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「フリーソロ」(原題:Free Solo)は、2018年公開のアメリカのドキュメンタリー映画です。エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ/ジミー・チン共同監督で、ロック・クライマー、アレックス・オノルドによる2017年6月のエル・キャピタンへのフリーソロ・クライミングを追っています。フリーソロ・クライミングはロープや安全装置を使わない登山方法で、それまでエル・キャピタンにフリーソロで登った人は一人としていませんでした。第91回アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を始めとして、多数の賞を受賞した作品です。 「フリーソロ」のDVD(楽天市場)【あらすじ】2016年、春カリフォルニア州ヨセミテ国立公園にそびえる伝説的な一枚岩の絶壁エル・キャピタンには、あらゆるクライマーが怖じ気づく難所がいくつもあった。フリーライダーと呼ばれる約975メートルのルートを攻略する為には「正確な地図」が必要だと考えたアレックスは、憧れの経験豊富なプロクライマー、トミー・コールドウェルとともに現地でトレーニングを始める。実際にそのルートを登って具体的なイメージを掴む為、アレックスはロープを使って登攀を試みるが、途中で足を痛めパンパンに張って手も痛くなるなど、手強い感触を得る。プロのクライマーとして成功を収めた後も家を持たず、移動手段である愛車のバンで寝泊まりしているアレックスに、サンニ・マッカンドレスという恋人ができる。「一世一代の大きな挑戦を前にしたら、恋人よりそちらを優先させる」と考えるアレックスだったが、明るい性格のサンニは「彼女は僕の人生を豊かにしてくれる」かけがえのない存在だった。2016年、夏エル・キャピタンへの挑戦に備えモロッコのタギアでの練習に励むアレックスに、ジミー・チンが同行し、究極の夢に向かって突き進むアレックスの勇姿を記録しようとしていた。2009年からアレックスと交流を深めてきたジミーは、「MERU /メルー」などの山岳ドキュメンタリーで知られる映像作家で、彼が率いる撮影チームは全員が熟練のクライマーだ。ジミーは、「フリーソロの撮影には葛藤が付きものだ。ソロは非常に危険だし、撮ることでプレッシャーを与えてしまう。滑落の瞬間を捉えてしまうかもしれない。最悪のシナリオを想定し、葛藤を抱えながら撮影に臨まなければならないんだ。」と語る。2016年、秋エル・キャピタンに戻り、練習に明け暮れたアレックスは、序盤の難所フリーブラストから9メートル下に滑落し、足首を捻挫してしまう。常人には理解しがたい危険を冒し完璧な達成感を追い求めるアレックスと、穏やかで幸福な生活を望むサンニは、お互いの考え方を尊重するものの、人生の価値観がまったく異なる。二人をよく知るトミーは、「彼らの関係は本当に素晴らしいが、危険なフリーソロには、感情に「鎧」がいる。恋愛感情はその鎧に悪影響を及ぼすので、両立はできない。」と懸念を抱いていたが、アレックスは入念に準備を重ね、エル・キャピタンでのフリーソロ実行を決意する。ジミー率いる撮影隊も細心の注意を払い、アレックスの邪魔にならないようカメラ位置を決定していく。フリーソロは夜明け前に始まるが、アレックスは以前滑落したフリーブラストに差しかかったところで、突然、引き返してしまう。ケガの影響なのか、精神的な問題なのか、撮影クルーに気が散ったのか、理由が判然としないまま、エル・キャピタンのフリーソロへの挑戦は翌年に持ち越された。2017年、春アレックスはエル・キャピタンへの再挑戦に向けて黙々とリハーサルを重ねる。アレックス、ジミー、サンニは、撮影がフリーソロに及ぼす影響について意見をぶつけ合う。「周囲に人がいるなら、さらなる準備と自信がいる。自分が万全なら平然としていられるはずだ。」とアレックスは語る。そして6月3日の早朝、アレックスは無言のまま、ひとりエル・キャピタンへと向かい、人類初の歴史的な挑戦が始まる・・・。【スタッフ・キャスト】監督:エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ 、 ジミー・チン出演:アレックス・オノルド(フリーソロ・クライミングの若きスーパースター) トミー・コールドウェル(ベテランのプロクライマー) ジミー・チン(アレックスの友人、山岳ドキュメンタリー作家) サンニ・マッカンドレス(アレックスの恋人) ディエダー・ウローニック(アレックスの母) ほか【レビュー・解説】高さ1000メートルにも及ぶ絶壁エル・キャピタンを史上初のフリー・ソロで登攀したアレックス・オノルドを、深みを感じさせるエピソードと観る者を飽きさせない美しい映像とともに追った、完成度の高いドキュメンタリー映画です。高さ約1000メートルの絶壁をロープや安全装備無しで登るエル・キャピタンは、米国カリフォルニア州のヨセミテ国立公園のヨセミテ渓谷の北側にそそり立つ、谷床からの高さが約1000メートルにも達する花崗岩の一枚岩で、ロック・クライミングの名所として知られており、Mac OS の愛称にもなりました。エル・キャピタン本作は、このエル・キャピタンを、史上初めてロープや安全装備なしのフリー・ソロで登攀したクライマー、アレックス・オノルドを追ったドキュメンタリーです。深みのある挿話と美しい映像で綴られる完成度の高いドキュメンタリー実生活のパートナー同士であるエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィとジミー・チンが共同監督を務めるこの作品は、エリザベスがストーリー・テリングを、ジミーが撮影を担当、言ってみればただ絶壁を登るだけの話を美しく深みのある、完成度の高いドキュメンタリーにまとめ上げられています。例えば、死と背中合わせの危険に挑戦するアレックスと恋人サンニとの関係は、この作品に立体的な深みを与えています。ノンフィクションの映画を撮影する中で、運命的に起こる偶然というのはあまりないのですが、サンニの登場はまさに運命的なものでした。この作品を撮り始めた頃のアレックスは、それこそネットでデートの相手を見つけているような人でした。だから、まさか現実世界の女性とここまで真剣に向き合う人に出会うなんて思ってもみなかったのです。アレックスはサンニと付き合うようになって、人の誰しもが持つ「感情」の部分で進化を遂げていきました。彼はサンニを愛し、そして彼女も彼を非常に愛している。やがてサンニは、アレックスに対し自分の気持ちをぶつけていく自信を持つようになります。アレックスがサンニに関心を示さないときに、自分がどう感じているのか、どう思っているのかを伝えていきます。そういった変化が彼女の中で起きていく。その過程に立ち会えたのは特別だったなと思います。作り手として、映画を作っている意識を持ち、目の前で起きている現象にしっかりとアンテナを張っていました。この二人の関係は、映画の中で非常に大切な要素だったということ。また、アレックスはサンニの登場によって、2つの山を登らなくてはいけなくなったわけです。エル・キャピタンという山と、それまで不得意としていた「人間関係」という山。彼は見事にその二つを乗り越えたのです。(エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ監督)https://cinemarche.net/interview/elizabeth-chai-vasarhelyi/また、非常に難易度の高い絶壁での撮影は、全員がクライマーでありプロのシネマトグラファーであるという、選りすぐりのクルーによって行われています。フリーライダーという垂直ルートの全高は915メートルにもなります。途中いくつかのセクションでは、カメラマンも300メートルほどトップロープでクライムダウン(岩壁の上からロープを垂らして懸垂下降すること)して狙う必要もありました。クルーはそれぞれが機材を担ぎ、壁のあちらこちらにカメラを設置し、どのアングルからどういう絵を撮りたいか?を入念に事前調査しています。カメラクルーは全員プロのシネマトグラファーでもあり、クライマーでもあります。なのでアレックスがクライマーとして、なにが一番気が散るか?は理解しているメンバーなのです。両方の技術を持った撮影者は世界でも3人くらいしかいませんけどね(笑)。クライマーが一番嫌がるのは、自分のムーブよりも撮影者たちの動きがスローになってしまうことです。なので、常にアレックスの動きを先読みして、ポジションとアングルを即決しなければいけません。アレックスがどんなに予測不能な動きをしても、アレックス本人に「カメラの存在」を感じさせないことが最優先ですから。(ジミー・チン監督)https://cweb.canon.jp/cinema-eos/casestudy/documentary/vol2/index.htmlクルーは全員優秀なクライマー兼カメラマンですけど、失敗は許されない。アレックスの死につながるかもしれないですから。50~70ポンドはする三千フィート分のロープ、重いカメラ機材、予備のレンズ、食べ物、飲み物を持ち、本人よりも早く登山し、本人が来るのを待っている。全部で14~15時間は拘束される。アレックスがルートの下調べをし、何度も動きを練習したように、クルーも練習を重ねて撮影。彼らの技術的な凄さが映像に出ています。彼らのことをどんなに褒めても褒めたりないくらいです。(エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ監督)https://cinefil.tokyo/_ct/17301116人は何故、危険な事に挑戦するのか?同様な危険な試みを追ってアカデミー賞を受賞した長編ドキュメンタリーに、「マン・オン・ワイヤー」(2008年)があります。これは9.11で崩壊したワールド・トレード・センターが建設中の頃に、ツインタワー間での危険な綱渡りを達成したフランスの大道芸人のフィリップ・プティの挑戦を、本人や関係者の証言、当時のフィルムや再現ドラマにえって描いています。フィリップ・プティは子供の頃から変わったことをして人を驚かしたり、喜ばせたりするのが好きでした。一方、本作のアレックス・オノルドは子供の頃から内向的な性格で、山登りに充実感を感じるようになります。やがて彼の内面世界を完璧なものにする為に、クライミングからフリー・ソロへと進化していきました。何故、ロープや安全装備を外してしまうのか?それは、フリー・ソロが失敗を許されない、より完璧なものだからです。彼は友人であるジミー・チン監督の撮影は拒否しませんが、彼の動機は内面的なものであり、決して誰かに見て欲しいわけではありません。両者の動機は異なりますが、二人の理解し難い危険な行動の背景には、変わったことをして人を驚かしたり、喜ばせたいより完璧なことを目指し、満足を得たいといった普遍的な動機が見え隠れすることが、こうしたドキュメンタリーが我々を惹きつける理由のひとつかもしれません。アレックス・オノルド(フリーソロ・クライミングの若きスーパースター)トミー・コールドウェル(アレックスが憧れるベテランのプロ・クライマー)ジミー・チン(左、アレックスの友人、山岳ドキュメンタリー作家、本作の共同監督)サンニ・マッカンドレス(アレックスの恋人)【撮影地(グーグルマップ)】エル・キャプタン米国カリフォルニア州のヨセミテ国立公園のヨセミテ渓谷の北側にそそり立つ、谷床からの高さが約1000メートルに達する花崗岩の一枚岩。ロッククライミングの名所として知られる。【関連作品】エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ x ジミー・チン共同監督作品(楽天市場) 「Meru/メルー」(2015年)おすすめ山岳映画のDVD(楽天市場) 「キャラバン」(1999年) 「ホワイトクラッシュ」(2003年) 「運命を分けたザイル」(2003年) 「ブラインドサイト 小さな登山者たち」(2006年) 「ヒマラヤ 運命の山」(2010年) 「アイガー北壁」(2010年) 「127時間」(2010年) 「MERU/メルー」(2015年) 「ラサへの歩き方」(2016年)「クレイジー・フォー・マウンテン」(2018年)危険に挑む人を描いたドキュメンタリー(楽天市場) 「マン・オン・ワイヤー」(2008年)
2020年09月15日
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「初恋のきた道」(原題:我的父親母親、英題:Road Home)は、1999年公開の中国のドラマ映画です。パオ・シー(鮑十)の同名小説を原作に、チャン・イーモウ(張芸謀)監督、パオ・シー(鮑十)脚本、チャン・ツィイー(章子怡)ら出演で、厳しくも美しい中国の農村の四季を背景に、一途な少女の初恋の成就とその顛末をみずみずしく描いています。ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した作品です。 「初恋のきた道」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:チャン・イーモウ(張芸謀)脚本:パオ・シー(鮑十)原作:パオ・シー(鮑十)著「初恋のきた道」出演:チャン・ツィイー(章子怡)〜チャオディ(招娣)若き日の母 チョン・ハオ(鄭昊)〜ルオ・チャンユー(駱長余)若き日の父 スン・ホンレイ(孫紅雷)〜駱玉生(ルオ・ユーシェン)私(語り手) チャオ・ユエリン(趙玉蓮)〜チャオディ(招娣)老年の母 ほか【あらすじ】都会で暮らすユーシェン(チョン・ハオ、鄭昊)は、父の訃報を聞き、母のいる故郷の小さな農村に帰郷します。父は40年以上にわたってこの村の小学校を一人で支えた教師でしたが、校舎の建て替えの為に街に陳情の出かけた際に心臓の発作で急死してしまったのです。皆で棺を担いで葬列を組み、村まで歩いて連れ帰るのが古くからの習わしでしたが、村長達は村の若い衆が街に働きに出ているので遺体はトラクターで運ぶしかないと言います。しかし、母のチャオディ(チャオ・ユエリン、趙玉蓮)は、伝統通りに棺を担ぐと言い張ります。そんな母を眺めながら、ユーシェンは若かった両親の出逢いに思いを馳せます。母のチャオディ(チャン・ツィイー、章子怡)が18歳の頃、この村に初めて小学校が建つ事になり、20歳の青年チャンユー(チョン・ハオ、鄭昊)が街から教師としてやってきます。一目惚れしたチャオディは、自分の数少ない服の中から華やかなピンクの服を選んで着替えます。自由恋愛が稀な古い時代の片田舎では、そのようにアピールするしかありませんでした。チャンユーと村の男達は総出で校舎を建て始め、村の女達は家で昼食を作って持ち寄ります。チャオディも心を込めて料理を作り作業現場に運びます。純朴で学もない彼女に出来る事は、水汲みやキノコ採りの際にチャンユーとすれ違う事ぐらいでした。チャンユーも、村に着いた時に見た赤い服のチャオディが目に焼き付いていました。しかし、チャンユーは文化大革命の混乱に巻き込まれ、街へ連れ戻されてしまいます。チャンユーは、赤い服に似合うヘアピンをチャオディに贈り、村を去ります。高熱を押してチャンユーを探しに街へ行こうとしたチャオディは、道すがら倒れてしまいます。二日間、眠り続けたチャオディが目覚めた時、授業をするチャンユーの声が小学校から聞こえて来ます。チャオディの病気を伝え聞いたチャンユーは、連れ戻されるのを覚悟で町から無断で戻って来たのです。若かりし父母の追想から我に返ったユーシェンは、町から続く道が母にとって意味深いものである事に気付き、人を雇ってでも葬列を組むよう、村長に頼み込みます・・・。【レビュー・解説】中国の大地の圧倒的な厳しさ、美しさの中で、生涯をかけた母の初恋の成就と父による村の子供達の教育を通して人間の愛の営みを描いた、自然と人間愛の本質を感じさせる、シンプルながらも感動的な名作です。自由恋愛がご法度だった中国かつての中国では、結婚相手は親や媒酌人の推薦で決まりました。恋愛はご法度で、学生の恋愛が発覚すると退学処分になったりしました。その後、開放政策が進むに従って自由恋愛が認められるようになりましたが、この映画の舞台となった時代の自由恋愛は極めて珍しいものでした。この映画が公開された1999年は、中国の市場経済が急成長し世界の工場と呼ばれ始めた頃で、自由経済の発展に伴って人々の考えも大きく変化した時代です。そんな中で、本作が描く初恋、自由恋愛の成就は、当時の中国の若者たちの心を大きく揺さぶったものと思われます。モノクロームで描かれる現在1960代〜70年代の文化大革命の後、中国は開放政策を推し進め、社会主義市場経済を導入、大きな経済発展を遂げます。機械化、自動化も進展し、社会形態も農村中心のゲマインシャフト(地縁社会)から、都市中心のゲゼルシャフト(契約社会)へと移行していきます。本作の舞台は1990年代後半で、映画はモノクロームで始まります。語り部の駱玉生(ルオ・ユーシェン)は故郷を離れ、都会で暮らしています。経済発展の恩恵を受けて羽振りの良い生活をしているのでしょう、父の訃報を聞いて帰郷する彼はクライスラー社製のジープ、チェロキーを運転しています。昔ながらの中国農村部の家に住む母の家には、映画「タイタニック」(1997年)のポスターが貼ってあり、中国の片田舎の山村まで市場経済の波が押し寄せていることがさりげなく暗示されます。壁に貼られたハリウッド映画のポスターが、片田舎の山村まで押し寄せる市場経済の波を暗示する駱玉生(ルオ・ユーシェン)に父の最後の様子を伝えた村長が、父の遺体を車ではなく、病院から担いで帰したい、自分を付き添いたいと母が言い張っていると言います。これは故人に家路が見えるようにし、山を越え、道を曲がる度に遺体に声をかけ、家路を忘れないようにというしきたりに基づくものですが、開放政策が進んだ今、村の若い衆は皆、街に働きに出ており、人手が集まらないので、かつてのように棺を担ぐことができません。かつて子どもたちを教える父の声を聞きに通った学校の前から動こうとしない母を説得、自宅に連れ戻した駱玉生(ルオ・ユーシェン)に、母は棺にかける布を織ると譲りません。かつては村の行事がある度に機織り機で布を織ったものでしたが、今ではどこの家にも機織り機は残っておりません。駱玉生(ルオ・ユーシェン)は実家の壊れた機織り機を担いで村の古老を訪ね、修理してもらいます。修理を終えた機織り機で母が布を織るのを聞きながら、駱玉生(ルオ・ユーシェン)は村の人々に語り継がれた父母の出会いに思いを馳せます。鮮やかなカラー映像に切り替わり、父母が出会った頃に遡って母が機を織り、父の棺を担いで家路を辿ることにこだわるに至った理由が、描き出されていきます。鮮やかな色彩で描かれる若き父母の出会い現在が描かれる序盤と終盤が厳しい現実を暗示するモノクロームであるのに対して、中盤の生命感溢れる回想シーンは鮮やかな色彩で描き出されます。特に、若き父が紅葉の中を子どもたちと歩くシーンと、その若き父を目で追いながら白樺林の中を走る若き母の美しさが圧巻です。紅葉の中を子どもたちと歩く若き父若き父を目で追いながら白樺林の中を走る若き母紅葉の美しさをこれほど芳醇に描いた作品は滅多にありません。私が記憶する限り、フランス映画の「うつくしい人生」(1999年)くらいです。奇しくも同じ年の公開ですが、農家を描いていることも共通しています。秋が冬に向けて枯れる季節ではなく、豊かな収穫の季節であることを意識しなければ、これほど芳醇な美しさを描き出すことはできないでしょう。また、繰り返し映し出される水汲みや炊事のシーンも、生命感が感じられます。この時代の不便な生活の方が、むしろ生き生きと人間らしく暮らせるのではないかと感じさせるほどです。現在の冬は暗く陰鬱だが、回想シーンでは冬も美しく描かれている村の子供達を教える為に街から馬車でやってきた若き父に、若き母は一目惚れします。若き父と子どもたちの為に新築される校舎の梁に巻く赤い布を村一番の美しい娘が織るという栄誉を勝ち得た若き母は、丹精を込めて布を織ります。この時代、どこに家にも機織り機があり、こうした特別な行事の度に布が織られたわけですが、これが冒頭、老いた母が父の棺の掛ける布を織ることにこだわることに繋がっています。自由恋愛か、反体制か本作のチャン・イーモウ(張芸謀)監督は、1987年に「紅いコーリャン」で映画監督デビュー、第38回ベルリン国際映画祭で金熊賞(作品賞)を受賞しています。当時としては進歩的な主題に学生たちの人気を博しましたが、中国政府の受けはあまり良くなく、天安門事件(1989年)以降、政府との関係が悪化します。続く「菊豆」(1989年)も、第43回カンヌ国際映画祭でルイス・ブニュエル賞を、第48回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞、また、第63回アカデミー賞では香港からのエントリーでだ外国語映画賞ノミネートされるという快挙を成し遂げますが、本国の中国では性的であるという理由で上映禁止となります。その後、「秋菊の物語」(1992年)では、歴史的、寓話的な題材から離れ、自身の為に闘う小作人の女性を主人公にした、現代的で現実主義的なドラマに転じ、政府との関係が徐々に改善され、中国映画のスポークスマン的な立場を得るまでになります。本作が描く自由恋愛の成就は、当時の中国の若者たちの心を大きく揺さぶったと思われますが、男性に依存した女性の生き方に批判的な欧米ではむしろ反政府的な要素が評価されているようです。これは恐らく、国際的な実力を持つチャン・イーモウ監督はかつて中国政府と対立していた本作では、市場経済が導入された現在を寒々としたモノクロで描いている資本主義文化に批判的だった文化大革命時代をカラーで芳醇に描いている機織り、葬列など、文化大革命時代の慣習を懐古的に描いているといったことによるものと思われます。私自身は、文化大革命の混乱で街に連れ去られた恋人を、身を挺して呼び戻した街で校舎建替えの陳情という、いわば政治的な局面で客死した夫が迷わぬようにと、昔ながらの葬列を組んで故郷に連れ帰ったことから、むしろ政治に距離を置く作品のように感じましたが、こうした様々な解釈が可能であることは、本作が名作である証左かもしれません。また、本作のタイトルが、我的父親母親(原題)The Road Home(英題)初恋の来た道(邦題)と、地域によって微妙に異なることも興味深いところです。因みに、チャン・イーモウ監督は自身の作品に「反政府的」とレッテルが貼られることに抗議して、本作のカンヌ映画祭への出展を取り下げています。中国での制作を志すチャン・イーモウ監督にとって、例え解釈のひとつとしても「反政府的」とレッテルが貼られることは我慢ならなかったのかも知れません。多様な感動をもたらす名作親や媒酌人の推薦で結婚相手が決まるという封建的な慣習から逃れたかった中国の若者たちは本作の自由恋愛に心を揺さぶられたであろうし、男性に依存する女性像を良しとしない欧米の人々はむしろ本作の反政府的要素を評価するなど、見る人によって感じることは様々です。かくいう私は、中国の圧倒的な自然の厳しさ、美しさの中で、生涯をかけて初恋の成就させた両親の一途さに、自然と人間の愛の営みの本質のようなものを感じました。このように、人々は同じ作品を見ても、置かれている環境や、生きている時代によって感じることが異なるのでしょう。例えば本作が公開された頃、中国の封建的な婚姻の仕組みの中で若者たちは自由恋愛を渇望していたわけですが、今では中国でも自由恋愛が当然になりつつあります。もう一世代も過ぎ、親も自由恋愛、子も自由恋愛が当然という時代になれば、中国の人々がこの映画に感じることも、また異なっていくのではないかと思います。初志貫徹、夫唱婦随、生涯をかけて初恋を成就させる夫婦の一途さや、一貫性といったものに私は心動かされたわけですが、実は人間は生物学的には乱婚だそうで、一生、添い遂げるのが美徳というのは、もしかしたら封建的な倫理の名残なのかもしれません。今後、女性の経済的な自立が進めば、こうした一途さや一貫性よりも、未婚、離婚、再婚、実子、養子など、多様な人間関係の中で柔軟に生きることが、日本でもより評価される時代がやって来るかもしれません。そんな時代の日本人が本作のどこに感動するのか、とても興味深いです。チャン・ツィイー(章子怡)【撮影地(グーグルマップ)】豊寧壩上草原舞台は中国北部の三合屯という村だが、撮影は北京から230キロほどの河北省豊寧满族自治県にある壩上草原で行われている。秋には、爽やかな空に雲が点々と漂い、駿馬が疾走し、小川が流れ、シラカンバがうっそうとした美しい風景を見ることができ、本作でもその美しさが余すところなく引き出されている。 「初恋のきた道」のDVD(楽天市場)【関連作品】チャン・イーモウ(張芸謀)監督xチャン・ツィイー(章子怡)のコラボ作品(楽天市場)「HERO」 (2002年) 「LOVERS 」(2004年)チャン・イーモウ(張芸謀)監督作品のDVD(楽天市場) 「紅いコーリャン」 (1987年) 「菊豆」(1990年)「紅夢」(1991年) 「秋菊の物語」(1992年) 「活きる」(1994年) 「上海ルージュ」1995年) 「あの子を探して」(1999年) 「単騎、千里を走る。」(2005年) 「妻への家路」(2014年) 「SHADOW/影武者」(2018年)チャン・ツィイー(章子怡)出演作品のDVD(楽天市場) 「グリーン・デスティニー」(2000年) 「2046」 (2004年) 「グランド・マスター」(2013年)おすすめ中国映画のDVD(楽天市場) 「ラストエンペラー」(1987年) 「山の郵便配達」(1990年) 「變臉(へんめん)/この櫂に手をそえて」(1996年) 「鬼が来た!」(2000年)「LOVERS」(2004年) 「長江哀歌」(2006年)「戦場のレクイエム」(2007年) 「レッド・クリフ」(2008年)「南京!南京!」(2009年)輸入盤、日本語なし 「ブラインド・マッサージ」(2014年) 「ラサへの歩き方 ~祈りの2400km~」(2015年)輸入盤、日本語なし 「人魚姫」(2016年) 「芳華-Youth-」(2017年) 「迫りくる嵐」(2017年)
2020年08月04日
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「恋する惑星」(原題:重慶森林、英題:Chungking Express)は、1994年公開の香港のサスペンス/ファンタジー&ロマンティック・コメディ映画です。ウォン・カーウァイ監督、トニー・レオン、フェイ・ウォン、金城武ら出演で、香港の九龍、尖沙咀にある雑居ビル・重慶大厦の周辺を舞台に、二人の警官の失恋とすれ違う恋愛模様をオムニバス形式でスタイリッシュに描いています。 「恋する惑星」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ウォン・カーウァイ脚本:ウォン・カーウァイ撮影:アンドリュー・ラウ(ラウ・ワイキョン)(前半) クリストファー・ドイル(後半)出演:トニー・レオン(警官663号) フェイ・ウォン(フェイ) ブリジット・リン(謎の金髪女) 金城武(警官223号) チャウ・カーリン(スチュワーデス) ほか【あらすじ】【重慶マンション】刑事223号(金城武)は、雑踏の中で金髪にサングラスの女(ブリジット・リン)とすれちがいます。女は香港の無国籍地帯、重慶マンションを拠点とするドラッグ・ディーラーで、密入国したインド人に麻薬を運ばせる仕事を請け負っています。エイプリル・フールに失恋した刑事223号は、恋人が忘れられず、1か月後の自分の誕生日までパイナップルの缶詰を買い続けます。金髪の女は啓徳空港で麻薬を渡したインド人の姿と会えず、裏切りられたことを知ります。命を狙われた彼女は相手を銃殺し、逃亡します。刑事223号は偶然入ったバーで金髪の女と知り合います。彼は、その夜会った女に恋して恋人を忘れようとしますが、疲れ切った金髪の女はそんな彼に冷たく当ります。二人はホテルに泊りますが、女は眠り込んでしまいます・・・。【ミッドナイト・エクスプレス】刑事223号は軽食屋「ミッドナイト・エクスプレス」で、新入りの娘フェイとすれちがいます。刑事633号(トニー・レオン)は店の常連。彼にはスチュワーデスの恋人(チャウ・カーリン)がいますが、二人には別れが近づいていました。スチュワーデスの恋人は刑事633号にあてた手紙を「ミッドナイト・エクスプレス」の店主に託し、店主は店員のフェイ(フェイ・ウォン)に手紙をことづけます。手紙の中に刑事633号の部屋の鍵が入っているのを見つけたフェイは、彼の部屋に忍び込むようになります。口実を見つけては食堂を抜け出し、彼の部屋を少しずつ自分好みに模様替えしていきます。刑事633号は、恋人がいなくなった部屋が悲しくて変質していると、独り言をつぶやきます。やがて二人は部屋で鉢合わせし、フェイが持ち込んでいた「夢のカリフォルニア」のCDを聞きながら、眠りに落ちます。二度目に鉢合わせした時、彼女は逃げ出し、刑事633号は「ミッドナイト・エクスプレス」を訪れて彼女をデートに誘います。大雨の夜、約束の時間、待ち合わせの店「カリフォルニア」に彼女は来ず、やがて現れた店主がフェイからの手紙を彼に渡します・・・。【レビュー・解説】国際都市の香港を象徴する卓越した映像と音楽、熟成されたキャラクターとナチュラルな演技で描くスタイリッシュなロマンティック・コメディが、今観る人に爛熟期の香港映画の確かな力と時の移ろいを感じさせます。オムニバス形式のスタイリッシュなロマンティック・コメディ香港の重慶マンション周辺が舞台に二人の警官の失恋とすれ違う恋愛模様を、かたやクライム・サスペンス風に、かたやファンタジー風に描いた、オムニバス形式のスタイリッシュなロマンティック・コメディです。かのクエンティン・タランティーノ監督が絶賛したという作品で、公開時期もタランティーノ監督のデビューと前後してます。 1992年「レザボア・ドッグス」(クエンティン・タランティーノ監督・脚本) 1993年「トゥルー・ロマンス」(クエンティン・タランティーノ脚本) 1994年「パルプ・フィクション」(クエンティン・タランティーノ監督・脚本) 「恋する惑星」(ウォン・カーウァイ監督)・・・本作香港が舞台のスタイリッシュなロマンティック・コメディタランティーノ監督作品に比べると甘くソフトですが、当時の世界の最先端のトレンドと肩を並べる本作は、1997年の中国への返還を前にした爛熟期の香港映画の底力を見せる作品と言えます。国際都市の香港を象徴する卓越した映像と音楽前半にアンドリュー・ラウ(ラウ・ワイキョン)、後半にクリストファー・ドイルと、本作では二人の撮影監督を起用していますが、いずれも色彩感豊かで動きのある現代的な映像がとても心地よく、時代を感じさせません。アンドリュー・ラウ(ラウ・ワイキョン)撮影監督のポップな映像クリストファー・ドイル撮影監督のファンタスティックな映像作中、ビルをかすめるように旅客機が香港の上空を飛ぶシーンがあります。これは山を避け、香港の市街地上で大きくターンしながら着陸するという、世界的な有名な香港の啓徳空港特有の着陸ルート(香港アプローチ)によるものです。このビルをかすめるような旅客機の飛行シーンは、混沌とした国際的な大都市である香港を象徴するだけではなく、旅客機や模型、客室乗務員が頻繁に登場する本作のテーマへと広がりを持っています。映画製作当時の香港市民には返還後の中国政府の統治を懸念し、カナダやオーストラリなど海外への移住を考える人もいました。本作にはママス&パパスの「夢のカリフォルニア」という挿入歌とともにカリフォルニアに旅立つというエピソードが挿入されていますが、それは当時の世相をさりげなく反映したものでもあり、そうした社会的な不安を背景にしながらも将来に希望を感じさせる作品になっています。その他の挿入歌も欧米文化の影響の強かった香港を反映しており、デニス・ブラウンの「Things in Life」ママス&パパスの「夢のカリフォルニア」ダイナ・ワシントンの「What a difference a day makes」フェイ・ウォンの「夢中人」(クランベリーズの「Dreams」のカヴァー)などのアメリカン・ポップスが効果的に使用されています。爛熟期の香港映画の確かな力と時の移ろいを感じさせる因みに、本作の後半部の主演を務め、クランベリーズの「Dreams」の中国語カヴァーである「夢中人」を歌っているフェイ・ウォンは北京出身で、世界的な歌手を目指して香港に移住、アメリカ留学の経験もあります。たまたま最近観た中国映画「迫り来る嵐」(2017年)に香港が返還される前後の中国が描かれていますが、当時の社会主義下の中国人にとって香港は遥か遠い場所にある、高度な資本主義と物質主義に満たされた別世界でした。そんな別世界が中国に返還されることは彼らの大きな関心事で、「いつか香港に遊びに行く」というのが当時の中国人の夢でした。実際に香港に渡ったフェイ・ウォンは、大変な勇気と野心の持ち主だったと言えます。カンフー映画で勢いづき、アクシャン映画やコメディ映画で我が世の春を謳歌した香港映画ですが、1997年の中国への返還を機に中国政府の検閲に萎縮、さらに同年のアジア通貨危機が追い打ちをかける形で衰退していきます。返還後も、「花様年華」(2000年)「インファナル・アフェア」(2002年)「2046」(2004年)「生きていく日々」(2008年)「桃さんのしあわせ」(2011年)「コールド・ウォー 香港警察」(2012年)などの良作が公開されますが、香港映画の衰退を隠すことはできず、「雨傘運動」などの社会的なムーブメントも映画の題材になりにくい状況が続いています。香港と中国の経済的な立場は、いつの間にかすっかりと入れ替わってしまいました。1998年、香港市街地から20キロほど離れた人工島に新たに香港国際空港が建設されました。役目を追えた啓徳空港は閉港となり、あの有名な「香港アプローチ」も観ることができなくなりました。そうした時代背景の中、香港映画の爛熟期を感じさせる本作に、失恋の味にも似た何か甘酸っぱいものを感じてしまいます。トニー・レオン(警官663号)トニー・レオン(1962年〜)は、香港の俳優、歌手。母語の広東語の他、北京語、英語を話す。俳優養成所時代から容貌と演技力を買われ、一年先輩のアンディ・ラウと並んでテレビスターとして一世を風靡する。1983年頃より映画界に転身、「花様年華」(2000年)で香港人として初めてカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞し、国際的にも高い評価を得る。「インファナル・アフェア」(2002年)、「HERO」(2002年)、「2046」(2004年)、「レッドクリフ」(2008年)などに出演している。フェイ・ウォン(フェイ)フェイ・ウォンは、中国出身の香港の歌手、女優。高校で歌を始め、北京でカセットテープを発売する。高校を卒業後香港へ移住、1989年に歌手デビュー、1991年から1992年までの約半年間アメリカに留学する。1992年香港に戻り、アルバムを制作、発表、中島みゆき作詞・作曲、ちあきなおみ歌の「ルージュ」のカヴァーが爆発的にヒット、香港の音楽賞を総なめにする。日本ではプレイステーション用ゲームソフト「ファイナルファンタジーVIII」の主題歌「Eyes On Me」や、フジテレビ系のテレビドラマ「ウソコイ」に主演し主題歌「Separate Ways」を歌っている。映画は本作の他に「2046」(2004年)などに出演している。ブリジット・リン(謎の金髪女)ブリジット・リン( 1954年)は、台湾出身の女優。1972年にスカウトされ、翌年に映画デビュー、台湾屈指の青春映画スターになる。男装の麗人を演じることを得意とする。本作出演後、結婚を機に女優業を引退し、現在は執筆活動に重点を置いている。金城武(警官223号)金城 武(1973年)は、台北出身の台湾の俳優。日本人の父と台湾人の母との間に生まれ、沖縄県出身の祖父を持つ。日本語、北京語、広東語、台湾語、英語に堪能。中学までは日本人学校に通い、高校からはアメリカンスクールに通う。高校時代にスカウトされCMに出演、卒業後に歌手デビュー、アイドルとなり、台湾四小天王と呼ばれた。1993年に映画デビュー、 「LOVERS」(2004年)などに出演している。日本、中国、香港、台湾など東アジア地域で、映画、ドラマ、CM出演と、活動範囲が広い。チャウ・カーリン(スチュワーデス)チャウ・カーリン(1970年〜)は、香港の元女優、1991年ミス香港準優勝、レブロンと契約した最初の中国人モデル、ファッション・ジャーナリスト、起業家。本作を含め数多くの映画、テレビ番組に出演するが、2003年以降はファッション・ジャーナリストと活動し、2010年に香港に子供向けデザイナーズ・ブランドのコンセプト・ストアを立ち上げる。2018年、映画「Prison Architect」で女優に復帰する。【サウンドトラック】 「恋する惑星」のサウンドトラックCD1. 夢中人2. 形而上列車を追え3. 感性の森4. からっぽな幸せ5. 汗,雨,涙6. 晩餐7. 残酷で気持ちのいいリズム8. ゆれる魂9. 傷心短編10. 分れのさよなら11. 白昼夢【動画クリップ】金髪の女の逃亡シーンアンドリュー・ラウ(ラウ・ワイキョン)撮影監督のカメラワークに注目。フェイ・ウォン「夢中人」ミュージックビデオ本作の映像から構成されている。機体を深く傾けながら啓徳空港に着陸するジャンボ機とても美しいアプローチ。コックピットから見た香港アプローチ(フライトシミュレーター)香港では日常茶飯事でしたが、低空で市街地上空を飛ぶのは怖い。また、このように機体を大きく傾けてターンした直後に、機体を立て直して着陸するのは難易度が高いとされている。横風などある場合は、最悪。【撮影地】謎の金髪女が麻薬取引の拠点にする重慶マンション軽食屋「ミッドナイト・エクスプレス」があった場所現在はセブンイレブンになっている。刑事633号の部屋から見える動く歩道刑事633号がお昼を食べるストリート・マーケット 「恋する惑星」のDVD(楽天市場)【関連作品】本作を絶賛したタランティーノ監督の当時のスタイリッシュな作品(楽天市場) 「レザボア・ドッグス」(1992年、タランティーノ監督・脚本) 「トゥルー・ロマンス」(1993年、タランティーノ脚本) 「パルプ・フィクション」(1994年、タランティーノ監督・脚本)ウォン・カーウァイ監督xトニー・レオンxフェイ・ウォンのコラボ作品(楽天市場) 「2046」(2004年)ウォン・カーウァイ監督xトニー・レオンxブリジット・リンのコラボ作品(楽天市場) 「楽園の瑕 終極版」(2008年)ウォン・カーウァイ監督xトニー・レオンのコラボ作品(楽天市場) 「花様年華」(2000年)トニー・レオン x 金城武共演作品のDVD(楽天市場) 「レッドクリフ PartI」(2008年)トニー・レオン出演作品のDVD(楽天市場) 「インファナル・アフェア」(2002年)「HERO」(2002年)金城武出演作品のDVD(楽天市場) 「LOVERS」(2004年)
2020年04月05日
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「わたしを離さないで」(原題:Never Let Me Go)は、2010年公開のイギリスのSFファンタジー&ヒューマン・ドラマ映画です。2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロが2005年に発表した同名小説を原作に、マーク・ロマネク監督、アレックス・ガーランド脚本、キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイら出演で、謎の寄宿施設で特別な存在として育てられた若者3人が過酷な運命の狭間で揺れ動く、愛と友情と衝撃の事実を描いています。 「わたしを離さないで」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:マーク・ロマネク脚本:アレックス・ガーランド原作:カズオ・イシグロ出演:キャリー・マリガン(キャシー) アンドリュー・ガーフィールド(トミー) キーラ・ナイトレイ(ルース) イゾベル・ミークル=スモール(子供時代のキャシー) エラ・パーネル(子供時代のルース) チャーリー・ロウ(子供時代のトミー) シャーロット・ランプリング(エミリー) サリー・ホーキンス(ルーシー) ナタリー・リシャール(マダム) アンドレア・ライズボロー(クリシー) ドーナル・グリーソン(ロドニー) ほか【あらすじ】キャシー(イゾベル・ミークル=スモール、キャリー・マリガン)、トミー(チャーリー・ロウ、アンドリュー・ガーフィールド)、ルース(エラ・パーネル、キーラ・ナイトレイ)は、外界から隔絶された寄宿学校ヘールシャムで育ちます。過酷な運命を背負った特別な存在である彼らは、18歳で寄宿学校を出て他の学校の出身者たちとともに農場で共同生活を始めます。小さい頃から一緒に過ごしてきた三人ですが、いつかしらルースとトミーは恋人同士になり、トミーに想いを寄せていたキャシーは二人から離れます。やがて三人は、思わぬ形で再会することになります・・・。【レビュー・解説】ノーベル賞作家カズオ・イシグロのSFファンタジーを超えた示唆に富む原作を優美に脚色、イギリスの若手を中心にオスカー級俳優が揃い踏みした、英国伝統の文芸映画です。カズオ・イシグロのSFを原作に若手オスカー級俳優が揃い踏みの英国伝統の文芸映画イギリスの若手を中心にオスカー級俳優が揃い踏みキャリー・マリガンが出演したカズオ・イシグロの原作のインデペンデント映画というという認識でしたが、彼女以外にもイギリスの若手を中心に2000年代に頭角を現したそうそうたるキャストが揃い踏みしています。各俳優の主な出演作品については「関連作品」の項を参照していただくとして、既にアカデミー主演女優賞にノミネート経験がある二人に加え、その後、アカデミー主演俳優賞にノミネートされた俳優が三人と、充実のキャスティングです。これだけの選りすぐりの俳優を集められるのも、カズオ・イシグロ原作のネームバリューがあればこそでしょう。キャリー・マリガン(「17歳の賞状」(2009年)でアカデミー主演女優賞候補)アンドリュー・ガーフィールド(「ハクソー・リッジ」(2016年)でアカデミー主演男優賞候補)キーラ・ナイトレイ(「プライドと偏見」(2005年)でアカデミー主演女優賞候補)アンドレア・ライズボロードーナル・グリーソンサリー・ホーキンス(「ブルージャスミン」(2013年)でアカデミー助演女優賞候補)、「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年)でアカデミー主演女優賞候補)シャーロット・ランプリング(「さざなみ」(2015年)でアカデミー主演女優賞候補)実は、キャリー・マリガンの可愛らしさ、キーラ・ナイトレイの美しさといった、彼女らの容姿が人気の秘密だろうと思っていましたが、本作でその偏見が見事に裏切られました。キャリー・マリガンは、悲しい運命を受け入れるキャシーを美しく威厳を持って演じており、可愛らしさだけではなく、深みを持った女優であることを実感させます。また、美人の誉れ高いキーラ・ナイトレイは、本作では普通っぽく見えるようにメイクを施し、本人もそう願ったにもかかわらず、驚くほどの美しさを隠すことができなかったと、マーク・ロマネク監督は述懐しています。横恋慕するルースにキーラ・ナイトレイは感情移入できなかった述べていますが、受容的で落ち着いたキャシーとは対照的で嫉妬深く不安定なルースを見事に演じており、容貌だけではなくしっかりとした演技力を持った女優であることを痛感させます。SFファンタジーを超えるポテンシャルの高い作品臓器提供の為に育てられるクローンの若者たちの愛と友情を描いた、儚く切ないロマンティックな作品で、残された時間が短いことを悟った彼らは、親友に対して犯した過ちを正し、お互いに気づくことがなかった愛を束の間、成就させます。デストピアや SF ファンタジーの要素があり、一見、若者向けの作品のようですが、「もしヒットラーが勝ったら」とか、「もしケネディが暗殺されなければ」と同じ意味で、20世紀末に物事がひとつ、ふたつが違った方向に動けば、実際にあったことかもしれない「もうひとつの歴史」と、原作者のカズオ・イシグロ氏は語っています。臓器移植を題材にした映画には「堕天使のパスポート」(2002年)や「あさがくるまえに」(2016年)など、またクローンを題材にした映画には「ブレードランナー」(1982年)や「ブレードランナー2049」(2017年)などの名作がありますが、本作はこれらの作品のように臓器移植の詳細を描いたり、クローンが反乱を起こしたり、逃亡したりすることはありません。何故、クローンの若者たちは逃亡しないのか、欧米、特に自分の運命は自分で切り開くのを良しとするアメリカの人々にとって、本作の展開はとても不思議なようです。クローンの若者たちが逃亡しないは、日系イギリス人である原作者のカズオ・イシグロ氏が、あるがままの状況を受け入れる「諦念」、「悟り」、「達観」といった日本的な概念の影響を受けているからという解釈もできるかもしれません。実際、マーク・ロマネク監督は、なるべくデリケートに、日本の感性や美意識を映画の中に入れ込もうと思った。主人公がいかに優雅に悲しい運命を受け入れるか、その威厳ある姿勢が美しい。(マーク・ロマネク監督)https://eiga.com/movie/55678/interview/と語っています。また、カズオ・イシグロ氏本人は、この点に関して以下のように語っています。この話を書き始める時、奴隷たちが残酷なシステムに勝利するような話には、最初から興味がなかった。人間の自然な寿命、子供から大人になり年老いてやがて死ぬという逃れられない運命に、相当するものを見出したかった。関心があったのは「人は何をするのか?時間がないと知った時に、人にとって最も重要なものもは何か?」ということだっだ。すべての敵に復讐しようとするのが人間の性なのか?私的な財産の増やそうとするのだろうか?時間がない時、我々は何をしたいと思うのだろうか?(カズオ・イシグロ)http://www.indielondon.co.uk/Film-Review/never-let-me-go-mark-romanek-and-kazuo-ishiguro-interview人間は80年、長くても100年という寿命を受け入れざるを得ません。せめてもの抵抗は、少しでも長生きできるように健康に気をつけることくらいでしょう。逃亡できないキャシーとトミーが数年でも長く一緒にいられるようにと腐心するのは、いかにも人間的と言えます。 繊細な世界観を描き出すカズオ・イシグロですが、彼の作品はフランツ・カフカのように、抽象的、観念的、隠喩的な面があります(この傾向は、彼の最新作「忘れられた巨人」(2015年)により強いようです)。この作品が単なる若者向けの悲恋物語としてではなく、より幅広い年齢層に受容されるのは、クローンが我々一般的な人間の隠喩であるという原作由来の高いポテンシャル故です。さらに、語り部であるキャシーも、懸命に絵を描くトミーも、作家であるカズオ・イシグロの分身であることは、想像に難くありません。イギリス伝統の文芸映画を感じさせるエンディングカズオ・イシグロの同名小説が原作の「日の名残り」(1993年)もそうですが、イギリス映画の名作には文芸作品を原作にしたものが少なくありません。「ロミオとジュリエット」(1968年):シェイクスピアの同名戯曲が原作「オリバー!」(1968年):チャールズ・ディケンズの小説「オリバー・ツイスト」が原作「眺めのいい部屋」(1986年):E.M.フォースターの同名小説が原作「魅せられて四月」(1992年):エリザベス・フォン・アーニムの同名小説が原作「ハワーズ・エンド」(1992年):E・M・フォースターの同名小説が原作「日の名残り」(1993年):カズオ・イシグロの同名小説が原作「から騒ぎ」(1993年):シェイクスピアの同名戯曲が原作「いつか晴れた日に」(1995年):ジェーン・オースティン の「分別と多感」が原作「Emma エマ」(1996年):ジェーン・オースティンの小説「エマ」が原作「イングリッシュ・ペイシェント」(1996年):マイケル・オンダーチェの小説「イギリス人の患者」が原作「ハムレット」(1996年の映画):シェイクスピアの同名戯曲が原作「鳩の翼」(1997年):ヘンリー・ジェイムズの同名小説を原作「恋におちたシェイクスピア」(1998年):シェイクスピア戯曲「ロミオとジュリエット」、「十二夜」が原作「プライドと偏見」(2005年):ジェーン・オースティンの小説「高慢と偏見」が原作「つぐない」(2007年):イアン・マキューアンの小説「贖罪」が原作「わたしを離さないで」(2010年):カズオ・イシグロの同名小説が原作「ジェーン・エア」(2011年):シャーロット・ブロンテの同名小説が原作本作のエンディングで美しい夕暮れの風景に重なるキャシーのボイス・オーバーは、原作のエンディングをアレンジしたもので、本作がイギリス伝統の文芸映画であることを感じさせる、叙情的で余韻たっぷりのエンディングです。ネタバレCathy(Voice-Over): It has been two weeks since I lost him. And I’ve been given my notice now. My first donation is in a month time. I come here and imagine this is the spot where everything I’d ever lost since my childhood had washed up. I doubt myself if that were true and I wait long enough, a tiny figure would appear on the horizon across the field and gradually get larger until I’d see it was Tommy. He’d wave and maybe call. I don’t let the fantasy go beyond that. I can’t let so. I remind myself I was lucky to have any time with him at all. What I’m not sure about is whether our lives have been so different from the lives of the people we save. We all complete. Maybe none of us really understand what we’ve lived through. Or feel we’ve had enough time.キャシー(ボイス・オーバー):彼を失って2週間、私にも通知が来た。私の最初の提供は一ヶ月後だ。ここに来た私は、子供の頃からずっと失ってきた全てのことがここに打ち上げられているように思う。自分でも心もとないが、それが本当で、もしここでずっと待っていれば、原っぱの向こうの地平線に人影が現れ、少しずつ大きくなり、やがてそれがトミーであることがわかる。彼は手を振り、私を呼ぶかもしれない。そこから先は想像しない。想像にまかせることができない。どんな時であれ彼とともに過ごすことができて幸運だったと思う。私達と私達が救う人々の人生がどれほど違うのか、私にはわからない。誰もが皆、「完了」する。恐らく、私たちが何を生きたのか誰も真に理解することはないし、十分に時間があると感じることもなく生涯を終えるのだ。ネタバレ終わりもし、自分の命が間もなく尽きるとしたら、自分は何を感じ、どのような時間を過ごすのだろうか・・・、思わずそんなことを考えてしまう、見事なエンディングです。 キャリー・マリガン(キャシー)キャリー・マリガン(1985年〜)は、ロンドン出身のイギリスの女優。2004年に舞台デビュー、「プライドと偏見」(2005年)で映画デビュー、2008年にブロードウェイデビューを果たす。「17歳の肖像」(2009年)でアカデミー主演女優賞にノミネートされる。「ドライヴ」(2011年)、「華麗なるギャツビー」(2013年)、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年)、「遥か群衆を離れて」(2015年)、「マッドバウンド 哀しき友情」(2017年)、「ワイルドライフ」(2018年)などに出演している。アンドリュー・ガーフィールド(トミー)アンドリュー・ガーフィルド(1983年〜)は、ロサンゼルス出身のイギリスの俳優。父親はユダヤ系アメリカ人、母親はイギリス人で、アメリカとイギリスの二重国籍を保有。3歳の時にイングランドに移住、16歳の時に演技に興味を持ち始める。舞台俳優としてキャリアを始め、「BOY A」(2007年)で英国アカデミー賞テレビ部門主演男優賞を受賞、その後も「ソーシャル・ネットワーク」(2010年)、「アメイジング・スパイダーマン」(2012年)、「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」(2014年)、「アメイジング・スパイダーマン2」(2014年)、「沈黙 -サイレンス-」(2016年)などに出演、「ハックソーリッジ」(2016年)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされている。キーラ・ナイトレイ(ルース)キーラ・ナイトレイ(1985年〜)は、ロンドン出身のイギリスの女優。 父は舞台役者 、母は劇作家。幼い頃から役者志望で、「学校が休みの時だけ演技の仕事をしてもいい」との約束でエージェントが付ける。識字障害で、10代の時に克服している。1993年にテレビドラマ・デビュー、1995年に映画デビュー。「ベッカムに恋して」(2002年)、「プライドと偏見」(2005年)、「つぐない」(2007年)、「はじまりのうた」(2013年)、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(2014年)、「コレット」(2018年)、「オフィシャル・シークレッツ」(2019年)などに出演、「プライドと偏見」でアカデミー主演女優賞にノミネートされている。女優としてのキャリアとチャリティー活動が評価され、2018年に大英帝国勲章(第四位)を受勲している。シャーロット・ランプリング(エミリー)シャーロット・ランプリング(1946年〜)は、イギリスの女優、歌手。イギリスとフランスで教育を受け、語学に堪能。イタリア映画「愛の嵐」(1974年)の上半身裸にサスペンダーでナチ帽をかぶって踊るシーンで世界的に有名になる。一時、活動が低調であったが、フランソワ・オゾン監督の「まぼろし」(2000年)で再び注目され、「スイミング・プール」(2003年)、「さざなみ」(2015年)、「The Forbidden Room」(2015年)などに出演、「さざなみ」でアカデミー主演女優賞にノミネートされている。大英帝国勲章のオフィサー(OBE)を叙勲されている。サリー・ホーキンス(ルーシー)サリー・ホーキンス(1976年〜)は、ロンドン出身のイギリスの女優。王立演劇学校を卒業、主にイギリス国内の舞台・テレビ・映画での活躍を経て、国際的な演技派女優となる。「人生は、時々晴れ」(2002年)、「ヴェラ・ドレイク」(2004年)、「レイヤー・ケーキ」(2004年)、「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年)、「17歳の肖像」(2009年)、「ファクトリー・ウーマン」(2010年)、「ジェーン・エア」(2011年)、「サブマリン」(2011年)、「ブルージャスミン」(2013年)、「パディントン」(2014年)、「僕と世界の方程式」(2014年)、「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」(2016年)、「パディントン 2 」(2017年)、「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年)などに出演、「ブルージャスミン」でアカデミー助演女優賞に、「シェイプ・オブ・ウォーター」でアカデミー主演女優賞にノミネートされている。ナタリー・リシャール(マダム)ナタリー・リシャール(1963年〜)は、パリ出身のフランスの女優。「ヴィオレット ある作家の肖像」(2013年)などに出演している。アンドレア・ライズボロー(クリシー)アンドレア・ライズボロー(1981年〜)は、イングランド出身のイギリスの女優。幼少期より演劇を好み、王立演劇学校に進んで、在学中に3度テレビドラマに出演する。2005年に卒業後、舞台に立ち、舞台とテレビで数々の賞にノミネートされ、受賞する。「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年)、「ファクトリー・ウーマン」(2010年)、「シャドー・ダンサー」(2012年)、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)、「スターリンの葬送狂騒曲」(2017年)、「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」(2017年)、「ナンシー」(2018年)、「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」(2018年)などに出演している。ドーナル・グリーソン(ロドニー)ドーナル・グリーソン(1983年〜)はダブリン出身のアイルランドの俳優。大学卒業後に舞台や映像の分野で監督や脚本を手掛けるようになる。2006年に長編映画、舞台にデビュー、徐々に映画やテレビ出演が多くなり、「トゥルー・グリット」(2010年)、「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」(2011年)、「シャドー・ダンサー」(2012年)、「FRANK -フランク-」(2014年)、「ある神父の希望と絶望の7日間」(2014年)、「ブルックリン」(2015年)、「エクス・マキナ」(2015年)、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年)、「レヴェナント: 蘇えりし者」(2015年)、「バリー・シール/アメリカをはめた男」(2017年)、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年)などに出演している。【サウンドトラック】 「わたしを離さないで」のサウンドトラックCD(楽天市場)通常、オーケストラは100人近い構成になるがが、サウンドトラックを担当したレイチェル・ポートマンは彼女の曲を「室内楽曲」と呼び、演奏者をピアノ、弦楽器、ハープ、そしてバイオリンのソロ、チェロのソロの48人で構成した。彼女は、ミニマルで控えめで親密感のある曲には、少人数のオーケストラが良いと感じたのだ。映画のストーリーが悲しいものであるが故に、彼女は音楽に希望、人間らしさ、そして鼓動を持たせたいと考えた。1. The Pier 2. Main Titles 3. Bumper Crop 4. To The Cottages 5. The Boat 6. Madame Is Coming 7. Ruth's Betrayal 8. Making Tea 9. Evening Visit 10. Kathy And Tommy11. Kathy Watches Behind Screen 12. Life As A Carer 13. Kingsfield Recovery Centre 14. Unseen Tides 15. The Worst Thing I Ever Did 16. Souls At All 17. We All Complete 18. Hailsham School Song 19. Never Let Me Go【撮影地(グーグルマップ)】三人が育ったヘールシャム寄宿学校ジェームズ1世の近衛隊長がテムズ河畔に築いたハム・ハウスが使用されているキャシーら5人が食事に立ち寄ったレストランウェストン・スーパー・メアのThe Regent Restaurant and Coffee Loungeで撮影されているルースの「オリジナル」が働くオフィスIT企業のクリーブドンのオフィスで撮影されているルースの「オリジナル」を見た後、キャシーとトミーが佇む突堤設定はイギリスの東海岸のノーフォークだが、撮影は西海岸のクリーブドンで行われている介護人になったキャシーが暮らすアパート芸術家が集まるロンドンの高層住宅「トレリック・タワー」で撮影されている「提供」の為にルースが入所している施設スコットランドのセント・アンドリューズ大学の学生寮で撮影されているキャシー、トミー、ルースが三人で出かけた浜辺ホルカム・ナショナル自然保護区の海岸で撮影されているキャシーとトミーが訪れるマダムの家イースト・サセックスのベックスヒル・オン・シーという南海岸の街で撮影している 「わたしを離さないで」のDVD(楽天市場)【関連作品】「わたしを離さないで」の原作本(楽天市場) カズオ・イシグロ著「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ原作の映画のDVD(楽天市場) 「日の名残り」(1993年)カズオ・イシグロ脚本の映画のDVD(楽天市場) 「世界で一番悲しい音楽」(2004年):輸入盤、日本語なし 「上海の伯爵夫人」(2005年)キャリー・マリガン x キーラ・ナイトレイ共演作品のDVD(楽天市場) 「プライドと偏見」(2005年)サリー・ホーキンス x アンドレア・ライズボロー共演作品のDVD(楽天市場) 「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年) 「ファクトリー・ウーマン」(2010年)キャリー・マリガン x サリー・ホーキンス共演作品のDVD(楽天市場) 「17歳の肖像」(2009年)ドーナル・グリーソン x アンドレア・ライズボロー共演作品のDVD(楽天市場) 「シャドー・ダンサー」(2012年)キャリー・マリガン出演作品のDVD(楽天市場) 「ドライヴ」(2011年) 「華麗なるギャツビー」(2013年) 「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年) 「遥か群衆を離れて」(2015年、日本未公開):輸入盤、日本語なし 「マッドバウンド 哀しき友情」(2017年) 「ワイルドライフ」(2018年) キーラ・ナイトレイ出演作品のDVD(楽天市場) 「ベッカムに恋して」(2002年) 「つぐない」(2007年)「はじまりのうた」(2013年)「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(2014年) 「コレット」(2018年) 「オフィシャル・シークレッツ」(2019年)アンドリュー・ガーフィールド出演作品のDVD(楽天市場) 「BOY A」(2007年) 「ソーシャル・ネットワーク」(2010年) 「アメイジング・スパイダーマン」(2012年) 「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」(2014年) 「アメイジング・スパイダーマン2」(2014年) 「沈黙 -サイレンス」(2016年) 「ハクソー・リッジ」(2016年)ドーナル・グリーソン出演作品のDVD(楽天市場) 「トゥルー・グリット」(2010年) 「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」(2011年) 「FRANK -フランク-」(2014年) 「ある神父の希望と絶望の7日間」(2014年) 「エクス・マキナ」(2015年) 「ブルックリン」(2015年) 「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年) 「レヴェナント: 蘇えりし者」(2015年) 「バリー・シール/アメリカをはめた男」(2017年) 「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年)アンドレア・ライズボロー出演作品のDVD(楽天市場) 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年) 「スターリンの葬送狂騒曲」(2017年) 「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」(2017年) 「ナンシー(Nancy)」(2018年) 「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」(2018年)サリー・ホーキンス出演作品のDVD(楽天市場) 「人生は、時々晴れ」(2002年) 「ヴェラ・ドレイク」(2004年) 「レイヤー・ケーキ」(2004年) 「ジェーン・エア」(2011年) 「サブマリン」(2011年) 「ブルージャスミン」(2013年) 「パディントン」(2014年) 「僕と世界の方程式」(2014年) 「パディントン 2 」(2017年) 「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年) 「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」(2017年)シャーロット・ランプリング出演作品のDVD(楽天市場) 「まぼろし」(2000年) 「スイミング・プール」(2003年) 「さざなみ」(2015年) 「The Forbidden Room」(2015年)
2020年02月17日
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「ハートビート」は、2016年公開のアメリカ・ルーマニア合作のダンス&ドラマ映画です。マイケル・ダミアン監督、マイケル&ジャニーン・ダミアン共同脚本、キーナン・カンパ、ニコラス・ガリッツィンら出演で、プロのバレエダンサーを目指しニューヨークにやってきたルビーとイギリス人バイオリニストのジョニーが夢を追う姿を、音楽、バレエ、ヒップホップ・ダンスをマッシュアップしながら描いています。 「ハートビート」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:マイケル・ダミアン脚本:マイケル・ダミアン、ジャニーン・ダミアン出演:キーナン・カンパ(ルビー、奨学金を得てニューヨークのバレエ学校に入学) ニコラス・ガリッツィン(ジョニー・ブラックウェル、バイオリンで稼ぐ不法移民) ソノヤ・ミズノ(ジャジー、バレエ学校の生徒、ルビーのルームメイト) ポール・フリーマン(クラムロフスキー、バレエ学校のクラシックの教師) ジェーン・シーモア(オクサナ、バレエ学校のコンテンポラリーの教師) アナベル・クタイ(エイプリル、バレエ学校の生徒、ルビーのライバル) リチャード・サウスゲイト(カイル、バイオリンの学生、ジョニーのライバル) マヤ・モルゲンスタン(マルコヴァ、バレエ学校の校長) イアン・イーストウッド(リク、スイッチ・ステップスのメンバー) マーカス・エマニュエル・ミッチェル (ヘイワード・ジョーンズ三世、スイッチ・ステップスのメンバー) カムフォート・フェドーク(ポップタート、スイッチ・ステップスのメンバー) デイヴ・スコット(マッキー、ヴェルクのメンバー) イヴァン“フリップズ”ベレズ(ディック、ヴェルクのメンバー) ほか【あらすじ】高校卒業後、バレエの道へ進む為に奨学金を得てニューヨーク・マンハッタンのダンス学校に進学したルビー(キーナン・カンパ)は、少々問題児のルームメイト、ジャジー(ソノヤ・ミズノ)たちと日々、厳しい練習に取り組んでいます。そんなある日、ルビーは地下鉄の駅で生活のために演奏をしているイギリス人バイオリニスト、ジョニー(ニコラス・ガリツィン)に出会います。衝突しながらも二人は徐々に惹かれ合っていきますが、自分が思い描くように踊れないルビーは、遅刻しがちなジャジーと共に奨学金の資格を停止される危機に直面します。一方、不法滞在のジョニーは大切なバイオリンを盗まれた上、グリーンカード詐欺に遭います。追い詰められた二人はお互いの夢を追求する為、「弦楽器&ダンスコンクール」への出場を決意します。このコンクールに優勝すれば、ジョニーは奨学金と就学ビザが得られます。ジョニーの隣人であるストリート・ダンサー集団の力を借り、二人は今までにない新しいステージを作ろうと奮闘しますが・・・。【レビュー・解説】世界レベルのダンサーをキャストに迎え、音楽、バレエ、ヒップホップ・ダンスを丁寧にマッシュアップした、上質でテンポの良い、誰にでも楽しめる音楽&ダンス映画です。上質でテンポの良い音楽&ダンス映画冒頭、ニューヨークの街並みが空撮で映し出され、次いで入学するマンハッタンのバレエ学校に向かうルビーが映し出されます。さらにニューヨークのロフトでバイオリンを弾くジョニーと、その階下でヒップホップ・ダンスを練習する隣人たちが映し出されます。バレエ学校で学ぶ為にニューヨークに来たルビーロフトでバイオリンを弾くジョニージョニーの階下のヒップホップダンサーたちヒップホップ・ダンスに詳しくなくても、クォリティの高さが感じられる映像バレエ学校を訪れるルビー、地下鉄の駅でバイオリンを演奏するジョニー、その脇を通ってアパートに向かい、ルームメイトのジャジーと会うルビー、弁護士にグリーンカードの取得を依頼するジョニー、階下のヒップホップダンサーたちを訪れるジョニー、ジャジーに誘われてクラブに行くルビー、バレエ学校のレッスン風景と、テンポよく展開していきます。階下の隣人たちがジョニーに披露するフリースタイルのダンス導入部二度目のヒップホップ・ダンスのシーンだが、時刻、照明、ダンスの種類を変えて変化をつけているジャジーとルビーが訪れる、ダンサーが集うクラブヒップホップとバレエのみならず、さまざまダンスを取り込んで変化をつけている。バレエ学校でのレッスン風景手前左がルビーを演じるキーナン・カンパ、手前右が撮影に協力した当時のブカレスト国立オペラ劇場バレエ団のプリンシパルの日高世菜(現在はアメリカのタルサ・バレエ団のプリンシパル)、右奥がジャジーを演じるソノヤ・ミズノ。三人ともダンスは一流、見事。ここまで二十分弱ですが、映像、音、編集ともにクォリティが高く、変化をつけながらのテンポの良い展開に、思わず引き込まれます。こだわりのキャスティング数多いダンス映画の中で本作を特徴づけているのは、本格的なダンサーを多数、起用した豪華なキャスティングです。詳細は後述のキャストの経歴を参照いただくとして、世界で最も格調高いと言われるロシアのマリインスキー・バレエ団初のアメリカ人バレリーナ、キーナン・カンパ英国ロイヤル・バレエ学校卒業後、 ドレスデン国立歌劇場バレエ団やスコティッシュ・バレエ団等で活躍したダンサー・女優のソノヤ・ミズノ英国ロイヤル・バレエ学校卒業後、コンテンポラリー舞踊団の舞台やロンドンの新設ダンスカンパニーで活躍したダンサー・女優のアナベル・クタイ撮影に協力した当時のブカレスト国立オペラ劇場バレエ団のプリンシパルの日高世菜(現在は米国タルサ・バレエ団のプリンシパル)と、世界レベルのバレエ・ダンサーが配されており、女優+無名の代役とは異なったハイレベルのパフォーマンスを楽しむことができます。バレエ学校のレッスンのシーンでは、この4人(と、ブカレスト国立オペラ劇場バレエ団のメンバーたち)が一同に会するとても贅沢なシーンです。また主演のキーナン・カンパの世界トップクラスのソロを、遠いステージ上ではなく手を伸ばせば届くようなレッスン場で見ることができるのは至福の極みです。キーナン・カンパ演ずるルビーのソロ(YouTube)https://www.youtube.com/watch?v=CNQOf5BaOmQこの時に流れているのが、Chris Burkich の Weightless(重さのない)という、まさに重力から開放されたかのようなキーナン・カンパの踊りにベストマッチする曲。また、ヒップホップ・ダンサーも、世界的なダンス・コンペでトップに選出されたダンサー、振付師、監督のイアン・イーストウッドビッグ・アーティストのツアーやMVに出演、ダンス映画にも立て続けに出演するマーカス・エマニュエル・ミッチェルスーパーボウルなど大舞台で大物アーティストと共演、ダンス映画に出演する一方で歌手としても活動するカムフォート・フェドークダンス・オーディション番組やダンス映画の振り付けを手がけて世界的なアワードを受賞、本作では製作総指揮と振り付け、出演を務めるダンサー、振付師、プロデューサーのデイヴ・スコット世界のトップ歌手のツアーに参加、過去十年のダンス映画のほとんどに出演、世界最強のブレイクダンス・チームで活躍するダンサー、俳優、振付師、スタントマン、プロデューサーのイヴァン“フリップズ”ベレズと、一流どころが揃い踏みです。バレリーナのリアリティ本作実現の原動力となったのはマイケル・ダミアン監督と、その妻で共同脚本、制作のジャニーン・ダミアンの夫妻です。ジャニーン自身もハリウッドで活躍したトップ・ダンサーで、この作品は彼女の経験にゆるく基づいています。彼女は14歳の時にアメリカ屈指のバレエ学校の奨学金を得て、ニューヨークに出て来ました。14歳の少女にとって大都市の名門バレエ学校は大きなプレッシャーで、それがこの物語のトーンを醸し出しています。また、作中でバレエ学校に到着した母と娘が交わすセリフ、マリー(母):昔からの夢がついに叶ったわね。ルビー(娘):感謝しているわ。マリー:自分の力よ。たいした用がなくてもいいから電話してね。ルビー:そうする、そうする、ママ。マリー:電話してね。ルビー:約束する。私は大丈夫、本当よ。マリー:わかってる。心配なのはこの私。愛してる、それだけよ。ルビー:私もよ。マリー:じゃあね。は、ジャニーンと母の実際のやりとりだそうです。また、ダイエットを心がけたり、奨学金の資格を停止すると脅されたりと、ダンサーのリアリティがあちこちに散りばめられています。音楽、バレエ、ヒップホップ・ダンスをマッシュアップジャニーンは、ニューヨークのバレエ学校で5年間、学んだ後、TVショーにスカウトされ、マイケル・ジャクソン、プリンスや、オスカー、エミー、ゴールデン・グローブ、アメリカ音楽賞などを踊るハリウッドのトップダンサーとなりました。彼女のダンスへの情熱と、音楽畑出身のマイケル・ダミアン監督の音楽への情熱を映画にしたのが本作です。マイケルにもジャニーンにもそのバックグラウンドはありませんが、二人の希望で時代の最先端のヒップホップも取り込まれました。次項で詳述しますが、今やダンス映画の主流はヒップホップで、若い観客の心を掴むにはヒップホップの要素が必須です。ダンス・オーディション番組やダンス映画の振り付けを手がけ世界的に高く評価されているデイヴ・スコットが本作の振り付けと製作総指揮を務め、全てのダンスのテクニックを生かしながらマッシュアップし、ダンスのドラマを描いています。テンポの良い導入部に続いて、最初に登場する見せ場が地下鉄ホームのダンスバトルです。音、映像、編集も素晴らしく、ダンスバトル・ファンならずとも、思わず引き込まれます。また、最初の見せ場にヒップホップを持ってきたのも、若い観客の心を掴む上で効果的な構成です。地下鉄ホームのダンスバトル・シーン(YouTube)https://www.youtube.com/watch?v=kZ_dp5ULq9M最初の方にタップダンスを見せている。先日、「キングスマン」(2015年)、「スター・トレック BEYOND」(2016年)などで注目を集めたフランスのダンサー、女優のソフィア・ブテラが出演したダンス映画を調べたのですが、その映像を見てがっかりしました。ソフィアは幼い頃にバレエを始め、新体操のフランス代表になり、ヒップホップダンス・グループ「ヴァガボンド」を結成して世界大会で優勝、マドンナやマイケル・ジャクソンなどビッグ・アーティストのダンサーを務めるほどの実力者です。しかし、彼女が出演したダンス映画からはいまひとつ彼女の素晴らしさが伝わって来ず、「キングスマン」のアクション・シーンの方がはるかに彼女の素晴らしさを引き出している印象です。その点、本作は音も、映像も編集も、ハイレベルでそつなくまとめられており、それが本作を成功に導いたひとつの要因でもあります。「動画クリップ(YouTube)」の項に、ソフィア・ブテラが出演した映画のダンスシーンを挙げておきますので、興味のある方は本作の「地下鉄ホームのダンスバトル・シーン」と比較してみてください。次の見せ場は、酒場でのアイリッシュ・ダンスと「白鳥の湖」の「4羽の白鳥の踊り」です。ジョニーの特技がバイオリンですが、アイルランドでは1600年代から民謡にフィドル(バイオリン)が取り込まれており、アイリッシュダンスとの相性も良いのです。酒場のシーンではまず、女性4人がバイオリンの伴奏でアイリッシュダンスを踊り始め、次いでジャジー、ルビーら4人の女性がジョニーの伴奏で「白鳥の湖」の「四羽の白鳥の踊り」を踊る展開になります。踊りの形が似ているので、面白い対比になっています。この「四羽の白鳥の踊り」、素人が踊ると振りが全く合わないのですが、さすがに本作の選りすぐりのキャストは豪華で華やかな振りを見せてくれます。アイリッシュ・ダンスと「四羽の白鳥の踊り」https://www.youtube.com/watch?v=Bve0pPwkuzM本作では、ジョニーの特技がバイオリンですが、ジョニーの母国イギリスの隣国アイルランドでは、1600年代から民謡にフィドル(バイオリン)が取り込まれており、アイリッシュダンスと非常に相性が良いのです。酒場のシーンではまず、女性4人がテーブルの上でアイリッシュダンスを始め、次いでジャジー、ルビーら4人がジョニーの伴奏で白鳥の湖の「四羽の白鳥の踊り」を踊ります。踊りの形が似ているので、とても面白い対決です。実はこの「四羽の白鳥の踊り」、素人が踊ると振りが全く合わないのですが、本作の選りすぐりのキャストはおよそ酒場の踊りとは思えない、贅沢な振りを見せてくれます。ジョニーとルビーの気持ちが絡み合うタンゴのシーンもあります。ヒップホップとバレエにとどまらず、クラブ、タップダンス、アイリッシュダンス、そしてこのタンゴと、様々なダンスを取り込まれ、単調にならないように変化をつけるとともに、踊る楽しさが随所に散りばめられている。 アイリッシュ・ダンスと「四羽の白鳥の踊り」もバトルと言えばバトルですが、本作で展開するバトルはダンスにとどまりません。ジョニーとライバルのカイルが、バイオリンのバトルを見せてくれます。バイオリン演奏で対決するだけでなく、バイオリンの弓でチャンバラまで披露するユーモアたっぷりの演出です。バイオリンのバトル(YouTube)https://www.youtube.com/watch?v=KulLsS1GzWcそしてクライマックスは、ジョニーのバイオリンに合わせてのバレエとヒップホップのマッシュアップです。さすがにクラシック・バレエとヒップホップ・ダンスをなじませるのは難しそうですが、本作では時代を体現する前衛的な「コンテンポラリー・バレエ」の領域でマッシュアップしています。重厚で見応え、聴き応えあるパフォーマンスです。ひとつ興味深かったのが、バレエとヒップホップの類似した動きを対照的に表現するシーンです。バレエ(左後方の赤いコスチュームを着たルビー)とヒップホップ(左前方の2名の女性)の形の作り方の差が、象徴的に出ているようで面白い。付録:ダンス映画のトレンドソウル、ロック、ポップ、ブレイク、ディスコ、ジャズ、タップ、フラメンコ、フラ、ラテン、スタンダード、サルサ、チアなど、ダンスの種類は様々です。そうした多様なダンスを描いた映画はミュージカル以外にも多く、また異なるジャンルが影響し合った作品もあります。私もダンス映画は嫌いではなく、古くは「サタデー・ナイト・フィーバー」(1977年):ディスコ「フェーム」(1980年):ジャズ「フラッシュダンス」(1983年):ジャズ「フットルース」(1984年):ロック/ポップ「ダーティ・ダンシング」(1987年):ロック/ポップ/ラテンといったあたりから、「タップ・ドッグス 」(2000年):タップ「チアーズ!」(2000年):チア「センターステージ」(2000年):バレエ「Shall We Dance?」(2004年):ソーシャル(スタンダード、ラテン)「愛されるために、ここにいる」(2005年):タンゴ「バレエ・シューズ」(2007年):バレエ「フラメンコ・フラメンコ」(2010年):フラメンコ「カムバック!」(2014年):サルサなどなど、幅広く楽しませてもらっています。ブレイク・ダンスを取り込むなど、ダンス映画は1980年代からストリート系のダンスの影響を受けていましたが、「ダンス・レボリューション」(2003年)など、2000年代以降のダンス映画はヒップホップ系、ストリート系、ダンスバトル系の映画が主流になっています。「ステップ・アップ」(2006年)「ステップ・アップ2:ザ・ストリート」(2008年)「ステップ・アップ3」(2010年)「ステップ・アップ4:レボリューション」(2012年)「ステップ・アップ5:アルティメット」(2014年)とシリーズ化した「ステップ・アップ」では、ついに全編中国語のスピン・オフ作品「STEP UP: YEAR OF THE DANCE」(2019年)まで制作されました。また、香港では太極拳とストリートダンスを融合させた「The Way We Dance 狂舞派」(2013年)が、インドでは「ABCD (Any Body Can Dance) 」(2013年)が制作されるなど、ヒップホップ系、ストリート系、ダンスバトル系の映画は、アメリカのダンス映画の主流となるだけではなく、グローバルな広がりを見せています。欧州の社交ダンスのひとつであるジャイブの歴史を辿ると、1920年代にハーレムで生まれたリンディ・ホップに行き着くなど、ストリート・ダンスはダンス文化における重要な要素のひとつです。あと二十年もすると、ヒップホップ・ダンスも社交ダンスのひとつになっているかもしれません。キーナン・カンパ(ルビー、奨学金を得てニューヨークのバレエ学校に入学)キーナン・カンパ(1989年〜)は、ワシントンD.C.出身のアメリカの女優、ダンサー。4歳でダンスを始め、 2006年に全米ユース・バレエ・コンペで金メダルを獲得。18歳の時、ロシアの有名なバレエ学校に入学し、トップで卒業、世界5大バレエ団の中でも最も格調高いマリインスキー・バレエ団にアメリカ人として初めて入団し、主要な役を務める。2014年に腰の手術のためアメリカに帰国。ロシアに戻る予定を変更し、アメリカに留まることに決め、本作で女優デビュー。ニコラス・ガリッツィン(ジョニー・ブラックウェル、地下鉄の駅でバイオリンを弾いて稼ぐ不法移民)ニコラス・ガリッツィン(1994年〜)は、ロンドン出身のイギリスの俳優。「ぼくたちのチーム」(2016年)などに出演している。ソノヤ・ミズノ(ジャジー、バレエ学校の生徒、ルビーのルームメイト)ソノヤ・ミズノ(1986年〜)は東京出身の日系イギリス人の女優、モデル、バレリーナ。父が日本人、母がイギリス人で、東京生まれのイギリス育ち。英国ロイヤル・バレエ学校で学んだ後、 ドレスデン国立歌劇場バレエ団とスコティッシュ・バレエ団等で活躍。20歳のときにモデル活動を始め、シャネル、アレキサンダー・マックイーン、イヴ・サンローラン、ルイヴィトンのモデルとしても活動。日本ではユニクロのCMで注目される。「エクス・マキナ」(2015年)、「ラ・ラ・ランド」(2016年)、「クレイジー・リッチ」(2018年)、「アナイアレイション -全滅領域-」(2018年)などに出演している。ポール・フリーマン(クラムロフスキー、バレエ学校のクラシックの教師)ポール・フリーマン(1943年〜)は、ハートフォードシャー出身のイギリスの俳優。「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」(1981年)、「ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!」(2007年)などに出演している。ジェーン・シーモア(オクサナ、バレエ学校のコンテンポラリーの教師)ジェーン・シーモア(1951年〜)は、イギリス出身のアメリカの女優。「ウエディング・クラッシャーズ 」(2005年)などに出演している。アナベル・クタイ(エイプリル、バレエ学校の生徒、ルビーのライバル)アナベル・クタイ(1983年〜)は、マンチェスター出身のイギリスのダンサー、女優。英ロイヤル・バレエ学校などでダンスを学んだ後、コンテンポラリー舞踊団のメンバーとして舞台に立ちます。ロンドンの新鋭ダンスカンパニーの創設メンバーとしても活躍。2010年にはイギリス版ダンスアイドルのファイナリストの一人となり注目され、ダンサーとしてビヨンセやマドンナのパフォーマンスに参加、その後テレビ・映画に転向し、「グランドフィナーレ」(2015年)に端役で出演、本作で初めてのメイン・キャストを得る。リチャード・サウスゲイト(カイル、バイオリンの学生、ジョニーのライバル)リチャード・サウスゲイト(1990年〜)は、主にテレビ、舞台で活躍するイギリスの俳優。マヤ・モルゲンスタン(マルコヴァ、バレエ学校の校長) マヤ・モルゲンスタン(1962年〜) は、ルーマニアの女優。ルーマニアの舞台と映画のシンボルと言われる。「パッション」(2004年)などに出演している。イアン・イーストウッド(リク、スイッチ・ステップスのメンバー)イアン・イーストウッド(1993年〜)は、シカゴ出身のアメリカのダンサー、振付師、監督。10歳からダンスを始め、アメリカの人気ダンス番組に出場したダンスチームのメンバーとして人気者になる。2015年には世界的なダンス・コンペ「WORLD OF DANCE」でエンターテイナー・オブ・ザ・イヤーに選出される。数々のミュージック・ビデオで振り付けを行うとともに、ダンサーとしても出演する。ダンス映画「Breaking Through」(2015年)の振り付け指導を行い、本作で俳優として本格的に映画デビュー。マーカス・エマニュエル・ミッチェル(ヘイワード・ジョーンズ三世、スイッチ・ステップスのメンバー)マーカス・エマニュエル・ミッチェル(1988年〜)は、ヒューストン出身のアメリカのダンサー、俳優。大学入学後に本格的にダンスを始める。テイラー・スイフト、リアーナ、ケイティー・ペリー、ビヨンセ、ファーギーといった名だたるアーティストのツアーやミュージック・ビデオに出演し、一方でコマーシャル出演や振り付け師としても活躍。ダンス映画「ストンプ・ザ・ヤード2」(2010年)で映画デビュー、「Breaking Through」(2015年)、「Odious」(2017年)と、立て続けに映画に出演、ダンサーだけでなく、俳優としても今後が期待されている。カムフォート・フェドーク(ポップタート、スイッチ・ステップスのメンバー)カムフォート・フェドーク(1988年〜)は、ナイジェリア出身のアメリカのダンサー、女優。8歳の時アメリカに帰国、陸上競技を志すが怪我で断念、ダンスを始める。ジャクソン・ファミリーのミュージック・ビデオを見てヒップ・ホップダンスを学び、ダンス・オーディション番組「アメリカン・ダンスアイドル」に兄弟とともに出演して注目される。その後スーパーボウルなどの大舞台でリアーナ等の大物ミュージシャンと共演、ダンス映画「フットルース 夢に向かって 」(2011年)などに出演する一方で、歌手としても活動している。デイヴ・スコット(マッキー、ヴェルクのメンバー)デイヴ・スコット(1974年〜)は、カリフォルニア州出身のダンサー、振付師、プロデューサー。音楽業界、映画、TV、CMと幅広く活動している。ダンス・オーディション番組「アメリカン・ダンスアイドル」の振付、ダンス映画「ストンプ・ザ・ヤード」(2006年)、「ステップ・アップ2:ザ・ストリート」(2008年)、「ステップ・アップ3」(2010年)の振付を手がけ、ワールド・オブ・ダンス・アワードのベスト・コレオグラフィ賞を受賞、本作では製作総指揮と振り付けを務める一方、ダンスバトルを行うチームの一員として出演している。イヴァン“フリップズ”ベレズ(ディック、ヴェルクのメンバー)イヴァン“フリップズ”ベレズ(1979年〜)は、プエルトリコ出身のアメリカのダンサー、俳優、振付師、スタントマン、プロデューサー。世界的に有名なブレイク・ダンサーで、世界のトップ歌手のツアーに参加するとともに、「ユー・ガット・サーブド」(2003年)、「最強絶叫ダンス計画」(2009年)、「ステップ・アップ3」(2010年)、「バトル・オブ・ザ・イヤー ダンス世界決戦」(2013年)などを含む、主なダンス映画のほとんどに出演、ダンスを披露する一方、世界で最強と言われるブレイクダンス・チームであるスキルメソッズ・クルーの一員としても活躍している。【サウンドトラック】 「ハートビート」のサウンドトラック(楽天市場)1 Do U Feel Like Movin' by Mohombi 2 DJ Fav by Nia Sioux 3 Monotony by Sofi Tyler 4 Weightless by Chris Burkich 5 Amazing by Cameron Tyler & Willy Beaman 6 Love Girl Peace by Alina Artts 7 Oldboy by Playb4ck 8 Unafraid by Mikaela Coco 9 Shut It Down by Vali10 Crank That Sound by Ian Mohr 11 Say Something by Keith Cullen 12 Mob by Ian Mohr 13 A True Love by Sweet Chili 14 Mutate by Ian Mohr 15 Fiddle Me Ghillies by Nathan Lanier 16 El Tango De Los Celos by Nathan Lanier 17 Torn (Redux) by Nathan Lanier【動画クリップ(YouTube)】マリインスキー・バレエ団時代のキーナン・カンパ「ストリートダンス2」のソフィア・ブテラのダンス・バトル・シーンダンスバトルをボクシング対決に擬えた設定だが、残念なことにソフィア・ブテラのパフォーマンスの魅力を十分に引き出せていない。この作品と比較すると、本作のダンスシーンがよく撮られていることがわかる。【撮影地(グーグルマップ)】ジョニーのロフトがある通り 設定はニューヨークだが、ロフトそのものの外観はセットで撮影されている。ジョニーがバイオリンをひく地下鉄の駅 ニューヨークという設定だが、ブカレストのリパブリカという地下鉄の駅で撮影している。ジョニーがグリーカード取得の為の費用を支払うコーヒーショップ ニューヨークの地中海料理の店「Balaboosta」で撮影。現在は閉店。ルビーが通うマンハッタン芸術大学 約半数がアメリカ国外からの留学生が占め、ロン・カーター、ハービー・ハンコックなどの著名な音楽家を排出しているマンハッタン音楽学校で撮影されている。ルビーがジョニーの支えでI字バランスととる川辺 WNYC トランスミッター・パークの一角。小さな公園だが、マンハッタンのミッドタウンが目の前で、眺めが素晴らしい。ルビーとジョニーがキスをするリンカーン・センター前 リンカーン・センターは「月の輝く夜に」(1987年)など、数多くの映画のロケ地となっている。 「ハートビート」のDVD(楽天市場)【関連作品】本作の続編(楽天市場) 「HIGH STRUNG FREE DANCE」(2019年)輸入盤、日本語なし 【輸入盤DVD】【ネコポス送料無料】HIGH STRUNG: FREE DANCE 【DM2020/2/4発売】おすすめダンス映画 - ミュージカルを除く(楽天市場) 「サタデー・ナイト・フィーバー」(1977年) 「フェーム」(1980年) 「ダーティ・ダンシング」(1987年) 「ダンシング・ヒーロー」(1992年) 「リトル・ダンサー」(2000年) 「バレエ・シューズ」(2007年) 「ブラック・スワン」(2010年) 「ノーザン・ソウル」(2015年) 「ポリーナ、私を踊る」(2016年) 「Dance Academy: The Comeback」(2017年)
2020年02月06日
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昨年2月に購入した , iMac mid-2017 Apple 21.5インチ iMac Intel Core i5 2.3GHz 1TB MMQA2J/A MMQA2JA (楽天市場)ですが、時折、ビビビッと激しい音を発して強制終了するようになりました。そこで、ブラウザ使用中にクラッシュすることが多いことから、ブラウザのキャッシュをクリアしてみたが、改善せずセキュリティ・ソフト シマンテック/ノートン360 デラックス 1年3台版(楽天市場)で、フルスキャンしてが、ウィルスは検出されず、NVRAMクリアMac で NVRAM または PRAM をリセットする(Apple)を試みたが、改善せず、そこで、ディスクの修復を試みてみましたMacのディスクユーティリティでストレージデバイスを修復する(Apple)そういえば、SSDから、HDDにグレードダウンしたのでやむを得ないとは思っていたが、ディスクアクセスに時間がかかるデスクトップのアイコンが消えるなど、ファインダーの不調が散発といった不具合もあったので、これで改善するのではと期待しています(いまのところ、快調です)。
2020年01月31日
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「アトミック・ブロンド」(原題:Atomic Blonde)は、2017年公開のアメリカのノワール調スパイ・アクション映画です。アンソニー・ジョンストンとサム・ハートが2012年に発表したグラフィック・ノベル「The Coldest City」を原作に、デヴィッド・リーチ監督、シャーリーズ・セロン、ジェームズ・マカヴォイら出演で、東西冷戦末期のベルリンを舞台に二重スパイによって奪われた、世界情勢に大きな影響を与える極秘情報を奪還しようとするスパイたちの攻防を描いています。 「アトミック・ブロンド」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:デヴィッド・リーチ脚本:カート・ジョンスタッド原作:アンソニー・ジョンストン&サム・ハート「The Coldest City」出演:シャーリーズ・セロン(ロレーン・ブロートン、英MI6の敏腕女性エージェント) ジェームズ・マカヴォイ(デヴィッド・パーシヴァル、MI6ベルリン支部責任者) ジョン・グッドマン(エメット・カーツフェルド、CIAのエージェント) ティル・シュヴァイガー(時計屋、MI6の協力者) エディ・マーサン(スパイグラス、シュタージから離反したスパイ) ソフィア・ブテラ(デルフィーヌ・ラサール、仏DGSEの女性エージェント) トビー・ジョーンズ(エリック・グレイ、英MI6、ロレーンの上司) ローランド・ムーラー(アレクサンドル・ブレモヴィッチ、ロシア上位工作員) ヨハネス・ヨハンソン(ユーリ・バクスティン、KGBの暗殺者) ダニエル・バーンハード(KGBエージェント) ジェームズ・フォークナー(C、英MI6の責任者) ビル・スカルスガルド(メルケル、ロレーンの助手) サム・ハーグレイブ(ジェームズ・ガスコイン、殺されたMI6のエージェント) バルバラ・スコヴァ(検視官) ほか【あらすじ】東西冷戦末期、ベルリンの壁崩壊が迫った1989年秋。潜伏中のスパイを殺害され、世界情勢に大きな影響を及ぼす極秘情報のリストを奪われたイギリス秘密情報部MI6は、凄腕の女性エージェント、ロレーン・ブロートン(シャーリーズ・セロン)に、極秘情報が記載されたリストの奪還すること、リスト紛失に関与した二重スパイのサッチェルを見つけ出すことを命じます。ベルリンに急行した彼女は、組織の命令でタッグを組むことになったベルリンに潜入中のMI6ベルリン支部責任者デヴィッド・パーシヴァル(ジェームズ・マカヴォイ)と対立しながらも、驚くべきコンビネーションを発揮し、東側陣営の脅威に立ち向かっていきます。デルフィーヌ・ラサール(ソフィア・ブテラ)ら、リストを狙いベルリンに集結する世界各国のスパイと遭遇する彼女は、誰が味方で誰が敵なのかわからなくなる状況下、生き残りを賭けて戦います・・・。【レビュー・解説】東西冷戦末期、ベルリンの壁崩壊が迫る1989年秋のベルリンを舞台に、見えない敵と戦い続うMI6の敏腕女性エージェントをリアルにスタイリッシュに描いた、美人女優の枠を壊し続けるシャーリーズ・セロンの為のノアール調スパイ・アクション映画です。シャーリーズ・セロンの為のスタイリッシュなノアール調スパイ・アクション捻りの効いたプロット、1980年代のベルリンのテイストなど、見どころは処々ありますが、MI6の敏腕女性エージェントを演じるシャーリーズ・セロンのリアルでスタイリッシュなパフォーマンスの連続に、彼女の魅力が全開です。シャーリーズ・セロンの制作会社が実現まで5年間暖め、俳優・スタントマンの出身のデヴィッド・リーチ監督とそのスタッフたちがシャーリーズ・セロン為にじっくりと練り込んだアクションには非常に説得力があります。強いて難点を上げれば、あまりにシャーリーズ・セロンが際立ち過ぎてストーリー展開のインパクトが弱く、また孤軍奮闘のジェイムズ・マカヴォイが懸命に毒を吐いているものの、ジョン・グッドマン、エディ・マーサン、ソフィア・ブテラ、トビー・ジョーンズといった錚々たるキャストがちょっともったいない感じです(シャーリーズ・セロンの弱点なのか、若い男性であるビル・スカルスガルドが唯一、光を放っているように見えるのは気のせいかも)。「スターが映画を引っ張る時代は終わった」と言われて久しいのですが、本作は間違いなくシャーリズ・セロンが引っ張る映画で、彼女が演じるローレン・ブロートンも非常に魅力なキャラクターです。特定のキャラクターに長く縛られることは嫌いそうなシャーリズ・セロンですが、思わず「アトミック・ブロンド」のシリーズ化を期待したくなります(ストリーミング系のサービスで続編を検討中らしいが、詳細未定)。美人女優の枠を壊し続けるシャーリーズ・セロンシャーリーズ・セロンはかつて「イーオン・フラックス」(2005年)ではしなやかな肉体を駆使するイーオンを演じ、最近では「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)のフュリオサ、「ワイルド・スピード ICE BREAK」(2017年)のサイファーと、強靭な女性を演じています。もともとバレエ・ダンサーを目指したこともあり、身体能力も決して低くないのですが、彼女はもちろんアクション専門のアクション女優でありません。むしろ、モデル出身でスタイルも良い彼女は、黙っているだけで絵になるような、美人でセクシーなブロンドの役が当初は多かったのです。「サイダーハウス・ルール」(1999年)や「トリコロールに燃えて」(2004年)の彼女に、私も多少の違和感を感じながら美しさを追い求めていた記憶があります。「サイダーハウス・ルール」(1999年)のシャーリーズ・セロンそんな彼女ですが、「モンスター」(2003年)で14キロも体重を増やし、眉毛をすかり抜くなど、美人の形無しの風体で実在の連続殺人犯を体当たりで演技、見事、アカデミー賞主演女優賞を受賞し、「美人女優」の枠を壊して名実ともに演技派女優へと転身しました。最近作の「タリーと私の秘密の時間」(2018年)でも約23キロも増量するなど、彼女はその後もオスカー女優の座にあぐらをかくことなく、「美人女優」の枠を壊し続けています。これは何よりも、中身のない美人役への反発、女優としての存在感へのこだわり、強く惹かれる役に徹底的に取り組むという、彼女のプロ意識の反映です。人間的に魅力のあるいい役柄は、それにふさわしい体格や外見の人に与えられる。それが真実なのよ。長身のドレスを着た超美人のモデルが演じられる役がどれくらいあると思う?私も経験してきたけど、中身のある面白い役柄があると、綺麗な人々から先に帰されるの。もともと「こういうタイプの役がやりたい」と思って出演作を探すタイプではないの。普段から脚本は読むようにしていて、その中からアイデアを探すことはある。驚かされるようなものに惹かれることもあるし、開発中の企画がある方向に進んでいるのを知ったとき、役者としてこの作品には出演したいと強く思ったり。ただ私は子供が2人いるシングルマザーで、撮影中は子供たちと離れる必要がある。だから、私が出演するのは心から携わりたいと感じた作品だけね。(シャーリーズ・セロン)https://www.gq-magazine.co.uk/article/charlize-theron-interview-british-gq-ageism-sex-appeal-south-africahttps://natalie.mu/eiga/pp/atomicblonde中性的な厳しさ、強靭さ、強面さ肉体改造により「美人女優」であることを真っ向から否定した「モンスター」が彼女の大きな転機だったとすれば、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」や本作で彼女が見せるアクションは「美人女優」そのものに矛先を向けるのではなく彼女によりマッチした行く先を示すような、一段高い領域に達しているように感じています(因みに本作の原題の「Atomic Blond」は、「エネルギッシュなとびきりの金髪美人」という意味)。南アフリカ生まれの彼女は幼い頃から、アルコール依存症の父親による家庭内暴力に悩まされていました。彼女は15歳の頃、晩に酔って帰ってきた父親に暴力を振るわれ、娘の命の危険を感じた母親が父親を射殺してしまうという悲惨な事件を経験しています。かつて彼女に美しさ追い求めながらも違和感じたり、女性的な美しさよりも中性的な厳しさ、強靭さ、強面さといったものを彼女に感じるようになったのは、そうした彼女の過酷な経験が彼女の目指す方向性と無縁とは思えないからです。スパイ映画のご多分に漏れず、本作で彼女の演じるロレーン・ブロートンのバック・グラウンドは明らかにされませんが、シャーリーズ・セロンのこうした中性的な厳しさ、強靭さ、強面さがイギリス秘密情報部MI6の凄腕の女性エージェントという役にベストマッチしています。リアルなスタントに練り込まれた人物像アクションを演じる美人女優は決して少なくなく、彼女と同世代以降でも、「バイオハザード」シリーズ(2002年〜2016年)等のミラ・ジョボヴィッチ「トゥームレイダー」シリーズ(2001年〜2003年)等のアンジェリーナ・ジョリー「ワイルドスピード」シリーズ(2001年〜)等のミシェル・ロドリゲス「アバター」(2009年)、「コロンビアーナ」(2011年)等のゾーイ・サルダナ「エージェント・マロリー」(2012年)、「デッドプール」(2016年)等のジーナ・カラーノ「アベンジャーズ」シリーズ(2012年〜2019年)等の スカーレット・ヨハンソン「ワンダーウーマン」(2017年〜)等のガル・ガドットといった実力派のスターが目白押しです。それなりの個性を発揮しなければ、いくら美人女優でも埋もれてしまいますが、本作では、スタントウーマンの起用やCGによる合成を最小限にし、シャーリーズ・セロン自身がより多くのスタントをこなすことにより、リアリティを高める(動画クリップ(YouTube)の項参照)俳優・スタントマン出身のデヴィッド・リーチ監督とそのスタッフたちが、非力で一撃で相手を倒すのが難しい女性の為のスタントを徹底的に練り上げ、攻撃の繰り返しや連続技で相手に打撃を与えることでリアリティを高め、香港映画のように見ごたえがある連続的なスタントを振り付ける俳優・スタントマン出身のデヴィッド・リーチ監督が、登場人物のバックグラウンドを明らかにしないスパイ映画の中で一連のスタントから人物像を描き出すうまく作られた2、3分のアクション・シーンは、10分間の説明よりも登場人物をよく語ることができる。スパイとしての彼女の生き残る意思、知性、タフさ、卓越した技量、そして人間性が見えてくる。(デヴィッド・リーチ監督)https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/atomic-blonde-director-interview-david-leitch-david-bowie-hints-twists-at-end-1025230傷つき、血を流し、顔に青あざを作ったシャーリーズ・セロンが登場するなど、MI6の凄腕女性エージェントと言えどもスーパー・ウーマンではない、殴られれば倒れるし、血も流すし、青あざもできるという、リアルで人間的な描写をする。私はリアリティを見たい。誰かが攻撃されたら傷つくのが見たい。痛みとパンチを感じたい。(シャーリーズ・セロン)https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/atomic-blonde-director-interview-david-leitch-david-bowie-hints-twists-at-end-1025230ことにより、個性的でインパクトのある、人々の記憶に残るポジションを取ることに成功しています。殴られれば倒れ、血を流し、青あざもできる、超人ではない、リアルで人間的な描写因みに、本作の中盤から終盤にかけて、階段など建物の内部を舞台にホイップ・パンを使って数多くのカットをつなぎ合わせた、数分間の長回し風のアクション・シーンがあります。ホイップ・パンというのは、カメラを勢いよく振って画面を流すテクニックで、必要に応じてちょっとしたCGを加えることにより、異なるカット間を連続しているように見せることができます。この方法の最大のメリットは、長回し風の臨場感を演出しながら、傷や血などのメイクをカットごとにどんどん濃くしていけることです。主人公ロレーン・ブロートンの性格、人間性をも印象づけ、「映画史に残る」とまで評されたこのシーンは、実は原作にはなく、映画表現の付加価値を強く感じさせるシーンでもあります。 スタントウーマンが階段を転げ落ちる数多くのスタントをシャーリーズ・セロン自身が演じているが、階段を転げ落ちるカットはさすがにスタントウーマンが演じている。このカットでは顔が映らない。激しくカメラを横に振るホイップ・パン階段を転げ落ちるスタントウーマンを追って、カメラが激しく横に振られる。被写体がフレームからはみ出すほど距離が近く、何が映っているのかわかりにくい。シャーリーズ・セロン本人と入れ替わるコマ送りで見るとフレームが不連続で、スタントウーマンがシャーリーズ・セロン本人と入れ替わったことがわかるが、動きが激しく、被写体がフレームからはみ出すほど距離が近い為、通常の再生速度では気づかない。壁に打ち付けられ、顔が映る壁に打ち付けられたシャーリーズ・セロンの顔が映り、階段を転げ落ちるスタントも彼女が演じていたように見える。余談:スパイのあり方を変えた冷戦の終結本作は通常のスパイ・アクションとは異なり、虚無的、悲観的、退廃的なノワール色の濃いスパイ・アクションとなっています。これには、舞台となった時代背景が大きく影響しています。東西のスパイ活動は長い間、米ソの冷戦構造を背景に発展してきましたが、1989年11月のベルリンの壁崩壊、そして12月の米ソ首脳による冷戦終結宣言で、それまでのスパイ活動が大きく変わることになりました。米ソの冷戦構造を背景にしていた映画「007」シリーズは、以降、仮想敵がロシアン・マフィアや北朝鮮などに変わり、元イギリス諜報部員ジョン・ル・カレのスパイ小説を原作にした米ソ冷戦が背景の映画「寒い国から帰ったスパイ」(1965年)、「裏切りのサーカス」(2011年)なども、「ナイロビの蜂」(2005年)、「誰よりも狙われた男」(2014年)など、多国籍企業の暴走とそれを助ける諜報機関や、対テロ諜報戦を扱う作品へと変化していきました。1989年のベルリンという本作の舞台は、冷戦構造の崩壊、ベルリンの壁の崩壊という大きな変化の中で、その後、自分たちがどうなるかもわからないままに時代の波にさらされる不安定なスパイたちを、虚無的、悲観的、退廃的なノワールのトーンで描いているわけです。また、当時のベルリンのアンダー・グラウンドではパンクシーンが盛り上がりをみせていましたが、本作ではそんな80年代の音楽を活かしながら、時代の変化がもたらす不安定さを描き出しています。シャーリーズ・セロン(ロレーン・ブロートン、MI6の敏腕女性エージェント)シャーリーズ・セロン(1975年〜)は、南アフリカ共和国出身の女優。177センチの長身で、バレーダンサー、モデルの経験あり。父親がフランス系、母親がドイツ系。幼い頃からアルコール依存症の父親による家庭内暴力に悩まされ、15歳の頃、晩に酔った父親に暴力を振るわれ、娘の命の危険を感じた母親が父親を射殺するという不幸な事件に巻き込まれる。母親の正当防衛が認められたが、家庭内暴力や依存症の社会問題を共有する為に、この事実を隠すことなく公表している。「すべてをあなたに」(1996年)、「モンスター」(2003年)、「ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方」(2004年)、「スタンドアップ」(2005年)、「ヤング≒アダルト」(2011年)、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)、「タリーと私の秘密の時間」(2018年)、「ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋」(2019年)などに出演、「モンスター」でアカデミー主演女優賞を受賞、「スタンドアップ」で同賞にノミネートされている。ジェームズ・マカヴォイ(デヴィッド・パーシヴァル、MI6ベルリン支部責任者)ジェームズ・マカヴォイ(1979年〜)は、グラスゴー出身のスコットランドの俳優。7歳の時に両親が離婚し、母方の祖父母のもとで育つ。 カトリック系の学校を卒業後、ロイヤル・スコティッシュ・アカデミーで演技を学び、1995年に映画デビュー。20歳の時にロンドンに移り、主にイギリス国内のテレビや舞台で活躍する。「ナルニア国物語/第1章: ライオンと魔女」(2010年)で国際的に知られるようになり、「Starter for 10」(2005年)、「ラストキング・オブ・スコットランド」(2006年)、「つぐない」(2007年)、「X-MEN: ファースト・ジェネレーション」(2011年)、「X-MEN: フューチャー&パスト」(2014年)などに出演している。ジョン・グッドマン(エメット・カーツフェルド、CIAのエージェント)ジョン・グッドマン(1952年〜)はミズーリ出身のアメリカの俳優。オフ・ブロードウェイの舞台に立った後、テレビにも出演するようになり、1983年に映画デビューする。「赤ちゃん泥棒」(1987年)、「バートン・フィンク」(1991年)、「ビッグリボウスキー」(1998年)と、コーエン兄弟監督作品で名を知られるようになる。「アーティスト」(2011年)、「アルゴ」(2012年)、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年)、「10 クローバーフィールド・レーン」(2016年)、「パトリオット・デイ」(2016年)などに出演している。また、「ラマになった王様」(2000年)、「モンスターズ・インク」(2001年)、「プリンセスと魔法のキス」(2009年)、「パラノーマン ブライス・ホローの謎」(2012年)、「モンスターズ・ユニバーシティ」(2012年)など、アニメ作品への声の出演も少なくない。エディ・マーサン(スパイグラス、シュタージから離反したスパイ)エディ・マーサン(1968年〜)は、ロンドン出身のイギリスの俳優。父はトラックの運転手、母親は教師の助手という労働者の家庭に生まれる。舞台で活動を始め、1992年にテレビに初出演、マイク・リー監督の映画「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年)の好演で、世界的に知られるようになる。「21グラム」(2003年)、「ヴェラ・ドレイク」(2004年)、「僕と彼女とオーソン・ウェルズ」(2008年)、「アリス・クリードの失踪」(2009年)、「思秋期」(2011年)、「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」(2013年)、「僕と世界の方程式」(2014年)、「人生はシネマティック!」(2016年)、「デッドプール2」(2018年)などに出演している。ソフィア・ブテラ(デルフィーヌ・ラサール、DGSEのエージェント)ソフィア・ブテラ(1982年〜)は、アルジェリア出身のフランスのダンサー、モデル、女優。5歳からクラシックバレエを習いはじめ、10歳でフランスに移住、新体操のフランス代表チームに所属していた。非常に身体能力の高いダンサーで、マドンナなどの数多くのミュージックビデオ、ワールドツァー、CM、ナイキのキャンペーンなどに出演している。映画「キングスマン」(2015年)で非常に高い身体能力を生かしたパフォーマンスを披露、世界の注目の浴びる。「スター・トレック BEYOND」(2016年)などに出演している。本作では、高い身体能力を抑えているが、同じく高い身体能力を持ち「エクス・マキナ」(2015年)、「ハートビート」(2016年)などで注目を集めた日系イギリス人女優のソノヤ・ミズノ同様、ダンスやアクション以外でどれだけ説得力のあるパフォーマンスを見せられるかが、今後のさらなる活躍の鍵になりそうだ。トビー・ジョーンズ(エリック・グレイ、ロレーンの上司)トビー・ジョーンズ(1967年〜)は、オックスフォード出身のイギリスの俳優。身長163cmと小柄の性格俳優。マンチェスター大学で演劇を学び、卒業後に「オルランド」(1992年)で映画デビュー、「ネイキッド」(1983年)、「エバー・アフター」(1998年)、「ハリー・ポッターと秘密の部屋」(2002年)、「ネバーランド」(2004年)、「フロスト×ニクソン」(2008年)、「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」(2011年)、「裏切りのサーカス」(2011年)、「マリリン 7日間の恋」(2011年)、「 ハンガー・ゲーム」(2012年)、「バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所」(2012年)、「ハンガー・ゲーム2」(2013年)、「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」(2014年)、 「五日物語 -3つの王国と3人の女-」(2015年)などに出演している。舞台でもローレンス・オリヴィエ賞を受賞、ブロードウェイではトニー賞にノミネートされている。「裏切りのサーカス」では、本作同様、器不足のMI6のリーダー格のエージェントを演じている。ビル・スカルスガルド(メルケル、ロレーンの助手)ビル・スカルスガルド(1990年〜 )は、ストックホルム出身のスウェーデンの俳優。2000年に子役で長編映画デビュー。高校を卒業後、本格的に俳優活動を開始、主演映画「シンプル・シモン」(2010年)が、第83回アカデミー賞外国語映画賞のスウェーデン代表に選出される。「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」(2017年)、「デッドプール2」(2018年)、「ヴィランズ」(2019年)などに出演している。【サウンドトラック】 「アトミック・ブロンド」のサウンドトラックCD1.Cat People (Putting Out the Fire) by David Bowie 2.Major Tom (Vollig Losgelost) by Peter Schilling 3.Blue Monday by Health 4.C*Cks*Cker by Tyler Bates 5.99 Luftballons by Nena 6.Father Figure by George Michael 7.Der Commissar by After the Fire 8.Cities in Dust by Siouxsie and the Banshees9.The Politics of Dancing by Re-Flex 10.Stigmat by Marilyn Manson,Tyler Bates 11.Demonstration by Tyler Bates 12.I Ran (So Far Away) by A Flock of Seagulls 13.99 Luftballons by Kaleida 14.Voices Carry by Til Tuesday 15.London Calling by The Clash 16.Finding the Uhf Device by Tyler Bates【動画クリップ(YouTube)】シャーリーズ・セロンのスタント・トレーニング【撮影地(グーグルマップ)】ベルリン・テレビ塔冒頭の暗殺シーンの背景など、何回か登場する。ローレンが到着するベルリンのテンペルホーフ空港「ブリッジ・オブ・スパイ」(2015年)、「ハンガー・ゲーム FINAL: レジスタンス」(2014年)、「ハンガー・ゲーム FINAL: レボリューション」(2015年)などの撮影に使用されている。ローレンが露のエージェントの車を転覆させる地下道「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016年)、「ハンガー・ゲーム FINAL: レボリューション」(2015年)の撮影にも使用されている。時計屋の近くの教会カイザー・ヴィルムヘルム記念教会。ジェームズ・ガスコインのアパートベルリンという設定だが、ブダペストで撮影している。ロレーンが尾行を逃れて紛れ込む映画館キノ・インターナショナル。ローレンがエメットと会うベルリンの壁を見下ろす見張り台ベルリンという設定だが、ブダペストで撮影している。西側スパイの東ベルリンのアジト東ベルリンという設定だが、ブダペストで撮影している。市民がデモ行進する通り東ベルリンという設定だが、ブダペストで撮影している。銃撃されたスパイグラスとロレーンが逃げ込むビル東ベルリンという設定だが、ブダペストで撮影している。沈む車から脱出したロレーンが現れる通り背景にベルリン大聖堂が見える 「アトミック・ブロンド」のDVD(楽天市場)【関連作品】「アトミック・ブロンド」の原作本(楽天市場) アンソニー・ジョンストン&サム・ハート著「The Coldest City」デヴィッド・リーチ監督xエディ・マーサンxビル・スカルスガルドのコラボ作品 「デッドプール2」(2018年)デヴィッド・リーチ監督作品のDVD(楽天市場) 「ジョン・ウィック」(2014年):共同監督・製作 「ワイルド・スピード/スーパーコンボ」(2019年):監督シャーリーズ・セロン出演作品のDVD(楽天市場) 「すべてをあなたに」(1996年) 「モンスター」(2003年) 「ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方」(2004年) 「スタンドアップ」(2005年) 「ヤング≒アダルト」(2011年) 「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年) 「タリーと私の秘密の時間」(2018年) 「ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋」(2019年)ジェームズ・マカヴォイ出演作品のDVD(楽天市場) 「Starter for 10」(2005年)輸入盤、日本語なし 「ラストキング・オブ・スコットランド」(2006年) 「つぐない」(2007年) 「X-MEN: ファースト・ジェネレーション」(2011年) 「X-MEN: フューチャー&パスト」(2014年)ジョン・グッドマン出演作品のDVD(楽天市場) 「赤ちゃん泥棒」(1987年) 「バートン・フィンク」(1991年) 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2020年01月27日
