Atelier Mashenka

Atelier Mashenka

2005.11.11
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カテゴリ: アート


六本木ヒルズ 森アーツセンターギャラリー


何回も見に行く予定を立て、そのたびにぽしゃっていた
ダ・ヴィンチ展。
さすがに終了も近いので最後のチャンス!と思い、
定時で上がらせてもらってダッシュで六本木へ向かう。

ヒルズワーカーの コヨーテさん と待ち合わせしてたけど
本日またもや急な残業でダ・ヴィンチ展は見れないと言う。
え~~~っ、残念(T_T)

でもわざわざ仕事を抜け出してお出迎えしてくれ、
美術展の入り口まで案内してくれた。
そして閉館が8時だからと私は焦り気味だったけど、
コヨーテさんが、夜10時まで延長になったと教えてくれた。
知らなかった・・・

でも展示品はボリューム少ないそうだし(by 一村雨さん
絵画の展示ならともかく、設計図とか読めない文字とからしいから
さらっと見るだけかな、1時間でも十分かも、と思ってた。

ところがところが。

かなり混んでいたというのもあるけど、
全部をページ順に丹念に見て回って、
頭がぼーっとするくらい展示室にいた。

照明は暗くて決して見やすい環境ではないし、
1枚1枚の紙葉はよく近づいて見ないと見えないので
目も姿勢も、人との距離も、疲れるような鑑賞の仕方になるし、
一般の美術展より気楽なのか
お客さんがべちゃくちゃ周りでしゃべってるし
それだけでいやになってしまう人もいるだろう。

でも一生懸命見るに値すると感じた。
というのも私の、レオナルド・ダ・ヴィンチへの見方(偏見?)を
見事、打ち砕いてくれたからだ。

パリのルーブルで彼の絵を見て、正直、思ったほど感動できなかった。
天才で卓越しすぎて、少し冷徹で、尊大なところもある人ではないかと
思ってしまっていたというのもある。
軍事面で能力を発揮できると、自分を売り込んだという逸話もあるし。
絵はなかなか完成させないし。(いろんな不幸な事情もあるにしろ)

しかしそれは大きな間違いだった。

さまざまな考察を図を添えながら手書きで書き連ねた、
500年前の黄ばんだノートの1枚1枚を見ていくと、
まず、彼は天才だけど、一個の人間だということを実感した。
希望が持てる。
一個の人間にあんなすごいことができるということに。
圧倒はされるけれど、人間の持つ可能性に、叡智に、心打たれる。

自然を観察しぬいて、それにとどまらず実験を行い、新しく創造していく。
しかも人の生活に役立つもの、自然災害から守るもの、
効率よく仕事を行えるもの、自然の力を増幅させてエネルギーを得るもの、
そうしたものを数多く発想していった。

特に水に関しての研究は多岐にわたり、水の観察や実験の絵が多く描き込まれていた。
どうやったら川を堰き止めたり、流れを変えたりできるか、
障害物に対する流れの変化のしかた、階段状の堰、橋の設計図、
水圧、深さ、濁り具合、水泡のできかた、同心円に広がる波、
水滴の落ち方、水蒸気の威力、水の混じり方、etc.

彼の水のとらえ方ひとつ触れただけでも、
こんな豊かで広く、有機的な心の広がりが、あれらの絵の背後にあるのかと思うと、
また彼の描いた絵も、まったく違って感じられる。
モナリザの背景も、左側はうねり曲がる大河、右側は階段状の湖や川だったと
思い出し、どんな思いをこめてそれらの風景を描いたのだろう、と
むしょうにモナリザの絵を見たくなった。

どんなにか自然のひとつひとつに関心を寄せ、その声を聞き、
その大きさ、不思議さに畏敬しつつも、真正面から取り組んだことだろう。
そんな自然に抱かれている人間存在の豊かさ、貴重な生命の美しさを
内側から描きたかったことだろう。
そんな思いがどっと流れこんできて息苦しいほどだった。


「何物も自力で、自分自身の創造の源となることはありえない。
また何物も、自力で永遠の存在となることはありえない」

「大気の色は、大気に溶け込んでいる水による。
反対側から当たる太陽の光を受けて、大気を明るく見せているのだ。
大気が青く見えるのは、背後に隠されている闇による」

これらは自然を観察して、自然現象についての言及だが、
(メモしたわけではないので、ちょっと言葉が違っているだろうけど)
何と含蓄のある深い言葉だろう!
暗い展示室で、しばし想像の世界に引き込まれた。

月が自力ではなく、太陽の光をあびて光っていることや、
大気の水分に太陽の光が当たって明るいこと、宇宙の闇がその向こうにあることなど
現代では当たり前といえば当たり前だが、
その時代にそのような科学的分析を行っていたことも驚きだし、
なおかつ、それが哲学的にも、詩的にも、
何か他のことを象徴しているようにも読み取れることもすばらしかった。

青空の美しさを感じるとき、その向こうの闇のことなど
考えたことはなかった。
闇と光と、太陽と水の重なり、そしてそれを見ている私という存在が
青空の美しさを生み出している。
そのすべてのつながりを感じ取りながら、
明日あらためて空の美しさを眺めることができるというのは、
なんという輝かしい悦びだろう!


