Naoya フランスでブラス!!

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ナオちゃん9978

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February 5, 2012
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カテゴリ: 修行の日々
 2月2日未明のパリ地方の気温はマイナス13度。私が今自分の新たなる門出に対するイメージにぴったりだと思う。生ぬるい風よりは、自分の目を覚ますような冷たい風を好む。風向きがころころ変わるのは、フランス人の性格そのもののよう。

「自らの羽で羽ばたいていく。」
 独立する時にフランス人が好んで使う表現。人生はよく航海や演劇に例えられるが、私には「道」という言葉が相応しい。

「もうここから先はお前独りで歩むんだ。」
 荒野のような場所に辿り着き、師フィリップは少し脇へと歩いていった。42年間の闘争の日々、その荷をようやく降ろし、技術の伝承の役割を終えた他のメートル・ダールの方々と合流した。
「ゆっくり休んでいいんだよ。『時代の流れのためにバラバラにされた職人たちのかつての結束力を取り戻す』という使命を続けたいなら好きにしていい。後は残された人生を奥さんをはじめ家族のためにできるだけ使って欲しい。もうすぐ生まれる新しい楽しみがあんたを待ってるから。あんたが創った『アトリエ フィリップ・ロウ』は俺が守る。10年間育ててくれてありがとう、師匠。」
 この職業に出会って以来職人のあり方を貫き通した師の背中に私はつぶやいた。
「職人の役割は技術の伝承というバトンを渡すようなもの。」
 私にはそれは終わりのない駅伝やリレーをするようなもののように思える。そして私の右手には一本のバトンが握られている。手放すわけにはいかない、この国の楽器製造の伝統技術が詰まった重いバトン。「やるしかない」と決めたとき、そのバトンの重さと感じていたプレッシャーは少し軽くなった。

「師なくして弟子はなく、弟子なくして師にはなれません。」メートル・ダールの弟子の一人、ヴァレリー・コラ・デ・フラン。

 前を見れば、険しい山も深い谷も迷宮のようなトンネルも、藪も深い霧も見える。曲がりくねって障害だらけの道。それが私の門出のイメージ。ところで「急がばまわれ」に類似する格言は世界中にあるらしい。
「迂をもって直となせ(中国の格言)。」
「回り道が最も近道(イギリスの格言)。」
フランス語でまだこのような格言を見つけていない。この国は多くの人がお金も苦労もかけずに成功する道を探しているが、そんなものはありえないというのが、私が10年の修業で得た答え。その他の言葉はあるようなので以下に抜粋。
「成功に王道なし。」
「全ての道はローマに通ず(意訳:成功する方法はひとつだけじゃない)。」
以上、白水社仏日辞書『Le Dico』より。
そして、
「自分の道は広いと思え。」
弘謙兼史氏の言葉を思い出した。


 そして音楽を始めるずっと以前の頃が見えた。そこには膝を抱えてうずくまっている一人の少年がいた。楽器に出会う前の私自身だ。もし過去に戻れるなら自分自身に言ってやりたい。
「うずくまってすねて、泣いてばかりいないで立ちなよ。世の中には面白いことがたくさんあるから。」
そう言って手を取って立ち上がらせてあげたい。
2008年、職業見学に来たエリアスという一人の少年がアトリエを訪れた。自分に全く自信を持てない少年だった。私の少年時代と違う点は「プロのドラマーになりたい」という夢があるだけ。自分の夢を語ったときは顔を輝かせたあと「でも僕自信ないから」と顔を曇らせた。私はその少年エリアスに言った。
「君が15歳というその年で夢を諦めるなんて早すぎる。」

「この見学の内容をクラスで発表するんだろ?そのレポートの書き方と発表の仕方は俺が教えてやる。君はそこで最高点を取って先生やクラスメイトを見返してやれ!」
小さなことでもいいから何かこの少年に自信というものを与えたかった。そして数ヶ月後。
「企業見学の発表で、クラスで最高点を取りました。40点中38点です。」
「ブラボー!よくやった!!」
後にこの少年はフランスのプロのドラマー養成専門学校に入学し、私たちに挨拶に来た。身長は180cmに達するほど成長し、気力に漲った顔になっていた。
「お前には競争相手が多い。でも負けるなよ。いつか有名になったらうちのアトリエを宣伝してくれ。」
「そうだ、打楽器製造もしくはヘッドの交換はぜひ『アトリエ フィリップ・ロウ』にご相談くださいって言うんだぞ。」
師と私はこの少年の未来を祝った。
 ひとつだけ私が誇りを持って言えることは、「ドジで不器用」ということを自他共に認めていて、「努力のどの字も知らなかった」と実の母親に言われた私でもここまでは来れたということです。私の技量ぐらい誰にでも辿り着けます。
「努力は才能を凌駕する。」小学館少年サンデーコミックス「史上最強の弟子ケンイチ」より、ふたつ名「ハーミット」こと谷本夏。

