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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇七一わたくしどもは一九二七、六、一、わたくしどもはちゃうど一年いっしょに暮しましたその女はやさしく蒼白くその眼はいつでも何かわたくしのわからない夢を見てゐるやうでしたいっしょになったその夏のある朝わたくしは町はづれの橋で村の娘が持って来た花があまり美しかったので二十銭だけ買ってうちに帰りましたら妻は空いてゐた金魚の壼にさして店へ並べて居りました夕方帰って来ましたら妻はわたくしの顔を見てふしぎな笑ひやうをしました見ると食卓にはいろいろな菓物や白い洋皿などまで並べてありますのでどうしたのかとたづねましたらあの花が今日ひるの間にちゃうど二円に売れたといふのです……その青い夜の風や星、 すだれや魂を送る火や……そしてその冬妻は何の苦しみといふのでもなく萎れるやうに崩れるやうに一日病んで没くなりました
2024.06.20
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#宮沢賢治 #AIイラスト一四五比叡(幻聴)一九二四、五、二五、黒い麻のころもを着た六人のたくましい僧たちとわたくしは山の平に立ってゐる それは比叡で みんなの顔は熱してゐる雲もけはしくせまってくるし湖水も青く湛えてゐる (うぬぼれ うんきのないやつは)ひとりが所在なささうにどなる
2024.06.19
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#宮沢賢治 #AIイラスト一三九夏一九二四、五、二三、木の芽が油緑や喪神青にほころびあちこち四角な山畑には桐が睡たく咲きだせばこどもをせをったかみさんたちが毘沙門天にたてまつる赤や黄いろの幡をもちきみかげさうの空谷やだゞれたやうに鳥のなくいくつもの緩(ゆる)い峠を越える
2024.06.18
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇七〇科学に関する流言五、一九、今日ちゃうど二時半ころだ高木から更木へ通る郡道のまっ青な麦の間を馬がまづ円筒形に氷凍された直径四十糎の水銀を二っつつけて南へ行ったそれから八分半ほど経って同じものを六本車につけて人が二人で運んで行ったいやあの古い西岩手火山のいちばん小さな弟にあたるやつが次の噴火を弗素でやらうといろいろ仕度をしてゐるさうだ
2024.06.17
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#宮沢賢治 #AIイラスト一三三つめたい海の水銀が一九二四、五、二三、つめたい海の水銀が無数かゞやく鉄針を水平線に並行にうかべことにも繁く島の左右に集めれば島は霞んだ気層の底にひとつの硅化花園をつくる銅緑(カパーグリン)の色丹松や緑礬いろのとどまつねずこまた水際には鮮らな銅で被はれた巨きな枯れたいたやもあって風のながれとねむりによってみんないっしょに酸化されまた還元される
2024.06.16
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#宮沢賢治 #AIイラスト一一六津軽海峡一九二四、五、一九、南には黒い層積雲の棚ができて二つの古びた緑青いろの半島がこもごもひるの疲れを払ふ……しばしば海霧を析出する 二つの潮の交会点……波は潜まりやきらびやかな点々や反覆される異種の角度の正反射あるひは葱緑と銀との縞を織りまた錫病と伯林青(プルシヤンブルウ)水がその七いろの衣裳をかへて朋に誇ってゐるときに……喧(かしま)びやしく澄明な 東方風の結婚式……船はけむりを南にながし水脉は凄美な砒素鏡になる早くも北の陽ざしの中に蝦夷の陸地の起伏をふくみまた雨雲の渦巻く黒い尾をのぞむ
2024.06.15
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#宮沢賢治 #AIイラスト「真空溶媒(Eine Phantasie im Morgen)」 その9あらゆる変幻の色彩を示し……もうおそい ほめるひまなどない虹彩はあはく変化はゆるやかいまは一むらの軽い湯気(ゆげ)になり零下二千度の真空溶媒(しんくうようばい)のなかにすつととられて消えてしまふそれどこでない おれのステツキはいつたいどこへ行つたのだ上着もいつかなくなつてゐるチヨツキはたつたいま消えて行つた恐るべくかなしむべき真空溶媒はこんどはおれに働きだしたまるで熊の胃袋のなかだそれでもどうせ質量不変の定律だからべつにどうにもなつてゐないといつたところでおれといふこの明らかな牧師の意識からぐんぐんものが消えて行くとは情ない (いやあ 奇遇ですな) (おお 赤鼻紳士 たうたう犬がおつかまりでしたな) (ありがたう しかるに あなたは一体どうなすつたのです) (上着をなくして大へん寒いのです) (なるほど はてな あなたの上着はそれでせう) (どれですか) (あなたが着ておいでになるその上着) (なるほど ははあ 真空のちよつとした奇術(ツリツク)ですな) (えゝ さうですとも ところがどうもおかしい それはわたしの金鎖ですがね) (えゝどうせその泥炭の保安掛りの作用です) (ははあ 泥炭のちよつとした奇術(ツリツク)ですな) (さうですとも 犬があんまりくしやみをしますが大丈夫ですか) (なあにいつものことです) (大きなもんですな) (これは北極犬です) (馬の代りには使へないんですか) (使へますとも どうです お召しなさいませんか) (どうもありがたう そんなら拝借しますかな) (さあどうぞ)おれはたしかにその北極犬のせなかにまたがり犬神のやうに東へ歩き出すまばゆい緑のしばくさだおれたちの影は青い沙漠旅行(りよかう)そしてそこはさつきの銀杏(いてふ)の並樹こんな華奢な水平な枝に硝子のりつぱなわかものがすつかり三角になつてぶらさがる
