うたのおけいこ 短歌の領分

うたのおけいこ 短歌の領分

2009.12.25
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カテゴリ: 現代短歌の曠野


ゆるやかに 鴛鴦 をし ふたつゆく水の輪は あや ある胸の さき より れて


歌集「遊行」(昭和58年・1983)

仲睦まじいオシドリの番(つがい)が揃って
ゆるやかに滑ってゆく水面(みなも)の輪は、
雄の美しい胸先の尖端から生れて拡がって。


毎回感動して見ている司馬遼太郎原作のNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」で、香川照之扮する明治の俳人・歌人の正岡子規が、「俳句(と短歌)は『写生』(写実)であるべきです」などと力説しているシーンが堪らなく嬉しい。

近代日本の伝説の巨人が、まるで眼前に生き生きと蘇って喋りかけているようだ。

このように明治期の子規は、それまでの理屈や言葉遊びや封建的な家元制度などで形骸化していた伝統的な「発句・和歌」を「月並」であるとして激しく論難し、西洋リアリズムや自然主義の流れを踏まえ、万葉集などを規範とする新文学を提唱し、自ら「俳句」「短歌」と名づけた。

これらの主張は、「旧派」の代表格であった佐佐木信綱らにも大きな影響を与えた。

これらの点は、自由民権運動の渦中にもあった誇り高き没落士族の子規に、多少やりすぎな面もあったのではないかとさえ思える。

例えば、「和歌」は「和歌」で良かったと、僕は思っている。
何も「短歌」と言い換える必要はなかったのではないか?
・・・こんなこと書くと、歌壇のお歴々からぶん殴られそうな気もするが。

「ベースボール」の訳語「野球」の初出が、子規自身の幼名「升(のぼる)」に掛けた戯号「野球(ノボール)」であったことも、ドラマにも出てきたし、よく知られている事実だ。
どうやら、今でいうプロデューサー的な資質を持つ大変なアイデアマンだったらしい。

ただ、子規の打ち出した「写生説」に基づく俳論・歌論そのものが、現代短歌において必ずしも大勢を占めているとは言い難い。

子規が否定した「言葉遊び(“言葉のパズル”的な遊戯性)」の側面や、「言霊(言語アニミズム)」の側面など、もっと多様な要素が盛り込まれており、現状の歌壇はますます隆盛、豊穣を極めつつあると僕は楽観的に見ている。その全てがすごく楽しい。

むろん、韻文表現における「写生」の理念が死んだわけではない。
1世紀以上を経ても、写生の重要性は不動である。

そういう意味では、上田三四二のこの歌は、草葉の蔭で子規が泣いて喜びそうな作品である。
「写生」とは、簡単に言えば「見たままを書く」ということであるが、実作的な観点でいうと、それほど単純なものでもない。

「見たままのように表現する」ということは、多くの言葉の中から最も適切な言葉を選択し、「言い当てる」ということである。
これが実際にはなかなか困難な作業である。

・・・が、現代短歌最高の叙景歌人だった上田氏は、見事にこの情景を言い当てている。

美しい歌だ。言葉の珠(たま)だ。





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最終更新日  2009.12.25 18:24:22
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