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2021.05.08
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カテゴリ: 羅須地人協会時代
前回は、日清戦争後の台湾征討(乙未戦争、日台戦争)経験者の農家との対話の詩をご紹介しました。
https://plaza.rakuten.co.jp/kenjitonou/diary/202105070000/

今回は日露戦争の戦死者を想う詩をご紹介します。
1927年か1928年ごろの初夏に書かれた詩と思われます。
あられを避けてにげこんだ先が、日露戦争の戦死者の慰霊碑でした。黒溝台会戦では、1905(明治38)年1月に満州の広野で、日露あわせて約15万人の将兵が戦い、あわせて約2万人が死傷し、日本軍が勝利しました。

「東京も見たことがないのに/いきなり満州へ連れて行かれて」「ぼろぼろの着換えや袋をしょって/どんな気持ちで死んだらう」は実に素直な感想です。戦死者に寄り添い共感した感想です。しかし、軍国主義に向かうこの時代には、たいへん危険な感想でもあります。
もちろん、この詩は、戦前には公開されていません。

「学校」、とあるので農学校教師時代かとも思いがちです。しかし、集まるのが成人の農民のようなので、学校を会場とした農事講演会か、肥料相談会で、主人公が講師として呼ばれているのでしょう。

公事(くじ)とは、村役場などが村民に命じる公共工事などの義務労働です。貧しくなった村が公共事業を増やすのはおかしいことのように思えます。公共事業を名目に村民から負担金を徴収するのが狙いなのでしょう。




(本文開始)

     霰
霰を避けて
葉桜の下
暗い石碑の前に遁げこむ
黒溝台の戦死者を
三人祀った石碑である
東京も見たことがないのに
いきなり満州へ連れて行かれて
荒漠とした雪なか
黄いろな土塀のある村で

ぼろぼろの着換えや袋をしょって
どんな気持ちで死んだらう
雀がくれの苗代に
霰は白く降り込んでゐる
さっき峠の上あたりでは

ほたるかづらの花も咲き
野馬も光って遊んでゐたが
いまはすっかり曇ってしまひ
あたりの山もおぼろで見えず
みんなも鍬をかついだり
のみ水の桶をもったりして
はだしで家にかけこむとこは
やまと絵巻の手法である
現にいまこの消防小屋の横からあらはれて
ちらっと横目でこっちを見
きものの袖で頭をかくし
橋へかゝってゐる人などは
立派にその派の標本である
何分ひるも近いので
みんな序でに遁げ込むわけだ
午后にはみんなこの人たちが
学校に来てわたくしを見る
なあんだこいづは
さっき黄いろなぼろ服を着て
石碑の前に居たやつだなと
この人たちがさゝやき合ふ
霰は一さうはげしくなって
そこらの家も土蔵もかすむ
むかしは富有な村だったのに
いまはすっかりいけなくて
しじゅう公事をしたり
骨董をいぢったりするといふ
この山峡の小さな村で
犬がはげしく吠えてゐる

(本文終了)

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#宮沢賢治 #日露戦争 #霰





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最終更新日  2021.05.08 03:56:54
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