2024.06.14
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#宮沢賢治 #AIイラスト「真空溶媒(Eine Phantasie im Morgen)」 その8背嚢なんかなにを入れてあるのだ保安掛り、じつにかあいさうですカムチヤツカの蟹の缶詰と陸稲(をかぼ)の種子がひとふくろぬれた大きな靴が片つ方それと赤鼻紳士の金鎖どうでもいゝ 実にいゝ空気だほんたうに液体のやうな空気だ (ウーイ 神はほめられよ みちからのたたふべきかな ウーイ いゝ空気だ)そらの澄(ちやう)明 すべてのごみはみな洗はれてひかりはすこしもとまらないだからあんなにまつくらだ太陽がくらくらまはつてゐるにもかゝはらずおれは数しれぬほしのまたたきを見ることにもしろいマヂエラン星雲草はみな葉緑素を恢復し葡萄糖を含む月光液(げつくわうえき)はもうよろこびの脈さへうつ泥炭がなにかぶつぶつ言つてゐる (もしもし 牧師さん あの馳せ出した雲をごらんなさい まるで天の競馬のサラアブレツドです) (うん きれいだな 雲だ 競馬だ 天のサラアブレツドだ 雲だ)
2024.06.13
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#宮沢賢治 #AIイラスト「真空溶媒(Eine Phantasie im Morgen)」その7水が落ちてゐるありがたい有難い神はほめられよ 雨だ悪い瓦斯はみんな溶けろ (しつかりなさい しつかり もう大丈夫です)何が大丈夫だ おれははね起きる (だまれ きさま 黄いろな時間の追剥め 飄然たるテナルデイ軍曹だ きさま あんまりひとをばかにするな 保安掛りとはなんだ きさま)いゝ気味だ ひどくしよげてしまつたちゞまつてしまつたちいさくなつてしまつたひからびてしまつた四角な背嚢ばかりのこりたゞ一かけの泥炭(でいたん)になつたざまを見ろじつに醜(みにく)い泥炭なのだぞ
2024.06.12
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#宮沢賢治 #AIイラスト「真空溶媒(Eine Phantasie im Morgen)」その6まつたくひどいかぜだたほれてしまひさうだ沙漠でくされた駝鳥(だてう)の卵たしかに硫化水素ははいつてゐるしほかに無水亜硫酸つまりこれはそらからの瓦斯の気流に二つあるしやうとつして渦になつて硫黄華(くわ)ができる 気流に二つあつて硫黄華ができる 気流に二つあつて硫黄華ができる (しつかりなさい しつかり もしもし しつかりなさい たうたう参つてしまつたな たしかにまゐつた そんならひとつお時計をちやうだいしますかな)おれのかくしに手を入れるのはなにがいつたい保安掛りだ必要がない どなつてやらうか どなつてやらうか どなつてやらうか どなつ……
2024.06.11
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#宮沢賢治 #AIイラスト「真空溶媒(Eine Phantasie im Morgen)」その5いやに四かくな背(はい)嚢だそのなかに苦味丁幾(くみちんき)や硼酸(ほうさん)やいろいろはいつてゐるんだな (さうですか 今日なんかおつとめも大へんでせう) (ありがたう いま途中で行き倒(だほ)れがありましてな) (どんなひとですか) (りつぱな紳士です) (はなのあかいひとでせう) (さうです) (犬はつかまつてゐましたか) (臨終(りんじふ)にさういつてゐましたがね 犬はもう十五哩もむかふでせう じつにいゝ犬でした) (ではあのひとはもう死にましたか) (いゝえ露がおりればなほります まあちよつと黄いろな時間だけの仮死(かし)ですな ううひどい風だ まゐつちまふ)
2024.06.10
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#宮沢賢治 #AIイラスト「真空溶媒(Eine Phantasie im Morgen)」 その4苹果(りんご)の樹がむやみにふえたおまけにのびたおれなどは石炭紀の鱗木(りんぼく)のしたのただいつぴきの蟻でしかない犬も紳士もよくはしつたもんだ東のそらが苹果林(りんごばやし)のあしなみにいつぱい琥珀をはつてゐるそこからかすかな苦扁桃(くへんたう)の匂がくるすつかり荒(す)さんだひるまになつたどうだこの天頂(ちやう)の遠いことこのものすごいそらのふち愉快な雲雀(ひばり)もたうに吸ひこまれてしまつたかあいさうにその無窮遠(むきうゑん)のつめたい板の間(ま)にへたばつて瘠せた肩をぷるぷるしてるにちがひないもう冗談ではなくなつた画かきどものすさまじい幽霊がすばやくそこらをはせぬけるし雲はみんなリチウムの紅い焔をあげるそれからけわしいひかりのゆききくさはみな褐藻類にかはられたこここそわびしい雲の焼け野原風のヂグザグや黄いろの渦そらがせわしくひるがへるなんといふとげとげしたさびしさだ (どうなさいました 牧師さん)あんまりせいが高すぎるよ (ご病気ですか たいへんお顔いろがわるいやうです) (いやありがたう べつだんどうもありません あなたはどなたですか) (わたくしは保安掛りです)
