Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2015/07/04
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カテゴリ: カクテルブック
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 ◆「Harry's ABC Of Mixing Cocktails」にみるクラシック・カクテル

  12.マティーニ(Martini)


 マティーニは「カクテルの王様(The King Of Cocktails)」といわれるほど有名なカクテルです。しかし、誰がいつごろ考案したかについて、確実な文献や一次資料は伝わっておらず、どう発展していったのか(改良されていったか)についても、今日でもなお多くの論争があります。

 「バーテンダーが100人いれば100通りのレシピがある」とも言われるマティーニには、現代でも「絶対的なレシピ」というものは存在しません。いちおう、「NBAバーテンダーズ・バイブル」と「HBAバーテンダーズ・マニュアル」で現代の標準的なレシピを確認しておくと、レシピは、 ジン(45~50ml)、ドライ・ベルモット(10~15ml)、レモン・ピール、オレンジ・ビタース1dash、オリーブ(飾り)、ステア・スタイル 、となっています(オレンジ・ビターズの代わりにアンゴスチュラ・ビターズを使うレシピも)。

 マティーニの原型となったドリンクとしては、古来数多くの文献は、1860年代初頭、サンフランシスコのオクシデンタル・ホテル(The Occidental Hotel)のBarで、伝説的なバーテンダー、ジェリー・トーマス(Jerry Thomas)による「マルチネス(Martinez)・カクテル」を挙げています。
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 このカクテルをベースにして、その後さまざまなバーテンダーが関わり発展し、マティーニへと変化したと言われています(出典:Wikipedia英語版)。ちなみに トーマスによる「マルチネス・カクテル」のオリジナル・レシピは、オールドトム・ジン1pony(30ml)、スイート・ベルモット1Grass(分量不明)、マラスキーノ2dash、シロップ2dash、ビターズ1dash、小さい角氷2個、シェイクしてカクテルグラスに注ぎ、4分1サイズのレモンスライスを入れて提供する となっています。

 「マティーニ(・カクテル)」の名が初めて活字で登場するのは、石垣憲一氏の著書「カクテル ホントのうんちく話」(2008年刊 柴田書店)によれば、1906年、ルイス・マッケンストゥラム(Louis Muckenstrum)氏が出版したカクテルブックです。 バー業界内でも意外と知られていないことですが、誕生当初から20世紀初め頃まで、マティーニはジンとスイート・ベルモットでつくるのが主流(標準的なレシピ)でした。

 その後、スイートとドライの両方のベルモットを使うレシピが登場し、さらにジンとドライ・ベルモットでのレシピも考案され、現代の標準レシピにつながっていきます(現代では、超ドライ化の流れに従って、ベルモットの割合は減る一方です)。手元にある欧米のカクテルブックを見る限り、 ドライ・ベルモットを使うレシピが主流になったのは、1930年代以降のことと思われます

 上記でも分かるように、「マティーニ」というカクテルは、ハリー・マッケルホーンの「Harry's ABC of Mixing Cocktails」(1919年刊)が発刊される以前にバー業界に登場し、スタイル(レシピ)はある程度出来あがっていたようです。 従って、「Harry's ABC…」の初版において注目すべき点は、マッケルホーン自身が「当時ある程度知られていたマティーニというカクテルをどうとらえていたのか」 が中心となります。

 「Harry's ABC…」でのレシピはどうだったかと言えば、 ジン3分の2、ドライ・ベルモット3分の1、オレンジ(またはアンゴスチュラ)・ビターズ1dash(シェイクしてカクテルグラスに注ぎ、チェリーを飾る) です。それまでのマティーニと比べると、 明らかに辛口へと変化 しています(参考までに記すと、「マティーニ・スイート」=ジン3分の1、スイート・ベルモット3分の2、ガムシロップ1dash、飾り=チェリー(シェイク)、「マティーニ・ミディアム」=ジン3分の1、ドライ・ベルモット3分の1、スイート・ベルモット3分の1(シェイク)も収録されています)。

