【粗筋】
油屋に化け猫が出るという噂で客が来ない。主人が正体をつかもうと夜中に見張っていると、巨大な猫が現れる。「こいつが犯人か」と石を投げつけると、猫はひょいと体をかわして、
「油屋のう(危なやのう)」
【成立】
「危ないところだった」という芝居の台詞が落ちなので、芝居噺だったのだろうか。今はピンと来ないので演じられることが少ないのか、聞いたことがない。
【蘊蓄】
日本で猫が登場するのは705年『日本霊異記』第30話。死んだ男が息子の家に入ろうとして、蛇や犬に変ずるが追われ、猫になってようやくご馳走にありつく。
『宇多天皇御記』(天皇在位887~97)では黒猫を寵愛したと記されている。江戸時代には肺病を患った時、黒猫を飼うと治るという俗信があった。黒猫が病の女性と対で浮世絵に描かれるようになるが、恋煩いに変わっている。
1000年頃に出来た『枕草子』では、宮中で飼った猫「命婦(みょうぶ=猫の鳴き声から付けたものだろう)のおとど」が日向ぼっこをしていて、「翁丸(おきなまろ)」という犬に追い掛けられ、天皇の命令で犬が追放になる。戻った犬を男達が殴って殺したというのを聞いた作者らが、傷だらけの犬を拾って介抱する。名を呼んでも応対しないので別の犬だとしたが、翌朝、この犬がいるのを見た作者が翁丸は可哀想だったと言うと、犬がぽろぽろ涙を流した。やっぱり翁丸だったのねと、呼ぶと返事をする。天皇のお耳に入って参内が許される。
『枕草子』では、この直前、桃の節句に、翁丸に桜や梅の枝を挿して歩かせたことを回想する。
『更級日記』では、親しい継母との別れ、乳母や大納言の娘の死に落ち込む。大納言の娘は面識はないが、父が手習いの紙をもらってお手本にしていた。この翌年、1022年5月、作者と姉は猫を拾うが、姉が病気になると、夢に猫が現れ、自分は大納言の娘の生まれ変わりだと言う。作者が話し掛けると分かったようにこちらを見るので、姉の夢が真実だと思う。
この娘の父である大納言が、翁丸を飾り付けて歩かせた人物で、書道三蹟の一人、藤原行成である。娘は1012年、12歳で1歳上の道長の息子結婚、『栄花物語』浅緑巻にままごと遊びのような夫婦生活が描かれ、本の雫巻で、その死と周囲の人々との悲しみを伝えている。
『源氏物語』では「唐猫(からねこ)」と呼ばれる中国渡来の猫が登場する。若菜の巻で、源氏の住まいである六条院で男達が蹴鞠をするのを、女三宮の女房達が御簾の陰からのぞき見するが、飼っていた唐猫が追い掛けっこをして御簾を巻き上げ、女三宮の姿を男達にさらしてしまう。これを見た柏木がその美しさの虜になり、彼女の代わりに猫を飼うようになる。女三宮は源氏の子、実は柏木の子、薫を産むことになるが、そのきっかけとなる事件である。
鎌倉時代の『石山寺縁起絵巻』(鎌倉から江戸期)では、巻2(1326年頃)町家の門口に猫が描かれているが、首を縄でくくられ、それが屋内に続いているのが分かる。(巻5には人に抱かれた猫も出て来る)
『明月記』(1235年)には、尾が二つに分かれた「猫股(ねこまた)」という化け物が出て来る。『徒然草』では、飼い猫が山野に逃れて「猫股」という妖怪になるという噂に恐れた連歌師が、暗闇で襲われて悲鳴を上げる。実は飼っている犬が喜んで飛び付いただけだった。この頃には野良猫が生まれて、そろそろ化け猫も出始めたようである。
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