2024.06.09
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#宮沢賢治 #AIイラスト「真空溶媒(Eine Phantasie im Morgen)」その3はるかに湛(たた)える花紺青の地面からその金いろの苹果(りんご)の樹がもくりもくりと延びだしてゐる (金皮のまゝたべたのです) (そいつはおきのどくでした はやく王水をのませたらよかつたでせう) (王水、口をわつてですか ふんふん、なるほど) (いや王水はいけません やつぱりいけません 死ぬよりしかたなかつたでせう うんめいですな せつりですな あなたとはご親類ででもいらつしやいますか) (えゝえゝ もうごくごく遠いしんるいで)いつたいなにをふざけてゐるのだみろ、その馬ぐらゐあつた白犬がはるかのはるかのむかふへ遁げてしまつていまではやつと南京鼠(なんきんねずみ)のくらゐにしか見えない (あ、わたくしの犬がにげました) (追ひかけてもだめでせう) (いや、あれは高価(たか)いのです おさへなくてはなりません さよなら)
2024.06.08
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#宮沢賢治 #AIイラスト「真空溶媒(Eine Phantasie im Morgen) 」より その2ところがおれはあんまりステツキをふりすぎたこんなににはかに木がなくなつて眩ゆい芝生(しばふ)がいつぱいいつぱいにひらけるのはさうとも 銀杏並樹(いてふなみき)ならもう二哩もうしろになり野の緑青(ろくせう)の縞のなかであさの練兵をやつてゐるうらうら湧きあがる昧爽(まいさう)のよろこび氷ひばりも啼いてゐるそのすきとほつたきれいななみはそらのぜんたいにさへかなりの影(えい)きやうをあたへるのだすなはち雲がだんだんあをい虚空に融けてたうたういまはころころまるめられたパラフヰンの団子(だんご)になつてぽつかりぽつかりしづかにうかぶ地平線はしきりにゆすれむかふを鼻のあかい灰いろの紳士がうまぐらゐあるまつ白な犬をつれてあるいてゐることはじつに明らかだ(やあ こんにちは)(いや いゝおてんきですな)(どちらへ ごさんぽですか なるほど ふんふん ときにさくじつ ゾンネンタールが没(な)くなつたさうですが おききでしたか) (いゝえ ちつとも ゾンネンタールと はてな) (りんごが中(あた)つたのださうです) (りんご、ああ、なるほど それはあすこにみえるりんごでせう)
2024.06.07
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#宮沢賢治 #AIイラスト真空溶媒(Eine Phantasie im Morgen) より その1融銅はまだ眩(くら)めかず白いハロウも燃えたたず地平線ばかり明るくなつたり陰(かげ)つたりはんぶん溶けたり澱んだりしきりにさつきからゆれてゐるおれは新らしくてパリパリの銀杏(いてう)なみきをくぐつてゆくその一本の水平なえだにりつぱな硝子のわかものがもうたいてい三角にかはつてそらをすきとほしてぶらさがつてゐるけれどもこれはもちろんそんなにふしぎなことでもないおれはやつぱり口笛をふいて大またにあるいてゆくだけだいてふの葉ならみんな青い冴えかへつてふるえてゐるいまやそこらは alcohol 瓶のなかのけしき白い輝雲(きうん)のあちこちが切れてあの永久の海蒼(かいさう)がのぞきでてゐるそれから新鮮なそらの海鼠(なまこ)の匂(次回へ続く)bingにて プロンプトは日本語まだ青く暗い早朝 緑色の葉のイチョウの木の並木道 イチョウの木から三角形のつららが下がっている 黒い帽子黒いコート坊主頭の痩せた日本人青年男性が勢いよく大股で歩く後ろ姿 1930年の日本のパステル画風に
2024.06.06
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#宮沢賢治 #AIイラストかはばたかはばたで鳥もゐないし(われわれのしよふ燕麦(オート)の種子(たね)は)風の中からせきばらひおきなぐさは伴奏をつゞけ光のなかの二人の子
2024.06.05
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#宮沢賢治 #AIイラストおきなぐさ風はそらを吹きそのなごりは草をふくおきなぐさ冠毛(くわんもう)の質直(しつぢき)松とくるみは宙に立ち (どこのくるみの木にも いまみな金(きん)のあかごがぶらさがる)ああ黒のしやつぽのかなしさおきなぐさのはなをのせれば幾きれうかぶ光酸(くわうさん)の雲(解説)AIはキキョウのような花を描いてしまいましたが、本当のオキナグサはこちらでご覧ください。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%82%B0%E3%82%B5
2024.06.04
