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2006.01.09
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カテゴリ: きまぐれエッセー
しめかざり



言われる前に認めておくが、記憶力が悪いのは小学校のときからで、自分が興味をもつ学科以外はとんとメモリーが働かなかった。忘れ物は常習で、何度立たされたかも忘れてしまったほどだ(自慢している場合ではないが…)。
最近では、姪の結婚式の日取りを忘れていて慌てたし、大事な会合を忘れて欠席したこともある。小さなことでは、毎日書ききれないほどだ。
そんなことから、母の晩年を思い出している。

母は48歳のときに脳溢血で倒れ、以後20年近くをリハビリと闘病の生活だった。
僕ら兄弟は家を出て都会で働いていたため、父と二人暮らしのときだった。
倒れた当初は病気の行く末を悲観して、このまま死なせて欲しいと父に泣きついたそうだ。
父母がそのような状態でいることにいたたまれず、東京にいた僕は故郷に帰って生活することにきめた。できの悪かった僕を、かわいがってくれた母のことを捨ててはおけなかったのだ。
ところが、生家は山深い田舎だったので仕事にならず、家から15キロほどの距離にある現在の町で仕事を始めることにした。もう30年も前のことである。

その後、リハビリを重ね、歩行や農作業なども問題なくこなせるようになったが、記憶障害は徐々に進行していった。物忘れがとてもひどくなっていったのである。
それまでの母は、本も良く読んでいたし、僕の手紙から文法の誤りなども指摘してくれたほどだから、当時の田舎の主婦としては知的レベルも高かったように思う(親バカ?)。女学校にあがるのは村で2、3人しかいなかった頃、家から30キロも離れた道のりを通った。(バスもロクに走っていなかったなかでだ)

薄紙を剥がすように快復するということをよく使うが、母の病気は薄紙を重ねるように進行していった。
こういう病気だからしかたがないが、後のほうになると料理のガスの火を消し忘れたり、サイフも持たずにバスに乗ったりと相当危なくなった。
そしてとうとう近くの特別養護老人ホームに預かってもらうことになった。
料理で、もう少しで火事になりかねないことが何度かあったからである。料理をしなくていいと言っても、やめなかったのだ。
僕は週末になると、家族を連れて施設を訪れた。
母は、幼い孫たちとリハビリ室で遊ぶのを心待ちにしていた。車いすに乗せて、外に散歩にでると僕ら兄弟の幼い頃の話を懐かしむようによくした。
気づいたのは、病気がすすんで身の回りのことも不自由になってきた母が、驚くほど鮮明に昔の記憶を語ってくれたことである。
僕が高校時代に、こっそりガールフレンドたちとキャンプに行くことを知って知らぬフリをしていたこととか、僕の布団の下にあった発禁書のタイトルなどまで覚えていた。
それが、そのうちに語る記憶が中学生時代、小学生時代、幼児期へと下がってゆき、自分の幼い頃の昔にまで遡るころには、相当に痴呆(認知症)がすすんでいた。

最後には、それさえもおぼろげになり、子供と孫の名前の区別さえつかなくなり、口もきけなくなって、しばらくしてから亡くなった。

母が亡くなってから、図書館で調べ物をしていたときに、偶然に井上靖の『月の光』という作品を見つけて、読みながら釘付けになった。
作者が母の介護をする様子を書いた内容であった。
そこでは、枯葉の軽さにも等しい肉体と毀れた頭をもった老母の生態から、作者が何を発見していくのかが克明に記されていた。
作者が発見したものは「母は消しゴムで己が歩んだ人生を消してゆく。消しゴムは老いである」(「花の下」)という事であり、また「母はどうやら自分が歩んできた長い人生を、70代、60代、50代というように、歩んできた方向と逆に消し始めている」(「月の光」)という事であった。

例えば義母は、亡くなるすこし前からだんだん子供になって行き、死ぬ2、3日前にはとうとう本当の赤ちゃんのようになってしまう。お乳のつもりで指をくわえてちゅうちゅうと吸うのである。
しかし、70代、60代、50代、40代と、自分が歩んできた長い人生を逆に消して行くとすれば、すべてを消し去ったあとに一体何が待っているか、作者は科学者のごとく冷厳な目と詩人の哀しい心で、そこには死だけが残っていると、老母をじっと見守るのである。
というような内容だったが、それは僕が母との会話のなかで感じていた感情そのものだった。僕が不思議に思いながら、形にできなかったことを井上靖は文章として見事に表現していた。

と、ここまで書いていて、はじめに書き始めてきた内容とだいぶズレてきたことに気づく。僕が書こうとしたことは、僕も記憶障害があるのではないかということだ。
やっぱり、認知症がはじまっているのか。
気のせいか成人した子供たちのことより、育てていた頃の記憶のほうが鮮明になってきたような気がする。

