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2006.12.06
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カテゴリ: 『デカローグ』
DEKALOG DZIESIEC

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10『ある希望に関する物語』

後で後悔はしたらしいですが、この物語には他の物語(7を除く)に登場する謎の若者が登場しません(『7』に登場しないのは撮影と編集の不手際の結果だそうです)。『10』では最初から構想になかったようです。それはコミカルな雰囲気だからなんですね。この『10』は、『1』から『9』まで重苦しい話を続けてきて、最後の息抜きなんでしょう。

2つ前の『8』に生前の姿で登場して、ゾフィアにレアな切手シリーズを入手したことを話し、エルジュビエタが来ているときにその切手を見せにくる老人。この『10』は彼の葬式から始まります。死んだ父の暮らしていたアパートに入って息子イェジとアルトゥル兄弟が驚くのは質素な部屋に、ただただ膨大な切手の収集だけがあったこと。後日切手収集家協会の会長は、「この切手1枚でフィアット1台が買える。これならベンツが買える。これはアパートが買える。」等と価値を説明します。ここでのセリフが、この切手は何ズウォティ、こっちは何ズウォティとか、金銭に換算しないところがポイントですね。最初のときに「兄さんも物を持つのが好きじゃない」って弟に言われた兄は「自分は、洋服とか家具とか、使えて、生活を豊かにする物だ」って言ってます。つまり古い切手には何ら実質的価値はない。ただそれに情熱を燃やして、欲しいというマニアがいるからの価値だけです。そんなことに対して、妻や子供に貧乏を強い、妻の葬式には着ていく服もない、というほどに没入するのはやはり許しがたいエゴです。まさにキェシロフスキが言うように「この映画は異常なまでにエゴイスティックな情熱に没入する人間の話である。」んです。

(以下ネタバレ)
やがてこの2人、兄イェジは妻子を放ったらかしにし、弟アルトゥルは人気ロック・グループのヴォーカルからも離れて、父の収集を引き継いでしまう。兄の状況は『アマチュア』のフィリップに似ている。フィリップは映画撮影に没頭していって、妻は家を出ていく。その前に「男には平穏な生活以外の何かが必要なんだ」っ言っています。それは事実です。でも『アマチュア』のフィリップにしても、この『10』の死んだ父、あるいは兄弟にしても、やはり程度っていうのが重要。その限界を越えてしまえば、親しい人との心の繋がりは断たれ、孤独なエゴになっていくしかないということでしょう。それではやっぱり人間としては失格なんですね。どうしてもそうしたければ、最初から他者との関係を持たず、自分の孤独をも自分独りで処理して、他者との心の繋がりを求めないことです。この父が最初から結婚せず、子供も作らずに、天涯孤独の独り身として、切手収集に没頭していたならいい。でもそれでは結局人は幸せにはなれない、ってキェシロフスキは言っているように思います。父の遺品の中から、次男アルトゥルのロック・グループの活躍を報じる新聞の切り抜き記事がたくさん出てきますが、これは父の息子への愛情を示すものであるというよりも、自分は切手収集のエゴにあって妻子には何もせずに、それでも天涯孤独を甘受せずに、自分の孤独の癒しのために他者との関係を求めている、という虫の良さを描いているように思います。

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この話ではすべてを盗難で失った2人が、そこで自分たちの愚かさ加減に気づき、ささやかな切手収集を始める、っていうラストです。2人が記念切手を買う郵便局の職員は『6』のトメクです。少し大人になったように見えます。『トリコロール/白』の兄弟と同じ配役のシュトゥールとザマホフスキのコンビがいい味を出してくれています。ずっと重苦しかった物語シリーズを締めくくるには、希望の持てる、後味のいい最後ではないでしょうか。

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Last updated  2006.12.06 23:25:41
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