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#宮沢賢治 #AIイラスト九九鉄道線路と国道が一九二四、五、一六、鉄道線路と国道が、こゝらあたりは並行で、並木の松は、そろってみちに影を置き電信ばしらはもう堀りおこした田のなかにでこぼこ影をなげますといたゞきに花をならべて植えつけたちいさな萓ぶきのうまやでは馬がもりもりかいばを噛み頬の赤いはだしの子どもはその入口に稲草の縄を三本つけて引っぱったりうたったりして遊んでゐます柳は萌えて青ぞらに立ち田を犁く馬はあちこちせわしく行きかへり山は草火のけむりといっしょに青く南へながれるやう雲はしづかにひかって砕け水はころころ鳴ってゐますさっきのかゞやかな松の梢の間には一本の高い火の見はしごがあってその片っ方の端が折れたので赭髪の小さな gobblin がそこに座ってやすんでゐますやすんでこゝらをながめてゐますずうっと遠くの崩れる風のあたりでは草の実を啄むやさしい鳥がかすかにごろごろ鳴いてゐますこのとき銀いろのけむりを吐きこゝらの空気を楔のやうに割きながら急行列車が出て来ますずゐぶん早く走るのですが車がみんなまはってゐるのは見えますのでさっきの頬の赤いはだしの子どもは稲草の縄をうしろでにもって汽車の足だけ見て居ますその行きすぎた黒い汽車をこの国にむかしから棲んでゐる三本鍬をかついだ巨きな人がにがにが笑ってじっとながめそれからびっこをひきながら線路をこっちへよこぎっていきなりぽっかりなくなりますとあとはまた水がころころ鳴って馬がもりもり噛むのです
2024.06.03
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六九すがれのち萓を五、一五、すがれのち萓をぎらぎらに青ぞらに射る日 川は銀の 川は銀の 恋人のところからひとりつゝましく村の学校に帰って 彼女は食品化学を勉強してゐるのである一点つめたくわたくしの額をうつものは青ぞらから来たアルコール製の雨であるか竜が持ってきた薄荷油の滴であるか青い蠅が一疋思想の隅角部を過ぎる(解説)1927年5月15日に書かれた詩です。食品化学を勉強し「恋人のところ」から村の学校に帰る「彼女」は誰でしょう?「恋人」は宮沢賢治でしょうか?それとも別の男性でしょうか?1927年ごろは宮沢賢治と花巻の女性小学校教師高瀬露(たかせ・つゆ)氏が良い関係にあったころですので「彼女」が高瀬露氏である可能性があります。
2024.06.02
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#宮沢賢治 #AIイラスト七一一水汲み一九二六、五、一五、ぎっしり生えたち萓の芽だ紅くひかって仲間同志に影をおとし上をあるけば距離のしれない敷物のやうにうるうるひろがるち萓の芽だ……水を汲んで砂へかけて……つめたい風の海蛇がもう幾脈も幾脈も野ばらの藪をすり抜けて川をななめに溯って行く……水を汲んで砂へかけて……向ふ岸には蒼い衣のヨハネが下りてすぎなの胞子(たね)をあつめてゐる……水を汲んで砂へかけて……岸までくればまたあたらしいサーペント……水を汲んで水を汲んで……遠くの雲が幾ローフかの麺麭にかはって売られるころだ
2024.06.01
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#宮沢賢治 #AIイラスト東北砕石工場長鈴木東蔵あて「炭酸石灰広告文案」1930年5月17日農業合理化の尖端に!!稲作麦作養蚕いづれにもいかにも適順な気候で同慶の至りであります。かくこうも啼いて大豆を播くころになりましたが石灰はご用意でありませうか。私ども製作の炭酸石灰は木灰或は燐酸と混じ乃至直接に種子に接触せしめて何等の害なく効果は全育成期に通じます。大豆をよく作ることは単に収量を増すばかりでなく又地味を肥す結果ともなりますのでぜひご使用をねがひます。直接の石灰肥料間接の燐酸及加里肥料たる炭酸石灰を!
2024.05.31
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六八エレキや鳥がばしゃばしゃ翔べば一九二七、五、一四、エレキや鳥がばしゃばしゃ翔べば九基に亘る林のなかで枯れた巨きな一本杉がもう専門の避雷針とも見られるかたち……けふもまだ熱はさがらず Nymph, Nymbus, Nymphaea,……杉をめぐって水いろなのは羊歯から花を借りて来て梢いっぱい飾りをつけたやくざな檞の樹ででもあらう……最后に 火山屑地帯の 小麦に就て調査せよ……雲は淫らな尾を曳いてしづかに森をかけちがふ
2024.05.31
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#宮沢賢治 #AIイラスト休息そのきらびやかな空間の上部にはきんぽうげが咲き (上等の butter-cup(バツタカツプ)ですが 牛酪(バター)よりは硫黄と蜜とです)下にはつめくさや芹があるぶりき細工のとんぼが飛び雨はぱちぱち鳴つてゐる (よしきりはなく なく それにぐみの木だつてあるのだ)からだを草に投げだせば雲には白いとこも黒いとこもあつてみんなぎらぎら湧いてゐる帽子をとつて投げつければ黒いきのこしやつぽふんぞりかへればあたまはどての向ふに行くあくびをすればそらにも悪魔がでて来てひかる このかれくさはやはらかだ もう極上のクツシヨンだ雲はみんなむしられて青ぞらは巨きな網の目になつたそれが底びかりする鉱物板だ よしきりはひつきりなしにやり ひでりはパチパチ降つてくる
2024.05.30
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六七鬼語四五、十三、そんなに無事が苦しいならあの死刑の残りの一族をおまへのうちへ乗り込ませやう(感想)宮沢賢治には珍しいホラー系の詩です。日常が平和すぎて刺激が足りない、とかぜいたくなことをいっている人への警告かもしれません。「死刑の残りの一族」とは何者かわかりませんが、そんな連中が家に来たら怖いですねえ。今回のイラストのプロンプトでは「1930年の少女雑誌のカラー挿絵風に」と指定しました。なかなか怖い感じにできました。
2024.05.29
