うたのおけいこ 短歌の領分

うたのおけいこ 短歌の領分

2006.04.02
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乳酸系の過程で生ずるピルビン酸が二酸化炭素(CO2)と水に酸化分解される過程(TCAサイクル)で得られるエネルギーを利用するのが、有酸素(好気性)過程である。また、代謝産物(残りかす)は二酸化炭素と水だけのクリーンエネルギーである。

我々の日常生活の動作のほとんどはこれによってまかなわれている。
持続的運動の際の代謝メカニズムであり、きわめて長く続けることが出来る。典型であるマラソン競技の場合、この過程が99%を占める。
その他、自転車(ロードレース)、遠泳、トライアスロン、サッカー・ラグビーで走っている状態(瞬発的なシュートなどは無酸素運動)やテニスのラリーの部分などもこれに当たる。
ただ、大量の酸素を必要とするので、立ちあがりが遅く、緊急事態には間に合わない。僕のパソコンのようなものである。

ヒトは、走る動物ではなく歩く動物である、という言い方もある通り、人体は比較的ゆるやかで持続的な有酸素運動に適応している。

ネコ科の動物と比べると分かりやすい。ネコ類は、例外なく普段は「まったり」、ゴロニャンしていて、カッタルそうにしている。歩くのさえ大儀そうである。
だが、ネズミ、またはネコじゃらし、さらにネコまっしぐらのカリカリ餌を見つけると、猛然とダッシュして飛びかかる。
時速100kmに達するというチータを始め、ライオン、虎、そしてイエネコと、その祖先といわれるリビアヤマネコ→アビシニアン、いずれも習性はおおむね似ている。特に、NHKの動物ドキュメンタリーで見たアメリカ大陸・ロッキー山脈のプーマ(ピューマ、現地では「マウンテン・キャット」と呼ぶらしい)に至っては、体こそ大きいが、細かい仕草、鳴き声、母子の情愛までイエネコとそっくりで、驚くと同時に大好きになった。

これらネコ科動物は、典型的に瞬発性の、激しい(しばしば闘争的な)無酸素運動に適応している。

これらに対応して、性質が異なる筋肉があることは、最近ではご存知の方も多いだろう。

I型筋線維は、遅筋線維 Low-twitch fibers(LT)ともいわれ、攣縮(れんしゅく)は遅く、大きな力は出せないが、疲れにくい。酸化に関与するミオグロビンとシトクロムという物質が多く、酸素摂取に関わる細胞内の小器官ミトコンドリアの数が多い。一見して赤い色をしており、赤筋・マグロ筋とも呼ばれる。マグロの赤身がまさにそれである。有酸素運動に適しており、広大な海洋を回遊し続けるマグロの生態に相応しい。また高い酸化能力(TCA回路、脂肪酸の酸化・消費)を有し、有酸素過程で出力を出す。また比較的高い中性脂肪の含量を持つ。「中トロ」がそれである。

II型筋線維は、速筋繊維 Fast-twitch fibers(FT)と呼ばれ、攣縮は速く、瞬間的に大きな力が出せるが、疲れやすい。酸化系回路・酵素の活性は低く、ミトコンドリアの数もほんの僅かしかない。燃料は内在性のグリコーゲンの解糖により行われ、ATP-CP系と乳酸系で出力を出す。脂肪は使われない。一見して白いので、白筋、またヒラメ筋と呼ばれる。ヒラメは普段は海の底でじっとしており、獲物が近づくとガバっと起き上がって一気に捕食する。待ち伏せ型の習性はネコ類と同様である。アメリカザリガニの腹筋(瞬時に尻尾を打って「いざる」=後ろに逃げる)、ニワトリの胸筋(翼を動かす)、ウサギの腰筋(ジャンプする)にも顕著である。いずれも逃走時など、咄嗟の瞬発的な動きが目に浮かぶようである。

