2019.05.23
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 生きる意味を求めることはやめた、“無い”ことを証明することは不可能であるからにして、おそらく探し求めずとも私の知らないどこかに勝手に存在しているのだろうと思う。“意味”も“理由”も、振り子みたいに近寄ったり遠ざかったりするだけの、似たような言葉だ。けれども、私の場合の“意味”は自分の手の及ばない部分にあり、“理由”は自分で作ることのできるものだ。つまりは、言い訳と同義とも言える。母が父を愛し、父が母を愛し、それで私は産まれた。けれど、私はきっと親以外に二度と愛されない。それでは生きていても仕方が無いと、愛されることに随分と大それた“意味”を見出しかけたけれど、「何故に誰かが愛してくれないからと言って死んでやらねばならぬのだ!」と考え直した。私は愛されたくて生きているのではない、人間や創作物を愛したくて生きているのだ。私には、私が作った“理由”がある。「愛したいから」、それが私の生きる理由だ。
 誰が云い始めたかは知らないが、“信じる者は救われる”のだ。思考停止して都合の好い妄想を盲信して現実を見なければ、楽でいられるということなのかもしれない。けれど、私はそれでいい。目に見えない物質でさえ無い“愛”とやらの存在を、それを感じることがしあわせなのだと、信じていたい。愛していたい。生きていたい。
 信じて痛い。愛して痛い。生きて痛い。痛い。だから、きっと夢ではないし、実在する。

 前回の日記からまたひと月が経った。せめて月に一回は書きに来たいから、こうして書いている。先月の日記の前日、別の男性と知り合ったばかりだった。シングルファザーの子のことであまりに落ち込んでばかりいて、病んだ(笑)日記記事を連投していた。そこに、その男性は何回もいいねをくれた。私が落ち込んでいるとき、必ずと言っていいほど、いいねをくれた。まるで、寄り添うように。私はメッセージを寄越してくる男にしか興味が殆ど無かった、そこまでしてくる相手でないと何も起こらないと思っていたから。私は、よごれたい。だから、そういう目的を持ってメッセージを寄越す男にしか興味が無かった。それなのに、どうしてだか、その男性のことは気になった。落ち込んでいいねをもらう度、その男性のアイコンを見ては「あ、またこのひとだ」と記憶していた。だから、感謝の気持ちも込めて、私からメッセージを送った。いつも落ち込んでいるときに優しいいいねをくれていたことへのお礼を言った。
 そこから話が弾んだと言うか、何と言うか、兎にも角にもすぐに会うことになった。そのひとの名を、“好天さん”としよう。先月二十五日、好天さんの自宅最寄駅に到着したのは昼過ぎだったけれど、好天さんから返信が来たのは十六時頃だった。その間、私は駅ビル内をぷらぷらしていたり、友人と通話をしたりしていたので、待つことは苦痛でもなかった。そもそも、昼過ぎまで寝ていると好天さんは前日に伝えていてくれたから、あまり気にしていなかった。
 随分と慌てた様子で現れた男性は、まんまるだった。会う前から好天さんの体重を聞いていたから、「へえ、九十キログラムとはこういう見た目なのだな」と思うだけだった。好天さんについて行って、家にお邪魔した。だらだらする予定だったから、持って来ていた寝間着に着替えて、ベッドでふたりでごろごろした。抱き合っているだけだった。けれど、女をベッドに横たわって抱き締めていて反応しない男というのは滅多に居ないものなので、好天さんが必死に我慢している様子を腰辺りに感じていた。真面目なひとだと思った。私の身体はバグ修正が行われないままの為に性
感帯が大量にあり、好天さんはそういう部分に触れて私が震えると「あっ、ごめんね、ここだめなんだね」と極力触らないようにしてくれた。そうして、静かに抱き合っていた。けれど、後ろから抱き締められているときに後ろから手をまわされて頬を撫でられて、不意に唇に好天さんの指が当たった。好天さんがどちらかと言えばマゾヒスティックなのは知っていた。時々震えながら、乱れそうな呼吸を抑えながら、私が甘えたいだけ甘やかして抱き締めてあちこちこども相手みたいに撫でるだけの真面目さが、優しさが、誠実さが、可愛くて、私は口をあけて、その指を咥えた。舌で、好天さんの理性を溶かして壊した。真面目さや優しさや誠実さが愛おしいからこそ、それを壊して、セックスした。終わってからは、兄の存在を知っているから何度も謝られた。自分勝手だったと、たくさん愛 撫してくれたのに謝られた。
