山行・水行・書筺 (小野寺秀也)

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小野寺秀也

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2020.03.01
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テーマ: 山歩き(114)
カテゴリ: 山歩き

​【ホームページを閉じるにあたり、20119年11月21日に掲載したものを転載した】​


​​ 【続き】 ​​


​福禄山から40分くらいで銭山山頂である。山頂で記念写真(Photo H)を撮るが、すぐ白森に向かう。​



Photo H 陽射しがまぶしい銭山山頂。(2009/9/18 9:22)


 銭山と白森のあいだはやせ尾根ではないが、いちおう緩やかな尾根道でである。眺望はよいが、道そのものには大きな変化はない。白森は遠くから見ても木々の背丈が低く、頂上からの眺めは良さそうである。
 結論からいえば、福禄山を出て少し経った付近から、銭山、白森、黒伏山の少し手前までは、ずっと眺望の良い尾根道が続き、1000m前後の山でこれだけのコースはめずらしいのではないかと思う。登る山に迷ったときは、このコースだな、と思わせる良さがある。



Photo I 白森の頂上標が見える。頂上近いのでイオは張り切って私を先導する。
(2009/9/18 9:53)


​ 白森の頂上標がけっこう遠くから見える。連れは急ぎ足になって、私を引っ張る。少し暑くなってきて、記念写真も体半分日陰になる場所を選んでいる。地図では「白森」であるが、山頂標には「白森山山頂」となっていた。​



Photo J 白森山頂で。日陰もこの程度。(2009/9/18 9:54)

​​
いとしい者の上に風が吹き
 私の上にも風が吹いた
 愛しい者はたゞ無邪氣に笑つており

 世間はたゞ遙か彼方で荒くれてゐた 
          中原中也「山上のひととき)」部分 [2]​​



Photo K 白森から銭山をふり返る。(2009/9/18 9:56)


 白森山頂はなかなか離れがたいのであった。蔵王連峰には雲がかかっているが、東の方、歩いてきた福禄山、銭山はもちろん一番向こうの船形山まで重なる山々が青く霞んで広がっている風景に惹かれる。
 しかし、昼食の蕎麦に遅れるわけにはいかない、と思いなおして出発した。



Photo L 白森から黒伏山に向かう途中で白森をふり返る。 (2009/9/18 10:10)


 白森の頂上から黒伏山を目指して南に下っていく。黒伏山の北斜面に取りつくまでは、やはり気分のいい鞍部、稜線の道である。
 黒伏山の北斜面にかかるころ、直径1mほどの円盤形の石が道をほとんど遮るように突っ立っている。脇をすり抜けた連れが、心配そうに石の向こうでから覗いていた。
 その石を過ぎるころから、周囲の木々の背丈が高くなり、勾配がきつくなるあたりで、何となく荒れた雰囲気になる。北斜面で積雪が多いせいか、木々は押しつぶされたように斜めに伸び、それに下草や蔓が絡まっている。しかも地面はじめじめしている。里山でも北斜面の谷あいにこういう雰囲気の場所があって、突っ切って歩くのが憚られるようなことがある。

 黒伏山は頂上近くでも木々の樹高があって、見通しが悪い。頂上そのものも展望がないので、少し休んだだけであっさりとパスすることにした。



Photo M 逆光の中を黒伏山頂上へ。向こうに頂上標が見える。(2009/9/18 10:42)


 沢渡黒伏山の南壁の上にでると、急激に切れ落ちるキワに立つことになって、すばらしい眺望と恐怖とで気持がざわざわするのだった。黒伏山本峰の南斜面も急激に落ちているが、全面が樹木で覆われている(Photo N)。
 南、蔵王連峰や大東岳、面白山の方向は雲がかっている。東、船形山の方はずっと晴れて眺望がよかったが、ここにきて船形山にも雲がかかりはじめた(Photo O)。



Photo N 黒伏山本峰の南斜面。斜面の向こうに柴倉山。
さらにその向こう、青く霞むのは船形山。(2009/9/18 11:02)


Photo O 南壁の上(1185mの峰、沢渡黒伏山)からの黒伏山本峰、
中央、柴倉山の向こうに船形山が霞む。(2009/9/18 11:02)