 10年間という時間、思い出すことはあっても、もう振り返ることはないだろう。
 前に向き直った。いくつかの言葉を思い出した。
「あなたはまだ人生のスタート地点に立ったばかりです。」大前春香(遥?)「ハケンの品格」より。
 そして昨年京都タワーの一階のお土産コーナーで買った一枚のTシャツに綴られた言葉。筆で書かれた「道」という言葉の後に以下の文章が続く。
「この道を行けば
どうなるものか
 危ぶめむなかれ
 危ぶめば道はなし
 踏み出せば
 その一足が道となり
 その一足が道となる
 迷わず行けよ
 行けば分かるさ。」
 何かの道を志す方には必須のTシャツ。京都観光の折には購入されたし。

 私は右足を一歩前に出し、反対の左足をさらに前に進めた。
「2世代目の進路は?」
誰もいないところから声が聞こえた。かつて大学の構内で卒業後の進路について思い悩んだ時にある声を聞いた。後にそれは自分の心の中から来る声だと気付いた。
「進路は、自分の夢を叶えるための道。」
私は自分の中に住むもう一人の自分に答えた。
「創造の女神に再会しに行こう。後継者探しとその育成はその後だ。」
「・・・。」
 かつて夢の中で自分の夢にうなされたことがあった。目覚めるとびっしょりと前身に汗をかいていた。「いつになったら俺をこの世に生み出してくれるんだ?」という問いかけに聞こえた。
「だったら、私に作ってよ。」
 2001年に夢をくれた女の子はそう言った。
「アトリエの屋台骨の修理、あと少し残ってる免許皆伝のための課題、打楽器製造強化、楽器開発資金と時間の捻出、やることがたくさんあるぞ。」
 多難であろう道を歩み始めながら私は笑った。
「自分が本当になりたいものになりにいく。そしてこの世で最高の褒め言葉をもらいにいく。」
その時は、私の夢実現の証明となるだろう。
「夢、それはこの世で最も強くて純粋なエネルギー。自分を見失いそうになったときの道標。」

目を凝らして前を見た。私より先に独立して自らの道を歩く「フランスの人間国宝メートル・ダールとその弟子たちの会」の仲間たちが見える。皆困難な情況の中、独りで、あるいは二人、もしくはグループを組んで歩んでいく。
 弟子「エレーヴ」たちの定義を考えた。一人一人がフランスという国の伝統技術の次世代への継承を託された「次代を継ぐ者」だと思う。
 そしてこの国で出会った、夢追う人たち。そのような人たちの中にいることを誇りに思うと共に、まずは彼らに見習おう。
 ある歌のフレーズが頭に浮かんだ。
「ハイホー、ハイホー、行けばいい、自分の選んだ道を」: 読売テレビ「グッと!地球便」主題歌、カラーボトル「ハイホー」。
 私の道は楽器がくれた道。

「俺をはじめ、皆が見ているぞ。」
 師はきっとそのように思っていると思う。私が2代目の役をどのように演じるのかを皆が観察している。何年か前に放映された映画「ラ・モーム」、歌手としてそして女として名を馳せた往年の歌手エディット・ピアフの人生を主題にしたこの映画のポスターを思い出した。おそらく舞台に立つ直前の舞台袖の場面だろう。カーテンの隙間から漏れるスポットライトが彼女のシルエットを映し出していた。横顔はどのような表情であったのか。
 私は、「2代目」を凛々しい顔で演じたい。モデルは、宮崎駿監督の作品「風の谷のナウシカ」のトルメキア王国のクシャナ王女、あるいは別の作者の作品で銀河を駆け抜けた二人の女傑。現実世界のモデルは、フランスのラグビー選手であるモルガン・パラー。国際試合では背番号10番を背負うキッカーであり司令塔。左足での美しいフォームによるペナルティキック成功率80パーセントを誇る。特に私が惚れ惚れしてみるのはキックのフォームに入る前の「必ず決める」という自信にあふれた顔。かくありたいと私は思う。

聖飢魔II EL・DO・RA・DO

 この話を終えるためにこの曲を選んだ。
「速く行け、速く行け、見失わないうちに辿り着け、消えてしまわないうちに辿り着け。」
何度も繰り返されるフレーズが自分の心の中から聞こえてくる声とぴったり合致するから。
自分の胸の内にあるものがその誕生を待っている。
「あなたの夢はすばらしいものですから是非叶えてください。」
大阪在住のプロのトランペット奏者から励ましのお言葉を頂いた。多くの人を待たしているのかもしれない。
「夢に、世界に、そして未来に追いつくにはどうすればいい?」
そんなことを思いながら駆け出した。そして一瞬だけ脇に目を遣った。ずっと横に置いているものが見える。
「いつの日か、あれが獲れるようになりたいな。」
再び前を見て私は駆け出した。『2世代目』はもう始まっている。

「それは遠い海の向こうの、
ある一人の若者の物語。
そして彼が出会う、
夢追う者たちの物語。」

『ひとつの終わり、ひとつの始まり』編、終了。
私の人生の第一章、『例外なる人事』あるいは『怒鳴られながらの修業時代』終了。

次回「あとがき」をもって、「Naoya,フランスでブラス!!」を終了いたします。「日出ずる国から来た弟子」と名乗るのも今回が最後です。

Naoya「日出ずる国から来た弟子 トロンボーン製造を志す者」

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Last updated  February 7, 2012 06:03:28 AM
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