた。「あなたは主上に愛されているではないの。何故有匡様なんかと・・」「僕は入内する気なんて初めからなかったんです。」火月は口元を檜扇で隠しながら言った。「僕は昔からお兄様のことが好きだった・・12年ぶりに再会して、ご成人したお兄様を見て恋心を抱きました。土御門家で優しくしてくれるお兄様のことが好きになってしまった。しまいには・・お兄様の妻になりたいと思い始めたんです。絢子様、僕はお兄様に毎夜抱かれて、幸せなんです。主上は素晴らしい御方だし、優しい御方です。でも、僕はお兄様じゃなきゃだめなんです。お兄様じゃないと、僕は・・」「そう。あなたはそんなに有匡様を想っていらっしゃるのね。」弘徽殿の女御はそう言って帰っていった。翌日。火月はここ最近、体調がすぐれなかった。「火月様、お食事ですよ。」「ありがとう、寿子。」そう言って火月は食事に手を伸ばそうとした。突然激しい吐き気に襲われ、火月は両手で口元を覆った。「火月様、もしや・・」妊娠3ヶ月に入っていた。(なんということ・・お兄様の子が・・僕のお腹に・・)火月懐妊の報せを受け、帝は大層喜んだという。桐壺の女御は、火月が帝の子を妊娠したことを知り、ますます彼女に対する憎しみを募らせた。(男子を産ませてはならぬ!)文観と桐壺の女御は毎日護摩壇に立ち、火月に呪詛をかけた。一方有匡は火月が妊娠したと知り、罪に震えた。(なんということだ・・私は、妹を犯した・・)腹違いであっても、血族間との結婚は許されない。火月に宿っている胎児は間違いなく有匡の子だ。(なんとかして火月に産ませないよう、説得せねば。)生まれてくる胎児は不義の子だ。不義密通の罪は重い。末代まで苦しむことになるくらいなら、早めに処置をしなければ。有匡は直ちに麗景殿へと向かった。同じ頃、火月はスウリヤからの豪華な祝いの品に困惑していた。土御門家では塵芥のように火月を扱っていたのに、帝の子を妊娠してくれてありがとうと、礼の文まで添えられている。『あなたが帝に見初められるのはあなたと会った時からわかっていましたよ。必ず元気な男の子を産むのですよ。』つまり、お腹の子が男の子だったら、土御門家は外戚として栄える。スウリヤは火月のことなどどうでもよく、家の利益しか頭にないのだ。(お義母様は私を土御門家を栄えるための道具として入内させたのだわ。)「有匡様がお見えになりましたよ。」有匡は手に何か薬を持っていた。「お兄様、私を祝いに来てくださったの?」火月は喜びに期待を膨らませた。だが、有匡が口にしたのは意外な言葉だった。「鬼灯(ほおずき)の根を粉末にしたものだ。飲め。」つまり堕胎しろと言っているのだ。有匡が祝福してくれるものと思っていた火月はその場で凍りついた。「お兄様、どうしてそんなことおっしゃるの?」「不義密通の罪で土御門家が汚名を着せられるし、何より不義の子として生まれてくる子が一生苦しむよりは堕胎した方がいいだろう。帝の子と偽るよりも、いつかはバレるのだから。」(土御門家、土御門家って・・・お義母様やお兄様は家のことしか考えないの?私のことなどどうでもいいの?)火月は有匡から堕胎薬をひったくり、庭に投げ捨てた。「何をするんだ!」「私は産みますからね!」火月は大声で叫んだ。「何よ、不義の子だから産んではいけないというの?家のことしか考えてないの?私は妊娠を知ったとき、嬉しくて天にも昇る気持ちだったのに・・お兄様は母親となる私の気持ちを奪おうというの?あんな世間体のことしか考えてない腐った家のために、この子を殺そうと思ったの?そんなの自分勝手よ!この子だって生まれる権利はあるのよ!お兄様、怖いんでしょう?この子が生まれて今の地位が脅かされるのを恐れてるんでしょう?地位なんてくそくらえよ!この子の父親はお兄様、あなたなのよ!世間体のことしか考えられないの?私のことなんかどうでもいいの?この子は要らない子だから、殺してもいいって思ってるの?最低よ!この子は今私の子宮で生きてるの!10月10日を過ごして、私たちの前に姿を現すのを楽しみにしてるのよ!胎児だって人間よ、物じゃないわ!」火月のあまりの剣幕に、有匡はたじろいだ。「自分勝手なのはお前の方だ!生まれてきた子が親が犯した罪で一生苦しむのを想像したことがあるか?親戚に罵られ、通りを歩いてると石を投げられる姿を想像したことがあるか?すぐに堕ろせ!望まれない子を産んだって、お前は幸せになれない!」そう言うと有匡は火月の手を引っ張った。「嫌よ、放してよ!私はこの子を産むわ!幸せになれなくたっていい!この子が望まれない子だって、どうしてわかるのよ?それはお兄様がこの子が邪魔だから堕ろそうとしてるんでしょう?絶対に、私はこの子を産みますからね!!」そう言うと、火月は蹲った。「火月様、どうなさいました?」「赤ちゃんが・・赤ちゃんが・・」火月は流産しかかっていた。「不義の子だと一生罵られて生きるよりは、今ここで死んだ方が楽かもしれん。」有匡の余りの無責任さに火月は激昂した。「何よ、無責任だわ!私とセックスしたのはお兄様じゃない!父親としての自覚を持ってよ!!」火月は激痛に呻きながら叫んだ。「火月様あまり興奮なさるとお腹のややに障りますわ。」結局流産は免れた。だが火月は有匡に対して不信感を露わにしていた。(私は絶対にこの子を産むわ!!)火月は既に母としての自覚を持ち始めていた。12月。京には雪が降り、都の美しさを一層際だたせていた。麗景殿では臨月の火月が愛おしそうに下腹部を撫でていた。「火月様、寒さはおややに障りますから、暖かい処へ。」寿子はそう言って、火鉢の置いてあるところへ火月を連れて行った。あれから有匡と火月は一度も会っていない。火月は自分の都合で一方的に堕胎を勧める有匡に腹を立てていたのだ。「火月、大丈夫?辛くない?」禍蛇が火月の下腹部をさすりながら言った。「大丈夫だよ。最近よく蹴ってくるけど・・・あっ、また」火月はそう言って立ち上がろうとした。その時。バシャッ火月の足下から湯がしたたり落ちた。「うそ、予定日はまだ先なのに・・」しばらくして激しい陣痛が火月を襲った。有匡は火月の安産の加持祈祷のため、御所に参内した。既に護摩壇が焚かれ、法師達が経を唱えている。有匡は護摩壇を焚くと、無心に祭文を唱え始めた。一方、麗景殿では、火月が陣痛に呻いていた。「痛い、痛い!」寿子が優しく火月の額に滴る汗を拭う。弘徽殿の女御と藤壺の女御が駆けつけてきた。「火月様、お気を確かに。」弘徽殿の女御は火月の手を力強く握った。「大丈夫ですわ、元気な御子が生まれますわ。」藤壺の女御は火月を励ました。