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December 28, 2012
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ゴール前、残り300m。他の17頭とは明らかに次元の違う、鮮やかな末脚で抜け出してきたオルフェーヴル(牡4歳)に、日本中の、いや世界中の誰もが、日本調教馬による初の凱旋門賞制覇を疑わなかったはずだ。

 勝つときというのは、こんなに圧倒的であっさりとしたものなのだろうか。不思議な戸惑いとともに、長く待ち望んだ瞬間を間際にした刹那(せつな)、栗毛色の4歳馬の切れ味が急に鈍り、それと同時に、一旦は交わしたはずのソレミア(牝4歳/フランス)がファイトバック。一度はつかんだ栄光が、ゴールの瞬間、その手からスルリと逃げていった。まるで、つかむ力が強すぎたあまりに掌(てのひら)から弾かれたかのように......。

「あれはオルフェーヴルが勝っていたレースだった」

 レースの後、各国のメディアや厩舎関係者から声をかけられた。

「あの脚は紛れもない、歴史的名馬の脚だった。結果が伴わなかったのは先頭に立つのが早すぎたからだ。でもこれは、バッドラックとしか言えない」(イギリス人調教師)

 レース単体で見れば、手綱を取ったスミヨンの早仕掛けとも見える。関係者の中にもそれを公然と指摘する声があったし、スミヨン本人も「先頭に立ったことで馬が目標を見失ってしまった」と、結果論として否定はしない。

 しかし、この状況に至る経緯には、さまざまな伏線が折り重なっていた。

 フォワ賞のレース後、思わぬ小差の勝利に、池江泰寿調教師は「日本とはまったく異質なロンシャン(競馬場)の馬場では、この馬の武器である後半の切れ味に頼れない」と分析した。重たい馬場を突き進むには、一瞬の切れよりもじわじわとポジションを上げていけるパワーの必要性を改めて感じ取った。中間の調教では、フォワ賞よりも負荷を増やしパワーアップに努めた。

 直前に有力馬の回避が重なったが、その分「チャンスあり」と、新たに戦線に加わる馬も現れていた。凱旋門賞が近づくにつれて、湿り気の多い日が続いたことによる馬場の悪化も折込み済みで、だ。むしろ、デインドリーム(牝4歳/ドイツ。直前に出走を断念した昨年の覇者)やスノーフェアリー(牝5歳/イギリス。GI3連勝中も脚部不安で回避)が戦線にいたときよりも、重馬場巧者がそろったことで、より切れ味に頼れない状況が作られていった。



 置かれた状況の中では「よりベターな作戦」と池江調教師も振り返った。すべてが周到に用意された作戦で、ほぼ理想通りに淡々とレースが流れていった。

 最終コーナーを回って、前にいるのはインコースでじっくりと力をためた重馬場巧者ばかり。残り500mの直線、仕掛るならここしかない。最後の直線に向くと同時に、スミヨンはオルフェーヴルを馬群の外に持ち出した。

 本来ならばセオリー通りだったが、誤算はここだった。

 視界が開け、闘争本能が点火したオルフェーヴル。満を持して解き放った脚は、まるで一台だけ性能が違うエンジンを積んでいるかのように、誰もの想像を超えすぎていた。頼れないはずの武器が切れすぎたのだ。

 スミヨンの手元がピクリとも動かず、インコースの英国二冠馬も、フランスダービー馬もまったく伸びない中、あっという間に先頭に立つ。しかし、闘争本能によって点いた火は、目の前に敵がいなくなれば小さくなるのが条理。また、渋った馬場は思いのほかオルフェーヴルのガソリンを消費した。その結果、したたかに省エネ走行でチャンスをうかがっていたオリビエ・ペリエの駆るソレミアに、ゴール前、図ったかのような差し返しを受けてしまうことになる。

 陣営が相手を過大評価してしまっていたのか、それともオルフェーヴルを過小評価してしまっていたのか。絡み合った伏線のどこに間違いがあったのかは確かめようがない。しかし、どの馬が一番強いパフォーマンスを見せたのかは一目瞭然だ。

「完全に勝たれたと思った。ところが、オルフェーヴルが先頭に出た途端に走るのをやめてしまっていたように見えたので、懸命に追い掛けた。こちらにとっては運がよかった」とペリエが語れば、「もっと強い馬がいれば結果は違った。運が悪かった」とスミヨンは肩を落とす。ともに凱旋門賞の栄光を複数に渡って手にしている名手。その両者から「運」という言葉が漏れた。

 はたして、世界を獲る最終局面を分けるのは運なのだろうか? 冒頭のイギリス人調教師が答える。
「確かに勝負は運が左右することも多い。しかし、幸運はそうそう転がってくるものではない。そう、勝つことができるのは、勝つ力を正しく導いたときだ。そのためには、挑戦を続けなくてはならない。日本の馬はもう順番の列に並んでいるのだから」

 その日は、決して遠くはないはずである。





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Last updated  December 28, 2012 10:53:10 AM
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