Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2011/11/05
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カテゴリ: 禁酒法時代の米国
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 ◆(2)禁酒法施行下、実際の社会、暮らしはどうなったか

 禁酒法を具体化した「ボルステッド法」が禁止の対象としたのは、飲用目的での0.5%以上のアルコール分を含む酒の製造、販売(供給)、交換、運搬・配達、輸出入、所有(自宅以外の場所で他人が飲む目的での)でした。

 禁酒法反対派への妥協策として、家庭内で個人が飲むためのアルコールの消費(飲酒)までは禁止されませんでした。おまけに、法成立から実際の施行までは約1年の猶予期間が設けられました。

 そこで、経済的に余裕のある富裕層の多くは、施行前に酒を大量に買い占めて自宅に保管したのです。一般家庭でも可能な範囲で買いだめに走りました。高級なレストラン・クラブ、バーでは、違法と知りつつも向こう5年や10年は十分提供できるくらいの酒を大量にストックするところもありました(A、B)。prohibition3.jpg

 また、飲用アルコールがすべて製造禁止になった訳ではありません。例外として、医師が医療用に処方するアルコールは認められました(「食欲促進・消化促進の効用」や「利尿作用」が認められていたビール等)( 写真左 =摘発されて路上で廃棄される密造酒。場所や撮影年月日は不明)

 ドラッグストアが、「医薬品(For Medicinal Purposes Only)」としてウイスキー、ビールなどの酒類を販売することも許可されました。すなわち一般市民は、医師の処方箋代(約2ドル)を払えば、薬局で堂々と酒を購入することができたわけです。

 さらに、聖職者が儀式で使うアルコール(ワインやブランデー)や、煙草製造の過程で使うアルコール(ラム等)の製造も認められ、農家などが自家消費のためのワインやリンゴ酒(シードル)を造り、飲用することも禁止されませんでした(年750リットルまで許可)(WK)。つまり、禁酒法と言っても、実態は抜け穴だらけの「ザル法」だったのです。

 これまで紹介してきたように、家庭内で個人が飲むための所有は合法でしたが、その酒のボトルは、あくまで「禁酒法施行前に製造・販売されたもの」でなければなりませんでした。

 法施行後に製造されたものは、例外規定の酒以外すべて「禁制品」でした。家庭内であっても、見つかれば没収・処罰の対象となりました(しかし実際、取締官が一般家庭にまで踏み込んで摘発したという話はほとんど伝わっていません)。

 それでも人間というものは、法律で規制されれば、あらゆる知恵を絞ってその「抜け穴」を探すものです。密造・密輸されたウイスキーなどには、「1910年製造」などという「偽シール」が貼られたものが多かったといいます(B)。富裕層の間では、禁酒法施行後、自宅内を改造してホーム・バーを造るのがブームになりました。alcohol-prohibition-pic.jpg

 酒のボトルを収納・陳列する応接間用の専用キャビネット(家具)が相次いで考案され、販売されたのもこの時期です。自家製蒸留器・醸造器までも考案・販売されました(A、B)。

 一方、正規の酒屋(リカーストア)は、当然ながら廃業に追い込まれるところが相次ぎました(A)。ドラッグストアや雑貨屋に宗旨替えするところもあったそうです( 写真右 =密輸途中に見つかり、沿岸警備隊から攻撃を受けて炎上する船。密輸船は「ラム・ランナー」とも呼ばれた)。

 富裕層の人たちは、カナダから密輸された正規品のライ・ウイスキー(一瓶12ドル)やシャンパン(同20ドル)が買えたわけですが、裕福でない労働者階級の人達にとっては、正規品を手に入れる経済的余裕もなく、禁酒法は辛く厳しいものでした。

 この時代、米国の全世帯の平均年収は約2600ドルでしたが、国民の3分の2を占める労働者階級の半数は、年収1000ドル以下でした。法施行とともに、密輸酒・密造酒は2~6倍に高騰(1クォート=約0.95リットル=の価格がビールで約80セント、ジンで約6ドル、コーン・ウイスキーが約4ドルも)し、一般庶民には簡単に手が届くものではなくなり、毎日酒を楽しむことなど夢のような話になりました(A、B)。

 禁酒法時代の米国民のアルコール消費量について、現代の私たちは、「政府による規制への反発もあって法施行後は、法施行前と比べかえって消費量は多くなった」という説をこれまで聞いていました(この説を裏付けるデータは何だったのかはわかりません)。

 しかし、最近の専門家の研究によれば、事実は必ずしもそうではなかったようです。酒類の入手の難しさや、闇市場での価格高騰もあって、米国民全体のアルコール消費量は、1920~30年の年平均でみても、禁酒施行前の半分に減ったといいます。アルコール消費量が増えたのは、経済的に余裕のあった上・中流階級の人たちに限った話だったというのです(B)。

【禁酒法時代の米国<3>に続く】

【主な参考資料・文献】
「WK」→「Wikipedia(ウィキペディア)」(Internet上の百科事典):アメリカ合衆国における禁酒法
「A」 →「禁酒法――『酒のない社会』の実験」:岡本勝著(講談社新書、1996年刊)
「B」 →「禁酒法のアメリカ――アル・カポネを英雄にしたアメリカン・ドリーム」:小田基著(PHP新書 1984年刊)
「C」 →「酒場の時代―1920年代のアメリカ風俗」:常盤新平著(サントリー博物館文庫 1981年刊)

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うらんかんろ

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汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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