全72件 (72件中 1-50件目)
素材は、てんぱる様からお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作が苦手な方はご注意ください。 産業革命により、急速な発展を遂げた、アレンディア帝国。 だが、その恩恵を受けるのは、一部の階級に属する者だけだった。 帝国の大多数の国民は、明日の生活にも事欠く程、貧しい生活を送っていた。 子供達を育てられない親達は、泣く泣く子供達を手放した。 そんな彼らは、孤児院に預けられ、日々劣悪な環境の中で生きていた。 カーシャも、そんな子供達の一人だった。 彼女は日課の薬草を摘みに、森へと来ていた。 そこで彼女は、傷ついた金色の豹を見つけた。「どうしたの、怪我をしているの?」 カーシャがそう言って恐る恐る豹に話し掛けると、彼女の前に一匹の黒い狼が彼女と金色の豹との間に割って入り、彼女に向かって牙を剥いた。「あなたのお友達を助けたいの。」 カーシャがそう狼に話し掛けると、狼は唸った後に金色の豹の前から退いた。(酷い、怪我をしているわね・・右前足に矢が刺さっているわ。傷が化膿する前に早く手当てをしないと・・)「カーシャ、カーシャ!」 森の入口付近から声が聞こえたので、カーシャがそちらの方へと振り向くと、そこにはカーシャの友人である獣医師・アレクセイの姿があった。「アレクセイ、この子、足に矢が刺さっているの!」「こりゃ酷い・・早くうちで手当てしないと・・」 アレクセイがそう言って金色の豹の傷を見ようと屈んだ時、あの狼が再び牙を剥いて唸った。「この人は、あなたのお友達を助ける為に来たの。」「大丈夫だ、傷は浅い。この子を、わたしの診療所へ運ぼう。」「はい。」 アレクセイが金色の豹を抱き上げ、カーシャと共に自分の診療所へと向かうと、狼が彼らの後をついて来た。「これで大丈夫だ。」「ありがとう、アレクセイ!」「カーシャ、この子達はわたしが預かろう。君は早く孤児院に戻りなさい。」「わかった・・」 カーシャは金色の豹と狼の事が気がかりだったが、門限を破ってシスターから折檻されるのは嫌だったので、孤児院へと戻った。 その日の夜、アレクセイは診療所の方から人の話し声のようなものが聞こえて来るような気がして、拳銃片手に恐る恐る診療所の中へと入った。「痛い、痛いっ!」「後少しだ、頭が見えて来たぞ!」診療室のドアの隙間からアレクセイが見たのは、双つの命を今まさにこの世に産み出そうとしている金髪紅眼の女と、そんな彼女の手を握っている黒髪の男だった。暫くすると、二人分の赤子達の産声が聞こえて来た。「先生・・」「良く頑張ったな、火月。」 黒髪の男―有匡は、そう言うと双つの命をこの腕に抱き、火月に向かって優しく微笑んだ。(一体、どういう事なんだ?あの二人は、昼間見た・・)「先生、どうしました?」「火月、わたしは邪魔者を消してくる。」「邪魔者?」「あぁ・・」 有匡は診察室のドアの向こうに隠れているアレクセイを睨みつけると、唸った。「待ってくれ、殺さないでくれ!」「何故、銃を持っている?それでわたし達を撃つつもりだろう?」 有匡はそう言うと、アレクセイに向かって威嚇するかのように唸った。「違う、わたしは不審者が居ると勘違いしてしまっただけなんだ!」「そうか。部屋を汚してしまって済まない。わたしは有匡、そして彼女は妻の火月だ。」「アレクセイだ。あの、ひとつ聞いていいかな?」「何だ?」「君達は、森の中で会った金色の豹と黒い狼だよね?どうして、人間の姿になっているの?」「それは、話すと長くなる。アレクセイ、お前は魔女の呪いを信じるか?」「魔女の、呪い?」「あぁ。かつてこの国を支配していた魔女・テレサからかけられた呪いを解く為、わたし達はサーカスから逃げ出し、旅をしていた・・」 有匡は双子をあやしながら、この町に来るまでの経緯をアレクセイに話し始めた。 魔女・テレサは、かつて王宮お抱えの魔術師だったが、その地位を有匡に奪われてしまった事を恨み、有匡と火月に、ある呪いを掛けた。 それは、“夜の間にしか人間になれない”呪いだった。「その呪いを解く為に、北の海に棲む人魚の宝を探している旅をしている。だが、旅の途中でわたしと火月は、奴隷商人に捕まった。あいつらは、わたし達をサーカスへ売り飛ばした。そこのオーナーはサディストで、わたしは芸が出来ないと良く殴られた。この背中の傷は、あいつにやられたものだ。」有匡はそう言うと長い黒髪を掻き分け、アレクセイに背中の槍傷を見せた。「酷い・・」「わたしは、オーナーが留守にしている間、火月を連れて逃げ出した。獣の姿で逃亡生活をするのは辛かったが、宮廷に居た頃よりも火月と共に居られるから嬉しかった。」 だが、火月の妊娠が判明し、有匡はサーカスで仕込まれた芸で旅をしながら披露して日銭を稼いでは、火月の為にその金を貯めていた。 そんな生活を続けていたある日、火月が臨月を迎え、刻一刻と出産の日が近づいていた。 町に滞在するつもりだった有匡達だが、テレサが放った追手が二人を見つけた。 その追手から逃げる途中、火月は産気づいた。 右足に矢を受け、動けなくなっているところを、カーシャとアレクセイが通りかかったのだった。「そうか・・わたし達に、出来る事は無いかい?」「双子を頼む。」「わかった。カーシャなら、力になってくれるだろう。彼女は、大家族出身だから、赤子の世話には慣れている。」「あの子は、孤児じゃないのか?」「数年前、大飢饉が起きてね・・カーシャは、家族全員を亡くした。彼らの命を奪ったのは、はした金と食糧を盗みに来た賊だった。カーシャは、両親と幼い弟妹達が賊に殺され、その肉を食べられている姿を窓から見ていたのさ。あの時、わたしが賊を殺さなかったらどうなっていたか・・」 宮廷で暮らしていた頃、北部では相次ぐ水害が原因で、大飢饉が発生した事は知っていた有匡だったが、その実態を知る事はなかった。 いや―知る事すらなかったのだ。「カーシャは、わたしが引き取りたかったが、出来なかった。あの子には、高い魔力があったからね。」 高い魔力を持つ子供は、孤児院に入れられ、魔力を“矯正”される。「カーシャは、人間だろう?わたしや火月のように半妖ではないのに、何故?」「先祖返り、というものだよ。カーシャの先祖は、かつてこの国を創った古の魔女・カタリナらしい。」 カタリナ。 この国を創った、古の古き善き魔女。 かつてはその功績を称え、彼女を祀る聖堂があったのだが、それらは全てテレサにより“邪教”だと一方的に決めつけられ、破壊されてしまった。「そろそろ、夜が明ける。双子の事を、頼むぞ。」「わぁ、わかったよ。」 夜が明け、有匡と火月はそれぞれ動物の姿へと戻っていった。「わ~、同時に泣かないでくれ!」 双子の夜泣きに付き合い、アレクセイは慣れない育児に悪戦苦闘していた。 そこへ、サーシャがやって来た。「何をしているの、もう!この子達、おむつが汚れているじゃない!」 大きな溜息と共にカーシャはそう言いながら背負っていた籠の中から清潔なおむつを取り出すと、手際良くそれを双子の汚れた股間に宛がった。「アレクセイって、本当に育児では役立たずね!」「はは・・」 アレクセイは苦笑しながら、カーシャと共に双子をあやしていた。「ねぇ、この子達は、わたしが森で見つけた豹と狼の子供なの?」「どうして、そう思うんだい?」「だって、昔聞いたことがあるの。悪い魔女に呪いを掛けられた、魔術師とその奥さんの話。奥さんが金色の豹で、左耳に紅玉の耳飾りをつけていて、魔術師が黒い狼。この子達、あの二人にそっくりだもの。「勘が鋭いね、カーシャは。」 アレクセイはそう言うと、双子を己の尻尾でそれぞれあやす火月と有匡を見た。「二人の呪いを解くには、人魚の宝が必要なんでしょう?」「あぁ。」「そういえば、孤児院の図書室に、魔術の本があったから、今夜持って来るわね!」「ありがとう。」 カーシャとアレクセイがそんな話をしている頃、宮廷ではテレサが部下からある報告を受けていた。にほんブログ村
Feb 29, 2024
コメント(0)
ロシアのウクライナ侵攻により、普通の市民が「兵士」として戦場の前線へと発つ。戦場で死と隣り合わせの「日常」を送り、両足を失ったものや、PTSDを抱えたもの。PTSDを抱えた元ギタリストの言葉、「殺さなければ殺される」。人の心を蝕む戦争。日本でも約79年前に起きていた「日常」だったのかと思うと、胸が痛いし、平和というものがどんなに尊いのかがこの番組を観てわかりました。
Feb 29, 2024
コメント(0)
夫と息子を亡くし、困窮したサリーの前に現れたのは、海軍提督チャールズだった。サリーの夫が起こした事件の真相や、チャールズとの愛、そしてプリマスの街などが描かれていて、松岡なつき先生の「FLESH&BLOOD」シリーズが好きなわたしにとって夢中になれる作品でした。チャールズの、サリーを大切にする姿に胸キュンしました。一部の方々には「ハーレクイン=ポルノ」というとんでもない誤解を抱いているようですが、決してハーレクインはポルノではありません。そういった偏見を抱く前に、この作品でもいいので、一冊でも読んで欲しいものですね。
Feb 29, 2024
コメント(0)
奴隷の刺繍職人・ティーアは逃亡の末行き倒れになった所を、孤高の戦士・ウェアに救われる。ウェアは過酷な半生を送っており、その所為かティーアと惹かれ合っても、なかなか素直になれない。それよりも、ティーアの行動力が凄まじいですね。ヒストリカルロマンスとあってか、当時の時代背景を緻密に描いています。長編でしたが、ページをめくる手が止まりませんでした。アイリス・ジョハンセンのヒストリカル作品、機会があったらまた読んでみようと思います。
Feb 29, 2024
コメント(0)
このシリーズ、複雑に入り組んでいてわからないことがあるのですが、残酷描写があっても何故かページをめくる手が止まりません。人間の業がよく描かれていて、胸が痛むシーンがありますが、ラストシーンには少しホッとしました。
Feb 29, 2024
コメント(0)
柳橋の桜シリーズ、大団円で完結して良かったんですね。ハッピーエンドで終わって良かったです。
Feb 28, 2024
コメント(0)
最初から最後までノンストップな展開で、ページをめくる手が止まりませんでした。
Feb 25, 2024
コメント(0)
大団円で終わるのではなく、ほろ苦く人の業欲を描いた作品でしたね。薫が情けない男として描かれているのもリアルでしたね。いつの時代も、男は弱いものなのでしょうね。
Feb 25, 2024
コメント(2)
薫との恋に苦しむ浮舟。どうなってしまうのか。
Feb 25, 2024
コメント(0)
宇治を舞台に、薫と姫君達の物語の幕が上がる。残り二巻、これからどうなるのか気になりますね。
Feb 25, 2024
コメント(0)
修業を終えた空也。磐音様達と会う姿を想像しながら、空也にお疲れ様でしたと思いながら本を閉じました。
Feb 25, 2024
コメント(0)
京と和歌山での出会いと修業により、ますます強くなる空也。修業もクライマックスですね。
Feb 25, 2024
コメント(0)
自分を執拗におう彦次郎の追跡をかわしながら、修行の旅を続ける空也。彼の修業の終わりを、最後まで見届けたいですね。
Feb 25, 2024
コメント(0)
このシリーズ、六巻まで読んだ記憶があるのですが、七巻以降は全然読んでいませんでした。空也はまた、ひとつ成長したみたいですが、彼をつけ狙う者が・・続きが気になりますね。
Feb 25, 2024
コメント(0)
ひばりと瑠璃。2人が繰り広げる銀盤での戦い。正反対な性格でありながらも、切磋琢磨し合う彼女達の関係が気になり、一気読みしてしまうほど面白かったです。
Feb 25, 2024
コメント(0)
しっとりとして、キャラメルの風味が味わえて美味しかったです。
Feb 25, 2024
コメント(0)
「火宵の月」の二次小説の、新連載のお知らせです。夜の間だけ人間になれるという呪いをかけられた有匡様と火月ちゃんという設定の、異世界ファンタジーです。いつUPできるのか、完結できるのかわかりませんが、頑張ろうと思います。
Feb 24, 2024
コメント(2)
今回も緊迫とした展開が続き、一気読みしました。新刊が出るという事を知ったので、これからもこのシリーズを追い続けたいと思います。
Feb 24, 2024
コメント(0)
光源氏の晩年を描いた後に、新主人公登場。薫とライバル匂宮の関係が気になりますね。
Feb 23, 2024
コメント(0)
紫の上の最期と、朱雀院と光源氏の確執。物語の主人公は光源氏から、薫へ。
Feb 23, 2024
コメント(2)
光源氏の半生が最盛期を迎えましたね。彼の晩年はどうなるのでしょうか。
Feb 23, 2024
コメント(0)
玉鬘登場。光源氏と彼女の関係が気になりますね。
Feb 23, 2024
コメント(0)
須磨へと流された光源氏に新しい出逢いが。恋敵の子を育てる紫の上。「落窪物語」を読んだわたしとしては、彼女の姿が新鮮に見えました。
Feb 23, 2024
コメント(0)
太陽が楽天的過ぎて読んでいる内にイラっとしてしまう事が多かったです。まぁ、紗名子がちゃんと彼と話し合ったりして互いに妥協点を見つけていてよかったです。
Feb 23, 2024
コメント(0)
※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。「何だ、知らないの?あ、先生にとって君は・・」「うるさいんだよ、さっさと消えな。」火月にしつこく絡んで来た麗を、神官はそう言って撃退した。麗は舌打ちすると、図書館から出て行った。「助けてくれて、ありがとう。」「礼なんていいよ。神官はああいう奴が嫌いなだけ。それに、アリマサについて色々とイラついてんの。」神官はそう言うと、鬱陶しそうに前髪を搔き上げた。「有匡って、僕の・・」「その様子だと、まだ記憶が戻ってないみたいだね。」神官はそう言うと、一枚のメモを火月に手渡した。「これ、アリマサが泊まっているホテル。記憶が戻っていなくても、アリマサとちゃんと話し合いなよ。」「わかった・・」 放課後、火月は有匡が泊まっている高級ホテルへと向かった。「すいません、こちらに土御門有匡様という方は・・」「火月、お前どうしてここに?」ホテルのロビーで有匡が火月に声を掛けると、彼女は突然彼に抱きついて来た。「火月?」「ごめんなさい・・あなたに、会いたくて・・」「部屋へ行こう。」火月を泊まっている部屋まで連れて行った有匡は、彼女をベッドの上に押し倒した。「あ、あの・・」「わたしに会いに来たという事は、わたしに抱かれに来たのだろう?」「そ、そんなつもりは・・」「黙れ。」有匡は火月に向かって威嚇フェロモンを放つと、火月は苦しみ始めた。「お願い、やめて・・」「お前が、わたしの“何”なのか、今からその躰に教え込んでやる。」有匡はそう言うと、火月の上に覆い被さった。「痛い、やめてぇ・・」有匡は、ただ欲望の赴くがままに、火月を乱暴に抱いた。「わたしを忘れるなど許さない。お前はわたしのものだ、決して忘れるな。」嬉しい筈の、彼の言葉が、火月の耳朶に残酷に響いた。痛む躰を引き摺りながら、火月は有匡の部屋から出た。「お帰り。火月、どうしたの、有匡と何があったの?」「ごめん禍蛇、一人にして。」火月はそう言って部屋に入ると、浴室で頭から冷たいシャワーを浴びた。ここなら誰にも聞かれる事は無い―そう思った火月は、大声で泣いた。「火月ちゃん、どうしたの?」「ちょっと、風邪をひいたみたい。パーティーに出られなくてごめんねって。」「そう・・」シェアハウスを卒業した禍蛇は、仲間達と別れを惜しんだ後、琥龍と共に旅立った。「禍蛇、元気でね。」「うん。火月、本当に独りで大丈夫?」「大丈夫だよ。」「落ち着いたらメールするからね。」空港で琥龍と禍蛇を見送った後、火月は家族連れやカップルで賑わうクリスマスツリーの前を足早に通り過ぎた。有匡と、擦れ違っている事など気づかずに。「ただいま・・」「お帰りなさい、火月ちゃん。外、寒かったでしょう?」「うん・・」火月は、シェアハウスの仲間達と夕飯を取ろうとした時、炊き立てのご飯の匂いを嗅いだ途端激しい吐き気に襲われ、トイレに入って朝食を便器の中に吐いた。「大丈夫?」「うん、ただの胃腸風邪だから・・」「そう。」しかし、火月の体調は良くなるどころか、悪化していった。「これ、使ったら?もしかしたら、という事もあるかもしれないし・・」ある日、火月はシェアハウスの仲間から妊娠検査薬を渡された。(まさか、ね・・)火月は、早速妊娠検査薬をトイレで試した。すると、検査窓に「陽性」を示す二本線が出て来た。「シェアハウスから出て行く?どうして?」「だって・・妊娠しちゃったので・・皆さんに、ご迷惑をかけてしまうし・・」「馬鹿言わないで!あたし達、家族でしょう?これから、皆であなたの事を支えてあげるから!」「ありがとうございます・・」火月は高校を卒業し、安定期を迎えるまで生活の為に懸命に働いた。「お疲れ様~!」「火月ちゃん、体調は大丈夫なの?」「はい。つわりは治まったし、無理しない程度に運動した方がお腹の赤ちゃん達にもいいって、お医者様が。」「双子なの?だったらこれから大変ね。明日、買い物に付き合ってあげるわよ!」火月に何かと親切にしてくれるパート仲間の西田は、そう言って彼女の少し膨らんだ腹を見た。