「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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大泥棒の路地裏
第七章
「ルセスの瞳」
ランスロットが憎しみを込めて『ミホーク』と言う名を呟くと、当人のミホークは見下すような嘲笑を浮かべた。
「お久しぶりですな、ランスロット副隊長どの。覚えてもらえていたようで光栄でございます」
気難しそうな顔をしてルウェンがランスロットとミホークを交互に見る。彼はこの二人の関係について気になっていた。片方はユーリンドの偉大なる騎士、片方はアーチェルドに巣食う賊どもの頭。この二人が一度でも相まみえる機会があったのだろうか。どうやら二人は顔見知りらしい。
だが、その態度に口調はお互いを尊重し、親しい仲であったものではないとルウェンは感じた。ランスロットは明らかな敵意を持ってミホークを睨みつけ、ミホークはというと余裕たっぷりな態度で嘲笑うかのような笑みを浮かべて見下ろしている。
「ですがおかしいですな」ミホークは手を顎にあて考えるように頭を傾けた。「いつ我々はユーリンドのほうまで出向いてしまったのでしょうな。ついさっきまでアーチェルドの落とされたネーミヌドにいたと思っていたのですが…我々もどうやら酒が過ぎたようですな」
「いいや、お前は正しいさ、ミホーク」ランスロットはミホークを睨む硬い表情にかすかな笑みを浮かべた。だがそれが本心から笑っているわけでないことは明確であった。「ここはアーチェルドで、ネーミヌドだ。ユーリンドに行きたいのなら、ここから馬で半日もかからないぞ」
「おや、ですがおかしいですな。あなたはユーリンドの人。このような地にいるはずがないのですが…。それに、あなたのその格好。どう見ても、誇り高きユーリンドの騎士には見えませんなぁ」
確かに今のランスロットはみずほらしい旅人の服装で、武器も持っていない。武器がない…ルウェンはいまさらだが気づいた。自分達は、今やとてつもない窮地に押し入っているではないか。
ランスロットとミホークは暫く黙って睨みあっていた。ミホークは相変わらず余裕の笑みを口もとに浮かべているし、ランスロットは憎しみの炎を瞳に宿したまままっすぐ賊の頭を睨んでいる。
短いが、長いと感じ痺れを切らした賊の一人が前に出た。
「お頭、さっさとこいつら殺しましょうぜ。俺ぁそいつの目が気に入らねえ!」
するとランスロットは眉を片方だけ上げてミホークを見上げた。
「お頭だと? いつからそんな低俗な者になり下がったのだ、ミホーク」
どうやらランスロットはこのミホークが賊の頭だということを知らなかったらしい。まあ無理もない。彼はつい先ほどアーチェルドに来たばかりなのだから。
ミホークも同じように片方の眉を上げた。
「ですがこれはこれで楽しいものですぞ。ユーリンドの偉大な騎士が武器も持たず賊に囲まれる姿を見るのは。ねえ、副隊長どの?」
「ユーリンドの騎士は決して弱者を虐げない。このように囲んだ経験はない」
「では自分自身を弱者として認めるのですな、副隊長どの。これは面白い。偉大なるランスロット副隊長どのはご自身を虐げられるべく弱者としてあるようだ」
ミホークが賊たちにめくばせすると、賊は一斉に武器を高く掲げ始めた。歓声も上げ、自分達の囲んだ獲物を見ている。ルウェンはかなり動揺していた。剣の柄を強く握り、警戒を始める。ランスロットはというと――まるで何事もなかったかのようにそこから微動だにせずミホークを睨んだままだ。
ルウェンはゆっくりランスロットに近付き、小声で言った。
「ランスロット、私が道を作ろう。今頃ピーター達が馬車を用意しているはずだ。そこまで走るぞ、いいな?」
ランスロットの返事はない。賊の荒い歓声で声がかき消されたならまだしも、自分でも聞き取れるくらいの声だ。聞こえないわけではない。