 マッケルホーンはつくり方も、それまでもあったステア・スタイルではなく、シェイク・スタイルを指定しています。下記にも紹介していますが、「サボイ・カクテルブック」の著者、ハリー・クラドックも同じくシェイクを指定しています。 1920〜30年代のカクテルの両巨頭が、ともに「シェイク・スタイル」を選択しているのは、とても興味深いことです。

 ちなみに、 1920年頃までは、マティーニにオリーブを添えるスタイルはほとんどありませんでした。 オリーブを添えるレシピの登場が初めて確認できるのは、1903年に出たティム・ダリー(Tim Dary)著の「Dary's Bartenders' Encyclopedia」です。オリーブを添える現代の標準的レシピのマティーニが定着してくるのは、米禁酒法が廃止となった1933年以降です。

 では、1880~1950年代の主なカクテルブック(「Harry's ABC Of …」以外)は「マティーニ」をどう取り扱っていたのか、どういうレシピだったのか、ひと通りみておきましょう。

・「Bartender’s Manual」 (ハリー・ジョンソン著、1882年刊)米 掲載なし

・「American Bartender」 (ウィリアム・T・ブースビー著、1891年刊)米 オールドトム・ジン2分の1、スイート・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・ビターズ4drops、レモンピール(ステア)

・「Modern American Drinks」 (ジョージ・J ・カペラー著、1895年刊)米 オールドトム・ジン2分の1、スイート・ベルモット2分の1、オレンジ・ビターズ3dash、レモン・ピール、マラスキーノ・チェリー=飾り(お好みで)(ステア)

・「Dary's Bartenders' Encyclopedia」 (ティム・ダリー著、1903年刊)米 オールドトム・ジン2分の1、ベルモット(スイートかドライか不明)2分の1、オレンジ・ビターズ2dash、オリーブを沈める(ステア)

・「Bartenders Guide: How To Mix Drinks」 (ウェーマン・ブラザース編、1912年刊)米 ジン2分の1、ベルモット(スイートかドライか不明)2分の1、キュラソー(またはアブサン)1dash、ビターズ1~2dash、ガム・シロップ2~3dash、レモン・ピール(ステア)

・「173 Pre-Prohibition Cocktails)」 & 「The Ideal Bartender」 (トム・ブロック著、1917年刊)米 掲載なし

・「The Savoy Cocktail Book」 (ハリー・クラドック著、1930年刊)英 
ドライ =ジン3分の2、ドライ・ベルモット3分の1、 ミディアム =ジン2分の1、ドライ・ベルモット4分の1、スイート・ベルモット4分の1、 スイート =ジン3分の2、スイート・ベルモット3分の1(いずれもシェイク・スタイル)

・「Cocktails by “Jimmy” late of Ciro's」 (1930年刊)米 ジン2分の1、ドライ・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、レモン・ピール、オリーブとともに

・「The Artistry Of Mixing Drinks」 (フランク・マイアー著 1934年刊)仏  ドライ =ジン2分の1、ドライ・ベルモット2分の1、 ミディアム =ジン2分の1、ドライ・ベルモット4分の1、スイート・ベルモット4分の1、 スイート =ジン2分の1、スイート・ベルモット2分の1(いずれもステア・スタイル)

・「World Drinks and How To Mix Them」 (ウィリアム・T・ブースビー著、1934年刊)米 ジン2分の1、ドライ・ベルモット2分の1、オレンジ・ビターズ2dash、レモンピール、オリーブ(ステア)

・「The Official Mixer's Manual」 (パトリック・ダフィー著、1934年刊)米 ジン5分の4、ドライ・ベルモット5分の1、レモンピール、オリーブ(ステア)