「初産で双子って、産むのも大変だけど、育てるのも大変よ。困った事があったら、何でも相談してね。」「ありがとうございます。」パート先であるパン屋の前で火月と別れた西田は、ある場所へと向かった。そこは都内の一等地にあるタワーマンションの最上階だった。「坊ちゃま、わたしです。」『入れ。』最上階の部屋の主―有匡はそう言うと、オートロックを解除した。「あの子は・・火月様は、間もなく臨月を迎えられます。初めての出産で、彼女は不安がっております。」「そうか。」「火月様には、お会いにならないのですか?」「彼女は、自分を乱暴した男の顔など見たくないだろう。それに、彼女はわたしと居たら不幸になる。」「坊ちゃま・・」「報告ご苦労、もうさがっていい。」「はい・・」翌日、火月は西田と共に、ベビー用品を買いに駅前にある大型商業施設へとやって来た。「沢山買っちゃったわねぇ~」「すいません、色々と・・」「いいのよ~、火月ちゃんを見ていると、娘を思い出しちゃってねぇ、放っておけないのよ。」「そ、そうなんですか・・」「お腹空いたでしょう、そろそろお昼にしましょうか?」「はい・・」西田と共に火月が入ったのは、お洒落なカフェだった。昼時とあってか、店内は混んでいた。「ここに座ってて。わたしが注文してくるから。」大きなお腹を抱えながら、火月がソファの上に腰を下ろした時、突然店内がざわつき始めた。―何あの人?―イケメン!―きゃぁ、こっちに来たわ!火月が周囲の声に気づいて俯いていた顔を上げると、そこには自分を見つめる有匡の顔があった。“火月。”「先生・・?」「火月、記憶が戻って・・」有匡がそう言って火月を見た時、火月は突然苦しそうに顔を歪ませた。「お腹、痛い・・」「火月、しっかりしろ!」病院に搬送された火月は、緊急帝王切開によって男女の双子を出産したが、意識不明の重体に陥った。「わたしの所為だ・・わたしが・・」「しっかりなさって下さい、坊っちゃん!あなたはもう、護るべきものがあるでしょう!」自責の念に駆られ、弱気になっている有匡を、西田は平手打ちした。「そうか、そうだな・・」 有匡はそう言うと、新生児室に居る双子を見た。“起きて・・”(誰?)“早く起きて。”(僕を呼ぶのは、誰?) 火月が目を開けると、そこには自分と瓜二つの顔をした女性が立っていた。(あなたは、誰?)“僕は、あなた。昔、あなたの先生と夫婦だった。” 女性は、そう言うと火月の手を握った。”早く起きて、先生達の元へ戻って。“(先生・・) 火月は、何処かで自分を呼ぶ声が聞こえ、その声が聞こえる方へと歩いて行くと、白い光に彼女は包まれ、意識を失った。「火月、よかった!」「先生?」「高原さん、良かった、意識が戻ったんですね!」 火月が病院を退院出来たのは、出産してから三ヶ月後の事だった。「先生、本当に、一緒に住んでもいいんですか?」「何を今更。お前は、わたしと暮らしたくないのか?」「そ、そんな事、思ってないですけど。」 退院後に有匡に連れられて彼の部屋に入った火月は、彼からそう尋ねられ、そう言った後頬を膨らませた。「そう拗ねるな、少し揶揄っただけだ。」「もうっ!」「お帰りなさいませ、坊ちゃま、奥様。」 二人が玄関先でそんなやり取りをしていると、奥から西田が出て来た。「え、西田さん、何でここに!?」「ごめんなさい、火月ちゃん。わたしは、坊ちゃま・・有匡様に頼まれて、あなたの事を陰ながらサポートしてきたの。」「え、えぇ~!」「余り騒ぐな、双子が起きるだろう。」 有匡がそう言った後、今まで寝ていた双子が急に泣き出した。「ほら、言わんこっちゃない。」「先生の所為じゃないですか~!」(はぁ、この先どうなるのやら・・) それから二人は西田に手伝って貰いながら、双子の育児に奮闘した。 双子の育児は、二人が想像していたよりもハードだった。 睡眠時間はまとめて三時間取れるのがいい方で、西田の助けがなかったら、二人は共倒れしていたかもしれない。「奥様、どうぞ。」「ありがとう、西田さん。こんなに良く寝たのは、久し振りだなぁ。」「一人でも大変なのに、双子だとその倍の大変さですからね。でも、こうして双子ちゃん達をお世話していると、娘の事を思い出してしまいました・・交通事故で亡くなった娘を。」「ごめんなさい、辛い事を思い出させちゃって・・」「いえ、いいんです。」 西田はそう言った後、涙を手の甲で拭った。 その時、チャイムが鳴った。「あら、こんな時間に誰かしら?」「先生は、まだお仕事の筈・・西田さん、警察を呼んで。」「は、はいっ!」 謎の訪問者が土御門家に来てから一週間後、火月が禍蛇達と西田と共に双子達の満一歳の誕生日パーティーの準備をしていた時、再びチャイムが鳴った。『宅配です。』「は~い。」 西田がそう言ってオートロックを解除しようとした時、その宅配業者の姿が見えなくなった。「火月、無事か!?」「先生、どうしたんです?宅配の人は?」「あいつは宅配業者じゃない、お前を拉致しようとした遠縁の従兄だ。まぁ、あいつは警察に連れて行かれたから、もう心配しなくていい。」「そうですか・・あれ、先生、お仕事だった筈じゃ・・」「嫌な予感がして、早退してきた。それに、今日という日を、家族でゆっくりと過ごしたいからな。」「え・・」「何を驚いている?」「あの、本当に先生ですか?」「殴られたいのか、お前?」「いえ・・」 その日の夜、土御門家の双子、雛と仁の満一歳を祝う誕生パーティーが華々しく開かれた。「この一年間は、怒濤の一年間だったな。」「ええ。」「火月、順序が逆になってしまったが、わたしと結婚してくれないか?」 有匡のプロポーズの言葉に、火月はこう返事した。「はい、喜んで。」「これからも、宜しく頼む。」「こちらこそ。」(良かった・・坊ちゃま、どうか火月さんとお幸せに。) 二人の様子をキッチンから見ていた西田は、そう思った後仕事に戻った。「え、結婚式!?」「うん。この一年、色々とあって、落ち着いたから結婚式を挙げようって、先生が・・」「ふ~ん、あいつにしては珍しいな。何処かで浮気でも・・」「お前は黙ってろ!」 琥龍は禍蛇に股間を蹴られ、呻いて床に転がった。 有匡と火月が転生し、運命的な再会を果たしてから、二年の歳月が経った。 六月、都内のホテルで、二人は結婚式を挙げた。「うわぁ、火月、綺麗だよ!」「ありがとう、禍蛇。」「フェロモンボンバー!有匡なんかと別れて、俺と一緒になってくれ~!」「しつけーんだよ、お前ぇは!」 禍蛇はそう言うと、琥龍にかかと落としを喰らわせた。 新婦控室にある鏡の前で、火月はうっとりとした様子で己の花嫁姿を見た。 この日の為に、有匡と相談して誂えたマーメイドラインのドレスには、襟と裾にはガーネットとルビーがそれぞれ縫い付けられていた。「お互いの誕生石をドレスにつけるなんて、エモいよね~!琥龍には真似できないな~」「何だか、嘘みたい・・Ωの僕が、幸せになれるなんて。」「もう、まだそんな事を言ってるの?これから有匡と幸せになるんだから、もっと自信を持ちなよ!」「う、うん・・」「新婦様、そろそろお時間です。」「はい、わかりました。」 火月はドレスの裾を摘むと、禍蛇と琥龍と共に新婦控室から出た。「有匡、おめでとう。火月さんと幸せにな。」「ありがとうございます、母上。」「馬子にも衣装ってやつだね。」「お前、火月を虐めたら承知せんぞ。」「そんなことする訳ないじゃん。ま、神官も近い内に結婚するからいいけどね。」「相手は誰だ?」「後で教えるよ。」 神官はそう言って笑うと、スウリヤと共に新婦控室から出た。「新郎様、お時間です。」 有匡は、颯爽とした様子で新郎控室から出た。 初夏の陽光を受け、七色に光るステンドグラスの下に立つ火月の姿は、とても美しかった。「それでは、誓いのキスを。」 有匡と火月が神の下で永遠の誓いを交わし、ホテル内のチャペルから出ると、外には美しい青空が広がっていた。 まるで、空が二人を祝福しているようだった。「おとうさん、おかあさん、おめでとう!」「おめでとう~!」 雛と仁は、そう言うと有匡と火月に抱きついた。「二人共、ありがとう。」「火月さん、不肖の息子をよろしく頼む。」「こちらこそ、よろしくお願い致します、お義母様。」 スウリヤは、火月と笑顔で握手を交わした。「母上、神官は?」「神官なら、彼と一緒に居たぞ。」「彼?」「やぁ、有匡殿。この度はご結婚おめでとうございます。」「文観、貴様何しに来た?」「そんなにカリカリしなくても良いじゃん、アリマサ。近い内に親戚になるんだし。」「親戚だと?」「もしかして、聞いていなかったのか?まぁそうだろう。」 有匡はこめかみに青筋を立てながら文観を睨みつけると、彼は笑いながら神官の肩を抱いた。「これから、よろしくお願いしますね、お義兄さん。」「わたしは認めん!」「先生、落ち着いて~!」「やはり、こうなるか。」~完~にほんブログ村
Feb 23, 2024
コメント(0)
素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。「火月、花火大会、楽しんだみたいで良かったね。」「え?」「いやぁ、そんだけあからさまにマーキングされたら、わかんだろう。」 琥龍はそう言うと、火月に手鏡を手渡した。「うわぁ・・」 火月は、首筋に有匡がつけたキスマークがついている事に気づいて、顔を赤くした。「最近独占欲出し過ぎだよな、あいつ。俺がこの前、火月をシェアハウスまで送ろうとしたら、殺気を放って来たし。」「う~ん、最近先生、色々とナーバスになっているんだよねぇ。この前、お父様の法事に出席した時に、何かあったみたいで・・」「え、有匡もしかして、実家に火月の事を言っていないの?ちゃんとした嫁なのに?」「嫁って、僕は先生とは・・」「毎日Hしてりゃ、嫁と一緒じゃん。」 禍蛇の言葉を聞いた火月は、飲んでいたアイスコーヒーを噴き出してしまった。「そ、そんっ・・」「てかさぁ~、もう有匡の所に住めば?いくら近所とはいえ、通い妻はキツイよね。」「先生、色々と忙しいし、余り自分の縄張りというか、領域に他人を入れたくなさそうだし・・」「火月は、有匡にとって特別な相手って事だろ?」「う~ん、そうかな?」「まぁ、俺シェアハウスを近々出て行くし、一度有匡に話してみたら?」「わかった。」 火月がそう言いながら禍蛇とカフェから出た時、店の前に一台の高級車が停まっている事に気づいた。「あれ、有匡の?」「ううん、違うよ。」 火月がその高級車の前を通り過ぎようとした時、突然車の中から数本の腕が伸びて来て、あっという間に火月を車の中へと引き摺り込んだ。「火月が拉致された!?」「うん、今さっき!有匡、何か心当たりある?」「火月を拉致したのは、実家の者だ。あいつらは、火月をわたしから排除しようとしている。」「どういう事?」「義父は、わたしに、家に相応しいΩを宛がうつもりだ。だから、火月をわたしから引き離そうと・・」 有匡はそう言うと、唇を噛んだ。「引き離すって、一方的に番契約を解消させようとしているって事?」「あぁ。だが、番契約はαの方からしか解消できない。義父の狙いはこのわたしだ。必ず、わたしが必ず火月を取り戻してみせる。」 そう言った有匡の瞳には、決意の炎が宿っていた。「う・・」「目が覚めたか?」 火月が目を開けると、そこは暗く湿った蔵の中だった。 彼女の前には、数人の男達の姿があった。「あなた達は・・」「お前が、有匡の番か?」「先生を、知っているの?」「知っているも何も、あいつには散々、煮え湯を飲まされて来たからな。」 有匡の義兄達は、そう言うと火月の頬を平手打ちした。「お前には、消えて貰う。」「嫌、嫌!」(先生、助けて・・)「あの者は、どうであった?」「あの娘、中々強情で、頑として有匡との番契約を解消すると言いません。如何致しましょう、父上?」「あの娘をバース機関へ送り、一生繁殖用として向こうへ監禁すればいい。」 有匡の義父が息子達とそんな事を話していると、突然廊下の方が騒がしくなった。「火月は何処だ、火月を出せ!」「有匡、何を騒いでおる?」「義父上、火月を何処へやったのです?火月は、わたしの大切な・・」「あの娘は、お前の番には相応しくない。あの娘は、敵の血をひいている。」 有匡の義父は、そう言うと茶を一口飲んだ。「敵の血?」「あの娘の家は、魔物を神として祀る巫女の末裔だ。そのような忌まわしい者は、この家には相応しくない。」「火月が相応しいかどうかは、わたしが決めます。そこを退いて下さい。」「有匡、お前は有仁と同じ過ちを犯すつもりか?」「火月は何処に居る?」 有匡は苛立ち、傍にあった果物ナイフを義父に突きつけた。「あの娘は、離れに監禁しておる。案内しよう。」 有匡が義父と共に火月が監禁されている蔵の中に入ると、そこは甘い花の蜜のような匂いが漂っていた。(これは、Ωのフェロモン・・番が居るΩは、発情しない筈・・)「強制発情剤を打っておったが、こうもすぐに効くとはな。」「火月に、何をしたぁ!」 火月は、有匡の全身から発せられた威圧フェロモンに気絶してしまった。(先生、助けに、来てくれたんだ・・) 火月が有匡の方を見ると、彼は義父達に襲い掛かっていた。(駄目・・先生、お願い・・) 有匡に呼び掛けようとした火月は、突然額が疼くのを感じた。(何?)「火月、どうした!?」 火月が苦しみ出すのを見た有匡は我に返ると、火月の周りを囲んでいる注連縄を傍にあった太刀で切り、彼女を抱き締めた。「火月、わたしだ。わかるか?」「う・・先生、お願い、離れて・・」「火月?」 火月は、激しい頭痛に襲われ、その場に蹲った。「しっかりしろ、火月・・」―目覚めよ。 何処からか、自分を呼ぶ声がした。―我を・・(嫌だ・・)「この娘を早く殺せ!」―呼べ。(嫌だぁ~!) 突然、紅い稲光りが空に光り、雷鳴が轟いた。「火月?」 雷の直撃を免れた有匡は、火月の額にあるものが浮かんでいる事に気づいた。(あれは・・) それはかつて、自分が封じた筈の紅牙―邪悪な獣の証である、「第3の瞳」だった。(あの時、わたしは紅牙を封じた筈・・それなのに・・)「先生、助けて・・」 有匡は、苦しそうに息をする火月を抱き締めた。「大丈夫だ、わたしはここに居る。」「良かった・・」 火月は、そう言うと気を失った。「火月、しっかりしろ!」 遠くから、サイレンの音が聞こえた。「有匡、火月は?」「わからない。」「どういう事だよ、それ!?」「火月の額に、“第3の瞳”が現れた。あれは、わたしが昔、封じた筈・・」 有匡がそう言った時、手術室の“使用中”のランプが消え、ストレッチャーに乗せられ、酸素マスクをつけた火月が中から出て来た。「火月、しっかりしろ!」「あなたが、高原火月さんの番ですね?」「はい。火月は、大丈夫なんですか?」「脈拍、呼吸共に異常はありませんが、ひとつ問題があります。」「問題?」「はい。彼女の脳は重篤なダメージを受けており、いつ意識が回復するのかが定かではありません。下手すれば、一生植物人間になる可能性もあります。」「そうですか・・」 火月は集中治療室に入れられ、医師達の治療を受けていた。「わたしの所為だ、わたしが・・」「お前の所為じゃねぇって!そういや、土御門家のオッサン達はどうしてんだ?」「さぁな。今はあいつらの事よりも、火月の方を優先せねば。」有匡はそう言うと、コーヒーを一口飲み、病院へと向かった。―ねぇ、土御門先生、今日も休みなの?―うん、番の子が・・―え、番ってあの・・ 神官は時折聞こえて来る“事件”の噂話に耳を傾けながら、ある場所へと向かった。 そこは、文観が居るバース関連の研究所だった。「おや、久しいですね―艶夜。」「アリマサとカゲツに会わせて。」「これは異な事を。あの二人はここには居ませんよ。」「本当?神官を騙したら承知しないよ。」「おお、恐い。」 文観はそう言って笑いながら、神官を見た。「二人なら、病院に居ますよ。」「病院?アリマサ、怪我したの?」「いいえ、入院しているのは火月だけです。一月前に土御門家で起きた“事件”に、彼女が深く関わっているようなんですよ。」「どういう事?」 文観は神官に、ある週刊誌の記事を見せた。 そこには、黒焦げの遺体が転がる中で、火月を抱き締めている有匡の姿が写っていた。「土御門家を焼き、火月は意識不明の重体に陥っています。有匡は、毎日彼女に時間が許すまで付き添っているそうです。」「なんで?カゲツの中の紅牙は、アリマサが倒したんじゃないの?なのに、どうして・・」「それはわたしにもわかりません。しかし、彼女の家と深い関りがあるかと。」「アリマサに会う。」「今の彼は、手負いの獣同然。彼と同じαでも、あなたは会わない方が良い。」「わかった・・」」(もう、あれから二月も経つのか・・) 有匡は、何杯目かのコーヒーを飲みながら、集中治療室の中で眠っている火月を見た。「火月、起きてくれ・・」 有匡の声に応えるかのように、火月の瞳が静かに開いた。「火月!?」 駆け付けた医師によって、火月は生命の危機を脱したと告げられた時、有匡は安堵の溜息を吐いた。「先生、火月は・・妻は、いつ退院出来るんですか?」「それは、今のところわかりません。」「そうですか・・」 集中治療室から一般病棟へと移った火月を有匡が見舞いに行くと、彼女が居る個室の中から賑やかな笑い声が聞こえて来た。「良かった、元気そうで。」「ごめんね禍蛇、心配ばかりかけちゃって・・」「早く有匡に会ってあげなよ、あいつ心配してたんだから!」「火月。」 有匡が火月の病室に入ると、彼女の頬から笑みが消えた。「良かった、その様子だと大丈夫そうだな。」 