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「ブロードウェイ♪ブロードウェイ〜コーラスラインにかける夢〜」(原題:Every Little Step)は、2008年公開のアメリカのドキュメンタリー映画です。ジェイムズ・D・スターン、アダム・デル・デオの共同監督で、名作ブロードウェイ・ミュージカル「コーラスライン」再演に向けての臨場感溢れるキャスティング・プロセスを、オリジナル版の振付・演出を手掛けたマイケル・ベネットによる秘蔵のインタビュー音声記録など、オリジナル版の歴史を挿入しながら描いています。第82回アカデミー賞ドキュメンタリー賞の候補となった作品です。「ブロードウェイ♪ブロードウェイ〜コーラスラインにかける夢〜」のDVD(楽天市場)監督:ジェイムズ・D・スターン 、 アダム・デル・デオ出演:マイケル・ベネット(オリジナル版の原案、振付、監督) ドナ・マケクニー(オリジナル版のキャシー役) マーヴィン・ハムリッシュ(オリジナル版の音楽監督) ボブ・エイヴィアン(再演版の監督) バイヨーク・リー(再演版の振付、オリジナル版のコニー役) パトリック・バカリエロ(再演版の音楽監督) ジェイ・ビンダー(再演版キャスティング・ディレクター) ミーガン・ラーシ(再演版副キャスティング・ディレクター) ジョン・ブレグリオ(再演版プロデューサー) シャーロット・ダンボワーズ(再演版のキャシー役候補) ナターシャ・ディアス(再演版のキャシー役候補) ユカ・タカラ(再演版のコニー役候補) J・エレーン・マルコス(再演版のコニー役候補) ジェシカ・リー・ゴールディン(再演版のヴァル役候補) ニッキ・スネルソン(再演版のヴァル役候補) メレディス・パターソン(再演版のヴァル役候補) ラシェール・ラック(再演版のシーラ役候補) ディードリ・グッドウィン(再演版のシーラ役候補) ジェフリー・シェクター(再演版のマイク役候補) キース“タイス”ディオリオ(再演版のマイク役候補) クリッシー・ホワイトヘッド(再演版のクリスティン役候補) アリサン・ポーター(再演版のビビのクリスティン役候補) マーラ・ダヴィ(再演版のマギーのクリスティン役候補) ジェイソン・タム(再演版のポール役候補) マーラ・デヴィ(再演版のマギー役候補) ほか【あらすじ】16年ぶりの再演が決まったミュージカル「コーラスライン」の舞台に立とうと、世界各地からオーディションを受けに集まったダンサー達が、ニューヨーク・ブロードウェイの街角に列をなします。19人のキャストに3000人の応募者という狭き門ですで、演出家ボブ・エイヴィアンがトップを務める第一次審査では、何人ものダンサーが次々と振るい落とされます。4ヵ月後、第二次審査が始まります。オリジナル版の「コーラスライン」は、ダンサー達の打ち明け話を元に書かれた脚本を、打ち明けた本人達が演じていました。オリジナル版でコニー役を演じたバイヨーク・リーが、再演版の振付を担当します。再演版のコニー役の候補者の一人にユカがいましたが、コニーの物語は私の物語と言うバイヨーク・リーは、ユカではなく、その親友を推します。一方、演出家のボブ・エイヴィアンが役の解釈にこだわります。中でも多くのダンサーたちはヴァル役を「タフな娘」と考えていましたが、彼は可愛い女であると解釈していました。役柄のヴァル同様に豊胸手術までしたニッキのダンスは完璧ですが、ボブは彼女とヴァルに共通点を見出すことができません。結局、ヴァル役にはニッキの他に二人が選考に残ります。一方、クリスティン役候補のクリッシーにはスタッフ達が一目惚れします。ゲイのポール役には何人もの応募者がいましたが、そのいずれにも審査員は満足しません。そんな時にジェイソンが現れます。彼が語った、ショーのために女装した姿を両親に見られた時の話は、審査員全員が涙を流すほどの感動を呼びます。オーディションで最も熾烈な争いとなったのが、オリジナル版でドナ・マクケニーがトニー賞を受賞したキャシー役です。ソロのダンスシーンに高度な技術が要求されるこの役を巡って、シャーロット・ダンボワーズ、ナターシャ・ディアスなど、多くの舞台で実績を積んだダンサー達が火花を散らします。8ヶ月後、ついに最終選考が始まり、予想外のハプニングが次々とダンサー達を襲います・・・。【レビュー・解説】スタジオで垣間見るダンサーの技の迫力、公演の成否を握るキャスティングに真剣な審査員、受かっても落ちても階段を登り続けるプロの世界の厳しさ、華やかな世界の地道な舞台裏を描いた魅力的で示唆に富むドキュメンタリー映画です。華やかな世界の舞台裏を描いた魅力的で示唆に富むドキュメンタリープロのオーディションを追う珍しいドキュメンタリー冒頭、「コーラスライン」の再演に際し、前例のないオーディションの撮影の許可を頂いた俳優労働組合に感謝しますという、あまり目にすることのないテロップが出ます。「アメリカズ・ゴット・タレント」、「アメリカン・アイドル」、「Xーファクター」のようなアマチュアを対象にショーアップされた公開オーディションのリアリティ番組はよくありますが、これはブロードウェイ史上初めてオーディション会場にカメラが入り、プロのオーディションを追った珍しいドキュメンタリー映画です。ブロードウェイ・ミュージカルのオーディションは、演出家、振付師、キャスティング担当、プロデューサーなどの審査員に向けてダンサーが技量と役の解釈をアピール、審査員たちは公演の成否を握るキャスティングに作品とマッチングや役の解釈のマッチングを見るという、いわば内輪のもので、一般の観客に見せる性質のものではありません。またプロは、自分の価値を貶めかねない、作品として未完成のパフォーマンスを一般の観客に見られるのを嫌がります。オーディションを撮影する為に、俳優労働組合との交渉に半年かかったそうですが、躊躇する俳優たちの心を動かしたものは、おそらく、オーディションに挑戦するダンサーたちを描くオリジナルの名作ミュージカルに俳優たちは自分自身を重ねることができるオーディションに挑戦するダンサーたちを描くオリジナルの名作ミュージカルの再演のオーディションを追うという、ドキュメンタリーとして二度とない貴重な機会であることオーディションを描くオリジナルとその再演の為のオーディションという反復的な二重構造が、作品に高い芸術性をもたらしうることといったことではないかと思われます。ともあれ、我々にとってはプロのオーディションを見ることができるまたとない機会で、オリジナルの「コーラスライン」を見たことがなくても十分に楽しめる内容になっています。スタジオで垣間見るプロの技の迫力かつてブロードウェイ・ミュージカルのオーディションはすべてステージで行われたそうですが、最近ではスタジオでオーディションを行うことが多く、本作が追うオーディションも最終以外はスタジオで行われています。美術や照明で彩られる広い舞台と異なり、スタジオは日常空間に近く、それが逆にプロのパフォーマンスの凄さを際立たせます。広いステージ上では美しくて当然のパフォーマンスも、日常空間で見るとこんなにも体が動くのかと改めてその凄さを実感するわけです。バイヨーク・リーのエネルギッシュな指導、ナターシャ・ディアスやキース“タイス”ディオリオの優れた身体能力、そしてオーディションで審査員を泣かしたジェイソン・タムのモノローグが素晴らしいです。加えて若手のジェシカ・リー・ゴールディンやクリッシー・ホワイトヘッドもキラリと光るパフォーマンスを見せます。ブロードウェイでは珍しい日本人の高良結香さんや、本作の役を得るために豊胸手術までしたというニッキ・スネルソン、映画「カーリー・スー」(1991年)でタイトルロールを務めたアリサン・ポーターなど、見ていくうちに思わず応援したくなる人が続々と出てきます。スタジオで際立つプロの身体能力の高さ公演の成否を握るキャスティングに審査員も真剣同じシーンを違う人が歌ったり、踊ったりするのを見ていると、それぞれの役に個性があると同様に、それを演じるダンサーにもは思った以上に個性があることがわかります。なるほど、舞台全体のイメージを持っていなければ、キャストは決められないでしょう。果たして自分が応援する人がキャストに選ばれるどうかは、公開オーディション番組と同様の楽しみですが、一方で作品や役の解釈とのマッチングを審査員たちがどう見るか、自分の鑑識眼を試されるようでもあります。ブロードウェイでは、ヒット作は何年もロングラン公演しますが、失敗すれば早々に公演打ち切りとなるので、公演の成否に大きく影響するキャストを選ぶ審査員の目は真剣です。公演の成否を握るキャスティングに審査員も真剣受かっても落ちても階段を登り続けるプロの世界の厳しさ公開オーディションのリアリティ番組は基本的にサクセス・ストーリーを追いますが、このドキュメンタリーは本命とも目されながらも最終オーディションで調子が出ずに苦しむラシェール・ラックを追ったり、オーディションに落ちた人も追っています。そこには、千載一遇のチャンスに恵まれ、あっという間に有名になる、あるいは、あっという間に消え去るリアリティ番組のアイドルではなく、地に足をつけて闘うプロたちの姿が見え隠れします。ニューヨークのダンサーのダンサーの姿に感動した。彼等の演技、歌、踊りの上達にかける真剣さ、ブロードウェイの演技者としての技へのこだわり、ブロードウェイで仕事を得るべく、明けても暮れても我が身を削る姿だ。名前が呼ばれる「合格ライン」に近づいたとしても、実際に名前が呼ばれることはほとんどなく、次の日の朝に起きて、再び落ち着きを取り戻し、何かを達成するた為に、また階段を上がっていく。それは、とても普遍的な姿だった。(アダム・デル・デオ共同監督)https://www.youtube.com/watch?v=2VZuVG7K3WE私がこのドキュメンタリーで描いて欲しかったのは、劇場という場所でプロであるという基本的な感情を浮かび上がらせことだ。闘うこと、プロの俳優であること、オーディションに備え歌やダンス・コーチのレッスン代を捻出する為に時に朝食を抜く、それが何年も続くことだ。(ジョン・ブレグリオ、再演版「コーラスライン」プロデューサー)https://www.youtube.com/watch?v=aw0mfMfV_qU公開オーディションのリアリティ番組に見られるサクセス・ストーリーは何百万人にひとりしか味わえないものですが、本作で描かれているのは短期間に名声を得るのではなく、受かっても落ちても地道にオーディションを受け続け、一歩ずつ高みに登ろうとするプロたちの姿です。悔しさをバネにする彼等には一種の清々しさがあり、プロであれば誰でも共感しうる、普遍的で感動的な物語となっています。なお、邦題の「ブロードウェイ♪ブロードウェイ〜コーラスラインにかける夢〜」からは全く感じられませんが、原題の「Every Little Ste」(小さな一歩一歩の意)は一歩一歩高みに登ろうとするブロードウェイのダンサーの姿勢を象徴するものです。 ドキュメンタリー映画「二郎は鮨の夢を見る 」(2011年)で、収録時85歳の「すきやばし次郎」の店主でミシェランの三ツ星寿司職人である小野二郎さんが、「少しでも上、少しでも上って考えて、現在まできている」とおっしゃっていますが、この一歩一歩高みに登っていくというのは、ダンサーのみならず、あまねくプロに共通する普遍的な姿勢ではないかと思われます。最終オーディション前のブリーフィング、緊張感をバネにする撮る側だけではない、撮られる側のメリット制作は、オーディションの進行に合わせながら、一年かけて行われました。オーディションはすべてカメラを回しっぱなしで、500時間も撮影され、撮られたダンサーたちは48時間以内に映像の取り消しを申請できるというフェアなものでした。また、オーディションと撮影の独立性を担保する為、キャストが決まるまでは関係者が映像記録を見ることが禁止されていました。3000人近いダンサーの全オーディションを撮っても、95分間のドキュメンタリーに収まるのは最終オーディションに残る20人から30人、最終的にクローズアップされるのは、6〜7人です。ダンサーから見れば狭き門で、採用されない無様な姿を晒す恐怖もあります。ただ、ある程度まで進んでクローズアップされれば、採用されなくても映画を見た世界中の舞台の演出家、振付師、キャスティング担当、プロデューサーたちに良いアピールの機会となります。ざっと見てみましたが、採用された人はもちろんのこと、採用されなかった人も、自身のホームページでこのドキュメンタリー映画に出演していることを経歴としてアピールしています。総じて言えば、撮る側だけではない、撮られる側のメリットがあったと思われます。付録:ミュージカル「コーラスライン」について「コーラスライン」(原題:A Chorus Line)は、マイケル・ベネットの原案・振付・演出により1975年に初演されたブロードウェイ・ミュージカルです。タイトルの「コーラスライン」とは、稽古で舞台上に引かれるラインのことで、コーラス、つまり役名のないキャストたちが、ダンス等でこれより前に出ないようにと引かれるラインで、メインキャストとコーラスを隔てる象徴でもあります。この作品は、ブロードウェイの劇場でたった8人のコーラスラインの採用枠に残る為にすべてを賭けてオーディションに参加するダンサーたちが、「君たち自身を知りたい」という演出家の問いかけに躊躇しながらも赤裸々に自分の人生について語る姿を描いた作品です。1975年の初演から1990年の千秋楽まで、当時としては最長のロングラン公演を記録し、1976年のトニー賞で最優秀ミュージカル賞をはじめ9部門を獲得した作品です。日本でも劇団四季が1979年以降、断続的に公演しています。1985年には、マイケル・ダグラス主演で映画版の「コーラスライン」が公開され、2006〜2008年には舞台版「コーラスライン」が再演されています。本作は再演版「コーラスライン」のキャスティング・プロセスを追ったもので、オリジナル版の「コーラスライン」の振付・演出を手掛けたマイケル・ベネットが実際にダンサーたちにインタビューした秘蔵の音声記録など、オリジナル版の歴史を挿入しながら、新旧のコーラスラインを橋渡しするような形で構成されています。シャーロット・ダンボワーズ(再演版のキャシー役候補)シャーロット・ダンボワーズ(1964年〜)は、アメリカのダンサー、歌手、女優。父親もダンサー。彼女はミュージカル「シカゴ」で主役のロキーシー・ハートを演じて注目され、また、トニー賞に二度、ノミネートされている。映画「フランシス・ハ」(2013年)にも出演している。ナターシャ・ディアス(再演版のキャシー役候補)ナターシャ・ディアス(1970年〜)は、スイス出身のイタリア系のダンサー、歌手、女優。父親はオペラ歌手、母親はバレリーナ。ミュージカル「ウェスト・サイド・ストーリー」のツァーでアニータ役を演じ、注目を浴びる。本作のオーディションでは、非常に高いダンス能力を見せる。ユカ・タカラ(再演版のコニー役候補)高良結香(〜年)は、沖縄県那覇市出身のダンサー、女優、歌手。高校卒業後に渡米、大学でダンスを専攻した後、中退し、ニューヨークでダンスのレッスンを受け、2001年、ブロードウェイのミュージカル「マンマ・ミーア」でブロードウェイ・デビュー。本作では、コニー役でオーディションを受けるが、オリジナル版でコニー役を演じた再演版の振付師のバイヨーク・リーは、ユカではなく、その親友を推す。映画「バッド・ママ」(2016年)などにも出演している。日本では、シンガーソング・ライターとして活躍している。J・エレーン・マルコス(再演版のコニー役候補)J・エレーン・マルコスはアメリカのダンサー、歌手、女優。再演版ブロードウェイ・ミュージカル「アニー」のリリー役で知られる。本作では親友のユカとコニー役を競い、オリジナル版でコニー役を演じた再演版の振付師のバイヨーク・リーは、親友ユカではなく、J・エレーン・を推す。映画「ヴィンセントが教えてくれたこと」(2014年)などに出演している。ジェシカ・リー・ゴールディン(再演版のヴァル役候補)ジェシカ・リー・ゴールディン(1985年〜)は、アメリカのダンサー、歌手、女優。本作のオーディションでは、比較的若手で、キャリアも短い。ニッキ・スネルソン、メレディス・パターソンと、ヴァル役を争う。採用されれば、本作がブロードウェイ・デビューとなる。ニッキ・スネルソン(再演版のヴァル役候補)ニッキ・スネルソンは、ミーズーリ州セントルイス出身のアメリカのダンサー、歌手、女優。本作のヴェル役を得るために豊胸手術を受けた。 ジェシカ・リー・ゴールディン、メレディス・パターソンとヴァル役を争う。メレディス・パターソン(再演版のヴァル役候補)メレディス・パターソン(1975年〜)は、カリフォルニア出身のアメリカのダンサー、歌手、女優。「CIAの男」(2000年)、「プリティ・プリンセス2/ロイヤル・ウェディング」(2004年)、「ブロークン・フラワーズ」(2005年)、「その土曜日、7時58分」(2007年)などの映画に出演する他、テレビドラマにも出演している。ラシェール・ラック(再演版のシーラ役候補)ラシェール・ラックはピッツバーグ出身のアメリカのダンサー、歌手、女優。二歳の時から母のダンス・スタジオでダンスを教わる。本作のオーディションで、ディードリ・グッドウィンとシーラ役を争う。彼女はシーラ役の本命と目されていたが、最終オーディションで調子が出ず、苦戦する。ディードリ・グッドウィン(再演版のシーラ役候補)ディードリ・グッドウィン(1969年〜)は、オクラホマ州出身のアメリカのダンサー、歌手、女優。本作のオーディションで、ラシェール・ラックとシーラ役を争う。ジェフリー・シェクター(再演版のマイク役候補)ジェフリー・シェクター(1973年〜)は、ニューヨーク出身のダンサー、歌手、俳優、作家。本作では、オーディションでタイスとマイク役を争う。キース“タイス”ディオリオ(再演版のマイク役候補)キース“タイス”ディオリオ(1970年〜)は、ニューヨーク・ブルックリン出身のアメリカのダンサー、歌手、俳優、振り付け師。ジャネット・ジャクソン、ポーラ・アブドル、ジェニファー・ロペス、リッキー・マーティン、テイラー・スイフトらの振り付けを担当、2009年では、振り付けでエミー賞を受賞している。本作のオーディションでは、ジェフリー・シェクターとマイク役を争い、群を抜くダンス能力を見せつける。映画「Mr.& Mrs.スミス」(2005年)で、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの背景でサルサを踊っている。クリッシー・ホワイトヘッド(再演版のクリスティン役候補)クリッシー・ホワイトヘッド(1980年〜)はサウスカロライナ州出身のアメリカのダンサー、歌手、女優。本作のオーディションでは、比較的若手で、キャリアも短い。採用されれば、本作がブロードウェイ・デビューとなる。アリサン・ポーター(再演版のビビ役候補)アリサン・ポーター(1981年)は、マサチューセッツ州出身のアメリカのダンサー、歌手、女優。母親がダンス教師で、3歳から舞台に立ち、5歳の時にテレビのスター発掘番組で優勝、1987年にテレビ・デビュー。「バックマン家の人々」(1989年)で映画デビュー、「カーリー・スー」(1991)でタイトルロールを演じる。その後は学業に専念し、1999年にテレビドラマで復帰したが、2008年以降、芸能活動はほぼ休止状態だったが、2016年に音楽オーディション番組「ザ・ヴォイス」で優勝、以降、ミュージシャンとして活躍している。マーラ・ダヴィ(再演版のマギー役候補)マーラ・ダヴィ(1984年〜)は、カリフォルニア州出身のダンサー、歌手、女優。本作のオーディションでは、比較的若手で、キャリアも短い。採用されれば、本作がブロードウェイ・デビューとなる。ジェイソン・タム(再演版のポール役候補)ジェイソン・タム(1982年〜)は、ハワイ州ホノルル出身のアメリカのダンサー、俳優、歌手。本作では、ゲイのポール役のオーディションで、ショーのために女装した姿を両親に見られた時の話を見事に語り、審査員に落涙の感動を呼び起こす。彼がメインキャストを務めた映画「Jesus Christ Superstar Live in Concert」(2019年)が、グラミー賞にノミネートされている。マイケル・ベネット(オリジナル版の原案、振付、監督)マイケル・ベネット(1987年)は、アメリカのミュージカルの舞台監督、作家、振り付け師、ダンサー。オリジナル版の「コーラスライン」の振り付けと舞台監督を行った。彼は、振り付けと舞台監督で7つのトニー賞を受賞し、ノミネートはされた数はさらにこれに加えること11に及ぶ。ドナ・マケクニー(オリジナル版のキャシー役)ドナ・マケクニー(1940年〜)は、ミシガン州出身のアメリカのダンサー、女優、歌手、振り付け師。オリジナル版「コーラスライン」のキャシー役を演じ、トニー賞を受賞している。マイケル・ベネットとは、一時、結婚していた時期がある。マーヴィン・ハムリッシュ(オリジナル版の音楽監督)マーヴィン・ハムリッシュ(1944年〜2012年)は、ニューヨーク出身のアメリカの作曲家。オリジナル版「コーラスライン」の音楽を作曲した。映画「追憶」(1973年)、「スティング」(1974年)などの音楽も作曲している。エミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞、ゴールデングローブ賞、ピューリッツァー賞をすべて受賞した人物は、彼以外には一人しかいない。2012年、68歳で病没。ブロードウェイの40の劇場が、午後8時から1分間消灯し、彼の死を悼んだ。追悼式典では、バーバラ・ストライサンドが「追憶」を歌い、高校生たちが「コーラスライン」を演じた。ボブ・エイヴィアン(再演版の監督)ボブ・エイヴィアン(1937年〜)は、ニューヨーク出身のアメリカの振付師、舞台監督、プロデューサー。再演版「コーラスライン」の舞台監督を務めた。オリジナル版「コーラスライン」と「ボールルーム」の振り付けで二度、トニー賞を受賞している他、四度、ノミネートされている。バイヨーク・リー(再演版の振付、オリジナル版のコニー役)バイヨーク・リー(1946年)は、ニューヨーク出身のアメリカのダンサー、女優、歌手、振り付け師、舞台監督、作家。再演版「コーラスライン」の振付師。オリジナル版「コーラスライン」でコニー役を演じた。本作撮影時は60歳近かったが、エネルギッシュな振り付け指導ぶりを見せている。2017年、彼女の長年に渡る舞台芸術への貢献に対してトニー賞が贈られている。映画「ジーザス・クライスト・スーパースター」(1973年)にも出演している。パトリック・バカリエロ(左、再演版の音楽監督)パトリック・バカリエロは、アメリカの音楽監督。再演版「コーラスライン」の音楽監督を務めた。映画「グレイテスト・ショーマン」(2017年)のボイス・トレーナーを務めた。ジェイ・ビンダー(再演版キャスティング・ディレクター)ジェイ・ビンダーは、アメリカの舞台プロデュサー、プロダクション・デザイナー、キャスティング・ディレクター。リバイバル版のキャスティング・ディレクターを務めた。これまでの50以上のブロードウェイのショーをキャスティングしている。ミーガン・ラーシ(再演版の副キャスティング・ディレクター)ミーガン・ラーシはアメリカのキャスティング・ディレクター。ジェイ・ビンダーの下でキャリアを始め、再演版「コーラスライン」では副キャスティング・ディレクターを務めた。ジョン・ブレグリオ(再演版プロデューサー)ジョン・ブレグリオは、アメリカの法律家、舞台プロデューサー。オリジナル版の「コーラスライン」、オリジナル版「コーラスライン」をプロデューサーとして法律面で支えた。最も成功し、最も影響力のあるエンタメ関連の法律家である。【撮影地】冒頭のオーディション会場最初のオーディションはブロードウェイのアメリカン・エアラインズ劇場で行われている。向かいに「ライオンキング」の初演が行われたニュー・アムステルダム劇場が映っている。最終審査会場最終審査はニューヨークのブロードハースト劇場で行われている。本公演会場「コーラスライン」再演の本番は、ブロードウェイのジェラルド・シェーンフェルド劇場で2006年10月から2008年8月までおこなわれた。【関連作品】映画版「コーラスライン」のDVD(楽天市場) 「コーラスライン」(1985年)
2020年01月09日
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「ローン・サバイバー」(原題:Lone Survivor)は、2013年公開のアメリカの戦争アクション&ドラマ映画です。アメリカの精鋭特殊部隊ネイビー・シールズ創設以来最大の悲劇と言われるレッド・ウィング作戦に参加した元隊員マーカス・ラトレルの手記「アフガン、たった一人の生還」を原作に、ピーター・バーグ監督、マーク・ウォールバーグら出演で、タリバンのリーダー掃討作戦の為にアフガニスタンで戦地に送り込まれたシールズの隊員4人が、80〜200名の敵兵の攻撃にさらされる中、ただ一人が奇跡の生還を果たす様が描かれています。第86回アカデミー賞で、録音賞、音響効果賞にノミネートされた作品です。 「ローン・サバイバー」(2013年)のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ピーター・バーグ脚本:ピーター・バーグ原作:マーカス・ラトレル/パトリック・ロビンソン著「アフガン、たった一人の生還」出演:マーク・ウォールバーグ(マーカス・ラトレル一等兵曹) テイラー・キッチュ(マイケル・マーフィ大尉 ) エミール・ハーシュ(ダニー・ディーツ、二等兵曹) ベン・フォスター(マシュー・アクセルソン、二等兵曹) エリック・バナ(エリック・クリステンセン少佐) アリ・スリマン(グーラーブ) アレクサンダー・ルドウィグ(シェーン・パットン二等兵曹) ジェリー・フェレーラ(ハスラート海兵隊軍曹) ユセフ・アザミ(アフマド・シャー) サミー・シーク(タラク) ローハン・チャンド(グーラーブの息子) ほか【あらすじ】2005年6月、アフガニスタン東部の山岳地帯で武装集団を率いるタリバンのリーダーの排除・殺害を目的としたアメリカ軍のレッド・ウィング作戦遂行の為、米海軍特殊部隊ネイビー・シールズのマイケル・マーフィー大尉(テイラー・キッチュ)ら4名の偵察チームが、ヘリコプターからロープで険しい山に降下します。彼らの目的は、現地を偵察して無線連絡、味方の攻撃チームを誘導すること、可能であればターゲットを殺害することでした。しかし彼らは、山中で山羊飼いの現地人3名と遭遇してしまいます。電波状態が悪く前線基地との連絡が取れない中、彼らは作戦を中止し、タリバンに彼等の存在が漏れる危険を冒して3名の現地人を解放します。それから1時間とたたないうちに、彼らは山中で80〜100名のタリバン兵に囲まれ、交戦状態となります。偵察任務の為、装備は小火器のみでしたが、特殊部隊の厳しい訓練で鍛え上げられた4名は懸命に抗戦します。しかし、数に勝り、ライフル、機関銃、RPG擲弾筒で武装するタリバンの猛烈な攻撃の前に彼等は次々に被弾、負傷、仲間を背負って後退を余儀なくされ、断崖から飛び降ります。この戦闘でマイケル大尉ら偵察チームの3名が死亡しますが、死ぬ前に衛星電話で決死の連絡を試みた大尉が救援の要請に成功します。護衛のアパッチヘリが出払っていた為、救援部隊を載せた輸送ヘリ単独で戦闘現場にかけつけますが、救援部隊の降下の為に空中で停止したところを、タリバンのRPGで迎撃され、救援部隊もろとも撃墜されてしまいます。深手を負い、たった一人生き残ったマーカス・ラトレル一等兵曹(マーク・ウォールバーグ)は、現地人の親子に救われ、彼らの村に匿われます。後を追って来たタリバンはマーカスを広場で処刑しようとしますが、村人らは部族の掟である「パシュトゥーンワーリ」に従って追われているマーカスを命をかけて守り、タリバンを追い返します。救援を求める為、マーカスが書いた地図を手に村人が一人、徒歩でアメリカ軍基地へ向かいますが、村は多数のタリバン兵からの猛烈な攻撃を受けます・・・。【レビュー・解説】米海軍特殊部隊ネイビー・シールズ史上最悪の悲劇と言われたレッド・ウィング作戦を、ピーター・バーグ監督 x マーク・ウォールバーグが常人のヒロイズムの魅力全開で描いた、リアルでスリリングな実録戦争アクション映画です。米海軍特殊部隊史上最悪の悲劇「レッド・ウィング作戦」を描いた実録戦争アクションピーター・バーグ監督 x マーク・ウォールバーグの魅力全開「ハンコック」(2008年)、バトルシップ「(2012年)など、SFバトルアクション映画も手がけるピーター・バーグ監督ですが、「プライド 栄光への絆」 (2004年) 、「キングダム/見えざる敵」(2007年)など、もとよりノンフィクションや実話に基づくドラマ映画を得意とします。特にマーク・ウォーバーグと組んだ実話系アクション映画三作は、非常に高い評価を得ています。ピーター・バーグ監督 x マーク・ウォールバーグの実話系アクション映画タイトル公開年題材ローン・サバイバー2013年ネイビー・シールズ「レッド・ウィング作戦」(2005年)バーニング・オーシャン2016年メキシコ湾原油流出事故(2010年)パトリオット・デイ2016年ボストン・マラソン爆弾テロ事件(2013年)また、アクションや、実話を劇的に見せる演出に長けたピーター・バーグ監督が、普通の人々のヒロイズムを描くこれら三作にすっぽりとはまるマーク・ウォールバーグを迎えたことが、より評価を高めています。マーク・ウォールバーグは、「ディパーテッド」(2006年)でアカデミー助演男優賞に、「ザ・ファイター」(2010年)ではプロデューサーとして同作品賞にノミネートされ、2017年には最も稼いだ俳優のトップにランクされるなど、すっかり売れっ子になりましたが、かつてワルだったという彼には、隣のお姉さんならぬ、隣のお兄さんにような親しみやすい魅力があります。マーク・ウォールバーグ(マーカス・ラトレル一等兵曹)マーク・ウォールバーグ(1971年〜)は、ボストン出身のアメリカの俳優、プロデューサー、歌手。貧しい家庭に生まれ、高校中退後、様々な職につくが長続きせず、ドラッグや暴力沙汰に明け暮れ、遠足中の黒人児童たちに投石して負傷させたり、コカインとアルコールで酩酊してベトナム人男性を襲撃し木の棒で殴りつけたりし、殺人未遂容疑で起訴され、感化院に収容された。成人後も、人に言いがかりをつけて暴力を振るい顎の骨を砕く重傷を負わせるなど、ボストン警察には25回も世話になっている。やがて反省し、自身の行いを改めることを決心、1994年に映画デビューして以来、仕事に専念している。「ディパーテッド」(2006年)の演技が高く評価され、第79回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、 主演・製作を務めた「ザ・ファイター」(2010年)は第83回アカデミー作品賞にノミネートされている。圧巻の戦闘シーン実話系の話はあまりにもリアリティを追求すると地味で退屈になりがちですが、ピーター・バーグ監督はわかりやすくメリハリをつけ、観客を惹き付ける脚色、演出が得意です。例えば「パトリオット・デイ」では、様々な実在の人物を複合した架空の主人公を作り上げるという大胆なアーティスティック・ライセンス(作家が歴史的事実や現実を物語に合わせて設定変更する創作上の特権)を使っています。実話を基にした作品ですが、事件の概要と市井の人々の勇気をわかりやすく効果的に伝えることができるのであれば、このような創作も許されるわけです。本作に関しては、ピーター・バーグ監督は原作や原作者の話に忠実なアプローチをしていますが、メリハリを効かせ、ビビッドでスリリングな見せ方をしています。一方で、遺族に対する配慮から、一部、原作と変えているシーンもあります。何よりも圧巻が戦闘シーンです。ピーター・バーグ監督は撮影に先立ち、イラク駐留のネイビー・シールズ部隊に従軍、一ヶ月半、生活をともにし、さらに撮影にも原作者を含む数人のネーイビー・シールズが立ち会って、演技指導しています。身をかすめる銃弾の音や被弾の描写も丁寧で、戦場のリアルさが伝わってくるようです。原作ではマーカスが、ヴィヴィッドで生々しいディテールを描いている。実際は5時間の銃撃戦だが、最初にやったのがマーカスの書いたことの分析だ。マーカスを自宅に招き、一ヶ月かけて、銃撃シーンを逐一、確認していったんだ。崖からのジャンプ、木々の一本一本、傷のひとつひとつ、弾丸の一発一発、すべてだ。死亡した兵士たちの父親のひとりが、検死報告書を読んでくれた。骨、踵、膝、太もも、鼠径、胃、喉の、すべての傷に関する報告書だ。私はできるだけ完璧な知識を身につけようとしていた。私は実際の銃撃戦について、できるだけ多くのことを知り、理解しようとした。誰かが傷つく銃撃のひとつひとつを、とても具体的に描こうとした。銃撃の一発一発、傷の一つ一つをだ。メイクは傷がどう見えるか、サウンドはどんな音がするかを、とても具体的に描いた。私達は、バイオレンスの詳細にまで入り込んだ。バイオレンスをまるごと観客に放り出すようなことはしなかった。(ピーター・バーグ監督)https://globalecco.org/ja/ctap-interview-peter-berg-director-of-lone-survivor圧巻の崖落ちシーン(YouTube)新選組の階段落ちならぬ、「崖落ち」のシーン。エッっと思うほど、リアル。CGは一切、使っておらず、機械もワイヤーもダミーの人形も使っていない、すべてスタンマンを使った実写。ネイビー・シールズが撮影現場に立ち会たこともあり、スタントマンのアクションに熱が入っている。原作通りにシーンを再現しようと、難易度の高いことに挑戦しており、脳震盪を起こす人、怪我をした人、激突で肋骨を折り肺に穴があいた人などが出ている。原作/映画は事実と相違?生還したマーカスが、米軍を題材にした数々のベストセラー小説で知られるパトリック・ロビンソンとまとめたノンフィクション「アフガン、たった一人の生還」は、全米でベストセラーとなります。ピーター・バーグ監督が映画化権を獲得、本作が制作され、プロモーションの為に、マーカスを救ったグーラーブ本人をアフガニスタンから呼び寄せますが、ここで事態は思わぬ展開を見せます。ロビンソンから原作の翻訳を聞かされたグーラーブが、彼が記憶している事実と異なると指摘したのです。原作や映画の描写と、グーラーブや一部のジャーナリストの指摘する主な相違点は以下のようになります。原作/映画とグーラーブらの指摘の相違点論点原作/映画グーラーブ/ジャーナリストターゲットオサマ・ビンラディンの側近の一人米本土攻撃も辞さないテロリストタリバン関連の小さな軍隊の長ビンラディンに近くない国際的なテロリストではない会敵ヤギ飼いと遭遇、交戦規定に従い解放タリバンへの通報を懸念、作戦中止一時間半後にタリバンと会敵タリバンがシールズの夜間降下を察知翌日シールズの足跡を追跡ヤギ飼いと接触するシールズを発見ヤギ飼い の存在に攻撃を躊躇敵の規模80人〜200人(作戦ブリーフィング)実際に会敵したのは30~40人?推定8〜10人タリバンの戦闘ビデオに映るのは7人交戦4時間半の戦闘シールズがヤギ飼い解放した直後に交戦村に聞こえてくる銃声はすぐに止んだ敵の死者数50人以上は殺したに違いない(原作)推定35人(米海軍特殊戦コマンド)翌日の捜索でタリバンの遺体は発見されず残弾数未使用の弾倉は2個未使用の弾倉は11個マーカスは一兵卒の視点で書いており、グーラーブは戦闘現場近くの住民の視点での指摘で、おそらくどちらも完璧ではなく、どちらか一方が正しいと断定するのは難しいのですが、もしもグーラーブらの指摘が正しいとすれば、シールズの偵察チームは最初から動向を把握されており、タリバンに有利な状況でほとんど反撃もできないまま一気に殲滅させられた可能性があります。実際、戦闘の有利、不利を決めるのは頭数だけではありません。例えば、シールズ偵察隊タリバン 武装小火器のみの偵察用軽武装 ライフル、機関銃、RPG擲弾筒などの戦闘用重武装 位置下からタリバンを見上げる上からシールズを見下ろす 遮蔽物/退路なし/なしあり/あり 索敵目標を未確認射程内に目標を捕捉といった場合、状況は圧倒的にタリバンに有利になります。タリバンが勝手知ったる自陣の中で、グーラーブの言う通りにシールズ偵察隊をしっかりと補足していたとすれば、シールズ偵察隊は圧倒的に不利な状況にあったことになります。疑義は作品の価値を貶めるか?それでは、こうした疑義は作品の価値を貶めるのでしょうか?少なくても、私自身に関しては全くもって「ノー」です。レッド・ウィング作戦は失敗したことがわかっていますので、私の興味は、シールズが何人、タリバンを殺したかではなく、 どうようにして偵察チームが窮地に追い込まれていったか、 偵察チームの3人に加え、ヘリ乗員8名とヘリに搭乗していたシールズ隊員8名、計19名が戦死という、ネイビー・シールズ創設以来最悪の悲劇にどうようにしてつながったのかです。私にとってシールズの反撃はアクションの演出のひとつに過ぎません。また、ピーター・バーグ監督の演出も、タリバンへの応戦をヒロイックに描くよりは、シールズが崖から転落するシーンなど、むしろシールズの絶望的な状況をリアルに描くことに注力されています。タリバンを何人殺したかは、必ずしも重要な取り扱いにはなっておらず、グーラーブが提起した疑義は作品の価値を決定的に貶めることはないと思われます。もちろん、事実と違うとしたらそれは許せないという人もいるかもしれませんが、ピーター・バーグ監督とマーク・ウォールバーグが評判を落とすことなく本作に続く実話系アクション映画を成功させているところを見る限り、グーラーブが提起した疑義を寛容に受け止める人が多かったと思われます。悲しい後日談マーカスを救ったことからグーラーブはタリバンの殺害リストに載り、再三、命を狙われ、資産と生業を失います。彼は近くの米軍基地で現金と仕事を得ますが、その後、労働者を雇って木材運搬の仕事を始めます。一方、マーカスはシールズを引退、回顧録を出しますが、アフガニスタンでの体験が頭から離れませんでした。特に、胸に被弾し、救いを求めるマーフィーを見殺しにした自責の念から逃れられませんでした。マーカスは悲しみと怒りと混乱で一杯でしたが、アメリカでは誰もが彼の作品を読みたがり、2007年にはユニバーサルが数百万ドルで映画化の権利を獲得します。マーカスは、PTSD等に苦しむ帰還兵を救済する為に、ローン・サバイバー基金(英文) を設立し、その創立記念式典にグーラーブを招待します。グーラーブはフェアチャイルド財団の全面的な支援を受け訪米、マーカスと再会し、通訳付きで二週間のアメリカ国内の旅行を堪能します。募金で総額三万ドルを調達したマーカスは、グーラーブ分17000ドル、村人分13000ドルを、三年かけてアフガニスタンに分割送金します。一方、グーラーブは2012年、タリバンの襲撃で甥を失います。2013年、マーカスは、訪米して映画のプロモーションに協力するようグーラーブに依頼します。通訳から映画の収益が入ると言われたグーラーブは、タリバンから逃れてカブールやアメリカに引っ越しできると考え、マーカスの協力要請を受入れます。今や起業家となったマーカスは、グーラーブの仕事を手伝うと申し出、また、グーラーブに身の危険が迫っていることから、アメリカに亡命すること勧めます。しかし、亡命すると家族と会えなくなると考えたグーラーブは、亡命を辞退しグリーンカード取得を考えます。グーラーブが自身の回顧録で稼げるようにと、マーカスは「アフガン、たった一人の生還」を共著したロビンソンを紹介します。グーラーブは、この時、マーカスが映画の収益の半分をグーラーブに渡すと約束したと言います(マーカスの弁護士は、グーラーブが金目当ての誰かに操られているとこれを否定)。回顧録作成の為、ロビンソンに会ったグーラーブは、「アフガン、たった一人の生還」の翻訳を聞いて、自分の記憶と違うとマーカスに矛盾点を指摘します。映画公開に先駆けてCBSの「60ミニッツ」のインタビューを受ける直前と言う、最悪のタイミングでした。通訳の機転でインタビューは事なきを得ましたが、以降、マーカスはグーラーブと距離を置くようになり、マーカスの妻がグーラーブにパソコン等、数千ドル分の物品を買い与え、グーラーブは帰国します。2014年、グーラーブの回顧録に関して、収益をロビンソン、グーラーブ、マーカスで三分割するという不本意な契約を結ばされたいう暴露記事が出ます。マーカスは自分の取り分の受け取りを拒否、グーラーブの本の販売を手伝わない、彼とはもう関わりたくないと怒りを露わにし、さらに態度を硬化させます。一方、グーラーブは米軍基地で働いた期間が短いためグリーンカードを取得することができず、アメリカ大使館に保護を求めて第三国に避難するしかなくなります。2015年、彼はインドに出国、借金をして妻と7人の子供を呼び寄せ、9ヶ月後にアメリカのビザを取得します。彼は再び、テキサスに降り立ちますが、マーカスからは支援も出迎えもありませんでした。国務省は彼を地元の救援機関に送り込み、家賃と数千ドルの現金を援助します。文盲で英語もほとんど話すことができないグーラーブは職を得ることもできず、国務省の援助が失効して以降はフードスタンプと時給$10の息子の収入に頼っています。グーラーブは、アメリカ政府に感謝していますが、マーカスには見捨てられたと怒りを感じています。彼は、「マーカスを救ったことを後悔していないが、映画を手伝ったのは間違いだった、マーカスはいつか真実を話して欲しい」と、主張しています。経緯に関する記事を一通り読みましたが、募金を集め送金したり、亡命を勧めたり、仕事を手伝うと申し出、実際に回顧録出版のお膳立てをするなど、マーカスはそれなりにグーラーブを支えていました。マーカスはアフガンでの体験に苦しみながらもそれを出版、映画化し、PTSD等に苦しむ帰還兵の為の事業を運営していましたが、真偽は別にしても、その根幹となるアフガンでの体験にマーカスの命の恩人が疑義を挟むことの意味を、グーラーブはおそらく理解していなかったでしょう。互いに視点の異なる過去の記憶を議論したところで、誰が利益を得るのでしょうか?話し方ひとつでいかようになる話です。グーラーブがどのような指摘の仕方をしたのかわかりませんが、意思疎通もままならない中、マーカスが防衛的になったとしても不思議ではありません。「キリング・フィールド」(1984年)でニューヨーク・タイムズのシドニー・シャンバーグ記者と生き別れにったカンボジア人助手、ディス・プランは、ただ一人でクメール・ルージュの大虐殺を生き延びます。シャンバーグ記者と再会した彼はアメリカ国籍を取得し、報道写真家として活躍する傍ら、クメール・ルージュの大虐殺の啓蒙活動を推進しました。ディス・プランは英語堪能で、欧米人の考え方をよく理解し、記者とのしてもスキルも持ち合わせていました。一方、グーラーブは文盲で英語もほとんど話せず、通訳がいなければコミュニケーションもままなりません。アメリカで収入を得るようなスキルもありません。もしも、英語ができ、アメリカの文化やマーカスを理解することができたら・・・アメリカで稼ぐスキルがあり、マーカスに過度に依存せずに済んだら・・・妻と7人の子供を抱え、アメリカでの生活を設計する力があったら・・・金ではない、友情だ、真実だと主張し、命を助けた友人への不満をぶちまけながら、妻と7人の子供を抱えてアメリカの生活保護で暮らすアフガン人の正義感(?)に、難民問題の難しさを垣間見るような気がします。この項の参考:Marcus Luttrell's Savior, Mohammad Gulab, Claims 'Lone Survivor' Got It Wrong(News Week)付録1:アフガニスタン紛争(2001年〜)と関連映画19世紀のイギリスの侵攻、20世紀のイギリス侵攻、アフガン内戦とソ連の軍事介入、2001年の米同時多発テロ事件に端を発するNATOおよび北部同盟のタリバンに対する「対テロ戦争」と、アフガニスタンは戦争の多い地域です。2001年以降の紛争では、有志連合と北部同盟があっという間に首都カブールを制圧したのですが、カブールから数十キロ、パキスタンに通ずる3000メートル級の山岳地帯にタリバンやアルカイダが潜伏し、徹底抗戦します。住民の反発を避ける為、小部隊しか派遣しなかったこと、イラク戦争に兵員を振り分けたことから、有志連合は武装勢力を相手に、長い間、苦戦を強いられます。2001年以降のアフガン紛争の主な出来事と、関連する映画(赤字)を下表に示します。アメリカのみならず、有志国として参加したデンマーク(「ある戦争」、{アルマジロ」)や、オランダ(「キャンプ・アフガン」)が制作した作品もあります。各国の部隊の配置により、米国映画はアフガンの北東部を、欧州各国の映画は南部を舞台にすることが多くなっています。時期主な出来事2001年アメリカで同時多発テロ事件勃発、米政府、首謀者をオサマ・ビンラディンと特定米政府が身柄引き渡しを要求するも、アフガニスタンのタリバン政権が拒否NATO軍が集団的自衛権を行使、アフガニスタンへの空爆を開始少数の特殊部隊が派遣され、北部同盟軍とともに戦う(→「ホース・ソルジャー」)ビンラディンが潜伏していたトラボラ山脈を空爆するも、ビンラディンは逃亡北部同盟軍が首都カブールを制圧、アフガニスタン暫定政府を設立2002年アフガニスタン移行政府設立シャハ・エ・コット渓谷に潜伏するタリバン兵等を掃討する「アナコンダ作戦」実施2003年アフガニスタンの憲法制定イラク戦争勃発、米軍が大幅にイラクに振り向けられ、タリバンが勢力を回復する2004年アフガニスタン大統領選の実施「国境なき医師団」がスタッフ5人を殺害され、アフガニスタンから撤退 2005年コレンガル峡谷付近でレッドウィング作戦実施(→「ローン・サバイバー」)南部でタリバン等の武装勢力の攻撃が増え、治安が悪化。 2006年コレンガル前哨基地設置(→「レストレポ前哨基地」)アフガニスタン国軍と連携、地域のインフラ整備をしながら、武装勢力を掃討を図る国境を越えてパキスタンから物資を調達するタリバンと激しい戦闘が繰り返されるアフガニスタン国内の爆撃の75%がコレンガル渓谷に集中する激戦区2006年から2010年に撤退するまでの4年間で42人の米兵が戦死ISAF、南部で大規模掃討作戦「メドゥーサ」を展開2007年首都カブールで自爆テロ頻発ISAF(国際治安支援部隊)、南部の武装勢力と戦闘激化(→「ある戦争」)タリバンが韓国人23人を拉致、2人を殺害、韓国政府がアフガニスタンから撤兵2008年NPOペシャワール会の日本人スタッフがタリバンに誘拐・殺害されるISAF(国際治安支援部隊)、南部の武装勢力と戦闘激化(→「キャンプ・アフガン」)2009年タリバン兵300人がヌーリスターン州キーティングの米軍拠点を急襲アフガニスタン紛争における最大規模の戦闘となる(→「レッド・プラトーン」(未))米国、アフガニスタンへの増派を発表2010年 ヘルマンド州で、ISAF他がタリバン大規模掃討作戦(モシュタラク作戦)を実施2011年米軍特殊部隊がパキスタンに潜むビンラディンを殺害(→「ゼロ・ダーク・サーティ」)ワルダク州で反政府組織が米軍ヘリを撃墜、米特殊部隊30人を含む38人が死亡2014年米軍の駐留兵削減完了、戦闘任務を正式に終了 2019年ナンガルハル州ジャラーラーバードで日本人医師中村哲ら6名が襲撃を受け死亡 付録2:レッド・ウイング作戦本作は2005年に行われたレッド・ウィング作戦を題材にしています。アフガニスタン東部のクナル州アサダバード付近では、80〜200人程度の武装勢力を率いるアフマド・シャーを中心に旧タリバン勢力の活動が活発化していました。米軍はネイビー・シールズを派遣、シャーを排除することを決定し、レッド・ウィング作戦が立案されました。フェーズ1:特定シールズ偵察チームは、シャーが潜む区域一帯を調査、シャーとその部下を特定し、フェーズ2の攻撃チームを誘導する。可能であれば、そのまま排除を実行する。フェーズ2:排除シールズ攻撃チームは、海兵隊のMH-47チヌークに搭乗、シャーとその部下を捕獲又は殺害する。フェーズ3:警戒線設定と周囲の安全確保アフガニスタン国軍兵と連携して、海兵隊は現場周辺の山岳地帯に存在する武装集団を掃討する。フェーズ4:地域の安定化海兵隊、アフガン国軍兵と海軍衛生部隊は、地域住民の要望に応じて医療、道路、井戸、学校などのインフラを整備する。フェーズ5(撤退)状況に応じて、海兵隊は最長1ヶ月間当該区域に残留し、更なる安定化に寄与した後、撤退する。という計画でしたが、フェーズ1でシールズ偵察部隊が現地人に遭遇してしまった為、やむなく作戦を中止します。まもなくタリバンの猛攻を受け、救援ヘリを要請しますが、ヘリがタリバンに撃墜され、偵察チーム3人、ヘリ乗員8名と共にヘリに搭乗していたシールズ隊員8名、計19名が戦死という、ネイビー・シールズ創設以来最悪の悲劇となりました。唯一の生存者であるマーカス・ラトレルは、現地人に匿われ、6日後に米軍によって収容されました。本作でシールズ偵察部隊が降下したコレンガル峡谷一帯は、国境を越えてパキスタンから物資を調達するタリバンの重要拠点で、激しい戦闘が繰り返され、アフガニスタン国内の爆撃の75%がこの一帯に集中する激戦区でした。レッド・ウィング作戦の翌年にコレンガル前哨基地が設置されましたが、2006年から2010年に撤退するまでの4年間で42人の米兵が戦死しています(2005年のレッド・ウィング作戦の犠牲者19人を含まず)。ドキュメンタリー映画「レストレポ前哨基地」はこの一帯の戦闘の厳しさを、生々しく捉えています。【撮影地(グーグルマップ)】4人が降下したサウテロ山「レストレポ 前哨基地」(2010年)で描かれたコレンガル前哨基地/レストレポ前哨基地のすぐ近く、南東数キロの地点にある(実際の撮影はアメリカのニューメキシコ州アルバカーキーの山岳地帯で行われた)。レッド・ウィング作戦は前哨基地が設置される前年に行われたもので、本作の降下部隊は数十キロ離れたジャラーラーバード前哨基地から飛び立っている。因みにジャラーラーバードは、今般、中村哲医師一行が襲撃、殺害された場所。 「ローン・サバイバー」(2013年)のDVD(楽天市場)【関連作品】「ローン・サバイバー」の原作本(楽天市場) マーカス・ラトレル/パトリック・ロビンソン著「アフガン、たった一人の生還」ピーター・バーグ監督xマーク・ウォールバーグのコラボ作品のDVD(楽天市場) 「パトリオット・デイ」(2016年) 「バーニング・オーシャン」(2016年)ピーター・バーグ監督作品のDVD(楽天市場) 「プライド 栄光への絆」(2004年)マーク・ウォールバーグ出演作品のDVD(楽天市場) 「ブギーナイツ」(1997年) 「スリー・キングス」(1999年) 「ディパーテッド」(2006年) 「ザ・ファイター」(2010年) 「インスタント・ファミリー」(2018年)アフガン紛争(2001年〜)を題材にした映画のDVD(楽天市場) 「レストレポ前哨基地 Part.1」(2010年) 「レストレポ前哨基地 Part.2」(2010年) 「アルマジロ アフガン戦争最前線基地 」(2010年) 「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012年) 「ある戦争」(2015年) 「キャンプ・アフガン」(2016年) 「ホース・ソルジャー」(2018年) 「レッド・プラトーン」(未)
2020年01月01日
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「ファースト・マン」(原題: First Man)は、2018年公開のアメリカの伝記ドラマ映画です。ジェームズ・R・ハンセンによるニール・アームストロングの伝記「ファーストマン:ニール・アームストロングの人生」を原作に、デイミアン・チャゼル監督、ジョシュ・シンガー脚本、ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ、ジェイソン・クラーク、カイル・チャンドラーら出演で、史上初めて月面を歩いた宇宙飛行士ニール・アームストロングの月面に至るまでの数々のミッションと妻や家族たちとの私生活が描かれています。第91回アカデミー賞で、音響編集、録音、美術、視覚効果の4賞にノミネートされ、視覚効果賞を受賞した作品です。 「ファースト・マン」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:デイミアン・チャゼル脚本:ジョシュ・シンガー原作:ジェームズ・R・ハンセン「ファーストマン: ニール・アームストロングの人生」出演:ライアン・ゴズリング(ニール・アームストロング、月面を歩いた最初の宇宙飛行士) クレア・フォイ(ジャネット・アームストロング、ニールの妻、夫を支えるも時に苛立つ) ジェイソン・クラーク(エド・ホワイト、アメリカ人初の宇宙遊泳を行った宇宙飛行士) カイル・チャンドラー(ディーク・スレイトン、マーキュリー計画の宇宙飛行士の一人) コリー・ストール(バズ・オルドリン、ニールとともに月面を歩いた2番目の宇宙飛行士) パトリック・フュジット(エリオット・シー、ニールの同僚の宇宙飛行士、友人) クリストファー・アボット(デイヴ・スコット、ニールとジェミニ8号に乗った宇宙飛行士) キーラン・ハインズ(ボブ・ギルルース、NASAのファースト・ディレクター) オリヴィア・ハミルトン(パトリシア・ホワイト、エドの妻) パブロ・シュレイバー(ジェームズ・ラヴェル、アポロ11号のバックアップ・コマンダー) シェー・ウィガム(ガス・グリソム、マーキュリー計画の宇宙飛行士の一人) ルーカス・ハース(マイケル・コリンズ、アポロ11号の司令モジュール用パイロット) イーサン・エンブリー(ピート・コンラッド、ジェミニ5号のパイロット) ブライアン・ダーシー・ジェームズ(ジョー・ウォーカー、ニールの上司) コーリー・マイケル・スミス(ロジャー・チャフィー、アポロ1号のクルー) クリス・スワンバーグ(マリリン・シー、エリオットの妻) ギャヴィン・ウォーレン(幼年期のリック・アームストロング、ニールの長男) ルーク・ウィンターズ(少年期のリック・アームストロング、ニールの長男) コナー・コルトン・ブロジェット(マーク・アームストロング、ニールの次男) ルーシー・ブロック・スタッフォード(カレン・アームストロング、ニールの娘) マシュー・グレイヴ(チャック・イェーガー、有名なテストパイロット) ほか【あらすじ】ニール(ライアン・ゴズリング)はX-15の飛行実験の最中、成層圏を超える空間でコントロールを失いそうになります。さらに、着陸時に操縦の未熟さを指摘されたニールは、飛行禁止処分に直面します。それでもジェミニ計画の候補として選ばれたニールは、幼い娘を病で亡くしたことを契機に月へ行くことに執着するようになり、NASAの宇宙飛行士に応募します。ソ連に宇宙計画で遅れをとっているアメリカは、ソ連もまだ到達していない月を目指します。まず、月面着陸の前段階として宇宙船のドッキングを実証するジェミニ計画がスタートします。ニールら飛行士たちは、宇宙空間で活動する為の想像を超えるハードな訓練を共にし、絆を深めていきます・・・。【レビュー・解説】娘の喪失に苦しみながらも人類で初めて月面に立つという偉業を成し遂げた実在の宇宙飛行士を、デイミアン・チャゼル監督がパーソナルな視点から描いた異色の劇的伝記映画です。長編デビュー作「セッション」(2014年)に次いで「ラ・ラ・ランド」(2016年)と、音楽を題材にした大ヒット作を放ち、若干32歳と最年少でアカデミー監督賞を受賞したデイミアン・チャゼル監督の第三作は、人類で初めて月を歩いた宇宙飛行士の伝記ドラマと意外な作品でした。この作品でVFXを巧みに使ってみせた彼は三作連続のアカデミー賞受賞を果たす一方で、人類で初めて月を歩いた宇宙飛行士が実は娘の喪失に苦しんでいたというパーソナルな視点や、宇宙飛行士が月面に星条旗を立てるシーンが無いことが話題になりました。畑違いの作品に挑戦したように見える彼ですが、実はこうしたことを含めてこの作品には随所に彼らしいこだわりが込められています。数少ない宇宙飛行士の実録ドラマ「宇宙へのフロンティア」(1989年)、「Moonwalk One」(1971年)、「アポロ管制センターの英雄たち」(2017年)といったドキュメンタリー映画を除けば、宇宙飛行士を描いた実録ドラマ映画は驚くほど少なく、本作を含めて三作しか思い浮かびません。宇宙飛行士を描いた主な実録ドラマ映画タイトル(公開年)内容舞台ライトスタッフ(1983年)7人の飛行士「マーキュリー7」を描くマーキュリー計画(1958-1963年)アポロ13(1995年)事故を起こしたアポロ13号の奇跡の帰還を描くアポロ計画(1961-1972年)ファースト・マン(2019年)人類で初めて月に立った飛行士を描くジェミニ計画(1961-1966年)アポロ計画(1961-1972年)アメリカが国威をかけて行った国家プロジェクトで、前人未到の成果を挙げ、何人もの著名な宇宙飛行士を輩出したにもかかわらず、意外です。「ライトスタッフ」は、アメリカ初の有人飛行計画に応募し、選抜された7人の勇敢な飛行士を描いた群像劇、「アポロ13」は月に向かう途中の爆発事故とその後の幾多の危機的状況を乗り越え、奇跡の帰還を描いた冒険活劇で、いずれも挑戦し、困難を克服する男たちのヒロイズムがベースですが、本作はかなり趣が異なります。娘の喪失に苦しみながら偉業を達成チャゼル監督の「セッション」(2014年)、「ラ・ラ・ランド」(2016年)も、夢を果たす為に払う代償や喪失するものがテーマです。音楽を題材にした作品を得意とする彼が宇宙飛行士を描く本作の監督を引き受けたは意外ですが、実は彼は本作を通して夢と喪失というテーマをより深堀りできると考えていました。しかし、原作を読み、リサーチを進める中で、彼は不確定要素ばかりの向こう見ずなミッションの為に、小さな棺桶のようなカプセルに自らを押し込む宇宙飛行士の、尋常では理解し難い気違いじみた勇気に驚愕する一方で、ニールがジェミニ計画に参加する以前に幼い娘を亡くするという、大きな喪失を経験していたことを知ります。これが、「夢を果たす為に何かを喪失する」という彼のテーマを、「娘に喪失に苦しむ宇宙飛行士が偉業を成功させた」というテーマに反転させ、ニールと妻のジャネットや彼の家族といったパーソナルな関係を描くという方向性が定まりました。彼の夢と喪失のこだわりが、本作に彼独自のユニークな視点をもたらしたわけです。娘に喪失に苦しむ宇宙飛行士が偉業を成功させた「娘の喪失に苦しむ宇宙飛行士が偉業を成功させた」というのは、突拍子もない仮説ではありません。私的なことには寡黙なニールですが、実は2005年に CBS の 60minutes のインタビューで娘を失ったショックを問われた彼は、次のように答えています。計り知れないほどのショックを受けました。そんな状況で私がなすべき最善のことは、仕事を続けること、できるだけ普通に続けること、悪影響を最小限に抑え自分の能力を最大限に活かすことことだと思いました。(ニール・アームストロング)https://youtu.be/ApSDDtW9IMA?t=145この2005年のインタビュー映像のニールの表情に、彼の心の傷が癒えていない様子を垣間見ることができます。娘を亡くしたのが1962年でアポロ11号の月面着陸が1969年ですから、彼が娘の喪失という激しい心の痛みを抱えたまま月面着陸を成功させたことに疑いの余地はありません。宇宙飛行士は、PPK(Personal Preference Kit)という少量の個人的物品を宇宙船に持ち込むことができます。アポロ11号の出発前のインタビューで、何を持っていくか記者に問われたニールは、「燃料を持っていきたい」と答えています。本作にも取り込まれているこのエピソードが象徴するように、ニールは私的なことや感情を表に出さない性格でした。こうした彼の性格を反映する本作は、月面に立つという遠大な夢や希望に向けて一歩ずつ進む様を感動的に描くと言うよりは、次々に直面する様々な困難を娘の喪失にじっと耐えるかのようにニールが淡々と解決していく様が描かれています。なお、アポロ11号の出発前のインタビューで問われたPPKは、後に本作の大きな鍵になります。「月とキッチン」かくして本作には、ジェミニ8号のミッション(1966年)、アポロ1号の事故(1967年)、アポロ11号のミッション(1969年)など、アカデミー視覚効果賞を受賞した素晴らしいミッション映像に並行して、ニールと妻や家族とのパーソナルな関係が描かれており、子役たちのリハーサルの際に撮影されたホームビデオ風の映像も挿入されています。月面への挑戦とパーソナルな家庭を並行して描くこのコンセプトは、「月とキッチン」と呼ばれました。視覚効果技術を駆使したオープニング(YouTube)全編を通じて、アカデミー視覚効果賞を受賞したミッション映像が素晴らしい。また、音響編集、録音賞にもノミネートされているが、全編を通じて噴射音、振動音、きしみ音、宇宙空間での静寂、地上との交信音、BGMなど、音響効果やミキシングも素晴らしい。いずれも没入感を得る為のチャゼル監督のこだわりの演出。本作のパーソナルな視点を象徴するホームビデオ風の映像(YouTube)ハードな飛行シーンとは対照的な、パーソナルな感情を呼び起こすホームビデオ風の映像が印象的。なお、月のダイナミックさを表現する為に月面シーンはIMAXカメラで撮影していますが、その他のシーンは1960年代の雰囲気を表現する為に16mmカメラを使っています。何故、星条旗を立てるシーンがないのか?本作には、宇宙飛行士たちが月面に星条旗を立てるシーンがありません。アメリカの一連の宇宙開発は、冷戦下の米ソ宇宙開発競争のさなかにジョン・F・ケネディ大統領が「1960年代中に人間を月に到達させる」と演説を行った、国威と莫大な予算をかけた大国家プロジェクトでした。初めて月に到達した宇宙飛行士たちが月面に星条旗を立てることは、国民にとって特別な意味があったわけです。アポロ11号の星条旗のNASA記録映像(YouTube)国旗を立てる際に旗竿がうまく機能せず、宇宙飛行士たちが手こずったことから、原作の伝記には「危うくパブリック・リレーションの大問題を起こしかけた」と書かれています。そんな重要なシーンが欠けていたのですから、この映画が公開されるやいなや、愛国的な人を中心に批判が相次ぎました。NASAオリジナルの記録映像は、メディアを通じて世界中に配信、アーカイブされており、我々は様々な機会を通じてこれを目にしています。私はアメリカ国民ではありませんが、やはり、本作に星条旗がないことに肩透かしを食ったような違和感を感じました。しかし、気をつけて見てみると実は月面に立つ星条旗が小さく映っています。星条旗は映っている寂寞とした美しい月面に映る小さな月着陸船と星条旗は、輝かしいニールのミッションと亡き娘の思い出が去来するニールの心と距離感を反映している。 実はチャゼル監督は、月の風景にニール・アームストロングの心情を託しています。(ニールは)私生活や感情をほとんど語らない寡黙な人間です。そんな人の内側を映像としてセリフなしで表現することは非常に難しい作業でした。ニールの人生や生活のことを語れるほどのダイアログが存在しなかったので、宇宙空間を比喩的に使おうと考えました。彼は非常に穏やかで落ち着いた人間に見えますが、ミッションの困難さを通して彼の心情を表現したり、月面の荒涼さで彼の嘆きを表現したりしました。(デイミアン・チャゼル監督)https://www.gizmodo.jp/2019/02/first-man-damien-chazelle-interview.htmlもちろん、ニールにはアメリカ国民の期待を背負って月面に立ったという意識はあったわけですが、幼い娘の喪失に苦しみながら偉業を達成したというパーソナルな視点にこだわるチャゼル監督には、敢えて星条旗にフォーカスし、ナショナリズムやヒロイズムを喚起する理由がなかったのです。寂寞とした美しい月面に映る小さな月着陸船と星条旗は、輝かしいニールのミッションと亡き娘の思い出が去来するニールとの心の距離感を反映しています。こんな船で宇宙へ?国威と莫大な予算をかけたプロジェクトを愛国的に描くのであれば、多少なりともテクロジーを賛美する描き方になりますが、娘の喪失というニールの内面に注目するチャゼル監督は、50年前のテクノロジーの心もとなさに注目し、こんな船で宇宙まで行ったのかと、ミッション危険さ、困難さを演出しています(特にジェミニ8号)。穴ぐらのようなジェミニ8号のコックピット穴ぐらに身を滑り込ませるという表現がぴったりの狭いコックピット。まさに空飛ぶ棺桶。圧迫感を演出する為、実物大のセットを作詞し、壁などを取外して撮影できるようにしている。アナログ感たっぷりの薄汚れた操作パネル液晶パネルによるデジタル式のグラスコックピットを見慣れた目には、アナログ感たっぷりの薄汚れた操作パネルはいかにも信頼性に乏しいように映る。因みに、本作はアカデミー美術賞にノミネートされている。ジェミニ8号のコックピットに迷い込んだ蠅実験の為に宇宙に蠅を持ち込んだ例はあるが、このようにコックピットに蠅が紛れ込むようなことが実際にあったのかは不明。とは言え、宇宙船の心もとなさを表現する巧みな演出。チャゼル監督は、振動や回転にも注目しています。動画クリップ(YouTube)の項に、「ライトスタッフ」、「アポロ13」と本作の発射シーンを挙げますが、本作の振動の描写が最も激しいことがわかります。また、宇宙空間でドッキングするアジェナが打ち上げられる際に、隣接するジェミニ8号の発射塔が揺れるのも効果的な演出です。なお、アジェナとのドッキングの際にジェミニ8号が最大296°/秒のスピンに陥りますが、この時の映像は500°/秒以上の勢いで回転し、回転の激しさを演出しています。実際の発射の際にどれだけ振動するかはわからないのですが、発射シーンの振動にもこうした演出があるかもしれません。なお、アカデミー視覚効果賞を受賞した本作ですが、実はCGは必要最低限しか使われていません。飛行機や宇宙船の窓から見える景色はグリーン・スクリーンではなく、窓の外に設置された巨大なLEDスクリーンに投影されたものです。セットアップが大変ですが、演技も背景も実際にインタラクティブに撮影できるので、CGよりヴィヴィッドな表現が可能となります。これも本作におけるチャゼル監督の大きなこだわりです。撮影中でとくに印象に残っているのは、宇宙船の窓から地球が遠ざかり、月が迫ってくるのを目にしたときだ。実際にはモニターに写された景色を見ているのだけど、とてもリアルで、目を見張るような眺めだった。(アポロ11号船長の)ニール・アームストロングが見たものを追体験するような感覚に震えたね。(ライアン・ゴズリング)https://www.gqjapan.jp/culture/movie/20190207/ryan-gosling-damien-chazelleニールが月に持っていった私品とは?ライト兄弟が初飛行した飛行機のプロペラの木片と翼の布切れ、アポロ1号の事故で死亡し飛行士たちの妻に贈られた階級章などが、アポロ11号に持ち込む私的物品(PPK)用にと関係者から寄贈されましたが、NASAは最終的にニールが月に携行したPPKの内容を一切、公開していません。このPPKの内容について、原作の伝記には次のように記述されています。(アームストロングは)PPKの中身に関し、いかなる情報も公開したことがありませんでした。 この伝記の出版に際し 彼は内容を明らかにすることに同意しましたが、彼はたくさんの書類の山の中からPPKの目録を見つけ出すことができませんでした。「私のPPKには、アポロ11号の記念メダル、妻と母のための宝石(金製のオリーブの枝)、他の人々のためのいくつかの宝石がありました。」という言葉が、月に持っていったものに関する彼の答えのすべてでした。(ジェームズ・R・ハンセン著「ファーストマン: ニール・アームストロングの人生」)<ネタバレ>本作ではニールが月面のクレーターの縁に立ち、娘の遺品であるブレスレットをクレーターに投げ込みます。PKKの中身については公表されていませんが、このような機会に愛する人や故人に纏わる物品を携行するのは珍しいことではありません。伝記執筆の為にニール本人を始め様々な関係者の話を聞いたジェームズ・R・ハンセンも、ニールに近かった妹のジューンも、「ニールはカレンの遺品を持っていったかもしれない」と語っています。まあ、ニールの妻ジャネットも、「ニールが息子たちの為に何かを持っていったとは思わない」と語っています。これは歴史的な記録に基づいたものでありません。月に置いてきたカレンの遺品の記録があるわけではないのですが、周辺の状況から明らかなのです。ニールは月面で10分間の単独行動をとり、無線での会話もせずにクレーターの縁に立っています。そして、彼が誰にも明かしていない私品をひとつか、ふたつ、月に持っていったことも明らかなのです。 もちろん、ニールはそれを決して明らかにしようとはしませんでした。私の想像ですが、これは彼と妻のジャネットの秘密で、他の誰も知らないと思います。私には、ある意味、それがこの話をより美しくしているように思えます。(デイミアン・チャゼル監督)https://www.nytimes.com/2018/10/03/movies/first-man-ryan-gosling-claire-foy-damien-chazelle.html<ネタバレ終わり>こだわりのエンディング「セッション」ではアンドリューとフレッチャー、「ラ・ラ・ランド」ではセブとミアと、チャゼル監督の作品のエンディングにはメイン・キャラクターのクローズアップがカットバックし無言のままその視線が絡み合います。観客の様々な思いを掻き立てるこのエンディングは、本作にも例外ではなく、地球に帰還後、検疫中のニールと妻のジャネットがガラス越しに面会します。地球に帰還した後にNASAの宇宙飛行士が検疫に入るのは事実ですが、検疫期間中に家族と面会することはありません。つまり、チャゼル監督がアーティスティック・ライセンス(作家が歴史的事実や現実を物語に合わせて設定変更する創作上の特権)を行使までも実現したかった、こだわりのエンディングです。二人の視線が絡む時間は二分弱と、「セッション」や「ラ・ラ・ランド」よりはるかに長く、無言のまま映し出される所作と表情のシークエンスが圧巻です。ニールは危険な仕事で妻に心配をかけているのが後ろめたいのだろうか、ジェネットは危険な仕事に打ち込む夫のカバーに張り詰めているのだろうかと、様々な思いを掻き立てられます。常に生命の危険と背中わせの宇宙飛行士は、その4人に3人が離婚するそうですが、配偶者が危険な仕事をする夫婦の緊張感がこのシーンから伝わってくるようでもあります。ジャネットを演じたクレア・フォイは、「ミス・シェパードをお手本に」にソーシャル・ワーカー役として出演していますが、ノーマークでした。このシーンの、大きな目を見開いた無言の表情と所作に、それまで気づかなかった彼女の魅力が一気に全開した印象です。ジャネットは自分を自慢したり、正当化することがなく、自分が正しいと思ったこと、感じたことを黙々と行う女性だったと言います。古風な20世紀の女性ですが、その心の襞を演じられるのはイギリス人女優ならではかもしれません。前作に劣る作品か?トーンが暗く淡々としている、月面に星条旗を立てるという重要なシーンが欠落しているなどの理由で、本作を彼の前二作に比較して劣ると受け止めている人が少なくないようです。30代の監督が三作続けてアカデミー賞にノミネートされるのは珍しいことと思いますが、そんなハイレベルな作品のアカデミー賞のノミネート数、受賞数を比較すると、確かに本作は最も少なくなっています。部門セッション(2014年)ラ・ラ・ランド(2016年)ファースト・マン(2019年)作品賞候補候補 監督賞 受賞 主演男優賞 候補 主演女優賞 受賞 助演男優賞 受賞 脚本賞 候補 脚色賞候補 撮影賞 受賞 視覚効果賞 受賞編集賞受賞候補 美術賞 受賞候補作曲賞 受賞 歌曲賞 Audition:候補City of Stars:受賞 衣裳デザイン賞 候補 音響編集賞 候補候補録音賞受賞候補候補本作は決して手が抜かれているわけではありません。原作のジェイムズ・R・ハンセンはピューリッツァー賞に二度、ノミネート、監督のデミアン・チャゼル、脚本のジョシュ・シンガー、撮影監督のリヌス・サンドグレン、編集のトム・クロス、作曲のジャスティン・ハーウィッツ、制作総指揮のスティーヴン・スピルバーグはいずれもオスカー受賞者と強力な布陣です。また、本作におけるチャゼル監督の狙い、挑戦、達成度、そして表現力は天下一品で、私は決して前二作に劣る作品ではないと私は思っています。これら三作は、いずれも夢、成功と喪失を描いており、メイン・キャラクターの思いが交錯するエンディングも共通していますが、「セッション」、「ラ・ラ・ランド」が、成功する為に大切な何かを失ったとしても、それは決定的な不幸を意味するわけではないという、楽観性がベースになっているのに対して、「ファースト・マン」は、前人未到の成功を収めたところで、個人的な喪失の痛みが癒えるわけではないという、悲観性がベースになっていることが異なります。即ち、彼の前二作の楽観的な印象とタイトルのポジティブな印象で本作を観ると、本作の悲観的な内容に期待が裏切られてしまうわけです。また、9.11以降、世界のリーダーシップをとれなくなったアメリカですが、かつての強いアメリカのナショナリズム、ヒロイズムへのノスタルジーは根強く残っています。米ソの宇宙開発競争を知らないポスト冷戦世代で、反トランプのリベラルなオーストラリア人監督のチャゼルは、アメリカ人のこの微妙な心の襞を見損なっていたようです。アメリカ人の琴線に触れる重要なシーンであるにもかかわらず、アポロ11号に固有なイベントではないと理由で、チャゼル監督は国旗を立てるシーンを省いてしまいました。冒頭に触れましたが、宇宙飛行士の実録ドラマ映画は少なく、月着陸を描いたものは本作が初めてです(「アポロ13」は月面に着陸していない)。アメリカ人ではない私でも違和感を感じたくらいですから、月面に国旗を立てるシーンが無いことに落胆したアメリカ人は決して少なくないと思われます。驚くべき才能の持ち主でありながら、市場の受容をほんの少し読み違えた観のあるチャゼル監督ですが、前人未到の成功を収めたところで、個人的な喪失の痛みが癒えるわけではないという悲観的なベースを、前人未到の成功を通して、人は喪失の痛みと共存して生きていけることを知ったという楽観性のベースに変えることにより、本作はより幅広い受容が得られたではないかと思います。また、喪失とナショナリズムやヒロイズムは排他的な概念ではありませんので、月面に国旗を立てるシーンを取り込むことに根本的な問題はありません。チャゼル監督は政治的な信条でこのシーンを削除したわけではないと語っていますので、あとは観客のニーズを踏まえた時間配分だけの問題です。やりくりできないことはないでしょう。ライアン・ゴズリング(ニール・アームストロング、月面を歩いた最初の宇宙飛行士)ライアン・ゴズリング(1980年〜)は、カナダの俳優、ミュージシャン。ドラマ映画「きみに読む物語」(2004年)への出演で注目され、「ハーフネルソン」(2006年)でアカデミー主演男優賞に、「ラースと、その彼女」(2007年)、「ブルーバレンタイン」(2010年)、「ラブ・アゲイン」(2011年)、「スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜」(2011年)でゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされている。「ラ・ラ・ランド}(2016年)でゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞、2度目のアカデミー主演男優賞にノミネートされている。クレア・フォイ(ジャネット・アームストロング、ニールの妻、夫を支えるも時に苛立つ)クレア・フォイ(1984年〜)は、イギリスの女優。2008年にテレビ・ドラマ・シリーズで映画デビュー、2011年に映画デビュー。2015年のBBCのテレビ・ドラマ・シリーズで注目されるようになり、2016年からNetflixのシリーズ「ザ・クラウン」でエリザベス2世の若年期を演じ、ゴールデングローブ賞女優賞を受賞、2018年にはエミー賞を受賞している。「ミス・シェパードをお手本に」(2015年)、「アンセイン 〜狂気の真実〜」(2018年)などに出演している。ェイソン・クラーク(エド・ホワイト、アメリカ人初の宇宙遊泳を行った宇宙飛行士)ジェイソン・クラーク(1969年〜)は、クィーンズランド州出身のオーストラリアの俳優。デビュー後、テレビ・ドラマ・シリーズでゲスト出演し、その後、映画に出演するようになる。「裸足の1500マイル」(2002年)、「ゼロ・ダーク・サーティ」(2013年)、「猿の惑星: 新世紀」(2013年)、「マッドバウンド 哀しき友情」(2017年)、「チャパキディック」(2017年)などに出演している。カイル・チャンドラー(ディーク・スレイトン、マーキュリー計画の宇宙飛行士の一人)カイル・チャンドラー(1965年〜)は、ニューヨーク出身のアメリカの俳優。「キング・コング」(2005年)、「SUPER8/スーパーエイト」(2011年)「アルゴ」(2012年)、「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012年)、「いま、輝くときに」(2013年)、「キャロル」(2015年)、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年)、「ゲーム・ナイト」(2018年)などに出演している。オリヴィア・ハミルトン(右、パトリシア・ホワイト、エドの妻)オリヴィア・ハミルトンはアメリカの作家・女優。プリンストン大学で経済学・財政学専攻、ゴールドマン・サックスでインターンを経験する。イタリア語、フランス語を話す才媛。2009年に卒業した後、2010年まで客員研究員として北京に滞在、その後、ロス・アンジェルスのマッキンゼーで2012年まで働く。2013年には自己啓発を支援する組織を創設する一方で、短編映画に出演する。「ラ・ラ・ランド」(2016年)に小役で出演、デイミアン・チャゼル監督と知り合う。2018年、デイミアン・チャゼル監督と結婚する。【サウンドトラック】 「ファースト・マン」のサウンドトラックCD(楽天市場) 1 X-15 2 Good Engineer 3 Karen 4 Armstrong Cabin 5 Another Egghead 6 It’ll Be an Adventure 7 Houston 8 Multi-Axis Trainer 9 Baby Mark 10 Lunar Rhapsody (feat. Les Baxter) by Dr. Samuel J. Hoffman 11 First to Dock 12 Elliot 13 Sextant 14 Squawk Box 15 Searching For the Agena16 Docking Waltz 17 Spin 18 Naha Rescue 119 Pat and Janet20 The Armstrongs 21 I Oughta Be Getting Home / Plugs Out 22 News Report 23 Dad’s Fine 24 Whitey on the Moon by Leon Bridges 25 Neil Packs 26 Contingency Statement 27 Apollo 11 Launch 28 Translunar 29 Moon 30 Tunnel 31 The Landing 32 Moon Walk 33 Home 34 Crater 35 Quarantine 36 End Credits 37 Sep Ballet (Bonus Track)【動画クリップ(YouTube)】「ライトスタッフ」の発射シーン(マーキュリー・アトラス9号)「アポロ13」の発射シーン(アポロ13号)余談だが、「ライトスタッフ」も「アポロ13」も管制官をエド・ハリスが演じている。「ファースト・マン」の発射シーン(ジェミニ8号)「ファースト・マン」の発射シーン(アポロ11号)映像は三作で最も美しい印象だが、やはり振動の描写は最も激しい。振動音のみならず、きしみ音も入っている。【撮影地(グーグル・マップ)】ニールの家空き地に撮影用の家を建てて撮影された。エドの家に向かいにある。エドの家ニールの家の向かいにある。月面のシーンマサチューセッツ州ストックブリッジにあるヴァルカン採石場が月面のシーンの撮影に使用された。【関連作品】「ファースト・マン」の原作本(楽天市場)ジェームズ・R・ハンセン著「ファーストマン: ニール・アームストロングの人生」デイミアン・チャゼル監督xライアン・ゴズリングのコラボ作品のDVD(楽天市場)「ラ・ラ・ランド」(2016年)デイミアン・チャゼル監督作品のDVD(楽天市場) 「セッション」(2014年)ライアン・ゴズリング出演作品のDVD(楽天市場) 「ラースと、その彼女」(2007年) 「ブルーバレンタイン」(2010年) 「ドライブ」(2011年) 「スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜」(2011年) 「ラブ・アゲイン」(2011年) 「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」(2012年) 「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年) 「ナイスガイズ!」(2016年) 「ブレードランナー2049」クレア・フォイ出演作品のDVD(楽天市場) 「ミス・シェパードをお手本に」(2015年) 「アンセイン 〜狂気の真実〜」(2018年)
2019年12月21日
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「ホイットニー 〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜」(原題:Whitney)は、2018年公開のイギリス・アメリカ合作のドキュメンタリー映画です。圧倒的な歌唱力で音楽シーンをリードし、スーパーボールでアメリカ国歌斉唱の歴史を変え、映画「ボディガード」の主演とサウンドトラックで世界的な大成功を収め、南アフリカでアパルトヘイト廃止後初の大規模コンサート行うなど、歌手として頂点を極めながらも、夫ボビー・ブラウンとの結婚を境に薬物問題や家庭問題などのゴシップにまみれる波乱の人生を辿り、2012年に48歳の若さで亡くなったホイットニー・ヒューストンを、ケヴィン・マクドナルド監督が様々な視点から描き出しています。第61回グラミー賞音楽映画賞にノミネートされた作品です。 「ホイットニー 〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ケヴィン・マクドナルド脚本:ケヴィン・マクドナルド出演:ホイットニー・ヒューストン ボビー・ブラウン(ホイットニーの元夫) ボビー・クリスティーナ・ブラウン(ホイットニーの娘) シシー・ヒューストン(ホイットニーの母) ジョン・ヒューストン(ホイットニーの父) ゲイリー・ヒューストン(ホイットニーの兄) エレン・ホワイト(クリスティーナの育ての親) メアリー・ジョーンズ(ホイットニーの個人アシスタント) パット・ヒューストン(ゲイリーの妻、ホイットニー財団の遺産管理人) クライヴ・ディヴィス(ホイットニーを発掘、育てたアリスタ・レコードの社長) ケヴィン・コスナー(「ボディーガード」でホイットニーと共演した俳優) ケネス・“ベイビーフェイス”・エドモンズ(歌手、作曲家、プロデューサー) ほか【あらすじ】モデルとしてキャリアをスタート、スタジオ・セッション・シンガーとして頭角を現したホイットニー・ヒューストンは、1985年に歌手デビューします。7枚連続でシングルが全米1位となった唯一のアーティストであるホイットニー・ヒューストンは、類いまれな歌唱力で音楽シーンをリードし、スーパーボールで歴史に残るアメリカ国歌斉唱を行い、映画「ボディガード」の主演とサウンドトラックで世界的な大成功を収め、南アフリカでアパルトヘイト廃止後初の大規模コンサート行うなど、大歌手として頂点を極めます。しかし、夫ボビー・ブラウンとの結婚を境に薬物や家庭問題などのゴシップにまみれ、順風満帆のはずだったキャリアと私生活の歯車が次第に狂っていきます・・・。【レビュー・解説】圧倒的な歌唱力で音楽シーンの頂点に上り詰め、大きな社会的影響を生みながらも、ドラッグにまみれ、無念の死を遂げたホイットニー・ヒューストンの真実にケヴィン・マクドナルド監督が迫る、充実のドキュメンタリーです。圧倒的な歌唱力で上り詰めるも無念の死を遂げた大歌手のドキュメンタリー頂点に上り詰める前半、暗転する後半ホイットニー・ヒューストンは自分の曲を書くこともなく、歌唱力だけで勝負しました。7曲連続で全米シングルチャート1位の記録を記録するなど、圧倒的な歌唱力で音楽シーンをリードするだけではなく、1991年のスーパーボールでの歴史に残るアメリカ国歌斉唱が熱狂的に支持され、映画「ボディガード」(1992年)の主演とサウンドトラックで世界的に成功し、1994年にアパルトヘイト廃止後の南アフリカで初の大規模コンサート行うなど、ホイットニーは社会に大きなインパクトを与えました。しかし、R&B歌手のボビー・ブラウンと結婚し、一人娘のボビー・クリスティーナを出産して以降、彼女の人生は徐々に暗転していきます。本作の前半ではホイットニーが頂点に上り詰めるまでを、後半ではボビー・ブラウンとの結婚生活が破綻、ドラッグに溺れ、復帰に苦戦する中、ホテルの浴槽で溺死体で発見されるまでを描いています。時代の最先端を颯爽と走ったホイットニー1980年代から90年代のアメリカは、ロス・アンジェルス暴動など、根強く残る人種問題男女平等運動の中産階級白人から下層有色人種への広がり社会進出する女性の急増児童に対する性的虐待の頻発などが社会的なテーマとなっていました。そんな中、圧倒的な歌唱力を携えて彗星のごとく現れたホイットニーは、アフリカ系アメリカ人特有のソウルではなく、ポップスで幅広い人々を魅了します。美人だけど威圧的なところのない彼女は、可愛らしく親しみやすいタイプで、多くの白人男性を魅了した最初のアフリカ系アメリカ人のスターとなりました。それは、当時のアメリカが抱えた様々なテーマを軽々とクリアしたかのようでした。彼女が音楽シーンを席巻するだけではなく、自演するかのようにスター歌手を演じ、白人のボディーガードに身を守らせ、白人と恋に落ちてみせた映画「ボディガード」は、まさに時代の最先端を走る作品だったと言えます。 成功が破綻の契機になる皮肉映画「はじまりのうた」(2013年)で芸術の同じ分野で一緒に働くカップルに焦点を当て、一方だけが成功したら何が起きるのか、成功が信頼関係をどう揺るがすのかを描いたジョン・カーニー監督は、自らもミュージシャンとしてそのようなカップルを数多く見てきたと言います。本作で描かれているホイットニーと夫ボビーの関係が破綻する契機も、ホイットニー主演の映画「ボディガード」(1992年)とそのサウンドトラックの世界的な大成功でした。これが、ボビーが決して追いつけないほどの格をホイットニーに与えてしまい、二人の関係が破綻し始めます。一人娘のクリスティーナが生まれた頃からボビーの浮気やDVが始まり、二人はドラッグに溺れ、共依存の関係に落ちていきます。ホイットニーを追い詰めた要因に迫る夫ボビーと釣り合いの取れないホイットニーの大きな成功が、彼女が辿った悲劇の契機であることに間違いはなく、ケヴィン・マクドナルド監督もその点はしっかりと押さえています。しかし、アーティストのカップルのどちらか一方が成功すれば、ドラッグにまみれて無念の死を迎えることになるかと言えば、必ずしもそうではありません。人間の成否や生死というのは、それほど単純ではないでしょう。ケヴィン・マクドナルド監督は、75人、1人最多3回にも及ぶインタビューと、膨大な記録映像から精選されたカットで本作を構成しながら、ホイットニーと彼女を取り巻く環境を様々な視点からあぶり出しています。それは観る者に、幼少時に受けた性的虐待がトラウマとなり、薬物依存を加速した彼女の仕事がファミリー・ビジネス化し、意見できる家族がいなかった家族との軋轢により、心の支えだったガールフレンドのロビンと関係を断った愛する父がホイットニーの金を着服、父との関係を断ち、より孤独になった愛する父に損害賠償請求の訴訟を起こされ、父の死に目にも会わなかった音楽と私生活が完全に分離しており、彼女の葛藤が支持者に伝わらなかった彼女のポップ・プリンセスのイメージととジャンキーのギャップが反発を招いたすべて彼女自身や母が決め、プロによるキャリア・デザインの支援がなかったレコード会社は復帰を辛抱強く待ったが、積極的に手を貸すことはなかったリハビリ費用を捻出する為に、声を取り戻せないまま世界ツァーに出た誰もそれを止めることができず、観客を落胆させた彼女は歌手生命を絶たれたといった、彼女を追い詰めた様々な要因を示唆しています。落ちた偶像の末路こうして見てくると、類いまれな歌唱力で音楽シーンをリードするだけではなく、社会的にポジティブなインパクトまでもたらした彼女が、いざ、ドラッグでつまずくと、周囲の理解も支援を全く得られないという、寒々とした現実が浮かび上がってきます。アフリカ系アメリカ人特有のソウルではなく、白人に好まれるポップスを歌うホイットニーを、一部の人がホワイトニー(白い)と皮肉るなど、実は当初から反発の兆候はあったのかもしれません。人種問題など、1980年代から90年代のアメリカが抱えた様々な問題を一挙にクリアしたように見えた彼女ですが、それは時代の人々が見たかった夢に過ぎず、化けの皮が剥がれ、単なるジャンキーに成り下がった彼女に誰も目もくれませんでした。何故なら、ジャンキーになった彼女は人々が見たいものではなかったからに他なりません。エンタメ要素、ゴシップ要素を併せ持つ本作ですが、こうした社会性を感じさせるあたり、アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した「ブラック・セプテンバー〜ミュンヘン・テロ事件の真実〜」(1999年)などのドキュメンタリー映画や、「ラストキング・オブ・スコットランド」(2006年)などの社会派ドラマを数多く手掛けるケヴィン・マクドナルド監督ならではの手腕と言えます。余談:アメリカ国歌斉唱ベスト5ホイットニー・ヒューストンの歌唱力は素晴らしく、特にポップス・ファンでもない私でも「ザ・グレイテスト・ヒッツ」(2000年)や「アルティメイト・ホイットニー」(2008年)などのベストアルバムを持っているほどですが、そんな私を何よりも強く印象づけたのは YouTube で見た1991年のスーパーボウルでのアメリカ国歌斉唱です。フットボールやバスケットボールなど、アメリカではショーアップされた開会式でビッグアーティストがアメリカ国歌を斉唱する機会が多く、時にアメリカ空軍機による編隊飛行などの演出も加わるなど、とても見応えがあります。私はそんなアメリカ国歌斉唱のちょっとしたマニア(?)なのですが、本作にも挿入されているホイットニーのアメリカ国歌斉唱は間違いなく歴代トップで、30年近く経った今も彼女を超えるアメリカ国歌斉唱がありません。そこで、この機会を捉えて私の独断と偏見で歴代のアメリカ国歌斉唱は歴代ベスト5を挙げてみました。なお、リンク先はいずれもYouTubeです。ホイットニー・ヒューストン(1991年)湾岸戦争の最中に開催された1991年のスーパーボールの開会式で歌われたもので、アメリカ国歌斉唱のあり方を変えたと言われる、自由で誇らしく、力強い名唱です。湾岸戦争で戦った兵士とその家族の為のチャリティー・ソングとしてシングル盤がリリースされます。さらにその10年後、2001年9月11日の同時多発テロの際にはラジオ番組が繰返してこの曲を流し、テロの犠牲になった人達の為にチャリティー・ソングとしてシングル盤が再リリースされ、アメリカ国家ととして異例のビルボートのランキングでトップ10入り(最高6位)を果たします。まさに、時代を超えて愛され、今も色褪せることのない名称です。レディ・ガガ(2016年)長い間、ホイットニーに続く感動的なアメリカ国家の歌い手は見つかりませんでしたが、見事、レディ・ガガがホイットニーに迫る名唱を披露しました。ホイットニーの影響を受けているという分析もありますが、非常に勢いのあるホイットニーに対してレディ・ガガは女性らしく丁寧に、高い完成度で歌いあげている印象です。マーヴィン・ゲイ(1984年)ホイットニーは自身のアメリカ国歌斉唱に先駆け、マーヴィン・ゲイの自由なこのパフォーマンスを好んでいたと言われます。アメリカ国歌斉唱の歴史を塗り替えてと言われるホイットニーのパフォーマンスのルーツは、ここにあったと言って良いかもしれません。すでに1984年に、これほど自由で完成度の高いアメリカ国歌斉唱が存在したことは驚きです。ビヨンセ(2004年)冒頭、若干の堅さを感じるが、それを力で乗り切り、感動的なエンディングに持ち込む技量が素晴らしい。元気印の彼女の人柄を感じさせるパフォーマンスです。マライア・キャリー(2002年)ホイットニーやビヨンセとは対照的なパフォーマンスです。「ホイットニーは、兵士たちが戦地に赴き、国の為に名誉の戦死をするかのように歌った。マライアは、長い戦いの末に勝利を収めて休息を得る、血なまぐさい戦争の後の故郷への凱旋のように歌った。」とのコメントがYouTubeに寄せられていますが、まさに言い得て妙です。番外:デスティニー・チャイルド(2006年)2005年に解散したディスティー・チャイルドが、この日の為に一日だけ再結成されて行われたパフォーマンス。女性三人による何ともゴージャスなパフォーマンスで、終盤の「はぁ〜♡」がご愛嬌だが、さすが実力派グループだけあって、しっかりと締めています。アメリカは単に自由なだけではなく、表現の質が非常に高い国であることを実感するパフォーマンスです。番外:ビヨンセ記者会見でアメリカ国歌を斉唱(2013年)2013年1月のオバマ大統領の2期目の就任式で、国歌斉唱を口パクしたという疑惑がかけられたビヨンセは、沈黙を守り続け、2月に開催されるスーパーボウルのハーフタイムショーの準備に力を注いでいました。月末に行われたスーパーボウルの記者会見で、登壇したビヨンセは記者たちに起立を求め、いきなりアカペラで国歌を斉唱しました。感動する記者たちに「何か、ご質問は?」と言い放った、伝説の記者会見です。ディスティー・チャイルドを含めると、ビヨンセは三度も登場していますが、その幅広い話題の提供の仕方は、さすが天性のエンターテイナーです。番外:アメリカの陸海空各兵学校の合唱団による合唱(2005年)ホイットニーの国歌斉唱では3/4拍子が4/4拍子に編曲されるなど、ビッグアーティストが歌うアメリカ国家は様々なアレンジがされることが多いですがが、オリジナルが十分魅力的であることを示す名演奏です。【付録:ホイットニー・ヒューストンの年表】1963年ニュージャージー州ニューアークで生まれる。 幼い頃に教会の聖歌隊に加わり、ゴスペルを学び、11歳でソリストとして活躍する。 10代の頃からモデルとして活動、バックボーカルなども務める。1983年敏腕プロデューサーのクライヴ・デイヴィスの目にとまり、アリスタ・レコードと契約する。1985年デビューアルバム「そよ風の贈りもの」をリリースし、爆発的人気を得る。 2作目のシングル「すべてをあなたに」から7曲連続で全米シングルチャート1位を記録する。1987年2枚目のアルバム「ホイットニーII〜すてきなSomebody」をリリースする。1991年スーパーボウルでアメリカ国歌を斉唱、史上最高と絶賛され、シングルがリリースされる。1992年ケビン・コスナーと共演した初主演映画「ボディガード」が公開され、大成功を収める。 サウンドトラックは全世界で4,200万枚を売り上げる驚異的なヒットとなる。 「オールウェイズ・ラヴ・ユー」は全米シングルチャートで14週連続No.1を記録する。 R&B歌手、ボビー・ブラウンと結婚する。1993年一人娘ボビー・クリスティーナ・ブラウンを出産する。1994年アパルトヘイト廃止後の南アフリカでスター歌手初の大規模コンサート行う。1995年主演映画「ため息つかせて」が公開される。1996年主演映画「天使の贈り物」が公開される。1998年7年ぶりのオリジナルアルバム「マイ・ラヴ・イズ・ユア・ラヴ」をリリースする。2000年ベスト・アルバムを発売する。ハワイの空港で大麻所持で拘束される。 大麻やコカイン等で健康を害し、夫が暴行等で幾度も逮捕されるなど、ゴシップが続く。2001年映画「プリティ・プリンセス」の音楽製作に携わる。 9.11同時多発テロのチャリティで、1991年のアメリカ国歌のシングルが再リリースされる。2002年テレビのインタビューでドラッグ依存を告白する。2004年リハビリに取り組む。2006年夫ボビー・ブラウンとの離婚が成立。2008年ニュー・アルバムのリリースを発表するも延期される。2009年アルバム「アイ・ルック・トゥ・ユー」がリリースされる。 1週目で30万枚以上を売り上げビルボード200の初登場1位を獲得、復活を果たす。2010年ワールドツアーを行うも、息切れしたり、呼吸器感染症で入院するなどのトラブルが続く。2011年アルコール・薬物依存からの復帰プログラムを再開する。2011年映画「マイケル・ジャクソン ライフ・オブ・アイコン 想い出をあつめて」に出演する。2012年破産寸前と報じられる。ビバリーヒルトン・ホテルの浴槽の中に倒れた状態で発見され、死亡が確認される。入浴中にコカインの影響で心臓発作を起こし溺死した可能性が高いと発表される。遺作となった映画「スパークル」が公開される。2015年一人娘のクリスティーナが自宅の浴槽で意識不明の状態で発見される。 一時、意識回復とも報じられたが、半年後に生命維持装置が外され、死亡が確認された。 死因は、麻薬による酔いと溺水による肺炎および脳の損傷と発表された。【撮影地(YouTube)】ニュー・ジャージーのホイットニーの家ホイットニーが亡くなったビバリー・ヒルトン・ホテルホイットニー縁のニューホープ・バプテスト教会ホイットニーはバプテスト派のクリスチャンとして育てられ、幼い頃からこの教会の子ども聖歌隊で歌っていた。葬儀もこの教会で行われた。 「ホイットニー 〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜」のDVD(楽天市場)【関連作品】ケヴィン・マクドナルド監督作品のDVD(楽天市場) 「運命を分けたザイル」(2003年) 「ラストキング・オブ・スコットランド」(2006年) 「消されたヘッドライン」(2009年) 「LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語」(2011年) 「ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド」(2012年) 「ブラック・シー」(2014年)ホイットニー・ヒューストン出演作品のDVD(楽天市場) 「ボディガード」(1992年) 「ため息つかせて」(1995年)「天使の贈り物」(1995年) 「ホイットニー・ヒューストン/スパークル」(2012年) 「ホイットニー:本当の自分でいさせて」(2017年)ホイットニー・ヒューストンの主なアルバム(楽天市場) 「そよ風の贈りもの」(1985年) 「ホイットニーII〜すてきなSomebody」(1987年) 「アイム・ユア・ベイビー・トゥナイト」(1990年) 「ボディガード」オリジナル・サウンドトラック(1992年) 「ため息つかせて」オリジナル・サウンドトラック(1995年) 「天使の贈り物」オリジナル・サウンドトラック(1996年) 「マイ・ラヴ・イズ・ユア・ラヴ」(1998年) 「ザ・グレイテスト・ヒッツ」(2000年) 「Love, Whitney~ラヴ・ソング・コレクション~」(2001年) 「ジャスト・ホイットニー」(2002年) 「ワン・ウィッシュ:ジ・ホリデイ・アルバム」(2003年) 「アルティメイト・ホイットニー」(2008年):コンピレーション・アルバム 「アイ・ルック・トゥ・ユー」(2009年)ドラッグやアルコールが原因で夭逝したミュージシャンの映画のDVD(楽天市場) 「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」(2009年) 「AMY エイミー」(2015年) 「ブルーに生まれついて」(2015年)