「ランスロット?」
「騎士の誇りを忘れたか、ミホーク!」ランスロットが甲高い声で叫んだ。「誓いを忘れたか、唄を忘れたか!」
歓声が止んだ。ミホークはランスロットに歩み寄る。
「誇りも誓いも、忘れるより先に覚えすらありませんな、副隊長どの。あの騎士の唄も、私は本心で歌ったわけではありません。あなたは勘違いしておられる。まだ気づかれないのですかな?」
「いいや、ミホーク。私はあの時からそのことについて完全に理解したよ。――お前は裏切り者であるまえに、ユーリンドにいるべき人間ではなかった」
「よぉくご存じのようで」鼻で短く笑ったミホークは明らかにランスロットを馬鹿にした態度であった。「あなたはこれからどうなさるおつもりです? 私が何かを言わぬ限り、あなたを囲むけがらわしい賊どもめは貴方から奪えるもの全てを奪うでしょう。命でさえも」
「お前以上にけがらわしいものをみたことは、私はない」ランスロットは懐から短剣を取り出した。他の賊の武器と比べるとかなり短く小さいもので、とても対抗できるとは思えない。無いよりはマシであろう、が…。「ユーリンドの誇りにかけて、お前の処理は私が行う。降服しろ。今すぐに、だ」
ミホークは微かに笑う。それから次第に声は大きくなり、やがて大笑いにかわった。周りの賊も同じように大笑いする。不気味な笑い声だけが響くようになった。
「貴方はご自分の立場を理解しておられないようですな。相変わらずすぎます、副隊長どの」
「やっちまいましょうぜ、お頭!」
賊が手に持った斧を振り上げた瞬間に、ミホークは手を上げて制止した。
「いや、まだだ」彼の視点はランスロットへ向けられる。「貴方は誇り高きユーリンドの騎士。このような形で散るのはさぞ悔むべき事になるでしょうな。――いいでしょう、昔のよしみとして、この場でチャンスを与えるとしましょう」
「チャンス?」ランスロットは心底心外そうな表情になった。「勘違いしているようだな。チャンスを与えられるのはお前達の方だ。今すぐに投降するべきだぞ、ミホーク」
「戯言を。立場を理解できないようですな。ですがこちらは理解したものと見て話を進めましょう。ランスロット副隊長どの、単刀直入に言いましょう。私と勝負しましょう」
「勝負だと?」
「ええ、そうです。勝負です。貴方と私の、一対一の正々堂々としたものです。もし貴方が私に勝つ事が出来れば、この場は見逃し行きたい場所へ行くのを止めません」
「私が負けたらどうするつもりだ?」
「貴方が負けた場合、生かすも殺すも私の部下次第でございます。ただ、あのユーリンドのランスロットを一騎打ちにより倒したというこの事実があれば、我々はなおのこと有利な立場に立てるということですな」
言葉を合図にするかのように賊が武器を見せつけるように構える。斧、剣、槍、弩弓、当然のことだが統率のない武器がずらりと並んでいる。
確かにランスロットを正々堂々とした一騎打ちで倒すとなると、名も上がることだろう。それにここにはルウェンを含む証人が大勢いる。しかし愚かな考えだ。
つかの間ランスロットとミホークは睨みあっていた。それからすぐにランスロットは辺りの賊を見渡し、最後にルウェンを見た。
もし勝って本当に見逃してくれるというのなら、これは何よりも救いのあるチャンスだ。ミホークの言葉が信用できるわけではないが、今はそれしか手段はない。ルウェンは黙って頷いた。ランスロットもそう思っていたのだろう、すぐにミホークに向き直る。
「いいだろう。お前との一騎打ち、受けて立つ」
「そうこなくては」
ミホークが周囲を囲む賊達に合図すると、賊は後退していった。やがて賊に囲まれた円形の小さな広間ができあがる。決闘には申し分ない広さだ。
「おやおや、ランスロット副隊長どの。武器はお持ちになられていないのですか」ミホークは意外そうに言った。「騎士の剣を持ち込んでこないとは、よほどのことなのでしょうなぁ」