 沢渡黒伏山の南壁からの眺めを堪能すると、今日の山歩きの楽しみはみんなこなしたような気になった。それで 沢渡黒伏山の西斜面の道を何となく急ぎ足で下った。
 遅沢林道と黒伏スキー場への道の分岐にあった円形の案内標識が洒落ていた。一瞬字が読めなくてそばに近づいたら、90度回転した状態で木に括りつけられていたのである。
 たぶん(そして、もちろん)はじめは真っ直ぐに架けられていたものの、その木が朽ちたか倒れたかしたのち、適当な新しい木がないため、方向を正しく指し示すために90度回したものだろう。目につくところに正しい表示を、と工夫されたのである。
 表示板によれば、黒伏スキー場までは5.5km もある。周回してきた尾根の分を黒伏山と村山野川にはさまれた麓の平坦部の林を引き返す感じなのである。分岐ですでに11時30分である。早めに昼食にして蕎麦はおやつ代わりとするか、遅めの昼食として蕎麦をがっちりと食べるか、少し悩んだが、このまま進むことにする。蕎麦の方が大事なのであった。
 しかし、黒伏山の麓の林は、急いで駆け抜けるのはもったいないような美しい林だった。強い陽の光の木漏れ日は、ハダラに光る残雪か、かたまって咲く白い花のようである(Photo P)。



Photo P 林の中に強い木漏れ日が差し込む。(2009/9/18 11:50)


人消えて雑木かがやきすでに風  金子兜太 [3]​


​ まもなく林のなかの道は、大きな石が重なった上を走るようになる(Photo Q)。Photo Q' のような石組みが道なのである。連れの体はもちろん、私でも落っこちれば体半分は入りそうな空間が隙間を開けて待っているのである。大きな石だらけの川原を歩いた幼年の思い出にあるような、ちょっとした冒険心のようなものが湧いてくる気がする。​



Photo Q ずっと続くほぼ平坦な林の道。(2009/9/18 11:56)



Photo Q' 大石が重なる林の道。落っこちてしまいそうな大きな隙間もある。
(2009/9/18 11:58)


​岩が根のこごしき山に入りそめ山なつかしみ出でかてぬかも​
                読人知らず 「萬葉集 巻第七」 [4]​

 いくら早く蕎麦が食べたいからといって、駆け足で過ぎるのはもったいない林で、結局は、キノコも探しながらのゆっくりした歩きとなった。道沿いしか見ないキノコ狩りは獲物が少なく、2種類のイグチの仲間をいくつか見つけただけだった。4日前の白髪山から奥寒風山までの縦走往復では、ナラタケやヌメリスギタケなどそこそこの収穫があったのだが、林の性格が違うのでしょうがない。


Photo R 犬だって疲れるし、 バテるのである。基本的に暑さに弱い。
(2009/9/18 12:56)


 駐車場にたどり着いたのは午後1時くらいである。日影で涼をとる連れをせき立てて、蕎麦屋に走る。

 先日は私ひとりだけの客だったが、今日は2組6人ほど先客があったので、調理場から一番遠い座敷に席を取った。それにはそれなりの理由があるのである。
 先日、ひとりだけの客として、調理場に1番近い座卓に席を取って、おろしたてワサビがちょうど食べ頃になるまで待たされて、やおら食べ始めようとしたとき、「ワサビはつゆに溶かさないで蕎麦に直接つけて食べるとおいしいですよ」と教えられたのだ。
 確かにおいしい、ワサビの味が鮮烈なのだ。刺身もまた醤油にはワサビを溶かさず、刺身につけて食べるとおいしいのと同じ理屈だろう。でも、刺身の場合とは明らかに違うのである。もともと魚が苦手な私は、生臭さを消す効果を最大限にするために刺身に直接ワサビをつけ、そうしておいしく食べるのだ。
しかし、蕎麦はもともと好きなのである。そして、蕎麦に直接ワサビをつけて食べると、おいしいワサビを食べているのは間違いないが、蕎麦の味がワサビで霞んでしまうような気がするのである。
 先日食べたときから4日間考えた。「おいしい蕎麦においしいワサビの風味が添えられている」状態が望ましい、というのが結論である。蕎麦の味8~9に対してワサビの味1~2が理想的。ワサビを蕎麦に直接つけると、ワサビ5~8くらいになって、多すぎるうえにその時々で大きく変動するのである。つけるワサビの量や啜る蕎麦の量の加減に熟練すれば良いとは思うのだが、熟練するまで、味覚的に不都合な状態で食べ続けるのは、人生の大損である。
 結局、調理場から1番遠くの、奥の席に陣取って、つゆにワサビを溶かして「おいしい蕎麦においしいワサビの「風味」を添えて食べる」ことにしたのだ。せっかく親切に教えていただいたのに、むげに無視することになってしまうのは、どこか申し訳ない気分で遠慮だったのである。



[2] 「中原中也全集 2」(角川書店 1967年) p. 372。
[3] 「金子兜太集 第一巻」(筑摩書房 平成14年) p. 255。
[4] 「日本の古典 4 萬葉集 三」(小学館 昭和59年) p. 121。


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Last updated  2020.03.01 12:25:17
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