■各種センサー群で安定した自律飛行を実現
「同じ場所にとどまって飛び続ける。簡単そうにみえて、これが意外と難しいんですよ」。自律飛行するドローン「フェノクス2」を開発した此村領(このむらりょう)氏は、和やかにそう説明する。此村氏は、東京大学博士後期課程に所属する現役の学生である。
フェノクス2は、計4つのプロペラを備える手のひらサイズのクアッドコプターだ。最大の特徴は、リモートコントローラー(リモコン)を必要としないこと。各種センサー群で安定した自律飛行を実現した。下向きの超音波距離計でドローンの高度を計測。同じく下向きに設置したカメラで床面を撮影し、その画像から自分の飛行位置を把握する。エアコンの風などで本体位置が上下左右にぶれると、自動的に元いた位置に戻ってくる。
緻密な自律飛行を裏で支えているのは、此村氏が頭をひねって考えた画像処理技術である。仕組みはこうだ。まず、下向きのカメラで撮影した画像から、床やカーペットの模様や汚れといった複数の「特徴点」を抽出する。カメラは1秒間に30枚の頻度で床面を撮影し続けており、ドローン本体が横方向にぶれると、先に抽出した特徴点との差分(ズレ)から、「どの方向にどれくらいズレたのかが分かる。この情報を基に、プロペラの回転数を制御して逆方向に動かすことで、元いた位置にドローンが戻ってくる」(此村氏)。
撮影画像から特徴点を抽出し自分の位置を補正する考え方自体は「特に目新しくはない」(此村氏)という。だが、本機能をドローン上に実装するのは困難を極めた。リアルタイムに特徴点を抽出する画像処理は負荷がとても高く、撮影データを一時的に保存しておく大量の記憶領域(メモリー)を必要とするのだ。大量のメモリーを実装すると、ドローンが重く、大きくなってしまう。
小型化するには、一般的なパソコン用パーツをそのまま実装するわけにはいかない。手のひらサイズのパソコン用基板「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」の利用も検討したという。しかし、「画像から特徴点をリアルタイムに検出できない」「(特徴点から判明した位置情報
壁にぶつかった此村氏が目を付けたのが「FPGA(Field Programmable Gate Array)」である。FPGAとは、ユーザーの好みで任意の論理機能を実装できる小型チップの一種。米半導体メーカーであるザイリンクスのFPGAチップ「Zynq XC7Z010」を採用。特徴点を抽出するアルゴリズムも見直すことで、画像データをメモリーに保存することなく、リアルタイム処理することに成功した。この技術は、東大を通じて特許を申請済みだ。
こうまでして此村氏がドローン本体に「頭脳」を搭載したのは、リモコンなどドローンを制御する無線通信処理を排除したかったからだ。ドローンの制御に無線通信処理を使うと、なんらかの影響で無線が途絶えたとたんに制御不能になる。全地球測位システム(GPS)機能を搭載し、ユーザーが指定したルートに沿って自律飛行する市販ドローンはある。一方、フェノクス2はカメラでとらえた映像を基に自分で考えて飛行する。GPSの電波が届かない部屋の中や地下でも自律的に飛行可能だ。此村氏は、ロボットのあるべき姿を明確にイメージしている。「自分で状況を判断して自律的に動けてこそロボット。人が操作したり飛行ルートをあらかじめ入力したりしたら、それはラジコンでしょう」
■飛行パターンをユーザーが変更可能
フェノクス2は、同じ高度、同じ場所にホバリングする単機能ドローンではない。プログラムを書き換えることで、飛行パターンを変更できる。例えば、床にある特定のマークをカメラが捉えるとその方向に進み、別のマークを捉えるとその場でホバリングする、といった飛行も可能だ。複数のマークを使い分ければ、オフィスの廊下を巡回飛行できる。フェノクス2は横方向にもカメラを搭載しており動画を撮影できる。マイク機能も搭載済みで音も判別可能。不審者や不審物をとらえたら通報する、といった活用法も想定している。
飛行プログラムは、ユーザー自身が自由に追加したり変更したりできる。フェノクス2は、オペレーションシステム(OS)として広く普及しているリナックス(Linux)の「Ubuntu」を搭載している。無線LAN機能も搭載済みで、パソコンと無線接続してSSH(セキュアシェル)でログインすれば、無線経由でプログラムを書き換えられる。ホバリングや画像の取得、上昇・下降などを制御するプログラムはネット上で公開しており、購入者は自由にダウンロード可能だ。
ドローンを大型化すれば、機能の実装は容易になる。だが、此村氏は本体の小型化にこだわった。狭い室内や通路などでの利用を想定しているためだ。本体が大きくなるにつれ、利用シーンは限られてしまう。フェノクス2は手のひらサイズで重さはたった75グラム。此村氏は「このサイズで自律飛行し、プログラムを自由に改変できるドローンはみたことがない。世界初だと思います」と胸を張る。
出典: http://www.nikkei.com/article/DGXMZO93069910R21C15A0000000/
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