すかさずルウェンがランスロットに歩み寄り、自分の剣を引き抜いて彼に差し出した。
「ランスロット、私の剣を使ってくれ」
剣を受け取り、ランスロットは一礼をする。
「感謝します、将軍」
「彼と君の関係については、この一騎打ちの後に聞くとしよう。それまで負けるのではないぞ、ランスロット」ルウェンは耳元で囁くように言った。
「ご安心ください」ランスロットは微笑を浮かべた。「彼とは何度も手合わせをしています。私は彼との手合わせで負けたことはありません」
ランスロットはルウェンの剣の柄を握った。初めて手にする剣だというのに、実に手になじむ。握った瞬間に自分の体の一部になったかのように違和感が全くない。ルウェン将軍は剣の手入れを怠らないらしい。
しかしいつも自分が持っている剣とはまた別物だというのは、手にもつ前からわかっていた。ユーリンド式の剣は柄が拳一つ分しかなく、片手で持つ仕様となっている。これは盾を主に扱うユーリンド流のもので、ユーリンドの騎士は盾と剣の攻防をバランスよく扱うことになっている。
だがルウェン――アーチェルド式はかなり異なっているようだ。柄は拳三つ分はあり、とても長い。刀身もユーリンドの剣より半尺は長い。どうやらアーチェルドは両手で扱う事を主にしているらしい。
剣を両手で構えるランスロットを見て、ミホークは意外そうな顔になった。
「私の覚えている限り、ユーリンドは盾を扱う剣術をしておりましたな。貴方には今盾がない。これは公平ではありませんな」ミホークは手下の兵士に向き直った。「おい、副隊長どのに盾を用意してさしあげろ。――違う、それは鍋のフタだ。誇り高きユーリンドの騎士はそのようなものは扱わないぞ」
それからランスロットと賊の持ってきた鍋のフタを見比べ、ミホークは控えめに笑った。恐らく、それも似合っていて悪くないと考えたのだろう。つくづく癇に障る男だ。
ようやく賊が盾を用意し、ミホークはそれを取り上げた。それからランスロットに向かって木製のなかなか丈夫そうな円形の盾を転がす。ランスロットの足元で盾は倒れて短い間グルグルと回転した。
回転が収まるころにランスロットは拾い上げ、ミホークを見上げる。
「心遣いに感謝するよ、ミホーク」
「大いに結構」ミホークはまた嘲笑するように言った。「私もユーリンド式で行きましょう。正々堂々とした一騎打ちなのですからな」
手下がミホークの分の盾と剣を用意する。二人の準備が揃った。
ランスロットは盾を降ろし、右手に持った剣を十字に切ってそれから脇の方で振り、盾を突き出してユーリンド剣術式の挨拶をする。見事に無駄のない動きを見て、ルウェンは感心して頷いた。
対するミホークも同じ動作でユーリンド剣術の挨拶をすませる。ランスロット同様、無駄のなく軽やかな動きであったが、この男がすると全く別のものに見える。
合図もなく、戦いは始まった。だが二人は睨みあっているだけだ。間合いを詰めるためにじりじりと寄っていくわけでも、走るわけでもない。
「ああ、そういえば――」ミホークは言った。「近々、副隊長から一隊長に任命されたようですな。おめでとうございます」
「昔の話だ――」
先にランスロットが踏み込んだ。ミホークの脇に向かって剣を振る。ミホークはあっさりと盾で防いだが、その直後にランスロットの盾が胸を打った。
一瞬よろめくが、それから態勢はすぐに戻り彼も同じように盾で叩きつける。ランスロットはそれを盾で防ぐが、力はミホークの方が上の分、今度はランスロットがよろめいた。
咄嗟にミホークは剣を振る。ランスロットも剣を振り、鈍い金属音が響いた。それから剣と剣の攻防が始まり、つかの間二人は離れて間合いを取る。
「お前こそ、せっかく騎士団に入団できたというのに仲間を裏切り、いつの間にかこんな賊どものお頭にまでなっていたとはな。大した出世だ」