桐壺の女御は死産を願って文観と加持祈祷をしていた。(産ませてやるものか。あんな化け猫に、帝の子を産ませてなるものか!)(痛い・・いつまで続くの?)火月の前に、死んだはずの綾香が現れた。「お母様、どうして?」綾香は優しく微笑み、火月の手を握った。「頑張るのよ。私はいつでも見守ってますからね。」そう言うと綾香は消えていった。「お母様、待って!!」それから4日間、火月は陣痛に呻いた。「あぁ、痛いっ!あぁぁぁっっ!!」「頭が見えてきましたよ!あともうちょっとですよ!!」「あぁ~っっ!!」オギャア、オギャア、オギャア激しく吹雪の舞う中で、難産の末1人の男の子がこの世に生を受けた。「皇子様のご誕生ー!」「火月様、おめでとうございます。」「赤ちゃんを見せて。」寿子が火月に赤ん坊を手渡した。「なんて可愛らしいんでしょう・・」火月は赤ん坊に乳を含ませながら言った。有匡は火月が無事男児を出産したと知り、安堵のため息をついた。後日、有匡によって赤ん坊の名前は「有輝(ゆうき)」と名付けられた。後の光武帝である。「おのれぇぇぇ!!」桐壺の女御は怒り狂った。桐壺の女御の父・右大臣源実時は、左大臣である土御門家の姪・火月が皇子を生んだことにより、これまで宮廷を牛耳っていたのが逆転、大臣へと出世した身が閑職へとおいやられた。実時は太宰府の地方官として左遷され、崩れ落ちる寸前のあばら屋を住居に与えられた。(おのれ・・土御門・・許せぬ・・末代まで呪うてやる・・)実時はろくな食事を口にすることもできず、渇きと飢えに苦しんだ末誰にも看取られず死んだ。父の訃報を聞いた桐壺の女御は、火月に対して激しい憎しみが湧いた。毎日火月への呪詛を欠かさず行った。その効果が出たのか、生まれてまだ5日も経っていない有輝が、流行病にかかった。高熱を発し、体が激しく痙攣する。有匡は加持祈祷を8日間飲まず食わずで行った。有輝は一命を取り留めた。(おのれ!)やがて後宮内に噂が流れた。『有輝親王が流行病にかかったのは桐壺の女御が呪詛をしたからだ。』桐壺の女御はバレるはずがないとタカをくくっていた。しかし、弘徽殿の女御に護摩壇を焚いているところを見られてしまう。帝は謀反をしたとして桐壺の女御を鬼界島へと流罪にした。(私がこんな目に遭うのは、あの忌々しい化け猫のせい・・あの女さえいなければ父上も惨めに死ぬこともなかったわ。それに有匡・・あの陰陽師め。狐の子のくせに・・。死んでも許さぬ。末代まで祟ってやる・・)桐壺の女御は、父・実時と同じ末路を辿り、浜辺で野垂れ死んだ。この父娘の深い恨みは、土御門家の子孫を苦しめることになる。有輝はすくすくと母の愛情を受けて成長し、3歳になった。目がクリクリとして、艶やかな黒髪は稚児の輪にしていた。「なんだか有匡様の小さい頃にそっくりですわね。」一時期京の土御門家で有匡の乳母をしていた寿子は、有輝の頭を撫でながら言った。火月は一瞬、体がこわばった。「え、ええ、そうね・・」(寿子は知っているのだわ。有輝が帝の子ではなく、僕とお兄様との間に出来た子だと・・)「火月様、どうかなさいました?」寿子が心配そうに火月の顔をのぞき込む。「いいえ、大丈夫よ。」そこへ有匡がやって来た。「あら、お兄様。」「御袴着の儀の日程を知らせに来た。4日後だ。」有匡はそう言うと、立ち去ろうとした。「父様ー。」有輝がそう言って、有匡の直衣の裾にまとわりついた。一瞬、気まずい沈黙が麗景殿に流れる。「いやぁね、この子ったら。有輝、あなたの父様は主上でしょう?」火月はそう言って有輝を有匡から引き離そうとした。「ううん、違うよ。有匡様が僕の父様だもん。」「いい加減になさい!」有匡の足下にしがみついて離さない有輝を、火月は怒鳴って無理矢理引き離した。「やだぁ、僕父様と一緒にいたいのに。母様の意地悪!」 ギャァァッ先ほどまで寝ていた1歳の華月(かげつ)が、有輝の声で起きてしまった。「もう、あなたが騒ぐから妹が起きたじゃない。あっちへ行ってなさい!」有輝は有匡の方へと走っていった。「僕これから父様と暮らすもんね、母様の意地悪!」火月は麗景殿で寝る暇もなく子育てに身をすり減らしていた。3歳の有輝はちょうど反抗期だ。妹の世話にかかりきりの火月に有輝はわざと火月を困らせて関心を惹こうとする。火月は有輝を怒鳴りつけるばかりだ。(もう嫌・・いつまでこんな生活続くの?)火月は育児ノイローゼにかかっていた。土御門家に帰ることはしなかった。仮にしても、スウリヤが邪魔者扱いするだけだから。有輝は有匡と土御門家に帰っていった。(兄様に育児の大変さを知ってもらわないと。)「父様、父様、遊ぼうよー」どこへ行っても自分の後をついてくる有輝を、有匡はうっとうしそうに見つめた。子守は苦手だ。しかも自分のことを父と呼ぶ有輝に、腹を立てた。「私は忙しいんだ。」有匡は有輝に冷たく言い放ち、突き放した。「有匡、たまには有輝と遊んでやれ。さあ有輝、じいじと遊ぼう。」有仁は有輝を抱きかかえて、自室へと連れて行った。(やれやれ・・)有匡は父と楽しく遊ぶ有輝を見ながら、頭を抱えた。火月が有輝を出産した後、有匡は麗景殿へと赴いた。有輝を抱いたとき、父親の実感が湧いた。一生この子を守っていこうと、胸に誓った。腹違いの兄と妹との間に生まれた不義の子であるということを、一生隠しとおしていこうと。自分を父と呼ぶ有輝が嬉しかった。けれどもその前に、自分たちの秘密がバレることを恐れて、有輝に冷たくした。それは有輝を世間の荒波から守るために仕方ないことだった。1年前に生まれた華月も火月との間に出来た子だ。(どこまで私たちは罪を犯すのだろうか・・)有匡はそう思いながら自室へと入っていった。4日後。有輝親王の御袴着の儀が盛大に行われた。外戚の土御門家が幅をきかせて大陸渡りの陶磁器など、高価な品々を帝に献上した。儀式が滞りなく終わり、宴となった。「火月、久しいな。元気で何よりだ。」御所に招待された有仁が火月の顔を御簾越しにみながら言った。「有輝のやんちゃぶりに私、手を焼いておりますのよ。何かと私を困らせるし、いたずらはするし・・」火月は日頃の不満を有仁にぶつけた。「まあそんなに根詰めるな。子どもは育つのが早い。」有仁はそう言うと去っていった。有匡は宴の最中に有仁に呼び出された。「父上、お話とは?」人目につかない、御所の入口近くで有仁は有匡に言った。「有輝はお前の子か?」「はい。」有仁は有匡の言葉を聞くと静かに目を閉じた。「火月との子だな。お前達が互いに惹かれ合っていることは火月が入内する前からわかっていた。しかし有輝がこれを知ったらどうなるか・・」「あの子には秘密にしてください。」