文字については、最初は細かく小さく揃っていて、しょうしょうとしている。
10紙葉目くらいになると驚くほど、きめが揃っており、
刺繍か編み物の目のようだ。

17紙葉目くらいになると少しダイナミックになり、特に大文字が
幾何学的に描かれていたり、大きくデフォルメされ、絵のようだ。
全体的にも踊るようなラインが見られ、生き生きして美しい。
線の太さも均一ではなく、力の強弱が見られる。
17~20紙葉目くらいが一番、文字は見ていて楽しい。

その後はまたしょうしょうとした文字に戻っていく。
30紙葉台になると、こまねずみの教科書みたいに
小さい小さい文字。太さも均一で神経質な感じだ。
このころは疲れて、だんだん頭がくらくらしてくる。

潮の満ち干きに関して、ノートの半ばでは
太陽か、月か、地球自身によるものか考えあぐねているが、
後半になると、はっきりと月と地球の関係によるものとして図解している。
ノートを書きながら考察が進んでいる証拠だ。

びっしりページの下まで書き込まれているのを見ると、
紙が貴重だということもあるだろうけど、
考えていることを書き切ってしまいたい、という強い衝動を感じる。
私もいつもノートに日記というか思うことを書いていて
欄外にもつい思いつきや詩やイラストを書いてしまったりするので、
少しその気持ちがわかるような気がして嬉しかった。


彼はどちらかと言えば描くことよりも、考えることのほうに、
さらに言えば、見ている対象物そのもののみに興味があり、
絵として完成させたり人に見せたりすることは二の次だったのかと思っていた。
絵を描くより、事物を知ることが大事で
そう考えると、天才ではあっても、絵はすばらしくても、
本質的に画家ではないような気さえしていた。
(それが決して悪いのではなく、ただ性質として)

しかし彼は、知りたい、解きたい、だけではなかった。
「画家は科学者であり哲学者でなければならない」という言葉も
印象深い。
まさにそれを体現したのが彼だろう。
科学的考察も哲学的思考も、彼の絵画空間に
それこそ大気に溶け込んでいる水のように、溶け込んでいるのだろう。
職業画家ではなく、もっと高みへ行くために、それを認めてもらうために
ずいぶん当時の社会とも闘ったのではないだろうか。

彼は川の表面を見て、深さや水底の様子などわかるという。
物事を観察し、中身を見、表面から中身を推察する術も身につけたことと思う。
また、ものの力、動き、リアクション、その流れを注意深く追い、
論理立て、その動きや力を合理的に、変えたり利用したりする術を教えてくれる。
それも人の生活に役立つようにと。
やはり「創造」することが、彼の人生の悦び、使命であると感じていたのだろうと思う。


彼は、地球を人間の体になぞらえて、
大地は肉、河川は血脈、などと表現したという。
地球には水がまるで血脈のように張り巡らされている、
そして海洋は心臓だと。
まさに海のような人だ、ダ・ヴィンチは。

豊かに風に波打っている。
太陽に照らされ光っている。
生物を育み、深く広く、常に変化し、しかし恒常的である。
尽きることがない。
大きな力を持ち、しかし地球の一部である。

まるでそんな大きな森羅万象の中に溶け込んでいる、
彼というゆりかごにゆられて
大勢の人がこの展覧会をさまよっているように感じられた。

みな何を求めてきたのだろう。
みなどこへ向かっているのだろう。
みなまるで地上の迷子のようにも見える。

しかし彼の大きな見えない手に、一緒くたに包まれて
安心してさまよっているのかもしれない。


資料コーナーをざっと見、生涯の年表をじっくり読み、
最後に大きなプロジェクターで、主な絵画作品が紹介される映像に浸る。

預言者聖ヨハネの謎めいた微笑とまなざし、
そしてあの象徴的な天を指差す指先、
今まで魅力的だけど不思議な絵だなあと思っていたが
「高みを目指し、飛翔せん───」
そうまなざしが語りかけ、いざなっていると突然実感した。
心があたたかく凍った。戦慄的な感動。

彼という奇跡を初めて実感できた貴重な時間だった。






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Last updated  2005.11.13 22:34:57
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mashenka @ Re[1]:生誕120年 棟方志功展(11/12) 一村雨さんへ お久しぶりです! 私もうな…
一村雨 @ Re:生誕120年 棟方志功展(11/12) お久しぶりです。 この展覧会、棟方志功の…
mashenka @ Re[1]:サントリー美術館「京都・智積院の名宝」(01/21) 一村雨さんへ 素晴らしい障壁画でしたね…
一村雨 @ Re:サントリー美術館「京都・智積院の名宝」(01/21) 安部龍太郎の「等伯」を読んで、この親子…
mashenka @ Re[1]:横山操「ウォール街」(10/31) 一村雨さんへ 横山操の手にかかるとNYの…

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