2019年12月13日
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「ブラック・クランズマン」(原題:BlacKkKlansman)は、2018年公開のアメリカの伝記&クライム・サスペンス映画です。ロン・ストールワースの回顧録「ブラック・クランズマン」を原作に、スパイク・リー監督、デンゼル・ワシントンの長男ジョン・デヴィッド・ワシントンが映画初主演、アダム・ドライバーらの共演で、1970年代のアメリカのコロラド・スプリングズでアフリカ系アメリカ人初の市警巡査となったロンが、白人至上主義を掲げる過激派団体クー・クラックス・クラン(KKK)の地方支部への潜入捜査を始め、活動内容や極秘計画を暴く様を描いています。第71回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞、第91回アカデミー賞では、作品、監督、助演男優を含む6つの賞にノミネートされ、脚色賞を受賞した作品です。 「ブラック・クランズマン」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:スパイク・リー脚本:スパイク・リー/デヴィッド・ラビノウィッツ/ケヴィン・ウィルモット /チャーリー・ワクテル原作:ロン・ストールワース著「ブラック・クランズマン」出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン(ロン・ストールワース刑事) アダム・ドライバー(フィリップ・"フリップ"・ジマーマン刑事) トファー・グレイス(デビッド・デューク) コーリー・ホーキンズ(クワメ・トゥーレ) ローラ・ハリアー(パトリス・デュマス) ライアン・エッゴールド(ウォルター・ブリーチウェイ) ヤスペル・ペーコネン(フェリックス・ケンドリックソン) ポール・ウォルター・ハウザー(アイヴァンホー) アシュリー・アトキンソン(コニー・ケンドリックソン) アレック・ボールドウィン(ボーリガード博士/ナレーター - ) ハリー・ベラフォンテ(ジェローム・ターナー) ロバート・ジョン・バーク(ブリッジス署長) マムズ・ダ・スキーマー(ジャッボ) ダマリス・ルイス(オデッタ) ほか【あらすじ】人種差別が色濃く残る1972年、ロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)はコロラド・スプリングズの警察署でアフリカ系アメリカ人として初めて警察官に採用されます。彼は事件捜査を希望していましたが、書類管理担当に配属されます。潜入捜査官になりたいと署長に直訴した彼は、元ブラック・パンサー党のクワメ・トゥーレ(コーリー・ホーキンズ)の講演会への潜入操作を指示されます。その後、情報部に配属されたロンは、過激な白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)の新しい支部の構成員を募集する新聞広告を見つけます。白人の差別主義者に成りすまして電話接触に成功したロンは、気に入られてそのまま面接の約束を取り付けます。彼は同僚の白人警官フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)を潜入役にし、自らは電話交渉担当として二人一役でロンを演じることにします。ロンとフリップはKKKの構成員として認められ、潜入捜査を続けます。ロンとフリップの潜入はうまく行き、KKKの最高幹部を務めていたデビッド・デューク(トファー・グレイス)も完全に騙され、ロンとフリップはKKKの支部長に昇格します・・・。【レビュー・解説】70年代のコロラド州を舞台に、白人至上主義の秘密結社 KKK への潜入捜査を通じて、現代に通じる人種差別をコメディ要素を交えながらテンポ良くスリリングに描き出し、衝撃的なエンディングが強烈なメッセージを突きつける、娯楽性とメッセージ性がハイレベルで融合した、実話に基づく上質のクライム・サスペンス映画です。娯楽性とメッセージ性が融合した、実話に基づく上質のクライム・サスペンス映画奇想天外な実話をパワフルに脚色アメリカの白人至上主義の秘密結社KKK(クー・クラックス・クラン)をアフリカ系アメリカ人の刑事が潜入捜査するという奇想天外な話ですが、なんと実話に基づいた話です。原作者のロン・ストールワースは、コロラド・スプリングス警察が1978年に初めて採用したアフリカ系アメリカ人の刑事で、かつ警察署創設以来最年少の刑事でした。調査部のデスクでKKKの新聞広告を見た彼は、白人になりすましてメモを送り、電話接触に成功、潜入捜査が始まりました。さすがに肌の色は隠せない為、電話での応対はロン自身、KKKと会うのは同僚の白人刑事と、二人一役の潜入捜査でしたが、それにしても痛快な話です。後年、警察署を退職したロンは、回顧録「ブラック・クランズマン」を執筆します。ハリウッドはすぐに映画化の権利を獲得、「ゲット・アウト」(2017年)の監督・脚本・製作で知られるジョーダン・ピールが製作に加わり、この話を映画するには彼以外にいないと脚本をスパイク・リー監督に持ち込みます。ロンとその回顧録について全く知らなかったスパイク・リー監督ですが、奇想天外な実話を見逃すわけにいかないと、コメディの要素を入れること現代の人種問題と並行して描くことを条件に本作の監督を引き受けました。原作の回顧録は淡々としたものですが、人種問題を扱うインディーズ作品を数多く手掛ける一方で、「インサイド・マン」(2006年)などエンタメ作品を商業的に大成功させているスパイク・リー監督は、本作に見違えるようなパワーを与えています。スパイク・リー監督は、舞台を原作の1979年から1972年に移し、1960年代後半のブラック・パワー運動やブラック・イズ・ビューティフル運動の影響を受けた当時の典型的なアフリカ系アメリカ人像の描き出すとともに、KKKが支持したであろうリチャード・ニクソンの大統領選に重ね合わせています。現代的でトレンディなドラマにしたかったというスパイク・リー監督は、本作の為に原作には登場しない架空の女性パトリスを創造、娯楽作品としての魅力を大きく高める一方で、白人至上主義や極右団体が台頭する現在をなぞりながら、今日に通じる気違いじみた世界を時にコミカルに、時にシリアスに描き出しています。また、これはもちろん本作の脚本にはなかったことですが、撮影開始直前の2017年8月にシャーロッツヴィルに集結した白人至上主義者や極右団体を巡ってこれに反発する勢力との衝突が起き、犠牲者が出てしまいます。皮肉なことに、これが本作の社会的な位置づけをより強固なものにしてしまいます。本作の撮影開始後、スパイク・リー監督はシャーロッツヴィルの暴動の犠牲者ヘザー・ヘイヤーの母親に使用許可をもらい、本作のエンディングに事件の記録映像が使用されています。この映像は、当初から現代の人種問題と並行して描かれていた本作の視点にすんなりとフィットし、挿入することの是非に関する議論は全くなかったと言います。カンヌ映画祭審査委員長のケイト・ブランシェットは、「ブラック・クランズマン」はアメリカの危機の本質と喝破しましたが、極右勢力の台頭はアメリカに限った話ではなく、欧州など極右勢力が台頭する国々に共通する危機と言えます。テロさながらの様相を呈したシャーロッツヴィルの暴動巧みな構成と随所に埋め込まれた「本物」本作は、「南部連合をお救いください」という台詞ともに南軍旗が大写しされる名画「風と共に去りぬ」(1939年)の1シーンで始まります。「風と共に去りぬ」は、マーガレット・ミッチェルの長編時代小説を原作に、絶頂にあったアメリカ南部白人たちの貴族文化的な社会が南北戦争という風と共に消えて行く姿を描いたもので、名作でありながら、南部白人の視点からのみ描かれた作品である奴隷制度を正当化し、白人農園主を美化しているアフリカ系アメリカ人の奴隷が同情的に描写されている白人至上主義団体KKKを肯定しているなどといった点が、批判に晒されている作品でもあります。また、本作に引用されたカットで大写しにされる南軍旗にはもともと人種差別的な意味合いはありませんでしたが、後年、白人至上主義団体のKKKなどが集会でこの旗を多用したことから人種差別の象徴的な意味合いが強まり、南北戦争集結から150年も経った今、南軍旗を公的な場所から撤去する動きが南部諸州で広がっています。冒頭、「風と共に去りぬ」の1カットで大写しされる南軍旗白人至上主義団体のKKKなどが集会で南軍旗を多用したことから人種差別の象徴的な意味合いが強まり、南北戦争集結から150年も経った今、南軍旗を公的な場所から撤去する動きが南部諸州で広がっている。続いて、アレック・ボールドウィン扮する架空の白人至上主義者ケネブルー・ボーリガード博士の、記録映像風のクリップが流れます。実は「風と共に去りぬ」やこの記録映像のクリップは、エンディングのシャーロッツヴィルのドキュメント映像と対をなしており、強いメッセージ性を持っています。特に、エンディングに映し出される上下が逆さまのアメリカ国旗は、政治的抗議や心痛の象徴であり、冒頭の南軍旗と強烈な対照をなしています。また、劇中に、Black Power/Black is beautiful 訴えるクワメ・トゥーレのスピーチアフロ・ヘアーで歌い踊るディスコ・ダンスハリー・ベラフォンテが語るジェシー・ワシントン・リンチ事件など、随所に「本物」が埋め込まれているのも本作の特徴です(「動画クリップ(YouTube)」の項を参照)。クワメ・トゥーレのスピーチやアフロ・ヘアーで歌い踊るディスコ・ダンスが時代の精神を端的に伝えるだけではなく、ジェシー・ワシントン・リンチ事件を語るハリー・ベラフォンテと KKK の集会とのクロスカッティングのシーンは、スリリングな臨場感、緊張感を醸し出しています。これらは記録映像ではありませんが、ある意味、記録映像以上に当時の時代の精神を伝えるものです。娯楽作品でありながら強いメッセージが埋め込まれた作品、強いメッセージが埋め込まれながらもさらりとまとめられた娯楽作品、娯楽性とメッセージ性がこれほどまでに巧みに融合した作品は稀有でしょう。エンディングに映し出される上下が逆さまのアメリカ国旗エンディングに映し出される上下が逆さまのアメリカ国旗は、政治的抗議や心痛の象徴であり、人種差別の象徴的な意味合いが強い冒頭の南軍旗と強烈な対照をなしている。因みに、本作には編集段階で削除されたシーンがありません。これは業界では極めて珍しいことですが、インディーズ畑で長く無駄のない作品作りをしてきたスパイク・リー監督ならではの職人技でしょう。ブラック・パワー/ブラック・イズ・ビューティフルクワメ・トゥーレが本作で言及する「ブラック・パワー」は、1966年にアメリカの学生非暴力調整委員会のストークリー・カーマイケル委員長(クワメ・トゥーレ)が唱え、黒人大衆に浸透した概念です。アフリカ系アメリカ人が白人と平等の立場に立つためには,経済的,社会的権力を獲得しなければならず、そのためには自衛や自己解放のためには暴力をも辞さないという思想でした。民族的回帰運動でもあるこの思想は、その一方で大衆にアフリカ系アメリカ人としての尊厳を自覚させ、「ブラック・イズ・ビューティフル」というスローガンを生み出しました。これは白人的な価値観の下、自ら否定してきたアフリカ系アメリカ人の人種的特徴を逆に「らしさ」として強調し、彼らの民族的アイデンティティーを主張するもので、その表現のひとつとしてアフロ・ヘアーという髪型が生み出されました。ブラック・パワー、ブラック・イズ・ビューティフルという言葉を聞いたことがある人は少なくないと思われますが、本作のクワメ・トゥーレのスピーチやディスコ・ダンスを通してその意味を肌で感じることができます。クワメ・トゥーレのスピーチ(一部)KWAME TURE: It is time for you to understand that you as The growing Intellectuals of this Country, you must define Beauty for Black People, Now that's Black Power. Is Beauty defined by someone with a Narrow Nose? Thin Lips? White Skin? Hell no. You ain't got none of that. Our Lips are Thick, Our Nose is Broad, Our Hair is Nappy, We are Black and We are Beautiful!今こそ理解する時だ。君たち、高等教育を受ける君たちが、黒人の美を定義すべきなんだ。それがブラック・パワーだ。細い鼻の者に黒人の美を定義させるのか?薄い唇の者に?白い肌の者に?あり得ない。君たちは違う。私達の唇は厚く、鼻は広く、髪は縮れている。私達は黒人で、私達は美しいのだ。「動画クリップ(YouTube)」の項に挙げた劇中のスピーチは、クワメ・トゥーレが1967年にモルガン州立大学で実際に行った講演から引用、再構成したものと思われますが、我々がよく聞くブラック・パワー、ブラック・イズ・ビューティフル、アフロヘアーという言葉が、実際に何を意味しているのか、このスピーチに端的に濃縮されています。ジョン・デヴィッド・ワシントン(ロン・ストールワース刑事)ジョン・デヴィッド・ワシントン(1984年〜)は、ロサンゼルス出身のアメリカの元アメリカンフットボール選手、俳優。俳優デンゼル・ワシントンの長男。9歳の時に、父デンゼル主演のスパイク・リー監督の映画「マルコムX」に端役で出演する。フットボールの特待生として学費全額免除で大学に通った後、2012年までプロアメリカンフットボール選手として活躍。引退後、本格的に俳優業を始め、2015年からアメリカンフットボールを題材にしたテレビドラマに出演、本作で主役をを演じて注目される。「Monsters and Men」(2018年)などに出演している。アダム・ドライバー(フィリップ・"フリップ"・ジマーマン刑事)アダム・ドライバー(1983年〜)は、サンディエゴ出身のアメリカの俳優。TVドラマシリーズ「GIRLS/ガールズ」に主人公の恋人役で出演、2013年〜2015年にエミー賞にノミネートをされる。「リンカーン」(2012年)、「フランシス・ハ」(2012年)、「奇跡の2000マイル」(2013年)、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年)、「ヤング・アダルト・ニューヨーク」(2014年)、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年)、「沈黙 -サイレンス-」(2016年)、「ミッドナイト・スペシャル」(2016年)、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年)、「マリッジ・ストーリー」(2019年)と高評価の作品に出演し続けている。観察力、対応力に優れ、役になりきって演じるが、自分が出演した映画を観ることはないと言う、分析よりも直感を重視する俳優。本作でアカデミー助演男優賞にノミネートされている。ローラ・ハリアー(パトリス・デュマス)ローラ・ルース・ハリアー(1990年〜)は、シカゴ出身のアメリカの女優、モデル。2013年にソープオペラへの出演でテレビドラマ・デビュー、「スパイダーマン:ホームカミング」(2017年)のマドンナ役で映画デビューを果たす。【サウンドトラック】 「ブラック・クランズマン」のサウンドトラックCD(楽天市場) 01. Gone With The Wind 02. Hatred At Its Best 03. Main Theme 04. Ron's Theme 05. Firing Range 06. No Cross Burning Tonight 07. Patrice Library 08. Ron Meets FBI Agent 09. Connie and the Bomb 10. Guarding David Duke 11. Tale Of Two Powers 1 12. Tale Of Two Powers 213. Tale Of Two Powers 3 14. Woodrow Wilson 15. Klan Cavalry 16. Ron's Search 17. Patrice Followed 18. Here Comes Ron 19. White Power Theme 20. Partner Funk Theme 21. Main Theme- Ron 22. Blut Und Boden (Blood and Soil) 23. Photo Opps【動画クリップ(YouTube)】クワメ・トゥーレのスピーチ〜「ブラック・クランズマン」ディスコ・シーン〜「ブラック・クランズマン」ハリー・ベラフォンテが語るジェシー・ワシントン・リンチ事件〜「ブラック・クランズマン」KKKの集会とのクロスカッティングが臨場感、緊張感を醸し出している。ハリー・ベラフォンテ「バナナ・ボート」ハリー・ベラフォンテ(1927年〜)は、アメリカの歌手、俳優、社会活動家。「バナナ・ボート」などのヒット曲や、「ウィ・アー・ザ・ワールド」を送りだした「USA・フォー・アフリカ」の提唱者として知られる。プリンス「Mary Don't You Weep」1983年にプリンスがピアノを弾き語りをカセット・テープに録音した、未公開音源を使用している。ゴスペル・ソングで、プリンスのオリジナル曲ではない。試写会の際にプリンス財団からオファーがあり、本作のでの使用が実現した。エンド・クレジットで、シャーロットヴィルの暴動で亡くなったヘザー・ヘイヤーに捧げる鎮魂歌のような構成で使用されている。【撮影地(グーグルマップ)】ロンのKKK入会式の会場パトリスの家2017年にシャーロッツヴィルで起きた自動車突入事件の現場通りに犠牲者のヘザー・ヘイヤーさん(当時22歳)の名前がつけられている 「ブラック・クランズマン」のDVD(楽天市場)【関連作品】「ブラック・クランズマン」の原作本(楽天市場) ロン・ストールワース著「ブラック・クランズマン」本作に引用されている作品のDVD(楽天市場) 「國民の創生」(1915年) 「風と共に去りぬ」(1939年)スパイク・リー監督xジョン・デヴィッド・ワシントンのコラボ作品(楽天市場) 「マルコムX 」(1992年)監督・脚本・出演スパイク・リー監督作品のDVD(楽天市場) 「ドゥ・ザ・ライト・シング」(1989年)監督・脚本・製作・出演 「ジャングル・フィーバー」(1991年)監督・脚本・製作・出演 「ゲット・オン・ザ・バス」(1996年)監督・製作総指揮 「ラストゲーム」(1998年)監督・脚本・製作 「キング・オブ・コメディ」(2000年)監督・脚本・製作 「インサイド・マン」(2006年)監督・脚本・製作 「シャイラク」(2015年)監督・脚本・製作、輸入盤、日本語なしジョン・デヴィッド・ワシントン出演作品のDVD(楽天市場) 「Monsters and Men」(2018年)アダム・ドライバー出演作品のDVD(楽天市場) 「リンカーン」(2012年) 「フランシス・ハ」(2012年) 「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年) 「奇跡の2000マイル」(2013年) 「ヤング・アダルト・ニューヨーク」(2014年) 「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年) 「沈黙 -サイレンス-」(2016年) 「ミッドナイト・スペシャル」(2016年) 「パターソン Paterson」(2016年)「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年)「ローガン・ラッキー」(2017年)ローラ・ハリアー出演作品のDVD(Amazon)「スパイダーマン:ホームカミング」(2017年)
2019年12月04日
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「迫り来る嵐」(原題:暴雪将至、英題:The Looming Storm)は、2017年公開の中国の社会派クライム・サスペンス映画です。本作で長編デビューを果たしたドン・ユエ監督・脚本、ドアン・イーホン(段奕宏)、ジャン・イーイェン(江一燕)ら出演で、1990年代後半から2000年代後半にかけて社会・経済が急成長、激変する中国を背景に、連続殺人事件の捜査に心を奪われる国営製鋼所の警備課職員の運命と愛の行方を描いています。2017年の東京国際映画祭で最優秀男優賞(ドアン・イーホン)と芸術貢献賞をダブル受賞、翌2018年のアジア・フィルム・アワードで新人監督賞を受賞した作品です。 「迫り来る嵐」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ドン・ユエ(董越)脚本:ドン・ユエ(董越)出演:ドアン・イーホン(段奕宏)/ユィ・グオウェイ ジャン・イーイェン(江一燕)/イェンズ トゥ・ユアン(杜源)/ジャン警部 チェン・チュウイー(鄭楚一)/リー警官 ほか【あらすじ】1997年。中国の小さな町の古い国営製鋼所の保安部で警備員をしているユィ・グオウェイ(ドアン・イーホン/段奕宏)は、泥棒の検挙で実績を上げています。そんな中、ユィは近所で起きている若い女性の連続殺人事件の捜査に刑事気取りで首を突っ込み始めます。ジャン警部(トゥ・ユアン/杜源)から捜査情報を手にいれたユィは、自ら犯人を捕まえようと奔走、死体が発見される度に事件に執着していきます。 ある日、恋人のイェンズ(ジャン・イーイェン/江一燕)が犠牲者のひとりに似ていることを知ったユィの行動によって、事態は思わぬ方向に展開していきます・・・。【レビュー・解説】劇的な経済成長を遂げた中国の現代史と思想の変遷を背景に、高い映像クォリティで描かれた中国では珍しい社会派クライム・サスペンスです。高い映像クォリティで描かれた、中国では珍しい社会派クライム・サスペンス意外に観ることがない中国映画中国はここ二十年〜三十年で、他に類を見ないほど大きく変化しました。貧しい社会主義国家がGDP世界第二位、トップのアメリカに急追する経済大国となりました。このように社会が激変すると様々な社会的な歪が出てくるので、映画の背景として格好の題材となります。しかし、中国の映画市場は米国に次ぐ世界第二位の規模を誇り、米国を追い抜くのも時間の問題と言われているのにもかかわらず、私が中国映画を観る機会はとても少ないです。当ブログで書いた中国映画のレビューは「人魚姫」(2016年)ただ一本のみ、それも香港と中国の合作で、どちらかというと香港色が濃い作品です。決して、中国映画を毛嫌いしているわけではなく、むしろ、インド映画のように面白い作品がたくさんあるはずだと思っているのですが、どうも網に引っかかって来ません。「アイ・ウェイウェイは謝らない」(2012年)などたまに興味を惹くものがあっても、中国を題材にしたアメリカのドキュメンタリー映画だったりします。こうした背景には、最近の中国映画には私の興味をあまりそそらない時代劇や任侠ものが多い軽めのコメディを好む中国の観客には、社会問題を扱う作品があまりウケない天安門事件が歴史から消えてなど、中国には検閲があり、社会背景を絡めたドラマを作りにくいといった事情があるのではないかと思います。因みに、イランでも検閲がある為、直接的な社会批判ができませんが、それが逆に比喩的な芸術表現を発展させたと言います。検閲がなく、ダイレクトに社会背景が楽しめるのがベストですが、中国の映画人にも、是非、比喩的な表現で頑張ってほしいと思います。クライム・サスペンスの顔をした社会派ドラマ本作はクライム・サスペンスを体裁を採っており、最初の脚本では犯人が捕まり、犯行動機も描かれていました。しかし、中国西北地方の小さな炭鉱町が荒廃し、廃れていく姿に触発されて本作の制作を思い立ったというドン・ユエ監督は、ありきたりのサスペンスでは満足できず、むしろ悲劇を生んだ社会環境に注目、終いには犯人はどうでも良くなってしまったと言います。因みに、本作のタイトル、「迫り来る嵐」(原題:暴雪将至)には、本作の終盤の舞台である2008年に暴雪(ブリザード)が多かったこと急激な中国社会の変化が、ブリザードのような波乱をもたらすことという二つの意味が重ね合わされており、社会の変化がもたらす漠然とした不安感が象徴的に表現されています。本作が長編映画デビューのドン・ユエ監督は、これまでに撮影監督やCFの監督として経験を積んでおり、本作では雨のシーンを多用し、高い映像クォリティで時代の不安感を象徴的に表現することに成功しています。さり気なく描かれる中国の現代史と思想の変遷本作の主人公、ユィ・グオウェイは国営の製鋼工場の警備課の職員です。仕事がら、工場の近くで起きた殺人事件に興味を持ちやすい立場にありますが、ごく普通の中国人です。序盤、彼は模範工員として表彰されますが、当時の中国人なら誰もがこうした表彰に憧れたものでした。当時の社会主義下の中国では、人々は豊かさよりも「特権」に憧れました。彼の表彰を祝う飲み会で彼は公安局(民事警察)への昇職を勧められますが、警備課長になって警棒を持つ特権を得たばかりの彼は現状に満足しており、工場の近くで起きた殺人事件にもそのままの立場で関与したいと考えていました。因みに、彼が「素晴らしい人生を送り、熱い情熱で新世紀を堂々と迎えます」と受賞のスピーチをする際に機械の故障で天井から雪のようなものが舞い降りてくるのは、やがて彼に降りかかる嵐を暗示する、手の込んだ演出です。「香港に簡単に行けるようになると思う?」という主人公の恋人、イェンズの台詞が劇中にありますが、本作の最初の舞台の1997年は香港が中国に返還された年です。当時の社会主義下の中国人にとって香港は遥か遠い場所で、高度な資本主義と物質主義に満たされた別世界でした。そんな別世界が中国に返還されることは彼らの大きな関心事で、「いつか香港に遊びに行く」というのが当時の中国人の夢でした。そんなユィとイェンズの前に、不穏な出来事が次々と起こります。容疑者を捕まえる寸前に取り逃がし、追跡中の事故で部下の命を落とすなど、ユィはどんどん深みに嵌っていきます。本作の連続殺人とは無関係ですが、数年前の工場が倒産、夫に収入が無い為に夫婦仲が悪化、罵る妻を刺殺してしまった夫のエピソードも挿入されています。効率の良い者が勝ち、古い者は淘汰される時代になり、やがてユィも工場をリストラされてしまいます。90年代は現在の中国の富裕層が台頭してきた時代ですが、見方を変えれば負け組が出始めた時代でもあります。十年後の2008年にはユィの輝かしい過去はすっかり忘れ去られ、彼が勤めた古い工場も時代にそぐわぬものとして爆破されます。メディアでは裕福になった中国ばかりが強調されますが、この激変の時代に不安に感じた中国人は少なくなかったと思われます。余談:香港を襲った嵐本作が描いているのは2008年までですが、1997年の中国への返還から20年以上経った香港に、今、大きな嵐が吹き荒れています。2019年の逃亡犯条例改正案に反対するデモが発端となり、「五大要求」(改正案の完全撤廃、市民活動を「暴動」とする見解の撤回、デモ参加者の逮捕・起訴の中止、警察による暴力的制圧の責任追及と外部調査の実施、民主的選挙の実施)の実現を要求する反政府デモに発展、最大で二百万人が参加していると言われています。かつて、中国人にとって別世界であった香港ですが、1997年に18.4%だった中国のGDPに占める香港の割合が、2018年には2.7%まで下がり、3%を占める深センの後塵を拝しています。香港が衰退したと言うよりは、中国本土が劇的な発展を遂げたわけですが、中国が一国二制度で香港を特別扱いする意味が薄れているの間違いないでしょう。恐らくドン・ユエ監督も予想しなかったであろう大規模な香港民主化デモですが、これをもたらしたものが中国本土の急成長だとしたら、中国本土にも同じような歪み、痛みがあるのではないかと思います。そうした歪、痛みが様々な理由で映画化されないのは、とても残念です。中国と香港のGDP比率推移出典:Wikipedia余談:激変を遂げた中国現在の中国(中華人民共和国)を建国した毛沢東の死後、中国の最高指導者となった鄧小平(任期:1978年〜1989年)は、毛沢東時代の政策を転換、「四つの近代化」を掲げ、市場経済体制への移行を試みました。農村部では人民公社を解体、経営自主権を保障し、生産意欲を喚起しました。都市部には経済特区や経済技術開発区を設置、華僑や先進国の資本を積極的に導入し、資本を確保し技術移転を得ながら、企業の経営自主権を拡大しました。この時期の市場経済への移行は、主に価格の自由化を目的にしたものだと言われています。こうした開放政策は、農村部と都市部、沿岸部と内陸部の経済格差を拡大し、また官僚の汚職や腐敗を深刻なものにしました。インフレや失業など、政府に対する不満は高まり、1989年には天安門事件が発生、改革開放は一時中断します。1992年になると、再び改革開放が推し進められ、経済成長は一気に加速します。社会主義市場経済体制のもと、最高指導者の江沢民は格差是正と一層の経済改革に取り組みます。格差是正のための西部大開発、国営企業改革に伴う失業者の増大といった問題が発生します。本作の主な舞台である1997年はこの時代で、香港が中国に返還された年でもあります。新しい自由な時代への期待と、本作にも描かれている大量解雇などのスクラップ&ビルドが入り混じった時代です。2002年には、胡錦涛党総書記を最高指導者とする政権が発足、私有財産権保護を明記した憲法改定、株式制度、企業統治制度など、国有企業の改革のための政策、私有財産の保護を明記した物権法、国内企業と外資企業の所得税率の格差を是正する企業所得税法などが施行されます。本作のもう一つの舞台である2008年はこの時代で、北京オリンピックが開催された年でもあります。因みに、1997年の中国のGDPは8兆人民元、2008年は32兆人民元と、10年余りにGDPが4倍という高成長を見せます。この間、ライフスタイルや人々の考え方も大きく変わり、10年前のことはすっかり忘れられているという、象徴的なシーンが本作に織り込まれています。急成長した中国経済(データ:The World Bank)中国経済が急成長を続けた1990年代から2000年代が映画の舞台となっている。ドアン・イーホン(段奕宏)/ユィ・グオウェイドアン・イーホン(段奕宏、1973年〜)は、新疆ウイグル自治区出身の中国の俳優。1998年に中央戯劇学院を卒業、ドラマ、舞台を中心に活躍する。2002年に映画デビュー、近年は映画を中心に活躍している。潜入捜査/ミッション:アンダーカバー(2017年)などに出演、本作で東京国際映画祭の最優秀男優賞を受賞している。妻のワン・ジン(王瑾)は、中村幸子という日本名と日本国籍をもつ中国の女優。ジャン・イーイェン(江一燕)/イェンズジャン・イーイェン(江一燕、1983年〜)浙江省出身の中国の女優、歌手、作家。1999年、アイドルグループのメンバーとして歌手活動を開始、その後、ソロ活動を始め、2006年に初シングルをリリース、翌2007年に初アルバムを発表。2002年にテレビ・ドラマ、2005年に映画デビュー。「南京!南京!」(2009年)、「バレット・ヒート 消えた銃弾」(2012年)などに出演している。「バレット・ヒート 消えた銃弾」では第32回香港映画祭で最優秀助演女優賞にノミネートされている。トゥ・ユアン(杜源)/ジャン警部トゥ・ユアン(杜源、1957年〜)は、黒竜江省ハルビン出身の中国の俳優。82年、中央学術院演劇部を卒業、俳優として活躍する。映画「野山」(1986年)で第6回中国・金鷄賞を、「草ぶきの学校」(1998年)で第19回中国映画金鷄賞で最優秀助演俳優を受賞している。 「迫り来る嵐」のDVD(楽天市場)【関連作品】おすすめ中国映画のDVD(楽天市場) 「ラストエンペラー」(1987年) 「山の郵便配達」(1990年) 「菊豆」(1990年) 「秋菊の物語」(1992年) 「活きる」(1994年) 「變臉(へんめん)/この櫂に手をそえて」(1996年) 「あの子を探して」(1999年) 「初恋のきた道」(1999年) 「鬼が来た!」(2000年)「LOVERS」(2004年) 「長江哀歌」(2006年)「戦場のレクイエム」(2007年) 「レッド・クリフ」(2008年)「南京!南京!」(2009年)輸入盤、日本語なし 「ブラインド・マッサージ」(2014年) 「妻への家路」(2014年) 「ラサへの歩き方 ~祈りの2400km~」(2015年)輸入盤、日本語なし 「人魚姫」(2016年) 「芳華-Youth-」(2017年)
2019年11月22日
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「ジュリアン」(原題:Jusqu'à la garde)は、2017年公開のフランスのサスペンス&ドラマ映画です。 グザヴィエ・ルグラン監督、トマ・ジオリア、ドゥニ・メノーシェら出演で、11歳の息子の親権を妻と争う夫が、息子と面会する度に妻の電話番号や住所を聞き出し、やがて妻の家に乗り込む様を描いています。第86回アカデミー賞短編映画賞にノミネートされた「すべてを失う前に」(2013年)の長編版で、第74回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した作品です。 「ジュリアン」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:グザヴィエ・ルグラン脚本:グザヴィエ・ルグラン出演:ドゥニ・メノーシェ(アントワーヌ・ベッソン、ジュリアンの父) レア・ドリュッケール(ミリアム・ベッソン、ジュリアンの母) トマ・ジオリア(11歳の少年、ジュリアン・ベッソン) ジョゼフィーヌ・ベッソン(マティルド・オネヴ、ジュリアンの姉、18歳) マチュー・サイカリ(サミュエル、ジョゼフィーヌの恋人、ミュージシャン) フロランス・ジャナス(シルヴィア、ミリアムの妹) マルティーヌ・ヴァンドヴィル(マドレーヌ、アントワーヌの母) ジャン=マリー・ヴァンラン(ジョエル、アントワーヌの父) マルティーヌ・シャンバッハー(ナニー、ミリアムの母) ジャン=クロード・ルゲー(アンドレ、ミリアムの父) サディア・ベンタイエブ(裁判官) ソフィー・パンスマイユ(ミリアムの弁護士) エミリー・アンセルティ=フォルメンティニ(アントワーヌの弁護士) ほか【あらすじ】夫アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)と別居、離婚調停中のミリアム(レア・ドリュッケール)は、ジョゼフィーヌ(ジョゼフィーヌ・ベッソン)とジュリアン(トマ・ジオリア)の二人の子供を引き取っています。ミリアムは夫を子供たちに近づけたくありませんでしたが、夫アントワーヌの弁護士はアントワーヌと息子ジュリアンの関係をミリアムが断ち切ろうとしていると離婚調停で主張します。結局、アントワーヌはジュリアンの共同親権を得て、隔週の週末ごとにジュリアンと過ごすことになります。一方、アントワーヌのDV癖を恐れるミリアムは、決してアントワーヌに会おうとせず、電話番号を頻繁に変えて新居の住所も教えません。ジュリアンに面会する度にアントワーヌはミリアムの居場所を聞き出そうとしますが、ジュリアンは母親を守るため必死に嘘をつき続けます。アントワーヌの不満は徐々に膨らみ、ジュリアンの嘘で怒りに火が点き、燃えさかる怒りとともにミリアムの家に乗り込みます・・・。【レビュー・解説】DVの本質である怒りの暴走を徹底した調査と選りすぐりの俳優による迫真の演技でスリリングに描き、配偶者のみならず子供にも悪影響を与えるDVの恐怖を観る者の感性に強く訴えるサスペンス&ドラマ映画です。DVの本質をスリリングに描く冒頭、裁判所での息子の親権をめぐる夫婦の離婚調停のシーンから始まります。双方の弁護人が陳述しますが、この段階でどちらに非があるのかわかりません。ドメスティック・バイオレンス(DV)と言っても夫婦関係ではどちらかが一方的に悪いということはないだろう、果たしてこの先、どのように描いていくのだろうかと、少々、意地の悪い視点で見始めたのですが、物語が進行するに従って、完全に意表を突かれました。夫が妻にDVを振るうようになった経緯をドラマ形式で描くのではなく、日常的な状況の中で夫の怒りが徐々にエスカレートしていく様がスリリングに描かれています。余計な要素を削ぎ落とし、DVの本質的な原因である怒りの暴走に絞り込んいるので、突っ込みようがありません。さらに、妻や子供を肉体的に傷つけることになしに、DVの恐怖を描いているのも見事です。因みに、DVはプライベートな世界で繰り広げられる大変な悲劇ですが、外からはほとんど見えません。本作は裁判所という社会的な視点から始まり、プライベートの世界に入ってDVを描き、最後に再び社会的な視点に戻って終わるという構成で、こうしたDVの構図を印象づけています。徹底した調査に裏打ちされた説得力スリラーと言うと一般に娯楽映画の要素が強いのですが、本作は冒頭の離婚調停のシーンからリアルで無駄のない展開を見せます。グザヴィエ・ルグランは、物語を作り込んでいく前に長い時間をかけて様々な人々から話を聞くなど、綿密に現場調査をしています。彼はDVについて書かれた数多くの著作、体験談や各種資料、フィクションを読むだけではなく、実際にDVの被害者となった女性たち、そうした家庭で育った子どもたち、家庭裁判所の裁判官、判事などに聞き取りをしています。また、警察にも行き、実際にどのような状況が緊急事態が発生しているかについても様々な事例を取材しています。こうした本作の緻密な裏付けが、一般的なスリラーにはないリアリティを醸し出し、同種の作品には類を見ない説得力を生み出しています。長女のジョゼフィーヌはあまり物語にかかわらないのですが、本作には彼女が妊娠検査をする場面が挿入されています。実は、これも調査に基づいたエピソードです。ジョゼフィーヌは成人に達しており、年の離れたジュリアンとは異なって彼女に親権が及ぼす影響は大きくありません。しかし、両親の関係や家庭環境は彼女にも同様に深く影を落とす。彼女のその後の人生に大きな影響を与えるのです。私が取材したところ、こうした環境で育った子どもたちはしばしばいくつかの選択肢を押しつけられることになる。男子の場合、自分もまた父親と同じように暴力的な夫になるか、あるいは暴力に過敏に反応することで、注意深く慎重な性格が醸成されていきます。女子の場合は、様々な手段を使ってできるだけ早く家庭から出ていこうとする。自分自身の家庭を築いたり、自立を急いだりするわけですね。この作品でも、彼女が自ら妻となり母親となることで、なんとか早く家庭から出ていこうとする姿が描かれています。(グザヴィエ・ルグラン監督)https://i-d.vice.com/jp/article/wjm8m9/interview-xavier-legrand-julienDVの本質は原因ではなく怒りの暴走結局のところ、夫婦関係ではどちらかが一方的に悪いということはないのでは?という意地の悪い視点は、見事に肩透かしを食いました。DVにおいて重要なのはどちらが原因を作ったかではなく、怒りの暴走による過剰な反応であると、素直に納得せざるを得ませんでした。また、過去の肉体的危害を暗示するシーンはあるものの、本作は肉体を傷つけることになしにDVの恐怖を描いており、心理的な暴力もDVであることを実感できます。ともすれば、肉体的な危害がなければDVではないと短絡的に考えがちですが、心理的な暴力もDVであることは強く認識しておいた方が良いと思われます。迫真の演技を見せる俳優陣レア・ドリュッケールとともに本作の短編版の「すべてを失う前に」(2013年)に出演しているドゥニ・メノーシェの演技が白眉です。本作は彼の行動を中心に展開しますが、冒頭の離婚調停のシーンでの夫、妻、どちらに非があるのかわからない抑えた演技から、クライマックスの感情の爆発まで、徐々に怒りが昂じていく様を正確に演じています。一見、強面の彼ですが、撮影の合間にはお笑い系の冗談ばかり飛ばす、とても面白い俳優です。彼は、「イングロリアス・バスターズ」(2007年)、「危険なプロット」(2012年)などの著名な作品にもちょっとした役で出演していますが、ジャン・ギャバン(1904年~1976年)、リノ・ヴァンチュラ(1919年~1987年)、ジャン=ポール・ベルモンド(1933年~)、ジャン・レノ(1948年~)、ティエリー・トグルドー(1959年~)、マチュー・アマルリック(1965年~)、ヴァンサン・カッセル(1966年~)といったフランスの個性派俳優の後を追える人材ではないかと期待しています。息子ジュリアンを演じたトマ・ジオリアも、父の怒りに涙ながらに耐えるなど迫真の演技を見せています。内気な性格の彼ですが、二人の兄に刺激されて演劇を始め、先生に勧められるままにオーディションを受けて、本作に抜擢されました。子役専門の演技コーチが撮影に同行し、最大のパフォーマンスが得られるよう子どもの立場に立って助言していはいますが、やはり、彼自身の資質が大きいようです。オーディションで彼を発掘したグザヴィエ・ルグラン監督は、彼には聴く力と俳優としてやっていきたいという成熟した感性があり、非常に珍しい才能の持つ逸材だと直感したと、絶賛しています。余談:DVの加害者にならない為にDVは怒りの暴走であるというシンプルなメッセージに、いろいろと考えさせられました。以前、米国のDVやストーカーの加害者に対する更生プログラムに関するテレビ番組を見たことがありますが、相手の間違いは正さなくてもいい相手に固執しなくていい怒りをコントロールすることが大切などといったセラピーをやっていました。恐らく、DVやストーカーには、自分が正しいと盲信し、相手を支配しようとする傾向が強く、粘着質で怒りのスイッチが入りやすいといった傾向があるという、心理学的なプロファイリングに基づくものだと思います。もちろん、自分が正しいと信じること、自分の意にかなう行動を相手に期待すること、一貫性をもって物事に臨むこと、むやみに感情を抑圧しないなどといったことは、一概に間違いとは言えませんが、オール・オア・ナッシングの二元論ではなく、TPOやバランスの問題と言えます。DV傾向があるかもしれないと思う人は、このような視点で自制してみるのも良いかも知れません。余談:ハラスメントの拡大解釈と冤罪もともと、自分は女性の権利拡大には好意的だと思っていましたが、#MeToo運動の過熱やセクハラ、パワハラ、モラハラという各種ハラスメントの拡大解釈に直面して、少し懐疑的になってきています(冒頭の夫婦関係ではどちらかが一方的に悪いということはないのでは?という意地の悪い視点も、そうした心境の変化の影響)。受けた側がハラスメントだと感じれば、それはハラスメントだと信じて疑わない女性がいます。確かにハラスメントは受け取る側の問題ではありますが、受け取る側がハラスメントだと感じればすべてハラスメントと認定されるわけではありません。むしろ、認定されないケースの方が圧倒的に多いのです。しかし、痴漢の冤罪と同様、女性がハラスメントと思い込んで騒ぎ立てるだけで、男性は社会的信用などにダメージを受けるという、男性にとっては非常に迷惑千万な話です。DVやハラスメントの加害者にならないのはもちろんのこと、冤罪を被せられないよう男性は言動に注意を払う必要があります。余談:男と女の交戦規定男性と女性、いつでも、誰とでも信頼しあって生きていければ良いと思うのですが、信じられる時もあれば裏切られる時もある、信頼できる人もいれば裏切る人もいるというのが現実でしょう。裏切られても信じ続けるのが美徳かも知れませんが、これは必ずしも現実的ではないでしょう。ゲーム理論によると、信頼には信頼を、裏切りには裏切りをという、しっぺ返しの戦略を採った際に得られる利得が最大になるそうです。止むえずしっぺ返しをしなければならない時もあるでしょう。しかし、裏切りの行動をとる女性に対してしっぺ返しをする際には、細心の注意が必要です。例えば、女性に殴られたかと言って、男性が女性を殴り返すのは得策ではない。社会的な心証を損なう。女性に傷つくことを言われたからと言って、女性を傷つけることをストレートに言い返すのは得策ではない。倍返しなど論外。PTSDの口実になりかねない。非論理的な主張を繰返す女性を睨みつけたり、強い口調で反論するのは、賢くない。恫喝、脅迫、パワハラといった冤罪の口実にされかねない。女性の非倫理的な言動に対して、倫理を諭したり、気づきを促すのは必ずしも賢くない。モラハラという冤罪の口実にされかねない。このように、些細な問題に対するしっぺ返しの失敗で問題が深刻化するケースも少なくないと思っています。じゃあ、どうすれば良いのかと言えば、ケース・バイ・ケースだとは思いますが、例えば殴られたら殴り返さずに傷害だと警告する、非論理的な主張には同意できないと穏やかに伝えるなどの対応があるかと思います。いずれにせよ、怒りにまかせて反射的に行動するのは禁物です。深刻な攻撃でない限り体よくかわすのが基本かと思いますが、しつこいようであるならば、冤罪の口実を与えないような対応を熟慮するのが良いでしょう。因みに本作の場合、裏切りの発端は描かれていませんが、子供を連れて逃げた妻とよりを戻したい一心で、夫が怒りを爆発させ、過大なしっぺ返しとなっているのが最大の失策です(妻の裏切りに対して、力ずくで妻を服従させようとした)。頭を冷やし、妻とよりを戻すことにこだわらず、どのような条件で別れるのが得かなど、幅広い選択肢の中で最大の利得が得られる様に行動すべきです。ドゥニ・メノーシェ(アントワーヌ・ベッソン、ジュリアンの父)ドゥニ・メノーシェ(1976年〜)は、フランスの俳優。2003年にテレビ・ドラマでデビュー。その後、長編映画に出演するようになり、「La Moustache」(2005年)、「イングロリアス・バスターズ」(2007年)、「危険なプロット」(2012年)、「Grâce à Dieu」(2019年)などに出演している。レア・ドリュッケールとともに本作の短編版の「すべてを失う前に」(2013年)にも出演している。レア・ドリュッケール(ミリアム・ベッソン、ジュリアンの母)レア・ドリュッケール(1972年〜)はフランスの女優。舞台からキャリアを始め、1991年に映画デビュー。「女はみんな生きている」(2001年)、「青の寝室」(2014年)などに出演している。ドゥニ・メノーシェとともに本作の短編版の「すべてを失う前に」(2013年)にも出演している。トマ・ジオリア(11歳の少年、ジュリアン・ベッソン)トマ・ジオリア(2003年〜)は、フランスの子役俳優。内気な性格だが、二人の兄に刺激されて演劇を始め、先生に勧められるままにオーディションを受けて本作に抜擢された。オーディションで彼を発掘したグザヴィエ・ルグラン監督は、彼には聴く力と俳優としてやっていきたいという成熟した感性があり、非常に珍しい才能の持つ逸材と直感したとと絶賛。ジョゼフィーヌ・ベッソン(左、マティルド・オネヴ、ジュリアンの姉、18歳)ジョゼフィーヌ・ベッソン(1995年〜)は、フランスの女優。幼い頃から演技に親しみ、高校卒業後は演劇学校で学ぶ。女優を続けながらソルボンヌ大学に通い、現代文学の学士号を取得した才媛。16歳の時にグザヴィエ・ルグラン監督に出会い、本作の短編版「すべてを失う前に」(2012年)のジョゼフィーヌ役をオファーされた。その後、映画やテレビシリーズでいくつもの役を獲得している。【撮影地(グーグルマップ)】ミリアムの両親の家ミリアムの新居 「ジュリアン」のDVD(楽天市場)【関連作品】ドゥニ・メノーシェ出演作品のDVD(楽天市場) 「La Moustache」(2005年) 「イングロリアス・バスターズ」(2007年) 「危険なプロット」(2012年) 「Grâce à Dieu」(2019年)レア・ドリュッケール出演作品のDVD(楽天市場) 「女はみんな生きている」(2001年) 「青の寝室」(2014年)
2019年11月16日
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「ある女流作家の罪と罰」(原題:Can You Ever Forgive Me?)は、2018年公開のアメリカの伝記ドラマ&コメディ映画です。伝記作家のリー・イスラエルが2008年に発表した自伝「Can You Ever Forgive Me? 」を原作に、マリエル・ヘラーが監督、メリッサ・マッカーシー、リチャード・E・グラントら出演で、リー・イスラエルが有名人の手紙を捏造、販売した事件を描いてます。第91回アカデミー賞で主演女優賞、助演男優賞、脚色賞の3部門にノミネートされた作品です。 「ある女流作家の罪と罰」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:マリエル・ヘラー脚本:ニコール・ホロフセナー/ジェフ・ウィッティ原作:リー・イスラエル著「Can You Ever Forgive Me? 」出演:メリッサ・マッカーシー(レオノア・キャロル・イスラエル) リチャード・E・グラント(ジャック・ホック) ドリー・ウェルズ(アンナ) ジェーン・カーティン(マージョリー) アンナ・ディーヴァー・スミス(エレイン) スティーヴン・スピネラ(ポール) ベン・ファルコーン (アラン・シュミット) シェー・ドリン(ネル) マイケル・シリル・クレイトン(ハリー) ケヴィン・キャロラン(トム・クランシー) マーク・エヴァン・ジャクソン(ロイド) ティム・カミングス(クレイグ) クリスチャン・ナヴァロ(カート) ジョアンナ・P・アドラー(アーリーン) ほか【あらすじ】1967年、リー・イスラエル(メリッサ・マッカーシー)はキャサリン・ヘプバーンのインタビュー記事を発表し注目を集めます。イスラエルはそれをきっかけに伝記作家へと転身し、タルラー・バンクヘッドやドロシー・ケリガンらの伝記を発表して好評を得ましたが、次第に時代遅れとなり、人気を失います。かつてはベストセラー作家だったリーも、今ではアルコールに溺れ、仕事も続かず、家賃も滞納、愛する飼い猫の病院代も払えません。生活費を捻出刷る為に著作を古書店に売ろうとしますが店員に冷たくあしらわれ、かつてのエージェントにも相手にされません。ついには、大切にしていたキャサリン・ヘプバーンが自分に宛てた手紙を古書店に売却します。それが意外な高値で売れたことから、著名人の手紙はコレクター市場に高く売れること、中でもセンセーショナルな情報が書かれた手紙は特に高く売れることを知ったリーは、古いタイプライターを買い、紙を加工し、有名人の手紙を偽造を始めます。長年、著名人を取材してきたイスラエルにとって、もっともらしい裏話を捏造するのは容易いことでした。当初、手紙の捏造は好調でしたが、次第に捏造を疑われることが多くなります。やがてイスラエルは古物商のブラックリストに載ってしまい、捏造した手紙を売ることができなくなります。そんな折、イスラエルの旧友のジャック・ホックが出所、イスラエルはジャックと組んで、彼女が捏造した手紙をホックが売却することでお金を稼ぎ続けます・・・。【レビュー・解説】実話に基づき、生活費を稼ぐために著名人の手紙を捏造、販売したアクの強い女流作家とその相棒をメリッサ・マッカーシーとリチャード・E・グラントが好演、犯罪を描きながらも程よく共感を誘う良質の伝記ドラマ&コメディです。著名人の手紙を捏造した女流作家を描いた、実話に基づく伝記ドラマ&コメディ贋作や詐欺を描いた映画の不思議な魅力贋作や詐欺を題材にした映画には、不思議な魅力があります。クライム・アクションが動的な部分で見せるとしたら、贋作や詐欺を描いた映画は知的な部分で見せると言って良いでしょう。贋作や詐欺は犯罪ですが、被害者が富裕者や好事家であることが多く、また被害者に肉体的な危害を加えるわけではない為か、見る側の抵抗感もさして大きくありません。ここ10年余りの間に公開された贋作や詐欺を描いた作品から、印象深いものをいくつか挙げてみると、アメリカの作家クリフォード・アーヴィングの回顧録「ザ・ホークス 世界を騙した世紀の詐欺事件」を原作に、大富豪ハワード・ヒューズの自伝の執筆を捏造、出版社から巨額の執筆料を騙し取った作家を描いた「ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男」(2006年)イタリアのトスカーナを舞台に、「芸術において作品の真正さを問題にするのは意味がない、何故ならどんな複製もそれ自体はオリジナルであり、どんなオリジナルもそれ自体は別の形の複製だから」という芸術における真贋の曖昧さに、男女の虚実のドラマを絡めて描いた「トスカーナの贋作」(2010年)1970年代にアメリカのアトランティック・シティで起きた収賄スキャンダル「ABSCAM事件」を題材に、何が嘘で、何が本当なのか、すべてが疑わしい詐欺の世界に男女の愛の不確かさをスリリングに重ね合わせて描いた「アメリカン・ハッスル」(2013年)80年代から90年代のウォール街で「狼」と呼ばれた実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートの回顧録「ウォール街狂乱日記」を原作に、20代で億万長者にのし上がり、30代で証券詐欺で服役するまでの、破天荒な栄光と転落の物語を描いた「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年)といった作品が思い浮かびます。これらが描くのは、時に繊細で、時に派手な騙しのテクニック贋作や詐欺が暴かれることへの恐怖より大掛かりな社会的陰謀とのオーバーラップ芸術における真贋の曖昧さと、虚実混交する男女関係の多層的表現騙し騙され全てが疑わしい詐欺の世界と、不確かな男女関係のスリル破天荒な利益の享受と転落などなど様々ですが、共通する魅力は、単なる物真似や騙しの域に収まらない、一種、天才的、芸術的な職人技や創造性が垣間見えることです。本作でも、主人公のリー・イスラエルが著名人本人よりも本人らしい手紙を捏造します。彼女の捏造が発覚し、服役した後も、定評ある古物商で彼女の贋作が本物として扱われ、彼女から仕入れた値段とは比べ物にならない、桁違いに高価な値段で売られ、また、彼女の贋作を本物であるかのように紹介する書籍が出版されるほどでした。 贋作に手を染めた女性作家の人物像を描く他の贋作や詐欺を描いた映画と本作が異なる点は、主人公が女性であることです。リー・イスラエルは思ったことを正直に言う女性で、逆に彼女に対して人々がどのように反応しようが彼女は気にしない、そんなタイプの女性です。見てくれより知性を重んじ、物を書くことは自分の一部であり、自分の反映であると考えています。自身が劇作家・脚本家で、自分の脚本を他の監督に委ねられないという一心で監督を務めた経験のあるマリエル・ヘラー監督は、物を書くことでしか自分の存在意義を感じることができないリー・イスラエルに強い共感を覚えたと言います。劇中のリー・イスラエルは、裁判の最終陳述で次のように述べます。<ネタバレ>リー;何ヶ月もの間、私は大きな罪悪感と不安の中で暮らしていました。これは大げさです。何か悪いことをしていると感じるよりは、いつも発覚することだけを恐れていました。自分のいかなる行いについても後悔していると言えません。本当です。というのも、いろいろな意味で人生の最良の時期だったのです。ここ何年かのうちで、唯一、自分の作品に自信が持てたのです。(後略)<ネタバレ終わり>彼女と贋作の関係を端的に表す一言です。一般に女性は周囲の人に自分がどう見られているか鋭く察すると言われていますが、リー・イスラエルの関心は見てくれよりも知的であることでした。もし、彼女が周囲の目を気にし、多少なりとも周囲に同化し、物書き以外の仕事を受け入れることができれば、こうした犯罪に手を染める不幸を避けることができたかもしれません。類まれなる文才を持つ彼女ですが、こうした面ではあまり賢くなかったとも言えます。作家で、賢く、見てくれよりも知性を重んじる、50過ぎで、社会に無視され、生涯未婚で、子供もおらず、レズビアンで、人よりも飼い猫を気にかける、本作はそんなリー・イスラエルを描いています。一般にこうした女性には共感を得にくく、また下手に美化すれば犯罪礼賛と捉えられかねなり難しさがありますが、本作でアカデミー主演女優賞にノミネートされたメリッサ・マッカーシーは、リー・イスラエルの人間味をじわりと滲み出ささせることにより観客の感情移入を巧みに誘い出しています。因みに、リー・イスラエルが捏造した手紙を買い取る怪しげな書店主アラン・シュミットを演じているのが、メリッサ・マッカーシーの実生活の夫で俳優、コメディアン、脚本家のベン・ファルコーンです。二人は「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」(2011年)でも共演、ベンはメリッサに言い寄られるまさかの航空警察官を演じていますが、本作では終いにはメリッサを脅迫する怪しげな書店主と、いかにもコメディ・カップルらしい、お楽しみのキャスティングです。本作を纏めたマリエル・ヘラーは、演劇畑出身の作家、俳優、監督で、監督デビュー作の「ミニー・ゲッツの秘密」(2015年)、本作、「A Beautiful Day in the Neighborhood」(2019年)と、質の高い作品を着実に作り続けています。メリッサ・マッカーシー(レオノア・キャロル・イスラエル)メリッサ・マッカーシー(1970年〜)は、イリノイ州出身のアメリカの女優、コメディアン、脚本家、プロデューサー。1997年からテレビのコメディ・シリーズに出演、2000年から脇役としてコメディ映画に出演している。「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」(2011年)で大ブレイク、アカデミー助演女優賞にノミネート、本作では同主演女優賞にノミネートされている。夫は、俳優、コメディアン、脚本家のベン・ファルコーン。リチャード・E・グラント(ジャック・ホック)リチャード・E・グラント(1957年〜)は、スワジランド出身のイギリスの俳優。南アフリカのケープタウン大学で演技を学び、卒業後にロンドンに移り、舞台やテレビに出演するようになる。1987年に映画デビュー、「ザ・プレイヤー」(1992年)、「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事」(1993年)、「 ゴスフォード・パーク」(2001年)、「人生はシネマティック!」(2016年)、「LOGAN/ローガン」(2017年)などに出演している。本作で、アカデミー助演男優賞にノミネートされている。ドリー・ウェルズ(アンナ)ドリー・ウェルズ(1971年〜)は、ロンドン出身のイギリスの女優、脚本家。「ブリジット・ジョーンズの日記」(2001年)、「モーヴァン」(2002年)、「さざなみ」(2015年)、「ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期」(2016年)などに出演している。ベン・ファルコーン (アラン・シュミット)ベン・ファルコーン(1973年〜)はイリノイ州出身のアメリカの俳優、コメディアン、脚本家、映画監督。「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」(2011年)、「おとなの恋には嘘がある」(2013年)などに出演している。妻は、本作の主演を務める女優、コメディアン、脚本家、プロデューサーのメリッサ・マッカーシー。【撮影地(グーグルマップ)】冒頭、リーが地下鉄に乗る86ストリート駅猫を連れて行った動物病院ウェスト79thストリートの動物病院で撮影している。リーが古本を買い叩かれる書店 クロスビー通りのハウジングワークス・ブックストア・カフェで撮影している。映画では、クロスビー書店という店名になっている。リーとジャックが通うゲイバーウェスト10thストリートのジュリアスというバーで撮影している。リーがキャサリン・ヘップバーン直筆の手紙を売り、アンナと親しくなった古本屋ユダヤ教関連の書籍を売るヨーク・アベニューのロゴス・ブックストアで撮影している。リーがファニー・ブライスの手紙を見つけたニューヨーク公共図書館リー・イスラエルが捏造した手紙を売り、後にジャック・ホックが捏造を見破られた書店イースト59thストリートのアーゴジー・ブックストアで撮影している。リーが偽造した手紙を売った書店セント・マークス・プレイスのイースト・ヴィレッジ・ブックスで撮影している。アンナと食事に出かけたイタリアン・レストラン12thストリートのジョンの店で撮影している。リーがエレインに会った公園セントラル・パークの池の畔で撮影している。 「ある女流作家の罪と罰」のDVD(楽天市場)【関連作品】「ある女流作家の罪と罰」の原作本(楽天市場) リー・イスラエル著「Can You Ever Forgive Me? 」マリエル・ヘラー監督作品のDVD(楽天市場) 「ミニー・ゲッツの秘密」(2015年) 「A Beautiful Day in the Neighborhood」(2019年)メリッサ・マッカーシー出演作品のDVD(楽天市場) 「SPY/スパイ」(2015年) 「ゴースト・バスターズ」(2016年)メリッサ・マッカーシー出演作品のDVD(楽天市場) 「Go」(1999年) 「ブライズメイズ 史上最悪のウエディングプラン」(2011年) 「ヴィンセントが教えてくれたこと」(2014年) 「SPY/スパイ」(2015年) 「ゴースト・バスターズ」(2016年)贋作や詐欺を描いた映画のDVDの(楽天市場) 「スティング」(1973年) 「オーソン・ウェルズのフェイク」(1973年) 「グリフターズ/詐欺師たち」(1990年) 「ユージュアル・サスペクツ」(1995年)「スパニッシュ・プリズナー」(1997年) :輸入盤、日本語なし 「オーシャンズ11」(2001年) 「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(2002年) 「マッチスティック・メン」(2003年) 「ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男」(2006年) 「トスカーナの贋作」(2010年) 「コンプライアンス 服従の心理」(2012年) 「アメリカン・ハッスル」(2013年) 「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年) 「お嬢さん」(2016年)
2019年11月02日
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「バーニング 劇場版」(原題:버닝)は、2018年公開の韓国のミステリー&ドラマ映画です。村上春樹の短編小説「納屋を焼く」を原作に、ユ・アイン、スティーヴン・ユァン、チョン・ジョンソら出演で、幼なじみとの再会を機に奇妙な出来事に巻き込まれていく青年の姿を描いています。第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でパルム・ドールを争い、第91回アカデミー賞で外国語映画賞の韓国代表に選定された作品です。 「バーニング 劇場版」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:イ・チャンドン脚本:イ・チャンドン/オ・チョンミ原作:村上春樹「納屋を焼く」出演:ユ・アイン(イ・ジョンス) スティーヴン・ユァン(ベン) チョン・ジョンソ(シン・ヘミ) ほか【あらすじ】作家を志すイ・ジョンス(ユ・アイン)は、アルバイトで生活費を稼いでいます。ある日、彼は子供の頃の隣人で同級生だったシン・ヘミ(チョン・ジョンソ)と再会します。整形手術をしたという彼女を、彼は最初、思い出すことができませんでした。彼女はアフリカ旅行をすることをジョンスに伝え、その間、猫のボイルに餌をやって欲しいと頼みます。父が裁判沙汰になった為に、ジョンスは農家の実家に戻り、牛の世話をすることになります。実家に戻る途中にヘミのアパートに立ち寄ったジョンスは、猫の餌のやり方を教わった後、ヘミとセックスをします。ヘミがアフリカに出発した後、猫に餌を与える為に彼女の部屋に通うジョンスは、砂箱の糞を目にすることはあっても、猫の姿を目にすることはありませんでした。彼女の部屋で自慰をするようになった彼に、やがてヘミから電話がありまし。テロ騒ぎの後、ようやくナイロビ空港を立つことができるので、空港まで迎えに来て欲しいと彼女は言います。ジョンスが空港で出迎えた彼女は、テロ騒ぎの際に会い、一緒に移動したというベン(スティーヴン・ユァン)と一緒でした。三人は食事に出かけ、ヘミは旅行の際に彼女が見た夕暮れについて話します。ヘミは思い出に心動かされ、消え去りたくなったと涙を流しながら告白します。ポルシェを乗り回すベンは裕福で自信に満ちていますが、彼が何に収入を得ているかは不明です。父が服役している間、実家の農場を守らなければならないジョンスは、ベンと彼とヘミの関係を遠くから羨みます。ある日、三人はジョンスの農場に集まって遊びます。ヘミは子供の頃、家の近くの井戸に落ちてジョンスが助けてくれた思い出話をしますが、ジョンスは思い出しません。夕暮れになって三人は大麻を吸い、ヘミは上半身、裸になって踊り出します。ヘミがソファで眠った後、ベンは不思議な趣味について話します。彼は二ヶ月に一度、捨て置かれたビニールハウスを焼くと言うのです。次回はもうすぐで、ジョンスの家の近くのビニールハウスのひとつと言います。ジョンスはベンにヘミを愛していると言いますが、ヘミが帰る時に男の前で服を脱いだ彼女を咎めます。ヘミは黙ってベンの車に乗り、ジョンスは近くのビニールハウスを気をつけて見るとベンに言います。続く日々、ビニールハウスが焼かれているかどうか、ジョンスは近所を見て回りますが、燃えたものはひとつもありません。ある日の午後、ジョンスが無傷のビニールハウスを調べている時に、ヘミから電話がかかってきますが、数秒間の不明瞭な雑音の後で切れてしまいます。その後、彼女が電話に出ないので、心配になったジョンスは調べ始めます。彼女のアパートの大家を説得し、ヘミの部屋に入って猫に餌を与えます。彼女の部屋は不自然に片付いており、彼女のピンクのスーツケースは置いたままで、猫の気配は全くありません。イ・ジョンスは、ベンを追い始め、彼の住居を伺い、彼の後をつけ、行き先を確かめます。彼は、ベンがポルシェを止めたレストランに入り、ベンと対峙します。若い女性が突然、テーブルに近づき、ベンに遅れたことを侘びます。三人がレストランを後にする時、ジョンスはベンにヘミから連絡があるかと訪ねます。ベンはヘミからは何の連絡もなく、煙のように消えてしまったと答えます。ある日、自宅の近くでジョンスを見かけたベンは、ジョンスを家に招き入れます。家にはベンが保護したという迷い猫がいました。洗面所の引き出しにある女性物の宝飾品の中にヘミに贈ったのと似た腕時計を見つたジョンスは、ベンへの疑念は深めます。その直後、猫が外に逃げ出し、猫を追ったジョンスは、ヘミの猫と同じ「ボイル」という名の呼びかけに反応する猫を見つけ出します・・・。【レビュー・解説】村上春樹の短編小説「納屋を焼く」を原作に、社会や日常のちょっとした不条理をミステリー・タッチで多層化、さらに格差社会や性差別に対する行き場のない怒りで駆り立てることにより、ピアノソナタのようにシンプルな原作のモチーフがドラマチックで厚みのある交響楽の様にアレンジされた、見ごたえのあるミステリー&ドラマ映画です。村上春樹の短編に日常の不条理を重ね、差別への怒りで駆り立てたミステリー&ドラマ原作の村上春樹の「納屋を焼く」は、「謎の男が使い道のない、役に立たない納屋に火をつけて焼くのが趣味と打ち明け、実際に納屋を燃やしたのか、それとも納屋は何かのメタファーなのか明らかにされないまま、語り部である僕と謎の男の共通の知り合いである女性が失踪してしまう」という、ストーリーらしいストーリーもない、ミステリアスな短編小説です。存在の不確かさがテーマとも言われるこの短編小説は、そのままでは映画化しずらい作品ですが、イ・チャンドン監督は舞台を現代の韓国に移すとともに、社会や日常生活のちょっとした不条理をミステリー・タッチで多層化することにより物語に厚みをつけ、さらに格差社会や性差別に対する行き場のない怒りで駆り立てることにより、いわばピアノソナタのようにシンプルな原作のモチーフをドラマチックで見ごたえのある交響楽の様な作品に仕立て上げています。ミステリーの多層化舞台を現在の韓国に移したイ・チャンドン監督は、ジョンスの実家にかかってくる無言電話へミが旅行中にジョンスに世話を頼む姿の見えない猫ヘミは幼い頃、井戸に落ちたというのは本当か否か、怒りを抑えきらずに人を殴り、プライドが高く謝ることができず、裁判にかけられるジョンスの父ジョンスの父の愛想をつかして家を出た母、母の服を燃やした父、長い音信不通の挙げ句、ジョンスに会って金を無心する母韓国の失業率悪化のニュース、トランプ大統領の新ビジョン発表のニュース、北朝鮮のプロパガンダ放送など、日常生活と政治の乖離・・・など、原作にはない社会や日常生活のちょっとした不条理をミステリー・タッチで多層化することにより、映画として厚みをつけています。ミステリーと言えば謎解きが主軸となりますが、謎解きを主軸としなくても、このような小さな不条理やミステリーを積み重ねることにより、ひとつの映画体験を作り上げることができるのは目から鱗です。行き場のない怒りこのように、原作にはない社会や日常生活のちょっとした不条理を作品に重ね合わせているイ・チャンドン監督ですが、彼はさらに原作では描かれていない「怒り」を導入し、本作を突き動かすドライブ・フォースにしています。NHKからあった村上作品の映画化の話が本作の直接的な契機ですが、イ・チャンドン監督は当初、村上作品の世界観を映画化するのは難しいとして、自ら監督することを見送っています。しかし、その後、作中の「使えない納屋を焼く」という表現に若い女性のメタファーを感じて激怒する共同脚本のオ・チョンミから、「納屋を焼く」の映画化を勧められます。イ・チャンドン監督は彼女の怒りに触発される形で映画化に乗り出したわけで、「怒り」は本作において非常に重要な意味合いがあります。本作では様々な不条理が「怒り」の契機として積み重なっていきます。イ・ジョンスは内に秘めるタイプで、彼が感じた怒りのすべて作中で明らかになっているわけではありませんが、本作が扱っている主な怒りは、ベンのヘミに対する女性蔑視した行動への疑惑と、ベンとイ・ジョンス/ヘミに象徴される格差社会に関する、行き場のない怒りです。イ・チャンドン監督は、前作の「ポエトリー アグネスの詩 」(2010年)以降、「怒り」に関して様々な企画をしたり、構想を練ったり、シナリオ作家とともにシナリオを書いたりしており、三本の脚本をかきあげたものの映画化には踏み切れずにいました。そういう意味では、本作は前作以来の怒りに関する様々なプロジェクトの成果を、彼が納得できる形で結実させた作品といえます。圧巻の夕暮れのダンス・シーン多層的なミステリー表現が特徴的ですが、本作の芸術性を決定的に印象づけるのは中盤の夕暮れのシーンです。三分余りの長回しで映し出される上半身の服を脱ぎ捨てたヘミの踊りを核とする一連の夕暮れのシーンは、いわゆるマジックアワーに撮影されたもので、圧倒的な映像美で本作の格をワンランク上げる出来栄えです。ヘミのダンスとその前後の会話のシーンの為に、ロケ地のパジュで一ヶ月の撮影を行ったといいますが、予め撮影監督と「全てを計算しつくして、細々と計画するようなことはしない」と示し合わせていたイ・チャンドン監督は、人工照明の使用を極力抑え、眼の前で刻々と変化していく場の状況と自然光と活かしながら撮影していくという、非常に有機的で贅沢な演出がなされています。人生の意味と真の自由を求める彼女がグレート・ハンガー・ダンスを踊っている時、彼女は人生や社会の嘘と自然の美しさに同時に囲まれています。このシーンは夕暮れ時に撮影され、光と闇が共存し、月が空にかかり、草が風になびき、家畜や農場も見えます。韓国の国旗は、政治を象徴しています。これらはすべて我々の人生の側面を表現しています。バックに流れるマイルス・デイヴィスの曲もそうです。このシーンを通じて、私はこれらの要素をできる限り映画的に結合し、メディアとしての映画の潜在能力と映画独自の美学を観客に実感して欲しいと思いました。私はこのシーンの最初から最後まで、演出され、舞台化されたようには感じて欲しくありませんでした。この人生の断片を捉えたこと、ヘミの自由の追求を捉えたことを、あたかも偶然であるかのように感じて欲しかったのです。(イ・チャンドン監督)https://www.hollywoodreporter.com/news/oscars-interview-lee-chang-dong-burning-1167869この中盤のシーンで文字通り、ドラマの中心に躍り出るヘミは、冒頭、客引きのキャンペン・ガールとしてデパートの前でちょっと安っぽい踊りを踊っています。こうしたキャンペン・ガールの踊りによる客引きが韓国では一般的なのかはわかりませんが、人生の意味を探ると言う中盤のグレート・ハンガー・ダンスへの伏線だとすれば、実に見事な構成としか言いようがありません。この主役の一人ヘミを演じるチョン・ジョンソは、大学で映画を学びながら初めて受けたオーディションで本作の主役の一人に抜擢された、エンタメ業界での経験が全くない、バリバリの新人ですが、他の二人の主役を演じる経験豊富なユ・アインとスティーヴン・ユァンを相手に、めきめきと存在感を示しています。冒頭は踊りはちょっと安っぽい印象ですが、その後、パントマイムで蜜柑剥きのパフォーマンスで観客の目を引き、さらにイ・ジョンスとのベッドシーンで熱演を印象づけます。そして、極めつけが中盤の夕暮れの中のダンス・シーンで、彼女は見事、共演のユ・アインとスティーヴン・ユァンを凌ぐほどの存在感を示しています。爆発する怒りがもたらすもの<ネタバレ>原作では果たして実際に納屋が焼かれたのか、ヘミがなぜ消えてしまったのかは明らかにされていません。しかし、原作の「使えない納屋を焼く」という表現を若い女性のメタファーと感じ、女性差別への強い怒りを映画化の動機のひとつとする本作は、付き合う女性を二ヶ月ごとに変えては殺害する連続殺人犯の疑惑をベンに向けています。必ずしも確証は得られないのですが、愛するヘミを失ったイ・ジョンスはエンディングで女性を道具にしか見ていないベン、何かにつけて貧富の格差を感じさせるベンに怒りを抑え切らず、ナイフで刺します。脱ぎ捨てた血だらけの服とともに彼をポルシェに押し込み、火を放ち、軽トラックで現場を去るイ・ジョンスの背後で燃え上がるポルシェが印象的です。燃えるビニールハウスを見つけることできなかったイ・ジョンスが、自らビニールハウスならぬ、ベンのポルシェに火を放ったのが寓話的でもあります。原作由来の存在の不確かさ、境界のあいまいさ、そして映画が示唆する加害者と被害者の循環など、様々な余韻が感じられる作品です。因みにイ・ジョンスは作家という設定ですが、彼が執筆するシーンは全くといっていいほどありません。最後の最後にヘミの部屋で彼女との追憶に浸った後に彼が執筆するシーンだけです。その後、彼はベンに会い、彼を刺します。つまり、彼がベンを刺したのは彼の作品の中での出来事と解釈できる余地を残しているわけです。明確な結末を示さない原作を踏まえた、軽妙な演出と言えます。<ネタバレ終わり>このように原作を核にしながらも、社会や日常生活のちょっとしたミステリーや不条理を加えて厚みをつけたり、経済格差や性差別など因果関係がはっきりしない中で鬱積する行き場のない怒りを増幅させたりと、原作では描かれてことも積極的に織り込んでいるイ・チャンドン監督ですが、多層構造によるミステリーの相乗効果やシンボリックな表現、夕暮れのシーンに見られような美しい映像表現などにより、原作のもつ高い芸術性を損なうことなく映画化できているのは、映画製作者として韓国でトップレベルの技量を有するだけではなく、村上作品の愛読者であり、自ら作家を志したことがあるイ・チャンドン監督ならではかもしれません。ユ・アイン(イ・ジョンス)ユ・アイン(1986年〜 )は、韓国の俳優。2003年にテレビドラマでデビューし、一躍注目を浴びる。2006年に映画デビュー、その後、着々とキャリアを重ね、現代を生きる多彩な青春の姿を代弁し共感と好評を得ながら少年から演技派へと成長、「王の運命 -歴史を変えた八日間-」(2015年)で青龍映画賞の主演男優賞を受賞している。スティーヴン・ユァン(ベン)スティーヴン・ユァン(1983年〜)は、アメリカの俳優。韓国系アメリカ人で、テレビドラマ「ウォーキング・デッド」への出演で知られる。韓国で生まれ、ミシガン州で育つ。大学一年の時に演技と即興劇に関心を持ち、二年の時に即興劇団に入団する。大学卒業後、短編映画がコメディ映画の小品の傍らに出演したテレビドラマシリーズ「ウォーキング・デッド」(2010〜2017年)が大ヒット、一躍ブレイクする。「Z Inc. ゼット・インク」(2017年)、「ソーリー・トゥー・ボザー・ユー」(2018年)などに出演している。チョン・ジョンソ(シン・ヘミ)チョン・ジョンソ(1994年〜)は韓国の女優。ソウルで生まれ、カナダで育つ。カナダの中学を卒業後、韓国の高校から大学に進学、映画を学ぶ。エンタメ業界での経験が全くないまま初めて本作のオーディションを受け、数ヶ月に及ぶテストの末、主役の一人に抜擢され、新人とは思えない存在感を発揮している。イ・チャンドン監督はソル・ギョングやムン・ソリなどの演技派俳優を発掘しており、チョン・ジョンソへの期待も高い。また、「ザ・ヴァンパイア 〜残酷な牙を持つ少女〜」(2014年)のアナ・リリー・アミールポアー監督の新作「Mona Lisa and the Blood Moon」(2019年)にケイト・ハドソンらとともに出演することが発表されており、国際的な活躍も期待される。【動画クリップ】大麻を吸ったヘミが夕暮れの中で「グレートハンガー」を踊るシーンマイルス・デイヴィスの「死刑台のエレベーター」が流れる。ジャズの自由な雰囲気なヘミの踊りにマッチしているが、「死刑台のエレベーター」というタイトルは良くない出来事を予感させる。【撮影地(グーグルマップ)】シン・ヘミのアパートイ・ジョンスの実家のあった場所現在は畜舎に改装されているイ・ジョンスがシン・ヘミを迎えた仁川国際空港の到着ロビー 「バーニング 劇場版」のDVD(楽天市場)【関連作品】「バーニング 劇場版」の原作を収録した短編集(楽天市場) 村上春樹著「螢・納屋を焼く・その他の短編」イ・チャンドン監督・脚本作品のDVD(楽天市場) 「ペパーミント・キャンディー」(1999年) 「オアシス」(2002年) 「シークレット・サンシャイン」(2007年)「ポエトリー アグネスの詩 」(2010年):輸入盤、日本語なしユ・アイン出演作品のDVD(楽天市場) 「ベテラン」(2015年)スティーヴン・ユァン出演作品のDVD(楽天市場) 「オクジャ」(2017年) 「Z Inc. ゼット・インク」(2017年) 「ソーリー・トゥー・ボザー・ユー」(2018年)おすすめ韓国映画のDVD(Amazon) 「箪笥」(2003年) 「地球を守れ!」(2003年) 「殺人の追憶」(2003年) 「ブラザーフッド」(2004年) 「グエムル-漢江の怪物-」(2006年) 「グッド・バッド・ウィアード」(2008年) 「母なる証明」(2009年) 「悪魔を見た」(2010年) 「スノーピアサー」(2013年) 「正しい日 間違えた日」(2014年) 「お嬢さん」(2016年) 「新感染 ファイナル・エクスプレス」(2016年) 「哭声/コクソン」(2016年) 「夜の浜辺でひとり」(2016年)
2019年10月14日
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「バジュランギおじさんと、小さな迷子」(原題:Bajrangi Bhaijaan)は、2015年に公開されたインドのドラマ映画です。カビール・カーン監督、K.V.ヴィジャエーンドラ・プラサード脚本、サルマン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、ナワーズッディーン・シッディーキー、カリーナ・カプールら出演で、インドのイスラム寺院を訪れた帰りに母親とはぐれ、迷子になったパキスタン人の少女を、敬虔なヒンドゥー教信者のパワンが保護し、故郷に送り届ける道中を描いています。「ダンガル きっと、つよくなる」(2016年)、「バーフバリ 王の凱旋」(2017年)に次いで、インド映画歴代第三位の興行収入を記録した作品です。 「バジュランギおじさんと、小さな迷子」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:カビール・カーン脚本:カビール・カーン/パルヴィーズ・シャイク /K.V.ヴィジャエーンドラ・プラサード/カウサル・ムニール原案:K.V.ヴィジャエーンドラ・プラサード出演:サルマン・カーン(パワン・クマール・チャトラヴェーディー、バジュランギ) ハルシャーリー・マルホートラ(シャヒーダー、ムンニー) カリーナ・カプール(ラスィカー) ナワーズッディーン・シッディーキー(チャーンド・ナワーブ) メヘル・ヴィジュ(シャヒーダーの母) アンマール・アニーズ・カーン(バジュランギの友人) クシャール・パワール(カーミル・ユースフ) ミール・サルワール(ラウフ、シャヒーダーの父) カムレーシュ・ギル(列車の乗客) オム・プリ(マウラナ・アサド ) シャーラト・サクセーナ(ダーヤナンド、ラスィカーの父) ラスィカーの母 - アルカ・カウシャル(英語版) アドナン・サミー(Bhardo Jholi Meri のシーン) ラジェシュ・シャルマ(ハーミド・カーン) クルナル・パンディット(ヴァルダン) ムルサレーン・クレシ(ボー・アリ) マノージュ・バクシ(アーミル・クレシ警部) ハルッシュ・A・シン(シャムシェール・アリ) ほか【あらすじ】パキスタンの小さな村に住む少女シャヒーダー(ハルシャーリー・マルホートラ)は生まれつき言葉を話すことができず、長老に勧められた母がシャヒーダーを連れてインドのデリーにある聖廟を参拝します。その帰路、インド・パキスタンの国境検問所付近で停車中の列車から降りたシャヒーダーは、動き出した列車に置き去りにされてしまいます。母は娘を探しますが、列車は既に国境を越えており、戻ることはできませんでした。インドに取り残されたシャヒーダーは貨物列車に乗り込みヒンドゥー教の聖地であるハリヤーナー州クルクシェートラに辿り着き、ヒンドゥー教の熱心な信者であるインド人のパワン(サルマン・カーン)と出会います。パワンはシャヒーダーを警察に預けようとしますが断られ、彼女を連れて自身が暮らすデリーに向かいます。パワンは婚約者ラスィカー(カリーナ・カプール)の自宅にシャヒーダーを住まわせて彼女の故郷を探そうとしますが、ラスィカーの父ダーヤナンド(シャーラト・サクセーナ)は難色を示します。ラスィカーが親の勧める縁談を反故にしてパワンと婚約したことを快く思っていないダーヤナンドは、「半年の間に自分の力で家の購入費を稼ぐこと」を結婚の条件としてパワンに示しており、シャヒーダーの故郷探しよりも稼ぐことを優先するようパワンに迫ります。ある日、街中ではぐれたシャヒーダーがモスクで祈る姿を目撃したパワンは、彼女がムスリムであることを知ります。さらにクリケットのテレビ中継でシャヒーダーがパキスタンのチームを応援していたことから、彼女がパキスタン人であることを知ります。歴史や宗教、経済など、様々な点でインドと激しく対立するパキスタンを嫌悪するダーヤナンドは、激怒しシャヒーダーをパキスタン大使館経由でパキスタンに追い返すようにパワンに迫りますが、大使館は反パキスタン暴動の影響で閉鎖されてしまい、ビザを入手することができなくなります。困り果てたパワンはダーヤナンドの知り合いの旅行代理店にシャヒーダーを預けて帰ろうとしますが、思い直して旅行代理店の男を追うと、彼はシャヒーダーを売春宿に売り飛ばそうとしていました。激怒したパワンは売春宿からシャヒーダーを取り戻し、彼女を自ら両親のもとに送り届けようと決意します。パワンとシャヒーダーは事情を知った密入国業者ボー・アリ(ムルサレーン・クレシ)や国境警備隊の助けでパキスタンに入国しますが、途中でスパイ容疑をかけられ警察に逮捕されてしまいます。警察署にあったカレンダーの写真が故郷の場所だとシャヒーダーに示唆されたパワンは警察署を脱走、その場所を探そうとします。特ダネ目的で二人を追ってきたテレビ・リポーターのナワーブ(ナワーズッディーン・シッディーキー)も、事情を知って二人に協力を申し出ます。途中、モスクで一夜を明かした三人は宗教学者アサド(オム・プリ)の協力で写真の場所を探し、シャヒーダーの故郷がアザド・カシミール(パキスタンが実効支配しているカシミール)付近らしいと聞かされます。アザド・カシミールに向かう途中、ナワーブは社長に自身が撮影した映像を放送してシャヒーダーの両親を探そうとしますが、「話題性がない」と拒否されてしまいます。翌朝、ナワーブはパワンとシャヒーダーが聖廟に行っている間に YouTube に映像をアップロードしてシャヒーダーの両親を探そうとします。彼がアップロードした映像にシャヒーダーの母が映り込んでいることを知ったパワンとナワーブは、彼女が乗っていたバスを見付け出し、シャヒーダーの故郷がスルターンプリであることを突き止めます。しかし、途中で警察の検問に遭遇、囮になって警察を引き付けたパワンは、逮捕され拷問を受けます・・・。【レビュー・解説】ヒンドゥー・イスラム、インド・パキスタンの対立という政治色の濃い背景に、人間愛を描く巧みな脚本と個性派俳優の好演で商業的大成功を収めた、歌あり、踊りあり、ロマンスあり、旅ありのインド産ヒューマン・コメディ&ドラマ映画です。宗教・印パ対立を背景に人間愛を描く巧みな脚本で大ヒットしたインド産コメディ政治色の濃い作品父がヒンドゥ教徒、母がイスラム教徒で、伯父がザキール・フセイン元インド大統領というカビール・カーン監督は、自身はアフガニスタンの山岳少数民族パサン族の末裔だと信じています。もともとドキュメンタリー作家だった彼は、本作に限らず、政治色が濃い作品を制作する傾向があります。「カブール・エキスプレス」(2006年):タリバン以降のアフガニスタンが題材「New York」(2009年):9.11以降、生活が一変してしう移民が題材「タイガー 伝説のスパイ」(2012年):インド・パキスタスタンの対立が背景「Phantom」(2015年:ムンバイ同時多発テロが題材「Tubelight」(2017年):1962年の中印国境紛争が題材本作はヒンドゥー教とイスラム教、インドとパキスタンの対立を背景にしていますが、作品中に政治家は登場せず、また対立の歴史が紐解かれることもありません。こうした宗教的、政治的な問題を背景に、インドの敬虔なヒンドゥー教徒の男が、インドで迷子になったパキスタンのイスラム教徒の少女を、両国の人々に支えられながら幾多の苦難を乗り越え両親の元に送り届けるまでを、コメディとロマンスを織り交ぜながら愛の物語として描いています。 商業的成功をもたらした巧みな脚本政治色が濃い映画は商業的成功が難しいのですが、本作がインド映画歴代三位の興行収入を記録する大ヒットになった理由は、政治的な背景を持ちながらもひたすら人々の愛の物語として描いている点にあります。脚本を書いたのが、「マッキー」(2013年)、「バーフバリ 伝説誕生」(2015年)、「バーフバリ 王の凱旋」(2017年)などを手掛けたK.V.ヴィジャエーンドラ・プラサードです。159分にも及ぶ大作映画ですが、デリーを舞台にした前半、シャヒーダーの故郷を目指すロードムービーの後半と、前半後半で設定を変え、飽きさせることなくぐいぐいと観客を惹きつけるのは彼の脚本ならです。K.V.ヴィジャエーンドラ・プラサードは、マレーシア映画「Poovinu Puthiya Poonthennal」(1986年)のリメイクであるタミル語映画「Poovizhi Vasalile」(1987年)に触発されて本作を書いたと語っています。「Poovizhi Vasalile」は、殺人を目撃し、母を殺された聾唖の少年を引き取る男を描いたクライム・サスペンスですが、本作のシャヒーダーも言葉を発することができず、身の上を語ることができないことから、謎解き要素が加わり、より魅力的なストーリー・テリングになっていることがわかります。個性派閥俳優たちの好演K.V.ヴィジャエーンドラ・プラサードの素晴らしい脚本を演じる個性派閥俳優たちも強者揃いです。主人公のパワンを演じたサルマン・カーンは、強固な肉体美を誇る、インドを代表するアクション・スターですが、本作ではこれまでのイメージを捨て、強いが純粋な心の持ち主で、全ての人に敬意と愛を抱き、正直で決して悪いことをしない男を演じています。声を出せない6歳の少女シャヒーダーには、眼と表情だけでの演技が求められますが、この大役に抜擢されたのがハルシャーリー・マルホートラです。当時6歳だった彼女は、テレビドラマの子役やコマーシャル等に出演していたものの、映画出演は初めてでしたが、監督の演技指導で大きく成長し、眼と表情だけで感情を表現する彼女の演技には大人顔負けの説得力があります。サルマン・カーンも「彼女と一緒に演技ができて、素晴らしい時間になった。6歳にして俳優が必要な全てのものを持っている。」と、絶賛しています。パワンの婚約者ラスィカーを演じたカリーナ・カプールはインドのトップ女優の一人ですが、彼女は同じくインド映画の大ヒット作「きっと、うまくいく」(2009年)にも出演しています。トップ女優だけあって演技も確かですが、本作も記録的なヒット作品となり、ミューズ的な存在でもあります。パワンと対照的なチャーンド・ナワーブ記者を演じるナワーズッディーン・シッディーキーも味のある演技を見せてくれます。彼は、「女神は二度微笑む」(2012年) 、「めぐり逢わせのお弁当」(2013年)、「LION/ライオン 25年目のただいま」(2016年)などにも出演しており、さらなる活躍が期待される俳優です。インド・パキスタンの分断本作ではインド・パキスタン問題の経緯について一切触れられていませんが、現在のインド、パキスタンはかつてイギリスの植民地で、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が共に暮らしていました。ヒンズー教は多神教で、偶像崇拝を行い、牛は神聖な動物で牛肉を食べることは禁止されています。一方、イスラム教は一神教で、偶像崇拝は禁止、牛肉は食べますが、豚肉は不浄な動物として食べることが禁止されています。このように彼らは宗教的に反目しやすい状況にありましたが、イギリスは自国に対してインド国民の不満が向かないように、こうした宗教的な反目を利用してヒンドゥー教とイスラム教の信者が互いに対立するよう統治したと言われています。結局、ヒンドゥー教側にもイスラム教側にもイギリスからの独立の機運が高まり、1947年にイギリス領インド帝国が解体、両者は反目したままインド連邦とパキスタン(後にバングラデシュとして独立する飛地の東パキスタンを含む)の二国に分かれて独立しました。このインド・パキスタン分離独立は、インド独立運動における最大の悲劇と言われ、インドとパキスタンの対立は今日に至るまで続いています。本作の後半の舞台となるカシミール地方は、イスラム教徒が多数を占めていながら藩王がヒンドゥー教徒だったことからその帰属が捻れてしまった地域で、インド、中国、およびパキスタンの3カ国が領有権を主張しています。インドはジャンムー・カシミールの藩王が歴史的に統治していた領域全体の領有を主張、ジャンムー、ラダクおよびシアチェン氷河のほとんどを支配中国はアクサイチン地方を統治、1963年からはシャクスガン渓谷(克里青河谷)も統治パキスタンは朝採・カシミール地方を実効支配する一方、中国の支配地域を除いたカシミール地方全域を自国の領土であると主張しています。カシミール地方の領有をめぐって、インドとパキスタンは1947年、1965年、1971年の三度の印パ戦争を、インドと中国は1962年に一度、中印国境紛争を起こしています。また、インドのジャンムー・カシミール州では1990年以来、分離独立派とインド軍の衝突が繰り返され、数千人規模の死者を出しています。インドはカシミール州に対して70年もの間、自治権を認めて来ましたが、2019年になって自治権を剥奪、インド政府の直轄地にする決定を行いました。これにパキスタン政府が強く反発、在パキスタンのインド大使館員を追放するなど両国の緊張が高まり、核を保有する両国に国連安保理が自制を促す事態となっています。カシミールで撮影する意味ヒマラヤ山脈の麓にあるカシミール地方はおよそインドとは思えない美しい景観で、 「きっと、うまくいく」(2009年)や「命ある限り」(2012年)のロケ地にもなっていますが、このような紛争の場であることは痛ましい限りです。カシミール、特に山岳地帯へのアクセスは容易でなく、悪天候が続いたり寒さに悩まされたりと撮影は困難を極めましたが、「旅行に行くときも脚本を書いてから出かける」と揶揄されるほどロケ地にこだわりを持つカビール・カーン監督にとって、地理的、歴史的、政治的に意味があるカシミール以外での撮影は最初からあり得ませんでした。シャヒーダーの故郷がパキスタンが実効支配するアサド・カシミールであること、カシミールのインド・パキスタン国境でクライマックスを迎えること、国境を挟んでインド・パキスタンの人々が集結すること・・・。何も知らずに観ると見逃してしまいそうですが、単に美しいからカシミールで撮影されたのではない、この映画にはカシミールなければならない強い必然性があったわけです。簡単には解決しそうにないインド・パキスタン問題ですが、本作では宗教を超えて人々が助け合います。カビール・カーン監督の両親や、映画「マイネーム・イズ・ハーン」(2010年)、「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」(2017年)などにも見られるように、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒、異教徒同士の結婚はそれほど珍しいことではありません。うまくやる秘訣は宗教にかかわる文化や慣習に絶対的な価値を見いださず(世俗化)、文化や慣習の違いはそんなもんだと流して気にしないことだそうです。しかし、本作で描かれているのは一種のユートピアであり、国と国との関係となると世俗化を受け入れる穏健派ばかりではありません。急進的な勢力としてイスラム過激派が有名ですが、ヒンドゥー教にも急進的な勢力があり様々な問題を起こしています。国と国との関係となるとなかなかうまくいかないのは、そうした急進的な勢力があるからでしょうが、いつかしら国と国との関係も解決できるようであった欲しいと思います。サルマン・カーン(パワン・クマール・チャトラヴェーディー、バジュランギ)サルマン・カーン(1965年〜)は、マディヤ・プラデーシュ州出身のインドの映画俳優、プロデューサー。アクション映画を中心に80作以上のボリウッドに出演、インドの映画史で最も有名な俳優の一人とみなされている。「タイガー 伝説のスパイ」(2012年)、「スルターン」(2016年)などに出演している。ハルシャーリー・マルホートラ(シャヒーダー、ムンニー)ハルシャーリー・マルホートラ(2008年〜)はムンバイ出身のインドの子役、モデル。2012年にテレビドラマの子役としてデビュー、TVCMにも多数出演、本作で映画デビューを果たす。本作では、言葉を発することができない6歳の少女という難役に。オーディションに集まった約5,000人の中から選ばれた。監督の演技指導で大きく成長、眼と表情だけで感情を表現するという大人顔負けのパフォーマンスを見せ、共演のサルマン・カーンも「6歳にして俳優が必要な全てのものを持っている」と絶賛。カリーナ・カプール(ラスィカー)カリーナ・カプール(1980年〜)、ボンベイ出身のインドの女優。祖父や父も俳優という芸能一家に生まれ、2000年にヒロイン役で映画デビュー、以降、以降、歴史物、サスペンス、社会派ドラマ等、多彩な映画に主役級で出演し、インドのトップ女優の一人となる。「きっと、うまくいく」(2009年)などに出演している。ナワーズッディーン・シッディーキー(チャーンド・ナワーブ)ナワーズッディーン・シッディーキー(1974年〜)は、ウッタル・プラデーシュ州出身のインドの俳優。俳優を志し1996年に映画デビュー、その後苦しい下積み時代が続くが、2000年代後半から演技が高く評価されるようになる。「女神は二度微笑む」(2012年) 、「めぐり逢わせのお弁当」(2013年)、「LION/ライオン 25年目のただいま」(2016年)などに出演している。【動画クリップ(YouTube)】チャーンド・ナワーブのキャラクターを触発した実在のパキスタン人記者【撮影地(グーグルマップ)】エンディングの国境のシーンが撮影されたカシミールのタジワス氷河標高3000メートルの高地に7000人のエキストラを集めて撮影された。 「バジュランギおじさんと、小さな迷子」のDVD(楽天市場)【関連作品】カビール・カーン監督xサルマン・カーンのコラボ作品(楽天市場)「タイガー 伝説のスパイ」(2012年):輸入盤、日本語なしK.V.ヴィジャエーンドラ・プラサード脚本作品のDVD(楽天市場) 「マッキー」(2012年) 「バーフバリ 伝説誕生」(2015年) 「バーフバリ2 王の凱旋」(2017年)サルマン・カーン出演作品のDVD(楽天市場) 「スルターン」(2016年) カリーナ・カプール出演作品のDVD(楽天市場) 「きっと、うまくいく」(2009年)ナワーズッディーン・シッディーキー出演作品のDVD(楽天市場) 「女神は二度微笑む」(2012年 ) 「めぐり逢わせのお弁当」(2013年) 「LION/ライオン 25年目のただいま」(2016年)その他、おすすめインド映画のDVD(楽天市場) 「ムトゥ 踊るマハラジャ」(1995年) 「その名にちなんで」(2006年) 「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」(2007年) 「マダム・イン・ニューヨーク」(2010年) 「マイネーム・イズ・ハーン」(2010年) 「ロボット」(2010年) 「神様がくれた娘」(2011年) 「スタンリーのお弁当箱」(2011年) 「バルフィ!人生に唄えば」(2012年) 「命ある限り」(2012年) 「PK ピーケイ」(2014年) 「ダンガル きっと、つよくなる」(2016年)
2019年10月03日
