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2002年02月20日
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「今日は父の命日なので、父の好きだった『きんつば』をお持ちしました。ワインには合いませんけど・・・」とおっしゃって中年の女性がきんつばを差し出しました。

きんつばをご存じない方が多いかもしれませんね。私も作り方は分からないのですが、甘いあずきを固めて表面を軽く焼いた和菓子です。私はそのきんつばを1センチくらいの小さな角に切って、癖のないクリームチーズと一緒にかわいいピックに刺してお出ししました。

「え~っ、これなんですか?」と躊躇していらした若い方々が、あずきの食感とほのかな甘さが、塩気のきいたチーズと溶け合って、思いがけずワインによく合うと喜んでくださるのをご覧になりながら、その女性が亡くなったお父上を偲ばれるように話されたことが、こころに残りました。

「父は96歳で天に召されました。若いころは仕事一筋だった父ですが、職を退いてからは在職中の夢だった晴耕雨読を楽しんで長寿を全うしました。私は離婚をして実家に戻っていたので、晩年の父の介護をするのは私の生き甲斐でもありました。病院をきらった父を、最後の最後まで在宅でと決意をしていましたが、最後の数ヶ月はかなり大変でした。
老人の誤嚥による肺炎に加えて、体力低下で帯状疱疹がひどくなり、とうとう専門家の手を借りなくてはどうすることも出来なくなり入院をさせました。」

「でも・・・・・」と、その女性は目を閉じて言葉を捜すふうでした。
「でも、私は父をあの時病院に入れたことが本当に父のためだったと思う気持ちにかげりがあります。
入院した途端、父は人工呼吸器をつけられ、導尿の管を入れられ、切開点滴につながれました。尿の出が悪くなると出をよくする薬を。血圧が低くなると高くする薬をと、あらゆる症状に対して治療が始まりました。」

「苦しくても最早声を出すことも出来ません。父は身をよじりながら苦しみ、弱い視線ながら、私の目を捉えて離しませんでした。私は元気な頃から父と交わした会話がこころを占めていました。無駄な長生きはさせないでくれと父の目が私に必死に訴えていました。」



「父は3週間苦しみました。3週間たったとき、私は一切の投薬を拒否し、父は静かに眠るようにして逝きました。終わってみるとたった3週間の地獄でしたが、あの3週間が本当に必要な時間だったのかという疑問は残ります。
今でも私は訴えるような父の目を思い出して心が痛みます。」

延命と救命の線はどこで、誰が引くのでしょう。これは経験したものがみな等しく悩み苦しむところだと思います。医者はモニターの数値しか見ない。家族は愛する肉親の今この時の苦しみを見続けることが出来ない。答えはきっとありません。

その女性の話は、年齢にも性別にも、お金持ちにも貧しいものにも、公平に訪れる自分の死をほんの少しでも現実のものとして考えるひと時となりました。更に年老いた親や、愛する者たちとの別れが必ず来ることにも思いを馳せました。

「帰ったらおかあさんに優しい言葉をかけようと思います」と、茶髪の若者が挨拶した素直な言葉に、みんなも素直に感動をした夜でした。





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最終更新日  2012年04月15日 23時15分36秒
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