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2021.07.10
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カテゴリ: 羅須地人協会時代
前回は初期形「あすこの田はねえ」をご紹介しました。
https://plaza.rakuten.co.jp/kenjitonou/diary/202107090000/

今回は発表形です。
1928(昭和3)年、花巻の印刷業経営者の鮎川草太郎は同人誌「聖燈」を創刊。宮沢賢治に原稿を依頼しました。そこで掲載されたのが、この発表形です。発表形なのに未定稿とあるのは、永遠の未完成これ完成である、と記した賢治らしい表現だと思います。

初期形との主な違いを挙げてみます。

タイトルがついた
2行目「あの品種」→「あの種類」
4行目「水」→「潅水」
5行目 青年が車を押していた状況の削除

19行目 日焼けの「悼ましく」の表現削除
20行目 やつれの原因を、「養蚕の夜」→「不眠」に変更
31行目 よくできた田の表現を簡略化
35行目 予想収量を二石五斗から三石二斗に変更
38行目 「あたらしい時代の百姓全体の学問」→「あたらしい学問」に変更

全体にわかりやすく整理したものと思われます。
次回は、技術と予想収量について考えます。

(本文開始)
     稲作挿話(未定稿)
            宮 澤 賢 治
あすこの田はねえ

窒素が余り多過ぎるから
もうきつぱりと灌水(みず)を切つてね
三番除草はしないんだ
   ……一しんに畔を走つて来て
     青田のなかに汗拭くその子……

みんな使つた?
それではもしもこの天候が
これから五日続いたら
あの枝垂れ葉をねえ
斯ういふ風な枝垂(しだ)れ葉(ば)をねえ
むしつて除つてしまふんだ
   ……せわしくうなづき汗拭くその子
     冬講習に来たときは
     一年はたらいたあとゝは云へ
     まだかゞやかなりんごのわらひを持つてゐた
     今日はもう日と汗にやけ
     幾夜の不眠にやつれてゐる……
それからいゝかい
今月末にあの稲が
君の胸より延びたらねえ
ちようどシヤツの上のぼたんを定規にしてねえ
葉尖(はさき)をとつてしまふんだ
     ……汗だけでない
       涙も拭いてゐるんだな……
君が自分で設計した
あの田もすつかり見て来たよ
陸羽百三十二号のはうね
あれはずゐぶん上手に行つた
肥えも少しもむらがないし
いかにも強く育つてゐる
硫安だつてきみが自分で播いたらう
みんながいろいろ云ふだらうが
あつちは少しも心配ない
 反当三石二斗なら
 もう決まつたと云つていゝ
しつかりやるんだよ
これからの本統の勉強はねえ
テニスをしながら商売の先生から
義理で教はることでないんだ
きみのやうにさ
吹雪やわづかの仕事のひまで
泣きながら
からだに刻んで行く勉強が
まもなくぐんぐん強い芽を噴いて
どこまでのびるかわからない
それがこれからのあたらしい学問のはじまりなんだ
ぢやさようなら
  ……雲からも風からも
    透明なエネルギーが
    そのこどもにそゝぎくだれ……

(本文終了)



#宮沢賢治 #あすこの田はねえ #稲作挿話






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最終更新日  2021.07.10 05:45:23
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