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「アベンジャーズ/エンドゲーム」(原題:Avengers: Endgame)は、2019年公開のアメリカのスーパーヒーロー映画です。アメリカン・コミックのマーベル・コミック「アベンジャーズ」の実写映画化作品で、「アベンジャーズ」(2012年)、「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(2015年)、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(2018年)に続くシリーズ四作めの完結編です。マーベル・スタジオ製作、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ配給で、マーベル・コミックの実写映画を同一の世界観のクロスオーバー作品として扱う「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)シリーズの第22作めです。アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ監督、ロバート・ダウニー・Jr、クリス・エヴァンス、マーク・ラファロ、クリス・ヘムズワース、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、ドン・チードルら出演で、最強、最悪の敵サノスによって全宇宙の生命の半分が消し去られた世界を舞台に、アイアンマン、キャプテン・アメリカら地球の平和を守る為に戦うヒーローチーム、アベンジャーズがサノスにリベンジする為に再び立ち上がる姿を描いています。「アバター」(2009年)を破り、世界歴代1位の興行収入を記録した作品です。 「アベンジャーズ/エンドゲーム」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ脚本:クリストファー・マルクス/スティーヴン・マクフィーリー原作:スタン・リー/ジャック・カービー出演:ロバート・ダウニー・Jr(トニー・スターク / アイアンマン) クリス・エヴァンス(スティーブ・ロジャース / キャプテン・アメリカ) マーク・ラファロ(ブルース・バナー / ハルク) クリス・ヘムズワース(ソー) スカーレット・ヨハンソン(ナターシャ・ロマノフ / ブラック・ウィドウ) ジェレミー・レナー(クリント・バートン / ホークアイ / ローニン) ドン・チードル(ジェームズ・ローディ・ローズ / ウォーマシン / アイアンパトリオット) ポール・ラッド(スコット・ラング / アントマン) ブリー・ラーソン(キャロル・ダンヴァース / キャプテン・マーベル) ブラッドリー・クーパー(ロケット) カレン・ギラン(ネビュラ) ジョシュ・ブローリン(サノス) グウィネス・パルトロー(ペッパー・ポッツ / レスキュー) テッサ・トンプソン(ヴァルキリー / ブリュンヒルデ) ダナイ・グリラ(オコエ) ウィンストン・デューク(エムバク) タイカ・ワイティティ(コーグ) エマ・ファーマン(キャシー・ラング) マリサ・トメイ(メイ・パーカー) 真田広之(アキヒコ) ジョー・ルッソ(嘆く男) ベネディクト・カンバーバッチ(スティーヴン・ストレンジ / ドクター・ストレンジ) トム・ホランド(ピーター・パーカー / スパイダーマン) チャドウィック・ボーズマン(ティ・チャラ / ブラックパンサー) クリス・プラット(ピーター・クイル / スター・ロード) デイヴ・バウティスタ(ドラックス) ヴィン・ディーゼル(グルート) ポム・クレメンティエフ(マンティス) エリザベス・オルセン(ワンダ・マキシモフ / スカーレット・ウィッチ) エヴァンジェリン・リリー(ホープ・ヴァン・ダイン / ワスプ) ミシェル・ファイファー(ジャネット・ヴァン・ダイン) マイケル・ダグラス(ハンク・ピム博士) アンソニー・マッキー(サム・ウィルソン / ファルコン) セバスチャン・スタン(バッキー・バーンズ / ウィンター・ソルジャー) レティーシャ・ライト(シュリ) ジェイコブ・バタロン(ネッド・リーズ) コビー・スマルダーズ(マリア・ヒル) サミュエル・L・ジャクソン(ニック・フューリー) ジョン・ファヴロー(ハッピー・ホーガン) タイ・シンプキンス(ハーレー・キーナー) ロス・マーカンド(ヨハン・シュミット / レッドスカル) ウィリアム・ハート(サディアス・サンダーボルト・ロス) ナタリー・ポートマン(ジェーン・フォスター) ベネディクト・ウォン(ウォン) アンジェラ・バセット(ラモンダ) カラン・マルヴェイ(ジャック・ロリンズ) スタン・リー(運転手) ゾーイ・サルダナ(ガモーラ) トム・ヒドルストン(ロキ) フランク・グリロ(ブロック・ラムロウ) マキシミリアーノ・ヘルナンデス(ジャスパー・シットウェル) ロバート・レッドフォード(アレクサンダー・ピアース) ティルダ・スウィントン(エンシェント・ワン) ジョン・スラッテリー(ハワード・スターク) ジェームズ・ダーシー(エドウィン・ジャーヴィス) ヘイリー・アトウェル(マーガレット・エリザベス・ペギー・カーター) レネ・ルッソ(フリッガ) レクシー・レイブ(モーガン・スターク) ほか【あらすじ】2018年、タイタン星人サノス(ジョシュ・ブローリン)によるデシメーション(インフィニティ・ストーンを使った大量殺戮)で全宇宙の生命の半数が消滅してから3週間後、宇宙を漂流していたアイアンマン/トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)とネビュラ(カレン・ギラン)は、先にアベンジャーズに合流していたキャプテン・マーベル/キャロル・ダンヴァース(ブリー・ラーソン)の助けで地球に戻ります。キャプテン・アメリカ・スティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)をはじめとするアベンジャーズの生存者たちと、キャロル、ロケット(ブラッドリー・クーパー)、ネビュラは、失った者たちを取り戻すために、再度使用されたインフィニティ・ストーンの波紋をたどり、隠遁していたサノスを急襲します。しかしインフィニティ・ストーンはサノスの手で破壊されており、失った者たちが戻ることはありませんでした。ソー(クリス・ヘムズワース)がサノスにとどめを刺し、戦いにひとつの区切りがつきます。それから5年後の2023年、多くの喪失を経験しながらも世界は平穏を取り戻し、残されたアベンジャーズのメンバーたちも世界の治安維持に努めています。偶然にも量子の世界から抜け出したアントマン/スコット・ラング(ポール・ラッド)はアベンジャーズに接触を図り、時間の概念を超越する量子の世界を用いたタイムトラベルを提案します。ハルクの肉体に自身の精神を宿すことを選んだブルース・バナー(マーク・ラファロ)が装置を作り、トニー・スタークも最愛の娘モーガン(レクシー・レイブ)を案じつつも失ったスパイダーマン/ピーター・パーカー(トム・ホランド)を取り戻すべく参加します。酒浸りになり、見る影もないほどに落ちぶれていたソーはブルースとロケットに連れ出され、家族を失い自暴自棄に陥っていたホークアイことクリント・バートン(ジェレミー・レナー)はブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)に説得され舞い戻ります。アベンジャーズは「時間泥棒作戦」を立て、三つのグループに分かれて、サノスが手に入れる前にストーンを回収すべく過去へと飛びます。2012年、チタウリとの決戦の舞台となったニューヨークで、ブルースはサンクタムを人知れず守っていたエンシェント・ワン(ティルダ・スウィントン)に出会い、彼女の持つタイム・ストーンを譲り受けようとしますが、ストーンの不在が時間の流れを分岐させる危険性があると警告されます。しかし、ドクター・ストレンジがサノスにストーンを渡したと伝え聞いた彼女は顔色を変え、各時代にインフィニティ・ストーンを返却することを条件にストーンを貸し出します。スティーブ・ロジャースは過去の自身と決闘した末にマインド・ストーンを回収しますが、スコット・ラングとトニー・スタークはスペース・ストーンの奪取に失敗します。トニーとスティーブはピム粒子とスペース・ストーンを回収するため、さらに過去となる1970年を訪れてそこでトニーの父親、ハワード・スターク(ジョン・スラッテリー)に出会い陸軍のキャンプからそれらを盗み出します。2013年、ダークエルフ侵攻直前のアスガルドで、ソーとロケットはジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)に宿っていたリアリティ・ストーンを回収します。土壇場で怖じ気づきロケットに叱咤されたソーは、偶然出会った在りし日の母フリッガ(レネ・ルッソ)に諭されて自信を取り戻し、破壊される前のムジョルニアも回収します。2014年、 スター・ロード/ピーター・クイル(クリス・プラット)が訪れる直前の惑星モラグでは、ローディ(ドン・チードル)とネビュラがクイルを待ち伏せしてパワー・ストーンを回収します。ローディはストーンを持って現代へ戻りますが、ネビュラは2014年のサノスに囚われ、当時のネビュラが代わりに現代に時間移動します。2014年に時間移動したクリントとナターシャはこの時代のヴォーミアへ向かい、番人を勤めるレッドスカル/ヨハン・シュミット(ロス・マーカンド)から、ソウル・ストーンを入手する為には愛する者の犠牲が必要なことを聞きます。二人のうちどちらかが犠牲にならなければならないと悟り、家族を喪ったクリントは自らの命を差し出そうとしますが、ナターシャはそれを制して崖から身を投げ、生き残ったクリントにストーンが渡ります。2023年にトニーたちが戻り、全てのインフィニティ・ストーンが揃うと、ブルースは右手用の新たなガントレットを嵌め、指を鳴らします。ブルースの右腕と引き換えにデシメーションによって消え去った者たちがこの世に舞い戻るや否や、2014年から訪れたネビュラの手引きで未来へ侵入したサノスがアベンジャーズの施設を破壊します。半数の生命を消滅させても、残った生命の中から新しい世界を受け入れず抵抗する者が現れると悟ったサノスは、世界を粉々に破壊しストーンを使って新しい世界を作り直すと宣言します。スティーブ、トニー、ソーの3人はサノスに挑みますが返り討ちに遭い、さらにサノスの配下が地球への侵攻を開始します。アベンジャーズたちは追い詰められますが、戦場にスリング・リングのゲートが開き、蘇ったヒーローたちとヴァルキリー(テッサ・トンプソン)らアスガルド軍、ワカンダ軍、マスターズ・オブ・ミスティック・アーツの魔術師たち、スーツを装着したペッパー(グウィネス・パルトロー)、そしてラヴェジャーズが加勢し、サノス軍との全面対決が始まります・・・。「アベンジャーズ」(2012年)のあらすじ謎の敵が現れ、地球は滅亡の危機に陥る。秘密組織S.H.I.E.L.D.のニック・フューリーは、アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ハルクら最強のヒーローたちを集めたスーパーチーム“アヴェンジャーズ”を結成します。だが、意思に反してチームの一員になった彼らは共に戦う事を拒絶。そんな中、恐るべき敵の計画が進行していきます・・・。「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(2015年)のあらすじ人類や愛する人々を危機的状況から守り続けてきたアベンジャーズのメンバーたち。その中心人物であるトニー・スタークは最強の平和維持システムとして人工知能「ウルトロン」を完成させます。しかし、人工知能は人類こそが平和を脅かす唯一の存在であると判断します。ウルトロンから人類を救うためにアベンジャーズが立ち上がります・・・。 「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(2018年)のあらすじ異世界の軍隊や人工知能ウルトロンなどから、度重なる地球の危機を救ってきたアベンジャーズ。そんな彼らの前に、6つすべてをそろえると世界を滅ぼせるほどの無限の力を手に入れられるというインフィニティ・ストーンを狙う、最悪の敵サノスが出現します。サノスの野望を打ち砕くべく、アベンジャーズが立ち上がります・・・。【レビュー・解説】矢継ぎ早の新作、新キャラクター導入でマンネリ回避しながらアベンジャーズとともに発展してきたマーベル・シネマティック・ユニバースのクライマックスは、強敵を前にヒーロー集団が行き詰まりを見せる興味深い設定とオールスター・キャストによるスリリングな大団円が魅力の叙事詩的英雄談の娯楽大作です。強敵に行き詰まるアベンジャーズとオールスターの大団円が魅力の叙事詩的英雄談オールスター・キャストによるスリリングな展開の娯楽大作私はそれほど熱心なマーベル映画ファンというわけではなく、これまでに公開された「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)シリーズ全23作のうちにもまだ見ていないものが2〜3割あります。「アベンジャーズ」シリーズも、第一作の「アベンジャーズ」(2012年)以外は見ていなかったので、今回、第二作以降の三作を続けてみてました。「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(2015年):141分「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(2018年)149分「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年) 181分いずれも二時間超、「エンドゲーム」に至っては三時間超の大作ですが、さすが、マーベル・スタジオ、類を見ないほど大規模なオールスター・キャストにもかかわらず軸のしっかりとした演出で、中だるみのないスリリングな展開を楽しませてくれました。アベンジャーズとともに発展したマーベル・シネマティック・ユニバース「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)は、アイアンマン、ハルク、ソー、キャプテン・アメリカといったキャラクターが核となり、野球で言うところのオールスター戦に相当する「アベンジャーズ」シリーズと共に発展してきました。個人的な好みで言えばアイアンマンとハルクは面白く、ソーとキャプテン・アメリカはいまいちだった記憶があるのですが、オールスター・キャストの「アベンジャーズ」シリーズの相乗効果でキャラクターの対比が際立ち、「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズ全体の魅力が嵩上げされました。因みに「インクレディブル・ハルク」(2008年)のハルク役はエドワード・ノートンでしたが、「アベンジャーズ」シリーズではこれをマーク・ラファロが演じ、すっかり定着してしまいました。もちろん、マーク・ラファロの好演があればこそですが、「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズにおける「アベンジャーズ」シリーズの影響力の大きさが伺われます。フェーズ公開年タイトル評価*制作費(百万ドル)興行収入(百万ドル)米国全世界 12008年アイアンマン93%1403185852008年インクレディブル・ハルク67%1501342632010年アイアンマン273%2003126232011年マイティ・ソー77%1501814492011年キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー80% 1401763702012年アベンジャーズ92%2206231518 22013年アイアンマン379%20040912142013年マイティ・ソー/ダーク・ワールド67%1702066442014年キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー90%1702597142014年ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー91%1703337732015年アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン75%33045914052015年アントマン83%130180519 32016年シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ91%25040811532016年ドクター・ストレンジ89%1652326772017年ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス84% 2003898632017年スパイダーマン:ホームカミング92%1753348802017年マイティ・ソー バトルロイヤル93%1803158532018年ブラックパンサー96%20070013462018年アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー85%31667820482018年アントマン&ワスプ88%162 2166222019年キャプテン・マーベル78% 152426 11282019年アベンジャーズ/エンドゲーム94%35685827962019年スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム90%160 388 1127矢継ぎ早の新キャラクター導入でマンネリ回避しながら迎えた大団円その後のフェーズ2で、アントマンやガーディアンズ・オブ・ギャラクシーが主役となる映画が公開されましたが、「アベンジャーズ」シリーズ第二弾の「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(2015年)に登場することはありませんでした。クイックシルバー、スカーレット・ウィッチ、J.A.R.V.I.S. (ジャーヴィス)とそれなりに魅力的なサブ・キャラクターが登場したものの、アイアンマン、ハルク、ソー、キャプテン・アメリカといった当初からのキャラクターに依存する「アベンジャーズ」シリーズにマンネリが囁かれたのもこの頃です。そうしたファンの声を察知したのか、マーベル・スタジオはフェーズ2のアントマン、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーに続いて、フェーズ3でドクター・ストレンジ、スパイダーマン、ブラックパンサー、キャプテン・マーベルがそれぞれ主役を演じる作品を矢継ぎ早に公開、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(2018年)と「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)は当初からのキャラクターに加え、これらのオールスター・キャストが一堂に会する大団円となりました。プロデューサーを務めるマーベル・スタジオ社長ケヴィン・ファイギは、本作は2008年公開の第一作「アイアンマン」から10年以上にわたって展開してきた「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)シリーズの様々な「フィナーレ」になると語っていますが、まさにシリーズの集大成にふさわしい作品となりました。強敵を前にアベンジャーズのリベラルな仲間たちが行き詰まる興味深い設定「膨れ上がった生命によって宇宙の資源が食い尽くされる事を阻止し、均衡を保つために、宇宙の半分の生命を消し去る」という「インフィニティー・ウォー」のサノスの野望を、とても気に入っています。この現実味の有る功利的な設定の前に、地球の平和の為、宇宙の平和の為というアベンジャーズのリベラルな発想が色あせてしまうほどです。これは、アメリカのトランプ政権や欧州の極右勢力による反移民政策の前に従前のリベラルな勢力が手こずっている昨今の世界情勢と重なるようで、非常に興味深い設定です。「インフィニティー・ウォー」では、サノスによるデシメーション(インフィニティ・ストーンの力を使った大量殺戮)で、全宇宙の生命の半数がまんまと消し去られてしまいますが、「エンドゲーム」でこの戦いにどう決着をつけるのかが注目されます。「半数の生命を消滅させても、残った生命の中から新しい世界を受け入れず抵抗する者が現れることに気づき、世界を粉々に破壊し新しい世界を作り直す」というサノスは、現在の保守反動勢力に内在する危険性を象徴していると言えるかも知れません。マーベル・シネマティック・ユニバース/アベンジャーズの今後「アベンジャーズ/エンドゲーム」で大団円を迎えたアベンジャーズですが、あくまでも初代アベンジャーズを牽引したアイアンマンやキャプテン・アメリカがフェード・アウトしていくだけであり、「アベンジャーズ」シリーズや「マーベル・コミック・ユニーバース」が終わったしまうわけではありません。今後も、フェーズ4映画「ブラック・ウィドウ」(2020年公開予定)ドラマ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」(2020年配信予定)映画「Eternals」(2020年公開予定)映画「シャン・チー&ザ・レジェンド・オブ・ザ・テン・リングス」(2021年公開予定)ドラマ「ワンダヴィジョン」(2021年配信予定)映画「ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス」(2021年公開予定)ドラマ「ロキ」(2021年配信予定)アニメ「What If…?」(2021年配信予定)ドラマ「ホークアイ」2021年配信予定映画「マイティ・ソー/ラブ&サンダー」(2021年公開予定)と強力な作品が目白押しです。なお、フェーズ4では、映画に加えてドラマ配信によって「マーベル・コミック・ユニーバース」シリーズを増強していく計画のようです。フェーズ5〜/その他映画「X-MEN:The New Mutants」(2020年公開予定)映画「ブラックパンサー2」(2022年公開予定)映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3」の3作目(公開時期未定)映画「キャプテン・マーベル2」の2作目(公開時期未定)映画「アベンジャーズ5」シリーズ5作目(公開時期未定)映画「ブレイド」(公開時期未定)映画「ファンタスティック・フォー」(公開時期未定)また、ディズニーが21世紀フォックスを買収したことにより、21世紀フォックスが権利を有するX-MEN、ファンタスティック・フォーといったキャラクターが、今後、マーベル・シネマティック・ユニバースに登場する可能性が高まっています。アイアンマン、ハルク、ソー、キャプテン・アメリカといったキャラクターが核となり、オールスター・キャストの「アベンジャーズ」シリーズと共に発展してきた「マーベル・シネマティック・ユニバース」は、初代アベジャースの完結編である「アベンジャーズ/エンドゲーム」で「アバター」(2009年)を破り世界歴代1位の興行収入を記録するという快挙を成し遂げましたが、今後も休むこと無く強力なキャラクターと作品で楽しませてくれそうです。ロバート・ダウニー・Jr(トニー・スターク / アイアンマン)クリス・エヴァンス(スティーブ・ロジャース / キャプテン・アメリカ)マーク・ラファロ(ブルース・バナー / ハルク)クリス・ヘムズワース(ソー)スカーレット・ヨハンソン(ナターシャ・ロマノフ / ブラック・ウィドウ)ジェレミー・レナー(クリント・バートン / ホークアイ / ローニン)ドン・チードル(ジェームズ・ローディ・ローズ / ウォーマシン / アイアンパトリオット)ポール・ラッド(スコット・ラング / アントマン)ブリー・ラーソン(キャロル・ダンヴァース / キャプテン・マーベル)ブラッドリー・クーパー(ロケット)カレン・ギラン(ネビュラ)ジョシュ・ブローリン(サノス)グウィネス・パルトロー(ペッパー・ポッツ / レスキュー)テッサ・トンプソン(ヴァルキリー / ブリュンヒルデ)ダナイ・グリラ(オコエ)ベネディクト・カンバーバッチ(スティーヴン・ストレンジ / ドクター・ストレンジ)トム・ホランド(ピーター・パーカー / スパイダーマン)チャドウィック・ボーズマン(ティ・チャラ / ブラックパンサー)クリス・プラット(左端、ピーター・クイル / スター・ロード)デイヴ・バウティスタ(ドラックス)ヴィン・ディーゼル(グルート)エリザベス・オルセン(ワンダ・マキシモフ / スカーレット・ウィッチ)サミュエル・L・ジャクソン(ニック・フューリー)ゾーイ・サルダナ(ガモーラ)トム・ヒドルストン(ロキ)関連作品「アベンジャーズ」シリーズのDVD(楽天市場) 「アベンジャーズ」(2012年) 「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(2015年) 「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(2018年)「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズのDVD(楽天市場) 「アイアンマン」(2008年) 「インクレディブル・ハルク」(2008年) 「アイアンマン2」(2010年) 「マイティ・ソー」(2011年) 「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」(2011年) 「アイアンマン3」(2013年) 「マイティ・ソー/ダーク・ワールド」(2013年) 「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」(2014年) 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(2014年) 「アントマン」(2015年) 「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016年) 「ドクター・ストレンジ」(2016年) 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」(2017年) 「スパイダーマン:ホームカミング」(2017年) 「マイティ・ソー バトルロイヤル」(2017年) 「ブラックパンサー 」(2018年) 「アントマン&ワスプ」(2018年) 「キャプテン・マーベル」(2019年) 「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」(2019年)
2019年09月26日
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ライカの SUMMICRON-M 1:2/35を修理に出しがてら、購入したばかりの SONY α7 II とコンタックス・ヤシカ・マウントのツァイス・レンズを4本、カメラバックに詰め込んで、電車を乗り継ぎながらブラブラと散歩に出かけた。数十枚程度、撮ったのだが、驚いたのは、満充電で出かけたにも関わらず、電池が半日と持たないこと(@@)。ミラーレスであるが故、電源を投入する度に大画面の液晶が点灯し、かなりの電流を消費しているようだ。撮影している最中に、電池室が暖かくなるのが感じられるほどだ。これに対し、一眼レフのD610は必ずしも背面の大画面液晶を点灯する必要がない為、消費電流はさして多くない。撮影の仕方にもよるだろうが、自由気ままに撮っても優に一日は持つ。α7 はさらに電流の消費が激しいらしいので、α7 II にして正解だったが、それでも半日持たないのちょっと困る。スペア電池を調べてみると・・・、ソニー SONY アクセサリーキット ACC-TRW[ACCTRWC]カメラ本体の電池とは別に同時に充電できるよう簡易充電器とのパッケージだが、結構な値段だ。そこに朗報、カメラの電池はモバイルバッテリーでは充電できないと聞いていたが、カメラの本体のミニ USB 経由充電できる α7 はモバイルバッテリーでも充電できると言うのだ。家に、以前購入したモバイルバッテリーがあったので、試してみると、【PSE認証済】 モバイルバッテリー 大容量 10000mAh モバイルバッテリー pse認証 USB充電器 スマートフォン充電器 スマホ充電器 急速充電 タブレット 充電器 iPhone 充電器 iPhone 充電 USB 充電器 バッテリー 充電器 2ポート確かに充電できる。α7 の電池容量1020mAhに対して、モバイルバッテリーの容量は10000mAHと、容量的には問題ない。問題は充電時間だ。α7 の電池充電には、通常、4〜5時間ほどかかるようだ(別売の急速充電器を購入した場合は2時間程度)。本体添付のAC電源の出力は、5V、1.5Aだが、私のモバイルバッテリーには、5V、2.1A の出力端子があるので、4〜5時間以上かかることはなさそうだ。正確に時間を計測したわけではないが、空っぽだった電池が二時間後には満充電になっていた。これは使えるかも知れない。撮影の合間に一瞬にして満充電というわけにはいかないが、移動や休憩時にこまめにモバイルバッテリーで充電することにより、半日持たない動作時間をずるずると引っ張ることができる。うまく行けば、一日持たせることもできるかもしれない。次回の撮影が楽しみだ。追記:ライカ SUMMICRON-M 1:2/35の修理は35,000円、納期は4〜5ヶ月でした。フィルム式カメラ・レンズ専門の修理会社で、市場規模の縮小に併せて経営もスケール・ダウンしているが、修理できる職人が限られている為、修理に時間がかかってしまうとのこと。また、デジタル・カメラで活用しようとオールド・レンズを修理に持ち込む人も最近、増えているとのこと。
2019年09月18日
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メイン機種として使用しているニコンD610に、ヤシカ・コンタックス用のマウント・アダプターを介してツァイスレンズを装着してところ、画質の劣化が著しく使用を断念しました。これはニコンのカメラのフランジバックが長く、無限遠のピント得る為にアダプタにレンズを一枚噛ませており、これが画像の劣化の原因となっていました。ライカM用のマウント・アダプターも似た状況で、アダプタにレンズは噛ませていないもの、無限遠のピントが出ない為に接写しかできないという、ライカ使いには全く実用性のないものしかなく、購入を思いとどまりました。それでもオールド・レンズ活用の思いを断ち切れず、いろいろ調べた結果、フランジバックの短いミラーレス一眼のソニーα7シリーズが一般的に良いということがわかりました。α7シリーズは人気機種で、D610より格上ですが背に腹は代えられません。使用頻度の低いサブ機種ということで初代 α7 の中古でも良かったのですが、初代は電力消費が大きく電池がすぐなると聞いて、二代目のα7 IIを購入しました。併せてヤシカ・コンタックス用ツァイスレンズとライカM用レンズのマウントアダプターも購入しました。【購入したカメラとマウントアダプター】ソニー α7II ボディ [ILCE-7M2 B] 《納期約1−2週間》 K&F Concept レンズマウントアダプター KF-CYE (ヤシカ・コンタックスマウントレンズ → ソニーEマウント変換)K&F Concept レンズマウントアダプター KF-LME (ライカMマウントレンズ → ソニーEマウント変換)いずれのマウントアダプターも中空で、レンズのなど余計なものは組み込まれていません。残念ながら、手持ちのライカ用ズミクロン-M 35mm F2 のヘリコイドが固着しており、ライカ・レンズの試し撮りができなかったのですが、ヤシカ・コンタックス用ツァイスレンズの写りは抜群です。ソニーがツァイス・レンズに寄せた画作りをしている面もあるかと思いますが、ひと目、液晶を見ただけでツァイス・レンズの発色とわかる素晴らしさです。とにかく、ニコン用のマウントアダプターとは雲泥の差で、これだけでも大枚をはたいてα7も買った甲斐があります。試写ということでまだ基本的な操作しかしていませんが、右手の親指で最も操作しやすい位置に露出補正のコマンド・ダイアルがあるのは、露出を補正を多用するツァイス・ユーザーにはとってはとても嬉しいレイアウトです。ニコンD610に比べるとソニーのα7 はかなり華奢で、ニコンユーザーからするとこんなんで大丈夫?という印象ですが、大きくて重いツァイスのオールドレンズに小型軽量だが賢いボディがちょこんと付いている様は意外に悪くありません。【試し撮りしたレンズ(ヤシカ・コンタックス・マウント)】【CONTAX】コンタックス『Planar T* 85mm F1.4 MMJ』カールツァイス 一眼レフカメラ用レンズ 1週間保証【中古】b03e/h22AB【中古 保証付 送料無料】CONTAX Carl Zeiss PlanarT* 50mm F1.4 MMJ【あす楽】 【中古】 《良品》 CONTAX Distagon T*35mm F1.4 MM [ Lens | 交換レンズ ]【あす楽】 【中古】 《良品》 CONTAX Distagon T*18mm F4 MM [ Lens | 交換レンズ ]明日は、散歩がてら、ヘリコイド固着したライカ用ズミクロン-M 35mm F2 を修理に出しに出かけようと思います。ざっと調べた限りでは、修理費3万円以上、修理期間3〜4ヶ月ほどかかりそうです。【試し撮りが待ち遠しいレンズ(ライカM・マウント)】【あす楽】 【中古】 《美品》 Leica ズミクロン M35mm F2 7枚玉 ブラッククローム 【レンズ内クリーニング/各部点検済】 [ Lens | 交換レンズ ]【あす楽】 【中古】 《美品》 Leica ズミクロン M50mm F2.0 レンズフード組込 (6bit) ブラック [ Lens | 交換レンズ ]LEICA ライカ ELMARIT-M 90mm F2.8 E46 11807 SN.3769735 【中古】
2019年09月17日
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「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」(原題:Certain Women)は2016年公開のアメリカの群像劇ドラマ映画です。メイリー・メロイの短編小説集「Both Ways is the Only Way I Want It」、「Half in Love」を原作に、ケリー・ライヒャルト監督・脚本、ローラ・ダーン、クリステン・スチュワート、ミシェル・ウィリアムズ、リリー・グラッドストーンら出演で、アメリカ北西部モンタナの片田舎を舞台に、厄介なクライアントに振り回される女性弁護士ローラ、郊外の新居を砂岩を飾りたい主婦ジーナ、夜間学校で法律を教える女性弁護士エリザベス、牧場で動物たちと暮らすジェイミーらの女性たちが、それぞれ悩みを抱えながらも真摯に生きる姿を描いています。「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ケリー・ライヒャルト脚本:ケリー・ライヒャルト原作:Maile Meloy著「Both Ways is the Only Way I Want It」 、「Half in Love"」出演:ローラ・ダーン (ローラ・ウェルズ) クリステン・スチュワート(エリザベス・トラヴィス) ミシェル・ウィリアムズ (ジーナ・ルイス) リリー・グラッドストーン (ジェイミー) ジェームズ・レグロス(ライアン・ルイス) ジャレッド・ハリス(ウィリアム・フラー) ルネ・オーベルジョノワ(アルバート) サラ・ロディエ(ガスリー・ルイス) ほか【あらすじ】女性弁護士のローラ・ウェルズ(ローラ・ダーン)は、気難しいクライアントのフラー(ジャレッド・ハリス)に振り回されています。フラーは仕事中の怪我の争議に関して、ローラの事務所に足繁く通ってきます。「貴方の怪我に会社側の責任があるのは間違いないが、最初に提示された補償金を受け取った以上、それ以上会社の責任を追及することができない」とローラは再三説明しますが、フラーはどうしても納得しません。フラーは別の弁護士の見解を聞きに行きますが、そこで得られた回答はローラと全く同じものでした。帰宅する途中、妻と喧嘩したフラーは、妻が運転する車から降りてローラの車に乗り込みます。「前の雇い主を撃ち殺してやりたい」と、フラーはローラに語ります。その夜、フラーは警備員を人質に取って、以前、勤めていた会社に閉じこもります。駆けつけたローラは、フラーの要求に従って会社の保管資料を読み上げます。そこには会社が補償金を出来る限り支払わないようにするための術策が詳細に記されていました。それを聞いたフラーは人質を解放、ローラは警察に通報し、フラーは逮捕されます・・・。思春期の娘がいるジーナ(ミシェル・ウィリアムズ)とライアン(ジェームズ・レグロス)は、郊外にセカンドハウスを建てようとしています。無神経な夫と反抗的な娘ガスリー(サラ・ロディエ)に、ジーナはうんざりしています。セカンドハウス用の敷地でのグランピングした後、二人はアルバート(ルネ・オーベルジョノワ)の家に立ち寄ります。彼の敷地には、新居にぴったりな砂岩があり、二人は砂岩を売ってくれとアルバートに頼み込みます。アルバートはライアンの話には耳を傾けますが、ジーナの話は聞こうとしません・・・。エリザベス(クリステン・スチュワート)は、弁護士をしながら夜間学校で法律を教えています。牧場で動物たちとの世話する孤独な先住民のジェイミー(リリー・グラッドストーン)は、ある夜、エリザベスのクラスに紛れ込みます。ジェイミーはエリザベスと親しくなりますが、片道4時間もかかる通勤が大変なエリザベスは、夜間学校で教えることを辞めてしまいます。ジェイミーは、夜通し車を運転して、エリザベスが暮らす街に向かいます・・・。【レビュー・解説】メイリー・メロイの短編小説を原作に、モンタナの片田舎の保守的な土地柄とそこで悩みながらも真摯に生きる平凡な女性たちの姿を、ケリー・ライヒャルト監督が類を見ない共感力と表現力でリアルに描き出した、見ごたえのある群像劇映画です。モンタナの片田舎の平凡な女性たちをリアルに描いた見ごたえある群像劇メイリー・メロイの短編小説を原作にした群像劇原作者のメイリー・メロイはモンタナ州で生まれ育った作家です。ケリー・ライヒャルト監督は、メイリー・メロイがニューヨーク・タイムズに寄稿した短編小説の土地とキャラクターの描写に惹かれ、彼女にアプローチして本作が実現しました。彼女の短編集「Both Ways is the Only Way I Want It」 、「Half in Love」に収録された4つの短編「Tome」 、「Travis B.」 、 「Native Sandstone」 、「Thirteen & a Half」を基に脚色されており、それぞれが、Tome→女性弁護士ローラとそのクライアントのエピソードTravis B.→夜間学校で法律を教える教師エリザベスと、牧場で働く孤独なジェイミーのエピソード(原作の牧場で働く青年が、映画では女性として描かれている)Native Sandstone→郊外の別荘用に砂岩を入手する主婦ジーナのエピソードThirteen & a Half→主婦ジーナの、反抗的な思春期の娘ガスリーのエピソードに対応しています。原作ではこれらは全く独立した短編で、本作も一見、オムニバス映画のようですが、女性弁護士ローラが主婦ジーナの夫と不倫をしている女性弁護士ローラが働く弁護士事務所に、夜間学校の教師を探して牧場で働くジェイミーが訪ねて訪れる反抗的な思春期の娘ガスリーが主婦ジーナの娘として登場する(原作にはジーナの娘は登場しない)という形で脚色され、各エピソードが関連付けられた群像劇となっています。但し、関連の度合いは緩く、ストーリーに大きな影響を与えるものではありません。むしろ、これらの関連付けはモンタナの片田舎の世界観を構築する意味合いが強いものです。人を惹きつける芸術性の高いストーリー・テリング本作の素晴らしい点は、モンタナの片田舎で様々な目に見えない壁に直面しながら真摯に生きる普通の女性たちを、共感力、表現力豊かに、リアルに描き出している点です。それは「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」というおしゃれな邦題とは裏腹の、悩みながらも生き続ける泥臭く、女性たちの現実的な生き様です。女性弁護士ローラは、女性であるが故にクライアントが彼女の言うことになかなか納得してくれないという悩みを抱えています。徒労感を感じながらも、彼女は忍耐強く、時に女性らしく、優しさときめ細かさでクライアントに対応しています(前向きで優しい役柄は、ローラ・ダーンのはまり役です)。主婦ジーナとその家族は、モンタナの田舎町を逃れ、郊外でグランピングをしながら週末を過ごします。尽くすことを強いられるジーナは無神経な夫と反抗的な娘にうんざりし、いらいらが募っています(こうした女性の感情的で嫌らしい面を交えた演技をさせると、ミシェル・ウィリアムズは天下一品です)。彼女の夢は、郊外建てるセカンドハウスを本物の砂岩で装飾することです。彼女は砂岩の持ち主である老人と交渉しますが、老人は夫の話しか聞かず、彼女の言うことに耳を傾けようとしません。農場の動物たちを相手に孤独で単調な農作業に明け暮れる先住民のジェイミーは、ある夜、人恋しさから夜間学校の授業に紛れ込み、教師と親しくなります。しかし、片道4時間もかけて通うのが大変な教師は、夜間学校で教えることを辞めてしまいます。ジェイミーは夜通し車を運転して、教師が暮らす街に向かいます・・・(リリー・グラッドストーンの表情に、アジア系とは異なる、アメリカ先住民特有の確固とした不動の意思を感じます)。ミルトン・エイヴリーの絵 やアリス・ニールの絵、スティーブン・ショアの駐車場の写真などを参考にフィルムで撮影された本作で、ケリー・ライヒャルト監督はモンタナの片田舎の風景やそこで暮らす女性たちの姿をしっかりと描き出しています。特に、延々と映し出される冬の牧場での農作業は圧巻です。また、「ウェンディ&ルーシー」(2008年)、「ミークズ・カットオフ」(2010年)に続いてケリー・ライヒャルト監督とは三度目のコラボになるミシェル・ウィリアムズと、アメリカ先住民系の女優リリー・グラッドストーンはともにモンタナ州出身で、同州を舞台とする本作の真正さを高めています。なかなか毅然とすることができない女性弁護士のローラ、尽くすことを強いられ、家族への不満が募る主婦のジーナ、あまりに不器用なジェイミーと、彼女らは決して優等生ではありません。また、ケリー・ライヒャルト監督はフェミニストで、差別的な要素も描かれていますが、本作はそうした問題提起を第一義としたものでもありません。本作で描かれているのは、あくまでもモンタナの保守的な片田舎で、悩みながらも真摯に生きる女性たちの現実的な姿です。ローラ・ダーン (ローラ・ウェルズ)ローラ・ダーン(1967年〜)は、カリフォルニア州出身のアメリカの女優。父は俳優のブルース・ダーン、母は女優のダイアン・ラッド。1973年、母親の出演作品「白熱」に出演、その後、演劇学校で演技を学ぶ。「ブルーベルベット」(1986年)、「ランブリング・ローズ」(1991年)、「ジュラシック・パーク」(1993年)、「遠い空の向こうに」(1999年)、「ザ・マスター」(2012年)、「きっと、星のせいじゃない。」(2014年)、「わたしに会うまでの1600キロ」(2014年)、「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」(2014年)、「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」(2016年)、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年)、「ジェニーの記憶」(2018年)などに出演、「ランブリング・ローズ」でアカデミー主演女優賞、「わたしに会うまでの1600キロ」で同助演女優賞にノミネートされている。クリステン・スチュワート(エリザベス・トラヴィス)クリステン・スチュワート(1990年〜)は、ロス・アンジェルス出身のアメリカの女優。「トワイライト」シリーズのベラ・スワン役で知られ、若手としては異例の「A級リスト俳優」(年間2000万ドル以上の出演料を手にするハリウッド俳優)入りした女優である。「イントゥ・ザ・ワイルド」(2007年)、「アドベンチャーランドへようこそ」(2009年)、「アクトレス〜女たちの舞台〜」(2014年)、「アリスのままで」(2014年)、「パーソナル・ショッパー」(2016年)などの出演している。「アクトレス〜女たちの舞台〜」で、アメリカ人女優としての初のセザール賞助演女優賞を受賞している。ミシェル・ウィリアムズ (ジーナ・ルイス)ミシェル・ウィリアムズ(1980年〜 )は、モンタナ州出身のアメリカの女優。9歳の時にサンディエゴへ移り、演技を学び始める。14歳の時に「名犬ラッシー」(1994年)で映画デビュー、以降、主にインディペンデント映画を中心に活動している。「ブロークバック・マウンテン」(2005年)でアカデミー助演女優賞に、「ブルーバレンタイン」(2010年)、「マリリン 7日間の恋」(2011年)で同主演女優賞に、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年)で同助演女優賞にノミネート、「マリリン 7日間の恋」ではゴールデングローブ主演女優賞を受賞している。「ブロークバック・マウンテン」で共演したヒース・レジャーと婚約、長女を出産するも、2007年に婚約解消。その後の2008年1月に、ヒース・レジャーは薬物摂取による急性中毒でニューヨークの自宅で亡くなっている。リリー・グラッドストーン (ジェイミー)リリー・グラッドストーン(1986年〜)は、モンタナ州出身のアメリカの女優。アメリカ先住民の血を引く。「Walking Out」(2018年)などに出演している。本作の演技が注目され、様々な女優賞にノミネート、受賞している。【撮影地(グーグルマップ)】ローラが働く法律事務所ウィリアムがローラの車に乗り込む駐車場ジェイミーとエリザベスが出会う夜間学校エリザベスが働く事務所「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」のDVD(楽天市場)【関連作品】「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」の原作本(楽天市場) Maile Meloy "Half in Love" Maile Meloy "Both Ways Is the Only Way I Want It"ケリー・ライヒャルト監督xミシェル・ウィリアムズのコラボ作品のDVD(楽天市場) 「ウェンディ&ルーシー」(2008年) 「ミークズ・カットオフ」(2010年)・・・北米版、日本語なしケリー・ライヒャルト監督作品のDVD(楽天市場) 「Old Joy」(2006年)・・・北米盤、日本語なし 「ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画」(2013年)ローラ・ダーン出演作品のDVD(楽天市場) 「ブルーベルベット」(1986年) 「ランブリング・ローズ」(1991年) 「ジュラシック・パーク」(1993年) 「遠い空の向こうに」(1999年) 「ザ・マスター」(2012年) 「きっと、星のせいじゃない。」(2014年) 「わたしに会うまでの1600キロ」(2014年) 「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」(2014年) 「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」(2016年) 「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年) 「ジェニーの記憶」(2018年)クリステン・スチュワート出演作品のDVD(楽天市場) 「イントゥ・ザ・ワイルド」(2007年) 「アドベンチャーランドへようこそ」(2009年) 「アクトレス〜女たちの舞台〜」(2014年) 「アリスのままで」(2014年) 「パーソナル・ショッパー」(2016年)ミシェル・ウィリアムズ出演作品のDVD(楽天市場) 「名犬ラッシー」(1994年) 「The Station Agent」(2003年)・・・輸入盤、日本語なし 「ブロークバック・マウンテン」(2006年) 「ブルーバレンタイン」(2010年) 「マリリン 7日間の恋」(2011年) 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年)リリー・グラッドストーン出演作品のDVD(楽天市場) 「Walking Out」(2018年)
2019年09月12日
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「しあわせな人生の選択」(原題:Truman)は、2015年公開のスペイン・アルゼンチン合作のコメディ&ドラマ映画です。セスク・ゲイ監督・脚本、リカルド・ダリン、ハビエル・カマラら出演で、末期がんに侵され余命短いスペイン男性をカナダの旧友が訪ね、男性の愛犬の里親探しなど彼の終活に付き合う4日間を、悲しみと可笑しさを交えて描いています。第30回ゴヤ賞(スペイン)で、作品、監督、脚本、主演男優(リカルド・ダリン)、助演男優(ハビエル・カマラ)の5賞を受賞した作品です。 「しあわせな人生の選択」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:セスク・ゲイ脚本:セスク・ゲイ/トマス・アラガイ出演:リカルド・ダリン(フリアン、末期がんの舞台俳優、離婚し愛犬と暮らす) ハビエル・カマラ(トマス、フリアンの旧友、カナダから会いに来る) トロイロ(トルーマン、フリアンの愛犬) ドローレス・フォンシ(パウラ、フリアンのいとこ) エドゥアルド・フェルナンデス(ルイス) アレックス・ブレンデミュール(獣医) ペドロ・カサブランク(医師) ホセ・ルイス・ゴメス・ガルシア(プロデューサー) ハビエル・グティエレス(葬儀屋) エルビラ・ミンゲス(グロリア) ウリオール・プラ(フリアンの息子ニコ) ナタリー・ポサ(女性2) アガタ・ロカ(女性1) スシ・サンチェス(里親候補の女性) フランセスク・オレーリャ(レストランの俳優) アナ・グラシア(レストランの女優) シルビア・アバスカル(モニカ) ほか【あらすじ】スペインで俳優として舞台に立つフリアン(リカルド・ダリン)は、離婚以来独り身で、愛犬のトルーマンと暮らしています。末期癌に侵された彼は余命いくばくもなく、化学療法による治療を拒否しています。フリアンのいとこパウラ(ドロレス・フォンシ)からフリアンの具合が良くないと聞かさたカナダ在住の旧友トマス(ハビエル・カマラ)は、そんなフリアンを突然、訪れます。すでに治療を止め、身辺整理を始めていたフリアンは説得されることを嫌がり、トマスを追い返そうとします。トマスはそんな彼を意に介さず、四日間滞在すると宣言し、フリアンも渋々了承します。まもなく遠慮のない昔の関係に戻った二人は、フリアンの葬儀の準備の為に葬儀屋を訪れ、愛犬トルーマンの面倒を見くれる里親を探し、アムステルダムに住むフリアンの大学生の息子を訪れ、誕生日を祝います・・・。【レビュー・解説】良質の脚本と良質の演技、悲しさとおかしさの均衡、慎ましやかに抑制され、忍耐強く演出された本作は、末期がんで余命いくばくもない男性と遠く離れて暮らす旧友の、時の隔たりにも色褪せることのない暖かな友情を描いた佳作です。地理的な隔たり、長い時間の隔たりにも色褪せることのない、暖かな友情我々はいつか死ぬであろうことを忘れて生きていますが、もし自分が末期がんで余命いくばくもないことを知ったら、誰とどう過ごすでしょうか?これまでにそうした問題に直面した人は少なからずいるでしょうし、確固とした決意を持って残された時間を過ごされた方もおられるかと思います。以前、末期がんになった女性社長さんと知り合う機会がありました。入院を一ヶ月先延ばしし、自らの亡き後の会社のあり方を整理するほどしっかりした方でしたが、すべて心の整理がついているかと言うと必ずしもそうではなく、「死ぬのが怖い、みんなとバカ話をして死ぬことを忘れていたい」と、よくおっしゃっていました。確固とした決意を持って残された時間を過ごす人も、実は必ずしも心穏やかではないのかもしれません。本作は、末期がんの化学療法を拒否したものの内心穏やかではない男と、遠路はるばる見舞いに訪れた旧友がともに過ごす4日間を描いたバディ・ムービーで、死との戦いとではなく死を受け入れた後の二人の友情を描いた作品です。この映画は死と戦う映画ではなく、むしろ死を受け入れた後に起きることを描いた作品です。多くの映画は死との戦いを描きます。医者に行き、最後には助かります。でもこの脚本では、もっと真剣に取り組みました。フリアン(リカルド・ダリン)が治療を中止したことを知ったトマス(はピエル・カマラ)は、飛行機に乗り彼のもとへと向かいます。フリアンはまさに人生のリングに敗北のタオルを投げ入れようとしていました・・・。(セスク・ゲイ監督)https://www.cineuropa.org/en/interview/299107/余命幾ばくもない金持ちと貧しい老人二人を描いたバディ・ムービーに、「最高の人生の過ごし方」(2007年)があります。この作品はジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマンを迎え、二人が死ぬまでにやりたいことをインド、エジプト、フランスの海外ロケなどそれなりの予算をかけて豪華に描いたものです。一方、本作は一部をアムステルダムとカナダで撮影していますが、ほとんどがスペインを舞台にしており、予算も「最高の人生の過ごし方」の十分の一ほどです。本作ではあくまでの末期がんの男と遠路はるばる会いに来てくれた旧友との関係に焦点を当て、二人の現実的な関係を悲しさとおかしさを交えながら深く掘り下げています。なお、バディ・ムービーではありませんが、周囲の人間との関係を悲しさとおかしさを交えながら描いている点では、偏屈親父が家族や友人の愛に囲まれながらを過ごす最期のひと時を描いた「みなさん、さようなら」(2003年)と共通する味わいがあります。演じる俳優も素晴らしいです。「NINE QUEENS 華麗なる詐欺師たち」(2002年)、「瞳の奥の秘密」(2009年)、「Elefante blanco」(2012年)、「人生スイッチ」(2014年)などの秀作で素晴らしい演技を見せ、アルゼンチンのアカデミー賞の常連でもあるリカルド・ダリンは、本作では末期がんに侵された老け役をものの見事に演じています。「人生スイッチ」では怒りに震える役でしたが、本作では別人のように気弱な病人を演じてみせており、演技の幅の広さに感心します。旧友を演ずるのハピエル・カマラは、それと気づかなかったのですが、「トーク・トゥ・ハー」(2002年)の看護師、「あなたになら言える秘密のこと」(2005年)の採掘所のコックなど、秀作で重要な役を演じており、これまでにスペインのアカデミー賞に相当するゴヤ賞に7度もノミネートされ、二度受賞している経験豊富な俳優です。撮影の合間は冗談を飛ばし合い、笑い転げていたという二人ですが、息のあった本番の掛け合いが絶妙です。死と向き合いながら本作が暗くならないのは、ジョークで人を笑わせずにはいられないというハピエル・カマラの人となりも影響しているのかもしれません。老若男女を問わずに楽しめる本作ですが、強いて言えば、やや男性向けかもしれません。ハピエル・カマラの役が「妻がここに来るように無理強いしたんだ。俺は来たくなかったんだ。」と最初に言いますが、これは彼の本心です。こうした感傷的な出来事を、男性が直視するのは難しいのです。「しあわせな人生の選択」のメイン・キャラクターに女性を起用していれば、もっと感情表現が豊かで、相互作用的で、ウェットな作品になったと思います。でも、そんな話を私は書けたかどうかはわかりません、というのは、これは男性の物語だからです。この男性的な物語を、抑制された慎ましやかなトーンで描こうと、私は心に決めていたのです。(セスク・ゲイ監督)https://variety.com/2015/film/global/cesc-gay-truman-marrakech-ricardo-darin-javier-camara-filmax-impossible-films-1201655282/https://www.cineuropa.org/en/interview/299107/本作の原題は「Truman」で、末期がんの男が飼う老犬の名前です。末期がんの男の別人格になっており、老犬の行末が象徴的です。妻と離婚している末期がんの男が気にかけるのは、自分の死に備えて老犬に里親を見つけることと自分の葬儀くらいで、積極的に誰かに会おうとはあまり考えていません。誰かと会っても自分の運命が変わるわけではないので、その気持もなんとなくわかるような気がします。それでも旧友が会いに来てくれると嬉しい、その気持もよくわかります。そんなリアルで微妙な気持ち、旧友との再会でほぐれていく二人の気持ちが本作、最大の魅力です。もし自分が末期がんになったらどうなのか、予想するのは難しいのですが、旧友が会いに来てくれたらとても嬉しいであろうことは間違いないと思います。そういう意味では、本作は誰にでも起こりうる物語かもしれません。リカルド・ダリン(フリアン、末期がんの舞台俳優、離婚し愛犬と暮らしている)リカルド・ダリン(1957年)は、アルゼンチンの俳優、脚本家、映画監督。アルゼンチンの映画化に最も貢献している俳優の一人とされており、映画のみならず、テレビドラマに数多く出演している。「NINE QUEENS 華麗なる詐欺師たち」(2002年)、「XXY~性の意思~」(2007年)、「瞳の奥の秘密」(2009年)、「ハゲ鷹と女医」(2010年)、「Elefante blanco」(2012年)、「人生スイッチ」(2014年)などに出演、アルゼンチンのアカデミー賞の常連となっている。また、「瞳の奥の秘密」は、アメリカの第82回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞している。ハビエル・カマラ(トマス)ハビエル・カマラ(1967年〜)は、スペインの俳優・映画監督。演劇学校卒業後、舞台経験を積む。1993年に映画デビュー、「トーク・トゥ・ハー」(2002年)、「バッド・エデュケーション」(2004年)、「パリ、ジュテーム」(2006年)などに出演している。トロイロ(犬、トルーマン)フリアンの別人格となるフリアンの愛犬で足が悪く、ルリアン同様、よぼよぼ。残念なことに撮影終了後、3ヶ月で亡くなった。ドローレス・フォンシ(パウラ、フリアンのいとこ ) 【関連作品】セスク・ゲイ監督作品のDVD(Amazon) 「Nico and Dani」(2000年)・・・輸入盤、日本語なしリカルド・ダリン出演作品のDVD(Amazon) 「NINE QUEENS 華麗なる詐欺師たち」(2002年) 「XXY~性の意思~」(2007年)・・・輸入版、日本語なし 「瞳の奥の秘密」(2009年) 「ハゲ鷹と女医」(2010年) 「Elefante blanco」(2012年)輸入盤、日本語なし 「人生スイッチ」(2014年)おすすめスペイン映画のDVD(楽天市場)・・・2001年以降、合作を含む 「デビルズ・バックボーン」(2001年) 「トーク・トゥ・ハー」(2002年) 「海を飛ぶ夢」(2004年) 「バッド・エデュケーション」(2004年) 「ボルベール〈帰郷〉」(2006年) 「パンズ・ラビリンス」(2006年) 「永遠のこどもたち」(2007年) 「それでも恋するバルセロナ」(2008年) 「抱擁のかけら」(2009年) 「私が、生きる肌」(2011年) 「フラメンコ・フラメンコ」(2012年) 「ブランカ二エベス」(2012年)輸入盤 「インポッシブル」(2012年) 「マジカル・ガール」(2014年) 「ヤシの木に降る雪」(2015)輸入盤、日本語なし 「ジュリエッタ」(2016年) 「悲しみに、こんにちは」(2017年) 「シークレット・ヴォイス」(2018年)
2019年09月06日
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「アリー/スター誕生」(原題:A Star Is Born)は、2018年公開のアメリカの音楽&恋愛ドラマ映画です。「 スター誕生」(1937年)の4度目のリメイクで、ブラッドリー・クーパー監督・主演、レディー・ガガ主演で、歌手を夢見るヒロインが国民的人気を誇るミュージシャンと出会い、その才能を認められ、華やかなショービジネスの世界に足を踏み入れていく様を描いています。第91回アカデミー賞では、作品、主演男優、主演女優、助演男優、脚色、歌曲、録音、撮影の8賞にノミネートされ、作曲賞(「シャロウ」(レディー・ガガ他))を受賞、第61回グラミー賞では「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」(レディー・ガガ他)を受賞した作品です。 「アリー/スター誕生」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ブラッドリー・クーパー脚本:エリック・ロス/ブラッドリー・クーパー/ウィル・フェッターズ原作:ウィリアム・A・ウェルマン「スタア誕生」出演:ブラッドリー・クーパー(ジャクソン・“ジャック”・メイン ) レディー・ガガ(アリー) サム・エリオット(ボビー) アンドリュー・ダイス・クレイ(ロレンツォ) デイヴ・シャペル(ジョージ・“ヌードルス”・ストーン) ラフィ・ガヴロン(レズ・ガヴロン) アンソニー・ラモス(ラモン) ロン・リフキン(カール) マイケル・J・ハーネイ(ウルフィー) レベッカ・フィールド(ゲイル) ウィリアム・ベリ(エメラルド) グレッグ・グランバーグ(フィル) ほか【あらすじ】カントリー歌手ジャクソン・“ジャック”・メイン(ブラッドリー・クーパー)は、国民的人気を誇る陰で酒とドラッグに溺れる生活を送っていました。ジャックの兄でマネージャーのボビー(サム・エリオット)は、そんなジャックを公私にわたって支えていました。 カリフォルニアでのコンサートの後、ドラッグ・バーに立ち寄ったジャックは、バーのウェイトレス、アリー(レディー・ガガ)の歌に大きく心を揺さぶられます。彼女の才能に魅了されたジャックは、次のコンサートでアリーを起用したいと持ちかけます。歌手になることを夢見たが芽が出ず、諦めていたアリーは頑なに断りますが、ジャックの熱意に負けて出演することにします。コンサートの日、ジャクソンとアリーのデュエットは観客から喝采を浴びます。その反応を見たジャックは自身のツアーにアリーを同伴することにします。二人の間に恋愛感情が芽生え、やがて結ばれそうになりますが、ジャックは泥酔して潰れてしまいます。二人はジャックが生まれ育った牧場を訪れますが、その土地はすでに兄のボビーによって売却されていたことを知り、怒り狂ったジャックはボビーをクビにします。ツァーで好評を得たアリーはやがて、メジャー・デビューの機会を掴み、カントリー歌手からポップ歌手へと転身、瞬く間にスターへの階段を駆け上がります。一方、全盛期を過ぎたジャックの栄光は徐々に陰り始め、またアリーの転身を素直に喜ぶことができないジャックは、ストレスからますます酒浸りになっていきます。アリーのマネジャー、レズ(ラフィ・ガヴロン)は、ジャックの存在がアリーのキャリアの妨げなっているとジャックに伝えます・・・。【レビュー・解説】レディー・ガガ作詞・作曲の名曲に彩られた、ガガのガガによるガガの為の「スター誕生」は、ブラッドリー・クーパーが相手役の落ちぶれる人気歌手を好演してガガを引き立てるとともに、初挑戦の監督でガガの魅力を素直に引き出し、大きなインパクトと商業成功で往年の名画を蘇らせた傑作です。レディー・ガガとブラッドリー・クーパーが往年の名作を蘇らせた傑作シリーズ過去作や同種の名作に勝るとも劣らない傑作同じ芸術分野で働くカップルの成功のバランスが変化した時に二人の関係にどう影響を与えるかというテーマは、オリジナルの「スタア誕生」(1937年)から一貫したものですが、「アーティスト」(2011年)や「はじまりのうた」(2013年)などこのシリーズに以外でも扱われている普遍的なテーマです。特に、ドキュメンタリー映画「キューティー&ボクサー」(2013年)は、このテーマに非常に深く切り込んでいます。 こうした広がりの中で単純な比較をすることは難しいのですが、大きなインパクトと商業的成功で往年の名作を蘇らせた本作は、シリーズ過去作や同種のテーマを描いた最近の作品に勝るとも劣らない名作と言えます。映画「スター誕生」の歴史公開年監督主演評価*興行収入(百万ドル)国内全世界1937ウィリアム・ウェルマンジャネット・ゲイナーフレデリック・マーチ100% - -1954ジョージ・キューカージュディ・ガーランドジェームズ・メイソン97% 4 -1976フランク・R・ピアソンバーブラ・ストライサンドクリス・クリストファーソン36%80 -2018ブラッドリー・クーパーレディー・ガガブラッドリー・クーパー90%215435* Rotten Tomatoes の評論家による評価同じ芸術分野で働くカップルの成功と関係の変化を描いた映画の例公開年タイトル監督評価*興行収入(百万ドル)国内全世界2011アーティスト ミシェル・アザナヴィシウス95%44 1332013はじまりのうたジョン・カーニー83%16 632013キューティー&ボクサーザカリー・ヘインザーリング95%0.2 -ガガのガガによるガガの為の「スター誕生」当初、クリント・イーストウッド監督がリメイクを熱望、ビヨンセが主演候補に上がりましたが、妊娠のために降板、その後、引き継いだブラッドリー・クーパー監督は最初からレディー・ガガの起用を考えており、アリーのキャラクターもレディー・ガガに合わせて作りこまれています。最初からアリー役には、役者だけしかやっていない人は考えていなかった。ミュージシャンとしても活動している人だと、選べる人が少なくなってくるんだけど、僕は最初からガガにお願いしたいと思っていたんだ。参加が決まってからは作品に欠かせない人物になったし、資質を引き出せるようにキャラクターも彼女に合わせて作っていった。(ブラッドリー・クーパー監督)dhttps://realsound.jp/movie/2018/12/post-295370.htmlクラシックやジャズを聞いていた時期はありますが、特に音楽ファンでもない私がレディー・ガガと出会ったのは iTunes を通じてでした。音楽を聞いて選べる iTunes が面白くて、いろんな曲を辿っているうちに、彼女のデビュー曲の 「ジャスト・ダンス」に出会い、そのテンポの良さとパンチの効いた切れの良さに、いっぺんに魅了されてしまいました。当時はちょっと変わったなポップス歌手という印象が強かったのですが、その歌唱力は素晴らしいものでした。「ジャスト・ダンス」がレディー・ガガとの出会い(YouTube)その後の成長も著しく、2016年のスーパーボールでは圧巻のアメリカ国家斉唱を披露しています。また、オートチューンなしでも正確な音程と圧倒的な声量で歌い上げる、彼女の歌唱力には本当に目を瞠るものがあります。レディー・ガガ、圧巻のアメリカ国家斉唱(2016年@スーパーボール)(YouTube)オートチューンなしでも正確な音程と圧倒的な声量で歌い上げる驚異的な歌唱力(YouTube)ガガの魅力を素直に描いたブラッドリー・クーパー監督硬さが逆に効を奏したジェニファー・ロペスの「アウト・オブ・サイト」(1998年)は例外にしても、「ドリーム・ガールズ」(2006年)のジェニファー・ハドソン、ビヨンセ・ノウルズのように歌手はやはり、歌うを役を演ずるのがベストです。本作ではレディー・ガガを主役に起用するだけではなく、彼女が作詞・作曲した歌を随所に織り込むことにより、彼女の魅力を強力に打ち出しています。また、本作はブラッドリー・クーパーの初監督作品ですが、彼は奇をてらうことなくレディー・ガガとライブの魅力を素直に描き、軸となるシンプルなラブ・ストーリーと融合させることに成功しています。「どうやってこの作品にオリジナリティを出そうか」とは考えなかった。自分が語りたい物語を描くには、「本物」にしなければならないということは自然に分かっていたけどね。(ブラッドリー・クーパー監督)チャリティで「ラ・ヴィ・アン・ローズ」を歌うレディー・ガガ(YouTube)「シャロウ」作詞作曲:レディ・ガガ、マーク・ロンソン、アンソニー・ロサモンド、アンドリュー・ワイアット歌:レディ・ガガ 、ブラッドリー・クーパー第76回ゴールデングローブ賞では主題歌賞を受賞、第61回グラミー賞では年間最優秀レコード賞、年間最優秀楽曲賞、ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞、ビジュア・メディア楽曲賞の4部門でノミネート、また第91回アカデミー賞での作曲賞を始め、同曲は計33回授賞され、史上最も多くの賞を授賞した曲となりました。これはとても特別な曲なの。この曲では2人の人間が語り合っていて、お互いの話に耳を傾け、絆を深めていく。そして2人は、今のこの世界や人生で置かれている状況、そして求めるものがほかにあるのか、といったことについて語り合っている。2人はもっと深い何かを求めているのよ。(中略)皆でじっくり曲作りをしていた時のことなんだけど、私はピアノの前に座っていて、他の3人全員はギターを手にしていたわ。実際この曲は、今回私たちが書いた他のどの曲とも大きく異なっていたし、私がこれまで手掛けてきた他のどの作品ともまるで違っていた。ものすごい集中力で取り組んでいたのよ。あの日は4人とも皆すごく真剣で、部屋には何やら張り詰めた空気が漂っていた。まるで精霊か何かがそこにいて、私たちに何かを言おうとしていたみたいな感じでね。私たちはその精霊にじっと耳を傾け、お告げを待っていたのよ。そしてこの曲が降りてきたというわけ。それは本当に特別な瞬間だった。本当に見事に全てが一つにまとまったのよ。(レディー・ガガ)https://front-row.jp/_ct/17236063 「シャロウ」〜「アリー/ スター誕生」(YouTube)「ルック・ホワット・アイ・ファウンド」作詞作曲:ルーカス・ネルソン、ポール・ブレア、ニック・モンソン、マーク・ナイラン歌:レディ・ガガ 劇中、ジャクソンと食事をしていたアリーが、頭に浮かんだ歌詞を書くところから誕生する曲です。この曲に関して私が特に気に入っているのは、人は人生においてさまよい歩き、様々な人間関係や恋愛を経験して、乗り越えていくってところなのよ。ある意味ね。例えば辛い恋の終わりを経験したりすると、自分の心の一部が砕け落ちて、欠片が床に転がったままでいるような気持ちになる。そしてその欠片を拾って埋め戻すことが出来きない時があるのよね。この曲の歌詞で私が特に好きな一節に「ほら、見つけたのよ/私の心の欠片がまた一つ/地面に転がっていた」というのがあって。そして最後の方には「ほら、あなたは見つけたのよ/私の心の欠片を」とある。つまり、もう一度、愛を信じさせてくれる誰かに出会ったということなのよね。そしてそのおかげで自分自身のことも、もう一度信じられるようになった。つまりこの曲のテーマは、朝起きるのも辛くて、なかなか幸せな気持ちになれず、人生に前向きになれずにいるんだけれど、でもその後、探していたものが見つかるってこと。(レディ・ガガ)https://front-row.jp/_ct/17236063 「ルック・ホワット・アイ・ファウンド」〜「アリー/ スター誕生」 (YouTube)「アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン」作詞作曲:レディ・ガガ、ナタリー・ヘンビー、ヒラリー・リンゼー、アーロン・ラティアー歌:レディ・ガガ 、ブラッドリー・クーパー映画「ボディガード」(1992年)の「オールウェイズ・ラヴ・ユー」(ホイットニー・ヒューストン)を上回る曲を書きたいという気持ちから生まれた曲です。親しい友人をガンで亡くしたガガが病院から戻った直後に撮影されたもので、ガガのむき出しの感情がドラマチックに心を揺さぶります。私たちは無理難題に取り組んでいたの。私は部屋に入り、皆に「それじゃ、映画『ボディガード』の『オールウェイズ・ラヴ・ユー』を上回る曲を書かないとね」って言ったわけ。まあ実際それは不可能なことよね。無理な話だわ。でもこの作品を締め括る重要な場面の裏には、そういった構想があった。この曲に関してすごく興味深いと思うのは、この曲のタイトルである「アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン」、つまり「もう二度と愛さない」というのが、ある意味ネガティヴな曲名だってところなのよ。とは言っても、もちろん、いずれ愛することはあるでしょう。人は皆、誰しもね。けれど悲しみがあまりに強烈すぎて、あまりに深く傷ついた場合、同じように誰かを愛することは二度とない。私はこの曲が大好きでたまらないのよね。この曲に取り組んでいた時のことをよく憶えているんだけど、サビの部分の繰り返しが、私にとっては非常に重要だった。(中略)衝き上がるような思いなのよ。(レディー・ガガ)https://front-row.jp/_ct/17236063 「アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン」〜「アリー/ スター誕生」(YouTube)<ネタバレ> 映画のエンディングでアリーがこの曲を歌い、曲の最後に回想シーンがカットインし、生前のジャックが、Don't wanna give my heart awayTo another strangerOr let another day beginWon't even let the sunlight inOh, I'll never love again・・・というフレーズを歌います。この歌は愛する人を失った悲しみのあまり、もう二度と人を愛さないという歌ですが、ジャックがこのフレーズを歌うともうひとつの意味が浮かび上がります。一見、単なる回想のようですが、実はジャックはアリーと別れて他の誰かと生きるよりも、自らの未来を断ち、闇の中で愛の完結を選んだことを暗示する、強烈なエンディングです。<ネタバレ終わり>ブラッドリー・クーパー(ジャクソン・“ジャック”・メイン )ブラッドリー・クーパー(1975年〜)は、フィラデルフィア出身のアメリカの俳優、映画監督、プロデューサー、歌手。父はアイルランド系、母はイタリア系。大学卒業後、アクターズ・スタジオで演劇を学ぶ。1998年にテレビドラマ・シリーズ「セックス・アンド・ザ・シティ」でデビュー、2001年に映画デビュー、2006年にはジュリア・ロバーツ、ポール・ラッドと共にブロードウェイの舞台に立つ。映画「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」(2009年)でブレイク、「世界にひとつのプレイブック」(2012年)でアカデミー主演男優賞に、「アメリカン・ハッスル」(2013年)同助演男優賞に、「アメリカン・スナイパー」(2014年)で同主演男優賞にノミネートされている。本作では主演兼初監督を務め、アカデミー賞で作品、主演男優、主演女優、助演男優、脚色、歌曲、録音、撮影の8賞にノミネートされ、作曲賞(「シャロウ」(レディー・ガガ他))を受賞している。レディー・ガガ(アリー)レディー・ガガ(1986年3月28日〜)は、アメリカのミュージシャン。10代の頃からクラブでダンサーをしながら生計を立てるとともに、レコード会社とソングライター契約し、複数のミュージシャンに楽曲提供を行う。その後、歌手としての才能を認められ、レーベルとレコード契約、歌手としてのキャリアを始める。デビュー・アルバム「ザ・フェイム」(2008年)が商業的に大成功を収め、4か国の音楽チャートでトップを獲得、1,500万枚以上売り上げる。アルバムからシングルカットされた「ジャスト・ダンス」がグラミー賞で最優秀ダンス・レコーディング賞にノミネートされる。「ザ・モンスター」(2009年)、「ボーン・ディス・ウェイ」(2011年)と続けてアルバムを発表、「バッド・ロマンス」、「テレフォン」、「ボーン・ディス・ウェイ」、「ジ・エッジ・オブ・グローリー」などのヒット曲を生み、シングルを8,400万枚、アルバムを2,500万枚以上売り上げている。本作で、アカデミー作曲賞、グラミー賞「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」を受賞している。サム・エリオット(ボビー)サム・エリオット(1944年〜)は、カリフォルニア州サクラメント出身のアメリカの俳優。大学では英文学と心理学を専攻した後、「明日に向かって撃て!」(1969年)で映画デビュー、その後、多くのテレビシリーズに出演する。テレビ映画「CONAGHTER」(1991年)でゴールデングローブ主演男優賞に、「バッファロー・ガールズ」(1995年)で同助演男優賞、本作でアカデミー助演男優賞にノミネートされている。「ビッグ・リボウスキ」(1998年)、「サンキュー・スモーキング」(2006年)、「マイレージ、マイライフ」(2009年)、「I'll See You in My Dreams」(2015年)、「愛しのグランマ」(2015年)などに出演している。アンドリュー・ダイス・クレイ(ロレンツォ)アンドリュー・ダイス・クレイ(1957年〜)は、アメリカの俳優。「プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角」(1986年)、「ブルージャスミン」(2013年)などに出演している。デイヴ・シャペル(ジョージ・“ヌードルス”・ストーン)デイヴ・シャペル(1973年〜)は、ワシントンDC出身のアメリカの俳優・コメディアン。「ブロック・パーティー |」(2006年)、「シャイラク」(2016年)などに出演している。ラフィ・ガヴロン(レズ・ガヴロン)ラフィ・ガヴロン(1989年〜)が、ロンドン出身のイギリス、及びアメリカの俳優。「キミに逢えたら!」(2008年)、「セレステ∞ジェシー」(2012年)などに出演している。アンソニー・ラモス(ラモン)アンソニー・ラモス(1991年〜)はアメリカの俳優、歌手。「ホワイト・ガール」(2016年)などに出演している。【サウンドトラック】映画のサウンドトラックは、全米・全英ともに1位を獲得、全世界で累計300万枚以上のセールスを記録している。 アリー/スター誕生 サウンドトラックCD(楽天市場)【撮影地(グーグルマップ)】仕事を終えたアリーが「虹の彼方に」を歌いながら登る坂道ジャックがアリーの歌を初めて聞いたドラッグバーアリーが酔っ払いを殴ったコップ・バージャックととアリーが氷を買ったスーパーアリーと父が暮らす家アリーとジャクソンが初めて「シャロウ」を歌ったステージアリーとジャクソンのキスをするガソリン・スタンド小さなタイヤ・ショップを使用して撮影されたアリーが「ヒール・ミー」を歌うステージアリーとジャックの家グラミー賞授賞式会場 「アリー/スター誕生」のDVD(楽天市場)【関連作品】「スター誕生」シリーズのDVD(楽天市場) 「スタア誕生」 (1937年) 「スタア誕生 」(1954年) 「スター誕生 」(1976年)ブラッドリー・クーパー出演作のDVD(Amazon) 「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」(2009年) 「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」(2012年) 「世界にひとつのプレイブック」(2012年) 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(2014年) 「アメリカン・スナイパー」(2015年) 「10 クローバーフィールド・レーン」(2016年) 「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(2018年) 「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)レディー・ガガのCDアルバム(楽天市場) ザ・フェイム(2008年) ザ・モンスター(2009年) ザ・リミックス(2010年) ボーン・ディス・ウェイ(2011年) ボーン・ディス・ウェイ ザ・リミックス(2011年) ARTPOP(2013年) チーク・トゥ・チーク(2014年) ジョアン(2016年)
2019年08月31日
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画質劣化が著しいマウント・アダプターデジタル一眼レフにマウント・アダプターを装着してオールド・レンズを楽しんでいます。コンバーターを使用した場合、教科書的には1〜2段ほど絞り込んで画質の劣化を避けます。現在使用してるマウントアダプターは焦点距離換算で約1.3倍程度のものですが、カメラの小さな液晶でも見ても収差やコントラストの悪化が顕著で、2段絞っても不十分との印象です。撮影した画像をパソコンでチェックしたところ、画質低下を避ける為に開放から少なくとも3〜4段絞る必要があることがわかりました。スナップ f5.6、遠景 f8?実はこのマウント・アダプターには無限遠を出す為に、レンズが一枚追加されており、そこで画質が劣化しているようです。値段が値段だけに、相応のレンズが使われているのでしょう。因みにマウント・アダプター添付の説明書によると、スナップ f5.6、遠景 f8 での撮影が推奨されています。開放F値がF1.4のレンズの場合、f5.6で4段、f8で5段の絞り込みになります。一昔前の教科書のような推奨ですが、恐らく販売業者もそれなりの画質劣化があることを把握しているものと思われます。但し、私の使用している Distagon T* 18mm F4 の場合、 f5.6、f8では明らかに不足で、少なくとも f11〜f16 まで絞り込む必要があります。オールドレンズにはミラーレス一眼が適している実は、ライカM用のレンズが使えるマウントアダプターを探していたのですが、無限遠が出ず、マクロ領域でしか使えないものしか見つかりませんでした。ライカのフランジバックより、ニコンのフランジバックの方が長いので、こういう問題が起きるのですが、一般的にこの問題を解決して無限遠を出す為には、マウントアダプタにレンズを追加するしかなく、私が使用しているマウントアダプタのように画質劣化の原因になります。所有しているレンズのラインナップからニコンのフルサイズ一眼レフを使用していますが、オールドレンズを使用する場合はフランジバックの短いミラーレス一眼の方が一般的に適しています。とりえあえずライカレンズ用のマウント・アダプターの購入は思い留まりましたが、将来的にはニコン以外のオールドレンズ用にミラーレス一眼ボディを考えたいところです。【使用しているカメラ】 【送料無料】【即納】Nikon D610 ボディ デジタル一眼レフカメラ【使用しているマウント・アダプタ】pixco マウントアダプター コンタックス・ヤシカ C/Yレンズ → ニコン F ボディ [補正レンズ付き]【送料無料】【使用しているレンズ(ヤシカ・コンタックス・マウント)】【CONTAX】コンタックス『Planar T* 85mm F1.4 MMJ』カールツァイス 一眼レフカメラ用レンズ 1週間保証【中古】b03e/h22AB【中古 保証付 送料無料】CONTAX Carl Zeiss PlanarT* 50mm F1.4 MMJ【あす楽】 【中古】 《良品》 CONTAX Distagon T*35mm F1.4 MM [ Lens | 交換レンズ ]【あす楽】 【中古】 《良品》 CONTAX Distagon T*18mm F4 MM [ Lens | 交換レンズ ]【ミラーレス一眼の方がオールドレンズに適している】ソニー SONY α7III【ボディ(レンズ別売)】ILCE-7M3/ミラーレス一眼カメラ[ILCE7M3]
2019年07月12日
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「女王陛下のお気に入り」(原題:The Favourite)は、2018年公開のアイルランド・アメリカ・イギリス合作の宮廷コメディ映画です。ヨルゴス・ランティモス監督、オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズら出演で、18世紀初頭のイングランドの宮廷を舞台に、病弱な女王アンと幼馴染のサラの前に元貴族のアビゲイルが現れ、アン女王の寵愛を奪い合う熾烈な争いを描いています。第91回アカデミー賞では、作品、監督、主演女優、助演女優賞(エマ・ストーン、レイチェル・ワイズのダブル・ノミネート)、脚本、撮影、美術、衣装デザイン賞、編集の最多9部門10ノミネートを獲得し、主演女優賞(オリヴィア・コールマン)を受賞した作品です。 「女王陛下のお気に入り」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ヨルゴス・ランティモス脚本:デボラ・デイヴィス/トニー・マクナマラ 出演:オリヴィア・コールマン(アン女王) エマ・ストーン(アビゲイル・メイシャム、サラの親族) レイチェル・ワイズ(マールバラ公爵夫人サラ、女王の側近、幼馴染) ニコラス・ホルト(ロバート・ハーレー、政治家、アビゲイルの遠縁) ジョー・アルウィン(サミュエル・マシャム大佐、若い貴族) マーク・ゲイティス(マールバラ公爵ジョン、サラの夫、陸軍軍人) ジェームズ・スミス(シドニー・ゴドルフィン、首相(大蔵卿)) ジェニー・レインズフォールド(メイ、娼館の女主人) ほか【あらすじ】18世紀初頭、フランスと戦争状態にあったイギリスのアン女王(オリヴィア・コールマン)は健康が優れず、幼馴染である側近のマールバラ公爵夫人サラ(レイチェル・ワイズ)を頼りにしていました。サラは宮殿内に私室を持ち、女王の寝室への隠し通路と扉の鍵を与えられ、女王に忌憚のない意見を言い、時には女王を平手打ちにしたり、貶したりすることさえありました。そんな中、没落貴族の娘アビゲイル(エマ・ストーン)がサラの縁故を頼って宮廷へ上がり、女中となります。痛風に苦しむ女王はある夜、サラを一晩中付き添わせます。それを知ったアビゲイルは、薬草を摘み、女王の足に塗ります。勝手な行動に激怒したサラは、アビゲイルに鞭打ちの罰を命じます。しかし、女王から足の痛みが良くなった聞いたサラは、アビゲイルへの罰を取り下げ、女官に格上げします。個室を与えられ喜ぶアビゲイルは、父親の賭博のカタで15歳でドイツ人の愛妾となって以降、ずっと身を落としていたと、サラに身の上を話します。多くの子供を失い心も不安定な女王は、部屋で兎を飼い、子供たちと呼びます。心変わりもしばしばで、その夜も舞踏会を中座、サラに車椅子を押させて寝室へ戻ります。偶然、女王の寝室にいたアビゲイルは、女王とサラが同性愛の関係であることを目撃します。アビゲイルには、若くてハンサムなサミュエル・マシャム大佐(ジョー・アルウィン)や、戦争に反対する政治家ロバート・ハーレー(ニコラス・ホルト)が近づきます。ハーレーは、女王とサラ、ゴドルフィン首相(ジェームズ・スミス)の情報を流すようアビゲイルに迫り、拒否したアビゲイルは土手下に突き飛ばされます。男装し乗馬や鴨撃ちを嗜むサラは、アビゲイルに鴨撃ちを教えます。アビゲイルはハーレーからスパイを持ちかけられたことをサラに教え、さらに女王とサラの秘密を知っていると仄めかします。サラはアビゲイルに向けて空砲を撃ち、警告します。実家が没落したアビゲイルが安定を望むのに対し、サラは夫のマールバラ公を最前線に差し向け、自らが信じる道を貫こうとします。サラは半ば女王の意志決定を代行、公私にわたって宮廷を仕切っていましたが、女王はサラを疎ましく思うようになります。気付かないサラは、多忙な時にアビゲイルを女王の側に遣わすようになります。アビゲイルは、17回も妊娠したのに全ての子を喪った女王の気持ちを汲み、子供たちの身代わりである17羽の兎を可愛がります。さらに女王にお世辞を言ったり、女王の体調に合わせてダンスをして気に入られます。ある夜、アビゲイルは女王の足を揉みながら同性愛の関係となり、それを目撃したサラは衝撃を受けます。翌日、サラはアビゲイルに本を投げつけ、激しく当たりますが、アビゲイルは自らを傷つけ、逆に女王に苦境を訴えます。サラは女王にアビゲイル追放を進言しますが、アビゲイルは先手を打っており、女王はアビゲイルが「口でしてくれた」ことを理由に既に寝室付の女官に任命していました。女王の寵愛を受けての権力掌握はアビゲイルにとって生家復興の好機となり、サラとアビゲイルは女王の寵愛をめぐって激しい戦いを始めます。二人が競って自分を愛するので、女王は上機嫌でしたが、アビゲイルはついにサラに毒を盛り、落馬して重傷を負ったサラは行方不明となります。サラは自分の気を引くために姿を消したと考えた女王は、捜索を行いませんでした。この隙にアビゲイルはハーレーを女王に近づけ、彼を通して女王にマシャム大佐との結婚と年2000ポンドの年金を認めさせ、貴族社会への復帰を果たします。しかし、アビゲイルも女王もサラの不在に不安や恐怖を感じるようになり、ついにサラの捜索を行います。娼館に匿われていたサラは、回復して売春をさせられそうになりますが、貴族の客がすぐにサラの正体に気付きます。顔に大きな傷を負ったサラは怒りとともに宮廷へ戻り、貴族に復帰したアビゲイルを平手打ちし、女王にアビゲイルの追放を要求、さもなくば同性愛関係の証拠となる手紙を公開すると脅します・・・。【レビュー・解説】不条理劇を得意とするヨルゴス・ランティモス監督が、史実に触発されて実在した女性たちのキャラクターを大胆に開発、オスカー女優三人がこれを演じ、理不尽な宮廷を舞台に人間の本質を鋭く描き出すダーク・コメディです。理不尽な宮廷を舞台に人間の本質を描き出すダーク・コメディ英国女王アンの実話に触発された作品アン(1665年〜1714年)は、現在のイギリスに直接つながるスコットランドを併合したグレートブリテン王国の最初の君主、及びアイルランド女王です。マールバラ公夫人のサラ・チャーチルは少女時代からの親しい友人で、アンが女王になってからは女官として公私にわたって重用しますが、戦争を推進するサラに対して、女王は和平推進に傾き、次第にサラを疎むようになります。代わりにサラの従妹アビゲイル・メイシャムを重用するようになり、晩年にはサラを宮廷から追放、夫のマールバラ公も横領の疑いで失脚します。アン女王は計17回と毎年のように妊娠しましたが、双子を含め6回の流産、6回の死産を経験、運良く生きて生まれた子も病没し、一人の子も成人しませんでした。不幸な出産の原因は、抗リン脂質抗体症候群を患っていたためとされています。 エリザベス1世やヴィクトリア女王のような派手さのない女王ですが、女性として凄絶な生涯を送った女王と言えます。ちなみにアン女王の友人だったサラ・チャーチルは、映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(2017年)にも描かれているイギリスの著名な政治家ウィンストン・チャーチル現イギリス王室のウィリアム王子およびヘンリー王子の母であり、1997年にパリで交通事故で不慮の死を遂げたダイアナ元皇太子妃の先祖になります。不条理劇を得意とするヨルゴス・ランティモスヨルゴス・ランティモスは、「籠の中の乙女」(2009年)「ロブスター」(2015年)「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(2017年)などの監督・脚本で知られており、「籠の中の乙女」でアカデミー賞外国語映画賞に、「ロブスター」でアカデミー賞脚本賞にノミネートされています。これらの作品は、3人の子供たちを家から一歩も外出させず、社会から隔絶させて育てる父母(籠の中の乙女)家庭を持ち子孫を残すことが義務付けられ、持てない者は動物に変えられる近未来(ロブスター)家族を救う為に、誰か一人を生贄に出す選択を迫られる家族(聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア)と、いずれも不条理な設定に基づくもので、そうした状況下での人間の反応をリアルに描いてみせるのが、彼の作品の持ち味です。事実に基づいた第三者の脚本を彼が監督するのは、本作が初めてとなります。デボラ・デイヴィスによるオリジナル脚本を彼が初めて読んだのは、「籠の中の乙女」が公開された2009年でした。ランティモス監督は、アン女王、サラ、アビゲイルの三人の女性の関係が国政に大きな影響を与えたことに、強い興味を覚えます。デボラ・デイヴィスは歴史に詳しく、オリジナル脚本はしっかりとした史実に基づいたものでしたが、「違った声を聞きたい」と考えたランティモス監督はプロデューサーとともに別の脚本家を探し、トニー・マクナマラが脚本を書き変え始めます。これが2011年で、その後、断続的にプロジェクトが継続、7年後の2018年に公開されるまでに脚本は大きな変貌を遂げます。最終的な作品は、大きな枠組みは史実に従いながら、アン女王、サラ、アビゲイルの三人の女性のキャラクターを大胆に開発、宮殿の扉の向こうでの三人の間の出来事も大胆に創造されています。例えば、アン女王が17人の子供を亡くしたのは史実だが、17匹の兎を飼っていたというのはフィクションサラが宮廷を休みがちになったのは史実だが、アビゲイルに毒を盛られて行方不明になったのはフィクション衣装のシルエットは当時のデザインに基づくが、革やデニムなど当時にはない現代の素材を使用サラとサミュエルが踊る奇想天外なダンスは、全くもってのオリジナルThe Favorite - Funny Dance Scene・・・といった具合です。大きな史実の枠組みを押さえながらも、ランティモス監督は敢えてフィクションとわかるような物語、演出を志向しています。彼が権力を持つ三人の女性の戯画を通して描きたかったのは、個人的な人間関係や気分、ちょっとした機会が意志決定に影響し、一国の運命に影響する不条理でした。絶対的な権力によって生み出されるものが、不条理なんだ。そんな状況下では不条理がまかり通り、権力者たちが大多数の生活を左右する。だから、特定の時代や王室、国家を正確に描くことが重要だと思ったことはない。権力を持った一握りの人間が、その他大勢の人生に影響を与えられる。そんな選ばれた人物の社会的地位に興味があった。実在の人物や歴史からインスピレーションを受けたが、その大部分は再考した。今の時代にもある同じような課題を認識し、共感できる映画になったと思っている。個人的な人間関係、気分、機会、そういったことが人々の意志決定に影響する。彼らが権力の座にいる時は、その気まぐれが一国の運命にも影響する。リーダーが幼児的な気性で人々を操るのは、時代によらない。(ヨルゴス・ランティモス監督)http://www.webdice.jp/dice/detail/5748/https://www.esquire.com/entertainment/movies/a23695276/yorgos-lanthimos-the-favorite-interview/不条理が不条理に感じられない時代個人的な人間関係や気分、ちょっとした機会が意志決定に影響し、一国の運命にも影響する不条理を描いた作品ですが、私自身は三人の女性のパワーゲームは面白く拝見したものの、それによって国政が左右されることをそれほど不自然と感じませんでした。というのは、最近、政治は必ずしも論理的に正しいことの実現するものではなく、往々にして人間の原初的な感情の産物であると感じることが多いのです。例えば、2016年のEU離脱に関するイギリスの国民投票(EU域内からの移民がイギリス人の仕事を奪うことに対する反発する感情の反映)2016年のトランプ氏のアメリカ大統領選勝利(非白人の移民が大量に流入することに反発する感情の反映)国民感情を盾に、日韓請求権協定(1965年)や慰安婦問題日韓合意(2015年)など国と国との約束をいとも簡単に反故にする韓国といったことは、全くもって人々の感情の産物としか思えないのです。これらは少人数の権力者の感情の反映と言うよりは、ある層の国民感情とそれを利用する政治家という構図ですが、政治が論理ではなく単なる感情のパワーゲームであると感じるには十分です。単なる多数決ではなく、利害の対立に様々な形で解決を見出していくのが民主主義政治の本懐ではないかと私は思いますが、ポピュリズム、民衆の万能感といったものが、最近の流行なのかもしれません。2011年から動いていたことを考えれば、この作品は必ずしも最近の政情の風刺を狙ったものとは思えませんが、不条理な設定や演出の中で人間の本質を描き、昨今の政情にも通じる人間の普遍的な姿を浮かび上がらせているところが、彼の凄いところではないかと思います。低予算を感じさせないクォリティ何気なく観ていると気が付きませんが、実は本作は1500万ドルの低予算で制作されています。ヨーロッパの王室を描いた作品をいくつか挙げてみると、「エリザベス」(1998年):3000万ドル「マリー・アントワネット」(2006年):4000万ドル「エリザベス:ゴールデン・エイジ」(2007年):5500万ドル「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(2009年):3500万ドルといった感じです。本作は他の作品の半分以下の製作費で作られていることがわかりますが、気をつけて見ないとそれほどの低予算で作られていることに気づかないクォリティの高さです。低予算を感じさせない理由のひとつは、豪華な女優陣によるハイレベルな演技です。オリヴィア・コールマン(本作でアカデミー主演女優賞を受賞)レイチェル・ワイズ(「ナイロビの蜂」(2005年)でアカデミー助演女優賞受賞、本作で同助演女優賞にノミネート)エマ・ストーン(「ラ・ラ・ランド」(2016年)アカデミー主演女優賞を受賞、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)及び本作で同助演女優賞にノミネート)と、メイン・キャストにオスカー女優が三人という豪華さです。撮影に先立ち三週間のリハーサルで脚本の合わせ込みが行われましたが、この間に即興のゲームや奇想天外な振り付け、お互いの前で馬鹿の真似をするなどといったことも行われました。楽しかった、いつまでもやっていたかったと、女優たちは口を揃えて語っていますが、「お互いの前での馬鹿の真似をする」といった演技準備や、奇想天外な振り付けは、本作がいたずらに暗くなるのを防ぐこと、そして恐らくは人間が持つ、実存的な強さ、逞しさを醸し出すことを狙ったものと思われます。「ロブスター」にも出演しているオリヴィア・コールマンとレイチェル・ワイズに加え、今を輝くエマ・ストーンと、低予算ながらこれだけ強力な女優を集められるのは、ランティモス監督の求心力でしょう。本作でオスカーの主演女優賞受賞、助演女優賞にダブル・ノミネートと三人の女優にさらに箔をつけて見せたわけですから、彼の評価はより高まったと思われます。低予算映画に見えないもうひとつの理由は、衣装です。本作の舞台となった18世紀初頭は映画やドラマになることが稀で貸衣装のストックが少なく、レンタル料が非常に高価だった為、本作では自製されています。生地を含めて時代考証すると非常に高価になる為、当時の衣装のシルエットを踏襲しながら、デニムや革など入手しやすい現代の素材を組み合わせて作られています。時代の枠組みは踏襲するが、敢えてフィクションとわかるように演出するランティモス監督の方針に合う画期的な解決策で、作品のトーンとマッチしているのでチープに映ることもありません。時間をかえて作り込みリハーサルで磨き上げた脚本を、一貫したトーンで演出していることも、低予算映画に見えない完成度の高さを醸し出しています。例えば、本作では他に類がないほど、広角レンズが多用されています。撮影に使用されたハットフィールド・ハウスは実際に王室の宮殿のひとつとして使用されたこともある貴族の館ですが、金をかけたセット撮影と違い、実物での撮影ではカメラの位置やアングルに制限がある為、広がりや奥行きがうまく表現できない場合があります。本作では広角レンズを多用することにより画面に広がりと奥行きを生み出すとともに、広角レンズ特有の個性的な映像にちょとしたシュール感が漂います。本作はほとんどが自然光、キャンドル、暖炉などのアベイラブル・ライト(そこにある光)でナチュラルに撮影されていますが、その一方でこのように随所にさりげなく非現実感や異質感を仕込んだ演出が、ランティモス監督独特の世界観を醸し出しています。広角レンズを多用した映像オリヴィア・コールマン(アン女王)オリヴィア・コールマン(1974年〜)は、イギリスの女優。ブリストルの演劇学校を卒業後、テレビで卓越した才能を発揮するようになり、数々の賞を受賞している。映画は、「ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-」(2007年)、「思秋期」(2011年)、「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」(2013年)などに出演しており、本作で、アカデミー主演女優賞を受賞している。エマ・ストーン(アビゲイル・メイシャム、サラの親族)エマ・ストーン(1988年〜)はアリゾナ出身のアメリカの女優。11歳の時に初めて舞台出演、その後、数々の舞台に出演するとともに、即興コメディ劇団にも参加、15歳の時に高校を中退、女優を志し両親を説得して、母親と共にロサンゼルスに移り、日中にオーディションに受け、夜に家で勉強する生活を送る。2004年にタレント発掘番組で役を勝ち取り、テレビでのキャリアが始まるが、出演する番組がパイロット・エピソードのみで終わったり、途中でシリーズが打ち切られるなど、なかなか芽が出なかった。2007年に青春コメディ「スーパーバッド 童貞ウォーズ」で映画デビュー、ジョナ・ヒル演じる主人公の恋人を演じる。この役は脚本に人物描写がほとんどないものだったが、作品のヒットとともにエマ・ストーンも注目される。その後も、コメディ映画「ROCKER 40歳のロック☆デビュー」、「キューティ・バニー」、「ゴースト・オブ・ガールフレンズ・パスト」、「ゾンビランド」、「Paper Man」で有名な俳優と共演するようになり、2010年に主演を務めた「小悪魔はなぜモテる?!」でゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネートされ、彼女の大きなブレイクスルーとなる。その後、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズなど、メジャーな作品に出演するようになり、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)で名だたる名優を相手にシリアスな役に挑戦、アカデミー助演女優賞にノミネートされる。2015年にはフォーブス誌の「最もギャラの高い世界の女優」の16位(約650万ドル)にランクされるまでになり、「ラ・ラ・ランド」(2016年)でアカデミー主演女優賞を受賞、本作では同助演女優賞にノミネートされている。同じく10代半ばで女優を志し、両親を説得して大都市に移り住み、その後とんとん拍子でスター街道を上り詰めたジョニファー・ローレンスと異なり、犬用のお菓子屋さんで働くなど下積みの時代もあったエマ・ストーンだが、この世代を代表する才能に恵まれた女優の一人として不動の地位を築きつつある。レイチェル・ワイズ(マールバラ公爵夫人サラ、女王の側近、幼馴染)レイチェル・ワイズ(1970年〜)はロンドン出身のイギリスの女優。父方のルーツはユダヤ系ハンガリー人、母方はユダヤ人とイタリア人の血を引いている。ケンブリッジ大学で英文学を学んでいたが、演技に興味を持つようになり劇団を結成、公演で賞を受賞する。1993年にデビューし、「チェーン・リアクション」(1995年)でキアヌ・リーブスの相手役を演じハリウッド進出する。1999年公開の大ヒット作「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」で国際的に名前が知られるようになり、以降、ラブコメやアクションなど、様々な映画に出演、2005年公開のイギリス映画「ナイロビの蜂」で、第78回アカデミー賞助演女優賞を受賞する。その後も、「MI5:消された機密ファイル/PAGE EIGHT」(2011年)、「愛情は深い海の如く」(2011年)、「否定と肯定」(2016年)、「ディスオビディエンス」(2017年)などに出演、本作でアカデミー助演女優賞にノミネートされている。ニコラス・ホルト(ロバート・ハーレー、政治家、アビゲイルの遠縁) ニコラス・ホルト(1989年〜)は、バークシャー州出身のイギリスの俳優。「アバウト・ア・ボーイ」(2002年)、「シングルマン」(2009年)、「 X-MEN: ファースト・ジェネレーション」(2011年)、「ウォーム・ボディーズ」(2013年)、「X-MEN: フューチャー&パスト」(2014年)、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)などに出演している。2010年頃よりジェニファー・ローレンスと交際していたが2014年に破局、2018年に恋人のモデルとの間に第1子が誕生したことが報道されている。【サウンドトラック】 「女王陛下のお気に入り」のサウンドトラック(楽天市場)1 ヘンデル合奏協奏曲 変ロ長調 作品6 HMV.325: ラルゴ 2 バッハ チェンバロ協奏曲 イ短調: 第3楽章: Allegro ma non tanto 3 リュック・フェラーリ Didascalies 4 ヴィヴァルディ ヴィオダ・ダモーレ協奏曲 イ短調 RV.397: 第1楽章: Vivace 5 ヘンリー・パーセル トランペット・ソナタ ニ長調 A 850: 第2楽章: Adagio 6 アンナ・メレディス ソング・フォーM8: Movement II 7 メシアン/ラトリー 主の降誕: 第7曲: イエスは苦難を受け給う 8 バッハ パストラーレ ヘ長調 BWV590: 第3曲: アリア 9 バッハ 幻想曲 ハ短調 BWV 562 10 バッハ 幻想曲(前奏曲)とフーガ ト短調 BWV542: 前奏曲(幻想曲) 11 アンナ・メレディス ソング・フォーM8: Movement V 12 バッハ チェンバロ協奏曲 ニ長調: 第2楽章: Andante 13 ヴィヴァルディ ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 RV277《お気に入り》: 第2楽章: Andante 14 ヘンデル 《水上の音楽》第1組曲 ヘ長調 HWV 348: 第2楽章: Adagio e staccato 15 シューベルト ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D.960: 第2楽章: Andante sostenuto 16 エルトン・ジョン スカイライン・ピジョン【撮影地(グーグルマップ)】アン女王の居城イングランドのハートフォードシャーにある中世の貴族の館、ハットフィールド・ハウスを使用して撮影している。 「女王陛下のお気に入り」のDVD(楽天市場)【関連作品】ヨルゴス・ランティモス監督 x オリヴィア・コールマン x レイチェル・ワイズのコラボ作品(楽天市場) 「ロブスター」(2015年) ヨルゴス・ランティモス監督作品のDVD(楽天市場) 「籠の中の乙女」(2009年) 「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(2017年)オリヴィア・コールマン出演作品のDVD(楽天市場) 「ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-」(2007年) 「思秋期」(2011年) 「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」(2013年)エマ・ストーン出演作品のDVD(楽天市場) 「スーパーバッド 童貞ウォーズ」(2007年) 「ゾンビランド」(2009年) 「小悪魔はなぜモテる?!」(2010年) 「ラブ・アゲイン」(2011年) 「ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜」(2011年) 「アメイジング・スパイダーマン」(2012年) 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年) 「ラ・ラ・ランド」(2016年) 「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」(2017年)レイチェル・ワイズ出演作品のDVD(Amazon) 「アバウト・ア・ボーイ」(2002年) 「ナイロビの蜂」(2005年) 「MI5:消された機密ファイル/PAGE EIGHT」(2011年) 「愛情は深い海の如く」(2011年) 「否定と肯定」(2016年)「ディスオビディエンス」(2017年)輸入盤、リージョン3、日本語なし
2019年07月11日
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「クレアのカメラ」(原題:클레어의 카메라、英題:Claire's Camera)は、2017年公開の韓国のドラマ映画です。ホン・サンス監督・脚本、イザベル・ユペール、キム・ミニら出演で、女癖の悪い映画監督、監督と男女の関係にある映画会社の女社長、監督と火遊びしてしまった映画会社の社員と、虚実綯い交ぜの設定で、それぞれの思惑が交錯する、映画の聖地カンヌの舞台裏で繰り広げられる人間模様をユーモラスに、温かい眼差しで描いています。 「クレアのカメラ 」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ホン・サンス脚本:ホン・サンス出演:キム・ミニ(マニ、韓国の映画製作会社の社員) イザベル・ユペール(クレア、フランス人の音楽教師) チャン・ミヒ(ナム社長、韓国の映画製作会社の女社長) チョン・ジニョン(ソ監督、韓国の映画監督) ユン・ヒソン(スンヨン、マニの後輩) マーク・ペランソン(テラスの男) シャヒア・ファーミー(クレアの友人) ほか【あらすじ】韓国の映画会社の社員マニ(キム・ミニ)は、女社長ナム(チャン・ミヒ)からの信頼も厚い有能なベテランですが、カンヌ国際映画祭に出張中に社長から突然、仕事を辞めて帰国するよう言い渡されます。はっきりとした理由の説明もない、理不尽な解雇をマニは受け入れますが、格安航空券の為、予定を変更することもできず、当初の帰国予定日までカンヌに残ることにします。一方、映画祭に初めてやってきたフランス人の音楽教師クレア(イザベル・ユペール)は、韓国人の映画監督ソ(チョン・ジニョン)と知り合い、映画製作会社のナム社長を加えて3人で食事をします。自分が写真を撮った人間は変わるという不思議な信念を持つクレアは、食事の席で二人の写真を撮り、一足先に店を出ます。クレアが去った後、酔い始めたソ監督は、ナム社長に男女の関係を清算したいと切り出します。同じ頃、話し相手もなく海岸でひとり物思いに浸っていたマニは、ポラロイド・カメラを手にしたクレアと出会います。二人は意気投合し、マニの仲間の宿泊先で手作りの韓国料理を食べます。クレアが撮った写真を見せてもらったマニは、ソ監督が写っていること気づきます。ソ監督は彼を愛する韓国人女性と一緒だったと聞いたマニは、その女性がナム社長であること、マニがソ監督と一夜を共にしたことを知ったナム社長が彼女を解雇したことを察します。マニとクレアは、マニがナム社長に解雇を言い渡されたカフェへと向かい、クレアはマニにカメラを向けてシャッターを切ります・・・・。【レビュー・解説】映画の即興詩人ホン・サンス監督が、ミューズのキム・ミニに加えて旧知の大女優のイザベル・ユペールを迎え、映画の聖地カンヌの街を舞台にマジック・リアリズムを交えながら繰り広げる、魅力的で、おかしくて、軽くて、深みのある、大人の為の童話劇です。カンヌを舞台にマジック・リアリズムを交えて繰り広げる大人の為の童話映画の聖地カンヌの素顔本作は、2016年にイザベル・ユペールが「エル ELLE」、キム・ミニが「お嬢さん」の上映の為にカンヌ映画祭を訪れた機会を利用し、わずか数日間で撮影したという異色作です。カンヌはもともと農業、水産業を中心とした村落でしたが、19世紀になってフランス国内外の貴族が別荘を建てはじめ、徐々に高級リゾート地へと発展した街です。我々が目にするカンヌは映画祭会場のパレ・デ・フェステバル・エ・コングレのレッド・カーペットの映像がほととんですが、ホン・サンス監督はヨット・ハーバーを挟んで映画祭会場の反対側にある旧市街ル・シュケを中心に、曲がりくねった石畳の坂道や階段など、古くからあるカンヌの街の素顔を見せてくれます。カンヌ映画祭の会場と旧市街ル・シュケ(グーグルマップ)手前中央付近にあるのがカンヌ映画祭が開催されるパレ・デ・フェステバル・エ・コングレで、ヨット・ハーバーを挟んで映画祭会場の反対側にあるのが旧市街のル・シュケ。マニが宿泊するアパート、マニが後輩と会うカフェ、クレアが友人と下る坂道、クレアがソ監督と出会うカフェ、クレアとソ監督とナム社長が食事をする中華レストラン、終盤にマニとナム社長が下る階段などは、このル・シュケで撮影されている。映画祭会場の手前、海岸沿いには、世界から集まる著名人や映画俳優が宿泊する超高級ホテルをはじめ、高級レストラン、ブティックなどが並ぶ、目抜き通りのラ・クロワゼット通りが延びるが、海辺のシーンはラ・クロワゼット通り沿いの海岸ではなく、ル・シュケの向こう側、ミディ・ルイーズ・モロー通り沿いの比較的落ち着いた浜辺で撮影されている。これは登場するキャラクターたちが、いわゆるセレブではない一般人であることを考慮したロケーション設定と考えられる。海外でも変わらない非凡な制作プロセスホン・サンス監督は、撮影数ヶ月前:会いたいと思う俳優に会い、第一印象や俳優の人間性を見て、自らの体験と関連づけるロケ地を探し、近隣を歩き回り、何を撮るかも決めないまま直感で舞台となる店やバーを選びオーナーと撮影交渉する撮影数日前:ホテルに2~3泊して構成を考え、撮影の為の予稿のようなものを作る(作らない時もある)撮影当日:朝に何を撮るか最終決定し、その日に撮影する分の脚本を書いて俳優に渡す撮影後、その日のうちに出来上がりを見て、気に入らなければ再撮影する3日ほどの撮影で映画全体の構成を掴み、撮り進めるうちに自分が何をやりたいか見出すという非凡な制作プロセスで知られていますが、これは海外のロケ撮影でも変わりません。イザベル・ユペールに出演依頼があったのが撮影の一ヶ月前で、先にホン・サンス監督の「三人のアンヌ」(2012年)の主演を務め、気心の知れている彼女はこれを快諾します。撮影のわずか一ヶ月前に、脚本も概要もない映画の出演を決めるのは、ホン・サンス監督と強い信頼関係で結ばれた俳優でなければ、決してあり得ない話です。ホン・サンス監督は役の職業だけを俳優に事前に伝え、撮影の二日前にカンヌ入りして、浜辺のシーンなど、具体的な撮影場所を決めています。一部、深夜や早朝の撮影と思しきシーンもありますが、書き入れ時のカンヌ映画祭期間中にカフェなどよく撮影できたと思います。カンヌの街自体が映画の恩恵を大きく受けている為に、映画撮影に対しても寛容なのかもしれません。また、人が近づいたり、撫でたりしても、悠然と寝そべっている犬が作中に登場しますが、これはマニがナム社長に解雇を言い渡され、後にクレアとともに訪れるカフェの実際のオーナーの飼い犬で、しっかりと物語に織り込まれています。また、場所は特定できなかったのですが、階段沿いに大きな壁画があるアパートはホン・サンス監督の一行がカンヌ滞在時に実際に利用するアパートで、韓国料理を自炊して食べたり、エレベーターがよく壊れるという劇中の設定は、彼らの実体験を反映したものでしょう。こうした邂逅や出来事を取り込むのも、ホン・サンス流です。クレアのカメラが意味するものとは?チョン・ジニョンが演じる女たらしで酒癖が悪いソ監督は、ホン・サンス監督自身のキャラを偽悪的に誇張したものであろうことは想像に難くありません。ソ監督との火遊びが原因で解雇されたマニに対してホット・パンツが挑発的だと説教するという、いい年をした親父にありがちな無神経で余計なお世話に、マニが毅然と言い返す下りは見どころです。それでは、写真を撮ると撮られた人が変わるというクレアは、一体、何を象徴しているのでしょうか?クレアを演じたイザベル・ユペールは次のように喝破しています。クレアはフランス人ですが、よそ者です。彼女は、デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けから出てくる神、転じて解決困難な局面に絶対的な存在が現れ解決する演出)と妖精を混ぜたような存在です。彼女は人々と出会い、彼らを元の鞘に戻します。私にとって、それは映画製作のメタファーです。同時に、それは映像の力に関するものでもあります。つまり、これはテーマに関連しますが、クレアはある時、ある人を変えるにはその人をとても良く観察しなければならないと、はっきりと言います。これはある意味、映画制作にも言えることです。人を観察し良くしようとすること、あるいは彼らに注意を払いよく理解することです。作中、私はカメラを使いますが、それはもちろん映画のカメラ(Caméra)ではなく、写真のカメラ(Appareil photo)です。フランス語のタイトルには映画用のカメラ(Caméra)が用いられていますが、それは意図的なものです。英語では写真用も映画用も同じ「カメラ」ですが、フランス語では「カメラ」(Caméra)は映画用のカメラしか意味しません。作中、私は映画用のカメラではなく写真用のカメラを使っていますが、ホン・サンス監督はこの訳の違いを知っているはずです。クレアは映画製作者の象徴として描かれていますので、ちょっとした言葉の違いがあったとしても、それは問題ではないのです。(イザベル・ユペール)https://www.villagevoice.com/2018/03/22/claires-camera-star-isabelle-huppert-on-the-unpredictable-magic-of-hong-sang-soo/クレアが使用するポラロイド・カメラFujifilm Instax Mini 70(楽天市場)ホン・サンス監督は、女たらしで酒癖の悪いソ監督を自身の化身として陽動する一方で、撮った相手が良い方に変わって欲しいという映画製作者として想いを、密かにクレアに託しているのです。この想いがキム・ミニ個人に向けたものかどうかはなんとも言えませんが、彼女に限っても、「正しい日 間違えた日」(2015年)に出演して衝撃を受けたキム・ミニは、ホン・サンス監督の制作スタイルにのめり込むようになる(さらにホン・サンス監督との不倫の関係になり、「お嬢さん」(2016年)を最後に他の監督の作品に出演していない)「夜の浜辺にひとり」(2017年)で、キム・ミニは韓国人女優初のベルリン映画祭銀熊賞(主演女優賞)を受賞し、女優としてスケールアップすると、ホン・サンス監督はキム・ミニを撮ることにより、確実に彼女を大きく変えてきました。彼の妻への離婚請求が棄却され、不倫へのバッシングが激しい韓国で厳しい状況にある二人ですが、これから新たな作品を撮るごとにキム・ミニはどう変化していくのか、映画のマジック・リアリズムのようにはいかないかもしれませんが、是非ともハッピー・エンディングになって欲しいものです(プライベートがどうであれ、映画が面白ければそれで良いと言えますが、映画ファンとしては、良い作品を残す映画製作者にはやはり実生活でも幸せになって欲しいと、単純に思います)。キム・ミニ(マニ、韓国の映画製作会社の社員)キム・ミニ(1982年〜)は、韓国の女優。モデルとして活躍した後、1999年にテレビドラマ・デビュー、映画「お嬢さん」(2016年)で青龍映画賞最優秀女優賞を受賞している。「正しい日 間違えた日」(2015年)で初めてホン・サンス監督とコラボ、以降、「夜の浜辺でひとり」(2017年)、本作、「それから」(2017年)、「草の葉」、「Gangbyun Hotel 」(いずれも2018年)とコラボを続け、ホン・サンス映画に欠かせないミューズとなる。「夜の浜辺でひとり」で、ベルリン国際映画祭主演女優賞(銀熊賞)を受賞している。イザベル・ユペール(クレア、フランス人の音楽教師)イザベル・ユペール(1953年〜)は、パリ出身のフランスの女優。フランス国立高等演劇学校で演技を学び、舞台やテレビを経て1972年に映画デビュー。1978年の「Violette Nozière」(1978年)、「ピアニスト」(2001年)でカンヌ国際映画祭女優賞を、「主婦マリーがしたこと」(1988年)、「沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇」(1995年)でヴェネツィア国際映画祭女優賞を受賞している。これまでセザール賞主演女優賞に史上最多の14回ノミネートされており、「沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇」(1995年)で主演女優賞を受賞している。「エル ELLE」(2016年)では、第42回セザール賞で作品賞と主演女優賞を、第74回ゴールデン・グローブ賞で外国語映画賞と主演女優賞をそれぞれダブル受賞、さらに第89回アカデミー主演女優賞にノミネートされている。ホン・サンス監督とは「3人のアンヌ」(2012年)に続いて、本作が二度目のコラボレーション。チョン・ジニョン(右、ソ監督、韓国の映画監督)チョン・ジニョン(1964年〜)はソウル出身の韓国の俳優。大学卒業後、1988年に舞台デビュー、1991年に映画映画デビュー、「約束」(1998年)で第19回青龍映画賞助演男優賞を受賞している。ホン・サンス監督作品には、本作以外に「草の葉」(2018年)に出演している。チャン・ミヒ(左、ナム社長、韓国の映画製作会社の女社長)チャン・ミヒ (1958年〜)はソウル出身の韓国の女優。1976年に女優デビュー、1970年〜1980年代にかけて、チョン・ユンヒ、ユ・ジインとならんで新三大女優と称された。その後、学歴詐称疑惑が発覚、2008年を最後に映画出演から遠ざかっていたが、本作で銀幕復帰。撮影時58歳とは思えぬ若作りで、ベテラン女優ならではの存在感を示している。【サウンドトラック】「雨」:ヴィヴァルディ「四季」より「冬」第2楽章ラルゴ外は冬の雨だが、暖炉の傍らにゆったりとした平和な時間が流れている情景を描いた曲。美しくシンプルなメロディの繰り返しを好むホン・サンスらしい選曲。【撮影地(グーグルマップ)】マニが宿泊するアパートマニが後輩と会うカフェマニが社長に解雇を言い渡されるカフェマニが船を眺める浜辺クレアが友人と下る坂道クレアがソ監督と出会うカフェクレアとソ監督が訪れる図書館クレアとソ監督、ナム社長が食事をするレストランマニが覗き込む海岸のトンネルマニとクレアが出会う浜辺マニとソ監督が再会するオープンデッキマニとナム社長が下る階段 「クレアのカメラ 」のDVD(楽天市場)【関連作品】ホン・サンス監督xキム・ミニのコラボ作品(楽天市場) 「正しい日 間違えた日」(2015年) 「夜の浜辺でひとり」(2017年)キム・ミニ出演作品のDVD(楽天市場) 「お嬢さん」(2016年)イザベル・ユペール出演作品のDVD(楽天市場) 「甘い罠」(2000年) 「8人の女たち」(2002年) 「ガブリエル」(2005年) 「愛、アムール」(2012年) 「未来よ こんにちは」(2016年) 「エル ELLE」(2016年)