有匡がそう言って火月の髪を梳こうとした時、彼女は怯えて有匡から後ずさりすると、彼に向かってこう言った。「あなた、誰?」「火月?」 火月が記憶の一部を喪失している事を有匡が彼女の主治医に話すと、彼は有匡にこう言った。「脳に重篤なダメージを受けた際、彼女の海馬―記憶を司る部分が少し損傷しているようです。それもありますが、やはり精神的なものが原因かと・・」「精神的なもの、ですか?」「ストレスが原因で、稀にそうなる方がいます。記憶が戻るのはいつになるのか、わかりませんが・・」「そうですか・・」 主治医の説明を受けた有匡は、火月を見舞おうとしたが、やめた。 今彼女にとって、自分は“見知らぬ男”でしかないのだから。「火月、有匡の事忘れたの?あんなに大好きな人だったのに。」「禍蛇、どうしてあの人は、僕の事を悲しそうな目で見ていたの?あの人に見られていると、胸がチクチクするんだ。」「火月、本当に有匡の事を忘れてしまったの?ずっと、想い続けて来たのに・・」 禍蛇はそう言うと、火月に紅玉の耳飾りを見せた。「これ、憶えている?昔、有匡が火月の涙で作った耳飾りだよ。」「う~ん・・」 火月が呻きながら禍蛇から紅玉の耳飾りを受け取った時、脳裏にある光景が浮かんで来た。『火月・・愛している・・』(誰?)『生まれ変わっても、ずっと・・』「火月、どうしたの?」「頭が痛い・・」「ゆっくり休みなよ。」「うん・・」 禍蛇が火月と病院でそんな話をしていると、そこへ一人の青年がやって来た。「あぁ、やはり炎様に似ておられる。」 青年はそう言うと、美しい切れ長の碧い瞳で火月を見つめた。「あなたは?」「わたしは、高原優斗。あなたの遠縁の、従兄にあたる者です。」「従・・兄・・?」「何も心配する事はありません。これからは、わたしがあなたを守ります。」「え・・」 青年の姿が、火月は“誰か”の姿と重なったような気がした。「貴様、何者だ!?」「また来ますね、炎様。」 青年―優斗は、そう言って火月の額に唇を落とした後、病室から去っていった。「火月、どうした?あいつに何かされたのか?」「触らないで!」 自分を抱き寄せようとした有匡の手を、火月は冷たく振り払った。「ごめんなさい、僕・・」「火月、わたし達は暫く距離を置いた方が良いだろう。」「え?」「達者でな。」 そう言って自分に背を向けて去ってゆく有匡の背中が、火月には“誰か”の背中に重なって見えた。「本当に、気が変わりませんか?」「はい。」「あなたのような有能な方が、我が校から居なくなるのは惜しいですが、仕方ありませんね。」 そう言った暁人は、嬉しそうに笑った。 厄介払い出来て嬉しいというように。「それでは、わたしはこれで失礼致します。」 有匡はそう言って暁人に辞表を出し、理事長室から出ると、国語科準備室で私物を整理していた。「これは、取っておくか・・」 そう言った有匡は、火月の耳飾りを絹の袋の中に、大切そうにしまった。 火月が退院し、復学すると、麗が図書館で彼女に突然話し掛けて来た。「高原さん、土御門先生は学校を辞めたよ。」「え?」にほんブログ村
Feb 22, 2024
コメント(0)
衝撃的なヒーローとヒロインの出逢い。裕福な白人の娘・エスリンと、白人と先住民との混血児・ルーカス。白人と先住民との経済格差、偏見、差別・・ロマンスでありながら、社会問題を深く掘り下げながら描くサンドラ・ブラウンは見事としか言いようがないですね。ロマンス小説は、ハッピーエンドで終わるのがいいところですね。読みごたえがあった、ロマンス小説でした。
Feb 22, 2024
コメント(0)
「窓ぎわのトットちゃん」は、トモエ学園の楽しい学校生活について描かれていましたが、続編では戦時下の食事や疎開生活などが細かく書かれており、戦争の記憶が風化しつつある現代に於いて、とても貴重な本だなぁと思いました。後書きで、戦争を経験した俳優さん達のお話を書かれていましたが、わたしの祖父母は父方・母方共に亡くなっており、彼らの戦争体験を知る術がなかったので、やはりこういった本は後世にわたって読み継いで欲しいですね。
Feb 22, 2024
コメント(0)
火月ちゃんと神官の関係について、わたしなりに考察したいと思います。一個人の勝手な考察なので、別に気にせずに軽く読んで下さればいいです。火月ちゃんと神官、この二人は正式は義理の姉妹となり、火月ちゃんが有匡様の妻なので兄嫁、神官は有匡様の妹なので義妹となります。長年生き別れていた神官は、有匡様の事を兄としてではなく「男」として見ています。しかし、有匡様は神官を「妹」としてしか見ていません。火月ちゃんという妻が居るし、肉親との縁がない有匡様にとって、神官は妹である、それ以上でもそれ以下でもない存在です。でもそれが、神官にとっては面白くない。だから、火月ちゃんへの嫉妬やライバル心があったりして、色々とトラブルを起こした。でもなぁ、女同士って複雑ですからね。火月ちゃんは、神官に対する有匡様の気持ちが解っているだけに、強く言えない。どろどろとした汚い嫉妬心を神官に見せつけていたシーンがありますが、やはり火月ちゃんは火月ちゃんなりに有匡様と神官の関係を何処か羨ましいと思っていたのではないかなぁ?有匡様は神官に、「妹と女は違う」と言いましたが、神官は有匡様を独占したい→火月ちゃんが邪魔、という考えしかないんじゃないか?と、わたしは思ってしまいました。色々と書きましたが、この二人が仲良くなれる事はないのかなぁ・・と思いつつも、二次小説では二人を仲良くさせてますけどね。「火宵の月」という作品は、ファンタジーでありながらも妖と人間との間に産まれた有匡様の葛藤や、家族の情愛について色々と描かれていて、読み返す度に奥が深い作品だなぁと勝手にいちファンとして思っています。
Feb 22, 2024
コメント(0)
最近、「火宵の月」文庫全巻を購入し、読み返していましたが、7・8巻はほぼ文観×神官で占められていましたね。この二人の共通点を先生が6巻の巻末ふろく漫画でまとめていましたが、似た者同士惹かれ合うところがあったのではないでしょうか?先生が挙げられた共通点の他に、わたしは二人の生い立ちが関係にしているのかなぁと思いました。・文観は孤児、神官は妖狐族の皇女の娘で、本来高い身分でありながら人間との混血児であるが故にその存在を無視されていた。これだけでも、二人の「居場所探し」というセリフが所々原作に出て来て、互いに似た者同士惹かれ合って結ばれたようですね。出逢うべくして出逢った二人でしょうか。神官は火月ちゃんへのライバル心が抑えきれず、文観に操られてしまって、家出して文観に拉致されて人質にされたという最悪な形から始まった共同生活でしたが、それでも落ち着く場所に落ち着いたというのがいいですね。ただ、有匡様の心が穏やかではないかもしれませんね(笑)
Feb 22, 2024
コメント(0)
六条の御息所の怨念、花散里との危険な情事。光源氏という、一人の男に翻弄される女達の物語、ますます目が離せません。
Feb 20, 2024
コメント(0)
高校生のころ、田辺聖子訳の源氏物語を一度読んだきりでして、今年の大河が平安時代なので、源氏物語を23年ぶりに読んでみましたが、面白いというか、それぞれの章を読むたびに場面がいかんできそうな場面描写は、まさに映画を観ているかのようでした。全10巻もあるので、これから楽しく読もうと思います。
Feb 20, 2024
コメント(0)
※BGMと共にお楽しみください。本作品は「地獄先生ぬ~べ~」のパラレル小説です。若干設定を変えていますので、パラレル小説が嫌いな方はお読みにならないでください。作者様・出版社様とは一切関係ありません。 1326年仲夏、鎌倉。「はぁ、はぁ・・」 家族と喧嘩し、家でした雪女の火月は、由比ヶ浜に来ていた。 外の世界は危険だと、家族から煩く言われていたのに、火月はどうしても海を見に行きたかった。 その理由は―「うわぁ、綺麗・・」 その日、空に紅い月が浮かんだ。 火月は、その月を見る為にわざわざ山から下りて来たのだった。月に感動していた火月は、いつの間にか眠ってしまった。そして、彼女は太陽が己の身体をじわじわと焼いている事に気づいた。(苦しい、動けないよ・・) 荒い息を吐きながら、火月は日陰へと移動しようとしたが、躰に力が入らず、浜辺で動けなくなってしまった。「おい、大丈夫か?」 意識が朦朧とする中、火月は自分の命の恩人の姿を見た。(綺麗な、瞳・・) それが、陰陽師・土御門有匡との出会いだった。「お世話になりました。」「今度は、危ない目に遭うなよ。」「はい。」(いつかきっと、あなたに恩を返します‥先生。) そして時を越え、火月は有匡と―彼の子孫と出逢った。「おい、大丈夫か?」「やっと会えた‥先生・・」 再会した火月と有匡は、いつしか同じ屋根の下で暮らし始めたのだった。「重い!」 土御門家の怒声は、有匡の怒声で始まる。「火月、胸の上で寝るな・・」「すいません・・」 有匡は、低血圧なので、朝はかなり不機嫌だ。「全く、お前はどうしてわたしの胸の上で寝るんだ?」「何だか、落ち着くんです。」「そうか。」 有匡はそう言って溜息を吐いた後、コーヒーを一口飲んだ。「美味いな。」「そのコーヒー、僕が淹れたんですよ!」「そうか。火月、スケートリンクの仕事はどうだ?」「皆さん優しいですし、仕事は順調ですよ。それよりも先生、那須に行ってから最近変ですよ?」「最近、夢を見る。鎌倉で、お前と浜辺で会う夢だ。」「もしかしたら、それは・・」「さてと、もうこんな時間だから、行って来る。」「行ってらっしゃいませ!」 有匡が出勤した後、火月は有匡の寝室に入って、彼の枕に顔を埋めた。「先生、早く帰って来ないかな~」 中学校に出勤した有匡が職員室でテストの採点をしていると、そこへ教頭の田中が彼の元にやって来た。「土御門先生、来週のお祭り楽しみですね。」「え、えぇ・・」 有匡は、田中が少し苦手だった。「そういえば、明後日先生のクラスに転校生が来るので、よろしくお願いしますね。」「はい。」 田中が去った後、有匡はテストの採点を再開したが、突然背後から強い視線を感じて振り向くと、そこには那須で会った九尾の狐の姿があった。「久しいな、有匡よ。」 人の姿をした九尾の狐は、そう言って蠱惑的な笑みを有匡に浮かべた。「貴方が何故、人間界に?」「人間界と魔界が近々呼応する日が来よう。」「それを伝えに、わざわざ?」「いや、人間の暮らしを送ってみたいと思うてな。何せ長い間、石に閉じ込められていたからのう。」 九尾の狐は、そう言うとコロコロと笑った。「では、また会おうぞ。」(不思議な方だ・・) 有匡が中学校で九尾の狐と再会した頃、火月は職場のスケートリンクで優雅に滑っていた。「あ~、やっぱり誰も居ないリンクで滑るのって楽しいなぁ~」 そう呟きながら火月がリンクから上がり、スケート靴にエッジカバーをつけていると、一人の青年が彼女の方に近づいて来た。「君、プロかい?さっきの滑り、良かったよ。」「あ、ありがとうございます・・」 青年は、じっと切れ長の翠の瞳で火月を見た。「あ、あの・・」『僕なら君を幸せに出来るよ・・あの男よりも、ずっとね。』「え?」「あなたに会えて、嬉しかったよ。」 男はそう言って火月の頬にキスすると、スケートリンクから去っていった。『坊ちゃま、“彼女”には会えましたか?』『あぁ。彼女は運命の人だ、相手が誰であれ、必ず手に入れる。』 そう言った男―フランシスは、口元を歪めて笑った。(今日も疲れたな・・) 有匡がそう思いながら中学校から出て帰路に着く途中で、彼は一人の少年が道端に倒れている事に気づいた。「おい、大丈夫か?」「主・・様・・」 少年はじっと有匡を紅の瞳で見つめると、彼の腕の中で気絶した。「おいっ、しっかりしろ!」にほんブログ村
Feb 20, 2024
コメント(0)
表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。“ねぇ、大人になったら、結婚してくれる?“ それは、幼き頃に交わした、他愛のない約束。“あぁ、勿論さ。” あの頃は、幸せだった。 優しい両親と、わがままで可愛い妹。 そして、愛する幼馴染。 そんな幸せが、いつまでも続くと思っていた。“あの日”が、来るまでは。「お父さん、お母さん!」 炎によって焼かれた邸の中で、両親は息絶えていた。「こりゃ上玉だ、双子以上の価値があるぞ!」 誰か、助けて・・ 誰か・・ 幼子の願いは届かず、“彼”は闇の中へと消えた。「漸く会えたな、麗しの黒鳥。」 絶望、怒り、死に塗れた中に生きていた“彼”を見つけたのは、リッツォリ家当主・アルフレッドだった。 アルフレッドは、“彼”に己の全てを―処世術、社交術、そして裏社会の全てを叩き込んだ。「さぁ、お前の望みを言え。」「復讐したい・・僕の幸せを奪った奴らに、同じ苦しみを・・僕以上の苦しみを与えてやる!」「そうか。」 アルフレッドは、“彼”の艶やかな黒髪を優しく指で梳いた。「お前は美しい。その望み、わたしが叶えてやろう。だがその代わりに、わたしの為に全てを捧げよ。」「はい、ご主人様。」「今日からわたしの事は、お父様と呼べ。」「お父様。」 スペイン・セビリア。 フラメンコ=ギターの音色と共に、舞台で踊り子達がパーティーを盛り上げる中、一人の女がアントニオの前に現れた。『もう来ないのかと思ったよ。』『あら、わたしをお捨てになったのかと思いましたわ。』 女は、そう言うとアントニオにしなだれかかった。『どうした?』『あなたの事を想っただけで、躰が疼いてしまって・・』『可愛い奴め。おいで、ベッドでたっぷりと可愛がってやろう。』 アントニオの寝室に入った女は、寝台の上に彼を押し倒した。『ふふ、積極的だな。』 アントニオはそう言うと、起き上がって女を己の方へと抱き寄せた。 その直後、彼は女に首の骨を折られ、絶命した。 パーティーの喧騒の中、女は静かに闇の中へと消えていった。『奴は始末しました。』『そうか。』『それは?』『次の標的だ。アントニオと違って用心深いから、気をつけろよ。』『わかった。』 女は乱暴に吸っていた煙草の吸い殻をハイヒールで踏み消すと、愛車に乗り込んで姿を消した。「おい、あれが?ボスの・・」「あぁ、“死の黒鳥”ね。何でも、人身売買組織の闇オークションで落札して、ボス自ら育てたとか。」「アジア人にしては、色が白いし、不思議な色の瞳をしているよな?」「日本人と英国人との混血なんだと。まぁ、深く関わらない方が良いぜ?」「そうだな。」 オーストリア・ウィーン、オペラ座。 その日は、パリ・オペラ座のバレエ団の『白鳥の湖』の夜公演が行われていた。 女は、すぐさま標的を見つけた。 シンシャナ国第二王子・アブサム。 褐色の肌と亜麻色の髪、そして紫の瞳を持った彼の周りには、数人の護衛が付き従っていた。(ガードが堅そうだな。ここは、偶然を装って近づいた方が無難か。) そんな事を女が考えていると、一人の少女が舞台上に現れた。 白磁のような肌、輝く美しい金髪、そして血の如く美しい上質な紅玉を思わせるかのような真紅の瞳。(火月・・) 脳裏に、幼い頃“彼女”が自分に熱く夢を語ってくれた姿がよみがえった。『僕、大きくなったら、バレリーナになって世界中で活躍するんだ!』(夢を、叶えたんだな・・) もう少し彼女が舞う白鳥を見ていたかったが、自分には“仕事”がある。(忘れろ・・もう全ては過去、終わった事だ。) 女は俯いていた顔を上げると、蠱惑的な笑みを浮かべながら、ゆっくりとアブサムの方へと近づいていった。「火月!」「先生!」 火月が楽屋で化粧を落としていると、控え目なノックの音と共に彼女の婚約者・土御門有匡が入って来た。「夢を叶えたんだな、おめでとう!」「ありがとうございます、先生!」(ごめんなさい、先生・・あなたはずっと僕に優しくしてくれるけれど、僕はもう気づいてしまったんだ。貴方が、僕の大好きな“先生”じゃないことに。) 火月が大好きだった“先生”は、あの日、炎の中で死んだのだ。にほんブログ村
Feb 19, 2024
コメント(0)
