ラッコの映画生活

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2007.02.10
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LA DOUBLE VIE DE VERONIQUE
PODWOJNE ZYCIE WERONIKI
Krzysztof Kieslowski
(92min)
那覇・桜坂劇場にて(& DVD)

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寸評:人によって好き嫌い、解釈は色々ある映画だろうが、自分にとっては最も好きな映画の1つ。危うくも微妙に完璧なバランスを保った作品。イレーヌ・ジャコブが魅力的。

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イングマール・ベルイマンは、ボクが映画好きになるキッカケの一つだったかも知れない。そのベルイマンとこのキェシロフスキ、年代(1918と1941生まれ)は違うし、育った環境も、作風も違う。キェシロフスキがウッチの映画学校に在籍していた60年代には、『第七の封印』(1956)は既に世に出ていたし、60年代に公開されたベルイマンの『鏡の中にある如く』『沈黙』『ペルソナ』等はキェシロフスキにとっては研究の対象だったろう。結果としての作風は違っているが、この2人の底に流れるものにある種の共通性を感じる。どちらも人間関係のドラマを描き、非現実、直感、神秘性がどこかにある。スウェーデンとポーランド、たぶん暗く寒い冬が人の目を内面に向けさせるということかも知れない。明るい太陽のイタリアのフェリーニ(パゾリーニやベルトルッチさえ含め)とは明らかに違う心性だ。2人の女性の同一性というとベルイマンの『ペルソナ』を思い浮かべるが、この『ふたりのベロニカ』は全く違う映画でありながら、こういうテーマに気がいくというのは、どこかにつながるものを感じる。『ペルソナ』は結果としてはああいう形而上学的映画にはなったけれど、これだってキッカケはビビとリヴが似ているということだった。

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物語は同じ日に生まれたポーランドのウェロニカとフランスのヴェロニック。互いに血縁など何の関係もないが、瓜二つで、歌の才能や金の指輪で眼の淵をなぞるクセなど共通性も多く、まるで同じ人物の2つの人格のよう。そう言えばウェロニカはピアノを勉強していたが、ピアノ科の大学入学資格試験に合格した日に、ドアに左薬指を挟まれてケガをし、ピアノを断念しなければならなくなった。指には傷跡が残っているが、その同じ指にヴェロニックはいつも指輪をはめている。そしてどちらももう一人の自分がいるような気がしている。ここまでは多少ネタバレでも書いてしまっていいと思うが、映画の最初30分くらいでポーランドのウェロニカは死んでしまう。残りの70分はフランスのヴェロニックの物語だが、ヴェロニックはウェロニカの失敗を教訓とするかのように、自分がどうすれば良いかを知っている。無理な高音の歌を歌ったために心臓発作で死んだウェロニカの教訓なのか、理由は解らないながらも歌をやめるべきだということは知っていて、まるでウェロニカに導かれるように歌手の道をあきらめ、病院で心臓の検診も受ける。

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ウェロニカとヴェロニックはどちらも幼く母を失い父に育てられるのだけれど、映画はタイトルロールの前に、まだ母の生きていた頃のクリスマス・イヴの夜、母親が幼い娘に語る会話で始まる。まずはポーランドのウェロニカ。彼女はたぶん母親に抱かれ、頭を後ろにのけぞらしていて、逆さに夜の星空を見ている。映画のカメラも夜の風景を上下逆にとらえている。画面の上が建物群、下が夜空だ。建物群には窓に明かりが点っていて、下の空はぼんやりしているので、あたかも街の明かりが夜空に輝く星々に見える。ここで世界を転倒させたのは、ウェロニカがヴェロニックと鏡像を成していることを表そうとしたのだと思う。次のフランスの幼いヴェロニック。幼いヴェロニックは一枚の木の葉を手にしている。そして母親が娘に喚起するのは「見てごらんなさい、葉脈を」なのだが、この葉脈という語はフランス語でveine。葉脈も意味するが、もともとの意味は静脈(血管)のことだ。気付かれてはいないが先天的心臓病を持った2人に対する暗示か?。母親は「やがて春になって若葉が茂り」とも言い、こちらは生命を象徴する言葉だ。逆さ向きに映されるウェロニカと正の向きに映されるヴェロニック、2人は鏡像の2人なのだが、ポーランドのウェロニカが逆さであることは、フランスのヴェロニックをメインと考えるための暗示であろうか。

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(以下少しネタバレ)