2019年07月02日
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デジタル一眼レフにオールド・レンズを装着して楽しんでいるが、絞り優先で撮影すると露出がばらつくことに気がついた。カメラは、 【送料無料】【即納】Nikon D610 ボディ デジタル一眼レフカメラマウント・アダプターは、pixco マウントアダプター コンタックス・ヤシカ C/Yレンズ → ニコン F ボディ [補正レンズ付き]【送料無料】レンズは、コンタックス・マウントの【CONTAX】コンタックス『Planar T* 85mm F1.4 MMJ』カールツァイス 一眼レフカメラ用レンズ 1週間保証【中古】b03e/h22AB【中古 保証付 送料無料】CONTAX Carl Zeiss PlanarT* 50mm F1.4 MMJ【あす楽】 【中古】 《良品》 CONTAX Distagon T*35mm F1.4 MM [ Lens | 交換レンズ ]【あす楽】 【中古】 《良品》 CONTAX Distagon T*18mm F4 MM [ Lens | 交換レンズ ]厳密な測定ではないが、おおよその傾向は、類似の問題がキャノンの一眼レフでも確認されており、Impressions by KEN に詳しい分析が記載されている。マウントアダプターを使った場合のEOS露出テストマウントアダプターでEOSの露出が暴れる理由ボディのメーカーが違うが、恐らく原因は相似と思われる。大口径レンズの絞り開放時の跳ね上がりは、レンズ本体の後玉よりも径が小さいマウント・アダプターのレンズに蹴られる為、実効で開放絞りが出ていない為と思われる。ただ、元より絞り開放付近では収差が出て画面が荒れる為、通常は1〜2段、絞り込んで撮影するので、この露出のバラツキは通常の絞り込みによって回避できそうだ。問題は、それ以上、絞り込んでいった場合の露出のバラツキである。これは、個々のレンズの絞り込みとファインダーの測光センサーの微妙な関係に起因するようだ。レンズ情報を登録したニコンの非CPUレンズは開放測光となる為、こうした露出のバラツキは出ない。また、ファインダーの測光センサーを使わないライブビュー撮影でも、露出がバラつくことはない。露出のバラツキは最大で+-0.4EVくらいだが、マウント・アダプターを使用した時は、まめに撮影画像やヒストグラムをチェックし、必要に応じて露出補正をして追加撮影する予めオート・ブラケティングを設定して撮影するなどの対策を講じたほうが良さそうだ。
2019年06月28日
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「夜の浜辺でひとり」( 原題:밤의 해변에서 혼자、英題:On the Beach at Night Alone)は、2017年公開の韓国のドラマ映画です。ホン・サンス監督のミューズであり、プライベートで不倫関係にある女優キム・ミニとのコラボ作品で、不倫スキャンダルで異国へ遁走するも待ち人来たらず、韓国に帰国し、旧友と再開、仕事への復帰を考え始める女優を描いています。第67回ベルリン国際映画祭で、韓国人女優初の銀熊賞(主演女優賞)を受賞した作品です。 「夜の浜辺でひとり」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督 ホン・サンス脚本 ホン・サンス出演:キム・ミニ(ヨンヒ、既婚の映画監督との恋に疲れ、キャリアを捨てた女優) ソ・ヨンファ(ジヨン、ヨンヒの先輩、女友達) クォン・ヘヒョ(チョンウ、ヨンヒの先輩、昔なじみ) チョン・ジェヨン(ミョンス、ヨンヒの先輩、昔なじみ) ソン・ソンミ(ジュニ、ヨンヒの先輩、女友達) ムン・ソングン(サンウォン、かつてヨンヒがつきあっていた映画監督) ほか【あらすじ】既婚男性との恋に疲れた女優のヨンヒ(キム・ミニ)は、キャリアを捨ててドイツのハンブルクを訪れます。ハンブルクに暮らす女友達のジヨン(ソ・ヨンファ)と街を散策し、この外国の街に住む自分を夢想します。韓国から会いにくると言っていた恋人の言葉に期待しながらも、今では半信半疑になり、自身の真意が分からぬまま、欲望と後悔を引きずっています。時は流れ、韓国に帰国したヨンヒは、東海岸の都市、江陵(カンヌン)を訪れます。先輩のジュニ(ソン・ソンミ)との約束を待つ間、映画館を訪れると、昔馴染みのチョンウ(クォン・ヘヒョ)、ミョンス(チョン・ジェヨン)に再会します。飲みに行った先で、ヨンヒは皆から魅力的になったと言われます。焼酎とマッコリととめどない会話、どこか乱暴に振る舞うヨンヒを皆は温かく受け止め、ジュニは愛おし気に眺めます。友人たちと話すうちに、ヨンヒは女優に復帰することを考え始めます。ヨンヒはひとり、ホテル近くの浜辺を訪れ砂浜に横たわります。心配する声に顔を上げると、知り合いの映画スタッフがいます。彼らは、かつてヨンヒが付き合っていた映画監督サンウォン(ムン・ソングン)の次回作のロケハン中で、そのサンウォンも江陵に来ていると言います・・・。【レビュー・解説】新たなミューズとなった女優キム・ミニに触発されたホン・サンス監督が、ハンブルグと韓国東部の江陵(カンヌン)を舞台に、報われぬ不倫の恋に悩みキャリアから遁走する女優の心情を、マジック・リアリズムの薬味が効かせながら叙情的に描いた魅力溢れる作品です。女優キム・ミニに触発された作品 キム・ミニを初めて主役に据えた「正しい日 間違えた日」(2015年公開)は不倫を扱いながら同じ設定で展開の異なる二部構成に面白みを見出す作品でした。イザベル・ユペールが「エル ELLE」、キム・ミニが「お嬢さん」の上映で訪れた2016年のカンヌ映画祭を利用してわずか数日の間に撮影された本作は、キム・ミニ本人のキャラクターに触発されたホン・サンス監督が、不倫の恋に悩みキャリアから遁走する女優の心情をリリカルに描いています。ちょっとしたマジック・リアリズムの薬味を効かせてプロットが複雑になるのを回避しながら、キム・ミニ演じる主役ヨンヒの人物描写にフォーカスし、時に美しく、時に荒々しく、その人間性や苦しみなど内面にまで肉薄する深みのある描写となっています。2017年のベルリン映画祭で本作がプレミア上映された際の記者会見で、ホン・サンス監督はキム・ミニと不倫の関係にあることを認めていますが、「正しい日 間違えた日」からわずかの間に彼が見せたキム・ミニとの距離の詰め方には目を瞠るものがあります。ヨンヒのキャラクターは私ひとりで開発したもので、キム・ミニは関わっていません。私は彼女を他の俳優よりも良く知っています。彼女はいつも彼女自身です。私はそれに大きな影響を受けています。もちろん、彼女が言ったかもしれないこと、私が脚本に書いたこと、他の誰かの言葉を引っ張ってきたことを、私は区別できません。私が本作を制作するのに最も影響を受けたのは、彼女が彼女自身であること、そんな彼女をよく知ったことでした。(ホン・サンス監督)https://mubi.com/notebook/posts/there-is-no-such-thing-as-reality-hong-sang-soo-discusses-on-the-beach-at-night-aloneホン・サンス監督は元より、身近なことを題材にしながら想像力逞しく、半ば即興的に物語を組み立てていきます。不倫の関係となったキム・ミニが彼の新たな題材となったことは、ある意味、自然なことと思われます。しかし、彼が題材とするのはあくまでも彼がイメージするところのキム・ミニであり、映画はそれを客観的に裏付けて行くのではなく、逆に彼の豊かな想像力でキャラクターが自在に羽ばたいているように見受けられます。偶然を取り込むホン・サンスホン・サンス監督が題材に取り込むのはキム・ミニだけではありません。ハンブルグでヨンヒが立ち寄る本屋も、ホン・サンス監督が宿の近くに見つけたものです。先に俳優とロケ地を決め、実際に歩きまわりながら撮影場所を交渉するというスタイルは、海外でも同じです。この本屋はカール・フェデル氏という子供たちにピアノを教えているアマチュア画家が経営しており、映画にも本人が出演してピアノを披露しています。カール・フェデル氏による肖像画やコラージュ撮影時、彼はガンを患っており、これも映画の中で語られています。本作がベルリン映画祭でプレミア上映された後、ホン・サンス監督はハンブルグのこの本屋を訪れますが、残念なことにカール・フェデル氏は亡くなった後でした。三ヶ月後、カンヌ映画祭でプレミア上映された「クレアのカメラ」(2017年)に、マニ:恋人は?クレア:彼は数ヶ月前に亡くなった。本屋のオーナーで、私にピアノを教えていた。マニ:彼を思い出す?クレア:ええ。毎日の思い出している。私の中に生きているの。生き方も教えてくれた。後追い自殺も考えたわ。マニ:それほど愛してた?クレア:もちろん、今も心から愛している。マニ:素敵ね、誰かを愛せて。クレア:ええ、私は幸せものよ。マニ:そうね。というやりとりがありますが、これは故カール・フェデル氏への賛辞となっています。読書体験の反映ある意味、即興的とも言えるホン・サンス監督の作品は、彼に与えられた俳優、ロケ地、天気、見たこと、読んだこと、思い出したこと、制作中に聞いたことに、彼が「最良の純粋さ」で反応したものであると言います。敢えて「読んだこと」を挙げているように、読書体験をさまざまな形で反映するのも彼の作品の特徴です。本作のタイトルは「夜の浜辺でひとり」ですが、浜辺のシーンはあっても夜の浜辺のシーンはありません。実は本作の原題は、アメリカの詩人ウォルト・ホイットマンの「On The Beach At Night Alone」からとったものです。On the beach at night alone, As the old mother sways her to and fro singing her husky song, As I watch the bright stars shining, I think a thought of the clef of the universes and of the future. A vast similitude interlocks all, All spheres, grown, ungrown, small, large, suns, moons, planets, All distances of place however wide, All distances of time, all inanimate forms, All souls, all living bodies though they be ever so different, or in different worlds, All gaseous, watery, vegetable, mineral processes, the fishes, the brutes, All nations, colors, barbarisms, civilizations, languages, All identities that have existed or may exist on this globe, or any globe, All lives and deaths, all of the past, present, future, This vast similitude spans them, and always has spann’d, And shall forever span them and compactly hold and enclose them.万物や時間との関わりを肯定的に受容するこの詩の世界観に、ホン・サンス監督は共感するものがあったのでしょう。それは、不倫の恋とキャリアの間で時に美しく、時に荒々しく揺れ動くヨンヒを、あるがままに受け入れるホン・サンス監督の世界観と重なるようでもあります。また、かつてヨンヒがつきあっていた映画監督のサンウォンが、ヨンヒに読んで聞かせるのが、チエホフの「恋について」についての一節です。別れの時が来たのです。あの車室で目が合った時、二人は自制心を失いました。僕は彼女を抱き寄せ、彼女は身を任せました。涙が頬を伝って流れ落ちました。彼女の顔、肩、そして涙に濡れた手にキスをした時、僕たちは不幸でした。僕は彼女に愛を告白し、心臓に激痛を感じながら、その時、初めて、僕たちに愛を邪魔するのがどれほど無駄で、些細で欺瞞的なものだったか悟りました。愛する時、愛について考える時、日常的な意味における幸福や不幸、日常的な意味における善悪の区別よりもさらに高尚なこと、大事なことから出発すべきである。そうでなければ何も考えるべきではないときづきました。(チエホフ「恋について」より)これは、夫がいる女性との愛に突き進むこともできず、諦めることもできず、じりじりとしながら、何年もの間、友人としてのつきあい、結局、女性の夫の転勤という外部要因で二人の関係が終わりを告げるシーンです。男が女を見送る汽車の中で二人はようやく互いの愛を確認することができましたが、それは別れを前にしての愛を告白しても深刻な結果にはならないことが分かっていたからです。が、何故もっと早く愛を打ち明け、愛に忠実に生きられなかったのかという後悔は、二人の心に一生、残ることになります。サンウォンは、不倫という社会的な体面を気にして別れを選択し、愛情に忠実に生きなかった自身の後悔をこれに重ねています。余談:不倫に厳しい韓国一年に二本は撮れるというホン・サンス監督ですが、2017年は2月にベルリン国際映画祭で本作を発表、5月にカンヌ国際映画祭で「クレアのカメラ」、「それから」と立て続けに三本を発表しています。いずれもキム・ミニが主演で、彼女がかつてないほどのハイペースでホン・サンス監督の創作意欲を喚起しているかが伺われます。これまでも、ロベルト・ロッセリーニとイングリット・バーグマン、ジャン=リュック・ゴダールとアンナ・カリーナ、小津安二郎と原節子など、名監督とミューズが生み出した名作は少なくありませんが、ホン・サンス監督の一連の作品はこうした名作に名を連ねうるものでしょう。不倫の恋とキャリアの間で悩むヨンヒをあるがままに受け入れる一方で、不倫相手の「映画監督」に対しては批判的な本作ですが、ホン・サンス監督はベルリン映画祭のプレミア上映の記者会見で、キム・ミニと不倫の関係にあることを認めています。その後、二人は海外の映画祭を中心に活動、韓国の公式行事に出席していません。というのも、2015年まで姦通罪が存在した韓国は不倫に対して世論が厳しく、これまでに不倫が発覚した芸能人はことごとく芸能界を追われています。本作でも他の監督の映画に出れるとサンウォンに言われたヨンヒが激怒する場面がありますが、キム・ミニも パク・チャヌク監督の「お嬢さん」(2016年)を最後にホン・サンス監督以外の映画には出演していません。ホン・サンス監督は裁判所に前妻との離婚請求を申し立てていましたが、請求が棄却された今、キム・ミニの今後のキャリアには厳しいものがあると思われます。ホン・サンス監督とキム・ミニが今後とも素晴らしい作品を作り続けて欲しいと思う一方で、映画ファンとしてはフランスの様にプライベートと仕事(映画)の評価を混同しない世の中であって欲しいと思います(韓国では当面、無理と思いますが・・・)。キム・ミニ(ヨンヒ)キム・ミニ(1982年〜)は、韓国の女優。モデルとして活躍した後、1999年にテレビドラマ・デビュー、映画「お嬢さん」(2016年)で青龍映画賞最優秀女優賞を受賞している。「正しい日 間違えた日」(2015年)で初めてホン・サンス監督とコラボ、以降、本作、「クレアのカメラ」(2017年)、「それから」(2017年)、「草の葉」、「Gangbyun Hotel 」(いずれも2018年)とコラボを続け、ホン・サンス映画に欠かせないミューズとなる。本作で、ベルリン国際映画祭主演女優賞(銀熊賞)を受賞している。クォン・ヘヒョ(右、チョンウ)クォン・ヘヒョ(1965年〜)は、韓国の俳優。映画、ドラマ、舞台で活躍し続けている名バイプレイヤー。2002年の「冬のソナタ」キム次長役や「私の名前はキム・サムスン」の料理長役で、日本でも韓流ファンに愛される人気者になる。ホン・サンス監督作品では、「3人のアンヌ」(2012年)、「あなた自身とあなたのこと」(2016年)、本作に出演、「それから」(2017年)の演技が絶賛され、釜山映画評論家協会賞主演男優賞を受賞している。チョン・ジェヨン(左、ミョンス)チョン・ジェヨン(1970年〜)は韓国の俳優。ソウル芸術専門大学演劇科卒業後1990年に映画デビュー、長い下積みを続ける。「ガン&トークス」(2001年)のヒットが転機となり、「シルミド/SILMIDO」(2003年)で青龍映画賞助演男優賞受賞を受賞する。その後も、「黒く濁る村」(2010年)で青龍映画賞主演男優賞を受賞 、「正しい日 間違えた日」(2015年)でロカルノ国際映画祭主演男優賞を受賞している。【サウンドトラック】シューベルト弦楽五重奏曲ハ長調、ドイッチュ番号956、第2楽章アダージョ(YouTube)本作では、シューベルト弦楽五重奏曲ハ長調、ドイッチュ番号956、第2楽章アダージョの冒頭の部分の繰り返しがサウンドトラックに使用されている。ホン・サンス監督が好むシンプルなメロディ・ラインである。【撮影地(グーグル・マップ)】冒頭、ヨンヒが先輩とおしゃべりする市場普段は普通の通りだが、週末になると市場が立つ。ヨンヒが先輩と訪れる本屋ドイツはプライバシー保護が強く、グーグル・ストリートビューで見られる地域が限られる上に、建物がマスクされることも多い。本作の撮影の際も、本屋の中は早々に撮影できたが、本屋の外を歩くシーンの撮影を嫌った隣人が警察を呼ぶというアクシデントがあった。ハンブルグ映画振興協会等の撮影許可を得ていたので事なきを得たが、いかにもドイツらしいエピソードだ。ヨンヒらがハンブルグで訪れるエルベ川の川辺一見、海辺のように見えるが、ハンブルグを流れるエルベ川の川辺で撮影している。ヨンヒの先輩たちが江陵(カンヌン)で経営するコーヒーショップヨンヒが滞在した江陵(カンヌン)のホテルと、彼女が寝そべる浜辺【関連作品】ホン・サンス監督xチョン・ジェヨンxキム・ミニのコラボ作品(楽天市場) 「正しい日 間違えた日」(2015年)ホン・サンス監督xキム・ミニのコラボ作品のDVD(楽天市場) 「クレアのカメラ」(2017年)キム・ミニ出演作品のDVD(楽天市場) 「お嬢さん」(2016年)
2019年06月25日
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「悲しみに、こんにちは」(原題:Estiu 1993、英題:Summer 1993)は、2017年公開のスペインのドラマ映画です。監督自身の幼少期の体験に基づき、カルラ・シモン監督・脚本、ライア・アルティガス、パウラ・ロブレスら出演で、病気で両親を亡くしたバルセロナの都会っ娘が、カタルーニャの田舎で自給自足の生活をする若い叔父夫婦と年下の従姉妹と共に過ごす夏を描いています。第32回ゴヤ賞で新人監督賞(カルラ・シモン)、助演男優賞(ダビド・ヴェルダグエル)、助演女優賞(ブルーナ・クッシ)、第67回ベルリン国際映画祭で新人監督賞を受賞、第90回アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表に選出された作品です。 「悲しみに、こんにちは」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:カルラ・シモン脚本:カルラ・シモン出演;ライア・アルティガス (フリダ、両親の亡くし若い叔父夫婦の下で暮らす少女) パウラ・ロブレス(アナ、フリダの従姉妹) ダビド・ヴェルダグエル(エステバ、フリダの叔父) ブルーナ・クッシ(マルガ、フリダの叔母) フェルミ・レイザック(フリダの祖父) イザベル・ロカッティ(フルダの祖母) モンセ・サンズ(ロラ、フリダの叔母、低身長症) ベルタ・ピポ(アンジェラ、フリダの叔母) ほか【あらすじ】フリダ(ライア・アルティガス)は、荷物がダンボールに詰められるのを静かに見つめています。両親を病気で亡くし、一人になってしまった彼女は、バルセロナからカタルーニャの田舎へ引っ越し、若い叔父夫婦と共に暮らすことになります。叔父エステバ(ダビド・ヴェルダグエル)と叔母マルガ(ブルーナ・クッシ)、幼い従姉妹のアナ(パウラ・ロブレス)はフリダを新しい家族の一員として温かく迎え入れます。しかし、母親の闘病中、祖母たちに甘やかされて育てられた都会っ子のフリダは、田舎で自給自足の生活を送る叔父一家になかなか馴染むことができません・・・・。【レビュー・解説】監督自身の実体験に基づき、両親を亡くしたバルセロナの都会っ娘が田舎の叔父夫婦に引き取られ、年下の従姉妹とともに過ごすカタルーニャの夏をリアルに瑞々しく描いた、自伝的ヒューマン・ドラマ映画です。両親を亡くした都会っ娘が、田舎の叔父夫婦、年下の従姉妹とともに過ごす夏巨大人形や頭の大きな人形が練り歩く聖体祭などカタルーニャの風物が満載幼くして両親を失うこと私事で恐縮ですが、小学生の時、同級生の女の子がお母さんを病気で亡くしました。お母さんはシングルマザーだったので、女の子はひとりぼっちになってしまいました。幼くして両親を失うなんてとても耐えられない悲しさだと思いましたが、女の子は気丈にも葬儀に出席した友人に苦笑いして見せたと言います。母親の死以前に、彼女は健康で優しい両親や一家の団らんなど、同級生が当たり前のように享受している幸せの多くを、既に失っていました。じりじりとやって来る不幸に泣き叫ぶことはなくても、子供が両親を亡くすというのは間違いなく最悪の出来事であり、それが子供の心に落とす影には計り知れないものがあると思います。親戚に引き取られたのか、施設に入所したのか、彼女はそのまま登校することなく転校してしまい、その後の消息を聞くことはありませんでした。もうひとり、小学の同級生に孤児の男の子がいました。彼とは別の同級生の家がちょっと羽振りの良い自営業だったのですが、彼はその家に引き取られることになりました。同級生が、同居する義兄弟になったわけですが、何ヶ月もしないうちに喧嘩でもしたのでしょうか、引き取った家の息子が全身を包帯でぐるぐる巻きしなければならないほどの大怪我をしました。孤児の男の子は施設に逆戻りになり、その後、二度と里親に恵まれることはありませんでした。日本の孤児に里親が見つかるのはとても幸運なケースですが、里親一家に迎えられる孤児も、迎える里親一家も一筋縄ではいかないものだと思った記憶があります。もちろん、悪いことだけではありません。父の友人の娘さんが養女で、何回かお会いしてしたことがありますが、自分が養女であることを公言してはばからず、私は幸せだと、口癖のように繰り返していました。孤児、養子といっても各人各様と思いますが、プライベートなことでもあり、実際にその心理がどういうものなのかを実感する機会はほとんどありません。監督自身の実体験に基づいて孤児の心理体験をリアルに描く本作は、そういう意味では貴重な作品です。事実に基づいたリアルな作品監督・脚本のカルラ・シモンが自らの体験に基づく本作は、カタルーニャの田舎の叔母夫婦と従姉妹のもとに引き取られた、両親を亡くしたバルセロナの都会っ娘の心理体験をリアルにヴィヴィッドに描いた、自伝的なヒューマン・ドラマ映画です。大事件が起こるわけではありませんが、幼くして両親を失うということがどういうことなのか、養子として迎えられるということがどういうことなのか、とてもリアルに瑞々しく感じさせてくれる作品です。プロットは、両親を病気で亡くしたこと両親が闘病中はバルセロナの祖父母や叔母が面倒を見てくれたこと母の遺言でカタルーニャの田舎の叔父夫婦、従姉妹と暮らすことになったこと叔父夫婦の家から家出を企てたことと、カルラ・シモン監督が実際に経験したことに基づいており、脚本も緻密に書かれています。スペイン映画としては薄口ですが、徹底的に子供たちや里親の心情に寄り添った描写はスペイン映画ならではです。ヴィヴィッドで瑞々しい演出ヴィヴィッドで瑞々しい本作の秘密は、緻密な脚本に加えて子役たちのキャスティングやカルラ・シモン監督の女性らしい観察の行き届いた演出にあります。アナ役のパウラ・ロブレスはバルセロナの郊外の出身ですが、田舎をよく訪れており田舎に慣れた子供で、お兄さんたちが一緒に遊んでくれたり、よく褒められたりと、素直で育ちの良い、愛情をたっぷりと注がれている子供です。一方、フリダ役のライア・アルティガスは家族構成が複雑で、あまり一般的ではない環境で育っており、愛に飢えた面があるのか、撮影中も年長のライアが年少のアナに嫉妬するような一幕がありました。そういった生い立ちの異なる二人の関係性が、本作にそのまま生かされています。おむつがとれて間もないような無垢で可愛らしいパウラと、愛に飢えて嫉妬が交錯する複雑なライアが好対照で、映画的にお互いを引き立てています。子どもたちが物語を理解することよりも、子ども同士の関係や周囲の大人たちとの関係が重要だと気づいたカルラ・シモン監督は、一緒に買い物に行ったり、料理を作ったり、遊んだりといった日常的なことに時間をかけ、さらに撮影する前に撮影シーンの3〜4時間前の出来事を即興で演じてもらうなど、撮影の準備段階にたっぷりと時間をかけています。これは、大人の俳優たちと共に過ごすことで本当の家族のように感じてもらい、家族のような関係性を作り、脚本通りの家族構成に見せる為です。本番は比較的自由に伸び伸びと演技させ、セリフも子どもたちが言いやすいように話したり、遊びのシーンでは自由に演じてもらったり、彼女らが自然におしゃべりしたりするのを、ハンディカメラで子供の目の高さから撮影しています。しっかりとした脚本、キャスティングに加え、このように準備に重きを置いたナチュラルで辛抱強い演出が功を奏し、まさにバルセロナの孤児がカタルーニャの田舎の叔母夫婦と従姉妹のもとに引き取られてくるときっとこうなるに違いないと感じさせます。素晴らしくリアルで瑞々しい作品に仕上がっており、それがそのまま本作最大の見どころとなっています。ライア・アルティガス (フリダ、両親の亡くし若い叔父夫婦の下で暮らす少女)パウラ・ロブレス(アナ、フリダの従姉妹)ダビド・ヴェルダグエル(右、エステバ、フリダの叔父) ブルーナ・クッシ(左、マルガ、フリダの叔母)余談:里親になるということ亡き母の遺言により血縁のある叔父夫婦に引きとられ、従姉妹と別け隔てなく育てられた本作のフリダのケース(実際のカルラ・シモン監督のケース)は、大家族制度の名残が残るスペインならではの幸運なケースと思われます。実は本作のサウンドトラックはカルラ・シモン監督の義理の弟(アナの実の弟)が作曲しており、また、フリダの叔母アンジェラ役をカルラ・シモン監督の義理の妹(アナの実の妹)が演じているなど、今も家族として良い関係が続いています。日本ではなかなかこうはいかないかもしれません。私の従姉妹夫婦が亡くなりましたが、夫婦の両親が既に亡くなっていたこと、親戚と疎遠だったこともあってか、夫婦の幼い娘を血縁者が引き取ることもなく、娘は施設に入りました。欧米諸国では孤児の過半数が里親のもとで育つのに対し、日本では里親1に対して施設9とかなり施設偏重となっています。近年、社会参加、自己実現と育児の両立は容易ではない収入格差が広がる中、費用のかさむ育児は容易ではないという傾向が強まる日本では、里親になって他人の子供を育てるなんてとんでもないことなのかもしれません。種の保存という人類にとって重要な仕事であるにも関わらず、育児は社会参加や自己実現に対して不当に蔑まれているような気がします。そんな日本でも、里子ひとりに対して月数万円の補助が出て、他に教育費や医療費も支給される制度ができました。施設に押し付けるのではなく、実子、養子に関わらず、一般市民が育児の労をとることは、社会が持続可能である為の尊い行いであるという認識が、是非とも広がって欲しいものです。【撮影地(グーグルマップ)】マルガとエスティバが働くプール村のダンスパーティー会場エンディングの祭りの会場 「悲しみに、こんにちは」のDVD(楽天市場)おすすめスペイン映画のDVD(楽天市場)・・・合作を含む 「ミツバチのささやき」(1973年) 「オープン・ユア・アイズ」(1997年) 「オール・アバウト・マイ・マザー」(1999年) 「蝶の舌」(2000年) 「デビルズ・バックボーン」(2001年) 「海を飛ぶ夢」(2004年) 「バッド・エデュケーション」(2004年) 「パンズ・ラビリンス」(2006年) 「ボルベール〈帰郷〉」(2006年) 「永遠のこどもたち」(2007年) 「REC/レック」(2007年) 「あなたになら言える秘密のこと」(2007年) 「それでも恋するバルセロナ」(2008年) 「私が、生きる肌」(2011年) 「フラメンコ・フラメンコ」(2012年) 「ブランカ二エベス」(2012年)輸入盤 「インポッシブル」(2012年) 「マジカル・ガール」(2014年) 「しあわせな人生の選択」(2015年) 「ヤシの木に降る雪」(2015)輸入盤、日本語なし 「ジュリエッタ」(2016年) 「シークレット・ヴォイス」(2018年)孤児を描いた映画のDVD(楽天市場) 「少年の町」(1938年、アメリカ) 「ジェーン・エア」(1943年、アメリカ) 「大いなる遺産」(1946年、イギリス) 「オリヴァ・ツイスト」(1948年、イギリス) 「禁じられた遊び」(1952年、フランス ) 「トム・ジョーンズの華麗な冒険」(1963年、イギリス):輸入盤、リージョン1、日本語なし 「ジャングル・ブック」(1967年、アメリカ) 「オリバー!」(1968年、イギリス) 「ブルース・ブラザース」(1980年、アメリカ) 「赤毛のアン」(1985年、カナダ・アメリカ合作) 「リトル・プリンセス」(1995年、アメリカ) 「セントラル・ステーション」(1998年、ブラジル) 「リロ・アンド・スティッチ」(2002年、アメリカ映画) 「Lost Boys of Sudan」(2003年、アメリカ):輸入版、Region 1、日本語なし 「永遠のこどもたち」(2007年、スペイン・メキシコ合作) 「ダークナイト」(2008年、アメリカ・イギリス合作) 「アニマル・キングダム」(2010年、オーストラリア) 「ヒューゴの不思議な発明」(2011年、アメリカ) 「In the Family」(2011年、アメリカ) 「ジャングル・ブック」(2016年、アメリカ) 「ぼくの名前はズッキーニ」(2016年、スイス・フランス合作)
2019年06月18日
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「正しい日 間違えた日」(原題:지금은맞고그때는틀리다、英題:Right Now, Wrong Then)は、2015年公開の韓国のドラマ映画です。ホン・サンス監督、チョン・ジェヨン、キム・ミニら出演で、映画監督チュンスと女性美術家ヒジョンの運命的な出会いと二通りの展開を描いた、二部構成の異色ラブストーリーです。 第68回ロカルノ国際映画祭で、グランプリに相当する金豹賞を受賞した作品です。 「正しい日 間違えた日」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ホン・サンス脚本:ホン・サンス出演:チョン・ジェヨン(ハム・チュンス) キム・ミニ(ユン・ヒジョン) コ・アソン(ヨム・ボラ) ユン・ヨジョン(カン・ドクス) キ・ジュボン(キム・ウォンホ) チェ・ファジョン(バング・スヨン) ユ・ジュンサン(アン・ソングク) ソ・ヨンファ(ジュ・ヨウンシル) ほか【あらすじ】「あの時は正しく 今は間違い」(前半)映画監督のハム・チュンス(チョン・ジェヨン)は特別講義の為に水原(スウォン)を訪れますが、スタッフのミスで一日早く到着してしまいます。世界遺産の華城行宮で魅力的な女性ヒジョン(キム・ミニ)を見かけた彼は、彼女の声をかけます。一緒にコーヒーを飲み、絵を描いているという彼女のアトリエを訪れ、彼女の作品を褒めます。一緒に寿司屋で飲むうちに二人はとても良い雰囲気になり、次いで二人はヒジョンの先輩が集まるカフェを訪れます・・・。「今は正しく あの時は間違いだった」(後半)映画監督のハム・チュンスは特別講義の為に水原(スウォン)を訪れますが、スタッフのミスで一日早く到着してしまいます。世界遺産の華城行宮で魅力的な女性ヒジョン(キム・ミニ)を見かけた彼は、彼女の声をかけます。一緒にコーヒーを飲み、絵を描いているという彼女のアトリエを訪れますが、彼女の作品を正直に批評した為、ヒジョンを怒らせてしまいます。寿司屋で一緒に飲むうちに、ヒジョンは弱みをさらけ出し、そんなヒジョンにチュンスは心の内を打ち明けますが・・・。 【レビュー・解説】顔の表情、声の調子、仕草などによりトーンに微妙な差をつけながら、男女の出会いについて二通りの展開を描き、人生において時々刻々遭遇する瞬間に対する我々の認識と行動には無限の可能性があること、個性も思いも各様な人間が織りなす関係も無限にあることを示唆する、異色のラブストーリーです。男女の出会いについて二通りの展開を描く異色のラブストーリーバリエーションが醸し出す奥深さ芸能人の不倫報道が相次いでいます。私にはとんと縁がないのですが、知り合いにも不倫経験者がおり、一般人にもさして珍しくないことかもしれません。本作のホン・サンス監督と主演女優のキム・ミニも、2017年の記者会見で不倫の関係にあることを公表しています(ホン・サンス監督は妻と離婚係争中で、今年の6月14日に最終審判の予定)。二部構成で不倫を描く本作は、同じ設定で第一部はバッドエンド、第二部はハッピーエンドになりますが、ひょっとしたら二人の実体験を虚実ないまぜにしながら、正しい不倫の仕方でも指南してくれるのかと、ちょっと期待してしまいます。そんな視点で見てみると、第一部のお調子者のハム・チュンスにはバッドエンド、第二部の誠実なハム・チュンスにハッピーエンドが訪れるなど、たとえ不倫をするにしても誠実であれといった倫理的な規範(不倫なのに)が伺われます。しかし、どうもそれだけではありません。そうした因果関係はどこ吹く風、顔の表情、声の調子、仕草といった演技が醸し出す微妙なトーンがそもそも違うのです。つまり、何かを言ったから不倫がうまくいったとか、何かをしたから失敗したという単純なことではなく、個性も思いも各様な二人の関係が醸し出す微妙な表情、声、仕草と言った映画的なトーンが、二人に訪れる結果と不可分であることを本作は示唆しているのです。正しい不倫の仕方に関する指南への期待はここであっさりと裏切られますが、よく考えてみれば正しい不倫の仕方ついて映画で指南を受けたからと言ってうまくいくほど現実は甘くないでしょうし、映画としてもたいして面白いものにはならないかもしれません。実はこの映画の凄いところは、第一部でバッドエンド、第二部でハッピーエンドと二通りの展開を見せながら、同時に個性も思いも各様な人間が織りなす関係の微妙さを描くことにより、我々は成功と失敗の間で白でも黒でもない、永遠にどっちつかずの状態であることを感じさせる点です。本作の最大の魅力でもあるこの微妙なトーンの差は、言語や行動の論理的描写によるものではなく、バッハのゴールドベルク変奏曲、インベンションとシンフォニア、平均律クラーヴィア曲集といった様々な曲調のバリエーションで構成される音楽のようです。人生において我々は時々刻々瞬間に遭遇していきますが、それに対する我々の認識と行動には無限の可能性があり、また我々が織りなす人間関係にも無限の可能性があります。二部構成の本作ですが、そういう意味では、第三部、第四部、第五部といったさらなるバリエーションがありうること、即ち、不倫ひとつとっても様々な関係があり得ること、単なる成否だけでは割り切れないことを感じさせる深みのある作品です。驚きの制作プロセスとリアリティホン・サンス監督は、場所と俳優だけ決めて、撮影する日の朝まで脚本を書かないことで知られています。また、その制作プロセスは伝えたいメッセージや、登場するキャララクターのイメージが先にありきではありません。撮影数ヶ月前:会いたいと思う俳優に会い、第一印象や俳優の人間性を見て、自らの体験と関連づけるロケ地を探し、近隣を歩き回り、何を撮るかも決めないまま直感で舞台となる店やバーを選びオーナーと撮影交渉する撮影数日前:ホテルに2~3泊して構成を考え、撮影の為の予稿のようなものを作る(作らない時もある)撮影当日:朝に何を撮るか最終決定し、その日に撮影する分の脚本を書いて俳優に渡す撮影後、その日のうちに出来上がりを見て、気に入らなければ再撮影する3日ほどの撮影で映画全体の構成を掴み、撮り進めるうちに自分が何をやりたいか見出す本作では第一部の撮影・編集後に俳優に見せ、その後に第二部を撮影している早々に脚本を書いて制作プロセスを縛るのではなく、撮影直前まで新しいこと、予期せぬことを柔軟に取り込み、作品を撮り進めながら最終的な構成と内容に落とし込んでいくのが彼の制作スタイルです。通常は先に脚本を書いて、それに合った俳優と撮影場所を探すわけですが、それは机上のものを現実にすることであり、往々にして様々な現実とのギャップを時間とお金をかけながら解決していくプロセスになります。これに対して先に俳優、ロケ地を先に決め、それを見ながら脚本を書くホン・サンス監督は、眼の前の現実の魅力を引き出しながら可能なことで物語を組み立てていくことにより、大幅に時間と制作費を節約しています。可能なことだけで物語を組み立ててながらもつまらないものにならないのは、ひとえに彼のストーリー・テリングの才能によるものでしょう。因みに、本作は制作費が5万ドル、ポストプロダクション、日当、プロモーションなどが5万ドルで、合計10万ドルと驚異的に安価な費用で制作されています。また、ホン・サンス監督はこの費用を自己資金で賄っており、ファイナンス確保の為の交渉やスポンサーの干渉から解放されています。目的・目標志向ではない彼の制作プロセスは、「映画は私の人生において最も重要なもののひとつ、良い人に囲まれてハッピーに撮りたい」という映画制作への思いの必然的な帰結と言えます。他の映画がどのような作られ方をしているのか、私はよく知りません。私は制作を始める時に明確な目的や目標を持たないようにしています。私はプロセスそのものによる創造性を信じています。その時々に私に与えられた俳優、ロケ地、天気、見たこと、読んだこと、思い出したこと、制作中に聞いたことに反応しているだけです。それは私にとって「最良の純粋さ」です。(ホン・サンス監督)https://nationalpost.com/entertainment/movies/a-rare-and-resoundingly-awkward-interview-with-acclaimed-korean-filmmaker-hong-sang-soo本作の主役の一人、ハム・チュンスは映画監督ですが、本作に限らずホン・サンス監督の作品にはよく映画監督が登場します。これは単に彼が映画監督という職業をよく知っており脚本を書きやすい為で、物語としては別に映画監督である必要はないのですが、撮影準備を最短にしたい彼は敢えて映画監督以外の職業やキャラクターを開発する時間をかけないのです。同様、ヒロインもキム・ミニをモデルに描かれています。ホン・サンス監督はこのように効率的にリアリティティを演出していますが、私小説のように張り詰めた脚本は彼の意図するものではなく、リアリティを享受しながらもすんでのところで映画が現実そのものになることを回避しています。本作の二部構成に見られるように、描かれるエピソードは基本的にホン・サンス監督の創造によるものであり、必ずしも彼とキム・ミニの実生活の再現を狙ったものではないことは留意しておいた方が良さそうです。チョン・ジェヨン(右、ハム・チュンス)チョン・ジェヨン(1970年〜)は韓国の俳優。ソウル芸術専門大学演劇科卒業後1990年に映画デビュー、長い下積みを続ける。「ガン&トークス」(2001年)のヒットが転機となり、「シルミド/SILMIDO」(2003年)で青龍映画賞助演男優賞受賞を受賞する。その後も、「黒く濁る村」(2010年)で青龍映画賞主演男優賞を受賞 、本作でロカルノ国際映画祭主演男優賞を受賞している。キム・ミニ(ユン・ヒジョン)キム・ミニ(1982年〜)は、韓国の女優。モデルとして活躍した後、1999年にテレビドラマ・デビュー、「お嬢さん」(2016年)ので青龍映画賞最優秀女優賞を受賞している。本作がホン・サンス監督との初めてのコラボで、以降。「夜の浜辺でひとり」(2017年)、「クレアのカメラ」(2017年)、「それから」(い2017年)、「草の葉」(2018年)とコラボを続け、ホン・サンス映画に欠かせないミューズとなる。「夜の浜辺でひとり」で、ベルリン国際映画祭主演女優賞(銀熊賞)を受賞している。コ・アソン(右、ヨム・ボラ)コ・アソン(1992年〜)は韓国の女優。4歳でテレビ・デビュー以降、子役として活躍、映画初出演の「グエムル-漢江の怪物-」(2006年)で青龍映画賞新人女優賞を受賞する。「スノーピアサー」(2013年)などに出演している。【撮影地(グーグルマップ)】ソウルから南35kmに位置する首都圏の中核都市、水原(スウォン)で撮影されています。市街地中心にユネスコの世界遺産に登録されている城郭都市「水原華城」の城壁があり、ハム・チュンスは水原華城の中核である華城行宮にある福内堂でがヒジョンに出会います。ハム・チュンスが宿泊するユースホステルハム・チュンスがヒジョンに出会う福内堂ハム・チェンスがヒジョンを誘った喫茶店ヒョンギのアトリエのあるビル芸術家たちが住む歴史的な建物だったが現在は解体されている。ハム・チョンスがヒジョンを誘った寿司屋ヒジョンの先輩のカフェヒジョンの家ハム・チュンスの講演会場 「正しい日 間違えた日」のDVD(楽天市場)【関連作品】ホン・サンス監督xチョン・ジェヨンxキム・ミニのコラボ作品(楽天市場) 「夜の浜辺でひとり」(2017年)ホン・サンス監督xキム・ミニのコラボ作品のDVD(楽天市場) 「クレアのカメラ」(2017年)キム・ミニ出演作品のDVD(楽天市場) 「お嬢さん」(2016年)コ・アソン出演作品のDVD(楽天市場) 「グエムル-漢江の怪物-」(2006年) 「スノーピアサー」(2013年)
2019年06月13日
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「ウインド・リバー」(原題:Wind River)は、2017年公開のアメリカのクライム・サスペンス映画です。テイラー・シェリダン監督・脚本、ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセンら出演で、アメリカ中西部ワイオミング州のアメリカ先住民の居留地で起きた少女殺人事件を追う新人の女性FBI捜査官と、捜査に協力する傷心の白人ハンターを描いています。本作が監督デビュー作のテイラー・シェリダンが、第70回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞した作品です。 「ウインド・リバー」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:テイラー・シェリダン脚本:テイラー・シェリダン出演:ジェレミー・レナー(コリー・ランバート、アメリカ魚類野生生物局の職員、ハンター) エリザベス・オルセン(ジェーン・バナー、新人の女性FBI捜査官、コリーに協力依頼する) グラハム・グリーン(ベン・ショーヨ、部族警察の署長、ジェーンとコリーに協力する) ケルシー・アスビル(ナタリー・ハンソン、マーティンの娘、コリーの亡き娘の親友) ギル・バーミンガム(マーティン・ハンソン、コリーの親友、ナタリーとチップの父) ジュリア・ジョーンズ(ウィルマ・ランバート、コリーの元妻、エミリーとケイシーの母) マーティン・センスマイヤー(チップ・ハンソン、マーティンとアニーの息子、薬物依存) アルテア・サム(アニー・ハンソン、マーティンの妻、ナタリーとチップの母) テオ・ブリオネス(ケイシー・ランバート、コリーのウィルマの息子) エイペザナクウェイト(ダン・クロウハート、ウィルマの父) タントゥー・カーディナル(アリス・クロウハート、ウィルマの母) ジョン・バーンサル(マット・レイバーン、ナタリーのボーイフレンド) ジェームズ・ジョーダン(ピート・ミッケンズ、マットの同僚) ヒュー・ディロン(カーティス、マットの上司) マシュー・デル・ネグロ(ディロン、マットの同僚) イアン・ボーエン(エヴァン、フレモント郡の保安官代理) エリック・ラング(ランディ・ホワイトハースト博士、ナタリーを検視する監察医) タイラー・ララッカ(フランク・ウォーカー、チップの友人、薬の売人) ジェラルド・トカラ・クリフォード(サム・リトルフェザー、チップの友人、薬の売人) ほか【あらすじ】アメリカ中西部ワイオミング州のアメリカ先住民の居留地ウインド・リバーは、雪深い厳寒の大自然に囲まれています。アメリカ合衆国魚類野生生物局(FWS)の職員でベテランハンターのコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)は、人里離れた雪原で少女の死体を発見します。FBIから単身派遣された新人の女性捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)は、予想外の自然の厳しさに直面し、当惑します。彼女は遺体の第一発見者であるコリーに協力を求めますが、不安定な気候と厳しい雪山、土地にはびこる暴力に捜査は難航します。外界から隔離され、多くの事件が未解決となるアメリカ先住民の居留地で、二人は事件解決の糸口を見出します・・・。【レビュー・解説】強者のみが生き残るアメリカ中西部の厳しい雪原を舞台に、傷心のハンターと新人の女性FBI捜査官の凸凹コンビが居留地の先住民を悩ますレイプ犯罪に挑む、クライム・サスペンスで巧みにラッピングされた社会派エンタメ作品です。傷心のハンターと新人の女性FBI捜査官が先住民のレイプ被害事件に挑む西部開拓の残痕を背景にしたクライム・サスペンス「ボーダーライン」(2015年)、「最後の追跡」(2016年)に次ぐ、テイラー・シェリダン脚本の「フロンティア」三部作の第三作目です。テイラー・シェリダンは「フロンティア」三部作の背景について、次のように語っています。「ボーダーライン」、「最後の追跡」、「ウィンドリバー」は、共通のテーマを持つ三部作です。いずれも入植が完了してから現代のアメリカの辺境がどのように変わったのかを描いています。130年前にフロンティが消滅するまでに行われ続けた開拓の結果が、今日、どれだけ語り継がれているのか?というのが三部作の背景です。背景だけでは映画にならないので、傷心の父親とその克服をテーマにサスペンス・スリラーに包み込んでいます。現代の西部開拓地域は、人としてのアメリカ人が何者なのかを雄弁に語ってくれます。アメリカは新しい国です。ごく最近になって入植した地域であり、その入植と同化の結果が今日でもはっきりと存在していることがわかります。これまで映画では直視されてこなかったことです。だからこそ僕はそれを模索したいと思ったのです。(テイラー・シェリダン監督)https://www.vulture.com/2017/07/taylor-sheridans-tips-for-oscar-nominated-screenwriting.htmlhttps://www.cinefondation.com/en/69-editions/retrospective/2017/actualites/articles/wind-river-interview-with-taylor-sheridan「ボーダーライン」は犯罪が巣食うメキシコの国境地帯、「最後の追跡」は寂れたテキサス西部の街、本作はワイオミング州にあるアメリカ先住民のウィンド・リバー居留地を舞台に現代のアメリカを描いていますが、この三部作にはいずれも西部劇との共通点があります。西部劇と同じロケーションである自らの手で正義が行われるA地点からB地点へ移動する旅が過酷である結末が読めないまた、大きな社会問題を背景にしながら、いずれの作品も傷心の父親とその克服をテーマにクライム・サスペンスでラッピングして一級のエンタメ作品に仕立て上げていることも共通しています。確実に想いを伝える為に脚本家が自ら監督テイラー・シェリダンは、ウェス・アンダーソンスパイク・ジョーンズノア・バームバッククリストファー・ノーランポール・トーマス・アンダーソンといった歴々と同年代ですが、俳優として目が出ないまま、長い年月を過ごしました。幸運にも初めて書いた脚本「ボーダーライン」が映画化され、大ブレイクしたのが45歳とかなりの遅咲きでした。続く、「最後の追跡」の脚本も高い評価を得、そして三本目の脚本である本作で初めて監督に挑戦しています。彼は映画学校で撮影方法や脚本術を学んでおらず、監督に挑戦したのも野心と言うよりは、20代、30代と居留地でアメリカ先住民と寝食をともに過ごした彼の、溢れんばかりの想いを反映したものです。監督をやりたかったわけではありません。しかし、この主題に限っては、誰か他の人が違った見方をするのではないか、描かれている個々の事柄をわずかに変えることにより、私が伝えようと思っていることも変わってしまうのではないか、この話を書くためにインディアン・コミュニティの何人かに約束し、自ら語ることに多くの信頼を寄せられている私は、誰か他の人が違った見方をするリスクを冒すことができませんでした。誰でもフィルターを持っています。脚本はスタッフやキャストのフィルターを通りますが、それは脚本家とは異なるフィルターです。「ボーダーライン」、「 最後の追跡」と、私はとても幸運でしたが、それが三度続くとは信じられませんでした。自然に思うようになったんです。実際に自分自身で具体的に語りたい、自ら監督することがそれを確実にする唯一の方法だとね。(テイラー・シェリダン監督)http://collider.com/wind-river-taylor-sheridan-interview/強者のみが生き残る美しくも厳しいアメリカの大自然温暖で穏やかな日本とは異なり、アメリカを実際に訪れてみると予想以上に自然が厳しい国と感じます。夏は暑く、冬は寒く、とてつもなく巨大な台風に襲われる地域があれば、避けようのない竜巻に襲われる地域や雪と氷に閉ざされた地域もあり、野生のワニやグリズリーが生息し、家畜や人間を襲います。こうした自然環境は大なり小なりそこでクラス人の価値観に影響しますし、こうした自然環境の厳しさ抜きにはアメリカを語ることはできないのではないかと日頃から思っています。コーエン兄弟が西部劇を感じさせる「ノーカントリー」(2007年)で描いた寂寞とした神話的な荒野や、西部劇の魅力を取り込んだ聖書的な叙事詩SF映画「猿の惑星:聖戦記」(2017年)の厳しい冬山など、自然が厳しければ厳しいほどアメリカをより強く感じさせます。同様、コヨーテやピューマが出没し、極端な寒さの中で走ると肺が一瞬にして凍り、喀血して窒息するという本作に描かれたアメリカ中西部の雪原は、美しくも圧倒的な厳しさを感じさせます。厳しい自然に同化するかのように白い迷彩服を身にまとうコリーそんな雪原で、厳しい自然と同化するかのように白い迷彩服を身に纏い獲物を追うコリーが印象的で、彼が語る哲学にも説得力があります。CORY: Ah. Well, luck don't live out here. Luck lives in the city. Don't live out here. It lives where you get hit by a bus or not. Where your bank is robbed or not. At someone's damn cell phone when he come up to a crosswalk. That's luck, that's winning or losing. Out here you survive or you surrender. That's determined by your strength and bare spirit. Wolves don't kill the unlucky deer. They kill the weak ones.コリー:ここには運はない。都会とは違う。運なんて、バスに轢かれるかどうか、銀行強盗に出くわすかどうか、横断歩道で誰かの携帯電話の犠牲になるかどうか。ここでは生き残るか、諦めるしかない。強さと意思が物を言う。獲物になる鹿は不運じゃなく、弱いんだ。コリーが使用する双眼鏡<a href="https://hb.afl.rakuten.co.jp/hgc/13efca70.2dea606f.13efca71.6a3682d1/?pc=https%3A%2F%2Fitem.rakuten.co.jp%2Femedama%2F4560386211873%2F&m=http%3A%2F%2Fm.rakuten.co.jp%2Femedama%2Fi%2F10114997%2F&link_type=pict&ut=eyJwYWdlIjoiaXRlbSIsInR5cGUiOiJwaWN0Iiwic2l6ZSI6IjI0MHgyNDAiLCJuYW0iOjEsIm5hbXAiOiJyaWdodCIsImNvbSI6MSwiY29tcCI6ImRvd24iLCJwcmljZSI6MCwiYm9yIjoxLCJjb2wiOjEsImJidG4iOjF9" target="_blank" rel="nofollow noopener noreferrer" style="word-wrap:break-word;" ><img src="https://hbb.afl.rakuten.co.jp/hgb/13efca70.2dea606f.13efca71.6a3682d1/?me_id=1217830&item_id=10114997&m=https%3A%2F%2Fthumbnail.image.rakuten.co.jp%2F%400_mall%2Femedama%2Fcabinet%2Fmc265%2F132692.jpg%3F_ex%3D80x80&pc=https%3A%2F%2Fthumbnail.image.rakuten.co.jp%2F%400_mall%2Femedama%2Fcabinet%2Fmc265%2F132692.jpg%3F_ex%3D240x240&s=240x240&t=pict" border="0" style="margin:2px" alt="" title=""></a> スワロフスキーEL42 双眼鏡(楽天市場)魅力的な人物描写プロットはやや類型的ですが、心に傷を負うコリーが白い迷彩服を着て獲物を追う姿には、それだけで不足を補って有り余るほどの魅力があります。強いて難点を言えば、彼が心情を吐露するセリフが多く、少しセリフを削ってハードボイルに仕上げてもいいのではないかと思える点です。大ヒット作の脚本を三本、立て続けに書き上げたテイラー・シェリダンですが、映画監督してしては荒削りで人物描写をセリフに依存する傾向があるような気がします。「ボーダーライン」のアレハンドロも当初はセリフが多く、これを演じたでベニチオ・デル・トロはむしろ静かな男の方がミステリアスでスリリングになると考え、これをドゥニ・ヴィルヌーヴ監督に話しました。最終的に彼のセリフの90%が削られ、その分をデル・トロの目や表情、所作、そして映像や演出で補っています。本作ではテイラー・シェリダンが監督と脚本を兼務している為、セリフと演技・演出のバランスをダイナミックにとることが難しくなっています。バランスがベストではないにせよ、それが作品全体をスポイルするには至っていないので、メッセージをより確実に伝える為に彼が監督を兼務したことは一応、吉と言えるでしょう。もうひとり、忘れられないのが、エリザベス・オルセンが演じる新人の女性FBI捜査官です。傷心の男と女性FBI捜査官という組み合わせは「ボーダーライン」と全く同じ設定ですが、本作のエリザベス・オルセンが演じる新人の女性FBI捜査官と、「ボーダーライン」のエミリー・ブラントが演じる女性のFBI捜査官が対称的で興味深いです。私はエミリー・ブラントが演じた愚図で根暗な女性FBI捜査官を結構、気に入っているのですが、彼女はあまり評判が良くありませんでした。その点、エリザベス・オルセンが本作で演じる新人の女性FBI捜査官は、率直、ユーモラス、前向きで健康的と、アメリカ人好みのタフな可愛らしさのあるキャラクターで、心に傷を負う男とのコントラスト、マッチングも悪くありません。そう思って観るとなかなか味わいがありますし、エリザベス・オルセンも今後が気になる女優のひとりです。居留地の先住民が抱える問題自治権があると言えば聞こえがいいのですが、居留地のアメリカ先住民は様々な問題を抱えています。本作では、被害者が居留地の先住民で犯人が外部の人間の場合、FBIに捜査権がある殺人事件でなければ、FBIは十分な人員を投入しない単なるレイプならばインディアン監督局の管轄だが、人手不足で捜査ができない先住民の女性のレイプ被害の統計さえとられていないといった問題を浮き彫りにしています。これ以外にも、連邦政府、州政府、双方の干渉を受ける産業が育たず、貧困にあえいでいる居留地での僅かな年金に依存し、自立できない人が少なくない失業率は半数を超え、アルコール依存、薬物依存の比率も高い年金を捨て居留地外に職を求める人も少なくない複雑な逮捕・手続きと人手不足により、罰せられないままの犯罪が数多いインディアン寄宿学校による強制同化政策の弊害ネイティブ・アメリカンとしてのアイデンティの喪失純血性、民族性が薄れた部族の絶滅認定、保留地没収と、居留地のアメリカ先住民は様々な問題を抱えています。同化政策か、分離政策(不干渉)かの二択ではなく、両者の統合政策(多文化共生)が現実解なのでしょうが、フロンティアを開拓し尽くしてから130年も経つのに、未だに最適解が得られていないように見受けられるのは残念です。軽視されがちなアメリカ先住民ジェノサイド(特定人種・民族の集団殺戮)というと約600万人のユダヤ人が犠牲になったヒットラーによるホロコーストを思い浮かべる人が多いかと思いますが、実はヨーロッパからの入植者の犠牲になったアメリカ先住民は北アメリカだけで約1000万人、中南米を含めると数千万人もいます。規模的に上回るにもかかわらず、ホロコーストほど問題視されることがないのはちょっと不思議です。連合国が第二次世界大戦とその勝利の正当性を主張する際にホロコーストが格好の宣伝材料になったのに対し、インディオやアメリカ・インディアンのジェノサイドは、ヨーロッパの列強やアメリカにとってできることなら触れたくない過去なのかもしれません。1950年代に盛んになった公民権運動ではアフリカ系アメリカ人の権利拡大が優先され、アメリカ先住民は後回しになりました。また、ヒスパニック系の不法移民やメキシコ国境の壁建設、白人警官によるアフリカ系アメリカ人への暴力や「ブラック・ライヴズ・マター」運動が報道されることが多い昨今ですが、居留地のアメリカ先住民が抱える問題を伝える報道はほとんどありません。アメリカの人種構成を見てみると、白人:62%ヒスパニック系:24%アフリカ系:12%アメリカ先住民:0.9%と、アメリカ先住民は1%にも満たない零細的少数派である為、問題が目立ちにくい面もありそうです。マイノリティが抱える問題を訴えようにも、数が少なくて大きな声にならない負の連鎖です。アメリカ先住民の問題をシリアスに追求しても観客は限られますが、彼らの問題を背景にしたドラマをクライム・サスペンスでラッピングし、娯楽を通してより多くの人々の認知を得たのはテイラー・シェリダン監督の戦略的な選択と言えます。ちなみに、日本でもアイヌが先住民に認定されていますが、アメリカにも増して人口比率が小さく、日本にも先住民がいることを知らない日本人が少なくありません。彼らに対する厳しい差別の歴史もあり、ドキュメンタリー映画も何本か撮られていますが、テイラー・シェリダン監督のようにエンタメ仕立てにすれば、より多くの人々の認知が得られるかもしれません。ジェレミー・レナー(コリー・ランバート、魚類野生生物局の職員、ハンター)ジェレミー・レナー(1971年〜)は、カリフォルニア出身のアメリカの俳優、ミュージシャン。1995年にデビュー、2000年代より映画の助演を重ねて知名度を上げ、主演を務めたアカデミー作品賞を受賞作「ハート・ロッカー」(2009年)では自身もアカデミー主演男優賞にノミネートされており、「ザ・タウン」(2010年)の演技も高く評価されアカデミー助演男優賞にノミネートされている。「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(2011年)、「アベンジャーズ」(2012年)、「アメリカン・ハッスル」(2013年)、「エヴァの告白」(2013年)、「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」(2015年)、「メッセージ」(2016年)、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016年)、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)などに出演している。エリザベス・オルセン(ジェーン・バナー、新人の女性FBI捜査官、コリーに協力依頼する)エリザベス・オルセン(1989年〜 )は、ロス・アンジェルス出身アメリカの女優。シットコム「フルハウス」のミシェル役で知られる女優、ファッション・デザイナーのアシュレー・オルセンとメアリー=ケイト・オルセンの実の妹。子供時代から姉のアシュレーとメアリー=ケイトの作品に出演していたが、その後は学業に専念、2011年に劇場映画デビュー、「マーサ、あるいはマーシー・メイ」(2011年)で数多くの賞を受賞する。「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016年)、「イングリッド -ネットストーカーの女-」(2017年)、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(2018年)、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)などに出演している。グラハム・グリーン(ベン・ショーヨ、部族警察の署長、ジェーンとコリーに協力する)グラハム・グリーン(1952年〜)は、オナイダ族の出身のカナダの俳優。トロントやイギリスの舞台で活躍、1983年に映画デビュー。「ダンス・ウィズ・ウルブズ」(1990年)で、アカデミー助演男優賞にノミネートされる。「グリーンマイル」(1999年)、「トランスアメリカ」(2005年)などに出演している。ケルシー・アスビル(ナタリー・ハンソン、マーティンの娘、コリーの亡き娘の親友)ケルシー・アスビル(1991年〜)は、サウス・カロライナ州出身のアメリカの女優。中国(台湾)、イギリス、チェロキー族の血を引くと言われていているが、チェロキーの末裔であることは公式的には確認されていない。コミュニティ劇場を経験した後、2005年に13歳でテレビドラマ・シリーズにデビュー、シチュエーション・コメディ「KING兄弟」(2010年〜2013年)で知られるようになる。「アメイジング・スパイダーマン」(2012年)などに出演している。ギル・バーミンガム(マーティン・ハンソン、コリーの親友、ナタリーとチップの父)ギル・バーミンガム(1953年〜)は、テキサス州出身のアメリカの俳優。1980年代初めにジムでスカウトされ、ダイアナ・ロス「Muscles」のPVに出演する。「最後の追跡」などに出演している。ジュリア・ジョーンズ(ウィルマ・ランバート、コリーの元妻、エミリーとケイシーの母)ジュリア・ジョーンズ(1981年〜)は、ボストン出身のアメリカの女優。チョクトー族、チカソー族、アフリカ系の血をひき、映画「トワイライト・サーガ」シリーズ (2010〜2012年)、テレビドラマシリーズ「ウェストワールド」(2016年)で知られる。マーティン・センスマイヤー(右、チップ・ハンソン、マーティンとアニーの息子、薬物依存) ジュリア・ジョーンズ(1981年〜)は、ボストン出身のアメリカの女優。チョクトー族、チカソー族、アフリカ系の血をひき、映画「トワイライト・サーガ」シリーズ (2010〜2012年)、テレビドラマシリーズ「ウェストワールド」(2016年)で知られる。エイペザナクウェイト(左、ダン・クロウハート、ウィルマの父)エイペザナクウェイトはアメリカ先住民の部族長、俳優。海兵隊でベトナム戦争を経験、ウィスコンシン州中央のミノミニー族の居留地で、部族長を八回務めている。「バグダット・カフェ」(1988年)などに出演している。【サウンドトラック】 「ウィン・リバー」のサウンドトラックCD(楽天市場)1 Snow Wolf 2 Zed 3 Tell Me What That Is 4 First Journey 5 First Body 6 Second Journey 7 Breakdown 8 Never Gonna Be the Same 9 Hunter 10 Meth House 11 Bad News 12 Third Journey13 Second Body 14 Lecture 15 Corey's Story 16 See You Tomorrow 17 Three Seasons in Wyoming 18 Cabin 19 Shoot Out 20 Snow Flight 21 Memory Time 22 Survive or Surrender 23 Wind River 「ウインド・リバー」のDVD(楽天市場)【関連作品】テイラー・シェリダン脚本作品のDVD(楽天市場) 「ボーダーライン」(2015年) 「最後の追跡」(2016年)ジェレミー・レナー x エリザベス・オルセン共演作品のDVD(楽天市場) 「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016年) 「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)ジェレミー・レナー出演作品のDVD(楽天市場) 「ハート・ロッカー」(2008年) 「ザ・タウン」(2010年) 「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(2011年) 「アベンジャーズ」(2012年) 「アメリカン・ハッスル」のDVD(2013年) 「エヴァの告白」(2013年) 「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」(2015年) 「メッセージ」(2016年)エリザベス・オルセン出演作品のDVD(楽天市場) 「マーサ、あるいはマーシー・メイ」(2011年) 「イングリッド -ネットストーカーの女-」(2017年)「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(2018年)
2019年06月07日
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「あさがくるまえに」(原題:Réparer les vivants、英題:Heal the Living)は、2016年公開のフランス・ベルギー合作のヒューマン・ドラマ映画です。数々の文学賞を受賞したメイリス・ド・ケランガルのベストセラー小説「Réparer les vivants」を原作に、カテル・キレヴェレ監督・共同脚本、タハール・ラヒム、エマニュエル・セニエ、アンヌ・ドルヴァルら出演で、脳死状態になったドナー、レシピエント、医師たちとそれぞれの家族や愛する人の一日が、心臓移植を通して繋がる様を美しく繊細なタッチで描いています。 「あさがくるまえに」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:カテル・キレヴェレ脚本:カテル・キレヴェレ/ジル・トーラン原作:メイリス・ド・ケランガル著「Réparer les vivants」撮影:トム・ハラリ出演:タハール・ラヒム(トマ、臓器移植コーディネーター) エマニュエル・セニエ(マリアンヌ、シモンの母) アンヌ・ドルヴァル(クレール、重度の心臓病、移植待機中) ギャバン・ヴァルデ(シモン、交通事故で脳死状態になる) ドミニク・ブラン(リュシ、クレールの主治医) ブーリ・ランネール(ピエール、シモンが運び込まれた病院の医師) クール・シェン(ヴァンサン、マリアンヌの元夫、シモンの父) モニア・ショクリ(ジャンヌ、シモンが運び込まれた病院の看護師) アリス・タグリオーニ(アンヌ・ゲランド、ピアニスト、クレールのかつての恋人) カリム・ルクルー(ヴィルジーリオ・ブレヴァ、リュシの医療チームのメンバー) アリス・ドゥ・ランクザン(アリス・ハーファング、リュシの医療チームのメンバー) フィネガン・オールドフィールド(マキシム、クレールの長男) テオ・ショルビ(サム、クレールの次男) ガラテア・ベルージ(ジュリエット、シモンのガールフレンド) ティトゥアン・アルダ(ヨハン、シモンの友人、サーファー) アンドラニク・マネ(クリス、シモンの友人、サーファー) イリナ・ムルール(ジゼル、シモンが運び込まれた病院の看護師) スティーブ・ティエントチュー(ハメ・ゲイ、臓器移植仲介人) ダニエル・アービッド(エルサ、ピエールの元妻) ほか【あらすじ】大西洋に面したフランス北西部の都市、ル・アーヴル。夜明け前、ガールフレンドのジュリエット(ガラテア・ベルージ)がまだ微睡みの中にいる間、シモン(ギャバン・ヴァルデ)はベッドを抜け出し、友人たちとサーフィンに出かけます。しかし、海からの帰路、交通事故に遭った彼は、ジュリエットの元に戻ってくることはありませんでした。連絡を受けたシモンの母マリアンヌ(エマニュエル・セニエ)は、急いでシモンが運び込まれた病院に駆けつけます。シモンの父である別れた夫ヴァンサン(クール・シェン)も遅れて駆けつけます。医師のピエール(ブーリ・ランネール)は、シモンは蘇生する可能性がない脳死状態であることを両親に告げ、臓器移植コーディネーターのトマ(タハール・ラヒム)が移植を待つ患者の為の臓器提供を切り出します。息子の死を受け入れることができない両親は即答できませんが、臓器提供の為に残されている時間に猶予はありません。パリに住む音楽家のクレール(アンヌ・ドルヴァル)は、自分の心臓が末期的症状にあることを自覚しています。生き延びるには心臓を移植するしかありませんが、もはや若くはない自分が他人の心臓を引き継いでまで生き長らえることの意味を自問しています。そんな折、担当医のリュシ(ドミニク・ブラン)からドナーが見つかったという連絡が入ります・・・。【レビュー・解説】ドナー、医師、コーディネーター、レシピエントと彼らの家族や愛する人、普段は交差することのない人々がひとつの心臓によって連鎖し、ひとつの喪失が様々な形の再生に繋がっていく様を美しく繊細にかつ力強く描いた、女性監督によるフランス映画ならではの群像劇です。女性監督による美しく繊細なフランス映画早朝、ひとりの青年がガールフレンドの部屋を抜け出し、まだ暗い街を自転車で駆け抜け、仲間と落ち合って車でサーフポイントに向かいます。仲間たちと幻想的なチューブ・ライディングを楽しんだ後の帰路、平坦な一本道に穏やかな海がオーバーラップします。未だ海にいるかの様な感覚に襲われるのも束の間、大きな波が押し寄せ、衝撃音とともにブラックアウトします。この間、約12分、サーフィンの恍惚感と悲劇を象徴的に描いた、実に見事な導入です。カテル・キレヴェレ監督自身が「突然変異」と呼ぶこの導入は、サーフィンとスケートボードのアメリカ映画「ロード・オブ・ドッグタウン」(2005年)に触発されたものですが、本作のオープニングは完全にヨーロピアン調になっています。突然、息子を失った母を演じるエマニュエル・セニエのリアルで心を揺さぶる秀逸なパフォーマンスを始め、続く本編も叙情的、象徴的、審美的、そしておおらかで力強い、女性監督ならでは繊細で美しいタッチで描かれています。サーフィンの恍惚感と悲劇を象徴的に表現した見事な導入俳優たちはサーファー、撮影監督は元サーファーで、カメラに特製のハウジングを装着して危険な撮影に挑んだ。撮影に一ヶ月を費やしたが、編集された最終的なシーンはわずか数分である。帰路、一本道に海原がオーバーラップする幻想的なシーン運転中に睡魔に襲われ、道路に海原がオーバーラップする幻想的なシーン。やがて大きな波が押し寄せ、衝撃音とともにブラック・アウトするのは、事故の見事な象徴的表現。手術シーンも特徴的です。我々が日本のドラマによく目にする手術室は強烈な無影灯に照らされた、陰のない非日常的な世界ですが、心臓の摘出や移植手術をリアルに描く一方で本作は手術室を陰のある独特の世界観で描いています。カラヴァッジョ「聖トマスの懐疑」デヴィッド・クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」の出産シーン(1986年)同監督の「戦慄の絆」の手術シーン(1988年)などの影響を受けたという本作の手術シーンは、先端医療を超えた一種の宗教的儀式のような雰囲気を醸し出しています。シモンの心臓を摘出するシーン脳死状態のシモンから心臓を摘出する手術。手術のスタッフが11人いるのは、キリストの復活を目撃にした弟子が11人だったことを踏まえたものか。 カラヴァッジョ「聖トマスの懐疑」https://www.pinterest.jp/pin/173951604334489245/キリスト十二使徒の中で唯一イエスの復活を目撃せず、「主の傷痕に指を入れるまでは復活を信じない」と復活を否定する聖トマスの前にイエスが現れ、聖トマスが恐る恐る傷痕に指を入れて確かめる絵。ひとつの心臓が辿る道を描いた群像劇本作で描かれる心臓のレシピエントのクレールは、カテル・キレヴェレ監督が映画で追加したキャラクターで、原作には登場しません。そればかりか、彼女は当初、シモンではなくクレールにフォーカスした映画にしようと考えました。原作小説の原題であり映画の原題でもある「Réparer les vivants」は生者の修復といった意味ですが、キレヴェレ監督はレシピエントのクレールにフォーカスすることにより生者の修復をより具体的に描くことを考えたのです。が、クレール中心に描いてしまうと彼女を救う為に誰かの死を利用するような印象を与えてしまうことを危惧したカテル・キレヴェレ監督は、最終的に心臓にフォーカスし、いわば心臓移植を縦糸に、移植に関わる人々の家族や愛する人々との関係を横糸に、時系列で描くことにしました。結果、ドナー、レシピエントのふたつの独立したエピソードを、移植のエピソードが結びつける群像劇の形になったわけですが、人々の営みを俯瞰して描くことから「神の視点」とも言われる群像劇は、本作にマッチする最良の選択と思われます。ドナーの家族の苦渋の選択、数多い待機患者の中からのドナーとのマッチングを通して、クレールは救われるべくして救われたのではなく、機会に恵まれたことドナーの死という喪失が機会となり、周囲の人々に様々な修復を与えることが、群像劇ならではの視点で描かれています。心臓移植を縦糸に移植に関わる人々と愛する人との関係を横糸に綴られた群像劇音楽と映像の繰り返しで一貫性を演出狭義の群像劇は、一つの大きな場所に様々な人間模様を持った人々が集まって、物語が展開するもので、ロバート・アルトマン監督の群像劇にはこの形が多いのですが、最近では、複数の俳優が同等の重要性を持った役を演ずるものが広く群像劇と呼ばれています。しかし、完全に独立したエピソードを集めたものは群像劇ではなくオムニバスと呼ばれ、エピソード相互の何らかの絡みが群像劇を特徴づけることに変わりはないようです。本作同様、心臓移植を扱ったアレハンドロ・イニャリトゥ監督の群像劇「21グラム」(2003年)は、交通事故の加害者、ドナー(事故の被害者)の妻、レシピエントの独立した三つのエピソードからなりますが、終盤に三者が顔を合わせて強烈に絡み合う大団円があります。これに対して、本作はドナーとレシピエントの独立したエピソードの間に移植のエピソードが介在するものの、ドナーとレシピエントのエピソードが直接絡むことがありません。このように結合が弱いと散漫な印象を与えかねませんが、カテル・キレヴェレ監督はアレキサンドル・デスプラの美しいテーマ曲の繰り返しや、エピソード間に対になる映像を取り込むことにより強い結合を演出しています。アレクサンドル・デスプラによる美しいテーマ曲の繰り返しhttps://www.youtube.com/watch?v=WFeLnVhM2MQ心臓移植の向けて話が動く時にこの曲が流れ、ストーリーの一貫性を演出している。アレクサンドル・デスプラのオリジナル・スコアによるサウンドトラックが素晴らしいが、販売されていないのが残念。<ネタバレ>母マリアンヌの回想(シモンとジュリエットの出会い)→臓器提供を決意し、シモンが担ぎ込まれた病院に向かう道すがらクレールにアンヌが添い寝→雲の流れを思わせる幻想的な映像→人混みの中から臓器提供の仲介人が現れ、シモンとクレールをマッチングするシーンクレールが消毒シャワーを浴びる→シモンから摘出された心臓をクレールが待機する病院に空輸、陸送するシーンエンディングのクレールの移植手術が終わり麻酔から覚めるまでの間にカットバックされる、心臓を摘出したシモンを清拭した後、トマが夜明けの海岸線の曲がりくねった道をバイクで走るシーン、娘に添い寝するマリアンヌがトマからの連絡で起き上がり、ヴァンサンとともに夜明けの空を眺めるシーン、病院を訪れたアンヌがクレールの息子たちと目を合わし微笑み合うシーン<ネタバレ終わり>対になる映像<ネタバレ>添い寝する冒頭のシモンとジュリエットvs後半のクレールとアンヌ冒頭、ジュリエットは目覚めたシモンに微笑み、再び眠りに落ちる。起き上がったシモンはスマホでジュリエットの写真を撮り、サーフィンに出かけます。後半、何年ぶりかにアンヌに再会したクレールは、自宅まで送ってもらいます。ベッドで微睡むクレールはアンヌに「いてね」とつぶやき、アンヌは「いるわ」と答えて添い寝します。冒頭のシモンとジュリエットの別れと対称的な展開です。寝たままシモンを送る冒頭のジュリエット vs 涙と笑顔で送る後半のジュリエットジュリエットはドナー側のキャラクターで、この対比はドナーとレシピエントのエピソードの結合を演出するものではありませんが、二度と帰らぬシモンを眠ったまま送り出してしまったジュリエットの無念さと、心臓提供の為に心停止するシモンを彼の愛した波の音と笑顔で送ろうとするジュリエットの健気な心情を象徴的に表現した素晴らしいシーンです。もたれ合って寝る冒頭のサーファー仲間 vs 後半のクレールの息子たち冒頭、シモンとサーファー仲間は持たれ合って寝たまま事故に遭い、ブラックアウトします。終盤、待合室でもたれ合って寝るクレールの息子たちはアンヌの気配に目を開け、続いて麻酔から覚めて目を開ける母のクレールにカットバックされます。冒頭とは対称的に、微睡みが生に繋がっています。冒頭の事故が起きる道 vs 後半の仲介人が現れる雑踏 vs 後半の着陸する滑走路冒頭、サーフィンからの帰路、シモンたちが微睡むとともに彼らの車が走る一本道に海原がオーバーラップします。大きな波が押し寄せるのに気づいたドライバーは目を閉じ、衝撃音とともにブラックアウトします。後半、クレールとアンヌの微睡みとともに雲が流れ、オーバーラップする雑踏の中から、臓器移植仲介人が現れ、事務所でシモンとクレールをマッチングします。冒頭とは対称的に、微睡みが生へと繋がっています。同じく後半、摘出されたシモンの心臓を載せた飛行機は、夜の街に浮かび上がる滑走路に着陸します。重要な使命を負う空輸担当の医療スタッフは、着地の衝撃にもしっかりと目を見開き前を見据えています。冒頭の大きな波に目を閉じたドライバーとは対称的に、生を見据える眼差しです。<ネタバレ終わり>アレクサンドル・デスプラによるサウンドトラックは繰り返しを基調とした繊細で美しくリズミカルな曲です。また、対になる美しい映像もバリエーションによる繰り返しです。こうした一連の繰り返しは、寄せては返す波、生を支える心臓の鼓動、喪失と再生の連鎖といったものを象徴しています。魅力的なキャラクター描写にイメージが膨らむ100分の群像劇で主たるキャラクターが10人の場合、一人あたりの平均出演時間は10分になります。人物像を描ききるのに10分は短すぎますが、逆に全体を隠し、人物像の一部分だけ描くことにより、キャラクターをより魅力的に見せることができます。本作では、メインキャラクター級のシモンの両親、エマニュエル・セニエ演じるマリアンヌとクール・シェン演じるヴァンサンアンヌ・ドルヴァル演じるレシピエントのクレールとアリス・タグリオーニ演じる昔の恋人アンヌのみならず、登場する他のキャラクターもその一側面が印象的に描かれており、各々を主役した作品を観てみたくなるなど、全体像へのイメージが膨らみます。臓器移植コーディネーターのトマ(タハール・ラヒム)アルジェリア出身の演技派俳優タハール・ラヒムは、「預言者」(2009年)で様々な民族や宗教が対立する刑務所に放り込まれた無学で孤独なアラブ系フランス人青年が過酷な世界で這い上がっていく様を、「ある過去の行方」(2013年)で鬱病で自殺未遂、植物状態になった妻を自宅に置き、夫と別居中の人妻と同棲する悩ましいクリーニング店主を演じていますが、本作では一転、ゴシキヒワをこよなく愛し飼うことを夢見る、純朴な臓器移植コーディネーター演じています。ゴシキヒワへの愛を語るシーンが彼の人柄を強烈に印象づけ、思わず彼が扱う様々な臓器移植のケースをシリーズで観てみたくなります。シモンの担当医ピエール(ブーリ・ランネール)と元妻のエルサ(ダニエル・アービッド)シモンに脳死判定を下す医師ピエールをブーリ・ランネール、その元妻をレバノン出身の映画監督、脚本家のダニエル・アービッドが演じています。離婚した妻から預かった愛する娘と共に週末の夜を過ごしたのでしょうか、ピエールは朝、車で出勤する途中にまだ眠っている娘を元妻が住む家に送り届けます。娘を受け取って微笑み返すそっけない元妻と、その背中をじっと見つめるピエールの表情が印象的です。ほんの一瞬ですが、このふたりの微妙なやり取りが素晴らしく、二人がどのように知り合い、結婚し、どのような経緯で離婚したのか、二人の物語を観てみたくなります。シモンの担当看護師ジャンヌ(モニア・ショクリ)カナダの出身の女優、映画監督のモニア・ショクリが演じるシモンの担当看護師ジャンヌは、12時間連続の集中治療室勤務で疲労困憊する中、家族の前で脳死状態のシモンに話しかけて上司に怒られたり、エレベータの中で朦朧として性愛シーンを夢想したりします。首筋にキスマークがついていると同僚に指摘されたり、恋人に愛しているとメッセージを送ったりしますが、恋人が姿を見せることはありません。どんな恋人がいて、どんなラブストーリーがあるのか、観てみたくなります。シモン(ギャバン・ヴァルデ)と恋人のジュリエット(ガラテア・ベルージ)ジュリエットが出てくるのはシモンとの出会いと別れのシーンだけで、その間の二人で過ごした時間がすこっと抜けています。ガラテア・ベルージはフランスの新進女優、サーファーのギャバン・ヴァルデは本作が映画初出演ですが、シモンとジュリエットが出会いと別れの間にどんな時間を過ごしたのか、このフレッシュな二人が演じるのを観てみたくなります。タハール・ラヒム(トマ、臓器移植コーディネーター)タハール・ラヒム (1981年〜 ) は、アルジェリア系のフランスの俳優。学生時代に友人が監督するドキュメンタリー・ドラマで映画デビュー。その後、ジャック・オディアール監督と知り合い、厳しいオーディションを経て、「預言者」(2009年)の主役を得、第35回セザール賞主演男優賞と有望若手男優賞を受賞する。その後も「ある過去の行方」(2013年)などに出演、順調にキャリアを重ねている。エマニュエル・セニエ(左、マリアンヌ、シモンの母)クール・シェン(右、ヴァンサン、マリアンヌの元夫、シモンの父)エマニュエル・セニエ(1966年〜)は、パリ出身のフランスの女優。14歳からモデルとして活躍、国際的なモデルとなるが、1984年に映画女優に転向、その後、歌手としても活動する。「潜水服は蝶の夢を見る」(2007年)、「危険なプロット」(2012年)、「毛皮のヴィーナス」(2013年)、「永遠の門 ゴッホの見た未来」(2018年)などに出演している。夫である映画監督のロマン・ポランスキーとの間に二人の子供がいる。クール・シェン(1966年〜)は、フランスのラッパー、プロデューサー、ブレイクダンサー、グラフィティ・アーティスト、俳優、ポーカー・プレイヤー。「忍び寄る罠」(2013年)などに出演している。アンヌ・ドルヴァル(クレール、重度の心臓病、移植待機中) アンヌ・ドルヴァル(1960年〜)は、ケベック州出身のフランス系のカナダの女優。グザヴィエ・ドラン監督作品の常連で、「マイ・マザー」(2009年)、「胸騒ぎの恋人」(2010年)、「わたしはロランス」(2013)、「Mommy/マミー」(2014年)などに出演、「Mommy/マミー」(2014年)では主演を務めている。ギャバン・ヴァルデ(シモン、交通事故で脳死状態になる)フランスのサーファー、俳優。本作が俳優デビュー作。ドミニク・ブラン(リュシ、クレールの主治医)ドミニク・ブラン(1959年〜)は、リヨン出身のフランスの女優。「主婦マリーがしたこと」(1988年)、「五月のミル」(1990年)、「王妃マルゴ」(1994年)などに出演している。「Après la vie」(2003年、ルーカス・ベルボー三部作第三話)、「Les Amitiés maléfiques」(2006年)などに出演している。ブーリ・ランネール(ピエール、シモンが運び込まれた病院の医師)ブーリ・ランネール(1965〜)は、ベルギーの俳優、作家、映画監督。「ポーリーヌ」(2001年)、「君と歩く世界」(2012年)、「アヴリルと奇妙な世界」(2015年)、「RAW~少女のめざめ~」(2016年)などに出演している。モニア・ショクリ(左、ジャンヌ、シモンが運び込まれた病院の看護師)イリナ・ムルール(右、ジゼル、シモンが運び込まれた病院の看護師)モニア・ショクリ(1983年)は、ケベック出身のカナダの女優、映画監督。演劇学校で学んだ後、舞台に出演、映画にも出演するようになる。グザヴィエ・ドラン監督作品の常連女優で、「胸騒ぎの恋人」(2010年)、「わたしはロランス」(2013)に出演している。イリナ・ムルール(1989年〜)はコンゴ共和国出身のフランスの女優。テレビドラマ・シリーズで知られており、映画は本作が初出演。アリス・タグリオーニ(アンヌ・ゲランド、ピアニスト、クレールのかつての恋人)アリス・タグリオーニ(1976年〜)は、フランスの女優。「La dernière folie de Claire Darling」などに出演している。「グランデコール」で共演したジョスラン・キヴランとの間に一子を設けたが、誕生六ヶ月後にジョスランを交通事故で失っている。ガラテア・ベルージ(ジュリエット、シモンのガールフレンド)ガラテア・ベルージ(1997年〜)は、パリ出身のフランス女優。父はイタリアの俳優で、姉は、大ヒットしたフランス映画「最強のふたり」(2011年)でフィリップの娘エリザ役を務めた、アルバ・ベルージ。ダニエル・アービッド(右、エルサ、ピエールの元妻)ダニエル・アービッド(1970年〜)は、レバノン出身の映画監督。「わたしはパリジェンヌ」(2016年)等の脚本・監督を務めている。【サウンドトラック(挿入歌)】"Paint me colors" by Girlpool"Lonely Teardrops" by Ken Boothe"Hammers" by Nils Frahm"Don't piss me off" by Professor Green et Orelsan"Hit me One Time" by Cut La Vis, feat. Mystro"Five Years" by David Bowie(générique de fin) 【動画クリップ(YouTube)】キャサリン・ハードウィック監督「ロード・オブ・ドッグタウン」(2005年)デヴィッド・クローネンバーグ監督「ザ・フライ」(1986年)の出産シーンデヴィッド・クローネンバーグ監督「戦慄の絆」(1988年)の手術シーン【撮影地(グーグルマップ)】マリアンヌと病院からの帰りに通る跳ね橋ジュリエットがケーブルカーに乗る駅シモンがジュリエットを待つ駅 「あさがくるまえに」のDVD(楽天市場)【関連作品】「あさがくるまえに」の原作本(楽天市場) Maylis de Kerangal著「Reparer les vivants」カテル・キレヴェレ監督・脚本作品のDVD(楽天市場) 「聖少女アンナ」(2010年) 「スザンヌ」(2013年)輸入盤、Region 2、日本語なしタハール・ラヒム出演作品のDVD(楽天市場) 「預言者」(2009年)「ある過去の行方」(2013年)エマニュエル・セニエ出演作品のDVD(楽天市場) 「潜水服は蝶の夢を見る」(2007年) 「危険なプロット」(2012年)「毛皮のヴィーナス」(2013年) 「永遠の門 ゴッホの見た未来」(2018年)グザヴィエ・ドラン監督作品のDVD(楽天市場) 「マイ・マザー J'ai tué ma mère (2009年)「胸騒ぎの恋人」(2010年)「わたしはロランス」(2012年) 「Mommy/マミー」(2014年)
2019年05月28日
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「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」(原題:Battle of the Sexes)は、2017年公開のアメリカのスポーツ系ヒューマン・コメディ&ドラマ映画です。全世界のテニスファンの注目を集めた1973年の男女決戦の実話に基づき、ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス監督、エマ・ストーン、スティーブ・カレルら出演で、女子の優勝賞金が男子より少ないことに抗議する女子テニスの現役世界女王ビリー・ジーン・キング、彼女に挑戦状を叩きつける55歳の男子テニス元世界王者のボビー・リッグス、そして二人を取り巻く人々の人間模様を描いています。 「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス脚本:サイモン・ボーファイ撮影:リヌス・サンドグレン出演:監督:ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス脚本:サイモン・ボーファイ撮影:リヌス・サンドグレン出演:エマ・ストーン(ビリー・ジーン・キング、女子テニスのトップ・プレイヤー) スティーブ・カレル(ボビー・リッグス、55歳、男子テニス元チャンピオン) アンドレア・ライズボロー(マリリン・バーネット、ビリー・ジーンの愛人) サラ・シルバーマン(グラディス・ヘルドマン、女子テニスのプロモーター) ビル・プルマン(左、ジャック・クレイマー、全米テニス協会の会長) アラン・カミング(テッド・ティンリング、女子テニスのデザイナー) エリザベス・シュー(プリシラ・リッグス、ボビーの裕福な妻) オースティン・ストウェル(ラリー・キング、ビリー・ジーンの夫、弁護士) ナタリー・モラレス(ロージー・カザルス、ビリー・ジーンの同僚) ジェシカ・マクナミー(マーガレット・コート、ビリー・ジーンのライバル) エリック・クリスチャン・オルセン(ロニー・クール、ボビーのマネージャー) ルイス・プルマン(ラリー・リッグス、ボビーの息子) マーサ・マックアイサック(ジェーン・バートコウィックツ、女性テニス選手) ウォレス・ランガム(ヘンリー、テッドの同僚) フレッド・アーミセン(レオ・ブレア、食餌療法を支援する医療栄養専門家) ほか【あらすじ】1970年、ビリー・ジーン・キング(エマ・ストーン)とグラディス・ヘルドマン(サラ・シルバーマン)は、ジャック・クレイマー(ビル・プルマン)と対立していました。彼が組織化したテニストーナメントでは、チケットの売上が同じにもかかわらず、女子の賞金が男子の1/8だったのです。キングとヘルドマンは女性だけのツアーを始めると脅しましたが、クレイマーは女子テニスが劣る点を挙げ、賞金を変えようとしませんでした。ビリー・ジーンら最初の9選手が女性だけのヴァージニア・スリム・ツァーに登録すると、クレイマーは彼女らを全米テニス協会から締め出しました。女子ツァーの立ち上げに悪戦苦闘する中、ビリー・ジーンは彼女のヘア・ドレッサーであるマリリン・バーネット(アンドレア・ライズボロー)と恋に落ち、ラリー・キング(オースティン・ストウェル)との結婚生活が危うくなります。一方、ボビー・リッグス(スティーブ・カレル)はギャンブル依存症の為、裕福なプリシラ・ホエラン(エリザベス・シュー)との結婚生活の維持が難しくなります。テニスの賭けでロールスロイスをせしめたことが妻にばれ、家を追い出された彼は、55歳の彼でも勝てるという触れ込みで女子テニスのトップ・プレイヤーと試合をすることを思いつき、これに人生の一発大逆転を賭けます。1973年に設立された女性テニス協会とともに女子プレイヤーによるツァーは徐々に足場を固めます。リッグスは「男性優位主義の代表」と自称し、彼と試合をするようにキングにプレッシャーをかけ続けます。リッグスは、最近キングを打ち負かし世界一のランキングを得たマーガレット・コートを説得、1973年の5月に彼女との試合を実現、造作なくマーガレットを破ります。このままでは女子テニスへの逆風が強まると危機感を感じたキングは、試合の手配・準備に対する最終決定権を得ることを条件に、リッグスの挑戦を受け入れます。マーガレットに楽勝して悠々自適のリッグスを尻目に、キングは集中的に練習に取り組み、クレイマーが解説するならば試合に出ないと脅し、クレイマーを解説者から引きずり下ろします。全世界、9000万人の視聴者が注目する中、バトル・オブ・ザ・セクシーズ(男女決戦)の火蓋が切られます・・・。【レビュー・解説】世界の注目を集めた1973年のテニス男女決戦の実話に基づき、対戦した男女とそれぞれを取り巻く人間模様を、時にスリリングに、時に甘く、時にコミカルに、時にドラマチックに、娯楽性たっぷりに描きながら、図らずも今なお根強く残る女性差別を風刺するスポーツ系ヒューマン・コメディ&ドラマ映画です。1973年のテニス男女決戦の実話に基づくヒューマン・コメディ&ドラマ映画ウーマン・リブの時代19世紀後半から20世紀前半にかけて起こった女性の参政権運動をフェミニズムの第一波とすれば、「男女は社会的には対等・平等であって、生まれつきの肌の色や性別による差別や区別の壁を取り払うべきだ」と1960年代後半にベトナム反戦運動や公民権運動に連動する形で起こり世界に広まったウーマン・リブは、フェミニズムの第二波とも言える大きな時代の波でした。少なからず影響を受けた日本では1972年に男女雇用機会均等法が制定され、世界的には1979年の国連総会で女子差別撤廃条約が採択されるなどの成果をもたらしました。本作は、そんな時代の出来事です。興行としての男女決戦1970年代は現在より差別的な時代ではありましたが、それを跳ね返そうという勢いがあり、熱い議論がなされた時代でもあります。テニスでは男性のサーブの最高速が時速250キロを超えるのに対して、女性は200キロ超えがいいところと、男女の体力差は歴然としています。20代の現役女性トッププレーヤーと50代の元男性世界チャンピオンとの男女が対決したところで、それが絶対的な男女の優劣をフェアに決するものかどうかは疑問が残ります。しかしながら、ウーマンリブの大きなうねりの中、シンパ、アンチ含めて全世界で9000万人の視聴者を集めるなど世界の大きな注目を浴びてこの男女決戦が興行として成り立ったことが本作の大きなポイントです。劇中のボビー・リッグスの過激な言動をビリー・ジーン・キングがにこにこと笑ってやり過ごしていますが、これは彼の言動がすべて客寄せの為のパフォーマンスであることがわかっているからです。興行には胡散臭さがつきものですが、ご多分に漏れずこの男女決戦にも疑惑があります。ギャングへの10万ドルの借金を帳消しにする為に、ボビー・リッグスがわざと負けたのではないかという疑惑です。ボビー・リッグス亡き後に出てきた話で本人に確認することはできませんが、対戦相手だったビリー・ジーン・キングは「彼は真剣に戦っていた」と疑惑を明確に否定しています。また、ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス両監督も、ボビー・リッグスがビリー・ジーン・キングに勝利した後に賭金100万ドルでクリス・エバートと戦うつもりだったという事実を挙げ、10万ドルの借金を帳消しにする為に試合を捨てることはあり得ないと、疑惑を否定しています。舞台裏の人間ドラマを描く男女決戦の勝利を通してビリー・ジーン・キングの女性差別との戦いを讃える作品かと思いきや、既婚ながらも同性への思いを抑えきらず情事を重ねる彼女や、ギャンブル依存症に苦しみ妻に別れを告げられる対戦相手のボビー・リッグスにもかなりの時間を割いて描写しており、そうした人間的な側面にいつの間にか感情移入してしまう構成に意表を突かれます。胡散臭さが拭いきれないスポーツ興行を題材にしながら、対戦する二人の人間的な「実」を描くことにより、本作は多層的で厚みのある作品になっています。単なるテニスの映画というわけではなく、ラブストーリーでもあり、人間関係も描かれています。ボビー・リッグスとその奥さん、ビリー・ジーンとその旦那さん、そして恋人などがそうですね。その他にも男女差別など多くの要素や多層的なテーマがあります。この男女決戦が行われた時、私達はすでに生まれていましたが、この試合だけでは映画を作る気にはなりませんでした。私達にとって初めてのスポーツ映画になりましたが、そんな映画を撮ろうとは夢にも思っていなかったのです。私達の興味を引いたのは試合以外の話、特に結婚していたビリー・ジーンが目覚め、自分について知り、試合に至るプレッシャーの中で初めて女性と関係する話です。そうした試合以外の様々な興味深い話や観点が、私達を映画製作に駆りたてました。実際のボビーも、全く憎めないんですよ。とても人を楽しませることに長けていて、調べれば調べるほどに魅力的に感じました。その人柄を最大限に捉えようと、演出では努力しましたね。(ヴァレリー・ファリス監督)スポーツ映画の中にふたつのラブ・ストーリーとともに政治的な観点もあることが気に入っています。(ジョナサン・デイトン監督)https://cinema.ne.jp/recommend/battleofthesexes2018070606/https://www.theyoungfolks.com/film/109919/interview-valerie-faris-and-jonathan-dayton/劇中では過激な言動を繰り返すボビー・リッグスですが、実生活ではビリー・ジーン・キングとは生涯を通じての友人で、彼が1995年に前立腺癌で亡くなる前日にもビリー・ジーンと電話で話をしています。因みに、テニスの男女決戦の後、テレビに出演した二人はバトル・オブ・ザ・セクシーズのパロディを卓球で演じてみせ、茶の間を沸かせています(「動画クリップ(YouTube)」の項参照)。1970年代の描写にクラクラピンクや赤・青・黄といった原色が溢れる活気に満ちた1970年代の雰囲気を再現すべく、本作は35ミリフィルムで撮影されており、まるでタイム・スリップでもしたかのようでクラクラしそうです。また、女性の未来志向と男性の保守志向を暗喩として画作りに落とし込むなどのこだわりも見られます。1970年代の映像に見せることに、監督の2人はこだわっていた。物語を支えるための工夫としては、1970年代以降のビンテージ分析を参考にしたよ。そして、女性は未来志向、男性は過去志向と決めて、登場人物の顔の向きでそれを表現した。女性は未来を示す右を向き、男性は左を向いている。(リヌス・サンドグレン撮影監督)https://eiga.com/news/20180614/3/1970年代のカラー・スキームにクラクラビリー・ジーンの戦略性と葛藤身長168センチのエマ・ストーンは本作出演の為に60キロ近くまで増量しましたが、映画で見るとテニス・プレイヤーとしては華奢な印象です。女子プロスポーツ選手として最多の生涯賞金を稼いだセレナ・ウィリアムズ(最近、大坂なおみに敗れたのが記憶に新しい)の175センチ、70キロに比べれば確かに華奢ですが、ビリー・ジーン・キング本人が164cm、60kgと比較的華奢なプレイヤーでした。ビリー・ジーン・キングは感情を発散するプレイ・スタイルと言われますが、ボビー・リッグスとの戦いは戦略的でした。マーガレット・コートが後ろに下がって守勢にまわり、ボビー・リッグスに破れたのに対し、ビリー・ジーンはボビー・リッグスを前後左右に振り、体力を消耗させる戦略をとっています。必ずしも優位を取れないパワーショットの応酬を避け、55歳の相手の弱点である持久力を突く巧みな戦略です。この頃のビリー・ジーンは、女性によるテニストーナメントの立ち上げボビー・リッグスからの挑戦既婚にもかかわらず抑えきれない同性への思いといった三重の葛藤を抱えていますが、男性主導の全米テニス協会に反旗を翻したものの、マーガレット・コートがボビー・リッグスに破れて女子テニス全体が窮地に追い込まれるまでは、彼からの挑戦を回避します。また、当時は同性愛に対する世間の目が非常に厳しかった為、彼女はマリリン・バーネットとの関係をカミング・アウトしませんでした。映画では明確には描かれていませんが、マリリンとの関係は7年間続き、1981年にマリリンは財産分与を求めてビリー・ジーンを告訴、追い詰められたビリー・ジーンはやむなく女性との性的関係を認めました。時代は依然として厳しく、彼女はキャリアを失いかけますが、数年かけてなんとか回復します。これは、裁判費用を捻出する為に引退できないという背水の陣の戦いでもありました。2009年、ビリー・ジーンは、長年の女性及び同性愛者の権利向上への貢献に対しアメリカの民間人の最大の栄誉である大統領自由勲章を授与されましたが、彼女は社会の様々な不合理に遮二無二に戦うというよりは、自身が抱えた問題に対してキャリアを最優先に先送りすべきことは先送りしながら戦略的に戦ってきたように思われます。個性あふれる俳優たちの熱演4ヶ月間トレーニングを続けて筋肉をつけ、約7キロ体重を増やしたエマ・ストーンは、ノーメイクでナチュラルな魅力を見せています。義歯をつけてボビー・リッグスそっくりに変身したスティーヴ・カレルは、4ヶ月かけて当時のボビー・リッグスの映像を研究、親友や試合時の担当コーチに人物像をヒアリングして役作りし、本人と見紛うばかりのパフォーマンスを見せています。この二人の著名な俳優のパフォーマンスについては多くを語る必要もないかと思いますが、ビリー・ジーンの愛人マリリン・バーネットを演じるアンドレア・ライズボローも見事な演技を見せています。出演時間も短く、セリフもさして多くない中、同性の女性を引きつける不思議な魅力と(本作では描かれていないが後にビリー・ジーンを告訴することになる)危うげな雰囲気を彼女は表情と仕草で見事に醸し出し、一貫した強い印象を残します。二人の絡みの演出はヴァレリー・ファリス監督に任されており、女性ならではの視点でアンドレア・ライズボローのパフォーマンスが引き出されたものと思われます。また、バイ・セクシャルであることを公表しているアラン・カミングがゲイのデザイナーを演じ、同性愛に嵌まるビリー・ジーンをさり気なく助けたり、アドバイスを与えたりするという、コミカルに虚実交錯する演出が作品を引き立てています。女子テニスのプロモーター役を演じるサラ・シルバーマンの活躍も見逃せません。彼女は、アメリカのコメディアン、作家、女優、ミュージシャンで、個人的には「素敵な人生の終り方」(2009年)のカメオ出演で見せる強烈な下ネタ一発芸が強く印象に残っています。特徴的な声で役を演じ、役に溶け込むよりも役を自分に寄せる芸風が禍してか、映画への出演はちょい役的なものが多いのですが、本作では女子テニスのプロモーターというセリフも多い重要な役回りで楽しませてくれます。2008年、彼女は交際していたコメディアンのジミー・キンメルのトーク番組に出演、マット・デイモンとの浮気を告白するビデオ「I'm Fxxking Matt Damon」を披露します。実際にデイモンも登場するこのビデオに、ジミー・キンメルは自分はデイモンの親友であるベン・アフレックと浮気しているというビデオ「I'm Fxxking Ben Affleck!」を作って反撃します。こちらにはベン・アフレックの他にブラッド・ピット、キャメロン・ディアスらセレブが多数出演しており、このビデオ合戦はアメリカで大きな話題になりました。サラ・シルバーマンは自作自演の曲「I'm Fxxking Matt Damon」でクリエイティブ・アーツ・エミー賞の最優秀オリジナル歌曲賞を受賞しています。「動画クリップ(YouTube)」の項に関連ビデオを挙げておきますが、サラ・シルバーマンの魅力が凝縮されたようなビデオです。 場外ではありますが、こうした彼女の魅力を知った上で、本作を観るのも格別ですハリウッドに根強く残る男女収入格差ビリー・ジーンは女子テニスの賞金額が男子の1/8であることに抗議しましたが、こうした問題はテニス業界に限った話でも過去の話でもありません。ハリウッドは依然としてギャラの男女格差解消に消極的なようで、「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年)でアカデミー助演女優賞を受賞した際に受賞スピーチで男女の賃金格差の是正を主張したパトリシア・アークエットは、その後、映画出演の話が来なくなるという憂き目に遭いました。また、「ゲティ家の身代金」(2017年)ではケヴィン・スペイシーのセクハラが発覚した為、クリストファー・パルマーを代役に立てて再撮影が行われましたが、10日間の撮り直しのギャラが、マーク・ウォールバーグの150万ドルミシェル・ウィリアムズの1000ドルと、なんと1500倍もの格差があったことが判明しました。ミッシェル・ウィリアムズは当初から、セクハラが発覚したケヴィン・スペイシーと共演した映画は宣伝したくないリドリー・スコット監督に感謝、ギャラ・休日返上で撮り直しに協力したいと語っていました。撮り直し為の予算が1000万ドルしかなかった為、代役のクリストファー・プラマーにはギャラが支払われたものの、リドリー・スコット監督や他のキャストはノーギャラで撮り直しに応じました。しかし、マーク・ウォールバーグのエージェンシーが本人が知らないところで、追加のギャラを支払わなければ、クリストファー・プラマーの代役を認めないと、マーク・ウォールバーグの追加出演料を独自に折衝したというのが真相のようです。さらに、「ゲティ家の身代金」のそもそもの出演料が、主役のミシェル・ウィリアムズが62万5000ドル、マーク・ウォールバーグの500万ドルと8倍もの格差があり、ミシェル・ウィリアムズにのみ、再撮影には無条件で応じなくてはならないという契約条件がついていたことが判明しました。ちなみに、マーク・ウォールバーグの500万ドルは減額交渉を受けた結果であり、これが撮り直しの際の追加出演料の独自交渉につながったようです。興味深いのは、マーク・ウォールバーグもミシェル・ウィリアムズも同じエージェンシーに属することで、 インディーズ映画に数多く出演し、必要以上にお金には固執しないようには見受けらるものの、過去に4度もアカデミー賞にノミネートされている大女優のミシェル・ウィリアムズの主演ギャラが、マーク・ウォールバーグの1/8という驚くべき不均衡がエージェンシー内部で容認されていることです。ギャラが交渉で決まるのは当然としても、その大前提には、男優が出演料を交渉するのは積極的と評価されるが、女優が出演料を交渉するのは小うるさいと嫌われるというジェンダー・バイアスがかかった暗黙の商慣習があるのかもしれません。マーク・ウォールバーグは本件にすばやく対応し、マーク・ウォールバーグがミシェル・ウィルアムズの名前で150万ドルエージェンシーのWMEが50万ドルを、ミシェル・ウィルアムズが署名するセクハラ被害者支援団体「Time's Up」に寄付することで鎮火しましたが、出演料の格差のみならず、ケヴィン・スペイシーのセクハラ事件対応をエージェンシーが自らの利益の為に利用したことが露わになった形で、少々、後味の悪いものになりました。ビジネスや商慣習と倫理のバランスの取り方は各人、各様ですが、こうしたギクシャクはまだまだ続くかもしれません。エマ・ストーン(ビリー・ジーン・キング、女子テニスのトップ・プレイヤー)エマ・ストーン(1988年〜)はアリゾナ出身のアメリカの女優。11歳の時に初めて舞台出演、その後、数々の舞台に出演するとともに、即興コメディ劇団にも参加、15歳の時に高校を中退、女優を志す。両親を説得して、母親と共にロス・アンジェルスに移り、日中にオーディションに受け、夜は家で勉強する生活を送る。2004年にタレント発掘番組で役を勝ち取り、テレビでのキャリアが始まるが、出演する番組がパイロット・エピソードのみで終わったり、途中でシリーズが打ち切られるなど、なかなか芽が出ず。2007年に青春コメディ「スーパーバッド 童貞ウォーズ」で映画デビュー、ジョナ・ヒル演じる主人公の恋人を演じる。脚本に人物描写がほとんどないような役だったが、作品のヒットとともに彼女も注目される。その後も、コメディ映画「ROCKER 40歳のロック☆デビュー」、「キューティ・バニー」、「ゴースト・オブ・ガールフレンズ・パスト」、「ゾンビランド」、「Paper Man」で名だたる俳優と共演するようになり、2010年に主演を務めた「小悪魔はなぜモテる?!」でゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネートされ、彼女の大きなブレイクスルーとなる。その後、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズなど、メジャーな作品に出演するようになり、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)で並み居る名優を相手にシリアスな役に挑戦、アカデミー助演女優賞にノミネートされる。2016年には「ラ・ラ・ランド」でアカデミー主演女優賞を受賞、フォーブスの「最もギャラの高い世界の女優2017」でトップ(約2600万ドル)にランクされるまでになる。同じく10代半ばで女優を志し、両親を説得して大都市に移り住み、その後とんとん拍子でスター街道を上り詰めたジョニファー・ローレンスと異なり、犬のお菓子屋さんで働くなど下積みの時代もあったエマ・ストーンだが、この世代を代表する才能に恵まれた女優の一人と見做されており、今後のさらなる活躍が期待されている。スティーブ・カレル(ボビー・リッグス、55歳、元男子テニスチャンピオン)スティーヴ・カレル(1962年〜)は、マサチューセッツ州出身のアメリカの俳優、コメディアン、脚本家、映画プロデューサー。イタリア、ドイツ、ポーランドの血を引く。学生時代より即興劇団で活動 、大学卒業後、シカゴのコメディ劇団に参加、その後、脚本家兼俳優としていくつかのテレビ番組の仕事をする。1991年に映画デビューするが、その後もテレビ中心に活動し、1999年よりコメディ・ニュース番組にレギュラー出演、広く知られるようになる。「ブルース・オールマイティ」(2003年)、「俺たちニュースキャスター」(2004年)、「奥さまは魔女」(2005年)などに出演、「40歳の童貞男」(2005年)では主演を務め、全米だけでも1億ドルを越える興行収入を稼ぐ。その後、経済誌フォーブスの「アメリカのテレビ界で最も稼いでいる男性」にたびたびランクインするようになる。「フォックスキャッチャー」(2014年)では、第87回アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされている。アンドレア・ライズボロー(マリリン・バーネット、美容師、ビリー・ジーンの愛人)アンドレア・ライズボロー(1981年〜)は、イングランド出身のイギリスの女優。幼少期より演劇を好み、王立演劇学校に進んで、在学中に3度テレビドラマに出する。2005年に卒業後、舞台に立ち、舞台とテレビで数々の賞にノミネートされ、受賞する。「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年)、「ファクトリー・ウーマン」(2010年)、「シャドー・ダンサー」(2012年)、「オブリビオン」(2013年)、「スターリンの葬送狂騒曲」(2017年)、「ナンシー(Nancy)」(2018年)、「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」(2018年)などに出演している。サラ・シルバーマン(グラディス・ヘルドマン、女子テニスのプロモーター)サラ・シルバーマン(1970年〜)はニューハンプシャー州出身のアメリカのコメディアン、作家、女優、ミュージシャン。ユダヤ系アメリカ人の彼女は、人種差別、性差別、宗教のような社会的タブーや論争の的となるような社会問題を好んで扱う。12歳でコミュニティ劇場に入り、15歳でボストンのローカル番組に出演、17歳でレストランでスタンドアップ・コメディを始め、歌も歌う。1993年、「サタデー・ナイト・ライブ」に放送作家、準レギュラー出演者として採用され注目されるが、1シーズンで解雇される。特徴的な声で演じ、役に溶け込まず、逆に役を自分に寄せてしまうのがその理由と言われている。後に主演を務めたホームコメディ「サラ・シルバーマン・プログラム」(2007年〜2010年)で成功を収める。2008年、交際していたコメディアンのジミー・キンメルのトーク番組に出演、マット・デイモンと浮気していると告白するビデオ「I'm Fxxking Matt Damon」を披露、実際にデイモンも登場するこのビデオに、ジミー・キンメルはデイモンの親友であるベン・アフレックと浮気しているというビデオ「I'm Fxxking Ben Affleck!」を作って反撃する。こちらにはベン・アフレックの他にブラッド・ピット、キャメロン・ディアスらセレブが多数出演、このビデオ合戦はアメリカで大きな話題になる。サラ・シルバーマンは「メリーに首ったけ」(1998年)、「スクール・オブ・ロック」(2003年)、「素敵な人生の終わり方」(2009年)、「ザ・マペッツ」(2011年)などの映画に出演している。ビル・プルマン(左、ジャック・クレイマー、全米テニス協会の会長)ビル・プルマン(1953年〜)は、ニューヨーク出身のアメリカの俳優。イングランド及びオランダの血を引く。大学卒業後にモンタナ州立大学で演劇を教えるが、28歳のときにニューヨークに移り、俳優を志す。様々な劇団の舞台に立ち、1986年に映画デビュー、 「プリティ・リーグ 」(1992年)、「シングルス」(1992年)、「甘い毒」(1994年)、「あなたが寝てる間に…」(1995年)、「17歳の処方箋」(2002年)、「You Kill Me」(2007年)、「Walking Out」(2017年)などに出演している。アラン・カミング(テッド・ティンリング、女子テニスのデザイナー)アラン・カミング(1965年〜)は、スコットランド出身のイギリスの俳優。グラスゴーで演技を学んだ後、舞台・テレビで活躍、舞台俳優、映画俳優。映画監督、脚本家、作家など、その活動は多岐にわたる。舞台「キャバレー」では、トニー賞を始め、数々の賞を受賞している。映画ではゲイ、変人、オタク等の変わった役や、特殊メイク、白塗りの役が多い。1985年に女優のヒラリー・リオンと結婚したが、1993年に離婚、バイセクシュアルとと公言し、2007年にグラフィック・アーティストの男性と同性婚を挙げている。「Emma エマ」(1996年)、「スパイキッズ」(2001年)、「X-MEN2 X2」(2003年)などに出演している。エリザベス・シュー(プリシラ・リッグス、ボビーの裕福な妻)エリザベス・シュー(1963年〜)は、デラウェア州出身のアメリカの女優。大学在学中に勉学を中断して女優を志す(後にハーバード大に戻り、15年後に学位を取得)。「ベスト・キッド」(1984年)、「リービング・ラスベガス」(1995年)、「ミステリアス・スキン」(2004年)などに出演、「リービング・ラスベガス」でアカデミー主演女優賞にノミネートされている。オースティン・ストウェル(右、ラリー・キング、弁護士、ビリー・ジーンの夫)オースティン・ストウェル(1984年〜)は、コネチカット州出身のアメリカの俳優。高校を卒業後、演劇学校で演技を学ぶ。コネチカットを拠点とする劇団の舞台などに出演し、2009年にテレビドラマ・デビュー、2011年に映画デビュー。「イルカと少年 」(2011年)、「セッション」(2014年)、「ブリッジ・オブ・スパイ」(2015年)などに出演している。ジェシカ・マクナミー(マーガレット・コート、ビリー・ジーンのライバル)ジェシカ・マクナミー(1986年〜)はシドニー出身のオーストラリアの女優。テレビドラマ・シーリズで名を知られるようになる。「ラブド・ワンズ」(2009年)などに出演している。【動画クリップ(YouTube)】ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス監督によるCMジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス監督によるMVThe Smashing Pumpkins「Tonight, Tonight」。世界最大の音楽イベントMTV Video Music Awardsで6つの賞を受賞した作品。両監督は数多くのMTVやCMを制作している。バトル・オブ・セクシーズ(卓球版)I'm Fxxking Matt Damon by Sarah SilvermanI'm Fxxking Ben Afleck by Jimmy Kimmel【撮影地(グーグルマップ)】ラリーとマリリンがエレベーターで乗り合わせたホテルボビーとマーガレットの試合が行われたコートボビーとビリー・ジーンの試合が行われたアリーナ撮影はLos Angeles Memorial Sports Arenaで行われたが、現在は壊され、Banc of California Stadiumになっている。 「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」のDVD(楽天市場)【関連作品】ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス監督xスティーヴ・カレルのコラボ作品(楽天市場) 「リトル・ミス・サンシャイン」(2006年)ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス監督作品のDVD(楽天市場) 「ルビー・スパークス Ruby Sparks」(2012年)エマ・ストーンxスティーヴ・カレル共演作品のDVD(楽天市場) 「ラブ・アゲイン」(2011年) エマ・ストーンxアンドレア・ライズボロー共演作品のDVD(楽天市場) 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)エマ・ストーン出演作品のDVD(楽天市場) 「スーパーバッド 童貞ウォーズ」(2007年) 「ゾンビランド」(2009年) 「小悪魔はなぜモテる?!」(2010年) 「ラブ・アゲイン」(2011年) 「ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜」(2011年) 「アメイジング・スパイダーマン」(2012年) 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年) 「ラ・ラ・ランド」(2016年)スティーヴ・カレル出演作品のDVD(楽天市場) 「40歳の童貞男」(2005年) 「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」(2007年) 「プールサイド・デイズ」(2013年) 「フォックスキャッチャー」(2014年) 「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年) 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2019年05月21日