※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」「鬼滅の刃」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「先生、行ってらっしゃい~!」「おとさま、行ってらっしゃい~!」 それは、いつむの、何気ない日常だった。 だが―「火月、何処に居る!」 出張から戻って来た有匡は、眼前に広がっている光景が信じられなかった。 邸の中は荒れ果て、雛と仁の遺体が血の海の中に倒れていた。(何故、こんな事に・・) 双子の遺体を胸に抱きながら、有匡は妻・火月の姿が無い事に気づいた。 一体、自分が留守にしている間に何があったのだろうか。「火月、居たら返事をしろ!」「ほぅ、其方があの陰陽師か。成程、凄まじい妖気だ。」 闇の中から声がしたかと思うと、黒髪に紅い瞳をした男が闇の中から現れた。「貴様、何者だ!?」「おや、下手に動くとそなたの妻の命はないぞ。」 謎の男は、そう言うと火月の首に鋭い爪を突きつけた。「お前の望みは何だ!?」「其方の血を、わたしに分け与えよ。そうすれば、其方の妻を解放してやってもいいぞ?」「罠だな。そんな嘘でわたしを騙せると思っているのか、鬼舞辻無惨。」「ほぉ?」 男―鬼舞辻無惨は、細い眦を上げ、有匡を睨んだ。「気が変わった。其方の妻を、わたしの妻として貰い受けるぞ。」「待て!」「先生、助け・・」 火月に向かって有匡は手を伸ばそうとしたが、その手が火月に届く前に、彼女は無惨と共にまるで煙のように掻き消えてしまった。(一体、あいつは何処に消えたんだ?) 有匡がそんな事を思いながら双子の遺体を埋葬していると、そこへ京に居る筈の妹・神官の姿があった。「神官、お前どうして・・」「アリマサ、助け・・」 神官はそう叫んだ後、有匡に牙を剥いて襲い掛かって来た。「やめろ、神官!」 神官の牙を持っていた太刀で何とか防いだ有匡は、神官が泣いている事に気づいた。(神官・・) 有匡は祭文を唱え、神官の額に、ある印を刻んだ。 それは、かつて雷獣・紅牙を封印した“第3の瞳”だった。「アリマサ・・」「わたしの血で、お前の中の、鬼の邪鬼を封じた。それよりも神官、何故京に居る筈のお前が、鎌倉に居る?」「あの変な男に連れて来られたんだよ。カゲツを人質に取ったのは、アリマサを苦しめる為だろうね。」「わたしを?」「ま、これ以上ここに居ても無駄だから、山から人里へ下りた方がいいかもね。」「あぁ・・」 こうして、有匡と神官は訳が分からぬまま邸を後にし、人里へと下りていった。 すると、そこには二人が知らない鎌倉の町が広がっていた。―何だ、あれ?―変な格好ねぇ・・「何か、ここ本当に鎌倉?」「あぁ・・」 有匡が少し混乱していたが、すぐに周りの状況を確認した。(ここは、わたし達が生きていた頃の鎌倉とは違う。では、ここは一体・・)「あ、すいません、お怪我はありませんでしたか?」 有匡が辺りを見渡していると、一人の少年が彼にぶつかって来た。 その少年は、耳に奇妙な耳飾りをつけていた。「あの、何かお困りのようですが、俺に出来る事があったら何でも言って下さい!あ、俺は竈門炭治郎といいます!」「わたしは土御門有匡だ。隣に居るのは妹の神官だ。」 こうして、有匡達と炭治郎達は奇妙な出逢いを果たしたのだった。にほんブログ村
Feb 19, 2024
コメント(0)
*注意事項*・この小説は、平井摩利先生の「火宵の月」ヴィク勇パラレルです。・原作と若干違う設定にしております。・オリジナルキャラ多めです。・勇利が両性具有設定です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。注意事項を無視して読んで気分が悪くなった等の苦情は一切受け付けませんので、ご了承ください。その夜は、空に炎の様な紅い月が浮かんでいた。夜な夜な鎌倉の町に出現する人喰いの妖・野猫族調伏の為、京で暮らしていたヴィクトル=ニキフォロフは、宮中から追い出され、生まれ故郷の鎌倉へと戻って来た。邸の自室で星の動きを見ていたヴィクトルが邪悪な気を感じて鶴岡八幡宮へと向かうと、そこには野猫族に食い荒された男女の遺体が転がっていた。「・・遅かったか。」美しい顔を怒りで歪ませ、ヴィクトルがそう言って舌打ちした後、何かが茂みの中で動く気配がした。「何者だ!」ヴィクトルが筮竹を投げると、それは近くの木に当たった。「あ、すいません・・僕、驚かせるつもりじゃなかったんです。」茂みの中から現れたのは、黒髪紅眼の青年だった。白い着物に緋色の袴姿の青年は、じっと真紅の瞳でヴィクトルを見ていた。「あの、貴方がヴィクトル=ニキフォロフ様ですか?」「そうだけど、お前は?」「初めまして、僕は勝生勇利と申します。あの、早速なのですがヴィクトル様にお願いがありまして・・」「お願い?」「僕、貴方の子供を産みたいんです!」青年が頬を赤く染めながらそうヴィクトルに言い放った時、気まずい沈黙が二人の間に下りて来た。「・・俺は、男に子を授ける術は持っていないけど?」「あの、僕男でもないです。女でも、ないし・・僕の一族は、紅牙族といって、野猫族の一種で・・」「ふぅん、それじゃぁお前、妖の一種か。運が悪いね、俺は今機嫌が悪いんだ。」「え、あの・・」「行け、式神!」突如ヴィクトルの掌の中から現れた青龍に驚き、慌てて逃げようとした青年は、そのまま階段を踏み外し転落してしまった。(妖だというのに情けない奴だな・・)ヴィクトルがそう思いながら呆れ顔で青年の様子を見に行くと、そこには黒豹が転がっていた。このままここに青年を転がしておくわけにもいかず、ヴィクトルは彼を邸まで連れて帰る事にした。まだ幼さが残る顔に、華奢な身体、そして漆黒の髪。巷を最近騒がしている野猫族とは似ても似つかない容姿をしているが、奴らの仲間かもしれない。そう思いながらヴィクトルが青年を寝かせようと彼の身体を抱き上げると、その拍子に彼が右耳につけていた紅玉の耳飾りがシャラリと揺れた。それを見た瞬間、ヴィクトルの脳裏に幼い頃、可愛がっていた黒猫の姿が浮かんできた。“暴れるな、今手当てしてやろうとしているのに!”池で溺れていた黒猫を助けたヴィクトルは、逆にその黒猫に引っ掻かれた。全身に酷い傷を負っていた黒猫の手当てをしていたヴィクトルは、猫の目から美しい紅玉が零れ落ちるのを見た。“お前の瞳の色、綺麗だな。僕は赤が一番好きな色なんだ。そうだ、お前の名前は紅玉にしよう!”黒猫はヴィクトルの言葉を理解したのか、嬉しそうな声で鳴いた。孤独だった少年と黒猫は、出逢ってから互いの魂を温め合うように、いつも一緒に居た。だが、ヴィクトルは突然親戚筋の叔父によって京に連れて行かれ、あの黒猫と離れ離れになってしまった。青年の耳飾りにつけている紅玉は、幼い頃ヴィクトルがあの黒猫の首飾りにしたものと同じ紅玉だった。(まさか、な・・)「気が付いたか?」「あの・・僕・・ここは、何処ですか?」「俺の邸だよ。お前、名前は?」「勇利といいます。」青年の名を聞いたヴィクトルは、驚きのあまり顔が強張ってしまった。「どうかなさいましたか?」「いや・・その耳飾りは何処で手に入れた?」「ああ、これは昔、大切な人から贈られた物です。」青年―勇利はそう言うと、紅玉の耳飾りを指先で触れた。「大切な人?」「はい。昔僕が幼い頃、仲間からいじめられて谷底へと突き落とされた時、助けてくれた人から贈られたんです。」勇利の言葉を聞きながら、ヴィクトルは彼が昔飼っていた愛猫“紅玉”であると確信した。「その大切な人は、今どうしているの?」「知りません。随分昔に、生き別れになったから・・でも、もし生きているのなら、会いたいです。」勇利はそう言って両膝の間に顔を埋めた。「怪我が治ったら出て行け。」「はい・・」(少し、冷たくしてしまったかな・・)その日の夜、ヴィクトルがそう思いながら寝返りを打っていると、廊下から控えめな足音が聞こえて来た。誰だろうと思いながらヴィクトルが再び寝返りを打とうとすると、胸の上に温かい感触がした。(何だ?)ヴィクトルがゆっくりと目を開けると、そこには自分の上にのしかかっている勇利の姿があった。「お前、何をしているの?」「え、あの、それは・・夜這い・・です・・」勇利はか細い声でそう言うと、頬を羞恥で赤らめながら俯いた。「君、大人しそうな顔に似合わず大胆な事をするね。俺が誰なのか知っていて夜這いしに来たんだ?」「すいません・・」「謝らなくてもいい。」ヴィクトルはそう言うと、勇利を抱き寄せた。「え、あの・・」「どうした、俺を誘惑するんじゃないのか?」至近距離でヴィクトルから見つけられた勇利は、顔を赤く染めながら慌てて彼の傍から離れた。「すいません、忘れてください!」耳飾りをシャラシャラと言わせながら、勇利は慌ててヴィクトルの部屋から飛び出して自分の部屋へと戻ってしまった。(本当に、妖らしくないな・・まぁ、それが可愛いけれど。)ヴィクトルはクスクスと笑いながらそんな事を思った後、ゆっくりと目を閉じた。―・・めてまた、あの夢を見た。―やめて、お父さん、苦しいよ・・自分の細い首に絡みつく父の指。そして、耳元で囁かれる呪詛の言葉。“子供など、作らなければよかった。”昨夜は悪夢を見た所為で、一睡も出来ずにいた。「・・トル殿、ヴィクトル殿?」「何か?」誰かに呼ばれたことに気づいてヴィクトルが振り向くと、そこには意地の悪い笑みを浮かべた男が立っていた。「ここ最近、野猫族が大人しくしているようですなぁ。やはり雨の所為で奴らの動きが鈍ったのでしょうね。」「そのようですな。他に話がないのなら、俺はこれで失礼いたします。」ヴィクトルがそう言って男に背を向けた後、“愛想のない奴だ”と、先程の男が仲間に向かって陰口を叩いているのが微かに聞こえた。昔から“愛想がない”、“可愛げがない”などと言われるのはもう慣れている。他人と馴れ合うつもりも、親しくなるつもりもないのだから、いい加減放っておいて欲しいものだ―ヴィクトルがそんな事を思いながら帰宅すると、式神の和紗が何やら慌てた様子で自分の方へと駆け寄って来た。「ヴィクトル様、大変です!勇利様が・・」「ユウリが、どうかしたのか?」「先ほど、勇利様にお会いになりたいという客人が来て、断ったら急にその男が勇利様を連れて行かれてしまったのです!」「何だって・・」和紗の言葉を聞いたヴィクトルは、自分の顔から血の気がひくのがわかった。他人の結界内、敏腕陰陽師として名を馳せているヴィクトルの強固な結界を容易に破る者など居ない。もしそのような者が居るとしたら、ヴィクトルと同等の、またはそれ以上の呪力を持っている同業者―呪術師しか居ない。「ユウリを探せ、今すぐに!」(ユウリ、どうか無事でいてくれ!)何処かでカラスがヴィクトルを嘲笑うかのようにしわがれた声で鳴いていた。ピチョン、と水滴が落ちる音で、勇利は閉じていた両目をゆっくりと開いた。「ん・・」辺りを見回すと、今自分が居るのは何処かの洞窟のようだった。「目が覚めたか?」闇の中から突然ぬぅっと男の顔が現れたので、勇利は思わず悲鳴を上げてしまった。「驚かせてしまって済まない。お前がユウリだな?」「はい、そうですが・・貴方は?」「わたしはギオルギー。ヴィクトル無き今、わたしが宮中の権力を全て掌握していると言っていい。」そう言った男―ギオルギーは、欲望に滾った瞳で勇利を見た。「僕を、どうするつもりなのですか?」「ここでお前を殺し、わたしは不老不死の力を手に入れる!」ギオルギーは勇利を睨みつけてそう叫ぶと、彼の上に馬乗りになった。(助けて、ヴィクトル!)「そこまでだ、ギオルギー。」「ふふ、来たなヴィクトル。漸くお前と互角に戦える時が来た。」「俺と互角に戦えるだって?ふざけた事を言うね、ギオルギー。」ヴィクトルはそう言って口元に冷笑を浮かべると、ギオルギーを衝撃波で吹き飛ばして彼を気絶させ、勇利を優しく抱き上げた。「怪我はない、ユウリ?」「ごめんなさい、ヴィクトル、心配を掛けてしまって・・」「無事だったから、ユウリが俺に謝ることはないよ。」「ヴィクトル・・」「勇利、探したぜ。まさかお前がこの陰陽師様とデキていたとはなぁ?」二人の背後から嘲るような冷たい声が洞窟内に響いたかと思うと、数頭の黒豹が洞窟内へと入って来た。彼らは巷を騒がせている野猫族だと、ヴィクトルは勘で解った。「君達、俺に何か用?まさか、俺の呪力欲しさに俺を殺しに来たとか?」「へへ、まぁそんな所かな!」野猫族達はそう言うと、一斉にヴィクトルに飛びかかった。「ヴィクトル様、危ない!」ヴィクトルを庇った勇利は、胸を野猫族の爪に切り裂かれた。「しっかりしろ、ユウリ!」「やっと会えた・・ヴィクトル様・・」苦しそうに喘ぎながら、勇利はそう言うとヴィクトルの頬を撫でた。「けっ、ザマァねぇな。まぁ、これでこいつを殺す手間が省け・・」「お前達がユウリに手を出す前に、俺がお前達を殺す!」全身から怒りのオーラを発しながら、ヴィクトルは碧い瞳で野猫族達を睨みつけ、祭文を唱えた。「業火招来!」野猫族達の身体はあっという間に紅蓮の炎に包まれ、彼らは断末魔の悲鳴を上げながら息絶えた。「ユウリ、俺の元へ戻っておいで・・俺の愛しい紅玉。」ヴィクトルは祭文を唱えた後、自分の気を勇利に吹き込むため、彼の唇を塞いだ。「ヴィク・・トル様・・?」「さぁユウリ、俺と共に家に帰ろう。」「はい。」ヴィクトルに抱きかかえられながら、勇利は彼と共に洞窟を後にした。「ねぇユウリ、俺が一番好きな色が何か、知ってる?」「いいえ。」「俺は、紅が一番好きなんだ。お前の瞳の色の様な、綺麗な紅が。」「ヴィクトル様、もしかして僕の事を思い出してくれたんですか?」「俺がお前の事を忘れる訳がないだろう。」ヴィクトルはそう言って勇利に微笑むと、彼がつけている紅玉の耳飾りに触れた。「ヴィクトル様、ずっと貴方のお傍に居てもいいですか?」「勿論だ。」月が優しく、睦み合う恋人達の姿を照らしていた。(ヴィクトル様、今日も帰りが遅いなぁ・・)巷を騒がしている野猫族を退治したヴィクトルは、そのまま勇利とのんびりと休めると思っていたのだが、有能な陰陽師を逃がしたくない執権は、何かにつけてヴィクトルに仕事を依頼し、その結果彼は職場に連日泊まり込む位多忙な日々を送ることになってしまった。そして今夜も、勇利が待つ自宅に帰って来なかった。あの時―野猫族から身を挺してヴィクトルを勇利が庇い、生死の境に彷徨っていた時、ヴィクトルが自分の耳元で囁いた言葉が忘れられなかった。“ユウリ、俺の元へ戻っておいで・・俺の愛しい紅玉。”その言葉を聞いた時、ヴィクトルは自分を幼い頃に助けてくれたあの少年だと言う事を、勇利は思い出した。野猫族を退治した後、傍に居てもいいかとヴィクトルに勇利が尋ねると、彼はいいと言ってくれた。(僕は、ヴィクトル様のお傍に居てもいいんだろうか?)「あら勇利ちゃん、どうしたの?またそんな所で殿の帰りを待っているの?」「うん、そんなとこ・・ねぇお姉さん、僕はヴィクトル様に相応しいと思う?」「あら、どうしたのよ。そんな事をあたしに聞いてどうするの?」和紗はそう言って袖口で口元を隠しながら笑うと、勇利は深い溜息を吐いた。「ヴィクトル様は男の僕から見ても綺麗で、ヴィクトル様の隣に立つのは僕じゃなくて綺麗な女の人がふさわしいじゃないんかなぁって・・」「まぁ、殿はモテるからねぇ。独身で仕事が出来て、その上イケメンだと、出自なんて関係ないって思っちゃう女の方が多いわよね。」和紗は苦笑しながら、ヴィクトルが女性から恋文を毎日のように貰って来ていることを思い出した。「何だか僕、自信失くしちゃうなぁ。」自分がヴィクトルの“一番”だと思っていた幼い頃、勇利は彼と離れ離れになった時、悲しくて寂しくて辛い日々を送った。だからヴィクトルと再会した時、これから彼の傍にずっと居られるのだと、一人ではなくなるのだと勇利は嬉しく思った。だが、勇利の夢は、厳しい現実の前に儚く散った。大人になって美しく、そして凛々しく成長したヴィクトルは、“自分だけのもの”ではない事に勇利が気づいたのは、数日前の夜、ヴィクトルが久しぶりに職場から帰宅した時の事だった。「お帰りなさい、ヴィクトル様!」「ただいま。」いつものようにヴィクトルに抱きついた勇利は、彼の身体からいつも彼がつけている香とは違う香りがすることに気づいた。「ヴィクトル様、これ・・」カサリという音を立てて勇利の前に落ちた物は、女性からヴィクトルに宛てた恋文だった。「ああ、これか・・俺は結婚するつもりは全くないよ。もし結婚するとしても、ユウリを傍に置くつもりでいるから、安心して。」―そんな言葉なんて欲しくない。勇利はそうヴィクトルに向かって叫びたかったが、出来なかった。(僕は、ヴィクトル様の恋人に相応しいのかな?)そんな事を思いながら勇利が再び溜息を吐いていると、突然茂みの中から一人の青年が飛び出して来た。「会いたかったぞ、ユウリ!」青年は勇利の顔を見るなりそう叫ぶと、逞しい両腕で勇利の華奢な身体を抱き締めた。「JJ、どうしてここに?」「決まっているだろう、お前を俺の嫁として迎える為だ!」(すっかり遅くなってしまったな・・)執権の館で開かれた宴に渋々と顔を出したヴィクトルは挨拶だけして帰ろうとしたが、執権がなかなか彼を帰さず、ヴィクトルは執権を酔い潰して漸く執権の館から出たのは、空に月が浮かぶ頃だった。(ユウリ、今頃俺の事が恋しくて泣いているのかな・・)そんな事を思いながら馬から降りて自宅へとヴィクトルが向かっていると、勇利が見知らぬ男と抱き合っている姿を彼は見た。「やめて、離してよJJ!」「そんなに恥ずかしがることはないだろう、ユウリ!」「やめてよ!」JJの拘束から逃れようとした勇利だったが、体格差があるJJから勇利はなかなか逃げられなかった。「君、俺のユウリに何をしているの?」「ヴィクトル・・」勇利が背後を振り向くと、そこには冷たい碧い瞳で自分とJJを見つめるヴィクトルの姿があった。「ユウリ、こいつは誰だ?」「君こそ一体誰?そして俺のユウリに何故抱きついている?」ヴィクトルは全身から殺気を発しながら、JJにそう尋ねると、彼は舌打ちして勇利から離れた。「俺は、ユウリの許婚のJJだ!今夜ここに来たのは、ユウリを抱く為だ!」「抱く?君が、ユウリを?」JJの言葉を聞いたヴィクトルの周囲の空気が、突然冷えていくように勇利は感じた。「ああ。今ユウリは子を孕める大事な時期だからな!」「ユウリ、一体どういうことなのか、俺にもわかるように説明して?」その場から逃げ出そうとした勇利の肩を掴んだヴィクトルはそう言って彼に微笑んだが、目は全く笑っていなかった。「鶴岡八幡宮で、僕最初に説明したよね?僕は両性体で、伴侶と契りを交わした後、雄と雌、どちらにもなれるって。」「そんなの初耳だよ。酷いよユウリ~、何で俺に黙ってた?」「黙っていたも何も・・その説明を僕がしようとした時、ヴィクトルが勝手に襲って来たんじゃないか!」「そのことは今でも悪かったと思ってるよ!ねぇユウリ、あの男はユウリとは一体どういう関係なの?」「えっと、JJとは幼馴染みたいなもので、それ以上でもそれ以下でもないっていうか・・」「酷いなユウリ!子供の頃一緒に寝ていたじゃないか!それに水浴びだって・・」「一緒に寝た?水浴び?」「ヴィクトル、JJが言ったことは真に受けないで!JJ、用がないならもう唐土に帰ってよ!」「嫌だ、お前を俺の嫁にするまでは帰らないぞ!」「君、俺に殺されに来たの?」「ヴィクトル、落ち着いて~!」唐土に帰れと言う勇利と、彼を嫁にするまで唐土に帰らないと言い張るJJに困り果てたヴィクトルは、暫くJJが自宅に滞在することを許した。「ユウリ、まだ夜はこれからだぞ~!」「ひっつかないでよ、JJ!」「ユウリから離れろ、この変態!」JJがヴィクトル邸に滞在するようになってから数日が経ち、JJは隙あらば勇利を襲おうとしているので、ヴィクトルはJJに対して全身から凄まじい殺気を放ちながら彼を睨みつけていた。「ねぇ、あれいつまで続くのかしら?」「さぁね。」勇利を抱き締めたまま離そうとしないヴィクトルの姿を廊下から見ながら、彼の式神たちはそんな話をした後溜息を吐いた。にほんブログ村