有匡はそう言うと馬で土御門家に戻っていった。(有輝はいずれ己の出生の秘密を知るときが来るだろう。それまで私が有輝を守らねば。)有仁はそう決意し、闇空を見た。赤い月が、出ていた。土御門家当主・有仁の北の方・スウリヤは、愛人の娘・火月が皇子を生んだことで連日浮かれていた。今年3歳の有輝をスウリヤは目に入れても痛くないほど可愛がった。やがてスウリヤは有輝を自分の元で育てようと思うようになった。(あの憎い女の娘に私の大切な皇子の育児ができるわけがない。私が皇子を育てなければ。)早速スウリヤは麗景殿に文を出した。『たまには土御門家に帰ってきなさい。あなたのお顔を久しく見ていないので寂しいわ。』火月は有輝を連れて土御門家に帰ってきた。「有輝、こちらへおいで。」スウリヤは唐菓子で有輝を火月の元から引き離した。「かわいいこと、これからはずっとこの邸で暮らしましょうねぇ。」「お義母様、何を言ってらっしゃるんです?」火月はスウリヤの策略がわかり、慌ててスウリヤから有輝を引き離した。だがスウリヤは有輝を火月から奪った。「これから有輝は私が育てます。皇子は母方の家で育てるしきたりでしょう?」「でもお義母様、有輝は私の・・」「お黙りなさい!!」スウリヤはそう言って、火月を思い切り突き飛ばした。火月は池に落ちた。「お前はもう役目を終えたのよ。皇子を生んだお前にはもう用はないわ。さっさとお帰り!」スウリヤは乗馬用の鞭で火月を打ち据えながら言った。「有輝は私の子です!返して!!」「お前、最近育児に疲れているんだって?有輝がここで暮らせば下の子の育児に専念できるでしょう?」スウリヤは泥で作った団子を火月の口に押し込ませながら言った。「お前はあの憎い女の娘!お前は目障りなのよ!この家にとっても、私にとっても!そして、有匡にとってもね!」「お兄様が?」「そうよ、お前はいらない存在なの!だから御所へお帰り!!」スウリヤは猟犬を火月にけしかけながら言った。「いやぁぁっ!有輝を返してぇ!」「しつこい子だね!さっさと邸の外へ出しておしまい!!」火月は使用人に邸の外へと放り投げられた。「お前にはもうこの家の敷居はまたがせないよ!」全身傷だらけになりながら、火月は御所へと帰っていった。「火月様、どうなさったんです?あちこち傷だらけ!」寿子は全身傷だらけで帰ってきた火月を見て叫んだ。「お・・義・・母・・様・・が・・有・・輝・・を・・」そう言うと火月は、寿子の胸元に崩れ落ちた。「火月様、しっかりあそばして!」火月は全身傷だらけで、膿んでいる傷口が数カ所もあった。高熱を発し、火月は愛おしい息子の名を、何度も何度も呼び続けた。弘徽殿女御が、中宮火月が全身傷だらけになり、高熱を発して苦しんでいると、有匡に文を書いた。文を読んだ有匡は、火月の頭からつま先までの傷痕に、思わず目をそらしそうになった。(ひどいことを・・一体誰がこんなことを・・)有匡は火月の手を握った。「有・・輝・・」火月はうっすらと目を開け、息子の名を呼んだ。「有・・輝・・私・・の・・愛・・し・・い・・子・・お・・義・・母・・様・・な・・ん・・か・・に・・渡・・さ・・な・・い・・」そう言うと火月は意識を失った。「有匡様、どちらへ?」怒りで全身が沸騰しそうになりながら、有匡は土御門家へと向かった。土御門家の庭では、有輝が蹴鞠をして遊んでいた。「まあ有輝は蹴鞠が上手ねぇ。主上も幼少の頃蹴鞠が上手であらせられたとか・・やはりこれも血筋なのねぇ・・。」スウリヤが目を細めて蹴鞠に興じる孫の姿を見ていた。そこへ、怒りで真っ赤になった有匡がやって来た。「あ、父様ー!」有輝は有匡に飛びついた。有匡は有輝に微笑みかけ、有輝を抱き上げた。「お母様の処に帰りたいか?」「うん、お母様元気にしてる?」「今ちょっと病気で寝込んでいるけど、有輝が来たらお母様は元気になるよ。」「じゃあ、お母様の処に帰る。ここより御所の方がいいや。」「いまからお母様の処に帰ろう。」有匡はそう言って有輝を連れて馬に乗ろうとした。「お待ちなさい!有輝は私が育てるの!あの女に渡しませんよ!」スウリヤは足を踏みならして有匡に迫った。有匡はスウリヤを見据えながら言った。「猟犬をけしかけ火月を傷つけたのはあなたですね、母上。」スウリヤはビクッと全身を震わせた。「な、何故それを?」スウリヤの顔に焦りの表情が浮かんだ。「母上、有輝は皇子であり、あなたにとっては可愛い初孫・・傍においておきたいのはわかります・・でも母親から引き離すのは、あまりにも残酷すぎます。しかもあなたは、皇子を産んだお前はもういらない存在だと火月に言い放った。愛人の子だからとあなたはいままで火月に冷たくしてきた。それが入内したら急に火月に優しくして、挙げ句の果てには皇子を産んだ火月を罵り邸から野良犬のように追い出した。なんという女だ、あなたは。己の権力に執着し、火月から息子を取り上げて・・あなたのような欲の深い女から生まれてきたことが恥ずかしい!」スウリヤは呆然と有匡を見つめた。「私はこの家を栄えさせるためにやったことよ。だからあの女の娘をこの家に・・」「もういい!苦しい言い訳など聞きたくない!!」有匡はスウリヤに怒鳴り、馬に乗った。「待って、有匡!母をおいていかないで!」「あなたは私の母ではない。」スウリヤはその場で凍り付いた。「お前など・・地獄に堕ちればいい・・」蹄の音が土御門邸の門に響いた。スウリヤはいつまでも有匡が去った門を見つめていた。『お前など・・地獄に堕ちればいい・・』腹を痛めて産んだ息子が自分に言い放った一言。この家に嫁いできてから10年近く。有仁の愛を独占したいあまりに、スウリヤはワガママになっていった。やがて有仁はそんな彼女に愛想を尽かし、宇治の愛人の元へと行ってしまった。『お前みたいな女、うんざりだ。』愛人が出来たことに激しく責め立てるスウリヤに、有仁はそう言い放った。(私はあなたの愛が欲しかったのに)夫との関係が冷えきり、息子・有匡に愛情を注いだ。だが、愛人の娘・火月と親しくなっていく有匡を見るとスウリヤは腸が煮えくりかえった。(綾香・・どこまで私を苦しめれば気が済むのよ)火月に辛くあたったのは、最愛の息子を夫のように愛人の娘にとられたくなかったから。激しい憎しみがスウリヤの心を支配し、鬼となった。(お前さえいなければ、私は有仁様の愛情を一心に浴びれたのよ!)そして、火月を邸から追い出し、有輝を取り上げた。だが、息子に愛想を尽かされた。手塩をかけて31年間育てた息子に。(私はこれから何を支えに生きていけばいいの?