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六六今日こそわたくしは一九二七、五、一二、今日こそわたくしはどんなにしてあの光る青い虻どもが風のなかから迷って来て縄やガラスのしきりのなかで留守中飛んだりはねたりするかすっかり見届けたつもりである(解説)AIイラストはbingで作成しました。プロンプトは、黒い帽子黒いコートの坊主頭の痩せた日本人青年男性が虫眼鏡で虻を観察している 虻が風の中でガラスや縄の間を飛んでいる 1930年の日本の高級住宅の室内 1930年の日本の少女雑誌のカラー挿絵風に
2024.05.28
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六五さっきは陽が五、十二、さっきは陽が草地から来たのにこんどはひかる雲の裂け目から来やうとする今年もすっかり手がひゞ入ってしまった みだれた雲と たくさんの羽虫風は吹くけれども山鳩はなくのである
2024.05.27
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六四失せたと思ったアンテリナムが五、十二、 失せたと思ったアンテリナムが みんな立派に育ってゐたキンキン光る青朱子のそら あすこの花壇を それでぎらぎらさせられるのだ風の向ふの崖の方でわづかな蝉の声がするいったいわたくしはいつ蜂雀に夏を約束したのか(解説)アンテリナムとはキンギョソウのことです。草丈0.5~1mで金魚のヒレに似たひらひらした美しい花を咲かせます。花色は赤ピンク白黄色などたくさんあります。
2024.05.26
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#宮沢賢治 #AIイラスト手簡雨がぽしゃぽしゃ降ってゐます。心象の明滅をきれぎれに降る透明な雨です。ぬれるのはすぎなやすいば、ひのきの髪は延び過ぎました。私の胸腔は暗くて熱くもう醗酵をはじめたんぢゃないかと思ひます。雨にぬれた緑のどてのこっちをゴム引きの青泥いろのマントがゆっくりゆっくり行くといふのは実にこれはつらいことなのです。あなたは今どこに居られますか。早くも私の右のこの黄ばんだ陰の空間にまっすぐに立ってゐられますか。雨も一層すきとほって強くなりましたし。誰か子供が噛んでゐるのではありませんか。向ふではあの男が咽喉をぶつぶつ鳴らします。いま私は廊下へ出やうと思ひます。どうか十ぺんだけ一諸に往来して下さい。その白びかりの巨きなすあしであすこのつめたい板を私と一諸にふんで下さい。(一九二二、五、一二、)
2024.05.25
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#宮沢賢治 #AIイラスト風景雲はたよりないカルボン酸さくらは咲いて日にひかりまた風が来てくさを吹けば截られたたらの木もふるふ さつきはすなつちに廐肥(きうひ)をまぶし (いま青ガラスの模型の底になつてゐる)ひばりのダムダム弾がいきなりそらに飛びだせば 風は青い喪神をふき 黄金の草 ゆするゆする 雲はたよりないカルボン酸 さくらが日に光るのはゐなか風だ
2024.05.24
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#宮沢賢治 #AIイラスト三三七国立公園候補地に関する意見一九二五、五、一一、どうですか この鎔岩流は殺風景なもんですなあ噴き出してから何年たつかは知りませんがかう日が照ると空気の渦がぐらぐらたってまるで大きな鍋ですないたゞきの雪もあをあを煮えさうですまあパンをおあがりなさいいったいこゝをどういふわけで、国立公園候補地にみんなが運動せんですかいや可能性それは充分ありますよもちろん山をぜんたいですうしろの方の火口湖 温泉 もちろんですな鞍掛山もむろんですぜんたい鞍掛山はですUr-Iwate とも申すべく大地獄よりまだ前の大きな火口のヘりですからなさうしてこゝは特に地獄にこしらえる愛嬌たっぷり東洋風にやるですな鎗のかたちの赤い柵枯木を凄くあしらひましてあちこち花を植えますな花といってもなんですなきちがひなすびまむしさうそれから黒いとりかぶとなど、とにかく悪くやることですなさうして置いて、世界中から集った猾るいやつらや悪どいやつの頭をみんな剃ってやりあちこち石で門を組む死出の山路のほととぎす三途の川のかちわたし六道の辻えんまの庁から胎内くぐりはだしでぐるぐるひっぱりまはしそれで罪障消滅として天国行きのにせ免状を売りつけるしまひはそこの三つ森山で交響楽をやりますな第一楽章 アレグロブリオははねるがごとく第二楽章 アンダンテ やゝうなるがごとく第三楽章 なげくがごとく第四楽章 死の気持ちよくあるとほりはじめは大へんかなしくてそれからだんだん歓喜になって最后は山のこっちの方へ野砲を二門かくして置いて電気でずどんと実弾をやるAワンだなと思ったときはもうほんものの三途の川へ行ってるですなところがこゝで予習をつんでゐますから誰もすこしもまごつかない またわたくしもまごつかないさあパンをおあがりなさい向ふの山は七時雨陶器に描いた藍の絵であいつがつまり背景ですな
2024.05.23