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「アントマン&ワスプ」(原題:Ant-Man and the Wasp)は、2018年公開のアメリカのスーパー・ヒーロー映画です。マーベル・スタジオが製作、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズが配給する、マーベル・コミックのアメリカン・コミック・ヒーロー「アントマン」の実写映画化作品で、「アントマン」(2015年)の続編となるシリーズ第2作です。ペイトン・リード監督、ポール・ラッド、エヴァンジェリン・リリーら出演で、身長1.5cmのヒーロー、アントマンが、体のサイズを自在に変えられるワスプをパートナーに、神出鬼没な謎の敵ゴーストや武器ディーラーを相手に奮闘する姿を描いています。 「アントマン&ワスプ」のDVD(Amazon)【スタッフ・キャスト】スタッフ・キャスト監督:ペイトン・リード脚本:クリス・マッケナ/エリック・ソマーズ/ポール・ラッド/アンドリュー・バレル /ガブリエル・フェラーリ原作:スタン・リー/ラリー・リーバー/ジャック・カービー出演:ポール・ラッド(スコット・ラング/アントマン、司法取引により自宅軟禁中) エヴァンジェリン・リリー(ホープ・ヴァン・ダイン/ワスプ、父と共に潜伏中) マデリーン・マックグロウ(幼年期のホープ・ヴァン・ダイン) マイケル・ダグラス(ハンク・ピム / 初代アントマン、ホープの父) ミシェル・ファイファー(ジャネット・ヴァン・ダイン/初代ワスプ、ピムの妻) アビー・ライダー・フォートソン(キャシー・ラング、スコットの愛娘) ジュディ・グリア(マギー・ラング、スコットの元妻、キャシーの母) ボビー・カナヴェイル(ジム・パクストン、マギーの夫、キャシーの養父) マイケル・ペーニャ(ルイス、スコットのかつての泥棒仲間、親友) ランドール・パーク(ジミー・ウー、スコットを監視するFBI捜査官) ウォルトン・ゴギンズ(ソニー・バーチ、メインヴィラン、武器ディーラー) ハナ・ジョン=カーメン(エイヴァ・スター/ゴースト、研究所を狙う謎の女) ローレンス・フィッシュバーン(ビル・フォスター、教授、昔のピムの仲間) スタン・リー(カメオ、車道の老人、目の前で愛車を縮小されぼやく) ほか【あらすじ】1987年。初代ワスプことジャネット・ヴァン・ダイン(ミシェル・ファイファー)は、ソ連の核ミサイルを停止させるために限界まで縮小し、量子世界に姿を消してしまいます。ジャネットの夫で初代アントマンのハンク・ピム(マイケル・ダグラス)と娘のホープ(エヴァンジェリン・リリー)は長い間、彼女の死を悼み続けますが、28年後、新たに仲間となった二代目アントマンのスコット・ラング(ポール・ラッド)が量子世界から帰還することに成功し、以後、ハンクとホープはジャネットを量子世界から取り戻す為の研究に没頭します。アベンジャーズを国連の管理下に置くソコヴィア協定に反発するキャプテン・アメリカに加担したスコットは、協定違反容疑で逮捕されますが、司法取引で帰国、自宅に軟禁され、FBIの監視下にあります。2年に及ぶ軟禁生活が終わる頃、量子世界の奇妙な夢を見たスコットは、絶縁状態だったハンクに連絡を取ります。彼が見た夢は、ハンクたちが作った量子トンネルの影響で流れ込んできたジャネットのメッセージでした。2年前のスコットの失敗を機にFBIに追われ、潜伏していたハンクとホープは、ジャネット救出の為に再びスコットと手を結びます。彼らは量子トンネルに必要な部品を闇取引のディーラーであるソニー・バーチ(ウォルトン・ゴギンズ)から入手しようとしますが、FBIに内通するバーチはつけ込んで研究成果を要求、争いに発展します。ホープは縮小と飛行が可能なワスプのスーツを着てバーチらを圧倒しますが、物質をすり抜けるゴースト(ハナ・ジョン=カーメン)が現われ、ホープを妨害、キャリーバッグ大に縮小したラボを奪って姿を消します。ハンクはかつてパートナーであったビル・フォスター(ローレンス・フィッシュバーン)を訪ね、助言を得てラボの位置を割り出し、ゴーストから奪還を企てますが、全員が返り討ちに遭い、囚われてしまいます。エイヴァ・スターと名乗るゴーストは、かつてハンクの助手だった彼女の父が追放され、量子実験に失敗して妻と共にこの世を去ったこと、実験の失敗でゴースト自身の存在が不安定になったことを告白します。彼女は後見してくれたビルと協力し、ハンクの量子トンネルとジャネットの力を得て自身の問題の解決を企みますが、ジャネットの命に危険が及ぶ為、ハンクは彼女たちへの協力を拒否、芝居を打って脱出します。ゴーストから逃れ、量子トンネルを起動すると、スコットの意識を乗っ取る形でジャネットが現われ、自身の正確な位置を算出、救出のタイムリミットが2時間であることを知らせます。スコットの友人ルイス(マイケル・ペーニャ)に自白剤を打ち3人の居場所を聞き出したバーチがFBIに通報、スコットは自宅への帰宅を余儀なくされ、ハンクとホープはFBIに逮捕され、ラボはゴーストに奪取されてしまいます。自宅でFBIの監視を誤魔化したスコットは、2人をFBIから脱出させ、スコットとホープはエイヴァとバーチらの追跡をかわす間に、ハンクが量子トンネルを用いてジャネットの救出に向かいます・・・。【レビュー・解説】アントマンのパートナー、ワスプが新登場、父娘関係という第一作のテーマを引き継ぎながらも、よりコメディ色を強め、車やビルといったあらゆるものに縮小テクノロジーを使用することにより、刺激的にコミカルに軽く明るくMCUをリフレッシュする、「アントマン」シリーズ第二作のアクション・コメディです。アントマンのパートナー、ワスプが新登場アントマンとワスプのフィギュア(Amazon)【POP! 】「アントマン&ワスプ」アントマンバンダイ フィギュアーツ S.H.Figuarts「アントマン&ワスプ」ワスプシリーズ第二作の方向性シリーズ第一作の「アントマン」(2015年)に比べて格段に面白くなっています。第一作のアントマン」には人間が小さくなるという面白みはあるものの、父娘関係の扱い方などにややステレオタイプ的なところがあり、独自の面白さがいまいち不足している印象でした。本作の最も大きな目玉はアントマンのパートナー、ワスプの登場ですが、ペイトン・リード監督は父娘関係という第一作のテーマを残しながら、本作に新たな方向性を打ち出しています。「アントマン&ワスプ」の製作段階の初めに、僕たちは二つのことを話し合いました。一つは前作よりも愉快で面白い作品にすること。もう一つはアントマンたちの縮小テクノロジーを、最大限に生かしたいということです。そこで、一作目のように人に対してだけ使うのではなく、車やビルといったあらゆるものに使うようにしたんです。(ペイトン・リード監督)https://qetic.jp/film/antmanwasp-feature/294769/父娘関係という基本テーマを残しながら、作品に大胆な方向付けコメディ路線の強化天才でもないし、お金持ちでもない、カリスマでもない、救いようのないミスを何度も犯して、妻には離婚されるわ、刑務所に入れられるわという、負け組ダメ男の主役スコットに、「俺たちニュースキャスター」(2004年)などコメディで名を成したポール・ラッドを起用する「アントマン」シリーズは、コメディがよく馴染む作品です。妻より稼ぎの少ない夫や、妻から離婚を言い渡されるなど、立場の弱い夫が少なくないアメリカでは、ある意味、アイアンマンやソーよりも強い共感を集めることができる作品です。主演のポール・ラッドのみならず、友人を演じるマイケル・ペーニャ、FBI捜査官を演じるランドール・パークら助演俳優たちからもコミカルなパフォーマンスを引き出すなど、コメディ要素をより強めることによって、他のマーベル作品に埋没することがないしっかりとした個性が打ち出されています。因みに、FBI捜査官を演じるランドール・パークは韓国系アメリカ人で、白人が要となる役を固める中、メキシコ系のマイケル・ペーニャ、アフリカ系のローレンス・フィッシュバーン、アフリカ系xノルウェイ系のハナ・ジョン=カーメンら並んで、非白人としてバランス良く配置された観がある脇役の一人です。彼は、朝鮮民主主義人民共和国の独裁政治を揶揄、第一書記に対する描写が侮辱的という理由で、北朝鮮から公開中止の要求を受け、サイバー攻撃やテロ予告の契機となったコメディ映画「ザ・インタビュー」(2014年)で、朝鮮労働党第一書記金正恩を演じた骨のある俳優、コメディアンで、本作では生真面目な反面、スコットの手品に興味を持ったりする微妙な面白さを持ったFBI捜査官ジミー・ウーを演じています。終盤、言葉尻を捉えて絡むスコットを相手に、大真面目で微妙なやりとりが最高です(間合いとか、表情が伝わないのが残念ですが)。JIMMY: Well, you got away with it this time, Scott, but I'll be seeing you again.SCOTT: Where?JIMMY: Huh?SCOTT: Where will you be seeing me again?JIMMY: Like... in general, I'll see you. Like, the next time you do something bad. I'll be there. To catch you.SCOTT: Ohh. You'll be watching me. I thought you were inviting me somewhere.JIMMY: Why would I do that?SCOTT: That's what I was wondering. Why would you do that either?JIMMY: Like a party, or dinner or something?SCOTT: I don't know. I thought you planned the evening.JIMMY: No. I meant to, like, arrest you. Like, I'll arrest you later again.SCOTT: Take it easy, Jimmy.JIMMY: Okay. Did you wanna grab dinner? I mean, 'cause I'm free.ジミー:今回は事なきを得たが、スコット、また会うことになるよ。スコット:どこで?ジミー:えっ?スコット:どこで会う?ジミー:一般的な意味で言ったんだ。今度、悪さをしたら、捕まえるという意味だ。スコット:見張ってる?誘ってくれたのかと思った。ジミー:なぜ私が誘う?スコット:俺も変だなと思って。ジミー:パーティ?ディーナーとか?スコット:わからないけど、計画していたのかと。ジミー:また捕まえるという意味だ。スコット:気にしないで。ジミー:オーケー。食事したかった?空いているよ。あらゆるものに縮小テクノロジーを使用人に対してのみならず、車やビルといったあらゆるものに縮小テクノロジーを使うようにしたのは、刺激的であるのみならず、笑いの面でも効果的です。すべての物に対して我々は無意識のうちに妥当な大きさを想定して行動しています。そうした想定が崩れることは我々に驚きをもたらしますが、それは同時に新鮮な笑いのネタにもなります。本作であらゆるものに縮小テクノロジーを使うことにより新たな笑いのネタが生まれ、作品の基本路線であるコメディ要素をさらに強めるという相乗効果を生み出しています。サイズが変わることによる生まれるネタは無尽蔵にありそうなので、是非とも豊富な笑いで「アントマン3」に繋がって欲しいところです。縮小テクノロジーを組み合わせたアクション・コメディhttps://www.youtube.com/watch?v=q7CVipAFQn8サン・フランシスコを舞台にしたアクションと言うと、特有の段差のある坂道を利用した「ブリット」(1968年)のカー・チェイス(下記、動画クリップ(YouTube)の項を参照)が有名。最近ではラリー・ドライバーのケン・ブロックが、「ブリット」のスティーブ・マックイーンにオマージュを捧げるかのようにサン・フランシスコを舞台にしたバイラル・ビデオ「ジムカーナ5」を制作、実写ではこの上を望むことができないほどの華麗で高度なドライビング・テクニックを披露している(下記、動画クリップ(YouTube)の項を参照)。実際のところ、正面突破でこれら二作品を超えるようなカー・スタントはもはや不可能といっていいが、本作では縮小テクノロジーを駆使するにより、コミカルでスリリングなカー・チェイス&ファイト・シーンをユニークに実現している。ラボを一瞬にうちに小型化し、キャリーバッグのように持ち運ぶ研究施設がビルごとキャリーバッグ・サイズになり、取っ手を掴んで引いて歩くという発想は、画期的でかつユーモラス。このように、いろんなものが縮小できたら、楽しいに違いない。小型化した車を鳩が覗き込む縮小化した自動車を覗き込む鳩。突っつかれるのではないかと、怖い(笑)。小型したアントマンにウィンドウウォッシャーが降りかかる縮小化して自動車のワイパーにしがみついたアントマンを、ゴーストがウィンドウ・ウォッシャーで攻める。アントマンならではの面白さが溢れるシーン。トラックをスクーター代わりに使う大型化したアントマン調整装置の不調で巨大化したアントマンが、トラックをスクーター代わりにする。大きさの関係が変わることにより可能となるネタ。ビルの陰に隠れる大型化したアントマン大型化すると目立つので、ビルの陰に隠れてもバレバレ。スコットの留守中にドラムを叩く大型化した蟻訓練された蟻が、人間のように振る舞うのも面白い。スコットがマジックに使うカード MONARCH PLAYING CARDS THEORY 11(楽天市場)ポール・ラッド(左、スコット・ラング/アントマン、司法取引により自宅軟禁中)ポール・ラッド(1969年〜)は、ニュージャージー出身のアメリカの俳優。1995年に映画デビュー。しばらくブロードウェイの舞台で活動した後、再び映画・テレビに出演するようになる。「俺たちニュースキャスター」(2004年)をきっかけにコメディ映画の出演が増え、その後、「40歳の童貞男」(2005年)、「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」(2007年)、「寝取られ男のラブ バカンス」(2008年)、「40男のバージンロード」(2009年) 、「ウォールフラワー」(2012年)、「ディス・イズ・ジ・エンド 俺たちハリウッドスターの最凶最期の日」(2013年)、「セルフィッシュ・サマー」(2013年)、「アントマン」(2015年)、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016年)、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)などに出演している。エヴァンジェリン・リリー(左、ホープ・ヴァン・ダイン/ワスプ、父ハンクと共に潜伏中)エヴァンジェリン・リリー(1979年〜)はカナダの女優。フランス語を流暢に話す。ブリティッシュ・コロンビア大学で国際関係論を学んでいる時にスカウトされ、学費の為にモデル・エージェンシーと契約、コマーシャルに出演、テレビ・シリーズにも出演するようなる。フィリピンで暮らしたり、フライト・アテンダントとして働いたこともある。アメリカのドラマ・シリーズ「LOST」(2004年〜2010年)の準主役ケイト役でブレイクする。「ハートロッカー」(2009年)、「アントマン」(2015年)、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)などに出演している。マイケル・ダグラス(ハンク・ピム / 初代アントマン、ジャネットの夫、ホープの父)マイケル・ダグラス(1944年〜)はニュージャージー出身のアメリカの俳優・プロデューサー。俳優のカーク・ダグラスの息子。母も女優で、大学時代より演劇の訓練を受け、父のもとで映画製作を学ぶ。テレビシリーズ「サンフランシスコ捜査線」(1972年)でエミー賞の候補になるなど注目を集め、監督業にも進出。「カッコーの巣の上で」(1975年)を製作し、作品賞を含むアカデミー賞5部門を受賞、プロデューサーとしても脚光を浴びる。「ウォール街」(1987年)でアカデミー主演男優賞を受賞している。「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」(1984年)、「危険な情事」(1987年)、「ウォール街」(1987年)、「アメリカン・プレジデント」(1995年)、「ワンダー・ボーイズ」(2000年)、「トラフィック」(2000年)、「ソリタリー・マン」(2009年)、「エージェント・マロリー」(2012年)、「恋するリベラーチェ」(2013年)、「アントマン」(2015年)、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)などに出演している。「トラフィック」で共演したキャサリン・ゼタ=ジョーンズと結婚、1男1女をもうけている。2010年に末期の喉頭癌を患うが、抗癌剤と放射線治療で克服し、現在に至る。ミシェル・ファイファー(ジャネット・ヴァン・ダイン/初代ワスプ、ピムの妻ホープ、母)ミシェル・マリー・ファイファー(1958年〜)は、カリフォルニア出身のアメリカの女優。ドイツ、オランダ、スウェーデンの血を引く。二人の妹も女優。高校卒業後、ミス・オレンジ・カウンティー・コンテストで優勝、スカウトの目に留まり、ロサンゼルスに移る。1980年に映画デビュー、「スカーフェイス」(1983年)などに出演、「危険な関係」(1988年)でアカデミー助演女優賞に、「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」(1989年)、「ラブ・フィールド}(1992年)でアカデミー主演女優賞にノミネートされる。その後も、「バットマン リターンズ」(1992年)、「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事」(1993年)などに出演するが、2000年以降は家族との時間を優先、「ヘアスプレー」で女優業に復帰、「アントマン」(2015年)、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)などに出演している。アビー・ライダー・フォートソン(左、キャシー・ラング、スコットの愛娘)アビー・ライダー・フォートソン(2008年〜)は、カリフォルニア出身のアメリカの女優。テレビ・ドラマ・シリーズで良く知られている。「アントマン」(2015年)などに出演している。両親も俳優。マイケル・ペーニャ(ルイス、スコットのかつての泥棒仲間、親友)マイケル・ペーニャ(1976年〜)は、シカゴ出身のアメリカの俳優。両親共にメキシコからの移民。1994年からテレビやインデペンデント作品に出演、「クラッシュ」(2004年)、「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)以降、メジャーな作品に出るようになる。「リンカーン弁護士」(2011年)、「エンド・オブ・ウォッチ」(2012年)、「アメリカン・ハッスル」(2013年)、「オデッセイ」(2015年)、「アントマン」(2015年)などに出演している。ランドール・パーク(ジミー・ウー、スコットを監視するFBI捜査官)ランドール・パーク(1973年〜)は、ロス・アンジェルス出身のアメリカの俳優、コメディアン。大学在学中にアジア系の劇団へ参加したことから、役者の道を進み、2003年からプロとしてテレビドラマや短編映画などに出演する。以降、順調にキャリアを重ね、「エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方」(2015年)、「マダム・メドラー おせっかいは幸せの始まり」(2016年)などに出演している。朝鮮民主主義人民共和国の独裁政治を揶揄するコメディ映画「ザ・インタビュー」(2014年)で、朝鮮労働党第一書記金正恩を演じ、第一書記の描写が侮辱的という理由から、北朝鮮から公開中止を求める抗議を受け、サイバー攻撃やテロ予告の契機となった。ウォルトン・ゴギンズ(ソニー・バーチ、メインヴィラン、武器ディーラー)ウォルトン・ゴギンズ(1971年〜)は、アラバマ州出身のアメリカの俳優。「ボーン・アイデンティティー」(2002年)、「世界最速のインディアン」(2005年)、「リンカーン」(2012年)、「ジャンゴ 繋がれざる者」(2012年)などに出演している。ハナ・ジョン=カーメン(エイヴァ・スター/ゴースト、研究所を狙う謎の女)ハナ・ジョン=カーメン(1989年〜)は、ヨークシャー出身のイギリスの女優。父はナイジェリア人の法医学心理学者、母親はノルウェー人の元ファッションモデル。2011年にテレビゲームの声優でプロのキャリアめ、その後、テレビシリーズに出演する。「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年)などに出演している。ローレンス・フィッシュバーン(ビル・フォスター、バークレー大教授、昔のピムの仲間)ローレンス・フィッシュバーン(1961年〜)はジョージア州出身のアメリカの俳優。12歳よりソープ・オペラに出演、オフ・ブロードウェイの舞台にも立つ。18歳の時、フランシス・フォード・コッポラの「地獄の黙示録」(1979年)に出演、「TINA ティナ」(1993年)でアカデミー主演男優賞にノミネートされる。「マトリックス」三部作(1999〜2003年)のモーフィアス役で広く知られる。「ボーイズ'ン・ザ・フッド」(1991年 )、「ボビー・フィッシャーを探して」(1993年)、「ミスティック・リバー」(2003年)、「コンテイジョン」(2011年)、「ジョン・ウィック:チャプター2」(2017年)などに出演している。スタン・リー(車道の老人、目の前で愛車を縮小され「60年代にラリったツケ」とぼやく)スタン・リー(1922〜 2018年)は、アメリカの漫画原作者。1960年代にマーベル・コミックで「スパイダーマン」、「X-メン」などのスーパーヒーロー・コミックの原作を手がけ、業界に変革をもたらす。マーベル・コミックの編集委員、マーベル・メディアの名誉会長、マーベル・コミックの実写映画版の製作総指揮などを歴任。【動画クリップ(YouTube)】サン・フランシスコを舞台にした「ブリット」(1964年)のカーチェイスサン・フランシスコを舞台にしたケン・ブロックのカースタント【撮影地(グーグルマップ)】スコットの家ハンクの家ハンクとホープのラボがあった場所ホープがソニーと取引するラウンジキャシーが通う学校スコットの元妻が住む家ホープが車を縮小させて追手から逃れるつづら折れの坂ソニーがフェリーに乗り込む埠頭スコットが拡大したスーツを置いて逃げるビルハンクとジャネットが家を建てるビーチ 「アントマン&ワスプ」のDVD(Amazon)【関連作品】「アントマン」シリーズのDVD(楽天市場) 「アントマン」(2015年)ポール・ラッドxエヴァンジェリン・リリーxマイケル・ダグラスxミッシェル・ファイファー共演作品のDVD(楽天市場) 「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)ポール・ラッド出演作品のDVD(楽天市場) 「40歳の童貞男」(2005年) 「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」(2007年) 「寝取られ男のラブ♂バカンス」(2008年) 「40男のバージンロード」(2009年) 「ウォールフラワー」(2012年) 「ディス・イズ・ジ・エンド 俺たちハリウッドスターの最凶最期の日」(2013年) 「セルフィッシュ・サマー」(2013年)「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016年)エヴァンジェリン・リリー出演作品のDVD(楽天市場) 「ハート・ロッカー」(2009年)マイケル・ダグラス出演作品のDVD(楽天市場) 「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷 」(1984年) 「危険な情事」(1987年) 「ウォール街」(1987年) 「アメリカン・プレジデント」(1995年)「ワンダー・ボーイズ」(2000年)「トラフィック」(2000年) 「ソリタリー・マン」(2009年) 「エージェント・マロリー」(2012年) 「恋するリベラーチェ」(2013年)ミシェル・ファイファー出演作品のDVD(楽天市場) 「スカーフェイス」(1983年) 「バットマン リターンズ」(1992年) 「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事」(1993年) 「ヘアスプレー」(2007年)マイケル・ペーニャ出演作品のDVD(Amazon) 「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年) 「リンカーン弁護士」(2011年) 「エンド・オブ・ウォッチ」(2012年) 「アメリカン・ハッスル」(2013年) 「オデッセイ」(2015年)ランドール・パーク出演作品のDVD(楽天市場) 「エイミー、エイミー、エイミー! 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2019年05月14日
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「クワイエット・プレイス」(原題:A Quiet Place)は、2018年公開のアメリカのサスペンス・ホラー映画です。ジョン・クラシンスキー監督、エミリー・ブラントら出演で、姿の見えない地球外生命から身を潜め、物音をたてずに密かに生きる家族に迫る恐怖を描いています。ヒロインのエヴリンをエミリー・ブラントが、その夫を彼女の実生活の夫であるジョン・クラシンスキー監督が演じています。第91回アカデミー賞で音響編集賞にノミネートされた作品です。 「クワイエット・プレイス」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ジョン・クラシンスキー脚本:ブライアン・ウッズ/スコット・ベック/ジョン・クラシンスキー原案:ブライアン・ウッズ/スコット・ベック出演:エミリー・ブラント(イヴリン・アボット) ジョン・クラシンスキー(リー・アボット) ミリセント・シモンズ(リーガン・アボット) ノア・ジュープ(マーカス・アボット) ケイド・ウッドワード(ビュー・アボット) レオン・ラッサム(老人) ほか【あらすじ】2020年、宇宙からやって来た地球外生命体が世界中を恐怖に陥れています。生命体は盲目ですが、聴覚が異常に発達しており、それを利用して人間を捕食していました。そんな中、アボット一家は手話を使用して音を立てずに意思疎通を図ることにより逞しく生き延びています。ある日、物資を補充した帰りに長女リーガン(ミリセント・シモンズ)が与えた与えた玩具で末っ子のビュー(ケイド・ウッドワード)が音を立ててしまい、ヒューは生命体に殺されてしまいます。その後、一家は「決して、音を立てない」というルールを守り、手話を使い、裸足で歩き、道には砂を敷き詰め、日々、静寂の中で暮らしながら生き延びています。末弟の死以来、自分を責め続けるリーガンは、両親は弟のマーカス(ノア・ジュープ)をより愛していると感じるようになります、ビューが死んだのはお前のせいじゃない」と父親のリー(ジョン・クラシンスキー)は言い聞かせますが、リーガンは受け入れようとせず、一家の中でより疎外感を強めていきます。ある日、釣りに行くリーがマーカスと同行しようとしたリーガンは、妊娠中の母親イヴリン(エミリー・ブラント)を見ているようにと言われます。水音が声を覆う滝で、リーとマーカスはビューの死とリーガンが抱えている家族への不信感について話し合います。マーカスは「リーガンを愛しているなら、はっきりそう伝えないとダメ」と言います。帰宅する途中、2人は妻を亡くして悲嘆に暮れる老人に遭遇、老人は叫び声を上げ、生命体に殺されます。それは、あたかも妻なき後の孤独な生活を恐れての自殺のようでした。その頃、産気付いたイヴリンは安全な地下室に移動しますが、その途中で誤って音を立ててしまいます・・・。【レビュー・解説】ホラー初挑戦で歴代ホラー映画興行収入トップテン入り、目に見えぬ地球外生命体の恐怖と静寂が館内を包む、子どもたちへの思いを込めたジョン・クラシンスキー監督xエミリー・ブラント夫妻主演のサスペンス・ホラー&ドラマ映画です。ホラー初挑戦で記録的大ヒットの快挙不用意に音をたてると一瞬にして地球外生命体に捕食されてしまうという過酷な環境で必死に生き延びる家族のドラマを描いた作品で、静寂の中に張り詰める緊張感の下、生命体の描写もほとんどなければ、登場人物のセリフもほとんどありません。生命体の概要デザインもポスト・プロダクションまでなされなかったというほど、余分なものを徹底的に削ぎ落とし、シンプルに主題にフォーカスしています。序盤の終わりにはエミリー・ブラントが扮するエヴリンが妊娠していることがわかり、この厳しい環境下で如何に出産するのかに観客の関心が集まります。長編映画の監督が三作目、ホラー映画の監督は初めてというジョン・クラシンスキーが手がけたこのシンプルな低予算映画は、なんと歴代のホラー映画興行収入ランキングのトップテン入りする快挙を成し遂げてしまいました。ホラー映画興行収入ランキングタイトル公開年制作費(万ドル)興行収入(億ドル)IT/イット “それ”が見えたら、終わり。201735007.00アイ・アム・レジェンド2007150005.85ジョーズ197570004.71エクソシスト197312004.41死霊館のシスター201822003.66ハンニバル2001 87003.52クワイエット・プレイス201817003.41死霊館201320003.18死霊館 エンフィールド事件2016 40003.20アナベル 死霊人形の誕生201715003.06The Numbers: All Time Worldwide Box Office for Horror Movies(As of 4/5/2019)他https://www.the-numbers.com/box-office-records/worldwide/all-movies/genres/horrorシンプルな設定に子供への思いを込める実はジョン・クラシンスキーはホラー映画が苦手で、本作出演の打診があった際も断ろうとしたそうですが、二番目の娘が生まれて間もなかった彼は脚本の子供を守ろうとする家族に強く共感、その様子を見た妻のエミリー・ブラントに背中を押され、脚本を書き変え家族要素を強めること自ら監督を務めることを条件に監督・脚本・出演を引き受けて実現したのが本作です。本作がホラー映画初出演となるエミリー・ブラントも、脚本を読むうちに自らの出演を決めたという、夫婦揃っての子供への思いが込められた作品でもあります。エミリー・ブラントの魅力で引っ張る静寂の中に張り詰める緊張感が本作の最大の魅力で、序盤の終わりにはエミリー・ブラントが扮するエヴリンが妊娠していることがわかり、この厳しい環境下で如何に出産するのか、観客の関心を彼女が一身に背負います。イギリス女優らしくこれ見よがしの派手さありませんが、美しいにもかかわらず彼女の一種泥臭く、現実味のあるパフォーマンスには他の女優にはない魅力があります。「メリー・ポピンズ リターンズ」のロブ・マーシャル監督は、「彼女と同じ部屋(現場)で、彼女の演技を見ない限り、彼女がなぜこれほどまでに素晴らしい女優かわからない」と彼女を評していますが、何週間も前から周到に準備していたジョン・クラシンスキー監督は、本作のクライマックスであるバスタブ・シーンをワン・テイクで決めてみせ、余韻で凍りついた現場の雰囲気を「今日のお昼は何にするの?」という一言でさらりと変えてみせるエミリー・ブラントに、ロブ・マーシャル監督のエミリー・ブラント評を実感したといいます。エミリー・ブラントの凄さエミリー・ブラントは「マイ・サマー・オブ・ラブ」(2004年)、「プラダを着た悪魔」(2006年)、「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(2007年)、「サンシャイン・クリーニング」(2009年)など、当初はちょいワル的な助演をやることが多かったのですが、「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(2009年)で正統派の主役を務めます。その後、「アジャストメント」(2011年)や「LOOPER/ルーパー」(2012年)などのSF作品に出るようになり、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014年)、「ボーダーライン」(2015年)では大幅に肉体改造し、アクションに挑戦しています。彼女の演技にはこれ見よがしの派手さはありませんが、女優としてのイメージが固定化しないように様々な役柄に挑戦しながら、確実にステップアップしてきています。「オール・ユー・ニード・イズ・キル」では撮影期間中に妊娠してしまったり、「ボーダーライン」では愚図なFBI捜査官を演じ映画として高い評価を得たももの、制作者との間に映画の狙いにずれがあり「オッパイがいうことを聞かない」とヌードを辞退したり、観客にはヒロインがスマートではないという批判を浴びるなど、それなりの困難に突き当たっていますが、それを表に出さない彼女にはイギリス人女優の芯の強さを感じます。不評もあって彼女は「ボーダーライン」の続編には出演しなかったのですが、作品そのものの評価がガタ落ちになったのは実に興味深いところです。最近ではミュージカル・ファンタジー「メリー・ポピンズ リターンズ」(2018年)に出演していますが、このようにこれまでとは違った傾向の作品に出演してそれを確実にものにするのは大変なことで、本作も彼女初のホラー映画であり大きなジャンプなのですが、それを感じさせないのが彼女の凄いところです。厳しい環境下で子供を産み育てるということ本作の厳しい環境下で子供を生むという設定に、太古の時代は地球外生命体ならずとも地上の天敵に襲われる危険に晒されながら人間は子供を産み育てていたんだろうなとか、 今でも紛争地域では危険に晒されながら子供を産み育てているに違いないとか、漠然と考えながら観ていましたが、後に、音を出せない世界に泣かずにはいられない赤ちゃんを生むとはなにごと地球外生命体が支配する世界に生まれる赤ちゃんは不幸といった批判があることが知り、驚いてしまいました。末子を失った痛手から立ち直るかのように新たな子を設けたようでもありますが、本作は子を守る親の責任は描いているものの、困難な環境で子を持つこと自体の是非には触れていません。感じ方、考え方、いろいろですが、どんなに厳しくとも赤ちゃんを守るというのではなく、厳しいから赤ちゃんを持たないというのは、本末転倒のような気もします。第二次世界大戦時の沖縄で、敵兵に見つからないようにと、兵士が塹壕の中で泣く赤ちゃんに手をかけたという悲しい話があります。そこまで極端ではないにせよ、「子どもの声がうるさい」という地域住民の声で保育園の建設を断念などという昨今の話を聞くと、子どもたちの声を聞いてその芽をつんでしまう地球外生命体は、実は我々の中にいるのかもしれないと思ってしまいます。興行成績的には大成功した本作ですが、静寂の中、息を飲んで鑑賞する為、観客がポップコーンなど食べれる雰囲気でなく、大きな収入源である館内販売の売上が伸びずに映画館は痛し痒しだったそうです。続編に意欲を燃やしていたジョン・クラシンスキー監督は既に脚本に取りかかっていましたが、来年5月公開の予定で監督に決まったようで、エミリー・ブラントも出演するようです。これを機会に音が出ないお菓子が開発されれば、映画館はよりハッピーかもしれません。エミリー・ブラント(イヴリン・アボット)エミリー・ブラント(1983年〜)は、ロンドン出身のイギリスの女優。父は弁護士、母は元女優で演劇講師。10歳から吃音症に悩み、12歳の頃には話すのを諦めるほどだったが、北部訛りで話すことにより克服。「もっと誰か他の人を演じてみたい」と、女優の道に進む。2001年に舞台、2003年に映画にデビュー、「マイ・サマー・オブ・ラブ」(2004年)でいくつかの賞を受賞、「プラダを着た悪魔」(2006年)でハリウッド進出、「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(2007年)、「サンシャイン・クリーニング」(2009年)頃までは、ちょいワル的な助演が多かった。「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(2009年)で正統派の主役を務め、その後、「アジャストメント」(2011年)や「LOOPER/ルーパー」(2012年)などのSFに出演、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014年)、「ボーダーライン」(2015年)では肉体改造し、アクションに挑戦、本作ではホラー映画に、「メリー・ポピンズ リターンズ」(2018年)ではミュージカル・ファンタジーに挑戦している。本作で夫役を演じるジョン・クラシンスキー監督は、実生活の夫。妹のフェリシティはスタンリー・トゥッチと結婚している。ジョン・クラシンスキー(リー・アボット)ジョン・クラシンスキー(1979年〜)は、ボストン出身のアメリカの俳優、映画監督。イギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニーや国立劇場研究所で演技を学ぶ。2005年、テレビシリーズで人気を得、2009年に映画監督デビュー。「愛についてのキンゼイ・レポート」(2004年)、「ドリームガールズ」(2006年)、「だれもがクジラを愛してる。」(2012年)、「デトロイト」(2017年)などに出演している。本作で妻役を演じるエミリー・ブラントは、実生活の妻。ミリセント・シモンズ(リーガン・アボット)ミリセント・シモンズ(2002/2003年〜)は、聴覚障害のある女優。本作および「ワンダーストラック」(2017年)で知られる。聴覚障害は1歳の頃の薬物過剰投与が原因で、後天的なもの。アメリカ手話を学んだ家族の中で育つ。人工内耳を着用している。ノア・ジュープ(マーカス・アボット)ノア・ジュープ(2005年〜)は、イギリスの俳優。「ナチス第三の男」(2017年)で映画デビュー、「サバービコン 仮面を被った街」(2017年)、「ワンダー 君は太陽」(2017年)及び本作への出演で知られる。ケイド・ウッドワード(ビュー・アボット)ケイド・ウッドワード(2011年〜)はアメリカの俳優。本作及び「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)への出演で知られる。【撮影地(YouTube)】冒頭のゴーストタウンアボット一家が渡る橋アボット一家の家 「クワイエット・プレイス」のDVD(楽天市場)【関連作品】ジョン・クラシンスキー x エミリー・ブラント共演作品のDVD(楽天市場) 「ザ・マペッツ」(2011年)・・・カメオジョン・クラシンスキー出演作品のDVD(楽天市場) 「愛についてのキンゼイ・レポート」(2004年) 「ドリームガールズ」(2006年) 「だれもがクジラを愛してる。」(2012年) 「デトロイト」(2017年)エミリー・ブラントの出演作品のDVD(楽天市場) 「マイ・サマー・オブ・ラブ」(2004年) 「プラダを着た悪魔」(2006年) 「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(2007年) 「サンシャイン・クリーニング」(2009年) 「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(2009年) 「ラブ・トライアングル」(2011年) 「LOOPER/ルーパー」(2012年) 「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014年) 「メリー・ポピンズ リターンズ」(2018年)
2019年05月05日
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「クレイジー・リッチ!」(原題:Crazy Rich Asians、中題:摘金奇緣)は、2018年公開のアメリカのロマンティック・コメディ映画です。ケヴィン・クワンが2013年に発表した小説「クレイジー・リッチ・アジアンズ」を原作に、ジョン・M・チュウ監督、コンスタンス・ウー、ヘンリー・ゴールディングら出演で、貧しいシングルマザーの家庭で育った中国系アメリカ人の女性がシンガポールにある超リッチな恋人の実家を訪問、超セレブなお嬢様方の厳しい視線に晒され、彼氏の母親のダメ出しに打ちのめされながらも必死に戦う姿を描いています。主要キャストをアジア系の俳優で固め、過去10年のロマンティック・コメディで最大の興行収入を記録した、異色ヒット作です。 「クレイジー・リッチ!」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ジョン・M・チュウ脚本:ピーター・チアレッリ/アデル・リム原作:ケヴィン・クワン「クレイジー・リッチ・アジアンズ」出演:コンスタンス・ウー(レイチェル・チュウ、中華系アメリカ人、ニューヨーク大学の教授) ヘンリー・ゴールディング(ニック・ヤン、レイチェルの恋人、シンガポール出身) 陳瓊華(ケリー・チュウ、レイチェルのシングル・マザー、中国からの移民) ミシェル・ヨー(エレノア・スン=ヤン、ニックの母、レイチェルに認めようとしない) ジェンマ・チャン(アストリッド・レオン=テオ、ニックのいとこ、美しい超セレブ) リサ・ルー(シャン・スー・イー、ニックの裕福な祖母、エレノアを認めない) ジャニス・コー(フェリシティ・ヤン、アストリッドの母、スー・イーの長女) セレーナ・タン(アレクサンドラ・ヤン(アリックス)、スー・イーの末娘) ロニー・チェン(エディ・チェン、ニックのいとこ) ヴィクトリア・ローク(フィオナ・タン=チェン、エディの妻) レミー・ハイ(アリステア・チェン、エディの兄弟、映画プロデューサー) フィオナ・シェー(キティ・ポン、エディの愛人、女優、玉の輿を狙う) ニコ・サントス(オリヴァー、ニックのいとこ、ヤン家のお使い) オークワフィナ(ゴー・ペク・リン、レイチェルの親友、シンガポール在住) ケン・チョン(ゴー・ワイ・ムン、ゴー・ペク・リンの父、シンガポールの金持ち) コー・チェン・ムン(ニーナ、ゴー・ペク・リンの母) クリス・パン(コリン・コー、ニックの親友、アラミンタの婚約者) ソノヤ・ミズノ(アラミンタ・リー、コリンの婚約者、有名なセレブの娘、元モデル) ジン・ルージ(アマンダ・リン(マンディ)、ニックの元カノ、レイチェルに嫉妬) ジミー・O・ヤン(バーナード・タイ、ニックとコリンの同級生) カーメン・スー(フランチェスカ・ショー、ショー一族のファミリー企業の相続人) ピエール・プン(マイケル・テオ、アストリッドの夫、元陸軍兵士から起業) ハリー・シャム・ジュニア(チャーリー・ウー、アストリッドの元婚約者、IT長者) ジン・ルージ(アマンダ・リン(マンディ)、ニックの元カノ、レイチェルに嫉妬) ほか【あらすじ】ニューヨークで生まれ育った中国系アメリカ人のレイチェル(コンスタンス・ウー)は、親友の結婚式に出席するシンガポール出身の恋人ニック(ヘンリー・ゴールディング)に誘われて彼の故郷を訪れます。初めてのアジア旅行にわくわくする一方で、これまでニックが家族の話題を避けているように感じていた彼女は、彼の家族と対面することに緊張します。出発の日、空港でファースト・クラスに案内され驚くレイチェルは、実はニックがアジア屈指の不動産王の御曹司であることを知ります。ニックの恋人として突然、セレブの世界へと足を踏み入れたレイチェルは、ニックに憧れる社交界のお嬢様たちから嫉妬の眼差しで迎えられます。ニックの母や家族、親戚には金目当ての交際と思われ、元カノや社交界の嫉妬深いセレブのお嬢様たちは二人の仲を引き裂こうとします。二人の交際を良く思わないニックの母エレノア、家族、親戚に包囲されたレイチェルとニックはなんとか説得しようとしますが、セレブ一族の壁が二人の前に立ちはだかります・・・。【レビュー・解説】ロマンティック・コメディの定石を踏襲、メインキャストをアジア系で固め、誰もが知りたい大金持ちの実態、旅行、ファッション、グルメを織り込みながら、テンポ良いストーリー展開とアジアン・テイストのサウンドトラックに乗って周到に仕掛けられた型破りなクライマックスへと導く画期的な大ヒット作です。ロマンティック・コメディ復活の兆し欧米で公開される従来型のロマンティック・コメディが、年々、減少しつつあると言われています。ワンパターンになりがちなジャンル映画が敬遠される傾向にあるのがその理由らしいのですが、女性の社会進出が拡大、社会的な役割が重要になる中、ロマンスだけに依存するコメディが成立しにくくなっている様でもあります。そんな中、「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」(2017年)「好きだった君へのラブレター」(2018年)「Love, サイモン 17歳の告白 」(2018年)とロマンティック・コメディの定石を踏襲したヒット作が続いています。これらは、異人種カップルの宗教・文化・家族や同性愛者などのマイノリティを魅力的なキャスティングで奥行きのある描写をしたものですが、このようにロマンティック・コメディのフォーマットがまだまだ通用するのは嬉しい限りです。本作が大ヒットした要因同じようにロマンティック・コメディの定石を踏襲する本作も、これは面白いと強く実感できる作品に仕上がっており、ここ10年のアメリカのロマンティック・コメディで最大の興行成績を記録するの大ヒット作品です。使い古された観さえある古い定石を踏襲しながら大ヒットした要因は、誰もが知りたい大金持ちの実態原作小説のヒットをテコに映画化に必要な予算を十分に確保差別的と批判されるハリウッドを尻目にアジア系で固めた大胆なキャスティング旅行、ファッション、グルメを織り込み、観客を退屈させない展開舞台、題材にフィットした、豊かで深みのあるカラー・スキームテンポ良いストーリー展開と歯切れ良いアジアン・テイストのサウンドトラック周到に仕掛けられた、ダイナミックなクライマックスといった、総合的なレベルの高さにあります。誰もが知りたい大金持ちの実態原作「クレイジー・リッチ・アジアン」の著者ケヴィン・クワンは、曽祖父がシンガポールの三大地場銀行のひとつである華僑銀行の開祖という名門一族の出身で、11歳の時に両親とともにシンガポールからアメリカに移住した中国系アメリカ人です。後年、彼の父がガンになり、病院への送り迎えする際に父と話し合ったシンガポール時代の思い出を題材に彼は詩を書き、その詩を基にカレッジの創作文コースで「シンガポール聖書研究会」という短編を書きます。勉強会を大義名分にゴシップや新しい宝石のお披露目に明け暮れるセレブたちを風刺するこの短編を書くうちに、さらにこの短編をひとつの章にする小説に書くことを思いたち、実現したのが本作の原作小説「クレイジー・リッチ・アジアン」です。誰もが大金持ちの実態を知りたいのでしょう、この小説はアメリカはたちまちベストセラーになり、11ヶ国語に翻訳されるヒット作になりました。かくして、本作にはニックの親戚や友人など数多くの金持ちキャラやエピソードが描かれています。教会に中に水田を演出した「クレイジー・リッチ」な結婚式原作小説のヒットをテコに十分な予算確保衰退しつつあるロマンティック・コメディで予算を確保するのは至難の業です。もちろんのお金がすべてではありませんが、お金がなければできることが非常に限られてしまいます。ディズニー映画の「魔法にかけられて」(2007年)は別格ですが、本作は最近のロマンディック・コメディの中で最大級の予算を確保しています。これは原作小説の実績や知名度が大きく貢献したもので、本作の海外ロケ、豪華な大道具・小道具などを可能にしています。ロマンティック・コメディの制作費と興行収入 タイトル公開年原作制作費万ドル興行収入万ドルアメリ2001ー 100017400マーサの幸せレシピ2001ー ?1000猟奇的な彼女2001 小説 ?3200無ケーカクの命中男/ノックトアップ2007ー300021900魔法にかけられて2007ー850026700(500)日のサマー2009 ー 8005900ミッドナイト・イン・パリ2011ー 170014900世界にひとつのプレイブック2012小説210015900おとなの恋には嘘がある 2013ー ?2400キャラメル 2015ー1501400ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ2017 ー 5005400好きだった君へのラブレター2018小説 ?NetflixLove, サイモン 17歳の告白 2018 小説17005700クレイジー・リッチ!2018 小説300023900差別的と批判されるハリウッドを尻目にアジア系で固めた大胆なキャスティング本作の映画化に当たりネットフリックスが破格の予算を提示しましたが、ホワイト・ウォッシュ(白漆喰を塗って見た目を白くすること、転じて映像媒体で人物の肌色を明るめに調整すること、映画で本来非白人の登場人物を白人俳優が演じること)が条件だった為、原作者のケヴィン・クワンはこれを丁重に辞退します。小説でそれなりの報酬を得ていた彼は、映画化に当たり自身の利益よりも原作に忠実な内容とキャスティングを優先したいと考えました。映画化権の報酬を1ドルに設定し、代わりにエグゼクティブ・プロデューサーとして本作の構想やキャスティングを含む製作全体を自身の管理下におくことを選択したのです。一般に制作者がホワイト・ウォッシュするのは、マイノリティを主役にすることにより共感層が狭まり低収益になることを危惧する為です。逆に言えば本作はそうしたリスクを冒しているわけです。過去、アジア系のキャスト・キャラクターを積極的に起用して成功したアメリカ映画には、ウェイン・ワン監督「ジョイラック・クラブ」(1993年)アン・リー監督「ウェディング・バンケット」(1993年、米台合作)ディズニー・アニメ映画「ムーラン」(1998年)アン・リー監督「グリーン・デスティニー」(2000年、米中台香港合作)ジャスティン・リン監督「Better Luck Tomorrow」(2002年、日本未公開)アリス・ウー監督「素顔の私を見つめて」(2004年)クリント・イーストウッド監督「硫黄島からの手紙」(2006年)ミーラー・ナーイル監督「その名にちなんで」(2007年、米印合作)アン・リー監督「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」(2012年)ディズニー・アニメ映画「モアナと伝説の海」(2016年トラヴィス・ナイト監督「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」(2016年)ウェス・アンダーソン監督「犬ヶ島」(2018年)などがありますが、それなりの覚悟と国際的なセンスが必要であることが伺われます。それを衰退気味のロマンティック・コメディのジャンルでやるわけですから、本作は二重の困難を背負っていたことになります。ケヴィン・クワンの要求を飲んで柔軟に対応したワーナー・ブラザーズ、映画としてしっかりとまとめ上げたジョン・M・チュウ監督、はまり役で遅咲きの成功を手にしたコンスタンス・ウーを始め、ミシェル・ヨー、ジェンマ・チャン、オークワフィナ、ソノヤ・ミズノら、光るパフォーマンスを見せた女優陣など、本作の成功に貢献した人々は多いのですが、エグゼクティブ・プロデューサーを買って出たケヴィン・クワンなくして、本作の成功がなかったことは間違いないでしょう。ほぼ全員がアジア系という大胆なキャスティング旅行、ファッション、グルメを織り込み、観客を退屈させない展開本作を観て、エリザベス・ギルバートの回顧録を映画化したジュリア・ロバーツ主演の「食べて、祈って、恋をして」(2010年)を思い出したました。この作品には、イタリア、インド、インドネシアの旅行やグルメのシーンが出てきて、それだけでかなり楽しめてしまいますが、本作も同様、シンガポールを舞台に、豪奢なファッション、食欲をそそるグルメ、贅を尽くした結婚式、常識を超えるパーティなど、魅力的な要素がたっぷりと織り込まれています。人気の観光地シンガポールが舞台バラエティに富んだセレブのファッションシンガポール名物のフードコート「華麗なるギャツビー」(2013年)を思い起こさせる大規模なパーティ舞台、題材にフィットした、豊かで深みのあるカラー・スキームもうひとつ見逃せないのがカラー・スキームです。例えば「ラ・ラ・ランド」(2016年)と比較してみると、本作のカラー・スキームの特徴がよく分かります。熱帯であるシンガポールの緑を取り込んだ中間色を基調に、水分を感じさせる生き生きとした、豊かさで深みのあるカラー・スキームで、モノトーンを基調に色相を回しながら人工的、幻想的な世界を演出する「ラ・ラ・ランド」とは対照的です。豊かで深みのあるカラー・スキーム因みに本作を担当したのは「オデッセイ」(2015年)などを手がけたステファン・ナカムラという、アジア系アメリカ人(恐らくは日系)のカラリストです。ステファン・ナカムラ(カラリスト)テンポ良いストーリー展開と歯切れ良いアジアン・テイストのサウンドトラック約二時間の上映時間に、ニックの家族や親戚、友人たちのバラエティに富んだリッチぶりがてんこ盛りですが、ストーリーはテンポよく展開します。中国の伝統的な歌をスウィング・ジャズで演奏したり、アメリカのスタンダード・ナンバーやロックをアジアのアーティストたちがカバーする、歯切れの良いアジアン・テイストのサウンドトラックも魅力です。本作最大の見せ場であるコリンとアラミンタの結婚式では、日系アメリカ人のキナ・グラニスがカバーするエルヴィス・プレスリーの「愛さずにはいられない」が流れ、ストーリーの展開と相まって感涙モノです。また、オープニングからテンポ良く流れるヒットナンバーの「Money」は、若手のアジアン歌手シェリル・Kがカバーしたもので、エンド・クレジットではレイチェルの親友ペク・リンを演じたラッパーのオークワフィナのオリジナル・ラップを加えるという大サービス付きです。アラミンタの結婚式でキナ・グラニスが歌うプレスリーの「愛さずにはいられない」周到に仕掛けられた、ダイナミックなクライマックス私事で恐縮ですが、アメリカからの帰国子女の方から、アイデンティティに関する悩みを伺ったことがあります。それは、「日本人と一緒にいても、アメリカ人と一緒にいても、私とは違うと感じてしまう。同じ境遇の人(帰国子女)と一緒にいる時が、唯一安心できる時。」という、厄介な問題です。原作のレイチェルは実は退屈なキャラクターでしたが、ジョン・M・チュウ監督はレイチェルのアイデンティに注目しました。原作で最も心を掴まれたのは、レイチェル・チュウの話でした。彼女はこの本の中でも最も退屈なキャラクターですが、私の中ではアジア系アメリカ人が初めてアジアに行くという、とてもパーソナルな話に感じられたのです。それがどんな感じなのか、私にはわかります。どこの出身であろうと、最初に故国を訪れる者は誰でも暖かさを感じます、「食堂に入った時も、店に入った時も、彼らは息子のように接してくれた」と。しかし、そのうちに「これは自分じゃない、彼らは私を違った目で見ている」と感じるようになり、家に帰った自分は今までの自分との二者択一を迫られるのです。私はレイチェル・チャウに注目しました。これは彼女が男を見つける話ではありません。彼女が自身に価値を見い出す話なんです。いつも言うんです、彼女の中にドラゴンが生まれたってね。彼女は単なる肉体以上の存在になるんです。(ジョン・M・チュウ監督)https://www.slashfilm.com/jon-m-chu-interview-crazy-rich-asians/<ネタバレ>エンディングでは、レイチェルは原作とは異なった行動をとります。私立探偵を使ってレイチェルの過去を調べたニックの母エレノアは、レイチェルが不倫の子であることを隠していたとし、そんな家族とは縁を結べないとダメ出しします。自らの出生の秘密を知らなかったレイチェルは打ちのめされ、こちらこそ願い下げよと言って踵を返します。親友のゴー・ペク・リンの家でショックのあまり寝込んだレイチェルの元に、レイチェルの母がニックに呼ばれてアメリカから駆けつけます。レイチェルは、アメリカに帰る前に、一度、ニックに会うよう母に諭されます。母、家族と決別することを覚悟したニックはレイチェルにプロポーズしますが、レイチェルはこれを断り、ニックの母エレノアに麻雀の勝負を挑みます。レイチェル:私は最初から嫌われていた。何故です?エレノア:福建語で言う「カギラン」、同じ人種の意味。あなたは違う。レイチェル:資産?イギリスの寄宿学校?家が貧乏なこと?エレノア:外国人よ。アメリカ人は自分の幸せしか考えない。レイチェル:ニックに幸せになって欲しくないの?エレノア:幸せは幻想、私達は長く残るものを築く。貴女はわからない。レイチェル:あなたは私を知らない。エレノア:ニックにふさわしくないということはわかるわ。レイチェル:昨日、ニックに求婚されたわ、家族を捨てると。ご心配なく、断りましたから。エレノア:勝てる牌を捨てるのは馬鹿のすることよ。レイチェル:勝ちのないゲームよ、あなたがそうしたの。ニックが私を選べば、彼は家族を失う。家族を選んでも、生涯あなたを恨む。レイチェルが切った牌に当たり、エレノアが勝負に勝つ。エレノア:だから、ニックに選ばさせずにあなたが選んだ。レイチェル:それは怖いからでも、自分が足りないからでもない。ただ、生まれて初めて思ったの、「これが私だ」って。ニックを愛しているから、彼に再び母親を失わせたくない。だから覚えていてください。いつか、あなたが認める女性と彼が結婚した時、月下美人の咲く夜に小鳥がさえずり、あなたが孫と遊べたとしたら、それは私のおかげです。貧しい、シングルマザーに育てられた、下層階級の名もない移民のおかげだと。レイチェルは手の内を明かして立ち上がり、雀卓を後にする。レイチェルは自分の上がり牌を切っていたことを知り、エレノアが驚く。このシーンはとてもいろいろな意味で凄いシーンです。麻雀は中国伝統のゲームで、レイチェルがエレノアとの対決の場所に雀荘を選んだことは、レイチェルが単なるアメリカ人ではなく、中国系であることを強く示唆している。レイチェルとエレノアの確執を、麻雀が同時進行で象徴する。このシーンの為に専門家を雇い、二人の手にいろいろな意味が込められているが、最も重要なのはレイチェルが上がり牌を捨て、エレノアがその牌で勝ったこと。上がり牌はニックであり、勝負はレイチェルがニックのプロポーズを断り、エレノアの元に返したことを象徴している。ニックが家族と幸せに暮らせるように身を引くというレイチェルの考え方は、家の為に自分を犠牲にしてきたというエレノアの考え方に通ずる。レイチェルは「自分の幸せしか考えないアメリカ人」ではないと、エレノアは認めざるを得なくなる。一般にこうした自己犠牲はアメリカでは受けの悪い考え方である。しかし、自分の中に中国系である自分を見出したレイチェルが、男性にすがらずにそうした自分自身であることを選ぶこと、即ちロマンスに依存しない女性の生き方を選ぶことは、逆にアメリカ的で支持されるものである。レイチェルが男性よりも自分自身であることを選ぶこと、ロマンスに依存しない生き方を選ぶことは、従来のロマンティック・コメディの枠をはみ出すダイナミックな展開である(最終的にはハッピーエンドになり、ロマンティック・コメディの枠組みに収まる)この作品は、ロマンティック・コメディの伝統的な定石を踏襲し、しかも中国系アメリカ人の大勝利という、いかにもアメリカンな映画という見方もできますが、いずれにせよ、とても良くできた、楽しめる作品であることは間違いありません。<ネタバレ終わり> タイトルから「アジアンズ」が消えた怪本作オリジナルのタイトル、原作本のタイトル、和訳本のタイトル、いずれも「クレイジー・リッチ・アジアンズ」ですが、どういうわけか、映画の邦題からは「アジアンズ」が消えています。日本だけではなく、ドイツ、イタリアでも、映画のタイトルから「アジアンズ」が消えています。これは、「クレイジー・リッチ・アジアンズ」だと、アメリカ映画ではなくアジア映画と勘違いされて観客が減ると、各地のワーナーブラザーズの子会社が判断した為の様です。さらにアジア色の薄い背景のポスターを選択した日本とドイツでは、肌の色を薄くしているのではないかとの指摘もあります。独自の邦題が採用されるのは日常茶飯事ですが、これは意外に根が深い問題のようにも思えます。 オリジナル版日本語版ドイツ語版イタリア語版 書籍映画Asians を削除Asians を削除Asians を削除ワーナー・ブラザーズの各国の子会社を責めるのは容易ですが、真の問題は各国の国民にあるわけで、子会社はそれを反映しているに過ぎないと捉えることもできます。差別はアメリカの問題であって、日本には差別がないと感じている日本人が多いのだとか。確かにホワイトウォッシュなどの問題が顕在するのは常にアメリカで、日本で顕在化することはまずありません。しかし、人々に潜む差別心となるとその限りではありません。常に火種を抱えているアメリカでは人々は問題を自覚し解決策を模索する一方で、肌に色にかかわらず良いものは良いと称賛するメンタリティを持っています。一方、日本人は自らに潜む差別心や、白人の映画は面白いが非白人の映画は面白くないといった偏見を持っていることさえ自覚していないので、解決に向けて一歩を踏み出すことができません。個々の事案の是非はともかくとして、そうした自覚だけは持っておいた方が良いのではないかと思います。コンスタンス・ウー(レイチェル・チュウ、中国系アメリカ人、若手の大学教授) コンスタンス・ウー(1982年〜)は、アメリカの女優。主にテレビドラマで活躍していたが、本作で大きな称賛を浴び、ゴールデングローブ賞最優秀女優賞(コメディ・ミュージカル部門)にノミネートされた、史上4人目のアジア系の女性となった。ヘンリー・ゴールディング(ニック・ヤン、レイチェルの恋人、シンガポール出身)ヘンリー・ゴールディング(1987年〜)はイギリス系マレーシア人の俳優、モデル、テレビ司会者。映画初出演の本作と「シンプル・フェイバー」(2018年)で、一躍世界に知られるようになる。陳瓊華(ケリー・チュウ、レイチェルのシングル・マザー、中国からの移民)陳瓊華(1963年〜)はシンガポールの女優。テレビ、映画の両方で活動している。ミシェル・ヨー(エレノア・スン=ヤン、ニックの母、レイチェルを認めない)ミシェル・ヨー(1962年〜)は、香港、ハリウッドで活躍する女優。中国系マレーシア人で、ミス・マレーシアに選ばれたことがある。1984年に映画デビュー、一旦、女優を引退したが、「ポリス・ストーリー3」で復帰する。「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」(1997年)で中国情報部員役のボンドガールを務め、ハリウッドに進出する。ジェンマ・チャン(アストリッド・レオン=テオ、ニックのいとこ、美しい超セレブ)ジェンマ・チャン(1982年〜)は、イギリスの映画、テレビ、劇場で活動する女優で、元ファッション・モデル。2009年に映画デビュー、「エージェント:ライアン」(2014年)、「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」(2016年)、「キャプテン・マーベル」(2019年)などに出演している。リサ・ルー(シャン・スー・イー、ニックの裕福な祖母、エレノアを認めない)リサ・ルー(1927年〜)は、中国出身のアメリカの女優。本作同様、アジア系の俳優で固めた「ジョイ・ラック・クラブ」(1993年)にも出演している。オークワフィナ(ゴー・ペク・リン、レイチェルの親友、シンガポール出身)オークワフィナ(1988年〜)は、アメリカ人の女優、ラッパー。父親が中国系アメリカ人、母親が韓国系アメリカ人のアジア系アメリカ人。13歳のときにラップを始め、2012年にミュージックビデオ「My Vag」のをYouTubeに投稿し注目を集め、2014年にアルバム「Yellow Ranger」を発売。アーティスト名の Awkwafina は、Awkward と fine を組み合わせた造語で、「私は不器用だけど気にしない」という意味が込められている。本作のほか、「オーシャンズ8」(2017年)にも出演している。ケン・チョン(ゴー・ワイ・ムン、ゴー・ペク・リンの父、シンガポールの金持ち)ケン・チョン(1969年〜)は、アメリのコメディアン、俳優、医師。韓国系アメリカ人。大学卒業後、医師として働いていたが、スタンダップコメディアンとしてステージに立ち始めて頭角を現す。ロサンゼルスへ移ったチョンは、テレビ・映画デビューも果たし、セス・ローゲンなどの人気コメディアンらと共演、「ハングオーバー!!」シリーズなど、数々のコメディ映画で活躍している。クリス・パン(コリン・コー、ニックの親友、アラミンタの婚約者)クリス・パン(1984年〜)は、オーストラリアの俳優、プロデューサー。中国系。ソノヤ・ミズノ(アラミンタ・リー、コリンの婚約者、有名なセレブの娘、元モデル)ソノヤ・ミズノ(1986年〜)は日系イギリス人の女優、モデル、バレリーナ。父が日本人、母がイギリス人で、東京生まれのイギリス育ち。「エクス・マキナ」(2015年)、「ハートビート」(2016年)、「ラ・ラ・ランド」(2016年)、「アナイアレイション -全滅領域-」(2018年)などに出演している。【サウンドトラック】 「クレイジー・リッチ!」サウンドトラックCD(楽天市場) 輸入盤1. Waiting for Your Return - Jasmine Chen 2. Money (That's What I Want) - Cheryl K 3. Wo Yao Ni De Ai (I Want Your Love - I Want You to Be My Baby) - Grace Chang 4. My New Swag - Vava - (featuring Nina Wang/Ty) 5. Give Me a Kiss - Jasmine Chen 6. Ren Sheng Jiu Shi Xi - Yao Lee 7. Ni Dong Bu Dong (Do You Understand) - Lilan Chen 8. Wo yao Fei Shang Qing Tian - Grace Changv 9. Material Girl (200 Du) - Sally Yeh 10. Can't Help Falling in Love - Kina Grannis 11. Wo Yao Ni De Ai (I Want Your Love - I Want You to Be My Baby) - Jasmine Chen 12. Yellow - Katherine Ho 13. Vote - Miguel 14. Money (That's What I Want) - Cheryl K - (featuring Awkwafina)【撮影地(グーグルマップ)】シンガポール・チャンギ国際空港レイチェルらが招待されるフードコートニュートン・フード・センターレイチェルが宿泊するホテルラッフルズ・ホテル・シンガポールニックの祖母の屋敷カルコサ・スリ・ネガラ(旧迎賓館・ホテル跡で撮影)アラミンタのバチェロレッテ・パーティが開かれるリゾートフォーシーズンズ・リゾート・ランカウイレイチェルがゴー・ペク・リンと会うチャイナ・タウンコリンとアラミンタが結婚式を挙げる教会チャイムス(複合施設)コリンとアラミンタの結婚披露パーティ会場ガーデンズ・バイ・ザ・ベイレイチェルとコリンが話し合う水辺の公園マーライオン公園雀荘に向かうエレノアが横切る通りレイチェルとエレノアが対局する雀荘チョン・ファッ・ツィー・マンション(ホテルで撮影)エンディング・シーンマリーナ・ベイ・サンズ・ホテル 「クレイジー・リッチ!」のDVD(楽天市場)【関連作品】「クレイジー・リッチ!」の原作本(楽天市場) ケビン・クワン著「クレイジー・リッチ・アジアンズ」(上) ケビン・クワン著「クレイジー・リッチ・アジアンズ」(下)アジア系俳優/キャラクターが積極的に起用されたアメリカ映画のDVD(楽天市場) 「ジョイラック・クラブ」(1993年) 「ウェディング・バンケット」(1993年、米台合作) 「ムーラン」(1998年) 「グリーン・デスティニー」(2000年、米中台香港合作) 「Better Luck Tomorrow」(2002年、日本未公開)輸入盤、日本語なし 「素顔の私を見つめて」(2004年) 「硫黄島からの手紙」(2006年) 「その名にちなんで」(2007年、米印合作) 「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」(2012年) 「モアナと伝説の海」(2016年) 「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」(2016年) 「犬ヶ島」(2018年)
2019年05月01日
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「ファントム・スレッド」(原題:Phantom Thread)は、2017年公開のアメリカのドラマ映画です。ポール・トーマス・アンダーソン監督・脚本、ダニエル・デイ=ルイス、レスリー・マンヴィルら出演で、1950年代のイギリスを舞台に著名なオートクチュールの仕立て屋と若いウェイトレスとの愛をゴシック・ロマンス(18世紀末に流行した、古い城や大きな屋敷を舞台にした神秘的、幻想的小説)風に描いています。第90回アカデミー賞で、作品、監督、主演男優、助演女優、衣装デザイン、作曲の6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した作品です。 「ファントム・スレッド」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ポール・トーマス・アンダーソン脚本:ポール・トーマス・アンダーソン出演:ダニエル・デイ=ルイス(レイノルズ・ウッドコック) ヴィッキー・クリープス(アルマ・エルソン) レスリー・マンヴィル(シリル・ウッドコック) カミーラ・ラザフォード(ジョアンナ) ジーナ・マッキー(ヘンリエッタ・ハーディング伯爵夫人) ブライアン・グリーソン(ドクター・ロバート・ハーディ) ハリエット・サンソム・ハリス(バーバラ・ローズ) ルイザ・リヒター(モナ・ブラガンザ王女) ジュリア・デイヴィス(レディ・ボルティモア) ニコラス・マンダー(ロード・ボルティモア) フィリップ・フランクス(ピーター・マーティン) フィリス・マクマホン(ティッピー) サイラス・カーソン(ルビオ・ゲレロ) リチャード・グレアム(ジョージ・ライリー) マーティン・ドゥー(ジョン・エヴァンス) イアン・ハロッズ(戸籍係) ジェーン・ペリー(ミセス・ヴォーン) ほか【あらすじ】1950年代のロンドン。オートクチュールの仕立屋レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)は、英国ファッションの中心的存在として社交界から注目されています。ある日、レイノルズは若いウェイトレス、アルマ(ヴィッキー・クリープス)と出会い、恋に落ちます。レイノルズはアルマをミューズとして迎え入れ、魅力的な美の世界に誘います。幸せそうな二人でしたが、数々の女性のドレスを仕立て、多くの女性の心や体に触れてきたレイノルズが未婚であることに、アルマは疑問を抱きます・・・。【レビュー・解説】サスペンス、ホラー、コメディの要素が入念に織り込まれ、本作を最後に俳優からの引退を発表したダニエル・デイ=ルイスの卓越したパフォーマンス、1950年代のロンドンのドレス・ファッション、ジョニー・グリーンウッドの甘いサウンドトラックで紡がれた、ゴッシック・ロマンス風のドラマ映画です。引退するダニエル・デイ=ルイスの卓越した演技が紡ぐゴシック・ロマンス観る者の心を掴む見事な導入冒頭、暖かなロウソクの光の中で女がある男について語るシーンが流れます、画面が一転、美しい音楽を背景にロンドンの高級なタウンハウスにあるドレス・メーカーの朝が映し出されます。仕立て屋の男レイノルズとドレス・メーカーを仕切る姉シリル、お針子たち、レイノルズのパートナーと思しき女が登場します。やがて、ドレスの完成を待ちわびていた伯爵夫人が訪れ、「美しい、時間をかけた甲斐があった、ドレスに勇気づけられる」と熱く謝辞を述べます。弟と愛人の朝のやり取りを聞き潮時と感じた姉シリルは、夜に二人で食事をする際に愛人に手切れのドレスを渡すことを提案、レイノルズはこれを了承します。亡き母の気配を身近に感じる、今なお見守られていると思うと心が安らぐと、レイノルズは姉に心の内を明かします。レイノルズのアトリエ姉の提案どおり、レイノルズは車で別荘へ向かいます。美しい音楽が流れる中、走る車が画面の中でゆらゆらと揺れ、まるでフランス映画のように叙情的です。朝に立ち寄った小さなホテルの食堂でウェイトレスを見初めたレイノルズは、彼女を夕食に誘います。彼女は「食いしん坊さんへ、私の名前はアルマ」と書いたメモを渡します。夕食の席でレイノルズは、亡き母に仕事を教え込まれたこと、彼女の髪を洋服の胸に縫い込んであることをアルマに明かします。アルマを別荘へと案内したレイノルズは、母の再婚の際にウェディング・ドレスを縫ったこと、ウェディング・ドレスを縫うと結婚できないという迷信があり、メイドが手伝ってくれなかったこと、見かねた姉が最後に手伝ってくれたこと、姉は未だに独身であることを明かします。自分は何故、結婚しないのかと聞かれたレイノルズは、「私にはドレス作りがある」と答えます。「私は強い」と主張する彼に、アルマは「誰に?私じゃないといいけど」と答えます。続いて作業場に彼女を案内したレイノルズは、彼女に服を脱ぐように言い、採寸を始めます。そこにレイノルズの姉シリルが現れます・・・・。別荘に向かうレイノルズの車撮影に使用されたのは1955年型の Bristol 405。レアな車種で、イギリス映画「17歳の肖像」(2009年)と同じ登録ナンバーの車体が使用されている。 この間、約30分、叙情的でかつテンポが良く、流れるような展開していきます。物語の設定をさり気なく織り込みながら、見るものの心をしっかりと掴む見事な導入です。その後、すべてが仕事中心に回るレイノルズの生活にアルマは翻弄されていきます。タイトルの「ファントム・スレッド」には、母の亡霊が乗り移ったかのようなレイノルズの仕事ぶりを象徴するものと思われます。他にも、レイノルズがドレスに縫い込む様々な秘密、見えない糸で互いを絡め合うなレイノルズとアルマの関係など、さまざまな解釈があるようですが、広がりを持った素晴らしいタイトルです。巧みに引き出された俳優たちの魅力 レイノルズと姉シリルの想定される背景について、ポール・トーマス・アンダーソン監督は次のように語っています。裁縫が出来る将来有望な少年がいて、母親は彼に執着し、彼がなり得る最高のレベルへと後押しをした。そして、過小評価され隅に追いやられた娘は、「私が死んだら、彼の面倒を見るのよ」と言われたんだ。(ポール・トーマス・アンダーソン監督) http://www.moviecollection.jp/interview_new/detail.html?id=813この姉弟を演じるのが、ダニエル・デイ=ルイスとレスリー・マンヴィルですが、二人のパフォーマンス、二人の間に漂う雰囲気が素晴らしく、その表情や一挙手一投足をストーリーそっちのけでずっと見ていたいくらいです。アンダーソン監督がどうして再度組みたかったというダニエル・デイ=ルイスはもとより、レスリー・マンヴィルも出色のパフォーマンスを見せています。彼女は「家族の庭」(2010年)で孤独を癒やす為に酒に溺れる離婚した独身女性を演じていますが、本作ではそれとは正反対に自制的で弟思いな独身女性を演じています。いずれも非常に説得力のあるパフォーマンスで、ベテラン女優の芸域の広さを感じさせます。二人(ダニエルとレスリー)は黙って座っているだけで、とても居心地が良さそうだった。彼らが如何に近いか、共依存であるかをセリフで示すことはできる。でも、ダニエルとレスリーを一緒に撮れば、二人の間に自然に親密さを感じることができる。何故ならば、彼らはお互いに居心地の良さを感じているからだ。撮影の9ヶ月前だったが、私達は賢くも彼女を仲間に引き込んだ。いわば彼女の背後に広がる地平線を見た私達は、すぐに押さえるべき女優だと悟ったんだ。彼女に出演して欲しい、今すぐ頼もうってね。」(ポール・トーマス・アンダーソン監督)https://www.rollingstone.com/movies/movie-features/paul-thomas-anderson-why-i-needed-to-make-phantom-thread-127368/ダニエル・デイ=ルイス(レイノルズ・ウッドコック) ダニエル・デイ=ルイス(1957年〜)は、ロンドン出身のイギリス出身の元俳優。2018年現在、アカデミー主演男優賞を3回受賞している唯一の俳優である。父親は詩人、演劇学校で演技を学び、1971年に映画デビュー、舞台で活動する。「眺めのいい部屋」(1986年)等で注目される。「存在の耐えられない軽さ」(1988年)でアメリカに進出、「マイ・レフトフット」(1989年)でアカデミー主演男優賞を受賞。一時期、俳優を休業して靴屋になるためにイタリアで修行するも、マーティン・スコセッシ監督に説得され、「ギャング・オブ・ニューヨーク」(2002年公開)で俳優に復帰、アカデミー主演男優賞にノミネートされる。「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007年)でで二度目、「リンカーン」(2012年)で史上初の三度目のアカデミー賞主演男優賞を受賞し成し遂げる。「リンカーン」以上の演技は難しいとし、俳優から休業することを発表する。本作で、再び俳優に復帰するも、撮影終了後、俳優からの引退をは発表した。2014年、演劇への貢献を讃えられエリザベス2世よりナイト(KBE)を叙勲されている。レスリー・マンヴィル(シリル・ウッドコック) レスリー・マンヴィル(1956年〜)は、イングランド出身のイギリスの女優。15歳から演劇を学び、ミュージカルで舞台デビュー。マイク・リー監督作品の常連で、「トプシー・ターヴィー」(1999年)、「人生は、時々晴れ」(2002年)、「家族の庭」(2010年)、「ターナー、光に愛を求めて」(2014年)などに出演している。本作で第90回アカデミー賞で助演女優賞にノミネートされている。2015年、大英帝国勲章(OBE)を受勲している。ゲイリー・オールドマンの最初の妻で、1987年から1990年まで結婚、1男をもうけた。母の亡霊やハウスを仕切る姉はあくまでも本作の要素のひとつに過ぎず、作品がホラーに大きく振れることはありません。アンダーソン監督は主旋律となるレイノルズとアルマの関係を流麗に、象徴的に描いていきます。自己中心的なレイノルズの新たなミューズとなり、シリルが仕切るハウスで暮らし始めるウェイトレス、アルマを演じるのは、ルクセンブルグ、ドイツ、フランスの映画で活躍する女優、ヴィッキー・クリープスです。本作で彼女の最初の撮影は、レイノルズとアルマが出会う海辺の古い小さなレストランの朝食シーンでした。大俳優であるダニエルを前に彼女はとてもに緊張し、それを気取られまいと足下がおろそかになって躓いてしまいます。実はダニエルもあがり症なのですが、それを見てヴィッキーとの距離感が一気につまり、「恋に落ちて」しまったそうです。彼女が躓く姿は本編にしっかりと残されています。ヴィッキーは基本的に監督の指示に従って演じていますが、レイノルズと一緒に海辺の丘の上を歩くシーンでは、膨大なセリフを削るべきと主張したそうです。アルマが自意識過剰に描写されているなど、彼女の目から見て不自然なところがあったのでしょう、実際にセリフは大幅に減らされ、シーンも短くなっています。本作に関するインタビューで制作動機を聞かれたアンダーソン監督は、ある夜、ひどく具合がわるくなって寝ていると、妻(筆者注:「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」(2011年)などに出演しているコメディエンヌのマーヤ・ルドルフ)が、かつて見たことがないほどの愛と慈しみの眼差しで私を見ているのに気づいた。そこで、すぐにダニエルに電話をかけて、いい映画のアイディアを思いついたと言ったんだ。(ポール・トーマス・アンダーソン監督)https://www.youtube.com/watch?v=IOasnQC2eaQと、冗談めかして答えて会場や出演者を沸かしていますが、本作で描いている男女の感情は実は必ずしも特異なものではなく、多くの男性、女性に共通するものです。ヴィッキーはダニエルやレスリーほど広く知られた女優ではありませんが、一介のウェイトレスがレイノルズと恋に落ち、力関係を変えていく役柄と重なり、女性が生来持つ不思議な力を象徴するかのよう力強い効果を生んでいます。アンダーソン監督によると、彼女は見る角度によって表情が全く変わり、古い小さなレストランのウェイトレスと、ロングドレスを引きずる淑女の両方のイメージを顔で表現できる稀有な女優なのだそうです。また、ヴィッキーが持つ芯の強さは、アルマににぴったりだと言います。「私はあなたを愛している。でもあなたはおばかさんで、どれだけ私が愛しているか、どれだけ私が尽くしているかわからない。あなたがわかってくれるまで、私はどこにも行かないわ。」ヴィッキーは、ひと目でそれを感じさせることができる女優です。(ポール・トーマス・アンダーソン監督)https://www.rollingstone.com/movies/movie-features/paul-thomas-anderson-why-i-needed-to-make-phantom-thread-127368/ヴィッキー・クリープス(アルマ・エルソン)ヴィッキー・クリープス(1983年〜)の女優。ルクセンブル、フランス、ドイツの作品に数多く出演している。、彼女が出演する小規ドイツ映画「The Chambermaid Lynn」(2014年)を観たポール・トーマス・アンダーソン監督が、本作の主役に抜擢した。ダニエル・デイ=ルイスが引退した理由ダニエル・デイ=ルイスは本作の撮影終了後、公開前という異例のタイミングで俳優からの引退を発表しました。作品の前評判を傷つけかねない異例のタイミングですが、ダニエル・デイ=ルイスは、その経緯について次のように語っています。ひとつの作品を撮り終えると役者は抜け殻のようになる。精神状態がもろくなるんだ。そんな状態で大きな判断を下すべきではない。そんなことはよくわかっている。僕自身何度もつらい経験をしている。でも、何度もつらい経験をしたからこそ、今回で最後にしたいと感じた。決断を下す時期は悪かっただろうけどね。映画を作る前、自分が演じるのを止めることになるとは思っていなかった。撮影に入るまでポールと僕はよく笑っていた。それから僕らは笑わなくなった。悲しい気持ちに打ちのめされたんだ。それは突然だった。私達は自分たちが生み出したものをわかっていなかったんだ。この映画と共に生きるのは辛かった。その気持は今も変わらない。この映画を観たくないという気持ちは、僕が俳優としての仕事をやめる決断をしたことにつながっている。ただ、悲しみが消えない理由は説明できない。悲しみはこの物語が語られる最中に生まれたものだけれど、本当にその理由がわからないんだ。(中略)乱用されている「アーティスト」という言葉を使いたくはないが、アーティストの責任のようなものが存在し、僕にそれに悪酔いしている。僕は自分のやっていることの価値を信じる必要があるし、僕のやることは重要で魅力的なものになり得るとも思う。もし観客がその価値を信じてくれるなら、僕はそれで十分だと思っていた。でも、最近、そうは思えなくなったんだ。僕は12歳から演技に興味を持ち、以来、劇場という光の箱以外の世界が全てが影に隠れてしまった。演じ始めた時は救済だったんだけどね。これからは違う方法で世界を探究したいんだ。(ダニエル・デイ=ルイス)https://www.youtube.com/watch?v=fn7cVFpKwcQhttps://www.wmagazine.com/story/exclusive-daniel-day-lewis-giving-up-acting-phantom-thread映画の撮影中に突如、ダニエル・デイ=ルイスを襲った悲しみ一体、何なのか、もし作品が悪いのならば、良い作品に出ればいいだけで俳優を辞める必要はありません。実際、作品は非の打ちどころないほど素晴らしいものですので、作品の何かが進退に影響するほど彼の内面を強く揺さぶったと考えられます。本人が悲しみを説明できないと言っている以上、精神分析家にでもなったつもりで推察するしかないのですが、ダニエル・デイ=ルイスと彼が演じたレイノルズを比較すると、意外に共通点があることがわかります。母の影響レイノルズは母に仕事を教わり、16歳の時には再婚する母にウェディング・ドレスを縫います。一方、母が女優だったダニエルは12歳から演技学校で演技を学び、14歳で映画デビューします。彼の母は高圧的でダニエルは避ける傾向にあったようですが、少なからず影響を受けているものと思われます。姉の存在レイノルズには、ハウスを仕切りながら弟を支える姉がいます。ダニエルにも大の仲良しの姉がおり、ダニエルが有名になったからも彼の作品に対する正直な評を彼女に求めるなど支え合う関係にあります。女性遍歴レイノルズは仕立てのひらめきをミューズに求め、鬱陶しくなると捨てて新たなミューズを求めます。ダニエルはジュリエット・ビノシュ、ジュリア・ロバーツ、ウィノナ・ライダーなど、著名な女優と交際しましたが、長く続きませんでした。6年間交際した女優のイザベル・アジャーニとの間に一児をもうけますが、結婚も子供の認知もしていません。結婚独身主義者を自称していたレイノルズは、アルマと巡り合って結婚、安定の兆しを見せます。ダニエルは、1996年にレベッカ・ミラー(作家アーサー・ミラーの娘で「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」(2015年)、「マイヤーウィッツ家の人々 (改訂版)」(2017年)などで知られる映画監督)と結婚、二児をもうけ、現在に至っています。レイノルズは仕事のひらめきをミューズに求めるほど常に仕事のことを考えており、相当量のストレスを溜め込んでいますが、休むのは病気になった時くらいです。一方、徹底したメソッド演技で知られるダニエルが作品に注ぎ込むエネルギーも、並大抵のものではありません。47年間で出演作が21本と寡作なのもその為と思われます。売れっ子俳優になったダニエルは、「マイ・レフトフット」(1989年)でアカデミー主演男優賞受賞「父の祈りを」(1993年)でアカデミー主演男優賞にノミネートと、名声を我が物にしますが、1998年、妻のレベッカ・ミラーと1歳の息子とともにローマのマンションに住み始め、イタリアの靴職人ステファノ・ベーメルの工房で靴屋になるために靴作りの修行を始めます。後にマーティン・スコセッシがイタリアを訪れ、「ギャング・オブ・ニューヨーク」(2002年)の出演を説得するまでこれは続きました。復帰作「ギャング・オブ・ニューヨーク」でアカデミー主演男優賞にノミネートされたダニエルは、ポール・トーマス・アンダーソン監督の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007年)二度目のアカデミー主演男優賞を受賞スティーヴン・スピルバーグの「リンカーン」(2012年)で史上初の三度目のアカデミー主演男優賞を受賞という快挙を成し遂げます。しかしその後、「リンカーン」での演技を超えることができないとして、休業宣言します。まだ55歳だった彼には、さらなる高みを目指せないほどの疲労感があったかもしれません。異例のタイミング発表された引退ですが、それは単に作品が悪いとか、監督が悪いということではなく、ダニエルの内面と深く関わっていたものと思われます。ピンポイントで指摘するのは難しいのですが、それは例えば次のようなものと推察されます。これ以上シリアスなメソッド演技に耐えられないと感じていたダニエルは、コメディ要素がある本作に活路を見出そうとしたが、シリアスに演じたほうがコメディとして面白いという最近の風潮は彼に負担軽減をもたらすとがなかったセットではなく、実際にロンドンのタウンハウスで撮影が行われ、キャストの部屋は割り当てられたが、撮影に合わせて部屋や機材、ケーブルの移動が頻繁に行われた為、メソッドで集中しづらく、ダニエルの大きなストレスの素となったレイノルズとダニエルには共通点があり、レイノルズを演じるうちにダニエル自身の過去の悲しみや葛藤が不意に喚起され、かつてない大きな負担をもたらしたが、彼自身が予期できない為、脚本段階や準備段階で気づくことはなく、また自身の実体験に根ざしていることから悲しみや葛藤は撮影後も消えなかった休業ではなく引退という対処をとっていることから、喚起された感情は「演技からの開放の欲求 vs 観客の期待に対する責務」など、彼が内面で過去から繰り返してきた進退に関わる葛藤に関連している一方、アンダーソン監督はダニエルの引退について次のように語っています。。私は映画製作のチアリーダーみたいものだ。私はダニエルをよく知っている。彼は私が鞭を鳴らさない限り、彼は今やっていることをいつまでもいじくり回し続けるんだ。(休業していた)彼を私は扇動しなければならなかった。それは悪くないことだし、実際に椅子に座って「オーケー、それが我々がやろうとしていることだ」って言う役割が好きなんだ。彼を思うとこういう言い方をしたくないが、つまるところ軽くて馬鹿げた映画が、実は憂鬱な制作プロセスの結果だったというのは滑稽だ。実際、憂鬱な日はたくさんあった。気難しいレイノルズが彼を愛するアルマにつらく当たるシーンの蓄積が一定期間続くと・・・。こう説明しよう、もし5日間続けて撮影現場に行って親指でアルマの首を押さえつけていたとしたら、それは精神に悪影響を与える。彼には休息が必要なだけと思いたいが、本当のことはわからない。「十分にやってくれた、好きに過ごして欲しい」とは思えない。十分ということは決してないんだ。(ポール・トーマス・アンダーソン監督)https://www.rollingstone.com/movies/movie-features/paul-thomas-anderson-why-i-needed-to-make-phantom-thread-127368/一連のインタビューを見たり、読んだりしているうちに、ダニエルの繊細さが見えてきたような気がします。この繊細さを持ちながら、激しいメッソド演技に耐えるのはとても辛かったのかもしれません。 しかし彼はまだ61歳、映画ファンとしては、ちょい役でもいいので、「さすが、ダニエル・デイ=ルイス」という演技を今後も見せて欲しいものです。【サウンドトラック】 「ファントム・スレッド」のサウンドトラックCD(楽天市場)サウンドトラックはイギリスのロックバンドレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドが作曲している。甘く美しい旋律で、第90回アカデミー賞の作曲賞にノミネートされてる。1. Phantom Thread I 2. The Hem 3. Sandalwood I 4. The Tailor of Fritzovia 5. Alma 6. Boletus Felleus 7. Phantom Thread II 8. Catch Hold 9. Never Cursed10. That's as May Be 11. Phantom Thread III 12. I'll Follow Tomorrow 13. House of Woodcock 14. Sandalwood II 15. Barbara Rose 16. Endless Superstition 17. Phantom Thread IV 18. For the Hungry Boy【動画クリップ(YouTube)】冒頭、女が男について語り、一転、映し出されるドレス・メーカーの朝冒頭、暖かなロウソクの光の中で女がある男について語り、画面が一転、美しい音楽を背景にロンドンの高級なタウンハウスにあるドレス・メーカーの朝が映し出される。仕立て屋のレイノルズとドレス・メーカーを仕切る姉シリル、お針子たち、レイノルズのパートナーと思しき女がテンポよく登場する、見事な導入。ゆらゆらと揺れるドライブ・シーン甘い音楽が流れる中、走る車が画面の中でゆらゆらと揺れ、まるでフランス映画のように叙情的 。レイノルズが立ち寄ったレストランでアルマがオーダーをとるシーン朝に立ち寄った古くて小さなホテルのレストランでウェイトレスを見初めたレイノルズは、彼女を夕食に誘う。彼女は「食いしん坊さんへ、私の名前はアルマ」と書いたメモを渡す。このシーンは彼女を最初の撮影シーン、大俳優であるダニエルを前にヴィキーはとてもに緊張し、それを気取られまいと足下がおろそかになって躓いてしまう。実はあがり症のダニエルも緊張していたが、それを見てヴィッキーとの距離感が一気につまり、「恋に落ちて」しまった。彼女が躓くシーンは、本編にしっかりと残されている。【撮影地(グーグルマップ)】レイノルズのロンドンのアトリエがあるテラスハウスアルマが働いていたホテルのレストランレイノルズの別荘レイノルズとアルマが歩く海辺の丘レイノルズとアルマが手を繋いで歩く海辺の街の坂道アルマが一人で踊りに出かけたダンスホール【関連作品】ポール・トーマス・アンダーソン監督xダニエル・デイ=ルイスのコラボ作(楽天市場) 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007年)ポール・トーマス・アンダーソン監督作品のDVD(楽天市場) 「ブギーナイツ」(1997年) 「マグノリア」(1999年) 「パンチドランク・ラブ」(2002年) 「ザ・マスター」(2012年) 「インヒアレント・ヴァイス」(2014年)ダニエル・デイ=ルイス出演作品のDVD(楽天市場) 「マイ・レフトフット」(1989年) 「ラスト・オブ・モヒカン」(1992年) 「父の祈りを」(1993年) 「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事」(1993年) 「ボクサー」(1997年) 「リンカーン」(2012年)レスリー・マンヴィル出演作品のDVD(楽天市場) 「トプシー・ターヴィー」(1999年)輸入盤、リージョン1、日本語なし「人生は、時々晴れ」(2002年) 「家族の庭」(2010年) 「ターナー、光に愛を求めて」(2014年)
2019年04月26日