夫には愛想を尽かされ、息子にまで・・私は一体何を・・)スウリヤは部屋の隅に置いてあった懐剣に目を留めた。これは有仁が昔、正妻の証としてスウリヤに贈った物だ。スウリヤはためらいもなく懐剣を自分の首筋にあてた。土御門家はスウリヤの喪に服していた。スウリヤは息子に絶縁を言い渡され、懐剣で自害したのだ。有仁が首筋を血まみれにして床を這うスウリヤを見つけた。「一体どうしたんだ?」有仁の問いにはスウリヤは答えず、床を這うばかりだった。スウリヤはやっとのところで庭に降り、白い塀に最後の力を振り絞って血文字を書いた。『一生お前を呪ってやる』それは有匡にむけてのものであったのか、火月のものであったのかは、本人以外わからない。血文字は後世になっても消えることなく、白い塀にまがまがしく残っている。火月はスウリヤが自害したことを知り、気絶しそうになった。と同時に、鋭い憎しみの籠もった視線を感じた。だが有匡が来ると、その視線は消え失せた。(お義母様・・)スウリヤは死んでもなお、火月を憎んでいるのだ。火月は3人目の子を宿した。妊娠中、幾度か流産の危機に瀕した。スウリヤの呪いだと、火月は思った。元気な男の子が産まれたが、その子は何度か大病を患った。火月は麗景殿でも土御門家でもスウリヤの影におびえる毎日を送った。スウリヤの死から16年。有輝は19となり、元服し、光武帝に即位した。若い帝を助けるため、有匡が宰相となった。有匡はもう48。定年が近づいていたが、残りの人生は、我が子のために尽くそうと決意した。そして、有輝に出生の真実を明かすことを決意した。穏やかな夏の日。「母上、お話とはなんでしょうか?」麗景殿に火月から呼び出された有輝は、重苦しい雰囲気を感じていた。「お前に、話さなければならないことがあります。」火月は御簾をまくり、有匡と有輝の前に来た。「お前は帝の子ではないの・・お前と妹、弟たちは、ここにいる有匡様と私との間の子なのよ。」有輝は火月の言葉を信じられなかった。(嘘だ・・僕が・・不義の子・・)「有輝!」有輝は御所から飛び出した。嘘だ。有匡様が、僕の父上・・こんなの夢だ、夢だ!悪い夢だ、覚めてくれ・・有輝が行方知れずとなってから3日間。帝が消えた御所は上から下まで大騒ぎだ。「何故主上は消えたのだ!有匡殿、あなた様がついていながら!」有匡は大臣達の責めにただひたすら耐えていた。「私が探しに行きます。」馬を走らせて7日、有匡は有輝に関する手がかりも何もえられず、苛立っていた。(どこにいる・・有輝?)宇治に着いた有匡は、道行く人に有輝のことを尋ねた。だが、何の情報も得られなかった。宇治のまちはずれに朽ち果てた邸があった。有匡には見覚えがあった。その邸は昔、火月が暮らしていた処だ。邸は火月の母・綾香が亡くなった後人手に渡ったが、邸の所有者は都に住み、宇治の邸は歳月とともに哀れな姿となっていった。有匡は邸にはそぐわない白馬がいることがわかった。(あれは有輝の愛馬だ。)有匡は邸の中を慎重に進んだ。有輝は母屋の、火月が産まれた部屋にいた。美しい調度品が飾られた部屋は、今はその跡形もなく崩れ落そうなほど朽ち果てていた。「ここで母上が産まれたのですね。」有輝は独り言のように有匡に言った。「私は幼い頃、あなたを父と呼びました。あのときは子ども心に冗談で言いましたが、まさか実の父親だなんて・・」「有輝・・」有匡は有輝の肩を優しく抱いた。「母上は何故、私を産んだのです?私に一生不義の子である苦しみを背負わせるためですか?」「いや、違う。」有匡は有輝を見据えて言った。「火月は私を愛していた。私も火月を愛していた。だからお前が産まれた。私は火月の妊娠を知ったとき、私はお前が不義の子だと一生苦しむよりは、お前の命を絶つことが最善の方法だと火月に言った。だが火月は、母となる覚悟を決めていた。名聞よりも、子の命を選んだのだ。火月はお前に苦しみを背負わせようとして産んだわけじゃない。愛する人との結晶を産みたかったのだ。」「けれど、何故・・何故いままで黙っていたのです?」「それはお前が物事をわかる時期になってから話そうと思ったからだ。」有匡は愛おしいそうに有輝を見つめて言った。「有輝、私はお前を愛している。私の血の分けた分身、そして火月との愛の結晶として。不義の子という負い目を背負わせてしまったことは申し訳ない。だが自分はいらない存在だと思うな。出生にとらわれるな。ただ、私と火月がお前を愛していることだけはわかって欲しい。」「わかりました、父上。」有匡と有輝は御所へと帰っていった。それから、火月は有輝に全てをうち明けたあと、出家し、宇治の尼寺に入った。有匡は陰陽師を引退しようと思っていた。いままで必死に築いてきた地位。だがもうそれにはもう固執しない。それより大切なものを見つけたから。「父上。」有輝の声で、有匡は微笑みながら振り向いた。「有輝、どうだ、国事は?」「順調です。父上、体の具合はいかがですか?」有匡は去年の秋から、胸を病んでいる。「大丈夫だ、滋養のある物を食べてるからな。」「そうですか。」それが親子の交わした最後の会話だった。その夜、有匡は急に喀血し、倒れた。「父上、父上!」3日間意識不明だった有匡は、有輝の声で目を開けた。「有・・輝・・私・・は・・お・・前・・に・・す・・ま・・な・・い・・こ・・と・・を・・し・・た・・許・・し・・て・・く・・れ・・」「父上、何を・・」「お・・前・・に・・償・・い・・き・・れ・・ぬ・・罪・・を・・負・・わ・・せ・・て・・し・・ま・・っ・・た・・こ・・の・・父・・を・・恨・・ん・・で・・く・・れ・・」「いいえ父上、恨むなど!私は父上の子に生まれて良かった!父上の子であることを誇りに思っております!」「そ・・う・・か・・」そう言うと有匡は微笑んで、ゆっくりと瞳を閉じた。「父上?父上ー!」1年後。有匡の墓に、有輝が1人、佇んでいた。「父上、私は父上の子であることを誇りに思っております。」桜の花びらが、有輝を優しく包み込んだ。にほんブログ村
2024年03月16日
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先日、X(Twitter)のフォロワーさんから教えて貰ったお菓子。何軒か最寄りのスーパーに行って探しましたが置いておらず・・今日仕事の帰りに近所のドラッグストアで見つけて購入しました。極みだし味という名の通り、噛めば噛む程だしの味がきいていて美味しかったです。ただ、ポップコーンは歯の隙間や歯の裏にかけらがピチャっとひっつくので嫌ですが、それ以外は好きなお菓子です。