 その日、好天さんは泊めてくれた。そうして、八ヶ月ぶりの煙草を喫った。好天さんの愛煙しているハイライト。名前にぴったりの、青空みたいなハイライト。
 たくさん話して中身を知り合って、たくさん愛
撫して外側を知り合った。私もマゾヒストだけれど、好天さんに対してはサディ スティックな気持ちが湧いて止まらなくって、可愛く鳴く好天さんが愛しくて仕方が無かった。
 どうせ、二度と会えないと思いながら、翌日の昼に解散した。

 二十八日、好天さんはゲーム仲間とのオフ会帰りの午前二時にLINEをくれた。とてもばかばかしい内容だったけれど、ものすごく楽しかった。二時間ほどやり取りをしていた。どうせ、二度と連絡なんか来ないと思っていたから、嬉しかった。午前四時頃に眠って、十時頃に目を覚まし、好天さんに「おはよう」と送ろうとした。すると、私がぱたぱたと文字を打っている間に好天さんから先に「おはよう」と来て、先を越されて悔しかったのと、タイミングがあまりにもばっちりで、しあわせな気持ちでいっぱいになった。
 この日は父と外食をし、レストランで食器の鳴る音を掻き消すように、私の行動を肯定した。私はただ“愛すること”が好きなのだ。庇護欲も強い。だから、メンヘラや屑を見つけると、愛さなくてはならないと思って、人数関係無く愛を注いでしまう。父はそれを「それは世間一般の言う“男遊び”とは違う。紫苑さんは遊んでいない、きちんとそれぞれの相手に真剣なんだから。“遊んでいる”なんて言って、自分を下げなくていい。その言葉を使っても、自分に嘘を吐いていることにしかならない、本当は遊んでなんかいないのだから」と言った。そうだ、私は誰に対しても真剣なのだ。遊んでいるつもりが、本当は無い。
 無いんだ。

 その翌日、二十九日。昼前に兄から「今日え
っちしよ」とLINEが来た。朝からわけもわからずに薬に頼りたい気分でいたから、とてもありがたかった。「返事なかったら電話して」と言われていたから、自力で家の前まで辿り着いた後は予想通り返信が無く、電話をかけた。家に上げてもらった後、「俺シャワー浴びようと思ってたんだよね。……背中流してもらおっかな?」と言われて、洗いっこをして、行為に及んだ。やはり、何だか様子が違った。妙なまでに普段より発 情していて、首に軽く噛みつかれて痕がついた。達するのも早くて、何事かと訊いたら「久々だから」と。たしかに兄との行為は十八日ぶりだった。
「たしかに十八日ぶりだけど」
「うん、俺もあれからしてないもん」
 偶然に相手が見つからなかっただけだと、解っている。けれど、兄だけにすると言っておきながら私は、こんなにも不誠実で。兄も好天さんも誠実なのに。私は、こんなにも。遊んでいなくたって。薬が欲しい。
 兄に会ったのに、気分が晴れなかった。そのまま苦しんでいたら、二十七時に好天さんからLINEが来て、通話したいと言ってくれた。すぐに好天さんは眠ってしまったけれど、薬が無くとも落ち着けた。好天さんとの次のデートは、子供の日に決まった。

 また翌日、三十日。朝から好天さんと通話をして、テレフォン・セックスをした。「気持ち悪くない?」と好天さんは自分が喘
いでしまうことを気にしていたけれど、寧ろそれが聞きたくて私から「聞かせて」と頼んだのだった。
 そうして夜になってから、落ち込んだ。性依存の症状の一つである自己嫌悪に、すっかり呑まれてしまっていた。恋心を抱いて愛する相手を性
欲の対象にすることは何も不自然でも悪いことでも無いと理屈として理解していても、どこかでそれを“大切にしていない”というふうに感じてしまう。すきなひとの前では性自認が女性に固定される一方で、幼児退行することがある。こどもでいたかった、性別なんか関係が無いそれでいたかった。女として抱かれることも、こどもみたいに戯れることもしたい。その両方ができて漸く満たされるのかもしれない。こどもの私が、女の私を怖がっていた。嫌がっていた。だから、好天さんに“仕事を終えて余裕があれば”と通話を頼んだところ、丁度休憩に入ったところだったらしく、五分で予告無しに通話がかかってきた。何度も謝った、大切にできなくてごめんなさい、と。相手の性 欲を満たすことだって大切にすることの一環にもなろうに、何度も謝った。
「俺は大切にされてないなんて思ってないよ。すごく大切にされてるなあと思ってるよ」
 そんな穏やかな言葉に安心しながらも、大切にできていないのではないかという自分への疑念が晴れないままだった。どうして私はこうなのだろう、愛情が性
欲に満ちている。
「身体さえあれば成立してしまうもん」
「そりゃそうだけどね? 物理的な話でしょう? すきだからしてくれたんでしょ、あんなに」
 私の愛情は、きたない? こどもはきれい?