・「The Old Waldorf-Astoria Bar Book」 (A.S.クロケット著 1935年刊)米 
スタンダード =ジン2分の1、スイート・ベルモット2分の1、オレンジ・ビターズ1dash、レモンピール、オリーブ、 ドライ =ジン3分の2、ドライ・ベルモット3分の1、スイート・ベルモット4分の1、レモンピール、オリーブ、 ミディアム =ジン3分の2、ドライ・ベルモット6分の1、スイート・ベルモット6分の1、レモンピール、オリーブ、 スイート =ジン2分の1、スイート・ベルモット2分の1(いずれもステア・スタイル。シェイクも可)

・「Mr Boston Bartender’s Guide」 (1935年初版刊)米 
ドライ =ジン45ml、ドライ・ベルモット23ml、ビターズ1dash、オリーブ、 ミディアム =ジン45ml、ドライ・ベルモット15ml、スイート・ベルモット15ml、オレンジ・ビターズ1dash、オリーブ、 スイート =ジン45ml、スイート・ベルモット23ml、オレンジ・ビターズ1dash、チェリー(いずれもステア)

・「Café Royal Cocktail Book」 (W.J.ターリング著 1937年刊)英  ドライ =ジン2分の1、ドライ・ベルモット2分の1、 ミディアム =ジン2分の1、ドライ・ベルモット4分の1、スイート・ベルモット4分の1、 スイート =ジン3分の2、スイート・ベルモット3分の1(いずれもシェイク)

・「Trader Vic’s Book of Food and Drink」 (ビクター・バージェロン著 1946年刊)米 
スタンダード1 =ジン45ml、ドライ・ベルモット1dash、オリーブ、 スタンダード2 =ジン45ml、ドライ・ベルモット15ml、オレンジ・ビターズ1dash、オリーブ、 ミディアム・ドライ =ジン30ml、ドライ・ベルモット7.5ml、スイート・ベルモット7.5ml、オリーブ(いずれもステア)

・「Esquire Drink Book」 (フレデリック・バーミンガム著 1956年刊)米 
 ジン4分の3(または3分2)、ドライ・ベルモット4分1(または3分の1)、オレンジ・ビターズ1dash、レモンピール(ステア)

 さて、日本におけるマティーニの歴史はどうだったかと言えば、欧米とそう大きな時間差はなく日本に伝わっています。確認できる史料によれば、 日本で初めて活字でマティーニが紹介されたのは、1913年(大正2年)刊行の業界紙での連載「飲料商法・西洋酒調合法」(伊藤耕之進編) ですが、おそらくは日本が開国して外国人居留地が横浜や神戸に誕生して以降、少なくとも1890年代には外国人向けホテル等では提供されていたのではないかと想像されます。

 この「飲料商法」で紹介されたレシピは、 「ジン3分の2、ドライ・ベルモット3分の1、オレンジ・ビターズ2dash、レモン皮(ピール)」 と意外や意外、辛口のレシピですが、その後日本で1924年に出版された日本最初期のカクテルブックでは「ベルモットはイタリアン(スイート)ベルモットを使う」と記されており、初期の頃は、やはり甘口のマティーニが主流だったようです。

 ちなみに、日本で「ミスター・マティーニ」と言われたパレス・ホテルの故・今井清さん(1924~1999)のレシピは、 ジン(銘柄は「ゴードン」)55ml、ドライ・ベルモット15ml、オレンジ・ビターズ1dash、レモンピール、オリーブ(飾り)でした (※1960年代後半のレシピ。晩年は辛口へ変化)。近年では、銀座「モーリ・バー」毛利隆雄さんのマティーニが有名ですが、そのレシピは、ジン(銘柄は「ブードルズ」)60ml、ドライベルモット2.5ml、オレンジ・ビターズ1dash、レモンピール、オリーブ(飾り)と超ドライな味わいとなっています。

 たかがマティーニ、されどマティーニ。マティーニはこれからもバーのカウンターを挟んで、マスター(バーテンダー)と客側の双方で、さまざまな話題となり、伝説を生み出して行ってくれるでしょう。




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汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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