2024年03月16日
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「火宵の月」と同時期に読んだ作品。一組のカップルの物語。ゲイであるというだけで世間の偏見に晒されるケインとメル。結婚しても、ある事件に巻き込まれて心に深い傷を負うメルを支えるケイン。同性愛云々を語るつもりはないし、ただ人間同士が魂の底から愛し合う物語、名作です。今は多様性が認められつつある時代ですが、未だに二人のような同性愛者に対しては社会は厳しい目を向けられています。本当に多様性が認められる時代は、来るのでしょうか?
2024年03月15日
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孤独な魂を持つブリーとアーチャー。過去のトラウマから解放され、結ばれるまで一気読みしました。ロマンス要素が多く、ホットなラブシーンを読んでいてニヤニヤしてしまいました。
2024年03月15日
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「PEACEMAKER鐵」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。沖田さんが女性設定です、苦手な方はご注意ください。歳三は両班の家に生まれながら、正室の娘として産まれた信とはその環境が天と地程の差があった。信の母は生前、歳三達母子をあばら屋に住まわせ、彼らを使用人のように扱った。『お前の所為だ、お前を産んだから、わたしは不幸になったんだ!』歳三の母は、事あるごとにそう彼を罵り、殴った。歳三の母・モランは、都一の妓生だった。絶世の美貌と知性を兼ね備えたモランは、王に気に入られ、一時期側室として暮らした。そして彼女は、歳三を産んだ。王の側室として、モランは一生王宮で幸せに暮らせるのだと、信じて疑わなかった。だが、そんな彼女の甘い夢を打ち砕いたのは、世子の誕生だった。庶子である歳三と、その母であるモランは王宮から追い出され、路頭に迷っていた二人を拾ったのが、信達の父・土方隼人だった。隼人は血の繋がらない歳三と自分の子供達を、分け隔てなく育ててくれたが、隼人の妻・ユン氏は違った。王宮で美しく着飾り、側室であったが何不自由ない生活を送っていたモランにとって、奴婢同然の生活は屈辱以外の何物でもなかった。行き場のない彼女の怒りは、幼い歳三へと向けられた。歳三は精神を病んだ母から毎日殴られ、いつも生傷が絶えなかった。辛い現実から逃れたくて、歳三は毎日読書や裁縫をしたり、伽耶琴を奏でたりした。そんなある日の事、彼がいつものように屋敷の中庭の隅で伽耶琴を奏でていると、そこへ一人の少女―異母姉・信がやって来た。「ねぇ、わたしにも教えてくれない?」それが、信と歳三との出会いだった。年が離れた弟を信は可愛がり、歳三も信を実の母のように慕った。ユン氏は二人の交流に余り良い顔はしなかったが、隼人にたしなめられて渋々と二人の交流を許した。信の他に、歳三には二人の兄達が居た。異母兄達は、歳三に学問や武術・剣術を教えた。歳三はモランが住むあばら屋には寄り付かなくなり、信達が居る本邸―屋敷に入り浸るようになった。幸せな日々は、長く続かなかった。精神を病み、妄想に取り憑かれたモランは、屋敷に火をつけ、炎の中で焼け死んだのだった。『王様、王様~!』彼女は最期まで、自分を捨てた王の事を想っていた。歳三は遠縁の親戚の元へと預けられた。そこで待っていたのは、生き地獄のような日々だった。毎日のように殴られ、罵倒されながらも、歳三は前を向いて生きて来た。「トシ、どうしたの?」「いや・・昔の事を、思い出していたんだ。」「トシ、あなたはあの人とは違う。もう自分を責めるのはやめて。あなたは、幸せになっていいのよ。」「ありがとう、姉上。」そう言った歳三は、涙を―生まれて初めて、涙を流した。同じ頃、はじめは妓楼で玄琴を奏でていた。「あら珍しい、いつも卜占にしか使わないのに。」「スヨンさん・・」「やっぱり、あの子が他の男の所に行ったのが寂しいんじゃないかって皆噂していたけれど、いつも鉄面皮だと思っていたのに、そんな顔をするなんてねぇ。」妓楼の妓生・スヨンは、そう言った後笑った。「わたしは、お嬢様の事が心配なのです。お嬢様はわたしの命を救って下さいました。」「そういえば、あんたと総司がどんな関係なのかまだ聞いていなかったね。この際だから、聞かせて貰えないかねぇ。」「わかりました。」はじめは静かに、総司と出会った時の事を話し始めた。はじめの家は、王に仕える両班の家だったが、はじめは、ある事が原因で家から追い出された。それは、はじめが“人ならざるもの”が見えるからだった。何の力を持たない子供のはじめは、路上生活を送っていたが、すぐに行き詰まり、妓楼の前で倒れて意識を失ってしまった。そんな彼を助けてくれたのが、総司だった。女児は妓楼で大切にされるが、男児は用心棒か使用人になるかのどちらにしかなかった。しかしはじめは、生まれ持った力のお陰で、妓楼で重宝された。その力のひとつが、占いだった。「へぇ、そんな事があったんだね。」「わたしにとって、お嬢様はわたしの生きる糧なのです。」はじめはそう言うと、玄琴を再び奏でた。日が暮れ、夜になると妓楼は活気に満ちていた。「あの子は、どうしたんだい?君の養女の・・」「あぁ、総司ならいい方の元へ身請けされましたよ。ペク大監様にはいつもよくして下さったのに、ご報告するのが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。」「いや、いい。わたしは、あの子が幸せであれば、何も望まぬ。」「そうですか。」王宮では、世子が原因不明の病に倒れた。医師達が懸命に治療を施したが、世子の容態は悪化してゆくばかりだった。「どうすれば・・」「このままだと、王家は滅びてしまいます!」「王妃、落ち着け、わたしに考えがある・・」王は、そう言うと王妃の耳元に何かを囁いた。「トシ、遅かったわね。」「あぁ、少し仕事で色々とあってな。総司は?」「あの子なら、部屋で休んでいるわ。ねぇトシ、これからどうするの?」「俺は、あいつと・・」「歳三様、大変です!」歳三が信に総司との事を話そうとした時、部屋の中に土方家の使用人が入って来た。「どうした、何があった?」「そ、それが・・」「土方歳三様ですね?王様がお呼びです、至急王宮へおいで下さい。」「王宮へ?」歳三は、何だか嫌な予感がした。「王様、本気なのですか!?妓生の子を・・」「出自は卑しいが、あの者はわたしの血をひく息子だ。」にほんブログ村
