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2021.07.19
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カテゴリ: 羅須地人協会時代
日付不明ですが、おそらく7月の詩です。
「稲熱病」は、現代ではひらがなで、「いもち病」と書くことが多いです。今も昔も水稲の最大の病気です。伝染性が極めて強いので、発生源となった農家の翁が、近くの農家に囲まれてうろたえています。農業技師の作者は、表情の見えない月夜だったらよかったと、やや現実逃避ぎみです。

(本文開始)

     稲熱病

稲熱に赤く敗られた稲に
みんなめいめい影を落して
ならんで畔に立ってゐると
浅黄いろした野袴をはき
蕈の根付を腰にはさむ

しかも西方ほの青い夏の火山列を越えて
和風が絶えず嫋々と吹けば
シャツの袖もすゞしく
みんなの胸も閑雅であるが
恐らく半透明な黄いろの胞子は
億万無数東方かけて飛んでゐるので
風下の百姓たちは
はやくもため息をついて
恨めしさうに翁をちらちら見てゐるのだ
この田の主はふるえてゐる
胸にまっ黒く毛の生えた区長が

厚い舌を出して唇をなめて
何かどなりでもしさうなのだ
そらでは幾きれ鯖ぐもが
きらきらひかってながれるのだ
これが烈々たる太陽の下でなくて

百姓たちはお腹が空いたら召しあがれえといふ訳で
翁は空を仰いで得ならぬ香気と
天楽の影を慕ふであらうし
拙者もいかに助かることであらう

(本文終了)




#宮沢賢治 #稲熱病





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最終更新日  2021.07.19 05:02:18
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