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2002年02月28日
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ああ、外は雪になったんだとみんなは思いました。春の雪なのできっと大きくて重くてゆっくりゆっくりと降りているのでしょう。きれいな若いお嬢さんが、鮮やかな紅色のストールを頭から巻いて入っていらっしゃいました。

もうかなりワインを召し上がった白髪の男性が、微笑みながらお嬢さんに声をかけました。「君の名は?」「・・・・?」

会場にいた人たちの半分くらいは、その男性が思わず声をかけた思いを理解しました。やはり白髪の女の方が、きょとんとしているお嬢さんに、とりなすようにして言葉をつなぎました。

「昔、昔の映画なんですよ。きれいな恋のものがたり・・・。でも、哀しい恋のものがたり・・・。その主人公のお嬢さんが、あなたのようにマフラーを頭から首に巻いていたの。お嬢さんの名前は真知子といったわ。そうそう、男性は春樹さん。二人を引き裂いたのは戦争だったの。あなたはきっと学校の歴史でお習いになったでしょうけど、第二次世界大戦という戦争でした。」

初めに声をかけた男性がつぶやきました。

「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓うこころの哀しさよ・・・・」

若い方がたにはなんのことだか分からなかったようですが、年配の方々はそれぞれにかみ締める哀しさがあるのでしょう。しばらく静かな沈黙が流れました。

私も時々この「忘れ得ずして忘却をしなければならない哀しさ」で心が壊れそうになることがあります。そんなとき、「全てを選択」して、「消去」のキーをぽんと押してしまえたら、どんなに楽だろうと思います。でも生身の人間にはそれが出来ません。消去したつもりでも、最後の「ごみばこ」の中にはそっと隠しもっているのが人間かもしれません。ごみばこの蓋を開けないようにして、何年も何十年もたったら、ごくごく自然にその哀しみは形をかえてくれるのでしょうか。ごみが堆肥として生まれ変わり、他の命を育てる力をもつように、私たちの哀しみも形を変えてこころの肥料になる日がくるのでしょうか。

「君の名は?」と尋ねられた美しいお嬢さんは、その場の空気を読み取る優れた力をお持ちでした。


年をとってたくさんの感動や夢を見る力を失って、遠い昔話しか出来なくなっている私たち老年組は、この会場に来てくださる若い
方々に、いつも希望を与えられます。
どんな時代になっても、若いしなやかな感性が命を引き継いでいくことを、教えられるからです。

今夜も素敵な夜でした。若い春樹さんと真知子さんは、戦争という抗し難い哀しみに引き裂かれることなく、大事な愛を、大事な命を生きつづけて欲しいと心から祈った夜でした。







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最終更新日  2002年02月28日 19時47分50秒
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