2024年03月15日
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「PEACEMAKER鐵」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。沖田さんが女性設定です、苦手な方はご注意ください。「ん・・」 窓から射し込む朝日に照らされ、総司は紫がかった瞳を薄らと開いた。そして彼女は、自分が一糸まとわぬ姿である事に気づき、昨夜この部屋で自分が何をしていたのかを思い出した後、羞恥で頬を赤く染めた。ふと自分の胸元を見ると、そこには歳三からつけられた薔薇色の所有印が残されていた。「朝飯、持って来たぞ。」「きゃぁ~!」 歳三が部屋に入ると、総司は悲鳴を上げて慌てて自分の胸元を両腕で覆い隠した。「今更隠してどうすんだ、昨夜はあんなに恥ずかしい姿を俺に見せたのに。」「そ、そんな・・」「さっさと服を着ろよ。お前ぇが裸でいると、またお前ぇを襲いたくなっちまう。」歳三はそう言うと、ニヤリと笑いながら総司の裸体を舐めるように見た。「あの、わたしに背を向けて頂けませんか?」「ああ。」「服を着ている間、絶対に振り向かないでくださいね、絶対にですよ!」「解ったよ。」歳三は舌打ちしながら、自分の背後で慌てて総司が服を着ている音を聞いていた。「終わったか?」「はい、もういいですよ。」 歳三が振り向くと、そこには美しい一人の童妓の姿があった。彼女が纏っている韓服は、昨夜遅くに歳三が生地屋を叩き起こして一番上等なものをこの屋敷に持って来させ、歳三自身の手で誂(あつら)えたものだ。深緑のチョゴリと、白い蝶の刺繍が施された真紅のチマは、総司の紫がかった黒髪と瞳に映えてよく彼女に似合っていた。「あの、何処かおかしくありませんか?」「何処もおかしくねぇよ。とても綺麗だ。」「有難うございます・・」歳三に褒められ、嬉しそうに頬を赤く染めた総司は、そう言うと歳三の手をそっと握った。「朝飯を食ったら出掛けるぞ、お前ぇも来い。」「はい・・」 歳三と総司が屋敷の離れで朝食を取っている頃、母屋では歳三の仲間である近藤と原田、永倉と藤堂が朝食を取りながら雑談をしていた。「それにしても、土方さんはあの娘にベタ惚れだな。」「まぁ、あれほどの別嬪、何処を探しても見つからねぇよ。両班のお嬢様だって言われても、誰も疑わねえさ。」「そうだな。」「てめぇら、朝からうるせぇぞ。」 歳三がそんな事を言いながら総司と共に母屋に入ると、近藤達がじっと総司の方を見た。「何だ?」「やっぱり総司さんは綺麗だなぁ。あ~、俺もこんな可愛い娘さんを攫いたいわぁ!」「うるせぇよ、左之。近藤さん、俺はこいつと少し外に出て来るから、留守を頼むぜ。」「わかった。」 屋敷を出た歳三と総司は、朝市へと向かった。「欲しい物があったら遠慮なく言え、俺が買ってやる。」「そんな、いいです。」「惚れた女に贈り物をしたって、何も罰が当たらねぇよ。」「え?」総司が歳三の言葉を聞き返そうと彼の方を見ると、彼は耳まで顔を真っ赤に染めていた。にほんブログ村
2024年03月14日
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素材は、ヨシュケイ様からお借りしました。「薄桜鬼」「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「このまま、トシさんを攫っても良い?」「馬鹿な事を言うんじゃねぇ。」 歳三はそう言うと、和琴を爪弾く手を止めた。「お前ぇは、早く良い女を見つけろ。」「嫌だ、トシさん以外の女と番いたくない!」「我儘言うな。俺は人間、お前は妖。決して結ばれない仲なんだ。」「そんなの、トシさんが勝手に決めつけているだけじゃないか!」 八郎は叫ぶと、風と共に掻き消えた。(どうしちまったんだ、あいつ?)「土方家で、管弦の宴?」「えぇ、そうなのよ。有子様は和琴の名手とお聞きしましたわ。」「はぁ・・」 藤壺女御・爽子から急にそう話を振られた有匡は、柚奈が密かに逢引きをしていた男の事を頭の隅へと追いやった。「その宴に、出て下さらない?」「わたくしのような身分卑しき女が、あのような華やかな場に出るなど出来ませぬ。」 そう言って辞退しようとした有匡だったが、爽子は彼に笑みを浮かべた後、次の言葉を継いだ。「何をおっしゃるの、あなたの事は高く評価しているのよ。」「はぁ・・」「そうよ、是非ご出席なさって。」 半ば押し切られるような形で、有匡は土方家で開かれる管弦の宴に出席する事になった。「え、有匡が我が家の管弦の宴に?」「はい、藤壺女御様に押し切られる形で、出席する事になました。まぁ、土方家の方々にはこの姿では気づかれないので、内情を探るには好都合かと・・」「好都合?」「実は・・」 有匡は歳三に、爽子から義兄・義成について密かに探りを入れて欲しいと言われたと話した。「女人の考えている事はわかりませぬが、恐らく爽子様は義成様に想いを寄せられているご様子のようです。」「物好きな方なのですね、藤壺女御様は。」「ええ、あの方の気まぐれに色々と付き合わされて大変です。」 歳三と有匡がそんな事を話していると、不意に二人は禍々しい何かの気配を感じた。(何だ、この絡みつくような“気”は・・) 有匡と歳三が辺りを警戒していると、渡殿の方から衣擦れの音が聞こえて来たかと思ったら、元高が二人の前に現れた。「鬼姫よ、今日こそその花の顔を見せておくれ。」「なりません!」「良いではないか、良いではないか!」 元高が御簾を捲ろうとしたので、有匡と歳三は慌ててそれを押さえた。「諦めが悪い殿方は嫌われますぞ、元高様!」「その声、義妹に仕える雌狐!何故其方が弘徽殿に居るのだ!?」「わたくしには有子という名があります。それに、わたくしが弘徽殿に参ったのは、“例の件”で色々と梅様にお話ししたい事がありまして・・」「なんだと・・」 御簾越しに、元高の声が震えているのがわかった。「元高様、どうかこのままお引き取り下さいませ。」「わ、わかった・・」 有匡の言葉を聞いた元高は、そそくさと弘徽殿から去っていってしまった。「有匡様、“例の件”というのは?」「呪詛が、内裏にて行われたようです。中宮様と柚奈様を殺した大蛇は、誰かが呪詛によって産み出したもののようです。」「そうですか・・頭中将様と良政様が数日前に話されていたのは、呪詛の事だったのですね。」「ええ。