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2003.11.14
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カテゴリ: 日替わり日記
野鳥3


年賀状を注文にきた老人をみて、突然ある女性人形作家のことが甦った。
その人はすでに亡くなっているが、時代の人物をモチーフに日本の創作人形を作っていた。
ちょっと目にはよくある日本人形であったが、生きているのではないかとさえ錯覚する人形の科(しな)やどこかエロスを感じる表情は好事家にも人気があり、ウイーンで行われた「ヨーロッパ国際創作人形展」で優秀賞を受けるなど、一時この地域では天才的ともてはやされていた。
腕は良かったが寡作であったため、人形で生活できるほどではなかった。また金銭感覚に疎く、男出入りも少なくなかったということである。
生涯独身であったが子どもが一人あり、その子どももある分野では天才肌の芸術家だった。
ひょんなことから僕と親しくなったこともあり、母親のことをよく聞いた。「俺の親には近づかんほうがいい」と、あらかさまにもいった。
ことに、彼の母親が亡くなった年の初盆の晩に聴いた話しは衝撃的で、忘れられない。

彼によると、自分はある料亭の旦那とのあいだの子どもで、認知こそされていなかったが、成人するまでの養育費はその旦那から貰っていたということである。しかも、ほかにも父親に相当する人物が二人ほどおり、それぞれが大店の店主であった。
自分が実際に誰の子であるのか正確なところはわからないが、その父親たちにも認知しない子どもとして、密かに認められているのだという。


彼女の人形に使う衣装は、西陣や友禅の職人に注文して生地を織らせるほど徹底しており、人形一体の生地代がときには数十万もかかることがあったという。
そうした材料代や、金銭感覚のない浪費癖のために、ときどきまとまったお金を父親にあたる人に無心していた。
母親のその姿が、子どもの頃いやでたまらなかったそうだ。

親子の住まいは古びた借家で、家中ちらかり放題だった。しかし8畳間ほどの母親の寝室は小綺麗にかたづいており、不釣り合いなほど大きな三面鏡が据えられていたということである。

年に数回ほどだが、母親のもとに「父親」が訪ねてくる日には、彼は母親に小遣いをもらって家をでて、夕方に「父親」が帰ったころを見計らって戻った。家に帰ると、母親は一心にスケッチをしているのが常だったそうだ。
母親は描いた絵を見せたがらなかったが、ある日母親のタンスにしまわれていたスケッチブックをみて、彼は仰天したそうである。
目や口、指や足というように、人間のパーツのスケッチとともに、春画に見まごうようなスケッチが様々な角度で描かれていて、ことにそれぞれが美しいエロスに満ちていたということだ。
ところが、その表情はどうも母親の顔であり、しかも、いままで見たこともないような歓びと恍惚を湛えており、子どもごころに興奮と嫌悪感が入り混じりその一晩は眠られなかったということである。それいらい彼は母親をこころのなかで成人するまで軽蔑してきたということだ。
母親が死んで、彼はその絵すべても骸とともに棺に、納め火葬に処してしまったという。残された人形が十数体ほどあったが、それもだんだんと彼の生活費に換えられていった。

のちになって彼はいう。
「振り返ってみると、俺の母はあのスケッチをもとに人形を作っていたのだろう。あの人形たちは、俺の〈きょうだい〉たちだったのかも知れない。」

僕は、そんな大事な物を貰うわけにいかないから大切にしなさいと固持した。しかし、彼はそれもどこかに処分してしまった。
勝手な想像ではあるが、あるいは彼は三面鏡のなかに母親の情事を見てしまったのではないだろうか。手元に置くかぎり、その姿が身から離れられないという怨念にとらわれてしまったのかも知れない。

その後、彼は借家を出て越していった。いくつもの病気を抱えていたため、生活保護の申請をすすめた。

何故か僕は母親の葬式の手配などの面倒をみて、そのうえ彼の借金の保証をした銀行に肩代わりをするハメになった。それまで芸術肌の彼からずいぶん学んていたこともあり、保証を頼み込まれたときに断れなかったのだ。肩代わりのための費用の幾分かを親しい友人の世話になるはめにもなった。
それを機に彼との交際は絶った。彼はその後も才能を買ってくれる人たちに少しずつ迷惑をかけながら細々暮らしていると風のたよりに聞いている。




その老人がそろそろ、できあがった年賀状を受け取りにくるころだ。

てんし










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Last updated  2003.11.14 21:59:30
コメント(12) | コメントを書く