今日、図書館から貸し出してある本の期日が過ぎているから、返却するようにという電話があったという。そうだ、それでこの日記を書こうとおもったのだ。

やっぱり始まっているのか…。





借りた本は、 リリー・フランキーの『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』 これも、亡くなる母上のことを書いているけれど近頃にない面白さ、★★★★お薦めです。



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Last updated  2006.01.10 23:16:04
コメント(11) | コメントを書く
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Re:僕の認知症(01/09)  
senju  さん
私の身内も認知症です。
正月に集まったとき、大分進行しているのがわかりました。
コンセントを抜いてしまったり、突然懐中電灯を持って家中点検して回ったり、「そんな名前の娘は知らない。生んだ覚えは無い」「家に帰る(生家のことらしいです)」と言ったり。
すでに子供・孫を認識できない状態なので、何度も「お客さま?」と不思議そうに聞かれました。
覚悟はしていたつもりなのですが、ショックでした。
その矢先にこちらの日記を拝見したため、非常に迷ったのですが書かせて頂きました。
拝見したときの衝撃をお伝えしたかったので・・・。
井上靖の『月の光』、読んでみようと思います。
ありがとうございました。 (2006.01.11 00:24:35)

Re[1]:僕の認知症(01/09)  
msk222  さん
senjuさん
senjuさん
こんにちは
つたない日記に目をとめてくださりありがとうございます。
認知症は、溌剌としていた頃の当人を知っているだけに、家族や周囲の人にとっては心の痛むものです。だんだん離れて遠くに行ってしまうような…。
しかし、こういういい方もできます。
“認知症は神様が最後にくれるプレゼントです”
周囲からみてどうしようもない行動も、それは人間社会の価値観からみて感じるわけです。
認知症のご本人は、それまでの価値観の呪縛から解き放たれて、解放された気分でいるのかも知れない、と。
人間だから感じる、困った行動。そこから原点に戻ってゆくだけではないかと。

>私の身内も認知症です。
>正月に集まったとき、大分進行しているのがわかりました。
>コンセントを抜いてしまったり、突然懐中電灯を持って家中点検して回ったり、「そんな名前の娘は知らない。生んだ覚えは無い」「家に帰る(生家のことらしいです)」と言ったり。
>すでに子供・孫を認識できない状態なので、何度も「お客さま?」と不思議そうに聞かれました。
>覚悟はしていたつもりなのですが、ショックでした。
>その矢先にこちらの日記を拝見したため、非常に迷ったのですが書かせて頂きました。
>拝見したときの衝撃をお伝えしたかったので・・・。
>井上靖の『月の光』、読んでみようと思います。
>ありがとうございました。
-----
図書館などの全集などには収録されています。
ネットでも探せると思います。
(2006.01.11 15:12:02)

Re:僕の認知症(01/09)  
夢子0506  さん
こんばんは。
>>
そのとき、ついてきた人がなぜか現在は妻になっているのだが、そのことはまあいい、若気のいたりだった。
<<
これtekさんが言ってるんだよね。
どう読んでも、文の書き方までおかしいじょー!!
^^
でも、わたしも、mskさんと以下同文状態です。
昔のことはよく覚えているのに。先週見た映画のタイトルが出てこなかったり、突然知り合いのフルネームがいえなくなったり、教は何日何曜日か突然きかれて答えられなかったり、、、、ーー;
一緒に甥の道をお手徹内でお友達!!ネッ!!
お母様は48歳でしたか。私の母は62歳でくも膜下で倒れて以後12年間全くの植物状態でした。息子はおばあちゃんは、ベッドで寝てる人だと思ってたようですもん。
実母の最後を知ってるだけに、万一早すぎても、自分が分かるうちがいいなあーと思ってはいるんですが。
なお、図書館の本早よ返してや!!私とこまで回ってくるのが遅くなるから!!^^ (2006.01.11 22:43:16)

Re:僕の認知症(01/09)  
真理にゃんこ さん
「あんただれ?」って言われないよーに、あしあとつけときます。

でも、人間って、忘れる事ができるから生きていられるんだよね。
(2006.01.12 05:26:14)

Re:僕の認知症(01/09)  
真理にゃんこ さん
mskさーん、

>忘れる事ができるから生きていられるんだよね
なんて書いたきょう、年末に約束をブッチした友人に電話をした。

どーせどこかで酔い潰れちゃったんだろう?、ときいたら
実は記憶が飛んでいて全く覚えてないらしい。
酔って忘れたのと違うし、最近そんなことがしょっちゅうあるという。

まだらぼけっていうのかな。
人に迷惑をかける事を苦にして、友人知人のアドレス帳を全消去したそうだ。
認知症に気づいた彼の落ち込みようは、尋常ではない。

「わたしが誰かわかる?」
『そりゃわかるさ』とは言われたけど、
名前が出て来なかったから、忘れちゃったかもしれないな。
新しい友達が一人できた。ことにしよう。 (2006.01.12 19:57:28)