Feb 17, 2024
コメント(0)
前から気になっていた中華BL小説。黒服の人が攻め、白服の人が受けだと解っているのですが、二人共名前が憶えにくい!イェン・スーが傲慢だけれどもチェンチャオの事をとっっても気に掛けているのがわかります。登場人物紹介欄に「自分色にチェンチャオを染め上げたいと思っている」と書かれていて・・うわぁ、こういうタイプの攻めキャラ、嫌いじゃないわ!と思いました。彼らの関係が気になるので、予約した2巻を今から読むのが楽しみです。
Feb 17, 2024
コメント(0)
バブルの狂乱に呑まれた二人の女。怒涛の展開の連続で、一気に読みおわってしまいました。
Feb 17, 2024
コメント(0)
本作品は「地獄先生ぬ~べ~」のパラレル小説です。若干設定を変えていますので、パラレル小説が嫌いな方はお読みにならないでください。作者様・出版社様とは一切関係ありません。―お父さん、お母さんは何処へ行ったの?―有匡、よくお聞き。お母さんはわたし達と暮らすのに疲れてしまったんだ。―お母さんは何処?お母さんに会いたい!(また、か・・)小鳥のさえずりが窓の外から聞こえ、それを目覚まし時計代わりにベッドから起き上がった土御門有匡は、鬱陶しげに前髪を掻き上げながら寝室から出て浴室に向かった。最近よく、幼少期の頃の事を夢に見る。母が突然失踪し、父子家庭となった日の夢。父は最期まで母が何故自分達の前から失踪した理由を自分には話してくれなかったが、自分の所為で母は家を出たのだと有匡は確信していた。なぜなら、自分は得体のしれない化け物だから。物心ついたころから、有匡は妖怪や幽霊といったものを見ることができた。何故自分にだけそんなものが見えるのかがわからずに有匡は怯えていたが、父は自分が白狐の血をひいた陰陽師の末裔であることを教えられた。『お前には、特別な血が流れているんだよ。その血は、お前が誇るべきものなんだ。』だが、その“特別な血”を誇らしいものであると思ったことを有匡は一度もなかった。人間は、自分達とは違う“異質な存在”に敏感であり、それを自分達の社会から排斥しようとする。その“異質な存在”こそが、霊能力者である有匡だった。“化け物”“お前なんて死んでしまえ!”“お前なんか、産まれてこなければよかったんだ!”小学校に上がった頃から、有匡は同級生たちからありとあらゆる罵詈雑言を毎日浴びせられ、暴行を受けた。自分が霊能力者だということだけで、何故こんなにも迫害されなければならないのか。(どうして僕はフツウじゃないの?こんな能力、要らない!)いつしか有匡は、自分に流れる“特別な血”を憎むようになってしまった。シャワーを浴びた有匡がドライヤーで髪を乾かしていると、ドアを誰かがノックしている音が聞こえた。こんな朝早くに誰だろうと思いながら彼が玄関に向かってドアスコープから外を覗き込むと、そこには金髪紅眼の少女が立っていた。「お前、わたしに何か用か?」「お久しぶりです、先生!」有匡がドアを開けるなり、少女はそう叫ぶと彼に抱きついた。「漸く会えましたね、先生!」「貴様、一体何者だ?」「僕のことをお忘れですか?僕は、あの時あなたに助けられた雪女の火月です!」「雪女・・だと?」「・・それで、お前は一体何者なんだ?」「先生、もしかしてあの時の事を覚えていらっしゃらないのですか?」「あの時の事?」突然自宅に押しかけて来た雪女の火月は、リビングのソファに座っているが、膝丈の着物で足が丸見えで、おまけに胸が少しはだけていて目のやり場に困った。「お前の話は聞いてやるが、その前にそのあられもない服よりまともな物に着替えてからにしろ。」「ええ、僕の恰好、変ですか?これは、雪女として普通の恰好なのですが・・」「ここは人間が住む街だ。胸も足も丸見えの服を着て歩いていたら、おかしな人間に何をされるのかわからんぞ?」「わかりました・・これで、いいですか?」火月はそう言ってソファから立ち上がると、くるりと一回転した。一瞬のうちに、彼女はあの刺激的な着物から翠の着物に紅袴という大正時代の女学生姿に変身していた。「まぁ、さっきの恰好よりはいいな。じゃぁ、お前の話を改めて聞こうか。」「僕と先生が初めて会ったのは9年前、僕は山で吹雪に遭って、猟師に撃ち殺されそうになったところを、先生に助けて貰ったんです。」「9年前・・」その時は確か大学時代のサークル仲間から誘われて、スキー旅行に行ったことを有匡は思い出した。その日、有匡は友人達が居るホテルへと戻ろうとしたのだが、激しい吹雪に遭って近くのロッジに避難しようとしたとき、遠くで銃声が聞こえたのだった。何だろうと思って銃声が聞こえた方へと向かうと、そこでは一人の少女が猟師に撃ち殺されようとしていた。「そうか、お前があの時の子供か。」「思い出してくださって嬉しいです、先生。」「それで?お前は何をしにここに来たんだ?」「決まっているじゃありませんか、僕は先生のお嫁さんになる為に来たんです!」「済まないが、わたしは妖と所帯を持つつもりはない。」有匡の言葉を聞いた火月は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。「わたしは人間、お前は妖・・種族が違う者同士が夫婦になることなどあり得ん。さっさとわたしのことを諦めて山に帰るがいい。」「それは出来ません。僕は山の神に黙ってあなたの元へ来てしまったのです。もう山に戻ることは出来ません。ですから、僕をここに置いて頂けませんか?」「それは駄目だ。住む家は見つかったのか?」「いいえ。」「仕方ないな、住む家が見つかるまでここに置いておいてやる。」「本当ですか、有難うございます!」火月はそう言うと感激のあまり有匡に抱きついた。「退け、遅刻する。」「何処へ行かれるのですか?」「仕事だ。暇な妖と違って、人間は毎日休みなく働いているんだ。わたしの留守中に変な事をしたら、即ここから叩きだしてやるから、そのつもりでいろ。」「はい、わかりました!」はしゃぐ火月をマンションの部屋に残し、有匡は職場へと向かった。「土御門先生だわ!」「いつ見ても素敵ねぇ~」中学校の正門から学校の中に有匡が入ると、登校していた女子生徒たちが一斉に黄色い悲鳴を上げた。「土御門先生、おはようございます。」「これ朝早くに作ったんです、食べてください!」「わたしのも!」校門で女子生徒たちにもみくちゃにされた有匡は職員室に入るなり、溜息を吐きながら自分の机の上に菓子が入った袋を置いた。「おはようございます、土御門先生。」「おはようございます、山田先生。」「さっき校門で女子生徒たちからお菓子を貰っていましたね?」「ええ。わたしは甘い物は余り好きではないので、宜しかったらおひとつ差し上げましょうか?」「あら、いいんですか?」職員室で有匡が同僚の山田早苗とそんな話をしていると、一人の男が派手な音を立てながら職員室に入って来た。「あ~、寒い!」「いちいち煩いやつだな。」有匡がそう言って男を睨むと、男は鬱陶しげに前髪を掻き上げながら有匡の隣に座った。彼の名前は紅牙琥龍、有匡と同じ中学校で体育の教師をしている。金色の髪に紅い瞳という、日本人離れした容貌を持っているこの男は、余りモテないことや金がないことを嘆いてばかりいる。「こんな日は鍋でも食いてぇなぁ・・」「そんな金がどこにあるんだ?」「お前が奢ってくれたら食えるんだけどなぁ・・」琥龍はそう言うと、チラリと有匡を見たが、彼は無視を決め込んだ。「おい、もうそろそろ授業始まるぞ。」有匡は机に突っ伏している琥龍の肩を叩いたが、彼は大きないびきをかいて眠っていた。有匡はそれを放っておいて職員室から出て行った。彼が担任を受け持っている2年4組の教室に入ると、スマートフォンや携帯ゲーム機を片手に友人達と談笑している生徒達は有匡の顔を見るなり慌てて自分の席へと向かった。「出欠取るぞ。」有匡がそう言って教壇に立ち、出席簿を開いていると、後ろの席に座っている女子生徒達が何かを話していた。「おい、どうした?」「何でもありません。」有匡が彼女達の席に向かうと、一人の女子生徒が机の上に置いていたスマートフォンを取り上げた。その画面には、この学校の裏サイトが表示されていた。「授業中に時々スマートフォンで何をしているのかと思えば・・そういうことか。」「違うんです、先生!わたしは・・」「後で生活指導室に来い、いいな。」女子生徒のスマートフォンを没収した有匡は、そのまま朝のHRを始めた。「あら、それ生徒のですか?」「ええ。HRの前に裏サイトに何か書き込んでいたので、没収しました。」「今は小学生でもスマートフォンを持っていますからね。わたしのクラスでも、生徒のほとんどがスマートフォンを持っていて、授業中にラインをしていたりして注意しても、無視されてばかりで・・」「今やインターネットは生活の必需品ですからね。便利な世の中になった反面、子供が犯罪に巻き込まれる可能性も高くなったということです。プラスの面があれば、マイナスの面がありますね。」「そうですよね。そういったものって、わたし達教師や保護者の方々の目が届かないところで起きているから、対処のしようがないですよね。」「ええ、まったくです。」有匡はそう言って溜息を吐くと、スマートフォンの画面を覗き込んだ。そこには先ほど映っていた裏サイトの画面ではなく、一枚の写真が映っていた。スマートフォンの画面に映っていたものは、首吊り死体の写真だった。「どうかなさったのですか、土御門先生?」「いえ、何でもありません。」(気のせいか?)有匡がそう思いながらスマートフォンの画面を覗き込むと、首吊り死体の写真は既に消えていた。(一体あれは何だったんだ・・)「先生、次は何処を読めばいいですか?」「もういい、座れ。」スマートフォンの画面に一瞬映っていた首吊り死体の写真の事ばかり考えていた有匡は我に返ると、黒板の前に立った。「今からこの問題を誰か訳してくれ。」「先生、わたしがやります!」「いいえ、わたしが!」「狡いわよ、二人とも!」「三人で訳してくれ。」有匡がふと窓の方を見ると、校庭では体育の授業が行われていた。「シュート!」「琥龍先生、すげぇ!」「こんなもの、俺にとっちゃぁ朝飯前だぜ!」琥龍がそんなことを言いながら生徒達と話していると、彼は強烈な霊気を感じた。(何だ、今のは?)「先生、どうしたんだよ?」「何でもねぇよ。それじゃぁ、二組にグループになって試合するぞ!」「そうこなくっちゃ!」琥龍が再び霊気を感じた草むらを見ると、そこには何もなかった。(気のせいか・・)昼休み、琥龍がコンビニのおにぎりを食べていると、突然凄まじい霊気を校庭から感じた。彼が校庭に向かうと、サッカー場の近くにある木に何かが垂れ下がっているのが見えた。「どうした、何があった?」「あそこに、何か垂れ下がっている。」「そうか・・」有匡と琥龍がゆっくりとその木に近づくと、そこには一人の少女の遺体がぶら下がっていた。「これは・・」(あの時のスマートフォンの画面に映っていた写真の生徒だ。)「この子を知っているのか?」「ああ。朝に生徒から没収したスマートフォンの画面に一瞬この子の死体が映っていた。琥龍、お前も感じたのか?」「さっき体育の時間で、生徒達とサッカーをしていた時に感じた。この凄まじい霊気・・この子はこの世の者じゃねぇな。」「そうだな。」二人がそう言って少女の遺体を睨むと、突然晴れていた空が曇ってきた。有匡は突然胸が苦しくなって胸を押さえた。「どうした?」「何でもない。」禍々しい霊気が、学校中を包み込んだ。『殺してやる、わたしを死においやった者すべて、呪い殺してやる!』絶命した筈の少女の目が開き、彼女は地の底から響くような声で呪詛の言葉を吐いた。「あいつは一体何者なんだ?」「あの子は、この学校で虐められて自殺した生徒が怨霊となったものだ。」有匡はそう言うと、祭文を唱えた。「一体何をするつもりだ?」「怨霊は調伏するしかない。このままあいつを放っておくと、他の生徒達に害を及ぼすことがある。その前に・・」「調伏って・・あいつを殺すってことか?」「もう死んでいるのだから、殺すも何もないだろう?」有匡が少し呆れたような顔をしながら琥龍を見ると、彼は数珠と経文を取り出した。「何をするつもりだ、貴様?」「あいつを成仏させる。」琥龍はそう言うと、間髪入れずに経文を少女の怨霊めがけて投げつけた。経文は怨霊の身体を縛りつけて動きを封じた。『憎い・・恨めしい・・』少女の怨霊は、呪詛の言葉を吐きながら涙を流していた。「苦しかっただろう・・誰も味方が居なくて、理由もなく虐められて・・」琥龍は少女の怨霊に向かって話しかけた。『どうして、わたしだけがこんな目に・・』「お前は、自分を虐めた奴らが憎くて、ここに留まっていたんだな?でももう、そいつらを憎むのは止めろ。このままだと、お前の魂は一生救われない。」『黙れ、お前に何がわかる!』少女の怨霊がそう吼えると、彼女の身体を縛めていた経文が引き裂かれた。『わたしの邪魔をするものは許さん!』少女の怨霊が放った念の塊が琥龍に襲い掛かった。「ぐう・・」咄嗟に結界を張った琥龍だったが、念の塊の勢いは衰えるどころか、ますます大きくなっていった。(このままだと、やられる・・)琥龍は、そっと黒手袋で包まれた左手を右手で押さえた。この力だけは、使いたくなかったが、仕方がない。「宇宙天地(うちゅうてんち) 與我力量(よがりきりょう) 降伏群魔(こうふくぐんま) 迎来曙光(こうらいしょこう)・・我が左手に封じられし鬼よ、今こそその力を示せ!」突然琥龍の左手がまばゆい光を放ったかと思うと、手袋の中から鬼の手が現れた。『おのれ、小癪な!』「鬼の手よ、少女の魂を救い給え!」琥龍が鬼の手を少女の前に翳すと、彼女の顔から禍々しい霊気が消えた。それと同時に、学校中を包んでいた禍々しい霊気も消えてゆく。(こいつは一体、何者なんだ?)柔らかな光が少女の周りを包み込むのと同時に、彼女の顔が徐々に険しい表情から穏やかなものへと変わってゆく。「もう、成仏しろ。そしてまた人間に生まれ変わって、楽しい人生を送れ。」琥龍はそう言うと、少女の頭を鬼の手で撫でた。『有難う、さようなら。』少女は琥龍に笑顔を浮かべると、淡い光を放ちながら天へと昇っていった。「お前、一体何者だ?」「俺は、ただの教師さ。まぁ、ちょいと特別な力がある教師だがな。あんたと同じで。」「その左手はどうしたんだ?」「昔、ちょっとあってな・・そのことは、後で話してもいいか?」「ああ、構わない。それよりも今は、生徒達が混乱しないよう上手く口裏を合わせた方がいいな。」有匡は窓から身を乗り出して校庭の様子を見ている生徒達の姿を見ながら言った。「ねぇ、さっきの何だったの?」「知らない。」「後で琥龍先生に聞いてみよう!」有匡と琥龍が職員室に戻ると、早苗が二人の方に駆け寄って来た。「紅牙先生、さっきは一体何が起きたんですか?」「それは・・ちょっとしたアクシデントですよ。」「まるでCGを見ているようでした。」「はは、そうですか・・」琥龍はそう言って早苗に愛想笑いを浮かべながら、頭を掻いた。「先生、さようなら。」「さようなら~。」「お前ら、寄り道せずにまっすぐに家に帰るんだぞ!」放課後、琥龍が教室で帰り支度をしている生徒一人一人に声を掛けると、有匡が教室に入って来た。「今、いいか?」「ああ。今から俺も帰るところだからな。」「そうか。それで、お前の左手・・あれは一体どういうことなんだ?」「昔俺が赴任していた中学校で、生徒に取り憑いた鬼を祓う為に、その鬼を左手に封じたんだ。」「あの少女の怨霊の存在にお前も気づいたのは、お前も霊力があるからか?」「まぁな。ガキの頃から幽霊やら妖怪が見えた。その所為で結構虐められたぜ。」「わたしと似ているな・・」「幸い俺には理解者が居たから、あの子みたいに怨霊にはなりはしなかった。あんたは確か、あの有名な陰陽師の子孫なんだろう?」「ああ。」有匡の眉間に皺が寄ったことに気づいた琥龍は、慌てて教壇から降りた。「さてと、俺達も帰るとするか?」「ああ。」学校から出た有匡が琥龍を連れて自宅のマンションの部屋に入ると、そこは南極のように寒かった。「先生、お帰りなさい!」白い靄の中で有匡に向かって手を振っているのは、あの刺激的な着物の上にエプロンを掛けた、火月だった。「お前、これは何だ?」「先生の為に料理を作ろうと思って・・」「おい、この子お前の彼女か?」