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Re:人形は鏡を出入りする情事(11/14)  
エムツー  さん
母親の中の「女性」を見たがらないのは、「男性」特有かもしれませんね。

私たちが高校生のころ、とにかくそのお母様は「近所のおじさま」と「仲良し」ということで有名でした。確かに年の割には若く、美しかったのです。

でもその息子たちは、成人し2人とも結婚しましたが、奥様はとても「地味」で、おせいじにも
「キレイ」といえるような方ではなかったですが
「美しい人は浮気する」という固定概念が頭からあなれないから・・と言ったのが印象的でした。

(2003.11.14 16:08:56)

Re:人形は鏡を出入りする情事(11/14)  
藤沢あゆみ  さん
いやぁ…これはひとつの作品ですよね…
切ないお話です

彼の気持ちはよく判ります
そして、一番嫌っていた母と同じことを繰り返してるんですよね…
親は選べないけど生き方は選べるはず
だけど大抵の人は刷り込みから逃れられない・・・

落ち着きましたら紹介させてください
リンク光栄です(^^) (2003.11.14 17:37:29)

Re:Re:人形は鏡を出入りする情事(11/14)  
msk222  さん
エムツーさん
>母親の中の「女性」を見たがらないのは、「男性」特有かもしれませんね。

お母さんだけは、エッチなことをしないと思っていました(ウソ)。

>私たちが高校生のころ、とにかくそのお母様は「近所のおじさま」と「仲良し」ということで有名でした。確かに年の割には若く、美しかったのです。

最近は、年の割に若くて美しいお母さん多いんじゃありませんか。

>でもその息子たちは、成人し2人とも結婚しましたが、奥様はとても「地味」で、おせいじにも「キレイ」といえるような方ではなかったですが「美しい人は浮気する」という固定概念が頭からあなれないから・・と言ったのが印象的でした。

逆に、美しすぎるひとには近寄りにくいってことがあります。…もしかして、エムツーさんが独身なのも……。
(2003.11.14 22:06:02)

Re:Re:人形は鏡を出入りする情事(11/14)  
msk222  さん
藤沢あゆみさん
>いやぁ…これはひとつの作品ですよね…
切ないお話です

お母さんとお会いしたことがありますが、普通のきれいなおばあちゃんでした。

>彼の気持ちはよく判ります
そして、一番嫌っていた母と同じことを繰り返してるんですよね…。親は選べないけど生き方は選べるはず
だけど大抵の人は刷り込みから逃れられない・・・

波瀾万丈な生き方だけれど、本人はけっこう楽しんで生きているようなんですね、もっと書きたい裏話があるけれど、誰だか特定されてしまうとコワイ。
それにしても、あゆみさまの日記には驚きました。
(2003.11.14 22:12:47)

Re:人形は鏡を出入りする情事(11/14)  
唯乃葉羽  さん
自分の事と重ねあわせ、ドキドキしながら読みました。

私は、ヨイ子ちゃんです。

だから、浅いのかなあ・・・どうしても、美しいものの方が好きなんです。自分の中に、汚れたもの沢山持っていますから。

回りのことばかり考えてしまい、そのほうが美しいと決め込んでしまう。

時々、そんな自分を捨てたくなってしまうのですが・・・ (2003.11.15 12:10:24)

Re:人形は鏡を出入りする情事(11/14)  
生き方そのものが、ドラマのような人が確かにいますね。

人は、みな、その性から抜けれない苦しみを背負って生きているよう。

普通と思っている人にも、トラウマがどこかにあるような気がします。

ところで、この銀杏、なんとなくセクシーですね。

僕だけが、そう感じるのなら、それもトラウマのようなものかも・・・。 (2003.11.15 12:45:14)

サトリハイツノヒノコトカ  
唯乃葉羽  さん
方恋をして、突っ込みきれないまま、
この人も違うのだと失恋気分に陥り、
(つまり、一人相撲)

そうよ、人は一人なの。
解り合える人なんているはずは無いの。と、
まるで悟りを開いた境地になり、
また一つ大きくなり、腹も座った気がしたその直ぐ後に、
探しものは何ですか?と、
また心は放浪の旅に出る。

この、病気とも思われるものは、
一体何なのでしょう?