「だいじにできてないなあって思うんだったら、思った瞬間から頑張ればいいんだよ」
 嗚呼。
「俺がしてほしいって、してくださいって言ってるんだから、ね? それでいいんだよ。大切にされてるよ、俺」
「ううーん……うん……うう」
「んー、じゃあ、次からはえっ
ち無しにしよう。俺ちゃんと我慢す」
「嫌だ!」
「んもう、どうするの。ふふ」
 いつだって、大切にされるのは私のほう。身体を愛でることが好きで仕方が無くて、他の返し方がわからない。それでも、喜んでくれるのか。そう問えば「うん。うれしい」と、好天さんは優しくて、けれど、嘘の無いような声で、答えた。

 そうして“令和”のイントネーションが“昭和”ではなく“明治”と同じであることを受け入れられないまま、子供の日。令和早々桃厭さんから久々にメッセージが来たけれど、それはどうでもいいとして。やはり好天さんは一時間以上遅刻して来たけれど、気にせず家へお邪魔した。好天さんは、今回はコン
ドームを買って来ていた。数年はセックスする機会が無かった為に前回は家にコン ドームが無くて、私の腹に射 精するしか無かったのだ。私の為に、態々買ってくれた。うれしかった。兄の避妊しないところも愛おしいけれど、好天さんの誠実さも、愛おしかった。
 そうして、二人で昼寝をしたり煙草を喫ったり、また泊めてくれるとのことだったから夜遅くにサイゼリヤへ行ってふたりして間違い探しに夢中になったり、帰宅してからは好天さんがタブレットで音楽を流しながらそれに合わせて歌っているのを聴きながら、その腕に抱かれていたり。
 そして、初めて他人に果てさせられた。私は快楽を得るのは容易いのに、他人の手で果てることができなかった。相手に申し訳なくなるので、長々としてもらいたくもなかった。けれど、好天さんは「俺もしたい」と言って、ずっとずっと頑張ってくれた。その後、やはりセックスをした。「すきと言って」と言われて、ああ何でも無い関係でもセックスしながら伝えてもいいのかと、そんな恋人の真似事みたいなきもちのわるいことをしてもいいのかと、心底ほっとした。声が枯れるまで抱かれて、“すき”と喘
いで、汗がぱたぱた降るまで腰を振った。二十七時。
 翌朝、好天さんが煙草を喫っている隣で、私は酷く落ち込んでいた。また、性依存の話。
「俺達はセックスする為に産まれてきたようなものだから。繁殖するように、種を絶えさせないように」
「それなら、必死に避妊してばかりいる私は何なのかな」
「きもちいいようにできてるから。で、俺達は人間で、考える力がある。繁殖するかどうか選べるだけの知能がある」
「理屈では解るのに、納得できない。どうにも好天さんを汚してる気がしてしまうんだ」
「それはセックスをきたないことだと思ってるから仕方ない」
 納得できない幼い私の心ごと、好天さんは抱き締めてくれた。どうしたらいいか判らなくて、泣いた。すると、好天さんは私の耳を噛んで首を舐めて口に指を捩じ込んで、私は自己嫌悪の種類に依っては快楽を覚えるスイッチが切れてしまう、けれど。
「この自己嫌悪じゃスイッチ切れない、から」
「いいじゃん」
「ふは、そうなんだよ、ね。マ
ゾだから、滑稽で、興奮する」
 大嫌いな快楽を与えられて、かと思えばあやすように抱き締められて頭を優しく撫でられて、けれどまた下着をずらして指まで挿
れるかと思った。
 私は好天さんの前では完全にこどもっぽくなってしまうようになって、天邪鬼な発言が増え、喜びを表現する際に真逆のことを言うようになって、好天さんは「文句を言われた」と傷付いてしまった。それで自己嫌悪で落ち込んだりもした。けれど、好天さんは「もういいから、ほら、おいで」と言って、私を自分の方へ引き寄せようとした。ものの、私の傷だらけになっていた手首に気を遣っていると私がどうしても動かせなくて「なんでここだけ重力強いの……!」と言われたり、「痛いことになっちゃうから! ほら!」と、必死に私の腕にだけは手が触れないようにしてくれていた。