このI型とII型の比率は、動物により、また個体において先天的・生得的・遺伝的におおむね決まっているとされている。
例えば、一流マラソンランナーの筋線維にI型が多いことは言うまでもない。往年の名ランナー・瀬古利彦氏の筋肉細胞中のミトコンドリアは一般人より50%も多かったという報告もある。
また、根拠はないが、大相撲の花田家(初代若乃花・初代貴ノ花・三代目若乃花・二代目貴乃花)や寺尾家(鶴ヶ嶺・逆鉾・寺尾)が、II型筋線維優位の血筋であることは明らかだと思う。
ただ、最新の知見によると、この比率はトレーニングによってある程度変えられるという説もある。ただし、増えるのは主としてI型筋線維であって、II型→I型への移行は出来るが、その逆はほとんど出来ないという。持続的・長距離運動は努力が実る可能性があるが、短距離・瞬発力系の運動(野球のピッチング・バッティング、相撲、100m走、剣道・柔道・テニスの、勝負に関わるような重要動作など)はまず素質が重要であることが示唆されている。

川崎のぼる「いなかっぺ大将」の「ニャンコ先生」ではないが、古来柔術・柔道家はネコを敬愛し、ネコの動きを研究し、多くを学んできたといわれている。無酸素運動の共通性のしからしむるところである。
なお、TVアニメ化された同作品のテーマソング「大ちゃん数え唄」を歌っていた吉田よしみとは、少女時代の天童よしみであった。「天童」の芸名が示す通り、天才少女だったのだろう。

さて、自動車などの内燃機関(エンジン)の仕組みも、基本的には有酸素運動の仕組みに似ているのだが、ガソリンの不純物由来の有害物質や、エンジンで理想的には完全燃焼しないことによる一酸化炭素(CO)が排出されることは、ご存知の通りである。

燃料として、主に肝臓グリコーゲンの分解によるグルコース(葡萄糖)、筋肉グリコーゲン、そして特筆大書すべきなのが、皮下脂肪・内臓脂肪の脂肪細胞の中性脂肪(トリアシルグリセロール)から血中に放出された遊離脂肪酸が用いられ、消費されることである。=減量である。

一流マラソン選手(体脂肪率10%未満)の場合で、血糖(葡萄糖)のみで約4分間、肝臓グリコーゲンで18分間、筋肉グリコーゲンで71分間、そして遊離脂肪酸経由の中性脂肪で4018分間エネルギーを供給することができるという。
ただ、グリコーゲンが枯渇する際には強い疲労を感じるという。これは別の研究でも、運動を始めて約80分後という結果が出ている。
もちろん一流選手ではないが、これは僕もしばしば体感している。遠泳をしていると、1時間15分ぐらいでかなりの疲労を感じる。グリコーゲンが尽きるのだろう。さらに続けていると、その後ハイな状態に入ることがある。
また、これはいわゆる「カーボ・ローディング」をしない場合である。(これは、マラソンランナー・トライアスリートなどが競技の直前に行う、一定期間の絶食後に、大量の糖質の補給により体内グリコーゲン貯蔵量を高める食餌摂取法。バナナやスパゲッティなどがよく知られている。最近ではアマチュアでも気の利いた人なら行う)

グリコーゲンが燃え尽きる前から、徐々に脂肪酸の消費率が高まることが測定されている。
グリコーゲンが枯渇した段階以降は、誤解を恐れずに言ってしまえば、体内環境は飢餓状態に近くなる。体に貯め込まれた脂肪だけが頼りであり、減量には願ってもない状態である。
ただ、病的な飢餓に伴う痩せ(るい痩)の場合には、ケトン体という緊急的な物質が肝臓で作られて燃料にされる点が異なる。この物質はそれなりの役割を果たしていると考えられているが、徐々に血中濃度が上がってくると、ケトアシドーシスという重篤な昏睡状態に陥ることがあるという。


