雨の日は音楽を

雨の日は音楽を

2022年05月13日
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カテゴリ: 歌曲
 雪の積もる道を、若者は苦しく単調な徒歩の旅を続ける。先程抜けてきた町を出たときから気がついていたのだが、一羽の鴉がずっと頭上の空を飛んで、執拗につけて来る。あれ、何でだろうか?何か背負っている袋に食べ物でも入っているのかね。お腹が減っているのかも....と考えて、あることに思い至り、ゾッとする! も、もしかして、僕が死んでくれそうだって思って、跡をつけているんじゃないだろうか。僕は死ぬってことなのか?死んであの鴉に食べられてしまうのか!

 振り返ると、鴉は半分滑空するように、力を溜めているようだ。よく生き物の死骸を啄んでいる鴉を見るが、死んだ後で骨になるまで食べられてしまうのだな。

 最初の4小節の前奏からして、ふわりと風を拾って浮いている鴉を思わせる。それにやっと気づいた若者が、町から一羽の鴉が付いてくると歌いだします。ピアノの左手は歌と同調しているように同じ旋律を続けます。13小節目が終わると、左手の方も歌の旋律から外れて行き、右手と合わせて3連符のように聞こえる不思議な世界が広がります。

 第2連で若者は立ち止まり、鴉に呼びかけます。おい鴉よ、行き倒れた私の肉を食いたいんだね、と。鴉に聞こえるように声を張り上げて歌わずに、独り言のように歌うべきであろう。全体の歌詞の構成がABA形式であるので、第3連の25小節目からは、最初と同じ旋律が繰り返されて、でも死にたくはないが、度々歌曲で使われる「墓場まで忠実に付き添う」Treue bis zum Grabe と自虐的に考え、私の命が尽き墓場に入るまで一緒に来いよ、と叫んでしまう。若者の心の中に、今まで考えたくなかった「死」への恐怖が芽生えたのだ。最後の Treue bis zum Grabe は、"-be" の後の伴奏にピアノが指定されていることから、若者が、当然のごとく死ぬことへのためらいがあることを示している。


 以前からの疑問なのだが、この鴉はこのあとずっと若者に付き纏っているのだろうか?伴奏が38小節以降最後になると、おとなしくなっていって、鴉が消えてしまったかのように感じられる。はて、鴉は幻だったのかと思えるようだ。鴉は諦めてどこかに飛んで行ったのか?

 ウィーンの町を歩いていると、鳩のような大きさの鴉、のような鳥が群れていたりする。真っ黒な鴉ではなく、グレーと黒のツートンカラーの粋な鳥がいっぱい!ウィキペディアで調べると、英語版には  Corvus cornix – hooded crow とあり、日本語では "hooded" からズキンガラスという名称だそう。北・東ヨーロッパと北アフリカに広く分布するとのこと(Corvus cornix は学名)。もう一種類は  Corvus corone – carrion crow ヨーロッパから東アジアまで広く分布する鴉です。 "carrion" は死肉を意味するので、生き物の死体を漁るカラスなのでしょうね。日本語ではハシボソガラスと言うようです。都会にいるハシブトガラスとは異なり、一回り小さくて、嘴が細めなのですぐにわかりますね。

 歌曲には大鴉 Rabe と、この Krähe が出現するが、本稿では からす、カラスではなく、鴉と表記しています。文字の形からして鴉なら、ちょっぴり恐怖感が出るかなと思うのです。「冬の旅」の日本語訳をしている方の表記は、Krähe を鴉ではなく、からす、やカラスとしていて、Rabe は大鴉としているので、筆者と同じように考えているのでしょうね。








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Last updated  2022年05月13日 17時52分37秒
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