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国家が滅びることはあっても、医療は滅びない。
著者の本業は医師――デビュー作でもあり映画化された「 チーム・バチスタの栄光
」から 2 年後、今回は厚生労働省が舞台。昼行灯の呼び名が定着した主人公、田口医師をめぐり、一癖も二癖もある人物が暗躍する。しかも今回は、医療事故も殺人事件も起こらない。それでいながら、終盤の厚生労働省審議会における論理の応酬は、探偵ミステリー小説のノリである。
著者の作品発表のペースは速い。「チーム・バチスタの栄光」「 ナイチンゲールの沈黙
」から本書にいたる、田口医師が主人公をつとめるシリーズを本伝と呼ぶなら、「 螺鈿迷宮
」「 ジーン・ワルツ
」「 ひかりの剣
」は外伝と呼べるだろう。本作は、そんな外伝の登場人物が乱入し、しかも「ジーン・ワルツ」で触れられていた重大事件が並行して進んでいるという状況(これは次回作で明らかにされる模様)。まるでシャーロック・ホームズでワトソン博士が語っているエピソードのノリである。
一方、医師のストライキを先導したとして行政サイドから疎んじられている彦根医師であるが、およそ半世紀前、本当に医師ストライキを実現した者がいる――後の日本医師会長、 武見太郎
である。牧野伸顕伯爵の娘婿として、吉田茂首相と結び、当時の厚生省と堂々と渡り合った巨魁である。
物語のプロットは、著者のノンフィクション「 死因不明社会
」に基づく。実は非常に深刻な社会問題に触れている。
「国家が滅びることはあっても、医療は滅びない」(347 ページ)――本作品で、著者が言いたかった一言ではないだろうか。病理医という本業が光る作品である。
追伸――終盤で厚生労働省解体という議論が噴出するが、つい最近(もちろん本作品の発表後)、この話題はメディアを騒がせた。結局、なし崩し的に終息したわけが、霞ヶ関では一体何があったのだろう。本作品を読んで、あらためて詮索したくなる。
著者が予言者だとは言うつもりはないが、現実社会というのは意外に論理的に動いており、その論理をクールに見つめた結果がこのシリーズなのかもしれない。だとすると、霞ヶ関には白鳥室長のような型破りな官僚が本当にいるのかも(笑)。
■メーカーサイト⇒ 海堂尊/宝島社/2008年11月 イノセント・ゲリラの祝祭
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