Re[1]:僕の認知症(01/09)  
msk222  さん
夢子0506さん
>でも、わたしも、mskさんと以下同文状態です。
>昔のことはよく覚えているのに。先週見た映画のタイトルが出てこなかったり、突然知り合いのフルネームがいえなくなったり、教は何日何曜日か突然きかれて答えられなかったり、、、、ーー;

そうでしょう、時々自分が既婚者だったことを忘れることも、もちろん妻子がいたことなど忘れてしまうこともたびだび、夢子さんもおなじだよね。

>一緒に甥の道をお手徹内でお友達!!ネッ!!
>お母様は48歳でしたか。私の母は62歳でくも膜下で倒れて以後12年間全くの植物状態でした。息子はおばあちゃんは、ベッドで寝てる人だと思ってたようですもん。
>実母の最後を知ってるだけに、万一早すぎても、自分が分かるうちがいいなあーと思ってはいるんですが。

うーん、いずれにしても介護をする立場は大変だ。
そのことを考えると、あまり惚けてばかりはいられない。

>なお、図書館の本早よ返してや!!私とこまで回ってくるのが遅くなるから!!^^
-----
返したよ!
(2006.01.12 20:41:51)

Re[1]:僕の認知症(01/09)  
msk222  さん
真理にゃんこさん
>「あんただれ?」って言われないよーに、あしあとつけときます。

>でも、人間って、忘れる事ができるから生きていられるんだよね。
-----
そうそう、あのときの男、このときの男、何ダースもみんな覚えていたら面倒っくさい。

僕もわすれて…、あっ、年賀状出すの忘れていたね。
夢に出てあげるからかんべん。
それと、通信ありがとう。しかるべき人にも渡しておきましたよ。

(2006.01.12 20:45:48)

Re[1]:僕の認知症(01/09)  
msk222  さん
真理にゃんこさん
>>忘れる事ができるから生きていられるんだよね
>なんて書いたきょう、年末に約束をブッチした友人に電話をした。

>どーせどこかで酔い潰れちゃったんだろう?、ときいたら
>実は記憶が飛んでいて全く覚えてないらしい。
>酔って忘れたのと違うし、最近そんなことがしょっちゅうあるという。

>まだらぼけっていうのかな。
>人に迷惑をかける事を苦にして、友人知人のアドレス帳を全消去したそうだ。
>認知症に気づいた彼の落ち込みようは、尋常ではない。

>「わたしが誰かわかる?」
>『そりゃわかるさ』とは言われたけど、
>名前が出て来なかったから、忘れちゃったかもしれないな。
>新しい友達が一人できた。ことにしよう。
-----
まさか、同じ年頃の人ではないね。
Kくんとか…。彼はまだ40になったばかりだから認知症というより不妊治療といったところかな。
(2006.01.12 20:50:17)

私も・・・  
福祉in和歌山 さん
はじめまして偶然に貴方のブログに遭遇しました。物忘れがひどいと書かれていて「う~ん私も同じだわ」今友達にメールで物忘れがひどいと送ったばかりでした。もうじき50代体も脳も日ごとに衰えていく・・どうしたら食い止めることができるのでしょうか!教えてほしいです。 (2006.01.14 22:04:14)

Re:私も・・・(01/09)  
msk222  さん
福祉in和歌山さん
>物忘れがひどいと書かれていて「う~ん私も同じだわ」今友達にメールで物忘れがひどいと送ったばかりでした。もうじき50代体も脳も日ごとに衰えていく・・どうしたら食い止めることができるのでしょうか!教えてほしいです。
-----
いらっしゃい。
どうしたら食い止めることができるか。
それは恋をすることだと思いますね。老人ホームでも恋をしてお年寄りが認知症から改善したということはよくあるそうですから…。
…と、いいながら僕の物忘れは改善してない。恋する努力が足りないのかなー。

(2006.01.14 23:33:35)

Re:僕の認知症(01/09)  
hiyokiti  さん
mskさん、おはようございます。

>病状がすすむにしたがって古い記憶へと移っていったのである

この箇所を拝見し、祖母のことを想いました。

やはり最初の頃は 私たち孫やひ孫のことを話題にしていたのですが
症状が少し進みますと、60年も前に亡くなった夫のことを話すようになり
最後には幼い娘時代のことを話すようになっていきました。

言葉のアクセントも少しずつ変化していきました。
最後には おそらく祖母の出身地のアクセントだったのでしょう、
宮崎の私たちには耳慣れない言葉で話していました。


人はこんな風に人生を逆行していくのかな・・・と思いました。



このたびはご心配頂きまして
本当にありがとうございました。

コメントをとてもとても嬉しく読ませて頂きました。
少しずつ元気を取り戻して強くなっていきます。

ありがとうございました。
(2006.01.18 08:44:52)

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