「まさに内憂外患、多事多難の時であります。そういう時であるからこそ、総理にも、ぜひお参りをいただいて」(自民党 尾辻秀久 元厚労相)
一、靖国神社
靖国神社は明治神宮と共に国民の力強い崇敬の対象である。四月二十五六日頃、参詣人はまるで洪水のようにおし寄せていた。
私の家はその近くであるが、この戦争の始まる頃まで、側を通っても脱帽することを忘れていた。
ところがある日、今度上海の情報部長になって転任する内閣情報官喜多長雄氏が、私に、同氏の倫敦滞在中の話をしている中に、英国人は倫敦の政治街セノタフを、たとえタクシーに乗って通る時でも、必ずそこにある無名戦士の墓に向って脱帽し、喜多氏の如き外国人でも皆と一緒に脱帽しないと変に感ずるほどであったと聞かされ、さすが英国人は偉大なる国民であると感ずると共に、私もそれからは必ず脱帽敬礼することにした。
大抵私はバスか自動車で通るのであるが、バスの場合は私の他に一、二名は脱帽している。
それは形式的のように思えるかも知れないが、脱帽敬礼する度に、涙ぐましき感が湧きあがって来るので、やはりその度に戦死者の霊が乗り移るような気がする。
日本人は一般に、知人などと会った時など敬礼が過ぎるようであるが、それを少し倹約して、祖国のために長き前途を犠牲にした未知の霊に敬意を表そうではないか。
p.270-271 昭和13(1938)年「街路に拾う」『近きより』第2巻第4号
四、愛国葉書 [1]
本誌所載の諸名士からの葉書回答の礼状に、せめて愛国葉書を使用して感謝の情を現わそうと思って、麹町郵便局へ買いに行ったら、売り切れて無いという。明日は来るかと問えば不明だという。あの葉書は余り感心した図案ではないが、その趣旨には大賛成なので、私は中央郵便局へ問合わせることを要求した。《中略》
すべてこの頃の官庁のやることは「××週間」といったような、鳴物入り短期の仕事が得意のようだ。先日も街の諸所に「防犯週間」というポスターが沢山出ていた。泥棒に一週間の休暇を与えるような気がしてならなかった。
[1] 「航空思想普及と民間航空振興をはかるため」の献金(三銭)つきの五銭ハガキで、一九三七年六月一日から発売されたもの。これと同時に、同じ趣旨の「愛国航空切手」(各普通料金に二銭加算)も発売になり、あわせて航空献金として、民間航空機拡充費にあてることを目的とした。
p.274 昭和13(1938)年「街路に拾う」『近きより』第2巻第4号
今頃になってもまだ独支間の腐れ縁が清算されていないのは変な話しだ。欧洲の外交はかく複雑巧妙なるものらしい。日本の単純な愛国主義者などの到底想像もつかぬものだ。
〇
けれど日本の過去十年間の社会風潮は、民間の浪人または半浪人愛国者の支配下にあったのだ。文部省などは何等の権威なく、ルンペン議員、売名議員の質問に震え上がって、ひたすら目前の擁護に汲々として来たものだ。快漢荒木文相、よく魂の入れ換えを行い得るや否や。
p.287 昭和13(1938)年「近々抄」『近きより』第2巻第5号 <八月号>
日本の中等学校で外国語をやめることを主張するのが愛国主義者であるかの如く流行しているが、ムッソリーニが独、仏、英、何語でも自由に会話するのを知ったら、ちょっと意外に思うであろう。
p.292 昭和13(1938)年「近々抄」『近きより』第2巻第5号 <八月号>
80年前より―その63(『近きより』をな… 2020.02.22 コメント(6)
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