「昔の話です――」
今度はミホークから踏み込んできた。荒々しく剣を振る。ランスロットは一撃を交わし、続いてやってきた盾の一撃を盾で受け止めた。どうやらこの男は、盾と剣のバランスを保ったユーリンドの剣術を忘れてしまったらしい。
柄が長い分、扱いには困難なものが多少あるが、慣れてしまえば問題などあまり感じない。ランスロットは浅く踏み込んでミホークの次の一撃を待つ。ミホークは大ぶりで剣を振ってきた。これが好機だ。
ランスロットは一撃を盾で受け、続いてまたやってきた盾を難なくかわした。そしてこちらの反撃に転じる。
彼の剣はミホークの首筋まで振られるとピタリと止まった。ミホークの肘がランスロットの肘を受け、抑えつけられているのだ。
思わぬ防御にほんの一瞬だけ隙ができ、そこを突かれるのは容易なことだった。ミホークは剣を振り、そこから次々と攻撃を繰り出す。ランスロットは防戦一方となり、反撃に転じる隙を窺う為に間合いを取る。
だがミホークはなお全身を続けて剣を振り絞り、徐々に追い詰めていった。どっと賊から歓声が上がる。ルウェンは目を瞠ってみていた。
騎士団を抜けてはいたが、ミホークはユーリンド式の剣術を当時マスターしていたのだから対抗策はいくらでも思いつくのだろう。ランスロットの攻撃を次々と防いでは意表を突いた一撃を繰り出し、確実に追い詰めていく。
ランスロットの横顔にも妙な汗が流れ始めた。バランスの取れた攻防を無理やりひきはがすミホークの戦いは凄まじいもので、好機を見つけて反撃してもすぐにまた同じように追いこまれてしまう。
どうやらミホークの方が一枚上手らしい。だがランスロットは全く勝機を感じていないわけではなかった。ユーリンド式を読まれるのなら、それとは違った剣を見せればいい。
咄嗟に隙を見つけてランスロットは地面を蹴って後退する。一気に距離を離し、ミホークが再び踏み込む瞬間に、それよりももっと早くランスロットは踏み込んだ。
盾が転がり、歓声を送る賊の方に転がっていく。それはランスロットの盾だ。同時に、ミホークの脇を抜けてあの長い刀身の剣が彼の横腹をかすめる。
反応してミホークは脇に向かって剣を振ったが、空振りに終わった。ランスロットは彼を抜けると、さっと身をよじりミホークを見る。盾を捨てた彼は両手にルウェンの剣を持ち、ユーリンド式ではなくアーチェルド式の剣術の型を取っていた。
ミホークが横腹の浅い切り傷を見た瞬間に、再びランスロットが踏み込む。ミホークは盾で防ぎ、同時に剣をランスロットに向かって突き立てるが、彼はそれを難なくかわしてまた攻撃に移った。
先ほどまでユーリンド式を相手にしていたミホークは咄嗟にアーチェルド式に乗り換えたランスロットの動きに翻弄され、今度は逆に後退していく。ランスロットはアーチェルドの型を取るのは、初めてではなかった。
ユーリンド式は主に守りの型だ。盾で防ぎ、隙を剣で突くというシンプルな戦いが基本となっている。アーチェルド式はそのま逆で、両手に持つ剣から強力な一撃を繰り出していくのが主になる。
攻撃だけに身を転じていたミホークは、逆に攻撃を繰り出された時の手段にまだ慣れていないようだ。慣れることができれば、それなりに反撃までしてきただろう。
ランスロットはそうなることに異を唱え、すかさず激しく襲いかかった。
ミホークは剣を振り、ランスロットはそれに対して大ぶりでルウェンの剣をぶつける。金属音が響くと同時にミホークの態勢は崩れ、のけぞった。同じように前につんのめるランスロットは一気に地面を蹴って全体重をかけてミホークに体当たりをする。
二人は同時に地面に倒れた。ランスロットは受け身を取り立ちあがり、ミホークも同じように立ち上がる。ミホークは自然に取られた間合いに余裕をもったのか、笑みを浮かべた。
「私の知らぬ間に、ユーリンドは少し変わったようですな」