 そうして、昼にまた、一駅分だけ一緒に電車に乗って、解散した。

 八日、シングルファザーの子から正式にお別れしようと言われた。が、そこからまた会話を続けるものだから、九日の朝になって「君は本当にさようならする気があるの?」と問えば「無い」と答えられた。甘えたなのだ。けれど、それも簡単に終わった。何日だったかも正確に記憶できていないけれど、終わったことなのだ。あの子は、ただの夢だった。

 十二日にはコミティアへ向かう電車の中で好天さんからLINEが来て「今日休みにしたった」と言われて冗談のつもりで「飛んで行っちゃうぞ」と言ったら「来れるならおいで」と返って来たので、イベント後にオフをするつもりだったひとに「大事な用事ができた」とその先約を蹴った。結果として、そのひとにああだこうだと言われながら絶縁されたけれど、それもまたどうだっていいことだ。イベント後にお手洗いへ行ったところ月経が訪れていて、二時間かけて自宅へ戻るのは困難な月経痛を覚えていた為に好天さんの家へ尚のこと転がり込んだ。好天さんは、セックスができなくともいいと言ってくれるひとだから。
 汗だくになって不快だったから、ブラジャーとキャミソールと序でに靴下も、好天さんが洗濯するタイミングでお邪魔したようだったので一緒に洗ってもらった。昼食を摂りに行こうというときになって、私の上着は薄手でノー
ブラで着るのはあまりによろしくないということで、代わりに好天さんが可愛いネイヴィーブルーの私にはだぼだぼのニットを着せてくれた。またサイゼリヤで間違い探しに夢中になって、カルボナーラを食べて、その後はカラオケへ行った。好天さんの歌唱力はとんでもないものだった。上手過ぎる。わけがわからなかった。薬師丸ひろ子を歌ったら「可愛い」と言われたり、個室内で擽られたり悪戯されたり、甘えたり甘えられたり、そこから徐々にエスカレートして行った。ただ甘やかすだけのキスのつもりが、やがて唾液を飲まされて、私もお返しに好天さんの髪を撫でていた手をずらしてその耳を撫でてあげると、好天さんはすっかり蕩 けて「紫苑ちゃんのも、ちょうだい?」と唾液をねだられて、最高の気分になってしまった。
 が、カラオケから好天さんの自宅へ戻る途中で、今日は泊まることができないことが判明した。そして、タイミング悪く、落ち着いていた月経痛がぶり返したのと昼食の消化具合に因る吐き気が始まった。家へ帰り着いてまたぶっ倒れてしまったけれど、好天さんはとても頭の切れるゲーマーである為、友人とのゲームの約束があってそちらへ意識を向けていたのもあったりして少し冷たかった。私が悪い。通話を二時間も押して待ってもらってしまった。体調が落ち着くまで、取り留めの無い話を聞いてもらった。私は面倒だと思ったときに平然と相手にとって心地が好いであろう嘘を吐いてやり過ごすことがあるから、好天さんもそうなのではないかと疑っていると伝えれば「基本的に素直な人間だから」と否定してくれた。まあ、そうだな。やり過ごそうとするのであれば、きっと無理矢理にでもこのとき優しくしてくれていた。けれど、距離を取っていた。きっと少し面倒に思われていた。
 帰りは駅まで送ってくれて、駅前の喫煙所で煙草を喫ってから、改札口の近くまで行った。そこで「さびしいよう」と言って抱きついたところ、好天さんは私が思っている以上に他人の目を気にする(とこのとき漸く理解した)為、「もう呼べないなあ」と言われて物凄く傷ついて泣きそうになってしまった。冗談のつもりだった、らしい。けれど、解らない。兎にも角にも申し訳なさばかりで、洗濯してもらった靴下だけはどうしても乾いていなかったから好天さんの家に置いて、次に取りに来るという約束にしてよかったと思った。