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#宮沢賢治 #AIイラスト三三六春谷暁臥一九二五、五、一一、酪塩のにほひが帽子いっぱいで温く小さな暗室をつくり谷のかしらの雪をかぶった円錐のなごり水のやうに枯草(くさ)をわたる風の流れとまっしろにゆれる朝の烈しい日光から薄い睡酸を護ってゐる……その雪山の裾かけて 播き散らされた銅粉と あかるく亘る禁慾の天……佐一が向ふに中学生の制服でたぶんはしゃっぽも顔へかぶせ灌木藪をすかして射すキネオラマ的ひかりのなかに夜通しあるいたつかれのため情操青く透明らしい……コバルトガラスのかけらやこな! あちこちどしゃどしゃ抛げ散らされた 安山岩の塊と あをあを燃える山の岩塩(しほ)……ゆふべ凍った斜子(なゝこ)の月を茄子焼山からこゝらへかけて夜通しぶうぶう鳴らした鳥がいま一ぴきも翔けてゐずしづまりかへってゐるところはやっぱり餌をとるのでなくて石竹いろの動因だった……佐一もおほかたそれらしかった 育牛部から山(やま)地へ抜けて 放牧柵を越えたとき 水銀いろのひかりのなかで 杖や窪地や水晶や いろいろ春の象徴を ぼつりぼつりと拾ってゐた…… (蕩児高橋亨一が しばし無雲の天に往き 数の綵女とうち笑みて ふたたび地上にかへりしに この世のをみなみな怪(け)しく そのかみ帯びしプラチナと ひるの夢とを組みなせし 鎖もわれにはなにかせんとぞ嘆きける) 羯阿迦(ぎやあ ぎあ) 居る居る鳥が立派に居るぞ 羯阿迦 まさにゆふべとちがった鳥だ 羯阿迦 鳥とは青い紐である 羯阿迦 二十八ポイント五! 羯阿迦 二十七! 羯阿迦 二十七!はじめの方が声もたしかにみじかいのに二十八ポイント五とはどういふわけだ帽子をなげて眼をひらけもう二里半だつめたい風がながれる(解説)岩手山を夜間登山し岩手山神社で野宿した宮沢賢治と中学5年生の友人森佐一は朝を迎えました。「あかるく亘る禁慾の天」とあり宮沢賢治の禁欲主義を思わせます。「石竹いろ」はピンクに近い薄い赤色です。「餌をとるのでなくて/石竹いろの動因」は食欲でない行動原理ですから鳥の繁殖欲すなわち性欲のことだと思われます。「佐一もおほかたそれらしかった(略)いろいろ春の象徴を/ぼつりぼつりと拾ってゐた」ということは中学5年生(現在の高校2年生)の旺盛な性欲が芸術に昇華して美しい鉱石などを拾う行動になった様子を宮沢賢治は観察していたものと思われます。
2024.05.22
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#宮沢賢治 #AIイラスト三三五つめたい風はそらで吹き一九二五、五、一〇、つめたい風はそらで吹き黒黒そよぐ松の針ここはくらかけ山の凄まじい谷の下で雪ものぞけば銀斜子の月も凍ってさはしぎどもがつめたい風を怒ってぶうぶう飛んでゐる しかもこの風の底の しづかな月夜のかれくさは みなニッケルのあまるがむで あちこち風致よくならぶものは ごくうつくしいりんごの木だ そんな木立のはるかなはてでは ガラスの鳥も軋ってゐるさはしぎは北のでこぼこの地平線でもなきわたくしは寒さにがたがたふるえる 氷雨が降ってゐるのではない かしはがかれはを鳴らすのだ(解説)1928年5月10日28歳の宮沢賢治は友人の盛岡中学校5年森佐一と岩手山夜間登山にでかけました。松林で野宿しましたが寒くて眠れず岩手山神社の倉庫のソバガラに潜って寝ました。
2024.05.21
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#宮沢賢治 #AIイラスト雲の信号あゝいゝな、せいせいするな風が吹くし農具はぴかぴか光つてゐるし山はぼんやり岩頸(がんけい)だつて岩鐘(がんしやう)だつてみんな時間のないころのゆめをみてゐるのだ そのとき雲の信号は もう青白い春の 禁慾のそら高く掲(かゝ)げられてゐた山はぼんやりきつと四本杉には今夜は雁もおりてくる
2024.05.20
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六三五、九、これらは素樸なアイヌ風の木柵でありますえゝ家の前の桑の木をYの字に仕立てて見たのでありますがそれでも家計は立たなかったのです四月は苗代の水が黒くてくらい空気の小さな渦が毎日つぶつぶそらから降ってそこを烏ががあがあ啼いて通ったのでありますどういふものでございませうか斯ういふ角だった石ころだらけのいっぱいにすぎなやよもぎの生えてしまった畑を子供を生みながらまた前の子供のぼろ着物を綴り合せながらまた炊爨と村の義理首尾とをしながら一家のあらゆる不満や慾望を負ひながらわづかに粗渋な食と年中六時間の睡りをとりながらこれらの黒いかつぎした女の人たちが耕すのでありますこの人たちはまたちゃうど二円代の肥料のかはりにあんな笹山を一反歩ほど切りひらくのでありますそしてここでは蕎麦が二斗まいて四斗とれますこの人たちはいったい牢獄につながれたたくさんの革命家や不遇に了へた多くの芸術家これら近代的な英雄たちに果して比肩し得ぬものでございませうか
2024.05.19
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六二墓地をすっかり square にして五、九、墓地をすっかり square にして古くからの馬頭観音はとりのけたし枝垂れの巨きな桜はきれいに伐ってしまったその崖下を昔からのけはしい山川が春は春らしくながれてゐる小林区が行ってしまってから苗圃は荒れた粟畑になり腐植も減ってあちこち茶いろにぶちてしまった針金製のインクラインが鼠いろの凝灰岩を吊してつぎつぎ川からのぼってくる 日あたりの荒い岩かどを 巡礼のこゝろもちで つゝましく 西の温泉から帰ってくる 百姓の家族たち
2024.05.18