「いいや、ユーリンドは何一つ変わっていない。変わったのはお前のようだな、ミホーク。まるでなっていないな」
不敵な笑みがランスロットの目に入る。ミホークは手に持った剣と盾を放り投げた。黒く長い髪は乱れているが、しっかりと後ろの方まで撫でおろされており髪型の変化はない。だが、何かが変わった。
「私も、何一つ変わってはいませんよ、ランスロット」
そこでランスロットは彼が今まで、背中に巨大な大剣を背負ったままであることに気づいた。確かに昔と比べると動きは緩慢で、鈍く見えたが、思った以上に押されていたので気づかなかった。
彼は背中の大剣の柄に手をかけた。指は小指から人差し指まで順番に絡みつくように柄を握りはじめる。
「ただ、変わるとすれば、私が貴方を弱いと感じ、貴方は私に強大な存在となってしまったことに畏怖を感じるくらいですな」
賊の歓声が突然止み、静まりかえる。ランスロットはすぐに態勢を戻して剣を寝かせ、腰の方まで降ろして構えた。アーチェルドの型にはさまざまな構えがあるが、これが一番ランスロットにはしっくりくる型だ。
盾をわざわざ拾い上げる気はなかった。とにかく、早くこの勝負に決着をつける必要がある。
ミホークは大剣を背中から離し、両手で持って刀身の先を地面に当てるように降ろした。彼は構えていなかった。
即座にランスロットは走る。それでもミホークは構えずランスロットを見据えている。ランスロットの腕の倍はある丈の刀身から繰り出される威力は計り知れない。あれがただのこけおどしであることを祈りたいが、ミホークはそんな男ではない。
だからこそこの男がこの大剣を振ることを許してはいけない。
剣がミホークに振られるまで、彼は微動だにしなかった。彼の大剣に固定した構えなどないのだ。大剣が振られるその時が、唯一の構えとなるのだから。
ミホークの腕の動きに合わせて大剣は荒い唸りを上げて空を切った。ランスロットは持ち前の判断と反射神経で何とか避けることができたが、本当に紙一重であった。
賊は身じろいで一歩後退を始め、大剣を振った時に生じた風はルウェンの髪をなびかせた。全員が唖然としていた。
二人を残す戦士全員が。
再び踏み込み、ランスロットが剣を振ろうとしたその時、ミホークはそれよりも早く後ろに後退し同時に大剣を横薙ぎに振る。ランスロットはかがんで避けるが、間合いの広い大剣に対してはあまり適切な避け方ではなかった。
ミホークはくるりと回転して、勢いをそのまま生かして振る。振る。さらに振る。
すべてが空振りに終わるも、大胆に攻めてくるその一撃一撃は強力で、防ぎようが全くなかった。ランスロットは跳躍し、転がり、かがみ、後退し、あらゆる動作で何とかかわし続けるが、顔には余裕どころか切羽詰まった表情が浮かび上がっている。
これがミホークの本気だ。
周りで見ているものは、つい凶暴なドラゴンと一人の騎士の戦いに見えてしまう。それも、騎士に勝ち目のない戦いに。
ミホークの大剣はドラゴンの牙であり、尾であり、吐き出す炎であり、そして身体そのものであった。すべての一撃で、騎士は絶命する。
騎士、ランスロットは攻撃に身を転じる隙を窺う暇もなく、ミホークの攻撃を避ける事で手いっぱいだった。やがて汗がどっと噴き出し、短い間とはいえ激しく動きすぎて息が荒くなり、苦しくなる。
「ランスロット!」ルウェンが飛び出すが、同時に賊が武器を構えて止めに来た。「ええい、どかぬか、馬鹿者どもめ!」
ルウェンと賊が争いを始めそうになっているにも関わらず、ランスロットには大剣の軌道にしか集中できなかった。全身を使って全力で逃げ切っても、またしつこくこちらを追ってくるドラゴンの炎はランスロットの体力を凄まじい勢いで消耗させていく。
やがてランスロットの膝がガクリと折れた。ミホークはにやりと笑い、とどめの一撃を繰り出す。天から降り落ちる大剣の刃がランスロットの瞳に映った。
いいや、まだだ!