「違う、そんなもんじゃない。」「そうですよ、僕は先生の彼女じゃありません、婚約者です!」「え、そうなの?」「だから、違うと言っているだろう。」有匡はそう言うと、火月と琥龍を睨んだ。「火月、お前はまだわたしのことを諦めていないのか?」「ええ。あ、ご飯作ったんですよ、食べますか?」「ああ・・」火月は冷蔵庫の中から、氷漬けの鍋を取り出してきた。「これは、何だ?」「少し寒くなって来たでしょう?僕お鍋作ってみたんです。」「気持ちはありがたいが・・これでは食べられんな。」「そうですか。」「まぁ、そんなに落ち込むなって!なぁ、今夜飯、奢ってくれねぇか?」「何故わたしが貴様などに・・」「まぁまぁ、知り合った誼(よしみ)でさ。それに、あんたとは色々とお互いの事について話をしてみたいしね。」「ふん・・」有匡は火月と琥龍を連れ、近くのとんかつ屋へと向かった。彼は余り脂っこい料理は極力避け、無農薬野菜や食品添加物が入っていない食品を選んで食べている。外食は、専ら麺類や少々値が張るオーガニック食材を使ったレストランに行くだけだった。なので、彼はとんかつを美味そうに頬張る琥龍と火月を見て驚きの表情を隠せなかった。「お前達、よくそんな脂っこいものを美味そうに食べられるな?」「そりゃぁ、滅多に食えないものだからなぁ。俺はいつもカップラーメンばっかり食ってて、外食なんか一度もしたことねぇからなぁ・・」「そうか。」「先生、美味しいですねこのとんかつ!これなら毎日食べに行きたいくらいです。」「お前、雪女の癖にとんかつは食べられるのか?」「はい。それよりも先生、僕仕事が決まったんです。」「そうか。」「駅前のスケートリンクで、子供達にスケートを教えることになりました。」「それは良かったな。」雪女にスケートリンクは最適だろうな―有匡はそう思いながら、茶を一口飲んだ。「あの、あなた誰ですか?」「ああ、俺は紅牙琥龍。それにしても火月ちゃん、だっけ?土御門先生の何処に惹かれた訳?」「それは、いっぱいありすぎてわかりません!」「いいねぇ~、愛する男を純粋に想う雪女!」「お前、もう帰れ。」有匡が少し苛立ったような顔をして琥龍を睨むと、彼は二杯目のビールを美味そうに飲んだ。「言っておくが、わたしは人間で、お前は雪女。妖怪と人間との恋は結ばれることはない。早くわたしを諦めて、山に帰ることだな。」「そんな・・」有匡の言葉を聞いた火月の目から、大粒の涙が流れた。「おいおい、女の子を泣かせるなよ!」「うるさい、わたしは本当の事を言っているだけだ。」「ったく、女心がわからねぇ野郎だなぁ。そんなのでよくモテるもんだよ。」「酷い先生、僕というものがありながら浮気なんてぇ~!」「おい落ち着け、火月!お前が変な事を言うから火月が混乱しているだろうが!」「だって本当のことだろうが!」とんかつ屋から出た火月は、涙を流しながら有匡を睨んでいた。「酷いです先生、僕という婚約者が居ながら浮気だなんて・・」「だから、違うと言っているだろうが!」「あ~あ、こんなに可愛い子を泣かせるなんていけないんだ。」「お前の所為だろうが!」有匡が琥龍と店の前で口論していると、向こうの路地から強烈な妖気を感じた。「なぁ、今の感じたか?」「ああ。行ってみようぜ。」「火月、お前はここに居ろ。」「待ってください、先生!」二人が妖気を感じた路地へと向かうと、そこには一匹の野良猫がゴミ箱の中の残飯を漁っていた。「何だ、気のせいか。」「そのようだな。」「帰ろうぜ。」「ああ。」二人が路地を後にしようとしたとき、何かが電柱の陰で動く気配がした。「なぁ、さっきの・・」有匡は祭文を唱え、素早く結界を張った。「一体なんだ?」「わからん。だがこの妖気、ただものではないぞ!」琥龍と有匡の周囲に、狐火のようなものが突然現れた。やがてそれは狐となり、二人に襲い掛かって来た。「何だ、こいつら!?」「妖狐の端くれだな。」「ったく、こいつら俺らに一体何の恨みがあるっていうんだ!?」琥龍は経文を唱え、鬼の手で狐達を一匹ずつあしらっていたが、その数は減るどころか増えるばかりで、きりがなかった。「くそ、一体どうすれば・・」「わたしに考えがある。」有匡は、そう言うと自分達を攻撃している狐達に向かって声を張り上げた。「お前達、一体何が目的なのだ?何故わたし達を狙う?」すると、狐達は突然攻撃を止め、人間へと姿を変えた。「あなたが、土御門有匡様ですか?」「ああ、そうだが・・」「先ほど、あなたの事を試してしまうような行為をしてしまい、申し訳ありませんでした。」一匹の狐―黒髪の少年はそう言うと、有匡と琥龍の前に跪いた。「漸く、あなた様のことを探しました、有匡様。」「お前達は、妖狐なのか?」「はい、わたくしは百合丸と申します。」「お前達はわたし達に何の用だ?」「九尾の狐様が、あなた様の事をお呼びです。」「九尾の狐が、わたしに何の用だ?」「先生、大丈夫ですか?」有匡の様子が心配になってやってきた火月が路地に向かうと、そこには狐達と有匡と琥龍が何かを話しているようだった。「この狐達は、一体・・」「安心しろ火月、こいつらは味方だ。」「有匡様、その雪女は・・」「ああ、こいつは昔の知り合いだ。」有匡はそう言うと、百合丸を見た。「有匡様、どうかわたし達とともに那須へ来てください。」「すいません、急に休みを取ることになってしまって・・」「いいえ、色々と事情がおありなんでしょう。」翌日、有匡は校長に休暇届を出すと、そのまま学校を出た。「先生、僕も行きます!」「お前はついて来なくていい。九尾の狐様は、わたしだけに会いたいと・・」「それでも、心配なのでついていきます!」「人の話を聞け。」有匡はそう言って火月を睨んだが、彼女は有匡の言葉を聞いていない。「九尾の狐様って、偉いのですか?」「まぁな。中国の古書では、幸福を齎(もたら)す象徴とされてはいるが、人に害悪を及ぼす妖怪だともいわれている。どちらにせよ、神に近い存在であることは確かだ。」「どうして、そんな偉い方が先生をお呼びなのでしょうか?」「わたしに妖狐の血が流れているからだろうな。まぁ、わたしよりもわたしと同じ名の先祖の方がその血が濃かったようだが。」「それって、あの有名な陰陽師の方のことですか?」「お前も知っているのか?」「ええ。昔一度会ったことがありました。」火月はそう言うと、有匡の先祖である陰陽師・土御門有匡に会った時のことを話した。「あの方と会ったのは、僕が怪我をして浜辺で動けなくなったところを助けてくれた時でした。あの方は、不愛想でしたが、僕に優しくしてくれました。」「そうか。」「あの方の奥様も僕と瓜二つの顔をしていて・・とても優しかったです。」火月の話を聞きながら、有匡は自分と同じ名を持つ先祖のことを想った。「火月、わたしについていくというのなら早く支度を済ませろ。」「はい!」二人が荷造りを終えてマンションの部屋から出ようとしたとき、エントランスのチャイムが鳴った。「よぉ。」「貴様、何故ここにいる?まだ授業中の筈だぞ?」「俺も休みをさっき取ってきたところなんだ。俺も那須についていくぜ。」「貴様は呼んでいない、さっさと帰れ。」「冷たいこと言うなよ。一緒に怨霊と戦った仲じゃねぇか。」「わたしは貴様と戦った記憶などない。」「まぁまぁ二人とも、落ち着いて。」こうして有匡、火月、そして琥龍は、九尾の狐に会いに行く為、那須へと向かった。「有匡様、ようこそいらっしゃいました。」那須に到着した三人を駅で迎えた百合丸は、人間の姿に化けていた。「九尾の狐は、何処にいる?」「馬鹿か、九尾の狐は殺生石として封じられていることも知らんのか!」「そんなこと知るかよ!」「ねぇ百合丸君、どうして九尾の狐様は先生に会いたいなんて言って来たの?」「それは直接九尾の狐様にお聞きください。」百合丸とともに殺生石を訪れた三人は、石の上に痩せこけた狐が寝ていることに気づいた。「もしかしてあの狐が、九尾の狐様?」「ああ、そうらしい・・」「お前が、土御門有匡か?」「ああ、そうだ。」有匡はそう言うと、九尾の狐を見た。「ほう、そなたがあの陰陽師の子孫か。陰陽師によく似ておるな。」「わたしをここに呼んだのは何故だ?」「少し興味があってな。あの陰陽師に似た人間のそなたに、会ってみたいと思うたのじゃ。」「それだけの理由で、若狐達をわたし達に襲わせたと?」「あやつらは少し血の気が多い連中じゃ。わたしの名に免じて許してやれ。」「それでは、わたし達はもう失礼する。」「まだ話は終わっておらんぞ、人間。」殺生石の洞穴から有匡が出ようとしたとき、出入口を狐が塞いだ。「そなたの力量、ここで試させてもらおうぞ。」「ふん、わたしが怖いのか?」「おのれ、人間の癖に生意気な!」怒りに滾った目で九尾の狐はそう言って有匡を睨むと、彼に向かって高温の炎を放った。「先生、危ない!」有匡と九尾の狐の間に割って入った火月は、氷の壁で有匡を守った。「火月、やめろ!」「小癪な雪女め!」高温の炎が、徐々に火月が作った氷の壁を壊してゆく。「先生、今のうちに逃げてください!」「止めろ、それ以上やったらお前が・・」「先生が助かるのなら、僕はいつ死んでもいいです!」「火月・・」「僕は、先生に会えて幸せでした。」そう言った火月は、一度だけ有匡の方を振り返ると、彼に優しく微笑んだ。「止めろ、止めてくれ!」「漸くそなたは大事なものがわかったようじゃな、人間よ。」九尾の狐は攻撃を止めると、有匡の前に立った。「そなたを試してみたのだ。わが身を呈してそなたの命を守った雪女をそなたが見捨てるのかどうかを。じゃが、そなたはこの雪女を見捨てはしなかった。」「何故、そのような事を・・」「そなたを妖狐族の一員として認める為じゃ。そなた、妖狐の谷で暮らすつもりはないか?」「そのつもりはない。」「そうか。ではその雪女と達者に暮らすがよい。」有匡は気絶した火月を抱きかかえると、洞穴を後にした。「おい、どうだったんだ?」「九尾の狐様は、わたしを眷属だと認めてくれた。」「そうか、良かったな!」「まぁ、まだ休暇は残っているから、お前の昔話でも聞こうか?」「そうこなくっちゃ!」有匡は琥龍とともに、殺生石から去った。「宜しいのですか、九尾の狐様?あの者を人間の世界に返して・・」「あの者は人間じゃ。我が眷属の血をひいておっても、それは変えられん。」「ですが・・」「我らが口出しをしなくとも、あの者は雪女と夫婦となって暮らすであろう。」九尾の狐は鏡に映った己の美しい顔をひとしきり眺めると、そっと手鏡を裏返しにした。彼らに再び会える日は、そう遠くないと感じながら。(終)にほんブログ村
Feb 16, 2024
コメント(0)
※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 一九二三年一月十三日、東京。「火月、何処に居るのっ!」「すいません、奥様・・」高原伯爵家の庶子・火月は、そう言って父の正妻である綾子に向かって頭を下げた。「全く、愚図なんだから!早く来ないと、置いて行ってしまうわよ!」 綾子は今にも泣き出しそうな顔をしている火月に背を向けると、さっさと車に乗り込んでしまった。 火月は何とか車に乗り遅れずに済んだが、綾子とその娘・香世子から目的地に着くまで嫌味を言われ続けた。「ねぇ、お母様、この子をどうしても連れて行かなければならないの?」「仕方無いでしょう、お父様の言いつけなのだから。」 香世子は、粗末な紬姿の火月をジロリと睨むと、彼女にこう言った。「わたくしに恥をかかせないで頂戴ね、お姉様。」 彼らが向かっていたのは、土御門公爵邸だった。 この日、土御門家嫡子・有匡の十歳の誕生日を祝う宴が開かれていた。「本日はお招き頂き、ありがとうございます。」「どうぞ、楽しんでいって下さい。」 土御門公爵家当主・有仁は、そう言うと火月達に微笑んだ。「うわぁ、美味しそうなお菓子が沢山あるわ!」「香世子、お行儀が悪いわよ!」 甘い物が大好きな香世子は、ダイニングテーブルに所狭しと並べられている西洋菓子を見て歓声を上げた。 華やかなパーティー会場のダイニングルームから離れ、火月は雪で彩られた中庭を歩いた。ここには、自分を傷つける者は居ない。(家には帰りたくない、あの人達に虐められるもの。) そんな事を火月が思っていると、彼女は雪に埋もれて凍った池に気づかず、溺れてしまった。 火月は、泳げなかった。(誰か、助けて・・) 火月がそんな事を思いながら池の底へと沈んでいった時、誰かが自分を池から引き上げてくれた。「大丈夫か?」火月がゆっくりと目を開けると、そこには自分を見つめる少年の姿があった。「申し訳ありません、有仁様、有匡様!うちの娘がご迷惑を・・」 般若のような形相を浮かべた綾子を見た時、火月は恐怖の余り、有仁の背後に隠れた。「どうやらお嬢さんはショックを受けておられるご様子。わたくし達が一晩、お嬢さんをお預かり致しましょう。」「まぁ、有仁様がそうおっしゃるのなら、火月の事を宜しくお願い致しますね。」 有仁にそう言って愛想笑いを浮かべた後、火月の手の甲を抓った。「有仁様に迷惑をかけないようにね、わかった?」「はい・・」 池に落ちた火月と有匡は、居間にある暖炉で身体を暖めていた。「どうして、あんな所に居たんだ?」「だって・・」「何も言いたくないのなら、言わなくていいよ。ねぇ、君名前は?僕は有匡。」「火月・・炎の月という意味で、火月。」「君の瞳、紅くて綺麗だね・・僕、紅が一等好きな色なんだ。」「本当?」 今まで火月は、血のような真紅の瞳の所為で、化猫だの魔物だの、鬼の子だのと罵られて虐められて来たが、綺麗だと言われたのは初めてだった。「あぁ、勿論さ!ねぇ、僕と友達になってくれる?」「うん!」 これが、有匡と火月の、運命の出逢いだった。 家族から虐げられていた火月は、土御門家で暮らす事になった。 年が近いからか、二人はすぐに仲良くなった。 だが、そんな二人を見て面白くないのが、有匡の七歳下の妹・神官だった。「アリマサは、神官のなの!」「違うよ、僕のだもん!」「こらこら、二人共喧嘩しない!」 有匡と神官、有仁と過ごす日々は、火月にとって幸せなものだった。 一九二三年九月一日。 その日は、朝から蒸し暑かった。「あぁ、暑くて嫌になる。」「そう言うな、有匡。かき氷でも食べて元気を出せ。」「ありがとう、お父さん!」 この日は、いつものように、穏やかな一日であると思っていた。 だが― 十一時五十八分、最大震度七度の地震が東京を襲った。「坊ちゃん、お嬢様方、旦那様、ご無事ですか!?」 土御門公爵家家令・石田は、激しい揺れが治まった後、瓦礫と化した今から有匡と神官、火月を救い出した。「あぁ良かった、皆さんご無事で!」「お父さんは?お父さんは何処?」 有仁は、瓦礫の下敷きになっていた。「お父さん、今助けるからね!」「有匡、火月と神官を連れて逃げなさい!」「嫌だ、お父さんも一緒に・・」「お父さんはもう駄目だ。」 有仁は、そう言うと有匡に優しく微笑んだ。「火月さんと、幸せになりなさい。」「火事だ!」「石田、有匡達を頼む!」「嫌だ、お父さ~ん!」 有匡と神官を抱きかかえた石田は、火月と共に炎が迫る土御門公爵邸から脱出した。「嫌だ、やめろ・・」 紅蓮の炎が、有仁ごと土御門邸を呑み込んでいった。「やめてくれ~!」 この日、炎は三日にわたって東京の町を焼き尽くした。 この地震は、後にこう呼ばれた。「関東大震災」と。にほんブログ村
Feb 16, 2024
コメント(0)
海洋ロマンティック・サスペンス。手に汗握る展開が続き、ラストまで一気読みしてしまいました。
Feb 16, 2024
コメント(0)