最近では、絶対無いという確証を掴むために、捜し物を続けているのではないかと思う程です。
      (2003.11.15 15:59:40)

Re:人形は鏡を出入りする情事(11/14)  
イエペ  さん
父親の「男」を見るのも、母親の「女」を見るのもいまだに苦手です。(笑)
小さい頃に父のエッチな本を見つけてしまったときのショックは忘れられません。スケッチを見た時の衝撃とは、それ以上だったでしょうから、今日も深いところで、ずっしり来る感情を抱きました。
今では艶のなくなってしまった老人が、時の流れを感じさせますね。
あぁ・・・いつの日か、まだ小さい娘も、母親の私の「女」の部分を感じたくないと思う日が来るのだなと思うと、輪廻みたいなものも感じます。
(2003.11.15 16:24:34)

Re:Re:人形は鏡を出入りする情事(11/14)  
msk222  さん
唯乃葉羽さん
>自分の事と重ねあわせ、ドキドキしながら読みました。私は、ヨイ子ちゃんです。

ハイハイ、よ~くわかっていますよ。とむぼさんの子どもたちは、透き通るほど透明感があって、ドロドロしたものとは無縁な世界です。

>だから、浅いのかなあ・・・どうしても、美しいものの方が好きなんです。自分の中に、汚れたもの沢山持っていますから。

美しいものをより美しく創る人。汚れたなかから美しいものを創る人。どっちも素晴らしい。
僕は美しいものを汚すだけなんだから…。

>時々、そんな自分を捨てたくなってしまうのですが・・・

自分は大事にしてくださいよ。


>解り合える人なんているはずは無いの。と、まるで悟りを開いた境地になり、また一つ大きくなり、腹も座った気がしたその直ぐ後に、探しものは何ですか?と、また心は放浪の旅に出る。

人はたひびと、生まれたときから放浪の旅がはじまる。なんちゃって、と。

>この、病気とも思われるものは、一体何なのでしょう?

夢遊病かも…?

>最近では、絶対無いという確証を掴むために、捜し物を続けているのではないかと思う程です。

 人間を掴めば風が掌にのこり
という川柳を書いた人がいます。掴もうとするから風になる。寄り添えばいいのです。

今日はなんだか、人生相談の易者みたいになってきたなぁ。
(2003.11.15 18:59:47)

Re:Re:人形は鏡を出入りする情事(11/14)  
msk222  さん
水彩画人 俊介さん
>生き方そのものが、ドラマのような人が確かにいますね。

俊介さんの日記を読むと、俊介さんそのものがドラマです。

>人は、みな、その性から抜けれない苦しみを背負って生きているよう。

苦しみも、悲しみも、やがての歓びにかえながら…。

>普通と思っている人にも、トラウマがどこかにあるような気がします。

…ですね。

>ところで、この銀杏、なんとなくセクシーですね。
僕だけが、そう感じるのなら、それもトラウマのようなものかも・・・。
-----
じつは、僕もそう感じてくれる人がいるんではないかと思っていたんです。僕だけエッチだとしたら寂しい…。
(2003.11.15 19:05:27)

Re:Re:人形は鏡を出入りする情事(11/14)  
msk222  さん
イエペさん
>父親の「男」を見るのも、母親の「女」を見るのもいまだに苦手です。(笑)

でも、夫がオトコでなかったらヤでしょう。

>小さい頃に父のエッチな本を見つけてしまったときのショックは忘れられません。スケッチを見た時の衝撃とは、それ以上だったでしょうから、今日も深いところで、ずっしり来る感情を抱きました。

あっ、僕も隠さなくては…、ってもう遅いか。

>今では艶のなくなってしまった老人が、時の流れを感じさせますね。

なるべく遅くまで艶はもちつづけたいですね。

>あぁ・・・いつの日か、まだ小さい娘も、母親の私の「女」の部分を感じたくないと思う日が来るのだなと思うと、輪廻みたいなものも感じます。

いまから、夫婦ベタベタして免疫をつけてしまえばいいんですよ。僕にはできなかったけれど…。
僕は、母親が女であってステキだと思っていました。

(2003.11.15 19:26:19)

Re:人形は鏡を出入りする情事(11/14)  
唯乃葉羽  さん
msk222さん
>♪この、病気とも思われるものは、一体何なのでしょう?

>夢遊病かも…?

♪それで理解できました!(にこにこ)

>♪最近では、絶対無いという確証を掴むために、捜し物を続けているのではないかと思う程です。

> 人間を掴めば風が掌にのこり
という川柳を書いた人がいます。掴もうとするから風になる。寄り添えばいいのです。

♪いいですね。涙が出てきちゃいました。
寄り添えばいいのか。
忘れちゃっていたのかもしれないね。

ありがとう。

-----
(2003.11.17 11:30:57)

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