地面を全力で叩いて大剣を回避する。彼が元いた位置には大剣が深くめり込んでおり、砕けた石畳の破片が飛び散っていた。ミホークは素早く大剣を振り上げる。
今避けたときの全力で力を使い果たしたようだ。全身は震えて、力が湧かない。ランスロットは見上げて、ミホークを睨んだ。ミホークの顔にも余裕はなかった。どうやら彼は、ミホークが思っていた以上に奮闘したらしい。だがそれもここまで、なのだろう。
少し離れた所ではルウェンが賊相手に怒鳴っていたが、彼は何かに気づき突然口をつぐんだ。賊達が一瞬緩むと、ルウェンはその隙に賊を押し倒して走り出した。
ミホークは膝をついて最後まで睨む姿勢を取るランスロットと目を合わせた。この男は今まで戦ってきた者の中で一番しつこい相手であった。
あの大剣の嵐のような攻撃をすべて避け切ったのはこの男だけだ。さすがは、グラベリスの次に大きい国の勇士。隊長の名に恥じない動きであった。
明日にはこの男が一騎打ちに敗れたという知らせがユーリンドに届くであろう。そうなれば、また賊軍の脅威は上がり、恐れる者がさらに増えてゆく。実際このネーミヌドを落とすのは簡単であった。兵は脅え、士気を失っていたからだ。
これからさらに賊軍が名を上げていけば、それこそアーチェルドを取り込むなどわけないだろう。ランスロットがなぜこの地に足を運んだのかはわからないが、時期にユーリンドも同じ運命をたどることとなる。
ランスロットから目を離すと、一人の老兵がこちらに向かって走ってきていた。仲間であるランスロットを助けるためか? 馬鹿馬鹿しい。彼がここに到着する頃には、自分はランスロットに三回は大剣を叩きつける事ができる。だが、一回でいい。そう、たった一回でこの男は他の民同様、今まで襲ってきた村人同様、無に打たれ地面に伏してしまうのだから。
彼は建物の一部である塔を見た。あの場所には、射撃のベッフィという部下がいる。老兵の始末はベッフィに任せればよいだろう。しかし、塔のベッフィはなぜかこちらを見ていない。自分達のいる場所とは違う、明後日の方向を見てクロスボウを構えている。
何をやっているのだ?
という疑問を感じた瞬間、ランスロットに再び視点を戻した。まずは、何よりもこの男を始末しておく必要がある。
そして彼は大きく振りかぶった。
突然、賊が歓声を上げ始める。予想外の歓声にミホークの手は自然に止まってしまっていた。そして歓声以外にも、何かが聞こえる。
馬の蹄の音。それも複数頭いる。
状況を理解する前に、それはやってきた。突然馬車の貨物が現れると、それは賊をなぎ倒し、無理やり円の広間へ突入する。貨物を引いていた馬車の馬は二頭で、二頭の馬は賊に突っ込むと同時に横転していた。
だが蹄の音が止んだわけではない。まだいる。突っ込んだ馬車の貨物が生んだ道をまた別の馬が二頭、馬車を引いて走ってきたのだ。賊達は突然の襲撃に呆気にとられ、反撃と言う言葉を忘れて身を引いていった。
馬は広間を切るように一直線に疾走している。ルウェンがランスロットの元にたどり着き、ミホークはこの馬車の狙いが彼らだとわかった。
早々にとどめを刺そうと再び振りかぶった瞬間、馬車は到着し、馬車を引いていた馬は前足を上げてミホークを威嚇した。
強烈な馬の蹄を大剣の腹で受け止めるが、衝撃で彼は地面に尻もちをつく。ルウェンは動けないランスロットを抱えて即座に馬車に乗り込んだ。
逃がしてなるものか! ミホークはすぐに立ち上がったが、それよりも早く馬は賊に突っ込まんばかりに走り出した。
ミホークの前を馬が横切る瞬間、馬車を引いていた者と目が合った。御者というには実に幼い、少年だった。水色の透き通るような瞳に、美しい金色の髪の毛。ほんの一瞬だけ二人の目が合う。