 この日よりも先に、好天さんからLINEで、実家へ帰ることになったと聞かされていた。生活があまりに苦しいとのことだった。金銭面で困窮すると人間は心が荒むもので、好天さんにとってゲームこそが心の支えなのだ。私は気休めにもならないのに、気晴らしの邪魔をした。精神面で不調でないときにまた会おうと言ってくれた。
 私は元来、他人の趣味の邪魔をすることが嫌いだから、この日のことをとても気にしていた。何日も悪夢に魘された。好天さんに「もうお前とセックスしたくない、もういい」と言われたり、好天さんがLINEでご友人に私のことを愚痴って嘲ってご友人からの返信の内容も「そんな奴、早く切っちゃえばいいのにw」というものなのを傍観していたり、そういう夢ばかり。

 だから、十八日未明に突然「今日来られる?」と言われて決定した十八日のデートには、ハイライトのカートンを買って行った。お詫びのつもりだった。到着前に「今日は泊まって行きなね」と言われていたから、心底ほっとした。デニムを穿いて行った。デニムだけを身に着けた裸
体というものは男女問わず美しいものだから、その状態で暫く過ごしていた。そうして、昼寝する前、好天さんの精 液を飲ませてもらった。初めて飲ませてくれて、しあわせだった。
 が、折角の休日なのに何もしないで過ごすのは勿体ないからと、何をするか提案を迫られた。「俺が嫌なことを思いつけたら、次は俺の番で考えるから」という謎のゲームと化し、「映画は? ホラーだけど」と言ったら、「やるじゃん、俺の嫌なことじゃん」と。落ち着きが無い為、じっと映画を観ていることができないらしい。その上、怖いのは苦手だと知っていたので、上手く行った。結果、カラオケへ行った。ジョイサウンドにしようとふたりして思っていたのに、機種を選べないほど店側は余裕が無かったようで、結局ダムだった。今回は前回よりずっと緊張が解けていて、上手く声が出せて、たくさん歌えた。たのしかった。退室時刻が二十二時前だった為、二十三時には閉店してしまうサイゼリヤへは行けなくて、ガストへ行きたいと言ったら「ハンバーグ食べたくなった!」と好天さんに採用されてちょっと遠いガストへ歩いて行くことになった。「歩くの平気?」と訊かれて、寧ろ好きだと答えた。
「ガストはねー、山盛りポテトを頼まないと駄目なんだよ。頼まないと金額に0が三つくらい付け足されるからね」
「私は辛口チゲしか食べない……」
「はあ~ん? しょうがねえなあ、俺が頼んでやるよ!」
 こどもみたいな冗談が愛しかった。徐々にひと気の無い道になり、聳える団地がやたらと怖くて「振り向いたら駄目だと思うね」とか怖いことを言われて半泣きで好天さんに私はしがみついて暫く歩いていた。けれど、たのしかった。ガストでは、好天さんが豆腐とうどんとピアスがあまり好きでないことを知ったりした。うどんは忘れたけれど、豆腐はどう足掻いても味が染み込まないから嫌で、ピアスは他にまだ変えられる部分がある筈なのに早くもピアスという改造に走るのかということだった。だから、好天さんは体型のコンプレックスがあって、ピアスを開けない。変えるべき部分を変えられていないから、と。食べ足りないと言うから、帰りにコンビニエンスストアへ寄ることにした。