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六一五、九、ひわいろの笹で埋めた嶺線にぼしゃぼしゃならんだ青ぞらの小松であるその谷がみな蔭になりその六方石谷みな蔭になりお辰のうちのすももの花がいっぱいにそこにうかんでゐる一尺角の木の格子で組みあげた実に頑丈な木小屋である 下の温泉宿の看板娘は嫁に行き おとなもこどももあかんぼも みんないっぱい灼いたりんごを食ったのであるそのときお辰は黒い絹に赤い縞のはいったエヂプト風の雪ばかまをはいてお嫁さんに随いて行ったのである
2024.05.17
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六〇五、九、苹果のえだを兎に食はれました桜んぼの方は食ひませんで桃もやっぱり食はれました そらそら その食はれた苹果の樹の幽霊が その谷にたっていっぱい花をつけてゐるでないか
2024.05.16
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五九開墾地検察一九二七、五、九、……墓地がすっかり変ったなあ…………なあにそれすっかり整理したもんでがす…………ここに巨きなしだれ桜があったがねえ…………なあにそれ 青年団総出でやったもんでがす 観音さんも潰されあした…………としよりたちが負けたんだねえ…………なあに総一ぁたった一人できかなぐなって それで誰(だ)っても負げるんでがんす…………苗圃のあともずゐぶんひどく荒れたねえ…………なあにそれ お上でうんと肥料したづんで これで六年無肥料でがす…………あちこち茶いろにぶちだしてゐる…………はあ、 苹果の枝 兎に食はれあした 桜んぼの方は食ひあせんで 桃もやっぱり食はれあした…………兎はとらなけあいけないよ それでも兎の食はない種類といふんなら 花には薔薇につつじかな 果樹ではやっぱり梅だらう…………桜んぼの方は食ひませんで 苹果と桃をたべたので…………そらそら その苹果の樹の幽霊だらう その谷そこに突ったって いっぱい花をつけてるやつは…………はあ…………針金製の鉄索か この崖下で切り出すんだな…………はあ 鉛の丸五の仕事でがあす…………そんなにこれが売れるかねえ…………はあ 耐火性だって云って売ってます…………耐火性さなこの石は あれだな開墾地は…………はあ 上流の橋渡って参りあす……
2024.05.15
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五九一九二七、五、九、芽をだしたために大へん白っぽく甘酸っぱくなった山である このわづかな休息の時間に 上層の風と交通するための第一の条件は そんな肥った空気のふぐや あはれなレデーを 煙幕でもって退却させることである ……川なめらかにくすんでながれ…… 実に見給へ 傾斜地にできた すばらしい杉の方陣である 諸君よ五月になると 林のなかのあらゆる木 あらゆるその藪のなかのいちいちの枝 みなことごとくやはらかな芽をひろげるのである 川にぶくひかってながれ退職の警察署長のむすめが水いろの上着を着て電車にのって小学校に出勤しながらまちの古いブルジョア出身の技術者を少しの厭悪で見てゐたのである こゝはひどい日蔭だ ぎざぎざの松倉山の下のその日蔭である あんまり永くとまってゐたくない けれどもいったい これを岩頸だなんて誰が云ふのか
2024.05.14
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五八電車一九二七、五、九、銀のモナドのちらばるそらと逞ましい村長の肩……べルを鳴らしてカーヴを切る べルといふより小さな銅鑼だ……はんの木立は東邦風に水路のヘりにならんで立つはんの木立の向ふの方で黒衣のこども燐酸を播く……ガンガン鳴らして飛ばして行く……田を鋤く馬と白いシャツ胆礬いろの山の尾根町へ出て行く小さくやさしい貴女たちの群 (今日はどこらへおいでです) (はあ組合へ金策に)さあっと曇る村長の顔……うしろを過ぎるひばの木二本……風が行ってしまった池のやうにいま晴れわたる村長の顔……ベルを鳴らして一さん奔る…… 栗の林の向ふの方で ざぶざぶ水をわたる音 それから何か光など 崩れるやうなわらひ声(解説)鉄道の開通は農村生活を向上させる一方、消費文化を流入させ農家女性が電車に乗って借金に行く事態もうみだしました。宮沢賢治の父や祖父は私鉄を経営していました。財閥の家に生まれた宮沢賢治の複雑な感情が表現されています。当時の花巻の実際の電車はAIイラストより横幅が狭く、馬面電車と呼ばれました。
2024.05.13
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#宮沢賢治 #AIイラスト #ウクライナ九三曠原淑女一九二四、五、八、日ざしがほのかに降ってくればまたうらぶれの風も吹くにはとこやぶのうしろから二人のおんながのぼって来るけらを着 粗い縄をまとひ萱草の花のやうにわらひながらゆっくりふたりがすすんでくるその蓋のついた小さな手桶は今日ははたけへのみ水を入れて来たのだ今日でない日は青いつるつるの蓴菜を入れ欠けた朱塗の椀をうかべて朝の爽やかなうちに町へ売りにも来たりする鍬を二梃たゞしくけらにしばりつけてゐるので曠原の淑女たちよあなたがたはウクライナの舞手のやうに見える……風よたのしいおまへのことばを もっとはっきり このひとたちにきこえるやうに云ってくれ……
2024.05.12