馬車はそのまま通り過ぎ、ランスロット達を乗せたまま賊へ突っ込み活路を開いていった。
賊達も追いかけようと馬に乗り、ミホークの指示を待つ。
「お頭、どうしますよ! あいつら、逃げちまったぜ!」
もしこのまま先に行くとして、ネーミヌドを出るとしたら連中は恐らくまだ落ちていない都、マルチェルダへ向かうだろう。だがまだミホークの賊軍は、マルチェルダを落とすまでの準備をしていない。マルチェルダに到着する前に、連中を捕まえておく必要がある。
そしてマルチェルダへの道は、この先二手に別れているのだ。一つは険しい山道で、とてもじゃないが馬車が行ける道ではない。もうひとつは街道で、一般的な通路だ。
それは連中も知っている事だろう。あのランスロットがいるのだ、きっと自分の裏をかこうとするだろう。
「お前達はソーン山の道を進め。ランスロットは絶対に殺せ」ミホークはそう指示を下した。「街道へは四人でいけ。万が一馬車を見つけた場合、合図しろ。」
賊を乗せた馬は次々と走りだした。残ったミホークと複数の手下はそれを最後まで見ていた。
ミホークは最後に目のあった少年を思い出し、何か不気味な気分になった。見たこともない顔だが、この街の者か? それとも、ランスロットと同じくユーリンドからやってきた何者か、なのだろうか。
子供だというのに、なぜだか油断がならなかった。あの間抜けで愚かな賊達に任せてよいものだろうか。それに相手はあのランスロットだ。あの男なら、追ってくる賊から逃げ切ることは不可能ではない。
「おい、ベッフィ」塔から降り、到着したベッフィをミホークは睨んだ。「俺の馬を用意しろ。俺も街道を走る」
ルウェン達を乗せてから馬車は猛烈に速度を増しながら疾走していた。ピーターのくれた街の地図によると、このまままっすぐ進めばネーミヌドを出て、マルチェルダへの街道へ入れるという。
道は二手に別れていて、一つは険しい山道、もう一つはただの街道。賊があのまま逃がしてくれるとはとても思えない。逃げるとすれば、どちらが有利であろう。
馬を走らせていたルセスのもとに、馬車から身を乗り出してルウェンがやってきた。
「助かった! だが、これからどうするつもりだ。馬車ではあまり早く走れないし、山道を進むのはかなり厳しい。かといって街道へ進めば、やつらにすぐ追いつかれるぞ!」それから彼は子供に何を聞いているのだろう、と思ったのか、自分で決断を出した。「いや、山道へ進もう。あの道なら連中も馬でやってきても、中々早くは進めんだろう。私達も同じようなものだが、運が良ければ…」
「いいえ、このまま街道を進みます」ルセスはきっぱりと言って、馬の手綱を強く引いた。
「なんだって?」信じられないような顔でルウェンはルセスを見る。「街道だと? 正気かね」
「大丈夫です。街道なら、少なくとも山道なんかよりずっと安全です」
ランスロットが息切れに喘ぎ、ついに咳をするようになってルウェンは馬車に引っ込んだ。引っ込む前に何かを言おうとしていたが、諦めたように顔をしかめていた。
それから馬車はネーミヌドを出て、街道へ入った。ルセスは少しも悩んでなかった。街道が安全だといったのは、何もでたらめというわけではない。これから少し大変になるかもしれないが、賊に追いつかれない自身は確かにあった。
そう、ルセスは自身に満ち溢れていた。これから何が起こるのかさえ、わかっていた。四人ほどの賊は街道へやってきて、そして自分達を見失うのだ。
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