その呪詛に、義成様が関わっているという噂があります。」「義兄上が!?」「あくまで、噂ですが。さてと、もう藤壺に戻らねば、爽子様に色々とうるさく言われてしまいます。」「後宮仕えがいつまで続くのやら・・」 歳三は、陰陽寮の権力闘争よりも、後宮内で繰り広げられる権力闘争と愛憎劇の方が恐ろしいと感じていた。 それは有匡も同じようで、彼は溜息を吐いて歳三の言葉に深く頷いた。「明日の宴で、少し探りを入れなければ。これ以上事が大きくならないように。」「ええ。」 翌日、土方家で管弦の宴が開かれ、そこには千鶴と、有匡の姿があった。「あなたは確か、土御門様の・・」「わたしの事をご存知なのですか?」「はい。右大臣家で開かれた管弦の宴で、お目にかかりました。」「柚奈様の事件の後、ご実家はどうなさったのです?」「義父は義姉上の魂の平安を祈る為に出家され、義兄上が跡を継いでおります。」「そうですか。」 有匡と千鶴がそんな話をしていると、そこへ一人の少女がやって来た。 その少女は、美しい金色の髪と、血の如く美しい真紅の瞳を持っていた。「あなた、見ない顔ですね?」「初めまして・・僕は姉の名代で参りました、高原火月と申します。」「そう・・あなた、楽器は何をおやりになるの?」「和琴を・・」「まぁ、わたし達と同じね。共に頑張りましょう。」「はい・・」 千鶴、有匡、少女が奏でる和琴の音色に、宴で酒を酌み交わしていた者達はうっとりと聞き惚れていた。「おや義成殿、歳三様は今宵どちらにいらっしゃるのですか?」「それが、東宮様に気に入られてしまったので、義弟は御簾の中に居りますよ。」「まぁ・・其方の義父上は、野心家なのですね。」「はは・・」 元高の嫌味をさらりと受け流した義成は、父と千景が居る寝殿へと向かった。「東宮様、遅くなってしまい、申し訳ありません。」「よい。それよりも義成、右大臣家の千鶴姫の事は知っておるか?」「はい、存じ上げております。彼女の父親の事も。」「そうか。忠道は、はぐれ鬼だ。故に、見つけ次第殺しても構わん。“口封じ”の為にな。」「は・・」「頼りにしているぞ。」「有難き幸せにございます。」 そんな彼らの“密談”を、有匡は息を潜めながら聞いていた。「失礼致します。」 檜扇で顔を隠しながら、彼が千景達が居る寝殿に入ると、義成がじっと自分を見つめている事に気づいた。(何だ?)「義成様、我が主・爽子様から文を預かりました。どうぞお受け取り下さいませ。」「藤壺女御様から?」「はい。では、わたくしはこれで失礼致します。」 有匡がそう言いながら千景達の前から辞そうとした時、不意に義成が有匡の腕を掴んだ。「何をなさいますっ!」「其方、何故顔を隠しておる?顔を見せよ。」「お止め下さいませ!」 義成と揉み合っている内に、有匡は顔を隠していた檜扇を落としてしまい、彼の前に顔を晒してしまった。「其方、土御門家の・・」義成に正体が露見し、有匡は舌打ちして襲ねた衣を脱ぎそれを彼に向かって投げつけると、高欄を乗り越え、闇夜に紛れた。「逃げたぞ!」「追え!」(クソ、こんな筈ではなかったのに!)有匡は裏口から脱出しようとしたが、裏口には土方家の家人達が集まっていて無理だった。 このままだと埒が明かないので、有匡は正面突破しようとしたのだが、肩に矢を受け失敗に終わった。「相手は手負いだ、まだ遠くには行っておらぬ!」 松明を掲げた家人達の声を聞きながら、有匡は床下に潜んでいた。 すると、衣擦れの音と共に有匡の頭上から声が聞こえた。「もし、そこの方、どうされました?」「少し訳有りでな、匿って貰えぬか?」「暫くお待ち下さいませ。」 管弦の宴が終わりに差し掛かろうとしている時、雷鳴が轟くと共に、土砂降りの雨が降って来た。「さぁ、こちらへ。」 少女の乳母と思しき中年の女に案内され、有匡が入ったのは、宴に招かれた姫達にそれぞれ宛がわれた局のひとつだった。「其方、あの時の・・」 蝋燭の仄かな灯りに照らされた少女―火月の顔を見た有匡は、火月と初めて会った時の事を思い出していた。 それはまだ、有匡が元服する前の事だった。 その日、彼は従兄達と共に鷹狩りに来ていた。「きゃぁっ!」 従兄の一人が放った矢が、偶々近くを通りかかった女児に当たってしまったのだった。にほんブログ村
2024年03月13日
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小さな炭鉱町で、互いに惹かれあうテンリーとカイランド。二人を取り巻く環境は厳しいものでしたが、別れを経て二人が再会して愛を育むのはいいですね。
2024年03月13日
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共に辛い過去を抱えるクリスティンとレーガン。ロマンティックサスペンスとして読みやすかったし、サスペンスもロマンスも濃くて一気読みするほど面白かったです。
2024年03月13日
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ヴィクトリア朝ロンドンとエジプトを舞台にしたヒストリカル。アーサー・コナン・ドイルも登場し、エジプトでの遺跡発掘旅行からのサスペンス、そしてラストまで一気読みするほど面白かったです。 当時の厳密な階級社会や、女性をとりまく社会の壁なども描かれており、読みごたえがありました。
2024年03月12日
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まろやかで、しつこくない味で、尚且つチーズの風味がしっかりしていて美味しかったです。
2024年03月11日
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アフガニスタンを舞台に繰り広げられる、ヒロイン・グレイシーと、謎の眼帯の男との逃避行。何だか自分もアフガニスタンの砂漠に迷い込んだような感覚に陥るほど、面白かったです。
2024年03月11日
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「この愛を諦め」のシリーズ完結編だと後書きで気づきましたが、関連作を読まなくてもグイグイ引き込まれました。日本人との混血としてうまれ、歌手になることを夢見たヘッティ。彼女が待ち受ける幾多の困難を縦軸に、ヘッティの義理の従兄・ジョンの人生を横軸にして、階級社会の英国における差別や偏見、陰謀と愛憎渦巻くショー・ビジネスの世界で、ヘッティは夢をつかめるのか!?と、思いながらラストシーンまで一気読みしましたが、幸せの価値は人それぞれですね。ペニー・ジョーダンがなくなってしまったことは残念ですが、彼女の作品が永遠に生き続け、沢山の人に読まれることはいち読者として嬉しいです。