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「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」(原題:ฉลาดเกมส์โกง (Chalard Games Goeng/Chalat Kem Kong、英題:Bad Genius)は、2017年公開のタイのクライム・サスペンス&ドラマ映画です。ナタウット・プーンピリヤ監督、チュティモン・ジョンジャルーンスックジンら出演で、名門校に特待奨学生として転入した天才女子高生リンが、親友をカンニングで救ったことをきっかけに国際的なカンニングに巻き込まれていく顛末を、スタイリッシュにスリリングに描いています。タイのアカデミー賞に相当する第27回スパンナホン賞で、作品、俳優、監督、脚本、編集、撮影、録音、美術、衣装デザインなど、史上最多の12部門を受賞、国外でも数々の賞を受賞した作品です。 「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」のDVD(楽天市場)【キャスト・スタッフ】監督:ナタウット・プーンピリヤ脚本:ナタウット・プーンピリヤ/タニーダ・ハンタウィーワッタナー/ワスドーン・ピヤロンナ出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン(リン、天才的な女子高生) チャーノン・サンティナトーンクン(バンク、リンのライバルの奨学生) イッサヤー・ホースワン(グレース、リンの同級生、演劇部、勉強が苦手) ティーラドン・スパパンピンヨー(パット、グレースの彼氏、金持ちの息子) タネート・ワラークンヌクロ(リンの父、教師) ほか【あらすじ】小学生のころから成績優秀で、天才的な頭脳を持つ女子高生リン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は、教師である父親と二人で慎ましやかな暮らしをしています。明晰な頭脳を見込まれリンは、特待奨学生として名門校に転入、気立ての良いグレース(イッサヤー・ホースワン)と友だちになります。一定以上の成績をとらなければ大好きな演劇部の活動を禁じられるグレースに、リンは勉強を教え、試験中に彼女のカンニングを手助けします。試験後、リンはグレースのボーイフレンドで金持ちの息子のパット(ティーラドン・スパパンピンヨー)の家に招かれます。彼は、報酬と引き換えに彼と彼の友人を助けるカンニング・ビジネスをリンに持ちかけます。最初は消極的なリンでしが、決して裕福ではない父親が学校に賄賂を渡していることに気づいた彼女は、試験の答えをピアノの指の動きで暗号化する「ピアノレッスン方式」を考案、カンニング・ビジネスに手を染めるようになります。多くの生徒が彼女のカンニングに殺到しますが、学校が誇るもう一人の天才で生真面目な奨学生バンク(チャーノン・サンティナトーンクン)によって、カンニングを阻まれます。リンは父からも学校からも叱責され、大学奨学金を得る機会を失います。そんなリンにパットとグレースは、アメリカの大学に留学するため世界各国で行われる大学統一入試<STIC>でのカンニングをもちかけ、彼女は再び彼らと組みます。パットは、全世界で同じ日に行われる<STIC>をリンが最も早く試験が始まるオーストラリアで受け解答をタイに送る計画を立て、顧客を募って数百万バーツの資金を集めます。この計画にはバンクの協力が必要と考えたリンは、路上で暴漢に襲われ、大学奨学金の試験を受けられなかったバンクに話をもちかけ、渋々同意させます・・・。【レビュー・解説】国境をまたぐ国際的なカンニングを、社会風刺とともにスティーブン・ソダーバーグ監督ばりにスタイリッシュにスリリングに描いた、タイ映画のイメージを覆す画期的な昨品です。カンニングをスタイリッシュ、スリリングに描いた画期的なタイ映画世界レベルのクォリティその昔、タイの映画館で映画を観たことがありますが、タイでは本編が始まる前に国王の映像が映し出され、観客は国籍を問わず全員起立して脱帽しなければなりません。日本にはない習慣ですが、実際にやってみると悪くはない体験だと思った記憶があります。タイでは軍事クーデターが頻発しますが、文民統治が腐敗すると見かねた軍がクーデターを起こし、不正を正した上で再び文民に統治を返還するというパターンの繰り返しのようです。文民も軍も国王を尊敬しており、流血も少なく、直接の統治はしない国王を頂点に文民と軍がバランスをとるかのような興味深い構造です。タイは欧米の支配を受けたことがない数少ない国のひとつで、信心深く、微笑みの国と言われるほど温和な国民性ですが、高いプライドを内に秘めているとも言われています。その一方で、本作でも触れられているように慣習的な賄賂の文化が根強く残っています。タイの映画には独特のトーンがあり、それを好む人も少なからずいますが、映画大国というわけでもなく、またタイを母国とする移民も限られる為か、国外の批評家に注目される機会はあまり多くありません。日本の映画祭などでタイ映画が上映されても、劇場公開やDVD化がされない作品が少なくないようです。インドをはじめ、中国、韓国といったアジア諸国ではカンニングが社会問題としてクローズアップされていますが、タイも例外ではありません。学生たちにとってはカンニングはリスクを犯す否かの選択に過ぎず、罪悪感はないといいます。タイ映画というと穏やか、叙情的、内に秘めた思い・・・といった作品を期待してしまいますが、何よりも驚かされたのは本作がカンニングというタイの地域色の濃い題材を扱い、教室という凡庸な空間を舞台にしながら、スティーブン・ソダーバーグ監督ばりにスタイリッシュでスリリングで、タイ映画と思えないほどのグローバルなクォリティの作品に仕上がっていることです。世界的な共感を得るという狙いが当初からあったわけではなく、カンニングというタイ固有の問題をスパイ映画やクライム・サスペンスのようにスタイリッシュ、スリリングに描いたら面白いという発想で取りかかり、社会問題、クライム・サスペンス、若者たちのドラマといった要素のバランスをとりながら一年半かけて脚本を練り直すうちに、世界レベルのクォリティが生まれたというのが真相のようですが、いずれにせよ、結果的には素晴らしい作品になっています。また、ナタウット・プーンピリヤ監督は「カンバセーション…盗聴…」(1974年) 、「ミッション・インポッシブル」シリーズ(1996年〜)、「オーシャンズ」シリーズ(2001年〜2007年)、「裏切りのサーカス」(2011年)などの影響を受けているとしていますが、興味深いのは、この他に「マッド・マックス 怒りのデスロード」(2015年)を制作の参考にしている点です。「監督が砂漠の中にきちんとした世界を作って、そこに観客が魅せられていることに感心した」とのことで、やはり映画製作者の視点はちょっと違います。何の変哲もない教室の中でドラマを展開しながら観客を退屈させない秘密は、そうした視点にあるのかもしれません。何処でも誰でもハイレベルな映画が作れる時代主役のチュティモン・ジョンジャルーンスックジンは映画初出演、他の共演者もほとんどが出演作が3作以下の新人ですが、期待以上のパファーマンスを得ることができ、ナタウット・プーンピリヤ監督は脚本の一部を書き直し、レベルアップしたそうです。演技コーチによる三ヶ月のワークショップが新人俳優たちのポテンシャルをフルに引き出したとのですが、カンニング法のアイディアもスタッフのブレーン・ストーミングから生まれるなど企画、編集、撮影、録音、美術、衣装デザインなどに卒がなく、タイの映画制作スタッフの優秀さを感じます。映画製作機材の低価格化、世界レベルでの情報共有の進展などにより、国毎の映画製作のノウハウ/スキルの格差がなくなりつつあるのかもしれません。また、親戚がビデオ店を経営しており、小さい頃から映画を観て育ったというナタウット・プーンピリヤ監督は、タイの大学で演劇を、後のアメリカ留学でグラフィックデザインを学んでいますが、映画製作そのものは学んでいません。クウェンティン・タランティーノ監督はビデオ店の店員から脚本家、映画監督に転じましたが、映画製作の分業が進んだ結果、たとえ映画製作に関して網羅的なノウハウがなくても、センスがあればそれを活かせる体制が整いつつあるのかもしれません。いずれにせよ、アジアの国々に特有な問題を題材にした作品がこのように世界に通用する形で公開されるのは、とても喜ばしいことです。チュティモン・ジョンジャルーンスックジン(リン)チュティモン・ジョンジャルーンスックジン(1996年〜)はタイのモデル、女優。9頭身のスラリとした体型を生かし、15歳の頃からモデルとして活動を始める。本作が初めての演技経験ながら、天才女子高生リンをクールに演じ、タイのアカデミー賞に相当する第27回スパンナホン賞では最優秀主演女優賞を受賞、国外でも複数の新人賞を受賞、アジアで最も注目されている若手俳優の一人として脚光を浴びている。チャーノン・サンティナトーンクン(バンク)チャーノン・サンティナトーンクン(1996年〜)はタイの俳優。2014年に映画デビュー、その後TVシリーズに端役で出演する。本作で生真面目な苦学生バンクが抱える苦悩と葛藤を熱演、タイのアカデミー賞に相当する第27回スパンナホン賞で最優秀主演男優賞を受賞している。ティーラドン・スパパンピンヨー(パット)ティーラドン・スパパンピンヨー(1997年〜)はタイの俳優。新人発掘のリアリティーショーでTVデビュー、TVシリーズで端役、メインキャラクターを演じ、ドラマに出演するようになる。本作が映画初出演ながら、金持ちのボンボンで策略家のパットを存在感たっぷりに好演し、タイのアカデミー賞に相当する第27回スパンナホン賞で助演男優賞にノミネートされている。イッサヤー・ホースワン(グレース)イッサヤー・ホースワン(1996年〜)は、タイの女優。リンが転入した学校での初めての友人で女優を目指すグレースを、活発で天真爛漫に演じている。本作が本格的な演技は初体験だったが、タイのアカデミー賞に相当する第27回スパンナホン賞で助演女優賞にノミネートされている。タネート・ワラークンヌクロ(リンの父)タネート・ワラークンヌクロ(1958年〜)は、タイの歌手、作曲家、音楽プロデューサー、俳優。1980~90年代にかけて、タイのプログレッシブ・ロックの先駆者としてヒットチャート1位になるなど大きな人気を得るが、絶頂期に突然表舞台から姿を消し、自身のレーベルを設立、タイの有名ロックバンドを多数輩出する。約20年の休業を経て、2015年に歌手活動を再開、映画「ポップ・アイ」(2017年)で俳優として長編映画デビューするなど、異色の経歴の持ち主。本作で第27回スパンナホン賞で助演男優賞にノミネートされている。余談:CM監督は長編映画監督の登竜門?映画制作を学んだことがないナタウット・プーンピリヤ監督ですが、彼は大学卒業後、数多くのテレビCMやMVを手がけています。ナタウット・プーンピリヤ監督のポートフォリオ(Vimeo)彼に限らず、著名監督にはCMやMVの出身者が少なくなく、CMやMVは長編映画監督への登竜門かと思うほどです。30秒から3分前後という短い時間で強いインパクトを残さねばならないCMやMVと、90分のという長丁場を緩急をつけて展開しなければならない長編映画は一見異なるようですが、メリハリの効いた画作りという点では意外と共通する部分があるのかもしれません。CMやMV出身の映画監督監督名主な映画作品CM、MV昨品(例)マイケル・チミノディア・ハンター(1978年)Take Me Along (United Airlines)リドリー・スコットエイリアン(1979年)ブレードランナー(1982年)アメリカン・ギャングスター(2007年)オデッセイ(2015年)ブレードランナー2049(2017年)Apple 1984 Super Bowl スパイク・リードゥ・ザ・ライト・シング (1989年)マルコムX(1992年)ゲット・オン・ザ・バス(1996年)ブラック・クランズマン(2018年)Nike - Michael Jordanスパイク・ジョーンズマルコヴィッチの穴(1999年)アダプテーション (2002年)her/世界でひとつの彼女(2013年)Adidas - Hello Tomorrowギレルモ・デル・トロデビルズ・バックボーン(2001年)パンズ・ラビリンス(2006年)シェイプ・オブ・ウォーター(2018年)Alka Seltzer(Mexico)エドガー・ライトショーン・オブ・ザ・デッド(2004年)ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-(2007年)「ベイビー・ドライバー」(2017年)Blue Song ~ Mint Royaleミシェル・ゴンドリーエターナル・サンシャイン(2004年)ブロックパーティー(2004年)グッバイ、サマー (2015年)Kylie Minogue - Come Into My Worldデヴィッド・フィンチャーゾディアック(2007年)ソーシャル・ネットワーク(2010年)ドラゴン・タトゥーの女(2011年)ゴーン・ガール(2014年)Adidas - Mechanical Legs ダンカン・ジョーンズ「月に囚われた男」(2009年)「ミッション: 8ミニッツ」(2011年)等FRENCH CONNECTION - Fashion Versus Styleジョージ・オーウェルのSF小説「1984年」をモチーフにした、リドリー・スコット監督のアップル・マッキントッシュのセンセーショナルなCMはあまりに有名です。スパイク・リー監督がマイケル・ジョーダンと組んで制作したナイキのエア・ジョーダンのCMは、商品を巡って暴力事件が頻発するほど消費者に強い影響を与えました。また、ミシェル・ゴンドリーが制作したカイリー・ミノーグのMV「カム・イントゥ・マイ・ワールド」では、映画ではなかなか見せないような大技を使われています。デヴィッド・フィンチャーが制作したアディダスの「Mechanical Legs」でも、映画ではなかなか観られないほど、機能美、躍動美が凝縮されてます。なお、上記の表には挙げていませんが、長編映画で大成してから初めてこうしたメディアを手がける監督もいます。CMやMVには単なる広告、プロモーションの域を超えた、芸術性の高いものが少なからずあり、映画監督にとっても魅力あるメディアなのかもしれません。【動画クリップ(YouTube)】ナタウット・プーンピリヤ監督による企業広告ワコール「My Beautiful Woman」シリーズ(タイ語、英語字幕)Mother's ChoiseMissing EmployeeJane's Secretブラザー(タイ語、英語字幕)Brother at your side」 「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」のDVD(楽天市場)【関連作品】おすすめタイ映画のDVD(楽天市場) 「6ixtynin9」(1999年) 「フェーンチャン ぼくの恋人」(2003年)「地球で最後のふたり」(2003年) 「マッハ!!!!!!!!」(2003年)「風の前奏曲」(2004年)「シチズン・ドッグ」(2004年)輸入盤、日本語なし 「ビューティフル・ボーイ」(2004年) 「親友」(2005年) 「早春譜」(2006年) 「世紀の光」(2006年)「ミウの歌 Love of Siam」(2007年)輸入盤、日本語なし「バンコク・トラフィック・ラブ・ストーリー」(2009年)輸入盤、日本語なし 「ア・クレージー・リトル・シング・コールド・ラブ」(2010年) 「ブンミおじさんの森」(2010年) 「トップ・シークレット 味付のりの億万長者」(2011年) 「すれ違いのダイアリーズ」(2014年)
2019年04月18日
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「スターリンの葬送狂騒曲」(原題:The Death of Stalin)は、2017年公開のイギリス・フランスの歴史ドラマ&コメディ映画です。フランスのグラフィック・ノベル「La mort de Staline」(スターリンの死)を原作に、アーマンド・イアヌッチ監督、スティーヴ・ブシェミら出演で、ソ連の最高権力者にして独裁者であったスターリンが1953年に急死、その国葬の準備の傍ら、権力の承継を巡って争いを繰り広げる男たちを男たちをコミカルに描いています。歴史的な象徴を冒涜するとして、ロシアで上映禁止となった作品です。 「スターリンの葬送狂騒曲」のDVD(Amazon)【スタッフ・キャスト】監督:アーマンド・イアヌッチ(英語版)脚本:アーマンド・イアヌッチ/デヴィッド・シュナイダー/イアン・マーティン /ピーター・フェローズ原作:ファビアン・ニュリ/ティエリ・ロビン「スターリンの葬送狂騒曲」出演:スティーヴ・ブシェミ(ニキータ・フルシチョフ) サイモン・ラッセル・ビール(ラヴレンチー・ベリヤ) パディ・コンシダイン(ユーリ・アンドレーエフ) ルパート・フレンド(ワシーリー・スターリン) ジェイソン・アイザックス(ゲオルギー・ジューコフ) マイケル・ペイリン(ヴャチェスラフ・モロトフ) アンドレア・ライズボロー(スヴェトラーナ・アリルーエワ) ジェフリー・タンバー(ゲオルギー・マレンコフ) エイドリアン・マクラフリン(ヨシフ・スターリン) オルガ・キュリレンコ(マリヤ・ユーディナ) ポール・ホワイトハウス(アナスタス・ミコヤン) ポール・チャヒディ(ニコライ・ブルガーニン) ダーモット・クロウリー(ラーザリ・カガノーヴィチ) ジェームズ・バリスケール(クリメント・ヴォロシーロフ) リチャード・ブレイク(アナトリー・タラソフ) ジャスティン・エドワーズ(スパルタク・ソコロフ) ジョナサン・アリス(メツニコフ) ロジャー・アシュトン=グリフィス(音楽家) ほか【あらすじ】1953年のソ連・モスクワ。ラヴレンチー・ベリヤ(ルパート・フレンド)率いる内務人1953年のソ連・モスクワ。ラヴレンチー・ベリヤ(ルパート・フレンド)率いる内務人民委員部は「粛清リスト」に基いて国民の逮捕し、粛清を実行していました。ヨシフ・スターリン(エイドリアン・マクラフリン)に対する国民の畏怖は大きく、ラジオでコンサートの生放送を聞いたスターリンが録音を所望すると、その為に関係者が急遽再演奏するほどでした。コンサートのピアニスト、マリヤ・ユーディナ(オルガ・キュリレンコ)は、家族が受けた処分からスターリンを恨み、録音盤にスターリンを罵倒するメモを忍ばせます。届いた録音盤を執務室で聞いたスターリンは、メモを目にした直後に意識を失い、昏倒します。翌朝、関係者が昏倒したスターリンを発見し、ソ連共産党の幹部たちが集まります。粛清の為、有能な医師がいなくなっていた中、医師と看護師がかき集められ、スターリンを診察します。「回復の見込みがない」という診断に幹部たちは驚喜、スターリンの娘であるスヴェトラーナ(アンドレア・ライズボロー)を味方に付けたり、無能だが権勢を笠に着る道楽息子のワシーリー(ルパート・フレンド)の介入を食い止めようと、互いに暗躍を始めます。権力の継承をめぐり、幹部たちの個人情報を握るベリヤは党内序列二位のゲオルギー・マレンコフ(ジェフリー・タンバー)と組み、ニキータ・フルシチョフ(スティーヴ・ブシェミ)はヴャチェスラフ・モロトフ(マイケル・ペイリン)やラーザリ・カガノーヴィチ(ダーモット・クロウリー)、アナスタス・ミコヤン(ポール・ホワイトハウス)らを仲間にして対抗します。ベリヤは「粛清リスト」からモロトフを外すとともに、反党活動容疑で収監されていたその妻を釈放するなどの懐柔策をとり、対抗勢力の切り崩しを図ります。スターリンは一瞬意識を取り戻したのちに死去、幹部たちはスターリンの葬儀と後継体制の構築に向けて動きます。序列二位のマレンコフがトップに昇格し、フルシチョフはベリヤの差し金で葬儀委員長に任じられます。実行力のないマレンコフに対し、ベリヤは政治犯の釈放や粛清リストの凍結などを提案、モスクワの警備を軍から内務人民委員部に変えさせます。さらにベリアは服喪のモスクワに入る列車を止めようとし、フルシチョフは鉄道は自分の管轄と反対しますが、ベリヤは強行します。フルシチョフは独断で列車の運行を許可、弔問に押し寄せた人民に警備の内務人民委員部隊員が発砲して数多くの死者が出ます。お互いに責任をなすりつけあうベリヤとフルシチョフは会議で対立、現場の警備責任者に罪をかぶせますが、それは上司であるベリヤの失点となります。葬儀の当日、スターリンの亡骸の周りに立つ幹部たちは他のメンバーの悪口を言い合います。ベリヤが弔問客に教会の関係者を含めたことについて、フルシチョフらは「スターリン主義に反する」とさや当てします。軍の最高司令官で大戦の英雄であるゲオルギー・ジューコフ(ジェイソン・アイザックス)と組んだフルシチョフは、ベリヤの失脚に向けて協力を要請し、その準備が進められます。フルシチョフは他の共産党幹部の同意を取り付け、最後まで反対したマレンコフを半ば恫喝して処刑命令に署名させます。葬儀後に開かれた幹部の会議で、ベリヤの解任が提議され、マレンコフがテーブルのボタンを押すとジューコフら軍人が入り、連行されたベリヤは「少女への性的暴行」「国家反逆罪」「反ソビエト行為」などの容疑により即決で処刑されます。フルシチョフはべリヤの死後、ソ連の最高指導者になりますが、1964年にレオニード・ブレジネフの台頭により失脚したことが示されます。【レビュー・解説】史実に基づき、旧ソ連の権力承継の顛末をスティーヴ・ブシェミらが滑稽かつ凄絶に演じ、その後も広く世界で繰り返される独裁や粛清が、共産主義/資本主義という政治思想に依存せず、独占欲、権力欲という人間の普遍的欲望の反映であることを示唆する高度な政治悲喜劇です。独裁や粛清が人間の普遍的欲望の反映であることを示唆する政治悲喜劇スターリン亡き後の権力承継の混乱を描く第二次世界大戦後、アメリカを中心とする資本主義諸国と旧ソ連を中心とする社会主義諸国が激しく対立、鉄のカーテンと呼ばれる封鎖線が敷かれ、世界は冷戦と呼ばれる二極構造になります。社会主義陣営の盟主であった旧ソ連に世界の目が注がれ、レーニン、スターリン、フルシチョフ、ブレジネフなど、その歴代の指導者は広く世界に知られることになりました。ソ連共産党による一党独裁体制は、ソ連崩壊直前の1990年にゴルバチョフが複数政党制を導入するまで続きましたが、初代のレーニン以降、歴代の最高指導者を見ていくと、スターリンの後にマレンコフという聞き慣れない名の人物が8日間で最高指導者の座を失っていることがわかります。本作は、その8日間とその前後の顛末を描いた作品ですが、一体何があったのか、それだけ興味をそそられます。ソ連歴代最高指導者の在職期間最高指導書在職期間ウラジーミル・レーニン1917年11月7日 - 1924年1月21日(7年)ヨシフ・スターリン1924年1月22日 - 1953年3月5日(29年)ゲオルギー・マレンコフ1953年3月5日 - 1953年3月13日(8日)ニキータ・フルシチョフ1953年3月14日 - 1964年10月14日(11年)レオニード・ブレジネフ1964年10月14日 - 1982年11月10日(18年)ユーリ・アンドロポフ1982年11月12日 - 1984年2月9日(2年)コンスタンティン・チェルネンコ1984年2月13日 - 1985年3月10日(1年)ミハイル・ゴルバチョフ1985年3月11日 - 1991年12月25日(6年)独裁や権力欲が生み出す滑稽で凄惨な非人間性をあぶり出す本作のほとんどが史実に基づいて構成され、露骨に笑いをとるような脚色はなされておらず、スティーヴ・ブシェミら芸達者な俳優のパフォーマンスが可笑しさと悲惨さををじわりと醸し出すい、抑えの効いた演出となっています。スティーヴ・ブシェミが演じるフルシチョフや、サイモン・ラッセル・ビールが演じるベリアの人物像が、前半から後半にかけて微妙に変化していく様も見どころです。冷戦時代の西側諸国では、資本主義=善、共産主義=悪といった構図の作品が少なくなかったのですが、本作ではそうした政治思想ではなく、フルシチョフやベリアといった人物像を通して独占欲や権力欲がもたらす滑稽さと凄惨さをあぶり出しています。スティーヴ・ブシェミ(ニキータ・フルシチョフ)スティーヴ・ブシェミ(1957年〜)は、ニューヨーク出身のアメリカの俳優、映画監督。出演作品は80本を越え、ティム・バートン、コーエン兄弟、クエンティン・タランティーノ、アダム・サンドラー、ジム・ジャームッシュ、ロバート・ロドリゲス、マイケル・ベイら個性的な監督達の作品に数多く出演、一度見たら忘れられない、アクの強い風貌で、しばしば殺されたり喧嘩に巻き込まれたりする役で個性派俳優として活躍している。今なおエージェントを雇わずに自ら出演依頼の電話を受けることでも有名である。サイモン・ラッセル・ビール(ラヴレンチー・ベリヤ)サイモン・ラッセル・ビール(1961年〜)は、マレーシア出身のイギリスの俳優。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで多くの舞台に立ち、シェイクスピアのせりふを自分のものとして語れる役者として知られる。大英帝国勲章(CBE)を受勲している。「オルランド」(1992年)、「ハムレット」(1996年)、「理想の結婚」(1999年)、「マリリン 7日間の恋」(2011年)、「愛情は深い海の如く」(2012年)、「Museo」(2018年)などに出演している。政治風刺劇を得意とするアーマンド・イアヌッチ監督は、独裁政権や権威主義、カリスマ性を持ち合わせているわけでもない一人の人物によって国家が恐怖に陥れられるさまを撮りたいと考えていました。そんな時に、ファビアン・ニュリ/ティエリ・ロビンによるフランスのグラッフィック・ノベル「La mort de Staline」(スターリンの死)を紹介されて実現したの本作です。トランプ大統領の就任以前に企画されたものですが、一部の人々にトランプ政権を風刺していると捉えられるなど、世界が東西に二分されていた冷戦時代にはありえない解釈に感慨深いものを感じます。旧ソ連を舞台にした作品ですが、ロシア訛りではない標準的な英語表現ロシア的な雰囲気を出しながらイギリスで撮影実際の人物に似せながらも、抑えの効いたナチュラルな演出により本作を描いたイアヌッチ監督は、ソ連の史実であることを印象づけながらも、滑稽で凄惨な悲喜劇が共産主義vs資本主義という政治思想の相違に帰するのではなく、独占欲や権力欲といった東西を問わない人間の普遍的な性に由来するものであることを暗示する、極めてハイレベルなアプローチに成功しています。余談:葬送狂騒曲を見てみたい国々安倍政権のモリカケ問題の顛末を見ていると、野党は一体なんでそんな大騒ぎしているのかと思えないこともありませんが、彼らの問題へのアプローチの仕方はともかくとして、その背景にあるのは安倍政権への過度の権力集中への懸念であり、そうした懸念を払拭する為に行動を起こすのは一概に悪いこととは言えません。ただし、モリカケ問題が映画になったら見たいと思うかは疑問で、むしろ多分にきな臭いものが感じられる近隣諸国の権力承継の顛末に強い興味をそそられます。金正日の葬送狂騒曲(北朝鮮) 二代目最高指導者金正日の急死に伴い、三男の金正恩が三代目の最高指導者として権力を承継、地盤固めの為に数多くの粛清が行われたという。正日の長男で正恩の異母兄に当たる正男が、クアラルンプール国際空港で暗殺されたのは記憶に生々しい。朴槿恵の葬送狂騒曲(大韓民国) 朴槿恵前大統領は存命だが、任期半ばで弾劾訴追を受け、懲役25年の二審判決を受けている。朴槿恵のみならず、李承晩(亡命)、朴正熙(暗殺)、全斗煥(無期懲役)、盧泰愚(懲役17年)、盧武鉉(捜査中に自殺)、李明博(懲役15年)と、韓国の大統領経験者はことごとく悲惨な運命を辿る。大統領に過度に権限が集中する政治構造に欠陥があるのか、旧勢力が体よく粛清されているのか、極端に振れるのが韓国の国民性なのか、興味深い。胡錦濤の葬送狂騒曲(中華人民共和国)胡錦濤は存命だが、2012年に最高指導者の権力を承継した習近平は着実に地盤を固め、元最高指導者江沢民の側近や、前最高指導者の胡錦濤の側近を汚職対策の一環で粛清している。超大国の風格を備えつつある中国の権力継承劇は北朝鮮や韓国ほど露骨ではないが、実質的な一党独裁体制における権力承継の実態は興味深い。因みにイアヌッチ監督によると、トランプ大統領の実際の言動が既にフィクションのようである為、彼をコメディにするのは難しいそうですが、敢えて風刺劇を作るとしたら側近をクビにし続ける彼の欲求不満に注目したいそうです。こちらも、是非観てみたいものです。 「スターリンの葬送狂騒曲」のDVD(Amazon)【関連作品】「スターリンの葬送狂騒曲」の原作本(楽天市場) ファビアン・ニュリ/ティエリ・ロバン他「スターリンの葬送狂騒曲」アーマンド・イアヌッチ監督・脚本作品のDVD(楽天市場) 「In the Loop」(2009年)監督・脚本:輸入盤、日本語なし 「Alan Partridge」(2014年)脚本:輸入盤、日本語なしスティーブ・ブシェミ出演作品のDVD(楽天市場) 「ミラーズ・クロッシング」(1990年) 「バートン・フィンク」(1991年) 「レザボア・ドッグス」(1992年) 「パルプ・フィクション」(1994年) 「ファーゴ」(1996年) 「ビッグ・リボウスキ」(1998年) 「ゴーストワールド」(2001年) 輸入盤、リージョン1、日本語なし 「パリ、ジュテーム」(2006年) 「Delirious」(2007年)輸入盤、リージョン1,日本語なし 「メッセンジャー」(2009年) 「嘘はフィクサーのはじまり」(2016年) 「荒野にて」(2017年) 「Nancy」(2018年)
2019年04月11日
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「レディ・バード」(原題:Lady Bird)は、2017年公開のアメリカのコメディ&ドラマ映画です。グレタ・ガーウィグ監督・脚本、シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメら出演で、カリフォルニアの片田舎のカトリック系の高校に通いながら、故郷を離れて東海岸の大学への進学を目指す17歳の少女の揺れ動く心情をコミカルに描いています。第90回アカデミー賞で作品、主演女優、助演女優、脚本、監督の5賞にノミネートされた作品です。 「レディ・バード」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:グレタ・ガーウィグ脚本:グレタ・ガーウィグ出演:シアーシャ・ローナン(クリスティン・"レディ・バード"・マクファーソン) ローリー・メトカーフ(マリオン・マクファーソン、クリスティンの母) トレイシー・レッツ(ラリー・マクファーソン、クリスティンの父) ルーカス・ヘッジズ(ダニー・オニール) ティモシー・シャラメ(カイル・シャイブル) ビーニー・フェルドスタイン(ジュリアン "ジュリー"・ステファンズ) スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン(リバイアッチ神父) ロイス・スミス(シスター・サラ・ジョアン) オデイア・ラッシュ(ジェナ・ウォルトン) ジョーダン・ロドリゲス(ミゲル・マクファーソン、クリスティンの兄 ) マリエル・スコット(シェリー・ユハン) ジョン・カルナ(グレッグ・アンルー) ジェイク・マクドーマン(Mr.ブルーノ) ベイン・ギビー(キャシー・ケリー) ローラ・マラノ(ダイアナ・グリーンウェイ) マリエッタ・デプリマ(ミス・パティ) ダニエル・ゾヴァット(ヨナ・ルイス) クリステン・クローク(ミズ・ステファンズ、ジュリーの母親) アンディ・バックリー(マシュー) キャスリン・ニュートン(ダーリン・ベル) マイラ・ターリー(シスター・ジーナ) ボブ・スティーブンソン(ウォルター神父) ほか【あらすじ】2002年、カリフォルニア州サクラメント。高校生活最後の年を迎え大学を見学に行った帰り、東海岸の大学に行きたいクリスティン(シアーシャ・ローナン)は、地元の大学に行かせたい母マリオン(ローリー・メトカーフ)と大ゲンカになり、癇癪を起したクリスティンは走っている車から飛び降りて右腕を骨折してしまいます。看護師の母マリオン、失業中の父ラリー(トレイシー・レッツ)、スーパーで働く養子の兄ミゲル(ジョーダン・ロドリゲス)とその恋人シェリーの5人暮らしのクリスティンは、自分自身に「レディ・バード」というミドルネームをつけて周りにもそう呼ばせています。母が娘を地元の大学に行かせた理由のひとつには、UCLAを卒業しながら就職できないミゲルとうつ病で仕事が不安定な父を母が看護師の仕事をしながら支えているという、家庭の経済的な事情がありました。親友のジュリー(ビーニー・フェルドスタイン)と一緒に受けた学内ミュージカルのオーディションで、レディ・バードはダニー(ルーカス・ヘッジズ)と出会います。レディ・バードは高校のダンス・パーティーでダニーとキスをしますが、帰宅して母に叱られ、またしても衝突します。それでもダニーと仲は順調で、感謝祭には彼の祖母の家に招待され、ダニーはレディ・バードの家に迎えに来ます。ダニーは彼女の両親にも好印象を与えますが、レディ・バードが自分たちの家を「線路向こう」(スラムの意)にあると話していたことを知った母は面白くありません。その夜、レディーバードはダニーやジュリーたちとバンドのライブに行きます。帰宅したレディバードに、母は彼女のいない感謝祭の夜は寂しかったと言います。学内ミュージカルは成功を収めますが、打ち上げパーティーでダニーが男子とキスしているのを見つけたレディ・バードは彼と別れます。どうしても東海岸の大学に行きたいレディ・バードは、母に内緒で父に助成金の申請書を頼みます。年が明け、レディ・バードがアルバイトを始めたカフェに、ライブを見に行ったバンドの美少年カイル(ティモシー・シャラメ)がやって来ます。彼と会う約束を取付けたクリスティンは、学校ではカイルと同じグループのジェナ(オデイア・ラッシュ)とつるむようになり、ジュリーとは疎遠になります。ある日、ジェナの家のパーティーでカイルとキスした後、レディ・バードは「初めてセックスするのって、普通は何歳?」と母に尋ねます。母の意見を無視したレディ・バードはカイルとすぐに初体験を済ませますが、彼の言葉で傷つき、母が迎えに来た途端に泣き出してしまいます。その後、東海岸の大学からの不合格の通知の中に一通だけ補欠合格がありましたが、彼女は母に言うことができません。高校卒業が近づき、プロムのドレスを選びながら、レディ・バードは再び母とぶつかり合います・・・。【レビュー・解説】つまらない故郷を飛び出して東海岸の大学に進学することを夢見る17歳の女子高生の姿を、母との対立を軸にカトリック系の高校生活、課外活動、親友との友情やボーイフレンドたちとの交際を織り込みながら、コミカルに生き生きと描いた、脚本、演出と多彩な才能を発揮し注目を集める女優グレタ・ガーウィグの単独監督デビュー作です。故郷から離れた大学への進学を夢見る女子高生を母との対立を軸にコミカルに描く優れた脚本、オスカー級俳優陣による極上のパフォーマンスUCLAを卒業しながら就職できない兄とうつ病で仕事が不安定な父を抱え、看護師をしながら必死に家計を支える母と、つまらない故郷の街を飛び出して新天地の大学に進学したい娘との諍いを軸に、娘の高校生活、課外活動、女友達との友情、ボーイフレンドたちとの交際などを織り込んだ完成度の高い脚本を、本作で三度目のオスカーにノミネートされたシアーシャ・ローナンが力強く個性的に演じています。才能溢れる彼女の強烈なパフォーマンスを受け止める両親役のローリー・メトカーフとトレイシー・レッツの老練な演技も見逃せません。特に、娘(女優のゾーイ・ペリー)を育てた自らの経験を活かしたというローリー・メトカーフのパフォーマンスは際立っており、シアーシャ・ローナンのアカデミー主演女優賞と並んで助演女優賞にノミネートされています。成長株の俳優をしっかりと抑えたキャスティング主人公のレディ・バードの親友役を演じるのが、ビニー・フェルドスタインです。彼女の兄は、アカデミー助演男優賞に二度ノミネートされている俳優・脚本家・声優・コメディアンのジョナ・ヒルで、兄同様、ぽっちゃり系の彼女は、コミカルで好感の持てるパフォーマンスで楽しませてくれます。また、レディ・バードのボーイフレンド役として、「ムーンライズ・キングダム」(2012年)、「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年)、「スリー・ビルボード」(2017年)、「ある少年の告白」(2018年)、「ベン・イズ・バック」(2018年)と並み居る名作に出演、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」で助演男優賞にノミネートされているルーカス・ヘッジズ「君の名前で僕を呼んで」(2017年)で主役を演じて一躍注目を浴び、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされているティモシー・シャラメなど、成長株の若手男優もしっかりと押さえています。単独監督デビュー作ながら、こうした素晴らしいキャスティングが実現できるのは、かつてマンブルコアの女王と呼ばれ、インディーズ系の映画で名を成したグレタ・ガーウィグの多彩な才能とネーム・バリューが為せる技でしょう。レディ・バードの由来自身の故郷であるサクラメントを称える作品を書きたいと思っていたグレタ・ガーウィグは、いくつかのシーンを書いたところで行き詰まってしまいます。そこですべてを脇に寄せ、頭に浮かんだ「何故、レディ・バードと呼んでくれないの?」という一言から、彼女のキャラクターを作り上げていきました。「レディ・バード」という名前には、「自由で可愛らしい大人の女性」と言ったニュアンスが感じられます。本作とは無関係ですが、第36代アメリカ合衆国大統領リンドン・ジョンソンの夫人が、クラウディア・「レディ・バード」・ジョンソンと呼ばれていました。グレタ・ガーウィグは、その意味をさして考えることなく、語感で「レディ・バード」という名前を選びましたが、優れた名作が往々にしてそうであるように、無意識とも言えるこの選択が本作に意味ある展開をもたらしています。特に理由を意識することもなく、「レディ・バード」という名前を選びました。脚本に取り組み、いくつかの異なったシーンを書いたところで、行き詰まってしまいました。そこで、すべてを脇に寄せ、「なんで私をレディ・バードと呼んでくれないの?約束したじゃない?」と、ページの一番上に書いたのです。そして考えました、「この娘は一体誰?、自分をこの名前で呼ばせようにしている、この娘は誰?」と。今、振り返ってみれば、マザーグースのわらべ歌は知っていたし、宗教的にであれ、世俗的にであれ、改名すること意味についても、考えてはいました。(グレタ・ガーウィグ監督)http://www.hammertonail.com/interviews/a-conversation-with-greta-gerwig-lady-bird/迷えるレディ・バード上述のインタビューでグレタ・ガーウィグが、言及しているマザーグースのわらべ歌は、"Ladybird, ladybird," BY MOTHER GOOSELadybird, ladybird, Fly away home,Your house is on fire And your children all gone;All except one And that's little Ann,And she has crept under The warming pan.てんとう虫、てんとう虫、おうちに飛んで帰りなさいおうちが火事になり、子供たちは皆死んでしまったよ一人だけ助かった、それは末っ子のアンだよ鍋の下に潜り込んで助かったんだよのことです。レディ・バードはイギリスではてんとう虫の意味でも使われ、迷って自分の服に留まったてんとう虫を、子どもたちはこの歌を歌いながらフッと息をかけて吹き飛ばすそうです。文字通りに家が火事になったわけではないのですが、UCLAを卒業しながら就職できない兄とうつ病で仕事が不安定な父を抱え、母が看護師をしながら懸命に家計を支えており、レディ・バードの家は経済的に大変な状況にあります。そんな家を顧みずに外の世界に憧れているレディ・バードに、マザーグースのてんとう虫が重なり、彼女が生まれ育った故郷を振り返ることができるかが、本作の大きなポイントになります。レディ・バードの優越感と不安定感レディ・バードは自らこのミドルネームを名付け、他の人にもそう呼ぶことを強いていますが、グレタ・ガーウィグはその背後に自分をより大きく見せたい気持ちと、自分自身に満足していない不安定感という、二重の意味があると言います。カトリックの堅信では、聖人の名前を選び、自分の見習いたいこと、到達したい所を選びます。世俗的な例では、ロックスターや映画スターになりたい人が、デビッド・ボウイやマリリン・モンローなどの名前を選びます。これらは彼らの実名ではない、彼らより偉大な人々の名前です。私が面白いと思うのは、これが二重の意味を持つことです。これは自分がより大きな存在になれるという一種の優越感なのですが、その奥底には現在の自分に満足できていないという不安定感が横たわっているのです。(グレタ・ガーウィグ監督)http://www.hammertonail.com/interviews/a-conversation-with-greta-gerwig-lady-bird/18歳の誕生日を迎えるや否やタバコやポルノ雑誌を購入するレディ・バードには、故郷を離れて東海岸の大学に進学し「自由で可愛らしい大人の女性」になりたいという夢とともに、今在る自分に満足できない不安定さがあることを示唆しています。レディ・バードが故郷を受け入れられない理由多くのティーン・エイジャーは、故郷に退屈し、故郷を卑下し、都会の生活に憧れます。大人から見れば、彼らはうぬぼれており、傲慢にも見えますが、自分の出自を受け入れ、それを前提に自分の将来を考えることは、彼らには複雑過ぎるとグレタ・ガーウィグは言います。故郷と取っ組み合いの喧嘩をすることができる、実際に離れるまで故郷の意味を理解できないというのは、そうしたティーン・エイジャーの優越感と不安定感によるものです。「今の私のままで大満足、私の生まれは素晴らしい」というティーン・エイジャーを、私はほとんど知りません。この年代は皆、自分は正しくない、自分がいる場所も正しくない、人生はどこか他の場所で始まると思い、実際に別の場所で生活してみようと考えます。そして実際に他の場所で実際に生活してみて初めて、人生はいつだって同じように続いていることに気がつくのです。(グレタ・ガーウィグ監督)http://www.hammertonail.com/interviews/a-conversation-with-greta-gerwig-lady-bird/レディ・バードのように母に喧嘩して走っている車から飛び降りてしまう少女はそれほど多くはないかもしれませんが、グレタ・ガーウィグはレディ・バードの一連の行動の背後にこうしたティーン・エイジャーに共通する成長のプロセスを想定することにより、その世代を通り過ぎた数多くの大人たちの共感を得ることに成功しています。ヘイリー・スタインフェルドのレディ・バードも見てみたいシアーシャ・ローナンは贔屓の女優の一人です。1994年生まれの彼女は、「つぐない」(2007年)でアカデミー助演女優賞、「ブルックリン」(2015年)と本作で同主演女優賞と、若干24歳にして三度もオスカーにノミネートされている才気溢れる女優で、本作でも天下一品のなりきった感情表現を見せるなど、申し分のないパフォーマンスです。当初は無名の女優を主演に起用しようと考えていたグレタ・ガーウィグですが、勧められるままにシアーシャ・ローナンと旅先のホテルで脚本の読み合わせし、予想を上回る強情さとひょうきんさの感情表現に感動、わずか二分で彼女の起用を決めたといいます。自身が女優であるグレタ・ガーウィグは俳優によるキャラクターの解釈を重視する傾向があり、本作もシアーシャ・ローナンのカラーが強く出ています。それはそれで全く不満はないのですが、グレタ・ガーウィグの作品として捉えた場合、どこかしらおおらかでソフトな部分を期待していしまいます。そういう意味では、「スウィート17モンスター」(2016年)でのパフォーマンスが記憶に新しいヘイリー・スタインフェルド(1996年生)のキャスティングでも見てみたいと思います。シアーシャ・ローナンよりもソフトで微笑ましいコメディになるような気がします。また、グレタ・ガーウィグの俳優によるキャラクターの解釈を重んじるという方針に従えば、クロエ・グレース・モレッツ(1997年生)、エル・ファニング(1998年生)などのキャスティングでも、そろぞれの味が出て面白いのではないかと思います。こうして様々な想像に思いを巡らせて楽しむこともできるもの、脚本がしっかりしているが故でしょう。シアーシャ・ローナン(クリスティン・"レディ・バード"・マクファーソン)シアーシャ・ローナン(1994年〜)は、ニューヨーク出身のアイルランドの女優。両親は共にアイルランド人で、父は俳優。ニューヨークで生まれ、3歳の時に両親と共にアイルランドに移住。9歳で子役のキャリアを初め、アイルランドのテレビシリーズなどに出演する。13歳の時に「つぐない」(2007年)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、一躍、注目を浴びる。その後も、「ラブリーボーン」(2009年)、「ウェイバック -脱出6500km-」(2010年)、「ハンナ」(2011年)、「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)などのヒット作で着実にキェリアを重ね、「ブルックリン」(2015年)及び本作で、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。ローリー・メトカーフ(マリオン・マクファーソン、クリスティンの母)ローリー・メトカーフ(1955年〜)は、イリノイ州出身のアメリカの女優。テレビドラマでエミー賞を3度受賞している。「JFK」(1991年)、「リービング・ラスベガス」(1995年)、「スクリーム2」(1997年)などに出演する一方で、「トイ・ストーリー」シリーズなどのアニメで声優としても活躍している。女優のゾーイ・ペリーが娘で、娘を育てた経験が本作の役作りに生きたと語っている。トレイシー・レッツ(ラリー・マクファーソン、クリスティンの父)トレイシー・レッツ(1965年〜)はアメリカの俳優、劇作家、脚本家。 舞台劇「8月の家族たち」(2008年)の脚本でピューリッツァー賞の戯曲部門を受賞、舞台劇「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」の再演(2013年)に出演し、トニー賞を受賞している。「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)、「Indignation」(2016年、「アンダーカバー」(2016年)、「Christine」(2016年)、「ラバーズ・アゲイン」(2017年)、「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(2018年)など、映画にも数多く出演している。ルーカス・ヘッジズ(ダニー・オニール)ルーカス・ヘッジズ(1996年〜)は、ニューヨーク、ブルックリン出身のアメリカの俳優。母は詩人・女優のスーザン・ブルース、父は脚本家・監督のピーター・ヘッジス。中学の時に演じた演劇が「ムーンライズ・キングダム」(2012年)のキャスティング・ディレクターの目にとまり、出演する。以降、「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年)、「スリー・ビルボード」(2017年)、「ある少年の告白」(2018年)、「ベン・イズ・バック」(2018年)と並み居る名作に出演、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」では助演男優賞にノミネートされている。ティモシー・シャラメ(カイル・シャイブル)ティモシー・シャラメ(1995年〜)は、ニューヨーク出身のアメリカの俳優。父はフランス人、母は元ブロードウェイ・ダンサーで、フランスとアメリカ双方の国籍を有する。フランス在住の姉も俳優。幼少の頃から一年の1/3以上をフランスで過ごし、フランス語に堪能。幼少の頃からコマーシャルに出演、2008年に短編映画、2009年にテレビ映画にデビュー。「君の名前で僕を呼んで」(2017年)の主演に抜擢され、第90回アカデミー主演男優賞にノミネートされている。ビーニー・フェルドスタイン(ジュリアン ・"ジュリー"・ステファンズ)ビーニー・フェルドスタイン(1993年〜)は、アメリカの女優。2002年にテレビのコメディ・ドラマ・シリーズでデビュー。アカデミー助演男優賞に二度ノミネートされている俳優・脚本家・声優・コメディアンのジョナ・ヒルは、実の兄。兄同様、ぽっちゃり系の彼女は、インタビューの印象もコミカルで嫌味がなく、今後の活躍が大いに期待される。【撮影地(グーグルマップ)】レディバードの家レディバードが通う高校レディバードの兄、ミゲルがバイトするスーパーマーケットレディバードが庭で結婚式を挙げたいと夢見る家レディバードがバイトするコーヒー・ショップサクラメントの夜景のカットでネオンサインが映し出されるバー18歳になったレディバードが煙草と雑誌「プレイガール」を買う店レディバードと両親が向かうサクラメント国際空港レディバードがニューヨークで立ち寄る教会 「レディ・バード」のDVD(楽天市場)【関連作品】グレタ・ガーウィグ脚本・出演作品のDVD(楽天市場) 「フランシス・ハ」(2012年)出演・脚本 「EDEN/エデン」(2014年) 「ミストレス・アメリカ」(2015年)出演・脚本 「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」(2015年) 「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」(2016年) 「20センチュリー・ウーマン」(2016年)シアーシャ・ローナンxルーカス・ヘッジズ共演作品のDVD(楽天市場) 「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)シアーシャ・ローナン出演作品のDVD(楽天市場) 「つぐない」(2007年) 「ウェイバック -脱出6500km-」(2010年) 「ブルックリン」(2015年) 「ゴッホ 最期の手紙」(2017年)ローリー・メトカーフ出演作品のDVD(楽天市場) 「JFK」(1991年) 「リービング・ラスベガス」(1995年) 「スクリーム2」(1992年)トレイシー・レッツ出演作品のDVD(楽天市場) 「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年) 「Indignation」(2016年)輸入盤、日本語なし 「アンダーカバー」(2016年) 「Christine」(2016年) 「ラバーズ・アゲイン」(2017年) 「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(2018年)ルーカス・ヘッジズ(出演作品のDVD(楽天市場) 「ムーンライズ・キングダム」(2012年) 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年) 「スリー・ビルボード」(2017年) 「ある少年の告白」(2018年) 「ベン・イズ・バック」(2018年)ティモシー・シャラメ出演作品のDVD(楽天市場) 「君の名前で僕を呼んで」(2017年)
2019年03月08日
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「グローリー/明日への行進」(原題: Selma)は、2014年公開のアメリカの歴史ドラマ映画です。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアらによって先導された1965年のアラバマ州セルマの大行進を題材に、ポール・ウェブによる脚本をエイヴァ・デュヴァーネイが改稿・監督、デヴィッド・オイェロウォ、トム・ウィルキンソン、ティム・ロス、カルメン・イジョゴら出演で、アフリカ系アメリカ人の投票権を求めるデモ行進を白人警官隊が暴力で鎮圧、多くの人々の流血がテレビで報道され話題を呼んだ「血の日曜日事件」と、その事件をきっかけに人種を超えた2万5000人が集結、歴史を動かした世紀の大行進に至るまでの実話を描いています。第87回アカデミー賞で作品賞と主題歌賞にノミネートされ、主題歌賞(コモン、ジョン・レジェンド「グローリー」)を受賞した作品です。 「グローリー/明日への行進」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:エイヴァ・デュヴァーネイ脚本:ポール・ウェブ/エイヴァ・デュヴァーネイ出演:デヴィッド・オイェロウォ(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア) トム・ウィルキンソン(リンドン・ジョンソン ) カルメン・イジョゴ(コレッタ・スコット・キング) アンドレ・ホランド(アンドリュー・ヤング) テッサ・トンプソン(ダイアン・ナッシュ) ジョヴァンニ・リビシ(リー・C・ホワイト) ロレイン・トゥーサント(アメリア・ボイントン・ロビンソン) ウェンデル・ピアース(ホージア・ウィリアムズ) コモン(ジェームズ・ベヴェル) アレッサンドロ・ニヴォラ(ジョン・ドア) キース・スタンフィールド(ジミー・リー・ジャクソン) キューバ・グッディング・ジュニア(フレッド・グレイ) ディラン・ベイカー(ジョン・エドガー・フーヴァー) ティム・ロス(ジョージ・ウォレス) オプラ・ウィンフリー(アニー・リー・クーパー) ルーベン・サンチャゴ=ハドソン(ベイヤード・ラスティン) ニーシー・ナッシュ(リッチー・ジーン・ジャクソン) コルマン・ドミンゴ(ラルフ・アバーナシー) オマール・ドーシー(ジェームズ・オレンジ) レディシ・ヤング(マヘリア・ジャクソン) トライ・バイヤーズ(ジェームズ・フォアマン) ケント・フォールコン(サリヴァン・ジャクソン) ジョン・ラヴェル(ロイ・リード) ヘンリー・G・サンダース(ケイガー・リー) ジェレミー・ストロング(ジェームズ・リーブ) ナイジェル・サッチ(マルコム・X) チャリティ・ジョーダン(ヴィオラ・リー・ジャクソン) ハヴィランド・スティルウェル(ジョンソンの秘書) タラ・オックス(ヴィオラ・リッツォ) マーティン・シーン(フランク・ミニス・ジョンソン) マイケル・シカニー(アーチビショップ・ヤコヴォス・オブ・アメリカ) マイケル・パパジョン(ジョン・クラウド少佐) スティーヴン・ルート(アル・リンゴ) スタン・ヒューストン(ジム・クラーク保安官) E・ロジャー・ミッチェル(フレデリック・D・リース) ほか【あらすじ】1964年、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師(デヴィッド・オイェロウォ)は公民権法実現への貢献が評価され、ノーベル平和賞を受賞します。しかしながら、黒人と白人の平等はあくまで法律上の話で、保守的なアメリカ南部では黒人に対する暴力や、黒人の有権者登録への妨害などの差別が続いていました。こうした状況を鑑みたキング牧師は、ジョンソン大統領(トム・ウィルキンソン)に黒人の投票権を一律に認める投票権法の立法を要求しますが、貧困問題やベトナム戦争を優先するジョンソン大統領はこれを受け入れようとしません。そこでキング牧師は、黒人差別が最も根深い地域の1つであるアラバマ州のセルマを拠点に、投票権法の実現を要求する運動を開始、黒人の有権者登録への妨害に抗議する600名のデモ隊がセルマを出発します。しかし、差別主義的なジョージ・ウォレス知事(ティム・ロス)を筆頭に警官隊が暴力を振るい、このデモを鎮圧します。彼らが進んだ距離はわずか6ブロックでしたが、この事件のショッキングな映像が「血の日曜日事件」として全米で報じられ、公民権運動への支持者を集めていきます。抗議デモへの参加者は日に日に増え、ついに2万5000人を突破、彼らの声は大統領や世界を動かし、歴史を変えていきます・・・。【レビュー・解説】セルマの大行進の成功と投票権法の施行に至るまでの約二年間を題材に、非暴力を貫くキング牧師の政治信条のみならず、妻との不和や不倫疑惑を含めた彼の人間的な側面を描くともに、周囲の人々と道半ばで暴力に倒れた人々を讃える感動的な歴史ドラマです。キング牧師と周囲の人々、道半ばで倒れた人々を描いた感動的な歴史ドラマ 公民権運動を非暴力で牽引したキング牧師と周囲の人々を描くマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(1929年1月15日〜1968年)、通称キング牧師は、アフリカ系アメリカ人の公民権運動の指導者として活動したプロテスタント・バプテスト派の牧師です。職と自由を求めた1963年8月28日の「ワシントン大行進」の際に行った「I Have a Dream」演説で広く知られ、1964年にはノーベル平和賞を受賞するなど、特にアフリカ系アメリカ人に対する差別の歴史を語る上で最も重要な人物の一人です。本作は、キング牧師を描いた初の長編映画ですが、有名な「I Have a Dream」演説や悲惨なキング牧師の暗殺を敢えて描かず、16番街バプティスト教会爆破事件から、キング牧師のノーベル平和賞受賞、血の日曜日事件、セルマの大行進を経て、米国の公民権法の中でも最も実効力あるとされる1965年投票権法の施行に至るまでの約2年の間のイベントを通して、非暴力を貫くキング牧師の政治信条のみならず、妻との不和や不倫疑惑などを含めた彼の人間的な側面を描くとともに、周囲の人々とこの間に道半ばで倒れた人々を讃えています。本作が描いているイベント1963年9月15日 16番街バプティスト教会爆破事件1964年12月10日 キング牧師のノーベル平和賞受賞1965年2月21日 マルコムXの暗殺1965年2月26日 ジミー・リー・ジャクソン殺人事件1965年3月7日 血の日曜日事件1965年3月9日 ジェイムズ・リーブ殺人事件1965年3月21日〜3月25日 セルマの大行進1965年3月25日 ヴィオラ・リッツォ殺人事件1965年8月6日 ジョンソン大統領が投票権法に署名、施行豪華俳優によるキャラクター描写が魅力キャラクター描写が本作の大きな魅力のひとつで、キング牧師役に入れ込み、7年がかりで主役を勝ち取ったデヴィッド・オイェロウォ「イン・ザ・ベッドルーム」(2001年)、「フィクサー」(2007年)アカデミー男優賞にノミネートされているトム・ウィルキンソン「ブルーに生まれついて」(2015年)、「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」(2016年)などヒット作の波に乗るカルメン・イジョゴ「ロブ・ロイ/ロマンに生きた男」(1995年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされているティム・ロス「カラーパープル」(1985年)でアカデミー助演女優賞にノミネートされているオプラ・ウィンフリー「ザ・エージェント」(1996年)でアカデミー助演男優賞を受賞したキューバ・グッディング・ジュニア「ショート・ターム」(2013年)、「DOPE/ドープ!!」(2015年)、「ストレイト・アウタ・コンプトン」(2015年)、「ゲット・アウト」(2017年)と、成長著しいキース・スタンフィールドらが素晴らしいパフォーマンスを見せています。キング牧師の雰囲気を巧みに醸し出すデヴィッド・オイェロウォキング牧師本人に似せることにはこだわらなかったという本作ですが、デヴィッド・オイェロウォはキング牧師の精神やエネルギーを巧みに表現することにより、彼の持つ雰囲気が見事に再現しています。本作のキング牧師役に入れ込んだデヴィッド・オイェロウォは、七年もの歳月をかけてを主役を勝ち取りました。当初はリー・ダニエルズ監督がヒュー・ジャックマン、リアム・ニーソン、ロバート・デ・ニーロらを起用して制作する予定でしたが、「大統領執事の涙」(2013年)と日程が競合した為に本作の監督を降板、デヴィッド・オイェロウォが後任にエイヴァ・デュヴァーネイ監督の起用を働きかけた経緯があります。さらに彼は「大統領執事の涙」で共演したオプラ・ウィンフリーに働きかけ、影響力の大きい彼女のプロデュースによって数年かかかった映画化に一気にゴーサインが出ました。デヴィッド・オイェロウォは本作の主役を演じただけではなく、映画化に向けた影の立役者と言えます。出色のパフォーマンスを見せる、トム・ウィルキンソン、ティム・ロスジョンソン大統領を演じたトム・ウィルキンソンも出色のパフォーマンスを見せています。人種差別に対して否定的であり、公民権運動に強い理解を示したジョンソン大統領は、1964年に公民権法に、翌1965年に投票権法に署名しており、差別撤廃に貢献した大統領と評価されていますが、本作ではいやいやながら差別撤廃を勧めているかのように描かれています。このあたり、アメリカ国内でも物議を醸したようですが、政治の世界は必ずしも一筋縄ではいかないこと、ジョンソン大統領はスタンドプレーよりも地味で粘り強い議会懐柔策を得意としたことなどを考慮すれば、本音はともかくとして、本作に描かれているような慎重な事の運びは実際にあり得たかのではないかと思われます。トム・ウィルキンソンは、そんな一筋縄ではいかない政治家を巧みに演じています。ジョージ・ウォレス知事を演じたティム・ロスも出色です。ジョージ・ウォレス知事は人種隔離政策など過激な主張を繰り返すなど極めて差別主義的な政治家で、本作ではいわゆるヒール(悪役)的な役柄ですが、ティム・ロスはなかなかのヒールっぷりを披露してくれます。女性のプレゼンスも丹念に描き出す夫であるキング牧師に距離を感じる美しい妻を演じるカルメン・イジョゴは、テレビ・ドラマで同じコレッタ・スコット・キング役を演じ、生前の本人にお墨付きをもらったというはまり役で、大物活動家である夫に妻として一歩も引かずに対峙する姿が見事です。また、アメリカの俳優、テレビ番組の司会者&プロデューサーで、アメリカ国民に大きな影響力を持つオプラ・ウィンフリーが、役人の不当な嫌がらせにもかかわらず何度も有権者登録を申請する女性を演じています。公民権運動というと男性的な印象ですが、実際は少なかぬ数の女性も活躍していました。エイヴァ・デュヴァーネイ監督はそうした女性たちの姿を丹念に描き出しています。余談:日本に人種差別はあるのか?こうした公民権運動に関する映画や、差別に関する映画を見る度に、平等を勝ちとる為に膨大な時間がかかっていること、おびただしい血が流されていることを実感します。セルマの大行進は、一見、大成功したかのように見えますが、最後のテロップに出るように、その数時間後に支援者のヴィオラ・リッツォが K.K.K.に銃撃され命を落とします。なんと、その犯人たちは無罪になるのですが、こうした差別が法律によって完全になくなることはなく、50年以上経った今でも白人警官による黒人射殺など差別的な事件が相次いでいます。恐らく差別と同化は人間の相反するふたつの本能で、理性である程度はコントロールできても、不測の事態に遭遇したり、窮地に立たされると、歯止めが効かなくなるのかもしれません。人は時に、自らに内に潜む差別心を思い起こすとともいに、差別撤廃の為に費やされてきた気が遠くなるほど長い時間、流されたおびただしい量の血に謙虚に向き合うことが必要なのではないかと思います。アメリカに比べると日本は単一民族に近く、一見、人種差別がないように見えますが、本当にそうでしょうか?アイヌや在日外国人に対する差別は歴然とあったものの、対象が零細だった為、被差別の声が圧殺されていたというのが実態なのではないでしょうか。私事になりますが、マンションの工事説明会の際に、ひとりの主婦が「作業員に外国人はいるか?」と質問をして、びっくりしたことがあります。工事会社の人は言葉を選びながら慎重に回答していましたが、家庭の安全が心配な一心で質問したその主婦には自らの言葉が差別的であるという自覚が全く見えませんでした。気分を害して反論する外国人が説明会の参加者にはいませんので、彼女には差別的であると気づく機会もありません。一見、人種差別がないように見える日本ですが、それはこのように差別問題が噴出する機会が極めて少ないだけで、差別の自覚が持てないだけより精神的に未熟であると言えます。ももいろクローバーZ、ラッツ&スター、浜田雅功と、ブラックフェイス問題が繰り返して報じられますが、その度に、「ここは日本だ、ブラックフェイスはタブーでもなんでもない」という稚拙な議論が出てくるのが残念です。欧米の人々がそうであるように、日本人も間違いなく差別的です。問題が噴出する機会が極めて少ないので、自覚がないだけです。メディアのグローバル化が進む中、そんな日本に人種差別に関する治外法権が認められるとは思えません。「日本ではタブーではない」と安易に一蹴してしまうことで、我々は人種差別に関して学ぶ貴重な機会を失うことになります。我々は、未熟であることを自覚し、学ぶ姿勢を持つ必要があります。実は「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」(2008年)で黒い肌のメイクをしたロバート・ダウニー・Jr. がアカデミー助演男優賞にノミネートされましたが、アメリカでもこのように黒塗りがタブーにならない場合もあります。彼は、役作りの為に皮膚移植をして黒人になった俳優を演じているのですが、この設定は黒人から見て差別的とは認識されないのです。また、本物の障害者を障害者の役で登場させ、悪役を演じさせたりするファレリー兄弟は、「障害者を健常者と平等に扱ってくれる」と逆に障害者から高い支持を得ています。フランスの実話に基づく「最強のふたり」(2011年) では、差別などお構いなしの型破りな移民の介護人に車椅子の富豪が全幅の信頼を寄せます。つまるところ、すべて差別される立場にある人が関係をどう捉えるかで差別かどうかが決まっています。ももいろクローバーZ、ラッツ&スター、浜田雅功のブラックフェイス問題に戻ると、彼らはすべて差別される人との関係が希薄です。ならば、彼らがどのような姿勢で臨むべきかは自明なのではないかと思います。デヴィッド・オイェロウォ(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)デヴィッド・オイェロウォ(1976年〜 )は、オックスフォード出身のイギリスの俳優。ナイジェリア系の両親を持つ。「ラストキング・オブ・スコットランド」(2006年)、「猿の惑星: 創世記」(2011年)、「リンカーン」(2012年)、「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」(2014年)、「奇跡のチェックメイト クイーン・オブ・カトゥエ」(2016年)などに出演している。トム・ウィルキンソン(リンドン・ジョンソン )トム・ウィルキンソン(1948年〜 )はイギリスの俳優。イングランドとカナダで育ち、1970年代よりテレビに出演、ナショナル・シアターやロイヤル・シェイクスピア・カンパニーなどに所属し、舞台俳優としても活躍する。1990年代より「いつか晴れた日に」(1995年)、「フル・モンティ」(1997年)、「恋におちたシェイクスピア」(1998年)など本格的に映画出演し、「イン・ザ・ベッドルーム」(2001年)、「フィクサー」(2007年)でアカデミー賞にノミネートされる。2004年、イギリス王室より大英帝国勲章OBEを叙勲。他にも、「エターナル・サンシャイン」(2004年)、「ゴーストライター」(2010年)、「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(2011年)、「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」(2012年)、「ベル-ある伯爵令嬢の恋-」(2013年)、「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)など、数々の名作に出演している。カルメン・イジョゴ(コレッタ・スコット・キング)カルメン・イジョゴ(1973年〜 )は、ロンドン出身のイギリスの女優。父親はナイジェリア人、母親はスコットランド人。「ブルーに生まれついて」(2015年)、「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」(2016年)、「イット・カムズ・アット・ナイト」(2017年)などに出演している。ティム・ロス(ジョージ・ウォレス)ティム・ロス(1961年〜 )は、ロンドン出身のイギリスの俳優、映画監督。高校時代に演技に興味を持つようになる。俳優を志し、大学を中退して、小劇団に参加する。演劇学校には通っていない。1983年に映画デビュー、長年売れない俳優であったが、クエンティン・タランティーノ監督のデビュー作である「レザボア・ドッグス」(1992年)、同監督の出世作である「パルプ・フィクション」(1994年)に出演し、注目される。以降、「世界中がアイ・ラヴ・ユー」(1996年)、「キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け」(2012年)、「ヘイトフル・エイト」(2015年)、「或る終焉」(2015年)などに出演、「ロブ・ロイ/ロマンに生きた男」(1995年)ではアカデミー助演男優賞にノミネートされている。キース・スタンフィールド(ジミー・リー・ジャクソン)キース・スタンフィールド (1991年〜)は、カリフォルニア出身のアメリカの俳優、ラッパー。貧しい機能不全家族で育ち、14歳で演劇部に入部し、俳優を志す。デスティン・ダニエル・クレットン監督の卒業制作の短編映画「Short Term 12」(2009年)で映画デビュー、いくつかの短編映画に出演した後、俳優業を離れ、様々な職を転々とする。長編映画「ショート・ターム」(2013年)で再び、クレットン監督から声がかかり、インディペンデント・スピリット助演男優賞にノミネートされた他、クレットンと合作の劇中ラップ曲「So You Know What It's Like」はアカデミー歌曲賞の有力候補と目された。「ストレイト・アウタ・コンプトン」(2015年)、「DOPE/ドープ!!」(2015年)、「天下無敵のジェシカ・ジェームズ」(2017年)、「Sorry to Bother You」(2018年)などに出演している。キューバ・グッディング・ジュニア(フレッド・グレイ)キューバ・グッディング・ジュニア(1968年〜)は、ニューヨーク市ブロンクス出身のアメリカ合衆国の俳優。「星の王子 ニューヨークへ行く」(1988年)で映画デビュー、「ザ・エージェント」(1996年)で落ち目のフットボール選手を演じ、アカデミー助演男優賞を受賞してる。オプラ・ウィンフリー(アニー・リー・クーパー)オプラ・ゲイル・ウィンフリー(1954年〜)は、アメリカの俳優、テレビ番組の司会者&プロデューサー、慈善家。彼女が司会を務めるテレビ番組「オプラ・ウィンフリー・ショー」はアメリカのトーク番組史上最高の番組であると評価され、多数の賞を受賞している。非常に影響力を持ったテレビ司会者で、紹介した本は必ず大ヒットすると祝えれ、タイム誌は世界で最も影響力のある人物の1人として彼女を取り上げてもいる。2008年アメリカ合衆国大統領選挙では早い段階でバラク・オバマ候補への支持を表明し、その後のオバマ旋風のきっかけになったと言われている。コモン(ジェームズ・ベヴェル)コモン(1972年〜)は、シカゴ出身のアメリカのラッパー、俳優。ジョン・レジェンド、ライムフェストとともに書き、ジョン・レジェンドとともに歌った本作のテーマ曲「グローリー」は、第87回アカデミー賞で主題歌賞を受賞している。【動画クリップ(YouTube)】血の日曜日事件セルマの大行進の記録映像有名な「I have a dream」演説全文(英文及び和訳)→https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/2368/【撮影地(グーグルマップ)】キング牧師が殴打されたホテル設定はセルマのホテルだが、撮影はジョージア州ニュートン郡の古い裁判所で行われている。有権者登録の窓口があるセルマ郡庁舎設定はセルマだが、撮影はアトランタ州のマリエッタ・コブ美術博物館で行われている。ジミー・リー・ジャクソンが殺害された食堂セルマの大行進の起点(セルマのエドムンド・ペタス橋)セルマの大行進の終点(モンゴメリーのアラバマ州都庁舎) 「グローリー/明日への行進」のDVD(楽天市場)【関連作品】エイヴァ・デュヴァーネイ監督・脚本xデヴィッド・オイェロウォのコラボ作品 「Middle of Nowhere」(2012年)輸入盤、Region 1、日本語なしエイヴァ・デュヴァーネイ監督・脚本・出演作品のDVD(楽天市場) 「I Will Follow」(2011年、 監督・脚本)輸入盤、Region 1、日本語なし 「Life Itself」(2014年、出演)輸入盤、Region 1、日本語なし 「13th」(2016年、監督)輸入盤、Region 1、日本語なし 「Girls Trip」(2017年、出演)輸入盤、Region 1、日本語なし 「Half The Picture」(2018年、出演)輸入盤、Region 1、日本語なしデヴィッド・オイェロウォ出演作品のDVD(楽天市場) 「ラストキング・オブ・スコットランド」(2006年) 「A Raisin in the Sun」(2008年)輸入盤、Region 1、日本語なし 「猿の惑星: 創世記」(2011年) 「リンカーン」(2012年) 「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」(2014年) 「奇跡のチェックメイト クイーン・オブ・カトゥエ」(2016年) 「A United Kingdom」(2017年)輸入盤、日本語なしトム・ウィルキンソン出演作品のDVD(楽天市場) 「いつか晴れた日に」(1995年) 「フル・モンティ」(1997年) 「恋におちたシェイクスピア」(1998年) 「イン・ザ・ベッドルーム」(2001年)「エターナル・サンシャイン」(2004年) 「フィクサー」(2007年)「ゴーストライター」(2010年) 「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(2011年) 「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」(2012年) 「ベル-ある伯爵令嬢の恋-」(2013年) 「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)カルメン・イジョゴ出演作品のDVD(楽天市場) 「ブルーに生まれついて」(2015年) 「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」(2016年) 「イット・カムズ・アット・ナイト」(2017年)ティム・ロス出演作品のDVD(楽天市場) 「レザボア・ドッグス」(1992年) 「パルプ・フィクション」(1994年) 「世界中がアイ・ラヴ・ユー」(1996年) 「キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け」(2012年) 「ヘイトフル・エイト」(2015年) 「或る終焉」(2015年)キース・スタンフィールド出演作品のDVD(楽天市場) 「ショート・ターム」(2013年) 「DOPE/ドープ!!」(2015年) 「ストレイト・アウタ・コンプトン」(2015年) 「天下無敵のジェシカ・ジェームズ」(2017年) 「ゲット・アウト」(2017年) 「ソーリー・トゥ・ボザー・ユー」(2018年)
2019年03月02日
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「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」(原題:Maggie's Plan)は、2015年公開のアメリカのロマンティック・コメディ映画です。レベッカ・ミラー監督、グレタ・ガーウィグ、イーサン・ホーク、ジュリアン・ムーアら出演で、恋愛感情を維持できない女性が人工授精でシングルマザーになることを決意するも、突然、妻子ある男性と恋に落ち、勢いで結婚、子供も生まれる、が、やはり思いが冷めてしまい、夫を元妻に返そうとする、型破りな男女3人の三角関係を描いています。 「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:レベッカ・ミラー脚本:レベッカ・ミラー原案:カレン・リナルディ著「The End of Men」出演:グレタ・ガーウィグ (マギー・ハーデン) イーサン・ホーク(ジョン・ハーディング) ジュリアン・ムーア(ジョーゼット) ビル・ヘイダー(トニー) マーヤ・ルドルフ(フェリシア) トラヴィス・フィメル (ガイ・チャイルダーズ) ウォーレス・ショーン (クリーグラー) アイダ・ロハティン(リリー) アレックス・モーフ(アル・ベントワイズ) ジャクソン・フレイザー(ポール) ミーナ・サンドウォール(ジャスティン) フレディ・ウォーカー=ブラウン(ビヴァリー) モンテ・グリーン(マックス) ほか【あらすじ】マギー・ハーデン(グレタ・ガーウィグ)はアート関係の仕事に携わりつつ、ニューヨークの大学でデザインを学んでいます。子供は欲しいが恋愛感情が長続きしないマギーは、旧知のガイ・チャイルダーズ(トラヴィス・フィメル )から精子の提供を受け、自ら人工授精することを計画します。そんなある日、マギーは文化人類学者のジョン・ハーディング(イーサン・ホーク)と知り合いになります。彼には、コロンビア大学で教鞭を執るジョーゼット(ジュリアン・ムーア)という妻がいましたが、全てを研究に捧げる彼女に嫌気がさしていました。マギーとジョンは大学でよく顔を合わせるようになり、マギーはジョンが書いている小説を読み、彼と小説の話をするようになります。かねてから計画していた人工授精をマギーが決行しようとした時、ドアのベルが鳴り、計画は失敗します。マギーがドアを開けると、そこにはジョンが立っており、ジョンは彼女に告白します。それから3年後、マギーとジョンは結婚し、娘のリリーとジョンの連れ子二人と共に幸せな生活を送っています。しかし、自分の仕事を後回しにして子供3人の世話と仕事も辞め小説家の夢を追い続けるジョンのサポートに明け暮れているマギーは、現状に不満を抱いています。そんな中、忙しいジョーゼットの子供たちの面倒を見るうちに彼女とも親しくなったマギーは、ジョーゼットが鬼嫁ではなく知的で魅力的な女性であること、そして今でもジョンを深く愛していることに気付きます。ジョンはジョーゼットと一緒にいた方がきっと幸せになれる、そう思ったマギーは、夫を前妻に返すというとんでもない計画を思いつきます・・・。【レビュー・解説】人工授精でシングルマザーになることを試みる開放的な女性が、一転、妻子ある男性と恋に落ち、結婚、子を設けるもやがて不満を抱き、夫を元妻へ返そうと企てる型破りなロマンティック・コメディを、三人のオスカー級俳優と二人の個性的なコメディアンが知的な含蓄たっぷりに演じています。夫を元妻へ返そうと企てる型破りなロマンティック・コメディ強力なキャスティング「フランシス・ハ」(2012年)などのインディーズ映画に数多く出演、マンブルコアの女王と呼ばれ、監督・脚本を務めた「レディバード」(2018年)ではアカデミー監督賞、脚本賞にノミネートされているグレタ・ガーウィグこれまでに四度もアカデミー女優賞にノミネートされ、「アリスのままで」(2014年)で同主演女優賞を受賞しているジュリアン・ムーア「トレーニングデイ」(2001年)、「6才のボクが、大人になるまで。」(2013年)でアカデミー助演男優賞にノミネート、「ビフォア・サンライズ」(2004年)、「ビフォア・ミッドナイト」(2013年)で同脚本賞にノミネートされているイーサン・ホークと、オスカー級の俳優三人をメインキャストに据えています。さらに個性的な二人のコメディアン、ビル・ヘイダーマーヤ・ルドルフで脇を固めた、実に強力なキャスティングです。グレタ・ガーウィグが演じるのは、「恋愛感情を維持できず、人工授精でシングルマザーになることを決意するも、妻子ある男性と恋に落ち、勢いで結婚、子供も生まれる、が、やはり思いが冷め、夫を元妻に返そうと企てる女性」という難しい役柄です。内面にしっかりとしたものを持ちながらも、一見、風変わりで超然としているように見える女性マギーを、ガーウィグはやや高めの声で巧みに演じています。声のトーンひとつでここまでキャラターを作れるものかと、思わず感心してしまうパフォーマンスです。「アリスのままで」に続いてコロンビア大学の教授を演じるのが二度目のジュリアン・ムーアは、固く結いたお団子ヘアにデンマーク訛りの英語で個性的な役作りをしています。ジョゼット役はムーア以外にいないと、クランクインの二年前からミラー監督は彼女と話し合っていたというはまり役です。妻の方が優秀な格差夫婦のダメ夫で、離婚しマギーと再婚するも新妻に返品されてしまう学者を軽妙に演じるイーサン・ホークは、派手さはないものの微妙なしっかりとコメディを演じ分けており、さすが大俳優と納得させるパフォーマンスです。イーサン・ホークは長いキャリアの中で本作が初めての女性監督でしたが、その後、「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」(2016年)でも、女性監督の元で主役女性の夫役を演じています。本作とは対象的な、寡黙で無骨な漁師という役柄ですが、女性監督の元でもタイプキャストになることなく、幅広い役柄を演じています。これら三人のオスカー級俳優が演じる洒脱なコメディに、個性派コメディアンのビル・ヘイダーとマーヤ・ルドルフ混じることにより、作品のトーンがぐっと締まり、立体感が与えています。知的で含蓄のあるコメディ監督・脚本のレベッカ・ミラーは、アメリカの映画監督、脚本家、女優で、「セールスマンの死」で有名な劇作家アーサー・ミラーの娘、オスカー俳優のダニエル・デイ=ルイスの妻でもあります。彼女は絵を描いたり、小説を書いたりと多彩な才能を持ち主です。彼女はシリアス系の作品を制作することが多く、コメディは本作が初めてですが、彼女のバックグラウンドを反映するかのように知的で含蓄のある作品になっており、気の利いたセリフに思わずクスリというのも度々です。序盤でハッピーエンドになり、そこから捻りの効いた中盤、終盤が展開するという変則的なロマンティック・コメディですが、再婚をテーマにした1940年代のスクリューボール・コメディを参考にしているそうです。本作はミラーの親友であるカレン・リナルディが送ってきた未完成の小説の一部をベースに制作されたもので、ミラーは一人で人工授精を企てたり、夫を元妻に返品しようと企てたりする、開放的な女性マギーに魅了されたといいます。このようにキャラクターの人物は稀のようにも思われますが、制作スタッフやキャストにも、ピクルスで起業した大学時代からの友人パートナーと長続きしないことを予見、パートナー以外のドナーから精子提供を受けた友人離婚して別の男性と結婚したが、新旧両方の家族の面倒を見ることになり、何をしているんだろうと自問する友人がいるなど、実は現実味のある話が随所に織り込まれています。一見、型破りなキャラクターたちを通して、婚姻関係、友人関係、親子関係やコミュニティなどにおいて、人々が互いに依存する、リアルで複雑な人間関係を描いているのです。本作では夫の知らないところで前妻と新妻が関係を構築しますが、これは夫にとって悲劇であると同時に注目すべきことでもあります。「強い女性たちや多様な女性たちを描きたかったのか?」と聞かれますが、そうではありません。人生がどんなものか、描いただけです。私の人生は、複雑で特異で矛盾した性格の女性たちで満ち溢れています。男性と同じです。私達はたかが人間です。そして、人々が映画に期待するのはそんなキャラクターたちです。(レベッカ・ミラー監督)https://www.vogue.com/article/maggies-plan-rebecca-miller-interviewグレタ・ガーウィグ (マギー・ハーデン)グレタ・セレスト・ガーウィグ(1983年〜)は、サクラメント出身のアメリカの女優、映画監督、脚本家。元々は脚本家志望であったが、在学中に端役でマンブルコア映画に出演したのがきっかけとなり、以降、マンブルコア映画運動で知名度を上げた。「フランシス・ハ」(2012年)、「ミストレス・アメリカ」(2015年)では出演と脚本をこなし、「レディ・バード」(2017年)では脚本と監督を務め、作品、監督、脚本など、アカデミ−賞5部門にノミネートされている。イーサン・ホーク(ジョン・ハーディング)イーサン・ホーク(1970年〜)は、テキサス出身のアメリカの俳優、作家、小説家、映画監督。1985年に映画でデビューするが、活動を一時中断し、「いまを生きる」(1989年)で復帰、「ホワイト・ファング」(1991年)で初主演、「リアリティ・バイツ」(1994年)、リチャード・リンクレイター監督の「恋人までの距離」(1995年)、「ガタカ」(1997年)と、着実にキャリアを重ねる。「トレーニング デイ」(2001年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされる。「恋人までの距離」の続編の「ビフォア・サンセット」(2004年)、「ビフォア・ミッドナイト」(2013年)ではリンクレイター監督、共演のジュリー・デルピーと共に脚本を手がけ、いずれもアカデミー脚色賞にノミネートされる。リンクレイター監督の「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年)で、2度目のアカデミー助演男優賞にノミネートされている。ジュリアン・ムーア(ジョーゼット)ジュリアン・ムーア(1960年〜)は、ノースカロライナ州出身のアメリカの女優。高校時代から演劇を始める。大学卒業後、ニューヨークでウェイトレスをしながらオーディションを受け、1985年からオフ・ブロードウェイやテレビで活躍、1990年に映画デビュー。以降、現在に至るまで、インディペンデント映画から大作まで幅広く活躍しており、これまでアカデミー賞に4回ノミネートされ、「アリスのままで」(2014年)でアカデミー主演女優賞を受賞している。ビル・ヘイダー(左、トニー)とマーヤ・ルドルフ(右、フェリシア)ビル・ヘイダー(1978年〜)は、オクラホマ州出身のアメリカの俳優・コメディアン・声優・プロデューサー。「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」(2007年)、「スーパーバッド 童貞ウォーズ (2007年)、「寝取られ男のラブ バカンス」(2008年)など、アパトー絡みの映画に出演する一方で、「くもりときどきミートボール」(2009年)、「モンスターズ・ユニバーシティ」(2013年)、「インサイド・ヘッド」(2015年)、「ソーセージ・パーティー」(2016年)、「ファインディング・ドリー」(2016年)等、傑作アニメへの声の出演も多い。マーヤ・ルドルフ(1972年〜)は、フロリダ州出身の女優、コメディアン、ミュージシャン。映画監督のポール・トーマス・アンダーソンとパートナーの関係にあり、二人の間に4人の子供がいる。大学卒業後に、人気テレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」にレギュラー出演するようになり、ホイットニー・ヒューストン、ジェニファー・ロペス、ハル・ベリー、ティナ・ターナーなどのエンターテイナーから、元国務長官コンドリーザ・ライスや大統領夫人ミシェル・オバマなどの文化人まで幅広いモノマネで人気を博する。「ガタカ」(1997年)、「恋愛小説家」(1997年)、「チャック&バック」(2001年)、「今宵、フィッツジェラルド劇場で」(2006年)、「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」(2011年)、「プールサイド・デイズ」(2014年)などに出演している。余談:恋愛、結婚、生殖、育児の分離恋愛が半年しか続かない人工授精によるシングルマザーを目指すが失敗突如、恋愛感情に襲われ、結婚、子供も生まれるが3年で醒める夫を元妻に返品しようと企てるなど、本作は恋愛、結婚、生殖、育児といったライフ・イベントをイジっているようで興味深いです。以前は宗教や道徳的な規範のもと、こうしたライフ・イベントは一連不可分なものとして捉えられてきましたが、人権思想の普及、避妊技術や自由恋愛思想の普及、医学の発達などにより、これらのイベントはどんどん分離しつつあります。本作はそんな状況を面白おかしく描いたコメディですが、実はマギーの恋愛感情が冷めてしまうのは自然なことかもしれません。というのは、人間の恋愛の賞味期間は数年で、愛し合って結婚しても数年もすれば幸福を感じる脳内物質が分泌されなくなる為、醒めてしまうという説があるのです。その昔、二足歩行を始めたばかりの人類は、子供が二歳ほどになると、女性は男性の助けを必要としなくなり、子供を連れて男の元を去り、新たな相手を見つけて多種多様な子孫を残したことに符合し、他の動物にも同様のパターンが多いと言われています。本作でマギーが夫を元妻に返品しようとするのも、まさにそのタイミングです。私達は、恋愛→結婚→生殖→育児といったかつて連続不可分だったプロセスを分離することができるようになりました。こうしたプロセスを前提としない自由恋愛も可能ですし、人生半ばで離婚し、新たなパートナーと後半生を過ごすことも可能です。一般に恋愛は生殖をめぐる競争ですが、たった60ドルの価値しかない精子を提供する為に(あるいは提供を受ける為に)、相手探しに腐心し、厳しい競争を繰り広げることは、もはや人間にとってあまり意味のないことかもしれません。友情から自由恋愛まで幅広い男女関係を構築することができますし、特定の相手との関係に固執して共依存に陥る危険も回避できます。どのような関係を選択するかはあくまでも個人の自由ですが、難点は宗教的、道徳的なプレッシャーが減った分、出生率が減り、少子化が進むことです。過去の規範に逆戻りすることはおそらく無理でしょうから、人間社会が持続可能である為には、体外人工授精人工胎盤による胎児の成長第三者による育児などによって、女性が生み、育てること選択しなくとも一定の出生率や人口が維持できる技術や社会システムが必要なのではないかと考えています。もちろん倫理的な課題はありますが、少子高齢化に苛まれながらも出生率が持ち上がらない日本を鑑みるに、一度、様々な制約条件を取っ払って考えてみても良い問題ではないかと思っています。【撮影地(グーグルマップ)】冒頭、マギーが老人と渡る横断歩道冒頭、マギーとトニーが待ち合わせをするマーケットトニーのピクルス工場マギーが通うカレッジマギーとジョンがウォーキングする公園ジョーゼットの家マギーとジョンの家マギーらが子供たちを連れて出かけるスケートリンク 「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」のDVD(楽天市場)【関連作品】「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」の原作本(楽天市場) カレン・リナルディ著「The End of Men」レベッカ・ミラー監督・出演作品のDVD(楽天市場) 「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」(2017年):出演 「Arthur Miller: Writer」(2018年):監督 グレタ・ガーウィグ出演作品のDVD(楽天市場) 「フランシス・ハ」(2012年)出演・脚本 「EDEN/エデン」(2014年) 「ミストレス・アメリカ」(2015年)出演・脚本 「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」(2016年) 「20センチュリー・ウーマン」(2016年) 「レディ・バード」(2017年)監督・脚本:輸入盤、日本語なしイーサン・ホーク出演作品のDVD(楽天市場)「恋人までの距離(ディスタンス)」(1995年) 「ガタカ」(1997年) 「ウェイキング・ライフ」(2001年) 「ビフォア・サンセット」(2004年) 「その土曜日、7時58分」(2007年) 「ビフォア・ミッドナイト」(2013年) 「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年) 「プリデスティネーション」(2015年) 「シーモアさんと、大人のための人生入門」(2014年) 「ブルーに生まれついて」(2015年) 「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」(2016年)ジュリアン・ムーア出演作品のDVD(楽天市場) 「逃亡者」(1993年) 「ショート・カッツ」(1993年) 「SAFE」(1995年):輸入盤(リージョン1、日本語無し) 「ブギーナイツ」(1997年) 「ビッグ・リボウスキ」(1998年) 「クッキー・フォーチュン」(1999年) 「マグノリア」(1999年) 「理想の結婚」(1999年) 「めぐりあう時間たち」(2002年) 「エデンより彼方に」(2003年) 「トゥモロー・ワールド」(2006年) 「シングルマン」(2009年) 「キッズ・オールライト」(2010年) 「ラブ・アゲイン」(2011年) 「メイジーの瞳」(2012年) 「ドン・ジョン」(2013年) 「アリスのままで」(2014年)
2019年02月19日
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10年以上、使用してきた iMac mid-2007 ですが、ブラウザをマルチタブで使用すると動作が遅くなり、よくフリーズ、内部温度も高くなるシエラ以降のOSがサポートされず、グーグルマップの3D表示が使えなくなったことから、とうとう iMac 2017に買い替えることにしました。いずれもよく使う機能で、また今後も最新OSがサポートされないデメリットがいろいろ出てきそうなことから、そろそろ潮時と思いました。 アップル iMac 21.5インチ LEDバックライトディスプレイ MMQA2J/A [2300] 2.3GHzデュアルコア Intel Core i5(Turbo Boost使用時最大3.6GHz) 前機種の iMac mid-2007は、2005年10月に購入した iMac G5が故障した際に修理部品の見通しが立たず、保証で代替の新規機種が2008年3月に納入されたものです。以降、大きな故障もなく、10年以上、働いてくれました。しかし、この10年でウェブが飛躍的に高機能化、クライアントへの負担が大きくなり、ブラウザをマルチタブで使用すると、動作が遅くなり、頻繁にフリーズ、内部温度も高くなるようになりました。2016年4〜9月には延命策として、メモリを4GB→6GBに増設HDDをSSDに乾燥発熱対策にMac Fan Control を導入を施しました。それから二年以上経ち、iMac の新機種も 2015 から 2017 と世代交代、SSDが外付けや他のウィンドウズ・マシーンに流用可能であることを考えれば、延命策は十分に効を奏したと言えます。ブラウジングもマルチタブをガンガン立てたりしなければ、特に問題なく使えるのでちょっと惜しいのですが、iMac mid-2007 は既に市場価値がないサブマシーンとして使おうにも、置くスペースがないことから、新機種への以降処置の後、前機種は廃棄処分することになりそうです。先日も、Power Mac G4 Cube を泣く泣く廃棄処分したばかりです(TT)。
2019年02月05日
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「君の名前で僕を呼んで」(原題:Call Me By Your Name)は2017年公開のイタリア・フランス・ブラジル・アメリカ合作の恋愛ドラマ映画です。アンドレ・アシマンが2007年に上梓した同名小説を原作に、ジェームズ・アイヴォリーが脚色を手がけ、ルカ・グァダニーノ監督、ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマーら出演で、1983年の北イタリアを舞台に、大学教授の父親の助手として別荘に招待された24歳の大学院生に思いを寄せる17歳の少年のひと夏の恋を描いています。第90回アカデミー賞では、作品賞、主演男優賞(ティモシー・シャラメ)、歌曲賞(スフィアン・スティーヴンス)、脚色賞(ジェイムズ・アイヴォリー)にノミネートされ、脚色賞を受賞した作品です。ジェイムズ・アイヴォリーは史上最年長(89歳)のアカデミー賞受賞となりました。 「君の名前で僕を呼んで」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ルカ・グァダニーノ脚本:ジェームズ・アイヴォリー原作:アンドレ・アシマン著「君の名前で僕を呼んで」出演:ティモシー・シャラメ(エリオ・パールマン) アーミー・ハマー(オリヴァー) マイケル・スタールバーグ(Mr.パールマン) アミラ・カサール(アネラ・パールマン) エステール・ガレル(マルシア) アンドレ・アシマン(ムニール):本作の原作者 ピーター・スピアーズ(アイザック):本作の製作者 ほか【あらすじ】1983年夏、17歳のエリオ・パールマン (ティモシー・シャラメ) は例年のように北イタリアを訪れ、母が相続した由緒ある別荘で過ごしています。父のパールマン博士(マイケル・スタールバーグ)はアメリカの名門大学で教鞭を取るギリシア=ローマ美術史学の大学教授、母のアネラ(アミラ・カサール)は何ヶ国語も流暢に話す翻訳家で、エリオは一人息子です。自然に恵まれた環境の中で高い教養に身につけさせたいという両親の意向により、アカデミックな環境に育ったエリオは、文学や古典に親しみ、英語、イタリア語、フランス語を流暢に話し、ピアノやギターを弾き、クラシック音楽を編曲するなど、知性豊かな少年です。その一方で、時には夜遊びをしたり、近くに住むフランス人のマルシア(エステール・ガレル)とふざけ合ったしながら、エリオは夏を過ごしています。そんな彼の前に、アメリカからやってきた24歳の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)が現れます。エリオの父のパールマン教授は、毎年、研究を手伝ってくれるインターンを別荘に招待するのですが、今年は論文執筆中のオリヴァーでした。エリオの隣の部屋に泊まることになったオリヴァーは、これまでのインターンよりも知的で、振る舞いも自信に溢れているように見えます。そんなある日、マルシアやキアラ(ヴィクトワール・デュボワ)らとバレーボールをしている最中、オリヴァーがエリオの裸の肩に触れます・・・・。【レビュー・解説】美しいイタリアの田舎で家族とともに過ごす17歳の少年の夏休みと、年上の青年へのほろ苦い初恋を、一種、爽やかに描く、没入感の高い脚本と共感度の高い演出が素晴らしい作品です。美しいイタリアの村で家族と過ごす17歳の少年の夏休みと年上の青年へのほろ苦い初恋イタリアの小さな村が舞台ミラノの東20〜30キロほどにある、クレマという小さな村が舞台です。海外旅行で大都市や名所旧跡を訪れることはあっても、観光名所でも何でもない小さな村を訪れることなかなかありません。そういう意味では、北イタリアの田舎を垣間見ることができる、非常に興味深いロケ地です。実はこの村は、「場所もキャラクターである」と言うルカ・グァダニーノ監督が暮らすホームタウンで、彼は知り尽くした村を活かしながら、見事に主題に絡め、魅力的に撮影しています。当初、この作品はジェームズ・アイヴォリーとルカ・グァダニーノの共同脚本で、ジェームズ・アイヴォリーが監督、シチリアを舞台にシャイア・ラブーフ、グレタ・スカッキら出演でという構想でした。しかし、予算内に収まらないことがわかり、最終的にイタリアを知り尽くしたルカ・グァダニーノに監督のお鉢が回ってきました。彼は低予算で効果を出すべく、知り尽くしたホームタウンを舞台に選んだわけですが、何の変哲もない村を舞台にこれだけのものを見せるその手腕は、見事としか言いようがありません。ゲイ・ロマンスを描いたわけではない?原作者のアンドレ・アシマンはストレートで、何も知らない自分がゲイに関する性的描写を書いていいのだろうかと自問しながら書いたそうですが、プロデューサーのピーター・スピアーズ脚本のジェイムズ・アイヴォリー監督のルカ・グァダニーノは、いずれもオープン・ゲイという強力な布陣です。興味深いのは、全裸撮影を許さないティモシー・シャラメやアーミー・ハマーの出演契約に不満を漏らすなど、ゲイのセクシャリティの描写にこだわったジェームズ・アイヴォリーに対して、ルカ・グァダニーノは必ずしもゲイのセクシャリティの描写を追求しておらず、本作では「ミラノ、愛に生きる」(2009年)、「胸騒ぎのシチリア」( 2015年)と同様、欲望という一段高い視点で撮られているエリオもオリヴァーもゲイではなく、ナチュラルなバイ・セクシャルとして描かれているエリオの初恋への共感を得やすくする為、露骨な性的描写が避けられている道化的なゲイ・カップルが登場、ゲイのステレオタイプが戯画化されている(「タンタンの冒険」のトムソン&トンプソン、「不思議の国のアリス」のトゥイードルダム&トゥイードルディーをモチーフにしている)といった演出がなされています。ゲイの映画製作者の中でも様々なスタンスがある中、ルカ・グァダニーノ監督のしっかりとしたアプローチが、ストレートにもゲイにも共感が得られる作品を実現していることがわかります。性的指向に関わらず質の高い作品が実現する時代本作の前年に公開され、第89回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞を受賞した「ムーンライト」は、 「ムーンライト」「君の名前で僕を呼んで」トーンダークライト環境貧困・家族崩壊・犯罪中流・家族愛・教養期間 少年期〜青年期のクロニクル少年期(ひと夏)など、異なる点もありますが、少年の満たされぬの同性愛(初恋)を描く場所と深い関わりを持つ侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の抒情的風景描写の影響を受けていると、題材、描き方など基本的な部分において共通するものがあります。「君の名前で僕を呼んで」もアカデミー脚色賞を受賞し、まさに義兄弟とも言える作品です。興味深いのは、「ムーンライト」の脚本・監督を務めたバリー・ジェンキンスがストレートであることです。かつて、ストレートの監督がゲイを描いた作品はステレオタイプになりがちでした。その後、ゲイの監督がゲイを描くようになって格段にリアリティのある作品ができるようになりましたが、ストレートには共感しにくい部分もありました。それが今や、ストレートの監督が描こうが、ゲイの監督が描こうが共感度が高く、レベルも高い作品が実現するようになったことには、非常に感慨深いものがあります。続編ができる?!本作を完成させたルカ・グァダニーノ監督が、リチャード・リンクレイター監督の「ビフォア」シリーズや、フランソワ・トリュフォー監督がジャン=ピエール・レオの成長をフィルムに記した「アントワーヌ・ドワネル」シリーズようなクロニクル(年代記)を考えていると聞き、とてもしっくりとくるアイディアに妙に納得してしまいました。キャラクターが素晴らしいんです。だからその後、何が起きるのか知りたくなりました。原作の最後の40ページでは、エリオとオリヴァーの人生の20年間が描かれています。(中略)続編ではないかもしれません。 この作品の登場人物すべてのクロニクルです。もしこれらの登場人物の成長が、同じ俳優の肉体を通して見ることができればとても素晴らしいです。映画を完成させて、サンダンス映画祭で観客と一緒に観たとき、私は2つのことに気づきました。登場人物を愛しているということ、そして一緒に映画を作った人々を愛しているということです。カメラの前の役者たちも後ろのスタッフもね。この作品は壮大なストーリーを伝えているわけではありません。観客は自らの人生とリンクさせて観ることができるでしょう。大人への第一歩を踏み出したエリオを描いているから、彼自身や周囲のその後の成長物語を描くのはどうだろうと思ったのです。(中略)今回の登場人物のクロニクルを作ることによって、同じ役者やスタッフと再び組み、登場人物の成長過程を描けると考えました。そのアイデアをアンドレ・アシマンに話したところ、非常に興味を持ってくれました。だから、今後の人生でいつか実現できたらいいなとは思っています。条件が揃えば、「続編」ではなく「クロニクル」(年代記)を作りたいのです。(ルカ・グァダニーノ監督)https://www.theguardian.com/film/2017/dec/22/luca-guadagnino-call-me-by-your-name-step-inside-teenage-dreamshttps://i-d.vice.com/jp/article/vbxk4d/luca-guadagnino-call-me-by-your-name-director-interview原作では、エリオとオリヴァーは15年後に再会します。オリヴァーは結婚して子供がおり、教授になっています。二人はさらに5年後に会いますが、エリオの父は亡くなっています。しかし、本作がゲイ・ロマンスであることを明確に否定するルカ・グァダニーノ監督は、エリオがゲイにならないかもしれないと原作とは異なる展開も示唆しており、どのようなクロニクルになるのかは未知数です。余談:依然として高いトランスジェンダーの壁本作ではルカ・グァダニーノ監督の卓越したディレクションのもと、ストレートのティモシー・シャラメ、アーミー・ハマーが素晴らしいパフォーマンスを見せていますが、昨年、映画「Rub & Tug」のトランスジェンダー役にシスジェンダーのスカーレット・ヨハンソンがキャストされたことに対して、トランスジェンダー俳優やLGBTQコミュニティが猛反発、スカーレット・ヨハンソンが降板するという事件がありました。トランスジェンダー俳優らが反発した理由は、「シスジェンダーの俳優はトランスジェンダーを演じることができるのに、トランスジェンダーの俳優がシスジェンダーを演じることができないのは不公平」というものでした。トランスジェンダーを描いた主な作品のキャスティング作品名公開年キャストジェンダープリシラ1994テレンス・スタンプ シスボーイズ・ドント・クライ1999 ヒラリー・スワンク シスオール・アバウト・マイ・マザー1999アントニア・サン・フアン シスヘドウィグ・アンド・アングリーインチ2001 ジョン・キャメロン・ミッチェル シス(ゲイ)トランスアメリカ2005フェリシティ・ハフマン シスわたしはロランス2012メルヴィル・プポー シスダラス・バイヤーズクラブ2013ジャレッド・レト シスリリーのすべて2015 エディ・レッドメイン シスタンジェリン2015キタナ・キキ・ロドリゲスマイヤ・テイラートランスアバウト・レイ 16歳の決断2015ダコタ・ファニング シスナチュラル・ウーマン2017 ダニエラ・ベガトランストランスジェンダーを描いた主な作品のキャスティングを見てみると、確かにシスジェンダーがトランスジェンダーを演じることが圧倒的に多いことがわかります。個人的な好みで言えば、「ダラス・バイヤーズクラブ」のジャレッド・レトのパフォーマンスはシスジェンダーながら素晴らしいし、「タンジェリン」のトランスジェンダー、キタナ・キキ・ロドリゲスとマイヤ・テイラーも素晴らしいと思いますが、「ナチュラルウーマン」のトランスジェンダー、ダニエラ・ベガはリアルではあるものの少し違和感を感じます。すべての役はシスジェンダーが演じても、トランスジェンダーが演じてもいいと思っていますが、映画ファンとしては、トランスジェンダー俳優のパフォーマンスをもう少し見てみたいトランスジェンダー俳優がトランスジェンダー役を演じるメリット(リアリティなど)をもう少し実感したいトランスジェンダー俳優がシスジェンダー役を演じるメリット(個性表現など)を実感したいと思っています。トランスジェンダー役でさえシスジェンダー俳優が演じる機会が圧倒的に多い現状を見れば、トランスジェンダー俳優の起用を半ば義務付けるような圧力でもなければ、トランスジェンダー俳優の機会はなかなか増えないかもしれません。ティモシー・シャラメ(エリオ・パールマン、両親と別荘で夏を過ごす17歳の少年)ティモシー・シャラメ(1995年〜)は、ニューヨーク出身のアメリカの俳優。父はフランス人、母は元ブロードウェイ・ダンサーで、フランスとアメリカ双方の国籍を有する。フランス在住の姉も俳優。幼少の頃から一年の1/3以上をフランスで過ごし、フランス語に堪能。原作のエリオは英語のイタリア語のバイリンガルだが、本作ではティモシーに合わせて、英語、イタリア語、フランス語のトリリンガルの設定に書き換えられている。幼少の頃からコマーシャルに出演、2008年に短編映画、2009年にテレビ映画にデビュー。ルカ・グァダニーノ監督によって本作の主演に抜擢され、第90回アカデミー主演男優賞にノミネートされている。アーミー・ハマー(オリヴァー、エリオの父に招待され夏をともに過ごす大学院生)アーミー・ハマー(1986年〜)は、サンタモニカ出身のアメリカの俳優。「ソーシャル・ネットワーク」(2010年)、「Sorry to Bother You」(2018年)、「Hotel Munbai」(2018年)などに出演している。マイケル・スタールバーグ(パールマン博士、エリオの父、大学教授)マイケル・スタールバーグ(1968年〜)は、カリフォルニア出身のアメリカの舞台、映画、テレビ俳優。ジュリアード学院、ロンドン大学、UCLAで演技を学ぶ。卒業後より舞台俳優として活動し、トニー賞にもノミネートされる。映画では「ワールド・オブ・ライズ」などに端役で出演した後、「シリアスマン」(2009年)で初主演を果たし、ゴールデングローブ賞などにノミネートされる。売れっ子俳優で、2017年に出演した「シェイプ・オブ・ウォーター」、「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」、「君の名前で僕を呼んで」の三作がすべてがアカデミー作品賞にノミネートされている、今後が楽しみな俳優である。アミラ・カサール(右、アネラ・パールマン、エリオの母、何ヶ国語も話す翻訳家)アミラ・カサール(1971年〜)は、ロンドン出身の女優。10代の頃よりフランスを拠点に女優として活動している。クルド人の父親とロシア人の母親を持ち、イギリスやアイルランドで育つ。14歳のときに写真家のヘルムート・ニュートンに見出され、シャネルやジャンポール・ゴルチェのモデルとして活躍しながら、パリで演劇を学ぶ。「父を殺した理由」(2001年)、「The Forbidden Room」(2015年)、「永遠の門 ゴッホの見た未来」などに出演している。エステール・ガレル(マルシア、近隣に住むフランス人の少女) エステール・ガレル(1991年〜)は、パリ出身のフランスの女優。父が映画製作者、母は女優、兄、祖父も俳優。2001年、父の監督する作品で長編映画デビュー。「メゾン ある娼館の記憶」(2011年)、「つかのまの愛人」(2017年)などに出演している。アンドレ・アシマン(左、ムニール)とピーター・スピアーズ(中央、アイザック)アンドレ・アシマンは本作の原作者で、ピーター・スピアーズは本作のプロデューサー。【サウンドトラック】 「君の名前で僕を呼んで」オリジナル・サウンドトラックCD1 Hallelujah Junction - 1st movement - by John Adams 2 M.A.Y. in the Backyard by 坂本龍一 3 J'adore Venise by Loredana Berte 4 Paris Latino by Bandolero 5 Sonatine bureaucratique by Frank Glazer 6 Zion hört die Wächter singen (From "Cantata Wachet auf, ruft uns die Stimme", BWV 140) by Alessio Bax 7 Lady Lady Lady by Giorgio Moroder & Joe Esposito 8 Une barque sur l'océan from Miroirs by Andre Laplante9 Futile Devices (Doveman Remix) by スフィアン・スティーヴンス 10 Germination by 坂本龍一 11 Words by F.R. David 12 È la vita by Marco Armani 13 Mystery of Love by スフィアン・スティーヴンス 14 Radio Varsavia by フランコ・バッティアート 15 Love My Way by The Psychedelic Furs 16 Le jardin féerique from Ma mère l'Oye by Valeria Szervánszky & Ronald Cavaye 17 Visions of Gideon by スフィアン・スティーヴンス【撮影地(グーグルマップ)】ミラノ郊外の別荘オリヴァーがエリオにこの街について訪ねたカフェテラスオリヴァーがカードゲームに興じるバーディスコを抜け出し、マルシアを泳ぎに誘った池湖から遺物が引き上げられたガルダ湖の遺跡エリオがオリヴァーに告白しかける広場エリオとオリヴァーが水をもらって飲んだ家エリオとオリヴァーが初めてキスをする湧き水エリオとマルシアが待ち合わせをした場所エリオとオリヴァーがお互いの気持を確かめるニューススタンドオリヴァーとエリオがベルガモに向かうバスに乗る場所オリヴァーとエリオが訪れる滝オリヴァーとエリオがベルガモで宿泊したホテル (現在は閉鎖)酔っ払ってオリヴァーが踊り、エリオが吐く広場 帰国するオリヴァーをエリオが見送る駅オリヴァーとマルシアが和解する場所【関連作品】「君の名前で僕を呼んで」の原作本(楽天市場) アンドレ・アシマン著「君の名前で僕を呼んで」ルカ・グァダニーノ監督作品のDVD(楽天市場) 「ミラノ、愛に生きる」(2009年) 「胸騒ぎのシチリア」(2015年) ジェームズ・アイヴォリー監督作品のDVD(楽天市場) 「ボストニアン」(1984年):監督 「眺めのいい部屋」(1986年):監督 「モーリス」(1987年) 「ハワーズ・エンド」(1992年):監督 「日の名残り」(1993年):監督マイケル・スタールバーグ出演作品のDVD(楽天市場) 「シリアスマン」(2009年):北米版、リージョン1,日本語なし 「ヒューゴの不思議な発明」(2011年) 「セブン・サイコパス」(2012年) 「リンカーン」(2012年) 「スティーブ・ジョブズ」(2015年)< 「メッセージ」(2016年) 「ドクター・ストレンジ」(2016年) 「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年) 「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(2017年)LGBTを描いた映画のDVD(楽天市場) 「愛についてのキンゼイ・レポート」(2004年) 「ミルク」(2008年) 「キッズ・オールライト」(2010年) 「アデル、ブルーは熱い色」(2013年) 「パレードへようこそ」(2014年) 「人生は小説よりも奇なり」(2014年) 「キャロル」(2015年) 「タンジェリン」(2015年) 「ムーンライト」(2016年) 「BPM ビート・パー・ミニット」(2017年)