素材は、このはな様からお借りしました。「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。1333年、鎌倉。「火月、しっかりしろ!」「先生・・」陰陽師・土御門有匡が出張から帰ると、妻・火月が苦しそうに血を吐いていた。「ごめんなさい、先生・・子供達の事を、頼みますね。」「まだわたしを置いて逝くな。お前が居なくなったら、わたしは・・」「大丈夫・・いつかきっと、会えますから。」有匡は、火月が床に臥せるようになると、出張の回数を減らし、家族と過ごす事を優先させた。「もっと、早くこうしておけば良かった。わたしは、今までお前に甘えていたんだな。」「今からでも間に合いますよ、先生。あなたと家族になれてよかった。」火月の病状は一進一退で、体調が良い時は双子達と遊んだり、和琴を弾いたりしていた。「父上。」「どうした、仁?」ある日の夜、有匡が星の観察をしていると、そこへ仁がやって来た。「昔、父上が僕の妖力を封じたというのは、本当ですか?」「あぁ。」「もし、妖力を封じていなかったら、僕は母上を助けられるのかな・・」「仁、妖力があってもなくても、命あるものは必ず終わりを迎える。それは、何人たりとも変えてはいけない自然の理なのだ。」今にも泣き出しそうになっている仁の頭を撫でた有匡は、空に浮かぶ紅い月に願った。願わくば、火月と会えるようにと。空に朧月が浮かんだ夜、火月は夫と子供達に看取られ、息を引き取った。「父上、本当にいいのですか?」「ああ。お前には天賦の才能がある。それに、子を巣立たせるのは親であるわたしの役目だ。」京へと旅立つ仁に、有匡はある物を手渡した。それは、火月が生前愛用していた紅玉の耳飾りだった。「いいの?こんなに大切な物を、僕が受け取っても。」「これは、血の繋がり、わたし達家族の証だ。必ず、この紅玉はわたし達を導いてくれる。」双子達を見送った後、有匡は己の寿命が尽き、転生し火月と再会する日を待っていた。しかし、その日は来なかった。(何故、わたしは・・)「久しいな、有匡。」火月の懐剣―かつては母の物であった懐剣を有匡が握り締めていた時、妖狐界から突然母・スウリヤがやって来た。「久しいですね、母上。何故、わたしに会いに?」「有匡、お前を迎えに来たのは、眷族となったお前を迎えに来たからだ。」「今、何と・・わたしは、半妖の筈・・」「お前は、“あの時”、火月と共に別次元へと飛び、時を歪ませた。そして、双子の変幻を防いだ。故に、お前の中の“妖狐”の血が、“人間”としての血を相殺した。」「わたしは妖狐として、独りで生きよと?わたしは・・」「そう嘆くな。火月の魂が輪廻を繰り返し、再びお前と会えるまで、待つのだ。」「酷な事をなさる。わたしはもう、火月なしでは生きられないというのに・・」「有匡、これからは人間の為に生きよ。」そう言って自分に向かって差し伸べて来た母の手を、有匡はそっと握った。こうして有匡は人間として生きる事をやめ、妖狐として生きる事になった。―あれは・・―スウリヤ様が人間との間に産んだ・・―何と禍々しい黒髪・・妖狐族の王宮に入った有匡は、そこで同族の者達からの好奇の目に晒された。人間界では、“狐の子”として蔑まれ、その能力をアテにされたされた時と何ら変わりがない。(これも、宿運か。)有匡はそんな事を思いながら、火月を待ち続けた。「有匡、王がお呼びだ。」「王が?」スウリヤと共に、有匡は初めて王―母方の祖父と会った。「そなたが、有匡か。良く顔を見せよ。」「はい・・」王は、じっと有匡の顔を見た後、こう呟いた。「今まで人間界で辛い目に遭ってきただろう。そなたと神官―艶夜には悪い事をしたな。」「いいえ。」「そなたの話は、スウリヤから聞いておる。そなた、火月の魂を待っているようだな。」王は、そう言うと有匡が肌身離さず持ち歩いている懐剣を見た。「愛する者を救う為、人間として生きる事をやめたのは、辛かろう。だが、そなたが火月と再会する日は近い。」「そうですか・・」「そなたと火月は比翼連理、唯一無二の存在。そなたが望めば、火月もそなたに応えてくれるであろう。」「ありがとうございます、王。」「有匡、そなたと会えて良かった。」それが、有匡と王が交わした、最初で最後の会話だった。王は病に倒れ、一度も意識を回復することなく、黄泉へと旅立っていった。長年善政を敷き、人間界と良好な関係を築いてきた王の死によって、妖狐界は混乱を極めた。―次の王は、アルハン様では?―あの方ならば、王に引けを取らぬ程の能力・・―黒髪の“奴”とは違う。王の直系の血族である、スウリヤの異母弟・アルハンは、才能があり、何者にも分け隔てなく接する王に相応しい男であったが、妖力が弱かった。この世は、人間も妖も、力が全て。「やはり、そなたが王に相応しいのではないか、有匡?」「わたしは、王にはなりたくありません。」有匡は、王の後継者争いには加わらず、一介の妖狐として生きようとした。だが―「戦だ!」「戦が始まったぞ!」時の流れと、運命は残酷なもので、人間界と妖狐界との間に陰の気が満ち、戦によりそれは爆発した。まるで、有匡が火月の中に眠る紅牙を制した時のように。「有匡、そなたはどうする?」「・・呼んでいる。」「有匡?」―先生・・火月の魂が、自分を呼んでいる。「母上、わたしは・・」「行け。止めぬ。」スウリヤは、人間界へと降り立った有匡を静かに見送った。(地獄絵図だな・・時代が変わっても、争いはなくならぬ。)有匡が約五百三十五年振りに人間界へと降り立ったのは、会津の戦場だった。町全体が死と静寂に包まれ、あるのは底の無い絶望だけだった。そんな中で、有匡は微かに命の灯火を感じた。「そこに誰か居るのか?」「う、うぅ・・」線香の匂いが立ち込める仏間で、有匡は産気づいた女を見つけた。「しっかりせよ。」「どうか、殺して・・」「ならぬ。」火月の魂の欠片が、自分を呼んでいる。程なくして、女は子を産み落としたのと同時に、息を引き取った。有匡は産声を上げる男児を抱き上げ、そのへその緒を懐剣の刃で斬ると、そこへ官軍がやって来た。「何じゃ、貴様!?」「この赤子を、そなたの子として育てよ。」有匡はそう言って大将と思しき男に赤子を託すと、妖狐界へと戻っていった。「火月とは、再会えたのか?」「いいえ。」「そう気を落とすな。」戦が終わり、太平の世となり、“明治”と名を変えた時代の終わりに、有匡はあの赤子であった男と会った。「あの時、わたしを助けて下さりありがとうございます。」そう言った男は、薄い翠の瞳で有匡を見た。「そなた、わたしが見えるのか?」「はい。あなたの事を、わたしはいつも感じておりました。」男は苦しそうに咳込むと、有匡に抱きついた。「どうか、わたしを助けて下さい。わたしはもう永くはありません。」「それは出来ぬ。だが、そなたの望みは聞いてやろう。」「では・・」男は有匡に、一枚の写真を見せた。そこには、金髪紅眼の振袖姿の少女―火月が写っていた。「わたしの娘です。まだ四つになったばかりの子を、残して逝くのは辛い。どうか、わたしの代わりに娘を守ってくださいませんか?」「わかった。」「ありがとう・・ございます・・」男は、有匡の腕の中で静かに息絶えた。「安らかに眠れ、人の子よ。」1915年、東京。―あの子でしょう・・―不吉な瞳をしているわね。―呪われているわ・・長く肺を患っていた母が亡くなり、火月は父方の親族の元へと引き取られた。そこには、自分に対して好奇と畏怖の視線を向ける親族と、使用人達が待っていた。そして、火月を何かと敵視する本妻の娘・香世が居た。「ねぇ、あなたは何処から来たの?」火月は、いつもお気に入りの場所で会う猫を撫でながらそう猫に話し掛けていると、香世がそこへやって来た。「気味が悪いわ!」「香世・・」「“お嬢様”と呼びなさい。あなたみたいな気味が悪い子を、“姉”と呼びたくないわ。」火月は、父の妾の子だった。父は火月が四歳の時に亡くなり、母は懸命に火月を育ててくれたが、病には勝てなかった。(父様、母様、会いたいよ・・)父の本妻は、火月を女中として扱った。暗く狭い部屋を宛がわれ、食事すら与えられず、火月はいつも飢えていた。そんな中、彼女は香世達と花見をしに、鎌倉へと向かった。火月はまるで何かに惹き寄せられるかのように、鶴岡八幡宮へと向かった。初めて来る場所だというのに、火月は何処か懐かしいような気がしてならなかった。「あっ!」「何しているの、この愚図!」小石につまずいて転んだ火月を助け起こそうともせずに、香世達はそのまま石段を下りていってしまった。「うっ、うっ・・」痛みと寂しさで火月が泣いていると、そこへ一人の男が現れた。「どうした?何故泣いている?」「父様、母様、会いたいよ・・」有匡は、そっと火月の頭を優しく撫でた。その時、火月はその優しい感触が、何処か懐かしいような気がした。「また会おう、火月。」「どうして、僕の名前を知っているの?」「そなたが産まれる前から、そなたの事を知っている。」 1924年、東京。女学校を卒業間近という時に、火月は自分の父親よりも年上の男と結婚する事になった。その結婚は、没落寸前の家を救う為のものであった。「ねぇお母様、本当にこれで良かったの?」「良いに決まっているでしょう。これで厄介払いが出来て、せいせいするわ。」 香世の妹・綾乃は、火月の部屋へと向かった。するとそこには、少ない私物を風呂敷にまとめている異母姉の姿があった。「姉様、どうかお幸せに。」「ありがとう。」―おい、あれ・・―高原家の・・―可哀想にねぇ、人身御供に出されるなんて・・白無垢姿の火月が、“夫”の待つ鶴岡八幡宮へと向かっていると、突然雨が降り始めた。「さぁ、つきましたよ。」一段ずつ石段を火月が上った先に待っていたのは、幼き日に鶴岡八幡宮で会った男だった。「待っていたぞ、火月。」「あなたは・・」―先生・・「もう何も心配は要らぬ。これからは、わたしがお前を守ってやる。」―僕、あなたの子供が産みたいんです。「さぁ、わたしの手を・・」「はい。」有匡は漸く、六百年振りに火月と再会した。「なんですって、あの子が消えた!?」「どういう事ですの、お母様!?」「さっき大宮様からお電話があって、火月がそちらに来てないと・・」「何処へ消えてしまったのかしら?」「さぁね。全く最後まで役立たずなんだから。」火月が消えた日の夜、香世とその母親は何者かに惨殺された。「祟りじゃ、稲荷様の祟りじゃ~!」すぐさま惨殺事件を警察が捜査し始めたが、目撃者も居らず、迷宮入りしてしまった。この事件は、天気雨が降っていた事から、“狐の嫁入り事件”と呼ばれた。にほんブログ村
Feb 15, 2024
コメント(0)
母が買ってきたチョコレートです。どちらも甘くて美味しかったです。
Feb 14, 2024
コメント(0)
※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。その日は、雲一つない快晴の日だった。「見て、綺麗な空!今が戦争中だなんて思えないや!」腰下までの長さがある金髪を揺らしながら、一人の歌姫はそう叫んで青空を見つめた。「火月様、こちらにいらっしゃったのですね。さぁ、そろそろお時間ですよ。」「わかった。」歌姫―エーリシア連合国軍所属の高原火月は、音楽祭に出演する為、基地に来ていた。戦場で戦っている兵士達を慰める為、火月は音楽祭に出演している他の歌姫達と音楽祭を盛り上げた。音楽祭の盛り上がりが最高潮に達した時、“それ”は起きた。「何あれ?」「サプライズ?」観客達が口々にそう言いながら上空を見上げると、そこにはカラフルな落下傘が次々と地上に降りて来た。「え、あれ・・」観客達が地上に降りて来た者達が、敵国軍の兵士達だと気づいたのは、彼らのシンボルカラーである真紅の軍服が落下傘の陰から見えた時だった。「逃げろ、敵だ!」それまで歓声に包まれていた会場は、悲鳴と銃声、怒号に包まれた。「火月様、こちらです!」「一体何が起きているの!?」「それは、わかりません。それよりも早く・・うっ!」火月は、目の前で人が撃ち殺されるのを初めて見た。「嫌、しっかりして!」無駄だと知りながらも、火月は倒れた男の身体を揺さ振った。その時、無機質かつ冷たい靴音が火月の方へと近づいて来た。(敵の残党か・・)紅蓮の炎と漆黒の煙に包まれ、ラグナス皇国大佐・土御門有匡は、弾切れになった拳銃を床に投げ捨てると、携帯していたダガーナイフを取り出し、敵の残党へと迫っていった。その時、一陣の風が吹き、太陽の光が“敵”の姿を照らした。白磁のような肌、眩い光を放つ美しい金髪、そして上質な紅玉を思わせるかのような真紅の瞳。“せんせい、ぼくがおとなになったら、けっこんしてくれる?”幼い頃、大切な“誰か”と交わした約束。“あぁ、約束だ。”「火月、火月なのか・・?」「先‥生・・?」火月は、自分の前に立っている敵兵が、初恋の人である事に気づき、驚愕の表情を浮かべた。“大きくなったら、結婚しよう。”そう言って自分に優しく微笑んでくれた大切な人は、自分に向かってナイフの刃先を向けていた。どうして、彼が敵軍に居るのか。何故、彼が“ここ”に・・「大佐、ご無事ですか!?」二人が互いに見つめ合っていると、そこへ一人の兵士が現れた。「あぁ。」「この女は、殺しますか?」「いや、この女は人質として価値がある。彼女はわたしに任せて、お前は先に行け。」「はっ!」有匡の部下が二人の前から去ると、有匡は冷たい目で火月を見た。「わたしと、共に来て貰おうか?」「嫌だと言ったら?」「力ずくで、連れて行くまでだ。」有匡はそう言うと、火月の鳩尾を殴って気絶させた。「済まない、火月。わたしを許されないでくれ。」有匡は火月を横抱きにすると、惨劇の舞台から去って行った。“こんな所に居た。どうして、泣いているの?”“僕の目が、気持ち悪いって。”“どうして、こんなに綺麗なのに。”そう言って自分に優しく微笑んでくれた、有匡。彼と共に過ごした時間は、何よりも楽しかった。だが、別れの時は突然訪れた。“戦争になったら、会えなくなるの?”“大丈夫、また会えるよ。”別れの時、火月は有匡とあの約束を交わした。それなのに―(どうして、こんな形で再会ってしまったんだ。わたしは、お前の事だけを想っていたんだ。どうか、お前のあの笑顔が、曇らぬように、わたしは・・)有匡は、自分の膝上で眠っている火月の美しい金髪を優しく梳いた。(わたしは、この先どんな事があっても、お前を守る。だから、今は幼子のように眠れ、火月。)「ん、先生・・」火月が寝返りを打った時、彼女が耳につけていた紅玉の耳飾りが美しく光った。「ゆっくり眠れ。」にほんブログ村
Feb 14, 2024
コメント(0)
「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。前半性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。“彼女”―三条高子は、そう言うとカウンター越しに有匡を睨みつけた。 彼女とは前世からの深い因縁で繋がっていた。「この前、貴方様のインタビュー記事を雑誌で拝読しましたわ。」 高子はそう言うと、有匡の手を見つめ、次の言葉を継いだ。「血に塗れた手でも、美しい物を作れるんですのね、あなたは。」「先生、冷凍庫のチョコ、在庫がなくなりそうです。」 火月がそう言って厨房から店内へと向かった時、有匡と謎の少女が対峙している事に気づいた。「あなたが・・あの・・」 少女はそう言うと、店から出て行った。「先生、どうしたんですか?」「すまない、考え事をしていた。どうかしたのか、火月?」「チョコレートの在庫が切れそうなんですが、発注お願いできますか?」「あぁ。」「さっきの子・・先生のお知り合いなんですか?」「それをお前が知ってどうする?」「え・・」「女房気取りはよせ。」 有匡はそう言って火月を冷たく突き放した後、自室に引き籠もってしまった。「アリマサがひきこもりぃ!?何で急にそんな事になってんの!?」「僕もわからないよ。昨日、店に先生の知り合いが来たんだ。」「そいつ、男?女?」「女の子だよ、名門お嬢様学校の制服を着ていたなぁ。その子が来てから、先生の様子が少しおかしくなっちゃって・・」「もしかして、有匡の愛人じゃねぇの?」 琥龍の言葉を聞いた禍蛇は、すかさず彼の顔面に拳を叩き込んだ。「お前は黙ってろ!」「先生、あの子と会った時、何処か辛そうな顔をしていた。まるで、自分を責めているような・・」「もしかして、前世絡みだったりする?だとしたら、アリマサの方から火月に話してくれるまで、そっとしておいた方がいいんじゃない?」「そうかもね・・」 そう禍蛇に話した火月だったが、有匡とあの少女の事が気になって仕方が無かった。 だから、彼女に会いに行った。(ここ、か・・) カトリック系のお嬢様学校、S高の正門前で、火月は只管あの少女が出て来るのを待った。 だが、幾ら待っても少女は出て来なかった。(無謀だったかな・・) 火月がそう思いながらS高を後にしようとした時、一人の少女が彼女に近づいて来た。「初めまして。あなたが、有匡様の北の方様ね?わたくしは、三条高子、あなたの背の君様に家族を殺された女よ。」 そう言った少女―高子は、火月を睨んだ。「どうして、先生があなたのご家族を・・」「殺したかですって?ここは人目があるから、何処か静かな所でお話ししましょう。」 高子に火月が連れられたのは、こぢんまりとした雰囲気のカフェだった。「コーヒーをふたつ、お願い。」「かしこまりました。」 高子は、店員に飲み物を注文した後、火月の方に向き直った。「それで?あなたは何故、わたくしの家族が有匡様に殺されたのかを知りたいのでしょう?」「は、はい・・」「これをご覧なさい。」 高子がそう言って火月に見せたのは、血に汚れた勾玉だった。「これは・・」「有匡様は、呪詛をかけられたわたくしを救って下さったの。でも・・あの方は、わたくしの家族を殺したのよ・・まるで虫けらのようにね!」(先生が、そんな事をする訳がない。先生が・・)「火月・・火月!」「え、あ、すいませんっ!考え事をしていて・・」「お前なぁ、そういった仕返しは止せ。」 その日の夜、有匡と火月は厨房でテンパリングをしていた。 温度調節が命のテンパリング作業中に火月は気が散ってしまい、失敗してしまった。「すいません・・」「さてと、わたしの分は出来たから、お前の分をどうするかだな。」「え、捨てるんじゃないんですか?」「浴室で待ってろ。」「は、はい・・」(先生、何をするつもりなんだろう?) 浴室で裸になった火月がそんな事を思いながら有匡を待っていると、彼はチョコレートが入ったボウルとヘラを持って浴室に入って来た。「あの、先生、それは?」「あぁ。これは、こうするのさ。」 有匡はそう言うと、チョコレートを火月の肌に塗り始めた。「あ・・」「どうした、感じたのか?」「先生が、こんなプレイをするなんて・・」「意外か?」 有匡はいたずらっぽく笑うと、火月の肌に塗ったチョコレートを舌で舐め取った。「駄目、おかしくなっちゃうっ!」「お前の、そんな顔を見たかった。」 有匡は火月の胸から下腹にかけて塗ったチョコレートを、天鵞絨のような舌で時間を掛けてゆっくりと舐め取った。「あっ、あっ!」 執拗に有匡に舌で愛撫され、甘い嬌声を上げている火月を満足気に見ながら、有匡は残り少ないチョコレートを、火月の陰部に塗りたくり、長い指で彼女の膣と陰核を愛撫した。「お前の躰は、何処もかしこも甘いな。」「やぁぁっ、先生・・」「二人きりで居る時は、名前で呼べ。」