2024年03月11日
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この本、最初の100ページ前後で読むのを止めてしまって、半年ぶりに再読して一気読みしました。いやあ、京極夏彦先生はまさにストーリーテラーですね!他のシリーズの作品もこの機会に読んでみようと思います。
2024年03月10日
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愛と再生、赦しの物語。ネタバレは控えますが、衝撃的な展開の後の心温まるラストはまさにニコラス・スパークスといった感じでした。
2024年03月10日
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素材は、湯弐様からお借りしました。「火宵の月」「ツイステッドワンダーランド」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。有匡様が闇堕ちする描写が含まれます、また一部暴力・残酷描写有りですので苦手な方はご注意ください。「そんな事言ったって、アトランティカ記念博物館は海の底にあるんだぞ!?どうやって行くんだよ!?」「次元通路を開く。」 有匡はそう言うなり祭文を唱え、容易く次元通路を開き、アトランティカ記念博物館へと向かった。(これか・・) 有匡は、博物館の入口付近に飾られている一枚の写真を手に取った。(意外と簡単だったな・・) 彼がそう思いながら出て行こうとした時、大きな影が二つ見えたような気がした。「あ~、やっぱり来たぁ。」「ようこそ、海底の世界は如何です?」 そう言いながら有匡の前に現れたのは、フロイドとジェイドだった。「お前達、その姿は?」「俺達、人魚だから~、本来の姿に戻っただけだよ。」 ウツボの人魚姿となったフロイドは、そう言って笑った。「わたしの邪魔をしに来たか。」「簡単に条件をクリアにされちゃ困るんだよね。日没まで、俺達と追いかけっこしよっか~!」 フロイドは鋭い歯を閃かせると、ジェイドと目配せした。(クソ、このままでは埒が明かん・・)「いでよ、大釜!」「おい、俺に当たりそうだっただろう!」 エースとデュースの声がしたので、有匡が背後を振り向くと、そこにはエースとデュース、グリム、そして見知らぬ少年の姿があった。「お前達・・」「こいつらの事だから、あんたの邪魔をするんだろうと思って、助太刀をしに来たんだ。」「オンボロ寮もこいつらに取り上げられたから、俺も協力するんだゾ!」「は?どういう事だ?」 グリムは、有匡がアズールと契約した直後、フロイドとジェイドによってオンボロ寮から追い出され、今はサバナクロー寮で世話になっているのだという。「それで、こいつは?」「こいつは、サバナクロー寮生の、ジャック=ハウル。」「あんたが、アリマサか。よろしくな。」「あぁ、こちらこそよろしく・・」「自己紹介する暇があるなんて、余裕じゃん?」 フロイドはニヤニヤと笑うと、有匡達に向かって魔法を放った。 だが、彼の魔法は有匡によって弾かれた。「な・・」「お前達、頭の上のイソギンチャクが消えているぞ!」 ジャックはそう叫ぶと、グリム達の頭を指した。「レオナ達がやってくれたんだ!」「どういう事だよ、それ!?」「フロイド、一旦ラウンジに戻りましょう。何かがラウンジで起きているようです。」「チェッ、わかったよ、行こう。」 ジェイドとフロイドがアトランティカ記念博物館から去った後、有匡達も彼らの後を追ってモストロ=ラウンジへと向かった。「何だこれ・・」 彼らの前に広がっていたのは、黒い“何か”に包まれたラウンジだった。「ジェイド、フロイド、あぁ、やっと戻って来てくれたんですね。そこの馬鹿どもに僕がこつこつ貯めていた力を消されてしまったんですよ。」 漆黒に包まれたラウンジの中央で、アズールはそう言いながら、爛々と光る碧い瞳で有匡達を見た。「僕に下さい・・全部、僕に下さいよぉ~!」 そう叫んだ彼の全身から、黒い“何か”が出て来た。「アズール、それ以上力を使ったら・・」 ポタポタと、何かが滴り落ちる音がした後、黒い“何か”がアズールを包んだ。 アズールは、黒いタコの姿となっていた。 彼の全身からは、禍々しい“気”を放っていた。(これが、オーバー=ブロットか・・) リドルの時とは桁違いの禍々しい“気”がアズールの全身を包み、徐々にそれが彼の精神を蝕んでいるのを有匡は感じた。「アズールを早く正気に戻さないといけませんね。」「そうだね、ジェイド。」「監督生さん、あなたも協力して下さいね。」「仕方無いな・・」 有匡は溜息を吐いた後、祭文を唱え、アズールの攻撃を防いだ。「僕の邪魔をするなぁっ!」「くっ・・」 有匡がアズールにおされていると、そこへ文観がやって来た。「助太刀致しますよ、義兄上。」「貴様、何のつもりだ?」「このままでは埒が明かないので、二人で彼を鎮めましょう。」「いいだろう。」 文観と有匡がアズールを鎮めた後、有匡はアズールの精神下に潜った。にほんブログ村
2024年03月10日
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晴明と博雅のコンビ、やっぱりいいですね。道満が出てきましたが、どうしても映画版の道満のイメージが浮かんでしまいました。
2024年03月08日
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シリーズものでしたが、一話完結型だったので読みやすかったです。スリリングな展開にロマンスシーンがあって、まさに「読むドラマ」のような、面白い作品でした。
2024年03月08日
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15世紀スペインを舞台にした歴史BL。傲慢な攻・サイードが、受・ラファエルに酷い仕打ちをしながらも愛するというツンデレぶりがいいですね!松岡なつき先生の作品はどの作品も面白いです!
2024年03月07日
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