2019年02月03日
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「運命を分けたザイル」(原題:Touching the Void)は、2003年公開のイギリスのドキュメンタリー&実録ドラマ映画です。ジョー ・シンプソンの自伝「死のクレバス―アンデス氷壁の遭難」を原作に、ケヴィン・マクドナルド監督、ジョー・シンプソン本人、サイモン・イェーツ本人ら出演で、当事者たちのインタビューと実際の現場で撮影した再現映像等を交えながら、1985年にアンデス山脈で2人の登山家を襲った遭難事故の顛末を描いています。 「運命を分けたザイル」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ケヴィン・マクドナルド脚本:ジョー・シンプソン原作:ジョー ・シンプソン著「死のクレバス―アンデス氷壁の遭難」出演:インタビュー映像 ジョー・シンプソン(本人) サイモン・イェーツ(本人) リチャード・ホーキング(本人) 再現映像 ブレンダン・マッキー(ジョー・シンプソン) ニコラス・アーロン(サイモン・イェーツ) オーリー・ライアル(リチャード・ホーキング) ほか【あらすじ】アンデス山脈の雪山で遭難し、生還を果たしたエピソードを、本人へのインタビューと俳優による再現映像により描き出しています。1985年、野心あふれる英国の若きクライマーのジョー・シンプソン(ブレンダン・マッキー)とサイモン・イェーツ(ニコラス・アーロン)は、ペルーのアンデス山脈、標高6600mの難関シウラ・グランデ峰に挑みます。前人未到の西壁はほぼ垂直に立ち上がり、目指す頂上は雲に隠れて姿が見えません。氷壁にアックスを打ち込み、アイゼンの蹴爪を壁に噛ませ、ひとつひとつの動作を確かめながら、ふたりは刻むように頂上を目指し登っていきます。ベースキャンプを持たずに登頂するアルパイン・スタイルは食料も装備も最小限である為、限られた時間で登頂を成功させる必要があります。三日目、幾多の困難を乗り越えて二人はなんとか頂上を極めますが、下山は思うようにはなりませんでした。突然、降りていた壁が崩れ、シンプソンは数十メートルほど落下します。骨が折れ、太もものあたりから鋭い痛みが湧き上がり、痛みと寒さで身体が思い通りになりません。山の怖さを知り尽くすシンプソンは、それが「死」を意味することを直感します。体感温度マイナス60度、食料も底を尽き、猛吹雪で視界もゼロに等しく、救助など望みようがない絶望的な状況です。苦渋に満ちたシンプソンの表情を見たイェーツも事の重大さを察しますが、彼はシンプソンを生還させたいと、自とシンプソンの体をザイルで結び、シンプソンを急斜面から滑り落とします。何回か繰り返し、急斜面の終わりまでもう少しという時に、シンプソンの体は突き出た岩の庇で宙吊りになってしまいます。シンプソンが助かるにはザイルを登るしかありませんが、彼の手は凍え、ザイルを登るためのスリングも落としてしまいます。一方、シンプソンを支えるイェーツも、徐々に引きずられ、掘った窪みの中に自身の体を確保するのが難しくなります。このままでは二人とも滑落して、死んでしまいます。それを避けるためにはザイルを切るしかありませんが、それはシンプソンを見捨てて彼を死に追いやることを意味します。イェーツは迷いを断つようにザイルを切り、宙に投げ出されたシンプソンは下方で口を開けているクレバスの中へ墜落していきます・・・。【レビュー・解説】厳美なアンデス山脈の未踏ルートで、骨折したパートナーを繋ぎ止めるザイルをやむを得ず切った登山家と、墜落後の絶望的な状況から独力で奇跡的に生還、パートナーに再会する登山家の凄絶なサバイバルと感情の交錯を描いた、問題提起とテーマ性に富む、見応えあるドキュメンタリー&実録ドラマです。厳美な山岳での凄絶な生存劇実話に基づいた本作は、人を寄せ付けない、美しくも厳しいシウラ・グランデ峰文字通り、地を這うシンプソンの凄絶なサバイバルザイルを切ったイェーツと奇跡的に生還するシンプソンの感情の交錯など、スリリングで中身の濃いドキュメンタリー&実録ドラマです。厳美な山岳での凄絶な生存劇地方で生まれ育った私には都会の人工美を極めた建築物よりも、美しくも厳しい自然の方が好ましく感じられる時があります。北海道の森林限界を超える山中でスキー中に一寸先が見えない猛吹雪にあい遭難の危険性を実感したり、北極圏の丘陵でスノーモービル中に強風に体温を奪われ低体温症や凍死の危険性を実感するなど、ささやかながらも怖い体験をしていますが、それで自然が嫌いになるとというよりは、人間は生来、そうした自然の懐の中で生きてきたように感じられ、逆に都会での生活の方に違和感を感じる時があるのです。数多い映画の中から本作を見て観る気になったのひとつは理由は、そんな美しくも厳しい自然の雰囲気を味わいたくなったからですが、シウラ・グランデ峰の厳しい美しさのみならず、文字通り地を這うシンプソンの凄絶なサバイバルに目を奪われるとともに、ザイルを切ったイェーツと奇跡的に生還するシンプソンが再会する時に二人の間にどんな感情が交錯するのだろうかと、終始、ハラハラしながら観ることになりました。リアルに凝縮された問題提起とテーマ性邦題にも使われているザイルはドイツ語で綱という意味で、日本で使われる場合は特に登山用のロープを意味します。この登山用のロープは、岩壁や氷雪上の登降,その他墜落や滑落の危険のある危険な場所で,パーティの安全を確保する為に互いの体を結び合うものに使われます。文字通り、一蓮托生になるわけですので、パートナーの墜落に引きずられて墜落しないよう自分自身をしっかりと確保をした上で,肩や腰に回したザイルを使ってパートナーを制動するのが基本です。生死が関わる危険の中で安全を確保する為の命綱とも言えるザイルは、パートナーとの信頼の絆の象徴であり、時に母と子を繋ぐ臍の緒にも例えられます。過酷な状況下でイェーツはこのザイルを自ら切ってしまうわけですが、本作は、イェーツがザイルを切ったのは正しい判断か?イェーツは何故、崖の下に降りてシンプソンの死を確認しなかったのか?シンプソンと同じようにザイルを切られたら、自分は生き帰ることができるか?といった道徳的な難問や、自分ならどうするという自問を突きつけるだけではなく、許しの意味神も仏もない冷酷な状況での絶対的な孤独人間の不完全さと仲間を持つことの重要性人間の精神の勝利といった深遠なテーマも包含しています。リアルに凝縮された問題提起とテーマ性は、そのままで道徳のケース・スタディの理想的な教材になりそうです。メイキング:18年の歳月を経て蘇る恐怖体験1985年に事故から奇跡的に生還したシンプソンは、1987年に自伝を発表、たちまちベストセラーになります。トム・クルーズ、BBCなどの、様々なプロデューサーが権利を買いましたが、本作は長く映画化されませんでした。原作のほとんどが独白で構成されており、離れ離れのシンプソンとイェーツには会話がなく、映画にするのが極めて難しかったのです。ドキュメンタリーとドラマの両方を得意とするケヴィン・マクドナルド監督が、これを解決しました。シンプソンとイェーツへのインタビューを作品の心臓と骨組みにし、再現ドラマで血と肉を作り上げたのです。事故から15年以上の歳月が流れていましたが、その後のシンプソンとイェーツの人生を形作った事故の原体験は色褪せておらず、生々しいインタビューを撮ることができました。再現ドラマというと安っぽいイメージありますが、マクドナルド監督は率直なインタビューと可能な限り真実味を出した再現ドラマを組み合わせることにより、極めて質の高い作品を実現しています。すべてのワイドショットはペルーの事故現場で、俳優を使ったアップのショットはアルプスで撮影されており、ペルーでの撮影にはシンプソンとイェーツが同行、どこでどう起こったか案内するとともに、遠景で俳優の代役を務めています。1985年の雪の夜にイェーツがシンプソンを発見した場所を見た時のシンプソンの表情を、決して忘れることはありません。彼は、あたかも自分自身の亡霊を見たかようなような表情をしていました。その瞬間からシンプソンは内なる悪夢に囚われ、フラッシュバックとパニック発作に襲われるのが傍目にもわかるようになります。さらに悪いことに、私はドラマを組み立てる為に彼に質問し続け、彼の恐怖体験を再現させてしまったのです。(ケヴィン・マクドナルド監督)https://www.theguardian.com/film/2003/nov/21/sportandleisure私は18年間、ほぼ毎日のように事故の話をし続けていますが、たいていは表面的なことしか話しません。私は7週間かけて自伝を書きましたが、自浄作用など全く無く、とても悲惨なものでした。読み返すこともありません。こうして話ができるようにするために、すべての体験をしっかりとした箱に入れ、蓋に封をしました。しかし、再びシウラ・グランデを訪れた時、すべてが5分前に起こったことのように思い出されました。振り向いてもそこには撮影隊がいないのではないか、この18年間は幻想だったのではないか、という思いに駆られ続けました。(ジョー・シンプソン)https://www.stephenphelan.co.uk/articles/touching-the-void/メイキング:当事者たちに残る葛藤心理的な変化をきたしたのは、シンプソンだけではありませんでした。標高5500メートル、氷河の上の我々の最も上のキャンプまでの長く厳しい旅をした時、状況は本当に悪くなりました。シウラ・グランデの急斜面に登らせ、私が撮影クルーの命を危険に晒そうとしていると、シンプソンとイェーツが心配し始めました。標高が高まり、疲労が蓄積するに従い緊張が高まり、現場で心理的に影響を受けることはないと何度も断言していたイェーツまでも、理性を欠いた行動をとるようになりました。ある日の午後、彼はひどく攻撃的になり、脅迫的になりました。イェーツが話すと決めていた以上のものが彼の心の中にあると最初のインタビューから感じてはいましたが、現場に戻って爆発した彼の感情に驚きました。彼は罪の意識を感じたのだろうか?「ザイルを切った男」として知られることによって、罠に嵌ったように感じたのだろうか?この映画では1985年に起きたことだけを描き、2002年にサイモンとイェーツがその地に戻ったことは最後に触れるだけにしようと思っていましたが、私は果たしてそれが正しいのかどうか、迷い始めました。今、自分の身の回りに起きていることにカメラを向けるべきではないか?(中略)私は作ろうとしていた映画、即ち、1985年に何が起こったか?に集中することにしました。再び訪れたシウラ・グランデでの出来事が例え素晴らしいものだとしても、それは別の話だと考えたのです。(ケヴィン・マクドナルド監督)https://www.theguardian.com/film/2003/nov/21/sportandleisureメイキング:興味深い当事者の見解一方、当事者でもあるシンプソンの見解にも興味深いものがあります。自伝の成功は、(豊かな生活という)実際の事故よりも大きな影響を私達にもたらしました。これは、ケヴィンが決して理解しなかったことです。(中略)サイモンは罪の意識を背負っていると、ケヴィンは示唆し続けました。また、それが二人に起こった最も重要な出来事であると暗に言い続けました。でも、我々はその後も世界中の山に登り、数多くの友人を、おそらく毎年ひとりの割合で失っています。シウラ・グランデの事故は、我々が思い出したくない特別な事故のひとつに過ぎないのです。ケヴィンはとても良い映画を作りましたが、我々の苛立ちを全く解決できていません。(中略)(事故に遭った時、)私は自分自身を、自分が常に存在するという感覚を失っていました。そうした感覚を失い、無くしたことに気づくと、ひどく心をかき乱されます。それまでの自分には決して戻ることができません。(中略)我々は皆、そこにたどり着きます。そこは楽園でも何でもありません。私はクレバスの中でそれを知りました。我々は皆、死にますし、それは孤独な体験です。あなたにその順番が回ってきた時、あなたは私と同じ感覚を味わうでしょう。自分自身でもうまく言い表すことができないその感覚を、私もいつか再び味わうことになります。」(ジョー・シンプソン)https://www.stephenphelan.co.uk/articles/touching-the-void/事故の自伝を書いたおかげで、裕福な暮らしができるようになったというのは、とても面白い視点です。事故そのものにフォーカスしようとするマクドナルド監督と、その後の人生の投影を期待する当事者たちの視点の相異が興味深いです。マクドナルド監督の判断は正しいと思いますし、出来た映画も素晴らしく、シンプソンも気に入っていますが、さらにこうした後日談も含蓄が深いということは、やはり稀有な人々が稀有な体験をしたということではないかと思います。ジョー・シンプソン(本人)ジョー・シンプソン(1960年〜)はイギリスの登山家、作家、講演家。1985年、25歳の時に本作に描かれている凄絶な事故に遭遇する。山岳小説を読むのが好きだったという彼には優れた文才があり、本作の原作にも ice weeps(氷が泣く), snow flutings(雪に彫られた文様) 、spindrift avalanches(波しぶきのような雪崩) など、不思議な美しさを持った表現が散見され、本作の原題「Touching Void」も比喩的な表現となっている。Voidは空っぽと言う意味で、これは彼自身が述べている「自分自身を失う」、「自分が常に存在するという感覚を喪失する」という、彼がアンデスの山中の臨死体験で味わった感覚を例えたものと思われる。本作の後も彼は数多くの作品を書き続け、そのすべてに非常に高い評価を得ており、高山への登山を引退した2001年以降も執筆活動を続けている。サイモン・イェーツ(本人)サイモン・イェーツ(1963年〜)は、イギリスの登山家。1985年、21歳の時に本作に描かれている事故に遭遇する。骨折したシンプソンを助けようとしたが、シンプソンが崖に宙吊りになった為、二人とも墜落するのを防ぐ為、二人を繋ぐザイルの切断を余儀なくされた。リチャード・ホーキング(本人)リチャード・ホーキングは、シンプソンとイェーツがシウラ・グランデの西壁にアタックする期間、ベースキャンプの留守番を頼まれた。登山は素人だが、シンプソンの生還とイェーツとの再会の生き証人となった。【撮影地(グーグル・マップ)】事故の舞台となったペルー・アンデスのシウラ・グランデ西壁【関連作品】関連作品「運命を分けたザイル」の原作本(楽天市場) ジョー ・シンプソン著「死のクレバス―アンデス氷壁の遭難」 ジョー・シンプソンの著作(楽天市場)「Touching the Void」(1988年) 「The Water People」(1992年)フィクション 「This Game of Ghosts」(1993年) 「Storms of Silence」(1996年) 「Dark Shadows Falling」 (1996年) 「The Beckoning Silence」 (2001年) 「The Sound of Gravity」 (2011年) フィクション 「Walking the Wrong Side of the Grass」 (2018年) フィクションケヴィン・マクドナルド監督作品のDVD(楽天市場)<ドキュメンタリー> 「ブラック・セプテンバー ミュンヘン・テロ事件の真実 」(1999年) 「ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド」(2012年) 「空のハシゴ:ツァイ・グオチャンの夜空のアート」(2016年) 「ホイットニー 〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜」(2018年)<映画> 「ラストキング・オブ・スコットランド」(2006年) 「消されたヘッドライン」(2009年) 「LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語」(2011年) 「ブラック・シー Black Sea」(2014年)おすすめ山岳映画のDVD(楽天市場) 「キャラバン」(1999年) 「ホワイトクラッシュ」(2003年) 「ブラインドサイト 小さな登山者たち」(2006年) 「ヒマラヤ 運命の山」(2010年) 「アイガー北壁」(2010年) 「127時間」(2010年) 「MERU/メルー」(2015年) 「ラサへの歩き方」(2016年)「クレイジー・フォー・マウンテン」(2018年)
2019年01月22日
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「夏時間の庭」(原題:L'Heure d'été)は、2008年公開のフランスのヒューマン・ドラマ映画です。パリ、オルセー美術館の20周年を記念して制作された作品で、オリヴィエ・アサイヤス監督・脚本、ジュリエット・ビノシュら出演で、パリ郊外の古めかしい邸宅を舞台に三世代にわたる家族に受け継がれていく様々な思いを、美しく繊細な映像美で描いています。 「夏時間の庭」のDVD(楽天市場)スタッフ・キャスト監督:オリヴィエ・アサイヤス脚本:オリヴィエ・アサイヤス出演:ジュリエット・ビノシュ(アドリエンヌ、エレーヌの長女) シャルル・ベルリング(フレデリック、エレーヌの長男) ジェレミー・レニエ(ジェレミー、エレーヌの次男) エディット・スコブ(エレーヌ、母) ドミニク・レイモン(リサ、フレデリックの妻) ヴァレリー・ボネトン(アンジェラ、ジェレミーの妻) イザベル・サドヤン(エロイーズ、古くからの家政婦) アリス・ドゥ・ランクサン(シルヴィー、フレデリックとリサの娘) カイル・イーストウッド(ジェームズ、アドリエンヌの婚約者) ほか【あらすじ】パリ郊外の小さな町ヴァルモンドワ。有名な画家であった大叔父ポール・ベルティエが生前使っていた邸宅にひとり住む母エレーヌ(エディット・スコブ)の誕生日を祝う為に、三人の子供たちの経済学者の長男フレデリック(シャルル・ベルリング)世界中を飛び回るデザイナーの長女アドリエンヌ(ジュリエット・ビノシュ)中国で仕事をしている次男ジェレミー(ジェレミー・レニエ)と、その家族が集まります。家族揃っての団らんの後、家と美術品を独りで守ってきた母は、自分が死んだら家も美術品も売って欲しいと長男のフレデリックに伝えます。子供たちで受け継ぎたいと考えるフレデリックは、突然の母の言葉に苛立ちます。次は大叔父の回顧展で集まることを約束し、エレーヌは帰りを急ぐ子供たちを見送ります。その一年後、回顧展の後に、母は突然、亡くなります。悲しみに浸る間も無く、三人の子供たちは家と膨大な美術品という遺産と向き合うことになります。フレデリックは手放すつもりはありませんでしたが、アドリエンヌはアメリカ人の恋人ジェームス(カイル・イーストウッド)との再婚を決め、ジェレミーも生活の拠点を本格的に中国に移し、夏を過ごすセカンドハウスをバリ島に買うつもりであることを告げます。遺産を相続するには莫大な相続税がかか一方で、世界に離散する三人の子供たちにとって亡き母の家はもはや家族が集まる場所ではなくなるのです。三人は家を売却、美術品をオルセー美術館に寄贈することで合意し、後日、美術館の職員が家から全てを持ち去ります。ポールの生前からの家政婦エロイーズ(イザベル・サドワイヤン)は、がらんとなった家を一人訪れ、亡き主が好きだった花を墓前に捧げます。家を譲渡する前の週末に、フレデリックの長女シルヴィー(アリス・ド・ランクザン)は大勢の友人を招いてパーティーを開きます。若者たちが大音量の音楽をかけ、ビールを飲み、ドラッグを回す中、彼女はボーイフレンドを連れて広い庭に出ます・・・。【レビュー・解説】時代の変遷と社会、芸術、文化に対する洞察を背景に、パリ郊外の美しい自然に囲まれた古い家に集う親子三代の家族を印象派の絵画のように軽く美しいタッチで描いた、フランス風味溢れる散文詩的なヒューマン・ドラマです。オリヴィエ・アサイヤス監督・脚本、ジュリエット・ビノシュ主演の「アクトレス~女たちの舞台~」(2014年)を観た際に、同じくアサイヤス監督・脚本、ビノシュ出演の本作を観てみたいと思い、ようやく観る機会を得ました。両作とも時代の変遷や世代間の摩擦を描いた会話劇ですが、本作最大の魅力は印象派の絵画のように軽く美しいタッチで描かれた風景や、散文詩のようにあっさりと描かれた人間関係です。印象派の絵画のように繊細で美しい映像オルセー美術館の20周年を記念する作品パリーのオルセー美術館は、セーヌ川を挟んでルーブル美術館の対岸にあった列車の駅舎を改修し、1986年にオープンした19世紀美術専門の美術館です。印象派の美術館として有名ですが、ポスト印象派、アカデミズム絵画などの作品も所蔵されています。20周年記念作品はかつて駅舎であった美術館の建築とその収蔵品が登場することを条件で、本作は「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」(2007年)に続く記念作品第二作目です。美術品はあくまでも脇役であり、美術を全く知らなくてもフルに楽しめる作品ですが、本作には、ミーユ・コローフェリックス・ブラックモンオディロン・ルドンヨーゼフ・ホフマンルイ・マジョレルエドガー・ドガなどの作品が、実際に日常生活の中で使われるという、非常に贅沢な形で登場しています。例えば、書類を積み上げられたルイ・マジョレルの机がアトリエに無造作に置かれているフェリックス・ブラックモンの花瓶に庭で摘んだばかりの花を活けるといった具合です。これらの美術品は全て、オルセー美術館や個人のコレクションから貸し出された本物を使用しています。 数々の喪失を軽くシンプルに描く母の喪失家族の離散生まれ育った家や庭の喪失家族の集いの喪失思い出の美術品の喪失(母国に寄贈するか、アメリカで売却するか)など多岐にわたる哀しみを扱いながら、印象派の絵画のように軽く美しいタッチで風景を描き、散文詩のようにあっさりと人間関係を描くのが本作最大の魅力ですが、その秘密は本作の生い立ちにあります。私は非常にシンプルな構想から始めました。当初は短編のようなもの考えていたので、それは当然のことでした。短編映画を考えていたのです。物(美術館の所蔵品)から始まった話で、その単純な骨組みがそのまま残っています。美術品は生来、実際の人間の実際の生活に関係するもので、その役目を終えれば、動物園、すなわち美術館でその余生を過ごすことになります。私はそれに関してとても短い話を作りたかったのですが、キャラクターを作り、命を吹き込むと、それが徐々に家族になり、複雑な相互作用を持ち始めました。育っていったのです。(オリヴィエ・アサイヤス監督)https://www.popmatters.com/93185-summer-hours-an-interview-with-olivier-assayas-2496020373.htmlさらに、アサイヤス監督は本作撮影の数ヶ月前に実母を亡くしており、それが逆に本作の軽いトーンやスタイルに拍車をかけることになりました。印象派の手法を使おうとしてはいたのですが、作品の調子やスタイル、タッチの軽さにはとてもこだわりました。難しく複雑で終いには痛みをもたらすことを描いていると自覚する私は、印象派と同じ軽さが欲しかったのです。映画で描かれているような感情に対する免疫が、私にはありませんでした。撮影の数ヶ月前に母を亡くしたばかりだったのです。だから、映画の展開が重くなったり、劇的になればなるほど、軽さの維持にこだわるという不思議な構成になっています。(オリヴィエ・アサイヤス監督)https://www.popmatters.com/93185-summer-hours-an-interview-with-olivier-assayas-2496020373.htmlグローバル化の影響欧州の国々はもともとナショナリズムが強いのですが、極端なナショナリズムがヨーロッパ大陸を荒廃させたという反省から、第二次世界大戦以降、西ヨーロッパでは欧州統合の機運が高まりました。アメリカによるグローバリズムの展開、日本などアジア勢力の台頭が欧州各国の危機感に拍車をかけ、1993年にそれまでの欧州経済共同体を引き続く形で欧州共同体が誕生、域内でのヒト・モノ・カネの移動が自由になり、グローバルな活動が盛んになりました。「トリコロール/青の愛」(1993年)の「欧州統合の為の協奏曲」「スパニッシュ・アパートメント」(2002年)のフランス、ドイツ、イギリス、イタリアなどヨーロッパ中から集まった学生達が暮らすシェア・ハウス「パリ20区、僕たちのクラス」(2008年)の出身国も生い立ちも様々な24人の生徒たちがフランス語を学ぶ中学の教室などなど、フランス映画にもその影響が反映されます。統計は調べていませんが、他国との合作映画も増えているものと思われます。本作では、長女のアドリエンヌは世界中で仕事をし、アメリカ人と国際結婚する予定次男のジェレミーは仕事の場である中国に家族共々、本格的に生活の拠点を移し、バリ島に別荘を買う予定と、家族が離散し、母の遺産を相続できない背景のひとつとしてグローバル化を捉えています。さらに、家政婦エロイーズの甥もスペインで夏を過ごす予定であることを示し、グローバル化が家族離散の普遍的な背景であることを印象づけています。時代の変遷、世代のギャップ本作に描かれている離散や断絶といったギャップは、グローバル化によるものだけではありません。時代の変遷や世代間のギャップ、当事者・部外者のギャップなども描かれています。冒頭、やんちゃな孫たちが広い庭を走り回るシーンで始まりますが、池は危ないと家政婦のエロイーズが注意するものの、孫たちは意に介しません。これはよくある世代間のギャップのひとつです。続いて庭のテーブルを囲んで母の誕生日を祝う子どもたちが映し出されます。子どもたちが母にプレゼントを贈り、その中にコードレス電話がありますが、母は複雑過ぎてと躊躇います。中盤、美術品整理の為に実家に集まった子供たちは、「使い方はフレデリックに連絡」とメモを貼ったままで、手付かずのコードレス電話を発見します。これは、老いて時代とのギャップを埋めることができない母を象徴しています。同じく、中盤、娘のシルヴィーが補導されたことを契機に、フレデリックとシルヴィーが激しく対立します。これも世代間のギャップのひとつです。中盤で浮かび上がるこのシルヴィーのプレゼンスは、エンディングへのフォア・シャドウイング(予兆、伏線)になっています。終盤、携帯で話をすることに夢中な男が、オルセー美術館に寄贈された机に目もくれずに、フレデリックとリサの目の前を通り過ぎます。この男は、時代とのギャップを埋めることがないまま美術品を守り続けた母に対する、強烈なアイロニーになっており、いわば当事者と部外者のギャップです。この痛烈なギャップもエンディングへのフォア・シャドウイングになっていますが、興味深いのはこの男が携帯で「映画を観に行こう」と話している点です。言ってみれば、この映画を見ている我々も部外者であり、スクリーンのこちら側と向こう側には決して超えることができない大きなギャップがあります。それでも我々は時に感情移入したり、時に共感したりできるわけで、アサイヤス監督はこれをエンディングの解釈に引っ掛けているのかもしれません。ギャップを超えるものグローバル化による離散、時代の変遷、世代間のギャップなど、古き良きものを受け継ぐ難しさを感じさせる作品で、エンディングでも若者たちがテンポのいい音楽を大音量でかけ、酒を飲み、ドラッグを回してパーティを楽しみます。重なる数々の喪失に沈む一方ではなく、若者たちの活力が希望を暗示するようでもあり、私は気に入っていますが、これを不謹慎と感じる人もいるようです。<ネタバレ>エンディングは、本作の本質です。まさに本作が描こうとしていることです。私はノスタルジックになりたくなかったし、物質文明の中で失われていく美についての映画を作りたかったわけでもありません。それらは型にはまっているだけではなく、私が言いたいこととは全くに逆なのです。エンディングのシーンは、まさに私が説明しようとしている複雑さそのものなのです。時の経過は、ある意味、冷酷です。この家を好きになり、愛着を覚え、思い出もでき・・・・というところに、過去も知らず、意にも介さない若者たちがいきなり現れるわけです。我々とは異なり、彼らは既に家具が運び出された家に亡霊を見ることもありません。そこには何かしら冷酷なものが感じられますが、それはフレデリックが何を心配しようが孫たちには関係ないだろうという先入観です。我々は徐々にそれ(先入観)が逆であることに気づきます。シルヴィーはすべてわかっています。なぜなら、彼女も最も失った一人なのです。彼女らは10代で、その世界は狭く、親の家、両親の家など、ほんの少しの場所しか知りません。何かを失うのは、彼らなのです。何が起きているのか、シルヴィーは最後に最も微妙な形で理解します。エンディングで彼女が涙しますが、それは祖母が彼女を連れて行ってくれた場所を思い出したからです。彼女が失うのは物ではなく、伝統でもなく、何かの価値でもなく、お金になるものでもなく、目に見えないものです。それは彼女の祖父が見た自然、両親の実家の魂である自然であり、失われた家族の良き日々の精神です。それに手で触れることができないことを彼女は知っています。それはものではなく、感情です。私にとって、この映画の重要さはそこにあります。もちろん、この映画は喪失感で終わりますが、同時に希望もあります。喪失にもかかわらず、深くて複雑なものは受け継がれていくのです。(オリヴィエ・アサイヤス監督)https://www.popmatters.com/93185-summer-hours-an-interview-with-olivier-assayas-2496020373.html母の喪失、家族の離散、生まれ育った家や庭の喪失、家族の集いの喪失、思い出の美術品の喪失といった数々の哀しみを題材にしながら、印象派の絵画のように軽く美しいタッチで風景を描き、散文詩のようにあっさりと人間関係を描き、孫たちが遊び回るシーンで始まり、孫たちが遊び回るシーンで終え、終いには希望さえ感じさせる、見事な構成の作品です。因みに、原題の「L'Heure d'été」は夏時間と言う意味で、本作のテーマのひとつである「時間」に「夏」という言葉が繋がり、ポジティブなニュアンスが感じられることからタイトルに採用されたそうです。<ネタバレ終わり>余談:変遷を続けるヨーロッパ昨今、金融商品取引法(有価証券報告書虚偽記載)及び会社法違反(特別背任)の疑いで逮捕され、メディアを賑わしているカルロス・ゴーン容疑者ですが、彼の両親はレバノン人で、彼はブラジル生まれです。ブラジルとレバノンの二重国籍だった同氏にフランス政府は新たにフランス国籍を与え、国策会社であるルノーのトップに据えました。外国人を国策会社のトップに据えるなんて、一昔前のフランスでは考えられないことですが、いずれにせよ、この二十年余りの間にフランスがグローバル化よって大きく変化したことは間違いありません。ちょうど米国のリーマン・ブラザーズが破綻した2008年に本作が公開され、翌年にはギリシア危機が起きてEUの意味が問われ始めます。実はこの頃、既に東欧からの域内移民が増え始めています。EUには国境を越えた自由移動の原則があり、また、欧州移民を自国民と平等に扱う義務がありますが、イギリスでは雇用や公共住宅など社会福祉面で競合する労働者・低所得者層を中心に反EU感情が高まり、2016年にはついにEU離脱の国民投票が行われました。一方、2011年から内戦が続くシリアを中心に中東やアフリカなどからも難民が欧州に押し寄せ、2015年には前年比で倍増と勢いを増します。フランス、ドイツなどのEUの核となる国々でも反移民やEU離脱を唱える極右勢力が台頭し、政権を揺るがすなど、その後も欧州は大きく動いています。本作に続編はありませんが、シルヴィーが極右の政治活動に身を投じているという設定で続編を作ったら面白いのではないかと、勝手に想像をめぐらしています。ジュリエット・ビノシュ(アドリエンヌ、エレーヌの長女)ジュリエット・ビノシュ(1964年)は、フランス出身の女優。1983年に映画デビュー、1985年公開の「ゴダールのマリア」や「ランデヴ」で人気を得、セザール賞主演女優賞にノミネートされる。その後、「トリコロール/青の愛」(1993年)でヴェネツィア国際映画祭女優賞とセザール賞主演女優賞を受賞「イングリッシュ・ペイシェント」(1996年)でベルリン国際映画祭銀熊賞とアカデミー助演女優賞を受賞「ショコラ」(2000年)でアカデミー賞主演女優賞にノミネート「トスカーナの贋作」(2010年)でカンヌ国際映画祭女優賞の受賞、世界三大映画祭の女優賞を制覇している。本作は主演の一人という扱いで、ちょっと見た感じでは長男を演じたシャルル・ベルリングの方が目立つ印象がだが、母に対する娘の仕草など天下一品の演技で、天才女優の片鱗が伺われる。シャルル・ベルリング(フレデリック、エレーヌの長男)シャルル・ベルリング(1958年〜)は、フランス出身の俳優。「父を殺した理由」(2001年)、「皇帝ペンギン」(2005年)、「エル ELLE」(2016年)などに出演している。本作では、ベテランらしく、安定した説得力のある演技を見せている。 ジェレミー・レニエ(ジェレミー、エレーヌの次男)ジェレミー・レニエ(1981年〜)は、ブリュッセル出身のベルギーの俳優。「ある子供」(2005年)、「つぐない」(2007年)、「ヒットマンズ・レクイエム」(2008年)、「ロルナの祈り」(2008年)、「しあわせの雨傘」(2010年)、「少年と自転車」(2011年)などに出演している。エディット・スコブ(エレーヌ、アドリエンヌとフレデリックとジェレミーの母)エディット・スコブ(1937年〜)は、パリ出身のフランスの女優。60年以上のキャリアを持ち、映画・テレビドラマ以外に舞台女優としての実績がある。「顔のない眼」(1960年)、「列車に乗った男(2002年)、「ホーリー・モーターズ」(2012年)、「未来よ こんにちは」(2016年)などに出演している。本作、及び「ホーリー・モーターズ」でセザール賞助演女優賞にノミネートされている。ドミニク・レイモン(左、リサ、フレデリックの妻)ドミニク・レイモン(1957年〜)は、ジュネーブ出身のフランスの女優。「マリー・アントワネットに別れをつげて」(2012年)、「タイピスト」(2012年)などに出演している。一見ソフトだが、実は年相応にしっかりとした芯を持つ女性を演じ、説得力のある安定したパフォーマンスを見せている。ヴァレリー・ボネトン(右、アンジェラ、ジェレミーの妻)ヴァレリー・ボネトン(1980年〜) は、フランスの女優。「グッバイ・ファーストラブ」(2012年)などに出演、「君のいないサマーデイズ」(2010年)でセザール賞助演女優賞にノミネートされている。イザベル・サドヤン(右、エロイーズ、ポールの生きていた時代からの家政婦)イザベル・サドヤン(1928年〜2017年)は、リヨン出身のフランスの女優。映画、テレビのみならず、数多くの舞台に出演するとともに、衣装も手がけている。「欲望のあいまいな対象」(1977年)、「マルタン・ゲールの帰還」(1982年)などに出演している。本作撮影時、エディット・スコブより10歳近く年上の最年長で、年季の入ったどっしりとした家政婦を見事に演じているのは、キャリアの長さ、豊富さの証左と言える。惜しくも、惜しくも、2017年に亡くなっている。アリス・ドゥ・ランクサン(シルヴィー、フレデリクとリサの娘)アリス・ドゥ・ランクサン(1991年〜)は、パリ出身のフランスの女優。映画俳優・監督のルイ=ド・ドゥ・ランクザンと撮影監督・映画監督のカロリーヌ・シャンプティエの娘。「水の中のつぼみ」(2007年)、「あの夏の子供たち」(2009年)、「婚約者の友人」(2016年)などに出演している。撮影時、16歳位で幼い顔立ちだが、アンバランスに大きい胸に一瞬、どぎまぎしてしまう。「婚約者の友人」でもそうだが、ちょっと不安定な部分がある役をやると光る女優かもしれない。【撮影地(グーグルマップ)】子どもたちが集う母の家(入り口)子どもたちが集う母の家(俯瞰)オルセー美術館 「夏時間の庭」のDVD(楽天市場)【関連作品】オリヴィエ・アサイヤス監督xジュリエット・ビノシュのコラボ作品(楽天市場) 「アクトレス〜女たちの舞台〜」(2014年)監督・脚本 「ノン・フィクション」(2018年)監督・脚本オリヴィエ・アサイヤス監督・脚本作品のDVD(楽天市場) 「冷たい水」(1994年)監督 「イルマ・ヴェップ」(1996年)監督・脚本 「8月の終わり、9月の初め」 (1998年)監督・脚本「カルロス」(2010年)監督・脚本 「5月の後」(2012年)監督・脚本 「パーソナル・ショッパー 」(2016年)監督・脚本ジュリエット・ビノシュ出演作品のDVD(楽天市場) 「トリコロール/青の愛」(1993年) 「イングリッシュ・ペイシェント」(1996年) 「サン・ピエールの生命」(2000年) 「隠された記憶」(2005年) 「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」(2007年) 「夏時間の庭」(2008年) 「トスカーナの贋作」(2010年) 「カミーユ・クローデル ある天才彫刻家の悲劇」(2013年) ・・・北米版、リージョン1、日本語なし 「レット・ザ・サンシャイン・イン」(2017年) 「ポリーナ、私を踊る」(2018年)
2019年01月16日
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「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」(原題:Kubo and the Two Strings)は、2016年公開のアメリカの3Dストップモーション・アニメーションによる冒険ファンタジー&アクション映画です。トラヴィス・ナイト監督、アート・パーキンソン、シャーリーズ・セロン、マシュー・マコノヒー、レイフ・ファインズ、ルーニー・マーラら出演で、封建時代の日本を舞台に、魔法の三味線を操る片目の少年クボと仲間のニホンザルとクワガタムシが、邪悪な叔母、少年の片目を奪った祖父の月の帝と闘う姿を描いています。第89回アカデミー賞で、長編アニメーション賞と視覚効果賞にノミネートされた作品です。 「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:トラヴィス・ナイト脚本:マーク・ヘイムズ/クリス・バトラー原案:シャノン・ティンドル/マーク・ヘイムズ出演:アート・パーキンソン(クボ) シャーリーズ・セロン(サル/サリアツ) マシュー・マコノヒー(クワガタ/ハンゾウ) レイフ・ファインズ(月の帝/ライデン) ルーニー・マーラ(闇の姉妹カラスとワシ) ジョージ・タケイ(ホサト) ケイリー=ヒロユキ・タガワ(ハシ) ブレンダ・ヴァッカロ(カメヨ) メイリック・マーフィ(マリ) ミナエ・ノジ(ミナエ) アルファ・タカハシ(アイコ) ローラ・ミロ(ミホ) ケン・タケモト(ケン) ほか【あらすじ】封建時代の日本。少年クボ(声:アート・パーキンソン)は海に突き出た崖の洞穴で病弱な母サリアツ(声:シャーリーズ・セロン)と暮らしています。クボは幼い頃、闇の魔力を持つ祖父、月の帝(レイフ・ファインズ)に狙われ、彼を助けようとした父親を失いました。その際にクボは月の帝に左目を奪われてしまいましたが、彼には三味線の音色で折り紙に命を与え意のままに操る不思議な力があり、折り紙を生き生きと動かしながら村人たちに物語を語って生計を立てています。クボの語る侍ハンゾウ(声:マシュー・マコノヒー)の物語は村人たちに大人気ですが、クボは日暮れ前に母のもとへ帰らなければならず、物語はいつも結末が語られることがありません。物語は母から伝え聞いたものですが、母も物語の結末が近づくと覚えていないと言って語るのをやめてしまいます。ある日、村は盆踊りで盛り上がっていました。お盆には、灯篭を飾り死者に語りかけて想いを伝えあうことができます。父を知らないクボも折り紙で灯篭を作り父に語りかけますが、父が現れぬまま夜になり、日暮れ前に帰るという母との約束を破ってしまいます。やがて母の妹だという二人の女、闇の姉妹(声:ルーニー・マーラ)が現れ、残っているクボの右目を祖父である月の帝に捧げろと言い襲ってきます。そこへ突如、母が現れ、「父の刀、鎧、兜を探し出しなさい」とクボに言い残し、クボを魔法で遠くへ避難させます。クボの手には母の長い髪が一筋残っているだけでした。雪に覆われた北国の洞窟でクボが気が付くと、そこには雌のサル(声:シャーリーズ・セロン)がいて、クボに厳しい言葉をかけながら面倒を見ます。サルは、母がクボに与えたお守りの猿の人形の化身だとクボに説明します。クボはサルとともに、母が言い残した三つの秘宝を求めて旅に出ます。その途中に出会った、記憶を持たない侍のクワガタ(声:マシュー・マコノヒー)も一行に加わります。陽気でノリの軽い弓の名手のクワガタは、厳しいが面倒見の良いサルと時に対立しながらも、クボを助けます。一行は、巨大骸骨のがしゃどくろを倒して刀を手に入れ、水中の妖怪との戦いの末に鎧を見つけます。クボが鎧を探している間、サルは闇の姉妹の一人の襲撃を受け、傷を負いながらも倒します。サルは戻ったクボに、月の帝の娘であるクボの母は地上の侍を倒しに来たが、ハンゾウと親しくなりクボが生まれた自分(サル)は母が魔法で意識を移した存在であることを告げます。兜がハンゾウの屋敷にあると夢で告げられたクボは、廃墟となった屋敷に向かいますが、そこには闇の姉妹の残る一人が待ち構えています。彼女は、クワガタが実はハンゾウである自分たちが記憶を奪って姿を変えたことを明かします。クワガタを闇の姉妹に倒されたクボは、三味線を鳴らして危機を脱しますが、まもなくサルも魔法が切れて人形に戻ってしまいます。クボは本当の兜が故郷の村にあると知り帰郷しますが、村は月の帝により廃墟と化していました。兜を手に入れたクボは月の帝と対決します・・・。【レビュー・解説】封建時代の日本を舞台に、語りもの、口頭伝承、折り紙、お盆の風習などの文化を題材に、生と死、記憶、両親への敬愛といった普遍的なテーマを、ハイテク、ハイブリッドなストップモーション・アニメにより神話的スケールで描いた、スタジオ・ライカ入魂の叙事詩的冒険ファンタジー&アクション映画です。封建時代の日本が舞台のストップモーション・アニメによる叙事詩的冒険ファンタジー日本文化を題材にしたストップモーション・アニメ本作、「猿ヶ島」(2018年)と、アメリカ人監督による日本文化にこだわったストップモーション・アニメが続き、日本の映画ファンとしては嬉しい限りです。本作のトラヴィス・ナイト監督も、「猿ヶ島」のウェス・アンダーソン監督も、黒澤明監督、宮崎駿監督の影響を受けていますが、近未来の日本を舞台にした「犬ケ島」がウェス・アンダーソン監督らしい箱庭的世界観で描かれているのに対して、本作は日本の封建時代を舞台にした神話的スケールの叙事詩をCGで保管されたハイブリッドなストップモーション・アニメでダイナミックに描いており、両監督の個性が強く出ています。三味線の語りと折り紙の魅力を大胆なファンタジーで表現主人公のクボは魔法の三味線で折り紙を操りながら、村人たちの語りを聞かせ、日銭を稼いでいます。琵琶法師や瞽女をヒントに得たのでしょうか、琵琶法師も瞽女も盲目で、クボが片目という設定はその名残を残したいるようでもあります。加えて、日本の伝統の折り紙を三味線で操るという大胆な設定ですが、ファンタジーとして全く違和感がなく、ユーモアも混じえながら極めて自然にまとめられています。外国人監督ならでは大胆さかもしれませんが、琵琶法師や瞽女のみならず、世界の各地に存在した吟遊詩人はメディアや娯楽の発達により過去のものとなり、タブレットやゲームが子どもたちに身近な時代に、このような大胆なファンタジーの形で三味線の語りや折り紙の魅力を伝えるというのは、非常に素晴らしい発想です。さらに、折り紙に命を吹き込むクボは、実はパペットに命を吹き込むアニメーター自身の投影にもなっています。三味線の語りと折り紙の魅力を大胆に融合(YouTube)クボの語りの前半はその後に起きることのフォア・シャドウイング(予兆)になっている。後半に登場する火を吐く鶏は、波山という日本の妖怪がモチーフになっている。因みに、この動画に登場しないが、後述の巨大骸骨もがしゃどくろという日本の妖怪をモチーフにしており、闇の姉妹は巴御前に触発されている。波山、がしゃどくろ、巴御前といったキャラクターを知らない日本人は、少なくないかもしれない。メキシコの伝統的行事「死者の日」を題材に難しいテーマである死を扱いながらも、大人も子供も観れるディズニー王道の物語に纏め上げた「リメンバー・ミー」(2017年)には驚かされましたが、本作にもメキシコの「死者の日」に似た日本の「お盆」が登場します。「リメンバー・ミー」では死者の国が大規模に幻想的に描かれていましたが、本作ではお墓参りと精霊流しがリアルな規模感で描かれています。作中、村で集い、祀るシーンがあります。お盆のお祭りです。それは、今は亡き愛する者や祖先を讃える美しい行事で、格式張ったものでも悲しみに浸るものでもありません。故人が今なお我々の生活の一部であること讃え、今後もその一部であることを願う行事です。お盆の行事を描きながら、我々はその意味を明確に示しています。(トラヴィス・ナイト監督)https://www.denofgeek.com/uk/movies/laika/43543/travis-knight-interview-kubo-kurosawa-miyazaki-and-moreお盆の墓参りと精霊流しのシーン(YouTube)クボも亡き父を迎えるべく祈りを捧げるが、このシーンではクボは父を迎えることができない。お盆の他にも、日本の版画を研究し様式化するなど、日本の文化を丁寧に織り込んでいます。木版画風のエンドクレジット(YouTube)ハイブリッドな手法で神話的スケールの叙事詩を描く冒頭、荒れる大海原に漂う小舟のシーンに圧倒されますが、実は小舟と小舟に乗る人は実写のストップモーション、背景の海はCGで合成されたものです。本作を制作したライカ社は、パペットのメイン・キャラクター達が直接触れる船や洞穴といった背景は全て実際にセットを作っていますが、水や海、空、遠景の山々、遠くに見える船はCGで制作しています。すべてセットで実現しようとするとどうしても箱庭的な世界観になりがちですが、ライカ社はストップモーション+CGのハイブリッドにより、神話的スケールの叙事詩をダイナミックに描いています。嵐の海のシーンのメイキング(YouTube)ライカ社はいきなりCGで描くことはせず、必ず、実際の物をベースにCG化している。波を表現する際には、格子状に組んだシャワーカーテンのレールに色々な種類の布やプラスチックなどを貼り、どの素材が海面をリアルに再現できるか試している。最も良かった素材が黒いゴミ袋で、表面のシワや光の反射具合が面白く、映画の世界観にマッチした。これをストップモーションで撮影し、それをベースにCG化したのが、本編に採用されているシーン。巨大パペットを使用した実写 パペットと言えば、身の丈、数十センチというのが一般的ですが、この作品に登場する巨大骸骨(がしゃどくろ)は、なんと高さ4.9メートル、体の重さ250キログラム、腕の重さが35キログラムもある巨大なパペットです。フライト・シミュレーターに使用する6脚の姿勢制御装置で支えられており、コンピューターで操作することにより、同時に複数の軸に沿って回転させることができますが、手、腕、頭といった部位は、必要に応じ、通常のパペットのように手動で動かすことができます。これらの部位を滑車を使ってワイヤーで吊り、足場に乗ってワイヤーで使って動かしますが、逆側に下げた砂袋の重さでバランスを取っており、任意のポジションをキープすることができます。実現する方法はいろいろありましたが、運命的な対決をするパペットは、相応の大きさでなければなりません。骸骨は身長30センチのサルを掴みますが、運命的な対決のシーンでは骸骨の手は相応の大きさでなければなりません。骸骨の手を逃れたサルは、腕から肩へと駆け上がりますが、これも相応の大きさでなければなりません。クボとクワガタは骸骨の頭に上りますが、これも他に実現する方法があります。私達は、骸骨を部分的に作ることを考えましたが、結局、骸骨全体を作らねばならないという結論に至りました。(トラヴィス・ナイト監督)https://www.denofgeek.com/uk/movies/laika/43543/travis-knight-interview-kubo-kurosawa-miyazaki-and-more巨大骸骨(がしゃどくろ)のメイキング(YouTube)3Dプリント/ペイントを駆使した表情豊かなパペット本作では、ストップモーションアニメとは思えない顔の表情の豊かさに驚かされます。通常のパペットでは顔の表情に制約があり、ボディ・ランゲージで感情表現を補完することが少なくありませんが、本作では違った表情の顔のパーツを準備し、そのパーツを1コマごとに顔にはめ込むという、気が遠くなるような作業によって豊かな表情を実現しています。さらに風にそよぐ髪や、動く動物の毛もパーツを取り換えることで表現しています。より豊かな表情を作り上げる為に顔のパーツは分割されており、パーツを組み合わせによって、クボは4800万通り、クワガタは1800万通りもの表情が可能になっています。パーツの造形のみならず、色付も3Dプリンターで行っており、ハイテクが表情の豊かさを支えています。表情豊かなパペットの仕組み(YouTube)ホワイトウォッシュに関連して、「さまざまな人と仕事をしているけど、アジア人を配役するのは難しい。ほとんどのキャスティングディレクターがアジア系俳優は表情が乏しいと感じている。」という匿名キャスティングディレクターの発言がある書籍に引用され話題になりましたが、本作では日本人のキャラクターだからといって手を抜くのではなく、逆に類を見ないほどの豊かな表情を与えています。表情は時に強調されている感があり、日本人より、日系アメリカ人の表情に近いと感じるときもありますが、グローバルな感情表現の為には、決して誤った選択ではないと思われます。衣装へのこだわり衣装へのこだわりも尋常ではありません。ライカは基本的にアメリカで膨大な調査を行い、専門家やコンサルタントのアドバイスを得ながら本作を制作していますが、衣装に関しては生地を研究するために衣装デザイナーを日本に派遣、非常に凝ったデザインを実現しています。こだわりの衣装デザイン(YouTube)徹底的にこだわって衣装を作っていることが伺われる。日本独特の藍染めついても言及されている。クボたちの衣裳は江戸時代の日本のもので、着物の袖がゆったりしていますが、これはストップモーション・アニメにとって大きなチャレンジでした。通常のストップモーション・アニメの衣裳は体にぴったりしており、動かさなくて済みます。しかし、着物の場合はちょっと動かしたときに自然な形で袖が落ちないと、不自然に見えてしまいます。長い髪も人毛を使っていますが、シリコンを足して動かせるようにしており、パペットを一コマずつ動かす際には、自然に見えるように、着物、髪の毛、三味線、水筒も一緒に動かして撮影しています。ライカ社についてライカ(Laika)は、ストップモーション・アニメの映画やコマーシャルを制作する、アメリカのスタジオです。ポートランドでストップモーション・アニメを制作していたウィル・ヴィントン・スタジオの流れを汲む形で、2005年にライカが設立され、同年、「ティム・バートンのコープスブライド」の制作に携わって名を上げます。ライカ社としての長編映画第一作「コララインとボタンの魔女 3D」(2007年)では、アニー賞で作品賞を含む8部門にノミネート、ゴールデングローブ賞アニメ映画賞にもノミネートされています。ストップモーション映画で初めてキャラクターの顔を3Dカラープリンターで作成した長編映画第二作「パラノーマン ブライス・ホローの謎」(2012年)では、第85回アカデミー賞長編アニメ部門にノミネート、アニー賞では8部門にノミネートされています。長編映画第三作の「ボックストロール」(2014年)では、第87回アカデミー賞長編アニメ賞とゴールデングローブ賞アニメ映画賞にノミネート、アニー賞では9部門にノミネートされ声優賞と美術賞を受賞しています。第四作目の本作では、第89回アカデミー賞長編アニメ賞と視覚効果賞にノミネートされています。アニメ作品が視覚効果賞候補になったのは、「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」以来二度目の快挙で、他にゴールデングローブ賞アニメ映画賞にノミネート、アニー賞では10部門にノミネートされ、キャラクター・アニメーション賞と美術賞、編集賞を受賞しています。ライカ社の社のCEO(最高経営責任者)は、ライカ作品でリード・アニメーターを務め、本作で監督デビューを果たしたトラヴィス・ナイトです。彼の父親は、スポーツ用品の世界的ブランド「ナイキ」の創業者で、米国でオニツカタイガーの販売をしていた関係で、子供の頃から父に連れられて何度も来日、コミックや日本の伝統的文化の虜になりました。トラヴィスはその後、アニメーターになりますが、彼が働いていたアニメ制作会社が倒産の危機に瀕し、父親がこの会社を買い取って社名変更したのがライカです。ある意味、トラヴィスはアニメ界のおぼっちゃまですが、賞歴を見る限り、作品重視の素晴らしい業績を積み上げていることがわかります。CG万能時代のストップモーションのあり方1985年にピクサーが設立され、「ティン・トイ」(1988年)で3DCG作品として初めてアカデミー短編アニメ賞を受賞、そして長編CG作品「トイ・ストーリー」(1995年)が大ヒット、CGアニメの優位性を強く印象づけました。より柔軟で、より正確なCGアニメを目の当たりにして、ストップモーションのアニメーターには為す術がありませんでした。10年前にライカを始めた時、ストップモーションは生命維持装置に繋がれて生きているような状態で、その存在意義を正当化する必要がありました。私達は、新たな時代に向けて活気づけたいと思いました。100年も続いた表現手段は、いつの間にか干からびた蔓のようになっていたのです。(トラヴィス・ナイト監督)https://www.denofgeek.com/uk/movies/laika/43543/travis-knight-interview-kubo-kurosawa-miyazaki-and-more ライカ社のとった選択肢は、パペットであれ、CGであれ、表現の為の手段に過ぎないという解釈でした。ライカ社はいたずらにストップモーション純血主義に走るのではなく、設立以来、ストップモーションとCGのハイブリッドストップモーションによる試作をベースにしたCG化3Dプリンター/ペイントによるパペットのパーツの製作パペットの材質、シリコンの組成レーザーカッターによる生地の裁断姿勢制御装置の利用など、テクノジーの融合に積極的に取り組んでいます。本格的にCGアニメを意識したストップモーション・アニメが公開され始めたのは2005年頃からと思われますが、危機感を抱いているのはライカ社だけではなく、以降、様々な工夫がなされた作品が数多く見られ、一種の豊作状態になっているのは嬉しい限りです。採算に乗せるには相変わらず難しく、よく観れば観るほど、作品の価値に見合った興行成績が得られていないという感を強くしますが、こうした厳しい環境の中でもチャレンジする人たちがいて、それが新たなイノベーションを生み出し、ストップモーションやアニメ、ひいては映画全体の進化につながっていくのではないかと思っています。2005年以降に公開された主な ストップモーション・アニメ作品名公開年製作国興行収入制作費ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!2005年イギリス1億9300万ドル3000万ドルティム・バートンのコープスブライド2005年アメリカイギリス1億1700万ドル4000万ドルA Town Called Panic2009年ベルギールクセンブルグフランスN/AN/Aメアリー & マックス2009年オーストラリア170万ドル800万ドルコララインとボタンの魔女2009年アメリカ1億2500万ドル6000万ドルファンタスティック Mr.FOX2009年アメリカイギリス4600万ドル4000万ドルフランケンウィニー2012年アメリカ8100万ドルN/Aパラノーマン ブライス・ホローの謎2012年アメリカ1億700万ドル6000万ドルザ・パイレーツ! バンド・オブ・ミスフィッツ2012年アメリカイギリス1億2千万ドル5500万ドルLEGO ムービー2014年アメリカオーストラリアデンマーク4億7千万ドル6000万ドルアノマリサ2015年アメリカ570万ドル800万ドルひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム2015年イギリス1億600万ドル2500万ドルリトルプリンス 星の王子さまと私2015年フランスイタリア6500万ドル7750万ドルKUBO クボ 二本の弦の秘密2016年アメリカ7000万ドル6000万ドルぼくの名前はズッキーニ2017年スイスフランス560万ドル 600万ドル犬ヶ島2018年アメリカドイツ6400万ドル数千万ドル(推定)参考:リメンバー・ミー(ピクサーのCGアニメ)2017年アメリカ8億700万ドル1億7500万ドルクボ(アート・パーキンソン)サリアツ(シャーリーズ・セロン)サル(シャーリーズ・セロン)クワガタ(マシュー・マコノヒー) 月の帝(レイフ・ファインズン)闇の姉妹(ルーニー・マーラ) 【サウンドトラック】 「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」のサウンドトラックCD(楽天市場)1. THE IMPOSSIBLE WAVES 2. KUBO GOES TO TOWN 3. STORY TIME 4. ANCESTORS 5. MEET THE SISTERS! 6. ORIGAMI BIRDS 7. THE GIANT SKELETON 8. THE LEAFY GALLEON9. ABOVE AND BELOW 10. THE GALLEON RESTORED 11. MONKEY’S STORY 12. HANZO’S FORTRESS 13. UNITED-DIVIDED 14. SHOWDOWN WITH GRANDFATHER 15. REBIRTH 16. WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS日本文化を題材にした作品だが、エンディングのテーマにはビートルズの「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」のカバー曲が使われている。クワガタ(ビートル)とビートルズ、弦楽器である三味線とギターをオーバラップさせたもの思われるが、優しく哀愁を帯びた曲調が映画の世界観とマッチしている。これも、グローバルな感情表現という視点では、誤った選択ではないと思われる。個人的には「津軽じょんがら節」を持ってきても面白かったと思うが、海外の映画ファンにディープ過ぎるに違いない。【関連作品】ライカ製作のストップモーション・アニメーション映画のDVD(楽天市場) 「コララインとボタンの魔女」(2009年) 「パラノーマン ブライス・ホローの謎」(2012年)おすすめストップモーション・アニメーション映画のDVD(楽天市場) 「ファンタスティック・プラネット」(1973年) 「The Adventures of Mark Twain」(1985年):輸入版、Region 1、日本語なし 「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス 」(1993年) 「ジャイアント・ピーチ」(1996年) 「チキンラン」(2000年) 「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ! 」(2005年) 「ティム・バートンのコープスブライド」 (2005年) 「A Town Called Panic」(2009年):輸入版、Region 1、日本語なし 「メアリー & マックス」(2009年) 「ファンタスティック Mr.FOX」 (2009年) 「フランケンウィニー」(2012年) 「ザ・パイレーツ! バンド・オブ・ミスフィッツ」(2012年):輸入版、Region 1、日本語なし 「LEGO ムービー」(2014年) 「ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム 」2015年) 「アノマリサ」 (2015年) 「リトルプリンス 星の王子さまと私」(2015年) 「ぼくの名前はズッキーニ」(2016年) 「犬ヶ島」(2018年)
2019年01月09日
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「BPM ビート・パー・ミニット」(原題:120 battements par minute)は、2017年公開のフランスのドラマ映画です。エイズ活動家団体「ACT UP」におけるロバン・カンピヨ監督とフィリッペ・マンジョの経験を基に、ロバン・カンピヨ監督/フィリッペ・マンジョ共同脚本、ナウエル・ペレ・ビスカヤー、アーノード・ヴァロワ、アデル・エネルら出演で、1990年代初頭のフランスを舞台に ACT UP パリの若いメンバーたちがエイズへの偏見や無理解への抵抗に命を燃やし、限りある生を謳歌する姿を描いています。第70回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でグランプリを獲得、第90回アカデミー賞外国語映画賞にフランス代表作として出品された作品です。 「BPM ビート・パー・ミニット」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ロバン・カンピヨ脚本:ロバン・カンピヨ/フィリッペ・マンジョ出演:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤー(ショーン・ダルマゾ) アーノード・ヴァロワ(ナタン) アデル・エネル(ソフィー) アントワン・ライナルツ(ティボー) ほか【あらすじ】1990年代初頭のパリ、若い世代を中心にHIV/エイズの脅威が広がっていましたが、治療はまだ十分ではなく、政府も製薬業界も対策に本腰が入らないまま、社会には感染者に対する露骨な偏見や差別が広がっていました。そんな中、HIV/エイズ感染者や恋人、家族など身近な人、治療に当たる医療関係者など、対策を訴える者、問題意識を持つ者たちが、活動家団体である ACT UP パリに集まり、感染者への不当な差別への抵抗や環境改善の為に、デモ行進や政府・製薬会社への抗議、高校での性教育などの活動を行っていました。彼らにとってこの団体は本音を語り合える家族のようなものであり、活動に参加することは個人の支えにもなりました。この団体に新しく加わったナタン(アーノード・ヴァロワ)はHIV陰性でしたが、積極的にミーティングやデモ活動に参加します。HIV陽性で病気が進行しているショーン(ナウエル・ペレーズ・ビスカヤー)はグループの中で最も行動的で、温和な活動だけでは現状を変えられないと積極的な活動を主張します。メンバーのまとめ役のティボー(アントワン・ライナルツ)や、オーガナイザーのソフィー(アデル・エネル)はそんな彼に、時に反発します。政府や製薬会社の無責任な態度に腹を立てる彼らの活動は、偏見や無関心さを抵抗する為に血液に見立てた真っ赤なペンキを製薬会社のオフィスにまいたり、許可なく学校を訪れコンドームを配ったりと、日に日にエスカレートしていきます。内省的なナタンはやがて行動的なショーンに惹かれるようになり、ナタンに差別的な言葉を投げつけた女子学生に見せつけるようにショーンが彼にキスをしたことから、二人は一気に距離を縮めます。死への恐怖に抗うように生を謳歌し、二人は互いを求め合いますが、治療薬の開発は一向に進まず、ショーンの身体は病魔に蝕まれていきます・・・。【レビュー・解説】監督ら自らの活動家団体における経験を基に、1990年代初頭に死の恐怖と戦いながら懸命に生きるエイズに冒された若者たちをリアルに描いた、心に残る感動的なドラマ映画です。エイズに冒されながらも懸命に生きる若者たちを描く若いエイズ活動家たちをリアルに描く最近、流行りの同性愛ものかと思いながら軽い気持ちで見たところ、「ダラス・バイヤーズクラブ」(2013年)と同じくらいのインパクトを持った強烈な作品でした。「ダラス・バイヤーズクラブ」も本作も1990年台初頭が舞台で、エイズ患者の苦悩と製薬会社等との戦いを描いていますが、「ダラス・バイヤーズクラブ」がテキサスに実在したストレートのカウボーイが主人公の男前な話であるのに対して、本作の主人公はパリの活動家団体に集うクラブ好きなゲイの若者たちのリアルなドラマです。活動家というと時にその過激な行動についつい引き気味になりますが、その実、そうした活動家を内側から描いたあまり類を見ません。本作を見ていると、偏見や無関心に圧殺・黙殺される彼らは、二進も三進もいかない、切羽詰まった状況にある社会に解決を促す為に、多少なりとも過激な行動をする必要があるその為には、彼らの怒りを誇張する必要があることがよくわかります。限りある命を燃やす若者たち今では、早期発見すれば病状をコントロールでき、普通と変わらない生活が送れるようになりましたが、当時のHIV/エイズはほぼ確実に死をもたらす病でした。それなりに生きて苦しんだ挙げ句の死の病ならいざ知らず、まだ10代、20代でのHIV/エイズ宣告は若者たちに逃げ場のない精神的苦痛をもたらしたのではないかと思います。エイズの症状が急速に進行し、病院に担ぎ込まれたジェレミーの独白が生々しいです。ジェレミー(独白):とても怖い、まだ苦しんでいないから。突如、そんな立場に置かれたところで、人はとても座して死を待つ心境にはなれないでしょう。HIV/エイズ宣告を受けた「ダラス・バイヤーズクラブ」のロンは、未承認薬の調達に奔走し、政府や製薬会社と戦います。本作に登場する若者たちは、ACT UP の集会で議論し、クラブで踊り、恋をし、示威行動に出かけて社会の偏見や政府・製薬会社の無関心と戦います。若い彼らはそうすることで限りある命を燃焼させますが、逆に言えば、そうせずにはいられなかったのではないかと思われます。本作からは、決してヒーローではない、どこにでもいるような若者の、そうした生々しい心情が伝わってくるようです。すべての死の病への普遍性が共感を誘うロバン・カンピヨ監督は、ゲイであることを公表しており、出演している俳優も基本的にオープン・ゲイです。あまり名を知られていない俳優が多いのですが、ソフィーを演じるアデル・エネルは「スザンヌ」(2013年)でセザール賞助演女優賞、「ミリタリーな彼女」(2014年)、同主演女優賞を受賞している知名度の高い女優です。彼女も、かつての出演作「水の中のつぼみ」(2007年)のセリーヌ・シアマ監督と同性愛の関係にあることを、カミングアウトしています。そういう意味では、本作はゲイによるゲイの映画とも言えますが、死の病を突きつけられた時にどう反応するかにはゲイもストレートもありません。アフラックのCMで多くの人に知られた山下弘子さんが、肝臓がんの為、25歳で亡くなったのも記憶に新しいのですが、エイズの症状そのものを克明に追うことなく、死へと続く残された孤独な日々を創造的に生きる姿を描く本作は、HIV/エイズのみならず死に至るすべての病に普遍的であり、強烈な共感を誘います。因みに、本作の原題の「120 battements par minute」は、毎秒120拍という意味です。これは、作中に再三登場するクラブ音楽のテンポウォーキングや軽いジョギングをしている時の心拍数で、死の病に直面した若者たちが座して死を待つのではなく、能動的に生を燃焼している状態を象徴しています。ナウエル・ペレーズ・ビスカヤー(ショーン・ダルマゾ)ナウエル・ペレーズ・ビスカヤー(1986年〜) は、ブエノスアイレス出身のアルゼンチンの俳優。完璧なフランス語を話し、「El Aura」(2005年)、「グランド・セントラル」(2013年)、「Todos están muertos」(2014年)、「El futuro perfecto」(2016年)、「天国でまた会おう」(2017年)などに出演している。本作の主演で一躍世界に知られるようになった。アーノード・ヴァロワ(ナタン)アーノード・ヴァロワ(1984年〜)リヨン出身のフランスの俳優。演劇学校で二年間学び、俳優を目指したが芽が出ず、タイで半年間マッサージ療法を学び、マッサージ・スタジオを始める為にパリ戻る。彼のフィスブックのプロフィールがロバン・カンピヨ監督の目に止まり、本作に抜擢された。アデル・エネル(ソフィー)アデル・エネル(1989年〜)は、フランスの女優。13歳の頃から演劇クラスに通い、「クロエの棲む夢」(2002年)のヒロイン役でデビュー。セリーヌ・シアマ監督の「水の中のつぼみ」(2007年)でセザール賞有望若手女優賞にノミネートされ、広く知られる。「メゾン ある娼館の記憶」(2012年)で再び、同有望若手女優賞にノミネートされ、「スザンヌ」(2013年)で同助演女優賞、「ミリタリーな彼女」(2014年)で同主演女優賞を受賞している。セリーヌ・シアマ監督と同性愛の関係にあることをカミングアウトしている。アントワン・ライナルツ(ティボー)アントワン・ライナルツ(1985年)は、ノルウェー出身のフランスの俳優。本作でセザール賞の助演男優賞を受賞する好演を見せている。ACT UP についてACT UP は、AIDS Coalition to Unleash Power(力を結集するためのAIDS同盟の意)の略で、法整備、医学的研究、治療、政策、そして最終的に健康と生命の損失を軽減することにより、エイズとともに生きる人々の生活とエイズの爆発的な流行に対して影響力を与える為に、直接行動する国際的な権利擁護団体です。1987年3月にニューヨークのレズビアン・アンド・ゲイ・サービス・センター内に結成されました。SILENCE=DEATHのロゴを使ったポスター、Tシャツ、バッジ、ネオンなど、アーティスト集団が手がけるグラフィックデザインや宣伝広告手法を駆使して行動を展開、エイズ治療薬の開発・普及を加速させる大きな力となりました。ACT UPは現在も、社会的弱者のニーズを汲んだヘルスケア・システム構築の緊急性を訴え続けています。本作にもSILENCE=DEATH(仏語ではMORT)のロゴをあしらったポスターやT-シャツが登場する【サウンドトラック】 120 battements par minute - Soundtrack CD、輸入盤(楽天市場)1 120 battements par minute 2 Premiers battements 3 Sean & Nathan la nuit 4 Meltonpharm 5 Jeremie est mort du sida 6 Pride 7 La parade 8 Smalltown Boy (Arnaud Rebotini Remix) by Bronski Beat 9 Le scanner 10 Premier Club11 AZT DDI DDC 12 Le pont 13 What About This Love ? (Kenlou Remix) by Mr. Fingers 14 Sean & Nathan 15 Minority's Swing 16 Housing Committee 17 A Prayer for You 【撮影地(グーグルマップ)】ACT UP によるジェレミーの葬列ショーンとナタンが出かける浜辺ショーンが入院する病院ACT UP が棺と十字架を持ち寄ってダイ・インを行う通り血の色に染まるセーヌ川 「BPM ビート・パー・ミニット」のDVD(楽天市場)【関連作品】ロバン・カンピヨ監督・脚本作品のDVD(楽天市場) 「タイム・アウト」(2001年):脚本 「パリ20区、僕たちのクラス」(2008年):脚本 「Eastern Boys」(2013年)監督・脚本(輸入盤、日本語なしIナウエル・ペレーズ・ビスカヤー出演作品のDVD(楽天市場) 「El Aura」(2005年) 「グランド・セントラル」(2013年) 「Todos están muertos」(2014年) 「El futuro perfecto」(2016年) 「天国でまた会おう」(2017年)アデル・エネル出演作品のDVD(楽天市場) 「水の中のつぼみ」(2007年) 「メゾン ある娼館の記憶」(2011年) 「アリーヤ」(2012年) 「スザンヌ」(2013年) 「ミリタリーな彼女」(2014年) 「The Forbidden Room」(2015年)HIV/エイズを描いた映画のDVD(楽天市場) 「Common Threads: Stories from the Quilt」(1989年) 「ロングタイム・コンパニオン」(1989年) 「Silverlake Life: The View From Here」(1993年) 「運命の瞬間/そしてエイズは蔓延した」(1994年) 「エンジェルス・イン・アメリカ」(2003年) 「How to Survive a Plague」(2012年)、輸入盤、日本語なし「ダラス・バイヤーズクラブ」(2013年) 「ノーマル・ハート」(2014年)
2019年01月03日
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「犬ヶ島」(原題:Isle of Dogs )は、2018年公開のアメリカ・ドイツ合作のストップモーション・アニメーション映画です。ウェス・アンダーソン監督、コーユー・ランキン、リーヴ・シュレイバー、ブライアン・クランストンら出演で、近未来の日本を舞台に犬インフルエンザの大流行で孤島に送られた愛犬を捜す少年と、それを助けるボス犬たちの冒険を描いています。第68回ベルリン国際映画祭で、アンダーソン監督が「グランド・ブタペスト・ホテル」(2014年)続き二作連続で銀熊賞を受賞した作品です。 「犬ヶ島」のDVD(Amazon) 【スタッフ・キャスト】監督:ウェス・アンダーソン脚本:ウェス・アンダーソン原案:ウェス・アンダーソン/ロマン・コッポラ/ジェイソン・シュワルツマン/野村訓市出演:コーユー・ランキン(小林アタリ) リーヴ・シュレイバー(スポッツ) ブライアン・クランストン(チーフ) エドワード・ノートン(レックス) ボブ・バラバン(キング) ビル・マーレイ(ボス) ジェフ・ゴールドブラム(デューク) スカーレット・ヨハンソン(ナツメグ) F・マーリー・エイブラハム(ジュピター) ティルダ・スウィントン(オラクル) 野村訓市(小林市長) 高山明(メイジャー・ドウモ) 伊藤晃(渡辺教授) オノ・ヨーコ(科学者助手ヨーコ・オノ) グレタ・ガーウィグ(トレイシー・ウォーカー) 村上虹郎(ヒロシ編集員) フランシス・マクドーマンド(通訳ネルソン) 野田洋次郎(ニュースキャスター) 渡辺謙(筆頭執刀医) 夏木マリ(おばさん) ハーヴェイ・カイテル(ゴンド) フィッシャー・スティーヴンス(スクラップ) コートニー・B・ヴァンス(ナレーター) ほか【あらすじ】「その昔、犬と犬嫌いの小林一族との間で戦争があった」と序幕で語られます。劣勢の犬に同情した少年侍は戦に参加し、小林一族の長を殺害しますが少年も亡き者になり、その魂が祀られます。しかし犬は結局、小林一族に勝てず、人間への服従を余儀なくされます。千年の時が流れ、今から20年後の日本。メガ崎市では犬の伝染病「ドッグ病」が蔓延し始め、社会問題となります。科学者である渡辺教授は「ドッグ病を治す血清がじきに完成する」と主張しますが、人間への感染を恐れた小林市長はそれを無視し、すべての犬をゴミ島である「犬ヶ島」に隔離することを宣言します。数か月後、犬ヶ島では怒りと悲しみと空腹を抱えた犬たちがさまよっています。その中に、5匹のボス犬のグループがいます。かつては快適な家の中で飼われていたレックス、22本のドッグフードのCMに出演したキング、高校野球で最強チームのマスコットだったボス、健康管理に気を使ってくれる飼い主の愛犬だったデューク、そんな元ペットの4匹に「強く生きろ」と喝を入れるノラ犬のチーフの5匹です。そんなある時、一人の少年が小型飛行機で島に不時着します。彼の名はアタリ、護衛犬だったスポッツを捜しに来た小林市長の養子です。事故で両親を亡くしてひとりぼっちになり、遠縁の小林市長に引き取られた12歳のアタリにとって、スポッツだけが心を許せる親友でした。ゴミ島へ送られたスポッツは鍵のかかったオリから出られずに死んでしまったと思われましたが、それは「犬」違いでした。スポッツを救い出すべく探索を決意したアタリに感動したレックスは、伝説の予言犬ジュピターとオラクルを訪ねて教えを請おうと提案、アタリと勇敢で心優しい5匹の犬たちの旅が始まります。一方、メガ崎市では、小林政権を批判し、ドッグ病の治療薬を研究していた渡辺教授が軟禁されます。メガ崎高校新聞部のヒロシ編集員と留学生のウォーカーは、背後に潜む陰謀をかぎつけ調査を始めます。アタリと5匹は、予言犬ジュピターとオラクルの「旅を続けよ」という言葉に従いますが、思わぬアクシデントから、アタリとチーフが仲間からはぐれてしまいます。一人と一匹は少しずつ心を通い合わせ始めます・・・。【レビュー・解説】近未来の日本を舞台に、被写体に正対するシンメトリーな構図、細部へのこだわりなど、ウェス・アンダーソン監督ならでは世界観とストーリー・テリングの魅力が濃縮されたストップモーション・アニメーション映画です。ウェス・アンダーソン監督の世界観が濃縮されたストップモーション・アニメ細部へのこだわり冒頭、神主が神社で祈りを捧げ、犬と犬嫌いの小林一族との戦の顛末が屏風絵風に語られます。神社も屏風絵も模写ではなく、本作のオリジナルなものですが、日本のアニメでもここまでやらないだろうという程、細部へのこだわりが感じられます。アメリカ人の監督によるオリジナル作品ですが、日本的な雰囲気な色濃く漂わせるオープニングです。神社、屏風絵など、プロローグから細部へのこだわりを見せる(YouTube)続いて流れる、動きの激しい和太鼓演奏をストップモーション・アニメで表現したオープニング・クレジットが圧巻です。動きの激しい和太鼓演奏をストップモーション・アニメで表現(YouTube)本編にも、寿司の調理シーンなど細部にこだわった映像が随所に見られます。細部にこだわった寿司の調理シーン(YouTube)純粋に撮りたい!という気持ちがこの場面を生み出しました。もっとも寿司を準備するシーンや日本の食卓を描いたシーンに深い意味は全くないのですが…。手間のかかるストップモーションアニメーションで、日本の食文化を細やかに再現しようなんて人は世界中で僕だけですよね。複雑で大変な作業でした。例えば、包丁さばきひとつや料理人の動きひとつとってみても現実と離れてしまうと、深みがなくなってしまってチープな印象を与えてしまうからです。制作は、フランス人、デンマーク人、スペイン人など世界中から集まった様々なバックグラウンドを持つアニメイターが携わっていました。その中で、日本食の正しい作法を知っている人を探すのは非常に困難で。たった1つのシーンを制作するのに、正しい知識を持ったアメリカにいるアニメイターを見つけ出し、ようやく完成させることができたんです。(ウェス・アンダーソン監督)https://www.fashion-press.net/news/29248本作は、黒澤明監督の「天国と地獄」、「野良犬」、「悪い奴ほどよく眠る」「醜聞」、「醉いどれ天使」などを参考にしています。「もし『犬ヶ島』が1960年代に作られた映画で、設定は2005年やその先の近未来のことを描いた作品だったらどうなるだろう」とイマジネーションを膨らませ、サウンドトラックには黒澤作品の曲も使われています。他に、宮崎駿監督の作品、北斎や広重の絵画、軍艦島、渋谷のハチ公像なども参考にしています。これらの日本に関する映像はリアリティだけを追求したものではなく、オリジナルな部分も含まれていますが、例えば畳の敷き方がおかしいといういったような間違いが製作中に毎日にように指摘され、そうした間違いの修正を地道に積み重ねることにより、非常に質の高いこだわりが実現されています。犬ヶ島は実在する?2005年に来日した際に、ウェス・アンダーソン監督は日本を舞台にした作品を撮りたいと思いました。その後、ロンドンで「ファンタスティック Mr.FOX」(2009年)を撮影している時に、「Isle of Dogs」という道標を見かけて面白いと思い、いろいろと想いを巡らせませした。「Isle of Dogs」は蛇行するテムズ川に突き出た半島状の地域の名前で、語源については、エドワード三世のグレイハウンドが置かれていた野生の鳥が生息しており Isle of Ducks が訛ったなどの説があるようですが、アンダーソン監督の監督の興味を惹いたのは、歴史でも景観でもなく、本作の原題にもなっているその名前です。ロンドンに実在する「Isle of Dogs」(グーグルマップ)その後、アンダーソン監督は、島のゴミ捨て場に住むチーフ、デューク、ボス、キングという名前のボス犬の群れと、そこへ飼い犬を探しに行く男の子というアイデアを思いつきました。「ファンタスティック Mr.FOX」の後にもう一度ストップモーションアニメを撮りたいと思ったアンダーソン監督は、盟友のジェイソン・シュワルツマンとローマン・コッポラに話をし、一緒にストーリーを書くことになりました。彼らとは「日本の何かをやりたいね」と以前から話しており、ふたつのアイディアがひとつになって本作が生まれました。因みに、このようにグループで脚本を書くのは、彼が敬愛する黒澤明監督のスタイルでもあります。豪華なキャスティング黒澤明監督同様、アンダーソン監督は同じ俳優を繰り返して起用する傾向がありますが、本作からの出演も含めてオスカー俳優が4人、オスカー候補が8人、さらにアメリカで最も稼ぐ女優と言われるスカーレット・ヨハンソン、日本からは渡辺謙、故ジョン・レノンのオノ・ヨーコ夫人といった、非常に豪華なキャスティングを実現しています。また、「ファンタスティック Mr.FOX」の制作に関わったスタッフのほとんどが本作制作の為に再び集結しており、アンダーソン監督の俳優やスタッフを惹きつけつる求心力の強さが感じられます。キャスティングの傾向 キャスト犬ヶ島グランド・ブダペスト・ホテルムーンライズ・キングダムオスカー歴2018年2014年2012年ビル・マーレイ◯◯◯候補エドワード・ノートン◯◯◯候補ハーヴェイ・カイテル◯◯◯候補ティルダ・スウィントン◯◯◯受賞ボブ・バラバン◯◯◯候補ジェイソン・シュワルツマン原案◯◯ F・マーリー・エイブラハム◯◯ 受賞ジェフ・ゴールドブラム◯◯ 候補野村訓市◯◯ フランシス・マクドーマンド◯ ◯受賞カーラ・ヘイワード◯ ◯ フィッシャー・スティーブンス◯ 受賞ブライン・クランストン◯ 候補グレタ・ガーウィグ◯ 候補ロマン・コッポラ◯ 候補コーユー・ランキン◯ スカーレット・ヨハンソン◯ リーブ・シュレイバー◯ アンジェリカ・ヒューストン◯ 渡辺謙◯ オノ・ヨーコ◯ 5匹のボス犬と少年左から、キング(ボブ・バラバン)、ボス(ビル・マーレイ)、レックス(エドワード・ノートン)、小林アタリ(コーユー・ランキン)、チーフ(ブライアン・クランストン)、デューク(ジェフ・ゴールドブラム)核となる5匹の犬は、アンダーソン監督作品の常連俳優で固められています。チーフが野良犬、他の4匹は元ペットという設定ですが、芸達者な俳優たちがこれらの犬たちに個性を与えています。この作品には、出演する犬たちがインタビューに答えるお茶目な特別映像が作られており、冒頭のフィルムのカウント・ダウンに続いてブライアン・クランストン演じるチーフが登場、カメラ目線で自身のことや本作の物語について語ります。その後も、ビル・マーレイ演じるボス、エドワード・ノートン演じるレックス、リーブ・シュレイバー演じるスポッツ、F・マーリー・エイブラハム演じるジュピター、ジェフ・ゴールドブラム演じるデューク、スカーレット・ヨハンソン演じるナツメグ、ボブ・バラバン演じるキング、ティルダ・スウィントン演じるオラクルと、ウェス・アンダーソン監督が創り上げた本作のセットの中で次々にインタビューに答えてきます。これらの映像は声の出演を務めた俳優陣のインタビュー音声に、それぞれのキャラクターのストップモーション・アニメを当て込んで作られたもので、こうした特別映像にもアンダーソン監督のこだわりが感じられます。 出演する犬たちがインタビューに答えるお茶目な特別映像アタリ少年が探す飼い犬のスポッツ(リーヴ・シュレイバー)ナツメグ(スカーレット・ヨハンソン)ちょっと驚いたのが、ミステリアスな美女犬ナツメグを演じたスカーレット・ヨハンソンです。声でミステリアスな美女の存在感を醸し出す、見事なパフォーマンスです。彼女は「her/世界でひとつの彼女」(2013年)で、やはり声だけで魅力的な AI を演じきり、声だけの出演で第8回ローマ映画祭最優秀女優賞を受賞するという、あまり例のない快挙を成し遂げています。アメリカではセクシー派女優として位置づけられているようですが、声だけでこれだけの存在感を表現できる彼女はなかなかのものです。ジュピター(F・マーリー・エイブラハム)オラクル(ティルダ・スウィントン)小林市長(野村訓市)メイジャー・ドウモ(高山明)渡辺教授(伊藤晃)トレイシー・ウォーカー(手前左、グレタ・ガーウィグ)【サウンドトラック】 「犬ヶ島」のサウンドトラックCD(楽天市場)1.神社 2.太鼓ドラミング 3.市営ドーム 4.シックス・マンス・レイター + ドッグ・ファイト 5.ヒーロー・パック 6.ファースト・クラッシュ・ランディング 7.勘兵衛と勝四郎~菊千代のマンボ (『七人の侍』より) 8.セカンド・クラッシュ・ランディング + バス・ハウス + ビーチ・アタック 9.ナツメグ 10.小雨の丘 (『酔いどれ天使』より)11.アイ・ウォント・ハート・ユー12.トシロー 13.ジュピター・アンド・オラクル + 土着の犬たち 14.すし・シーン 15.ミッドナイト・スレイライド 16.パゴダ・スライド 17.ファースト・バス・オブ・ア・ストレイ・ドッグ 18.TVドラミング 19.小林・犬テスト・研究室 20.東京シューシャインボーイ 21.再選挙の夜・パート1~3 22.エンド・タイトルズ【動画クリップ(YouTube)】パペットのメイキング映像作られた人形の数は1,097体。500体以上の人間と500体の犬。人形のサイズは各種あり、クローズアップの場合に使用する特大、大、中、小に分かれ、かなりのワイドショットの場合は極小サイズを使用。アタリの髪は手で植え込まれ、完成するまでに2日を要す。眉毛はピンセットを使い一つ一つ付けられている。各人形製作には約16週間かかった。完璧なナツメグの人形には6ヶ月を要した。人間のキャラクターは、様々な表情を表現するため53の顔が作られた。それぞれには、会話に合わせるために48の差し替え用の口が個別に作られ、色付けされた。顔と口だけでも3,000以上が作られた。トレイシーの顔には321のそばかすがある。メインの人形に描いたそばかすに照らし合わせて、様々な大きさの人形にそばかすを描き込む為、ペイントチームは合計40,000個のそばかすを描いた。 「犬ヶ島」のDVD(Amazon) 【関連作品】「犬ヶ島」のメイキング本(楽天市場) The Wes Anderson Collection: メイキングブック 犬ヶ島ウェス・アンダーソン監督・脚本作品のDVD(楽天市場) 「アンソニーのハッピー・モーテル」(1996年) 「天才マックスの世界」(1998年) 「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」(2001年) 「ファンタスティック Mr.FOX」(2009年) 「ムーンライズ・キングダム」(2012年) 「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)
2018年12月31日
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「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」(原題: Maudie)は、2016年公開のアイルランド・カナダ合作の伝記ドラマ映画です。田舎の風景、動物、草花をモチーフに、明るい色彩とシンプルなタッチで温かく幸福感のある絵を描き、カナダで最も有名な画家と言われる女性モード・ルイスの実話に基づき、アシュリング・ウォルシュ監督、サリー・ホーキンス、イーサン・ホークら出演で、孤独だった男女が出会い、貧しいながらも夫婦の絆と幸せを手に入れる姿を描いています。ベルリン国際映画祭をはじめ、世界の名だたる映画祭で上映され、第6回カナダ・スクリーン・アワード(カナダのアカデミー賞)では、作品賞監督賞(アシュリング・ウォルシュ)主演女優賞(サリー・ホーキンス)助演男優賞(イーサン・ホーク)オリジナル脚本賞(シェリー・ホワイト)編集賞衣裳デザイン賞の7部門を受賞、第15回アイルランドのアカデミー賞(IFTA)では最優秀監督賞(アシュリング・ウォルシュ)最優秀美術賞最優秀インターナショナル男優賞(イーサン・ホーク)の3部門を受賞するなど、数多くの賞を受賞した作品です。 「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:アシュリング・ウォルシュ脚本:シェリー・ホワイト出演:サリー・ホーキンス(モード・ルイス) イーサン・ホーク(エベレット・ルイス) カリ・マチェット(サンドラ) ガブリエル・ローズ(アイダ) ほか【あらすじ】自由と絵を描くことを愛するモード(サリー・ホーキンス)は、カナダ東部の小さな町で厳格な叔母とともに暮らしています。ある日、町の雑貨屋で買い物をしていたモードは、家政婦募集の広告を貼り出した男に興味を持ちます。町はずれで暮らすその男は、魚の行商を営むエベレット(イーサン・ホーク)でした。叔母の束縛から逃れたいモードは、住み込みの家政婦になるべく、エベレットが1人で暮らす小屋を訪れます。モードは子供のころから重い関節炎を患い、一族から厄介者扱いされていました。一方、エベレットは孤児院で育ち、学もなく、生きるのに精いっぱいです。そんなはみだし者同士の同居生活は何かとトラブル続きでしたが、モードが作ったチキン・シチューを食べたエベレットは、心が温まるのを感じます。やがて二人はお互いを認め合い、結婚します。ある日、ニューヨークから避暑に来ていた顧客のサンドラが、エベレットを訪ねてきます。彼女はモードが壁に描いたニワトリの絵を見て気に入り、絵の制作を依頼します。モードは板、請求書の裏など、家庭内の物品、扉、雨戸、外壁、壁紙などに絵を描き続け、エベレットは不器用ながらそんなモードを応援します。やがてモードの絵は評判となり、アメリカのニクソン大統領から依頼が来ます・・・。【レビュー・解説】田舎の風景、動物、草花をモチーフに明るい色彩とシンプルなタッチで温かみと幸福感のある絵を描き、カナダで最も有名な画家と言われる女性モード・ルイスとその夫を、サリー・ホーキンスとイーサン・ホークが熱演、テレビもラジオもない人里離れた小さな家での二人の生活を通して、幸せの意味、芸術の意味を静かに問いかける秀作です。幸せの意味、芸術の意味を静かに問いかける秀作幸せとは?いつまでも健康でいたい家族に愛されたい自由でいたい便利で快適な生活をしたい娯楽を楽しみたいお金がたくさん欲しい・・・いずれもありふれた願いですが、人間の欲望には際限がなく、少しずつエスカレートしていきます。そして、エスカレートした欲望が満たされなくなると、ついつい自分は不幸であると感じてしまいます。これは、ある意味、幸せを追い求めれば追い求めるほど、不幸になるというパラドックスでもあります。本作の主人公、モード・ルイスは、子供の頃から関節炎を患い、身体が不自由です。両親を亡くし、兄は頼りにならず、厳格な叔母の家に預けられて、自由のない生活を強いられます。耐えかねた彼女は叔母の家を飛び出し、偏屈で口汚い魚の行商人のエベレットの家に住み込みの家政婦として転がり込みます。彼の家は人里離れた野原の真っ只中にある、ラジオもテレビもない小さな家です。モードはエベレットとともに、この小さな家に40年も住むことになります。メインの撮影を終えたときに雪深いシーンを撮ることができず、大雪のときに役者なしで再びカメラマンと撮影に向かったときのことです。そのときにハッとしたことがあって、モードたちが住んでいた場所がいかに人里から離れ非常に孤独なものであったか、ということです。物音もしないような場所で40年間同じような日々が過ぎていく暮らしなど想像もできなくて、私なんて1週間くらいしか住めないと思いました。たぶん朝起きて最初にすることは火を起こすことで、火がなければ食事も作ることができないし何もすることができません。そんなエベレットの生活ぶりというのも同じように捉えたいと思いましたし、それが彼らの関係であり置かれた環境だったのです。(アシュリング・ウォルシュ監督)https://cinema.ne.jp/recommend/shiawase-enogu2018030306/人々のありふれた願いとは縁遠い、娯楽もない辺地の小さな家で偏屈な男と二人きりで暮らす生活は、現代の日本では考えられないような選択肢です。重い関節炎を患う彼女にとって身体的にも経済的にも厳しい生活であるにもかかわらず、何故、彼女は40年もの間、幸せに暮らすことが出来たのか、とても興味深いです。芸術とは?モードは子供の頃、母と一緒に絵を描いた以外は、美術の教育を受けたことも、絵画の描き方を学んだ事もありません。彼女は30マイル(48km)の圏内で生活しており、他の画家の作品を見て刺激を受けるようなこともなければ、展覧会にも行ったことがありません。後に彼女の作品が売れるようになっても、一つの作品の売値は5ドルから10ドル程度で、彼女は決して欲張ることがありませんでした。絵を描くことに対するこうした彼女の姿勢にも、興味深いものがあります。私はフリーダ・カーロが大好きなんですが、男女問わずアーティストというのは、自分自身と葛藤している方が多いんです。それは自分の身体的なハンディキャップである場合もあれば、単純に女性だからということもあるのか、生活のなかでものを作る時間があまりないとか、そうやって葛藤しているのですが、作品はものすごく素晴らしいものだったりするんです。そういうところがすごくおもしろいと思うし、映画作りにも似ていると思います。我々には映画を作り続けなければいけないような脅迫観念がありますし、小説家でも同じですよね。書き続けなければいけないとか、何かやっぱり生まれつき「やらなければ!」という気持ちを持っている人が、アーティストなんじゃないかと思います。モードのことを考えると、毎日絵を描いていて幸せだったのかは、もちろん誰にもわからないですよね。恐らく向上したいという気持ちはアーティストとしてあったと思います。でも、売らなければとか、売りたいみたいな気持ちは、きっと彼女にはなくて、稼いだお金は薪や生活で最低限必要なものを揃えるために使っていただけで、それくらい遠隔地に彼らは住んでいたんです。モードってすごくおもしろいなと思うのが、30マイル(48km)圏内でしか生活をしていなくて、その外には足を踏み出したことがないんです。ほかのアーティストの作品は、新聞の記事で見る以外は目にしたことがないし、当然展覧会などにも行ったことがないんです。そんななかであんな作品を作っていたと思うと、すごいと思いませんか?(中略)多くのアーティストの場合は、自分自身の葛藤を経験すると思うのですが、モードの場合はあの小さな家で絵を描くということに、平穏を見つけることができたんだと思います。置かれている環境を受け入れて、華氏マイナス25度(=摂氏マイナス約32度)とかなり厳しい冬に、火もないなかでこれだけのものを作っていたのがすごいと思います。(アシュリング・ウォルシュ監督)https://www.tst-movie.jp/worker_lady/wk_lady49_180228001.html格差社会から見たモード・ルイスの生き方かつて、一億総中流社会と言われた日本ですが、その後、経済のグローバル化に晒され、着実に格差社会に向かっているように思われます。幸せの尺度を経済的な豊かさとすれば、格差社会では例えば10人にひとりと言った、限られた人しか幸せになることができません。芸術の世界もまた、二極化が進んでいるように見えます。ヒエラルキーが陳腐化し、フラット化の波に晒され、芸術でそこそこ食える人が減り、巨万の富を稼ぐ人と、全く食えない人に二極化しつつあるようです。誰にでもチャンスがあるとは言え、豊かさを手に入れたり、芸術の領域で成功を収めるのは、宝くじを当てるほど難しく、不幸な人々がどんどん増えかねない状況です。そんな日本の今から観ると、清貧の中で創作し、金銭面での報酬を深追いしないモード・ルイスの生き方には、非常に興味深いものがあります。過酷な環境の中で、彼女は何故、幸せな人生を過ごすことが出来たのか?敢えて何十年も前の時代に逆戻りしたり、不自由な身体になったり、身寄りをなくしたり、見知らぬ偏屈な男(女)と僻地に住んで不便な生活をしたりする必要はないかと思いますが、過酷な格差社会を生きる我々が幸せになれる秘密が、ひょっとしたら彼女の人生に隠されているかもしれません。モードは元来かなり立派な中産階級の良い家庭の出身でした。でも、そこで彼女は幸せではなかった。エベレットに会うまで彼女の人生は大変で、学校ではいじめられ、通りではやじられ、母親がホームスクールし、孤立していました。だからこそ、エベレットとの住まいが周囲から孤絶していていても、あの家で絵が描ける以上は彼女にとって問題なかったのではないでしょうか。もちろん、冬は凍えただろうし、年をとってもあの家に住み続けるのは大変だっただろうと思います。でも、彼女はトライし続け、それが人を引きつけました。人生で幸せになったり何かを達成したりするには、多くは必要でないということなのです。彼女は、自分から家政婦という仕事を得ようと動きました。自分の人生をちょっとずつ変えるためには自分から動かないといけないことを彼女は分かっていて、それが成功に繋がったのです。(アシュリング・ウォルシュ監督)https://cinema.ne.jp/recommend/shiawase-enogu2018030306/サリー・ホーキンスのパフォーマンス脚本を読むやいなや、アシュリング・ウォルシュ監督はサリー・ホーキンスを主役の第一選択にしました。サリー・ホーキンスは小柄で控えめな印象の女優で、とびきりの美人というわけでもないのですが、彼女が初めて主役を演じたマイク・リー監督の「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年)が強く印象に残っています。彼女はこの作品で前向きで楽天的な女性教師を演じていますが、マイク・リー監督は最初から彼女の主演を想定して脚本を書いています。そういう意味ではもともと楽天性がよく似合う女優だったのでしょうが、非常に濃い役柄を自然に演じる彼女の演技力にとても感心しました。彼女はイギリス国内を中心に活動する女優でしたが、世界に通用する実力を兼ね備えており、「ハッピー・ゴー・ラッキー」ではベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞、「ブルージャスミン」(2013年)ではアカデミー助演女優賞に、「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年)では同主演女優賞にノミネートされています。本作では、彼女は関節炎で身体が不自由なモード・ルイスを渾身のパフォーマンスで表現しており、「ハッピー・ゴー・ラッキー」ほどの楽天性を前面に押し出していませんが、モード・ルイス本人は中流家庭出身の上品で笑顔の素敵な女性で、明るく前向きな女性像を得意とするホーキンスにはまったくもっての適役と言えます。(モードとエベレットの)2人は断熱材のない小さな家で、厳しい冬の寒さをうまくやり過ごしていた。彼らは常に前を向いて物事と戦っていたの。その精神があるからこそ、人生を肯定することができる。モードは、あの時代に障害や困難を乗り越え力強く生き抜いた。だから私たちも何だってできる。(サリー・ホーキンス)https://eiga.com/news/20180301/12/サリー・ホーキンス(モード・ルイス)サリー・ホーキンス(1976年〜)は、ロンドン出身のイギリスの女優。王立演劇学校を卒業、主にイギリス国内の舞台・テレビ・映画で活躍する。マイク・リー監督の「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年)でベルリン国際映画祭銀熊賞やゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞、ウディ・アレン監督の「ブルージャスミン」(2013年)でアカデミー助演女優賞に、ギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」で同主演女優賞にノミネートされており、世界的に知られた演技派の女優である。イーサン・ホーク(エベレット・ルイス)イーサン・ホーク(1970年〜)は、テキサス出身のアメリカの俳優、作家、小説家、映画監督。1985年に映画でデビューするが、活動を一時中断し、「いまを生きる」(1989年)で復帰、「ホワイト・ファング」(1991年)で初主演、「リアリティ・バイツ」(1994年)、リチャード・リンクレイター監督の「恋人までの距離」(1995年)、「ガタカ」(1997年)と、着実にキャリアを重ねる。「トレーニング デイ」(2001年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされる。「恋人までの距離」の続編の「ビフォア・サンセット」(2004年)、「ビフォア・ミッドナイト」(2013年)ではリンクレイター監督、共演のジュリー・デルピーと共に脚本を手がけ、いずれもアカデミー脚色賞にノミネートされる。リンクレイター監督の「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年)で、2度目のアカデミー助演男優賞にノミネートされている。カリ・マチェット(サンドラ)カリ・マチェット(1970年〜 )は、テレビ、映画で活躍するカナダの女優。ガブリエル・ローズ(アイダ)ガブリエル・ローズ(1954年〜)はカナダの女優。「W/ダブル」(1987年)、「スウィート ヒアアフター」(1997年)などに出演している。【動画クリップ(YouTube)】モード・ルイスのドキュメンタリー1965年に制作されたカナダのCBCによるドキュメンタリー。【撮影地(グーグルマップ)】モードとエベレットが暮らした場所この先500メートルほどの場所に、二人の家のセットが建てられた。劇中、繰り返して登場する海を渡る道 「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」のDVD(楽天市場)【関連作品】モード・ルイスの伝記絵本(楽天市場) "Capturing Joy: The Story of Maud Lewis" by Jo Ellen Bogartアシュリング・ウォルシュ監督 x サリー・ホーキンスのコラボ作品のDVD(楽天市場) 「荊の城」(2005年):テレビ映画サリー・ホーキンス出演作品のDVD(楽天市場) 「人生は、時々晴れ」(2002年) 「ヴェラ・ドレイク」(2004年) 「レイヤー・ケーキ」(2004年) 「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年) 「17歳の肖像」(2009年) 「ファクトリー・ウーマン」(2010年) 「ジェーン・エア」(2011年) 「サブマリン」(2011年) 「ブルージャスミン」(2013年) 「パディントン」(2014年) 「僕と世界の方程式」(2014年) 「パディントン 2 」(2017年) 「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年) 「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」(2017年)イーサン・ホーク出演作品のDVD(楽天市場)「恋人までの距離(ディスタンス)」(1995年) 「ガタカ」(1997年) 「ウェイキング・ライフ」(2001年) 「ビフォア・サンセット」(2004年) 「その土曜日、7時58分」(2007年) 「ビフォア・ミッドナイト」(2013年) 「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年) 「プリデスティネーション」(2015年) 「シーモアさんと、大人のための人生入門」(2014年) 「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」(2015年) 「ブルーに生まれついて」(2015年)
2018年12月27日
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