「あ、有匡様・・」「辛いなら、やめようか?」「やめないで・・」「良い子だ。」 有匡は火月を四つん這いにさせ、避妊具を己のものに装着すると、うつ伏せのまま彼女を奥まで貫いた。「あぁ~!」「火月、愛している・・」 有匡は火月の最奥で爆ぜると、意識を手放した。―やめて、来ないで! 舞い散る雪の中で、赤く染まった血だけが鮮やかに有匡の目に映った。 逃げ惑う者達を、彼は太刀で容赦なく斬り伏せていった。―いやぁ~! 少女が最期に見たものは、禍々しくも美しい、有匡の紅い髪だった。「先生?」「う・・」有匡が低く呻いて目を開けると、そこが見慣れた自分の部屋だという事に気づいて安堵の溜息を吐いた。「酷く、うなされていましたよ。手も、冷たいですし・・」「昔の―前世の夢を見ていた。」「前世の?」「いつまでも隠しておく訳にはいくまい。お前には、あの娘との関係を話してやろう。」 有匡はそう言うと、火月に自分と高子の因縁について話し始めた。 有匡と三条高子は、三条家で行われた管弦の宴で出会った。 土御門家の養父の顔を立てるだけの、“形だけ”のものだったが、高子は次第に有匡に惹かれていった。 しかし、有匡には既に火月が居た。 火月への嫉妬に駆られた高子は、彼女を亡き者にするよう有匡の義兄達をけしかけた。 その結果、火月を手にかけて“力”が暴走してしまった有匡によって、高子は家族諸共殺された。「それは、彼女の逆恨みじゃ・・」「あぁ。だが彼女は、自分の所為で彼女が死んでしまったという現実から目を背け、わたしに対する恨みだけを抱えて再会した。」「何とか、ならないんですか?」「無理だな。こちらが彼女との接触をせぬ限り、彼女は何もして来ないだろうよ。」 有匡はそう言うと、溜息を吐いた。 翌朝、店のドアを激しく叩く音で、有匡と火月は目覚めた。「おい有匡、これ見ろよ!」 琥龍がそう言って有匡にタブレットを見せた。 そこには、有匡が過去に殺人罪で服役していたという、事実無根の誹謗中傷記事が表示されていた。「何これ・・」「もしかして、あの子が・・」 火月がそう言った時、店の窓ガラスが何者かに投げた石によって粉々に砕け散った。「火月、怪我は無いか?」「はい・・」 有匡が店内に転がった石に包まれた紙を見ると、そこには“人殺し”と書かれていた。「暫く、店は休む。こんな記事が出た後では、仕事にならんからな。」「先生、あの・・」「火月、お前は何の心配もせずに学校へ行け。」「は、はい・・」(先生、大丈夫かな?あの人、昔から動揺している時ほど人に悟られないようにするから・・) 昼休み、火月がそんな事を思いながら教室で弁当を広げていると、そこへ一人の男が入って来た。「おや、こんな所で会うとは・・わたしの事を憶えていますか?文観という名を。」 そう言って笑った男の額には、痣があった。(あれは、先生が・・)「どうやら、思い出してくれたようですね。」「どうして、あなたがここへ?」「この学校では講師を務めているのですよ。有匡殿は・・義兄上は、お元気でいらっしゃいますか?」男―有匡の因縁の相手・殊音文観は、そう言うと笑った。「もしかして、あんたがあの記事を・・」「わたしはあのような卑怯な真似はしませんよ。義兄上にお伝え下さい、今晩八時にこの場所でお待ちしていますと。」 文観はそう言って火月に一枚のカードを手渡すと、教室から去っていった。「暫く店を閉めんの?閉めて何処行くの?」「パリだ。初心に戻って一から修業し直す。」「カゲツは?あいつも一緒に連れて行くんでしょ?」「火月は置いていく。あいつは、やはりわたしの元へ来るべきではなかった。だから・・」 有匡が神官とそんな話をしていると、店のドアベルと共に火月が店の中に入って来た。「嫌です、僕も一緒にパリへ行きます!だから・・」「わたしと居ると、お前は幸せになれない。」「離れる位なら、死んだ方がいい!」 涙を流しながら火月は有匡に強引にキスをした後、店から出て行った。(先生はいつもそうだ、一人で考えこんで・・) 火月がそんな事を思いながら公園でブランコを漕いでいると、そこへ数人の男達がやって来た。「漸く会えたな、化猫。」「嫌だ、離してっ!」(先生、助けて・・)にほんブログ村
Feb 14, 2024
コメント(2)
「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。仁が両性具有です。苦手な方はご注意ください。男性妊娠要素あり、苦手な方はご注意ください。性描写が一部含まれます、苦手な方はご注意ください。「お前、本当に大丈夫なのか?」「ただの風邪だから、大丈夫だよ。」「そうか。」初夏が過ぎ、夏が訪れた。連日の茹だるような暑さに、仁は体調を崩していた。「お父様、大丈夫?」「うん、大丈夫だよ。」そういった物の、仁は酷い貧血に襲われ、その日は仕事を休んだ。「おはよう、優。」「おはよう、碧。」碧は、登校してきた優の顔にアザが出来ている事に気づいた。「それ、どうしたの?」「ちょっと転んじゃって・・」「そう。明日の花火大会、楽しみだね!」「うん!」仁が自室で寝ていると、玄関のチャイムが鳴った。「はい、どちら様ですか?」『俺。』インターフォンの画面に映っていたのは、俊匡だった。「どうしたの?」「ちょっと、トラブっちゃってさ。」俊匡はそう言うと、土御門邸の中に入った。「え、見合いから逃げて来た!?」「いやぁ、親父から食事に誘われて行ったけど、見合いを勝手にセッティングされたから、バックレて来た。」仁が淹れてくれた麦茶を飲みながら、俊匡はそう言った後、溜息を吐いた。「俺は、もう結婚する気は無いんだよ。」「何で?俊匡だったら、きっといい人が見つかると思うよ。」「鈍いな、お前。俺はお前以外の奴とは結婚したくないって言ってんの。」「え・・」仁が戸惑った表情を浮かべていると、俊匡は彼を抱き締め、次の言葉を継いだ。「従兄弟同士とか、男同士とか、そんなの関係ねぇし。俺は、仁以外の奴とは結婚したくねぇし、仁とは別れたくない。」「僕は・・」「二人共、そこで何をしている?」背後から突然氷のような冷たい声がして二人が振り返ると、そこには怒りに滾った目で自分達を睨む有匡の姿があった。「今後一切、仁と会わないつもりだったんじゃないのか?」「そのつもりでした。でも、俺は・・」「仁との結婚は許さん。」「先生、二人の話を聞いてあげても・・」「火月、口を挟むな!」「はい・・」有匡と対峙した俊匡は、自分の想いを彼に伝えた。「俺は、仁以外の人とは結婚したくありません。」「同性婚が合法化されているとはいえ、現実は甘くない。碧はどうなる?あの子が、お前達の子だと知ったら、どうなるか・・」「それは、僕達の方から説明して・・」「二人共、冷静になれ。」仁は、俊匡を玄関先まで見送った。「明日の花火大会、行くよな?」「うん・・」「いつもの所で、待ってる。」「わかった。」火月は、玄関先で抱き合う仁と俊匡の姿を、静かに見ていた。「先生、二人の結婚を許してあげてもいいんじゃ・・」「駄目だ。二人には、わたし達と同じ苦労をさせたくない。周囲から反対されて、どんな目に遭ったか、お前も知らない筈がないだろう?」「それは、そうですけど・・」その日の夜、夫婦の寝室で有匡と火月は自分達が結ばれるまでの経緯を思い出していた。互いに運命に引き寄せられるかのように、二人は恋に落ち、周囲の反対を押し切って結婚したが、それまでが辛く困難なものとなった。「父上が居てくれたから、わたし達はこうして幸せになったが、仁と俊匡は・・」「先生、“運命には何人たりとも逆らえない”って、言うでしょう?僕達と同じように、あの二人は出逢ってしまったら、互いの存在が必要不可欠だって事。」「一目惚れはこの家の血筋、か・・今回はわたし達の方が折れるしかないな。」有匡はそう言うと、溜息を吐いた。「え、じゃぁ・・」「問題は色々と山積みだが、ひとつずつ解決していくしかないだろう―わたし達がかつて、そうしたように。」花火大会当日の夜、土御門邸に久しぶりに殊音家と土御門家の者達が集まった。「うわぁ~、お父様、似合ってる!」「そ、そうかな?」仁の浴衣姿を見た俊匡は、股間が熱くなるのを感じた。「父さん、どうしたの?」「い、いや、何でもない・・」一家総出で花火大会の会場へと向かった仁達は、それぞれ屋台の食べ物や遊びを楽しんだ。仁は父達と別れ、俊匡との待ち合わせ場所に向かうと、彼は荒い息を吐きながら仁を待っていた。「もう、こんなに濡れて・・」仁が下着の上から俊匡の昂ったものに触れると、そこは熱く脈打っていた。「お前だって、濡れてる・・」「もうすぐ、花火始まるね。」「あぁ・・」仁は、太い木の幹に掴まると、俊匡のものを奥まで受け入れた。「う、もう・・」「出して・・」俊匡は、仁の中へ欲望を迸らせた。「花火、綺麗だね。」「あぁ。来年も、また来ような。」「うん。」それは、二人にとって生涯忘れる事が出来ない、夏の日の思い出だった。「あれ、二人共何処に行ってたの?」「うん、ちょっとね・・」碧は、父の首に虫刺されのような痕がある事に気づいた。花火大会から数ヶ月後、仁と俊匡、そして文観と有匡は、聖アンジェロ学院の慈善バザーに参加していた。「カレー出来たから、味見してくれる?」「うん。」俊匡がカレーの鍋の蓋を開けた途端、仁は激しい吐き気に襲われ、その場に蹲った。「おい、大丈夫か?」「うん、大丈夫・・」その後も吐き気が治まらず、仁は俊匡達と共に病院へと向かった。「おめでとうございます、妊娠三ヶ月目に入っていますね。」「え・・」産婦人科の診察室で医師から妊娠を告げられた仁は、驚愕の表情を浮かべた。エコー写真には、二つの黒点が写っていた。「双子・・」「順番が逆になってしまいましたが、いいでしょう。よろしいですね、義兄上?」「あぁ・・」都内のカトリック教会で、家族と友人達に祝福されながら、仁と俊匡は結婚式を挙げた。「おめでとう、二人共幸せにね。」「ありがとう、お母さん。」「先生なら、碧と話しているよ。」「そう・・」教会の中庭で、有匡は碧に、仁と俊匡の事を話した。「じゃぁ、僕には二人の父親が居るって事?」「そうだ。」「僕ね、俊匡さんと初めて会った時、“この人が僕のもう一人のお父さんだ”ってわかったんだ。」「そうか。碧、お前はこれからどうしたい?」「僕、もうすぐお兄ちゃんになるんだよね、楽しみだなぁ。」仁と俊匡が結婚式を挙げてから数ヶ月後、二人が自宅でベビー用品を選んでいると、玄関のチャイムがけたたましく鳴った。「俺が出るよ。」「うん・・」俊匡がインターフォンの画面を見ると、そこには雛の姿があった。「姉さん、どうしたの急に!?」「あんた、色々と不安だと思ってさぁ、“先輩”のあたしが教えてあげようと思って、来ちゃった。」「ありがとう。ごめんね、引っ越したばかりで部屋が散らかってて・・」「碧は?」「スケート教室。僕と違って、あの子には才能があるみたい。」「そう。仁、つわりはもう治まったの?」「うん。」「じゃ、これ食べよっか!」雛がそう言って仁達に見せたのは、大手ファストフード店の紙袋だった。「うわ~、今一番僕が食べたい奴だ、ありがとう姉さん!」「あ~、あんた泣いてんの?」「うるさいなぁ~、もう!」そんな和気藹々とした様子の三人の元に届いたのは、有仁が危篤だという有匡からの連絡だった。にほんブログ村
Feb 13, 2024
コメント(0)
母が近所のスーパーで買ってきてくれました。まろやかなバターの風味とバニラとの相性が抜群でした。
Feb 12, 2024
コメント(2)
読み応えがありました。晴明と博雅の関係が好きです。
Feb 12, 2024
コメント(2)
高校生の頃に一度読んだことがありましたが、それ以来読んでいなかったので再読してみました。晴明と博雅のコンビがいいですね。
Feb 12, 2024
コメント(0)
表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 篝火が爆ぜる音と、琵琶の音と共に、一人の女が静かに舞い始めた。 紅い月に照らされ、女の射干玉の如き艶やかな黒髪が揺れ、碧みがかった切れ長の黒い瞳は、酒宴の主である正田秀時を見つめていた。 秀時は、女の妖艶な舞を惚けたように見つめていた。「あの者を、寝所へ。」 秀時の女好きを知っていた家臣は、渋面を浮かべながらも、彼の命に従った。「見事な舞であった。褒美を取らす故、寝所へ参れ。」「有難き幸せにございます。」 秀時の寝所へ向かった女は、背後から秀時に抱き着いた。「そう急くな、優しく抱いてやる。」 そう言って秀時は女に向かって笑ったが、全身が動かない事に気づいた。「薬が効いてくれて、助かった。」「なっ・・そなた・・」「そなたが無類の女好きで良かった。こうも簡単に騙されるとはな。」 そう言った女の、切れ長の瞳が月光を受けて妖しく煌めいた。「殿、如何されたのです?」 家臣が秀時の様子を見に彼の寝所へ向かうと、そこには口から血を流して息絶えている秀時の姿があった。「誰ぞ薬師を呼べ!」 紅い月が、街道を歩く一人の女を照らしていた。 壺装束姿の女がある所へとさしかかろうとしていた時、近くの叢の中から、数人の男達が出て来た。 全身から異臭を放ち、垢面蓬髪の身なりをした彼らは、女を慰み者にしようと、一斉に彼女を取り囲んだ。 だが、女は天高く跳び上がると、冷たく男達を見下ろした。「なっ・・」「髪が、紅く・・」「運が悪かったな。」 男達は、炎に焼かれ、骨すら残せなかった。「若様、お帰りなさいませ。」「お帰りなさいませ。」 壺装束姿の女―もとい、土御門家嫡男・有匡は、家人達に出迎えられた後、自室で変装を解いた。「若様、湯の用意が出来ました。」「そうか。」 湯殿に有匡が入ると、そこには見慣れぬ顔の侍女が居た。「そなた、名は?」「朔、と申します。」「後で寝所へ来い。」 湯浴みを終え、有匡が寝所に入ると、件の侍女が隠れていた几帳の陰から飛び出し、棒手裏剣を彼に向かって投げつけて来た。「お覚悟!」「下忍如きがわたしを倒そうなど、笑止!」 有匡がそう言って侍女を睨むと、持っていた太刀で彼女の胸を貫いた。「若様、ご無事でございますか!?」「あぁ、大事ない。ただのネズミ退治だ。それの後始末をしておけ。」「はっ・・」 家人達が侍女の遺体を運び出した後、寝所で有匡は泥のように眠った。 翌朝、有匡は朝日を浴びながら馬を走らせていた。 いつもは家人達すら近寄らせず、城の中に籠りがちなのだが、偶には外の空気を吸いたくて、有匡は子供の頃から気に入っている湖へと向かった。 そこは、美しく澄んだ鏡のような湖面故に、“瑠璃湖”と呼ばれていた。 掌で湖の水を掬い、その温度を確めると、有匡は徐に服を脱いで裸となり、湖の中へと入っていった。「おやまぁ、先客が居るなんて。」「しかも、良い男。」 バシャバシャと音を立てながら湖に入って来たのは、町の遊び女達だった。「ねぇ、安くしとくわよぉ。」「極楽浄土へ連れて行ってあげるわ。」 そう言いながら自分にしなだれかかる女達を湖から追い出した後、有匡は湖で髪や肌についた汚れを取った。 そろそろ湖から上がろうと有匡が思った時、馬の嘶きが聞こえて来た。「火月、そんなに遠く行っちゃ駄目だって!」「大丈夫だって!」 黒髪と金髪の少女が、そんな事を話しながら湖の中へと入って来るのを有匡は見た。 有匡は暫く二人の少女達が湖で遊んでいるのを眺めていたが、金髪の少女の様子がおかしい事に気づいた。「火月、しっかりして~!」 どうやら、金髪の少女は藻に足を取られて溺れてしまったようだった。 有匡は居てもたってもいられず、金髪の少女を助けに行った。「いやぁ、触らないで!」「バカ、暴れるな、人が助けてやっているのに!」 有匡は何とか金髪の少女と共に湖から上がった。「火月、大丈夫?」「禍蛇・・」「この人が助けてくれたんだよ!」「ありがとう・・ございます・・助けて下さって・・」 金髪の少女―火月は、そう言って美しい真紅の瞳で有匡を見つめた。「ひとつ、いいか?」「は、はい・・」「服を着ろ。」 有匡の言葉を聞いた火月は、顔を赤くした後慌てて服を着た。「火月様~、どこにいらっしゃいますか~?」「火月様~」 遠くから、火月達を捜している乳母と侍女達の声が風に乗って聞こえて来た。「火月、ヤバいよ、もうお城に戻らないと・・」「あ、あの、お名前は?」「名乗る程の者ではない。」有匡はそう言うと、湖から大慌てで去る火月達を見送った。(騒がしい娘達だったな。) そう思いながら有匡が服を着ていると、湖岸に何か光る物が見えた。 拾い上げてみると、それは涙型の美しい紅玉の耳飾りだった。 それに触れた瞬間、有匡の脳裏に、ある光景が浮かんで来た。―先生、愛しています。 そう言って火月に似た女は、この世に産み出した双つの命を腕に抱いている自分に微笑んでいた。(何だ、あれは?)「火月様、またあの湖に行ったのですね!?」「だって・・」「あの湖には、魔物が棲んでいるのですよ!もう二度と行ってはなりませんよ、良いですね!?」「うん、わかったよ・・」「姫様、お館様がお呼びですよ。」「は、はい・・」 火月が父・直高の元へと向かうと、彼は渋面を浮かべながらある文を読んでいた。「父上、それは・・」「岩田め、其方を嫁がせねば戦をすると、ふざけた事を言って来た。」「父上、僕は誰の元にも嫁ぎたくありません!」「わかっておる。だが火月、そなたには、心に決めた相手でも居るのか?」「そ、それは・・」 火月の脳裏に、何故か湖で助けてくれた男の顔が浮かんだ。にほんブログ村
Feb 12, 2024
コメント(0)
全72件 (72件中 1-50件目)