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五七五、七、古びた水いろの薄明穹のなかに巨きな鼠いろの葉牡丹ののびたつころにパラスもきらきらひかり町は二層の水のなか そこに二つのナスタンシヤ焔 またアークライトの下を行く犬 さうでございます このお児さんは 植物界に於る魔術師になられるでありませう月が出ればたちまち木の枝の影と網 そこに白い建物のゴシック風の幽霊 肥料を商ふさびしい部落を通るとき その片屋根がみな貝殻に変装されて 海りんごのにほひがいっぱいであったむかしわたくしはこの学校のなかったときその森の下の神主の子で大学を終へたばかりの友だちと春のいまごろこゝをあるいて居りましたそのとき青い燐光の菓子でこしらえた雁は西にかかって居りましたしみちはくさぼといっしょにけむり友だちのたばこのけむりもながれましたわたくしは遠い停車場の一れつのあかりをのぞみそれが一つの巨きな建物のやうに見えますことからその建物の舎監にならうと云ひましたそしてまもなくこの学校がたちわたくしはそのがらんとした巨きな寄宿舎の舎監に任命されました恋人が雪の夜何べんも黒いマントをかついで男のふうをしてわたくしをたづねてまゐりましたそしてもう何もかもすぎてしまったのです ごらんなさい 遊園地の電燈が 天にのぼって行くのです のぼれない灯が あすこでかなしく漂ふのです
2024.05.11
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五六一九二七、五、七、秘事念仏の大元締が今日は息子と妻を使って、北上ぎしへ陸稲(おかぼ)播き、 なまぬるい南の風は 川を溯ってやってくる秘事念仏のかみさんは乾いた牛の糞(コヤシ)を捧げもう導師とも恩人ともじぶんの夫をおがむばかり 緑青いろの巨きな蠅が 牛の糞をとびめぐる秘事念仏の大元締は麦稈帽子をあみだにかぶり黒いずぼんにわらじをはいてよちよちあるく烏を追ふ 紺紙の雲には日が熟し 川は鉛と銀とをながす秘事念仏の大元締はむすこがぼんやり楊をながめ口をあくのを情けながってどなって石をなげつける 楊の花は黄いろに崩れ 川ははげしい針になる下流のやぶからぽろっと出る紅毛まがひの郵便屋
2024.05.10
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#宮沢賢治 #AIイラスト三三三(無題 「遠足統率」草稿)一九二五、五、七、風はやはらかなチモシイを吹くしあんまりいゝとこへ来たもんだし約十五分間分れとかなんとか中尉どのがやってしまったもんだからもう生徒らは手に負へない蜜蜂といったいどっちだそこに一本古ぼけたレントゲンの木が枝にぶつぶつ硫黄の粉を噴いてゐる幾層暗むその梢で日はかゞやかに分劃する向ふはリチウムの焔をあげる花樹の群また青々と風に消えるから松の列それから例の大斧劈皺を示してかすむ死火山の雪だ羊舎を出て来た生徒らが羊の眼(まなこ)が蛍のやうに光ってゐたとおどろいてゐる遠くに行ってた生徒らは緑青いろに光ってゐる七つ森ではつゝどりどもがいまごろ寝ぼけた機関銃などうってゐるこんどは鶯がセセッション式に啼いたので歩兵少尉がしかつめらしく手をかざすそら大へんだ誰か電線に石を投げた羊舎からは顔に沢山針をさしたやうな犬が出て来るし井戸では紺の滑車も軋り蜜蜂ばかり歓語の網を織りつゞける
2024.05.09
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#宮沢賢治 #AIイラスト九〇一九二四、五、六、祠の前のちしゃのいろした草はらに木影がまだらに降ってゐる……鳥はコバルト山に翔け……ちしゃのいろした草地のはてに杉がもくもくならんでゐる……鳥はコバルト山に翔け……那智先生の筆塚が青ぐもやまた氷雲の底で錏(びた)のかたちの粉苔をつける……鳥はコバルト山に翔け……二本の巨きなとゞまつが荒さんで青く塚のうしろに立ってゐる……鳥はコバルト山に翔け……樹はこの夏の計画を蒼々として雲に描く……鳥はあっちでもこっちでも 朝のピッコロを吹いてゐる……
2024.05.08
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五五五、三、こぶしの咲ききれぎれに雲のとぶこの巨きななまこ山のはてに紅い一つの擦り傷があるそれがわたくしも花壇をつくってゐる花巻温泉の遊園地なのだ
2024.05.07
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五四五、三、何と云はれてもわたくしはひかる水玉つめたい雫すきとほった雨つぶを枝いっぱいにみてた若い山ぐみの木なのである
2024.05.06
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五三測量一九二七、五、三、早いはなしが巨きな赤い毒蕈(ぶすきのこ)だなところがおよそきのこならどんな大きなきのこでもひとりで崩れてひとりで雨にとかされるおい!りんとひっぱれ!りんとひっぱれったら!山の上は雲のラムネどうだ親方一ぱいやるかあすこのとこのラムネをさ
2024.05.05
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#宮沢賢治 #AIイラスト七〇九春一九二六、五、二、陽が照って鳥が啼きあちこちの楢の林も、けむるときぎちぎちと鳴る 汚ない掌を、おれはこれからもつことになる
2024.05.04
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#宮沢賢治 #AIイラスト七〇六村娘一九二六、五、二、畑を過ぎる鳥の影青々ひかる山の稜雪菜の薹を手にくだきひばりと川を聴きながらうつつにひととものがたる
2024.05.03
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