話はそれるが、ここでどうしても想起されるのは、宗教的苦行とこういった状態との連関である。

――新約聖書マタイ伝福音書によれば、ナザレのイエスは俗世から隔絶した山中の荒野で、40日40夜の断食と祈りを行い(水分を摂らなければ死んでしまうから、水は飲んだのであろうが)、その果てに悪魔と問答した。「人はパンのみにて生くるにあらず」、「汝の神を試みることなかれ」(文語訳)などの、あまりにも有名な名文句を含む一節である。話半分としても、それに近いことはあったのであろう。

弘法大師空海にも、酷似したエピソードが伝えられている。

小田晋・筑波大名誉教授の著書「キリスト教も幻覚から始まった!?」によれば、彼らはここで「幻覚」を見たわけである。これらは、「感覚遮断」を伴う状況での「飢餓幻覚」と見られるという。幻覚には幻視(ラテン語visio、英語vision)や幻聴、幻嗅、幻触、幻味など、感覚全てに亘る種類があり、幻嗅なども「自分が臭い」と気にする神経症など、ありふれて存在するという。
幻味なんてのも、「おふくろの味」を、ある時突然ありありと思い出すとか、普通人でもそういう目で見れば、けっこうそれに近い経験はしているという。
入眠・出眠時幻覚(金縛りの類い)は誰でも体験する。これも、体を非常に酷使した直後に多い。徹夜明けのハイな状態というのもよくあることである。

マルセル・プルーストによる、20世紀文学の最高傑作の一つ、あの電話帳数冊分にも見紛う長大な巨編「失われた時を求めて」も、冒頭、手に取った一片のプチマドレーヌの香りから、忽然として華麗なフランス上流社会の全半生を思い出すという体裁を取っている。執筆当時の実人生のプルーストは虚弱体質であり、今で言う引きこもりのような状態で、コルク材で完全密封したパリの高級アパルトマンの一室から一歩も出ない生活をしていた。図らずも、瞑想修行みたいな環境に自らを置いていたと言える。

とりわけ幻聴は、言語化された幻覚という意味で、最も高度なものだという。
旧約聖書のエゼキエル書は典型的な幻聴、新約のヨハネ黙示録は幻視に基づくものと見られるという。
この時、やはり、というべきか、脳内には麻薬様物質β(ベータ)エンドルフィンが分泌されているという。いわゆるハイな状態になっているわけである。

委曲を省いて誤解を恐れずに言えば、宗教の秘教的(エソテリック)な核心部分ともいえる「神秘体験」や一定の境地(三昧境など)とは、こういった幻覚ないし幻想のイメージ操作であるということも出来よう。

金剛界・胎蔵界曼荼羅や、西方浄土、阿弥陀仏の救済のイメージ、闘う女神ヴァジュラ・ヨーギニーの瞑想、はたまた十字架上の磔刑のキリスト、聖母マリアの受胎のイメージなどなど、枚挙に遑(いとま)がない。

例えば、一般人でも臨死体験はよく知られているが、古く人々は死に臨んで浄土への往生のイメージを見ることに最も執心し、修行をした。僧侶もそれを指導し、熱心に手助けした。

憎むべき松本智津夫(麻原彰晃)によって著しく歪曲され、おぞましいニュアンスに捻じ曲げられてしまった「ポア」の概念も、チベット仏教における死に臨んでの意識の転移・彼岸(あちら側)への導きの作法である。これは名著「虹の階梯(かいでい)」(中沢新一訳)に詳しい。

道元の言う、禅における「心身脱落」というのもやはり一種の神秘体験と思われるが、ヴェールに包まれているのがもどかしくも、興味は尽きない。

この話題はここでは敷衍しないが、このように身体的な条件が、大きな影響力のある宗教を生み出し、あるいは芸術分野で人類の歴史を変える場合もあるということである。
これらについては、そのうちに続きを書くかも知れない。


むろん、断食ノススメではありませんから。念のため。





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最終更新日  2006.07.29 11:36:02 コメントを書く
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