 誰も居ない深夜の道で、好天さんに「喫う?」と促されて、人生で初めての歩き煙草をした。初めてのわるいこと。流石にポイ捨てはできないでいたら、好天さんが私のフィルタ寸前で燃え続ける吸殻を受け取って、代わりに路上に捨てた。優しいアウトローなのだよなあ……。コンビニエンスストアで食べ物を物色している好天さんの隣に居たら、好天さんがふと私の耳元を覗き込んで「なにつけてるのー? あ、天使? 可愛いね」と私のピアスを褒めた。ピアスが好きでないと、聞いたばかりだったのに。その後、食べ物を幾つかとアイスバーを買った好天さんは外装のゴミが幾つか出ていたので、それを入れる袋とかを私が持ったり色々して、気の付く子だと褒めてくれた。「知らない道で帰ってみていい?」と言われたことが、とてもうれしかった。そういう何気ないあそびが、たのしいのだもの。
 帰宅後はまたセックスをした、懇願して痕をつけてもらった。「お兄さんに会えなくなっちゃうよ?」と言われても、それでも頼んだ。好天さんに、誠意を示したくて。兄とのことは、やめたい気がしていた。終えた後は好天さんは疲れ果てて動けないでいたものだから、私がコン
ドームを外して色々と拭って下着を穿かせ、「介護……」と言われつつ布団をかけてあげて、二人で眠った。
 翌朝、何を言ってしまったのか忘れる辺り情けないのだけれど、好天さんを少し怒らせた。好天さんは度々私の天邪鬼な発言に「文句を言われた」と言う為、それはどういう気持ちなのかと聞いて話していて、「自分が悪いんだと思ってしまう」とのことで、それは逆に被害妄想が過ぎると思った。「被害妄想ひどすぎじゃない?」と、恐らく声色も悪かったし、言い方も明らかに悪い。それで、不愉快にさせてしまった。けれど、好天さんは語気を強めるだけで怒り方はおとなしくて、冷静に何が嫌で怒っているのかを説明してくれたからすぐに状況を理解できた。反省しようとしたけれど落ち込んでしまい、後ろから抱き締められていた身体を好天さんから少し離した。すると、好天さんはすぐにまた抱き寄せてくれて、抵抗する私を「もういいから」と言いながら無理に自分のほうへ振り向かせた。「ちゅーしてくれたら許す」とねだられて、「そんなことで許されることではないよ」と気にし続ける私に、兎にも角にも好天さんはキスをさせて、その場の空気を収めてしまった。怒り続けても、それを気にし続けても、仕方が無い。折角一緒に居るのだから、好い気分でいるべきなのだ。
 暫くしてからまた飲ませてもらった。それから、好天さんはゲームをして、私はその身体に抱きついていた。Tシャツの中に顔を突っ込んで、お腹の素肌にもっちもちと頬擦りをしていた。それがまた終わったら、セックスをした。たくさん噛まれてうれしかったのに、どうにもそれだけで挿入されたから、なんだかこわくなって、終えた後に好天さんが眠っている間にひとりで泣いていた。
 好天さんが起きた後、すべて話した。無理をさせていないだろうかと先ず聞いた、マ
ゾヒスティックなのに噛むなんて苦痛でないのかとか。それはそうでもないようだった。その後、”痛みを与えることが手っ取り早く濡らす方法だから、それだけで済ませるばかりの行為になって処理に使われるだけの存在と化して、その目的でしかもう会ってもらえなくなるのではないか?”、“痛いことは確かに好きだが結局として欲しいのは相手からの快楽であるからにして痛みでなくとも好天さんみたいにたくさん長い時間をかけて愛 撫してくれれば痛くなくとも構わないのに、好天さんの前 戯もどんどん短くなって何もしてくれなくなってしまうのではないか?”、“したいと言ってくれるのは嬉しいけれど、こわかった。だから、もう来ないほうがいい。これで話は終わったから、嗚咽が落ち着いた後はすぐに着替えて帰る”と。好天さんは、もう来ないだとかすぐに帰るだとかに対しても、そのときは「うん」としか答えなかった。けれど、私が話し終えて言葉が途切れたのを見計らって「もう来ないの?」、「呼んでも来てくれないの?」と問うた。会いたい、来たい。そう言った。
「俺から挿
れたいって言ったのはね、二回連続で女の子のほうから『挿 れて』って言わせたくなかったからなの。昨日の夜は『挿 れないの?』って言わせちゃったから」