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ヴェロニックが音楽教師として勤める学校で移動人形劇公演が行われ、公演をおこなったアレクサンドル・ファブリなる人物が色々な謎掛けの手紙やカセットテープをヴェロニックに送ってくる。その謎を解いたヴェロニックはパリに行き、謎解き通りにアレクサンドルを駅のカフェに見つけ、色々あった後2人はホテルの一室で愛し合う。そのときバッグの中に彼女がポーランドに観光旅行した折に彼女の撮った写真があって、それまで彼女は気付いていなかったが、アレクサンドルに指摘されて、その写真の中にポーランドの自分の分身ウェロニカが写っているのを知る。自分が一人ではなく、どこかに分身のような存在がいると感じていたヴェロニックは、言い様のない悲しみに襲われ涙するのだが、そのときにアレクサンドルが彼女を抱きしめるラブシーン。映画に撮られた肉体的愛のシーンとしては、ボクの知る限りでは最も美しいシーンだ。

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そして何よりも美しいシーンは、前半ポーランド編で、ポーランドのクラクフの中央広場で、ちょうど学生デモが行われ、警官隊などがいて騒然とした状況の中で、観光旅行中のフランスのヴェロニックをポーランドのウェロニカが遠くから見つけるシーン。なまじの映画を100本くらい持ってきてもこの数分のシーンの美しさには太刀打ちできないと思う。感覚的ことだから説明は難しいけれど、予感していたもう一人の自分をそこで実際に見、この瞬間にウェロニカは自分の生きている意味を感じて至福感を持ったのだ。自分の生の意味の確認といってもいい。

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全くの個人的余談だが、ボクが遥か昔この映画を最初にレンタルビデオで見たとき、キェシロフスキの名はまだ知らなかった。そして1日3時間睡眠という超睡眠不足的生活を当時送っていたボクは、この映画の再生を始めて間もなく寝入ってしまった。そしてほぼ最後まで寝続けてしまったのだが、3つのシーンだけが記憶に残っていたらしい。ただ何の映画のシーンであったのかも、『ふたりのベロニカ』という題名も忘れてしまっていた。そして何年もしてニュープリントを劇場公開で見たとき、まさに上の3つのシーンだけを記憶していた。明確な記憶として強く強く焼きつけられていた。寝入ってしまった最初の観賞後、他のことは、ウェロニカが歌手であったことも、それぞれの父親の存在も、人形劇のシーンも、何も記憶していなかったのに。

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(以下ネタバレ)
いちおうストーリーらしきを書いておこう。ワルシャワに父と住むウェロニカにはアンテクという恋人がいて雨に降られて軒下で抱き合うなどのシーンもあるが、実のところ運命の人として愛してはいないようだ。彼を置いてクラクフの叔母さんの家に行ってしまう。そこで歌手として大抜擢されて、ブッデンマイヤーのカンタータを歌うことになるが、自分自身でも知らなかった先天的心臓異常のためにステージ上で発作を起こし死んでしまう。ちなみに心臓が悪くてブッデンマイヤーが歌えないというテーマは、 『デカローグ 9』 にも登場する。ちょうどその頃フランスのヴェロニックは久しぶりに会った男友達とベッドで抱き合っていたが、分身ウェロニカの死を感じとったのか、突然悲しみに襲われ涙を流す。彼女は理由はわからずに、でもただそうしなければいけないと知っていて、歌をやめると声楽教師のところに行き、また心臓専門科で診察を受ける。学校ではブッデンマイヤーの曲を生徒たちに教えている。人形芝居の移動公演をしに来たアレクサンドル・ファブリを運命の男性だと感じた彼女はウェロニカの導きや、アレクサンドルの著書、また彼が謎掛けとして送ってきた品々から彼の所在をつきとめ、パリで再会する。その直前、何故かワルシャワでのウェロニカがオーディションを受けたときにいた帽子の女が怪訝そうにヴェロニックを見ていた。アレクサンドルが自分のことを好きだと思っていた彼女はそれを否定され、彼から去ってホテルに泊まる。部屋番号はクラクフのウェロニカを訪ねてきたアンテクが泊まっていたのと同じ287号室。追ってきたアレクサンドル。和解し部屋で愛の一時。その後ヴェロニックはアレクサンドルの家で目を覚ますが、作業部屋でアレクサンドルが二つのベロニカ人形を作り、彼女にとって親密で大切な自分とウェロニカの物語を作品の題材にしたことを知って幻滅する。彼女は自分を再び見つめ直し、これからの人生を考えるべく、自分にとっての心の原点である父親の住む家を訪ねる。自分が生まれ育った原点としての「家」をイメージできないアメリカ人用の別バージョンでは、最後に父親と抱き合うらしい。

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Last updated  2007.07.05 03:35:07
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