 気遣われていただけだった。そう、四回もしていたこと、その上に四回目は噛まれるだけですぐに「挿
れていい?」と訊かれたし、好天さんは「すぐいっ ちゃうの勿体ないくらいきもちいい」と言ってくれるのに四回目はすぐに果ててしまったから、こわかったのだ。なあんだ。優しいだけだった。
 夕方には帰ることになっていたのにすっかり夕方になっていて、夕食を一緒に摂ることになったのに食べるものが決まらなかった。「コンビニで買って電車で食え!」と冗談で言われてしまったのだけれども、また落ち込んでしまって、「帰る度にそれだと俺もしんどいよう」と言われてしまった。違うのだ。帰るのがかなしくて落ち込むわけではない、突き放されるような冗談が苦手なだけなのだ。たぶん、解ってもらえたと思う。それから、回転寿司へ行った。道中の蚊柱が凄まじくて悶
絶していたけれど、好天さんは「俺、人目気にするんだけど」と。どれだけ虫が顔にぶち当たってしんどくとも真顔を貫いていた(らしい)。
 三皿くらいしか食べずにデザートも残したけれど、それでよかった。注文した豚骨ラーメンが来るのをわくわくして待っている好天さんが可愛かったから。デザートのとき、好天さんは「大学芋すき?」と訊いて、食べたことが無いと答えたら食べさせてくれて、美味しかった。クレームブリュレアイスもあーんしてくれて、美味しかった。私がミルクレープを食べきれるか不安だと言ったら「半分こする?」と言ってくれて私は照れくさくて顔を覆ってしまって、「じゃあ、残ったら俺が食べるよ」と気を遣って言い直してくれて態と残した、美味しかった。好天さんは知能指数140で中高生の国語を教えられる教育職員免許状を持っているが、子供が大嫌いで、回転寿司屋が大賑わいだった為に子供への不快感の示し方が凄まじかった。好天さんは色々な面でデリケートなのだなあと思った。
 悪い印象ばかりを積み上げている気がして、帰る前はずっと不安だった。まだ嫌わないでと言って、貸したモバイルバッテリーを改札越しに返してもらって、帰った。
 この日の好天さんはたくさん甘えてくれて、うれしかった。本来であれば完全に甘やかす側に徹するし、私がなにかを食べる度に「おいし?」とこどもに向けるような優しい声色で問いかけて「美味しい!」と答えると「うん、よいことだ」と返すし、ずっとくっついていたがると「可愛い~、甘えんぼさんだあ」と言うのに、そんなひとが、甘えてくれた。
 好天さんは、「たのしい?」、「しあわせ?」と聞いてくれる。そして、私を抱き締めながらたくさん「落ち着く」、「しあわせ」と言ってくれる。

 だから、誠意を示したいのに。今日は兄から珍しく「今日は仕事休みになったんだぜ」とLINEが来て、好天さんにつけてもらった痕が残っているから、体調が芳しくないと言って(事実ではある)何もできなくてごめんなさいと謝った。きっと、あそびにいきたいと私が言うと思って、言ってくれたろうに。
 どうしてなのかわけもわからずに、兄がやはり、すきだ。好天さんのことも、愛しくて堪らない。どうしたらいい?

 恋愛対象になる人間にしか殆ど関心が湧かないから、どうやら二三人にLINEをブロックされて絶縁されたけれど、どうでもよかった。一人にはぎゃんぎゃんなにか言われたけれど、それもどうでもよかった。そんなことより、私は、愛してしまう自分と向き合っていたいから。放っておいて、いいよ。





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最終更新日  2019.05.24 00:14:46
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